JP4246285B2 - 質量分析計を用いたイオン同定方法および質量分析計ならびに質量分析計を用いたイオン同定プログラムを記録した記録媒体 - Google Patents

質量分析計を用いたイオン同定方法および質量分析計ならびに質量分析計を用いたイオン同定プログラムを記録した記録媒体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えばフーリエ変換イオンサイクロトロン方式質量分析計等の高分解能質量分析計において、測定試料のイオンの同定を容易に行うことのできるイオン同定方法およびそのための質量分析計ならびにそのためのプログラムを記録した記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
質量分析計により、測定試料の化学的種別の決定、すなわち同定を行う従来の方法は次のような(a)〜(d)の手順により行っていた。
(a)対象試料が化合物であればそのまま、混合物であれば単位成分に分離して質量スペクトルを測定する。
(b)測定された質量スペクトルは、一般には、分子がそのままイオン化した親ピークと分子が種々に解裂し、イオン化したフラグメントピークとによって構成され、化合物の化学組成に従う定まったパターンとなる。
(c)化合物の組成と質量スペクトルとは一対一の関係にあるので、フラグメントパターンを含む質量スペクトルの理論解析によって試料組成を同定する。
(d)しかし、質量スペクトルの理論解析は通常かなり困難である。また化合物それぞれと一対一の関係にある質量スペクトルといえども、測定方式、条件および個々の装置の特性等々に微妙に影響され、複雑に変化する。したがって、従来測定された質量スペクトルをデータベースとして、コンピュータメモリに整理格納しておき、被測定スペクトルをこれと照合検索し、類似度に従って、確率的に同定する方法が広く用いられている。換言すれば、測定された多数の質量スペクトルをデータベースとして登録整理されている従来のスペクトルと対象試料のスペクトルとを比較照合して判定している。
【0003】
因みにこの手順(d)ための質量スペクトルデータベースは、米国NIST(National Institute of Standard and Technology )、日本の科学技術情報センターはじめ民間からも幾種類ものデータベースが提供されている。検索のためのソフトウエアもまた同様に提供されている。またこれらデータベースはいずれも、数万ないし数十万スペクトルを収納している。
【0004】
しかし、これら従来の手法は、試料が単一化合物の場合にしか適用できない。混合物の場合には、直接測定される混合スペクトルは個々の成分化合物のスペクトルが重畳した形となり、これから直接各成分化合物とその量を解析することは一般には不可能である。その一つの解決はフーリエ変換方式イオンサイクロトロン質量分析(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometry 、以下FT−ICRという)法の超高質量分解能により、イオン質量数を精密測定し、その化学組成を求めて同定することである。このことは、例えば本願発明者の一部によって別途出願されている持開平5−54852号公報、あるいは論文「イオンサイクロトロン共鳴小型精密質量分析計」、質量分析Vol.42、No.2(1994)、p.105−115に詳細に説明されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、FT−ICRの超高分解能によって分離された成分イオンを同定することは、必ずしも容易ではない。特定の質量ピークの質量値を精密に読みとる場合は、狭い質量範囲で、しかも比質量偏差の程度にごく近接して存在することのある他のピークとの識別が必要となる。比質量偏差の数値例を図5に掲げる。図5にみられるように、これによるピークの識別には質量数を4〜6桁の精度で測定できなければならない。
【0006】
FT−ICRにおけるサイクロトロン角周波数ωc は、印加静磁場をB、イオンの質量をm、電荷をqとするとき、基本的には、
ωc = q・B/m ・・・式1
