JP4267241B2 - 融合遺伝子の調製方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、融合遺伝子を調製するための手段に関する。詳しくは、本発明は、融合対象である、起源の異なる2つの遺伝子から融合遺伝子を得ることが可能な、融合遺伝子の調製方法、それに用いる融合遺伝子調製用ベクター及び融合遺伝子調製用キット、該調製方法により得られうる融合遺伝子及びそれにコードされる融合ポリペプチド並びに該融合ポリペプチドによる物質生産方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、知られている遺伝子融合法は、a)大腸菌、酵母等の生物機能を利用して生体内で行なう方法と、b)耐熱性DNA ポリメラーゼを利用して試験管内で行なう方法とに分類される。
【0003】
前記a)の方法としては、例えば、サトウ(Satoh) らの文献 [バイオケミストリー (Biochemistry), 38 巻, 1531-1536, (1999)]及びキム(Kim) らの文献 [ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー (J. Biol. Chem), 269 巻, 28724-28731, (1994)]に記載された方法及び向原(Mukaihara) らの文献 [ジェネティクス(Genetics), 145 巻, 563-572 (1997)] に記載された方法が挙げられる。
【0004】
前記キムの方法は、
▲1▼ 高い相同性を有する2つの遺伝子A とB とが配置されたプラスミドであって、宿主 (大腸菌、酵母など) において複製可能なプラスミドを得、該プラスミドを遺伝子A とB との間で切断し、直鎖状断片を得ること、及び
▲2▼ 前記▲1▼で得られた直鎖状断片を用いて、該宿主を形質転換することにより、該宿主内で該遺伝子A とB との間における相同組換えにより、融合遺伝子を形成させること
を行ない、再環状化して宿主内で複製可能となったプラスミドを選択的に取得するという手法である。しかしながら、前記キムらの方法は、
1) 宿主内での相同組換えによる再環状化の頻度が低い (DNA 1 μg あたり、2000コロニー) 、
2) 1回の形質転換あたり、数μg のDNA 量が必要であるため、試料の調製という点でも簡便であるとはいえない、
3) 遺伝子A とB の融合は相同組換えに起因するので、両遺伝子の間で最も相同性が高い領域に遺伝子の融合点が偏在するため、多様な融合遺伝子を得ることが困難である、
という欠点がある。
【0005】
また、前記向原らの方法は、宿主として、一本鎖DNA 結合タンパク質遺伝子(ssb )に変異を有する大腸菌を用いる方法である。かかる向原らの方法によれば、高い遺伝子融合効率を得ることができる。しかしながら、前記向原らの方法では、例えば、宿主の生死などにより遺伝子融合が判別できないため、融合対象の遺伝子とβ- ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)とを融合させ、β- ガラクトシダーゼ活性の発現を指標として融合遺伝子の形成を検出する必要がある。さらに、前記融合対象の遺伝子とlacZとの融合に際して、該融合対象の遺伝子を部分的に改変する必要がある。したがって、前記向原らの方法は、
1) 融合対象の遺伝子が、大腸菌内で転写・翻訳される遺伝子であることが必須であり、それ以外の遺伝子、例えば、グラム陽性細菌、ファージ、菌類、植物、動物由来の遺伝子などは、大腸菌内で転写・翻訳されるように改変する必要がある、
2) 融合遺伝子そのものの活性評価が困難である、
3) 遺伝子産物が宿主に対して致死的である遺伝子は、融合対象の遺伝子として不適である
という欠点がある。
【0006】
一方、前記b)の方法としては、米国特許第6132970 号明細書 [ステンマー(Stemmer) ら] に記載の方法が挙げられる。前記ステンマーらの方法は、
1) 耐熱性DNA ポリメラーゼを用いるので、遺伝子を複製する過程で高い頻度で塩基置換等の複製エラーが生じる場合があるため、得られた融合遺伝子に高確率でエラーが含まれる、
2) 融合遺伝子を、宿主内で転写・翻訳させ、産物の活性により、融合遺伝子の選択を行なう必要があるため、遺伝子産物が宿主に対して致死的である遺伝子は、融合対象の遺伝子として不適である
3) 試験管内での複製の鋳型となる融合対象の遺伝子と、得られた融合遺伝子とを分別することが困難であるため、融合対象の遺伝子の混入を排除することが困難である、
4) 耐熱性DNA ポリメラーゼの反応条件は、融合対象の遺伝子の塩基配列により異なり、条件設定により融合様式も変動するため、簡便性に乏しい
という欠点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、融合対象の遺伝子の種類に制限されないこと、極めて高い効率で融合遺伝子を得ること、融合様式が多様な融合遺伝子群を創出すること及び/又は所望の性質もしくは新規性質を呈しうる融合遺伝子を創出することを可能にしうる手段並びにそれによる有用物質の生産の手段を提供することを目的とする。具体的には、本発明の第1の目的は、高い効率で、かつ融合様式が多様である融合遺伝子群を得ることが可能な、融合遺伝子調製用ベクターを提供することにある。本発明の第2の目的は、高い効率で、かつ融合様式が多様である融合遺伝子群を得ること、得られた融合遺伝子の配列における複製エラーを生じることなく、融合遺伝子を得ること、融合遺伝子を簡便に製造すること及び/又は融合対象の遺伝子の種類に制限されずに、天然には存在しない新規な融合遺伝子を創出することを可能にせしめる、融合遺伝子の調製方法を提供することにある。また、本発明の第3の目的は、融合様式が多様であり、天然には存在しない融合遺伝子を提供することを目的とする。また、本発明の第4の目的は、前記融合遺伝子から生産されうる様々な機能を呈しうる、融合ポリペプチドを提供することを目的とする。さらに、本発明の第5の目的は、所望の効率、条件などを達成しうる、前記融合ポリペプチドによる物質生産方法を提供することにある。さらに、本発明の第6の目的は、前記融合遺伝子の調製方法を簡便かつ効率よく実施することが可能な、融合遺伝子調製用キットを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、
