JP4238381B2 - ピレン修飾rna、およびrnaの分析方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、修飾RNAとこのRNAによるRNAの検出方法に関するものである。更に具体的には、蛍光標識したRNAとその応用に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ハイブリダイズに基づくDNAやRNAの分析技術には、多くのバリエーションが知られている。しかし、通常はプローブとしてDNAが利用されることが多い。これはDNAの合成が容易であること、DNAにおいて様々な標識技術が知られていること、あるいはRNAに比べてDNAが安定であることといった理由のためである。DNAの標識には、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質、リガンド、酵素等が用いられる。いずれの標識を利用するにしろ、通常はハイブリダイズしなかったプローブを標識の検出に先立って除去する必要がある。ハイブリダイズしなかったプローブの除去は、何らかの手段によりハイブリダイズした標的配列とプローブを固相に保持させ、これを洗浄する方法が一般的である。固相と液相という異なる相で反応系が構成されることから、この種の分析方法は不均一系分析と呼ばれる。不均一系分析は、洗浄のために作業行程が増えること、ハイブリダイズ生成物が洗浄によって失われ感度低下につながる恐れが有ること、逆に不十分な洗浄によるバックグランドの上昇が結果的に感度の低下を招くこと等の問題点を有していた。未反応プローブの洗浄が分析結果を左右する例として、インサイチュハイブリダイゼーションアッセイがある。通常のインサイチュでのハイブリダイゼーションアッセイでは、未反応のプローブの洗浄程度が結果に大きな影響を与える。残留するプローブがバックグランドノイズにつながるため、正確な観察がむずかしくなるのである。より完全な洗浄効果を得るために、未反応のプローブを酵素で分解することもある。また無関係なRNAや不活性タンパク質の添加による非特異的な吸着の防止対策も一般に行われている。
【0003】
不均一系の問題点を解消するために、均一系による分析技術が試みられた。均一系分析では、ハイブリダイズしたときとしなかったときで、標識に起因するシグナルに違いを生じるような系を組み合わせることで、不均一系で必須とされている洗浄・分離操作を省略している。均一系分析の代表的なものが、ハイブリダイズによる分子の接近をシグナルの変化に関連付ける方法である。たとえば接近により蛍光シグナルの強度が変化する2種類の分子で2つのオリゴヌクレオチドプローブを標識する。オリゴヌクレオチドの塩基配列が標的配列上で隣接するように設計すれば、ハイブリダイズによって2つの分子が接近し、ハイブリダイズしなかったときとは異なった蛍光シグナルを発することになる。このような標識物質の組み合わせには、蛍光ドナーとその蛍光を吸収する蛍光アクセプターが公知である。フルオレセイン(蛍光ドナー)の蛍光強度は、ローダミン(蛍光アクセプター)との接近により弱まり、代わってローダミンの蛍光シグナルが増強される(Pro.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.85,8790-8794,1988)。同じような標識を組み合わせて競合阻害による反応原理を構成した公知例もある(Anal. Biochem.183,231-244,1989)。蛍光ランタニドキレートがサリチル酸残基との接近によって蛍光強度を増大する現象も均一系ハイブリダイゼーションアッセイに応用されている(Angew, Chem.Int.Ed.Engl.29/10,1167-1169,1990)。更にアクリジン誘導体をエチジウム誘導体と組み合わせ、3重鎖形成に伴う両者の接近を蛍光シグナルの変化として捕らえる方法が公知である(Biochemistry,33,15321-15328,1994)。異なる分子の接近をシグナルの変化に関連付ける原理に基づく方法では、2種類以上の標識プローブを用意しなければならないのでコストアップにつながりやすい。また試薬構成が複雑なために、実験室レベルの小規模な分析に応用しにくい。
【0004】