で表されるが、実際に観測される角周波数ωeff は、分析セルのトラップ電極に印加される電圧VT 、電荷q、電荷密度ρ、電極間隔a、およびセルの形状に依存する係数Gi 等の影響を受け、式1により求められるωc から
ωeff=ωc−(2αVT/a2B)−(qρGi/ε0B) ・・・式2
に変移する。αは定数である。(例えば、E.B.Ledford et al., "Space Charge Effect in Fourier Transform Mass Spectrometry. Mass Calibration", Anal.Chem., 56(1984), p.2744, 参照。)この変移量は10-6〜10-3の程度である。すなわち同一のイオン種であっても、これらのパラメータによってωeff の値は微妙に変化する。したがって、イオン質量の測定数値のみからその化学組成を同定することは、種々の数値補正を必要とし困難な作業であった。
【0007】
そこで、本発明は、FT−ICR質量分析計等の高分解能質量分析計において、測定試料のイオンの同定を容易に行うことのできるイオン同定方法およびそのための質量分析計ならびにそのためのプログラムを記録した記録媒体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の質量分析計を用いたイオン同定方法は、同一質量数でありながら異なる組成の各種イオンの質量ピークを原子核の比質量偏差に基づいて互いに分離した質量スペクトルとして出力することが可能な分解能を備えた質量分析計を用いたイオン同定方法において、同位体を含む対象元素の核種、原子量および存在比を対応付けて原子量テーブルとして前記質量分析計内の記憶手段に記憶する手順と、質量値が既知の標準試料を測定試料と同時に測定し、測定された質量スペクトルの中から同定すべき質量ピークの質量値を指定する手順と、指定した前記質量値に対して、当該質量値と前記標準試料の質量値とを含む所定範囲の質量範囲を指定する手順と、前記原子量テーブルに記憶された各元素の組み合わせにより、前記質量範囲に存在しうる組成を検索し、当該組成のイオンのイオン質量を比質量偏差を考慮した値として算出するとともに、当該組成のイオンに関するイオン存在比を各元素の存在比から算出する組成検索手順と、前記組成検索手順によって検索算出した前記組成、前記イオン質量および前記イオン存在比を出力する出力手順と、前記質量スペクトルに含まれる前記同定すべき質量ピークおよび前記標準試料の質量ピークの相対位置関係と、前記出力手順によって出力した前記イオン質量の相対位置関係とを比較することにより、前記同定すべき質量ピークに対応する組成を同定する手順とを有するものである。
【0009】
また、上記の質量分析計を用いたイオン同定方法において、前記質量分析計は、フーリエ変換方式イオンサイクロトロン共鳴質量分析計であることが好ましい。
【0010】
また、上記の質量分析計を用いたイオン同定方法において、前記出力手順は、前記組成検索手順において検索した前記組成のうち、前記イオン存在比が所定の下限値以上の前記組成を出力するものであることが好ましい。
【0011】
また、上記の質量分析計を用いたイオン同定方法において、質量値が既知の標準試料を測定試料と同時に測定し、標準試料の質量値により測定試料の質量スペクトルを較正する手順を有することが好ましい。
【0012】
また、本発明の質量分析計は、同一質量数でありながら異なる組成の各種イオンの質量ピークを原子核の比質量偏差に基づいて互いに分離した質量スペクトルとして出力することが可能な分解能を備えた質量分析計であって、文字および図形を表示可能な表示手段と、作業者が情報を入力するための入力手段と、同位体を含む対象元素の核種、原子量および存在比を対応付けて原子量テーブルとして記憶する原子量テーブル記憶手段と、質量値が既知の標準試料を測定試料と同時に測定し、測定された質量スペクトルの中から同定すべき質量ピークの質量値に対して、当該質量値と前記標準試料の質量値とを含むように指定された質量範囲の下限値と上限値とを記憶する記憶手段と、前記原子量テーブルに記憶された各元素の組み合わせにより、前記質量範囲に存在しうる組成を検索し、当該組成のイオンのイオン質量を比質量偏差を考慮した値として算出するとともに、当該組成のイオンに関するイオン存在比を各元素の存在比から算出する組成検索手段と、前記組成検索手段によって検索算出した前記組成、前記イオン質量および前記イオン存在比を出力する出力手段とを有し、前記質量スペクトルに含まれる前記同定すべき質量ピークおよび前記標準試料の質量ピークの相対位置関係と、前記出力手段によって出力した前記イオン質量の相対位置関係とを比較することにより、前記同定すべき質量ピークに対応する組成を同定することを可能としたものである。
