JP3566131B2 - セルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤ - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、優れた溶接作業性を有し、かつ、溶接して得られる溶接金属が優れた耐気孔性と高い靱性を得ることができるセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤは、従来、シールドガスを用いずに溶接できる簡便性から、土木、建築を中心に利用されてきた。しかし、従来のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤは、シールドガスを使用する通常の半自動溶接用ワイヤに比べ、溶接作業性が悪い上に、得られる溶接金属の靱性も低い。そのため、例えば特開平3−118993号公報、特開平4−13497号公報、特開平5−393号公報に記載されているように、これまでにも溶接作業性の改良や高靱性化への取り組みがなされてきたが、溶接作業性と高靱性の両方を兼ね備えた溶接用ワイヤはいまだ開発されるに至っていない。その結果、溶接金属の機械性能の要求値が高い部位での使用が制限され、広く普及していないのが実情である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の問題に鑑み、優れた溶接作業性を有し、かつ、溶接によって得られる溶接金属が優れた耐気孔性と高い靱性を得ることのできるセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、作業性を良好にする方法、すなわち、安定なアークを得て、かつ、スパッタ発生量を少なくする方法と、さらに良好なビード外観を有し、かつ、耐気孔性に優れ、しかも高い靱性を有する溶接金属を得ることができるセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤを完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、フラックスが鋼製外皮内に充填されたセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤであって、ワイヤ全重量に対してフラックス成分がwt%で、
Al:1.5〜4.0%、
Mg:0.5〜2.0%、
Ba:1.0〜4.8%、
Li:0.05〜4.00%、
Ni:0.1〜3.0%、
Mn:0.5〜3.0%、
C :0.01〜0.30%、
Si:0.01〜0.50%、
F :0.5〜4.0%、
O :0.1〜21.0%、
Sr:0.01〜2.00%
を主成分として有し、かつ下記式で定義されるFP値が0.00以上とされたものである。
FP=C−0.145 Si+0.013 Mn−0.228 Al+0.199 Ni+0.393
ただし、PF式中の元素記号はその元素のワイヤ全重量に対する含有量wt%を意味する。
【0006】
本発明のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤのフラックス成分限定理由を説明するに際し、まず、アークを安定化させる方法、スパッタを低減させる方法、耐気孔性を向上させる方法、溶接金属の靱性を向上させる方法におけるフラックス成分の作用、機能を説明する。
【0007】
アークの安定化についてはAl、Ba、Mgの同時添加が有効である。Alはアーク中の高温状態で容易に蒸発し、次に、イオン化し、アーク中の電子の供給源として作用する。この際、有効にAlガスを発生させるためにフラックスとして金属状態、あるいは合金状態のAlを使用することが効果的であるが、金属Al表面には強固な酸化物が形成されて、この酸化物がAlの円滑な蒸発を妨げる。ここに、Mgを添加するか、Mgとの合金化を施すことで、この強固な酸化物が加熱過程で除去され、有効にAlを蒸発イオン化させることが可能となる。
【0008】
