以下、本発明による内燃機関の空燃比制御装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による空燃比制御装置を火花点火式多気筒(4気筒)内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。この内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース、及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排気ガスを外部に放出するための排気系統50とを含んでいる。
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23、及びクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21とピストン22のヘッドは、シリンダヘッド部30とともに燃焼室25を形成している。
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに同インテークカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング装置33、可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38、及び燃料を吸気ポート31内に噴射するインジェクタ(燃料噴射手段)39を備えている。
吸気系統40は、吸気ポート31に連通し同吸気ポート31とともに吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管41、吸気管41の端部に設けられたエアフィルタ42、吸気管41内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁43、スロットル弁駆動手段を構成するDCモータからなるスロットル弁アクチュエータ43a、スワールコントロールバルブ(以下、「SCV」と称呼する。)44、及びDCモータからなるSCVアクチュエータ44aを備えている。
排気系統50は、排気ポート34に連通したエキゾーストマニホールド51、エキゾーストマニホールド51(実際には、各排気ポート34に連通したそれぞれのエキゾーストマニホールド51が集合した集合部)に接続されたエキゾーストパイプ(排気管)52、エキゾーストパイプ52に配設(介装)された上流側の三元触媒53(上流側触媒コンバータ、又はスタート・キャタリティック・コンバータとも云うが、以下「第1触媒53」と称呼する。)、及びこの第1触媒53の下流のエキゾーストパイプ52に配設(介装)された下流側の三元触媒54(車両のフロア下方に配設されるため、アンダ・フロア・キャタリティック・コンバータとも云うが、以下「第2触媒54」と称呼する。)を備えている。排気ポート34、エキゾーストマニホールド51、及びエキゾーストパイプ52は、排気通路を構成している。
一方、このシステムは、熱線式エアフローメータ61、スロットルポジションセンサ62、カムポジションセンサ63、クランクポジションセンサ64、水温センサ65、第1触媒53の上流の排気通路(本例では、上記各々のエキゾーストマニホールド51が集合した集合部)に配設された空燃比センサ66(以下、「上流側空燃比センサ66」と称呼する。)、第1触媒53の下流であって第2触媒54の上流の排気通路に配設された空燃比センサ67(以下、「下流側空燃比センサ67」と称呼する。)、及びアクセル開度センサ68を備えている。
熱線式エアフローメータ61は、吸気管41内を流れる吸入空気の単位時間あたりの質量流量に応じた電圧Vgを出力するようになっている。かかるエアフローメータ61の出力Vgと、計測された吸入空気量(流量)Gaとの関係は、図2に示したとおりである。スロットルポジションセンサ62は、スロットル弁43の開度を検出し、スロットル弁開度TAを表す信号を出力するようになっている。カムポジションセンサ63は、インテークカムシャフトが90°回転する毎に(即ち、クランク軸24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号(G2信号)を発生するようになっている。クランクポジションセンサ64は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、エンジン回転速度NEを表す。水温センサ65は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。
上流側空燃比センサ66は、限界電流式の酸素濃度センサであり、図3に示したように、空燃比A/Fに応じた電流を出力し、この電流に応じた電圧である出力値vabyfsを出力するようになっていて、特に、空燃比が理論空燃比であるときには出力値vabyfsは値vstoichになる。図3から明らかなように、上流側空燃比センサ66によれば、広範囲にわたる空燃比A/Fを精度良く検出することができる。
下流側空燃比センサ67は、起電力式(濃淡電池式)の酸素濃度センサであり、図4に示したように、理論空燃比近傍において急変する電圧である出力値Voxsを出力するようになっている。より具体的に述べると、下流側空燃比センサ67は、空燃比が理論空燃比よりもリーンのときは略0.1(V)、空燃比が理論空燃比よりもリッチのときは略0.9(V)、及び空燃比が理論空燃比のときは0.5(V)の電圧を出力するようになっている。アクセル開度センサ68は、運転者によって操作されるアクセルペダル81の操作量を検出し、同アクセルペダル81の操作量Accpを表す信号を出力するようになっている。
電気制御装置70は、互いにバスで接続されたCPU71、CPU71が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、及び定数等を予め記憶したROM72、CPU71が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM73、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM74、並びにADコンバータを含むインターフェース75等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース75は、前記センサ61〜68と接続され、CPU71にセンサ61〜68からの信号を供給するとともに、同CPU71の指示に応じて可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、イグナイタ38、インジェクタ39、スロットル弁アクチュエータ43a、及びSCVアクチュエータ44aに駆動信号を送出するようになっている。
(空燃比フィードバック制御の概要)
次に、上記のように構成された空燃比制御装置が行う機関に供給される混合気の空燃比(以下、単に「機関の空燃比」と云うこともある。)のフィードバック制御の概要について説明する。