複数種の標識プローブを用いるこれらの公知技術に対して、1種類の標識プローブによって均一系の分析を実施した報告も存在する。すなわちヌクレオチドプローブの5'末端に導入されたルテニウムキレートは、プローブが1本鎖の状態では蛍光活性を示さないが、相補的な塩基配列にプローブがハイブリダイズして2本鎖を形成すると蛍光シグナルを生成する(J.Am.Chem.Soc.Vil.114,No.22,8736-8738,1992)。しかし標識プローブは1種類ですむものの、その合成操作は複雑である。また、蛍光強度の増強効果が塩基配列によって変動するため、定量的な分析は困難である。またヘキスト33258のようなDNAマイナーグローブ検出試薬を結合したDNAプローブが、2本鎖を形成したときに観察される蛍光強度の増強を均一系のハイブリダイゼーションアッセイに応用した方法が公知である(J.Am.Chem.Soc.118,7055-7062,1996)。この方法においても標識オリゴヌクレオチドの合成は煩雑であるし、A-T塩基対特異性を持つという特性上、シグナルの強度は配列に依存する。
【0005】
このような均一系分析の試みの一つとして、蛍光物質であるピレンを導入したデオキシウリジンを取り込ませたオリゴヌクレオチドをプローブに使用する方法が報告された(Nucleic Acids Symposium Series, No.35,117-118,1996; Nucleosides & Nucleotides,11,383-390,1992)。これらの報告は、ウリジンに共有結合したピレンは、そのウリジンがオリゴヌクレオチドへ取り込まれることにより蛍光シグナルを失うが、当該オリゴヌクレオチドの相補的なRNAとのハイブリダイズによって蛍光シグナルを復活するという原理に基づいている。この方法は、1種類の標識しか利用しないので操作性やコストの面で有利である。しかしこのときに観察される蛍光強度の増加は、もとのピレン分子の蛍光強度に対してわずかに数%前後ときわめて低く、実際の分析に応用するには感度の点で改善の余地を残していた。また、配列を構成する塩基によって蛍光量子収率が上下することがあり、定量的な分析には応用しにくい面が有った。ピレンの他ではDNS(5-dimethylaminonaphthalene-1-sulfonate)誘導体を蛍光標識化合物に用い、同様の均一系分析を試みた報告も有る(Tetrahedron, Vol.55,No.12,4265-4270,1997)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、1種類の標識化合物に基づく単純な反応系でありながら、感度や特異性を高い水準で維持することができる均一系による新規なRNAの検出方法の提供にある。加えて本発明は、この新しい検出方法を実現するための、新規なピレン修飾RNAの提供をも課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ピレンを導入した塩基をその構成塩基配列の中に含むRNAと、このRNAをプローブとしてRNAにハイブリダイズさせて蛍光強度の変化を観察し標的塩基配列を含むRNAの検出を行うことで、前記課題を解決した。
すなわち本発明は、
[1]ピレンを導入した塩基をその構成塩基配列の中に含むRNA であって、前記ピレンを導入した塩基が、ウリジン残基の 2' 位の -OH 基に前記ピレンを共有結合させたものであるRNA、
[2]標的塩基配列を含む被検RNAの検出方法であって、前記標的塩基配列に相補的な塩基配列を持つ[1]のRNAを被検RNAにハイブリダイズさせ、ハイブリダイズによるピレンの蛍光シグナルに基づいて被検RNAを検出する方法、
[3]標的塩基配列を含む被検RNAの特定の部位における変異検出方法であって、前記標的塩基配列に相補的な塩基配列を持ち、検出すべき変異が生じる部位近傍に対する塩基にピレンを導入した[1]のRNAを被検RNAにハイブリダイズさせ、ハイブリダイズによるピレンの蛍光シグナルに基づいて変異を検出することを特徴とする変異検出方法、および
[4]被検RNAが、mRNA、リボソーマルRNA、RNAウイルスのゲノム、およびDNAを鋳型として転写されたRNAで構成される群から選択される[3]の変異検出方法、に関する。
【0008】
