以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
A.システム構成
本発明において想定している通信の伝搬路は無線であり、且つ複数の周波数チャネルすなわちマルチチャネルからなる伝送媒体を用いて、複数の通信局間でネットワークを構築する。また、本発明で想定している通信は蓄積交換型のトラヒックであり、パケット単位で情報が転送される。
本発明に係る無線ネットワーク・システムは、コーディネータを配置しない自律分散型のシステム構成であり、緩やかな時分割多重アクセス構造を持った伝送(MAC)フレームにより複数のチャネルを効果的に利用した伝送制御が行なわれる。また、各通信局は、CSMA(Carrier Sense Multiple Access:キャリア検出多重接続)に基づくアクセス手順に従い直接非同期的に情報を伝送するアドホック通信を行なうこともできる。
このように制御局を特に配置しない無線通信システムでは、各通信局は適宜選択されるビーコン送信チャネル上でビーコン情報を報知することにより、近隣(すなわち通信範囲内)の他の通信局に自己の存在を知らしめるとともに、ネットワーク構成を通知する。また、各通信局は、利用チャネル上でスキャン動作してビーコン信号を受信することにより周辺局を検知するとともに、ビーコンに記載されている情報を解読することによりネットワーク構成を認識する(又はネットワークに参入する)ことができる。また、通信局は伝送フレーム周期の先頭でビーコンを送信するので、各通信局が利用する各チャネルにおける伝送フレーム周期はビーコン間隔によって定義される。
以下に説明する各通信局での処理は、基本的に、本発明に係る自律分散型ネットワークに参入するすべての通信局で実行される処理である。但し、場合によっては、ネットワークを構成するすべての通信局が、以下に説明する処理を実行するとは限らない。
図1には、本発明の一実施形態に係る無線通信システムを構成する通信装置の配置例を示している。この無線通信システムでは、特定の制御局を配置せず、各通信装置が自律分散的に動作し、アドホック・ネットワークが形成されている。同図では、通信装置#0から通信装置#6までが同一空間上に分布している様子を表わしている。
また、同図において、各通信装置の通信範囲を破線で示してあり、その範囲内にある他の通信装置と互いに通信ができるのみならず、自己の送信した信号が干渉する範囲として定義される。すなわち、通信装置#0は近隣にある通信装置#1、#4と通信可能な範囲にあり、通信装置#1は近隣にある通信装置#0、#2、#4と通信可能な範囲にあり、通信装置#2は近隣にある通信装置#1、#3、#6と通信可能な範囲にあり、通信装置#3は近隣にある通信装置#2と通信可能な範囲にあり、通信装置#4は近隣にある通信装置#0、#1、#5と通信可能な範囲にあり、通信装置#5は近隣にある通信装置#4と通信可能な範囲にあり、通信装置#6は近隣にある通信装置#2と通信可能な範囲にある。
ある特定の通信装置間で通信を行なう場合、通信相手となる一方の通信装置からは聞くことができるが他方の通信装置からは聞くことができない通信装置、すなわち「隠れ端末」が存在する。
図2には、本発明の一実施形態に係る無線ネットワークにおいて通信局として動作する無線通信装置の機能構成を模式的に示している。図示の無線通信装置は、複数のチャネルが用意されている通信環境下において、同じ無線システム内では効果的にチャネル・アクセスを行なうことにより、他の無線システムと干渉し合うことなく適当なアドホック・ネットワークを形成することができる。
無線通信装置100は、インターフェース101と、データ・バッファ102と、中央制御部103と、ビーコン生成部104と、制御信号生成部105と、無線送信部106と、タイミング制御部107と、チャネル設定部108と、アンテナ109と、無線受信部110と、制御信号解析部111と、ビーコン解析部112と、情報記憶部113とで構成される。
インターフェース101は、この無線通信装置100に接続される外部機器(例えば、パーソナル・コンピュータ(図示しない)など)との間で各種情報の交換を行なう。
データ・バッファ102は、インターフェース101経由で接続される機器から送られてきたデータや、無線伝送路経由で受信したデータをインターフェース101経由で送出する前に一時的に格納しておくために使用される。
中央制御部103は、無線通信装置100における一連の情報送信並びに受信処理の管理と伝送路のアクセス制御(マルチチャネルにおけるスキャン設定動作やチャネル設定動作、ビーコン受信動作、RTS/CTS方式に則ったデータ通信動作などを含む)を一元的に行なう。
ビーコン生成部104は、近隣にある無線通信装置との間で周期的に交換されるビーコン信号を生成する。
制御信号生成部105は、データ送信に先立ち、必要に応じて送信要求(RTS:Request to Send)信号や確認通知(CTS:Clear to Send)信号などの制御情報(後述)を生成する。本実施形態では、RTS信号とビーコン信号をマルチプレクスして送信することもある。但し、マルチチャネル自律分散型の通信環境下でのRTS/CTS通信方式については後に詳解する。
無線送信部106は、データ・バッファ102に一時格納されているデータやビーコンを無線送信するために、所定の変調処理を行なう。なお、本実施形態では、ビーコン信号は、設定可能な最低レートで送信され、なるべく多くの通信局が受信できるようにする。
アンテナ109は、他の無線通信装置宛に信号を選択された周波数チャネル上で無線送信し、あるいは他の無線通信装置から送られる信号を収集する。本実施形態では、単一のアンテナを備え、送受信をともに並行しては行なえないものとする。また、同時刻に複数の周波数チャネルをハンドルすることはできないものとする。
無線受信部110は、所定の時間に他の無線通信装置から送られてきた情報やビーコンなどの信号を受信処理する。無線送信部106及び無線受信部110における無線送受信方式は、例えば無線LANに適用可能な、比較的期オ距離の通信に適した各種の通信方式を適用することができる。具体的には、UWB方式、OFDM方式、CDMA方式などを採用することができる。また、本実施形態では、各通信局は各チャネルの通信品質を基に自局のビーコン送信チャネルやデータ通信チャネルを決定する。このため、無線受信部110は、各チャネルにおける伝搬路状況を推定し、中央制御部103に通知する。
タイミング制御部107は、無線信号を送信並びに受信するためのタイミングの制御を行なう。例えば、自局のビーコン送信チャネル上で規定した伝送フレーム周期の先頭における自局のビーコン送信タイミングや、各チャネルにおける周辺局からのビーコン受信タイミング、各チャネルにおけるスキャン動作周期、ビーコン送信チャネルやチャネル干渉情報を設定するリフレッシュ周期、RTS/CTS方式に則った各パケット(RTS、CTS、データ、ACKなど)の送信タイミング(フレーム間スペース(IFS))などを制御する。
チャネル設定部108は、マルチチャネル方式の無線信号を実際に送受信するチャネルを選択する。本実施形態では、なるべく多くの通信局が受信できるチャネルをビーコン送信チャネルとして設定する。また、通信相手のビーコン信号から得られる干渉情報に基づいて、通信局間では干渉レベルの低い最適なチャネルをデータ送信チャネルに設定することもできる。
どのチャネルが自局においてトラフィックの受信に最適であるかどうかは、例えば各チャネルをスキャン動作する際に、通信品質を計測することによって判断することができる。また、各チャネルの状態は時々刻々と変動することから、新規参入時の他、所定周期でリフレッシュ動作を行なって最新のチャネル干渉情報を得てチャネル設定動作を行なう。勿論、いずれかのチャネルで通信品質が所定値以上変化したときにビーコン送信チャネルを再設定するようにしてもよい。なお、チャネルの通信品質の計測方法やビーコン送信チャネルの再設定は本発明の要旨には直接関連しないので、本明細書中ではこれ以上説明しない。
制御信号解析部111は、周辺の無線通信装置から送られてきたRTS信号(ビーコン信号にマルチプレクスされたRTS信号を含む)やCTS信号などの制御情報を解析する。
