JP4239032B2 - 脂肪酸合成酵素の遺伝子型に基づき牛筋肉内脂肪における脂肪酸含有量の多寡を判定する方法及び該結果に基づき牛肉の食味の良さを判定する方法 - Google Patents
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Description
しかし、食味に関与する脂肪酸組成などの形質は、上記の通り煩雑な理化学分析を経なければならないため、枝肉成績と異なり、データを容易に得る事が出来ない。そのため、これまでこの形質が改良目標とされることはなく、このままの状況が続く限りにおいては、今後もそれに採用される可能性が低いことは想像に難くない。
これまで、ステアロイル−CoAデサチュラーゼ(SCD)の遺伝子型を利用して牛肉の脂肪融点並びに脂肪酸の不飽和度を判定することにより、牛肉の食味を評価する技術が既に特許化されている(特許文献1)。
しかし、脂肪酸合成酵素の遺伝子型に基づき脂肪酸組成の判定を行う方法はこれまで知られていなかった。
これに対し、本発明のFASN遺伝子の遺伝子型を利用する方法によれば、牛肉中に含まれる脂肪酸の不飽和度にとどまらず、脂肪酸の各種類の多寡までをも判定することが出来る。すなわち、たとえば牛肉の食味との関係が示唆されている、オレイン酸をはじめとする炭素数18の1価不飽和脂肪酸の含有率の多寡を判定することが出来、また、これ以外の脂肪酸(C14、C16の各脂肪酸;飽和・不飽和共に含む)それぞれの含有率についても判定が可能である。
本発明はこのような脂肪酸の種類別にそれぞれの多寡を判定することが出来る点において、特許文献1の発明よりも優れていると言える。
請求項1に係る本発明は、下記の<1>および/または<2>の塩基を検定することによって決定される脂肪酸合成酵素の遺伝子型に基づき、牛の筋肉内脂肪における脂肪酸含有量の多寡を判定する方法である。
<1>配列表の配列番号1に示される塩基配列中、アデニン(A)又はグアニン(G)の何れかである多型部位に相当する第16,024番目の塩基
<2>同塩基配列中、チミン(T)又はシトシン(C)の何れかである多型部位に相当する第16,039番目の塩基
請求項2に係る本発明は、脂肪酸がオレイン酸である、請求項1に記載の方法である。
(a)被検体の牛から調製したゲノムDNAまたはcDNAを鋳型とする遺伝子増幅反応によって、上記<1>および<2>の塩基を含む遺伝子領域を増幅する工程
(b)前記工程(a)で得られた増幅断片を制限酵素によって消化し、その切断の有無に基づいて脂肪酸合成酵素の遺伝子型を判定する工程
請求項4に係る本発明は、上記工程(a)における遺伝子増幅反応が、配列表の配列番号3に示される塩基配列からなるフォワードプライマーおよび配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるリバースプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応法によって行なわれ、かつ、上記工程(b)における制限酵素として、HhaIおよびNciIを用いることを特徴とする請求項3に記載の判定方法である。
請求項6に係る本発明は、サーマルサイクラーと蛍光検出器とを備えたポリメラーゼ連鎖反応装置を用いて上記<1>および/または<2>の塩基を検定することを特徴とする請求項1または2に記載の判定方法である。
請求項7に係る本発明は、牛が肉用種である請求項1〜6の何れか1項に記載の判定方法である。
請求項8に係る本発明は、牛が、肉用としても利用される乳用種である請求項1〜6の何れか1項に記載の判定方法である。
請求項10に係る本発明は、配列番号1に示される塩基配列のうち、上記<1>および/または<2>の塩基を含む遺伝子領域を、遺伝子増幅反応により特異的に増幅するためのプライマーを含む、請求項1〜8の何れか1項に記載の判定方法において用いられる遺伝子多型検出用キットである。
請求項11に係る本発明は、上記<1>および/または<2>の塩基を含む遺伝子領域を、遺伝子増幅反応により特異的に増幅するためのプライマーである。
請求項12に係る本発明は、上記<1>および/または<2>の塩基を含む遺伝子領域に対して特異的に結合するヌクレオチドプローブである。
請求項14に係る本発明は、請求項1〜8の何れか1項に記載の判定方法の結果に基づき、オレイン酸含有量の多い牛肉が得られる牛を選抜・育種する方法である。
請求項1に記載の本発明は、前述の通り、脂肪酸合成酵素の遺伝子型に基づき、牛の筋肉内脂肪における脂肪酸含有量の多寡を判定する方法を提供するものである。
