JP4240702B2 - 液体吐出用繊維吸収体、該繊維吸収体を有する液体容器及び前記液体吐出用繊維吸収体の製造方法 - Google Patents

液体吐出用繊維吸収体、該繊維吸収体を有する液体容器及び前記液体吐出用繊維吸収体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体の吐出により記録を行う液体吐出記録に用いられ、記録ヘッドに供給する液体を保持する液体容器に関し、特に、内部に負圧を発生させるために液体容器内に収納された繊維吸収体、及びこの繊維吸収体を有する液体容器に関する。
【0002】
更に、本発明は液体収納容器内の負圧発生部材として用いられる繊維自体の表面またはこの表面に何らかの処理がされた表面のいずれかに対して、特性や性質などを変えて接液性を改質する物品表面改質方法に関し、該表面改質された負圧発生部材に関する。
【0003】
特に本発明は、表面処理が施し難いが環境にやさしいオレフィン系樹脂から構成されている繊維に対して表面改質を確実に行える表面改質方法、改質表面を有する繊維および繊維の製造方法に関する。
【0004】
【従来の技術】
従来、インクジェット記録分野では、記録ヘッドからのインクの漏れを防止する目的で、記録ヘッドに対して負圧を与えるインクタンク(インク容器)が用いられている。この種のインクタンクにおいては、インクタンクの内部に多孔質体や繊維体を収納し、これらの毛管力によってインクを保持し負圧を発生させている。特に、繊維体を収納したインクタンクは、繊維方向を略水平に配置することで、インクと気体との界面は環境変化による変動が生じた場合でも水平方向を維持し重力方向に対するばらつきが少ないという点で好ましい。
【0005】
インクタンク内に収納される繊維体としては、インクタンクの筐体がPE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)といったオレフィン系樹脂で構成されるため、リサイクルの容易性を考慮してオレフィン系樹脂で紡糸したものが用いられる。オレフィン系樹脂は、インク、特にブラックインクなどの表面張力が高いインクに対して濡れ性が悪いため、オレフィン系樹脂からなる繊維体を収納したインクタンク内にインクを注入する際には、インクタンク内部を減圧してインクを強制的に注入する減圧注入法が用いられている。
【0006】
一方、近年のインクジェット記録における高画質化、及び記録媒体に付着したインクの堅牢性を確保するため、インク自体の改良も進められている。具体的には、耐水性を向上させるため顔料インクを用いたり、記録媒体への定着性を高める溶媒をインクに添加したりしている。
【0007】
しかしながら、オレフィン系樹脂からなる繊維体を収納した従来のインクタンクにおいては、上述のようにインクタンク内へのインクの注入を減圧注入法によって行うため、インクタンク内部を減圧する必要があるので、そのための工程や設備も複雑化してしまう。一方、インク自体の改良に関して、上述のように顔料インクを用いたり溶媒をインクに添加することによって、インクの粘度が高くなってしまう。その結果、記録ヘッドへのインクの供給性が低下するので、記録速度の高速化が進むことによって、記録ヘッドへのインクの供給性が低下してくる。
【0008】
従来、物品自体(element)が有する特性や性質は、構成材料の特性によって支配的であるが、その特性を表面において改質することで、所望の特性を与えることが行なわれている。この所望特性には、撥水性や親水性などの反応性をもつ反応基あるいは、付加物に対して反応可能な反応基を表面に有するものが挙げられる。
【0009】
また、従来のこの種の表面改質は、物品表面をオゾン又はUVあるいはUVとオゾンの併用などによってラジカル化し、処理剤の主成分を化学的結合のみによって形成するものが一般的である。
【0010】
これに対して、物品表面をラジカル化せずに、所望特性自体を有する処理剤を物品表面に付着させて、瞬間的に所望特性を得るものがあるが、持続性が無いものであった。
【0011】
特に、環境にやさしいオレフィン系樹脂に対する親水化においては、従来では界面活性剤を混在させることで不完全な親水状態を液体の存在下で一時的に得るものが知られているだけである。
【0012】
従来、物品に対して付加層を形成するのに接着剤やプライマーが用いられている。そのうち、シランカップリング剤のような反応結合のみを物品表面に対して行うプライマーは、物品自体が反応可能なように処理される必要がある。
【0013】
プライマーとしては、物品との同一材料系を用いた親和力を用いた方式もある。このプライマーとしては、ポロプロピレンに対してポリウレタン樹脂の上塗り塗料層を設ける際に用いられる酸変性塩素化ポリプロピレンが知られている。しかし、この物品表面と同一材料系を用いなければならない場合、結果的に物品体積が増加してしまう他、均一な塗布を薄く行うための技術が必要となる。また、微細な物体や多孔質体に対して内部まで均一に行うこともできない。特に酸変性塩素化ポリプロピレンは、水に対して不溶なため、水溶化して使うことができず、その用途が限定されている。
【0014】
したがって、物品表面とは別の材料であっても、水溶液化でき、薄く均一な表面改質を物品の形状にとらわれずに行えるものは従来には無いと言える。
【0015】
また、記録ヘッドへの液供給口の中に、繊維方向を液供給方向に揃えた繊維束からなる圧接体が配置されたインクタンクがあるが、上述した観点と同様、圧接体のインク流抵抗が高いと、高速印字に伴い、高流量のインク供給が求められた場合、ヘッドに安定的にインクを送れなくなるという課題が生じる。
【0016】
本発明は、従来の技術水準に対して検討を加える中で、新たな知見に基づいてなされた画期的な発明である。
【0017】
従来のラジカル化による化学的結合のみによる表面改質は、複雑な形状の表面に均一な表面改質を行うことはできない。しかもインクジェット分野で用いられ負圧を発生するためのスポンジや繊維複合体のように内部に複雑な多孔質部分を有する負圧発生部材内部には特に表面改質を行うことはできない。
【0018】
加えて、液体中に界面滑性剤等を入れたものは、多孔質体自体を表面改質することにはならず、界面滑性剤がなくなると全く特性がなくなり、表面自体の特性に即座にもどってしまう。
【0019】
ましてや、オレフィン系樹脂は、水に対する接触角が80度以上という撥水性に優れたものではあるが、親液性を、長期的に所望特性に得られるような表面改質する方法が無い。
【0020】
従って、本発明者達は、まずオレフィン系樹脂の表面改質を合理的に行い、且つその改質特性を維持する方法を解明することで、あらゆる物品の表面改質を行える方法を提供すべく研究した結果、液状の処理液を用いることに注目し、複雑な形状の負圧発生部材に対しても処理可能な前提を置くことにした。
【0021】
また、本発明者達の新たな知見として、負圧発生部材の改質されるべき表面と反応基を有する高分子との関係において、表面エネルギーを利用することで、反応基とのバランスを所望の状態にコントロールできる点及び高分子自体の解析によって更なる耐久性向上、品質の安定性を達成できる点を見い出した。
【0022】
また、別の観点から、本発明者達は、多孔質体の如き負圧発生部材の負圧特性に注目したところ、以下の課題を新たに認識した。
【0023】
すなわち、従来の負圧発生部材は、初期充填された液状インクなどの液体に常に曝されている場合が多く、又、負圧室と液体収納室とが一体になっている場合でも、液体に曝されている一部分が液体消費されて再充填されることはあるが、全体的に消費状態の負圧発生部材に通常の装置内での液体補充を受けることが想定されていない。そのため、初期負圧や初期液体保有量へ液体の補充によって復帰するか否かについては、当業者の中でも認識されてはいない。
【0024】
本発明は、負圧発生部材収納室に対して、その含有液体を任意のレベルで消費せしめた後に、補充液体収納室(容器またはタンク)を取付けることによって、その程度の復帰がなされるかを検討したところ、初期に負圧発生部材に充填される液体は何らかの強制注入を用いるためかかなりの量を得られるが、このように単純に再充填した場合は、負圧発生部材中のエアーの除去が難しいためか、半分程度の復帰しか得られず、これを繰り返すと再保持可能な液体量はどんどん少なくなってしまい、負圧も増大するという傾向が見られた。
【0025】
本発明は、前述したような負圧発生部材の特性をオゾンや紫外光などによるラジカル化のような手法によって加工をするのではなく、また、シランカップリング剤のようなプライマー塗布による塗布むらが発生するような手法でもない、新規なメカニズムによる所望の新液表面改質を行える画期的な新液表面改質方法およびこれに用いられる処理液、これによって得られる負圧発生部材、そして、新液表面への改質によって得られる表面構造そのもの、特には液体の再供給で初期負圧への復帰能力に優れ、液体供給性に優れた繊維負圧発生部材を提供することを主たる目的とし、特に、親液化処理レベルの変更等によって液体容器内での繊維体特性を変更して、液体の移動時の液体の流抵抗を低減させる等の所望特性を得ることのできる、液体吐出用繊維吸収体及び液体容器を提供することである。
【0026】
本発明の第1目的としては、多孔質体や微細加工物品などの複雑な形状を有する負圧発生部材の内部全体表面に対して、所望の親液性処理が行える液状処理液およびこれを用いた親液表面改質方法の提供を挙げることができる。
【0027】
本発明の第2目的としては、表面改質が困難とされているオレフィン系樹脂に対して、従来よりも長期的に親液性を維持できる新規な親液表面改質方法および表面構造自体を提供することにある。
【0028】
本発明の第3目的としては、負圧発生部材構造や重量増加がほとんど無く、改質表面自体が分子レベル、好ましくは単分子レベルの薄層として形成できる新規な親液表面改質方法および表面構造自体を提供することにある。
【0029】
本発明の第4目的は、親液表面改質方法自体に新たなメカニズムを導入することによって、所望の改質を自由に行える処理方法を提供することにある。
【0030】
本発明の第5目的は、簡単で且つ量産性に優れた負圧発生部材表面親液処理製造方法を提供することにある。
【0031】
本発明の第6目的は、高分子が備える基(又は基群)の界面エネルギーの観点を利用しつつ、高分子の開裂による略同等エネルギー準位による界面的物理吸着を利用する画期的な負圧発生部材表面の親液処理方法を提供することにある。
【0032】
本発明の第7目的は、負圧発生部材の周囲を均一に改質できる新規な親液表面改質方法を提供すると共に、表面構造自体も周囲全体の観点から従来では得られなかったレベルの表面構造を提供することにある。
【0033】
本発明の他の目的は、以下の説明から理解されるものであり、上記個々の目的の任意の組合わせによる複合的な目的をも本発明は達成できるものである。
【0034】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため本発明の液体吐出用繊維吸収体は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために液体容器内に収納される、オレフィン系樹脂の繊維からなる液体吐出用繊維吸収体であって、
前記繊維の表面に、相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを有する高分子を備えた親液化処理が施された親液化処理部を少なくとも一部に有し、該親液化処理部は、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有することを特徴とする。
【0035】
また、本発明の液体吐出用繊維吸収体の他の態様は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、表面の少なくとも一部を構成する親液化すべき部分表面に高分子化合物が付与されている多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体であって、
前記高分子化合物は、相対的に長鎖の親液性基を有する第1の部分と、前記親液性基の界面エネルギーより低く且つ前記部分表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーの相対的に短鎖の基を有する第2の部分とを備え、前記第2の部分が前記部分表面に向かって配向するとともに前記第1の部分が前記部分表面とは異なる方向に配向することで親液化された親液化部を有し、
前記部分表面は、前記繊維に対する前記親液化部のうち、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域からの距離が遠ざかるにつれて親液化部の密度が小さくなる第2の親液化領域とを有することを特徴とする。
【0036】
本発明の液体吐出用繊維吸収体の他の態様は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために液体容器内に収納され、疎液性表面を有し該疎液性表面の少なくとも一部が親液性表面に改質されている繊維の集合体である液体用繊維吸収体であって、
相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを備えた高分子化合物の開裂によって生じた前記親液性基と前記疎液性基とを有する細分化物が、前記疎液性基が前記疎液性表面の側に向き、前記親性基とは異なる方向に向くように配向して前記疎液性表面に付着することで親液化された親液化部を有し、
前記親液化部は、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有することを特徴とする。
【0037】
本発明の液体吐出用繊維吸収体の他の態様は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために液体容器内に収納され、オレフィン系の樹脂を少なくとも表面に有し該表面の少なくとも一部が親液化された改質表面を有する繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体であって、
親液性基と前記オレフィン系の樹脂の構成成分として少なくとも含む繊維表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーの基とを有する高分子、該高分子の開裂触媒としての希酸、およびアルコールを含む処理液が付着された繊維表面を形成後、該繊維面に付着している処理液を蒸発させるとともに、該繊維表面上で前記希酸を濃酸化することで前記高分子を開裂させた後、開裂生成物を縮合させることで、前記繊維表面に相対的に長鎖の親液性基と、相対的に短鎖の疎液性基とを実質的に交互に有する接液表面構造を有し、
前記接液表面構造は、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有することを特徴とする。
【0038】
上記のように本発明の液体吐出用繊維吸収体によれば、親液性に分布を持たせて親液化処理することで、繊維吸収体内での液体の流抵抗を必要に応じて、親液性基の挙動を利用して(親液性基の多い部分ほど、相対的に流抵抗が低くなるという事実に基づいている)自由に設定することができる。その結果、液体容器内で求められる液体の挙動に応じて最適な状態で液体を保持しかつ液体吐出ヘッドに供給する繊維吸収体となる。
【0039】
本発明の液体容器は、液体吐出ヘッドに液体を供給するための供給口、及び大気と連通する大気連通口を備えた容器筐体と、
負圧を利用して前記容器筐体内に液体を保持するために前記容器筐体内に収納された、上記本発明のいずれか1つの液体吐出用繊維吸収体とを有する。
【0040】
上記の液体容器によれば、液体容器内で求められる液体の挙動に応じて液体吐出用繊維吸収体の第1の親液化領域を液体容器内の所定の位置に配置すれば、液体を最適な状態で保持しかつ液体吐出ヘッドに供給することができる。
【0041】
より具体的には、本発明の液体容器は、液体吐出ヘッドに液体を供給するための供給口、及び大気と連通する大気連通口を備えた容器筐体と、
負圧を利用して前記容器筐体内に液体を保持するために前記容器筐体内に収納され、前記供給口からの距離が遠くなるほど親液性が強くなるように少なくとも一部に、相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを有する高分子を備えるように親液化処理が施された、オレフィン系樹脂の繊維からなる繊維吸収体とを有する。
【0042】
