JP4261647B2 - セルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤ - Google Patents

セルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤに関し、より詳細には、優れた溶接作業性及び耐気孔性を有し、且つ高靱性を有する溶接金属を得ることができるセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤに関する技術分野に属する。尚、耐気孔性とは、溶接金属中の気孔の残存し難さの程度のことである。
【0002】
【従来の技術】
セルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤ(以降、セルフシールド溶接用ワイヤともいう)は、従来よりシールドガスを用いずに溶接し得るという簡便性から、土木、建築分野を中心に利用されてきた。しかし、従来のセルフシールド溶接用ワイヤは、シールドガスを使用する通常の半自動溶接用ワイヤに比べ、溶接作業性が悪い上に、得られる溶接金属の靱性も低い。
【0003】
そのため、これまでも溶接作業性の改良や高靱性化への取り組みがなされてきた。しかし、溶接作業性の改良と高靱性化の両方を達成し得るようなセルフシールド溶接用ワイヤは未だ開発されていない。
【0004】
例えば、最近の研究では特許番号第2684403号に係る特許公報に記載されたセルフシールド溶接用ワイヤがある。しかし、このセルフシールド溶接用ワイヤをもってしても溶接作業性に満足のいくものでなく、溶接金属の靱性もこの特許公報に記載されているような高い値は得られない。そのため、溶接金属の機械的性能の要求値が高い部位での使用が制限され、広く普及するまでには至っていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであって、優れた溶接作業性及び耐気孔性を有し、且つ高靱性を有する溶接金属を得ることができるセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤを提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
(1) 本発明者らは上記課題を解決し目的を達成するために研究を重ねた結果、耐気孔性を良好にするための因子として、▲1▼溶接金属中の窒素固定、▲2▼アーク内窒素分圧の低減、▲3▼溶融金属中への窒素溶解反応の抑制が重要であることが判った。そして、更に、各々の因子に最も有効に寄与する原料(含有させる元素)を研究した結果、▲1▼の溶接金属中の窒素固定にはAl、▲2▼のアーク内窒素分圧の低減にはMg、▲3▼の溶融金属中への窒素溶解反応の抑制にはLiが効果のあることが判明した。
【0007】
(2) 又、溶接作業性に寄与する原料(添加元素)を研究した結果、Alについては添加量が多いほどアークの安定性やスパッタ発生量の低減につながること、Ca,Sr,Baの添加がアークの安定性につながること、Fの添加がスパッタ発生量の低減につながることが判明した。
【0008】
(3) 更に、Ni,Mn,C,Moなどの元素の添加により、溶接金属の高靱性化がはかれることを見出した。この詳細を以下説明する。前記の如くAlの添加は耐気孔性及び溶接作業性の向上に効果がある。しかし、Alの添加量が多いほど溶接金属中に多量のAlが歩留まり、溶接金属の靱性を大きく劣化させることが判った。この原因を詳細に検討した結果、Alが溶接金属中に固溶することにより、フェライトが安定となり、凝固時に生成する粗大なδフェライトが冷却後も残存するために、靱性が劣化していることを解明した。
【0009】
鋼の溶接金属は通常、凝固時に粗大なδフェライトが生成するが、その後の冷却過程において一旦完全にオーステナイトに変態し、さらにオーステナイトから微細なフェライトへと変態するため、溶接金属の組織は最終的には微細となり、靱性も良好となる。そのため、Alが溶接金属に固溶した場合においても、靱性を劣化させないためには、δフェライトを残存させなければよいこと、逆にいえば、完全にオーステナイトに変態させればよいことを見出した。
【0010】
そこで、かかるδフェライトを残存させないための改善策について検討した。その結果、δフェライトを残存させないためには、溶接金属のマトリックス組成のバランスが重要であることを見出した。即ち、より具体的には、δフェライトを残存させないためには、上記の如く冷却過程に一旦完全にオーステナイトに変態させればよいが、これは溶接金属中のマトリックス組成によって決定され、フェライトを安定させるAlが多量存在する場合はオーステナイトを安定化するNi,Mn,Cなどの元素を適量添加することが効果のあることが判った。
【0011】
また、δフェライトの残存の有無の他に、オーステナイトからの変態組織も影響を与えていることも突き止め、Moを微量添加することにより、オーステナイトからの変態組織が微細化し、溶接金属の靱性を一層良好とできることも見出した。