本発明者らが同遺伝子に注目し、詳細な解析を行うに至った背景には、黒毛和種とリムジン種からなる遺伝子解析用のF2家系集団の解析により、牛19番染色体に脂肪酸組成に関与する遺伝子領域を特定したという経緯がある。同領域内においてより強く形質と連鎖する部位にFASN遺伝子が存在し、その機能から脂肪酸組成への関与を推定した。そのため、同遺伝子の解析にあたっては、F2家系集団のP世代(始祖となる世代)である黒毛和種・リムジン種各2頭、計4頭におけるFASN遺伝子cDNAの全配列を決定し、その違いを詳細に調査した。
<1>配列表の配列番号1に示される塩基配列中、アデニン(A)又はグアニン(G)の何れかである多型部位に相当する第16,024番目の塩基
<2>配列表の配列番号1に示される塩基配列中、チミン(T)又はシトシン(C)の何れかである多型部位に相当する第16,039番目の塩基
他方、cDNA配列にはイントロン部分が含まれず、エキソン部分のみが繋がった状態にあるため、FASN遺伝子のcDNA配列における上記<1>、<2>の塩基に相当する塩基の番号は、上記<1>、<2>に記載の番号とは当然異なるものとなる。
したがって、本発明の判定方法において判定対象である牛のcDNAを判定試料として用いる場合は、上記<1>、<2>の塩基の各位置を示す番号について、第34エキソン以前のイントロン配列を考慮して読み替えて解釈するものとする。
<1>の塩基がアデニン(A)であるかグアニン(G)であるかに応じて、コードするアミノ酸の置換をもたらす事が判明した。上記<1>の塩基がアデニン(A)のときは、コードするアミノ酸はスレオニン(Thr)であり、グアニン(G)のときは、コードするアミノ酸はアラニン(Ala)である。
また、<2>の塩基がチミン(T)であるかシトシン(C)であるかによっても、コードするアミノ酸の置換をもたらす事が判明した。上記<2>の塩基がチミン(T)のときは、コードするアミノ酸はトリプトファン(Trp)であり、シトシン(C)のときは、コードするアミノ酸はアルギニン(Arg)である。
このように、上記<1>、<2>の塩基の置換はアミノ酸置換を生じさせる。
(i)上記<1>の塩基がアデニン(A)のときは上記<2>の塩基はチミン(T)
であるのに対し、
(ii)上記<1>の塩基がグアニン(G)のときは上記<2>の塩基はシトシン(C)
であった。本発明者らは、便宜上これら2種類のハプロタイプを、それぞれの塩基置換にともなってコードされるアミノ酸の1文字表記で表現することとした。すなわち、(i)のハプロタイプをスレオニン(Thr=T)−トリプトファン(Trp=W)型(TW型)とし、また(ii)のハプロタイプをアラニン(Ala=A)−アルギニン(Arg=R)型(AR型)と呼ぶこととした。
従って、もしこれらのハプロタイプを保有する牛が存在した場合は、牛肉の筋肉内脂肪における脂肪酸含量の多寡を判定することは出来ない。
また、前述のように<1>と<2>の塩基の間で組み換えを起こしている例が検出されていないことから、本発明においては、<1>または<2>の塩基を検定することによってFASN遺伝子型を決定することができるが、<1>、<2>ともに検定することが好ましい。
即ち、上記「TW型」と「AR型」との間で、牛の筋肉内脂肪に含まれるオレイン酸などの脂肪酸含量が有意に異なる事を明らかにした。結果の詳細は後述の実施例においても説明するが、オレイン酸含有量の割合は、TW型のFASN遺伝子をホモで有する場合(TW/TW)、TW型とAR型のFASN遺伝子をヘテロで有する場合(TW/AR)、AR型のFASN遺伝子をホモで有する場合(AR/AR)の順番で高い値を示した。
本発明により判定できる脂肪酸としては特に制限されず、不飽和脂肪酸であっても飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸など炭素数が18である1価不飽和脂肪酸などが挙げられる。飽和脂肪酸としては、ミリスチン酸など炭素数が14であるものや、パルミチン酸など炭素数が16であるものなどが挙げられる。
このように、FASN遺伝子の遺伝子型を調べることにより、牛筋肉内脂肪に含まれる脂肪酸組成のみならず、より優れた食味を備えた牛肉が得られる牛かどうかを判定することが可能になる。
試料の牛肉約1gにメタノールクロロホルム溶液40mlを加え、ホモジナイズ後7分間振とう抽出する。その後、上清をロータリーエバポレーターで減圧乾固し、脂質試料とする。