本発明者らは、前記課題解決のために、ピレンを導入したウリジンをその構成塩基配列の中に含むRNAを新規に合成した。ピレンをウリジンに導入する方法は既に知られているので、得られるピレン導入ウリジン誘導体をもとにオリゴリボヌクレオチドの合成を行うことによって本発明のRNAを得ることができる。
【0009】
ピレンは単独では青い蛍光を示すが、オリゴリボヌクレオチドに取り込まれるとその蛍光活性を失ってしまう。本発明者らは、このオリゴリボヌクレオチドが相補的な塩基配列を持つRNAにハイブリダイズすると、失われていたピレンの蛍光活性を取り戻すことを見出した。このときに得られる蛍光強度は、ピレン単独の場合の80%以上にも及んだ。更に、ハイブリダイズによるピレンの蛍光強度の回復のレベルは、ウリジンに導入した状態にあるピレンの蛍光強度をしのぐことを確認した。ピレンの蛍光強度は、ウリジンへの導入、ピレン導入ウリジン誘導体のオリゴリボヌクレオチドへの取り込みと、合成ステップを進めるのにしたがって、しだいに小さくなる。つまりピレン単独のときよりもウリジンに導入したときの方が蛍光強度は小さいのである。にもかかわらず、本発明者らは、そのピレン導入ウリジン誘導体で構成されるオリゴリボヌクレオチドが相補鎖RNAにハイブリダイズした場合には、ピレン導入ウリジン誘導体における蛍光強度よりも大きな蛍光シグナルを発することを明らかにしたのである。
【0010】
先行技術において引用したように、同じピレン導入ウリジン誘導体を用いても、DNAプローブとして合成した場合には、ハイブリダイズによる蛍光強度の回復程度はわずかに数%にすぎない。したがって、均一系の分析に応用するには、感度の点で解決すべき課題を残していた。本発明においては、ピレン導入ウリジン誘導体をRNAプローブとして利用することにより、高感度な均一系分析を可能とする新たな分析技術を完成した。
【0011】
また本発明者らは、ハイブリダイズによる蛍光強度の復活は、ピレンを導入した塩基がハイブリダイズしているかどうかに大きな影響を受けることを見出した。すなわち、本発明によるピレン修飾RNAがミスマッチを伴って相補鎖とハイブリダイズするとき、ピレンを導入した部位にミスマッチがあると、全体としてはハイブリダイズしていても蛍光強度の増強は観察されないのである。
【0012】
以上のような特徴に基づいて、本発明によるピレン導入RNAは、相補的な塩基配列を持つRNAの検出に応用することができる。本発明によるピレン修飾RNAは、更に変異の検出に応用することもできる。以下に本発明の実施の形態について詳細に述べる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明におけるピレン修飾したRNAは、ピレンを導入したウリジン誘導体を基質としてRNAを合成することにより簡単に得ることができる。ウリジンへのピレンの導入は公知である(Tetrahedron Lett.Vol.32,No.44,6347-6350,1991)。たとえば図1に示す合成スキームにしたがってウリジンの2'位水酸基にピレンを導入することができる。すなわち、適当な保護基でウリジンの3'位と5'位を保護し、これにピレンを導入する。ついでDNA合成装置による化学合成が可能となるように、更に3'位の-OHをリン酸化して最終的に4,4'-ジメトキシトリチル−ウリジン(pyr)アミダイトを得ることができる。本化合物は、DNA合成装置においてウリジントリフォスフェートと同じようにウリジン;Uの付加に利用することができる。現在広く普及しているDNA合成装置は、ホスホルアミダイト法に基づく合成ステップを自動化している。この種の自動分析装置においては、dNTPに換えて適当な誘導体を用いればオリゴヌクレオチドの誘導体を得ることができる。RNAの合成においても同じように、NTPに換えてそのピレン誘導体を用いれば、生成物であるオリゴリボヌクレオチドに目的とするピレン修飾を施すことができるのである。
【0014】
