本発明はマルチキャリア受信におけるシンボル内時間変動補償方法及びシンボル内時間変動補償装置に関する。本発明は伝搬特性の時間変動が激しい、移動体におけるマルチキャリア受信装置に適用される。
例えば直交周波数分割多重(OFDM)方式の受信装置においては、伝搬路特性の推定及び補償を、高速フーリエ変換(FFT)ののち、パイロットシンボルを抽出して行っている。この実行方法については次のような文献に記載がある。
特開2000−286817号公報
特開2001−44963号公報
特開2002−261729号公報
橋爪厚盛、岡田実、小牧省三「直交マルチキャリア変調のガード区間を用いた高速フェージング補償方法」、電子情報通信学会技術報告CS97−20,RCS97−8(1997−05)第9−14頁
上記の内、特許文献2及び3はスキャッタードパイロット信号を用いて伝搬路特性を推定するものである。パイロットシンボルを有しないチャネルについては、当該パイロットシンボルを有するチャネルの伝搬路特性から補間して推定し、これに基づき伝搬路特性の補償、即ち周波数領域の等化が行われる。
この技術は、FFT後にパイロットシンボルを抽出する必要がある。しかし、伝搬路特性の時間変動が早い場合、FFT前の時間軸上の信号を補償するための補償係数を、FFT後の周波数軸上の信号によって決定すると、1〜数シンボルもの時間の推定遅延が問題となる。更にその推定遅延の間、FFT前の時間軸上の信号を大容量のバッファ等に一時保管する必要が生じ、ハードウェアの規模の増大を引き起こす。そのため、FFT前の時間軸上の信号に対する時間変動補償には適していない技術であるといえる。
また、非特許文献1の技術は、伝搬路特性の時間変動をFFT処理の前に補償する目的で、OFDMのガードインターバルと、それの複写元である有効シンボル末尾とを用いて、1有効シンボル長での時間軸上での変動を推定するものである。この推定方法は、ガードインターバルが受信信号のどこにあるかを確実に検知しないと適用できない。即ち、非特許文献1の技術を用いる場合には、シンボル同期が必須であり、シンボル同期を確立したのちでなければ時間変動を推定できない。
特許文献1は非特許文献1の具体的な実現方法を示すものである。特許文献1においては、数2、段落19のように、「ガードインターバル全体を用いなくても良い」ものではあるが、それらの意味するところは非特許文献1のそれと同様である。
特許文献1及び非特許文献1の技術を、FFT後にパイロットシンボルを抽出して伝搬路特性を推定する技術と組み合わせた、マルチキャリア受信装置の概略を図10に示す。図10.Aは、マルチキャリア受信装置9000の主要部の構成を示すブロック図である。マルチキャリア受信装置9000は、直交復調部1、シンボル内時間変動補償装置90、同期回路2、ガードインターバル(GI)除去器3、直並列変換器(S/P)4、N点高速フーリエ変換器(FFT)5、周波数領域等化器6、パイロットシンボル抽出器61、チャネル特性推定器62、チャネル特性周波数補間器63及び並直列変換器(P/S)から成る。
アンテナから受信された高周波信号は、直交復調部1で中間周波数帯域に変換されたのち、直交復調及びアナログデジタル変換されて、同相成分Iと直交成分Qとして出力され、シンボル内時間変動補償装置90に入力される。シンボル内時間変動補償装置90にて補償された同相成分Iと直交成分Qは同期回路2とGI除去器3に入力される。同期回路2で高速フーリエ変換(FFT)のウィンドウ区間(時間長Tf)のタイミングが算出されて、シンボル内時間変動補償装置90とGI除去器3に当該タイミング信号が入力される。GI除去器3ではガードインターバルが除去されて、有効シンボルが出力され、S/P4に入力される。
S/P4に入力されたシリアル信号はパラレル信号として出力され、N点高速フーリエ変換器(FFT)5に入力される。N点FFT5に入力されたパラレル信号は高速フーリエ変換されて各キャリアに対応する信号として出力され、周波数領域等化器6とパイロットシンボル抽出器61に入力される。パイロットシンボル抽出器61に入力された信号の内、パイロットシンボルについてのみチャネル特性推定器62に出力される。チャネル特性推定器62においては、パイロットシンボルを有するキャリアのチャネル特性が推定され、チャネル特性周波数補間器63に出力される。チャネル特性周波数補間器63においては、パイロットシンボルを有しないキャリアのチャネル特性が補間され、全てのキャリアのチャネル特性が周波数領域等化器6に出力される。周波数領域等化器6においては全てのキャリアのチャネル特性を補償し、P/S7に出力される。P/S7においてはパラレル信号がシリアル信号として出力され、以降の信号処理が行われる。
