JP4248281B2 - 車両用操舵装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の運転者の操作に応じて操舵を行う車両用操舵装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、運転者が操作するステアリングホイールと、車輪を転舵させるステアリングギアとを機械的に分離させ、ステアリングホイールの回転角度を検出して、その回転角度の相当するステアリングギアのモータの回転量を制御回路で算出し、この回転量に応じて実際にモータを回転させて転舵輪を操向させる車両用操舵装置が提案されている。
【0003】
この種の車両用操舵装置のステアリングホイールには、ステアリングホイール側にもモータが付設されており、ステアリングホイールの操舵量と実際の転舵輪の操向量との差に比例してステアリングホイールに反力(操舵反力)を作用させるようになっている。このステアリングホイール側のモータからステアリングホイールに操舵反力を作用させ、運転者に路面状態などのインフォメーションを与えることで、ステアリングホイールとステアリングギアとが機械的に連結された車両用操舵装置と同等の操作感を実現させることが可能になる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−203393号公報(段落番号0002、0015、第1図)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような車両用操舵装置では、角度差に比例した操舵反力を発生させる制御をしているので、角度差が小さいときには、十分な操舵反力を発生させることができなかった。特に、転舵輪の角度変化をロータリーエンコーダで検出する場合には、実際に転舵輪の角度が所定値だけ変化してはじめて検出されることになるので、適切な操舵反力を作用させることが困難であった。同様に、ステアリングホイール側の操舵角度の検出にも時間遅れが生じることがあるので、ステアリングホイールを操作してから実際に転舵輪が操向するまでの間に時間遅れが生じ易かった。このため、ステアリングホイールの操作のしかたや、路面抵抗や凹凸などによって、ステアリングホイールの操作に対する転舵輪の追従性にムラが発生したり、操舵反力の大きさにムラが発生したりする。
よって、本発明は、このような問題を解決するものであって、機械的に分離されたステアリングホイールと転舵輪との応答を良くして、操作性を向上させることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決する本発明の請求項1に記載の車両用操舵装置は、ステアリングホイールと、転舵輪を操向させるステアリングギアとを制御回路を介して電気的に接続し、前記ステアリングホイールの操舵角度から換算する前記転舵輪の操向角度と、実際の前記転舵輪の操向角度とを一致させるように前記ステアリングギアのステアリングモータを回転させて前記転舵輪を操向させると共に、前記転舵輪の操向角度から換算する操舵角度と、実際の前記ステアリングホイールの操舵角度との角度差に応じて前記ステアリングホイールに付設させた電動モータを回転させて前記ステアリングホイールに回転力を作用させる車両用操舵装置であって、前記電動モータの制御を行う第一制御回路と、前記ステアリングギアの制御を行う第二制御回路とを備え、前記第一制御回路は、実際の操向角度を前記ステアリングモータに流れる電流値の大きさから換算した角度で修正して得られる値を前記第二制御回路から受信して前記転舵輪の換算操向角度とし、前記電動モータの回転量を算出するように構成し、前記第二制御回路は、前記ステアリングホイールの実際の操舵角度を、この操舵角度と前記転舵輪の換算操向角度との差に応じて演算される角度と、前記ステアリングホイールの実際の操舵角度の変化速度の大きさに応じて演算される角度とで修正して得られる値を前記第一制御回路から受信して前記ステアリングホイールの換算操舵角度とし、前記ステアリングモータの回転量を決定するように構成した。
【0007】
第一制御回路は、転舵輪の換算操向角度として、実際の操向角度をステアリングモータに供給される電流値の大きさに応じた角度で修正した値を用いる。電流値が大きいときは、その後に転舵輪が大きく操向することになるので、そのような変化が電動モータの回転量に反映され、車両の挙動をステアリングホイールを通じて運転者に適切に伝達されることになる。一方、第二制御回路は、ステアリングホイールの換算操舵角度として、実際の操舵角度と転舵輪の換算操向角度との差、および変化速度に応じた角度を修正した値を用いる。修正を加えた操舵角度を用いてステアリングモータを制御することで運転者の操作に転舵輪を速やかに追従できるようになる。なお、修正に使用する角度は、ステアリングホイールの操作方向や、転舵輪の操向方向によっては、負の値になることもあり、送受信される換算操舵角度または換算操向角度が、実際の操舵角度または操向角度よりも小さい値になることもある。
