JP4259651B2 - テレフタル酸の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はテレフタル酸の製造方法に関する。詳しくは、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルの製造原料として粉体特性、及びグリコール類と混合したときのスラリー特性的に好適な粒度分布を有するテレフタル酸を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
本発明で対象となるテレフタル酸は、主としてパラキシレンを分子状酸素で液相酸化して製造される。
代表的には、パラキシレンを低級脂肪族カルボン酸、例えば酢酸溶媒中でコバルト、マンガン等の遷移金属化合物及び臭素化合物を含む触媒の存在下、分子状酸素含有ガス、通常は空気を供給して液相酸化することにより実施される。
【0003】
生成した粗テレフタル酸は、酢酸溶媒への溶解度が小さいので析出してテレフタル酸スラリーを形成する。通常、このテレフタル酸スラリー中のテレフタル酸は各種の不純物を多量に含んでおり、更なる精製を必要とする。
代表的な精製法の一つとして、例えば、パラキシレンの液相酸化で得た粗テレフタル酸結晶を酢酸溶媒から分離し、これを水性媒体、通常は水のスラリーとしたのちに加熱溶解させて高温、高圧下、水素ガスと一緒に貴金属触媒を充填した反応床を通過させる方法(特公昭41−16860)が知られている。
【0004】
かかる方法で精製したテレフタル酸の水溶液を複数の晶析槽で段階的に冷却させて溶媒中に溶解しているテレフタル酸を析出させ、これを固液分離し、又は必要に応じて洗浄処理した後に固液分離し、乾燥して製品のテレフタル酸とする。テレフタル酸は主としてグリコール類、通常はエチレングリコールと反応させて、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートとして合成繊維やフィルム、ボトル等の製造に用いられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
テレフタル酸とグリコール類を直接反応させる、いわゆる直接重合反応に際しては、テレフタル酸は液体のエチレングリコール等と混合してスラリー状態で反応系へ送られるが、その際、混合時の撹拌に要する動力が小さく、移送時の当該スラリーの粘度が低く、流動性に優れていること、また反応の均一性の高いことが望まれている。
【0006】
さらに、テレフタル酸の輸送や貯蔵等の粉体での取り扱いにおいても良好な流動性が要求されている。
このようなテレフタル酸の良好なスラリー性や反応の均一性を得るには、テレフタル酸に対し多量のグリコール類を用いればよいが、過剰量のグリコールは重縮合反応の際に副反応生成物の発生が増え、ポリマーの融点、重合度の低下、さらには着色の原因となる。これらの欠点を避ける為にはグリコール類を化学理論量に極力近付ければよいが、グリコール類の使用量を減ずると、スラリーの調製槽や反応器での撹拌所要動力が増大し、流動性、反応性を悪くして反応所要時間が長くなる等の問題がある。また、大粒径のテレフタル酸粒子が多くなると、重縮合反応での未反応テレフタル酸が増加するため、例えば200ミクロンを越えるような粒子は少ない方が望ましい。
【0007】
従って、グリコール類の使用量が必要最低量で良好な流動性、反応性を有するスラリーを形成するテレフタル酸が直接重合の原料として好適である。
このような性状はテレフタル酸粒子の粒度分布に依存するところが大きく、それを適正化することが重要な要素である。
しかしながら、上記したテレフタル酸の製法においてテレフタル酸の析出時の条件を制御して粒度分布を制御するのは相当に困難である。
【0008】
その理由の一つには、テレフタル酸結晶の析出時の条件が、主としてテレフタル酸結晶中の不純物濃度の制御を目的として設定されるため、粒度分布の制御のために許容される操作範囲が狭いことが挙げられる。
従来、テレフタル酸の粒度分布を制御するために提案されている方法として、特開昭48−29735には平均粒径100ミクロン以上のテレフタル酸粒子と同50ミクロン以上のテレフタル酸粒子を70〜85%対30〜15%で混合する方法が記載されている。
【0009】