シンボル内時間変動補償装置90はシンボル内時間変動推定器91と複素乗算器92から成る。直交復調部1から出力されたデジタル複素信号(同相成分Iと直交成分Q)は、シンボル内時間変動推定器91と複素乗算器92とに出力され、シンボル内時間変動推定器91において1シンボル内の振幅変動と位相変動を補償する複素係数が補間により算出されて、複素乗算器92においてシンボル内の時間変動が補償される。
図10.Bは、図10.Aの構成要素であるシンボル内時間変動推定器91の構成を示すブロック図である。シンボル内時間変動推定器91は、遅延回路911、位相変動推定部912、振幅変動推定部913及び補正係数演算回路914とから構成される。
直交復調部1から出力されたデジタル複素信号(同相成分Iと直交成分Q)は、遅延回路911と、位相変動推定部912と、振幅変動推定部913に入力される。遅延回路911からはデジタル複素信号が有効シンボル長(Tf)だけ遅延された遅延信号が出力され、位相変動推定部912と振幅変動推定部913に入力される。位相変動推定部912においては直交復調部1から出力されたデジタル複素信号と遅延回路911から出力された遅延信号とから、ガードインターバル長の区間における信号を用いて位相変動が推定され、補正係数演算回路914に出力される。短区間振幅変動推定部913においては直交復調部1から出力されたデジタル複素信号と遅延回路911から出力された遅延信号とから、ガードインターバル長の区間における振幅変動が推定され、補正係数演算回路914に出力される。補正係数演算回路914においては、入力された振幅変動と位相変動から、1シンボル内の時間変動を補償する複素係数が補間により算出されて、複素乗算器92に出力される。
特許文献2及び3に記載された技術は、1シンボル長の内部での時間変動補償には適していない。即ち、パイロットシンボルを含むシンボル区間と次のパイロットシンボルを含むシンボル区間との間において1シンボル長あたりの伝搬路特性の変動が無視できる程度に小さい場合には対応できるが、当該2つのシンボル区間の間で1シンボル長あたりの伝搬路特性の変動が無視できないほど大きい場合は当該変動に追随できない。
特許文献1及び非特許文献1に記載された技術は、各シンボル区間ごとに伝搬路特性を推定するので、特許文献2及び3に記載された技術よりも伝搬路特性の変動に対し、追随性が良い。しかし、これらはいずれもガードインターバルの位置、即ちガードインターバルの開始又は終了の情報を必要とするものである。すると、同期回路により、直交復調後のベースバンド信号からガードインターバルの開始又は終了の検出が行われ、同期が確立されるまでは伝搬路特性をFFT前に時間軸上の信号について補償することができない。
本発明は上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、同期の確立を待たずに、また、同期外れの影響を受けることなく1シンボル長よりも短い時間間隔での伝搬路特性の時間変動を補償することである。
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の手段によれば、有効シンボル長Tfの信号に、その末尾の時間長TGIの部分の波形をコピーして先頭に付加した、1シンボルの時間長TSがTS=TGI+Tfであるマルチキャリア変調信号を受信するマルチキャリア受信におけるシンボル内時間変動補償方法において、有効シンボル長Tfよりも短い時間Taを積分区間とし、受信信号の平均振幅を求め、それを基に当該時間Taにおける振幅の補正係数を求め、時間長TSを積分区間とし、受信信号と、受信信号を遅延時間としてTfだけ遅延された遅延信号との複素相関により、時間Tfにおける位相変動を推定し、時間Taごとの位相変動を算出して、それを基に当該時間Taにおける位相の補正係数を求め、時間Taごとの振幅と位相の補償を行うことを特徴とするマルチキャリア受信におけるシンボル内時間変動補償方法である。また、請求項2に記載の手段によれば、TfはTaの整数倍であり、且つTSもTaの整数倍であることを特徴とする。