【0012】
(4) 更に、完全にオーステナイトに変態させるための溶接金属組成について、熱力学的解析及び実験により研究した結果、下記式で決められるFPの値が0以上の場合に完全にオーステナイトに変態することを見出した。即ち、溶接金属組成をFP≧0とすることにより、溶接金属の靱性をより高くすることができることが分かった。
【0013】
Figure 0004261647
ただし、この式において、〔C〕はC濃度(重量%)、〔Si〕はSi濃度(重量%)、〔Mn〕はMn濃度(重量%)、〔Al〕はAl濃度(重量%)、〔Ni〕はNi濃度(重量%)、〔Mo〕はMo濃度(重量%)である。いずれも、ワイヤ全重量(フラックスと鋼製外皮の合計重量)に対する濃度(重量%)である。
【0014】
本発明は以上の研究結果に基づき完成されたものであり、請求項1〜3記載のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤとしており、それは次のような構成としたものである。
【0015】
即ち、請求項1記載のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤは、フラックスを鋼製外皮に充填してなるセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤにおいて、ワイヤ全重量に対して、
C:0.01〜0.30重量%、
Si:0.01〜0.30重量%、
Mn:0.50〜3.00重量%、
Mo:0.001〜0.25重量%、
Ni:1.0〜3.0重量%、
Al:1.5〜4.0重量%、
Mg:0.5〜2.0重量%、
Ca,Sr,Baの1種又は2種以上:3.0〜7.0重量%、
Li:0.05〜0.30重量%、
F:0.5〜3.0重量%を含有し、
且つ、Ni/Mo:10〜300であることを特徴とする、
セルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤである(第1発明)。
【0016】
請求項2記載のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤは、C:0.01〜0.15重量%、Mo:0.01〜0.10重量%、Ni:1.4〜2.7重量%である請求項1記載のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤである(第2発明)。
【0017】
請求項3記載のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤは、下記式(1)で定義されるFPが0以上である請求項1又は2記載のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤである(第3発明)。
【0018】
Figure 0004261647
【0019】
上記本発明に係るセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤによれば、前述の課題を解決し目的を達成することができる。即ち、第1発明に係るセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤによれば、溶接作業性及び耐気孔性が極めて向上し、且つ高靱性を有する溶接金属を得ることができる。第2発明に係るセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤによれば、より確実に高水準の靱性を有する溶接金属を得ることができる。第3発明に係るセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤによれば、さらに確実に高水準の靱性を有する溶接金属を得ることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明は、例えば次のような形態で実施する。
フラックスを鋼製外皮に充填し、伸線加工する。このとき、ワイヤ全重量(フラックス及び鋼製外皮の重量)に対して、C:0.01〜0.30重量%、Si:0.01〜0.30重量%、Mn:0.50〜3.00重量%、Mo:0.001〜0.25重量%、Ni:1.0〜3.0重量%、Al:1.5〜4.0重量%、Mg:0.5〜2.0重量%、Ca,Sr,Baの1種又は2種以上:3.0〜7.0重量%、Li:0.05〜0.30重量%、F:0.5〜3.0重量%を含有し、且つ、Ni/Mo:10〜300となるようにする。そうすると、本発明に係るセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤが得られる。
【0021】
以下、本発明に係るセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤ(第1発明)についての数値限定理由を説明する。
【0022】