上記の液体容器によれば、容器筐体に収納された繊維吸収体に、供給口からの距離が遠くなるほど親液性基が多くなる(親液性が強くなる)ように親液化処理が施されているので、供給口から遠い位置での液体の流抵抗が小さくなる。その結果、供給口から遠い位置でも液体は供給口へ向かって流れやすくなり、液体容器内の液体の使用効率が向上する。また、液体容器内への液体の注入は、親液性が強い領域から行えば、液体容器内を減圧せずに液体を注入することができる。
【0043】
また、本発明の液体容器の他の態様は、液体吐出ヘッドに液体を供給するための吐出口、及び大気と連通する大気連通口を備えた容器筐体と、
負圧を利用して前記容器筐体内にインクを保持するために前記容器筐体内に収納され、少なくとも前記供給口の周辺に前記供給口からの距離が遠くなるほど親液性が弱くなるように親液化処理が施された、オレフィン系樹脂の繊維からなる繊維吸収体とを有する。
【0044】
上記の液体容器によれば、繊維吸収体には供給口の周辺に供給口からの距離が遠くなるほど親液性が弱くなるように親液化処理が行われているので、供給口の周囲での液体の流抵抗を高めることなく液体を保持することができ、液体吐出ヘッドに対する液体切れが防止される。また、液体容器への液体の注入は、液体容器内を減圧せずに供給口から行うことができる。
【0045】
本発明の液体容器の他の態様は、液体吐出ヘッドに液体を供給するための供給口、及び大気と連通する大気連通口を備え、負圧状態で液体を保持するオレフィン系樹脂の繊維からなる繊維吸収体を内部に収納する負圧発生部材収納室と、
前記負圧発生部材収納室と連通し、前記負圧発生部材収納室との連通部を除いて実質的な密閉状態とする液体収納部を有する液体収納室と、を有する液体容器であって
前記繊維吸収体は、前記供給口を重力方向下向きにした姿勢で、前記連通部よりも重力方向上方に、重力方向と交差する層として存在し、かつ、重力方向下方から上方に向かって親液性が弱くなるように親液化処理が施された親液化処理部を有する。
【0046】
上記の液体容器は、負圧発生部材収納室内の液面が液体収納部との連通部に達するまで負圧発生部材収納室内の液体が消費されると、それ以降は、負圧発生部材収納室の大気連通口及び繊維吸収体を介して連通部が大気と連通し、液体収納室内に気体が導入される。それと同時に、液体収納室内の液体が連通部を介して負圧発生部材収納室内に移動し、負圧発生部材収納室内の負圧が一定に保たれる。
【0047】
ここで、環境変化等により液体収納室内の液体及び気体が急激に膨張すると、液体収納室内の液体が負圧発生部材収納室内へ流れ込んでくるが、負圧発生部材収納室のバッファ機能により繊維吸収体に吸収される。繊維吸収体は、上記連通部よりも上方に、重力方向と交差する層として存在し、かつ、下方から上方に向かって親液性が弱くなるように親液化処理が施された親液化処理部を有するので、負圧発生部材収納室内へ流れ込んだ液体はこの親液化処理部で下方から順次捕捉される。その結果、負圧発生部材収納室の上部体積を必要以上に大きくしなくても上記のバッファ機能が十分に発揮される。
【0048】
さらに本発明は、上述した本発明の液体吐出用繊維吸収体の製造方法を提供するものであり、その一態様は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、表面の少なくとも一部を構成する親液化すべき部分表面に親液性基が付与された多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の製造方法であって、
相対的に長鎖の前記親液性基を有する第1の部分と、前記親液性基の界面エネルギーとは異なり且つ前記部分表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーの相対的に短鎖の基を有する第2の部分とを備えた、前記部分表面の構成材料と異なる高分子を含む液体を、前記部分表面への付与密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを形成するように付与する第1工程と、
前記部分表面に向かって前記高分子の第2の部分を配向させ、前記第1の部分を前記部分表面とは異なる側に配向させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを得る第2工程とを有する。
【0049】
本発明の液体吐出用繊維吸収体の製造方法の他の態様は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、表面の少なくとも一部を構成する親液化すべき部分表面に相対的に長鎖の親液性基が付与された多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の製造方法であって、
前記親液性基を有する第1の部分と前記親液性基の界面エネルギーとは異なり且つ前記部分表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーの相対的に短鎖の基を有する第2の部分とを備えた親液性基付与用高分子を開裂させて得られた、前記第1の部分及び前記第2の部分を有する細分化物を含む液体を、前記部分表面への付与密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを形成するように付与する第1工程と、
前記細分化物の第2の部分を前記部分表面側に配向させ、前記第1の部分を前記部分表面とは異なる側に配向させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを得る第2工程と、
前記部分表面上に配向した細分化物同士を少なくとも一部で縮合させて高分子化する第3工程とを有する。
【0050】
本発明の液体吐出用繊維吸収体の製造方法の他の態様は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、オレフィン系の樹脂を少なくとも表面に有し該表面の少なくとも一部に親液性が付与された多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の製造方法であって、
親液性基を備えたアルキルシロキサンの高分子が溶解している液体を、付与密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを得るように前記表面に付与する第1工程と、
前記表面に前記アルキルシロキサンを配向させ、前記親液性基を前記表面とは異なる方向に配向させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液性領域とを得る第2工程とを有する。
【0051】
本発明の液体吐出用繊維吸収体の製造方法の他の態様は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、オレフィン系の樹脂を少なくとも表面に有し該表面の少なくとも一部に親液性が付与された多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の製造方法であって、
親液性基を備えたアルキルシロキサンの高分子を開裂させた細分化物が溶解している液体を、付与密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを形成するように前記表面に付与する第1工程と、
前記表面に前記細分化物を前記表面上で縮合させるとともに、前記アルキルシロキサンを前記表面に配向させ、前記親液性基を前記表面とは異なる方向に配向させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを得る第2工程とを有する。
【0052】
本発明の液体吐出用繊維吸収体の製造方法の他の態様は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、オレフィン系の樹脂を少なくとも表面に有し該表面の少なくとも一部に親液性が付与された多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の製造方法であって、
親液性基を有するポリアルキルシロキサン、酸、及びアルコールを含む液体が、付着密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを形成するように付着された繊維表面を形成する工程と、
前記繊維表面に付着している液体を室温より高く且つ前記オレフィン系の樹脂の融点よりも低い温度で加熱し乾燥させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを得る工程とを有する。
【0053】
本発明の液体吐出用繊維吸収体の製造方法の他の態様は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、オレフィン系の樹脂を少なくとも表面に有し該表面の少なくとも一部に親液性が付与された多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の製造方法であて、
親液性基を有するポリアルキルシロキサン、酸、アルコール及び水を含む液体が、付着密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを形成するように付着された繊維表面を形成する工程と、
前記繊維表面に付着している液体を乾燥させ、その過程において前記親液性基を前記繊維表面とは反対側の方向に配向させて前記繊維表面を親液化させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを得る工程とを有する。
【0054】
本発明の表面改質方法は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、疎液性表面を有する多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の、前記疎液性表面を親液性に改質するための表面改質方法であって、
相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを備えた高分子化合物の開裂によって生じる該親液性基と前記疎液性基とを有する細分化物を、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有するように、前記疎液性基が前記疎液性基の表面の側に向き、且つ前記親液性基を前記疎液性基とは異なる方向に向くように配向させて、前記疎液性表面に付着させる工程を有することを特徴とする。
【0055】
また、本発明の表面改質方法の他の態様は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられる繊維集合体である液体用繊維吸収体の前記繊維の部分表面に表面改質を行う表面改質方法であって、
親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有するように、相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを有する開裂高分子を、前記繊維の部分表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーを有するの親和力に基づいて配向し、前記開裂高分子を前記部分表面において縮合させて表面を改質することを特徴とする。
【0056】
また、本発明の表面改質方法の他の態様は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられる繊維集合体である液体吐出用繊維吸収体の前記繊維の部分表面を液状の高分子を用いて改質する表面改質方法であって、
親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有するように、開裂、縮合可能で相対的に長鎖の親液性基を有する第1基と、前記繊維の部分表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーを有する相対的に短鎖の第2基とを備えた高分子の細分化物を、前記部分表面において縮合せしめて高分子化する縮合工程を有することを特徴とする。
【0057】
本発明の繊維集合体の接液表面構造は、液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられる繊維集合体の接液表面構造であって、
相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを実質的に交互に有する高分子を備えた親液化部を有し、
前記親液化部は、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有することを特徴とする。
【0058】
なお、本発明において、「相対的に親液性に優れる親液化領域」とは、その領域が他の親液化された領域に対して、例えば単位面積あたりの親液性基の数が多いことによって、相対的に強い親液性を示す場合、および、その領域が、他の親液化された領域に対して、例えば親液性基の付着力がより強固であることで相対的に親液化された状態を長期にわたって維持できる場合、のいずれの場合をも含むものである。
【0059】
一方、本発明において、「相対的に親液性が劣る親液化領域」とは、その領域が、他の親液化された領域に対して相対的に弱い親液性を示す場合、および、その領域が、他の親液化された領域に対して親液化された状態を短い期間しか維持できない場合、のいずれの場合も含むものである。
【0060】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本発明では、収容される液体に対する濡れ性に優れる性質を「親液性」と称しており、以下に示す実施形態ではインクとして水性のインクを例に挙げて説明し、親液性のなかでも特に親水性を付与する場合について説明している。ただし、本発明においてはインクの種類は水性に限定されるものではなく、油性のものであってもよい。その場合は、表面に付与する性質は親油性である。さらには、繊維吸収体が保持する液体は、インクに限らず、液体吐出ヘッドに供給される種々の液体を含むものである。
【0061】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態であるインクタンクの縦断面図である。
【0062】
本実施形態のインクタンク10は、インクを吐出口から吐出して記録を行う記録ヘッドにインク(インクの吐出前に被記録媒体に耐水処理を行うための耐水強化液などの液体を含む)を供給する供給口12を有するタンク筐体11と、タンク筐体11内に収納された、インクを負圧状態で保持する繊維吸収体14とを備えている。タンク筐体11は、内部に収納された繊維吸収体14と外気とを連通させるための大気連通口13を備えている。
【0063】
繊維吸収体14は、PP(ポリプロピレン)繊維とPE(ポリエチレン)繊維を混ぜ合わせ、それらの混合繊維の繊維方向がほぼ揃えられた状態とした繊維束から構成されており、繊維吸収体14を構成する繊維1本1本の長さは60mm程度である。この繊維の断面形状は図2に示すように、略同心円状で、相対的に融点の低いPEを鞘材14aとし、相対的に融点の高いPPを芯材14bとして形成されたものである。本実施形態の繊維吸収体14は、このような短繊維からなる繊維塊を梳綿機で繊維方向を揃えた後に、加熱し、所望の長さに切断することによって製造されている。加熱温度は、PEの融点よりも高く、かつ、PPの融点よりも低い温度が望ましい。
【0064】
図3(a)に示すように、それぞれの繊維は梳綿機で整えられた長手方向(F1)に連続的に配列されるとともに、それと直交する方向(F2)については、加熱により各繊維同士の接触点(交点)の一部が融着することでつながりを有する構造となっている。このため、繊維吸収体14は、図3(a)に示すF1方向に引張力を加えても壊れにくいが、F2方向に引っ張ると繊維間の結合部が破壊されることでF1方向の場合に比べると分離しやすい。
【0065】
図3(b)に示すような捲縮された短繊維が、ある程度繊維方向が揃った状態で加熱されることにより、図3(c)に示すような状態となる。ここで、図3(b)で繊維方向に複数の短繊維が重なっていた領域αは、図3(c)に示すように交点が融着され、結果として図3(a)に示すF1方向に対して切れにくくなる。また、捲縮された短繊維を用いることで、短繊維の端部領域(図3(b)に示すβ、γ)は、図3(c)に示すように3次元的に他の短繊維と融着したり(β)、そのまま端部として残ったり(γ)する。加えて、全ての繊維が全く同じ方向に揃っているわけではないので、はじめから他の短繊維に対して交差するように傾いて接触している短繊維(図3(b)に示すε)は、加熱後はそのまま融着される(図3(c)に示すε)。このようにして、F2方向に対しても従来の一方向繊維束と比べて強度の強い繊維が形成される。