【0013】
また、上記の質量分析計において、前記質量分析計は、フーリエ変換方式イオンサイクロトロン共鳴質量分析計であることが好ましい。
【0014】
また、上記の質量分析計において、前記出力手段は、前記組成検索手段により検索算出した前記組成のうち、前記イオン存在比が所定の下限値以上の前記組成を出力するものであることが好ましい。
【0015】
また、上記の質量分析計において、前記表示手段に測定された質量スペクトルと可動指標とを表示するとともに、可動指標の示す質量値を表示する手段を有することが好ましい。
【0016】
また、本発明の質量分析計を用いたイオン同定プログラムを記録した記録媒体は、同一質量数でありながら異なる組成の各種イオンの質量ピークを原子核の比質量偏差に基づいて互いに分離した質量スペクトルとして出力することが可能な分解能を備えた質量分析計に、同位体を含む対象元素の核種、原子量および存在比を対応付けて原子量テーブルとして前記質量分析計内の記憶手段に記憶する手順と、質量値が既知の標準試料を測定試料と同時に測定し、測定された質量スペクトルの中から同定すべき質量ピークの質量値を指定する手順と、指定した前記質量値に対して、当該質量値と前記標準試料の質量値とを含む所定範囲の質量範囲を指定する手順と、前記原子量テーブルに記憶された各元素の組み合わせにより、前記質量範囲に存在しうる組成を検索し、当該組成のイオンのイオン質量を比質量偏差を考慮した値として算出するとともに、当該組成のイオンに関するイオン存在比を各元素の存在比から算出する組成検索手順と、前記組成検索手順によって検索算出した前記組成、前記イオン質量および前記イオン存在比を、前記イオン存在比が所定の下限値以上の場合に出力する出力手順とを実行させるプログラムを記録し、前記質量スペクトルに含まれる前記同定すべき質量ピークおよび前記標準試料の質量ピークの相対位置関係と、前記出力手順によって出力した前記イオン質量の相対位置関係とを比較することにより、前記同定すべき質量ピークに対応する組成を同定することを可能としたものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の質量分析計の構成を示す図である。質量分析計はフーリエ変換方式イオンサイクロトロン質量分析法を利用したものであり、演算入出力部1、分析セル2、駆動制御部3、測定部4から成る。分析セル2は、静磁場内におかれた高真空容器から成り、3対の電極を有するものである。分析セル2内に試料ガスを導入してイオン化し、試料イオンによるイオンサイクロトロン共鳴の共振周波数を測定することにより、試料イオンの質量スペクトルを超高分解能で測定することができる。
【0019】
駆動制御部3は、分析セル2内の試料ガスをイオン化するために電子ビームの発生および制御を行う回路、試料イオンに対して高周波電圧を印加するための回路等を含むものである。また測定部3は、試料イオンによるイオンサイクロトロン共鳴の共振周波数を測定するための、高周波増幅器、フィルター回路、A/D変換器等を含むものである。
【0020】
演算入出力部1には、高速フーリエ変換等の種々のデータ処理を行う情報処理手段としてのCPU10が設けられており、CPU10にはバス11を介して主記憶装置としてROM12およびRAM13が接続されている。CPU10は、ROM12に記憶されているシステムプログラムおよびデータと、RAM13にロードされたプログラムおよびデータに従って動作する。RAM13へのプログラムおよびデータのロードは入出力装置16から行う。
【0021】