【0008】
また、請求項2に記載の車両用操舵装置は、前記第二制御回路は、前記換算操舵角度と実際の操舵角度との角度差、および前記換算操向角度と実際の操向角度との角度差により変化する係数をそのときの角度差にかけて前記ステアリングモータに供給する出力値を得るように構成され、角度差が所定値以上のときの係数に比べて、角度差が所定値以下の係数が小さいようにした。外乱などにより小さい角度差が断続して発生した場合などに、係数が角度差によらず一定であると、これら角度差や操向方向に応じてステアリングモータをその都度回転させることになるので、結果的に車両用操舵装置の制御が不安定になることがある。これに対して、角度差が小さいときに係数を小さくすると、小さい角度差を許容しつつ、角度差がゼロに安定して保持されるようになる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本実施形態の車両用操舵装置の構成を示す概略図である。
車両用操舵装置1は、運転者が操作する操舵用ハンドルであるステアリングホイール2と、転舵輪(以下、タイヤとする)3を操向させるステアリングギア4とが制御回路(第一制御回路5および第二制御回路6)を介して電気的に接続された構成を有しており、ステアリングホイール2とステアリングギア4とが機械的に切り離されている。
【0010】
ステアリングホイール2のケーシングには、ステアリングホイール2の操舵角度を、その回転角度として検出して第一制御回路5に出力する操舵角センサ7と、第一制御回路5からの指令に基づいてテアリングホイール2の回転軸に操舵反力を作用させたり、操向角度に追従する方向に操舵角度と操向角度との角度差を減少させるような力を作用させたりする回転モータ8とが取り付けられている。この回転モータ8には、第一制御回路5からの出力信号に応じてドライバー回路9が電力供給を行うようになっており、ドライバー回路9から出力される電流値は電流センサ9aによりモニタされている。第一制御回路5は、CPU(Central Processing Unit)を有し、その入力データとしては、操舵角センサ7が検出したステアリングホイール2の回転角度の情報と、電流センサ9aが検出する電流値と、タイヤ3側の第二制御回路6から送信されるタイヤ3の操向角度の情報とがあげられる。また、第一制御回路5からの出力データとしては、ドライバー回路9への出力信号と、第二制御回路6に送信されるステアリングホイール2の操舵角度についての情報とがあげられる。
【0011】
ステアリングギア4は、タイロッド10などを介してタイヤ3に連結されている操舵軸(ラック軸)を摺動させるステアリング力発生モータであるステアリングモータ11を有している。このステアリングモータ11には、タイヤ3の操向角度を、ステアリングモータ11の回転角度として検出して第二制御回路6に出力する操舵角センサ13が取り付けられている。ステアリングモータ11には、第二制御回路6からの出力信号に応じてドライバー回路12が電力供給を行うようになっており、ドライバー回路12から出力される電流値は電流センサ12aによりモニタされている。第二制御回路6は、CPUを有し、その入力データとしては、第一制御回路5から送信されるステアリングホイール2の操舵角度をタイヤ3の操向角度に変換した情報と、電流センサ12aが検出する電流値と、ステアリングモータ11に取り付けられた操向角センサ13が検出するステアリングモータ11の回転角度の情報とがあげられる。また、第二制御回路6からの出力データとしては、ドライバー回路12への出力信号、第一制御回路5に送信するタイヤ3の操向角度の情報があげられる。
【0012】
本実施形態では、車両用操舵装置1の制御を司る制御回路をステアリングホイール2の近傍と、ステアリングギア4の近傍とに1つずつ設けている。これは、2つの制御回路5,6で処理を分散させることで、各々の制御回路5,6を小型化、かつ簡略化し、排熱対策を容易にしたり、レイアウトの自由度を向上させたりできるからである。さらに、各制御回路5,6とセンサ7,13やモータ8,11との間に敷設されるケーブルの長さを短くすることもできる。
【0013】
ここで、第一制御回路5と、第二制御回路6との間で送受信される操向角度の情報について説明する。
第一制御回路5から通信線を介して第二制御回路6に送信される操向角度は、ステアリングホイール2の操舵角度の実測値に所定の修正を行った角度をタイヤ3の操向角度に変換したものである。修正値としては、実際の操舵角度と第二制御回路6から受信した操向角度を操舵角度に換算した角度(換算操舵角度)との角度差が所定値以上の場合にその角度差に係数k1を乗じて得られる角度と、ステアリングホイール2の実際の操舵角度の変化速度に所定の係数k2を乗じて得られる角度とがあげられる。したがって、修正後の操舵角度は、以下の式1のように表すことができる。