またRNAを酵素的に合成するには、目的とする塩基配列に相補的な塩基配列を持つDNAやRNAを鋳型として、RNAポリメラーゼの作用により相補鎖合成を行う方法を採用することができる。RNAポリメラーゼには、DNAを鋳型とするものと、RNA依存性のものが知られている。前者のDNAを鋳型として相補鎖合成を行うものとしては、SP6RNAポリメラーゼ、T7RNAポリメラーゼ、あるいはT3RNAポリメラーゼ等が市販されている。RNAを鋳型とするものでは、Qβレプリカーゼがある。いずれのRNAポリメラーゼも、相補鎖合成のためにはプロモーターを必要とする。したがって、本発明によるピレン修飾RNAを酵素的に合成するには、鋳型となる配列の上流にRNAポリメラーゼによって認識されるプロモーター領域を配置した構造が必要となる。SP6、T3、またはT7等のプロモーターを含むベクターが市販されているので、検出対象とする遺伝子をこのベクターに組み込み、直鎖化した後にプロモーターに応じたRNAポリメラーゼによって転写を行わせれば良い。反応系に混在する鋳型DNAは、RNAの合成後にDNAseで酵素的に分解除去することができる。RNAの酵素的な合成に当たっては、「RiboMAX」(プロメガ社製、商品名)のような、前記転写反応に必要な基質やベクターなどを組み合わせた市販のキットを必要に応じて利用すると便利である。
【0015】
いずれの合成方法においても、ピレンを導入したウリジン誘導体は、もとのウリジンとほぼ同じように挙動する。したがって、通常の合成条件のままピレン修飾ウリジン誘導体を用いれば、合成されるRNAはUの部分でピレン修飾されることになる。また、もしもUの構成比率の大きな塩基配列をプローブとするときには、1本のRNAが多くのピレンによって修飾されることになる。RNA1本あたりのピレンの分子数が多くなれば、それだけハイブリダイズしたときの蛍光強度が強まることから、高感度な分析系とすることができる。ただし、ピレンの修飾によって若干のTm値の低下が起きるため、無制限なピレンの導入は場合により反応性の低下をもたらす恐れがある。一般的な検出条件において、本発明によるピレン修飾RNAにおける1分子当たりのピレンの分子数は、1-10分子としておけば十分な感度を期待することができる。
【0016】
本発明によるRNAを、ハイブリダイゼーションアッセイ用のプローブとして利用できるように、予想されるストリンジェンシーの基で標的配列に対し、プローブ全体として、十分な特異性と親和性を維持できるように設計することは、当業者には自明である。通常の条件では10-500bp、望ましくは15-30bp程度の鎖長を持ち、標的塩基配列に特異的に存在する塩基配列に対して相補的な塩基配列とするのが適当である。なお反応液のストリンジェンシーは、主に配列を構成する塩基の構成、並びに緩衝液の組成と温度によって決まる。これらの関係は一定の関係を持つことが知られているので、算出されるTmよりも5-15℃低い温度でハイブリダイズを行うのが一般的である。
【0017】
本発明のピレン修飾RNAの塩基配列は、標的塩基配列に対して必ずしも完全な相補性を保証する必要はない。すなわち、全体として特異性を維持しつつハイブリダイズすること、ピレンで修飾した部位に相当する塩基の少なくとも1つは相補とすること、という2つの条件を満足するものであれば良い。多少のミスマッチを含みながらもハイブリダイズしうる配列を利用することにより、たとえば一定の類似性を持ったものを1種類のプローブでまとめて検出する系を構成することもできる。
【0018】
本発明によるピレン修飾RNAは、予想される標的塩基配列の最大濃度に対して、過剰となるように加えると、感度向上の点では有利である。本発明によるRNAプローブと被検RNAとのハイブリダイゼーション反応は、一般的なRNA-RNAハイブリッド形成のための反応条件の下で行うことができる。通常、緩衝液には塩濃度100mM以上、pH6-9のものを利用し、RNAの安定化を目的としてEDTAを1mM程度添加しておくこともできる。たとえば、100mMのNaCl、10mMリン酸緩衝液(7.0)に1mMのEDTAを加えた緩衝液は、本発明によるRNAプローブのハイブリダイゼーション反応に好適な緩衝液である。
【0019】
標的塩基配列とハイブリダイズした本発明のピレン修飾RNAの蛍光強度の増強は、338nmの励起光を用い、380nm前後における蛍光強度の変化によって測定することができる。ハイブリダイズしなかったものでは蛍光をほとんど発しないため、これを分離すること無く反応液を直接蛍光計数用の試料とすることが可能である。
【0020】
ピレンの蛍光を観察するときに、蛍光測定サンプルの中にピレンの蛍光活性に対して蛍光消光剤として作用する物質が混入しないように注意する。たとえばアクリルアミドは蛍光消光作用を持つので、蛍光測定系へ多量に混入しないようにするのが望ましい。もっとも、一般的な試料では多量の蛍光消光性物質が混入することは希である。