第1触媒53(第2触媒54も同様である。)は、同第1触媒53に流入するガスの空燃比が理論空燃比であるときに、HC,COを酸化するとともにNOxを還元し、これらの有害成分を高い効率で浄化する。また、第1触媒53は、酸素を吸蔵・放出する機能(酸素吸蔵機能、酸素吸蔵・放出機能)を有し、この酸素吸蔵・放出機能により、空燃比が理論空燃比からある程度まで偏移したとしても、HC,CO、及びNOxを浄化することができる。即ち、機関の空燃比がリーンとなって第1触媒53に流入するガスにNOxが多量に含まれると、第1触媒53はNOxから酸素分子を奪って同酸素分子を吸蔵するとともに同NOxを還元し、これによりNOxを浄化する。また、機関の空燃比がリッチになって第1触媒53に流入するガスにHC,COが多量に含まれると、三元触媒はこれらに吸蔵している酸素分子を与えて(放出して)酸化し、これによりHC,COを浄化する。
従って、第1触媒53が連続的に流入する多量のHC,COを効率的に浄化するためには、同第1触媒53が酸素を多量に貯蔵していなければならず、逆に連続的に流入する多量のNOxを効率的に浄化するためには、同第1触媒53が酸素を十分に貯蔵し得る状態になければならないことになる。以上のことから、第1触媒53の浄化能力は、同第1触媒53が貯蔵し得る最大の酸素量(最大酸素吸蔵量)に依存する。
一方、第1触媒53のような三元触媒は燃料中に含まれる鉛や硫黄等による被毒、或いは触媒に加わる熱により劣化し、これに伴い最大酸素吸蔵量が次第に低下してくる。このように最大酸素吸蔵量が低下した場合であっても、エミッションの排出量を継続的に抑制するには、第1触媒53から排出されるガスの空燃比(従って、第1触媒53に流入するガスの平均空燃比)が、理論空燃比に極めて近い状態となるように制御する必要がある。
そこで、本実施形態の空燃比制御装置は、下流側空燃比センサ67の出力値が原則的に理論空燃比に対応する値(0.5(V))と一致するように、上流側空燃比センサ66の出力値vabyfs(即ち、第1触媒上流の空燃比)、及び下流側空燃比センサ67の出力値Voxs(即ち、第1触媒下流の空燃比)に応じて機関の空燃比をフィードバック制御する。
より具体的に述べると、この空燃比制御装置(以下、「本装置」と云うこともある。)は、その機能ブロック図である図5に示したように、A1〜A16の各手段等を含んで構成されている。以下、図5を参照しながら各手段について説明していく。
<基本燃料噴射量の算出>
先ず、筒内吸入空気量算出手段A1は、エアフローメータ61が計測している吸入空気流量Gaと、クランクポジションセンサ64の出力に基づいて得られるエンジン回転速度NEと、ROM72が記憶しているテーブルMapMcとに基づいて今回の吸気行程を迎える気筒の吸入空気量である筒内吸入空気量Mcを求める。
上流側目標空燃比設定手段A2は、内燃機関10の運転状態であるエンジン回転速度NE、及びスロットル弁開度TA等に基づいて上流側空燃比センサ出力の目標値(上流側目標値)に対応する上流側目標空燃比abyfr(k)を決定する。ここで、添え字の(k)は、今回の吸気行程に対する値であることを示している(以下、他の物理量についても同様。)。この上流側目標空燃比abyfr(k)は、例えば、内燃機関10の暖機終了後においては、特殊な場合を除き理論空燃比に設定されている。また、上流側目標空燃比abyfrは、各気筒の吸気行程に対応されながらRAM73に記憶されていく。
基本燃料噴射量算出手段A3は、筒内吸入空気量算出手段A1により求められた筒内吸入空気量Mc(k)を上流側目標空燃比設定手段A2により設定された上流側目標空燃比abyfr(k)で除することにより、機関の空燃比を同上流側目標空燃比abyfr(k)とするための今回の吸気行程に対する基本燃料噴射量Fbaseを求める。
このように、本装置は、筒内吸入空気量算出手段A1、上流側目標空燃比設定手段A2、及び基本燃料噴射量算出手段A3を利用して、基本燃料噴射量Fbaseを求める。
<燃料噴射量の算出>
燃料噴射量算出手段A4は、基本燃料噴射量算出手段A3により求められた基本燃料噴射量Fbaseに、後述するサブフィードバック補正係数KFisub(サブフィードバック補正量)と後述するメインフィードバック補正係数KFimain(メインフィードバック補正量)とを乗算することで、下記(1)式に基づいて、(最終)燃料噴射量Fiを求める。
Fi=Fbase・KFisub・KFimain ・・・(1)
本装置は、このようにして、燃料噴射量算出手段A4により基本燃料噴射量Fbaseをメインフィードバック補正係数KFimainとサブフィードバック補正係数KFisubとによりそれぞれ独立に補正することにより得られる燃料噴射量Fiの燃料を今回の吸気行程を迎える気筒に対してインジェクタ39により噴射する。
<サブフィードバック制御>
下流側目標値設定手段A5は、上述した上流側目標空燃比設定手段A2と同様、内燃機関10の運転状態であるエンジン回転速度NE、及びスロットル弁開度TA等に基づいて下流側空燃比センサ出力の目標値である下流側目標値Voxsrefを決定する。この下流側目標値Voxsrefは、例えば、内燃機関10の暖機終了後においては、特殊な場合を除き理論空燃比に対応する値である0.5(V)に設定されている(図4を参照。)。また、本例では、下流側目標値Voxsrefは、同下流側目標値Voxsrefに対応する下流側目標空燃比が上述した上流側目標空燃比abyfr(k)と常時一致するように設定される。
出力偏差量算出手段A6は、下記(2)式に基づいて、下流側目標値設定手段A5により設定されている現時点での下流側目標値Voxsrefから現時点での下流側空燃比センサ67の出力値Voxsを減じることにより、出力偏差量DVoxsを求める。この出力偏差量DVoxsは、下流側空燃比センサ67の出力値Voxsと下流側目標値Voxsrefとの相違の程度に応じた値に相当する。
DVoxs=Voxsref-Voxs ・・・(2)
ローパスフィルタA7は、その特性をラプラス演算子sを用いて表した下記(3)式に示すように、一次のフィルタである。下記(3)式において、τlowはローパスフィルタA7の時定数である。このローパスフィルタA7の周波数−ゲイン特性は図6に示したとおりである。図6に示したように、ローパスフィルタA7は、入力値(入力信号)の変動におけるカットオフ周波数ω1(=1/τlow)以上の高周波数成分を減衰することで同高周波数成分が通過することを実質的に禁止する。
1/(1+τlow・s) ・・・(3)
ローパスフィルタA7は、出力偏差量算出手段A6により求められた前記出力偏差量DVoxsの値を入力するとともに、上記(3)式に従って同出力偏差量DVoxsの値をローパスフィルタ処理した後の値であるローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowを出力する。従って、ローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowは、下流側空燃比センサ67の出力値Voxsと下流側目標値Voxsrefとの相違の程度に応じた値をローパスフィルタ処理した後の値である。
PIコントローラA8(サブフィードバックコントローラ)は、ローパスフィルタA7の出力値であるローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowを比例・積分処理(PI処理)することで、下記(4)式に基づいてサブフィードバック補正量としてのサブフィードバック補正係数KFisub(>0)を求める。