【0014】
(修正後の操舵角度)=(実際の操舵角度)+k1×(換算操舵角度と実際の操舵角度の角度差の一定値を越える分)+k2×(実際の操舵角度の変化速度分)―(式1)
【0015】
角度差が所定値以上の場合の一例としては、プラスマイナス10°で、ステアリングホイール2の接線力で1.5kgfを超えるような角度があげられる。なお、修正値は、ステアリングホイール2の回転方向および回転量と、タイヤ3の操向方向および操向量との関係により負の値となることもあるが、その詳細については後に説明する。また、これら2つの修正は常に行われるものとするが、少なくとも一方のみを行っても良い。
【0016】
第二制御回路6から通信線を介して第一制御回路5に送信される操向角度は、タイヤ3の操向角度の実測値に、ステアリングモータ11に流れる電流値の大きさに所定の係数k3を乗じて得られる角度で修正した値である。したがって、修正後の操舵角度は、以下の式2のよう表すことができる。
【0017】
(補正後の操向角度)=(実際の操向角度)+k3×(ステアリングモータ11に流れる電流値)―(式2)
【0018】
さらに、第二制御回路6は、操舵角度と操向角度との角度差に係数をかけてステアリングモータ11のPWM(Pulse Width Modulation)値を取得する。この係数は、角度差に応じて変化するもので、この係数の角度差に対する変化をテーブルとして表したものが図2である。図2の角度差―PWM値変換テーブル14は、横軸に示す角度差で検索を行うと、縦軸のPWMデューティ値が得られるようになっている。ここでは、角度差が小さい領域であって、勾配が緩やかでステアリングモータ11に対してブレーキをかけるように働くブレーキ領域と、それに続く、角度差が所定値以上の領域であって、ステアリングモータ11を回転させるために必要なPWMデューティ値が角度差に応じて得られる領域と、角度差がさらに大きい領域であって、角度差に対するPWMデューティ値の変化量が少なく、ステアリングモータ11の動きに各種の特性を持たせ、操作感に味付けを行うための領域とからなる。
【0019】
ここで、ブレーキ領域における係数が、それに続く領域であって、角度差が所定値以上の領域の係数に比べて小さいのは、角度差が小さい領域では、少しの角度差でステアリングモータ11を回転させると制御が不安定になることがあるので、その角度差から本来必要とされるPWM値よりも少ない出力値が得られるようにするためである。これにより、路面の凹凸などによる小さい角度差が断続して生じたときなどは、ステアリングモータ11の回転を抑制して角度差がゼロになる位置に保持するように制御されることになる。また、操作感に味付けを行うとは、比較的大きい角度差を許容してダイナミックな運転特性を実現したり、角度差に対してクイックに応答する走行特性を実現したりすることをいう。
【0020】
次に、本実施形態の車両用操舵装置1で行われる処理について、図1、および図3から図10のフローチャートを参照しながら説明する。なお、図3から図6は第一制御回路5の処理をまとめたものであり、図7から図10は第二制御回路6の処理をまとめたものである。また、以下においてステアリングホイール2の回転方向は反時計回りの方向を正方向、つまり操舵量が増加する方向とする。同様にタイヤ3の操向方向も反時計回りの方向を正方向、つまり操向量が増大する方向とする。
【0021】
まず、図3から図6のフローチャートに示す第一制御回路5の処理を説明する。
第一制御回路5は、ステアリングホイール2の実際の操舵角度を操舵角センサ7から取得する(ステップS1)。その一方で、第一制御回路5は、第二制御回路6において必要な修正を加えられたタイヤ3の操向角度を通信線を介して受信し、その操向角度に対応するステアリングホイール2の操作角度(換算操舵角度)を算出する(ステップS2)。
【0022】
ここで、修正値(例えば、後述の減算値A1,A2、または加算値B1,B2)がすでに演算されている場合には、その修正値で修正したステアリングホイール2の操舵角度をタイヤ3の操向角度に変換し、タイヤの操向指令値として通信線を用いて第二制御回路6に送信する(ステップS3)。操向指令値を出力した後には、修正値の値をクリアする(ステップS4)。なお、初期状態として修正値が演算されていない場合には、修正は行われない。
【0023】
そして、換算操舵角度が、実際の操舵角度(実操舵角度)より大きい場合(ステップS5でYes)は、ステップS6に進んでステアリングホイール2の回転方向を判定する。一方、換算操舵角度が実操舵角度より小さい場合(ステップS5でNo)は、端子Bから図4のステップS18に進む。