【0021】
本発明のピレン修飾RNAは、様々な検出系に応用することができる。もっとも基本的な態様の一つは、液相中に存在するRNAの検出である。たとえば、血液、喀痰、各種組織から採取された粘液、あるいは生検試料といった生体試料について、その中に病原体や疾病遺伝子に由来するRNAが存在するのかどうかを試験することができる。これらの試料には、mRNA、リボソーマルRNA、あるいはRNAウイルスのゲノムといったRNAが存在する可能性がある。検出に当たっては、試料を適当な緩衝液で希釈したり、あるいは適宜抽出操作を行って、本発明のピレン修飾RNAと接触させれば良い。
【0022】
本発明のピレン修飾RNAは、液相中のRNAのみならず細胞や組織の中に存在するRNAをも検出の対象とすることができる。すなわち、インサイチュにおけるハイブリダイゼーションアッセイである。細胞の中にあるmRNAは、遺伝子の発現状態を知るうえで重要な情報源である。またリボソーマルRNAは、1細胞中に多量に含まれることから、その塩基配列を検出対象とするときには高い感度を期待できる。本発明ではインサイチュハイブリダイゼーションにおいても洗浄を必要としないことから、感度や特異性を犠牲にすること無く操作を大幅に簡略化できることになる。
【0023】
インサイチュハイブリダイゼーションでは、分析すべき細胞や組織を適当な方法で固定し、これに標識プローブをハイブリダイズさせる。ハイブリダイズは通常のハイブリダイゼーションバッファー中で行う。たとえば次のような組成が一般に用いられている。
5M NaCl
0.5M EDTA
20xDenhardt
50% Dextrun sulfate
20mg/ml E.coli tRNA
1.0MのTris-HCl pH8.0
【0024】
インサイチュハイブリダイゼーションのためのプローブの長さは、一般に1kbp以下、通常10-500bpとされている。従来のインサイチュハイブリダイゼーションアッセイでは、ハイブリダイズの後に洗浄が必要となるが、本発明ではこのまま蛍光顕微鏡で観察することができる。
【0025】
液相系の場合にしろ、インサイチュでの反応にしろ、生体試料との反応においては、試料中に存在するリボヌクレアーゼが本発明のピレン修飾RNAを分解する恐れがある。ピレン修飾RNAの分解は、ピレンを導入したリボヌクレオチドを遊離し、非特異的な蛍光の原因となってしまう。この問題の対策として、予めリボヌクレアーゼの阻害剤をプローブと共存させておくこともできる。リボヌクレアーゼの阻害剤には、市販のものを利用することができる。あるいは、0.01%のDEPCとインキュベーションすれば、共存するリボヌクレアーゼ活性を除去することができる。
【0026】
本発明によって検出可能なRNAは、もともとRNAとして存在しているもののみならず、DNAやRNAを鋳型として転写されたRNAであっても良い。各種RNAポリメラーゼは、適切な反応条件下で、少量の鋳型配列をもとに数百コピー、あるいはそれをはるかに越えるコピー数の相補RNAを転写生成物として与える。したがってRNAポリメラーゼの転写生成物を本発明によって分析すれば、きわめて高い感度を達成できる。T7RNAポリメラーゼやQβリプリカーゼを利用したRNAの転写反応に基づく遺伝子やシグナルの増幅方法が公知である。ここで、遺伝子の増幅とは標的となる塩基配列が鋳型となって増幅が行われることを意味する。一方、シグナルの増幅とは、標的配列の存在によって特定の増幅反応系がトリガーされ、一定の配列を持ったRNAが多量に転写されることを意味する。後者においては、標的配列そのものは転写されることが無く、他の配列の転写反応をトリガーするだけである。いずれの反応においても、なんらかの形で一定の配列を持ったRNAが多量に生成することから、この反応生成物を本発明のピレン修飾RNAで検出することが可能である。特にシグナル増幅反応系と組み合わせたときには、反応の進行をリアルタイムに観察可能なことから、ユニークな反応系を構成できる。すなわち、標的塩基配列によってトリガーされるRNA転写反応系と、本発明によるピレン修飾RNAとを同時に試料と混合する。標的塩基配列が存在すればRNA転写系によって特定の塩基配列を持った転写生成物が多量に生じる。ピレン修飾RNAの塩基配列を、この転写生成物に相補的な配列としておけば、転写反応の進行を蛍光強度の上昇としてリアルタイムに観察することが可能である。ピレン修飾RNA自身は、RNA転写反応に対して何も関与しないので、このような反応系が構成できるのである。