ビーコン解析部112は、周辺局から受信したビーコン信号を解析し、近隣の無線通信装置の存在などを解析する。例えば、周辺局のビーコン送信チャネルやその受信タイミング、受信ビーコンに記載されているチャネル干渉情報などの情報は近隣装置情報として情報記憶部113に格納される。
情報記憶部113は、中央制御部103において実行される一連のアクセス制御動作などの実行手順命令(スキャン設定やチャネル設定などを行なうプログラム)や、自己のビーコン送信タイミングやビーコン送信チャネル、他の通信局のビーコン送信タイミングやビーコン送信チャネルなどのマルチチャネル情報、近隣装置情報、自局や周辺局の各チャネルにおける干渉情報などを蓄えておく。
無線通信装置100が無線ネットワークを運用するためには、各チャネルにおける通信品質を確認し、自局にとって最も良好なチャネルをビーコン送信用の基準チャネルに設定する。そして、自局のビーコン送信チャネル上で、既存の局がある場合には時間的に重ならないように、既存の局がない場合には任意のタイミングで自己のビーコン送信タイミングを決定する。各チャネルの通信品質や、自局のビーコン送信チャネルやその他のビーコン送受信に関する情報は、情報記憶部113に格納される。ビーコン信号の構成については後述する。
B.チャネル上でのアクセス動作
本実施形態では、通信局として動作する無線通信装置100は、複数のチャネルが用意され、特定の制御局を配置しない通信環境下で、緩やかな時分割多重アクセス構造を持った伝送(MAC)フレームにより複数のチャネルを効果的に利用した伝送制御、又はCSMA/CAに基づくランダム・アクセスなどの通信動作を行なう。
ここで、CSMAはキャリア検出に基づいて多重アクセスを行なう接続方式である。無線通信では、自ら情報送信した信号を受信することが困難であることから、CSMA/CDではなくCSMA/CA方式により、他の通信装置の情報送信がないことを確認してから、自らの情報送信を開始することによって、衝突を回避する。
各通信局は、自局並びに周辺局の各チャネルの干渉情報に基づいてなるべく多くの通信局が受信できるチャネルをビーコン送信チャネルに選択する。そして、最多チャネル上でビーコン情報を報知することにより、近隣(すなわち通信範囲内)の他の通信局に自己の存在を知らしめるとともに、ネットワーク構成を通知することにより、近隣(すなわち通信範囲内)の他の通信局に自己の存在を知らしめるとともに、ネットワーク構成を通知する。ビーコン送信周期のことを、「伝送フレーム(T_SF)」と定義し、例えば40ミリ秒とする。ビーコン送信チャネルはチャネル設定部108により設定される。
また、ある通信局の通信範囲に新規に参入する通信局は、ビーコン信号を受信することにより、通信範囲に突入したことを検知するとともに、ビーコンに記載されている情報を解読することによりネットワーク構成を認識することができる。そして、ビーコンの受信タイミングと緩やかに同期しながら、周辺局からビーコンが送信されていないタイミングに自局のビーコン送信タイミングを設定する。
本実施形態に係る各通信局のビーコン送信手順について、図3を参照しながら説明する。但し、ここではまず単一チャネル上で各通信局のビーコンが配置されている場合について説明する。
ビーコンで送信される情報が100バイトであるとすると、送信に要する時間は18マイクロ秒となる。40ミリ秒に1回の送信なので、通信局毎のビーコンのメディア占有率は2222分の1と十分小さい。
各通信局は、周辺で発信されるビーコンを聞きながら、ゆるやかに同期する。新規に通信局が現われた場合、新規通信局は既存の通信局のビーコン送信タイミングと衝突しないように、自分のビーコン送信タイミングを設定する。
周辺に通信局がいない場合、通信局01は適当なタイミングでビーコンを送信し始めることができる。ビーコンの送信間隔は40ミリ秒である(前述)。図3中の最上段に示す例では、B01が通信局01から送信されるビーコンを示している。
以降、通信範囲内に新規に参入する通信局は、既存のビーコン配置と衝突しないように、自己のビーコン送信タイミングを設定する。
例えば、図3中の最上段に示すように、通信局01のみが存在するチャネル上において、新たな通信局02が現われたとする。このとき、通信局02は、通信局01からのビーコンを受信することによりその存在とビーコン位置を認識し、図3の第2段目に示すように、通信局01のビーコン間隔のほぼ真中に自己のビーコン送信タイミングを設定して、ビーコンの送信を開始する。
さらに、新たな通信局03が現われたとする。このとき、通信局03は、通信局01並びに通信局02のそれぞれから送信されるビーコンの少なくとも一方を受信し、これら既存の通信局の存在を認識する。そして、図3の第3段に示すように、通信局01及び通信局02から送信されるビーコン間隔のほぼ真中のタイミングで送信を開始する。
以下、同様のアルゴリズムに従って近隣で通信局が新規参入する度に、ビーコン間隔が狭まっていく。例えば、図3の最下段に示すように、次に現われる通信局04は、通信局02及び通信局01それぞれが設定したビーコン間隔のほぼ真中のタイミングでビーコン送信タイミングを設定し、さらにその次に現われる通信局05は、通信局02及び通信局04それぞれが設定したビーコン間隔のほぼ真中のタイミングでビーコン送信タイミングを設定する。
但し、帯域(伝送フレーム周期)内がビーコンで溢れないように、最小のビーコン間隔Bminを規定しておき、Bmin内に2以上のビーコン送信タイミングを配置することを許容しない。例えば、40ミリ秒の伝送フレーム周期でミニマムのビーコン間隔Bminを2.5ミリ秒に規定した場合、電波の届く範囲内では最大で16台の通信局までしか収容できないことになる。
ここで、各通信局はビーコン送信の直後に優先利用領域(TPP)を獲得することから(後述)、伝送フレーム内に新規のビーコンを配置する際には、1つのチャネル上では各通信局のビーコン送信タイミングは密集しているよりも伝送フレーム周期内で均等に分散している方が伝送効率上より好ましい。したがって、本実施形態では、図3に示したように基本的に自身が聞こえる範囲でビーコン間隔が最も長い時間帯のほぼ真中でビーコンの送信を開始するようにしている。但し、各通信局のビーコン送信タイミングを集中して配置し、残りの伝送フレーム周期では受信動作を停止して装置の消費電力を低減させるという利用方法もある。
図4には、1チャネル上において伝送フレーム内でビーコン送信タイミングの一例を示している。但し、同図に示す例では、40ミリ秒からなる伝送フレーム周期における時間の経過を、円環上で時針が右回りで運針する時計のように表している。伝送フレーム内で、ビーコン送信タイミングを配置可能な位置のことを「スロット」とも呼ぶ。各通信局は、自局のビーコン送信タイミングであるTBTT(Target Beacon Transmission Time)から故意に若干の時間オフセット(TBTTオフセット)を持った時刻で送信する。
図4に示す例では、通信局0から通信局Fまでの合計16台の通信局がネットワークのノードとして構成されている。図3を参照しながら説明したように、既存の通信局が設定したビーコン間隔のほぼ真中のタイミングで新規参入局のビーコン送信タイミングを順次設定していくというアルゴリズムに従って、ビーコン配置が行なわれたものとする。Bminを5ミリ秒と規定した場合には、1伝送フレームにつき最大16個までしかビーコンを配置することができない。すなわち、16台以上の通信局はネットワークに参入できない。
本実施形態では、IEEE802.11方式などの場合と同様に、複数のフレーム間スペースを定義する。図5に示すように、フレーム間スペースとして、Short Inter Frame Space(SIFS)とLong Inter Frame Space(LIFS)を定義する。
通常のパケットをCSMAの手順に従って送信する際には、図5(b)に示すように、何らかのパケットの送信が終了してから、まずLIFSだけメディア状態を監視し、この間にメディアがクリアすなわち送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行ない、さらにこの間にも送信信号が存在しない場合に、送信権利が与えられる。ランダム・バックオフ値の計算方法は、擬似ランダム系列を用いるなど既存技術で知られている方法を適用する。