【0024】
ステップS6で行うステアリングホイール2の回転方向の判定は、操舵角センサ7の出力値の電圧や出力波形の位相などに基づいて行う。ステアリングホイール2が左回転していると判定した場合(ステップS6でYes)には、ステップS7に進んで、電動モータ8を回転させるPWM出力を設定する。ちなみに、この場合は、ステップS5およびステップS6のそれぞれの判定結果から、ステアリングホイール2の操舵量よりも大きくタイヤ3が操向しており、かつ、タイヤ3との角度差を減少させる方向にステアリングホイール2が回転していることになる。このような場合の例としては、外力でタイヤ3が先行して動き、それに追従するようにしてステアリングホイール2が回転している場合があげられる。
【0025】
ステップS7からステップS10のPWM出力の設定処理では、まず、第一制御回路5が、PMW出力をオンして、電動モータ8を左向きに回転させるように設定する(ステップS7)。これは、ステアリングホイール2に左回転するような力を作用させて、ステアリングホイール2の実際の操舵角度とタイヤ3の実際の操向角度とを早期に一致させ、車両走行の安定を図るためである。そして、換算操舵角度と実操舵角度との角度差を求め(ステップS8)、算出した角度差が一定値以上である場合に、その値に所定の係数k1を乗じた値を求め、前記した角度差に上乗せする(ステップS9)。このようにして必要な修正を加えた角度差で角度差―PMW値変換テーブルを検索してPWMデューティ値を取得する(ステップS10)。
【0026】
一方、前記ステップS6でステアリングホイール2が右回転していると判定した場合(ステップS6でNo)は、端子Aから図4のステップS11に進む。ちなみに、この場合は、ステップS5およびステップS6のそれぞれの判定結果から、ステアリングホイール2の実際の操舵量よりも大きくタイヤ3が操向しており、かつ、タイヤ3との角度差が増加する方向にステアリングホイール2が回転している状態、つまり、運転者がステアリングホイール2を操作し、ステアリングホイール2がタイヤ3に先行して回っている状態である。
【0027】
この場合は、ステップS11からステップS17までの処理でPWM出力の設定を行う。まず、第一制御回路5が、PMW出力をオンして、電動モータ8を左向きに回転させるように設定する(ステップS11)。これは、右回転しようとするステアリングホイール2に左向きの反力を与えることでステアリングホイール2の実際の操舵角度とタイヤ3の実際の操向角度とを早期に一致させて車両走行の安定を図るためである。そして、換算操舵角度から実操舵角度を引いて両者の間の角度差を求めると共に(ステップS12)、タイヤ3の実際の操向角度が右ロックから左ロックの間にあることを確認する(ステップS13)。これは、以下のステップS14およびステップS15においてタイヤの操向角度を大きくするように指令値を設定することが可能であることを確認する必要があるからである。そして、タイヤの操向角度が変化可能であれば(ステップS13でYes)、算出した角度差が一定値以上である場合に、その値に所定の係数k1を乗じた修正値を減算値A1として求める(ステップS14)。さらに、ステアリングホイール2の回転角度の時間的な変化が一定値以上である場合には、その値に所定の係数k2を乗じた修正値を減算値A2として求める(ステップS15)。そして、換算操舵角度と実操舵角度との角度差に対して、減算値A1および減算値A2で修正を行い(ステップS16)、修正後の角度差で、角度差―PWM値変換テーブルを検索し、その角度差に応じた大きさのPWMデューティ値を取得する(ステップS17)。
【0028】
ここでの処理では、算出した角度差に相当する反力よりも小さい反力を発生させるPWMデューティ値が設定されることになるが、これは、角度差の算出に用いた換算操舵角度が、後に説明する第二制御回路6の処理で上乗せされた操向角度に基づいて算出されたものであるため、実際の角度差よりも大きい値になっているので、そのような上乗せ分を差し引いて、ステアリングホイール2に作用する力が大きくなりすぎないようにするためである。また、第二制御回路6がタイヤ3の操向角度が速やかに追従するようにステアリングモータ11の回転量を増大させる処理によって角度差を減少させる際に、それに伴って反力が大きく変動して、運転者に不快感を与えることを防止するためである。なお、前記ステップS13でタイヤ3の操向角度が右ロックまたは左ロックに相当する角度である場合(ステップS13でNo)には、ステップS17で換算操舵角度と実操舵角度の角度差に相当するPWMデューティ値を取得する。
【0029】
