JP4238423B2 - カーボンシートの製造方法及び燃料電池用電極の製造方法 - Google Patents

カーボンシートの製造方法及び燃料電池用電極の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はカーボンシートの製造方法及び燃料電池用電極の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、一般的に多数のセルが積層されており、このセルは、二つの電極(燃料極と酸化剤極)で電解質を挟んだ構造をしている。
【0003】
前記燃料極では、水素を主成分とする燃料ガス中の水素が燃料極触媒に接触することにより下記の反応が生ずる。
【0004】
2H → 4H +4e
は、電解質中を移動し酸化剤極触媒に達し、酸素を主成分とする酸化剤ガス中の酸素と反応して水となる。
【0005】
4H +4e +O → 2H
上記の反応により水素と酸素を使用して電気分解の逆反応の電気化学反応で発電し、水以外の排出物がなくクリーンな発電装置として注目されている。
【0006】
大気の汚染をできる限り減らすために自動車の排ガス対策が重要になっており、その対策の一つとして電気自動車が使用されているが、充電設備や走行距離などの問題で普及に至っていない。燃料電池を使用した自動車が最も将来性のあるクリーンな自動車であると見られている。
【0007】
燃料電池が広く普及する上で障害になっていることの一つにコストが高いという問題があり、燃料電池の主要構成部品である電極のコストをできる限り下げることは重要である。
【0008】
燃料電池用電極として、カーボンペーパーを撥水化処理したカーボンシートに触媒を担持したものが一般的に用いられている。前記カーボンシートには、ガス通気性が高いこと、電気伝導性が高いこと、撥水性が高いこと、熱的・化学的安定性が高いこと及び低コストが求められる。
【0009】
上記の電気化学反応は、三相界面と呼ばれる電解質、反応ガス、触媒との界面で起こるといわれている。燃料電池運転中に、酸化剤極側で生成した水により触媒表面が覆われ、反応ガスが触媒表面に到達できないため反応が阻害される、いわゆるフラッデイング現象がおこる。特に、固体高分子電解質は、通常湿潤状態でなければプロトン伝導性を示さないので、一般的に燃料ガス、酸化剤ガスの少なくとも一方を加湿してセル内に導入するので、フラッデイング現象が起きやすく、この問題を解決することは重要である。
【0010】
フラッデイング現象の問題を解決するために、電極に撥水性を付与し、生成水を速やかに排出することが有効であることが一般的に知られている。
【0011】
従来技術1として特開平7−130374号公報には、気孔率80%の市販のカーボンペーパーを撥水材のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系粒子を分散したPTFE系分散液に浸漬後、焼成して形成したカーボンシートに触媒を担持した固体高分子電解質型燃料電池用電極が開示されている。
【0012】
従来技術2として特開平10−270052号公報には、電極基材の表面にプラズマ処理により活性化されたフルオロカーボン系材料のガスを接触させ、電極基材の表面に撥水性フッ化物被膜(撥水材)を形成させた電池用電極が開示されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術1に用いられている市販のカーボンペーパーは、熱硬化性樹脂で結合したカーボンファイバーを1000℃以上の高温で不活性ガス中でホットプレスして製造されるので高コストであり、前記カーボンペーパーを用いた燃料電池は高価格となり実用化に障害になる問題点があった。
【0014】
カーボンファイバーだけでは、その直線性が強く枝分かれが少ないため絡み合い強度が弱く1mm以下の薄いシートを成形することが困難である。結合材を用いて成形したカーボンシートをそのまま用いると、前記結合材が燃料電池の運転中に熱的、化学的に分解され溶出し、触媒を汚染して燃料電池の出力低下を引き起こしてしまう。その上、結合材の溶出によりカーボンファイバー間の結合が弱まり電気伝導度の低下を招く。
【0015】