また、請求項3に記載の手段によれば、有効シンボル長Tfの信号に、その末尾の時間長TGIの部分の波形と同一波形を先頭に付加した、1シンボルの時間長TSがTS=TGI+Tfであるマルチキャリア変調信号を受信するマルチキャリア受信装置のシンボル内時間変動補償装置において、有効シンボル長Tfよりも短い時間Taを積分区間として、受信信号の平均振幅を求め、それを基に当該時間Taにおける振幅の補正係数を求める短区間振幅変動推定部と、直交復調された受信信号と、受信信号を遅延時間としてTfだけ遅延された遅延信号とが入力され、時間長TSを積分区間とし、受信信号と、遅延信号との複素相関により、時間Tfにおける位相変動を推定し、時間Taごとの位相変動を算出し、位相の補正係数を求める位相変動推定部と短区間振幅変動推定部の出力する振幅の補正係数と、位相変動推定部の出力する位相の補正係数により、受信信号のシンボル内の時間変動を補償する複素乗算器とを有することを特徴とするマルチキャリア受信装置のシンボル内時間変動補償装置である。
また、請求項4に記載の手段によれば、TfはTaの整数倍であり、且つTSもTaの整数倍であることを特徴とする。また請求項5に記載の手段によれば、請求項3又は請求項4に記載のシンボル内時間変動補償装置を有するマルチキャリア受信装置である。
本発明の特徴を図を用いて説明する。まず、図1.Aのように以下で用いる記号を定義する。時刻tにおける受信信号をr(t)とする。また、1シンボルの時間長TSがガードインターバル(GI)の時間長TGIと有効シンボル長Tfの和になっている。このような時間長TSのシンボルが連続した受信信号r(t)が受信される。
ここで、伝搬路特性の時間変動が例えば1.Bの様であるとすると、受信信号r(t)の、有効シンボル長Tfより短い時間区間Ta(即ちTa<Tf)において、平均振幅推定値は図1.Cのように推定される。このように、本発明によれば平均振幅推定値から、有効シンボル長Tfより短い時間区間Taごとに振幅変動を補償することが可能となる。この時、同期回路からのガードインターバルの時間軸上の位置情報(同期信号)は不要である。
これを数式を用いて説明する。以下では、実施例において平滑化を行う構成の説明と併用するため、平滑化を用いるが、当該平滑化は本発明の本質ではない。まず、受信信号r(t)の、時間区間T
a内での平均電力は次の式(1)で求められる。
必要に応じ、ノイズによる大きな変動をさせないよう、平均電力を平滑化する。これを式(2)で表す。
この平方根が時間区間T
a内での平均振幅推定値となり、その逆数と、所定の値Aとの積が、時間区間T
a内での振幅の時間変動の補償係数となる。即ち式(3)である。この所定の値Aは、以降の信号処理が適切に行われるよう、設計に応じ設定されるものである。これにより、補償後の振幅は一定値Aに保たれる。
次に図2を用いて、位相変動の補償について説明する。受信信号r(t)と、有効シンボル長Tfだけ遅延された遅延信号r(t−Tf)との関係は図2の上半分の様である。受信信号r(t)の有効シンボルの末尾の区間は、有効シンボル長Tfだけ遅延された遅延信号r(t−Tf)とのガードインターバルと一致する。仮に、時間Tfの間に伝搬路特性の位相変動が無ければ、遅延信号r(t−Tf)におけるガードインターバル(GI)と、その複写元である受信信号r(t)の有効シンボルの末尾は波形が完全に一致する。
そこで、開始位置任意の積分区間長TSで、ガードインターバルに対応した有効シンボルの末尾を含む受信信号r(t)と、当該ガードインターバルを含む遅延信号r(t−Tf)の複素相関を演算する。積分区間長Tsのうち、受信信号r(t)のガードインターバルに対応した有効シンボルの末尾と遅延信号r(t−Tf)の当該ガードインターバルとの複素相関以外の積分区間においては、キャリア数が数千と大きいことも有り、統計論的に複素相関は極めて小さいものと考えることができる。即ち、受信信号r(t)のガードインターバルに対応した有効シンボルの末尾と遅延信号r(t−Tf)の当該ガードインターバルとの複素相関が、積分区間長TSで大きな値を占める。遅延信号r(t−Tf)におけるガードインターバル(GI)と、その複写元である有効シンボルの末尾は波形が完全に一致する場合、複素相関が実数となり、複素相関の偏角が0となる。また、遅延信号r(t−Tf)におけるガードインターバル(GI)と、その複写元である有効シンボルの末尾は波形が完全には一致しない場合、複素相関は虚部を有し、複素相関の偏角は0とならない。そこでこの偏角を位相変動とする。この位相変動は、ガードインターバル(GI)の開始の時刻からその複写元の開始の時刻までの時間Tf間の位相変動である。