前記ステップS10またはステップS17においてPWMデューティ値を取得したら、ステップ18を経て端子Cから図6のステップS31に進む。この段階では、前記ステップS5で判断したように、換算操舵角度が実操舵角度より大きいからである。そして、ステップS31で、タイヤ3の操向角度に相当する換算操舵角度が実操舵角度と等しい場合(ステップS31でYes)は、PWM出力をオフにして、取得したPWMデューティ値をゼロに設定し直してから(ステップS32)、電動モータ8のドライバー回路9に対してPWM出力を行う(ステップS33)。一方、ステップS31で、換算操舵角度と実操舵角度とが不一致の場合(ステップS31でNo)、前記ステップS10またはステップS17で取得したPWMデューティ値で電動モータ8のドライバー回路9に対してPWM出力を行う(ステップS33)。
【0030】
一方、前記ステップS5(図3参照)の判定において、換算操舵角度が実操舵角度より小さい場合(ステップS5でNo)は、ステップS18でYesになるので、ステップS19でステアリングホイール2の回転方向を判定する。そして、ステアリングホイール2が左回転している場合(ステップS19でYes)、すなわち、運転者がステアリングホイール2を操作し、ステアリングホイール2がタイヤ3に先行して回っている場合の処理(端子Dから進む図5のステップS20からステップ26)と、ステアリングホイール2が右回転している場合(ステップS19でNo)、つまり、外力でタイヤ3が先行して動き、それに追従するようにしてステアリングホイール2が回転している場合の処理(端子Eから進む図6のステップS27からステップS30)とに分岐する。
【0031】
ステアリングホイール2が左回転している場合には、第一制御回路5が、図5のステップS20に示すように、PMW出力をオンして、電動モータ8を右向きに回転させるように設定する。左回転しようとするステアリングホイールに右向きの反力を与えることでステアリングホイール2の実際の操舵角度とタイヤ3の実際の操向角度とを早期に一致させるためである。そして、換算操舵角度から実操舵角度を引いて両者の角度差を求めると共に(ステップS21)、タイヤ3の実際の操向角度が、右ロックから左ロックの間にあることを確認する(ステップS22)。そして、タイヤ3の操向角度が変化可能であれば(ステップS22でYes)、算出した角度差が一定値以上である場合に、その値に所定の係数k1を乗じた修正値として加算値B1を求める(ステップS23)。さらに、ステアリングホイール2の回転角度の時間的な変化が一定値以上である場合には、その値に所定の係数k2を乗じた修正値である加算値B2を求める(ステップS24)。そして、換算操舵角度と実操舵角度の角度差に加算値B1および加算値B2で修正を加えて(ステップS25)、修正後の角度差で角度差―PWM値変換テーブルを検索し、PWMデューティ値を取得する(ステップS26)。
【0032】
ここで、角度差に補正値を加算するのは、角度差の算出に用いた換算操舵角度が、後に説明する第二制御回路6の処理で上乗せされた操向角度に基づいて算出されたものであるため、実際の角度差よりも小さい値になっているので、そのような上乗せ分を加味して、ステアリングホイール2に作用する力を大きくしている。なお、前記ステップS22でタイヤ3の操向角度が右ロックまたは左ロックに相当する角度である場合(ステップS22でNo)には、ステップS26で換算操舵角度と実操舵角度の角度差に相当するPWMデューティ値を取得する。なお、ステップS26の処理の後には、端子Fから図6のステップS31に進む。
【0033】
一方、図4のステップS19でステアリングホイール2が右回転していると判定した場合には、端子Eから図6のステップS27、すなわち、第一制御回路5が、PMW出力をオンして、電動モータ8を右向きに回転させるように設定する。これは、ステアリングホイール2に右回転するような力を作用させてステアリングホイール2の実際の操舵角度とタイヤ3の実際の操向角度とを早期に一致させ、車両走行の安定を図るためである。そして、換算操舵角度と実操舵角度との角度差を求め(ステップS28)、算出した角度差が一定値以上である場合に、その値に所定の係数k1を乗じた修正値を求め、前記した角度差に上乗せする(ステップS29)。そして、必要な修正を加えた角度差で角度差―PMW値変換テーブルを検索して、PWMデューティ値を取得する(ステップS30)。
【0034】
前記ステップS26またはステップS30において取得したPWMデューティ値は、タイヤ3の操向角度に相当する換算操舵角度が実操舵角度と等しくない場合(ステップS31でNo)は、そのPWMデューティ値で電動モータ8のドライバー回路9に対してPWM出力が行われる(ステップS33)。一方、換算操舵角度と実操舵角度とが等しい場合(ステップS31でYes)は、PWM出力がオフになり、取得したPWMデューティ値をゼロに設定し直してから(ステップS32)、PWM出力が行われる(ステップS33)。つまり、この場合には電動モータ8を回転させないで処理を終了する。