また、特公昭49−20303には溶解度の小さい溶媒に懸濁したテレフタル酸をスラリー状態でポンプによる循環撹拌処理を行なうことにより粒径を減少しながらしだいに見掛け密度を向上し、グリコール類と混合したときの良好なスラリー性を有するテレフタル酸を得る方法が記載されている。
上述の特開昭48−29735の方法では異なった条件で製造したテレフタル酸を別々に貯蔵したのち混合する設備或いは、2種類以上の晶析工程が必要になり、設備的にも経済的にも有利な方法とはいえないばかりでなく、大きな粒子の混合比率が高いためにグリコール類との反応性が低下する。
【0010】
また、特公昭49−20303に記載の方法によれば、ポンプによる粒径減少効果は小さく、所望の見掛け密度を得るまでに長時間を要するという問題がある。
さらに、特開昭56−95921にはテレフタル酸の結晶を溶媒の不存在下に昇温度において容器内で磨砕処理に付する方法が記載されているが、これでは乾燥粉体をハンドリングするために複雑な設備や磨砕のための大きな動力を必要とし、また容器の摩耗が激しいなどの問題がある。
【0011】
したがって本発明の目的は、テレフタル酸をグリコール類と直接反応させる、いわゆる直接重合法に適したスラリー特性、及び反応性を有し、かつ粉体流動性を同時に満足するようなテレフタル酸の粒度分布を容易に制御することのできる製造方法を提供せんとするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らの知見によれば、テレフタル酸粒子の粉体流動性やスラリー特性、及び反応性は、テレフタル酸の粒度分布、及び粒子形状を最適な状態に設計することにより達成され、その手段として上記のテレフタル酸の製造法においてテレフタル酸のスラリーを晶析工程以降のスラリー帯域で湿式粉砕機により処理することにより可能である。
【0013】
上述のような要望されているテレフタル酸の特性を同時に満足させるための粒度分布目標は、グリコール類と混合したスラリーや粉体のテレフタル酸のハンドリング方法、設備の能力等との関係もあって一律に論じることはできないが、概念的にはグリコール類との反応性の観点から粗大粒子の量、例えばふるい分け法で210μm以上は10重量%以下、好ましくは7重量%以下である。
【0014】
微細な粒子の量はスラリー特性的には多いほうが好ましいが、粉体流動性的には少ないほうがよく、両特性を満足させるためには例えば、ふるい分け法の44μm以下が5〜35重量%、好ましくは10〜25重量%である。
本発明者等は、その手段について多角的に研究を進めた結果、テレフタル酸スラリーを固液分離して、得られたテレフタル酸結晶を乾燥して製品テレフタル酸を得るテレフタル酸の製造法において、テレフタル酸がスラリー状態である帯域で湿式粉砕処理をすることにより所望の性状のテレフタル酸が容易に得られること、及び当該スラリーの処理には特定の湿式粉砕機を用いるのが好適であることを見出した。
【0015】
スラリーを湿式粉砕処理するということは、概念的にはテレフタル酸の微粉域、例えばふるい分け法の44μm以下を所望の量に増加させて、グリコール類と混合した場合のスラリー特性を改善することを意味している。
しかし、湿式粉砕処理では微粉量が増加する反面、当然のことながら粗粒子量の減少がありグリコール類との反応性は向上するが、過度の粉砕処理は粉体流動性を悪化させることになる。例えば、粗大なテレフタル酸粒子の破砕、割れを伴うような粉砕による小粒径化は粗粒子や微粉量のコントロールが難しく、且つ粒子の形状悪化が大きい。
【0016】
本発明でいう粉砕処理とは、粒子の表面が削られるような処理、いわゆる「磨砕」の部類の処理と考えられ、粉砕の過程で粗大粒子の表面が削れて粒径が小さくなり、微粉量が増加する。それと同時に処理を受けた全粒子のカドがとれて形状が丸みを帯びる。このような現象と変化によって粒度分布が制御され、スラリー特性や粉体流動性、及び反応性が改善していると考えられる。
【0017】
しかしながら、テレフタル酸スラリーに対し、単に通常の湿式粉砕機等で激しい撹拌処理を行なうと、当該スラリー中に微細な気泡が増加して、いわゆる泡立ち(発泡)が起こり、渦巻きポンプやポンプ機能を有する湿式粉砕機等でのキャビテーションが発生してスラリー移送ができなくなるほか、粉砕動力(粉砕エネルギー)が有効に消費されなくなるなどの問題が生じる。
【0018】