【0066】
一方向繊維束からなる繊維吸収体では、繊維間の隙間により毛管力を発生させるが、本実施形態の繊維吸収体14では、このように主となる繊維方向(F1)が存在するので、主となる繊維方向(F1)と、それに直交する繊維方向(F2)とでは、インクの流動性及び静止状態での保持の仕方が異なってくる。
【0067】
本実施形態では、このような繊維吸収体14を、主たる繊維方向(F1)が、鉛直方向に対して実質的に垂直になるように配置している。そのため、繊維吸収体14内の気液界面(インクと気体との界面)は主たる繊維方向F1の方向と実質的に平行になり、環境変化による変動が起こった場合も、その気液界面は略水平方向(鉛直方向に実質的に垂直な方向)を維持するため、環境の変動が収まれば気液界面は元の位置に戻る。従って、従来のように環境変化のサイクル数に応じて気液界面の鉛直方向に対するばらつきが増大することはない。繊維吸収体14の主たる繊維方向をこのように定めることにより、気液界面の重力方向に対するばらつきを抑えることができる。
【0068】
なお、ここで、繊維の配列方向は、鉛直方向から僅かでも傾いていれば、理論上は僅かでも上述の効果を奏するが、実用上は、水平面に対しておよそ±30°の範囲にある場合、明確な効果を確認できた。従って、「鉛直方向に対して実質的に垂直」または「略水平」という表現は、本明細書中では上述の傾きをも含むものとする。
【0069】
繊維吸収体14の構造は上述のとおりであるが、さらに、繊維吸収体14には全体的に親水化処理が施されている。特に本実施形態では、繊維吸収体14の全体に対して一様に親水化がなされているのではなく、図1に模式的に示されるように、親水化されている部分の密度が、供給口12の周辺で最も低く、供給口12からの距離が遠くなるにつれて高くなるように親水化処理されている。
【0070】
いま、図1において、繊維吸収体14を供給口12からの距離に応じてA〜Eの5つの領域に分けた場合、領域Aでは親水性が最も強く、領域B〜Eと、供給口12から離れるにつれて、親水性が次第に弱くなっていく。特に領域Aでは、実質的に繊維の全ての部分に対して親水化処理されている。つまり、本実施形態では、領域Aが本発明でいう第1の親液化領域となり、領域B〜Eが本発明でいう第2の親液化領域となっている。
【0071】
これら各領域A〜Eでのインクの流抵抗について考える。
【0072】
繊維吸収体12の親水性が各領域A〜Eで一様であれば、各領域A〜Eでのインクの流れやすさは同じであるため、図4(a)に模式的に示すように、インクの流抵抗を動的に見た場合、インクの経路は各領域A〜Eから供給口12までの長さに比例した一様な径の管に相当する。つまり、繊維吸収体の親水性が各領域A〜Eで一様である場合には、供給口12からの距離が遠くなるにつれてインクの流抵抗が高くなり、供給口12へのインクの供給が困難になる。
【0073】
そこで、本実施形態のように、繊維吸収体14の親水性を、供給口12の周辺で最も小さくし、供給口12から離れるに従って大きくすることで、図4(b)にも模式的に示すように、各領域A〜Eから供給口12までのインク経路は、供給口12から遠くなればなるほどインクが流れやすくなっているため、供給口12から遠くなればなるほど径が大きくなる管に相当する。その結果、供給口12から遠い位置に存在するインクの移動の困難さが緩和され、供給口12から遠い位置に存在するインクでも供給口12へ向かって流れやすくすることができる。また、このことにより、供給口12から遠い位置に存在するインクが移動せずその場に残ることもなくなるので、インクタンク10内のインクを効率よく使用することができる。以上のように、本実施形態のインクタンク10では、繊維吸収体14内でのインクの移動性を向上させたので、顔料インクなど粘度の高いインクを用いたり、記録速度の高い記録装置のように供給口12からのインク供給を高速で行う必要がある記録装置にも好適に適用することができる。
【0074】
また、本実施形態では、大気連通口13はタンク筐体11の供給口12が開口する面と対向する面に設けられているので、繊維吸収体14の親水性が最も高い部分は大気連通口13側に位置している。従って、インクタンク10の製造時のタンク筐体11内へのインクの注入に際しては、大気連通口13からインクを注入すればインクは繊維吸収体14に積極的に吸収されるので、インクタンク10内を減圧しなくても安定してインクを注入することができる。
【0075】
以下に、本実施形態における繊維吸収体14の親水化処理について、その原理とともに詳細に説明する。なお、本発明においては、親水化処理の対象は繊維吸収体14を構成する繊維の外部に露出している外表面であるが、以下の説明では、広く物品に対する表面改質として説明する。
【0076】
以下に説明する表面改質方法は、物品が有する表面を構成する物質に含まれる分子が有する官能基などを利用して、高分子(あるいは高分子の細分化物)を特定の配向を採らせて表面上に付着させ、該高分子(あるいは高分子の細分化物)が有する基に付随する性質を表面に与えることで、目的とする表面改質を図ることを可能とする方法である。
【0077】
ここで、「物品」とは、種々の材料から形成され、一定の外形を保持するものを意味する。従って、この外形に付随して、外部に露出している外表面を有している。加えて、その内部に、外部と連通する部分を含む空隙部や空洞部、あるいは中空部が存在したものでもよく、これらの部分を区画する内表面(内壁面)も表面改質処理対象としての部分表面とすることができる。中空部には、これを画する内表面を有し、外部とは完全に隔絶された空間であるものも含まれるが、改質処理前においては中空部内への表面処理液の付与が可能であり、改質処理後に外部と隔離された中空部となるものであれば処理対象となり得る。
【0078】
このように、本発明に用いられる表面改質方法は、各種物品が有する全ての表面のうち、物品の形状を損なうことなく、外部から液状の表面処理用溶液を接触させることが可能な表面を対象とするものである。従って、物品の外表面と、それと連結される内部表面の夫々または両方を部分表面の対象とする。そして、その対象とする表面から選択される細分化された部分表面の性質を変更することも本発明には含まれるものである。選択によっては、物品の外表面とそれと連結される内部表面を選択する態様も、所望の部分表面領域の改質に含まれるものである。
【0079】
上記の表面改質においては、物品の有する表面の少なくとも一部を構成する改質すべき部分(部分表面)が処理される。すなわち、所望に応じて選択された物品の表面から一部あるいは物品の表面全体である。
【0080】
また、本明細書において「高分子の細分化」とは、高分子の一部が切れたものから、単量体までのいずれかでよく、実施例的には高分子が酸等の開裂触媒により開裂したものすべてを含むものとする。また、「高分子膜化」とは、実質的な膜が形成されるもの、あるいは2次元的な面に対して各部が異なる配向したものを含む。
【0081】
また、本発明において、「高分子」とは、親液性基を有する第1の部分と、この親液性基の界面エネルギーとは異なり、かつ、付着対象の物品の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーを有する第2の部分とを備え、上記の物品表面の構成材料とは異なることが好ましい。よって、改質される物品の構成材料に応じて、適宜その物品表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーを有する高分子の中から、所望の高分子を選択すればよい。本発明の「高分子」としてより好ましくは、該高分子が開裂できるものであること、さらには開裂後に縮合できるものであることが望ましい。また、上述の第1の部分及び第2の部分以外にも機能性基を備えていてもよいが、その場合には、親液化処理を一例にすると、機能性基としての親液性基は、第1、第2の部分以外の機能性基(上記親液性基に対して相対的に疎液性基となる)に対して、相対的に長鎖であることが望ましい。
【0082】
なお、本発明において表面処理される部分は、単一材料からなるものでも、複数種の材料が混在する複合材料でも良く、被処理表面の材質を考慮して、構成材料と異なる高分子を用いることができる。
【0083】
以下、その原理の説明を容易とするため、単一の物質から構成される表面を改質する事例を用いて、表面改質がなされる原理について、より具体的に説明する。
【0084】
〈表面改質がなされる原理〉
本発明に用いられる物品の表面改質は、表面改質剤に用いる高分子として、物品の表面(基材表面)の表面(界面)エネルギーと略同等の界面エネルギーを有する主骨格(主鎖または側鎖基あるいは基群を総称して呼ぶ)と、物品表面の表面(界面)エネルギーと異なる界面エネルギーを有する基が結合してなる高分子を利用し、この表面改質剤中の物品表面の界面エネルギーと略同等の界面エネルギーを有する主骨格部を用いて物品表面上に高分子を付着させ、物品表面の界面エネルギーと異なる界面エネルギーを有する基が物品表面に対して外側に配向する高分子化膜(高分子被覆)を形成させることにより達成される。
【0085】
上述の表面改質剤に用いる高分子を異なる観点から換言すれば、表面改質前の物品の表面に露出している基と本質的に水との親和性が異なる第一の基と、この物品の表面に露出している基と実質的に類似する水との親和性を示し、その主骨格に含まれる繰り返し単位中に含まれる第二の基と、を備えたもの、と捉えることもできる。
【0086】
このような配向形態の代表例を模式的に示したのが図20である。図20(a)は主鎖に対して第1の基1−1と第2の基1−2が側鎖として結合している高分子を用いた場合を示し、図20(b)は第1の基1−1が主鎖1−3自体を構成し、第2の基1−2が側鎖を構成している場合を示すものである。
【0087】
図20に示される配向をとると、物品の表面改質すべき表面を構成する基材6の最表面(外側)は基材6の表面(界面)エネルギーとは異なる界面エネルギーを有する基1−2が表面に配向した状態になるため、基材6の表面(界面)エネルギーと異なる界面エネルギーを有する基1−2に付随する性質が利用されて表面が改質される。ここで、基材6の表面(界面)エネルギーは、表面を構成している物質・分子が、表面上に露出している基5に由来して決定されている。すなわち、図20に示す例では、第2の基1−2が表面改質用の機能性基として作用し、基材6の表面が疎水性であって、第2の基1−2が親水性であれば、基材6の表面に親水性が付与される。なお、第2の基1−2が親水性であり、基材6側の基5が疎水性である場合には、例えば後述するポリシロキサンを利用した場合などには、図29に示すような状態が基材6の表面に存在していると考えられる。この状態において、改質後の基材6の表面における親水性基と疎水性基とのバランスを調整することで、改質処理後の基材表面に水や水を主体とする水性液体を通過させる場合の通過状態や通過時の流速を調整することも可能である。そして、このような表面状態を繊維外壁面に有する例えばポリオレフィン系樹脂からなる繊維体をインクジェット記録ヘッドに一体化された、あるいは別部品として設けられるインクタンク中に用いることで、インクタンク中へのインクの充填やインクタンクからのヘッドへのインクの供給を極めて効果的に行うとともに、インクタンク内での適度な負圧の確保によって、インク吐出直後の記録ヘッドの吐出口付近でのインク界面(メニスカス)位置の良好な確保が可能となると考えられる。さらに、改質後の基材6の表面の上層における親水基により、表面に沿ってインクが流れるときの流抵抗が低くなるとともに、インクを移動させる力がなくなると、親水基の下より表面上層に露出する疎水基により瞬時にインク移動を阻止するように働くことが考えられる。これにより、動負圧より負圧の方が大きいという、インクジェット記録ヘッドへのインク供給用インクを保持する負圧発生部材に最も適したものが提供可能となる。
【0088】
特に、図29の繊維表面構造の場合、親水性基1−2は、高分子基であるため、同じ側の側鎖のメチル基(疎水性基)よりも長い構造となっている。そのため、親水性基1−2は、インクが流れる際には、その流速に対して繊維表面にならうように傾斜する(同時に、上記メチル基を実質的に覆う)。結果的に流抵抗は大幅に小さくなる。逆にインクが停止してメニスカスを繊維体間に形成する際には、親水基1−2は、インクに対して向かう方向、即ち、繊維表面から垂直方向になるため(同時に上記メチル基が繊維表面に露出する)、分子内レベルでの親水(大)−疎水(小)のバランスを形成して充分な負圧を形成できる。この親水性基1−2を(-C-O-C-)結合の多数と端末基としてのOH基とで形成した前記実施形態のように、親水基を高分子に数多く(少なくとも複数)有していることで、上記親水性基1−2の作用を確実なものとできるので好ましいものとなる。また、上記メチル基の他の疎水性基を高分子内に有する場合は、疎水性基の存在範囲よりも親水性基の存在範囲が大きくなるように、親水性基の方がより高分子レベルであることが好ましく、上記の如く親水性>疎水性となるようにバランスしていれば良い。
【0089】
ところで、インク供給口部における静負圧は次式で表される。
【0090】
静負圧=(インク供給口部からのインク界面高さ)−(インク界面における繊維の毛管力)
この毛管力は、インクと繊維吸収体との濡れ接触角をθとしたときにCOSθに比例する。したがって本発明の親水化処理の有無によって、COSθの変化が大きいインクの場合にはその分静負圧を低めにし、絶対値で言えば高めに確保することが可能となる。
【0091】
具体的に言えば、接触角10°レベルであれば親水処理を施しても最大2%程度の毛管力アップであるが、インクと繊維が濡れにくい組み合わせ、例えば接触角50°の状態は親水処理によって10°以下となれば、50%の毛管力アップとなる(COS0°/COS10°≒1.02 COS10°/COS50°≒1.5)。
【0092】
ここで、図20に示す改質表面を有する物品を製造するための具体的な方法として、表面改質に用いる高分子の良溶媒でかつ基材に対して処理剤の濡れ性を向上させる向上剤を用いる方法について以下に説明する。この方法は、表面改質剤の高分子が均一に溶解する処理液(表面改質溶液)を基材の表面上に塗布した後、処理液に含まれる溶媒を除去しつつ、この処理液中に含まれる表面改質剤の高分子を上述のように配向させるものである。
【0093】
より具体的には、高分子に対する良溶媒であり、かつ基材表面に対し十分に濡れる溶剤中に、所定量の高分子と開裂触媒とを混合した液体(表面処理液、好ましくは純水を含むことが望ましい。)を作製し、表面処理液を基材表面に塗布した後、表面処理液中の溶媒を除去するため、蒸発乾燥(例えば、60℃オーブン中)させる工程を持つことが挙げられる。
【0094】
ここで、基材の表面に対して十分に濡れ性を示し、また表面改質剤としての高分子を溶解する有機溶媒を溶媒に含むことは、表面改質に用いる高分子の均一な塗布を容易にするという観点から、本発明にとってより望ましいものである。さらに、表面改質剤としての高分子が溶媒の蒸発に伴い、濃度が高くなる際にも、塗布された液層中に均一に分散して、十分に溶解している状態を保持する作用を持つことも、その効果として挙げることができる。加えて、表面処理液が基材に対して、十分に濡れることにより表面改質剤の高分子を基材表面に対し均一に塗り広げることができる結果、多数の繊維が絡み合った繊維体の各繊維の表面に対して表面改質を行う場合のような、複雑な形状を有する表面に対しても、高分子被覆を均一に行うことを可能とする。
【0095】
また、表面処理液には、基材表面に対して濡れ性があり、高分子に対して良溶媒である揮発性の第1の溶媒に加えて、高分子に対して良溶媒であるが、基材表面に対する濡れ性が第1の溶媒に比べて相対的に劣り、また、第1の溶媒に比べて相対的に揮発性の低い第2の溶媒を併用することもできる。このような例としては、例えば、基材表面がポリオレフィン系樹脂からなり、高分子としてポリオキシアルキレン・ポリジチルシロキサンを用いた場合における後述する水とイソプロピルアルコールとの組み合わせを挙げることができる。
【0096】
ここで、表面処理液中に開裂触媒としての酸を加えることによる効果は、以下のようなものが考えられる。例えば、表面処理液の蒸発乾燥過程において用材の蒸発に伴う酸成分の濃度上昇がなされる際に、加熱を伴う高濃度の酸により、表面改質に用いる高分子の部分的な分解(開裂)、高分子の細分化物の生成により、基材表面のより微細な部分への配向が可能となり、また蒸発乾燥の終末過程において、高分子の開裂部同士での再結合による表面改質剤高分子のポリマー化を介して、高分子化膜(高分子被覆、好ましくは単分子膜)の形成を促進する効果がある。