Cはオーステナイト安定化元素の一つであり、δフェライトの残存を抑制する効果があり、又、溶接金属の強度を向上させる効果を有するが、C:0.01重量%未満ではδフェライトの残存を抑制する効果が確保できず、C:0.30重量%超ではかえって強度の上昇による靱性の劣化を引き起こす。このため、C:0.01〜0.30重量%としている。
【0023】
Siは溶接金属の粘性を良好にし、溶接ビード形状を良好にする効果があり、又、固溶強化元素である一方、フェライト安定化元素でもある。Si:0.01重量%未満では溶接ビード形状が不安定になり、Si:0.30重量%超では強度が高くなり過ぎて靱性の低下の原因となる。かかる点から、Si:0.01〜0.30重量%としている。
【0024】
Mnは、Cと同様オーステナイト安定化元素の一つであり、δフェライトの残存を抑制する効果があり、又、オーステナイトからの変態組織を微細にして溶接金属の靱性を高める効果もあるが、Mn:0.50重量%未満ではこれらの効果が発揮されず、Mn:3.00重量%超では強度が高まり過ぎて靱性の劣化を引き起こす。このため、Mn:0.50〜3.00重量%としている。
【0025】
Niはオーステナイト安定化元素の一つであり、最もδフェライトの残存を抑制する効果があるが、Ni:1.0重量%未満ではその効果が発揮されず、Ni:3.0重量%超では強度を著しく高めて靱性を劣化させる。このため、Ni:1.0〜3.0重量%としている。
【0026】
Alはアークの安定性を高め、スパッタ発生量を低減し、溶接作業性を向上させる効果があり、又、溶接金属中の窒素を固定し、気孔の発生を抑制する効果もある。かかる点から、Alは最も重要な元素である。しかし、Al:1.5重量%未満ではこれらの効果が得られず、Al:4.0重量%超では溶接金属中に粗大なδフェライトが析出し、靱性が劣化する。このため、Al:1.5〜4.0重量%としている。
【0027】
Mgは高蒸気圧金属であるため、高温のアーク中で容易に気化する。その結果アーク内の窒素分圧を低下させ、溶接金属中に溶解する窒素量を低減し、気孔の発生を抑制する。しかし、Mg:0.5未満ではその効果が発揮されず、Mg:2.0重量%超ではMgが爆発的に気化するため、アークが乱れて溶接作業性が劣化する。かかる点から、Mg:0.5〜2.0重量%としている。
【0028】
Ca,Sr,Baはいずれも、アークの安定性を高め、スパッタ発生量を低減し、溶接作業性を向上させる効果があり、又、スラグの形成にも寄与し、適量の添加によってビード形状を安定化させる効果もある。しかし、Ca,Sr,Baの添加量の合計が3.0重量%未満ではこれらの効果が得られず、7.0重量%超ではアークの安定性が劣化し、さらにはスラグの粘度上昇によってビード形状も不安定になる。かかる点から、Ca,Sr,Baの1種又は2種以上:3.0〜7.0重量%としている。尚、これらの元素は通常、弗化物、炭酸塩、酸化物の形態で添加されるが、このいずれを用いても効果は同じである。特には弗化物の形態で添加するのが好ましい。
【0029】
Liはスラグを低融点化し、その粘性も下げ、又、溶接金属との界面エネルギーも小さくするため、溶接金属表面や溶滴表面を均一に覆い、その結果、溶接金属への窒素溶解反応を抑制する。しかし、Li:0.05重量%未満ではその効果が発揮されず、Li:0.30重量%超ではアークが乱れ、溶接作業性が劣化する。従って、Li:0.05〜0.30重量%としている。尚、Li源としては合金や複合酸化物等があるが、最も好ましいのはリチウムフェライトなどの複合酸化物である。
【0030】
Fはアークの安定性を向上し、スパッタ発生量を低減し、溶接作業性を向上させる効果があるが、F:0.5重量%未満ではその効果が発揮されず、F:3.0重量%超ではアークが乱れ、溶接作業性が劣化する。このため、F:0.5〜3.0重量%としている。尚、F源としては各種フッ化物が考えられるが、Ca,Sr,Ba等とのフッ化物が最も好ましい。
【0031】
Moは、オーステナイトからの変態組織を微細にして靱性を高める効果があるが、Mo:0.001重量%未満ではその効果が発揮されず、Mo:0.25重量%超では強度上昇による靱性の劣化を招く。そこで、Mo:0.001〜0.25重量%としている。
【0032】
前記の如くNiはオーステナイト安定化元素であり、δフェライトの残存を抑制して靱性を高める効果があり、一方、Moはオーステナイトからの変態組織を微細にして靱性を高める効果があるが、そもそもMoはフェライト形成元素であるため、Niのもつオーステナイトの安定化を阻害する傾向がある。このNi含有量とMo含有量との比(Ni/Mo)が10未満では、MoがNiに対して多すぎるためにオーステナイト化が不充分となり、充分な靱性が得られず、Ni/Moが300を超えると、変態組織の微細化にMoの量が少なすぎて充分な靱性が得られない。このため、Ni/Mo:10〜300としている。
【0033】