このようなRAM13にロードされるプログラムとしては、基本プログラムであるOS(オペレーティング・システム)や質量分析計としてのデータ処理機能を実現させる質量分析処理プログラム131、試料イオンの組成を検索する組成検索プログラム132、表示手段14に対して文字や図形の表示を行う表示制御プログラム等がある。また、RAM13には同位体を含む対象元素の核種、原子量および存在比を対応付けて記憶する原子量テーブル133の領域が設けられている。
【0022】
演算入出力部1には、文字および図形を表示する表示手段14、作業者がデータを入力するための入力手段15が設けられている。これらはインターフェース回路を介してバス11に接続されている。表示手段14としてはCRT、EL表示パネルや液晶ディスプレイ等が使用でき、入力手段13としてはキーボード、マウス、トラックボール等が使用できる。
【0023】
また、演算入出力部1には入出力装置16が設けられている。入出力装置16にはプリンタや、外部機器との測定情報等のやりとりを行う通信インターフェース回路等を含むものである。また、入出力装置16としてフレキシブルディスク等の交換可能記憶媒体の入出力装置や固定ディスク装置を設けることもできる。インターフェース17は、演算入出力部1と駆動制御部3および測定部4とを接続するための回路である。
【0024】
測定部4によって実際に観測される角周波数ωeff は、前述の式2右辺の第2項、第3項に示される影響を受け、イオンの質量測定値に誤差を与える。しかしこの影響は同時に、近傍に観測される他のイオンにも同様な偏差をおよぼしている。換言すれば、式2はイオン質量測定値の確度に関するもので、測定値の細かさすなわち精度(分解能)には影響しない。FT−ICRの質量分解能がこれら近接ピークの分離に必要な程度に達成されていれば、式2の誤差項に関わらず、ピークそれぞれの弁別は可能である。
【0025】
図2、図3は、表示手段14に表示された質量スペクトルを示す図である。図2、図3の質量スペクトルは、ある固体試料の成分分析のため、試料を加熱し、気化脱離する成分の質量分析である。すなわち、通常の発生気体分析の例である。また両スペクトルは得られた質量スペクトルの典型例となるピークを拡大表示している。
【0026】
表示手段14の表示画面には可動指標としてのカーソル141を表示し、入力手段15としてのマウス、トラックポールまたはキーボード等の操作により、カーソル141を測定スペクトル上の所望のピーク位置に移動させる。カーソル141が所要のピーク位置に設定できれば、マウス、トラックポールの「決定」ボタンのクリックまたはキーボードの「入力」キー等を操作する。すると演算入出力部1はカーソル位置の横軸座標(質量軸座標)から、ピークの質量値を算出し表示画面下部に出力表示する。図2の「M/Z 27.995」の表示がそれである。Mは質量、Zはイオンの価数を示すが、ここでは1価のイオンだけを考えているので、M/Zが質量を表している。この質量値の画面表示およびカーソル141の画面表示は、質量分析プログラム131が行っている。
【0027】
次に着目しているピークを含むスペクトル上の質量範囲を指定し入力手段15から入力する。演算入出力部1のRAM13には、核種、原子量および存在比が対応付けて記憶された原子量テーブル133があらかじめ読込まれている。次に演算入出力部1は原子量テーブル133を用いて、組成検索プログラム132により、指定された質量範囲に存在しうる核種の組み合わせを算出し、存在可能な化学組成のリストを出力する。
【0028】
図4が、存在可能な化学組成のリストを示す図である。「組成」の欄は、核種と個数を示している。例えば、1行目の「12C 1 16O 1」は質量数12の炭素1つと質量数16の酸素1つの組成を表す。「質量」の欄は、その組成の質量を表す。「存在比」の欄は、その組成のイオンの存在比を表す。イオンの存在比は、そのイオンを構成する各核種の存在比の積を計算し、さらに同位体が存在する場合は、2種の同位体の場合は2項定数、3種以上の同位体が存在する場合は多項定数を掛けることにより得られる。図4のリストには各組成のイオンの存在比も算出表示されているので、予想されるピーク強度との照合もできる。
【0029】
図4には、存在比が10-4以上の組成のイオンのみが表示されている。すなわち、存在比の下限値が10-4となっている。図2の測定例によれば、図2でカーソル141によって指示されたピークの質量は27.995となる。このピークを同定する質量範囲を27.5〜28.5と指定し出力した化学組成リストが図4である。図2と図4とを照合すれば、このピークはCOイオンであると判定できる。