これに対し、優先度又は緊急度の高いパケットを送信する際には、LIFSよりも短いSIFSのフレーム間スペースの後に送信することが許されている。すなわち、図5(a)に示すようにSIFSだけメディア状態を監視し、この間にメディアがクリアすなわち送信信号が存在しなければ、送信権利が与えられる。これにより、緊急度の高いパケットは、通常のCSMAの手順に従って送信される(すなわち、LIFS+ランダム・バックオフだけ待機してから送信される)パケットよりも先に送信することが可能となる。
例えば、優先送信期間(TPP)内の通信局は、SIFSのフレーム間スペース後に送信開始することにより、優先的にパケット送信する権利が確保される。また、RTS/CTS方式に従って、RTSに引き続いて送信されるCTS、データ、ACKの各パケットも同様にSIFSのフレーム間スペースで送信することにより、近隣局に邪魔されず、一連の通信手順を実行することができる。
要するに、異なる種類のフレーム間スペースを定義することにより、フレーム間スペースの長さに応じてパケットの送信権争い優先付けが行なわれる訳である。
さらに本実施形態においては、上述したフレーム間スペースである「SIFS」と「LIFS+バックオフ」の他に、図5(c)並びに(d)に示すように、「LIFS」と「FIFS+バックオフ」(FIFS:Far Inter Frame Space)を定義する。通常は「SIFS」と「LIFS+バックオフ」のフレーム間スペースを適用する。他方、ある通信局に送信の優先権が与えられている時間帯においては、他局は「FIFS+バックオフ」のフレーム間スペースを用い、優先権が与えられている局はSIFSあるいはLIFSでのフレーム間スペースを用いる。
各通信局はビーコンを一定間隔で送信しているが、ビーコンを送信した後しばらくの間は、該ビーコンを送信した局に送信の優先的に送信を行なうことができる優先送信期間(TPP)を獲得する。図6には、ビーコン送信局に優先権が与えられる様子を示している。本明細書では、この優先区間をTransmission Prioritized Period(TPP)と定義する。TPP内では、通信局は、SIFSのフレーム間スペース後に送信開始することにより、優先的にパケット送信する権利が確保される。
また、TPP以外の区間をFairly Access Period(FAP)と定義され、各通信局が通常のCSMA/CA方式により通信が行なわれる。すなわち、TPPが経過したビーコン送信局を含め、すべての通信局は、LIFS+ランダム・バックオフだけ待機してから送信開始することができるので、言い換えれば、ランダムなバックオフにより送信権が均等に与えられることになる。
図7には、TPP区間内におけるビーコン送信局並びにそれ以外の局が送信権を得るための動作について図解している。
ビーコン送信局は、自局のビーコンを送信した後、より短いバケット間隔SIFSの後に送信を開始することができる。図示の例では、ビーコン送信局はSIFSの後にRTSパケットを送信する。そして、その後も、送信されるCTS、データ、ACKの各パケットも同様にSIFSのフレーム間スペースで送信することにより、近隣局に邪魔されず、一連の通信手順を実行することができる。
一方、その他の局は、ビーコンが送信された後、まずLIFSだけメディア状態を監視し、この間にメディアがクリアすなわち送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行ない、さらにこの間にも送信信号が存在しない場合に、送信権利が与えられる。このため、ビーコン送信局が先にSIFS経過後にRTS信号を送信すると、メディアはクリアでなくなるから、他局は送信を開始することができなくなる。
図8には、通信局がTPP区間及びFAP区間においてそれぞれ送信を開始するための動作を図解している。
TPP区間内では、通信局は、自局のビーコンを送信した後、より短いバケット間隔SIFSの後に送信を開始することができる。図示の例では、ビーコン送信局はSIFSの後にRTSパケットを送信する。そして、その後も、送信されるCTS、データ、ACKの各パケットも同様にSIFSのフレーム間スペースで送信することにより、近隣局に邪魔されず、一連の通信手順を実行することができる。
これに対し、FAP区間では、通信局は、他の周辺局と同様にLIFS+ランダム・バックオフだけ待機してから送信開始する。言い換えれば、ランダムなバックオフにより送信権が均等に与えられることになる。図示の例では、他局のビーコンが送信された後、まずLIFSだけメディア状態を監視し、この間にメディアがクリアすなわち送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行ない、さらにこの間にも送信信号が存在しない場合に、RTSパケットを送信する。なお、RTS信号に起因して送信されるCTS、データ、ACKなどの一連のパケットはSIFSのフレーム間スペースで送信することにより、近隣局に邪魔されず、一連の通信手順を実行することができる。
図9には、伝送フレーム周期(T_SF)の構成を示している。同図に示すように、各通信局からのビーコンの送信に続いて、直前のビーコンを送信した通信局に対してTPPが割り当てられ、当該局だけがSIFSという短いフレーム間スペースで優先的に送信権を得ることができる。
TPP区間が経過するとFAPになり、各通信局が通常のCSMA/CA方式により通信が行なわれる。すなわち、すべての通信局は、LIFS+ランダム・バックオフだけ待機してから送信開始するので送信権が均等に与えられる。そして、ビーコン送信タイミングが隣接する次の通信局からビーコンが送信されることにより、FAPが終わる。その後、同様にビーコン送信局にTPPが与えられた後FAP期間となる、というシーケンスが繰り返される。
なお、図9ではビーコンの送信直後からTPPが開始する例を示したが、これには限定されるものではなく、例えば、ビーコンの送信時刻から相対位置(時刻)でTPPの開始時刻を設定してもよい。
ここで、1チャネル上のフレーム間スペースについてまとめると、各通信局は、ビーコン並びに自局のTPP内でのパケットの送信に関しては、SIFS間隔での送信が許容されることにより高いプライオリティが与えられる。すなわち、通信局は、ビーコンを送信する度に、短いフレーム間スペースで送信開始できるので、優先的にデータを送信する機会が得られることになる。
一方、それ以外のFAPにおいてはLIFS+バックオフの間隔での送信を行なうことが許容される。
また、通信局は、自局のTPP内では送信権を優先的に得ることができるが、この区間でメディアを占有するものではない。すなわち、自局のTPP内でも、他の通信局がLIFS+バックオフの間隔を以って送信を開始することも許容する。例えば、通信局は、ビーコンを送信してTPPを獲得したものの、自局には何も送信するものがない場合で且つ他局が自局宛てに送信したい情報を保持していることを知らない場合には、SIFSのフレーム間スペースで通信動作を開始しない。この結果、ビーコン送信局は、自局のTPPを放棄したこととなる。すると、TPPを与えられていない他の通信局は、LIFS+バックオフあるいはFIFS+バックオフ経過後に、この時間帯でも送信を開始することができる。
図10には、ビーコン送信局がTPPを放棄したときの動作を示している。ビーコン送信局がTPPの放棄によりSIFS間隔で送信を開始しなければ、他局はLIFS+バックオフでパケットの送信を開始することができる。この場合、TPPを与えられていない他の通信局は、LIFS+バックオフあるいはFIFS+バックオフ経過後に、この時間帯でも送信を開始することができる。また、TPPを放棄した場合であっても、ビーコン送信局は、勿論、自局のTPP区間内であれば、通信局は、他局の送信動作が完了した後に、さらにSIFS間隔で優先的に送信を開始することができる。
さらに、他局のTPP内でのパケットの送信に関してはFIFS+バックオフの間隔での送信とし、低いプライオリティが与えられる。IEEE802.11方式においては、常にフレーム間スペースとしてFIFS+バックオフが採られているが、本実施形態の構成によれば、この間隔を詰めることができて、より効果的なパケット伝送が可能となる。