本発明においては、位相変動を推定するための積分区間は1シンボルの時間長TSであり、必ず遅延信号r(t−Tf)におけるガードインターバル(GI)と、その複写元である受信信号r(t)の有効シンボルの末尾を含むこととなる。また、位相変動を推定するための積分区間はその開始のタイミングは、各シンボルと同期する必要がない。本発明において各積分区間が遅延信号r(t−Tf)におけるガードインターバル(GI)と、その複写元である受信信号r(t)の有効シンボルの末尾を含めば良く、且つ1のガードインターバル(GI)全体を1の積分区間内に有している必要はない。即ち相関演算のための積分区間が、その開始において遅延信号r(t−Tf)におけるあるシンボルのガードインターバル(GI)の途中から始まり、積分区間が、その終了において遅延信号r(t−Tf)におけるあるシンボルのガードインターバル(GI)の途中で終了しても、位相変動は算出可能である。なぜならば、1シンボルにおけるガードインターバルの一部とその一部に対応する有効シンボルの末尾の部分と、次のシンボルにおけるガードインターバルの一部とその一部に対応する有効シンボルの末尾の部分とが積分区間に常に存在することになるからである。
これを数式を用いて説明する。まず、受信信号r(t)の、時間区間T
f内での位相変動(時間差T
fの2時刻での位相差)φは、積分区間長T
Sの複素相関関数により次の式(4)で求められる。尚、r
*(t)はr(t)の複素共役を、argは複素数の偏角(argument)を示す。
これを簡単に説明する。まず、図2のように、区間長T
sにおいて、遅延信号r(t−T
f)は、第mキャリアのOFDMシンボルがa
mから、OFDMシンボルがb
mのガードインターバルとOFDMシンボルがb
mへと、信号r(t)は、第mキャリアのOFDMシンボルがb
mから、OFDMシンボルがc
mのガードインターバルとOFDMシンボルがc
mへと、移行していく。そこで、信号r(t)のOFDMシンボルがb
mである先頭をn=0として、シンボル長T
fをN等分してサンプリング間隔をτとし、式(5−1)、式(5−2)のように表現する。尚、Gはガードインターバル長T
GIをサンプリング間隔τで除したものである。また、ωはサブキャリアの周波数間隔でω=2π/T
fである。即ち、T
f=nτ、T
GI=Gτで、Nτω=2πである。また、jは虚数単位、θ
m,n等は各第mキャリア第nサンプリングでの伝搬路特性により生じた位相である。また、信号r(t)のOFDMシンボルがb
mと遅延信号r(t−T
f)のOFDMシンボルがb
mのガードインターバルとが重なる部分をnτ∈T
gと表し、区間長T
sのうち、T
gより前の部分をT
pre、後の部分をT
postと示した。
式(5−1)と式(5−2)から、まず信号r(t)のOFDMシンボルがb
mと遅延信号r(t−T
f)のOFDMシンボルがb
mのガードインターバルとが重なる部分(nτ∈T
g)について、式(4)の複素積分の部分を展開すると式(6)のようになる。ここにおいて、第2項は、キャリア数(m及びlの値域)が数千であることを考慮すると、x=(l−m)n(modN)が区間0≦x<Nで一様分布し、複素数b
m *及びb
lが独立且つランダムで、θ
m,nがnに対して直線的に変化していると近似できる、即ちθ
l,n-N−θ
m,nがnに対してほぼ定数と考えれば、統計論的に0であると考えることができる。
次に、信号r(t)のOFDMシンボルがb
mで遅延信号r(t−T
f)のOFDMシンボルがa
mであるnτ∈T
preの部分について、式(4)の複素積分の部分を展開すると式(7)のようになる。ここにおいて、第1項は複素数b
m *及びa
mが独立且つランダムであるので、キャリア数mが数千であることを考慮すると、統計論的に0であると考えることができる。また、第2項も、b
m *及びa
lが独立且つランダムであり、2つの指数部分のうち、θ
l,n-N+G−θ
m,nがnに対して定数、y=(l−m)n+lG(modN)が区間0≦x<Nで一様分布するので、キャリア数(m及びlの値域)が数千であることを考慮すると、統計論的に0であると考えることができる。
式(7)が統計論的に0であると考えることができるのと同様、信号r(t)のOFDMシンボルがc
mで遅延信号r(t−T
f)のOFDMシンボルがb
mであるnτ∈T
postの部分についても、統計論的に0であると考えることができる。結局、式(4)の複素積分の部分は、式(6)の第1項で近似できる。更に、式(6)で、θ
m,n-N−θ
m,nが、各m毎に一定でθ
m,n-N−θ
m,n=Δθ
mとおけるならば、結局式(6)の偏角は、更に次の(8)のように表すことができる。即ち、式(4)は、各キャリアの位相差Δθ
mを、キャリアの振幅の平方で加重平均したものを示す。尚、θ
m,n-N−θ
m,n=Δθ
mとおいたことは、時間軸方向に対して位相の変化が線形であることを示す。
