JP4238589B2 - インクカートリッジのインク充填方法およびインク充填装置 - Google Patents

インクカートリッジのインク充填方法およびインク充填装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、上端が開口したインク室に昇降可能に挿入した可動蓋と、この可動蓋の外周面とインク室内周側面の間に形成したインクメニスカスとによってインク貯留部を形成し、インク室底面に形成されたインク取り出し口から取り出されるインクの消費に伴って可動蓋が下降するように構成されたインクカートリッジにインクを充填するインク充填方法およびインク充填装置に関するものである。さらに詳しくは、可動蓋の裏面側に形成されている凹部が空気溜まりとなってインク未充填状態のままになってしまうことを確実に防止可能なインクカートリッジのインク充填方法およびインク充填装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
インクジェットプリンタのインクカートリッジとしては、インクが充填された可撓性のインク袋を剛性のプラスチックケースに収納した構成の袋式インクタンクや、インクを吸収保持したフォームやフェルトを剛性のプラスチックケースに収納した構成のフォーム式インクタンクが知られている。しかしながら、袋式インクタンクやフォーム式インクタンクは充填されているインクの取り出し効率が悪いという問題点がある。また全容量に対するインクの充填効率が低いので、インクタンクの小型化が困難であるとう問題点がある。さらに、袋式インクタンクでは、インク袋のインクシール不良によるインク漏れ、輸送時におけるインク袋とこれが収納されているプラスチックケースとの擦れに起因するインク袋の破れによるインク漏れなどの危険性がある。擦れや破れを防止するためにはインク袋を構成している可撓性材料の剛性、強度を高くすればよいが、このようにすると、インク供給用の負圧が増加してしまい、また、インク残量が増加する、インク残量のばらつきが増加するなどの弊害が発生してしまう。さらには、フォーム式インクタンクの場合には、フォームにインクを吸収保持させているので、ここから供給されるインク中に異物が混入する危険性が高く、異物がインクジェットヘッドの側に侵入してヘッド詰まりなどの弊害を引き起こす危険性が高い。
【0003】
本願人は、このような問題点に鑑みて、構造が簡単でコンパクトに構成でき、しかも、インク取り出し効率およびインク充填効率の高いインクカートリッジを提案している。例えば、下記の特許文献においてかかるインクカートリッジを提案している。
【0004】
【特許文献】
特願2002−238491号
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図15にはこの特許文献に記載された形式のインクカートリッジを示してある。この図に示すように、インクカートリッジ100は、カートリッジケース101の内部に、上端が開口した4つのインク室102(1)〜102(4)が並列配置され、これらの上側部分から側方部分に掛けてL状に廃インク室110が形成されている。
【0006】
各インク室102(1)〜102(4)は、そられの内周側面102aに沿って上下に移動可能な可動蓋103(1)〜103(4)と、各インク室102(1)〜102(4)の底面に形成したインク取り出し口104(1)〜104(4)とを備えている。また、インク室底面102bとインク室内周側面102aと各可動蓋103(1)〜103(4)によりインク貯留部105が区画形成されており、ばね部材106によって可動蓋103(1)〜103(4)が常に上方に付勢され、これにより、インク貯留部105が負圧状態に保持されている。そして、インク室内周側面102aと各可動蓋103(1)〜103(4)の隙間に形成されているインクメニスカスの強度は、インク取り出し口104(1)〜104(4)に作用するインクジェットヘッド側のインク吸引力によって破壊することの無い強度に設定されている。
【0007】
また、可動蓋103(1)〜103(4)は、天板部分103aと、この天板部分103aの外周縁からインク室底面側に向けて直角に延びている筒状の側板部分103bから形成されており、筒状の側板部分103bを所定長さにしておくことにより、可動蓋のがたつきを防止でき、また、衝撃や振動が加わった場合においてもインクメニスカスの破壊を防止できる。
【0008】
この構成のインクカートリッジ100は、例えば、独立した各インク室101(1)〜101(4)に異なる色のインクを貯留した多色用のインクカートリッジとして用いることができる。
【0009】
ここで、この構成のインクカートリッジ100において、インク充填前においては、ばね部材106によって可動蓋103(1)〜103(4)は上方に押し上げられた状態になっている。可動蓋の下側空間であるインク貯留部105にインクを充填するためには、インク室内を減圧して、例えばインク取り出し口104(1)〜104(4)からインクを充填する方法が考えられる。
【0010】
インクを注入すると、注入量の増加に伴って、可動蓋103(1)〜103(4)が上昇すると共に、可動蓋の筒状の側板部分103bとインク室内周側面の隙間にインクが進入してインクメニスカスが形成される。ここで、可動蓋103には、天板部分103aの裏面と、筒状の側板部分103bとによって、その裏面側に凹部103cが形成されている。従って、インクを注入していくと、図15(b)に示すように、可動蓋103の裏面側の凹部103cに空気が封入され、ここが空気溜まりとなってしまう。インクの注入に伴って、空気溜まりが形成された状態のままで可動蓋103が上昇し、ここにインクを充填することができない。
【0011】
本発明の課題は、この点に鑑みて、可動蓋の裏面側の凹部が空気溜まりのまま残ってしまうことを防止可能なインクカートリッジのインク充填方法およびインク充填装置を提案することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明は、
底面にインク取り出し口が形成され、上端が開口している少なくとも一つのインク室と、前記インク室の内周側面に沿って昇降可能な状態で前記インク室に挿入されている可動蓋と、前記可動蓋を常時上方に付勢しているばね部材とを有し、前記インク室における前記可動蓋の下側空間にインクが充填され、前記可動蓋は、天板部分と、前記天板部分の外周縁から前記インク室の底面側に延びている筒状の側板部分とを備え、前記側板部分の外周面と前記インク室の内周側面との間にインクメニスカスが形成され、前記インク取り出し口から取り出されるインク量に応じて前記可動蓋が下降するように構成されているインクカートリッジのインク充填方法であって、
インク充填前の前記インク室を所定の減圧状態にする減圧工程と、
前記減圧工程に先立って、あるいは、前記減圧工程と同時に、または、前記減圧工程の後に、前記可動蓋を強制的に所定距離だけ下降した下降位置に保持する可動蓋押し下げ工程と、
前記インク室にインクを注入して、前記可動蓋の前記外周面と前記インク室の前記内周側面との間にインクメニスカスを形成するインクメニスカス形成工程と、
前記インク室を大気圧状態に戻す大気開放工程と、
前記大気開放工程に先立って、あるいは、前記大気開放工程と同時に、または、前記大気開放工程の後に、前記可動蓋の押し下げを解除する可動蓋開放工程と、