上記では、TPP中の通信局にのみ優先送信権が与えられるという説明を行なったが、TPP中の通信局に呼び出された通信局にも優先送信権を与える。基本的にTPPにおいては、送信を優先するが、自通信局内に送信するものはないが、他局が自局宛てに送信したい情報を保持していることが判っている場合には、その「他局」宛てにページング(Paging)メッセージあるいはポーリング(Polling)メッセージを投げたりしてもよい。
図9に示したようにビーコン送信した直後にTPPが続くという構成を考慮すると、各通信局のビーコン送信タイミングは密集しているよりも伝送フレーム周期内で均等に分散している方が伝送効率上より好ましい。したがって、本実施形態では、基本的に自身が聞こえる範囲でビーコン間隔が最も長い時間帯のほぼ真中でビーコンの送信を開始するようにしている。勿論、各通信局のビーコン送信タイミングを集中して配置し、残りの伝送フレーム周期では受信動作を停止して装置の消費電力を低減させるという利用方法もある。
また、本実施形態では、ビーコン送信局に対して優先的な通信権を与えることによって自律分散的にトラフィックの往来を管理するが(前述)、マルチチャネル環境下では、ビーコン送信局は必ずしもビーコン送信チャネル上でTPPを獲得するとは限らない。すなわち、ビーコン送信局は、優先的に利用するチャネルを受信側の干渉状況に応じて、ビーコン送信チャネルとは異なるトラフィック送信に最適なチャネルへ移行する可能もある。
図11には、ビーコン信号フォーマットの構成例を示している。同図に示すように、ビーコン信号は、当該信号の存在を知らしめるためのプリアンブルに、ヘディング、ペイロード部PSDUが続いている。ヘディング領域において、該パケットがビーコンである旨を示す情報が掲載されている。また、PSDU内にはビーコンで報知したい以下の情報が記載されている。
TX.ADDR:送信局(TX)のMACアドレス
TOIS:TBTTオフセット・インジケータ(TBTT Offset Indication Sequence)
NBOI:近隣ビーコンのオフセット情報(Neighbor Beacon Offset Information)
TIM:トラフィック・インジケーション・マップ(Traffic Indication Map)
PAGE:ページング(Paging)
TOISフィールドでは、TBTTオフセット(上述)を決定するための情報(例えば、擬似ランダム系列)が格納されており、当該ビーコンがビーコン送信タイミングTBTTに対してどれだけのオフセットを以って送信されているかを示す。TBTTオフセットを設けることにより、2台の通信局が伝送フレーム上では同じスロットにビーコン送信タイミングを配置している場合であっても、実際のビーコン送信時刻がずらすことができ、ある伝送フレーム周期にはビーコンが衝突しても、別の伝送フレーム周期では各通信局は互いのビーコンを聞き合う(あるいは、近隣の通信局は双方のビーコンを聞く)、すなわち衝突を認識することができる。
TIMとは、現在この通信局がどの通信局宛てに情報を有しているかの報知情報であり、TIMフィールドを参照することにより、受信局は自分が受信を行なわなければならないことを認識することができる。また、Pagingは、TIMに掲載されている受信局のうち、直後のTPP において送信を予定していることを示すフィールドであり、このフィールドで指定された局はTPPでの受信に備えなければならない。
ビーコンには上記以外のフィールド(ETCフィールド)も用意されている。ETCフィールドは、用意されている各周波数チャネルにおいて干渉を受けている度合いすなわち干渉度レベル(IntLCH)を記述するフィールドを含んでいてもよい。
また、通信局は、これからRTS/CTS手続に基づいてデータ送信を行なおうとする際に、ETCフィールドを使って(あるいはPSDUの専用のフィールドを設けて)データ送信先の通信局とそのビーコン送信チャネルを明記するようにしてもよい。CSMA/CAに基づくランダム・アクセスを行なう際にRTS/CTS手続により通信品質を維持することができるが、この点については後述に譲る。
NBOIフィールドは、伝送フレーム内において自局が受信可能な隣接局のビーコンの位置(受信時刻)を記述した情報である。本実施形態では、図4に示したように1伝送フレーム内で最大16個のビーコンを配置なスロットが用意されていることから、受信できたビーコンの配置に関する情報を16ビット長のビットマップ形式で記述する。すなわち、自局のビーコン送信タイミングTBTTのをNBOIフィールドの先頭ビット(MSB)にマッピングするとともに、その他の各スロットを自局のTBTTを基準とした相対位置(オフセット)に対応するビット位置にそれぞれマッピングする。そして、自局の送信ビーコン並びに受信可能なビーコンの各スロットに割り当てられたビット位置に1を書き込み、それ以外のビット位置は0のままとする。
図12には、利用チャネル数を1つとした場合におけるNBOIの記述例を示している。同図に示す例では、通信局0が「1100,0000,0100,0000」のようなNBOIフィールドを作っている。これは、図4に示したように最大16局を収容可能な各スロットに通信局0〜FがそれぞれTBTTを設定しているような通信環境下で、図3に示した通信局0が、「通信局1並び通信局9からのビーコンが受信可能である」旨を伝えることになる。つまり、受信ビーコンの相対位置に対応するNBOIの各ビットに関し、ビーコンが受信可能である場合にはマーク、受信されてない場合にはスペースを割り当てる。また、MSBが1になっているのは自局がビーコンを送信しているためで、自局がビーコンを送信している時刻に相当する場所もマークする。
各通信局は、あるチャネル上でお互いのビーコン信号を受信すると、その中に含まれるNBOIの記述に基づいて、チャネル上でビーコンの衝突を回避しながら自己のビーコン送信タイミングを配置したり周辺局からのビーコン受信タイミングを検出したりすることができる。
図13には、新規に参入した通信局が周辺局から受信したビーコンから得た各ビーコンのNBOIに基づいて自局のTBTTを設定する様子を示している。
通信局は電源投入後、まずスキャン動作すなわち伝送フレーム長以上にわたり連続して信号受信を試み、周辺局の送信するビーコンの存在確認を行なう。この過程で、周辺局からビーコンが受信されなかった場合には、通信局は適当なタイミングをTBTTとして設定する。一方、周辺局から送信されるビーコンを受信した場合には、周辺局から受信した各ビーコンのNBOIフィールドを当該ビーコンの受信時刻に応じてシフトしながら論理和(OR)をとって参照することにより、最終的にマークされていないビット位置に相当するタイミングの中からビーコン送信タイミングを抽出する。
図13に示す例では、新規に登場した通信局Aに着目し、通信局Aの周辺には通信局0、通信局1、通信局2が存在しているという通信環境を想定している。そして、通信局A は、スキャン動作により伝送フレーム内にこの3つの局0〜2からのビーコンが受信できたとする。
NBOIフィールドは、周辺局のビーコン受信時刻を自局のビーコンに対する相対位置にマッピングしたビットマップ形式で記述される(前述)。そこで、通信局Aでは、周辺局から受信できた3つのビーコンのNBOIフィールドを各ビーコンの受信時刻に応じてシフトして時間軸上でビットの対応位置を揃えた上で、各タイミングのNBOIビットのORをとって参照する。
周辺局のNBOIフィールドを統合して参照した結果、得られている系列が図9中“OR of NBOIs”で示されている「1101,0001,0100,1000」であり、1は伝送フレーム内で既にTBTTが設定されているタイミングの相対位置を、0はTBTTが設定されていないタイミングの相対位置を示している。この系列において、スペース(ゼロ)の最長ランレングスは3であり、候補が2箇所存在していることになる。図13に示す例では通信局Aは、このうち15ビット目を自局ビーコンのTBTTに定めている。
通信局Aは、15ビット目の時刻を自局の正規ビーコンのTBTT(すなわち自局の伝送フレームの先頭)として設定し、ビーコンの送信を開始する。このとき、通信局Aが送信するNBOIフィールドは、ビーコン受信可能な通信局0〜2のビーコンの各受信時刻を、自局の正規ビーコンの送信時刻からの相対位置に相当するビット位置をマークしたビットマップ形式で記載し、図13中の“NBOI for TX (1 Beacon TX)”で示す通りとなる。