KFisub=(Kp・DVoxslow+Ki・SDVoxslow)+1 ・・・(4)
上記(4)式において、Kpは予め設定された比例ゲイン(比例定数)、Kiは予め設定された積分ゲイン(積分定数)である。また、SDVoxslowはローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowの時間積分値である。
このようにして、本装置は、下流側空燃比センサ67の出力値Voxsと下流側目標値Voxsrefとの相違の程度に応じた値をローパスフィルタ処理した後の値であるローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslow(サブフィードバック入力値)をPIコントローラA8に入力することでサブフィードバック補正係数KFisubを求め、前記基本燃料噴射量Fbaseに同サブフィードバック補正係数KFisubを乗算することで、後述するメインフィードバック制御による(前記メインフィードバック補正係数KFimainによる)基本燃料噴射量Fbaseの補正とは独立に同基本燃料噴射量Fbaseを補正してサブフィードバック制御を実行する。
例えば、機関の平均的な空燃比がリーンであるために下流側空燃比センサ67の出力値Voxsが理論空燃比よりもリーンである空燃比に対応した値を示すと、出力偏差量算出手段A6により求められる出力偏差量DVoxs(従って、ローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslow)が正の値となるので(図4を参照。)、PIコントローラA8にて求められるサブフィードバック補正係数KFisubは「1」より大きい値となる。これにより、燃料噴射量算出手段A4にて求められる(最終)燃料噴射量Fiは基本燃料噴射量Fbaseよりも大きくなって、機関の空燃比がリッチとなるように制御される。
反対に、機関の平均的な空燃比がリッチであるために下流側空燃比センサ出力値Voxsが理論空燃比よりもリッチである空燃比に対応した値を示すと、出力偏差量DVoxs(従って、ローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslow)が負の値となるので、サブフィードバック補正係数KFisubは「1」より小さい値(、且つ「0」より大きい値)となる。これにより、燃料噴射量Fiは基本燃料噴射量Fbaseよりも小さくなって、機関の空燃比がリーンとなるように制御される。
また、PIコントローラA8は積分処理を実行する(即ち、積分(I)項「Ki・SDVoxslow」が使用されている)ので、機関が定常状態にある場合、出力偏差量DVoxsがゼロになることが保証される。換言すれば、下流側目標値Voxsrefと下流側空燃比センサ67の出力値Voxsとの定常偏差がゼロになる。そして、定常状態では、出力偏差量DVoxsがゼロになることで比例項Kp・DVoxslowが「0」となるから、サブフィードバック補正係数KFisubは積分項Ki・SDVoxslowの値に「1」を加えた値となる。この値が基本燃焼噴射量Fbaseに乗算されることにより、インジェクタ39の誤差(指令される燃料噴射量である燃料噴射量Fiと実際の燃料噴射量の差)、エアフローメータ61の誤差(吸入空気流量計測値Gaと実際の吸入空気流量の差)が補償されつつ、定常状態において第1触媒53の下流の空燃比(従って、機関の空燃比)が前記下流側目標値Voxsrefに対応する下流側目標空燃比(即ち、理論空燃比)に収束する。以上、燃料噴射量算出手段A4、下流側目標値設定手段A5、出力偏差量算出手段A6、ローパスフィルタA7、及びPIコントローラA8がサブフィードバック制御手段に相当する。
<メインフィードバック制御>
先に説明したように、第1触媒53は上記酸素吸蔵機能を有している。従って、第1触媒53の上流の排ガスの空燃比変動における比較的周波数の高い(例えば、前記ローパスフィルタA7のカットオフ周波数ω1以上の)高周波数成分、及び比較的周波数が低くて(例えば、同カットオフ周波数ω1以下であって)振幅(理論空燃比からの偏移量)が比較的小さい低周波数成分は第1触媒53が有する酸素吸蔵機能により完全に吸収されることにより第1触媒53の下流の排ガスの空燃比変動として現れ難い傾向がある。従って、例えば、内燃機関10が過渡運転状態にあって排ガスの空燃比が前記カットオフ周波数ω1以上の高周波数で大きく変動するような場合、係る空燃比変動が下流側空燃比センサ67の出力値Voxsとして現れないから、同カットオフ周波数ω1以上の空燃比変動に対する空燃比制御(即ち、過渡運転状態における空燃比の急変に対する補償)はサブフィードバック制御により達成することができない。従って、過渡運転状態における空燃比の急変に対する補償を確実に行うためには、上流側空燃比センサ66の出力値vabyfsに基づいた空燃比制御であるメインフィードバック制御を行う必要がある。
一方、第1触媒53の上流の排ガスの空燃比変動における比較的周波数が低くて(例えば、前記カットオフ周波数ω1以下であって)振幅が比較的大きい低周波数成分は第1触媒53の酸素吸蔵機能では完全には吸収されず、少し遅れて第1触媒53の下流の排ガスの空燃比変動として現れ易い傾向がある。この結果、上流側空燃比センサ66の出力値vabyfsと下流側空燃比センサ67の出力値Voxsとが理論空燃比に対して互いに逆方向に偏移した空燃比を示す値となる場合が発生する。従って、この場合、メインフィードバック制御とサブフィードバック制御とを同時に行うと、2つの空燃比制御が互いに干渉することになるので良好な機関の空燃比制御を行うことができない。
以上のことから、上流側空燃比センサ66の出力値vabyfsの変動における第1触媒53の下流の空燃比の変動として現れ得る程度の周波数成分(本例では、前記カットオフ周波数ω1以下の低周波数成分)をカットした後の同上流側空燃比センサ出力値vabyfsを使用してメインフィードバック制御を行えば、メインフィードバック制御とサブフィードバック制御との干渉が発生することを回避することができると考えられるとともに、過渡運転状態における空燃比の急変に対する補償を確実に達成ことができる。
そこで、本装置は、前述の図5に示したように、A9〜A16の各手段等を利用してメインフィードバック制御を実行する。以下、図5を参照しながら各手段について説明していく。
先ず、テーブル変換手段A9は、上流側空燃比センサ66の出力値vabyfsと、先に説明した図3に示した上流側空燃比センサ出力値vabyfsと空燃比A/Fとの関係を規定したテーブルとに基づいて、上流側空燃比センサ66による現時点における検出空燃比abyfsを求める。
目標空燃比遅延手段A10は、上流側目標空燃比設定手段A2により吸気行程毎に求められRAM73に記憶されている上流側目標空燃比abyfrのうち、現時点からNストローク(N回の吸気行程)前に吸気行程を迎えた気筒についての上流側目標空燃比abyfrをRAM73から読み出し、これを上流側目標空燃比abyfr(k-N)として設定する。ここで、前記値Nは、内燃機関10の排気量、及び燃焼室25から上流側空燃比センサ66までの距離等により異なる値である。