ノイズによる大きな変動をさせないよう、位相変動を平滑化する。これを式(9)で表す。
式(9)の位相変動は時間区間T
f間における位相変動であるので、これを上述の振幅変動の補償係数を求めた時間区間T
aあたりの位相変動に換算する。即ち式(10)である。
各時間区間T
aでの位相変動の補償係数は、その前の位相変動の累積値(φの上に〜の記号を付けて示す)に、位相変動式(10)を加えたものである。よって、位相変動の補償係数は絶対値が1の複素数として、式(11)で示される。
このように、式(3)と式(11)で、時間変動を補償する係数が求められるので、これらを当該時間区間Taの信号に乗ずることで、振幅及び位相の時間変動を補償することができる。
このように本発明によれば、FFT処理前において、有効シンボル長Tfよりも短い時間区間Taごとに振幅変動と位相変動とが補償されるので、伝搬路特性の時間変動の激しい受信環境においてもビット誤り率の小さい補償方法、補償装置、及び受信装置とすることができる。また、同期の確立の前に伝搬路特性の時間変動を補償できるので、簡易且つ小型の構成とすることができる。
以下、図を用いながら本発明の実施例について説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
図3.Aは実施例1に係るマルチキャリア受信装置1000の主要部の構成を示すブロック図である。マルチキャリア受信装置1000は、直交復調部1、シンボル内時間変動補償装置10、同期回路2、ガードインターバル(GI)除去器3、直並列変換器(S/P)4、N点高速フーリエ変換器(FFT)5、周波数領域等化器6、パイロットシンボル抽出器61、チャネル特性推定器62、チャネル特性周波数補間器63及び並直列変換器(P/S)から成る。
直交復調部1において、アンテナから受信された高周波信号は、中間周波数帯域に変換されたのち、直交復調及びアナログデジタル変換されて、同相成分Iと直交成分Qとして出力され、シンボル内時間変動補償装置10に入力される。シンボル内時間変動補償装置10にて補償された同相成分Iと直交成分Qは同期回路2とGI除去器3に入力される。同期回路2で高速フーリエ変換(FFT)のウィンドウ区間(時間長Tf)のタイミングが算出されて、GI除去器3に当該タイミング信号が入力される。GI除去器3ではガードインターバルが除去されて、有効シンボルがS/P4に入力される。
S/P4に入力されたシリアル信号はパラレル信号として出力され、N点高速フーリエ変換器(FFT)5に入力される。N点FFT5に入力されたパラレル信号は高速フーリエ変換されて各キャリアに対応する信号として出力され、周波数領域等化器6とパイロットシンボル抽出器61に入力される。パイロットシンボル抽出器61に入力された信号の内、パイロットシンボルについてのみチャネル特性推定器62に出力される。チャネル特性推定器62においては、パイロットシンボルを有するキャリアのチャネル特性が推定され、チャネル特性周波数補間器63に出力される。チャネル特性周波数補間器63においては、パイロットシンボルを有しないキャリアのチャネル特性が補間され、全てのキャリアのチャネル特性が周波数領域等化器6に出力される。周波数領域等化器6においては全てのキャリアのチャネル特性を補償し、P/S7に出力される。P/S7においてはパラレル信号がシリアル信号として出力され、以降の信号処理が行われる。
シンボル内時間変動補償装置10はシンボル内時間変動推定器11と複素乗算器12から成る。直交復調部1から出力されたデジタル複素信号(同相成分Iと直交成分Q)は、シンボル内時間変動推定器11と複素乗算器12とに出力され、シンボル内時間変動推定器11において時間間隔Ta(Ta<Tf)ごとの振幅変動と位相変動を補償する複素係数(式(3)と式(11)の積)が算出されて、複素乗算器12においてその補正係数を受信信号に乗ずることでシンボル内の時間変動が補償される。尚、複素乗算器12にはシンボル内時間変動推定器11からの補償係数の出力を待つため、直交復調部1から出力されたデジタル複素信号を記憶するバッファを有するものとする。
図3.Bは、図3.Aの構成要素であるシンボル内時間変動推定器11の構成を示すブロック図である。シンボル内時間変動推定器11は、有効シンボル長(Tf)遅延回路111、位相変動推定部112、短区間振幅変動推定部113及び補正係数演算回路114とから構成される。