前記可動蓋が予め設定した上昇位置に到るまで、前記インク室における前記可動蓋の下側空間にインクを注入するインク注入工程と、
を含むことを特徴としている。
【0013】
本発明のインク充填方法では、インク室を減圧状態にした後に、ばね力に逆らって可動蓋を下降位置まで押し下げ、この状態でインクを所定量だけ注入してインクメニスカスを形成している。この状態では、可動蓋の裏面側の凹部(その天板部分の裏面と筒状の側板部分の内周面とによって区画されている下側に開口した凹部)は、減圧状態の空気が封入された空気溜まりとなっており、インクが未充填状態のままである。
【0014】
次に、インク室を大気開放すると、可動蓋裏面側の凹部に封入されている減圧状態の空気の体積が収縮して大気圧状態になる。これに伴って可動蓋が下降すると共に、凹部内にインクが入り込み、当該凹部が実質的にインクで満たされた状態が形成される。この後に、インクを注入すると、インク注入量に応じて可動蓋はその上昇位置まで上昇する。
【0015】
このようにして、可動蓋の裏面側の凹部にインクを充填できる。よって、可動蓋の裏面側の凹部が空気溜まりのまま残ってしまうという弊害を防止でき、インク充填量の低減を防止できる。
【0016】
本発明の前記減圧工程では、前記インクカートリッジを密閉容器内に入れ、当該密閉容器の内部を減圧雰囲気にすることにより前記インク室を所定の減圧状態にする方法を採用できる。この代わりに、前記インク室の上端開口を密閉し、この状態で当該インク室の内部を所定の減圧状態にする方法を採用することができる。インク室のみを減圧にする方法は密閉容器を用いる必要がないので簡便な方法である。しかるに、密閉容器を用いる方法では、インクカートリッジの全体が減圧雰囲気内に置かれるので、インク室のみを減圧状態にした場合に発生する惧れのあるインクカートリッジの変形という問題が起きないという利点がある。
【0017】
本発明の前記可動蓋押し下げ工程では、前記インク室の上端開口から挿入した押し下げ棒によって前記可動蓋を前記下降位置まで押し下げ、前記押し下げ棒によって前記可動蓋を前記下降位置に保持する方法を採用することができる。
【0018】
本発明の前記インクメニスカス形成工程では、前記インク室の上端開口から所定量のインクを注入する方法を採用することができる。この場合には、可動蓋の上側空間に注入されたインクが、可動蓋とインク室内周側面の隙間を通って、可動蓋の下側空間に回り込む。この代わりに、前記インク取り出し口から前記インク室に所定量のインクを注入する方法を採用することもできる。すなわち、可動蓋の下側空間にインクを注入して、可動蓋とインク室内周面の隙間にインクを充填してもよい。
【0019】
同様に、本発明の前記インク注入工程においても、前記インク室の上端開口からインクを注入する方法を採用できる。より短時間で所定量のインクを注入できるようにするためには、前記インク取り出し口から前記インク室にインクを注入する方法を採用すればよい。
【0020】
ここで、前記インクカートリッジが、前記インク室の上端開口を封鎖している封鎖板を備え、前記インク室における前記可動蓋と前記封鎖板で仕切られた上側空間が、前記封鎖板に形成した大気連通口を介して大気開放されている場合には、前記インクメニスカス形成工程では、前記大気連通口から前記インク室内の前記上側空間にインクを注入する方法を採用できる。勿論、上記のように、インク室の上端開口からインクを注入してもよい。すなわち、封鎖板が取り付けられる前の未完成状態のインクカートリッジにインクを注入する方法を採用することもできる。
【0021】
同様に、封鎖板を備えているインクカートリッジの場合には、前記インク注入工程においても、前記大気連通口から前記インク室内の前記上側空間にインクを注入する方法を採用できる。勿論、この構成のインクカートリッジの場合においても、前述のように、インク室の上端開口から直接インクを注入してもよい。すなわち、封鎖板が取り付けられる前の未完成状態のインクカートリッジにインクを注入するようにしてもよい。
【0022】
次に、本発明のインク充填方法は、前記インク室の前記内周側面における前記底面の近傍部位に、前記可動蓋を前記下降位置まで押し下げると、当該可動蓋における前記筒状の側板部分の下端が嵌り込む嵌合面を形成して、前記インクカートリッジの組立て時に、前記可動蓋を押し下げて前記嵌合面に嵌め込まれた状態にしておく可動蓋嵌め込み工程と、
インク充填前の前記インク室を所定の減圧状態にする減圧工程と、
記インク室にインクを注入して、前記可動蓋の前記外周面と前記インク室の前記内周側面との間にインクメニスカスを形成するインクメニスカス形成工程と、
前記インク室を大気圧状態に戻す大気開放工程と、
所定のインク注入圧および/またはインク注入速度でインクを注入して前記可動蓋を前記嵌合面との嵌合から開放すると共に、前記可動蓋が予め設定した上昇位置に到るまで、前記インク室における前記可動蓋の下側空間にインクを注入するインク注入工程と、
を含むことを特徴としている。
【0023】
このインク充填方法によれば、可動蓋が予め押し下げられているので、可動蓋押し下げ工程を省略できる。また、インク注入工程において可動蓋を開放することができるので、工程数を少なくできる。
【0024】
この場合において、前記減圧工程では、前記インクカートリッジを密閉容器内に入れ、当該密閉容器の内部を減圧雰囲気にすることにより前記インク室を所定の減圧状態にする方法を採用できる。この代わりに、前記インク室の上端開口を密閉し、この状態で当該インク室の内部を所定の減圧状態にする方法を採用してもよい。
【0025】
前記インクメニスカス形成工程では、前記インク室の上端開口から所定量のインクを注入する方法を採用できる。この代わりに、前記インク取り出し口から前記インク室に所定量のインクを注入する方法を採用してもよい。
【0026】
前記インク注入工程においては、前記インク取り出し口から前記インク室にインクを注入する方法を採用できる。
【0027】
次に、本発明のインク充填方法によりインクの充填を行うインクカートリッジのインク充填装置は、
インク充填前の前記インク室を所定の減圧状態にする減圧手段と、
前記可動蓋を強制的に所定距離だけ下降した下降位置に保持する可動蓋押し下げ手段と、
前記インク室にインクを注入して、前記可動蓋の前記外周面と前記インク室の前記内周側面との間にインクメニスカスを形成するために、前記インク室にインクを注入する第1のインク注入手段と、
前記インク室を大気圧状態に戻す大気開放手段と、
前記可動蓋の押し下げを解除する可動蓋開放手段と、
前記可動蓋が予め設定した上昇位置に到るまで、前記インク室における前記可動蓋の下側空間にインクを注入する第2のインク注入手段と、
を有していることを特徴としている。
【0028】
また、本発明のインクカートリッジのインク充填装置は、
密閉容器と、
前記密閉容器の内部に配置されているインクカートリッジ装着部と、
前記密閉容器の内部雰囲気を減圧状態および大気開放状態に制御可能な圧力制御手段と、
前記インクカートリッジ装着部に装着された前記インクカートリッジの前記インク室における前記上端開口から挿入して前記可動蓋を押し下げ可能な押し下げ棒と、
前記押し下げ棒を昇降させる昇降機構と、
前記インクカートリッジ装着部に装着された前記インクカートリッジの前記インク室にインクを注入するインク注入手段と、
を有していることを特徴としている。