特に比較的低温域、例えば150℃以下でこのような現象が激しくなるが、これは高温高圧の晶析系で溶解していた水素や窒素等のガスが強撹拌で脱気されたり、また液中に溶解している有機不純物に界面活性作用があり発泡したりするために、粘度が高くなった比較的低温のスラリー中に微細な気泡として抱き込まれることによる。
【0019】
従来、このような現象は工業的に上述のテレフタル酸の湿式粉砕処理を実用化する場合の障害の一つとなっている。
本発明者等は、このような問題を有する当該スラリーの湿式粉砕処理を実用化するにあたって種々の構造、形式の湿式粉砕機について検討した結果、ある特定の機種について本発明の目的を問題なく達成できることを見出した。すなわち、該特定の機種の湿式粉砕機は発泡の抑制、又は消泡作用を有しており、処理時の発泡がないばかりでなく、多少の泡を抱き込んだスラリーを当該粉砕機で処理した場合に泡が消失するという特徴を有している。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明で使用する高速回転湿式粉砕機は、放射状的に延びるブレード又は溝が設けられている円盤状の粉砕面を互いに対向してなる2つの粉砕部を有し、これらの粉砕部が前記粉砕面の周方向に相対運動するものである。
図1及び図2は、本発明で使用できる高速回転湿式粉砕機の一例を示す概略の模式断面図及び粉砕部の概略の模式正面図である。以下、図1及び図2を用いて説明する。
【0021】
粉砕機は、円盤状の粉砕面が互いに対向してなる2つの粉砕部を有している。粉砕部は、互いに異なる速度で回転することによって周方向に相対的な回転運動を行わせることも可能であるが、通常は一方の歯を固定し、他方の歯を回転軸を中心に回転させる(以下、便宜上粉砕部の一方を固定歯、他方を回転歯と称することがある)。図1及び図2では符号1が固定歯、符号2が回転歯として表している。粉砕面の形状は、円盤状であればよいが、必ずしも平板的である必要はなく、図1のように円錐側面状になっていてもよい。固定歯1及び回転歯2には、それぞれ放射状的に延びるブレード又は溝(以下単にブレードと称することがある)が複数設けられている。図1には、該ブレード又は溝そのものは図示を省略しているが、それらを設ける場所としての土台(21’、22’、23’、及び24’)を図示してある。図2に示したように、固定歯1に設けられたブレード11,12及び13と回転歯2に設けられたブレード21,22,23及び24とは、相互にかみ合うことなく適当な間隔を以て対向している。また、これらのブレードは、同心円状に構成される複数のブレード列又は溝列を構成していてもよく、好ましくは1−6列、特に好ましくは2−4列のブレード列又は溝列を有するものがよい。ブレード列又は溝列が単数であれ複数であれ、ブレード数又は溝数は1列当たり5−300個とするのが好ましい。この数は少な過ぎても粉砕能力が不十分であるし、多過ぎても粉砕の度合いの調節が困難である他、粉砕操作や機器の管理上、好ましくない。ブレード又は溝は、放射状的即ち略半径方向に向かって延設されている。無論、半径方向に対してある角度を以て設けられていても良い。ブレード又は溝の形状、サイズ、間隔、列間の配置等は本発明の目的が達せられるものであれば特に制限はなく、適宜選択できるが、スラリーを供給して粉砕処理後排出する経路として、例えば中央から供給して周の外の空隙に排出するような図1の場合には、ブレードや溝の形状を中心に向かって細くなっている台形にするのが好ましい。
【0022】
回転歯2は、回転軸3に固定され、回転軸と共に回転する。固定歯1は、ケーシング4に固定され、図示しない間隔調整機構によって、適宜回転歯の粉砕面との距離が調整される。固定歯1の中心部分は円形状の空隙5となっており、ケーシング4に固定された状態において、スラリー導入口6と連通する。
粉砕処理に供されるテレフタル酸スラリーは、スラリー導入口6から導入され、固定歯1と回転歯2との間隙を通過しながら粉砕処理を受け、固定歯1及び回転歯2の周囲に設けられた間隙7を介して図示しない吐出口から排出される。
【0023】
固定歯1と回転歯2の間隙は、通常5ミリメートル以下で使用されるが、間隙が大きいと粉砕処理の効率が低下し、粗大粒子の量や粒度分布目標を達成するのに長時間を要するようになるため、好ましくは3ミリメートル以下に設定するのがよい。逆に間隙が小さすぎると処理のための流量が低下し、粉砕機で処理されるテレフタル酸スラリーの流量が所定の生産レートの全スラリーの流量を下回ってスラリーの全量を平均的に処理するのが困難になるため、通常は0.1ミリメートル以上、好ましくは0.2ミリメートル以上で使用される。