さて、AlとMgを添加した状態での溶滴の移行状態は、グロビュール移行とよばれる、溶滴の大きさがワイヤ径よりも大きな溶滴の移行状態となるため、アークが溶滴の移行とともに点滅し、好ましくない。ここに、弗化バリウムや炭酸バリウムなどのBa化合物を添加すると、溶滴の表面状態が変化し、溶滴の径が小さいスプレー移行となり、安定的なアーク状態が実現される。このように安定的なアークを得るためにはAl、Mg、Baの同時添加が必要である。
【0009】
次に、スパッタの抑制法について説明する。セルフシールド溶接におけるスパッタ発生として、▲1▼アークの明滅に起因するスパッタ、▲2▼窒素起因のスパッタ、▲3▼溶融プールからのスパッタなどが考えられる。
【0010】
前記▲1▼のアーク明滅が原因となるスパッタはAl、Mg、Baの同時添加によるアークの安定化によって減少させることができる。
【0011】
前記▲2▼の窒素起因のスパッタが発生するメカニズムは以下のとおりである。まず、アーク中に侵入した窒素が、アークの温度によって容易に解離して窒素原子となる。窒素原子は鉄溶滴に容易に侵入する。そして、窒素プラズマ中での溶融鉄への窒素溶解量は、窒素ガス中の窒素溶解量の約20倍と言われているので(日本金属学会会報第22巻第5号1988年412P)、アークプラズマ中で窒素を十分吸収した鉄溶滴がプラズマ外に移動すると、窒素は直ちに気化し、溶滴外へ放出される。この際、溶滴の一部を爆発的に吹き飛ばしながら窒素放出が行われるので、スパッタが発生する。
【0012】
上述のメカニズムで発生するスパッタを抑制するためには、二通りの方法が考えられる。まず、第1の方法はアーク中の窒素濃度を減少させることである。その方法としてはガス発生剤としてのフラックス量の増加が有効である。そのため、セルフシールド溶接用ワイヤに充填するフラックス量は多いほうよい。混入窒素低減のためのガス発生剤として蒸発しやすい物質であるMgや、弗化バリウム、弗化カルシウム、弗化ストロンチウムなどの弗化物や、炭酸バリウムなどの炭酸化合物が有効である。次に、第2の方法としてAlの添加が有効である。すなわち、プラズマ領域で窒素原子を十分に吸収した溶滴は、プラズマ外で窒素を放出するが、Alが添加されていると、AlNを形成することで放出する窒素量を低減させ、結果的にスパッタを減らすことができる。以上のようにワイヤ中のAlとMgを増加させればスパッタは抑制できる。
【0013】
前記▲3▼の溶融プールからのスパッタ抑制には、スラグによる溶融プールの揺らぎ抑制と流動性制御が有効である。スラグは主にBa、Sr、Caの弗化物、炭酸塩、酸化物の形態で形成されるが、さらに、スラグによる溶融プールの性状制御にはSiとLi添加が有効である。Siはアーク中の酸素あるいはフラックス中の酸素と結合し、溶接金属上でSi酸化物となりスラグを形成する。Si酸化物は溶融状態で高い粘性を有し、溶融プールが激しく振動するのを抑制し、その結果、溶融プールから発生するスパッタを抑制する。しかし、一方で、Si酸化物はその高い粘性のために流れが悪く、溶融金属全体に覆い被さらず、スラグカバー率の低下を引き起こす。スラグに適度な粘性を持たすためにはLiの添加が適当であり、Li添加によって、適当な粘度を有した溶融スラグが形成され、その結果、溶融プールの安定化とスラグカバー率向上の両方が実現される。
【0014】
さて、上述のLi、SiならびにAl、Mg、Ba、Sr、Ca、O、Fの働きによって、ビードに覆い被さるスラグの性状は変化する。これらの元素の添加量によってはスラグが形成されなかったり、あるいは、スラグの粘性が高すぎたり、低すぎたりするし、また、ビードの幅や高さが不均一になったり、スラグがビードにかみこむためにビードの形状がいびつになるなどの不具合が生じる。適当な成分調整によって、得られる溶接金属の外観が良好となる。
【0015】
次に、溶接金属の耐気孔性を向上させる方法を説明する。Mgはガス発生によってアーク中の窒素濃度を減少させ、気孔の発生を抑制する効果がある。Alは溶解した窒素を固定し、気孔の発生を抑制する働きがある。すなわち、溶接金属中の気孔は、溶接金属が凝固するときに発生するが、凝固寸前にAlが溶解窒素をAlNの形で固定するため、気孔の発生を抑制することが可能となる。
【0016】