次に、基準油脂分析法に従って、けん化後、メチルエステル化する。すなわち、試料に1規定水酸化カリウムメタノール溶液を加え、水浴上で還流加熱して、けん化し、続いて、三フッ化ホウ素メタノール試薬を加え、メチル化する。ヘキサンに転溶後、分離し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、ガスクロマトグラフへ供する。
なお、ガスクロマトグラフの条件は、以下に示すとおりである。
カラム CP-Sil88Wcot 0.25mm x 50m
キャリアーガス ヘリウム
注入温度 220℃
カラム温度 160℃ 恒温
検出 FID
PCR-RFLP(restriction fragment length polymorphism)法を用いて前記<1>、<2>の塩基を検定することによってFASN遺伝子の遺伝子型を調べる方法は最も簡易であり、かつ精度も良好であるので、以下はこの方法について簡単に説明する。
PCR-RFLP法とは、検出したい変異部位を含む遺伝子領域をPCR法により増幅し、PCR産物を当該変異部位を認識する制限酵素で消化した後、電気泳動によってDNA断片の分子量を調べることにより、制限酵素による切断の有無、すなわち変異の有無を検出する方法である。
判定に供する遺伝子試料は、ゲノムDNAであってもcDNAであってもよい。ゲノムDNAの場合は、被検体の牛(屠殺前後を問わない)の任意の器官・組織・細胞(血液、羊水中の細胞、採取した組織等を培養した細胞を含む)から定法に従ってDNAを精製・抽出すればよい。後述の実施例では筋肉組織からゲノムDNAを調製している。cDNAの場合は、被検体の牛(屠殺前後を問わない)の任意の器官・組織・細胞(血液、羊水中の細胞、採取した組織等を培養した細胞を含む)から定法に従ってmRNAを精製・抽出した後、逆転写酵素によってcDNAを合成すればよい。
PCR反応液としては、ゲノムDNA20ngにAB gene Taq polymerase 0.25Unit、10×Taq polymerase buffer 1.5μl、10mM dNTP mix 1.25μl、フォワードプライマー(6.25pmol)およびリバースプライマー(6.25pmol)各0.25μlを加えた物を超純水で15μlにメスアップしたものを用いることができる。
例えば、フォワードプライマーは、配列表の配列番号1に示す塩基配列の一部であり、かつ、検出したい変異部位よりも5’末端側に位置する任意の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとすることができる。また、リバースプライマーは、配列表の配列番号1に示す塩基配列の一部であり、かつ、検出したい変異部位よりも3’末端側に位置する任意の塩基配列に対する相補的塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとすることができる。
上記プライマーペアは、好ましくは15〜50個、さらに好ましくは18〜27個のヌクレオチドからなるものが好ましく、またPCR法によって得られる増幅産物の長さについては、特に限定されるものではないが100〜500塩基となるようにするのが好ましい。
配列表の配列番号3,4に示すプライマーペアを用いた上記PCR法により、336bpのPCR増幅産物を得ることができる。
上記で得られたPCR増幅産物を制限酵素HhaIで処理すると、前記<1>の塩基がアデニンである場合、PCR産物の<1>の多型部位は同制限酵素で切断されない。このとき、コードするアミノ酸はスレオニンに相当するため、遺伝子型はT型と判定される。
一方、前記<1>の塩基がグアニンである場合、PCR産物の<1>の多型部位は同制限酵素で切断される。このとき、コードするアミノ酸はアラニンに相当するため、遺伝子型はA型と判定される。
上記で得られたPCR増幅産物を制限酵素NciIで処理すると、前記<2>の塩基がチミンである場合、PCR産物の<2>の多型部位は同制限酵素で切断されない。このとき、コードするアミノ酸はトリプトファンに相当するため、遺伝子型はW型と判定される。
一方、前記<2>の塩基がシトシンである場合、PCR産物の<2>の多型部位は同制限酵素で切断される。このとき、コードするアミノ酸はアルギニンに相当するため、遺伝子型はR型と判定される。
PCR反応液としては、ゲノムDNAのときと同様、cDNA20ngにAB gene Taq polymerase 0.25Unit、10×Taq polymerase buffer 1.5μl、10mM dNTP mix 1.25μl、フォワードプライマー(6.25pmol)およびリバースプライマー(6.25pmol)各0.25μlを加えた物を超純水で15μlにメスアップしたものを用いることができる。