このように、現時点からNストローク前の上流側目標空燃比abyfr(k-N)が使用されるのは、燃焼室25内で燃焼された混合気が上流側空燃比センサ66に到達するまでには、Nストロークに相当する時間Lを要しているからである。
上流側空燃比偏差算出手段A11は、下記(5)式に基づいて、テーブル変換手段A9により求められた上流側空燃比センサ66による現時点における検出空燃比abyfsから、目標空燃比遅延手段A10により設定された現時点からNストローク前の上流側目標空燃比abyfr(k-N)を減じることにより、上流側空燃比偏差Dabyfを求める。この上流側空燃比偏差Dabyfは、Nストローク前の時点での実際の空燃比と目標空燃比との差を表す量であって、上流側空燃比センサ66の出力値vabyfsと上流側目標値との相違の程度に応じた値に相当する。
Dabyf=abyfs−abyfr(k-N) ・・・(5)
ハイパスフィルタA12は、その特性をラプラス演算子sを用いて表した下記(6)式に示すように、一次のフィルタである。下記(6)式において、τhiはハイパスフィルタA12の時定数である。このハイパスフィルタA12の周波数−ゲイン特性は図6に示したとおりである。図6に示したように、ハイパスフィルタA12は、カットオフ周波数ω2(=1/τhi)以下の低周波数成分を減衰することで同低周波数成分が通過することを実質的に禁止する。
1−1/(1+τhi・s) ・・・(6)
ハイパスフィルタA12は、前記上流側空燃比偏差算出手段A11により求められた前記上流側空燃比偏差Dabyfの値を入力するとともに、上記(6)式に従って同上流側空燃比偏差Dabyfの値をハイパスフィルタ処理した後の値であるハイパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfhiを出力する。従って、ハイパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfhiは、上流側空燃比センサ66の出力値vabyfsと上流側目標値との相違の程度に応じた値をハイパスフィルタ処理した後の値である。
PコントローラA13(第1メインフィードバックコントローラ)は、ハイパスフィルタA12の出力値であるハイパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfhiを比例処理(P処理)することで、下記(7)式に基づいて第1メインフィードバック補正量DFihiを求める。下記(7)式において、Khiは予め設定された比例ゲイン(比例定数)である。
DFihi=Khi・Dabyfhi ・・・(7)
バンドパスフィルタA14は、その特性をラプラス演算子sを用いて表した下記(8)式に示すように、一次のフィルタである。このバンドパスフィルタA14の周波数−ゲイン特性は図6に示したとおりである。図6に示したように、バンドパスフィルタA14は、前記ローパスフィルタA7のカットオフ周波数と等しい低周波数側のカットオフ周波数ω1(=1/τlow)以下の低周波数成分を減衰するとともに前記ハイパスフィルタA12のカットオフ周波数と等しい高周波数側のカットオフ周波数ω2(=1/τhi)以上の高周波数成分を減衰する。これにより、バンドパスフィルタA14は、上記低周波数成分が通過することを実質的に禁止するとともに上記高周波数成分が通過することを実質的に禁止する。換言すれば、バンドパスフィルタA14は、上記低周波数側のカットオフ周波数ω1以上、上記高周波数側のカットオフ周波数ω2以下の周波数成分のみが通過することを実質的に許容する。
1/(1+τhi・s)+(1−1/(1+τlow・s)) ・・・(8)
バンドパスフィルタA14は、前記上流側空燃比偏差算出手段A11により求められた前記上流側空燃比偏差Dabyfの値を入力するとともに、上記(8)式に従って同上流側空燃比偏差Dabyfの値をバンドパスフィルタ処理した後の値であるバンドパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfbaを出力する。従って、バンドパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfbaは、上流側空燃比センサ66の出力値vabyfsと上流側目標値との相違の程度に応じた値をバンドパスフィルタ処理した後の値である。
PコントローラA15(第2メインフィードバックコントローラ)は、バンドパスフィルタA14の出力値であるバンドパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfbaを比例処理(P処理)することで、下記(9)式に基づいて第2メインフィードバック補正量DFibaを求める。下記(9)式において、Kbaは予め設定された比例ゲイン(比例定数)である。
DFiba=Kba・Dabyfba ・・・(9)
メインフィードバック補正係数算出手段A16は、前記第1メインフィードバック補正量DFihiと前記第2メインフィードバック補正量DFibaとを使用して、下記(10)式に基づいてメインフィードバック補正係数KFimain(>0)を求める。このメインフィードバック補正係数KFimainは、先に述べたように燃料噴射量算出手段A4により燃料噴射量Fiを求める際に使用される。
KFimain=DFihi+DFiba+1 ・・・(10)
このようにして、本装置は、メインフィードバック制御回路とサブフィードバック制御回路とを基本燃料噴射量Fbaseの補正に関して並列に接続している。また、本装置は、上流側空燃比センサ66の出力値vabyfsと上流側目標空燃比abyfrに対応する上流側目標値との相違の程度に応じた値をハイパスフィルタ処理した後の値であるハイパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfhi(第1メインフィードバック入力値)をPコントローラA13に入力することで第1メインフィードバック補正量DFihiを求めるとともに、上記相違の程度に応じた値をバンドパスフィルタ処理した後の値であるバンドパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfba(第2メインフィードバック入力値)をPコントローラA15に入力することで第2メインフィードバック補正量DFibaを求める。
そして、本装置は、第1メインフィードバック補正量DFihiと第2メインフィードバック補正量DFibaとを使用してメインフィードバック補正係数KFimainを求め、前記基本燃料噴射量Fbaseに同メインフィードバック補正係数KFimainを乗算することで、前記サブフィードバック制御による基本燃料噴射量Fbaseの補正とは独立に同基本燃料噴射量Fbaseを補正してメインフィードバック制御を実行する。