〔1〕 宿主の生育に関連する遺伝子(マーカー遺伝子という)を介して少なくとも2種の融合対象のポリヌクレオチドが連結された核酸を含有してなる、融合遺伝子調製用ベクターであって、融合対象のポリヌクレオチドAと、マーカー遺伝子Cと、該ポリヌクレオチドAに対して融合対象のポリヌクレオチドBとからなる核酸であって、A−C−Bの順で配置された核酸を含有してなり、前記ポリヌクレオチドA及びBの間で同一である連続した少なくとも3ヌクレオチド長の領域を有し、前記マーカー遺伝子が、薬剤感受性マーカー遺伝子である、融合遺伝子調製用ベクター、
〔2〕 前記〔1〕記載の融合遺伝子調製用ベクターを用いることを特徴とする、融合遺伝子の調製方法、並びに
〔3〕 前記〔2〕記載の融合遺伝子の調製方法を行なうためのキットであって、(a)前記〔1〕に記載の融合遺伝子調製用ベクター、及び/又は
(b)該ベクター上のマーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を有する宿主、
を含有してなる、融合遺伝子調製用キット、
に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、薬剤が、野生型リボソームタンパク質に作用して、薬剤感受性を呈し、一方、該野生型リボソームタンパク質をコードする遺伝子(以下、野生型リボソーム遺伝子という)における変異により、変異型リボソームが宿主内で産生され、該薬剤耐性を示すという機構が、欠失による融合遺伝子の形成に対する高い感度と融合遺伝子を有する細胞に対する高い選択性とを呈するという本発明者らの驚くべき知見及び該野生型リボソーム遺伝子と、該野生型リボソーム遺伝子の前後に融合対象の2つの遺伝子とを配置したプラスミドを用いて、薬剤で選択すると、融合対象の遺伝子による融合遺伝子が効率よく得られるという本発明者らの驚くべき知見に基づく。
【0010】
本発明の融合遺伝子調製用ベクターは、宿主の生育に関連する遺伝子(マーカー遺伝子という)を介して少なくとも2種の融合対象のポリヌクレオチドが連結された核酸を含有することに1つの大きな特徴がある。したがって、本発明の融合遺伝子調製用ベクターによれば、高い効率で、かつ融合様式が多様である融合遺伝子群を調製することができるという優れた効果を発揮する。また、本発明の融合遺伝子調製用ベクターは、融合遺伝子の形成に対して、高い選択性を呈するため、従来、融合遺伝子の調製が困難であった、宿主にとって致死的な性質及び機能を有するポリペプチドをコードしたポリヌクレオチドをも融合対象とすることができる。本発明の融合遺伝子調製用ベクターにおいて、前記マーカー遺伝子を介して2種の融合対照のポリヌクレオチドが連結した配列は、2回以上繰り返された構造を有する配列であってもよい。
【0011】
本発明の融合遺伝子調製用ベクターとしては、例えば、融合対象のポリヌクレオチドAと、マーカー遺伝子Cと、該ポリヌクレオチドAに対して相同的な連続した配列を有する融合対象のポリヌクレオチドBとからなる核酸であって、A−C−Bの順で配置された核酸(以下、「核酸A−C−B」ともいう)を含有したベクター;それぞれの間で相同的な連続した配列を有する融合対象のポリヌクレオチドa1 、a2 ・・・と、マーカー遺伝子α、β・・・とが、a1 −α−a2 −β・・・の順で配置された核酸を含有したベクターなどが挙げられる。なお、ここで、前記マーカー遺伝子α、β・・・は、それぞれ、異なる遺伝子である。
【0012】
前記融合対象のポリヌクレオチド、例えば、前記ポリヌクレオチドA及びBは、互いに相同的な連続した配列を有するポリヌクレオチドであれば、いかなる性質及び機能を有するポリペプチドをコードするものであってもよく、特に限定されないが、例えば、インターロイキン、リンホカイン、ホルモン、ペルオキシダーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、イムノグロブリン、ホルモンレセプター、ポリメラーゼなどの各種生理活性を有するポリペプチドをコードしたポリヌクレオチド、ホスホリパーゼ、ヌクレアーゼ、プロテアーゼ、リゾチーム、Cedなどの宿主にとって致死的な性質及び機能を有するポリペプチドをコードしたポリヌクレオチドなどが挙げられる。
【0013】
また、少なくとも2種の融合対象のポリヌクレオチド、例えば、融合対象のポリヌクレオチドAとポリヌクレオチドBとは、全体における相同性又は特定領域における同一性を有するものであることが望ましい。
【0014】
なお、本明細書においては、前記用語「全体」とは、少なくとも2種の融合対象のポリヌクレオチド同士、例えば、融合対象のポリヌクレオチドAとポリヌクレオチドBと間を適切な状態にアラインメントさせた場合の比較対象領域の全体をも包含することを意味する。すなわち、少なくとも2種の融合対象のポリヌクレオチド同士、例えば、融合対象のポリヌクレオチドAとポリヌクレオチドBとを比較した場合、配列のギャップが存在していてもよい。ここで、アラインメントは、例えば、ニードルマン(Needleman) らのホモロジーアラインメントアルゴリズム[J. Mol. Biol., 48, 443(1970)]などにより行なわれうる。本発明において、適切な状態のアラインメントは、前記アルゴリズムなどの配列のアラインメントに適したアルゴリズムに基づく、各種ソフトウェアにより達成されうる。かかるソフトウェアとしては、特に限定されないが、例えば、BLASTなどが挙げられる。前記BLASTは、例えば、ウェブページhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/と、それにリンクされるサブサイトなどで利用可能なものである。
【0015】
本明細書において、前記用語「特定領域」とは、少なくとも2種の融合対象のポリヌクレオチドの間で同一である部分配列をいい、例えば、少なくとも2ヌクレオチド長、好ましくは、少なくとも3ヌクレオチド長、さらに好ましくは、10ヌクレオチド長以上、より好ましくは、30ヌクレオチド長以上からなる領域が挙げられる。遺伝子融合効率の観点から、前記特定領域の大きさは、10ヌクレオチド長以上であることが望ましい。
【0016】
本発明において、少なくとも2種の融合対象のポリヌクレオチド、例えば、融合対象のポリヌクレオチドAとポリヌクレオチドBとを適切にアラインメントした場合の全体における相同性は、遺伝子融合効率の観点から、少なくとも10%、好ましくは、15%以上、さらに好ましくは20%以上、より好ましくは、65%以上、よりさらに好ましくは、80%以上であることが望ましい。具体的には、少なくとも2種の融合対照のポリヌクレオチド、例えば、融合対象のポリヌクレオチドA及びポリヌクレオチドBのそれぞれにおいて、連続した少なくとも3ヌクレオチド長が同一である領域、連続した少なくとも10ヌクレオチド長が同一である領域などが点在し、BLASTによりアラインメントした全体の配列にわたって、少なくとも30%の相同性を有するポリヌクレオチドなどが挙げられるが、本発明に用いられる融合対象のポリヌクレオチドは、かかる例示に限定されるものではない。