【0030】
同様に図3で指定したイオンピークは、M/Z=28.020と得られる。図4のリストと照合することにより、このイオンは相当の確率でもって、M/Z=28.018724のCH2N イオンであると判定できる。例えば、含窒素炭化水素のフラグメント
【0031】
【化1】
Figure 0004246285
などが予想される。
【0032】
図5は、原子量テーブル133の内容を示す図である。原子量テーブル133には、試料イオン中に含まれる可能性のある元素の全ての核種を記憶しておく。元素記号の左上の数値は質量数を表している。ここでは、核種に対応して、質量数、質量、比質量偏差、存在比のそれぞれのデータを記憶しているが、質量数と比質量偏差のデータは必ずしも必要ではない。存在比のデータは、試料イオンの存在比を計算して、出力するイオン組成の存在比に下限値を設ける場合に必要となる。出力するイオン組成の存在比に下限値を設けなければ、それぞれの核種に対応した存在比のデータは必要ない。
【0033】
図6は、質量範囲43.8〜44.5におけるイオンの質量スペクトルである。ピークの質量値は、スペクトルの横軸座標から44.03〜44.04にあると見られる。この質量範囲を含む質量範囲43.8〜44.2における化学組成のリストを図7に示す。図7では存在比の下限値は10-3とされている。図6と図7とを照合すれば、あり得べき化学組成は、上から14番目のCH42の確率が高い。構造式は、
【0034】
【化2】
Figure 0004246285
などが考えられる。
【0035】
なおこの質量範囲に存在可能なCO2 (M/Z=43.98983)の位置にはピークは検出されていない。従って、図2で得たCOイオンは、二酸化炭素のフラグメントピークではない。試料気体中には二酸化炭素はなくて、一酸化炭素が存在することを示している。
【0036】
図8は、演算入出力部1の質量分析処理プログラム131の処理内容を示すフローチャートである。ここでは入出力に関連する処理のみを示しているが、質量分析処理プログラム131は質量分析のための高速フーリエ変換等の演算処理も含むものである。質量分析処理プログラム131の処理が開始されると、まず処理101において、プログラムで使用するデータ、変数等の初期設定の処理を行う。次に、処理102において原子量テーブル133にデータを読み込む。データの読み込みは、入出力装置16から行ってもよいし、ROM12から読み込むようにしてもよい。また、入力手段15から原子量テーブル133のデータの入力や修正を行うこともできる。
【0037】
次に、順番に判断103、判断106、判断108、判断110において、「F1」キー、「F3」キー、「F5」キー、「F7」キーが押されたか否かを判断する。これらの「F1」キー等は、プログラム可能機能キーであり、これらのいずれかのキーを押すことにより、演算入出力部1に作業者の所望の処理を行わせることができる。
【0038】
判断103で「F1」キーが押されたものと判断されれば、処理104、処理105に進み、現在の原子量テーブル133に記憶されている同位体の核種を表示する。まず、処理104で表示したい核種リストの元素の種類を指定して入力する。次に処理105で、指定された元素の同位体の核種を全てリストとして表示する。
【0039】
次に、判断106で「F3」キーが押されたものと判断されれば、組成検索プログラム132における表示するイオンの存在比の下限値を設定する。すなわち、処理107において、表示するイオンの存在比の下限値を作業者が入力して設定する。下限値の初期設定値は「0」であり、下限値を「0」に設定しておけば全ての組成を表示するようになる。
【0040】
次に、判断108で「F5」キーが押されたものと判断されれば、呼出処理109において組成検索プログラム132が呼び出される。組成検索プログラム132の処理内容については、図9において詳しく説明する。次に、判断110で「F7」キーが押されたものと判断されれば、呼出処理111において印刷プログラムが呼び出される。印刷プログラムは、表示手段14の画面に表示された組成リスト等を、入出力装置16のプリンタに出力して印字するものである。