次に、溶接金属の靱性を向上させる方法について述べる。ワイヤ中のAlを増加させると、溶接金属中のAl量も同時に増えて溶接金属の靱性が劣化する。従って、従来技術では、溶接作業性を向上させるためにAlを増やせば溶接金属の靱性は低下し、逆に、溶接金属の靱性を向上させるためにワイヤ中のAl量を減らせば、溶接作業性が劣化するため、溶接作業性と溶接金属靱性の両方の特性を満足するセルフシールド溶接用ワイヤは得られなかった。そこで、本発明では、スパッタ低減に効果的なワイヤ中のAl量を増加させつつ、溶接金属の靱性を向上させ、溶接作業性と溶接金属靱性をともに満足させる方法を考案すべく、ワイヤ中のAlと溶接金属中のAlの働きを注意深く分離し、その働きを明確にした。すなわち、スパッタは、溶滴移行中の溶滴中のAl量に依存するが、溶接金属中のAl量には左右されない。一方、溶接金属の靱性は溶接金属中のAl量に支配される。このことから、溶滴移行後、鉄スラグ反応によって溶接金属中のAlを除去し、溶接金属中のAl量を低減することができれば、溶接作業性を損なうことなく、高靱性の溶接金属を得ることができる。さらに、溶接金属中にAlが含まれていても溶接金属中の靱性を向上させることのできる元素を添加することで積極的に溶接金属靱性を向上させることができる。
【0017】
鉄スラグ反応によって溶接金属中のAlを除去するには、フラックス中に積極的に酸化物、あるいは炭酸化合物、あるいは酸素を含有する化合物を充填すればよい。フラックス中に酸化物を充填すれば、溶滴移行後、溶接金属上部に覆い被さったスラグと溶接金属界面でのメタルスラグ反応によって溶接金属中からAlを除去することができる。ここで、もっとも効果の大きいものはLi系酸化物である。なぜなら、Li系酸化物は融点が低くメタルスラグ反応によるAl除去がFe 凝固寸前の低温まで、有効に作用するからである。こうして、得られる溶接金属中のAlは酸化物によって低減させられ、その結果溶接金属の靱性は向上する。
【0018】
一方、溶接金属の靱性を向上させるためには、NiおよびMnの添加が効果的である。Al添加による溶接金属の靱性劣化を詳細に検討した結果、Alが溶接金属中に固溶することにより、フェライトが安定となり、凝固時に生成する粗大δフェライトが冷却時にも残存することが原因となっていることがわかった。すなわち、鋼の溶接金属は通常、凝固時に粗大なδフェライトが生成し、その後の冷却過程において、一旦、完全にオーステナイトに変態し、その後、オーステナイトから微細なフェライトに変態する。この場合は溶接金属の組織は微細となり靱性は良好となる。これに対し、Alを添加すると、冷却過程において粗大なδフェライトがオーステナイトに十分変態しないことを見出した。従って、靱性を向上させるためにはオーステナイトへの変態を促進させてやることが必要である。
【0019】
Niはオーステナイトの安定化元素であり、粗大なδフェライトからのオーステナイトへの変態を促進し、微細なδフェライト残存に有効であり、Alを添加した、溶接金属の靱性向上に効果的である。また、Mnもオーステナイト安定化元素であり、オーステナイトからの変態組成を微細にして靱性を高める効果がある。NiとMnは単独添加でも上述の効果があるが、同時に添加すると変態組成の微細化を安定化する働きがある。すなわち、NiあるいはMn単独添加では溶接金属の靱性値にばらつきが生じるが、同時添加を行うとNiとMnの相乗効果で靱性値のばらつきが減少し、安定的に高い靱性が確保できる。さらに、Cもオーステナイト安定化元素の一つであり、δフェライトの残存を抑制する効果がある。また、溶接金属の強度を向上させる効果を持つ。
【0020】
本発明の溶接用ワイヤでは、上記フラックス成分の化学組成を調節するだけでは本発明の目的の一部、すなわち、溶接金属の靱性を満足することができず、前記PF式で規定されるFP値を0以上にする必要がある。このFP(フェライトパラメータ)を規定する式は、熱力学計算と実験から得られたものであり、溶接金属が冷却中にオーステナイトに変態するかしないかの指標である。FP値が0.00以上であれば溶接金属の靱性が良好となるが、FPが0.00未満であれば完全にオーステナイトに変態しない粗大なδフェライトが残存し、溶接金属の靱性は劣化する。
【0021】