例えば、機関の空燃比が急変してリーンとなると、テーブル変換手段A9にて求められる検出空燃比abyfsは上流側目標空燃比設定手段A2により設定されている上流側目標空燃比abyfrよりもリーンな値(より大きな値)として求められる。このため、上流側空燃比偏差算出手段A11にて求められる上流側空燃比偏差Dabyfは正の値となる。ここで、機関の空燃比の急変によりこの上流側空燃比偏差Dabyfを示す信号には前記カットオフ周波数ω1以上の高周波数成分が含まれている。係る高周波数成分は、ハイパスフィルタA12、又はバンドパスフィルタA14を通過し得る。従って、ハイパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfhi(従って、第1メインフィードバック補正量DFihi)、又はバンドパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfba(従って、第2メインフィードバック補正量DFiba)も正の値となる。この結果、メインフィードバック補正係数算出手段A16により算出されるメインフィードバック補正係数KFimainが「1」より大きい値となる。これにより、燃料噴射量算出手段A4にて求められる燃料噴射量Fiは、基本燃料噴射量Fbaseよりも大きくなって、機関の空燃比がリッチとなるように制御される。
反対に、機関の空燃比が急変してリッチとなると、検出空燃比abyfsは上流側目標空燃比abyfrよりもリッチな値(より小さい値)として求められる。このため、上流側空燃比偏差Dabyfは負の値となる。この場合も、上流側空燃比偏差Dabyfを示す信号にはハイパスフィルタA12、又はバンドパスフィルタA14を通過し得る前記カットオフ周波数ω1以上の高周波数成分が含まれている。従って、ハイパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfhi(従って、第1メインフィードバック補正量DFihi)、又はバンドパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfba(従って、第2メインフィードバック補正量DFiba)も負の値となる。この結果、メインフィードバック補正係数KFimainが「1」より小さい値(、且つ「0」より大きい値)となる。これにより、燃料噴射量Fiは基本燃料噴射量Fbaseよりも小さくなって、機関の空燃比がリーンとなるように制御される。
以上、燃料噴射量算出手段A4、テーブル変換手段A9、目標空燃比遅延手段A10、上流側空燃比偏差算出手段A11、ハイパスフィルタA12、PコントローラA13、バンドパスフィルタA14、PコントローラA15、及びメインフィードバック補正係数算出手段A16はメインフィードバック制御手段に相当する。
このようにして、第1触媒53の下流の空燃比変動として現れ得るカットオフ周波数ω1以下の空燃比変動に対する実質的な(定常的な)空燃比制御はサブフィードバック制御により確実に行われ得る。換言すれば、サブフィードバック制御全体としての制御周波数帯域はカットオフ周波数ω1以下の帯域となる。
また、係るカットオフ周波数ω1以下の低周波数成分はハイパスフィルタA12、及びバンドパスフィルタA14を通過し得ず、従って、カットオフ周波数ω1以下の空燃比変動がメインフィードバック補正係数KFimainの値として現れない。換言すれば、メインフィードバック制御全体としての制御周波数帯域はカットオフ周波数ω1以上の帯域となる。従って、メインフィードバック制御全体としての制御周波数帯域とサブフィードバック制御全体としての制御周波数帯域とは重複しないから、前述したメインフィードバック制御とサブフィードバック制御との干渉が発生することが回避できると考えられる。
更に、空燃比変動(従って、上流側空燃比センサ66の出力値vabyfsの変動)におけるカットオフ周波数ω1以上の高周波数成分はハイパスフィルタA12、又はバンドパスフィルタA14を通過するから、過渡運転状態における空燃比の急変に対する補償はメインフィードバック制御により迅速、且つ確実に行われ得る。
<メインフィードバック制御とサブフィードバック制御との干渉の確実な回避>
先に述べたように、フィードバックコントローラの出力値であるフィードバック補正量(本例では、第1,第2メインフィードバック補正量DFihi,DFiba、及びサブフィードバック補正係数KFisub)の算出に使用される補正項のうち、P項の値はフィードバックコントローラへの入力信号の周波数にかかわらず増幅も減衰もされない。一方、I項の値は入力信号の周波数が小さいほどより増幅されるとともに入力信号の周波数が大きいほどより減衰される傾向がある。また、D項の値は入力信号の周波数が大きいほどより増幅されるとともに入力信号の周波数が小さいほどより減衰される傾向がある。
よって、図6に示すように、PコントローラA13(第1メインフィードバックコントローラ)でハイパスフィルタA12(HPF)によりハイパスフィルタ処理した後の値(ハイパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfhi)をP処理する場合において、P項(HPF+P項)のゲイン特性は、ハイパスフィルタA12のゲイン特性と一致し得る。換言すれば、PコントローラA13のP項の制御周波数帯域はカットオフ周波数ω2以上の帯域となる。
同様に、PコントローラA15(第2メインフィードバックコントローラ)でバンドパスフィルタA14(BPF)によりバンドパスフィルタ処理した後の値(バンドパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfba)をP処理する場合において、P項(BPF+P項)のゲイン特性は、バンドパスフィルタA14のゲイン特性と一致し得る。換言すれば、PコントローラA15のP項の制御周波数帯域はカットオフ周波数ω1以上カットオフ周波数ω2以下の帯域となる。
即ち、メインフィードバック制御に係わる総ての補正項(HPF+P項、及びBPF+P項)の制御周波数帯域は、カットオフ周波数ω1以下の帯域(従って、上記サブフィードバック制御全体としての制御周波数帯域)と重複しない。このことは、ハイパスフィルタA12、及びバンドパスフィルタA14により既に減衰されているカットオフ周波数ω1以下の低周波数成分を増幅し得るI項が、PコントローラA13,A15の出力値である第1,第2メインフィードバック補正量DFihi,DFibaの算出に使用されていないことに基づく。このように、本装置においては、サブフィードバック制御全体としての制御周波数帯域においてメインフィードバック制御とサブフィードバック制御と干渉が完全に回避されている。
加えて、図6に示すように、PIコントローラA8(サブフィードバックコントローラ)でローパスフィルタA7(LPF)によりローパスフィルタ処理した後の値(ローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslow)をPI処理する場合において、P項(LPF+P項)のゲイン特性は、ローパスフィルタA7のゲイン特性と一致し得る。また、I項(LPF+I項)のゲイン特性は、カットオフ周波数ω1未満の周波数ではローパスフィルタA7のゲインよりも大きいゲインを有するとともにカットオフ周波数ω1より大きい周波数ではローパスフィルタA7のゲインよりも小さいゲインを有する特性となる。換言すれば、PIコントローラA8のP項、及びI項の制御周波数帯域は共にカットオフ周波数ω1以下の帯域となる。