【0041】
判断103、判断106、判断108、判断110の全てにおいて、「F1」キー、「F3」キー、「F5」キー、「F7」キーが押されていないと判断された場合は、処理112に進んでその他の処理を行う。その他の処理とは、質量分析のための高速フーリエ変換の演算処理や、その他のプログラム可能機能キーに対応する処理等である。それぞれのプログラム可能機能キーに対応した処理、および処理112が終わると判断103に戻り、以上のキー入力待ちのループを繰り返す。
【0042】
図9は、組成検索プログラム132の処理内容を示すフローチャートである。この組成検索プログラム132は、図8の呼出処理109から呼び出されるサブルーチンである。組成検索プログラム132の処理を開始すると、まず処理201で、組成を検索する質量範囲を設定するために質量範囲の下限値と上限値とを入力する。入力された質量範囲の下限値と上限値は、RAM13の所定の領域に記憶される。
【0043】
次に、処理202で最初の組成の候補を作成する。最初の組成は、検索のアルゴリズムによっても異なるが、所定の組成を設定する。次に、処理203において作成した組成のイオンの質量を原子量テーブル133を参照して計算する。イオンの質量は、それを構成するそれぞれの核種の元素の質量の合計である。そして判断204において、そのイオンの質量が質量範囲の下限値と上限値の間にあるかどうかを判断する。質量範囲内にあれば処理205に進み、そうでなければ処理209に進む。
【0044】
次に、処理205ではその組成のイオンの存在比を計算する。イオンの存在比は、そのイオンを構成するそれぞれの核種の存在比の積を計算し、さらに同位体が存在する場合は、2種の同位体の場合は2項定数、3種以上の同位体が存在する場合は多項定数を掛けることにより得られる。そして判断206において、そのイオンの存在比が、存在比の下限値以上であるかどうかを判断する。下限値以上であれば処理207に進み、そうでなければ処理209に進む。
【0045】
次に、処理207では質量範囲内であり、かつ存在比が下限値以上である現在の組成を、RAM13の所定の領域に記憶するとともに、表示手段14に表示する。次に判断208で、原子量テーブル133に記憶された全ての核種のあらゆる組み合わせが検索されたか否かを判断する。全ての組み合わせの検索が終了していれば、この組成検索プログラムを終了して呼び出し元に戻る。検索が終了していなければ、処理209に進み、次の組み合わせの組成を作成して処理203に戻って検索を続行する。
【0046】
ここで処理202、処理209における各核種の元素の組み合わせの作成は、最大個数以内での各核種の元素の組み合わせを重複を許して作成すればよい。各元素の最大個数は、その検索対象のイオンの質量数をその元素の質量数で割って整数化した数とすればよい。また、この実施の形態ではイオンの存在比を計算して、それが下限値以上のもののみを表示するようにしているが、イオンの存在比を考慮せずに質量範囲内の全ての組成を表示する場合は、処理205および判断206は不要となる。
【0047】
以上の実施の形態においては、測定試料のみを測定しそのフラグメントの質量を高分解能で判別することにより、そのフラグメントの組成を同定するようにしたが、測定試料だけでなく質量が既知の標準試料を同時に測定するようにしてもよい。その場合、標準試料の質量スペクトルにより、図2、図3、図6における横軸(分子量)の目盛りを較正することができ、より正確な質量分析を行うことが可能となる。
【0048】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0049】
FT−ICRで得られた質量スペクトルの所望ピークを含む質量範囲を指定して、その質量範囲内に含まれる可能な組成のリストをコンピュータにより算出し出力することで、従来非常に煩雑であった質量ピークの同定を極めて容易かつ正確に行うことができる。このことはFT−ICR装置による混合物の直接分析の道を大きく開くものである。
【0050】