【0017】
前記「宿主の生育に関連する遺伝子」としては、薬剤又は外来侵入物に応答しうる遺伝子、薬剤に対して応答しうるポリペプチドをコードしたポリヌクレオチド、宿主の生育に必須の資化性に関連する遺伝子、宿主の生育に必須の資化性に関連するポリペプチドをコードしたポリヌクレオチドなどが挙げられる。なお、本明細書においては、前記「宿主の生育に関連する遺伝子」を、単に、マーカー遺伝子とも称す。
【0018】
前記薬剤又は外来侵入物は、宿主の生育を阻害するものであればよく、特に限定されないが、文献 [大腸菌とサルモネラ菌 (Escherichia coli and Sarmonella), 第2版、2532-2572, ASM Press発行 (1996)]に記載されているもの、例えば、ストレプトマイシン、スペクチオマイシン、リファンピシン、ナリジキシン酸、ファージなどが挙げられる。選択性の観点から、ストレプトマイシン、スペクチオマイシンが望ましい。
【0019】
マーカー遺伝子としては、例えば、前記薬剤に感受性であるポリペプチドをコードしたポリヌクレオチド(以下、「薬剤感受性マーカー遺伝子」という)、rpsL、rpsE、rpoB、gyrAなどが挙げられる。選択性の観点から、薬剤感受性マーカー遺伝子が好ましい。
【0020】
本明細書において、前記「(薬剤に)感受性(である)」とは、適切な宿主に該薬剤感受性マーカー遺伝子を導入した場合、該薬剤の存在下において、該宿主に、生育できなくなるという性質、又は生育が抑制されるという性質を発現させることをいう。
【0021】
前記薬剤感受性マーカー遺伝子としては、例えば、野生型リボソームタンパク質をコードする遺伝子であるrpsL、rpsE(以下、「野生型リボソーム遺伝子」という)、などが挙げられ、融合遺伝子の形成の際の検出の感度及び選択性の観点から、野生型リボソーム遺伝子が好ましい。
【0022】
前記野生型リボソーム遺伝子としては、例えば、ストレプトマイシンに対しては、リボソームのS12 サブユニットをコードするrpsL遺伝子 [ジーンバンク・アクセッション番号:AF312717及びAAG30937] 、スペクチオマイシンに対しては、リボソームのS5サブユニットをコードするrpsE遺伝子 [ジーンバンク・アクセッション番号:AAC76328] などが挙げられる。本発明においては、融合遺伝子の形成の際の検出の感度及び選択性の観点から、rpsL遺伝子及びrpsE遺伝子が好ましい。
【0023】
本発明の融合遺伝子調製用ベクターは、マーカー遺伝子を介して少なくとも2種の融合対象のポリヌクレオチドが連結された核酸と、適切な宿主内で複製可能な任意のベクター、例えば、プラスミド、ファージ、ウイルスなどとから構成される。したがって、例えば、融合対象のポリヌクレオチドの1つと、マーカー遺伝子と融合対象の他のポリヌクレオチドと、適切な宿主内で複製可能な任意のプラスミドとを、モレキュラークローニング ア ラボラトリーマニュアル第3版 [ザンブルーク(Sambrook)ら、Molecular Cloning : A Laboratory Manual 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory発行, (2001)] などに記載の慣用の遺伝子工学的手法により、連結させることにより、本発明の融合遺伝子調製用ベクターを構築することができる。
【0024】
なお、前記「少なくとも2種の融合対象のポリヌクレオチド」は、同じ転写及び翻訳の方向で配置されていることが好ましい。
【0025】
前記「適切な宿主」は、前記マーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を有する宿主であればよく、原核細胞又は真核生物の細胞のいずれであってもよい。具体的には、前記宿主としては、大腸菌、酵母、枯草菌、緑濃菌、サルモネラ菌などが挙げられる。簡便性、安全性の観点から、大腸菌及び酵母が好ましい。
【0026】
前記「マーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を有する宿主」としては、例えば、前記マーカー遺伝子が、該薬剤感受性マーカー遺伝子である場合、該マーカー遺伝子に対応する薬剤に対して耐性である宿主が挙げられる。具体的には、マーカー遺伝子が、前記野生型リボソーム遺伝子である場合、薬剤非感受性型リボソームタンパク質をコードする遺伝子(薬剤非感受性型リボソーム遺伝子という)を有する宿主が望ましい。より具体的には、薬剤非感受性型rpsL遺伝子、薬剤非感受性型rpsE遺伝子、薬剤非感受性型rpoB遺伝子、薬剤非感受性型gylA遺伝子などが挙げられる。
【0027】
なお、本明細書において、前記「薬剤非感受性型リボソーム遺伝子」とは、野生型リボソーム遺伝子において、薬剤のリボソームへの作用を阻害せしめる変異を有する配列からなるポリヌクレオチドをいう。例えば、薬剤非感受性型rpsL遺伝子の場合、ジーンバンク(GenBank) アクセッション番号: AF312717に示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列 [ジーンバンク(GenBank) アクセッション番号:AAG30937 ] において、アミノ酸番号:43のLys のArg への置換、ジーンバンク(GenBank) アクセッション番号: AF312717に示される塩基配列において、塩基番号:128 のA のG への置換における変異などを有するものなどが挙げられる。
【0028】
前記宿主は、より高い効率で、多様な融合様式の融合遺伝子群を得る観点から、欠失頻度の上昇する変異をもつ宿主、具体的には、例えば、一本鎖DNA結合タンパク質遺伝子に変異を有する宿主が好ましく、一本鎖DNA結合タンパク質遺伝子において変異のアリールのひとつであるssb-3 変異を有する宿主がより好ましい。具体的には、大腸菌MK1019株が好適である。なお、前記大腸菌MK1019株は、Escherichia coli MK1019 と命名、表示され、受託番号:FERM P−18742として、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(郵便番号305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、平成14年2月27日より寄託されている。