C、Ni、Moの含有量については、前記の如くいずれも靱性の面から限定されている。このC、Ni、Moの含有量に関し、C:0.01〜0.15重量%、Mo:0.01〜0.10重量%、Ni:1.4〜2.7重量%にすると、より確実に高水準の靱性を有する溶接金属を得ることができる。かかる点からすると、C:0.01〜0.15重量%、Mo:0.01〜0.10重量%、Ni:1.4〜2.7重量%にすることが望ましい(第2発明)。
【0034】
FPは、前記式(1)より求められる値であり、溶接金属が冷却中に完全にオーステナイトに変態するか否かの指標である。このFPの値が0以上の場合に完全にオーステナイトに変態し、溶接金属の靱性をより高くすることができる。FPの値が0未満の場合は、オーステナイトへの完全な変態は起こり難く、δフェライトが少し残存するため、溶接金属の靱性は低下する傾向がある。かかる点から、FPが0以上となるようにしておくことが望ましい(第3発明)。
【0035】
【実施例】
セルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤとしては、フラックスを鋼製外皮に充填し、ワイヤ径1.4mmに伸線加工して製作したものを用いた。尚、フラックスコアードワイヤには図1に示す5つのタイプの断面形状があるが、上記フラックスコアードワイヤには図1の(C) に示すタイプのものを採用した。上記鋼製外皮としては組成的にはC:0.008重量%、Si:0.008重量%、Mn:0.25重量%、P:0.005重量%、S:0.005重量%を含有し、残部Feからなるものを用いた。
【0036】
上記フラックスコアードワイヤを用いて溶接を行い、溶接作業性、耐気孔性及び溶接金属の靱性を調べた。このとき、溶接条件としては、表1に示す溶接条件とした。試験片には、JIS Z 3106に該当するSM490Bであって板厚20mm、長さ500mmのものを用い、JIS Z 3111に従って溶接した。溶接作業性は、溶接中のアークの安定性、スパッタ発生状況を目視観察し、評価した。耐気孔性は、溶接後の試験片についてJIS Z 3104に従ってX線透過試験を行い、分類が1種1類のものを良好(○)とし、それ以外のものは不良(×)とした。溶接金属の靱性は、JIS Z 3111に従って試験を行い、0℃での衝撃値が70J以上のものを良好とした。
【0037】
上記フラックスコアードワイヤの成分を表2〜3に示す。上記溶接作業性、耐気孔性及び溶接金属の靱性に関する試験結果を表4〜5に示す。これらの表からわかる如く、フラックスコアードワイヤとして本発明の実施例に係るフラックスコアードワイヤ(No.1〜10)を用いた場合は、溶接作業性、耐気孔性及び溶接金属の靱性のいずれも良好である。これに対し、比較例に係るフラックスコアードワイヤ(No.11 〜31)を用いた場合は、溶接作業性、耐気孔性、溶接金属の靱性のいずれかが不良であり、総合的に判断して×である。
【0038】
【表1】
Figure 0004261647
【0039】
【表2】
Figure 0004261647
【0040】
【表3】
Figure 0004261647
【0041】
【表4】
Figure 0004261647
【0042】
【表5】
Figure 0004261647
【0043】
【発明の効果】
本発明に係るセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤによれば、溶接作業性及び耐気孔性が極めて向上し、且つ高靱性を有する溶接金属を得ることができるようになる
【図面の簡単な説明】
【図1】 フラックスコアードワイヤの断面形状の種類(5種類)を示す図である。

Claims (3)

  1. フラックスを鋼製外皮に充填してなるセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤにおいて、ワイヤ全重量に対して、
    C:0.01〜0.30重量%、
    Si:0.01〜0.30重量%、
    Mn:0.50〜3.00重量%、
    Mo:0.001〜0.25重量%、
    Ni:1.0〜3.0重量%、
    Al:1.5〜4.0重量%、
    Mg:0.5〜2.0重量%、
    Ca,Sr,Baの1種又は2種以上:3.0〜7.0重量%、
    Li:0.05〜0.30重量%、
    F:0.5〜3.0重量%を含有し、
    且つ、Ni/Mo:10〜300であることを特徴とする、
    セルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤ。
  2. C:0.01〜0.15重量%、Mo:0.01〜0.10重量%、Ni:1.4〜2.7重量%である請求項1記載のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤ。
  3. 下記式(1)で定義されるFPが0以上である請求項1又は2記載のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤ。
    Figure 0004261647
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