JP4253811B2 - 表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接する方法及びそのためのスタッド溶接装置 - Google Patents

表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接する方法及びそのためのスタッド溶接装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、表面に塗装等により塗料層が形成された母材に、ピンを溶接する方法及びそのためのスタッド溶接装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
母材の表面に塗料層が形成されていると、塗料層が電気的な絶縁材となるため、ピンを母材本体に直接溶接する通常の条件下では、ピンを溶着することができない。このため、塗料層をグラインダ等で削り取ったのち、母材本体にピンを溶接している。そのような手間のかかる厄介な研削作業を解消するために、特公平6−72465号には、挿し込んだピンを溶接ガンの操作により押圧しながら50〜90度回転させ、それによってピンの先端を鉄鋼材表面の絶縁層を通して溶接可能な部分まで進入させ、次いで溶接を行う方法が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記の特公平6−72465号の方法では、ピンの先端を鉄鋼材表面の絶縁層を通して溶接可能な部分まで進入させるには、ピンは少なくとも座屈しない程度の剛性を必要とし、さらにピンの先端は針形や刃形に加工されているとともに、焼き入れ処理等により絶縁層より高い硬度を備えていなければならない。さらに、ピンの先端が鉄鋼材表面の絶縁層を通して溶接可能な部分まで進入したかどうかを判断することが困難である。
【0004】
本発明はそのような課題を解決して、簡単な溶接電源回路により、黄銅のような剛性の低いピンであっても、表面上に塗料層が形成された母材に溶接することができる方法及びそのために使用するスタッド溶接装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接するにあたり、ピンを母材本体に溶接するための主電源及びその電荷を蓄える主充電コンデンサ、並びに塗料層を破壊するための主電源より高電圧の副電源及びその電荷を蓄える主コンデンサより低容量の副コンデンサとを備えた電源部に、先端を尖鋭にしたピンを保持した溶接ガンを接続し、そのピンの先端を塗料層に接触するように押圧しながら、ピンと母材本体との間に主コンデンサ及び副コンデンサの電荷を同時に放電させて、塗料層を破壊したのちピンを母材本体に溶接することを特徴とする表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接する方法である。
【0006】
かかる発明では、主コンデンサの低電圧で高容量の電荷に、放電の初期にのみ副コンデンサからの高電圧で低容量の電荷が加算されて放電されるので、母材本体の表面に塗料層が形成されていても、高電圧の電荷によるアークでまず塗料層が破壊され、引き続いて低電圧の電荷によるアークで母材本体が溶融されてピンが母材本体に強固に溶接される。
【0007】
請求項2に記載の発明は、表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接するためのスタッド溶接装置であって、先端を尖鋭にしたピンと、そのピンを保持可能とした溶接ガンと、ピンを母材本体に溶接するための主電源及びその電荷を蓄える主充電コンデンサ、並びに塗料層を破壊するための主電源より高電圧の副電源及びその電荷を蓄える主コンデンサより低容量の副コンデンサとを備えるとともに、主コンデンサ及び副コンデンサに蓄えられた電荷を同時に溶接ガンに供給する回路を設けた電源部とで構成したことを特徴とする表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接するためのスタッド溶接装置である。
【0008】
かかる発明では、主コンデンサの低電圧で高容量の電荷に、放電の初期にのみ副コンデンサからの高電圧で低容量の電荷が加算されて放電されるので、母材の表面上に塗料層が形成されていても、高電圧の電荷によるアークでまず塗料層が破壊され、引き続いて低電圧の電荷によるアークで母材が溶融されてピンを母材に強固に溶接することができる。すなわち、主副の両コンデンサの電荷が、塗料層の破壊とピンの溶接に有効に作用するので、電源部を小型でかつ軽量なものとすることが可能となる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、ピンの先端を、ピンの軸線に対して斜めに切断することにより尖鋭にしたことを特徴とする請求項2に記載の表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接するためのスタッド溶接装置である。
【0010】
かかる発明では、ピンの軸線に対して斜めに切断して先端を尖鋭にしたたピンを使用するものであり、放電初期のアークでピンの先端は溶融して、円弧状にえぐり取られ、その後はピンの先端中心からアークが飛ぶので、ピンの軸線、すなわち溶接しようとする地点を中心に母材本体が溶融される。従って、請求項2に記載の発明の作用効果に加えて、ピンの溶接が確実になり、溶接強度が向上する。また、ピンの先端の尖鋭化は、一枚刃又は二枚刃による切断や鋸刃による切断で可能となるから、その加工コストは低廉である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明のスタッド溶接装置の電源部10の構成を説明するための回路図である。図示しない交流電源から整流された96Vの直流電源が主電源V1に供給され、電荷は容量47,000μFの主コンデンサC1に蓄えられる。同様に1,500Vの直流電源が副電源D2に供給され、電荷は容量5μFのコンデンサC2に蓄えられる。
【0012】
主及び副コンデンサC1,C2のプラス極側は、それぞれ逆流防止用のダイオードD1,D2を介して共に連結され、さらにサイリスタSCRを介して母材本体3に接続されている。また、主及び副コンデンサC1,C2のマイナス極側は共に連結されて、トリガーが引かれたとき溶接ガン1に保持されたピン2に連通する。
【0013】
ピン2は黄銅製の直径1.6mmの丸棒で、その先端をピンの軸に対して60°の角度でニッパで切断したものである。母材本体3は、厚さ0.6mmの亜鉛引き鋼板で、その片面に錆止め塗料を3回塗装して塗料層4を形成したものである。
【0014】
次に溶接工程を説明する。ピン2を溶接ガン1に装着し、電源部10に設けた図示しない、主及び副コンデンサC1,C2の充電完了の信号を確認したのち、ピン2の先端を母材本体3上に形成された塗料層4の表面に接触するように押圧する。そして溶接ガン1のトリガー5を引くと、図示しない制御回路によりサイリスタSCRのゲートに信号が送られ、ピン2と母材本体3間に主及び副コンデンサC1,C2の電荷が同時に放電され、アークが発生して塗料層4が破壊されたのち、ピン2は母材本体3に溶接される。
【0015】
さらに溶接工程を図2により詳細に説明する。ピン2の先端を塗料層4の表面に接触させながらトリガー5を引くと、主コンデンサの低電圧で高容量の電荷に、副コンデンサからの高電圧で低容量の電荷が加算されて放電され、アークにより塗料層4がピン2の接触点を中心に図2(a)で二点鎖線で示すように破壊されるとともに、ピン2の先端もその先端を中心とする円弧状に溶融してえぐり取られる。そして図2(b)に示すように、ピンの先端中心主コンデンサC1の放電、ピン2の先端中心からアークが飛び、ピンの軸線、すなわち溶接しようとする地点を中心に母材本体3が溶融され、図2(c)示すようにピン2が母材本体3に強固に溶着される。この溶接工程の間における溶接電流(I)と時間(T)の波形図を図3に示す。すなわち、放電の初期にのみ、副コンデンサC2からの高電圧で低容量の電荷が、主コンデンサC1の電荷に加算されて放電されている。なお比較例として、塗料層が形成されていない母材に、主コンデンサC1の電荷のみの放電で、ピン2を溶接した場合を図中に破線で示している。
【0016】
なお、上記の実施態様における主電源の電圧、主コンデンサの容量、副電源の電圧、副コンデンサの容量は、ピンの材質、形状、直径など、母材本体の材質、厚さなど、塗料層の種類、厚さなどにより適宜変更されるものであり、示した数値に限定されるものではない。
【0017】
またピンの先端形状も、円錐状や角錐状でも本発明は実施可能であり、またピンの後端に被覆材等の抜け止め用の座金を取り付けることもある。
【0018】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明では、主コンデンサの低電圧で高容量の電荷に、放電の初期にのみ副コンデンサからの高電圧で低容量の電荷が加算されて放電されるので、母材本体の表面に塗料層が形成されていても、高電圧の電荷によるアークでまず塗料層が破壊され、引き続いて低電圧の電荷によるアークで母材本体が溶融されてピンが母材本体に強固に溶接することができる。
【0019】
請求項2に記載の発明では、主コンデンサの低電圧で高容量の電荷に、放電の初期にのみ副コンデンサからの高電圧で低容量の電荷が加算されて放電されるので、母材の表面上に塗料層が形成されていても、高電圧の電荷によるアークでまず塗料層が破壊され、引き続いて低電圧の電荷によるアークで母材が溶融されてピンを母材に強固に溶接することができる。すなわち、主副の両コンデンサの電荷が、塗料層の破壊とピンの溶接に有効に作用するので、電源部を小型でかつ軽量なものとすることが可能となる。
【0020】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の発明の効果に加えて、ピンの溶接が確実になり、溶接強度が向上する。また、ピンの先端の尖鋭化は、一枚刃又は二枚刃による切断や鋸刃による切断で可能となるから、その加工コストは低廉となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のスタッド溶接装置の電源部10の構成を説明するための回路図である。
【図2】 溶接の間における本発明のピンの形状変化を説明する断面図である。
【図3】 溶接工程の間における溶接電流の波形図である。
【符号の説明】
1は溶接ガン、2はピン、3は母材本体、4は塗料層、5はトリガー、10は電源部、C1は主コンデンサ、C2は副コンデンサ、D1,D2はダイオード、SCRはサイリスタ、V1は主電源、V2は副電源である。