【0029】
適切な宿主内で複製可能なベクターとしては、例えば、宿主が大腸菌である場合、pBR322、pUC19 、pHSG396(宝酒造社製) 、pHSG399(宝酒造社製) 、pCYC184 及びこれらの誘導体などの慣用のプラスミドベクターが挙げられ、例えば、宿主が酵母である場合、pYAC誘導体などの慣用のプラスミドベクターが挙げられる。また、本発明の目的を阻害しないものであれば、慣用のベクターの他に、適切な複製開始起点、クローニングサイトなどから構築されたベクターを用いてもよい。
【0030】
本発明の融合遺伝子調製用ベクターによれば、融合遺伝子の調製方法が提供される。本発明の融合遺伝子の調製方法は、融合遺伝子調製用ベクターを用いることを1つの大きな特徴とする。したがって、本発明の調製方法によれば、融合対象の遺伝子の種類に制限されずに、得られた融合遺伝子の配列における複製エラーを生じることなく、高い効率で、かつ融合様式が多様である、天然には存在しない新規な融合遺伝子群を、簡便に製造することができるという優れた効果を発揮する。本発明の調製方法は、タンパク質の機能解析、物質生産、医療分野などに応用されうる。
【0031】
本発明の調製方法は、具体的には、(a)前記融合遺伝子調製用ベクターを用いて、前記宿主を形質転換して、該ベクター上のマーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドを発現する形質転換体を得るステップ、及び
(b)前記ステップ(a)で得られた形質転換体を、マーカー遺伝子に対応する薬剤の存在下に培養して、それぞれの培地における生育の有無を指標として、マーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を発現する細胞を得るステップ、及び
(c)前記ステップ(b)で得られた細胞から融合遺伝子を含有した核酸を得るステップ
を含む方法が挙げられる。
【0032】
本発明の調製方法においては、まず、前記融合遺伝子調製用ベクターを用いて、前記宿主を形質転換して、該ベクター上のマーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドを発現する形質転換体を得る〔ステップ(a)という〕。
【0033】
前記ステップ(a)における形質転換は、用いられる宿主の種類などにより異なるが、例えば、前記モレキュラークローニング ア ラボラトリーマニュアル第3版などに記載の慣用の方法により行なわれうる。形質転換法としては、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、接合伝達法などが挙げられる。
【0034】
かかるステップ(a)によれば、マーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドを発現する形質転換体として、融合遺伝子調製用ベクターを保持した細胞を得ることができる。
【0035】
ついで、前記ステップ(a)で得られた形質転換体を培養して、マーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を発現する細胞を得る〔ステップ(b)という〕。
【0036】
前記ステップ(b)において、形質転換体の培養条件は、用いられる宿主及び該宿主内での組換え能の発現速度などにより適宜設定されうる。例えば、宿主として、大腸菌MK1019株を用いる場合、例えば、LB培地〔組成:1%ポリペプトン、0.5 %酵母エキス、1%NaCl〕において、37℃で2日間培養すればよい。
【0037】
前記(b)においては、マーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を発現する細胞は、前記ステップ(a)で得られた形質転換体を、該マーカー遺伝子に対応する薬剤の存在下及び非存在下に培養し、それぞれの培地における生育の有無を指標として、選別されうる〔ステップ(b’)という〕。例えば、前記マーカー遺伝子が、薬剤感受性マーカー遺伝子である場合には、薬剤の存在下及び非存在下の両方の培地で生育が見られる細胞を選別することにより、マーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を発現する細胞が得られる。
【0038】
その後、前記ステップ(b)で得られた細胞から融合遺伝子を含有した核酸を得る〔ステップ(c)という〕。
【0039】
融合遺伝子を含有した核酸は、前記ステップ(b)で得られた細胞から、前記モレキュラークローニング ア ラボラトリーマニュアル第3版などに記載の慣用の核酸単離法を行なうことにより得られうる。
【0040】
融合遺伝子の形成は、所望により、慣用の塩基配列決定法、それぞれの融合対象のポリヌクレオチドのそれぞれに特異的なオリゴヌクレオチドを用いた、核酸ハイブリダイゼーション法又は核酸増幅法、β−ガラクトシダーゼ等のマーカー遺伝子の使用などにより、適宜行なわれうる。
【0041】
また、本発明の融合遺伝子の調製方法は、融合遺伝子調製用ベクター、及び/又は
(b)該ベクター上のマーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を有する宿主を含有した融合遺伝子調製用キットを用いることにより、より効率よく、簡便に、融合様式が多様で、所望の性質もしくは新規性質を呈しうる融合遺伝子群を創出することができる。かかるキットも本発明に含まれる。なお、本発明の融合遺伝子調製用キットは、宿主の培養に適した培地、遺伝子組換えに用いられる各種試薬、融合ポリペプチドの発現に適した宿主などを含有していてもよい。また、前記マーカー遺伝子が、該薬剤感受性マーカー遺伝子である場合、該マーカー遺伝子に対応する薬剤を含有していてもよい。
【0042】
本発明の融合遺伝子の調製方法により得られた融合遺伝子は、融合様式が多様であり、天然には存在しないものであり、新規タンパク質の創出、物質生産、医療分野などへの応用が期待される。また、本発明の融合遺伝子によりコードされる融合ポリペプチドは、融合様式が多様であり、天然には存在しないものであり、物質生産、医療分野などへの応用が期待される。かかる融合遺伝子及び融合ポリペプチドも本発明に含まれる。
【0043】
本発明の融合遺伝子にコードされる融合ポリペプチドは、慣用のタンパク質発現方法により、発現させ、慣用のタンパク質の精製方法(例えば、塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなど)により単離されうる。
【0044】