即ち、サブフィードバック制御に係わる総ての補正項(LPF+P項、及びLPF+I項)の制御周波数帯域は、カットオフ周波数ω1以上の帯域(従って、上記メインフィードバック制御全体としての制御周波数帯域)と重複しない。このことは、ローパスフィルタA7により既に減衰されているカットオフ周波数ω1以上の高周波数成分を増幅し得るD項が、PIコントローラA8の出力値であるサブフィードバック補正係数KFsubの算出に使用されていないことに基づく。このように、本装置においては、メインフィードバック制御全体としての制御周波数帯域においてもメインフィードバック制御とサブフィードバック制御と干渉が完全に回避されている。
以上のように、本装置においては、総ての周波数帯域に亘ってメインフィードバック制御とサブフィードバック制御との干渉が完全に回避されている。以上が、本装置が行う機関の空燃比のフィードバック制御の概要である。
(実際の作動)
次に、上記第1実施形態に係る空燃比制御装置の実際の作動について説明する。
<空燃比フィードバック制御>
CPU71は、図7にフローチャートにより示した燃料噴射量Fiの計算、及び燃料噴射の指示を行うルーチンを、各気筒のクランク角が各吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、BTDC90°CA)となる毎に、繰り返し実行するようになっている。従って、任意の気筒のクランク角度が前記所定クランク角度になると、CPU71はステップ700から処理を開始してステップ705に進み、エアフローメータ61により計測された吸入空気流量Ga、及びエンジン回転速度NEと、前記テーブルMapMcとに基づいて今回の吸気行程を迎える気筒の筒内吸入空気量Mcを求める。
次に、CPU71はステップ710に進み、上記求めた筒内吸入空気流量Mcを現時点での上流側目標空燃比abyfr(k)で除することで、機関の空燃比を同上流側目標空燃比abyfr(k)とするための基本燃料噴射量Fbaseを求める。
次いで、CPU71はステップ715に進み、上記求めた基本燃料噴射量Fbaseに後述するルーチンで計算されているサブフィードバック補正係数KFisubとメインフィードバック補正係数KFimainとを乗じることで上記(1)式に従って燃料噴射量Fiを算出する。
そして、CPU71はステップ720に進み、燃料噴射量Fiの燃料を噴射するための指示を今回の吸気行程を迎える気筒のインジェクタ39に対して行った後、ステップ795に進み、本ルーチンを一旦終了する。以上により、メインフィードバック制御、及びサブフィードバック制御により補正された後の燃料噴射量Fiの燃料が吸気行程を迎える気筒に対して噴射される。
(メインフィードバック補正係数の計算)
次に、メインフィードバック制御においてメインフィードバック補正係数KFimainを算出する際の作動について説明すると、CPU71は図8にフローチャートにより示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU71はステップ800から処理を開始し、ステップ805に進んでメインフィードバック制御条件が成立しているか否かを判定する。このメインフィードバック制御条件は、例えば、機関の冷却水温THWが第1所定温度以上であって、機関の一回転当りの吸入空気量(負荷)が所定値以下であるときに成立する。
いま、メインフィードバック制御条件が成立しているものとして説明を続けると、CPU71はステップ805にて「Yes」と判定してステップ810に進み、現時点の上流側空燃比センサ66の出力値vabyfsを図3に示したテーブルに基づいて変換することにより、現時点における検出空燃比abyfsを求める。
次に、CPU71はステップ815に進み、上記求めた検出空燃比abyfsから、現時点からNストローク前の上流側目標空燃比abyfr(k-N)を減じることで上記(5)式に従って、現時点からNストローク前の実際の空燃比と目標空燃比との差を表す上流側空燃比偏差Dabyfを求める。
次いで、CPU71はステップ820に進み、前記上流側空燃比偏差DabyfをハイパスフィルタA12によりハイパスフィルタ処理してハイパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfhiを取得し、続くステップ825にて上記(7)式に従って第1メインフィードバック補正量DFihiを求める。
続いて、CPU71はステップ830に進み、前記上流側空燃比偏差DabyfをバンドパスフィルタA14によりバンドパスフィルタ処理してバンドパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfbaを取得し、続くステップ835にて上記(9)式に従って第2メインフィードバック補正量DFibaを求める。
そして、CPU71はステップ840に進んで、上記求めた第1メインフィードバック補正量DFihiと、第2メインフィードバック補正量DFibaと、上記(10)式とに基づいてメインフィードバック補正係数KFimainを求め、続くステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上により、メインフィードバック補正係数KFimainが求められ、このメインフィードバック補正係数KFimainが前述した図7のステップ715により燃料噴射量Fiに反映されることで上述したメインフィードバック制御に基づく機関の空燃比制御が実行される。
一方、ステップ805の判定時において、メインフィードバック制御条件が不成立であると、CPU71は同ステップ805にて「No」と判定してステップ845に進んでメインフィードバック補正係数KFimainの値を「1」に設定し、その後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。このように、メインフィードバック制御条件が不成立であるときは、メインフィードバック補正係数KFimainの値を「1」としてメインフィードバック制御に基づく機関の空燃比の補正を行わない。
(サブフィードバック補正係数の計算)
次に、サブフィードバック制御においてサブフィードバック補正係数KFisubを算出する際の作動について説明すると、CPU71は図9にフローチャートにより示したルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU71はステップ900から処理を開始し、ステップ905に進んでサブフィードバック制御条件が成立しているか否かを判定する。サブフィードバック制御条件は、例えば、前述したステップ805でのメインフィードバック制御条件に加え、機関の冷却水温THWが前記第1所定温度よりも高い第2所定温度以上のときに成立する。
いま、サブフィードバック制御条件が成立しているものとして説明を続けると、CPU71はステップ905にて「Yes」と判定してステップ910に進み、上記(2)式に従って、現時点での下流側目標値Voxsrefから現時点の下流側空燃比センサ67の出力値Voxsを減じることにより、出力偏差量DVoxsを求める。
次に、CPU71はステップ915に進んで、前記出力偏差量DVoxsをローパスフィルタA7によりローパスフィルタ処理してローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowを取得する。