直交復調部1から出力されたデジタル複素信号(同相成分Iと直交成分Q)は、有効シンボル長(Tf)遅延回路111と、位相変動推定部112と、短区間振幅変動推定部113に入力される。有効シンボル長(Tf)遅延回路111からはデジタル複素信号が有効シンボル長(Tf)だけ遅延された遅延信号が出力され、位相変動推定部112に入力される。位相変動推定部112においては直交復調部1から出力されたデジタル複素信号と有効シンボル長(Tf)遅延回路111から出力された遅延信号とから、式(4)、(9)〜(11)により時間間隔Ta(Ta<Tf)ごとの位相変動が推定され、補正係数演算回路114に出力される。短区間振幅変動推定部113においては直交復調部1から出力されたデジタル複素信号から時間間隔Ta(Ta<Tf)ごとの振幅変動が式(1)〜(3)により推定され、補正係数演算回路114に出力される。補正係数演算回路114においては、入力された振幅変動と位相変動から、区間Ta内における時間変動を補償する複素係数(式(3)と式(11)の積)が算出され、複素乗算器12に出力される。
シンボル内時間変動推定器11の内部での演算を図4に示す。図4.Aは振幅変動補正係数を演算する手順、図4.Bは位相変動補正係数を演算する手順を各々ブロック図的に示したものである。以下のシミュレーションとの対応のため、有効シンボル長Tfを1.008ms、ガードインターバル長TGI=Tf/8=126μs、1シンボルの時間長TS=TGI+Tf=1.134ms、Ta=Tf/8=126μsとする。また、FFTを8192点FFTとして、有効シンボル長Tfを8192サンプルとする。ガードインターバル長TGIとTaは1024サンプル、1シンボルの時間長TSは9216サンプルとなる。
図4.Aのように、振幅変動補正係数を演算する手順は、デジタル複素信号の平均振幅を推定するため、まず同相成分Iと直交成分Qを各々2乗して和を求めて区間Ta=126μsで積分し、1024等分して平均電力推定値を求める(SA1)。次に平均電力を平滑化し(SA2)、平方根を算出して平均振幅推定値とし(SA3)、この逆数をとれば(SA4)、振幅変動の補正係数となる。
図4.Bのように、位相変動補正係数を演算する手順は、区間長を1シンボル長Ts=1.134msとして、デジタル複素信号と、その信号を有効シンボル長Tf=1.008msだけ遅延された遅延信号との複素相関を求める(SD、SP1、SP2)。この複素相関においては、積分区間(長さ1シンボル長Ts)が、本来の1シンボルであるガードインターバルの開始からと有効シンボルの終了までと一致する必要はなく、有効シンボル長Tfの遅延により必然的に遅延信号のガードインターバルと、デジタル複素信号の対応すべき有効シンボルの末尾は重なる。更に遅延信号の1個のガードインターバルの全体が積分区間(長さ1シンボル長Ts)に含まれる必要もなく、積分区間(長さ1シンボル長Ts)の初めが遅延信号の1個のガードインターバルの途中から開始し、積分区間の終わりが遅延信号の次のガードインターバルの途中までとなっていても良い。
この複素相関においては、遅延信号と受信信号の位相差が無い、即ちある時刻tに受信を開始した、1シンボルの先頭のガードインターバル(区間長TGI)と、時刻t+Tfに受信を開始した対応する1シンボルの末尾の区間長TGIが完全に一致する場合には、複素相関は実数となり、偏角即ち位相差は0である。一方、遅延信号と受信信号の位相差が有る場合、複素相関は虚部を有し、その偏角が位相差となる。各キャリアの位相差が十分小さい場合(有効シンボル長Tfは小さいので通常成立する)は、偏角は各キャリアの位相差の、電力加重平均となる。これを利用して位相変動を推定する(SP3)。これは遅延時間である、有効シンボル長Tf=1.008msにおける位相変動である。
次に位相変動を平滑化し(SP4)、振幅変動との補正係数の更新と更新タイミングを合せるため、振幅変動の算出時間Taが有効シンボル長Tfの1/8であるので8で除する(SP5)。これを9回累積して、1シンボル長Ts分の9個の位相変動累積値を順次算出する(SP6)。必要に応じ、算出結果を−πからπの範囲、或いは0から2πの範囲に収める。これを位相変動の補正係数(複素数、絶対値は1)とする(SP7)。
図4の各段階の作用を有する図1の構成要素は次の通りである。図4.AのSA1、SA2及びSA3は短区間振幅変動推定部113が担い、図4.AのSA4は補正計数演算回路114が担う。図4.BのSDは遅延回路111が担い、SP1乃至SP6は位相変動推定部112が担い、SP4は補正計数演算回路114が担う。補正係数演算回路114は、振幅変動補正係数(実数)と位相変動補正係数(複素数、絶対値は1)の積を各区間(区間長Ta)の補正係数として複素乗算器12に出力する。