【0029】
ここで、前記圧力制御手段として、真空ポンプと、連通管と、前記連通管を大気開放状態に切り替え可能な大気開放弁とを有し、前記連通管の一端が前記密閉容器に接続され、前記連通管の他端が前記真空ポンプの吸引口に接続され、前記大気開放弁が前記連通管に介挿された構成のものを採用することができる。
【0030】
また、前記インク注入手段として、外側から前記インク取り出し口に差し込み可能なインク供給針と、前記インク供給針にインクを供給するインク注入器とを有し、前記インク供給針を、前記インクカートリッジ装着部に底面に上向き状態に配置し、前記インクカートリッジ装着部に前記インクカートリッジを装着すると、前記インク供給針が前記インク取り出し口に差し込まれた状態が形成される構成のものを採用することができる。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したインクカートリッジのインク充填方法およびインク充填装置の実施の形態を説明する。
【0032】
(インクカートリッジの構成)
インク充填方法およびインク充填装置の説明に先立って、インク充填対象のインクカートリッジの構造を説明する。
【0033】
図1(a)〜(d)はインクカートリッジ10を示す平面図、正面図、左側側面図および右側側面図であり、図2はその斜視図であり、図3はその分解斜視図である。また、図4(a)および(b)は図1のA−Aで切断した部分を示す断面図および拡大部分断面図である。
【0034】
インクカートリッジ10は、横に長い扁平な矩形筒状のカートリッジケース12と、この内部を仕切ることにより形成されている4個のインク室13(1)〜13(4)および1個の廃インク室14とを備えている。カートリッジケース12は、ケース本体12aと、このケース本体12aの上端開口を封鎖しているケース蓋板12bから構成されており、ケース蓋板12bは薄板状で、裏面はほぼ平坦面となっている。ケース本体12aの底板部分21には、各インク室13(1)〜13(4)からインクを取り出すためのインク取り出し口15(1)〜15(4)と、廃インクを廃インク室14に回収するための廃インク回収口16が形成されている。
【0035】
次に、インクカートリッジ10の各部分を詳細に説明する。カートリッジケース12のケース本体12aは、インク取り出し口15(1)〜15(4)および廃インク回収口16が形成されている底板部分21と、この底板部分21の長辺側の縁から直角に起立している一対の側板部分22、23と、底板部分21の短辺側の縁から垂直に起立している一対の端板部分24、25から構成されている。本実施の形態では、端板部分25は円弧形状をしており、前後の端板部分22、23に滑らかに連続している。
【0036】
カートリッジケース12のケース本体12aの内部には、一対の側板部分22、23の間に掛け渡した状態に形成した4ヶ所の仕切り板部分26、27、28、29によって、上端が開口している4個の円形断面のインク室13(1)〜13(4)が形成されている。各インク室13(1)〜13(4)の上端開口部13aは一枚のプラスチック製などの素材ならなる封鎖板20によって封鎖されている。
【0037】
ここで、図5はこの封鎖板20を上側および裏面側から見た場合の斜視図である。これらの図に示すように、封鎖板20の裏面には、各インク室13(1)〜13(4)の上端開口部13aの円環状縁端面13b(図3参照)に対応した4つの円環状突起20aが形成されている。円環状縁端面13bに対して当該突起20aを熱融着することにより、当該円環状端面13bに封鎖板20が接合されている。
【0038】
また、封鎖板20における各円環状突起20aの中心には、当該封鎖板20を厚さ方向に貫通している大気連通口20bが形成されている。各大気連通口20bの裏面側の外周縁部分には垂直に突出させた円筒状突起20cが形成されている。
【0039】
再び、図1〜4を参照して説明すると、封鎖板20とケース蓋板12bの間には、横方向に延びる細長い空間が形成されており、この空間から端板部分24と封鎖板26の間の空間に至るL状の空間が廃インク室14とされている。この廃インク室14にはフォーム、フェルトなどのインク吸収体17が充填されている。ケース蓋板12bにおけるインク室13(1)よりも横方の部位には大気開放孔12dが形成され、廃インク室14はこの大気開放孔12dを介して大気開放されている。
【0040】
ここで、廃インク室14において、封鎖板20の各大気連通口20bが位置している部分にはインク吸収体17が存在しない円形断面の空所14aがそれぞれ形成されている。これにより、大気連通口20bは当該空所14aによってインク吸収体17から隔てられている。
【0041】
次に、インク室13(1)〜13(4)の構造を説明する。これらのインク室13(1)〜13(4)には、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインクがそれぞれ充填されている。これらのインク室13(1)〜13(4)の構造は同一であるので、インク室13(2)の構造を以下に説明し、それ以外のインク室13(1)、13(3)、13(4)の説明に当たっては対応する部分には同一符号を付して説明するものとする。
【0042】
インク室13(2)は、底板部分21と、一対の側板部分22、23と、一対の仕切り板部分27、28とによって構成されている円筒状容器部分31を備えている。この円筒状容器部分31の上端開口部、すなわちインク室13(2)の上端開口部13aは、上記のように封鎖板20によって封鎖されている。円筒状容器部分31の内部には、封鎖板20を熱融着するのに先立って上端開口部13aからコイルばね34および可動蓋33が挿入されている。可動蓋33は、コイルばね34によって上方に付勢されている。円筒状容器部分31の底面中心部分にはインク取出し口15(2)が形成されている。
【0043】
円筒状容器部分31の底面部分31bと、その内周面部分31aと、可動蓋33によって、インクが貯留されているインク貯留部35が区画形成されている。可動蓋33の上側空間38は、封鎖板20に形成されている大気連通口20bを介して、大気開放されている廃インク室14に連通している。
【0044】
可動蓋33は、円筒状容器部分31の内周面31aに沿って上下に往復移動可能であり、円盤状の天板部分33aと、この外周縁から下方に延びている一定長さの円筒状側板部分33bとを備えている。従って、可動蓋33の裏面側(下側)には、天板部分33aの裏面と、円筒状側板部分33bの内周面とによって区画された下方に開口した凹部33cが形成されている。
【0045】
インク貯留部35にインクを充填すると、可動蓋33の円筒状側板部分33bと、インク室の円筒状容器部分31の内周面31aとの隙間37にインクが進入してインクメニスカスを形成する。この隙間37を適切な寸法に設定することにより、インク取出し口15(2)に作用するインク吸引力よりも当該隙間37に形成されるインクメニスカスの強度を大きくして、インク吸引時においてもインクメニスカスが壊れることの無い様にすることができる。
【0046】
例えば、可動蓋33の円筒状側板部分33bの外径寸法がインク室の円筒状容器部分31の内周面31aの内径寸法よりも約0.1mm小さくなるように形成されている。この場合、可動蓋33が円筒状容器部分31に同心状態に挿入されると、これらの間には幅0.05mmの隙間37が円環状に形成されることになる。