次いで、CPU71はステップ920に進み、上記(4)式に従って、サブフィードバック補正係数KFisubを求め、続くステップ925にて、その時点におけるローパスフィルタ通過後出力偏差量の積分値SDVoxslowに上記ステップ915にて求めたローパスフィルタ通過後出力偏差量DVoxslowを加えて、新たなローパスフィルタ通過後出力偏差量の積分値SDVoxslowを求める。そして、CPU71はステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上により、サブフィードバック制御係数KFisubが求められ、このサブフィードバック補正係数KFisubが前述した図7のステップ715により燃料噴射量Fiに反映されることで上述したサブフィードバック制御に基づく機関の空燃比制御が実行される。
一方、ステップ905の判定時において、サブフィードバック制御条件が不成立であると、CPU71は同ステップ905にて「No」と判定してステップ930に進んでサブフィードバック補正係数KFisubの値を「1」に設定し、続くステップ935にてローパスフィルタ通過後出力偏差量の積分値SDVoxslowを「0」に初期化した後、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。このように、サブフィードバック制御条件が不成立であるときは、サブフィードバック補正係数KFisubを「1」としてサブフィードバック制御に基づく機関の空燃比の補正を行わない。
以上、説明したように、本発明による内燃機関の空燃比制御装置の第1実施形態によれば、第1触媒53の上流に配設された上流側空燃比センサ66の出力値vabyfsに基づく空燃比制御であるメインフィードバック制御において、上流側空燃比センサ出力値vabyfsに基づく値(上流側空燃比偏差Dabyf)をバンドパスフィルタA14(BPF、通過許可周波数:ω1〜ω2)によりバンドパスフィルタ処理した後の値、及び同上流側空燃比偏差DabyfをハイパスフィルタA12(HPF、通過許可周波数:ω2以上)によりハイパスフィルタ処理した後の値、を第1、第2メインフィードバックコントローラ(PコントローラA13,A15)でそれぞれ比例処理(P処理)することでメインフィードバック補正係数KFimainが求められる。
一方、第1触媒53の下流に配設された下流側空燃比センサ67の出力値Voxsに基づく空燃比制御であるサブフィードバック制御において、下流側空燃比センサ出力値Voxsに基づく値(出力偏差量Dvoxs)をローパスフィルタA7(LPF、通過許可周波数:ω1以下)によりローパスフィルタ処理した後の値をサブフィードバックコントローラ(PIコントローラA8)で比例・積分処理(PI処理)することでサブフィードバック補正係数KFisubが求められる。
そして、メインフィードバック補正係数KFimainとサブフィードバック補正係数KFisubとで互いに独立に燃料噴射量Fiを補正することにより、メインフィードバック制御、及びサブフィードバック制御が実行される。
これにより、第1、第2メインフィードバックコントローラにおいてカットオフ周波数ω1以下の低周波数成分を増幅し得る積分処理(I処理)が実行されないから、メインフィードバック制御に係わる総ての補正項(HPF+P項、及びBPF+P項)の制御周波数帯域が、カットオフ周波数ω1以下の帯域と重複しない。また、サブフィードバックコントローラにおいてカットオフ周波数ω1以上の高周波数成分を増幅し得る微分処理(D処理)が実行されないから、サブフィードバック制御に係わる総ての補正項(LPF+P項、及びLPF+I項)の制御周波数帯域が、カットオフ周波数ω1以上の帯域と重複しない。従って、総ての周波数帯域に亘ってメインフィードバック制御とサブフィードバック制御との干渉が完全に回避される。
また、メインフィードバック制御回路(従って、第1、第2メインフィードバックコントローラ(PコントローラA13,A15))と、サブフィードバック制御回路(従って、サブフィードバックコントローラ(PIコントローラA8))とが燃料噴射量Fiの補正に関して並列に接続されている。従って、メインフィードバック制御側のフィードバック制御定数(即ち、PコントローラA13の比例ゲインKhi、及びPコントローラA15の比例ゲインKba)と、サブフィードバック制御側のフィードバック制御定数(即ち、PIントローラA8の比例ゲインKp、及び積分ゲインKi)と、のいずれか一方側の適合を行うとき他方側の値が同いずれか一方の適合に与える影響の程度は少ない。この結果、各フィードバック制御定数の適合を行う際の労力を少なくすることができる。
また、メインフィードバック制御全体としての制御周波数帯域(即ち、カットオフ周波数ω1以上の帯域)が、バンドパスフィルタA14が分担する帯域(従って、PコントローラA15が分担する帯域)とハイパスフィルタA12が分担する帯域(従って、PコントローラA13が分担する帯域)とに更に分けられている。この結果、メインフィードバック制御全体としての制御周波数帯域において、フィルタのゲイン特性に関する設計上の自由度を向上させることができ、これにより、排ガスの空燃比変動におけるカットオフ周波数ω1以上の高周波数成分に対するメインフィードバック制御系の設計の自由度が向上する。
(第1実施形態の変形例)
次に、上記第1実施形態の変形例に係る空燃比制御装置について説明する。この変形例は、機能ブロック図である図10に示すように、前記上流側空燃比偏差Dabyfの代わりに上流側空燃比センサ66の検出空燃比abyfsを直接ハイパスフィルタA12、及びバンドパスフィルタA14に入力する点においてのみ、上記第1実施形態と異なる。即ち、検出空燃比abyfsの値そのものをハイパスフィルタ処理、及びバンドパスフィルタ処理した後の値に基づいてメインフィードバック補正係数KFimainが算出される。以下、係る相違点を中心として説明する。
この相違点に基づき、この変形例のCPU71は図8に示したルーチンに代えてメインフィードバック補正係数KFimainを算出するための図11にフローチャートにより示したルーチンを所定時間の経過毎に実行する。図11において、図8に示したステップと同一のステップには同一の符号を付している。
即ち、図11のルーチンは、上流側空燃比偏差Dabyfを求めるためのステップ815が存在しない点、ステップ820〜835にそれぞれ対応するステップ1105〜1120において、検出空燃比abyfsの値そのものをハイパスフィルタ処理して得られるハイパスフィルタ通過後検出空燃比abyfhiに比例ゲインKhiを乗じることで第1メインフィードバック補正量DFihiを算出するとともに、検出空燃比abyfsの値そのものをバンドパスフィルタ処理して得られるバンドパスフィルタ通過後検出空燃比abyfbaに比例ゲインKbaを乗じることで第2メインフィードバック補正量DFibaを算出する点、においてのみ、図8のルーチンと異なる。従って、図11のルーチンのその他のステップについての詳細な説明は省略する。