具体的には、フォワードプライマーとして配列表の配列番号3記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、またリバースプライマーとして配列番号4記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いてよい。
これにより、もし用いたcDNA中にゲノムDNAが消化されずに残っていた場合には、PCR反応後において1つのレーンに2つの増幅断片が検出されることになる。すなわち、遺伝子試料としてcDNAを用いる場合は、本フォワードおよびリバース各プライマーを用いてPCRを行うことで、ゲノムDNAのコンタミネーションの確認も可能である。
配列表の配列番号3,4に示すプライマーペアを用いた上記PCR法により、226bpのPCR増幅産物が得られる。
遺伝子試料としてゲノムDNAを用いる場合、これら白抜きの矢印によって挟まれる断片全体(プライマー部分を含む)が増幅されるのに対し、遺伝子試料としてcDNAを用いる場合は第34エキソンと第35エキソンとに挟まれるイントロン部分が切り取られる結果、遺伝子試料としてゲノムDNAを用いる場合よりも短い断片が増幅される。
図のレーン1および4に示すように、分子量の大きいバンド(各々226bp及び336bp)のみ出現した場合、前記<1>の塩基はアデニンのホモであり、コードされるアミノ酸によって示すとTホモ型と判定される。また、図のレーン3および6に示すように、分子量の小さいバンド(各々74bp、152bp及び262bp)のみ出現した場合、前記<1>の塩基はグアニンのホモであり、コードされるアミノ酸によって示すとAホモ型と判定される。さらに、図のレーン2および5に示すように、上記の大小2つのバンドが出現した場合は、遺伝子型はヘテロと判定できる。
このように、PCR-RFLP法によれば、簡便かつ精度よくFASN遺伝子の遺伝子型を調べる事ができる。
しかし前述の通り、TW型およびAR型以外のハプロタイプが存在する可能性、すなわち2つの1塩基多型(SNP)の間で組み換えを起こしている個体が存在する可能性を完全に否定する事は出来ないため、FASN遺伝子型の判定においては、2ヶ所の1塩基多型(SNP)を共に確認することでより正確性は高まる。
前述したように、本発明の判定方法は、上記(2)のPCR-RFLP法に限定されるものではない。例えばPCR-RFLP法により判定するとしても、各反応条件、使用する試薬・プライマー・制限酵素などは様々に変更可能である。
この方法では、前記<1>および/または<2>の塩基を含む遺伝子領域をPCR法により増幅するためのプライマーペアおよび、3’末端が蛍光物質FITC(Fluorescein Iso Thio Cyanate)で標識された変異検出用プローブならびに、5’末端が蛍光物質LC-RED(Light Cycler-Red)で標識され、かつ3’末端がリン酸化されているアンカープローブを、それぞれ適宜設計して用いる。これらは、適切な業者等に依頼して作成することもできる。
次に、これらのプライマー、変異検出用プローブおよびアンカープローブを、被検体からの試料DNAと共にDNA合成酵素を含む適切な試薬と混合し、ライトサイクラーシステムを利用した増幅反応を行う。このとき用いる変異検出用プローブは、目的とする変異部分(すなわち<1>および/または<2>の塩基)を覆う様に設計されているため、もし変異があった場合では、変異がなかった場合と比べDNAの変成温度に差が生ずるため、それを利用して多型を検出することができる。
尚、ここで「DNAチップ」とは、主として合成したオリゴヌクレオチドをプローブに用いる合成型DNAチップを意味するが、PCR産物などのcDNAをプローブに用いる貼り付け型DNAマイクロアレイをも包含するものとする。
上記のDNAチップ等に用いるプローブには、上記<1>および/または<2>の塩基を含む遺伝子領域に対して特異的に結合するヌクレオチドプローブを用いることができ、具体的には、配列表の配列番号1に示される塩基配列の一部であり、かつ、上記<1>および/または<2>の多型部位の塩基を含む塩基配列またはその相補配列を用いる事が出来る。中でも、20〜30個のヌクレオチドからなるものが好ましい。