【0097】
また、表面処理液の蒸発乾燥過程において溶剤の蒸発に伴う酸成分の濃度上昇がなされる際に、この高濃度の酸が基材表面及び表面近傍の不純物質を除去することにより、清浄な基材表面が形成される効果も期待される。こうした清浄な表面では、基材物質・分子と表面改質剤の高分子の物理的な付着力の向上なども期待される。
【0098】
この際、一部では、加熱を伴う高濃度の酸により基材表面が分解され、基材表面に活性点が出現し、この活性点と、上述の高分子の開裂による細分化物とが結合する副次的な化学反応が起こる場合が想定される。場合によっては、このような副次的な表面改質剤と基材との化学吸着による、基材上での表面改質剤の付着安定化の向上も一部では存在すると考えられる。
【0099】
次に、表面改質剤(親水処理液含む)の基材の表面エネルギーと略同等の表面エネルギーを有する主骨格の開裂と基材表面上での開裂物としての細分化物の縮合による高分子膜化工程について、機能性基が親水性基であり、疎水性基材表面に親水性を付与する場合を例とし、図21〜図27参照して説明する。なお、親水性基とは、基全体として親水性を付与できる構造を有するもので、親水基そのものや、疎水性の鎖や疎水基を有するものでも親水基などを置換配置したことで親水性を付与できる基としての機能を有するものであれば親水性基として利用できる。
【0100】
図21に、親水処理液塗布後の拡大図を示す。この時点では、親水処理液8中の親水化剤である高分子1〜4と酸7とは、基材6表面上の親水処理液中で均一に溶解している。図22に、親水処理液塗布後乾燥工程の拡大図を示す。親水処理液塗布後乾燥工程における加熱を伴う乾燥において、溶剤の蒸発に伴う酸成分の濃度上昇により基材6の表面及び表面近傍の不純物質の除去が行われるといった基材6の表面の洗浄作用により純粋な基材6の表面が形成されることによる基材6と表面改質剤としての高分子1〜4の物理吸着力が向上する。また、親水処理液塗布後乾燥工程における加熱を伴う乾燥において、溶剤の蒸発に伴う酸成分の濃度上昇により親水化剤の高分子1〜4の一部が開裂される部分も存在する。
【0101】
濃酸による高分子1の分解の模式図を図23に示す。このようにして分解された親水化剤の基材に対する吸着の様子を図24に示す。さらに溶剤の蒸発が進むにつれて、溶解飽和に達した親水化剤を構成する高分子からの細分化物1a〜4bの基材の表面エネルギーと略同等の表面エネルギーを有する主骨格部が、洗浄により形成された純粋な基材6の表面に対し選択的に吸着する。その結果、表面改質剤中の基材6の表面エネルギーと異なる表面エネルギーを有する基1−2が基材6に対し外側に配向する。
【0102】
従って、基材6の表面には、この表面の表面(界面)エネルギーと略同等の界面エネルギーを有する主骨格部分が配向し、基材6の表面エネルギーと異なる表面エネルギーを有する基1−2が基材6の表面とは反対側の外側に配向した状態になるために、基1−2が親水性基である場合には、基材6の表面に親水性が付与されて、表面が改質される。親水処理液塗布乾燥後の親水化剤と基材表面の吸着状態の模式図を図25に示す。
【0103】
なお、高分子として、例えばポリシロキサンのように開裂によって生成した細分化物が縮合などによって細分化物の少なくとも一部で結合可能なものを用いることで、基材6表面に吸着した細分化物間に結合を生じさせて高分子化し、親水性化剤の皮膜をより強固なものとすることもでき、基材6表面の親水性を長期にわたって維持することができる。また、この皮膜は分子レベルの薄膜として形成されるので、基材6の重量増加は殆どない。図26に、このような縮合反応による再結合の模式図を示す。なお、ポリシロキサンを用いた場合の開裂による細分化物の形成とその縮合による高分子化のメカニズムは以下のとおりである。
【0104】
すなわち、被処理表面における表面処理液の制御された乾燥に伴い、この表面処理液中に含まれる希酸の濃度が上昇して濃酸化し、その濃酸(例えばH2SO4)がポリシロキサンのシロキサン結合を開裂させ、その結果、ポリシロキサンの細分化物およびシリル硫酸が生成する(スキーム1)。そして被処理表面に存在する処理液がさらに乾燥していくにつれて、表面処理液中に存在する細分化物の濃度も高まっていき、細分化物同士の接触確率が向上する。その結果、スキーム2に示すように、細分化物同士が縮合し、シロキサン結合が再生される。また、副生成物としてのシリル硫酸も、被処理表面が疎水性である場合には、シリル硫酸のメチル基が被処理表面に向かって配向し、スルホン基が被処理表面とは異なる方向に配向し、被処理表面の親水化に何らかの寄与を果たすものと考えられる。
【0105】
【化1】
Figure 0004240702
なお、表面処理液として溶媒中に水が存在する組成を有するものを利用した場合についての表面処置液の状態の一例を図26に模式的に示す。処理液の溶媒中に水が存在する場合は、加熱を伴う親水化のための処理液からの溶媒の蒸発において、水及び揮発性有機溶剤が蒸発する(水の気体分子を8c、有機性有機溶剤の気体分子を8bで示す)。その際、揮発性有機溶剤の蒸発速度が水よりも速いため処理液中の水の濃度が高まっていき、処理液の表面張力が上昇していく。その結果、基材6の被処理面と処理液との界面に表面エネルギーの差が生じ、基材6の被処理面と、蒸発により水の濃度が高まった処理液(含水層8a)との界面において、親水化剤としての高分子からの細分化物1a〜4bにおける基材6の被処理面と略同等の表面エネルギーを有する部分が基材6の被処理面側に配向する。その一方で、親水化剤としての高分子からの細分化物の親水性基を有する部分は、有機溶媒の蒸発により水の濃度が高まった含水層8a側へ配向する。その結果、高分子細分化物の所定の配向性がより向上すると考えられる。
【0106】
上述の表面改質原理に基づく表面改質手順の一例を図28に示す。製造開始時において物品と処理液が提供され、物品の改質すべき表面(被改質面)への処理液付与工程、被改質面からの余剰物除去工程、被改質面上での高分子の開裂及び細分化物の配向のための処理液濃縮蒸発工程、細分化物間の結合による高分子化のための高分子縮合工程などを経て、改質された表面を有する物品を得ることができる。
【0107】
処理液濃縮工程及び処理液蒸発工程は、好ましくは室温よりも高い温度で溶媒の沸点以下の温度(例えば60℃)での連続した加熱乾燥工程によって行うことができ、ポリオレフィン系樹脂からなる表面を改質するためにポリシロキサンを、水、酸及び有機溶媒(例えばイソプロピルアルコール)ともに用いた場合で、例えば、45分〜2時間程度とすることができ、40重量%のイソプロピルアルコール水溶液の使用においては例えば2時間前後である。なお、水分の含有量を少なくすることでこの乾燥処理時間を短くすることができる。
【0108】
なお、図28の例では、高分子の開裂による細分化物の形成が物品の被改質面上で行なわれているが、細分化物を既に含む処理液を物品の被改質面上に供給して、配向させてもよい。
【0109】
処理液の組成としては、先に述べたように、例えば、被改質面に対する処理液の濡れ性を向上させるための被改質面に対するぬれ性を有し、表面改質剤の有効成分である高分子の良溶媒であるぬれ性向上剤、溶媒、高分子開裂触媒、被改質面への改質効果を付与するための機能性基と被改質面への付着機能を得るための基を有する高分子とを含んで構成されるものが利用できる。
【0110】
〈親水化のグラデーション処理について〉
また特に、本実施形態では、上述したように、繊維吸収体14に対する親水化処理部の密度を部位によって変化させているが、このような処理の方法についていくつか例を挙げて説明する。
【0111】
まず、第1の方法について図5を参照して説明する。第1の方法では、図5(a)に示すように、未処理の繊維吸収体14’の一部分のみを前述の親水処理液15に浸す。これにより、処理液に15に浸された部分では処理液15が繊維吸収体14’の繊維の表面全体に付着するが、処理液15に浸されていない部分では、繊維間の毛管力によって処理液15が上昇してくるため、繊維間の隙間の大きさのばらつき等により、処理液15の液面からの高さが高くなるにつれて処理液15が付着する部分の割合が小さくなる。
【0112】
この状態で繊維吸収体14’を処理液15から引き上げ、前述した親水処理液塗布後乾燥工程を経て、図5(b)に示すように、親水化処理された部分の密度が下端から上端に向かって次第に小さくなった繊維吸収体14が得られる。
【0113】
次に、第2の方法について図6を参照して説明する。第2の方法では、まず、図6(a)に示すように、全体に一様に親水処理液を染み込ませた繊維吸収体14”を用意する。
【0114】
そして、図6(b)に示すように、繊維吸収体14”の一部(本例では上端部)を圧縮する。これにより、圧縮された部分の親水処理液は、繊維吸収体14”の繊維間の隙間が小さくなることに伴い、圧縮されていない部分へ向かって移動する。本例では、親水処理液は繊維吸収体14”の上端側から下端側へ移動する。
【0115】
次いで、図6(c)に示すように、繊維吸収体14”への圧縮を解除する。これにより、圧縮されていた部分は繊維吸収体14”の復元力でもとの形状に戻るが、この繊維吸収体14”の復元の際に生じる毛管力で、圧縮されていた部分の繊維表面に付着していた親水処理液が分散される。その結果、圧縮されていた部分ではその圧縮の程度が高ければ高いほど親水処理液の付着密度が小さくなるように、親水処理液が分散して付着した状態となる。つまり、繊維吸収体14”の、親水処理液が付着している部分の密度は、圧縮されていた部分から圧縮されていない部分へ向かって次第に高くなる。
【0116】
ここで注意するのは、図6(a)に示す状態での繊維吸収体14”への親水処理液の含浸量は、繊維吸収体14”を復元させた際に、圧縮されていない部分へ移動した親水処理液が圧縮された部分へ再び戻らない程度の量とすることである。
【0117】
最後に、このような繊維吸収体14”に対して、前述した親水処理液塗布後乾燥工程を施すことで、圧縮されていた部分から圧縮されていない部分に向かって次第に親水性が弱くなった繊維吸収体が得られる。
【0118】
次に、第3の方法について図7を参照して説明する。第3の方法では、まず、第2の方法と同様に全体に一様に親水処理液を染み込ませた繊維吸収体14”を用意する。次いで、この繊維吸収体14”を回転盤16の周辺部に載置し、回転盤16を回転させる。これにより、繊維吸収体14”中の親水処理液は遠心力により回転盤16に対して外側へ移動し、内側では親水処理液が付着している部分の密度が小さくなる。これにより、回転盤16に対して内側から外側へ向かって親水処理液の付着密度が高くなる。ここで、繊維吸収体14”の最も内側でも親水処理液が残るように、回転盤16の回転数は、60rpmから300rpm(1s-1から5s-1)程度とすることが好ましい。また、効率的な処理のため、図7に示すように複数の繊維吸収体14”を回転盤16に載置し、複数の繊維吸収体14”を同時に処理することが好ましい。
【0119】
その後、繊維吸収体14”を回転盤16から取り外し、前述した親水処理液塗布後乾燥工程を行うことで、一端から他端へ向かって親水性が次第に弱くなっている繊維吸収体が得られる。
【0120】
次に、第4の方法について、図8を参照して説明する。第4の方法でも、第2の方法と同様に全体に一様に親水処理液を染み込ませた繊維吸収体14”を用意する。そして、前述した親水処理液塗布後乾燥工程で、繊維吸収体14”の一端側から熱風を吹き付ける。この際、初期段階では、強い熱風を吹き付け、これにより、繊維吸収体14”内の親水処理液を他端側へ移動させる。このときも、第3の方法と同様に、繊維吸収体14”の一端側でもでも親水処理液が残るように熱風の強さを調整する。そして、親水処理液が移動したら、熱風の強さを親水処理液が移動しない程度の強さとし、繊維吸収体14”内の親水処理液を乾燥させる。これにより、他端から一端へ向かって親水性が次第に弱くなっている繊維吸収体が得られる。
【0121】
ところで、インクタンクの形状及び供給口の配置によっては、上記の方法では対処できない場合がある。例えば、図9に示すように、繊維吸収体24を収納するタンク筐体21が横長の直方体形状であり、供給口22が、タンク筐体21の底面の端部に開口している場合は、上述の方法では、図9に示す状態での右下側端部が、供給口22から遠いにも拘わらず親水化処理がなされないかまたは親水化処理される部分の密度が小さなものとなってしまう。
【0122】
このような場合は、図5で説明した方法を応用することによって対処することができる。まず、図10(a)に示すように、未処理の繊維吸収体24’の一端部を親水処理液25に浸ける。次いで、繊維吸収体24’を親水処理液25から引き上げ、図10(b)に示すように、繊維吸収体24’を90°回転させて、図10(c)に示すように、繊維吸収体24’を再び親水処理液25に浸ける。そして、この繊維吸収体24’に対して前述の親水処理液塗布後乾燥工程を行うことにより、図9に示したように、領域Aから領域Eに向かって次第に親水性が弱くなるように、具体的には、供給口22から離れた位置にある互いに隣り合う2つの面の近傍で親水性が最も強く、そこから離れるに従って弱くなるように、親水化処理がなされた繊維吸収体24を得ることができる。
【0123】
なお、図9に示したような横長のインクタンク20の場合は、特にインクタンクの内側底面においてタンク筐体21と繊維吸収体24との間に隙間があると、領域Eにおけるこの隙間でのインクが領域Aに向かって移動し供給口22から離れてしまうことがある。そこで、このような現象を防止するために、タンク筐体21と繊維吸収体24との間には隙間がない方が望ましい。
【0124】
(第2の実施形態)
図11は、本発明の第2の実施形態であるインクタンクの縦断面図であり、図12は、図11に示すインクタンクのC−C線断面図(横断面図)である。
【0125】
本実施形態のインクタンク30も、第1の実施形態と同様に、大気連通口33及び供給口32を有するタンク筐体31と、タンク筐体31内に収納された繊維吸収体34とを備えている。繊維吸収体34も第1の実施形態と同様に、PPとPEの混紡繊維を繊維方向がほぼ揃えられた状態とした繊維束から構成され、繊維吸収体34を構成する繊維の表面には親水化処理が施されている。
【0126】
第1の実施形態と本実施形態との違いは、本実施形態では、繊維吸収体34の親水性が、供給口32に近い位置で強く、遠くなるほど弱くなるように、繊維吸収体34に対する親水化処理が施されている親水化処理部を少なくとも供給口32の周辺に有する点である。親水化処理は繊維吸収体34の全体に施す必要はなく、供給口32から遠い位置では親水化処理を施さなくてもよい。なお、図11及び図12では、第1の領域と第2の領域とのおおよその境界、及び第2の領域と親水化処理されていない領域との境界を実線で示しているが、これらは模式的に示したものであり、実際にはこのように明確な境界を有しているわけではない。
【0127】
一般的に、供給口32の近傍は、記録ヘッド(不図示)に対するインク切れを起こさないようにするために、常にインクを保持しておくことができる構成とされる。このため従来は、毛管力を高めた圧接体を供給口32に設置したり、負圧発生部材を供給口32の近傍で圧縮して毛管力を高めるような構成が用いられていた。しかし、このようにして毛管力を高める構成は、インクの流抵抗を高めることにつながるため、大流量インク供給が求められる今後の記録速度の高速化に際して障害となるおそれがある。そこで、本実施形態のように供給口32の近傍の親水性を他の部分に対して高くすることで、供給口32の周囲でのインクの流抵抗を高めることなく積極的にインクを保持することができる。
【0128】
一方、記録ヘッドからのインク漏れを防止しつつインクタンク30から記録ヘッドにインクを良好に供給するためには、インクタンク30の内圧を適正な負圧に維持する必要がある。ここで、図13を参照しつつ、インクタンク30の内圧と供給口32からのインク導出量との関係について考える。なお、ここでいう負圧は、静負圧と動負圧とを合わせた全負圧を意味する。
【0129】
図13は、供給口の近傍で親水性が最も高く供給口から離れるに従って徐々に親水性が低くなるように親水化処理を施した繊維吸収体を収納したインクタンク、及び親水化処理を施していない繊維吸収体を収納したインクタンクについての、インクタンク内圧とインク導出量との関係を示すグラフである。
【0130】
図13に示すように、親水化処理が未処理のものは、破線で示すように、インクの導出に伴ってインクタンク内圧が略線形に減少していく。ところが、親水化処理を施したものは、実線で示すように、未処理のものと比較して、インク導出量が大きくなるにつれて内圧の変化率すなわち減少率が小さくなっている。これは、親水化処理を施したものは、インクの導出に伴ってインクタンク内のインク液面が供給口に近づくにつれてインクが移動しやすくなるため、動負圧が未処理のものと比べて小さくなるからである。