【0047】
また、コイルばね34による可動蓋33の押し上げ力によって、インク貯留部35は常に所定の負圧状態に保持されているので、インク取り出し口15(2)にインク吸引力が作用しない状態においても、インク貯留部35からインク取出し部15(2)を介してインクが外部に漏洩することがない。
【0048】
さらに、コイルばね34による可動蓋33の押し上げ力はインクメニスカスの強度およびインク取出し孔15bに作用するインク吸引力よりも小さくなるように設定されているので、コイルばね34の押し上げ力でインクメニスカスを壊して気泡がインク貯留部35に進入することなく、インク取り出し口15(2)からインクが吸引されると、インク吸引量に応じて可動蓋33がインク取り出し口15(2)の側に移動することになる。
【0049】
ここで、上記のように、各インク室13(1)〜13(4)の上端開口部13aの中心部分に対応する封鎖板20の裏面部分には下方に僅かに突出した円筒状突起20cがそれぞれ形成されている(図5参照)。可動蓋33の上面中央部分は平坦な面とされているので、可動蓋33が上昇すると、円形突起20cに実質的に線接触状態で当接して、当該可動蓋33がそれ以上上昇することはない。
【0050】
また、図4(b)に示すように、各インク室13(1)〜13(4)におけるインク貯留部35の内周面部分31aの底面31bの近傍部分は、下方に向かうに連れて内径寸法が漸減しているテーパ状内周面部分31dとされている。また、このテーパ状内周面部分31dの下端13eの内径寸法は可動蓋33の外径寸法と同一とされ、これよりも下側部分は円弧状の湾曲内周面部分13fとされ、この湾曲内周面部分13fの下端が底面部分13bに滑らかに連続している。従って、可動蓋33が下降して底面部分13bに接近すると、可動蓋33と内周面31aの隙間が狭くなり、従って、そこに形成されるインクメニスカス強度が高くなる。可動蓋33の下端がテーパ状内周面部分31dの下端に至ると、可動蓋33が当該内周面部分に嵌り込み、ロックされた状態が形成されている。
【0051】
次に、本例のインク取り出し口15(2)の構造を説明する。円筒状容器部分31の底面中心には円形開口41が形成され、この外周縁部分からは底板部分21の下方に突出した円筒枠42が形成されている。この円筒枠42には円盤状のゴムパッキン43が装着されており、その中心に開けた貫通孔がインク取出し孔15bとして機能する。円形開口41のインク貯留部側の外周縁部分からも円筒枠44が上方に突出しており、この中心開口部分がインク取出し孔15bとインク貯留部35とを連通する連通路45とされている。この連通路45には、インク取出し孔15bを封鎖可能な弁46が配置されており、この弁46は常にコイルばね47によってゴムパッキン43の背面に押し付けられ、インク取出し孔15bを封鎖している。
【0052】
インク貯留部35内に突出している円筒枠44の上端開口には異物除去用のフィルタ49が取り付けられている。従って、インク貯留部35からインク供給針7(2)の側に供給されるインクに混入している異物がこのフィルタ49によって捕捉され、インクジェットヘッド4の側に入り込むことを防止できる。
【0053】
(インク供給動作)
インクカートリッジ10のインク供給動作を説明する。図4に示すように、インク室13(1)〜13(4)のインク貯留部35内に各色のインクが充填されている状態では可動蓋33が封鎖板20の側に偏位している。すなわち、可動蓋33は円筒状容器部分31の上端位置近傍(上昇位置)に位置している。
【0054】
また、可動蓋33と円筒状容器部分31の内周面31aとの隙間37にはインクメニスカスが形成されているので、廃インク室14に通じている可動蓋33の背面側の上側空間38とインク貯留部35とは当該可動蓋33によって仕切られた状態にある。さらに、コイルばね34によって可動蓋33が押し上げられているので、インク貯留部35は所定の負圧状態に保持されている。
【0055】
インク取り出し孔15bに、不図示のインクジェットプリンタのインクジェットヘッドの側からインク吸引力が作用すると、可動蓋33はコイルばね34のばね力に逆らってインク取り出し孔15bの側に移動するので、所定量のインクがインク取り出し孔15bからインクジェットヘッドの側に供給される。
【0056】
ここで、移動する可動蓋33と円筒状容器部分31の内周面31aの隙間37に形成されているインクメニスカスの強度はインク吸引力よりも大きいので、インク吸引力によってインクメニスカスが破壊されることはない。よって、可動蓋33の上側から当該隙間37を介して気泡がインク貯留部35の側に進入することはない。また、当該隙間37を介してインク貯留部35の側から可動蓋33の上側にインクが漏れ出ることもない。
【0057】
各インク室13(1)〜13(4)におけるインクエンドの状態では、各可動蓋33が円筒状容器部分31の底面に当たる位置まで下降し、インク貯留部35の容積が最小となる。可動蓋33が円筒状容器部分31の底面近傍まで下降して、円筒状容器部分31のテーパ状内周面部分31dに到った後は、図5(b)を参照して説明したように、可動蓋33の下降に伴って、可動蓋33とテーパ状内周面部分31dの隙間37が漸減する。この結果、可動蓋33の下降に伴って、隙間37に形成されているインクメニスカスの強度が大きくなる。可動蓋33が下降すると、コイルばね34が圧縮され、可動蓋33の押し上げ力が増加するので、インクメニスカスが壊れ易くなる。
【0058】
しかしながら、上記のように、可動蓋33の下降に伴ってインクメニスカス強度が大きくなるので、インクメニスカスが破壊されることを確実に回避できる。よって、インク残量が少なくなった状態においても、インクメニスカスが壊れて気泡がインク貯留部35に侵入することを防止できる。
【0059】
なお、可動蓋33がテーパ状内周面部分31dの下端31eに至ると、その部分の内径寸法は可動蓋33の外径寸法と同一であるので、可動蓋33はここに嵌り込み、ロックされた状態になる。
【0060】
ここで、この構成のインクカートリッジ10を誤って落下させた場合、あるいはインクカートリッジ10に衝撃力が加わった場合について説明する。この場合には、可動蓋33が振動して、一時的に隙間37のインクメニスカスが壊れるなどして、可動蓋33の背面側にインクが流出することがある。可動蓋33の背面側の空間38は、可動蓋33と仕切り板20とによって、各インク室13(1)〜13(4)毎に独立した空間となっている。
【0061】
従って、ここに流出したインクが、他のインク室から流出したインクと混じ合ってしまうことがない。また、インクが廃インク室14の側に直接に漏れ出てしまうこともない。よって、流出したインクの混色を防止できる。また、廃インク室14に充填されているインク吸収材17に接触して異物などがインクに混入することもない。従って、流出したインクが再び可動蓋33と内周側面31aの隙間37を通ってインク貯留部35に戻っても、インクには混色、異物混入などの弊害が発生しない。
【0062】
さらには、大量のインクが流出して空間38がインクで充たされた場合において、当該空間38と廃インク室14を連通している大気連通口20cにはインク吸収体17が接していないので、当該大気連通口20cから流出したインクがインク吸収体17に吸い上げられてしまうこともない。よって、大気連通口20cから廃インク室14に漏れ出たインクのみがインク吸収体17に吸収されるだけであるので、無駄インクの発生を極力抑えることができる。