【0027】
一方、標的塩基配列自身が転写される反応系においては、本発明のピレン修飾RNAは標的配列と同じ塩基配列を持つことになるので、転写反応と同時に存在することはできない。したがって転写反応終了後に添加し、転写生成物とのハイブリダイズを行わせることになる。
【0028】
本発明に基づくRNAの検出方法は、特定の標的配列の存在の検出のみならず、変異の検出に応用することができる。本発明のピレン修飾RNAが、ミスマッチ部位で修飾されている場合には蛍光の回復が観察されないことは既に述べた。本発明によれば、部位特異的にピレン修飾を行うことができるので、変異の検出が必要な部位をピレン修飾しておけば変異の検出が可能である。部位特異的にピレン修飾するには、RNAプローブを化学合成するときに、特定の塩基の伸長反応のときのみ、ピレン導入ヌクレオチドを取り込ませるのである。酵素的な合成方法では部位特異的な修飾が難しいので、ミスマッチ検出を目的とするRNAプローブは化学合成するのが望ましい。
【0029】
このようなミスマッチの検出が意味を持つ分析用途として、ras遺伝子の点突然変異を挙げることができる。ヒトのがん組織ではras遺伝子が点突然変異や遺伝子再編により活性化されていることが見出されていることから、rasの点突然変異の検出はがんの診断において重要な意味を持つ。たとえば、膵臓がん、胆道がんにおいてはK-rasの変異が高頻度で観察される。またリンパ球系の腫瘍においてはN-rasの変異が多く見られる。ヒトK-rasはM54968として、またヒトN-rasはL00040として塩基配列がGenBankにも登録されているので、これを基に必要なプローブを設計することができる(実験医学別冊BioScience用語ライブラリー癌遺伝子・癌抑制遺伝子;田矢洋一・山本雅 編、1997.10/10羊土社発行、p12-21)。
【0030】
一般的な標的配列の検出方法にしろ、変異の検出方法にしろ、本発明による各種検出方法に必要な試薬をまとめてキットとすることができる。本発明によるキットは、ピレン修飾したRNAプローブ、試料の希釈や抽出に必要な各種緩衝液、陽性や陰性を確認するための対照(コントロール)等で構成される。更にRNAの転写系との組み合わせにおいては、RNAの転写を行うためのプローブ、RNAポリメラーゼ、そしてリボヌクレオチドなどで構成される。
【0031】
【実施例】
1.ピレン修飾オリゴヌクレオチド誘導体の合成
【0032】
ピレン修飾オリゴヌクレオチド誘導体は、まずピレンを導入したウリジンを合成し、これをオリゴヌクレオチドの合成に用いることで得た。
【0033】
1−1.4,4'-ジメトキシトリチル−ウリジン(pyr)アミダイトの合成
【0034】
ピレン修飾オリゴヌクレオチド誘導体の合成に先立ち、まずピレン修飾ウリジンを合成した。合成スキームを図1に示した。
【0035】
水酸基の3'位と5'位をトリチル基(以下Tr基と省略する)で保護したウリジン(1)と1−クロロメチルピレン(2)をベンゼン−ジオキサン中で水酸化カリウム存在下で反応し、続いて0.5N―HClで処理することによりTr基の脱保護を行い、2'-O-(1-ピレニルメチル)ウリジン(3)を得た(図1のi)。(3)と4,4'-ジメトキシトリチル(以下DMTrと省略する)Clをピリジン中で反応させ、(3)の糖部5'位の水酸基をDMTr基で保護した(4)を得た後(図1のii)、次に(4)と2-シアノエチルN,N-ジイソプロピルホスホロジアミダイトをCH2C12中テトラゾール、ジイソプロピルアミンの存在下で反応させ(4)の糖部3'位の水酸基をリン酸化しDNA自動合成機に適用できる化合物(5)−DMTr-U(Pyr)アミダイト−にまで誘導した(図1のiii)。(1)〜(4)の化合物の確認はlH-NMRで行い、(6)の化合物の確認は31P-NMRで行った。
【0036】
1−2.ピレン修飾ウリジンによるオリゴヌクレオチド合成
【0037】