本実施例のシミュレーション結果を図5に示す。横軸はドップラー周波数、縦軸はそれに対する平均ビット誤り率(Average BER)である。シミュレーションの条件として、変調パラメータはISDB−T(モード3)に準拠して、有効シンボル長Tfを1.008ms、8192サンプル、TGI=Tf/8、変調方式を64QAMとした。また、伝搬路モデルをフラットフェージングでEb/No=30.0dBとした。また、短区間振幅変動推定部においては積分区間長Ta=Tf/8、平滑化(図4でSA2)の忘却係数を0.9とし、位相変動推定部においては積分区間長をTGI+Tf、平滑化(図4でSP4)の忘却係数を0.5とした。シンボル内時間変動補償を行わないものと比較し、ドップラー周波数10〜50Hzにおいて平均ビット誤り率(Average BER)が1/5程度に低下し、大幅な改善が見られた。尚、忘却係数とは、次の意味で用いた。即ち、忘却係数をγ(但し0≦γ≦1)とし、平滑化回路への入力信号をp(n)、出力q(n)とすると、q(n)=γq(n-1)+(1-γ)p(n)の関係がある。従って、忘却係数γが大きいほど平滑化が大きい。また、忘却係数γが0の場合は、平滑化を全く行わずに入力信号がそのまま出力信号となる。
本実施例の構成と請求項3の構成の対応は以下のとおりである。シンボル内時間変動補償装置10がシンボル内時間変動補償装置に対応し、短区間振幅変動推定部113及び補償係数演算回路114が短区間振幅変動推定部に対応し、位相変動推定部112及び補償係数演算回路114が位相変動推定部に対応し、複素乗算器12が複素乗算器に対応する。
図6.Aは、実施例2に係るマルチキャリア受信装置2000の主要部の構成を示すブロック図である。図6.Aのマルチキャリア受信装置2000は、図3.Aのマルチキャリア受信装置1000のシンボル内時間変動補償装置10を、シンボル内時間変動補償装置20に置き換えた他は全く同一の構成を有する。このため、図3.Aのマルチキャリア受信装置1000の構成要素と同一の構成要素については、図6.Aでも同じ符号を付した。
図6.Aのシンボル内時間変動補償装置20の構成の、図3.Aのシンボル内時間変動補償装置10との構成の違いは、遅延回路111をシンボル内時間変動推定器21外に有する(図6.A)か、遅延回路111をシンボル内時間変動推定器11内に有する(図3.A)かの違いのみである。また、図6.Bに示す通り、シンボル内時間変動推定器21の構成要素は、全て図3.Bのシンボル内時間変動推定器11の構成要素と対応するものであって同一の符号を付し、同一の作用を有する。また、図6.Aの複素乗算器22が有する直交復調部1から出力されたデジタル複素信号を記憶するバッファは、遅延回路111の遅延時間だけ、図3.A複素乗算器12が有する直交復調部1から出力されたデジタル複素信号を記憶するバッファよりも小さいものすることができる。
このような図6.Aのマルチキャリア受信装置2000も、図3.Aのマルチキャリア受信装置1000と同一の作用及び効果を有する。
図7は、実施例3に係るマルチキャリア受信装置3000の主要部の構成を示すブロック図である。マルチキャリア受信装置3000はダイバーシチ或いはアダプティブアレイのような、複数のアンテナからの受信信号を重み付けて合成して復調する受信装置である。マルチキャリア受信装置3000は2つのアンテナに対応して直交復調部1aと1bを設け、複素乗算器82aと82b、重み係数演算部81と加算器83を更に有するほかは、図3.Aのマルチキャリア受信装置1000と全く同一の構成である。
2つのアンテナに対応した直交復調部1a及び1bの出力であるデジタル複素信号は、各々複素乗算器82aと82bに入力されるほか、重み係数演算部81にも入力される。また、複素乗算器82aと82bでは直交復調部1a及び1bの出力と重み係数演算部81から出力される各々の複素係数とが乗ぜられて、加算器83に出力される。加算器83は複素乗算器82aと82bの出力を加算した結果を、シンボル内時間変動補償装置10と重み係数演算部81に出力する。
このような図7のマルチキャリア受信装置3000は、ダイバーシチ或いはアダプティブアレイによる効果に加えて、図3.Aのマルチキャリア受信装置1000の作用及び効果を有する。図7のマルチキャリア受信装置3000は、既存のダイバーシチ或いはアダプティブアレイ受信装置に対し、シンボル内時間変動補償装置10を付加するのみで構成できるので、極めて容易に構成することができる。