【0035】
このようにして、換算操舵角度と実操舵角度とが異なる場合には、ステップS10(図3参照)またはステップS17(図4参照)、あるいはステップS26(図5参照)またはステップS30(図6)で取得したPWMデューティ値の大きさに応じた反力もしくは、実際の操向角度に追従する方向に換算操舵角度と実操舵角度との差を減少させるような力が、所定の方向(ステップS7、ステップS11、ステップS20、ステップS27のいずれかで設定)に作用することになる。
したがって、運転者に対して実際のタイヤ3の実際の操向角度とステアリングホイール2の操舵角度とが不一致であることを知らせ、必要な措置を講じるように促すことができる。
【0036】
次に、第二制御回路6の処理について、図7から図10を参照しながら説明する。
第二制御回路6は、タイヤ3の実際の操向角度を操向角センサ13から取得する(ステップS40)。その一方で、第二制御回路6は、ステアリングホイール2の実際の操舵角度に必要な修正を加えた後にタイヤ3の補正後の操向角度に換算した値を、通信線を介して第一制御回路5から受信する(ステップS42)。
【0037】
ここで、修正値(例えば、後述の減算値C1、または加算値D1)がすでに演算されている場合には、その修正値で修正した操向角度を、通信線を介して第一制御回路5に送信する(ステップS43)。なお、初期状態として修正値が演算されていない場合には、修正は行われない。
【0038】
そして、第一制御回路5から受信した補正後の操向角度である換算操向角度が、実際の操向角度(実操向角度)より大きい場合(ステップS44でYes)は、ステップS45に進んでタイヤ3の操向方向を判定する。一方、換算操向角度が実操向角度より小さい場合(ステップS44でNo)は、ステップS54に進む。
【0039】
ステップS45で行うタイヤ3の操向方向の判定は、操向角センサ13の出力値の電圧や出力波形の位相などに基づいて行う。実操向角度よりも換算操向角度が大きい状態で、かつ、タイヤ3が左に操向していると判定される場合(ステップS45でYes)としては、運転者がステアリングホイール2を左に切っており、これに追従してタイヤ3が左方向に操向する場合があげられる。この場合は、端子Gから進む図8のステップS46からステップS50までの処理でステアリングモータ11のPWMデューティ値を設定する。
【0040】
第二制御回路6が、PMW出力をオンして、運転者の操作に実際のタイヤ3の操向角度を一致させる方向、つまりステアリングモータ11を左向きに回転させるように設定する(ステップS46)。そして、換算操向角度と実操向角度との角度差を求めると共に(ステップS47)、タイヤ3の実際の操向角度が右ロックから左ロックの間にあることを確認する(ステップS48)。そして、タイヤ3の実際の操向角度が変化可能であれば(ステップS48でYes)、ステアリングモータ11の電流値を検出し、この電流値をタイヤ3の操向角度に変換し、変換した値を修正値(減算値C1)とする(ステップS49)。さらに、減算値C1で修正した角度差で、図2に例示する角度差−PWM値変換テーブル14を検索して、PWMデューティ値を取得する(ステップS50)。タイヤ3の操向角度が右ロックまたは左ロックに相当する角度であった場合(ステップS48でNo)のテーブル検索には、修正しない角度差を用いる。どちらの場合であってもPWMデューティ値を取得した後に、端子Hから図7に示すステップS54に進む。
【0041】
一方、図7のステップS45における判定で、実操向角度よりも換算操向角度が大きい状態ではあるが、タイヤ3が右方向に操向していると判定した場合(ステップS45でNo)としては、外力でタイヤ3が先行して右方向に操向し、これに追従してステアリングホイール2が右方向に回転している場合があげられる。この場合は、ステップS51からステップS53までの処理でステアリングモータ11のPWMデューティ値を設定する。
【0042】
第二制御回路6が、PMW出力をオンして、ステアリングモータ11を左向きに回転させるように設定する(ステップS51)。これは、現状を維持して、運転者の操作によるステアリングホイール2の実際の操舵角度とタイヤ3の実際の操向角度とを早期に一致させるためである。そして、換算操向角度と実操向角度との角度差を求め(ステップS52)、この角度差で角度差―PMW値変換テーブル14を検索してPWMデューティ値を取得する(ステップS53)。
【0043】