以上説明したとおり、Al、Mg、Baの適量添加によるアーク安定化、Al、Mg、Ba、Si、Li、Oの適量添加による溶接作業性向上、Oの適量添加による溶接金属からのAl除去、Ni、Mn、Cの適量添加による金属靱性向上およびFPによる添加量制御によって、溶接作業性と溶接金属靱性の両方の特性を満足するセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤを得ることができる。
【0022】
ここで、本発明における各フラックス成分の添加範囲(単位はwt%)およびその限定理由を具体的に説明する。なお、本発明でいうフラックス成分とは、フラックスとして含有される成分のみを意味するものではなく、フラックスとして作用、機能する成分を意味し、その供給形態はフラックスとして含有されるもののほか、フラックスが充填される鋼製外皮の成分として含有されるものが含まれる。
【0023】
C:0.01〜0.30%
Cはオーステナイト安定化元素の一つであり、δフェライトの残存を抑制する効果がある。また、溶接金属の強度を向上させる効果を持つ。C量が0.01%未満ではδフェライト残存を抑制する効果が過小であり、また、0.30%を超えると強度の上昇により靱性の劣化をおこす。このため、C量の下限を0.01%、好ましくは0.02%とし、上限を0.30%、好ましくは0.12%とする。
【0024】
Si:0.01〜0.50%
Siは溶接金属の粘性を良好にし、溶接ビード形状を良好にする。また、ス ラグの粘性を制御する。一方、Siは固溶強化元素であるとともに、フェライト安定化元素である。従って、Siが0.01%未満では溶接ビード形状が不安定となり、また、スラグのかぶりが悪くなる。その結果、スラグによる脱Al効果が減少する。0.50%超では強度が高くなりすぎて靱性劣化の原因となる。このため、Si量の下限を0.01%、好ましくは0.05%とし、上限を0.50%、好ましくは0.30%とする。
【0025】
Ni:0.1〜3.0%
NiはCと同様にオーステナイト安定化元素の一つであり、δフェライトの残存を抑制する効果がある。Ni量が0.1%未満では粗大フェライト抑制効果が十分発揮できず、溶接金属の靱性が低くなり、一方、3.0%を超えると溶接金属の強度が著しく高くなるため、かえって、溶接金属の靱性が劣化する。このため、Ni量の下限を0.1%、好ましくは0.5%とし、上限を3.0%、好ましくは2.0%とする。
【0026】
Mn:0.5〜3.0%
MnはCと同様にオーステナイト安定化元素の一つであり、δフェライトの残存を抑制する効果がある。Mn量が0.5%未満では粗大フェライト抑制効果が十分発揮できず、溶接金属の靱性が低下し、また、3.0%を超えると溶接金属の強度が著しく高くなるため、かえって溶接金属の靱性が劣化する。このため、Mn量の下限を0.5%、好ましくは0.8%とし、上限を3.0%、好ましくは2.0%とする。
【0027】
Al:1.5〜4.0%
Alは1.5%未満では溶接金属の脱酸、脱窒効果が不足し、溶接金属にピットあるいはブローホールが発生するようになる。また、溶接作業性が著しく悪化する。1.5%以上でピットやブローホールがなくなり、溶接作業性が良好となる。一方、Al量が4.0%を超えると溶接金属中のAl量が増加し、溶接金属の靱性が低下するので好ましくない。このため、Al量の下限を1.5%、好ましくは1.9%とし、上限を4.0%、好ましくは3.5%とする。
【0028】
Mg:0.5〜2.0%
Mgはアーク熱で金属蒸気となってアーク雰囲気を大気から遮断する。また、強力な脱酸作用をもち、Al表面の酸化膜を除去し、Alの蒸発を促進する。Mgが0.5%未満では、シールド性が悪化し、ブローホールやピットが発生する。2.0%を超えると爆発的にMgが反応するため、スパッタが増加し、溶接作業性が悪化する。このため、Mg量の下限を0.5%、好ましくは0.7%とし、上限を2.0%、好ましくは1.5%とする。
【0029】
Ba:1.0〜4.8%
Baは弗化物の形態で添加され、アークの安定性を向上し、スパッタ発生量を低減する。また、スラグの形成に寄与し、適量添加でビード形状を安定化させる。1.0%未満では、溶滴の移行状態がドロップ移行となり、大粒のスパッタが増加する。また、スラグのかぶりも悪くなる。一方、4.8%を超えるとスラグの粘性が高くなり、ビード形状が悪化する。このため、Ba量の下限を1.0%、好ましくは1.2%とし、上限を4.8%、好ましくは4.0%とする。