それを解決するため従来技術1に用いられている市販のカーボンペーパーでは、不活性ガス中のホットプレスにより熱硬化性樹脂をカーボン化して熱的・化学的安定性を高くすると同時に、そのカーボンでカーボンファイバー間の結合を強化している。
【0016】
従来技術1の撥水処理方法では、一度だけの処理ではカーボンペーパーのPTFE系分散液の吸収量が少ないので、カーボンペーパー中に担持される撥水材量を多くできず、このカーボンペーパーで作製した電極の耐久性が劣るという問題がある。即ち、十分な撥水性を確保するためには、電気抵抗を損なわない程度に撥水材を多量に担持するほうが好ましい。
【0017】
この問題を解決する方法として、撥水処理を繰り返す方法とPTFE系分散液を高濃度にして処理する方法がある。前者の方法では、撥水処理の工数が大きく、コストアップにつながる。後者の方法では、電極内部まで均一に撥水材を充填するのは非常に困難である。この場合、電極内部に比べて電極表面に集中して撥水材が保持されるので、電極内部に生成水が滞留する問題が生ずる。また、撥水材は通常絶縁性であるので、電極表面への撥水材の集中担持は、電気接触不良の問題を生ずる。
【0018】
従来技術2の撥水処理方法では、プラズマ処理のために特殊な装置を必要とするため、大量生産が難しく、コストアップとなり工業的用途には適していない。
【0019】
本発明は上記課題を解決したもので、低コストで撥水性の耐久性に優れたカーボンシートの製造方法及び低コストで耐久性に優れた燃料電池用電極の製造方法を提供する。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記技術的課題を解決するために、本発明の請求項1において講じた技術的手段(以下、第1の技術的手段と称する。)は、カーボン繊維とパルプとを水に分散したスラリーを用いて抄紙し乾燥して成形シートを成形する第1工程と、前記成形シートをポリテトラフルオロエチレン粒子分散液に浸漬する第2工程と、その後、前記成形シートを焼成して前記ポリテトラフルオロエチレン粒子を固着させると同時に前記パルプを酸化除去する第3工程と、前記成形シートにカーボンブラック粒子を含浸する第4工程と、を備えていることを特徴とするカーボンシートの製造方法である。
【0021】
上記第1の技術的手段による効果は、以下のようである。
【0022】
即ち、パルプを酸化除去すると同時にポリテトラフルオロエチレンでカーボン繊維を結合するので、ホットプレスという高コストな製造方法を使用することなくカーボンシートを製造でき、低コストなカーボンシートができる。また、パルプを酸化除去した跡が孔として残り、ガス拡散通路として機能することができるので、ガス通気性に優れたカーボンシートができる。その上、パルプが分散媒を吸収するため、多量のポリテトラフルオロエチレン粒子をパルプに付着させることができ、一度の処理で多量のポリテトラフルオロエチレンをカーボンシートの内部まで均一に含有させることができるので、低コストで撥水性の耐久性に優れたカーボンシートが製造できる。また、パルプが占めていた空間に重点的にポリテトラフルオロエチレンが担持されるので、カーボン繊維のマトリックス構造を保持しながら撥水性を付与できるため、多量のポリテトラフルオロエチレンを担持しても電気抵抗が低いカーボンシートを製造できる。さらに、コストが低く量産性のある、紙を製造する抄紙法を利用してシートを成形するので低コストなカーボンシートができる効果を有する。
【0023】
上記技術的課題を解決するために、本発明の請求項2において講じた技術的手段(以下、第2の技術的手段と称する。)は、さらに、前記第4工程の後にポリテトラフルオロエチレン粒子分散希釈液に浸漬する第5工程と、その後、水分を蒸発させて前記ポリテトラフルオロエチレン粒子を前記カーボンブラック粒子の表面に固着させる第6工程と、を備えていることを特徴とする請求項1記載のカーボンシートの製造方法である。
【0026】
上記技術的課題を解決するために、本発明の請求項3において講じた技術的手段(以下、第3の技術的手段と称する。)は、前記第4工程において、スクリーン印刷法で前記カーボンブラック粒子を含むペーストを含浸させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカーボンシートの製造方法である。