【0024】
高速回転湿式粉砕機の回転歯の回転数、又は先端の周速度は、処理するテレフタル酸粒子の粉砕される強度や所望する処理後の粒度分布目標等によって選定され、通常は先端周速度で毎秒10〜75メートル(m/s)、好ましくは毎秒20〜60メートルの範囲である。周速度が小さすぎると本発明の効果は得にくく、大きすぎるのは実用的ではない。
【0025】
高速回転型湿式粉砕機の粉砕部において、処理されるテレフタル酸スラリーは高速回転する回転歯により遠心力を受けて固定歯との間で構成される間隙での剪断力による流動、及びそれぞれの歯に設けられたブレード、又は溝の相互の間隙内での遠心力による流動等の衝突による衝撃力が粉砕エネルギーとしてテレフタル酸粒子に伝達されて粉砕処理が進行する。その過程で固定歯と回転歯との間隙内ではブレードや溝の間隙のズレがあるため、遠心流れの封じ込めと開放による圧力変化が毎秒106 〜108 回という著しく速い速度で繰り返され、溶解しているガスが気泡化したり、気泡同志が合体する、いわゆる超音波による空洞化に相当する現象が起こって、溶解ガスや気泡が処理スラリーから放出され消失する効果につながるものと理解される。
【0026】
しかしながら、湿式粉砕機によるこのような作用は、高速回転型の粉砕機であればいかなる機種でも本発明の効果を出現できるという訳ではない。例えば、固定歯と回転歯が同じ形状、及びサイズの櫛状のスリットからなり、且つ両歯が相互に噛み合っているような構造では単に粉砕部での撹拌、混合作用が強く、むしろ泡立ちを促進する作用があり好ましくない。
【0027】
また、回転体(歯)にハンマー、ケージ等のタイプを設けた形式や、粉砕媒体にビーズ、ボール、ピン、棒等を備えた撹拌ミルやボールミル等を用いた場合も同様に処理中の泡立ちが激しくなる。このような類の粉砕機ではテレフタル酸粒子の破砕、割れによる微粉化も進行しやすく、粒子形状やサイズのコントロールの面でも本発明の目的とする性状が得られず、さらにビーズやボール等の摩耗が激しくそれらの異物による製品テレフタル酸の汚染が起こるなどの問題がある。
【0028】
通常の渦巻きポンプ類を機械的な処理機の一つとして使用する場合は、逆に粉砕力が極めて小さく、処理効果を出現させるのに長時間を要する。長時間の処理のために槽にポンプ循環ラインを設置することも考えられるが、循環中に処理スラリー中の気泡が徐々に増加してやがてはキャビテーションを引き起こし、テレフタル酸スラリーの循環や移送に支障をきたすため工業的に採用するには無理がある。
【0029】
本発明において粉砕処理をするための場所はテレフタル酸がスラリー状態である帯域であればどこでもよく、パラキシレンを酢酸溶媒中で酸化反応した後に得られたテレフタル酸の酢酸スラリーやこれをさらに追酸化して得られた酢酸スラリーに対して粉砕処理を行うこともでき、テレフタル酸が水等の水性媒体に分散している水性スラリーの状態である帯域にて粉砕処理を行うこともできる。なお、上記酢酸スラリーでは、溶媒の主成分が酢酸であるが、酢酸等の他の溶媒を含有することもある。水性スラリーに対して粉砕処理を行なう場合、特に、上記酸化反応によって得られた酢酸スラリーからテレフタル酸結晶を分離する等の方法によって得られた粗テレフタル酸を、高温高圧下で水等の水性媒体に溶解させ、これを水添触媒及び水素と接触させて精製した後、得られたテレフタル酸の水性溶液を段階的に冷却して晶析することによって得られたテレフタル酸の水性スラリーに対して本発明の効果は顕著である。また、上記の晶析によって得られたスラリーを一旦固液分離して結晶を取得した後、これを再度水性媒体でスラリー化したものも好適である。これらの場合、必ずしもスラリーの全量を粉砕処理に供する必要はなく、その一部のみを粉砕に供することもできる。水添精製を行う場合、精製の条件としては、温度260−320℃程度、水添触媒としては通常パラジウム等の白金族金属が用いられる。なお、水添触媒は適当な担体に担持されていてもよい。
【0030】
また、粉砕は、場合によっては必ずしも槽中で行なう必要はなく、スラリーラインの途中に直接に粉砕機を接続することによって行なうこともできる。