本発明はマルチチャネル型の自律分散ネットワークに関するものであり、利用可能な各周波数チャネルについてのビーコン配置を記述したNBOI情報が必要であるが、この点について後述に譲る。
図14には、ある周波数チャネル上において、新規参入局がNBOIの記述に基づいて既存のビーコンとの衝突を回避しながら自己のビーコン送信タイミングを配置する様子を示している。同図の各段では、通信局STA0〜STA2の参入状態を表している。そして、各段の左側には各通信局の配置状態を示し、その右側には各局から送信されるビーコンの配置を示している。
図14上段では、通信局STA0のみが存在している場合を示している。このとき、STA0はビーコン受信を試みるが受信されないため、適当なビーコン送信タイミングを設定して、このタイミングの到来に応答してビーコンの送信を開始することができる。ビーコンは40ミリ秒(伝送フレーム)毎に送信されている。このとき、STA0から送信されるビーコンに記載されているNBOIフィールドのすべてのビットが0である。
図14中段には、通信局STA0の通信範囲内でSTA1が参入してきた様子を示している。STA1は、ビーコンの受信を試みると、STA0のビーコンが受信される。さらにSTA0のビーコンのNBOIフィールドは自局の送信タイミングを示すビット以外のビットはすべて0であることから、上述した処理手順に従ってSTA0のビーコン間隔のほぼ真中に自己のビーコン送信タイミングを設定する。
STA1が送信するビーコンのNBOIフィールドは、自局の送信タイミングを示すビットとSTA0からのビーコン受信タイミングを示すビットに1が設定され、それ以外のビットはすべて0である。また、STA0も、STA1からのビーコンを認識すると、NBOIフィールドの該当するビット位置に1を設定する。
図14の最下段には、さらにその後、通信局STA1の通信範囲にSTA2が参入してきた様子を示している。図示の例では、STA0はSTA2にとって隠れ端末となっている。このため、STA2は、STA1がSTA0からのビーコンを受信していることを認識できず、右側に示すように、STA0と同じタイミングでビーコンを送信し衝突が生じてしまう可能性がある。
NBOIフィールドはこの現象を回避するために用いられる。まず、STA1のビーコンのNBOIフィールドは自局の送信タイミングを示すビットに加え、STA0がビーコンを送信しているタイミングを示すビットにも1が設定されている。そこで、STA2は、隠れ端末であるSTA0が送信するビーコンを直接受信はできないが、STA1から受信したビーコンに基づいてSTA0のビーコン送信タイミングを認識し、このタイミングでのビーコン送信を避ける。
そして、図15に示すように、このときSTA2は、STA0とSTA1のビーコン間隔のほぼ真中にビーコン送信タイミングを定める。勿論、STA2の送信ビーコン中のNBOIでは、STA2とSTA1のビーコン送信タイミングを示すビットを1に設定する。このようなNBOIフィールドの記述に基づくビーコンの衝突回避機能により、隠れ端末すなわち2つ先の隣接局のビーコン位置を把握しビーコンの衝突を回避することができる。
C.マルチチャネル環境下でのアクセス動作
上述したように、自律分散型の無線通信システムでは、各通信局は伝送フレーム周期内でビーコン情報を報知するとともに、他局からのビーコン信号のスキャン動作を行なうことにより1チャネル上でのネットワーク構成を認識することができる。
ところが、本実施形態に係るマルチチャネル自律分散型ネットワークの場合、図4に示したような伝送フレームが周波数軸上に利用チャネル数分だけ配置された構成となっている(図16を参照のこと)。また、本実施形態では、各通信局は、単一のアンテナを備え、送受信をともに並行しては行なえず、且つ、同時刻に複数の周波数チャネルをハンドルすることはできないということを想定している(前述)。このため、通信局は他の通信のビーコン送信タイミングにおいて同じチャネル上に移行していなければビーコンを受信することはできず、すべてのチャネル上においてネットワーク構成を把握することは困難である。
また、通信局が自局にとって最適なチャネルであっても、通信相手となる他局にとっては干渉を受けているチャネルである可能性がある。例えば、一方の局のビーコン送信チャネルが他方の局では干渉チャネル若しくは通信品質が劣化し使用不能なチャネルであった場合には、これらの通信局は、仮に他のチャネル上では通信し合うことができたとしても、お互いの存在を永遠に認識することができないというデッドロックの状態に陥ってしまう。
そこで、本実施形態では、各通信局が定期的に送信するビーコン信号に自局が受けている干渉のレベル情報を載せて送信し、周辺局から受信したビーコン情報に基づいて干渉状況を把握した上で通信チャネルを決定するようになっている。例えば、周辺通信局が酷く干渉を受けているチャネルを通信チャネルとして利用することを避けることにより、自律分散的に通信チャネルをコントロールするようにしている。
ここで、図17に示すような干渉環境下で2台以上の通信局が配置されている状態について考察してみる。
同図に示す無線通信システムでは、チャネル#1〜チャネル#3の3つのチャネルが利用可能チャネルとして用意されているが、空間上の左右に、チャネル#1、チャネル#2、並びにチャネル#3が被干渉チャネルとなる干渉局かそれぞれ配置されている。
この空間の略中央に配置されている通信局#2、並びに通信局#3では、すべてのチャネルでビーコンを聞き取ることができる。また、通信局#1ではチャネル#1及びチャネル#2が被干渉チャネルとなっており、通信局#4ではチャネル#3が被干渉チャネルとなっているが、最低レートで送信されるビーコン信号は受信可能な干渉レベルである。
通信局#2は、各局からのビーコンを受信して、各局におけるチャネル毎の干渉情報を取得することができる。そして、すべての通信局がビーコンを送信することができるチャネル#3を利用して、自局のビーコン信号の送信を行なう。
また、通信局#2は、ビーコン送信チャネル以外のチャネルを用いてデータ送信動作を行なうようにしてもよい。例えば、通信局#4宛てにトラフィックを送信するときには、チャネル#3を利用してビーコンを送信した後、通信局#4において干渉レベルの低いチャネル#1又はチャネル#2へ移行して、トラフィックの送信を開始する。
このように、本実施形態に係るマルチチャネル自律分散型無線ネットワークでは、通信局は、新規参入時やリフレッシュ時に、ビーコン信号に記載されている各チャネルの干渉情報を基に、なるべく多くの通信局が受信できるチャネルをビーコン送信チャネルに選択する。また、ビーコンを受信できない周辺局がある場合には、ビーコン送信チャネルの変更を試みる。
このように、なるべく多くの通信局が受信できるチャネルをビーコン送信チャネルとしビーコンの送信動作を行なうことにより、より多くの通信局がお互いのビーコンを受信してその存在を認識することができ、デッドロックの状態に陥ることを極力回避することができる。
また、各通信局は、送信データがなくビーコンの受信だけを行なっている期間中はチャネルの切り替えが不要となる。通信局は、自局が受けている干渉が許容レベルであれば、なるべく周辺通信局と同一の通信チャネルを利用することにより、チャネル移行のオーバーヘッドを軽減することができる。チャネル移行にはハードウェア動作上約300マイクロ秒程度の遅延時間を要することから、チャネル移行の回数を削減することにより、通信容量を増大することができる。
また、通信局は、例えば自局が広帯域を必要とするかどうかに応じてビーコン送信チャネルを決定するようにしてもよい。例えば、自局が広帯域を必要とする場合には、なるべく他の通信局が利用していなく自身にとって干渉レベルの低いチャネルを選択し、ビーコンの送信を開始する。自分が広帯域を送信する側でも受信する側でも同様の動作を行なう。
他方、広帯域が必要でない通信局は、チャネル変更時のオーバーヘッドなどを考慮すると、周辺局となるべく同一チャネルでビーコンを送信した方がよいので、最も多くの通信局がビーコンを送信しているチャネル(最多チャネル)に注目する。