本発明の融合遺伝子からの融合ポリペプチドの発現に際して、融合遺伝子を慣用の発現ベクターなどに組込み、得られた組換えベクターを用いて、適切な宿主を形質転換し、得られた形質転換体より、慣用の方法により、本発明の融合ポリペプチドを得ることもできる。なお、用いられる宿主及びベクターによっては、融合ポリペプチドを細胞外に分泌させることもでき、このような場合には、培養上清から同様に精製を行なえばよい。前記形質転換体は、培地組成、培地のpH、培養温度、培養時間、誘導条件などについて、融合ポリペプチドの発現に最適な条件下で培養すればよい。
【0045】
融合ポリペプチドを得るために用いられうる宿主としては、例えば、大腸菌HB101 、C600、JM109 などの細菌;サッカロミセス・セルビジエなどの酵母;L 細胞、COS 細胞、CHO 細胞などの動物培養細胞、sf9 などの昆虫培養細胞などが挙げられる。
【0046】
融合ポリペプチドを得るために用いられるベクターとしては、例えば、誘導可能なプロモーター、選択用マーカー遺伝子、ターミネーターなどの因子を適宜有していてもよいプラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。宿主として大腸菌を用いる場合、ベクターとしては、pUC18 、pUC19 、pBR322、pKK223-3 (ファルマシア社製) などのプラスミドベクター;λZAP TMII、λgt11などのファージベクターが挙げられる。宿主として酵母を用いる場合、ベクターとしては、pYEUra3 などが挙げられる。宿主として昆虫培養細胞を用いる場合、バキュロウイルスベクターなどが挙げられる。宿主として、動物培養細胞を用いる場合、pKCRなどが挙げられる。
【0047】
形質転換は、用いられる宿主に適した方法を用いればよく、前記形質転換法、DEAE−デキストラン法などが挙げられる。
【0048】
なお、宿主が大腸菌の場合、発現産物が不溶性インクルージョンボディを形成する場合がある。この場合、通常用いられるタンパク質可溶化剤、例えば、尿素やグアニジン塩酸塩などを用いる可溶化タンパク質を得、透析法あるいは希釈法などを用いたリフォールディング操作を行なうことによって、所望の融合ポリペプチドを含む標品を得ることができる。必要に応じてこの標品を更に各種クロマトグラフィーによって精製することにより、所望の融合ポリペプチドを得ることができる。
【0049】
本発明の融合ポリペプチドによれば、その性質、機能、活性などを利用することにより、物質生産方法をも提供できる。本発明の物質生産方法によれば、物質生産に適した融合ポリペプチドを用いることができるため、所望の効率、条件などを達成し、所望の物質を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【0050】
本発明の物質生産方法においては、前記融合遺伝子の調製方法により、所望の効率、条件などを達成し、所望の物質を得ることができる融合ポリペプチドをコードした融合遺伝子を調製し、前記のように融合ポリペプチドを得、所望の物質の生産に適した条件下に該融合ポリペプチドを用いることにより、物質を生産することができる。
【0051】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。なお、本実施例における各種操作については、特に断りがない限り、例えば、モレキュラークローニング ア ラボラトリーマニュアル第3版 [ザンブルーク(Sambrook)ら、Molecular Cloning : A Laboratory Manual 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory発行, (2001)] 等の記載を参照した。
【0052】
実施例1
ネズミチフス菌の2種のフラジェリン遺伝子fljB及びfliCを、融合対象の遺伝子とし、下記のように、融合遺伝子を調製した。
【0053】
(1) fljB遺伝子カセットの作製
ネズミチフス菌SJ2353株のゲノムDNA を、SalIとEcoRI とで消化して、DNA 断片を得た。得られたDNA 断片を、プラスミドpBR322上のSalI部位とEcoRI 部位との間に挿入した。得られたプラスミドを用いて、フラジェリン遺伝子欠損株である大腸菌EJ2081を形質転換し、得られた形質転換体を軟寒天培地〔組成: 0.3% 寒天を含むLB培地(組成:1%ポリペプトン、0.5 %酵母エキス、1%NaCl) 〕に播種し、30℃で24時間培養した。前記軟寒天培地中に広がって動く形質転換体を、運動性が回復した形質転換体とみなして選択し、慣用の手法により、該形質転換体から、fljB遺伝子を含むプラスミドpCB105B を単離した。
【0054】
ついで、前記pCB105B から、1.8kb のStuI-EcoRI断片として、fljB遺伝子のプロモーターとORF の全長 (1518bp) を含む断片を切り出し、プラスミドpHSG396
(宝酒造社製) に挿入して、pBZ302を構築した。
【0055】
前記pBZ302から、1.7kb のNspI断片として、fljB遺伝子の断片を切り出した。得られた断片を、プラスミドpUC119のSphI部位に挿入してpBZ110を構築した。前記pBZ110によれば、fljB遺伝子のプロモーターとORF の1 位〜1431位の部分を含む断片 (以下、fljBΔ87という) を、1.7kb のXhoI-SalI カセットとして切り出すことができる。
【0056】
(2) fliC遺伝子カセットの作製
ネズミチフス菌SJ2353株のゲノムDNA をHindIII で消化して、DNA 断片を得た。得られたDNA 断片を、プラスミドpHSG399 上のHindIII 部位に挿入した。得られたプラスミドを用いて、フラジェリン遺伝子欠損株である大腸菌EJ2081を形質転換し、得られた形質転換体を前記軟寒天培地に播種し、37℃で24時間培養した。前記軟寒天培地上で運動性が回復した形質転換体を選択し、慣用の手法により、該形質転換体から、fljC遺伝子を含むプラスミドpHI301を単離した。
【0057】
前記pHI301から、2.2kb のScaI-HindIII断片として、fliCのORF の3'側後半領域を含む断片を切り出し、ついで、Klenowフラグメントで末端を平滑化して、DNA 断片を得た。得られたDNA 断片に、BamHI リンカーをライゲーションした後、pHSG397 に挿入してpCF107を構築した。前記pCF107によれば、fliC遺伝子のORF の604 位から後半の全領域を含む遺伝子の断片(Δ603 fliC)を2.2kb のSalI- XhoIカセットとして切り出すことができる。