湿式粉砕機は通常一段の処理で目的を達成できるが、粉砕機の処理能力や処理スラリーの流量、設置場所のスペース等によって、適宜複数の粉砕機を直列、又は並列に設置することもできる。
【0031】
また、テレフタル酸スラリーを槽に連続的に導入して懸洗処理を行うとともに、槽内のテレフタル酸の一部を抜き出して、これを槽内に循環させつつ粉砕処理に供する方法も採用することができる。この場合、粉砕機へ導入するテレフタル酸スラリーの流量は、所定の生産レートにおける全スラリー流量に対して少なすぎると平均的な処理が困難になり、逆に多くするとポンプ能力の大きな粉砕機が必要となったり、粉砕機の台数が増加するなどの理由から、通常は槽内に導入されるスラリーに対して容量で0.5〜8倍量、好ましくは0.8〜4倍量とされる。
【0032】
また、粉砕機を設置する温度帯域は特に限定される訳ではないが、水溶媒へのテレフタル酸の溶解度が1重量%を超える高温域、例えば直列に配置された複数の晶析槽の内190℃以上の帯域では、結晶の組み替えと粉砕機による粒子破砕が並行するため粒子の丸みが一段と向上し、表面も緻密な様相を呈するようになって処理効果がより大きくなり好ましい。
【0033】
しかし、必要以上の高温域では粉砕機の耐圧力が問題になることがあるため、実際にはそれらとの関係で限界温度の帯域が決められる。
一般的には、最後段の晶析槽、又は洗浄槽のような160℃以下の帯域でも十分に本発明の目的とする粉砕処理効果が得られる。
上記のごとき精製法を有するプロセスにおいて、テレフタル酸と水溶媒のスラリーは通常、テレフタル酸を10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%の割合で含有するスラリーとして取り扱われる。本発明の効果を出現させるために供給される粉砕エネルギーは、生産される全スラリーの1m3 当り1〜10kwhが好ましく、これは必要な粒度分布の調整幅との関係で決められる。
【0034】
粉砕エネルギーの変更は固定歯と回転歯の種類や間隙、粉砕機への供給流量、及び回転歯の回転数等のいずれか、又は二以上を変えることによって可能であるが、操作的には回転数の変更によるのが便利である。
上述のような粉砕処理における粒度分布の変化を直接的にモニターして供給する粉砕エネルギーを調整すれば、効果的に一定品質の粉体性状を得ることができるので好適である。粒度分布計として適用できる形式としては、レーザー回折散乱法、沈降光透過法、電気抵抗法、顕微鏡法、ふるい分け法等による直接的な方法のほか、粘度計等による間接的方法も採用できるが、レーザー回折散乱法による自動分析計が特に好適である。
【0035】
以上述べたような本発明の方法によれば、気泡を含むテレフタル酸の水スラリーや発泡性のあるスラリーのテレフタル酸の粒度分布や粒子形状を自由にコントロールすることが可能になり、グリコール類と混合したときのスラリー特性や反応性に優れた性状を有するテレフタル酸を得ることができる。これにより当該スラリーの調製槽や反応器での撹拌動力の低減が可能となり、スラリーの配管輸送性も向上するほか、粗大粒子の低減による反応性の向上に対して良好な影響を及ぼすことが確認されている。
【0036】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、結果の表中、「処理後の泡の量」とは、湿式粉砕処理を行なった直後の泡を含むスラリーの全容積で10分間静置後に表面に浮遊した泡層の容積を除し、100倍した値である。
【0037】
「スラリートルク」とはテレフタル酸1モルに対しエチレングリコール1.1モルの割合で混合し、2枚羽根かい型翼で撹拌したときの撹拌トルク(gcm)をいう。「粉体排出性」とは、64mm2 の開口部を有する円筒型ホッパーから、300グラムのテレフタル酸を排出させた時間(秒)をいい、粉体流動性の指標である。
【0038】
また、「粒度分布」は、乾燥したテレフタル酸試料150gをJIS標準ふるいを使用して湿式ふるい分け法で測定した各粒度毎の頻度を重量%で表わしたものである。
スラリートルクは極力低い方が望ましく、粉体排出性は150秒以下、できれば120秒以下が望ましい。
粒度分布に関しては、例えば210ミクロン以上の大粒径の粒子が10%以下、できれば7wt%以下が望ましい。