本発明の判定方法は、FASN遺伝子の遺伝子型に基づき、牛の筋肉内脂肪中に含まれる脂肪酸組成、特にオレイン酸含有量の多寡を判定する方法であり、畜産(牛の飼育・繁殖・育種・改良等)、牛肉の生産加工等の分野に利用可能である。
従って、本発明の判定方法により、黒毛和種などの肉用種(肉牛)または肉用としても供されるホルスタイン種等の乳用種について、より良好な食味を備えた肉質を持つ牛かどうかを評価することが出来る。さらに、この評価結果を基に、遺伝子型に基づき分類されたより食味の優れた肉質を持つ牛同士を交配させる等して、これまで不可能に近かった牛肉の食味を改良することも可能となる。
下記の実施例では、被検体の牛(黒毛和種、リムジン種、ヘレフォード種、アンガス種、ホルスタイン種ならびに、これらの交雑種)の筋肉組織から常法により調製したゲノムDNAを遺伝子試料に用い、前述のPCR-RFLP法により判定を行なった。
また、下記の実施例では、前記<1>の塩基を調べることで、FASN遺伝子の遺伝子型(ハプロタイプ型)がTW型であるか、AR型であるかを判定した。
PCR法に使用した試薬、反応条件などは上記で例示したとおりであり、ここではその説明は省略する。なお、PCR法においてプライマーペアは配列表の配列番号3、4に示すものを用いた。
下記表1は、上記判定方法により、前述の黒毛和種とリムジン種からなる遺伝子解析用のF2家系集団においてFASN遺伝子の遺伝子型判定を行った結果と、それぞれの遺伝子型における筋肉内脂肪に含まれる脂肪酸の平均値、標準偏差を、それぞれ示したものである。なお、遺伝子型はそれぞれの塩基置換に伴ってコードされるアミノ酸型で構成されるハプロタイプで示した。
なお、表1において、C14:0はミリスチン酸、C16:0はパルミチン酸、C18:1はオレイン酸を示す。
試料の牛肉約1gをガラス遠沈管にとり、そこに生理食塩水20mlとメタノールクロロホルム溶液(クロロホルム・メタノール・ブチルヒドロキシトルエンを各2リットル・1リットル・15mgで混合したストック溶液)40mlをそれぞれ投入し、ホモジナイザーにより均質化した。これを分液ロートにあけ7分間攪拌し、無水硫酸ナトリウムを通して濾過した。これをエバポレーターで減圧乾固し、脂質試料とした。
続いて試料に1規定水酸化カリウムメタノール溶液5mlを加え、95℃の水浴上で1時間還流加熱して、けん化し、その後ジエチルエーテル10mlを加え、攪拌し、上清を捨てた。そこに6規定硫酸1mlと石油エーテル10mlを入れ攪拌し、上清を別の試験管に移した。これをエバポレーターで減圧乾固し、そこに三フッ化ホウ素メタノール溶液1mlを加え、95℃の水浴上で5分間還流加熱してメチル化した。ヘキサンを加え転溶後、分離し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、ガスクロマトグラフへ供し、脂肪酸組成の測定を行った。
なお、ガスクロマトグラフの条件は、以下に示すとおりである。
カラム CP-Sil88Wcot 0.25mm × 50m
キャリアーガス ヘリウム
注入温度 220℃
カラム温度 160℃ 恒温
検出 FID
前述の通り、オレイン酸含有量は和牛肉の食味との関連が示唆されているが、この結果から、FASN遺伝子の2つの対立遺伝子のうち、TW型の対立遺伝子を保有する牛はAR型の対立遺伝子を保有する牛よりもオレイン酸含有量が高く、逆にこれ以外の脂肪酸含有量は低くなる傾向を示すことが分かった。すなわち、FASN遺伝子の遺伝子型を調べることにより、牛肉の食味の良さをも判定することが可能であることが示された。
なお、表1中、肩文字a、b、cはp<3.93×10-20で、またd、e、fはp<0.002で、またg、h、iはp<2.4×10-6で、それぞれ有意差が認められた。
しかし、上記(1)で得られた結果は、あくまで黒毛和種と肉用外国品種であるリムジン種との品種間差であるため、国内の黒毛和種において、FASN遺伝子型の筋肉内脂肪に含まれるオレイン酸含有量に及ぼす影響を確認する必要があった。そこで、山形県内で繋養される黒毛和種肥育牛のうち、有名種雄牛Aの半兄弟集団サンプルを収集し、ゲノムDNAを抽出して、FASN遺伝子型の調査を行った。
なお、この有名種雄牛Aの半兄弟サンプルにおいても、上記表1で示した遺伝子解析用F2集団の結果同様、オレイン酸以外の複数の脂肪酸種においてFASN遺伝子型との有意な関係を認めたが、上記表2には特に牛肉の食味との関係が示唆されるオレイン酸含有量との関係についてのみ示した。