【0035】
上記技術的課題を解決するために、本発明の請求項において講じた技術的手段(以下、第の技術的手段と称する。)は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のカーボンシートの一方の面に触媒を担持することを特徴とする燃料電池用電極の製造方法である。
【0036】
上記第の技術的手段による効果は、以下のようである。
【0037】
即ち、低コストでガス通気性及び撥水性の耐久性に優れ、且つ電極として必要な電気伝導性を確保できるカーボンシートを用いているので、低コストで耐久性に優れた燃料電池用電極ができる効果を有する。
【0038】
【発明の実施の形態】
本発明者は、カーボンファイバーを成形するときには結合材を用い、この結合材を除去すると同時に、熱的、化学的に安定な別の結合材で前記カーボンファイバーを結合できれば、ホットプレスという高コストな製造方法を用いなくてもカーボンシートが製造できることに着眼し本発明に至った。
【0039】
また、本発明者は、成形シートの成形時に撥水材粒子分散液の分散媒を吸収できる材料(分散媒吸収材料)を混合すれば、分散媒吸収材料に分散媒が吸収されるときに撥水材粒子も吸収され、多くの撥水材を担持できることに着眼し本発明に至った。実際、分散媒吸収材料を含有している成形シートは、分散媒吸収材料を含有しない成形シートに比べて3倍以上の撥水材粒子分散液を吸収することができる。この成形シートを300℃以上で焼成することにより、分散媒吸収材料を酸化除去すれば、撥水材を大量かつ内部まで均一に保持されたカーボンシートが得られる。
【0040】
分散媒吸収材料を含有しない成形シートを用いて、数回繰り返して撥水処理した場合、撥水材がカーボン繊維間に入り込み、電気抵抗が増加する。しかし、本発明のカーボンシートにおいては、撥水材は主として、焼成前に存在した分散媒吸収材料が占めていた空間に重点的に担持されており、カーボン繊維のマトリックス構造を保持しながら撥水性が付与できる。このため、撥水材の担持量が多くなっても、電気抵抗の増加を抑えることができ、電極として必要な電気伝導性を確保できる。
【0041】
本発明においては、一度の撥水材担持処理により担持できる撥水材担持量は、カーボン繊維量の0.5〜320wt%であり、この範囲で効果が期待できる。前記撥水材担持量は、カーボン繊維量の10〜160wt%の範囲が好ましい。撥水材担持量が10wt%より小さいと、撥水性の耐久性の低下を招く。また、撥水材担持量が160wt%より大きいと、電気抵抗の増加を招く。
【0042】
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では本発明のカーボン繊維としてカーボンファイバーの短繊維を使用しているが、カーボンファイバーの長繊維でもかまわない。また本実施例では本発明の繊維としてパルプを使用しているが、木綿などの植物性天然繊維でも羊毛などの動物性天然繊維でもレーヨンやナイロンなどの化学繊維でもかまわない。
【0043】
さらに、本実施例では、撥水材粒子分散液として、撥水材であるテトラフルオロエチレン(PTFE)の粒子を、分散媒である水に分散したPTFE粒子分散液を使用しているが、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体やテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などの撥水材の粒子を分散した撥水材粒子分散液でもかまわない。これらの撥水材粒子分散液の分散媒として水以外にトルエン、キシレン、シクロヘキサンなどが用いられる。
【0044】
(実施例1)
<酸化剤極の作製>
カーボン繊維であるカーボンファイバーの短繊維(代表的な大きさは太さ13μm、長さ3mm)と繊維であるパルプを1:1の重量比で水に分散して抄紙用のスラリーをつくった。このスラリーを抄紙して厚さ約0.3mmの成形シートを製造した。この成形シートを160mm×160mmに切断して電極基材シートを作製した。
【0045】