図8のステップS50、または図7のステップS53においてPWMデューティ値を取得したら、ステップ54から端子Iを経て、図9のステップS64に進む。ここでは、図7のステップS44で判断したように、換算操向角度が実操向角度より大きいからである。そして、図9のステップS64で、換算操向角度が実操向角度と等しい場合(ステップS64でYes)は、PWM出力をオフにして、取得したPWMデューティ値をゼロに設定し直してから(ステップS65)、ステアリングモータ11のドライバー回路12に対してPWM出力を行う(ステップS66)。これに対してステップS65で、換算操向角度と実操向角度とが不一致の場合(ステップS31でNo)は、前記ステップS50またはステップS53で取得したPWMデューティ値でステアリングモータ11のドライバー回路12に対してPWM出力を行う(ステップS66)。
【0044】
一方、図7のステップS44の判定において、換算操向角度が実操向角度より小さい場合(ステップS44でNo、かつステップS54でYes)は、端子Jから図9のステップS55に進んで、タイヤ3の回転方向を判定し、タイヤ3が左回転している場合(ステップS55でYes)、つまり、外力でタイヤ3が先行して動き、それに追従するようにしてステアリングホイール2が回転している場合は、ステップS56からステップS58に示すPWMデューティ値の設定処理を行う。
【0045】
この場合は、第二制御回路6が、PMW出力をオンして、ステアリングホイール2の操舵角度とタイヤ3の操向角度とを早期に一致させるためにステアリングモータ11を右向きに回転させるように設定する(ステップS56)。そして、換算操向角度と実操向角度との角度差を求め(ステップS57)、この角度差で角度差―PMW値変換テーブル14を検索してPWMデューティ値を取得する(ステップS58)。
【0046】
一方、図5で、タイヤ3が右方向に操向していると判定された場合(ステップS55でNo)、すなわち、先行して操作されたステアリングホイール2にタイヤ3が追従して回っている場合は、端子Kから進む図10のステップS59からステップ63に示すPWMデューティ値の設定処理を行う。
【0047】
この場合は、図10に示すように、第二制御回路6が、PMW出力をオンして、運転者の操作に実際のタイヤ3の操向角度を一致させる方向、つまりステアリングモータ11を右向きに回転するように設定する(ステップS59)。そして、換算操向角度と実操向角度との角度差を求めると共に(ステップS60)、タイヤ3の実際の操向角度が右ロックから左ロックの間にあることを確認する(ステップS61)。そして、タイヤ3の実際の操向角度を変化可能である場合(ステップS61でYes)は、ステアリングモータ11の電流値を検出し、この電流値をタイヤ3の操向角度に変換し、変換した値を修正値(加算値D1)とする(ステップS62)。さらに、加算値D1で修正した角度差で角度差−PWM値変換テーブル14を検索して、PWMデューティ値を取得する(ステップS63)。なお、タイヤ3の操向角度が右ロックまたは左ロックに相当する角度であった場合(ステップS61でNo)のテーブル検索には修正しない角度差を用いる。どちらの場合であっても、PWMデューティ値を取得した後に、端子Lから図9のステップS64に進む。
【0048】
前記ステップS58(図9参照)またはステップS63(図10参照)においてPWMデューティ値を取得し、換算操向角度と実操向角度とが等しくない場合(ステップS64でNo)には、そのPWMデューティ値を用いてステアリングモータ11のドライバー回路12に対してPWM出力を行う(ステップS66)。一方、換算操向角度と実操向角度とが等しい場合(ステップS64でYes)は、PWM出力をオフにして、取得したPWMデューティ値をゼロに設定し直してから(ステップS65)、ステアリングモータ11のドライバー回路12に対してPWM出力を行う(ステップS66)。
【0049】
このようにして、換算操向角度と実操向角度とが異なる場合には、ステップS50(図8参照)またはステップS53(図7参照)、あるいはステップS58(図9参照)またはステップS63(図10参照)で取得したPWMデューティ値の大きさに応じたステアリングモータ11の回転制御が、換算操向角度と実操向角度との差を減少させる方向(ステップS46(図8参照)、ステップS51(図7参照)、ステップS56(図9参照)、ステップS59(図10参照)のいずれかで設定)に行われることになる。したがって、タイヤ3の実際の操向角度とステアリングホイール2の実際の操舵角度との間に不一致があった場合でも両者を速やかに一致させることが可能になる。
【0050】