【0131】
以上のことから、繊維吸収体の親水化処理を、親水性が供給口周辺で高くなり、供給口から離れるにつれて低くなるように施すことで、供給口からのインクの導出に伴うインクタンク内の負圧の変動を抑えることができる。このことは、以下に述べる利点を有する。図13に示すように、インクタンクから記録ヘッドへのインク供給が行えなくなる限界負圧をpLとしたとき、限界負圧pLに達するインク導出量は、未処理の場合はV1、親水化処理を施した場合V2となる。従って、親水化処理を施した方がV2−V1=ΔVだけ多くインクタンク内のインクを使用することができる。言い換えると、本実施形態のように親水化処理を施すことにより、インクタンク内のインクの使用効率が向上し、ひいてはランニングコストを安くすることができる。また、任意のインク導出量をVxとしたとき、インク導出量=0の初期の負圧値から、Vxのインクを導出したときまでの負圧の変化量について未処理の場合をΔP1、親水化処理の場合をP2となる。このように、インク使い初めとインク使い切りとでのインクの導出による負圧の変化量を抑えることができるため、インクの導出量によらない安定した印字を実現することができる。
【0132】
また、本実施形態では供給口32の周辺で親水性が最も高いので、インクタンク30の製造時におけるインクの注入に際しては、供給口32からインクを注入することによりインクは繊維吸収体34に積極的に吸収されるので、インクタンク30内を減圧しなくても安定してインクを注入することができる。
【0133】
次に、本実施形態における繊維吸収体34の親水化処理手順について、図14を参照して説明する。
【0134】
まず、図14(a)に示すように、未処理の繊維吸収体34aがタンク筐体31内に収納されたインクタンク30を用意する。
【0135】
次いで、図14(b)に示すように、第1の実施形態で述べた親水処理液35を保持したシリンジ36をタンク筐体31の大気連通口33から差し込み、このシリンジ36によって繊維吸収体34a内に親水処理液35を注入する。これにより、親水処理液35は繊維吸収体34a内に放射状に広がっていく。
【0136】
親水処理液35の注入と同時または親水処理液35がある程度広がった時点で、図14(c)に示すように、タンク筐体31の供給口32から親水処理液35を強制的に吸引する。これにより、親水処理液35は供給口32側に引き込まれ、繊維吸収体34への親水処理液35の含有量はシリンジ36の先端と供給口32との間の領域で最も高く、その領域から離れるにつれて小さくなる。
【0137】
最後に、親水処理液35を含ませた繊維吸収体34に対して、第1の実施形態と同様に親水処理液塗布後乾燥工程を経て、図11及び12に示したインクタンク30が得られる。
【0138】
(第3の実施形態)
図15は本発明の第3の実施形態による液体収容容器であるインクジェットヘッドカートリッジの概略断面図である。
【0139】
本実施形態のインクジェットヘッドカートリッジは、図15に示すように、インクジェットヘッドユニット160、ホルダ150、負圧制御室ユニット100及びインクタンクユニット200などから構成されている。ホルダ150内に負圧制御室ユニット100が固定され、負圧制御室ユニット100の下方にはホルダを介してインクジェットヘッドユニット160が固定されている。負圧制御室ユニット100は、上面に開口部が形成された負圧制御室容器110と、負圧制御室容器110の上面に取り付けられた負圧制御室蓋120と、負圧制御室容器110内に装填された、インクを含浸保持するための2つの吸収体130、140とから構成されている。吸収体130、140は、このインクジェットヘッドカートリッジの使用状態において上下2段に積み重ねられて互いに密着して負圧制御室容器110内に充填されており、下段の吸収体140が発生する毛管力は、上段の吸収体130が発生する毛管力よりも高いため、下段の吸収体140のほうがインク保持力が高いものである。インクジェットヘッドユニット160へは、インク供給管165を通して負圧制御室ユニット100内のインクが供給される。
【0140】
吸収体130は大気連通口115と連通し、吸収体140は、その上面で吸収体130と密着するとともに、その下面でフィルタ161と密着している。吸収体130と140との境界面113cは、連通部としてのジョイントパイプ180の上端より使用時姿勢において上方となっている。
【0141】
吸収体130、140は、ポリオレフィン系樹脂繊維(例えば、PPの表層にPEを形成した2軸の繊維)を絡み合わせたものからなる。また、各吸収体130、140のうち上部の吸収体130に、使用時姿勢において重力方向と交差する層として存在するように親水化処理が施されている。図15においては、吸収体130の親水化処理された領域を網線で一様に示しているが、本実施形態では、この領域での繊維に対する親水化処理された部分の密度が下方から上方に向かって次第に小さくなるように親水化処理が施されている。
【0142】
吸収体130、140の境界面113cを使用時姿勢におけるジョイントパイプ180の上部、望ましくは、本実施形態のようにジョイントパイプ180の近傍に設けることで、後述する気液交換動作において、気液交換動作中の吸収体130、140中でのインクと気体との界面を、境界面113cとすることができ、結果としてインク供給動作中のヘッド部における静負圧を安定化させることができる。さらに、吸収体130の毛管力より吸収体140の毛管力の強さを相対的に高くすることで、吸収体130、140の双方にインクが存在する場合では、上方の吸収体130内のインクを消費した後、下方の吸収体140内のインクを消費することが可能となる。また、環境変化により気液界面が変動する場合、はじめに吸収体140、及び吸収体130と140との境界面113c近傍が充填された後、吸収体130にインクが進入する。
【0143】
インクタンクユニット200は、ホルダ150に対して着脱自在な構成となっている。負圧制御室容器110のインクタンクユニット200側の面に設けられた被接合部であるジョイントパイプ180は、インクタンクユニット200のジョイント口230の内部に挿入されて接続されている。そのジョイントパイプ180とジョイント口230との接続部を介して、インクタンクユニット200内のインクが負圧制御室ユニット100内へと供給されるように負圧制御室ユニット100及びインクタンクユニット200が構成されている。負圧制御室容器110のインクタンクユニット200側の面におけるジョイントパイプ180よりも上方の部分には、その面から突出した、インクタンクユニット200の誤装着防止のためのID部材170が一体的に設けられている。
【0144】
負圧制御室蓋120には、負圧制御室容器110の内部と外気、ここでは負圧制御室容器110内に収納された吸収体130と外気とを連通させるための大気連通口115が形成されており、負圧制御室容器110内における大気連通口115の近傍には、負圧制御室蓋120の吸収体130側の面から突出したリブにより形成された空間、及び吸収体中のインク(液体)の存在しない領域からなる、バッファ空間116が設けられている。
【0145】
ジョイント口230内には弁機構が設けられており、その弁機構は第1弁枠260a、第2弁枠260b、弁体261、弁蓋262及び付勢部材263から構成されている。弁体261は、第2弁体260b内で摺動可能に支持されると共に付勢部材263によって第1弁枠260a側に付勢されている。ジョイント口230内にジョイントパイプ180が挿入されていない状態では、付勢部材263の付勢力により弁体261の第1弁枠260a側の部分の縁部が第1弁枠260aに押圧されることより、インクタンクユニット200内の気密性が維持される。
【0146】
ジョイント口230の内部へジョイントパイプ180が挿入され、ジョイントパイプ180によって弁体261が押圧されて第1弁枠260aから離れる方向に移動することにより、第2弁枠260bの側面に形成された開口を介してジョイントパイプ180内がインクタンクユニット200の内部と連通する。これによりインクタンクユニット200内の気密が開放され、インクタンクユニット200内のインクがジョイント口230及びジョイントパイプ180を通って負圧制御室ユニット100内へと供給される。つまり、ジョイント口230内の弁が開くことによって、密閉状態であったインクタンクユニット200のインク収容部内が前記開口を介してのみ連通状態となるものである。
【0147】
インクタンクユニット200はインク収納容器201とID部材250とから構成されている。ID部材250は、インクタンクユニット200と負圧制御室ユニット100との装着の際に誤装着を防止するためのものである。また、このID部材250には、上述した第1弁枠260aが形成されており、この第1弁体260aを用いて、ジョイント口230内でインクの流れを制御する弁機構が構成されている。この弁機構は、負圧制御室ユニット100のジョイントパイプ180と係合されることにより開閉動作を行う。また、ID部材250の、負圧制御室ユニット100側となる前面には、インクタンクユニット200の誤挿入防止のためのID用凹部252が形成されている。
【0148】
インク収納容器201は、負圧発生機能を有する、ほぼ多角柱形状の中空容器である。インク収納容器201は筐体210と内袋220とから構成され、筐体210と内袋220とがそれぞれ剥離可能になっている。内袋220は可撓性を有しており、この内袋220は、内部に収納されたインクの導出に伴い変形可能である。また、内袋220はピンチオフ部(溶着部)221を有し、このピンチオフ部221で内袋220が筐体210に係合する形で支持されている。また、筐体210の、ピンチオフ部221の近傍の部分には外気連通口222が設けられており、外気連通口222を通して内袋220と筐体210との間に大気を導入可能となっている。
【0149】
ID部材250はインク収納容器201の筐体210及び内袋220のそれぞれに接合されている。ID部材250は、内袋220に対してインク収納容器201のインク導出部にあたる内袋220のシール面102と、ID部材250におけるジョイント口230の部分の対応する面との溶着により接合される。これによりインク収納容器201の供給口部が完全にシールされ、インクタンクユニット200の着脱時におけるID部材250とインク収納容器201とのシール部分からのインク漏れ等が防止される。
【0150】
また、筐体210とID部材250とは、筐体210の上面に形成された係合部210aと、ID部材250の上部に形成されたクリック部250aとが係合されることにより、インク収納容器201にID部材250がほぼ固定されている。
【0151】
次に、インクタンクユニット200と負圧制御室ユニット100との間でのインクの移動について説明する。
【0152】
インクタンクユニット200と負圧制御室ユニット100とを接続させると、負圧制御室ユニット100内とインク収納容器201内との圧力が等しくなるまでインク収納容器201内のインクが負圧制御室ユニット100内へ移動する(この状態を、使用開始状態、と称する。)
インクジェットヘッドユニット160によりインクの消費が開始されると、内袋220内と吸収体140の双方の発生する静負圧の値が増大する方向にバランスを取りつつ、内袋220内と吸収体140の双方に保持されたインクが消費される。ここで、吸収体130にインクが保持されている場合には、吸収体130のインクも消費される。
【0153】
インクの消費により負圧制御室ユニット100内のインク量が低下してジョイントパイプが大気と連通すると、直ちに内袋220内に気体が導入され、これに代わって内袋220内のインクが負圧制御室ユニット100内に移動する。これにより、吸収体130、140が気液界面を保ちながらインクの導出に対してほぼ一定の負圧を保持する。このような気液交換状態を経て、内袋220内のインクの全てが負圧制御室ユニット100内へ移動したら、負圧制御室ユニット100内に残存するインクが消費される。
【0154】
上述したような、負圧制御室ユニット100とインクタンクユニット200とを有するインクジェットヘッドカートリッジにおいては、環境変化等により、インク収納容器201内のインク及び気体が急激に膨張すると、インクが負圧制御室容器110内に流れ込み、負圧制御室容器110内のインク液面が上昇する。このとき、インクは吸収体130,140のうちの流抵抗の低い繊維密度が疎である場所を求めて流れる。これにより、容器内の急激な圧力上昇が緩和されるが、このような圧力緩和機能(バッファ機能とも言う)を充分に発揮させるために、従来の液体収納容器では負圧制御室容器の上部体積を必要以上に大きくしなければならなかった。しかし、本実施形態のように吸収体130に親水化処理域を設けることにより、急激な圧力上昇に伴うインクの吸収体上方への流れを親水化処理領域にて捕捉し、図1に矢印で示すように重力方向と交差する方向へと散らすことができる。これにより、負圧制御室容器110の上部体積を必要以上に大きくしなくても上記バッファ機能を充分に発揮させることができる。また特に、吸収体130の親水化処理を、一様ではなく上方に向かうほど処理密度が小さくなるように行うことで、親水化処理領域でのインクの捕捉が下方側から順次行われるので、親水化処理領域でのインクの捕捉が不完全な状態でインクが親水化処理領域を越えて上昇することがなくなる。
【0155】
図15に示した例では、上側の吸収体130の一部に親水化処理領域を設けた例を示したが、特に本実施形態では、2つの吸収体130、140の境界面130cがジョイントパイプ180より上方に位置しているので、図17に示すように、上方の吸収体130全体に対して、下方から上方に向かって親水性が弱くなるように親水化処理を施しても、上述と同様の効果が得られる。
【0156】
また、本実施形態では負圧制御室ユニット100とインクタンクユニット200とが分離可能なインクジェットカートリッジを示したが、これらは分離不可能な形態であってもよい。さらに、インクタンクユニット200のインク収納容器201は変形可能な内袋220を有する構造となっているが、単に筐体210だけの構造であってもよい。インク収納容器201が筐体210のみで構成される場合は、環境変化等によりインク収納容器201内の急激な圧力上昇が生じた際のインク収納容器201自体のバッファ機能はなくなるので、本実施形態のように負圧制御室ユニット100のバッファ機能を十分に発揮させる構成はより好ましい。
【0157】
(第4の実施形態)
次に、図18を参照し、上記の各実施形態に係る液体収納容器を搭載して記録を行う液体吐出記録装置について説明する。図18に、本発明の第4の実施形態による液体吐出記録装置の概略図を示す。
【0158】
図18において、液体収納容器1000は、液体吐出記録装置IJRA本体にキャリッジHCの不図示の位置決め手段によって固定支持されるとともに、キャリッジHCに対してそれぞれ着脱可能な形で装着される。記録液滴を吐出する記録ヘッド(不図示)はキャリッジHCに予め設けられていてもよいし、液体収納容器1000のインク供給口に予め設けられていてもよい。液体収納容器1000は上述した第1〜第3の実施形態のいずれかに示したものと同様のものであり、少なくとも一部に親水化処理された繊維吸収体を有する。
【0159】
駆動モータ5130の正逆回転は駆動伝達ギア5110、5100、5090を介してリードスクリュー5040に伝達され、これを回転させ、またキャリッジHCはリードスクリュー5040の螺旋溝5050に係合されていることでガイドシャフト5030に沿って往復移動可能となっている。
【0160】
符号5020は記録ヘッドの前面を塞ぐキャップを示し、キャップ5020は不図示の吸引手段によりキャップ内開口を介して記録ヘッドの吸引回復を行うために用いられる。キャップ5020はギア5080、5090等を介して伝達される駆動力により移動して各記録ヘッドの吐出口面を覆うことができる。キャップ5020の近傍には、不図示のクリーニングブレードが設けられ、このブレードは図の上下方向に移動可能に支持されている。ブレードは、この形態に限られず、周知のクリーニングブレードが本例に適用できることは言うまでもない。
【0161】
これらのキャッピング、クリーニング、吸引回復は、キャリッジHCがホームポジションに移動したときにリードスクリュー5040の作用によってそれらの対応位置で所望の処理が行えるように構成されているが、周知のタイミングで所望の動作を行うようにすれば、本例にはいずれも適応できる。
【0162】
(第5の実施形態)
図19(e)は、本発明の第5の実施形態であるインクタンクの縦断面図である。