【0039】
[実施例1]
パラキシレンを酸化して得られた粗テレフタル酸の酢酸スラリーからテレフタル酸結晶を遠心分離機で分離後、乾燥して30重量%水スラリーを調製した。当該スラリーを加熱してテレフタル酸を溶解させ、内部にパラジウム/活性炭触媒を充填した塔型反応器に導入して所定量の水素を供給して、反応圧力9MP、反応温度290℃で水素還元精製処理を行なった。このテレフタル酸水溶液を同じ容量の直列5段の晶析槽で段階的に150℃まで冷却してテレフタル酸を晶出させ、遠心分離した後、再度40重量%の98℃の水スラリーとした。
【0040】
このテレフタル酸スラリーの1.7m3 を容量2.0m3 の撹拌槽に分取して、図1及び図2に示したような構造のブレード高速回転型湿式粉砕機(三井三池化工機社製品、商品名「トリゴナルSM180型」)を用いて、回分法での循環処理を行なった。
湿式粉砕機の固定歯と回転歯の直径は18cmで、その間隙を1.5mmに設定し、回転数を4470rpm(回転歯の先端周速は毎秒42m)、及び循環流量は10m3 /hとした。
【0041】
分取した撹拌槽内のテレフタル酸スラリー1m3 当りに供給した合計エネルギーが4.2kwhになるまで、即ち22分間の循環処理を継続した後のスラリーからテレフタル酸を減圧濾過機で分離した後、105℃で乾燥した。
こうして得られた製品テレフタル酸は、表−1に示した通り、210μm以上の粗粉量が4.6重量%、スラリートルクは170gcm、粉体排出時間は138秒であった。
【0042】
[実施例2]
実施例1と同様の方法にて酸化、分離、精製、晶析、分離の後に再度スラリー化して得られた98℃の40重量%の水スラリーを、連続的に内容積2.0m3 の洗浄槽に毎時4.5m3 の速度で供給し、洗浄槽内の液量を0.6m3 に維持しながらスラリーを連続的に排出させた。
洗浄槽には自己循環ラインで接続されたブレード高速回転型湿式粉砕機(実施例1と同じ)を設けて循環粉砕処理を行なった。
湿式粉砕機の固定歯と回転歯の直径は18cmで、その間隙を1.5mmに設定し、回転数を4810rpm(回転歯の先端周速は毎秒45m)、及び循環流量は12m3 /hとした。
【0043】
洗浄槽から連続的に排出されるテレフタル酸スラリー1m3 当りに供給した粉砕エネルギーは44分間の循環処理で4.3kwhであった。処理後のスラリーからテレフタル酸を減圧濾過機で分離した後、105℃で乾燥した。
こうして得られた製品テレフタル酸は、表−1に示した通り、210μm以上の粗粉量が4.9重量%、スラリートルクは220gcm、粉体排出時間は137秒であった。
【0044】
[実施例3]
湿式粉砕機に実施例1及び2の粉砕機と同様のブレード高速回転型湿式粉砕機(キャビトロン社製品、商品名「キャビトロンCD1020型」)を用い、固定歯と回転歯(直径16cm)の間隙を1.0mmに調整し、回転数を5900rpm(回転歯の先端周速は毎秒49m)、及び循環流量は20m3 /hとした以外は実施例1と同様にして処理後のスラリーからテレフタル酸を減圧濾過機で分離した後、105℃で乾燥した。なお、スラリー1m3 当りに供給した合計エネルギーは12分間の循環処理で4.5kwhであった。
こうして得られた製品テレフタル酸は、表−1に示した通り、210μm以上の粗粉量が5.2重量%、スラリートルクは190gcm、粉体排出時間は127秒であった。
【0045】
[比較例1]
湿式粉砕機による循環処理を行なわなかった以外は実施例1と同様にして得たテレフタル酸の性状を表−1に示す。
【0046】
[比較例2]
洗浄槽に循環ラインを介して、円周方向に櫛状のスリットを設けてなる固定歯及び回転歯が相互にかみ合う構造の粉砕歯を3段有する湿式粉砕機(「マイルダーMDN307型」)を設けて、回転歯(直径6cm)の回転数を5880rpm(回転歯の先端周速は毎秒19m)とし、粉砕機へは毎時8.4m3 のスラリーを渦巻きポンプで供給した。
循環粉砕の開始とともに洗浄槽のスラリー界面上に泡が蓄積し始めて、時間経過とともに増加して19分経過後に流量が不安定となり、25分後にはポンプでの循環が完全に不可能の状態になった。
25分間に洗浄槽内のスラリー1m3 当りに供給した合計エネルギーは2.3kwhであった。
その後、処理を中止して当該スラリーからテレフタル酸を減圧濾過機で分離した後の粉体性状を表−2に示す。