【0058】
(3) ストレプトマイシン感受性(野生型rpsL遺伝子)カセットの作製
大腸菌野生株W3110 株のゲノムDNA を、SacII とBamHI とで消化し、ついで、Klenowフラグメントで末端を平滑化して、DNA 断片を得た。得られたDNA 断片を、プラスミドpKK223-3(ファルマシア社製)のSmaI部位に挿入し、組換えプラスミドを得た。得られた組換えプラスミドを用いて、染色体上にrpsL20変異を有する大腸菌HB101 株を形質転換した。なお、前記大腸菌HB101 は、rpsL20変異に起因して、スレプトマイシン抵抗性のStrr表現型を示す。したがって、得られた形質転換体について、LB培地及びストレプトマイシンを含む前記LB培地のそれぞれで、37℃24時間培養することにより、ストレプトマイシン感受性の表現型を示す菌を選択し、それにより、rpsLを有するプラスミドpNC121L を得た。
【0059】
前記プラスミドpNC121L は、tac プロモーターの下流に、rpsL遺伝子が発現する向きで挿入されたプラスミドである。前記プラスミドpNC121L によれば、Ptac-rpsL 遺伝子を含む断片を、1.2kb のSalIカセットとして切り出すことができる。
【0060】
(4) 融合遺伝子調製用ベクターpLC210の構築
前記(2) で得られたpCF107から、2.2kb のSalI- XhoIカセットとして、Δ603 fliCを切り出し、前記(1) で得られたpBZ110上のSalI部位とXhoI部位との間に、挿入して、pCF110を構築した。前記pCF110においては、2つのフラジェリン遺伝子fljBとfliCがタンデムに同方向に配置されている。
【0061】
また、mini-FプラスミドpTN1105 (Kawasaki Med. J. 12: 163-176, 1986)のori1を含む2.7kb のXhoI断片を除き、再環状化させてpTN1102 を構築した。
【0062】
ついで、前記pCF110から、fljBΔ87とΔ603fliC とを含む断片を、3.9kb のXhoI断片として切り出し、前記プラスミドpTN1102 のSalI部位に挿入してプラスミドpLF106を構築した。
【0063】
その後、前記pLF106のfljBΔ87とΔ603fliC との間のSalI部位に、pNC121B 由来の1.2kb のPtac-rpsL 遺伝子カセットを、SalI断片として挿入し、融合遺伝子調製用ベクターpLF110を構築した。
【0064】
なお、前記pLF110上のfliC遺伝子は、ORF の5'側前半領域を欠いているため、pLF110によれば、fljBとfliCのORF の3'側後半領域との間で生じる融合遺伝子を主として単離できる。fljBとfliCの間で正確に読み枠が一致した遺伝子融合が生じた場合、二つの欠損型フラジェリン遺伝子から、一つの完全なフラジェリン遺伝子が形成される。完全なフラジェリン遺伝子が形成された場合は、この遺伝子を持った大腸菌フラジェリン遺伝子欠損株の運動性が前記軟寒天培地上で回復することから判別が可能である。
【0065】
(5) 融合遺伝子調製用ベクターを用いた融合遺伝子の調製
前記(4) で得られたプラスミドpLF110を用い、ストレプトマイシン耐性で、フラジェリン遺伝子が欠損しており、一本鎖DNA 結合タンパク質遺伝子(ssb )に関して野生型である大腸菌MK1018株及びストレプトマイシン耐性で、フラジェリン遺伝子が欠損しており、一本鎖DNA 結合タンパク質遺伝子にssb-3 変異を有する大腸菌MK1019株のそれぞれを形質転換し、LB培地に播種した。得られたコロニーを、LB培地と、ストレプトマイシンを含む前記培地とに播種し、形質転換体がストレプトマイシン感受性を呈することを確認した。
【0066】
ついで、前記形質転換体を、LB液体培地を用いて37℃で12時間振盪培養した培養液を、ストレプトマイシンを含むLB培地に塗布し、37℃で2 日間静置培養した。
【0067】
前記培地で生育してきたストレプトマイシン耐性が復帰したコロニーの出現頻度を測定した。野生型大腸菌MK1018株では、106 コロニーあたり0.6 の出現頻度だった。出現したストレプトマイシン耐性コロニーの1 割で運動性が回復していた。
【0068】
よって、野生型大腸菌MK1018株では、正確に読み枠が一致した融合遺伝子の形成頻度は106 コロニーあたり0.06と算出された。これに対して、一本鎖DNA 結合タンパク質にssb-3 変異を有する大腸菌MK1019株では、106 コロニーあたり240 のストレプトマイシン耐性コロニーが出現した。出現したストレプトマイシン耐性コロニーの9割で運動性が回復しており、正確に読み枠が一致した融合遺伝子の形成頻度は、ssb-3 変異を有する大腸菌MK1019株では、106 コロニーあたり216 と算出された。
【0069】
前記融合遺伝子調製用ベクターpLF110の形質転換体の振盪培養液を、同時に、ストレプトマイシンを全く含まないLB培地に塗布し、37℃で2 日間静置培養した。MK1018株とMK1019株のそれぞれにおいて、得られたコロニーの運動性の回復を前記軟寒天培地上で調べた。MK1018株とMK1019株のいずれにおいても、検定した200 のコロニーで運動性が回復したものは無く、ストレプトマイシンによる選抜無しでは、融合遺伝子を得ることができなかった。
【0070】
実施例2
前記実施例1で使用した融合遺伝子調製用ベクターpLF110を用い、mutR変異を有する大腸菌DB-1株を形質転換した。ストレプトマイシン感受性となった形質転換体を、LB液体培地を用いて37℃で12時間振盪培養した後、ストレプトマイシンを含むLB培地に塗布し、37℃で2日間静置培養した。
【0071】
前記培地で生育してきたストレプトマイシン耐性が復帰したコロニーの出現頻度を測定した。その結果、mutR変異を有する大腸菌DB-1株では、106 コロニーあたり20の出現頻度だった。
【0072】
実施例3
実施例1と同様の手順により、ストレプトマイシン耐性を示したコロニーを得た。得られたコロニーから、プラスミドを抽出し、融合フラジェリン遺伝子の配列をDNAシークエンサーにて決定し、それにより、fljB遺伝子とfliC遺伝子との融合点の配列を確認した。
【0073】
その結果、融合遺伝子の遺伝子配列の複製エラーは全く検出されなかった。
【0074】
また、fljB遺伝子とfliC遺伝子との間の相同領域のヌクレオチド長と、抽出したプラスミド上のfljB遺伝子とfliC遺伝子との間で実際に遺伝子融合が生じた点の分布を、ssb に関して野生型のMK1018株とssb-3 変異を有するMK1019株とでそれぞれ比較した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