【0063】
さらにまた、可動蓋35は、封鎖板20の円筒状突起20dに当接した状態になるので、可動蓋35の上面が封鎖板20に面接触して当該封鎖板20に貼りついてしまう危険性もない。
【0064】
これに加えて、インク残量が少なくなり、可動蓋35が底面部分に接近した場合には、隙間37が漸減しているので、インクメニスカス強度が増加する。よって、可動蓋35に作用しているコイルばね34の押し上げ力が増加しても、インクメニスカスが壊れて、気泡がインク貯留部に侵入することも確実に防止される。
【0065】
なお、インクカートリッジ10は4つのインク室を備えているが、単一のインク室を備えている場合、あるいは5つ以上のインク室を備えている場合も同様に構成することができる。
【0066】
(インク充填装置)
図6は、インクカートリッジ10にインクを充填するために用いるのに適したインク充填装置の一例を示す概略構成図である。本例のインク充填装置50は、密閉容器51と、この密閉容器51の内部に配置されているインクカートリッジ装着部52と、密閉容器51の内部雰囲気を減圧状態および大気開放状態に制御可能な圧力制御機構53と、インクカートリッジ装着部52に装着されたインクカートリッジ10の各インク室の可動蓋を押し下げ可能な押し下げ機構54と、インクカートリッジ装着部52に装着されたインクカートリッジ10の各インク室にインクを注入するためのインク注入機構55と、圧力制御機構53、押し下げ機構54およびインク注入機構55を駆動制御するための制御部56とを有している。
【0067】
インクカートリッジ装着部52は密閉容器51の底面に配置されており、インクカートリジ10を上側から垂直に当該インクカートリッジ装着部52に装着可能である。インク注入機構55は、このインクカートリッジ装着部52の底面に垂直姿勢で一定間隔に配列された4本のインク供給針61(1)〜61(4)と、4本のインク供給路62(1)〜62(4)と、各色のインクを供給するためのインク注入器63(1)〜63(4)と、これらインク注入器63(1)〜63(4)を駆動する駆動機構64とを備えている。インク供給路62(1)〜62(4)はそれぞれ、密閉容器51の底板部分51aを貫通して延びる供給路部分62aと、底板部分51aの裏面から突出している供給管部分62bとを備えており、この供給管部分62bは、開閉弁65を介して、対応するインク注入器63(1)〜63(4)に接続されている。
【0068】
圧力制御機構53は、密閉容器51の天板部分51bの隅に形成された連通口51cに一端が接続されている連通管66と、この連通管66の他端に吸引口が接続されている真空ポンプ67と、連通管66に介挿されている三方切り替え弁68とを備えている。三方切り替え弁68は、密閉容器51を真空ポンプ67の側および大気開放口69の側のいずれかに切り替えるためのものである。
【0069】
各可動蓋を押し下げるための押し下げ機構54は、密閉容器51の天板部分51bを気密状態で上下に摺動可能に貫通している昇降シャフト71を有し、密閉容器51内に突出している昇降シャフト71の下端には水平ベース72が形成されており、この水平ベース72の水平な下面からは、下方に向けて垂直に突出している4本の押し下げ棒73(1)〜73(4)が取り付けられている。昇降シャフト71は空気圧式あるいは油圧式などの昇降機構74によって昇降可能となっている。各押し下げ棒73(1)〜73(4)を下降させると、各押し下げ棒を、インクカートリッジ装着部に装着されたインクカートリッジ10の各インク室の上端開口部13aの中心から各インク室内に差し込み可能となっている。
【0070】
(インク充填動作)
このように構成されているインク充填装置50は、その制御部56によって押し下げ機構54、圧力調整機構53およびインク注入機構55が駆動制御され、次のようにしてインクカートリッジ10の各インク室にインクを充填する。
【0071】
まず、密閉容器51の天板部分51bを開き、インクカートリッジ装着部52に未完成状態のインクカートリッジ10Aを装着する。未完成状態のインクカートリッジ10Aは、図6に示すように、ケース蓋12b、封鎖板20およびインク吸収体17が装着される前のものである。
【0072】
この後は、次の各工程(a)〜(f)を実行して、インクカートリッジ10Aの各インク室内にインクが充填される。
(a)インク充填前のインク室を所定の減圧状態にする減圧工程
(b)可動蓋を強制的に所定距離だけ下降した下降位置に保持する可動蓋押し下げ工程
(c)インク室にインクを注入して、可動蓋の円筒状側板部分の外周面とインク室の内周側面との間にインクメニスカスを形成するインクメニスカス形成工程
(d)インク室を大気圧状態に戻す大気開放工程
(e)可動蓋の押し下げを解除する可動蓋開放工程
(f)可動蓋が予め設定した上昇位置に到るまで、インク室における可動蓋の下側空間(インク貯留部)にインクを注入するインク注入工程
インク充填後の未完成状態のインクカートリッジ10Aは、密閉容器51から取り出された後に、封鎖板20の取り付け、インク吸収体17の装着、およびケース蓋12bの取り付けが行われて、完成状態のインクカートリッジ10が得られる。
【0073】
まず、減圧工程では、図7に示すように、可動蓋押し下げ機構54の昇降シャフト71は上昇位置にあり、各押し下げ棒73(1)〜73(4)はインクカートリッジ10Aの各インク室13(1)〜13(4)の上端開口13aの直上に位置している。また、インク注入機構55の開閉弁65は閉じ状態にある。この状態において、圧力制御機構53の三方切り替え弁68を切り替えて密閉容器51を真空ポンプ67の側に連通させ、真空ポンプ67を駆動して、密閉容器51内から空気を吸引して、所定の減圧雰囲気を形成する。
【0074】
次の可動蓋押し下げ工程では、密閉容器51内を所定の減圧状態に保持した状態において、可動蓋押し下げ機構54を駆動して、昇降シャフト71を予め設定されている下降位置まで下降させ、その下端に取り付けられている各押し下げ棒73(1)〜73(4)を、インクカートリッジ10Aの各インク室13(1)〜13(4)の上端開口部13aからインク室内に挿入して、各可動蓋33を、コイルばね34のばね力に逆らって所定距離だけ押し下げる。この結果、図8に示すように、各可動蓋33が予め設定されているその下降位置まで押し下げられる。この後は、押し下げ棒73(1)〜73(4)をその位置に保持して、各可動蓋33をその下降位置に保持する。ここで、この状態では、押し下げ棒73(1)〜73(4)が取り付けられている水平ベース72の水平な裏面72aの両端部分が、インクカートリッジ装着部52の両側に立設されている支持部材75の水平な上面に当接した状態になる。
【0075】
次のインクメニスカス形成工程では、図9(a)に示すように、密閉容器51内を所定の減圧状態に保持したまま、インク注入機構55の開閉弁65を開けて、各インク注入器63(1)〜63(4)を駆動して、予め定められた量のインクを、予め設定された注入速度で、各インク取り出し口15(1)〜15(4)を介して、各インク室13(1)〜13(4)のインク貯留部(可動蓋の下側空間)35に注入する。注入されたインクは、各インク室13(1)〜13(4)において、図9(b)において矢印示す経路に沿って流れ込み、可動蓋の外周面とインク室内周面の隙間37を通って可動蓋33の上側空間に流れ込む。
