JP4262358B2 - 炭素繊維強化プラスチック複合材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、炭素繊維強化プラスチック複合材に関し、十分な品質を確保しつつその生産性や経済性を向上させる技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
セメントモルタルやコンクリートなどのコンクリート補強材としては、従来から鉄筋や金網などの鉄材が用いられている。しかしながら、鉄材は重量物であるため、取り扱いが不便であり、コンクリートの埋設深さが浅い場合や海岸付近などの塩分の多い地域で用いる場合には、しばしばその耐食性が問題になる。
【0003】
一方、最近ではアラミド繊維やカーボン繊維(炭素繊維)などの長繊維の束を熱硬化性樹脂で結着した芯材の周囲を熱可塑性樹脂で被覆してなる、繊維強化プラスチック複合材(以下、FRP複合材と称する)が注目されている。このFRP複合材は、前述の鉄材に比べ軽くて扱いやすく、強度や耐食性等についても優れた性能を有し、プレストレストコンクリート用の緊張材(PC緊張材)、NOMST(Novel Material Shield-cuttable Tunnel-wall system)補強筋、トンネル工事用のロックボルト、法面や地盤補強用のアースアンカーなどの様々な分野で既に実用化されている。
【0004】
ところで、前記カーボン繊維は、アラミド繊維などの他の繊維などに比べ、熱硬化性樹脂(例えば、一部のビニルエステル樹脂)との接着性が悪く、硬化時の収縮・硬化発熱等によりクラックを生じやすいといった問題があるものの、低比重・高強度・高弾性率・耐アルカリ性といった多くの利点を有するため、特に最近では、カーボン長繊維を補強繊維として用いる炭素繊維強化プラスチック複合材(以下、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)複合材と称する)が主流になりつつある。
【0005】
このCFRP複合材の典型的な製造工程を示せば、つぎの▲1▼〜▲4▼のようである。すなわち、
▲1▼カーボン長繊維の束に耐アルカリ性のスチレン含有ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂(母材となるマトリックス樹脂に、反応速度の増大や品質の改善を図る等の目的で触媒を添加したもの)を含浸し、これを賦形ノズルに通過させて所定の断面形状に成形してCFRP芯材とする[成形工程]。
▲2▼このCFRP芯材をクロスヘッドダイス等に通過させ、その表面を熱可塑性樹脂で被覆する[被覆工程]。
▲3▼被覆したCFRP芯材を直ちに室温水を満たした冷却槽に浸して所定温度まで冷却し、これを引取装置により所定温度(前記熱硬化性樹脂の全体をまんべんなく硬化させ、前記熱可塑性樹脂とCFRP芯材とを強固に接着するにはCFRP芯材を硬化に適した温度(例えば、熱可塑性樹脂としてポリサルホン樹脂もしくは変性ポリサルホン樹脂を用いた場合には100℃程度))の熱湯を満たした硬化槽に導入し、CFRP芯材に含浸されている前記熱硬化性樹脂を加熱・硬化させる[硬化工程]。
▲4▼最後に、▲2▼で被覆した樹脂の外表面にエンボス加工などにより凹凸部を形成[凹凸形成工程]し、目的とするCFRP複合材を得る。尚、前記凹凸の高低差は、通常、0.3〜1mm程度に設定され、この凹凸部のアンカー効果によりコンクリートやモルタルとCFRP複合材との間の接着強度を増大させたり、必要強度に調節したりすることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記被覆工程▲2▼における前記熱可塑性樹脂は300℃程度の高温で被覆されるため、この熱が前記熱硬化性樹脂の硬化具合に影響を与えるおそれがある。
【0007】
この熱の影響を抑える方法としては、前記被覆工程▲2▼の後、引取速度を増大させてCFRP芯材をできるだけ迅速に冷却槽に導入することが考えられるが、逆に引取速度を増大させるとCFRP芯材が前記硬化槽に導入されている時間も短くなり、CFRP芯材に含浸されている前記熱硬化性樹脂を十分に加熱・硬化させることができなくなる。
【0008】
そこで、引取速度を増大させた場合には、硬化槽を延長するか、もしくは、硬化槽の温度を高めに設定して熱硬化性樹脂の反応速度を増大させるなどの工夫が必要になるが、硬化槽をむやみに延長すれば限られた工場スペースの有効利用が図れないばかりでなく(例えば、BPO過酸化物硬化系では100℃の熱湯硬化により1m/minで硬化させるためには8mの硬化槽が必要である)、余計な設備投資も必要になる。また、硬化槽の温度をむやみに上げれば、熱硬化性樹脂に添加された触媒成分の分解が速すぎて、かえって硬化度が低下してしまうことがある。また、前記熱硬化性樹脂に含まれるスチレン成分の蒸発により質の低下をまねくおそれもある。さらに、被覆材としてポリサルホン樹脂を使用した場合には、硬化温度が高いと、ポリサルホン樹脂が収縮してしまうおそれもある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、引取速度を増大させても硬化槽の延長や温度設定の変更といった設備や工程の変更をすることなく、CFRP芯材に含浸されている熱硬化性樹脂を十分に加熱・硬化させることができ、炭素繊維本来の強度が十分に発揮され品質も優れる炭素繊維強化プラスチック複合材を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するための、本発明の請求項1に記載の発明は、炭素繊維強化プラスチック複合材であって、略一方向に配列された長繊維状の炭素繊維の束をJIS高温硬化特性試験(測定温度100℃)における最少硬化時間が3.5分以下である、ウレタンアクリレート樹脂もしくはフェノールノボラック型ビニルエステル樹脂からなる熱硬化性樹脂で結着してなる芯部に、熱可塑性樹脂が被覆されてなることとする。