FT−ICRで得られた質量スペクトルの所望ピークを含む質量範囲を指定して、その質量範囲内に含まれかつイオンの存在比が下限値以上の組成のリストをコンピュータにより算出し出力することで、上述の効果に加えて、可能性の高い組成のみを表示させることができ、質量ピークの同定をさらに容易にする。
【0051】
算出した各組成のリストには、組成と質量に加えて各組成のイオンの存在比も表示されているので、予想されるピーク強度との照合もでき、組成の同定の確度が向上する。
【0052】
測定試料と質量が既知の標準試料とを同時に測定するようにして、質量の目盛りを標準試料の質量値により較正することができ、さらに正確な質量分析を行うことが可能となる。
【0053】
FT−ICRで得られた質量スペクトルの所望ピークを、表示手段に表示された可動指標により任意に選択指示することにより、その質量ピークの質量値を表示するようにしたので、所望の質量ピークの質量値を容易かつ正確に知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の質量分析計の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、表示手段に表示された質量スペクトルを示す図である。
【図3】図3は、表示手段に表示された質量スペクトルを示す図である。
【図4】図4は、指定した質量範囲の組成リストを示す図である。
【図5】図5は、原子量テーブルの内容を示す図である。
【図6】図6は、他の質量値範囲の質量スペクトルを示す図である。
【図7】図7は、指定した他の質量範囲の組成リストを示す図である。
【図8】図8は、質量分析処理プログラムの処理内容を示すフローチャートである。
【図9】図9は、組成検索プログラムの処理内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1…演算入出力部
2…分析セル
3…駆動制御部
4…測定部
10…CPU
11…バス
12…ROM
13…RAM
14…表示手段
15…入力手段
16…入出力装置
17…インターフェース

Claims (9)

  1. 同一質量数でありながら異なる組成の各種イオンの質量ピークを原子核の比質量偏差に基づいて互いに分離した質量スペクトルとして出力することが可能な分解能を備えた質量分析計を用いたイオン同定方法において、
    同位体を含む対象元素の核種、原子量および存在比を対応付けて原子量テーブル(133)として前記質量分析計内の記憶手段(13)に記憶する手順(102)と、
    質量値が既知の標準試料を測定試料と同時に測定し、測定された質量スペクトルの中から同定すべき質量ピークの質量値を指定する手順と、
    指定した前記質量値に対して、当該質量値と前記標準試料の質量値とを含む所定範囲の質量範囲を指定する手順(201)と、
    前記原子量テーブル(133)に記憶された各元素の組み合わせにより、前記質量範囲に存在しうる組成を検索し、当該組成のイオンのイオン質量を比質量偏差を考慮した値として算出するとともに、当該組成のイオンに関するイオン存在比を各元素の存在比から算出する組成検索手順(132)と、
    前記組成検索手順(132)によって検索算出した前記組成、前記イオン質量および前記イオン存在比を出力する出力手順(207)と、
    前記質量スペクトルに含まれる前記同定すべき質量ピークおよび前記標準試料の質量ピークの相対位置関係と、前記出力手順(207)によって出力した前記イオン質量の相対位置関係とを比較することにより、前記同定すべき質量ピークに対応する組成を同定する手順とを有する質量分析計を用いたイオン同定方法。
  2. 請求項1に記載した質量分析計を用いたイオン同定方法において、
    前記質量分析計は、フーリエ変換方式イオンサイクロトロン共鳴質量分析計である質量分析計を用いたイオン同定方法。
  3. 請求項1,2のいずれか1項に記載した質量分析計を用いたイオン同定方法において、
    前記出力手順(207)は、前記組成検索手順(132)において検索した前記組成のうち、前記イオン存在比が所定の下限値以上の前記組成を出力するものである質量分析計を用いたイオン同定方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載した質量分析計を用いたイオン同定方法において、