本実施形態によれば、ステアリングホイール2側と、ステアリングギア4側とのそれぞれに制御回路5、6を設けることで、処理の負担の低減や、レイアウトの自動度の向上を図ることができる。さらに、2つの制御回路5,6の間で送受信する情報として、必要に応じて修正を加えた操向角度を採用したので、操舵量の大小によらず、運転者の操舵に対する追従性を向上させることができる。また、必要な修正を加えた角度差に応じてステアリングホイール2にそのような角度差を減少させるような力を作用させたり、角度差の算出に使用した補正を考慮して操作反力を小さく設定したりしたので、ステアリングホイール3の操作速度などによって操舵反力が大きく変動することを防止できる。さらに、タイヤ3に急激な路面の変動などが加わっても、その影響がステアリングホイール2側に大きくは伝えられずに、結果としてステアリングホイール2の動きが滑らかになり、運転フィーリングが良好になる。
【0051】
なお、本発明はこの実施形態に限定されずに種々の応用が可能である。
例えば、第一制御回路5と第二制御回路6との間で送受信される情報は、操向角度の代りに操舵角度としても良い。また、第一制御回路5と第二制御回路6とを1つの制御装置とし、必要に応じて修正した操向角度または操舵角度を内部処理として授受するようにしても良い。
【0052】
【発明の効果】
請求項1に記載した発明によれば、ステアリングホイール側の制御回路と、ステアリングギア側の制御回路との間で、角度情報を送受信して操舵装置の制御を行うと共に、送信する角度情報に必要な修正を行うことで、ステアリングホイールの実際の操舵角と転舵輪の実際の操向角との間の追従性が向上するので、運転者の操作性を向上できる。
請求項2に記載した発明によれば、前記換算操舵角度と実際の操舵角度との角度差、および前記換算操向角度と実際の操向角度との角度差がゼロに安定して保持されるようになるので、路面による影響で操作性が損なわれることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 翻発明の本実施形態の車両用操舵装置の構成を示す概略図である。
【図2】 角度差―PWM値変換テーブルを示す図である。
【図3】 第一制御回路で行われる処理のフローチャートである。
【図4】 第一制御回路で行われる処理のフローチャートである。
【図5】 第一制御回路で行われる処理のフローチャートである。
【図6】 第一制御回路で行われる処理のフローチャートである。
【図7】 第二制御回路で行われる処理のフローチャートである。
【図8】 第二制御回路で行われる処理のフローチャートである。
【図9】 第二制御回路で行われる処理のフローチャートである。
【図10】 第二制御回路で行われる処理のフローチャートである。
【符号の説明】
1 車両用操舵装置
2 ステアリングホイール
3 タイヤ(転舵輪)
4 ステアリングギア
5 第一制御回路
6 第二制御回路
7 操舵角センサ
8 電動モータ
9 ドライバー回路
11 ステアリングモータ
12 ドライバー回路
13 操向角センサ
14 角度差―PWM値変換テーブル

Claims (2)

  1. ステアリングホイールと、転舵輪を操向させるステアリングギアとを制御回路を介して電気的に接続し、前記ステアリングホイールの操舵角度から換算する前記転舵輪の操向角度と、実際の前記転舵輪の操向角度とを一致させるように前記ステアリングギアのステアリングモータを回転させて前記転舵輪を操向させると共に、前記転舵輪の操向角度から換算する操舵角度と、実際の前記ステアリングホイールの操舵角度との角度差に応じて前記ステアリングホイールに付設させた電動モータを回転させて前記ステアリングホイールに回転力を作用させる車両用操舵装置であって、
    前記電動モータの制御を行う第一制御回路と、前記ステアリングギアの制御を行う第二制御回路とを備え、前記第一制御回路は、実際の操向角度を前記ステアリングモータに流れる電流値の大きさから換算した角度で修正して得られる値を前記第二制御回路から受信して前記転舵輪の換算操向角度とし、前記電動モータの回転量を算出するように構成し、前記第二制御回路は、前記ステアリングホイールの実際の操舵角度を、この操舵角度と前記転舵輪の換算操向角度との差に応じて演算される角度と、前記ステアリングホイールの実際の操舵角度の変化速度の大きさに応じて演算される角度とで修正して得られる値を前記第一制御回路から受信して前記ステアリングホイールの換算操舵角度とし、前記ステアリングモータの回転量を決定するように構成したことを特徴とする車両用操舵装置。
  2. 前記第二制御回路は、前記換算操舵角度と実際の操舵角度との角度差、および前記換算操向角度と実際の操向角度との角度差により変化する係数をそのときの角度差にかけて前記ステアリングモータに供給する出力値を得るように構成され、角度差が所定値以上のときの係数に比べて、角度差が所定値以下の係数が小さいことを特徴とする請求項1に記載の車両用操舵装置。
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