その後、引き続いて山形県内で繋養される黒毛和種肥育牛集団のサンプル収集を重ねた結果、前述の有名種雄牛Aとは異なる、有名種雄牛3頭からなる半兄弟集団サンプルを確保出来た。これらについても上記(1)と同様にゲノムDNAを抽出してFASN遺伝子型の調査を行った。
なお、この場合においても、オレイン酸以外の複数の脂肪酸種においてFASN遺伝子型との有意な関係を認めたが、上記表3には、特に牛肉の食味との関係が示唆されるオレイン酸含有量との関係についてのみ示した。
次に、FASN遺伝子のアミノ酸置換を伴う2つの1塩基多型(SNP)によって構成されるハプロタイプ型で示した遺伝子型頻度と、同じくハプロタイプ型で示した対立遺伝子頻度の、品種間における差異について調査した。
すなわち、下記表4に示す各品種の牛の種雄牛凍結精液から常法により抽出したゲノムDNAをサンプルとして用いて、上記(1)と同様にFASN遺伝子型の調査を行った。なお、ここで用いた黒毛和種およびホルスタイン種の種雄牛凍結精液は、共にすべて国内に流通しているものを用いている。結果を表4に示す。
黒毛和種の肉はホルスタイン種や肉用の外国品種と比べて日本人が好む優れた食味を持つ事が一般的に広く認識されており、また、そこにオレイン酸含有量の多寡が関与することも示唆されているが、上記で見られたFASN遺伝子型頻度および遺伝子頻度の差異は、この黒毛和種が持つ優れた食味の牛肉を生産する能力を裏付けているともいえる。
Claims (14)
- 下記の<1>および/または<2>の塩基を検定することによって決定される脂肪酸合成酵素の遺伝子型に基づき、牛の筋肉内脂肪における脂肪酸含有量の多寡を判定する方法。
<1>配列表の配列番号1に示される塩基配列中、アデニン(A)又はグアニン(G)の何れかである多型部位に相当する第16,024番目の塩基
<2>同塩基配列中、チミン(T)又はシトシン(C)の何れかである多型部位に相当する第16,039番目の塩基 - 脂肪酸がオレイン酸である、請求項1に記載の方法。
- 下記の工程(a)および(b)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の判定方法。
(a)被検体の牛から調製したゲノムDNAまたはcDNAを鋳型とする遺伝子増幅反応によって、上記<1>および<2>の塩基を含む遺伝子領域を増幅する工程
(b)前記工程(a)で得られた増幅断片を制限酵素によって消化し、その切断の有無に基づいて脂肪酸合成酵素の遺伝子型を判定する工程 - 上記工程(a)における遺伝子増幅反応が、配列表の配列番号3に示される塩基配列からなるフォワードプライマーおよび配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるリバースプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応法によって行なわれ、かつ、上記工程(b)における制限酵素として、HhaIおよびNciIを用いることを特徴とする請求項3に記載の判定方法。
- DNAチップを用いて上記<1>および/または<2>の塩基を検定することを特徴とする請求項1または2に記載の判定方法。
- サーマルサイクラーと蛍光検出器とを備えたポリメラーゼ連鎖反応装置を用いて上記<1>および/または<2>の塩基を検定することを特徴とする請求項1または2に記載の判定方法。
- 牛が肉用種である請求項1〜6の何れか1項に記載の判定方法。
- 牛が、肉用としても利用される乳用種である請求項1〜6の何れか1項に記載の判定方法。
- 上記<1>および/または<2>の塩基を含む遺伝子領域に対して特異的に結合するヌクレオチドプローブを含む、請求項1、2、5〜8のいずれか1項に記載の判定方法において用いられる遺伝子多型検出用キット。
- 上記<1>および/または<2>の塩基を含む遺伝子領域を、遺伝子増幅反応により特異的に増幅するためのプライマーを含む、請求項1〜8の何れか1項に記載の判定方法において用いられる遺伝子多型検出用キット。
- 上記<1>および/または<2>の塩基を含む遺伝子領域を、遺伝子増幅反応により特異的に増幅するためのプライマー。
- 上記<1>および/または<2>の塩基を含む遺伝子領域に対して特異的に結合するヌクレオチドプローブ。
- 請求項1〜8の何れか1項に記載の判定方法の結果に基づき、オレイン酸含有量の多い牛肉が得られる牛かどうかを判定する方法。
- 請求項1〜8の何れか1項に記載の判定方法の結果に基づき、オレイン酸含有量の多い牛肉が得られる牛を選抜・育種する方法。
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