    質量値が既知の標準試料を測定試料と同時に測定し、標準試料の質量値により測定試料の質量スペクトルを較正する手順を有する質量分析計を用いたイオン同定方法。
  5. 同一質量数でありながら異なる組成の各種イオンの質量ピークを原子核の比質量偏差に基づいて互いに分離した質量スペクトルとして出力することが可能な分解能を備えた質量分析計であって、
    文字および図形を表示可能な表示手段(14)と、
    作業者が情報を入力するための入力手段(15)と、
    同位体を含む対象元素の核種、原子量および存在比を対応付けて原子量テーブル(133)として記憶する原子量テーブル記憶手段(13)と、
    質量値が既知の標準試料を測定試料と同時に測定し、測定された質量スペクトルの中から同定すべき質量ピークの質量値に対して、当該質量値と前記標準試料の質量値とを含むように指定された質量範囲の下限値と上限値とを記憶する記憶手段(13)と、
    前記原子量テーブル(133)に記憶された各元素の組み合わせにより、前記質量範囲に存在しうる組成を検索し、当該組成のイオンのイオン質量を比質量偏差を考慮した値として算出するとともに、当該組成のイオンに関するイオン存在比を各元素の存在比から算出する組成検索手段(132)と、
    前記組成検索手段(132)によって検索算出した前記組成、前記イオン質量および前記イオン存在比を出力する出力手段(207)とを有し、
    前記質量スペクトルに含まれる前記同定すべき質量ピークおよび前記標準試料の質量ピークの相対位置関係と、前記出力手段(207)によって出力した前記イオン質量の相対位置関係とを比較することにより、前記同定すべき質量ピークに対応する組成を同定することを可能とした質量分析計。
  6. 請求項5に記載した質量分析計であって、
    前記質量分析計は、フーリエ変換方式イオンサイクロトロン共鳴質量分析計である質量分析計。
  7. 請求項5,6のいずれか1項に記載した質量分析計であって、
    前記出力手段(207)は、前記組成検索手段(132)により検索算出した前記組成のうち、前記イオン存在比が所定の下限値以上の前記組成を出力するものである質量分析計。
  8. 請求項5〜7のいずれか1項に記載した質量分析計であって、
    前記表示手段(14)に測定された質量スペクトルと可動指標(141)とを表示するとともに、可動指標(141)の示す質量値を表示する手段(131)を有する質量分析計。
  9. 同一質量数でありながら異なる組成の各種イオンの質量ピークを原子核の比質量偏差に基づいて互いに分離した質量スペクトルとして出力することが可能な分解能を備えた質量分析計に、
    同位体を含む対象元素の核種、原子量および存在比を対応付けて原子量テーブル(133)として前記質量分析計内の記憶手段(13)に記憶する手順(102)と、
    質量値が既知の標準試料を測定試料と同時に測定し、測定された質量スペクトルの中から同定すべき質量ピークの質量値を指定する手順と、
    指定した前記質量値に対して、当該質量値と前記標準試料の質量値とを含む所定範囲の質量範囲を指定する手順(201)と、
    前記原子量テーブル(133)に記憶された各元素の組み合わせにより、前記質量範囲に存在しうる組成を検索し、当該組成のイオンのイオン質量を比質量偏差を考慮した値として算出するとともに、当該組成のイオンに関するイオン存在比を各元素の存在比から算出する組成検索手順(132)と、
    前記組成検索手順(132)によって検索算出した前記組成、前記イオン質量および前記イオン存在比を、前記イオン存在比が所定の下限値以上の場合に出力する出力手順(207)とを実行させるプログラムを記録し、
    前記質量スペクトルに含まれる前記同定すべき質量ピークおよび前記標準試料の質量ピークの相対位置関係と、前記出力手順(207)によって出力した前記イオン質量の相対位置関係とを比較することにより、前記同定すべき質量ピークに対応する組成を同定することを可能とした質量分析計を用いたイオン同定プログラムを記録した記録媒体。
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