【0163】
本実施形態のインクタンク10は、インクを吐出口から吐出して記録を行う記録ヘッドにインク(インクの吐出前に被記録媒体に耐水処理を行うための耐水強化液などの液体を含む)を供給する供給口12を有するタンク筐体11と、タンク筐体11内に収納された、インクを負圧状態で保持する繊維吸収体14とを備えている。タンク筐体11は、内部に収容された繊維吸収体14と外気とを連通させるための大気連通口13を備えている。
【0164】
この繊維吸収体14には全体的に親水化処理が施されている。本実施形態では、親水化処理は繊維吸収体14の全体に対して行われているが、供給口12の周辺で親水化処理剤の吸着力が最も強く、供給口12からの距離が離れるにつれて弱くなるように、親水化処理が行われている。
【0165】
上述した繊維吸収体14に対する親水化処理部の親水効果が相対的に持続性に優れる領域と相対的に持続性に劣る領域とを得る方法について図19を参照して説明する。
【0166】
図19(a)に示すように、未処理の繊維吸収体14を親水化処理液15に浸し、図19(b)に示すように、初期親水効果を必要とする部分に親水化処理液15を付着させる。この後、親水化処理液15の乾燥工程に移るが、この際、図19(c)に示すように、親水効果の持続性を求めない箇所は、熱を加えない乾燥工程を行う。
【0167】
すると、通常通り熱を加えた部位は、親水化処理後も、その効果が持続する処理膜が繊維表面に形成されるのに対し、熱を加えない乾燥工程を行った部位は、親水化処理剤に含まれる高分子の開裂。縮合が行われないため、親水化処理剤が繊維表面上に固まりとなって存在し、繊維表面に対して結合していない。この親水化処理剤が固まりとなっている部分は、初期のインクに対する濡れ性には寄与するが、熱処理を加えた部位と比べて剥がれやすい。よって、時間の経過とともに供給口12付近は親水化処理効果が持続して相対的に親水性が強い領域となるが、供給口12から離れた部分は親水化処理効果の持続性がないため、相対的に親水性の弱い領域となる。
【0168】
この繊維吸収体14を図19(d)に示すようにタンク筐体11内に挿入し、インクタンク10を作製する。このインクタンク10にインクを注入する際、初期の親水効果を高めた領域を大気連通口13の周囲まで広げてあるため、他大気連通口13からインクを注入することが容易となる。そして、図19(e)に示すようにインク注入後、大気連通口13付近の親水化処理部が剥がれて親水効果が低減することで、供給口12に向かって親水処理効果が高まる繊維吸収体14となる。従って、本実施形態の構成をとることにより、図11等を参照して第2の実施形態で述べた、供給口付近に向かうにつれて親水効果を高めたことによる利点に加え、初期のインク注入を容易にすることが可能となる。
【0169】
以上、いくつかの実施形態を例に挙げて述べたように、本発明は、負圧によってインクを保持するインクジェット用繊維吸収体に関し、その繊維吸収体を構成する繊維の表面に親水化処理を施すものであるが、本発明に用いられる、前述した物品に対する表面改質によれば、表面改質の対象は繊維に限らず、高分子の有する機能性基の特性や種類に応じて種々の物品や用途が挙げられる。以下にその幾つかの例について説明する。
【0170】
(1)機能性基が親水基である場合
物品としては、インクジェット系で用いられるインク吸収体等の吸収性を必要とするもの(オレフィン系繊維を含む場合は上記実施形態より対応できる)で、瞬間的に液体(上述の各実施形態で説明される水系のインクなど)を吸収できる親水性を表面改質によって与えることができる。また、液体保持性を必要とする場合にも有効である。
【0171】
(2)機能性基が親油基である場合
本発明に適用される表面改質によれば、親油性を必要とするものに対しても有効に機能を与えることができる。
【0172】
(3)表面改質の他への応用は、上記表面改質のメカニズムを用いて達成できるものすべてが可能である。
【0173】
特に、処理剤として、物品表面への濡れ性と高分子の媒液を達成できる濡れ性を向上できる濡れ性向上剤(例えば、イソプロピルアルコール:IPA)と高分子開裂を生じせしめる媒体と、前述のいずれかの機能性基とこの基とは異なる界面エネルギーであって、物品表面の部分表面エネルギーと略同等の基(または基群)を有する高分子を有するものを用いた場合における、開裂後の縮合による表面改質は、特に優れた効果を発揮し、従来からは得られない均一性や特性を確実に与えることができる。
【0174】
なお、繊維を成型または形成する際に用いられる中和剤(ステアリン酸カルシウムやハイドロタルサイト等)や他の添加物が繊維に含まれている場合があるが、本発明の適用によって、これらのインクに対する溶出やインクにより析出されることのいずれも軽減でき、本発明の高分子膜が形成される場合は、これらの問題を解決できる。よって、本発明によれば、中和剤等の添加物の使用範囲を拡大できたり、また、インク自体の特性変化も防止できる他、インクジェットヘッド自体の特性変化をも防止できる。
【0175】
【実施例】
以下に、繊維吸収体に対する親水化処理の具体例及びその評価例について、より詳しく説明する。なお、以下の具体例は、親水化処理された部分についての親水性を評価するためのものであるので、親水化処理部の密度が100%、すなわち繊維表面全体に対する親水化を例に挙げている。
【0176】
(実施例1)
本例は、図2及び図3に示した構造を有するポリプロピレン・ポリエチレン繊維吸収体(PP・PE繊維吸収体)に親水化処理を施した例である。
【0177】
この例では、対象とする物品形状が繊維構造体であり、液体の保持性が一般に高いため、処理液溶液を以下の組成とした。
【0178】
【表1】
Figure 0004240702
(1)PP・PE繊維吸収体の親水化処理方法
上記組成の親水処理液に、図30(a)に示す構造のポリプロピレン・ポリエチレン繊維吸収体を浸漬した(図30(b))。この時、繊維吸収体の間隙に処理液が保持される。その後、繊維吸収体を押しつぶして(図30の(c))、繊維の隙間に保持されている、余分な処理溶液を除去した。金網等の抑え治具から取り出すと、繊維吸収体は元の形状に復元して(図31の(a))、繊維表面に液層が塗布されたものとなる。この繊維表面が液で濡れたものを、60℃オーブンにて、1時間乾燥させた(図31(b))。
【0179】
(対比例1及び参照例1)
加えて、対比例1として、上記繊維体親水処理液において調製した硫酸とイソプロピルアルコールのみを含む液についても、実施例1と同じ操作を施した。すなわち、実施例1において用いた処理液から、(ポリオキシアルキレン)・ポリ(ジメチルシロキサン)を除いた液である。また、参照例1として、未処理のPP・PE繊維吸収体を用いた。
【0180】
なお、実施例1において、使用したPP・PE繊維吸収体も重量0.5gに対し、前記の塗布法で繊維吸収体全体に塗布される親水処理液は0.3〜0.5gである。また、対比例1においても、塗布される液量は、実施例1と同じである。
【0181】
以上の操作で得られた各繊維吸収体における表面の処理状態についての評価及びその結果を以下に示す。
【0182】
(1)PP・PE繊維吸収体親水性評価方法
イ)スポイト純水滴下評価
実施例1の処理をしたPP・PE繊維吸収体、対比例1のPP・PE繊維吸収体および参照例の未処理のPP・PE繊維吸収体について、それぞれ、上部からスポイトにて純水を滴下した際、純水のしみこみ具合を観察した。
【0183】
ロ)純水浸漬評価
PP・PE繊維吸収体が十分に入る大きさの容器に純水を満たし、この容器に中に実施例1のPP・PE繊維吸収体、対比例1のPP・PE繊維吸収体および参照例の未処理のPP・PE繊維吸収体をゆっくり乗せ、その際、それぞれのPP・PE繊維吸収体への純水のしみこみ具合を観察した。
【0184】
(2)PP・PE繊維吸収体親水性評価結果
イ)スポイト純水滴下評価結果
実施例1において処理したPP・PE繊維吸収体では、上部からスポイトにて純水を滴下した際、純水は瞬時に繊維吸収体の内部へと浸透していった。
【0185】
一方、対比例1のPP・PE繊維吸収体ならびに参照例1の未処理PP・PE繊維吸収体では、上部からスポイトにて純水を滴下したが、純水はPP・PE繊維吸収体にまったく浸透せず、PP・PE繊維吸収体上をはじくような形で球状形の液滴を形成していた。
【0186】
ロ)純水浸漬評価結果
実施例1において処理したPP・PE繊維吸収体を純水を満たした容器に中にゆっくり乗せると、PP・PE繊維吸収体はゆっくりと水中に沈んでいった。少なくとも、これは、実施例1において処理したPP・PE繊維吸収体の表面は、親水性を有することを表している。
【0187】
一方、対比例1のPP・PE繊維吸収体、ならびに参照例1の未処理PP・PE繊維吸収体を純水を満たした容器に中にゆっくり乗せた際には、対比例1のPP・PE繊維吸収体と未処理PP・PE繊維吸収体は、共に純水の上に完全に浮いた状態になった。その後も、まったく水を吸収する様子はみられず、明らかに撥水性を示していた。
【0188】
以上の結果から、PP・PE繊維吸収体に対しても、ポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリアルキルシロキサン、酸、アルコールからなる処理液を塗布し、乾燥することにより、図31(c)に示すようなポリアルキルシロキサンの被覆が形成され、有効に表面親水化処理が行われると判断される。その結果として、上記の処理を施したPP・PE繊維吸収体は、水性インクに対しても、十分にインク吸収体としての機能を持たせることが可能であることが判明した。
【0189】
上記の結果、すなわち、本発明の表面改質において、PP・PE繊維の表面にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリアルキルシロキサンが付着し、高分子被覆を形成することの査証を得る目的で、繊維表面のSEM写真による観察を行った。
【0190】
図32、図33、図34に、参照例1(未処理PP・PE繊維吸収体)の未処理PP・PE繊維表面の拡大SEM写真を示す。また。図35に、対比例1(酸とアルコールのみ処理PP・PE繊維吸収体)の酸処理PP・PE繊維表面の拡大SEM写真を示す。
【0191】
図36、図37、図38に、実施例1(親水化処理PP・PE繊維吸収体)の処理済PP・PE繊維表面の拡大SEM写真を示す。
【0192】
先ず、これら全てのPP/PE繊維表面拡大SEM写真において、繊維表面上に有機物の付着に起因すると判断される、明確な構造変化は確認できない。実際に、図34の未処理PP・PE繊維及び、図38の親水化処理PP・PE繊維の2000倍拡大写真を詳細に比較しても、未処理PP・PE繊維と親水化処理PP・PE繊維の表面のSEM観察において両者の違いは認められない。従って、親水化処理PP・PE繊維において、(ポリオキシアルキレン)・ポリ(ジメチルシロキサン)は繊維表面に均一に薄い膜状(単分子膜と思われる)に付着しているため、形状的には、元の繊維表面と区別が付かないものとなっており、SEM観察上差異が認められないと判断される。
【0193】
一方、図34の酸とアルコールのみで処理したPP・PE繊維のSEM写真を見ると、繊維の交点(溶着部)の切断が多く生じ、また、繊維中に節のようなものが多く見られる。この変化は、加熱乾燥の過程で、溶剤の蒸発による高濃度の酸と、乾燥工程自体の熱により、繊維表面のPE・PP分子、特に表層PEの劣化が誘起・促進された結果を示している。
【0194】
一方、親水化処理溶液も、同じ濃度の酸を含み、同じく加熱乾燥を施すにもかかわらず、酸とアルコールのみで処理した酸処理PP・PE繊維にて観測されるような、繊維結合部の切断、および、繊維中に節のようなものは認めれない。この事実は、実施例1の親水化処理では、繊維表面のPE分子の劣化が抑制されていることを示している。これは、酸が作用して、繊維表面のPE分子の切断が生じ、分子内にラジカルが生成した際にも、何らかの物質・構造がラジカルを捕捉し、ラジカルが連鎖的にPEを破壊することを抑制していると考えられる。そのラジカルの捕捉にも、表面に付着する(ポリオキシアルキレン)・ポリ(ジメチルシロキサン)が関与し、生成したラジカルを捕捉する形でPE表面と化学的な結合をも形成することで、ラジカル連鎖によるPE・PPの破壊を抑制する副次的な現象・効果も否定はできない。
【0195】
これらを総合すると、本実施例1においては、繊維表面の改質は、(ポリオキシアルキレン)・ポリ(ジメチルシロキサン)が繊維表面に均一に薄い膜状に付着していることで達成されていると判断される。その過程において、親水化処理に用いる溶液中に含まれる酸と溶剤による繊維表面の洗浄効果も期待でき、ポリアルキレンオキサイド鎖の物理的な吸着を促進する作用も予測される。それ以外に、高濃度の酸と熱によるPE分子の切断に伴うPE分子の切断部とポリアルキレンオキサイド鎖の化学的結合の可能性も少なからず存在していることも考えられる。
【0196】
なお、二軸繊維には、二軸繊維の中には、図2に示す芯材14bが鞘材14aに対して偏芯し、芯材14bが部分的に外壁面に露出して、表層(鞘材)からなる表面と核部(芯材)からなる表面が混在している場合があるが、この様な場合においても、上記の本発明にかかる表面改質処理を行うことで、核部の露出部分および表層の表面の両方に親水性を付与することが可能である。なお、親水性機能をもつ界面活性剤を塗布し、乾燥させただけの場合には、部分的ではあるが初期親水性は得られるものの、純水により軽く水洗いすると、すぐに界面活性剤が水に溶解して溶出してしまい、親水性が失われる。
【0197】
(実施例2、3)
上記のPE・PP繊維体に対して、親水化処理を施す実施例1に加え、本例に、PP繊維体に対して、親水化処理を施した例を示す。具体的には、PP繊維体として、2cm×2cm×3cmの直方体形状に成形した繊維径が2デニールの繊維塊を利用した。
【0198】
先ず、下記する二種の組成の親水処理溶液を調製した。
【0199】
【表2】
Figure 0004240702
【0200】
【表3】
Figure 0004240702
第2の組成(実施例3)は、(ポリオキシアルキレン)・ポリ(ジメチルシロキサン)を4.0重量%、硫酸を0.5重量%、残部をイソプロピルアルコールとした処理液に、イソプロピルアルコールならびに純水を所定量この順に加えて、上記の組成としたものである。ここでも、含まれる硫酸と(ポリオキシアルキレン)・ポリ(ジメチルシロキサン)は、4倍に希釈されたものとなっている。
【0201】
実施例2に記載のPP・PE繊維吸収体の親水化処理方法の手順に準じて、イソプロピルアルコールを主な溶媒とする第1組成の溶液で処理したPP繊維体(実施例2)と、水とイソプロピルアルコールの混合溶媒とする第2組成の溶液で処理したPP繊維体(実施例3)を得た。
(参照例2)
未処理のPP・PE繊維体を参照例2とした。
【0202】
実施例2と同様に、参照例2の未処理のPP・PE繊維体は、その表面は撥水性であるものが、実施例2のPP・PE繊維体、実施例3のPP・PE繊維体ともに親水性を示す表面に改質されていた。その親水性の程度を評価する目的で、シャーレに水性インク(γ=46dyn/cm)7gを入れ、そのインク液表面に、実施例2のPP・PE繊維体、実施例3のPP・PE繊維体、ならびに参照例2の未処理のPP・PE繊維体を静かに乗せた。
【0203】
参照例2の未処理のPP・PE繊維体は、水性インク上に浮いた状態であったが、実施例2のPP・PE繊維体、実施例3のPP・PE繊維体では、繊維体の底面からインクを吸い上げていた。しかしながら、実施例2のPP・PE繊維体と実施例3のPP・PE繊維体とを比較すると、吸い上げられた水性インク量に明確な差異が見られ、実施例3のPP・PE繊維体は、シャーレ内のインクを全て吸い上げ・吸収していたが、実施例2のPP・PE繊維体では、シャーレ内にインクの凡そ半量が残っていた。
【0204】
実施例2のPP・PE繊維体と実施例3のPP・PE繊維体とにおいて、その表面上に被覆する高分子である(ポリオキシアルキレン)・ポリ(ジメチルシロキサン)の総量は、実質的な顕著な差異はないが、その被覆における高分子自体の配向の程度に差異がある結果と考えられる。
【0205】
例えば、実施例2のPP・PE繊維体においては、その表面上に被覆する高分子は、概ね配向するものの、部分的には、配向に乱れを含む状態で付着を完成している。一方、実施例3のPP繊維体においては、前記する配向の乱れは格段に少なくされている。
【0206】