【0076】
ここで、図9(c)に示すように、可動蓋33の裏面側の凹部33cには空気が閉じ込められて空気溜まりが形成され、ここにはインクが充填されない。注入インク量を適切に設定しておき、可動蓋33の上側に所定量のインクが回り込むようにしておけば、可動蓋33とインク室内周面31aの隙間37に確実にインクメニスカスを形成することができる。
【0077】
次の大気開放工程においては、圧力制御機構53の三方向切り替え弁68を制御して、密閉容器51を大気開放口69を介して大気開放する。この結果、密閉容器51内が大気圧状態に戻る。これにより、図10(a)、(b)に示すように、インク室13(1)〜13(4)の可動蓋33の裏面側の凹部33cに捕捉されていた減圧状態にあった空気の体積が収縮して大気圧状態に戻り、小さな気泡状態80になる。これと同時に、可動蓋33が僅かに下降して、空気溜まりであった凹部33c内にインクが回り込み、実質的に凹部33c内がインクで充填された状態になる。
【0078】
次の可動蓋押し下げ解除工程では、図11に示すように、可動蓋押し下げ機構の昇降シャフトをその上昇位置まで上昇させる。
【0079】
しかる後に行われるインク注入工程では、インク注入機構55を駆動して開閉弁65を開き、インク取り出し口15(1)〜15(4)を介してインクの注入を行う。インクの注入は、インク室13(1)〜13(4)を大気圧状態に保持し、インク注入機構55によってインクを加圧状態で注入してもよいし、インク室13(1)〜13(4)の側を僅かに減圧状態にし、インク注入機構55の側からインク室13(1)〜13(4)内にインクを吸引するようにしてもよい。いずれにせよ、インク注入機構55の側と、インク室13(1)〜13(4)の側との間に僅かな差圧状態を形成すればよい。インクの注入に応じて、各可動蓋33は上昇して、図12に示すように、可動蓋33がその上昇位置に達したインク充填状態が形成される。
【0080】
以上説明したように、本例のインク充填装置50を用いたインク充填方法によれば、インク室13(1)〜13(4)を減圧状態にし、可動蓋33を予め定めた下降位置まで押し下げ、この状態でインクを注入して可動蓋33とインク室内周面31aの間にインクメニスカスを形成し、しかる後に、インク室13(1)〜13(4)を大気開放するようにしている。大気開放によって、可動蓋33の裏面側の凹部33cに捕捉されている減圧状態の空気が収縮して、実質的に当該凹部33cがインクで満たされた状態が形成される。よって、可動蓋33の裏面側の凹部33cにインクが充填されずに残ってしまうという弊害を確実に防止できる。
【0081】
なお、上記のインク充填動作においては、密閉容器51内を減圧状態にした後に可動蓋33を押し下げるようにしているが、可動蓋33を押し下げた後に密閉容器51内を減圧状態にしてもよい。あるいは、減圧工程と可動蓋押し下げ工程を同時に行うようにしてもよい。
【0082】
また、インクメニスカス形成後に、密閉容器51を大気開放した後に可動蓋33の押し下げを解除しているが、可動蓋33の押し下げを解除した後に密閉容器51を大気開放してもよい。あるいは、大気開放工程と可動蓋開放工程を同時に行うようにしてもよい。
【0083】
さらに、封鎖板20が取り付けられる前のインクカートリッジ10Aにインクを充填しているが、封鎖板20を取り付けた後のインクカートリッジにインクを充填することも可能である。この場合には、図5に示す封鎖板20の大気連通孔20bに各押し下げ棒73(1)〜73(4)を挿入して各可動蓋33を押し下げるようにすればよい。そのためには、大気連通孔20bに押し下げ棒73(1)〜73(4)を差し込むことができるように、これらの大きさを設定すればよい。
【0084】
さらには、完成状態のインクカートリッジ10にインクを充填することも可能である。この場合には、ケース蓋12bにおける封鎖板20の大気連通孔20bに対応する部位に大気連通孔を形成しておき、ケース蓋12bの各大気連通孔および封鎖板20の大気連通孔20bに各押し下げ棒73(1)〜73(4)を差し込むことにより、各可動蓋33を押し下げることができる。
【0085】
次に、本例のインクカートリッジ10では、各インク室13(1)〜13(4)の底面側の内周面部分には可動蓋33をロック可能なテーパ状内周面部分31dが形成されている。そこで、インクカートリッジ10の組立て時に、各可動蓋33を押し下げてテーパ状内周面部分31dに嵌め込み、当該位置にロックしておけば、上記の可動蓋押し下げ工程が不要になり、また、インク充填装置50から可動蓋押し下げ機構54を省略できる。
【0086】
この場合には、可動蓋33をインク室内周面のテーパ状内周面部分31dにロックした状態でインクカートリッジ10を組立て、完成後のインクカートリッジ10を密閉容器51内のインクカートリッジ装着部52に装着した後は、減圧工程、インクメニスカス形成工程、大気開放工程を実行する。しかる後に、インク注入工程を実行し、このインク注入工程において、インク注入圧力あるいはインク注入速度を高めて、可動蓋33のロック状態を解除すればよい。
【0087】
(その他の実施の形態)
上記のインク充填装置50では、インクカートリッジ装着部52の底面にインク供給針61(1)〜61(4)を配置し、インクメニスカス形成工程およびインク注入工程では、各インク室13(1)〜13(4)に対してその底面に形成されているインク取り出し口15(1)〜15(4)からインクを注入するようにしている。この代わりに、図13に示すように、インク注入機構55Aとして、密閉容器51の天板部分51bを貫通する状態に配置した4本のインク供給管81〜84を備えたものを採用し、インクカートリッジ10Aのインク室13(1)〜13(4)の上端開口部13aからインクを供給してもよい。インク室13(1)〜13(4)の上端開口部13aからインクを供給する場合には、インク取り出し口15(1)〜15(4)が汚れるなどの弊害が起きないという利点がある。
【0088】
次に、インク充填装置50は密閉容器51を備え、この中でインクカートリッジ10、10Aを減圧状態にしている。密閉容器51を用いずにインクの充填を行うようにすることも可能である。
【0089】
図14には、そのために用いるインク充填装置の一例を示してある。このインク充填装置85は、インクカートリッジ装着部86と、ここに装着された未完成状態のインクカートリッジ10Aのインク室を密閉するためのシール板87と、シール板87によって密閉された各インク室13(1)〜13(4)の内部を減圧状態および大気開放状態にするための圧力制御機構88と、シール板87を介して可動蓋33を押し下げる可動蓋押し下げ機構89と、各インク室13(1)〜13(4)にインクを注入するためのインク注入機構90とを有している。インクカートリッジ装着部86、圧力制御機構88、可動蓋押し下げ機構89およびインク注入機構90としては、上記のインク充填装置50における場合と同様な構成のものを採用すればよい。このインク充填装置85では、密閉容器が不要であるので、装置を小型でコンパクトにできるという利点がある。なお、このインク充填装置においても、インク注入機構90の代わりに、図13に示すようにインク室13(1)〜13(4)の上端開口13aの側から行うインク注入機構を用いることも可能である。
【0090】