Claims (3)

  1. 表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接するにあたり、ピンを母材本体に溶接するための主電源及びその電荷を蓄える主充電コンデンサ、並びに塗料層を破壊するための前記主電源より高電圧の副電源及びその電荷を蓄える前記主コンデンサより低容量の副コンデンサとを備えた電源部に、先端を尖鋭にしたピンを保持した溶接ガンを接続し、そのピンの先端を塗料層に接触するように押圧しながら、ピンと母材本体との間に前記主コンデンサ及び副コンデンサの電荷を同時に放電させて、塗料膜を破壊したのちピンを母材本体に溶接することを特徴とする表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接する方法。
  2. 表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接するためのスタッド溶接装置であって、
    先端を尖鋭にしたピンと、そのピンを保持可能とした溶接ガンと、ピンを母材本体に溶接するための主電源及びその電荷を蓄える主充電コンデンサ、並びに塗料層を破壊するための前記主電源より高電圧の副電源及びその電荷を蓄える前記主コンデンサより低容量の副コンデンサとを備えるとともに、前記主コンデンサ及び副コンデンサに蓄えられた電荷を同時に溶接ガンに供給する回路を設けた電源部とで構成したことを特徴とする表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接するためのスタッド溶接装置。
  3. ピンの先端を、ピンの軸線に対して斜めに切断することにより尖鋭にしたことを特徴とする請求項2に記載の表面に塗料層が形成された母材にピンを溶接するためのスタッド溶接装置。
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