【0047】
[比較例3]
洗浄槽に循環ラインを介して直径3mmのアルミナビーズをポット容積の60%充填したメディア式湿式粉砕機(「パールミルRL型」)を使用し、アジテータシャフトの先端周速を毎秒10mの条件で、テレフタル酸スラリーが当該粉砕機を平均4回通過するまで処理を行なった。
処理後のスラリーからテレフタル酸を減圧濾過機で分離した後の粉体性状を表−2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【発明の効果】
パラキシレンを酸化して得られた粗テレフタル酸を水性媒体に溶解させ、白金族金属触媒と接触させて水素還元精製し、該水性溶液を直列に接続した複数の晶析槽で段階的に冷却した後、テレフタル酸スラリーを固液分離、乾燥して製品テレフタル酸とする高純度テレフタル酸の製造方法において、途中のスラリー帯域で特定の高速回転型湿式粉砕機を用いて処理することにより、テレフタル酸をグリコール類と混合してポリエステル原料に供する際のスラリーの粘度が低く、その流動性に優れ、且つ撹拌に要する動力を小さくできる。また、当該反応の均一性が向上するほか、テレフタル酸の輸送や貯蔵等の取り扱いにおいて良好な粉体の流動性を有するテレフタル酸が得られる。更に粉砕の際の撹拌による泡立ちの問題がなく、スラリー移送が容易で、かつ粉砕動力が有効に消費されるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用できる高速回転湿式粉砕機の一例を示す概略模式断面図。
【図2】本発明で使用できる高速回転湿式粉砕機の一例の粉砕部の概略模式正面図。
【符号の説明】
1:固定歯、2:回転歯、3:回転軸、4:ケーシング、5:空隙、6:スラリー導入口、7:間隙、11,12,13:固定歯に設けられたブレード、21,22,23,24:回転歯に設けられたブレード、21’,22’,23’,24’:回転歯に設けられたブレード21,22,23,24の各々の土台
Claims (8)
- 粗テレフタル酸を水性媒体に溶解させ、これを触媒及び水素と接触させて精製してテレフタル酸の水性溶液とし、該水性溶液を晶析してテレフタル酸の水性スラリーとし、該水性スラリーを固液分離してテレフタル酸結晶を取得し、これを乾燥して製品テレフタル酸とするテレフタル酸の製造方法において、放射状的に延びるブレード又は溝が設けられている円盤状の粉砕面を互いに対向してなる2つの粉砕部を有し、これらの粉砕部が前記粉砕面の周方向に相対運動する高速回転湿式粉砕機を用いて、テレフタル酸の水性スラリーを粉砕処理することを特徴とするテレフタル酸の製造方法。
- 粉砕部が、同心円状に1列以上のブレード列又は溝列を有し、ブレード数又は溝数が、1列当たり5−300個である請求項1に記載のテレフタル酸の製造方法。
- 粉砕部の相互の相対回転速度が、先端周速度として、10〜75m/sである請求項1または2に記載のテレフタル酸の製造方法。
- 粉砕処理の温度が、50−250℃である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のテレフタル酸の製造方法。
- 粉砕処理に供されるテレフタル酸の水性スラリー中のテレフタル酸結晶の濃度が、10〜60重量%である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のテレフタル酸の製造方法。
- 得られた製品テレフタル酸結晶全量中において、ふるい分け法による210ミクロン以上の粒子が10重量%以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のテレフタル酸の製造方法。
- 得られた製品テレフタル酸結晶全量中において、ふるい分け法による44ミクロン以下の粒子が5〜35重量%の範囲である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のテレフタル酸の製造方法。
- 粉砕処理に供給される粉砕エネルギーが、生産される全スラリーの1m3 当り1〜10kwhの範囲である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のテレフタ
ル酸の製造方法。
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