その最多チャネルで、自分を含む周辺局が大きな干渉を受けていない場合は、そのチャネルでビーコンの送信を開始する。また、最低レートで送信しているビーコンが受信できないほどの大きな干渉を受けている通信局が複数いる場合は、平均干渉レベルが一番低くなるチャネルを選択し、そこでビーコンを送信開始するようにする。
各通信局はそれぞれ定期的に、この動作を行なうことによって、常に通信チャネルを最適なものにリフレッシュしていく。
図18には、本実施形態に係るマルチチャネル自律分散型無線ネットワークにおいて、通信局がビーコン送信チャネルを選択するための動作手順をフローチャートの形式で示している。このような動作は、実際には、無線通信装置内の中央制御部103が情報記憶部113に格納されている実行命令プログラムを実行するという形態で実現される。
まず、所定の手順に従い各チャネル上でスキャン動作を行ない、周辺局から送信されるビーコン信号の受信を試みる(ステップS1)。
ここで、周辺局のビーコン信号を発見することができた場合には(ステップS2)、次いで、自局が広帯域を必要とするかどうかを判別する(ステップS3)。広帯域が必要かどうかは、自局が送信する側及び受信する側の双方の場合を考慮して判断する。
自局が広帯域を必要としない場合には、周辺局の中で最も多くの通信局がビーコンを送信しているチャネル(最多チャネル)に着目し(ステップS4)、その最多チャネルで自分を含む周辺局が大きな干渉を受けているかどうかをさらに判別する(ステップS5)。
ここで、最多チャネルで自局を含む周辺局が大きな干渉を受けていない場合には、その最多チャネルを選択して(ステップS6)、そのチャネル上でビーコンの送信を開始する(ステップS7)。
また、最多チャネルで大きな干渉を受けている通信局が複数ある場合には、平均干渉レベルが最も低くなるチャネルを選択し(ステップS10)、そこでビーコンを送信開始するようにする(ステップS7)。
また、ステップS3において、自局が広帯域の通信容量を必要とすると判断した場合には、なるべく他の通信局が利用していなく自局にとって干渉レベルの低いチャネルを選択し(ステップS9)、ビーコンの送信を開始する(ステップS7)。自分が広帯域を送信する側でも受信する側でも同様の動作を行なう。
また、ステップS2において、周辺局からのビーコン信号を発見しなかった場合には、自局にとって最適なチャネル、具体的には自局にとって干渉レベルが最低となるチャネルをビーコン送信チャネルとして選択し(ステップS8)、ビーコンの送信を開始する(ステップS7)。
そして、通信局は、定期的リフレッシュ時刻が到来すると(ステップS11)、ステップS1に戻り、ビーコン送信チャネルの選択動作を繰り返し行なう。このように、通信局は定期的に上述した動作を行なうことによって、常に通信チャネルを最適なものにリフレッシュしていく。
次に、本実施形態に係るマルチチャネル自律分散型の無線ネットワークにおいて、通信局が時系列的にチャネル変更を行なう動作について説明する。
本実施形態に係る自律分散型の無線通信システムでは、各チャネル上においてビーコン送信タイミング直後に配置される優先送信期間(TPP)、並びにTPPに続くFAPの各期間では、CSMA/CAに基づくランダム・アクセスが行なう。このとき、フレーム間スペースにより優先送信権を割り当てるとともに、衝突を回避し通信品質を向上させる手段としてRTS/CTS方式を採用することができる(例えば、図7並びに図8を参照のこと)。
RTS/CTS方式では、正味の情報の送信に先立ち、送信元通信局はRTS(Request to Send:送信要求)を送信し、受信先通信局がこのRTSを受信してデータを受信可能であれば、その応答としてCTS(Clear to Send:受信準備完了)を返す。そして、RTS/CTSの情報交換により送受信局間でコネクションが確立した後にデータ伝送を実行する。
ここで、RTS/CTSの情報交換を利用した一般的なデータ送受信シーケンスについて図19を参照しながら説明する。但し、同図に示す例は、特定の1チャネル上で送信元通信局#1から受信先通信局#2へデータ伝送が行なわれる場合のシーケンスである。また、通信局#0は通信局#2にとって隠れ端末であり、通信局#3は通信局#1にとって隠れ端末となる。
まず、通信局#1から通信局#2へデータを送信するに先立ち、通信局#1においてチャネルが空き状態であることを検出した後に、所定のプリアンブル信号P(131)と、RTS信号(132)を送信する。
ここで、RTS信号には、CTSを受信するまでの時間情報が記載され、このRTS信号を受信できた周辺局は、その期間は信号の送信を停止することで衝突回避動作を行なう。図示の例では、通信局#0は通信局#1のRTS信号を受信したことによって、その受信時刻情報から、自己からの送信を控える時間(送信待機期間)を設定する動作を行なう。一方、通信局#3は隠れ端末であるからRTS信号を受信することはできない。
さらに、通信局#2はRTS信号を受信できて、なお且つその後のデータ受信が可能であれば、所定のプリアンブル信号P(133)と、CTS信号(134)を返信する。
CTS信号には、データの受信が終了するまでの時間情報が記載され、このCTS信号を受信できた周辺局は、その期間は信号の送信を停止することで衝突回避動作を行なう。図示の例では、通信局#3は通信局#2のCTS信号を受信したことによって、その受信時刻情報から、自己からの送信を控える時間(送信待機期間)を設定する動作を行なう。
このように送受信局の一方にとって隠れ端末となる通信局であっても、RTS又はCTS信号のうちいずれかを受信することによって所定時間だけ送信動作を行なわないことにより、干渉が回避され、通信品質が維持される。
そして、このCTS信号を受信できた通信局#1では、CTS信号で記載された時間にわたり、所定のプリアンブル信号P(135)とデータData(136)の送信処理を行なうとともに、通信局#2では、同時にデータData(136)の受信動作を行なう。
このとき、通信局#0では、通信局#1からのデータ通信が行なわれることを、データData(136)のヘッダ情報Head(図示しない)から把握し、このデータ通信持続時間にわたり、通信局#1宛ての送信が行なわない制御を行なうようにしても良い。
この他に必要に応じて、データの受信が正しく行なわれたか否かをACK情報(図示しない)として、無線通信装置#2から無線通信装置#1に返送するようにしても良い。
次いで、本実施形態に係るマルチチャネル自律分散型の無線ネットワークへのRTS/CTS方式の適用例について、図20を参照しながら説明する。
既に述べたように、本実施形態では、データ送信元の通信局は、データ送信先の通信局のビーコン送信チャネルに移行してデータ送信動作を行なう。このため、データ送信先の通信局にとって隠れ端末となる周辺局が移行先のチャネルが干渉チャネルとなっている場合には、移行先のチャネルで送信するRTS信号を聞きとれないという、マルチチャネル固有の隠れ端末問題が生じる。
そこで、データ送信元の通信局は、データ送信先の通信局からは隠れ端末となる通信局が存在することを想定して、RTS信号の送信に先駆けて、自局のビーコン送信チャネル上で、RTS信号とマルチプレクスしたビーコン信号(データ通信を行なっているチャネルの情報を含んだビーコン信号)を送信する。
このビーコン信号は擬似的にRTS信号としての役割を果たす。隠れ端末は、ビーコン送信チャネル上でRTS信号がマルチプレクスされたビーコン(データ通信を行なっているチャネル情報を含むビーコン)を受信したことに応答して、所定時間だけデータ送信動作を差し控えることにより、干渉を回避することができる。
その後、データ送信元の通信局は、データ送信先の通信局のビーコン送信チャネルに移行して送信要求パケットRTSを送信し、データ送信先の通信局から確認通知パケットCTSを受信したことに応答してデータ送信を開始する。
図21には、本実施形態に係るマルチチャネル自律分散型の無線ネットワークへRTS/CTS方式を適用した他の例を示している。
本実施形態では、データ送信元の通信局は、データ送信先の通信局にとって干渉レベルの低いチャネルに移行してデータ送信動作を行なうことに伴う隠れ端末問題を回避するために、RTS信号の送信に先駆けて、自局のビーコン送信チャネル上で、RTS信号とマルチプレクスしたビーコン(データ通信を行なっているチャネル情報を含むビーコン)とともに送信する。