【0030】
F:0.5〜4.0%
FはBa、Sr、Ca化合物として充填され、ガス発生剤として作用する。また、スラグを形成する。0.5%未満ではスラグが形成されないようになり、4.0%を超えるとアークが乱れ、溶接作業性が劣化する。このため、F量の下限を0.5%、好ましくは0.8%とし、上限を4.0%、好ましくは3.8%とする。
【0031】
O:0.1〜21.0%
Oは本発明のワイヤが溶接作業性と、溶接金属の靱性を同時に良好に保つために重要な働きをする。本発明のセルフシールド溶接用ワイヤにおいて溶接作業性を向上させるもっとも重要な元素はワイヤ中のAlである。しかし、ワイヤ中のAlは溶接金属中に移行し、溶接金属中のAlは溶接金属の靱性を悪化させる。これを改善するために溶接金属に歩留るAl量を低減させることが必要となる。このとき、ワイヤ中に酸化物あるいは炭酸化合物あるいは他の化合物の形で酸素を充填すると、Alはスラグメタル反応によって酸化し、溶接金属中に歩留るAl量も低下する。このためには、O量は0.1%以上必要である。一方、21.0%を超えると、酸素源として充填する酸化物、炭酸化合物あるいは酸素を含む化合物の分解によるスパッタの発生を無視できなくなり、溶接作業性が悪化する。このため、O量の下限を0.1%、好ましくは0.2%、より好ましくは0.3%とし、上限を21.0%、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%とする。なお、セルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤにおけるワイヤ全重量に対する酸素量の分析は不活性ガス融解赤外吸収法で行う。
【0032】
Li:0.05〜4.00%
酸化物の形態で充填され、スラグの形成に寄与し、適量添加でビード形状を安定化させる。酸化物の形態としてはSi、Al、Fe との複合酸化物の形態が好ましい。Liはスラグを低融点化し、粘性を下げ、スラグを安定化し、溶接金属中のAlの歩留まりを低下させることに寄与する。0.05%未満ではその効果が過小であり、一方4.00%を超えるとアークが乱れ、溶接作業性が劣化する。このため、Li量の下限を0.05%、好ましくは0.20%とし、上限を4.00%、好ましくは3.50%とする。
Sr:0.01〜2.00%
Srは弗化物の形態で充填され、スラグのかぶりを改善し、スラグの剥離性を向上させる。Srが0.01%未満では効果が過小であり、一方2.00%を超えるとアークの温度が低下し作業性が劣化する。このため、Sr量の下限を0.01%、好ましくは0.10%とし、その上限を2.00%、好ましくは1.80%とする。
【0033】
FP値:0.00以上
FP=C−0.145 Si+0.013 Mn−0.228 Al+0.199 Ni+0.393
本発明のセルフシールド溶接用ワイヤでは、上記の化学組成を調節するだけでは本発明の目的の一部、すなわち、溶接金属の靱性を満足することができず、前記式で規定されるFPを0.00以上にする必要がある。このFPは、溶接金属が冷却中にオーステナイトに変態するかしないかの指標である。FPが0.00以上であれば溶接金属の靱性が良好となるが、FPが0.00未満であれば完全にオーステナイトに変態しない粗大なδフェライトが残存し、溶接金属の靱性は劣化する。
【0034】
図1は、FP値と溶接金属の靱性との関係およびFP値と溶接金属のδフェライトの面積率との関係を調査した結果を示すグラフであるが、FP値が0より小さいとδフェライト量が増えるため、溶接金属の靱性は30J以下となり、一方、FP値が0以上であるとδフェライトが減少し、溶接金属の靱性が50J以上に向上することがわかる。もっとも、FP値が0以上であるにもかかわらず、靱性値が低いデータがあるが、これはCを0.35%と多く添加して成分を調整したため、溶接金属の強度が高くなり過ぎたことに起因している。なお、この調査に用いたワイヤは、フラックス成分を調整して種々のFP値を有するワイヤを後述の実施例と同様に製造したものであり、溶接も同様の要領にて行ったものである。また、δフェライトの面積率は溶接金属を光学顕微鏡で観察し、δフェライトの占める割合を実測した。