一方、上記の各例は、4個のインク室が構成されているインクカートリッジについてのものであるが、インク室が1個の場合、2個あるいは3個の場合、また、5個以上の場合のインクカートリッジに対しても本発明を同様に適用可能なことは勿論である。
【0091】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のインク充填方法およびインク充填装置では、減圧状態においてインク室の可動蓋を押し下げて、インクを注入することにより、可動蓋とインク室内周側面の間にインクメニスカスを形成し、しかる後に、インク室を大気圧状態に戻すことにより、可動蓋の裏面側の凹部にインクが充填された状態を形成し、この後に、所定量のインクをインク室内に注入するようにしている。従って、本発明によれば、可動蓋の裏面側の凹部が空気溜まりのまま残ってしまい、ここにインクを充填できないという弊害を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)〜(d)はそれぞれ、本発明によるインク充填方法によりインクを充填可能なインクカートリッジを示す平面図、正面図、左側側面図、および右側側面図である。
【図2】 図1のインクカートリッジを示す斜視図である。
【図3】 図1のインクカートリッジを示す分解斜視図である。
【図4】 (a)は図1のインクカートリッジをA−Aで切断した部分の断面図であり、(b)はその部分拡大断面図である。
【図5】 (a)および(b)は、それぞれ図1のインクカートリッジにおける封鎖板を上側および下側から見た場合の斜視図である。
【図6】 図1のインクカートリッジにインクを充填するために用いるインク充填装置の一例を示す概略構成図である。
【図7】 インク充填装置による減圧工程を示す説明図である。
【図8】 インク充填装置による可動蓋押し下げ工程を示す説明図である。
【図9】 (a)〜(c)はそれぞれ、インク充填装置によるインクメニスカス形成工程を示す説明図、当該工程において注入されたインクの流れを示す説明図、およびインクメニスカス形成後のインク充填状態を示す説明図である。
【図10】 (a)および(b)は、インク充填装置による大気開放工程を示す説明図、および大気開放後におけるインクの充填状態を示す説明図である。
【図11】 インク充填装置による可動蓋開放工程を示す説明図である。
【図12】 インク充填装置によるインク注入工程を示す説明図である。
【図13】 本発明によるインク充填装置の別の例を示す説明図である。
【図14】 本発明によるインク充填装置の更に別の例を示す説明図である。
【図15】 本発明の前提となる可動蓋を備えたインクカートリッジを示す説明図である。
【符号の説明】
10 完成状態のインクカートリッジ、10A 未完成状態のインクカートリッジ、12 カートリッジケース、12a ケース本体、12b ケース蓋板、13(1)〜13(4) インク室、13a インク室の上端開口部、15(1)〜15(4) インク取り出し口、20 封鎖板、20b 大気連通口、31 円筒状容器部分、31a 内周面部分(インク室の内周側面)、31b 底面部分、31d テーパ状内周面部分、33 可動蓋、33a 天板部分、33b 円筒状側板部分、33c 可動蓋の裏面側の凹部、34 コイルばね、35 インク貯留部(可動蓋の下側空間)、37 隙間、38 可動蓋の上側空間、50インク充填装置、51 密閉容器、51c 連通口、52 インクカートリッジ装着部、53 圧力制御機構、54 押し下げ機構、55、55A インク注入機構、56 制御部、61(1)〜61(4) インク供給針、63(1)〜63(4) インク注入器、64 駆動機構、65 開閉弁、66 連通管、67 真空ポンプ、68 三方切り替え弁、69 大気開放口、71 昇降シャフト、73(1)〜73(4) 押し下げ棒、81〜84 インク供給管、85 インク充填装置、86 インクカートリッジ装着部、87 シール板、88 圧力制御機構、89 可動蓋押し下げ機構、90 インク注入機構

Claims (20)

  1. 底面にインク取り出し口が形成され、上端が開口している少なくとも一つのインク室と、前記インク室の内周側面に沿って昇降可能な状態で前記インク室に挿入されている可動蓋と、前記可動蓋を常時上方に付勢しているばね部材とを有し、前記インク室における前記可動蓋の下側空間にインクが充填され、前記可動蓋は、天板部分と、前記天板部分の外周縁から前記インク室の底面側に延びている筒状の側板部分とを備え、前記側板部分の外周面と前記インク室の内周側面との間にインクメニスカスが形成され、前記インク取り出し口から取り出されるインク量に応じて前記可動蓋が下降するように構成されているインクカートリッジのインク充填方法であって、
    インク充填前の前記インク室を所定の減圧状態にする減圧工程と、
    前記減圧工程に先立って、あるいは、前記減圧工程と同時に、または、前記減圧工程の後に、前記可動蓋を強制的に所定距離だけ下降した下降位置に保持する可動蓋押し下げ工程と、
    前記インク室にインクを注入して、前記可動蓋の前記外周面と前記インク室の前記内周側面との間にインクメニスカスを形成するインクメニスカス形成工程と、
    前記インク室を大気圧状態に戻す大気開放工程と、
    前記大気開放工程に先立って、あるいは、前記大気開放工程と同時に、または、前記大気開放工程の後に、前記可動蓋の押し下げを解除する可動蓋開放工程と、
    前記可動蓋が予め設定した上昇位置に到るまで、前記インク室における前記可動蓋の下側空間にインクを注入するインク注入工程と、
    を含むことを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  2. 請求項1において、
    前記減圧工程では、前記インクカートリッジを密閉容器内に入れ、当該密閉容器の内部を減圧雰囲気にすることにより前記インク室を所定の減圧状態にすることを特徴とするインクカートリッジの充填方法。
  3. 請求項1において、
    前記減圧工程では、前記インク室の上端開口を密閉し、この状態で当該インク室の内部を所定の減圧状態にすることを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  4. 請求項1、2または3において、
    前記可動蓋押し下げ工程では、前記インク室の上端開口から挿入した押し下げ棒によって前記可動蓋を前記下降位置まで押し下げ、前記押し下げ棒によって前記可動蓋を前記下降位置に保持することを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  5. 請求項1ないし4のうちのいずれかの項において、
    前記インクメニスカス形成工程では、前記インク室の上端開口から所定量のインクを注入することを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  6. 請求項1ないし4のうちのいずれかの項において、
    前記インクメニスカス形成工程では、前記インク取り出し口から前記インク室に所定量のインクを注入することを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  7. 請求項1ないし6のうちのいずれかの項において、