PTFE粒子分散液(ダイキン工業社製、D−1グレード、PTFE粒子60wt%含有)をPTFE粒子濃度が20wt%になるように水で希釈したPTFE粒子分散希釈液に前記電極基材シートを2分間浸漬した。前記電極基材シートは多孔質であるので、前記PTFE粒子分散希釈液が内部に浸透し含浸した。
【0046】
前記電極基材シートを約80℃で水分を蒸発させた後、大気中390℃で60分保持してPTFE粒子をカーボン繊維の表面に固着させると同時に前記電極基材シートに含まれているパルプを酸化してガス化して除去し、撥水材が含有されたカーボンシートを製造した。
【0047】
前記PTFEは、前記電極基材シートに撥水性を付与するとともに除去された前記パルプに替わってカーボンファイバーを結合する結合材の役割を果たしている。これにより前記カーボンシートの形状を保持することができた。
【0048】
このカーボンシートのガス通気性をJIS P8117に準じて口径10mmのシリンダーから300ccの空気が抜ける時間で評価したところ、0.8secで、ガス通気性に優れたカーボンシートが得られた。パルプを酸化除去した跡が孔になり、ガス拡散通路としてふるまうため、ガス通気性が向上したものである。すなわち、パルプは、成形シートの結合材としての効果以外に造孔材としての効果を有している。
【0049】
また、このカーボンシートを直径35.7mm(面積10cm)の銅製の電極で挟み込み、20kgf/cmのトルクでボルト締めして電気抵抗を測定してところ、3.2mΩであった。
【0050】
カーボンブラック粒子とエチレングリコールを混合してペーストを作製し、スクリーン印刷法で前記カーボンシート中に含浸させた後、真空中80℃で2時間保持して成形助剤を蒸発させて除去した。カーボンブラック粒子を含浸させたカーボンシートを再び前記PTFE粒子分散希釈液に2分間浸漬後、約80℃で水分を蒸発させたのち、大気中390℃で60分保持してPTFE粒子をカーボン繊維及びカーボンブラック粒子の表面に固着させた。
【0051】
次に、白金担持カーボン(白金含有量40wt%)と水とイオン交換溶液(旭化成社製、アシプレックス溶液SS−1080)及びイソプロピルアルコールを1:1.5:15:1.5の重量比で十分混合して触媒ペーストを作製し、ドクターブレード法により前記カーボンシートの一方の面に約300μmの厚さで塗布した。この電極基材シートを乾燥してイソプロピルアルコールを除去し、酸化剤極を製造した。この酸化剤極に担持された白金量は、酸化剤極の単位面積当たりでは約0.4mg/cmであった。
【0052】
<燃料極の作製>
酸化剤極と同じ抄紙法で製造した成形シートを160mm×160mmに切断して電極基材シートを作製した。酸化剤極と同じPTFE含浸工程を2回実施し、カーボンシートを製造した。このカーボンシートに酸化剤極と同じ方法でカーボンブラック粒子を含浸し、PTFE含浸工程を実施した。
【0053】
白金担持カーボンの代わりに白金/ルテニウム担持カーボン(白金含有量30wt%、ルテニウム含有量15wt%)を使用する以外、酸化剤極と同じ方法で、カーボンブラック粒子を含浸させたカーボンシートの一方の面に触媒を担持し、燃料極を製造した。燃料極に担持された白金量は、燃料極の単位面積当たりでは約0.3mg/cmであった。
【0054】
以上のように酸化剤極と燃料極で製造工程を変えて製造する目的は燃料電池内部での水の挙動によるものである。即ち、燃料電池で発電し始める初期の状態では水分を両極側から補給する必要があり電極の触媒が水浸しになるのを避けるため両極とも十分安定した撥水効果が求められるが、発電が安定すると酸化剤極では電極反応による生成水が生ずるのでより十分な撥水効果が必要であり、燃料極では電極反応で生成した水素イオンが水を伴って電解質中を移動するので水を取り込む役割があり触媒近傍のカーボンブラック粒子には親水性が必要であるためである。
【0055】
(比較例1)
<酸化剤極の作製>
電極基材シートとして、市販の厚さ0.23mmのカーボンペーパー(東レ社製、TGP−H−060)を160mm×160mmに切断して用い、実施例1と同じ方法でPTFE含浸工程を実施し、カーボンシートを製造した。このカーボンシートのガス通気性を実施例1と同じ方法で評価したところ、3.7secで、実施例1よりガス通気性が低かった。また、このカーボンシートの電気抵抗を実施例1と同じ方法で評価したところ、3.4mΩであった。