このとき、データ送信元のビーコン送信チャネルとデータ送信先の通信局のビーコン送信チャネルが一致する場合には、RTS信号マルチプレクスしたビーコンを擬似的なRTS信号そのものであるとみなす。
このとき、データ送信元のビーコン送信チャネルとデータ伝送を行なうチャネルが一致する場合には、RTS信号マルチプレクスしたビーコン(データ通信を行なっているチャネル情報を含むビーコン)をRTS信号そのものであるとみなす。
また、データ送信先の通信局は、RTS信号をマルチプレクスしたビーコン(データ通信を行なっているチャネル情報を含むビーコン)を受信したことに応答して、通常のRTS信号の到来を待つことなく、CTS信号を返すことにより、データ送信を開始することができる。
このようにして、RTS信号の送信手続(RTS信号の再送)を省略することにより、マルチチャネルにおけるRTS/CTS手続のオーバーヘッドを軽減することができる。
図22〜図24には、本実施形態に係るマルチパス自律分散型の無線ネットワークにおいて、無線通信装置100が通信局として自律動作するための処理手順をフローチャートの形式で示している。但し、無線通信局100は、図示しないスキャン動作などにより、周辺局のビーコン送信チャネルやビーコン送信タイミングなどの近隣局情報を既に獲得しているものとする。図示の通り、通信局は、送信要求に依存しない定常動作モード、ビーコン送信をトリガとした送信開始モード、並びに送信継続モードを持つ。このような処理手順は、実際には、中央制御部103が情報記憶部113に格納されている実行命令プログラムを実行するという形態で実現される。
定常動作モード下では、ビーコン送信タイミングが到来するまでの間、周辺局のビーコン送信タイミングが到来すると(ステップS31)、その周辺局のビーコン送信チャネルへ移行して、ビーコンの受信を行なう(ステップS32)。
そして、自局のビーコン送信タイミングが到来すると(ステップS21)、通信プロトコルの上位層(例えば、インターフェース101経由で接続される外部機器)からの送信要求があるかどうかをチェックする(ステップS22)。送信要求がない場合には、自己に最適となるビーコン送信チャネル上でビーコンの送信を行なう(ステップS33)。
一方、上位層からの送信要求がある場合には、RTS/CTS手続のために、自局のビーコン送信チャネル上で、RTS信号をマルチプレクスしたビーコン(データ通信を行なっているチャネル情報を含むビーコン)を所定のビーコン送信タイミングで送信する(ステップS23)。
次いで、送信開始モードに遷移し、自局のビーコン送信チャネルとデータ送信先の通信局のビーコン送信チャネル(すなわちデータ伝送に用いられるチャネル)が一致するかどうかをチェックする(ステップS24)。
ここで、互いのビーコン送信チャネルが一致しない場合には、データ送信先の通信局のビーコン送信チャネルへ移行してから(ステップS34)、RTS信号を送信する(ステップS35)。一方、互いのビーコン送信チャネルが一致する場合には、RTS信号をマルチプレクスしたビーコン(データ通信を行なっているチャネル情報を含むビーコン)をRTS信号そのものであるとみなし、正規のRTS信号の送信並びにチャネル移行動作が省略される。そして、データ送信先の通信局からCTS信号されるまで待機する(ステップS25)。
ここで、所定時間内にCTS信号を受信することができなかった場合には(ステップS26)、ステップS35へ進んで、RTS信号の再送を行なう。
一方、所定時間内にCTS信号を無事受信することができた場合には、上位層から要求されているデータ送信を実行する(ステップS27)。そして、上位層からの送信要求がさらにあるかどうかをチェックする(ステップS28)。送信要求が完了した場合には、ステップS21に戻り、定常動作モード下でのビーコン送受信動作を行なう。
また、送信要求が継続する場合には、送信継続モードに遷移する。そして、自局のビーコン送信タイミングまで未だ余裕があるかどうかをチェックする(ステップS29)。余裕がない場合には、ステップS21に戻り、定常動作モード下でのビーコン送信動作を行なう。
自局のビーコン送信タイミングまで未だ余裕がある場合には、さらに周辺局のビーコン送信タイミングまで未だ余裕があるかどうかをチェックする(ステップS30)。
自局並びに周辺局のビーコン送信タイミングまで余裕がある場合には(ステップS30)、ステップS35へ進んで、RTS信号を送信し、データ通信動作を継続する。
周辺局のビーコン送信タイミングまで余裕がない場合には、現在利用チャネルと当該周辺局のビーコン送信チャネルが異なる場合はチャンネル移行し(ステップS36、S37)、ビーコンを受信する(ステップS38)。
そして、周辺局のビーコンの受信を行なった後、移行先である周辺局のビーコン送信チャネルと、自局がこれまでデータ送信に利用していた利用チャネルとが一致するかどうかをチェックする(ステップS39)。互いのビーコン送信チャネルが一致しない場合には、ステップS34へ進み、データ送信先の通信局のビーコン送信チャネルへ移行してから、RTS信号を送信し(ステップS35)、データ通信動作を再開する。また、互いのビーコン送信チャネルが一致する場合には、ビーコン送信局の優先送信区間となるので、通信局はデータ通信動作を再開することはできない。この場合はステップS21に戻り、定常動作モード下でのビーコン送信動作を行なう。
図18に示したような手順に従がってビーコン送信チャネルを設定することにより、マルチチャネル方式の自律分散ネットワークで、通信局はより最適なチャネルを自局のビーコン送信チャネルに設定することができる。また、図22〜図24に示した通信動作手順に従えば、通信局は、所定の伝送フレーム周期でビーコンを送信して周辺局の存在把握やネットワーク状態の報知を行なうとともに、周辺局のビーコン送信タイミングに合わせてビーコン送信チャネルに移行してビーコンの受信動作を行ないながら、RTS/CTS方式に従ったデータ通信を行なうことができる。
ここで、チャネル切り替えには、ハードウェア動作上約300マイクロ秒程度の時間を要する。このため、データ通信中の通信局が、他局のビーコンを受信するためにデータ通信を中断し、チャネル移行並びにビーコン受信を行なった後、元の利用チャネルに移行してデータ通信を再開する場合、オーバーヘッドが大きくなってしまう。
図25には、データ通信中の通信局が、他局のビーコンを受信するためにデータ通信を中断し、チャネル移行並びにビーコン受信を行なった後、元のチャネルに移行してデータ通信を再開する動作例を示している。
同図に示すように、チャネルCH2上では、データ送信元である通信局#2からRTSパケットを送信しデータ送信先である通信局#3からCTSパケットが戻されたことに応答して、通信局#2はデータ・パケットの伝送動作を開始する。
ここで、別のチャネルCH3上で、周辺局#1によるビーコン送信タイミングTBTTが近づくと、通信局#2(並びに通信局#3)は、送信データが継続するかどうかに拘らず、チャネル移行時間T_CHCHを費やしてチャネルCH3へ移行し、ビーコンを受信する。
ビーコン送信局である通信局#1は優先送信権を獲得し、TPP区間内にチャネルCH3上でRTS/CTS手続きに従って優先的なデータ送信動作を開始する。
これに対し、通信局#2(並びに通信局#3)は、RTSパケットの受信により、チャネルCH3で優先送信動作が行なわれ、自局のデータ通信チャネルCH2ではデータ通信を継続できることを認識すると、チャネル移行時間T_CHCHを費やしてチャネルCH2へ戻る。そして、通信局#2からRTSパケットを送信し通信局#3からCTSパケットが戻されたことに応答して、通信局#2はデータ・パケットの伝送動作を再開する。
図25に示すように、マルチチャネル通信環境では、周辺局のビーコン受信に伴い、データ通信のオーバーヘッドが増大する。他方、データ通信の相手ではない周辺局からのビーコンは必ずしも毎回受信する必要はないという事態も想定される。
そこで、上述した通信動作手順の変形例として、通信局は、他局のビーコン送信タイミングが近づいていることを把握した場合、当該ビーコン送信局と通信を行なう必要があるかどうかを判断した上で、ビーコンを受信する必要がなく、且つ現在利用しているチャネルがビーコン送信チャネルとは相違する場合には、ビーコンの受信動作を省略することを提案する。