【0035】
本発明のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤにおけるフラックス成分は以上の成分を主成分とする。ここに主成分とは、上記成分および不可避的不純物からなる場合のほか、上記主成分の作用、効果を損なわない元素やフラックスとしての作用、効果をより一層を向上させる元素の含有を妨げない趣旨であり、例えば下記Ca、Crの1種以上を含有することができ、請求項2〜3に記載したように、下記の成分とすることができる。
(1) 主成分+Ca
(2) 主成分又は前記 (1) の成分+Cr
【0037】
Ca:0.01〜4.00%
Caはスラグのかぶりを改善し、ビードの外観を向上させる。Caが0.01%%以下ではかかる効果が過小であり、4.00%を超えるとアークが乱れ、溶接作業性が劣化する。このため、Ca量の下限を0.01%、好ましくは0.10%とし、その上限を4.00%、好ましくは3.80%とする。
【0038】
Cr:0.5%以下
Crは耐食性を改善するため、セルフシールド溶接ワイヤに添加することができる。Crが0.5%を越えると溶接金属の靱性が劣化する。このため、その上限を0.5%、好ましくは0.3%とする。
【0039】
フラックス成分の添加形態は、フラックス成分の各元素の量が上記範囲を満足する限り、任意の形態を取ることができる。すなわち、フラックス成分の個々の元素を単独の状態で添加してもよく、あるいは化合物の形態で添加してもよい。さらには、先に述べたように、フラックスとしての作用、機能を失しない限り、外皮を形成する鋼成分として添加してもよい。このような外皮に含ませることができる成分としては、Al、Mn、Ni、Si、C、Cr、Oをあげることができる。
【0040】
なお、本発明ではフラックス成分はワイヤ全重量に対する割合として規定しているため、フラックスの鋼製外皮への充填率を特に規定していないが、通常、上記成分範囲を満足するようにするには、フラックスの充填率はワイヤ全重量に対して10〜30wt%とされる。また、図2に示すように、フラックス2が内包される鋼製外皮1の形態としては、(A) 両端を突き合わせた円筒形、(B) 両端が重なり合うように突き合わせた円筒形(ラップタイプ)、(C) 両端部を重ね合わせて内側に折り込んだ円筒形(アップルタイプ)など種々の形態のものとすることができる。
【0041】
【実施例】
次に、実施例によって本発明を説明するが、本発明は下記の実施例によって限定的に解釈されるものではない。
【0042】
下記表1〜3に記載したフラックス成分となるように、下記成分の軟鋼からなる鋼管にフラックスを充填し、常法により伸線加工し、ワイヤ径1.4mmのフラックスコアードワイヤ試料を製造した。フラックスの充填率はワイヤ全重量に対して20%とした。外皮の形状は、図2(B) に示すラップタイプとした。表1〜3に示すフラックス成分はワイヤ全重量に対するものであり、フラックス成分をフラックスとして添加する場合、原則としてAl、Mg、Ni、Mn、Cr 、Siは単体あるいは合金の状態で添加し、BaおよびSrはそれぞれBaF2 、SrF2 として添加し、LiはLiFe O2 として添加した。また、C、Mnの一部は外皮からも供給した。
・外皮成分(wt%)
C:0.010%、Mn:0.35%、P:0.015%、
S:0.007%、残部実質的にFe
【0043】
各試料のフラックスコアードワイヤを使用して、V形開先を形成した試験板(JIS G3106 SM490B、板厚20mm×長さ500mm)をJIS Z3111に従って溶接した。この際、溶接作業性は溶接中のスパッタ発生状況およびビードの外観を目視観察して良否を評価した。
【0044】
また、溶接後の試験板を用いて溶接金属の耐気孔性を次の要領で調査した。JIS Z3104に従ってX線透過試験を行い、分類が1種1類のものを良好とし、それ以外のものを不良とした。また、溶接金属の靱性を衝撃試験により調査し、0℃での衝撃値が50J以上のものを良好とし、それ未満のものを不良とした。これらの調査結果を表1〜3に併せて示す。なお、表1〜3中、スパッタ(発生状況)、ビード外観、耐気孔性および靱性の各欄において、○は良好、×は不良を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