Figure 0004267241
【0076】
表1に示すように、MK1018株を用いた場合、相同領域が、11ヌクレオチド長以下では、融合遺伝子を得ることができなかったが、MK1019株を用いた場合、相同領域が、3ヌクレオチド長であっても、融合遺伝子を得ることができることがわかる。
【0077】
実施例4
融合対象の遺伝子として、放線菌由来のホスホリパーゼD 遺伝子である2種の遺伝子 (DDBJアクセッション番号:AB062136 及びAB05873)を、pACYC184上にタンデムに配置し、該2種の遺伝子の間に、tac プロモーター(Ptac)の制御下に発現するストレプトマイシン感受性遺伝子である野生型rpsL遺伝子を挿入して、融合遺伝子調製用ベクターpLC111を構築した。
【0078】
プラスミドpLC111を用いて、ストレプトマイシン耐性であり、かつ一本鎖DNA結合タンパク質遺伝子(ssb) に関して野生型である大腸菌MK1018株及びストレプトマイシン耐性であり、かつ一本鎖DNA結合タンパク質遺伝子にssb-3 変異を有する大腸菌MK1019株を形質転換し、LB培地に播種した。得られたコロニーを、LB培地と、ストレプトマイシンを含む前記培地とに播種し、ストレプトマイシン感受性を呈する形質転換体を選別した。
【0079】
得られた形質転換体を、ストレプトマイシンを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で2日間静置培養した。ついで、得られた菌体から、プラスミドを抽出し、その大きさを電気泳動で観察した。
【0080】
その結果、MK1018株では、ストレプトマイシン培地で選択する前のもとのプラスミドと比較して同じサイズのものばかりであるのに対し、MK1019株では、明らかにそのサイズが小さいものばかりであった。すなわち、MK1019株を用いた場合、効率よく遺伝子融合が行なわれることがわかる。
【0081】
実施例5 スペクチノマイシン感受性(野生型rpsE遺伝子)カセットの作製
大腸菌野生株W3110 株のゲノムDNA をPvuII で消化して、DNA 断片を得た。得られたDNA 断片を、プラスミドpKK223-3(ファルマシア社製)のSmaI部位に挿入し、組換えプラスミドを得た。得られた組換えプラスミドを用いて、染色体上にrpsE変異(スペクチノマイシン抵抗性のSpcr表現型を示す)を有する大腸菌株ME6097を形質転換した。、得られた形質転換体について、LB培地及びスペクチノマイシンを含む前記培地のそれぞれで、37℃24時間培養することにより、ME6097株のスペクチノマイシン抵抗性表現型が野生型rpsE遺伝子の導入により感受性に復帰した株を選択し、それにより、rpsEを有するプラスミドpNC121E を得た。
【0082】
前記プラスミドpNC121E は、tac プロモーターの下流にrpsE遺伝子が発現する向きで挿入されており、Ptac-rpsE 遺伝子を含む遺伝子断片を2.4kb のSalIカセットとして切り出すことができる。
【0083】
実施例6 融合遺伝子調製用キットの作製
実施例1に記載されたストレプトマイシン感受性カセットを有するプラスミドpNC121L から、ストレプトマイシン薬剤感受性遺伝子をSalIで切り出し、pET-12a-c 及びpET-22a-c (ノバゲン社製)のSalI部位にT7プロモーターの転写・翻訳方向とは逆方向に挿入したプラスミドpETStrを作製した。
【0084】
さらに、実施例5に記載されたスペクチノマイシン感受性カセットをpNC121E からスペクチノマイシン薬剤感受性遺伝子をSalIで切り出し、pETStrのXhoI部位にT7プロモーターの転写・翻訳方向とは逆方向に挿入したプラスミドpETStrSpecを作製した。
【0085】
また、融合遺伝子調製用宿主として、大腸菌MK1019株のコンピテントセルと融合ポリペプチド発現用宿主として、BL21(DE3) 株のコンピテントセルとを含むものを包装し、融合遺伝子調製用キットとした。
【0086】
これにより、遺伝子Aの挿入用制限酵素部位として、pETStr及びpETStrSpecのNcoI、BamHI 、EcoRI 、SacI等が使用できる。また、遺伝子Bの挿入用制限酵素部位として、pETStrでは、HindIII 、NotI、XmaI、XhoI、AvaI、Bpu1102 等が使用でき、pETStrSpecでは、HindIII 、NotI、XmaI、Bpu1102 等が使用できる。さらに、3つめの融合遺伝子の材料として、遺伝子Dを用いる場合、その挿入用制限酵素部位として、pETStrSpecのBpu1102 が使用でき、A,B,D3つの遺伝子の融合遺伝子を得ることも可能である。
【0087】
また、融合遺伝子がコードする融合ポリペプチドの発現を行なう場合には、開始コドンに遺伝子Aのコーディングフレームがあうように、挿入しさえすれば、遺伝子の融合後、宿主であるMK1019株から、融合遺伝子を保持するプラスミドを抽出し、宿主をBL21(DE3)にかえることにより、T7プロモーターの支配下で、イソプロピルーβ−D −チオガラクトピラノシドによる融合遺伝子の発現を誘導することにより、容易に融合ポリペプチドを得ることも可能である。pET12 系列のプラスミドでは、融合タンパクは、菌体内にまた、pET22 系列のプラスミドは、その分泌シグナルの働きにより、菌体外に融合ポリペプチドは分泌される。
【0088】
実施例7 融合ポリペプチドの発現
実施例4記載の2種のホスホリパーゼD融合遺伝子調製用ベクターを用いて、定法により大腸菌MK1019株を形質転換し、ストレプトマシン感受性を呈する形質転換体を多数得た。得られた形質転換体をストレプトマイシン含有LB寒天培地に塗布し、37℃、2日間静置培養し、得られた菌体からプラスミドを抽出した。
【0089】
前記プラスミドのなかから、ストレプトマイシン培地で選択する前のプラスミドと比較して、サイズの小さいものを選択し、それらから、融合遺伝子を5'端に、開始コドンを含む制限酵素酵素NcoI部位をもったプライマーと、制限酵素EcoRI 部位に終始コドンを有するプライマーにて、ポリメラーゼ・チェイン・リアクションにより遺伝子増幅した。
【0090】