【0056】
実施例1と同じ方法で、前記カーボンシートの一方の面に白金担持カーボンを約300μmの厚さで塗布して酸化剤極を製造した。この酸化剤極に担持された白金量は、酸化剤極の単位面積当たりでは約0.4mg/cmであった。
【0057】
<燃料極の作製>
白金担持カーボンの代わりに実施例1の白金/ルテニウム担持カーボンを使用した以外、酸化剤極と同じ方法で、燃料極を製造した。この燃料極に担持された白金量は、燃料極の単位面積当たりでは約0.3mg/cmであった。
【0058】
(評価方法1)
図1は、燃料電池用電極の評価に使用した単セルの断面図である。
【0059】
酸化剤極1と燃料極2で固体高分子電解質膜3(米国デュポン社製、ナフィオン112、膜厚約50μm)を酸化剤極触媒層1a及び燃料極触媒層2aがそれぞれ前記固体高分子電解質膜3に接する面にして挟持しホットプレス(160℃、80kg/cm、3分間)して電極ユニット10を作製した。この電極ユニット10を、空気供給口5a、空気通流溝7a、空気排出口6aが設けられたセパレータ4aと水素供給口5b、水素通流溝7b、水素排出口6bが設けられたセパレータ4bで挟んで単セル20を作製した。
【0060】
空気供給口5aより空気通流溝7aを介して酸化剤極1に2.5atmの空気を、水素供給口5bより水素通流溝7bを介して燃料極2に2.5atmの水素を供給した。水分の加湿はバブリング法により空気及び水素ともに水蒸気を供給して行った。セパレータ4aとセパレータ4bの電気端子から発電した電気を取り出し、外部の可変抵抗8で抵抗を変えて電流密度とセル電圧を測定して評価した。
【0061】
(評価結果1)
図2は実施例1及び比較例1の評価結果を示すグラフ図である。横軸は電流密度、縦軸はセル電圧である。100は実施例1の評価結果であり、200は比較例1の評価結果である。実施例1は比較例1とほぼ同じ特性を持っている。
【0062】
実施例1は本発明の燃料電池電極であり、比較例1は従来技術の燃料電池電極である。本発明の燃料電池電極はカーボン繊維とパルプを混合して抄紙するという簡単で量産性のある方法で製造できるので低コストとなる。
【0063】
以上のように、本発明のカーボンシートで作製した電極は電気伝導度及び電池特性で従来の高コストのホットプレスで製造したカーボンペーパーと同等かやや優れている。ガス通気性は従来のカーボンペーパーよりはるかに高くなっている。
【0064】
実施例1では、カーボンシートを成形するのに抄紙法を用いたが、これに限定されず、例えば、不織布を製造する方法やカーボン繊維と結合材を含むスラリーからドクターブレード法などでシート成形する方法などがある。また抄紙するときスラリーにパルプ等の繊維以外に有機系の分散剤や他の有機結合材を同時に入れてもよい。
【0065】
次に、撥水材粒子分散液の分散媒を吸収できる分散媒吸収材料の効果に関する実施例を示す。この実施例では、結合材であるパルプが分散媒吸収材料の役割を兼ねているが、それぞれ別の材料を使用してもよい。分散媒吸収材料として、分散媒が水性の場合、ポリアリル酸塩系、ポリビニルアルコール系、ポリアクリルアミド系などの吸水性樹脂がある。また、分散媒が油性の場合、ポリノボルネン、アルキルスチレン、アルキル(メタ)アクリレートなどの吸油性樹脂がある。
【0066】
(実施例2)
<酸化剤極の作製>
カーボン繊維であるカーボンファイバーの短繊維(太さ14.5μm、長さ6mm)と繊維であり、分散媒吸収材料であるパルプを4:6の重量比で水に分散して抄紙用のスラリーをつくった。このスラリーを抄紙して厚さ約0.3mmの成形シートを製造する。この成形シートを160mm×160mmに切断して電極基材シートを作製した。
【0067】
PTFE粒子分散液(ダイキン工業社製、D−1グレード、PTFE粒子60wt%含有)をPTFE粒子濃度が8wt%になるように水で希釈したPTFE粒子分散希釈液に前記電極基材シートを2分間浸漬した。この電極基材シートは多孔質であるので内部に前記PTFE粒子分散希釈液が浸透し含浸した。
【0068】