1−1の合成によって得られたホスホロジアミダイト試薬(5)を用いてPharmacia DNA自動合成機により、U(pyr)をDNA中に導入したオリゴデオキシリボヌクレオチド誘導体を3種類(DNAオリゴマー1〜3)、RNA中に導入したオリゴリボヌクレオチド誘導体(本発明によるRNAオリゴマー)を3種類(RNAオリゴマー4〜6)を合成した。以下に合成した各種オリゴヌクレオチド誘導体、あるいは対照として用意したオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。U(pyr)導入部位については、Uの3'側に(Pyr)を付けた。本発明によるRNAオリゴマー4〜6(配列番号:1−3)は塩基配列としては同じで、U(Pyr)導入位置のみが相違している。一方比較のために合成したDNAオリゴマーについては、U(Pyr)の導入位置でTがUに置換されることになるため、塩基配列としても3種類の異なったオリゴヌクレオチド(配列番号:4−6)となる。
【0038】
DNA Control 5'-dACATGCAGTGTTGAT-3'
相補鎖DNA 5'-dATCAACACTGCATGT-3'
DNAオリゴマー1 5'-dACAU(Pyr)GCAGTGTTGAT-3'
DNAオリゴマー2 5'-dACATGCAGU(Pyr)GTTGAT-3'
DNAオリゴマー3 5'-dACATGCAGTGU(Pyr)TGAT-3'
RNA Control 5'-rACAUGCAGUGUUGAU-3'
相補鎖RNA 5'-rAUCAACACUGCAUGU-3'
RNAオリゴマー4 5'-rACAU(Pyr)GCAGUGUUGAU-3'
RNAオリゴマー5 5'-rACAUGCAGU(Pyr)GUUGAU-3'
RNAオリゴマー6 5'-rACAUGCAGUGU(Pyr)UGAU-3'
【0039】
ピレンを有するオリゴヌクレオチド誘導体の合成に関しては、0.2μmolの合成スケールで行い、U(pyr)アミダイトユニット導入時以外は、通常の合成サイクル{縮合時間:2分(DNA)、5.4分(RNA)、投入アミダイト量:50μl(DNA)、100μl(RNA)}により合成し、U(pyr)アミダイトユニット導入時は、縮合時間を10分に延長し投入アミダイト量を120μlにする事により合成した。U(pyr)アミダイトユニット導入時の縮合効率は98%以上に達し、通常の未修飾のアミダイト試薬の縮合効率とほとんど変わらない結果が得られた。得られたオリゴヌクレオチド誘導体及びオリゴデオキシリボヌクレオチド誘導体は、20%変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製し、WATERS SEP―PACK C18カートリッジにより脱塩処理した。脱塩処理後RNAオリゴマーに関しては、0.01MHCl水溶液を用いて糖部2’位の水酸基のFpmp保護基を脱保護し、再度WATERS SEP―PACK C18カートリッジにより脱塩処理した。
【0040】
1−3.ピレンを有するオリゴリボヌクレオチド誘導体の確認
【0041】
合成したRNAオリゴマーは、マススペクトルにより確認した。マススペクトルは、イオンスプレー法の負イオンモードで測定した。負イオンはプロトンの引き抜きによって生成するので、計算式のプロトン質量数の符号を逆にし、各ピークから分子量を決定した。その結果を基に計算した値(実測値)と各RNAオリゴマーとの分子量(理論値)を表1に示した。マススペクトルから得られた値と各RNAオリゴマーとの分子量が一致したために目的のオリゴリボヌクレオチド誘導体であることを確認した。
一方、合成したDNA oligomaer1-3については、酵素分解によってヌクレオシドにまで分解し、その組成を液体クロマトグラフィーで分析することにより確認した。いずれのDNA oligomaerについても、塩基組成比は目的とする配列と一致し、目的のオリゴデオキシリボヌクレオチド誘導体であることを確認した。
【0042】
【表1】
【0043】
2.本発明によるRNAオリゴマーとその相補鎖DNAあるいはRNAとの相互作用1で合成した各種ピレン修飾オリゴヌクレオチドと、その相補的な塩基配列を持つDNA、あるいはRNAとの相互作用を観察した。