【0011】
すなわち、熱硬化性樹脂の硬化時間が3.5分以下と短いため、引取速度を増大させても硬化槽の延長や温度設定の変更といった設備や工程の変更をすることなく、CFRP芯材に含浸されている熱硬化性樹脂を十分に加熱・硬化させることができる。また、硬化槽の温度を上げる必要がないので、熱硬化性樹脂に添加された触媒成分の分解が速すぎて、却って硬化度が低下してしまうようなことがなく、また、前記熱硬化性樹脂に含まれるスチレン成分の蒸発により質の低下をまねくようなこともない。さらに、被覆材としてポリサルホン樹脂を使用した場合であっても、硬化温度が100℃を超えないのでこれが収縮してしまうことはない。
【0013】
また、本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック複合材であって、前記熱可塑性樹脂が、ジフェニルサルフォンとビスフェノールAとの共重合体からなるポリサルホン樹脂であることとする。
【0014】
また、本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック複合材であって、前記熱可塑性樹脂が、ポリサルホンとスチレン系樹脂との変性ポリサルホン樹脂でかつその熱変形温度140℃以上のものであることとする。
【0015】
また、本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック複合材であって、前記熱可塑性樹脂の表面に所定深さの凹凸が形成されてなることとする。
【0016】
この凹凸部のアンカー効果により、コンクリートやモルタルと炭素繊維強化プラスチック複合材との間の接着強度を増大させたり、必要な強度に調節したりすることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
===CFRP複合材の作成===
以下の実施例1〜3および比較例1〜2に示すCFRP複合材を試作した。
【0018】
<実施例1>
▲1▼炭素繊維(東レ株式会社製「トレカT−700SC(登録商標)24K」)50本を一方向に引き揃えた長繊維を、熱硬化性樹脂を満たした含浸槽に浸して熱硬化性樹脂を含浸させ、さらに、賦形ノズルを通過させて断面寸法が幅19.0mm×厚さ4.0mm、補強繊維含有率58.5vol%のCFRP芯材を作成した[成形工程]。
【0019】
ここで前記熱硬化性樹脂には、「日本ユピカ株式会社製ユピカ8921(登録商標)(ウレタンアクリレート樹脂)」をマトリックス樹脂としこれに触媒として「化薬アクゾ株式会社製カドックスB−CH50(登録商標)(10時間半減期温度72℃)」4部、および「化薬アクゾ株式会社製カヤブチルB(登録商標)(10時間半減期温度105℃)」を0.5部添加したものを用いた。
【0020】
▲2▼以上のようにして作成したFRP芯材をドラフトタイプのクロスヘッドダイスに通過させ、この際に溶融押出機により溶融押出しした被覆樹脂「帝人アモコ株式会社製ポリサルホンP1700BK937(登録商標)」をCFRP芯材の表面に被覆した[被覆工程]。
【0021】
▲3▼つぎに、被覆したCFRP芯材を直ちに室温水に浸して冷却し、その後、95〜99℃の熱湯を満たした硬化槽(全長8.5m)及び高温の熱風発生機を備えた乾熱硬化炉(全長8m、熱風温度100〜120℃)に2.5m/minの引取速度で通過させ前記熱硬化性樹脂を硬化させた[硬化工程]。
【0022】
▲4▼さらに、前記熱硬化性樹脂を硬化させ、その後、別ラインにおいて前記被覆樹脂の表面に所定深さの凹凸部をエンボス加工により形成[凹凸形成工程]し、最終成果物として炭素繊維強化プラスチック複合材を得た。ここで前記エンボス加工における予備加熱には全長8mの乾熱硬化炉(150〜160℃)を用い、また、エンボスローラの温度は330℃、引取速度は1.0/minとした。
【0023】
尚、▲3▼および▲4▼における前記乾熱硬化炉は、例えば、電気ヒータを内蔵した熱風発生器と、断熱鉄パイプ等によって簡単に構成することができる(さらに、熱風を循環させることで熱効率のよい装置を構成して設備コストの低減を図ることもできる)。
【0024】
<実施例2>
前記マトリックス樹脂に代えて「三井化学株式会社製エスターH8100(登録商標)(フェノールノボラック型ビニルエステル樹脂)」を、また、前記触媒に代えて「日本油脂株式会社製パーロイルTCP(登録商標)(10時間半減期温度40.8℃)」1部と「日本油脂株式会社製パーキュアWO(登録商標)(10時間半減期温度70℃)」3部とを用いたこと以外は実施例1と同様にしてCFRP複合材を作成した。