上記第1実施形態においてハイパスフィルタA12、及びバンドパスフィルタA14に入力される上流側空燃比偏差Dabyfは、検出空燃比abyfsから上流側目標空燃比abyfr(k-N)(原則的に理論空燃比で一定)を減じた値である。従って、上流側空燃比偏差Dabyfを示す信号は、検出空燃比abyfsを示す信号と、変動の中心値が異なる一方で同じタイミング、同じ振幅で増減する波形を有する信号となる。
よって、ハイパスフィルタA12、及びバンドパスフィルタA14をそれぞれ通過した後のカットオフ周波数ω1以上の高周波数成分からなる上記ハイパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfhiを示す信号、及びバンドパスフィルタ通過後上流側空燃比偏差Dabyfbaを示す信号は、ハイパスフィルタA12、及びバンドパスフィルタA14をそれぞれ通過した後の同カットオフ周波数ω1以上の高周波数成分からなる上記ハイパスフィルタ通過後検出空燃比abyfhiを示す信号、及びバンドパスフィルタ通過後検出空燃比abyfbaを示す信号と、全く同一の値をとる信号となる。この結果、係る第1実施形態の変形例においても、上記第1実施形態と全く同一の作用・効果が得られる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る空燃比制御装置について説明する。この第2実施形態は、機能ブロック図である図12に示すように、バンドパスフィルタA14及びPコントローラA15を備えていない点(従って、メインフィードバック補正係数算出手段A16において第1メインフィードバック補正量DFihiに「1」を加えた値がメインフィードバック補正係数KFimainとなる点)において、上記第1実施形態と異なる。
更に、この第2実施形態は、バンドパスフィルタA14の不存在に伴い、同バンドパスフィルタA14が分担していた制御周波数帯域(ω1〜ω2)をもハイパスフィルタA12が分担する制御周波数帯域に含めるため、図13に示すように、ハイパスフィルタA12のカットオフ周波数をω2からω1に変更した点においても、上記第1実施形態と異なる。これにより、ハイパスフィルタA12のカットオフ周波数とローパスフィルタA7のカットオフ周波数とは等しくなる。以下、係る相違点を中心として説明する。
この相違点に基づき、この第2実施形態のCPU71は図8に示したルーチンに代えて、メインフィードバック補正係数KFimainを算出するための図14にフローチャートにより示したルーチンを所定時間の経過毎にそれぞれ実行する。図14において、図8に示したステップと同一のステップには同一の符号を付している。
即ち、図14のルーチンは、第2メインフィードバック補正量DFibaを求めるためのステップ830、835が存在しない点、ステップ840に対応するステップ1405において、第1メインフィードバック補正量DFihiに「1」を加えることでメインフィードバック補正係数KFimainを算出する点、においてのみ、図8のルーチンと異なる。従って、図14のルーチンのその他のステップについての詳細な説明は省略する。
以上、説明した第2実施形態においては、メインフィードバック制御全体としての制御周波数帯域であるカットオフ周波数ω1以上の帯域全域が一つのフィルタ(ハイパスフィルタA12)により分担されている。従って、第1実施形態に比して簡易な構成で、総ての周波数帯域に亘ってメインフィードバック制御とサブフィードバック制御との干渉を完全に回避することができる。
本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第1、第2実施形態においては、「上流側空燃比センサの出力値と上流側目標値との相違の程度に応じた値」として、上流側空燃比センサ66の検出空燃比abyfsと上流側目標空燃比abyfrとの差が使用されているが、上流側空燃比センサ出力値vabyfsそのものと上流側目標空燃比abyfrに相当するセンサ出力値(上流側目標値)との差、或いは、筒内吸入空気量Mcを検出空燃比abyfsで除した値である実際の筒内燃料供給量と同筒内吸入空気量Mcを目標空燃比abyfrで除した値である目標筒内燃料供給量との差を使用してもよい。
また、上記各実施形態、及び変形例においては、「下流側空燃比センサの出力値と下流側目標値との相違の程度に応じた値」として、下流側空燃比センサ67の出力値Voxsと下流側目標値Voxsrefとの差が使用されているが、下流側空燃比センサ67の検出空燃比と下流側目標値Voxsrefに相当する下流側目標空燃比との差を使用してもよい。
また、上記各実施形態、及び変形例においては、メインフィードバック補正係数KFimain(>0)を基本燃料噴射量Fbaseに乗じることでメインフィードバック制御を実行しているが、同メインフィードバック補正係数KFimainに相当する正負の値を採りえるメインフィードバック補正量を基本燃料噴射量Fbaseに加算することによりメインフィードバック制御を実行してもよい。
同様に、上記各実施形態、及び変形例においては、サブフィードバック補正係数KFisub(>0)を基本燃料噴射量Fbaseに乗じることでサブフィードバック制御を実行しているが、同サブフィードバック補正係数KFisubに相当する正負の値を採りえるサブフィードバック補正量を基本燃料噴射量Fbaseに加算することによりサブフィードバック制御を実行してもよい。
また、上記各実施形態、及び変形例においては、下流側空燃比センサ67の出力値Voxsと下流側目標値Voxsrefとの差DVoxsをローパスフィルタ処理した後の値DVoxslowに基づいてサブフィードバック補正係数KFisubを算出しているが、同下流側空燃比センサ67の出力値Voxsをローパスフィルタ処理した後の値と同下流側目標値Voxsrefとの差に基づいて同サブフィードバック補正係数KFisubを算出するように構成してもよい。
また、上記各実施形態、及び変形例においては、フィルタ(ハイパスフィルタA12、バンドパスフィルタA14、ローパスフィルタA7)として、1次フィルタを使用しているが、各フィルタが分担するそれぞれの帯域をさらに明白に分ける必要がある場合、これらのフィルタとして2次以上のフィルタを使用してもよい。
また、上記各実施形態、及び変形例においては、第1メインフィードバックコントローラとして比例処理(P処理)のみを行うPコントローラA13が採用されているが、微分処理(D処理)のみを行うDコントローラ、或いは、比例・微分処理(PD処理)のみを行うPDコントローラを採用してもよい。
同様に、上記各実施形態、及び変形例においては、サブフィードバックコントローラとして比例・積分処理(PI処理)のみを行うPIコントローラA8が採用されているが、比例処理(P処理)のみを行うPコントローラ、或いは、積分処理(I処理)のみを行うIコントローラを採用してもよい。
また、上記第1実施形態、及び変形例においては、第2メインフィードバックコントローラとして比例処理(P処理)のみを行うPコントローラA15が採用されているが、微分処理(D処理)のみを行うDコントローラ、或いは、比例・微分処理(PD処理)のみを行うPDコントローラを採用してもよい。
10…内燃機関、25…燃焼室、39…インジェクタ、52…エキゾーストパイプ(排気管)、53…三元触媒(第1触媒)、66…上流側空燃比センサ、67…下流側空燃比センサ、70…電気制御装置、71…CPU