これらの増幅産物を制限酵素NcoIとEcoRI とで消化し、イワサキ(Iwasaki )らの文献〔バイオテクノロジー プログレス(Biotechnology Progress)13巻、864-868 、(1997)〕に記載された、カナマイシン耐性遺伝子をもつプラスミドpETKmS2 の制限酵素NcoI部位とEcoRI 部位との間に挿入した。ついで、得られた組換えプラスミドを用いて大腸菌BL21(DE3) 株を形質転換し、カナマイシン含有LB寒天培地にて選択し、カナマイシン耐性を示す形質転換体を得た。
【0091】
得られた形質転換体を、カナマイシン含有LB培地にて37℃、16時間振盪培養し、その一部をイワサキ(Iwasaki )らの文献(バイオテクノロジー プログレス(Biotechnology Progress)13巻、864-868 、(1997))に記載された発現用培地に、100 分の1容量となるように加え、30℃、12時間振盪培養した。
【0092】
その後、得られた培養物にイソプロピルーβ−D −チオガラクトピラノシドを終濃度1mMになるよう添加し、16℃、4日間振盪培養し、プラスミドpETKmS2 の分泌シグナルの働きにより融合ホスホリパーゼDが菌体外に分泌され、ホスホリパーゼDの酵素活性を示す培養上清を得た。
【0093】
【発明の効果】
本発明の融合遺伝子調製用ベクターによれば、高い効率で、かつ融合様式が多様である融合遺伝子群を得ることができるという優れた効果を奏する。また、本発明の融合遺伝子の調製方法は、得られた融合遺伝子の配列における複製エラーを生じることなく、融合対象の遺伝子の種類に制限されずに、高い効率で、かつ融合様式が多様であり天然には存在しない融合遺伝子群を簡便に得ることができるという優れた効果を奏する。また、本発明の融合遺伝子、融合ポリペプチド及び物質生産方法は、タンパク質の機能解析、物質生産、医療などへの応用が期待される。さらに、本発明の融合遺伝子調製用キットによれば、前記融合遺伝子の調製方法を簡便に行なうことができ、得られた融合遺伝子の配列における複製エラーを生じることなく、融合対象の遺伝子の種類に制限されずに、高い効率で、かつ融合様式が多様であり天然には存在しない融合遺伝子群を得ることができるという優れた効果を奏する。

Claims (18)

  1. 宿主の生育に関連する遺伝子(マーカー遺伝子という)を介して少なくとも2種の融合対象のポリヌクレオチドが連結された核酸を含有してなる、融合遺伝子調製用ベクターであって、融合対象のポリヌクレオチドAと、マーカー遺伝子Cと、該ポリヌクレオチドAに対して融合対象のポリヌクレオチドBとからなる核酸であって、A−C−Bの順で配置された核酸を含有してなり、前記ポリヌクレオチドA及びBの間で同一である連続した少なくとも3ヌクレオチド長の領域を有し、前記マーカー遺伝子が、薬剤感受性マーカー遺伝子である、融合遺伝子調製用ベクター。
  2. 少なくとも2種の融合対象のポリヌクレオチドが、同じ転写及び翻訳の方向で配置されてなる、請求項1記載の融合遺伝子調製用ベクター。
  3. 該薬剤感受性マーカー遺伝子が、野生型リボソームタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1又は2記載の融合遺伝子調製用ベクター。
  4. 該マーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を有する宿主において複製されうる、請求項1〜3いずれか1項に記載の融合遺伝子調製用ベクター。
  5. 請求項1〜4いずれか1項に記載の融合遺伝子調製用ベクターを用いることを特徴とする、融合遺伝子の調製方法。
  6. (a)請求項1〜4いずれか1項に記載の融合遺伝子調製用ベクターを用いて、該ベクター上のマーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を有する宿主を形質転換して、該マーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドを発現する形質転換体を得るステップ、(b)前記ステップ(a)で得られた形質転換体を培養して、マーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を発現する細胞を選別するステップ、及び(c)前記ステップ(b)で得られた細胞から融合遺伝子を含有した核酸を得るステップを含む、請求項5記載の調製方法。
  7. 該ステップ(b)において、(b’)前記ステップ(a)で得られた形質転換体を、該マーカー遺伝子に対応する薬剤の存在下及び非存在下に培養し、それぞれの培地における生育の有無を指標として、マーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を発現する細胞を選別するステップ、を行なう、請求項6記載の調製方法。
  8. 該宿主が、大腸菌又は酵母である、請求項6又は7記載の調製方法。
  9. 該宿主が、該マーカー遺伝子に対応する薬剤に対して耐性である、請求項6〜8いずれか1項に記載の調製方法。
  10. 該宿主が、薬剤非感受性型リボソーム遺伝子を保持する、請求項6〜9いずれか1項に記載の調製方法。
  11. 該宿主が、一本鎖DNA結合タンパク質遺伝子に ssb-3 変異を有する大腸菌である、請求項6〜10いずれか1項に記載の調製方法。
  12. 該宿主が、大腸菌MK1019株(寄託番号:FERMP−18742)である、請求項11記載の調製方法。
  13. 請求項5〜12いずれか1項に記載の融合遺伝子の調製方法を行なうためのキットであって、(a)請求項1〜4いずれか1項に記載の融合遺伝子調製用ベクター、及び/又は(b)該ベクター上のマーカー遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能に相反する機能を有する宿主、を含有してなる、融合遺伝子調製用キット。
  14. 該宿主が、大腸菌又は酵母である、請求項13記載の融合遺伝子調製用キット。
  15. 該宿主が、該マーカー遺伝子に対応する薬剤に対して耐性である大腸菌又は該マーカー遺伝子に対応する薬剤に対して耐性である酵母である、請求項13又は14記載の融合遺伝子調製用キット。
  16. 該宿主が、薬剤非感受性型リボソーム遺伝子を保持する、請求項1315いずれか1項に記載の融合遺伝子調製用キット。
  17. 該宿主が、一本鎖DNA結合タンパク質遺伝子に ssb-3 変異を有する大 腸菌である、請求項1316いずれか1項に記載の融合遺伝子調製用キット。
  18. 該宿主が、大腸菌MK1019株(寄託番号:FERMP−18742)である、請求項17記載の融合遺伝子調製用キット。
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