前記電極基材シートを約80℃で水分を蒸発させた後、大気中390℃で60分保持してPTFE粒子をカーボン繊維の表面に固着させると同時に前記電極基材シートに含まれているパルプを酸化してガス化して除去し、撥水材が含有されたカーボンシートを製造した。
【0069】
前記PTFEは、前記電極基材シートに撥水性を付与するとともに除去された前記パルプに替わってカーボンファイバーを結合する結合材の役割を果たしている。これにより前記カーボンシートの形状を保持することができる。
【0070】
このカーボンシートに、実施例1の酸化剤極と同じ方法でカーボンブラック粒子を含浸し、PTFE含浸工程を実施した。さらに、実施例1の酸化剤極と同じ方法で、前記カーボンシートの一方の面に触媒を担持し酸化剤極を製造した。この酸化剤極に担持された白金量は、酸化剤極の単位面積当たりでは約0.4mg/cmである。
【0071】
<燃料極の作製>
PTFE粒子分散液のPTFE粒子濃度が20wt%であること以外は、上記の酸化剤極と同じ方法でカーボンシートを作製した。このカーボンシートに、実施例1の酸化剤極と同じ方法でカーボンブラック粒子を含浸し、PTFE含浸工程を実施した。さらに、実施例1の燃料極と同じ方法で、前記カーボンシートの一方の面に触媒を担持し燃料極を製造した。この燃料極に担持された白金量は、この燃料極の単位面積当たりでは約0.3mg/cmである。
【0072】
(比較例2)
電極基材シートとして市販の厚さ0.23mmのカーボンペーパー(東レ社製、TGP−H−060)を用いた以外は、実施例2と同じ方法で酸化剤極用カーボンシート、燃料極用カーボンシートを作製した。この酸化剤極用カーボンシート、燃料極用カーボンシートの一方の面に、それぞれ実施例2の酸化剤極、燃料極と同じ方法で触媒を担持し、酸化剤極、燃料極を作製した。
【0073】
(比較例3)
電極基材シートとして市販の厚さ0.23mmのカーボンクロス(日本カーボン社製、P−7)を用いた以外は、実施例2と同じ方法で酸化剤極用カーボンシート、燃料極用カーボンシートを作製した。この酸化剤極用カーボンシート、燃料極用カーボンシートの一方の面に、それぞれ実施例2の酸化剤極、燃料極と同じ方法で触媒を担持し、酸化剤極、燃料極を作製した。
【0074】
(評価方法2)
評価は、カーボンシートの撥水材担持量測定、電気抵抗測定、撥水性耐久試験及び電極の電池性能耐久試験で行った。
【0075】
前記撥水材担持量は、カーボンシート中のカーボン繊維重量に対する、撥水材であるPTFEの重量百分率で測定した。前記電気抵抗は、カーボンシートを直径35.7mm(面積10cm)に切り抜き、2枚の同サイズの銅電極で挟み込み、40kgf/cmの加重下で測定した。前記撥水耐久試験は、カーボンシートを80℃の熱水上に浮かべて保持し、浮かび続ける時間を測定して行った。
【0076】
前記電池性能耐久試験は、評価方法1と同じ方法で単セルを作製し、酸化剤極1に1.1atmの純酸素を、燃料極2に1.1atmの純水素を供給して行った。それぞれのガス利用率はいずれも80%である。固体高分子電解質膜3を湿潤させるために、純酸素、純水素をそれぞれ50℃、70℃の水にくぐらせ、加湿状態で供給した。単セルの温度は、80℃に常時保持した。この時のセパレータ4aとセパレータ4bの電気端子の電流と電圧を測定した。評価は、電流密度を0.75A/cmに一定としたときのセル電圧の経時変化をモニターして行った。
【0077】
(評価結果2)
表1に、実施例2、比較例2、3の酸化剤極、燃料極用に製造したカーボンシートのPTFE担持量、電気抵抗を示す。実施例2の酸化剤極、燃料極用のカーボンシートとも、従来技術で製造した比較例2、3の酸化剤極、燃料極用のカーボンシートに比較して、3倍以上のPTFE(撥水材)を担持されている。20wt%のPTFE濃度のPTFE粒子分散液で処理した場合、実にカーボンファイバーに対して160wt%以上のPTFEを担持させることができる。実施例2の酸化剤極、燃料極用のカーボンシートは、PTFE担持量が多いにも関わらず、電気抵抗は比較例2、3のカーボンシートより小さい。
【0078】
実施例2の電極基材シートをPTFE粒子分散液に浸漬すると、分散媒吸収材料であるパルプが、PTFE粒子分散液の分散媒である水を吸収する。この水と一緒にPTFE粒子がパルプに集合して付着する。390℃の焼成によりパルプは酸化してガス化し除去されると同時に、PTFE粒子が溶融してカーボンファイバーの結合材の働きをする。