【0025】
<実施例3>
実施例1における前記マトリックス樹脂に代えて「三井化学株式会社製エスターH2000(登録商標)(フェノールノボラック型ビニルエステル樹脂)」を、用いた以外は実施例1と同様にしてCFRP複合材を作成した。
【0026】
<比較例1>
実施例1における前記マトリックス樹脂に代えて、「三井化学株式会社製エスターH8100(登録商標)(フェノールノボラック型ビニルエステル樹脂)」を用いた以外は実施例1と同様にしてCFRP複合材を作成した。
【0027】
<比較例2>
実施例1における前記マトリックス樹脂に代えて、「三井化学株式会社製エスターH6700(登録商標)(ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂)」を用いた以外は実施例1と同様にしてCFRP複合材を作成した。
【0028】
===試験===
つぎに、以上のようにして作成した実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例2の各CFRP複合材あるいは使用したマトリックス樹脂のそれぞれについて以下の試験1〜3を実施した。
【0029】
(試験1)CFRP複合材を水切りカッターにより丁寧に切断し、その断面を目視により観察した。
【0030】
(試験2)JIS−K6901の高温硬化特性試験(測定温度100℃)により最少硬化時間を測定した。
【0031】
(試験3)膨張性グラウト剤(株式会社小野田製「エクスグリッパータイプB(登録商標)」)を使用したグラウト定着方式により、センターホール式油圧ジャッキを利用した簡易引張試験装置にて引張試験を実施し(試験回数3)、平均引張強力t、平均引張強度(平均引張強力をFRP断面積(4mm×19mm=76mm2)で除した値)を測定した。
【0032】
以上の試験結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
(考察)
表1から明らかなように、実施例1〜3における炭素繊維強化プラスチック複合材の平均引張強力および平均引張強度は、マトリックス樹脂の最少硬化時間が3.5分以下と短いため、平均引張強力および平均引張強度の双方について比較例1,2に比べてかなり大きな値となり、実用上十分な品質が確保されていることがわかる。
【0035】
===その他===
以上に説明した実施例以外にも以下に示す応用も可能である。
【0036】
(1)前記熱可塑性樹脂として熱変形温度が140℃以上でFRPとの接着性(親和性)がよい前述した以外の樹脂(例えば、変性PSF、PPO、変性PPO)を用いる。
【0037】
(2)前記熱硬化性樹脂として、炭素繊維との接着性がよく、耐薬品性・耐熱性に優れ、JIS高温硬化特性試験(測定温度100℃)における最少硬化時間が3.5分以下の前述した以外のものを用いる。
【0038】
(3)前記触媒として10時間半減期温度が70℃程度の前述した以外の過酸化物を用いる。また、補助的にこれより高い半減期温度の過酸化物を用いる。
【0039】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明による炭素繊維強化プラスチック複合材は、JIS高温硬化特性試験(測定温度100℃)において最少硬化時間が3.5分以下である、ウレタンアクリレート樹脂もしくはフェノールノボラック型ビニルエステル樹脂からなる熱硬化性樹脂を用いることとしたため、引取速度を増大させても硬化槽の延長や温度設定の変更といった設備や工程の変更をすることなく、CFRP芯材に含浸されている熱硬化性樹脂を十分に加熱・硬化させることができ、炭素繊維本来の強度も十分に発揮され品質も優れる。
【0040】
さらに、本発明による炭素繊維強化プラスチック複合材は、大きな引張強度・引張強力を有しているので、強度あたりの価格を下げることができるといった経済的な効果も期待できる。
Claims (4)
- 略一方向に配列された長繊維状の炭素繊維の束をJIS高温硬化特性試験(測定温度100℃)における最少硬化時間が3.5分以下である、ウレタンアクリレート樹脂もしくはフェノールノボラック型ビニルエステル樹脂からなる熱硬化性樹脂で結着してなる芯部に、熱可塑性樹脂が被覆されてなることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック複合材。
- 前記熱可塑性樹脂が、ジフェニルサルフォンとビスフェノールAとの共重合体からなるポリサルホン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック複合材。
- 前記熱可塑性樹脂が、ポリサルホンとスチレン系樹脂との変性ポリサルホン樹脂でかつその熱変形温度が140℃以上のものであることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック複合材。
- 前記熱可塑性樹脂の表面に所定深さの凹凸が形成されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック複合材。
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