この(ポリオキシアルキレン)・ポリ(ジメチルシロキサン)による親水化処理は、イソプロピルアルコールに加えて、水を溶媒に加えることで、密で、より配向が揃った被覆が達成されていると判断される。処理液自体、表面を均一に濡らす必要があるので、少なくともイソプロピルアルコールを20%程度含むことが望ましいが、上記の実施例3のイソプロピルアルコールの含有率40%よりも少ないイソプロピルアルコールの含有率であっても、被覆が可能と考えられる。すなわち、溶媒を蒸散して、乾燥させる過程では、イソプロピルアルコールがより早く揮発して失われ、その間、イソプロピルアルコールの含有率は一層低下するので、それを考慮すると、イソプロピルアルコールの含有率40%よりも少ないイソプロピルアルコールの含有率であっても、被覆が可能と考えられる。また、工業的には安全性からみて、イソプロピルアルコールの量は40%以下が好ましい。
【0207】
本発明の上記改質方法および改質された表面における上記技術思想は、負圧発生部材としての繊維以外の多孔質体にもすべて適用可能であることはいうまでもない。
【0208】
なお、上記の実施形態の物品に対する表面改質の説明で開示した方法で親液化された負圧発生部材は、発明が解決すべき課題の欄でも述べられているような、負圧発生部材内に含浸したインク(液体)が抜き取られた後の、インクの再度の吸い上げに関して、インクの抜き取り量やくり返しの回数によらず、再度の吸い上げ後の負圧発生部材で保持するインク量がほぼ同じ、言い換えれば初期負圧に復帰できる、という効果がある。
【0209】
一方、負圧発生部材収納室に対して液体収納室を着脱自在に設ける実施形態では、液体収納室を交換する際の負圧発生部材収納室の液体の保持量は、インク導出口との連結部であるジョイントパイプ近傍にまで液体が保持されている場合や、インク供給口近傍の液体まで消費されている場合もしくは、消費(供給)できるインクが無い場合といったように様々である。上記本発明の適用によれば、上記の実施形態の表面改質の説明で開示したいずれかの方法で負圧発生部材収納室内の負圧発生部材に対して親液化処理することで、液体収納室の交換後の、負圧発生部材収納室のインク供給口部における負圧を、交換回数や交換前の負圧発生部材収納室内の液体の残量にかかわらず、初期水準(負圧、量)に常に復帰せしめることができる。ここで、本発明の部分親水化を考慮する場合、その処理部においては、交換前の負圧発生部材の液体の残量がこの処理部内近傍にあれば(例えばジョイントパイプ近傍の液体のみが消費されている場合)には、負圧発生部材全体を上述の方法で親水化するのではなく、液体が補充される部分から液体が消費される部分にわたって、上述の親液化処理が行われていればよい。
【0210】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の繊維吸収体によれば、親液性の強さに分布を持たせて親液化処理を施すことにより、液体容器内で求められる液体の挙動に応じて最適な状態で液体を保持しかつ液体吐出ヘッドに供給することができる。
【0211】
本発明の液体容器によれば、上記本発明の液体吐出用繊維吸収体を容器筐体内に収納することで、液体容器内で求められる液体の挙動に応じて液体吐出用繊維吸収体の第1の親液化領域を液体容器内の所定の位置に配置すれば、液体を最適な状態で保持しかつ液体吐出ヘッドに供給することができる。
【0212】
より具体的には、供給口からの距離が遠くなるほど親液性が強くなるように繊維吸収体に親液化処理を施すことにより、供給口から遠い位置にある液体も供給口へ向かって流れやすくすることができ、液体の使用効率を向上させることができる。また、供給口からの距離が遠くなるほど親液性が弱くなるように供給口の周辺の繊維吸収体に親液化処理を施すことで、供給口周辺での液体の流抵抗を高めることなく、液体吐出ヘッドに対する液体切れを防止することができる。さらに、繊維吸収体を収納した負圧発生部材収納室と液体を収納した液体収納室とが連通部を介して連通する構造の液体容器においては、繊維吸収体の連通部よりも上方の部位に、重力方向と交差する層として存在し、かつ、下方から上方に向かって親液性が弱くなるように親水化処理が施された親液化処理部を有することにより、環境変化等により液体収納室内の液体が負圧発生部材収納室へ流れ込んだときのバッファ機能を、小さな負圧発生部材収納室の体積で実現することができる。また、上述した本発明の液体容器においては、親液性の強い領域から液体を注入することにより、液体容器内を減圧することなく簡便に液体容器内に液体を注入することができる。
【0213】
さらに、本発明の液体吐出用繊維吸収体の製造方法によれば、親液性に分布を持たせた本発明の液体吐出用繊維吸収体を容易に製造することができる。また、繊維吸収体への表面処理は、親液性基を含む液体を繊維表面の所定の部位に付与し、この親液性基を開裂・縮合等の工程を経て繊維表面に結合させるので、繊維表面のような複雑な形状の表面に対しても良好に改質を行うことができ、しかも、親液性を長期にわたって維持することができる。また、表面に形成される皮膜は単分子レベルの皮膜であるので、繊維吸収体の重量が増加することも殆どない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態によるインクタンクの縦断面図である。
【図2】図1に示す繊維吸収体を構成する繊維の断面図である。
【図3】図1に示す繊維吸収体を説明する図である。
【図4】図1に示すインクタンクの繊維吸収体におけるインクの流抵抗を説明するための、各領域A〜Eから供給口までのインク流路を模式的に管で示した図であり、(a)は静的に見た場合、(b)は動的に見た場合を示す。
【図5】図1に示す繊維吸収体への親水化処理方法の一例を説明する図である。
【図6】図1に示す繊維吸収体への親水化処理方法の他の例を説明する図である。
【図7】図1に示す繊維吸収体への親水化処理方法のさらに他の例を説明する図である。
【図8】図1に示す繊維吸収体への親水化処理方法のさらに他の例を説明する図である。
【図9】本発明の第1の実施形態によるインクタンクの変形例の縦断面図である。
【図10】図9に示す繊維吸収体への親水化処理方法の一例を説明する図である。
【図11】本発明の第2の実施形態によるインクタンクの縦断面図である。
【図12】本発明の第2の実施形態によるインクタンクの横断面図(図11のC−C線断面図)である。
【図13】本発明の第2の実施形態によるインクタンクの、インクタンク内圧と供給口からのインク導出量との関係を、親水化処理を行っていない場合と比較して示すグラフである。
【図14】図11に示すインクタンクの繊維吸収体への親水化処理方法の一例を説明する図である。
【図15】本発明の第3の実施形態による液体収容容器であるインクジェットヘッドカートリッジの概略断面図である。
【図16】図15に示すインクジェットヘッドカートリッジの、急激な圧力変動に伴ってインクが負圧制御室容器内へ流れ込んだときの吸収体内でのインクの流れを説明する図である。
【図17】本発明の第3の実施形態によるインクジェットヘッドカートリッジの変形例の概略断面図である。
【図18】本発明の第4の実施形態による液体吐出記録装置を示す概略斜視図である。
【図19】本発明の第5の実施形態であるインクタンクを説明する図である。
【図20】本発明の基本的な原理となる表面改質方法における、物品(基材)の被改質表面上に形成される表面改質剤の高分子と物品表面との付着形態を模式的に示す図であり、(a)は機能性基としての第2の基と物品表面への付着のための第1の基の両方が高分子の側鎖にある場合について説明する図であり、(b)は第1の基が主鎖中に含まれている場合を説明する図である。
【図21】本発明の基本的な原理となる表面改質方法において、表面改質剤の高分子を含む処理溶液を塗布し、基材上に塗布層を形成した状態を模式的に示す図である。
【図22】本発明の基本的な原理となる表面改質方法において、基材上に形成した表面改質剤の高分子を含む塗布層中の溶媒を一部除去する工程を示す概念図である。
【図23】表面改質剤の高分子を含む塗布層中の溶媒を一部除去する工程に付随し、処理溶液中に添加する酸により誘起される、表面改質剤の高分子の部分的な解離過程を示す概念図である。
【図24】表面改質剤の高分子を含む塗布層中の溶媒をさらに除去する工程に付随し、表面改質剤の高分子あるいはその解離細分化物が配向形成する過程を示す概念図である。
【図25】塗布層中の溶媒を乾燥除去して、表面改質剤の高分子あるいはその解離細分化物が配向して、表面上に付着固定される過程を示す概念図である。
【図26】表面上に付着固定される表面改質剤の高分子由来の解離細分化物相互が、縮合反応により再結合する過程を示す概念図である。
【図27】本発明の基本的な原理となる表面改質方法を、撥水性表面の親水化処理に適用する事例を示し、処理溶液中に水を添加する効果を示す概念図である。
【図28】本発明を含む改質表面を有する物品の製造工程の一例を示す工程図である。
【図29】本発明にかかる表面改質処理された表面における親水性基と疎水性基の推定される分布の一例を模式的に示す図である。
【図30】図2及び3に示すPE/PP繊維体の撥水性表面の親水化処理に本発明の表面改質方法を適用する事例を示し、(a)は未処理の繊維体を、(b)は繊維体を親水化処理液に浸漬する工程を、(c)は浸漬後、繊維体を圧縮し、余剰の処理液を除く工程を模式的に示す図である。
【図31】図30に示す工程に引き続く工程を示し、(a)は繊維体表面に形成された塗布層を、(b)は塗布層中に含まれる溶媒を乾燥除去する工程を、(c)は、繊維表面を覆う親水化剤の被覆を模式的に示す図である。
【図32】参照例(未処理PP・PE繊維吸収体)の未処理PP・PE繊維形状とその表面状態を表わす150倍拡大の図面代用のSEM写真を示す。
【図33】参照例(未処理PP・PE繊維吸収体)の未処理PP・PE繊維形状とその表面状態を表わす500倍拡大の図面代用のSEM写真を示す。
【図34】参照例(未処理PP・PE繊維吸収体)の未処理PP・PE繊維形状とその表面状態を表わす2000倍拡大の図面代用のSEM写真を示す。
【図35】対比例1(酸とアルコールのみ処理PP・PE繊維吸収体)の酸処理PP・PE繊維形状とその表面状態を表わす150倍拡大の図面代用のSEM写真を示す。
【図36】実施例1(親水化処理PP・PE繊維吸収体)の処理済PP・PE繊維形状とその表面状態を表わす150倍拡大の図面代用のSEM写真を示す。
【図37】実施例1(親水化処理PP・PE繊維吸収体)の処理済PP・PE繊維形状とその表面状態を表わす500倍拡大の図面代用のSEM写真を示す。
【図38】実施例1(親水化処理PP・PE繊維吸収体)の処理済PP・PE繊維形状とその表面状態を表わす2000倍拡大の図面代用のSEM写真を示す。
【符号の説明】
1,2,3,4 高分子
1a,1b,2a,2b,3a,3b,4a,4b 細分化物
1−1 第1の基
1−2 第2の基
1−3 主鎖
5 基材表面に露出している基
6 基材
7 酸
8 処理液
9 大気
10,20,30 インクタンク
11,21,31 タンク筐体
12,22,32 供給口
13,33 大気連通口
14,14’,14”,24,34,34a 繊維吸収体
14a 鞘材
14b 芯材
15,25,35 処理液
36 シリンジ
100 負圧制御ユニット
102 シール面
110 負圧制御室容器
113c 境界面
115 大気連通口
116 バッファ空間
120 蓋部材
121 ガイド部
130、140 吸収体
150 ホルダー
155 インクタンク係止部
160 インクジェットヘッドユニット
161 フィルター
165 インク供給管
170、250 ID部材
180 ジョイントパイプ
180a シール用突起
180b 弁開閉用突起
200 インクタンクユニット
201 インク収納容器
210 筐体
210a 係合部
220 内袋
221 ピンチオフ部
222 外気連通口
230 ジョイント口
250a クリック部
252 ID用凹部
260a 第1弁枠
260b 第2弁枠
261 弁体
262 弁蓋
263 付勢部材
1000 液体収納容器
5020 キャップ
5030 ガイドシャフト
5040 リードスクリュー
5050 螺旋溝
5080 ギア
5090、5100、5110、5200 駆動伝達ギア
5130 駆動モータ
HC キャリッジ
IJRA インク吐出記録装置

Claims (37)

  1. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために液体容器内に収納される、オレフィン系樹脂の繊維からなる液体吐出用繊維吸収体であって、
    前記繊維の表面に、相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを有する高分子を備えた親液化処理が施された親液化処理部を少なくとも一部に有し、該親液化処理部は、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有することを特徴とする液体吐出用繊維吸収体。
  2. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、表面の少なくとも一部を構成する親液化すべき部分表面に高分子化合物が付与されている多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体であって、
    前記高分子化合物は、相対的に長鎖の親液性基を有する第1の部分と、前記親液性基の界面エネルギーより低く且つ前記部分表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーの相対的に短鎖の基を有する第2の部分とを備え、前記第2の部分が前記部分表面に向かって配向するとともに前記第1の部分が前記部分表面とは異なる方向に配向することで親液化された親液化部を有し、
    前記部分表面は、前記繊維に対する前記親液化部のうち、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域からの距離が遠ざかるにつれて親液化部の密度が小さくなる第2の親液化領域とを有することを特徴とする液体吐出用繊維吸収体。
  3. 前記繊維の少なくとも一部の外周を覆うように前記高分子化合物が付与されている、請求項2に記載の液体吐出用繊維吸収体。
  4. 前記繊維はオレフィン系の樹脂を少なくとも表面に有する、請求項2に記載の液体吐出用繊維吸収体。
  5. 前記前記高分子化合物は、親液基を備えたポリアルキルシロキサンである、請求項4に記載の液体吐出用繊維吸収体。
  6. 前記繊維は、核部と、該核部を覆う表層とを有し、前記核部を構成する樹脂の溶融温度が前記表層を構成する樹脂の溶融温度より高い、請求項4または5に記載の液体吐出用繊維吸収体。
  7. 前記核部を構成する樹脂がポリプロピレンであり、前記表層を構成する樹脂がポリエチレンである、請求項6に記載の液体吐出用繊維吸収体。
  8. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために液体容器内に収納され、疎液性表面を有し該疎液性表面の少なくとも一部が親液性表面に改質されている繊維の集合体である液体用繊維吸収体であって、
    相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを備えた高分子化合物の開裂によって生じた前記親液性基と前記疎液性基とを有する細分化物が、前記疎液性基が前記疎液性表面の側に向き、前記親性基とは異なる方向に向くように配向して前記疎液性表面に付着することで親液化された親液化部を有し、
    前記親液化部は、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有することを特徴とする液体吐出用繊維吸収体。
  9. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために液体容器内に収納され、オレフィン系の樹脂を少なくとも表面に有し該表面の少なくとも一部が親液化された改質表面を有する繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体であって、
    親液性基と前記オレフィン系の樹脂の構成成分として少なくとも含む繊維表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーの基とを有する高分子、該高分子の開裂触媒としての希酸、およびアルコールを含む処理液が付着された繊維表面を形成後、該繊維面に付着している処理液を蒸発させるとともに、該繊維表面上で前記希酸を濃酸化することで前記高分子を開裂させた後、開裂生成物を縮合させることで、前記繊維表面に相対的に長鎖の親液性基と、相対的に短鎖の疎液性基とを実質的に交互に有する接液表面構造を有し、
    前記接液表面構造は、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有することを特徴とする液体吐出用繊維吸収体。