【0079】
この結果、パルプが占めていた空間に重点的に多量のPTFEを担持することができる。これにより、カーボンファイバーのマトリックス構造を保持し、カーボンファイバー同士の接触状態を維持できるので、電気抵抗の増加を抑えることができ、電気伝導性に優れたカーボンシートができる。
【0080】
【表1】
Figure 0004238423
【0081】
表2に、実施例2、比較例2、3の燃料極用に製造したカーボンシートの撥水性耐久試験結果を示す。比較例2、3のカーボンシートは、いずれも5日以内に熱水中に沈んでしまうのに対し、実施例2のカーボンシートは7日以上たっても最初と同様に熱水上に浮かんでいた。比較例2、3は、PTFE担持量が少ないため、撥水性の耐久性が低いためと考えられる。
【0082】
【表2】
Figure 0004238423
【0083】
表3に、耐久試験時間が、0、100、500時間の電流密度0.75A/cmにおけるセル電圧である。±で示した数字は、試験時間から3時間の間のセル電位の変動幅である。実施例2のセル電圧はほとんど変化しなかったが、比較例2、3ではセル電圧が減少し、セル電圧の変動幅も大きくなった。これは、比較例2、3の撥水性が低下したことによると考えられる。
【0084】
【表3】
Figure 0004238423
【0085】
なお、本発明のカーボンシートは、燃料電池の電極として用いられる以外に、ガス通気性を利用して空気清浄器の静電フィルター、耐腐食性フィルターなどのフィルターやNi−MH電極の集電体としても利用できる。
【0086】
【発明の効果】
以上のように、本発明は、カーボン繊維とパルプとを水に分散したスラリーを用いて抄紙し乾燥して成形シートを成形する第1工程と、前記成形シートをポリテトラフルオロエチレン粒子分散液に浸漬する第2工程と、その後、前記成形シートを焼成して前記ポリテトラフルオロエチレン粒子を固着させると同時に前記パルプを酸化除去する第3工程と、前記成形シートにカーボンブラック粒子を含浸する第4工程と、を備えていることを特徴とするカーボンシートの製造方法及びこのカーボンシートの一方の面に触媒を担持することを特徴とする燃料電池用電極の製造方法であるので、低コストで撥水性の耐久性に優れたカーボンシート及び低コストで耐久性に優れた燃料電池用電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】燃料電池用電極の評価に使用した単セルの断面図
【図2】実施例1及び比較例1の評価結果を示すグラフ図
【符号の説明】
100…実施例1の評価結果
200…比較例1の評価結果

Claims (4)

  1. カーボン繊維とパルプとを水に分散したスラリーを用いて抄紙し乾燥して成形シートを成形する第1工程と、
    前記成形シートをポリテトラフルオロエチレン粒子分散液に浸漬する第2工程と、
    その後、前記成形シートを焼成して前記ポリテトラフルオロエチレン粒子を固着させると同時に前記パルプを酸化除去する第3工程と、
    前記成形シートにカーボンブラック粒子を含浸する第4工程と、を備えていることを特徴とするカーボンシートの製造方法。
  2. さらに、前記第4工程の後にポリテトラフルオロエチレン粒子分散希釈液に浸漬する第5工程と、
    その後、水分を蒸発させて前記ポリテトラフルオロエチレン粒子を前記カーボンブラック粒子の表面に固着させる第6工程と、を備えていることを特徴とする請求項1記載のカーボンシートの製造方法。
  3. 前記第4工程において、スクリーン印刷法で前記カーボンブラック粒子を含むペーストを含浸させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のカーボンシートの製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のカーボンシートの一方の面に触媒を担持することを特徴とする燃料電池用電極の製造方法。
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