このように、必要のないビーコンの受信動作を省略することにより、ビーコン移行に要する時間や装置の消費電力を省略し、通信容量を増大することができる。
ここで、本実施形態では、ビーコン送信局に対して優先的な通信権を与えることによって、自律分散的にトラフィックの往来を管理するが(前述)、ビーコン送信局は必ずしもビーコン送信チャネル上でTPPを獲得するとは限らない。すなわち、ビーコン送信局は、優先的に利用するチャネルを受信側の干渉状況に応じて、ビーコン送信チャネルとは異なるトラフィック送信に最適なチャネルへ移行する可能もある。
このため、通信局がビーコン受信動作を省略すると、このようなチャネル移行動作を認識することができなくなる、という問題がある。
そこで、通信局は、ビーコン受信動作を省略した場合には、ビーコン送信タイミングを基にRTS、CTS信号の送信タイミングを推定し、これらのタイミングだけ現在利用しているチャネルにおいて受信動作を行ない、ビーコン送信局が現在利用しているチャネルに移行してきたかどうかを検知する。
そして、通信局は、RTS、CTS信号の送信タイミングでビーコン送信局が現在利用しているチャネルに移行してきたことを検知した場合には、自局のデータ通信動作を差し控えることにより、通信の衝突を回避する。一方、検知しなかった場合には、ビーコン送信局が別のチャネル上で優先送信権を獲得していると認識し、現在利用しているチャネル上での自局のデータ通信動作を継続して行なう。
このように、他局のビーコンの受信動作を省略した場合には、ビーコン送信局がビーコン送信により獲得した優先送信期間に応じて受信動作を行なうことにより、不要なチャネル移行を行なうことなく、且つ通信の衝突を回避することができる。
図26には、データ通信中の通信局が、他局のビーコン受信を省略するための動作例を示している。
同図に示すように、チャネルCH2上では、データ送信元である通信局#2からRTSパケットを送信しデータ送信先である通信局#3からCTSパケットが戻されたことに応答して、通信局#2はデータ・パケットの伝送動作を開始する。
ここで、別のチャネルCH3上で、周辺局#1によるビーコン送信タイミングTBTTが近づくと、通信局#2(並びに通信局#3)は、周辺局#1からのビーコンを受信する必要があるかどうかを判断する。そして、ビーコンを受信する必要がなく、且つ現在利用しているチャネルCH2がビーコン送信チャネルCH3とは相違する場合には、ビーコンの受信動作を省略する。
そして、通信局#2(並びに通信局#3)は、チャネル移行時間T_CHCHに相当する期間だけさらにデータ伝送動作を継続した後、周辺局#1によるビーコン送信タイミングTBTT以降、RTS、CTS信号の送信タイミングを推定し、これらのタイミングだけ現在利用しているチャネルCH2において受信動作を行ない、ビーコン送信局が現在利用しているチャネルに移行してきたかどうかを検知する。
同図に示す例では、ビーコン送信局である通信局#1は、ビーコン送信チャネルCH3とは異なるトラフィック送信に最適なチャネルCH4へ移行し、獲得した優先送信権に基づき、TPP区間内にチャネルCH4上でRTS/CTS手続きに従って優先的なデータ送信動作を開始する。
一方、通信局#2(並びに通信局#3)は、現在利用チャネルCH2上では、RTS、CTSパケットの到来が推定される待機期間中に検知しなかったので、ビーコン送信局#1が別のチャネル上で優先送信権を獲得していると認識する。この場合、現在利用しているチャネル上で自局のデータ通信動作を再開することができる。チャネル移行時間T_CHCHを費やすことなく、待機期間の終了とともにデータ通信を再開することができるという点を十分理解されたい。
通信局が図26に示すような通信動作を行なう場合、送信継続状態における通信動作手順は、図24ではなく、図27へ示すフローチャートへと修正される。
ステップS27においてデータ送信を実行した後、上位層からの送信要求が継続する場合には(ステップS28)、送信継続モードに遷移する。そして、自局のビーコン送信タイミングまで未だ余裕があるかどうかをチェックする(ステップS29)。余裕がない場合には、ステップS21に戻り、定常動作モード下でのビーコン送信動作を行なう。
自局のビーコン送信タイミングまで未だ余裕がある場合には、さらに周辺局のビーコン送信タイミングまで未だ余裕があるかどうかをチェックする(ステップS30)。
自局並びに周辺局のビーコン送信タイミングまで余裕がある場合には(ステップS30)、ステップS35へ進んで、RTS信号を送信し、データ通信動作を継続する。
一方、周辺局のビーコン送信タイミングまで余裕がない(すなわち、他局のビーコン送信タイミングが近づいていることを把握した)場合には、さらに現在利用チャネルと当該周辺局のビーコン送信チャネルが同じであるかどうかを判別する(ステップS40)。
現在利用チャネルと当該周辺局のビーコン送信チャネルが同じである場合には、このチャネル上で、ビーコンを受信する(ステップS38)。
これに対し、現在利用チャネルと当該周辺局のビーコン送信チャネルが異なる場合には(ステップS40)、当該ビーコン送信局と通信を行なう必要があるかどうかをさらに判断する(ステップS41)。
ここで、ビーコンを受信する必要があると判断された場合には、当該周辺局のビーコン送信チャネルが異なる場合はチャンネル移行し(ステップS37)、ビーコンを受信する(ステップS38)。
そして、ステップS38において周辺局のビーコンの受信を行なった後、移行先である周辺局のビーコン送信チャネルと、自局がこれまでデータ送信に利用していた利用チャネルは一致するかどうかをチェックする(ステップS39)。互いのビーコン送信チャネルが一致しない場合には、ステップS34へ進み、データ送信先の通信局のビーコン送信チャネルへ移行してから、RTS信号を送信し(ステップS35)、データ通信動作を再開する。また、互いのビーコン送信チャネルが一致する場合には、ビーコン送信局の優先送信区間となるので、データ通信動作を再開することはできない。この場合はステップS21に戻り、定常動作モード下でのビーコン送信動作を行なう。
一方、ステップS41において、ビーコンを受信する必要がないと判断された場合には、且つ現在利用しているチャネルがビーコン送信チャネルとは相違する場合には、ビーコンの受信動作を省略する。このように、必要のないビーコンの受信動作を省略することにより、ビーコン移行に要する時間や装置の消費電力を省略し、通信容量を増大することができる。
ここで、ビーコン送信局は必ずしもビーコン送信チャネル上でTPPを獲得するとは限らない。すなわち、ビーコン送信局が自局の現在利用チャネルに移行して優先送信区間TPPを獲得することもあるので、ビーコンの受信動作を省略してデータ通信を継続して行なうと、通信が衝突する可能性がある。
そこで、通信局は、ビーコン受信動作を省略した場合には、ビーコン送信タイミングを基にRTS、CTS信号の送信タイミングを推定し、これらのタイミングだけ現在利用しているチャネルにおいて受信動作を行ない(ステップS42)、ビーコン送信局が現在利用しているチャネルに移行してきたかどうかを検知する。
そして、RTS、CTS信号の送信タイミングでRTS、CTS信号を受信した場合には(ステップS43)、ビーコン送信局が現在利用しているチャネルに移行してきたことを認識し、自局のデータ通信動作を中断することにより(ステップS44)、通信の衝突を回避する。この場合、ステップS21に戻り、定常動作モード下でのビーコン送信動作を行なう。
一方、通信局は、RTS、CTS信号の送信タイミングでRTS、CTS信号を受信しなかった場合には(ステップS43)、ビーコン送信局が別のチャネル上で優先送信権を獲得していると認識する。この場合、ステップS35に戻り、RTS信号を送信することにより、現在利用しているチャネル上での自局のデータ通信動作を継続して行なう。
[追補]
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、冒頭に記載した特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。