  10. 液体吐出ヘッドに液体を供給するための供給口、及び大気と連通する大気連通口を備えた容器筐体と、
    負圧を利用して前記容器筐体内に液体を保持するために前記容器筐体内に収納された、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の液体吐出用繊維吸収体とを有する液体容器。
  11. 液体吐出ヘッドに液体を供給するための供給口、及び大気と連通する大気連通口を備えた容器筐体と、
    負圧を利用して前記容器筐体内に液体を保持するために前記容器筐体内に収納され、前記供給口からの距離が遠くなるほど親液性が強くなるように少なくとも一部に、相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを有する高分子を備えるように親液化処理が施された、オレフィン系樹脂の繊維からなる繊維吸収体とを有する液体容器。
  12. 液体吐出ヘッドに液体を供給するための吐出口、及び大気と連通する大気連通口を備えた容器筐体と、
    負圧を利用して前記容器筐体内に液体を保持するために前記容器筐体内に収納され、少なくとも前記供給口の周辺に前記供給口からの距離が遠くなるほど親液性が弱くなるように親液化処理が施された、オレフィン系樹脂の繊維からなる繊維吸収体とを有する液体容器。
  13. 液体吐出ヘッドに液体を供給するための供給口、及び大気と連通する大気連通口を備え、負圧状態で液体を保持するオレフィン系樹脂の繊維からなる繊維吸収体を内部に収納する負圧発生部材収納室と、
    前記負圧発生部材収納室と連通し、前記負圧発生部材収納室との連通部を除いて実質的な密閉状態とする液体収納部を有する液体収納室と、を有する液体容器であって
    前記繊維吸収体は、前記供給口を重力方向下向きにした姿勢で、前記連通部よりも重力方向上方に、重力方向と交差する層として存在し、かつ、重力方向下方から上方に向かって親液性が弱くなるように親液化処理が施された親液化処理部を有する液体容器。
  14. 前記負圧発生部材収納室と前記液体収納室とは前記連通部で互いに分離可能である、請求項13に記載の液体容器。
  15. 前記液体収納部は、変形することで負圧を発生可能な袋を有し、該袋内に液体を収納している、請求項13または14に記載の液体容器。
  16. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、表面の少なくとも一部を構成する親液化すべき部分表面に親液性基が付与された多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の製造方法であって、
    相対的に長鎖の前記親液性基を有する第1の部分と、前記親液性基の界面エネルギーとは異なり且つ前記部分表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーの相対的に短鎖の基を有する第2の部分とを備えた、前記部分表面の構成材料と異なる高分子を含む液体を、前記部分表面への付与密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを形成するように付与する第1工程と、
    前記部分表面に向かって前記高分子の第2の部分を配向させ、前記第1の部分を前記部分表面とは異なる側に配向させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを得る第2工程とを有する、液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  17. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、表面の少なくとも一部を構成する親液化すべき部分表面に相対的に長鎖の親液性基が付与された多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の製造方法であって、
    前記親液性基を有する第1の部分と前記親液性基の界面エネルギーとは異なり且つ前記部分表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーの相対的に短鎖の基を有する第2の部分とを備えた親液性基付与用高分子を開裂させて得られた、前記第1の部分及び前記第2の部分を有する細分化物を含む液体を、前記部分表面への付与密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを形成するように付与する第1工程と、
    前記細分化物の第2の部分を前記部分表面側に配向させ、前記第1の部分を前記部分表面とは異なる側に配向させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを得る第2工程と、
    前記部分表面上に配向した細分化物同士を少なくとも一部で縮合させて高分子化する第3工程とを有する、液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  18. 前記第1の工程は、前記液体吐出用繊維吸収体の前記部分表面の前記第1領域のみを前記液体中に浸けることを含む、請求項16または17に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  19. 前記第1の工程は、前記液体を前記液体吐出用繊維吸収体の前記部分表面の全体に一様に付与した後、前記液体吐出用繊維吸収体の前記第1領域から最も遠い領域を圧縮して前記液体を前記第1領域側へ移動させることを含む、請求項16または17に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  20. 前記第1の工程は、前記液体を前記液体吐出用繊維吸収体の前記部分表面の全体に一様に付与した後、前記第1領域から最も遠い領域に付与された前記液体を、遠心力によって前記第1領域側へ移動させることを含む、請求項16または17に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  21. 前記第1の工程は、前記液体を前記液体吐出用繊維吸収体の前記部分表面の全体に一様に付与した後、前記第1領域から最も遠い領域に付与された前記液体を、空気の流れによって前記第1領域側へ移動させることを含む、請求項16または17に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  22. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、オレフィン系の樹脂を少なくとも表面に有し該表面の少なくとも一部に親液性が付与された多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の製造方法であって、
    親液性基を備えたアルキルシロキサンの高分子が溶解している液体を、付与密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを得るように前記表面に付与する第1工程と、
    前記表面に前記アルキルシロキサンを配向させ、前記親液性基を前記表面とは異なる方向に配向させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液性領域とを得る第2工程とを有する、液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  23. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、オレフィン系の樹脂を少なくとも表面に有し該表面の少なくとも一部に親液性が付与された多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の製造方法であって、
    親液性基を備えたアルキルシロキサンの高分子を開裂させた細分化物が溶解している液体を、付与密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを形成するように前記表面に付与する第1工程と、
    前記表面に前記細分化物を前記表面上で縮合させるとともに、前記アルキルシロキサンを前記表面に配向させ、前記親液性基を前記表面とは異なる方向に配向させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを得る第2工程とを有する、液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  24. 前記第1の工程は、前記液体吐出用繊維吸収体の前記表面の前記第1領域のみを前記液体中に浸けることを含む、請求項2または2に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  25. 前記第1の工程は、前記液体を前記液体吐出用繊維吸収体の前記表面の全体に一様に付与した後、前記液体吐出用繊維吸収体の前記第1領域から最も遠い領域を圧縮して前記液体を前記第1領域側へ移動させることを含む、請求項22または23に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  26. 前記第1の工程は、前記液体を前記液体吐出用繊維吸収体の前記表面の全体に一様に付与した後、前記第1領域から最も遠い領域に付与された前記液体を、遠心力によって前記第1領域側へ移動させることを含む、請求項22または23に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  27. 前記第1の工程は、前記液体を前記液体吐出用繊維吸収体の前記表面の全体に一様に付与した後、前記第1領域から最も遠い領域に付与された前記液体を、空気の流れによって前記第1領域側へ移動させることを含む、請求項22または23に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  28. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、オレフィン系の樹脂を少なくとも表面に有し該表面の少なくとも一部に親液性が付与された多数の繊維の集合体であるインクジェット用繊維吸収体の製造方法であって、
    親液性基を有するポリアルキルシロキサン、酸、及びアルコールを含む液体が、付着密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを形成するように付着された繊維表面を形成する工程と、
    前記繊維表面に付着している液体を室温より高く且つ前記オレフィン系の樹脂の融点よりも低い温度で加熱し乾燥させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを得る工程とを有する、液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  29. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、オレフィン系の樹脂を少なくとも表面に有し該表面の少なくとも一部に親液性が付与された多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の製造方法であって、
    親液性基を有するポリアルキルシロキサン、酸、アルコール及び水を含む液体が、付着密度が相対的に大きい第1領域と相対的に小さい第2領域とを形成するように付着された繊維表面を形成する工程と、
    前記繊維表面に付着している液体を乾燥させ、その過程において前記親液性基を前記繊維表面とは反対側の方向に配向させて前記繊維表面を親液化させることで、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と、該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを得る工程とを有する、液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  30. 前記繊維表面を形成する工程は、前記第1領域のみを前記液体中に浸けることを含む、請求項28または29に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  31. 前記繊維表面を形成する工程は、前記液体を前記液体吐出用繊維吸収体の親液性を付与すべき部位全体に一様に付着させた後、前記第1領域から最も遠い領域を圧縮して前記液体を前記第1領域側へ移動させることを含む、請求項28または29に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  32. 前記繊維表面を形成する工程は、前記液体を前記液体吐出用繊維吸収体の親液性を付与すべき部位全体に一様に付着させた後、第1領域から最も遠い領域に付与された前記液体を、遠心力によって前記第1領域側へ移動させることを含む、請求項28または29に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  33. 前記繊維表面を形成する工程は、前記液体を前記液体吐出用繊維吸収体の親液性を付与すべき部位全体に一様に付着させた後、前記液体を乾燥させる前に、前記第1領域から最も遠い領域側から前記第1領域側へ向かう空気の流れによって、前記第1領域から最も遠い領域に付着された液体を前記第1領域側へ移動させることを含む、請求項28または29に記載の液体吐出用繊維吸収体の製造方法。
  34. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられ、疎液性表面を有する多数の繊維の集合体である液体吐出用繊維吸収体の、前記疎液性表面を親液性に改質するための表面改質方法であって、
    相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを備えた高分子化合物の開裂によって生じる該親液性基と前記疎液性基とを有する細分化物を、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有するように、前記疎液性基が前記疎液性基の表面の側に向き、且つ前記親液性基を前記疎液性基とは異なる方向に向くように配向させて、前記疎液性表面に付着させる工程を有することを特徴とする表面改質方法。
  35. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられる繊維集合体である液体用繊維吸収体の前記繊維の部分表面に表面改質を行う表面改質方法であって、
    親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有するように、相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを有する開裂高分子を、前記繊維の部分表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーを有するの親和力に基づいて配向し、前記開裂高分子を前記部分表面において縮合させて表面を改質することを特徴とする表面改質方法。
  36. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられる繊維集合体である液体吐出用繊維吸収体の前記繊維の部分表面を液状の高分子を用いて改質する表面改質方法であって、
    親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有するように、開裂、縮合可能で相対的に長鎖の親液性基を有する第1基と、前記繊維の部分表面の表面エネルギーと略同等の界面エネルギーを有する相対的に短鎖の第2基とを備えた高分子の細分化物を、前記部分表面において縮合せしめて高分子化する縮合工程を有することを特徴とする表面改質方法。
  37. 液体吐出ヘッドに供給する液体を負圧状態で保持するために用いられる繊維集合体の接液表面構造であって、
    相対的に長鎖の親液性基と相対的に短鎖の疎液性基とを実質的に交互に有する高分子を備えた親液化部を有し、
    前記親液化部は、親液性が相対的に優れる第1の親液化領域と該第1の親液化領域に対して相対的に親液性の劣る第2の親液化領域とを有することを特徴とする、繊維集合体の接液表面構造。
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