図8.Aは、実施例4に係るマルチキャリア受信装置4000の主要部の構成を示すブロック図である。マルチキャリア受信装置4000は、直交復調部1の出力である複素信号を、3つの帯域に分けて各々シンボル内時間変動の補償を行う構成としたものである。マルチキャリア受信装置4000は3つの帯域に分割するための帯域濾波器(BPF)85a、85b、85cと、それに対応する3つのシンボル内時間変動補償装置10a、10b、10cと、加算器86を有する他は図3.Aのマルチキャリア受信装置1000と全く同一の構成であり、それら構成要素には同一の符号を付した。また、図8.Aの3つのシンボル内時間変動補償装置10a、10b、10cの構成要素は各々シンボル内時間変動推定器11aと複素乗算器12a、シンボル内時間変動推定器11bと複素乗算器12b、シンボル内時間変動推定器11cと複素乗算器12cであり、それらは、各々図3.Aシンボル内時間変動補償装置10の構成要素であるシンボル内時間変動推定器11と複素乗算器12と全く同一の構成及び作用を有する。
3つのBPF85a、85b、85cは図8.Bのように、複素信号帯域の中心を示す上向きの矢印に対し、各々3分割された1部の帯域を濾波する。これにより狭い帯域のBPFで分割されたそれぞれの信号に対し独立にシンボル内時間変動の補償を行うので、図3.Aのマルチキャリア受信装置1000よりも更にシンボル内時間変動の補償を確実なものとすることができる。即ち、振幅変動、位相変動とも、分割された帯域ごとに推定及び補償係数の決定を行うことで、広帯域では周波数に対して大きな分散となる振幅変動と位相変動が、狭帯域で周波数に対して比較的小さな分散とすることができるからである。
〔変形例〕
図4.A及び図4.Bには、図3.Bのシンボル内時間変動補償装置の構成に対応させて演算手順の一例を示したが、演算手順は図9.A、図9.B、図9.Cのように順序を入れ換えても良い。図9.Aは図4.Aの平滑化の手順(SA2)と、平方根を求める手順(SA3)を入れ換えたものである。図9.Aのような順序にしても、振幅変動補正係数は図4.Aとほぼ同様に求められることは明らかである。
図9.Bは、図4.Bの位相を求める手順(SP3)と平滑化の手順(SP4)を入れ換え、且つ、位相を複素係数とする手順(SP7)と位相変動累積値を求める手順(SP6)とを入れ換えたものである。位相を複素係数とする手順(SP7)の後の位相変動累積値を求める手順(SP6)においては、複素係数が累積的に乗ぜられていく。
図9.Cは、図4.Bの平滑化の手順(SP4)と8で除する手順(SP5)を入れ換え、且つ、位相を複素係数とする手順(SP7)と位相変動累積値を求める手順(SP6)とを入れ換えたものである。位相を複素係数とする手順(SP7)の後の位相変動累積値を求める手順(SP6)においては、複素係数が累積的に乗ぜられていく。
上記各実施例ではシンボル内の位相の時間変動の補償も行う構成としたが、これを略し、短区間振幅変動のみをシンボル内の時間変動として補償する構成としても良い。これにより大幅に構成を簡略化することができる。
本発明は列車や、高速道路を走行する車両等の移動体通信に適用すると特に効果的である。
本発明で用いられる受信信号と伝搬路特性の変動とそれに伴う平均電力推定値の一例を示す概念図。
本発明における積分区間の位置を示す図。
3.Aは実施例1に係るマルチキャリア受信装置1000の主要部の構成を示すブロック図、3.Bはシンボル内時間変動推定器11の構成を示すブロック図。
実施例1のシンボル内時間変動推定器10の構成を示すブロック図。
実施例1のマルチキャリア受信装置の、シミュレーション結果を示すグラフ図。
6.Aは実施例2に係るマルチキャリア受信装置2000の構成を示すブロック図、6.Bはシンボル内時間変動推定器21の構成を示すブロック図。
実施例3に係るマルチキャリア受信装置3000の構成を示すブロック図。
8.Aは実施例4に係るマルチキャリア受信装置4000の構成を示すブロック図、8.BはBPF85a、85b、85cの通過帯域を示す概念図。
変形例に係るシンボル内時間変動推定器の構成を示すブロック図。
10.Aは従来のマルチキャリア受信装置9000の構成を示すブロック図、10.Bはシンボル内時間変動推定器91の構成を示すブロック図。
符号の説明
1:直交復調部
2:同期回路
3:ガードインターバル(GI)除去器
4:直並列変換器(S/P)
5:N点FFT
61:パイロットシンボル抽出器
62:チャネル特性推定器
63:チャネル特性周波数補間器
6:周波数領域等化器
7:並直列変換器(P/S)
10:シンボル内時間変動補償装置
11:シンボル内時間変動推定器
12:複素乗算器
111:有効シンボル長(Tf)遅延回路
112:位相変動推定部
113:短区間振幅変動推定部
114:補償係数演算回路