    前記インク注入工程では、前記インク室の上端開口からインクを注入することを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  8. 請求項1ないし6のうちのいずれかの項において、
    前記インク注入工程では、前記インク取り出し口から前記インク室にインクを注入することを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  9. 請求項1ないし8のうちのいずれかの項において、
    前記インクカートリッジは、前記インク室の上端開口を封鎖している封鎖板を備え、前記インク室における前記可動蓋と前記封鎖板で仕切られた上側空間が、前記封鎖板に形成した大気連通口を介して大気開放されており、
    前記インクメニスカス形成工程では、前記大気連通口から前記インク室内の前記上側空間にインクを注入することを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  10. 請求項1ないし8のうちのいずれかの項において、
    前記インクカートリッジは、前記インク室の上端開口を封鎖している封鎖板を備え、前記インク室における前記可動蓋と前記封鎖板で仕切られた上側空間が、前記封鎖板に形成した大気連通口を介して大気開放されており、
    前記インク注入工程では、前記大気連通口から前記インク室内の前記上側空間にインクを注入することを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  11. 底面にインク取り出し口が形成され、上端が開口している少なくとも一つのインク室と、前記インク室の内周側面に沿って昇降可能な状態で前記インク室に挿入されている可動蓋と、前記可動蓋を常時上方に付勢しているばね部材とを有し、前記インク室における前記可動蓋の下側空間にインクが充填され、前記可動蓋は、天板部分と、前記天板部分の外周縁から前記インク室の底面側に延びている筒状の側板部分とを備え、前記側板部分の外周面と前記インク室の内周側面との間にインクメニスカスが形成され、前記インク取り出し口から取り出されるインク量に応じて前記可動蓋が下降するように構成されているインクカートリッジのインク充填方法であって、
    前記インク室の前記内周側面における前記底面の近傍部位に、前記可動蓋を前記下降位置まで押し下げると、当該可動蓋における前記筒状の側板部分の下端が嵌り込む嵌合面を形成して、前記インクカートリッジの組立て時に、前記可動蓋を押し下げて前記嵌合面に嵌め込まれた状態にしておく可動蓋嵌め込み工程と、
    インク充填前の前記インク室を所定の減圧状態にする減圧工程と、
    記インク室にインクを注入して、前記可動蓋の前記外周面と前記インク室の前記内周側面との間にインクメニスカスを形成するインクメニスカス形成工程と、
    前記インク室を大気圧状態に戻す大気開放工程と、
    所定のインク注入圧および/またはインク注入速度でインクを注入して前記可動蓋を前記嵌合面との嵌合から開放すると共に、前記可動蓋が予め設定した上昇位置に到るまで、前記インク室における前記可動蓋の下側空間にインクを注入するインク注入工程と、
    を含むことを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  12. 請求項11において、
    前記減圧工程では、前記インクカートリッジを密閉容器内に入れ、当該密閉容器の内部を減圧雰囲気にすることにより前記インク室を所定の減圧状態にすることを特徴とするインクカートリッジの充填方法。
  13. 請求項11において、
    前記減圧工程では、前記インク室の上端開口を密閉し、この状態で当該インク室の内部を所定の減圧状態にすることを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  14. 請求項11ないし13のうちのいずれかの項において、
    前記インクメニスカス形成工程では、前記インク室の上端開口から所定量のインクを注入することを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  15. 請求項11ないし13のうちのいずれかの項において、
    前記インクメニスカス形成工程では、前記インク取り出し口から前記インク室に所定量のインクを注入することを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  16. 請求項11ないし14のうちのいずれかの項において、
    前記インク注入工程では、前記インク取り出し口から前記インク室にインクを注入することを特徴とするインクカートリッジのインク充填方法。
  17. 請求項1に記載のインク充填方法に用いるインクカートリッジのインク充填装置であって、
    インク充填前の前記インク室を所定の減圧状態にする減圧手段と、
    前記可動蓋を強制的に所定距離だけ下降した下降位置に保持する可動蓋押し下げ手段と、
    前記インク室にインクを注入して、前記可動蓋の前記外周面と前記インク室の前記内周側面との間にインクメニスカスを形成するために、前記インク室にインクを注入する第1のインク注入手段と、
    前記インク室を大気圧状態に戻す大気開放手段と、
    前記可動蓋の押し下げを解除する可動蓋開放手段と、
    前記可動蓋が予め設定した上昇位置に到るまで、前記インク室における前記可動蓋の下側空間にインクを注入する第2のインク注入手段と、
    を有していることを特徴とするインクカートリッジのインク充填装置。
  18. 請求項1に記載のインク充填方法によりインクの充填を行うインクカートリッジのインク充填装置において、
    密閉容器と、
    前記密閉容器の内部に配置されているインクカートリッジ装着部と、
    前記密閉容器の内部雰囲気を減圧状態および大気開放状態に制御可能な圧力制御手段と、
    前記インクカートリッジ装着部に装着された前記インクカートリッジの前記インク室における前記上端開口から挿入して前記可動蓋を押し下げ可能な押し下げ棒と、
    前記押し下げ棒を昇降させる昇降機構と、
    前記インクカートリッジ装着部に装着された前記インクカートリッジの前記インク室にインクを注入するインク注入手段と、
    を有していることを特徴とするインクカートリッジのインク充填装置。
  19. 請求項18において、
    前記圧力制御手段は、真空ポンプと、連通管と、前記連通管を大気開放可能状態に切り替え可能な大気開放弁とを有し、前記連通管の一端が前記密閉容器に接続され、前記連通管の他端が前記真空ポンプの吸引口に接続され、前記大気開放弁が前記連通管に介挿されていることを特徴とするインクカートリッジのインク充填装置。
  20. 請求項18または19において、
    前記インク注入手段は、外側から前記インク取り出し口に差し込み可能なインク供給針と、前記インク供給針にインクを供給するインク注入器とを有し、
    前記インク供給針は、前記インクカートリッジ装着部に底面に上向き状態に配置され、前記インクカートリッジ装着部に前記インクカートリッジを装着すると、前記インク供給針が前記インク取り出し口に差し込まれた状態が形成されることを特徴とするインクカートリッジのインク充填装置。
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