表1〜3より、発明例は、溶接作業性、ビード外観、耐気孔性のいずれも良好であり、しかも溶接金属の衝撃値は0℃で50J以上で、靱性にも優れることがわかる。
【0049】
これに対して、表1の試料No. 5はC量が多いため、溶接金属の強度が上がりすぎ、靱性が劣化している。No. 6はSi量が少ないため、ビード外観が悪化した。No. 9はSi量が多く、またFP値が0未満となったため靱性が劣化している。また、No. 10はAl量が少ないためビードにブローホールが発生し、また、スパッタが多く発生した。No. 20はAl量が多く、FP値が0未満であるため靱性が劣化している。
【0050】
また、表2のNo. 24はMg量が多いため、スパッタが増加し、溶接性がよくない。No. 30はBa量が多いため、ビード外観が悪化した。No.43はLi量が多いため、アークが不安定となり、スパッタが増加した。
【0051】
また、表3の試料No. 63はCr量が多いため、靱性が劣化した。No. 65はCaとFが多いため、ビード外観が悪化し、かつ、スパッタが増加した。No. 66では、LiをAlLiとして添加したため、O量が少なくなり、スラグの形成が悪くなったため、ビード外観が悪化した。No. 67では、SiをSiO2 、BaをBaCO3 、LiをLiFe O2 として添加したため、O量が過剰になり、スパッタが増加したため、溶接性が良くない。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したとおり、本発明のセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤによれば、優れた溶接作業性を有し、しかも耐気孔性および靱性に優れる溶接金属が得られ、従来のセルフシールド溶接用ワイヤにおける適用限界を大きく破るものであり、セルフシールド溶接分野における利用価値は著大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】FP(フェライトパラメータ)がδフェライト生成量および靱性値に及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】種々の外皮形状を示すセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤの横断面図である。
Claims (3)
- フラックスが鋼製外皮内に充填されたセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤであって、
ワイヤ全重量に対してフラックス成分がwt%で、
Al:1.5〜4.0%、
Mg:0.5〜2.0%、
Ba:1.0〜4.8%、
Li:0.05〜4.00%、
Ni:0.1〜3.0%、
Mn:0.5〜3.0%、
C :0.01〜0.30%、
Si:0.01〜0.50%、
F :0.5〜4.0%、
O :0.1〜21.0%、
Sr:0.01〜2.00%
を主成分として有し、かつ下記式で定義されるFP値が0.00以上であるセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤ。
FP=C−0.145 Si+0.013 Mn−0.228 Al+0.199 Ni+0.393
ただし、PF式中の元素記号はその元素のワイヤ全重量に対する含有量wt%を意味する。 - ワイヤ全重量に対してフラックス成分がさらに
Ca:0.01〜4.00%
を含有する請求項1に記載したセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤ。 - ワイヤ全重量に対してフラックス成分がさらに
Cr:0.5%以下
を含有する請求項1又は2に記載したセルフシールド溶接用フラックスコアードワイヤ。
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