2−1.UV融解曲線 本発明によるRNAオリゴマーと、その相補鎖との結合状態を観察するため、2本鎖の温度変化に対する260nmにおける吸光度変化を測定した。0.1M NaCl含有0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0)中で、本発明のRNAオリゴマーと相補鎖とを1:1、また核酸の濃度を全体で4.27×10-5Mとし、これを80℃に加温後に室温まで徐冷してアニールさせたものをサンプルとした。窒素気流下0℃で20分間ホールドし、昇温速度0.5℃/min.で80℃まで4分間隔で繰り返しUVスペクトルを測定した。このスペクトルの260nmにおける吸収を読み取り、80℃での吸光度を1.0として相対吸光度をプロットした。得られたUV融解曲線は、図2(相補鎖DNA)、および図3(相補鎖RNA)に示した。DNAオリゴマーのときと同様にRNAオリゴマー4〜6のUV融解曲線は、いずれも典型的シグモイドカーブを示した。これらの結果からRNAオリゴマーは、天然型の未修飾のオリゴヌクレオチドと同様に低温側では2本鎖を形成し温度の上昇と共に一本鎖に解離していることが示された。UV融解曲線から得られたTm値を表2に示した。またピレン修飾したものと天然のものとのTm値の差をΔTm℃として表中に記載した。
【0044】
【表2】
表2からわかるように、RNAオリゴマーと相補鎖DNAあるいは相補鎖RNAとの二重鎖のTm値は、天然型の未修飾のオリゴヌクレオチドの二重鎖の値と比べてあまり変化していなかった。なおデータは示さないが、DNAオリゴマー1-3についても同様の測定を行ったところ、ピレン修飾によるTm値の変化は見られなかった。
【0045】
以上のことからピレンを有するオリゴリボヌクレオチド誘導体は、中性水溶液中で天然型の未修飾のオリゴヌクレオチドと同様に相補鎖DNAあるいはRNAと2本鎖を形成することが確認できた。ピレン修飾は、RNAオリゴマーと相補鎖DNA(または相補鎖RNA)との結合に対して特に影響を与えないものと考えられた。
【0046】
2−2.温度に対するUV吸収スペクトル変化
オリゴヌクレオチドへ導入されたピレンの蛍光スペクトルが、相補鎖との結合によってどのような影響を受けるのかを調べるために、温度変化に対する300-360nmにおけるUV吸収スペクトル変化(バンド幅5nm)を観察した。0.1M NaCl含有0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0)中で、本発明のRNAオリゴマーと相補鎖とを1:1、また核酸の濃度を全体で4.27×10-5Mとして測定した。得られた結果をプロットしたのが図4(相補鎖DNA)、および図5(相補鎖RNA)である。
【0047】
図4(相補鎖DNA)、および図5(相補鎖RNA)のいずれも、温度の上昇にともなって吸収極大の短波長シフトとアブソーバンスの増減が観測された。この低温域での吸収極大と高温域での吸収極大の短波長シフトから、ピレン周辺の環境が1本鎖と2本鎖の状態では異なっていることが推測された。また、RNAオリゴマーと相補鎖RNAとの組み合わせ(図5)での2本鎖形成温度(40-50℃)付近のUVスペクトルの形状が、同様にして求めたDNAオリゴマーのUVスペクトル(データは示さず)とはまったく異なっていた。このことから、RNAオリゴマー/相補鎖RNA2本鎖中におけるピレンの核酸塩基との相互作用は、他の組み合わせ(たとえばDNAオリゴマー/相補鎖DNA2本鎖)のものとは大きく異なっているものと推測された。
【0048】
2−3.本発明によるRNAオリゴマーと相補鎖DNA(または相補鎖RNA)の2本鎖形成と蛍光強度変化
本発明によるピレンを有するオリゴリボヌクレオチド誘導体に対して相補鎖DNA(または相補鎖RNA)を室温下で加え、2本鎖形成前後での蛍光スペクトル、並びに蛍光強度の変化を観察した。0.1M NaCl含有0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0)中で、本発明のRNAオリゴマーと相補鎖とを1:1、また核酸の濃度を全体で4.27×10-5Mとし、励起波長338nm、測定波長360-600nm(バンド幅5nm)で測定した。蛍光スペクトル変化の測定結果は図6(相補鎖DNA)および図7(相補鎖RNA)に示した。
【0049】
【表3】
【0050】
各RNAオリゴマーが相補鎖RNAと2本鎖を形成したときは、表3に示したように約15〜20倍の著しい蛍光強度の増大を示し、しかもDNAオリゴマーとは異なり蛍光強度の増大が塩基配列に依存しない結果が得られた。RNAオリゴマーが相補鎖DNAと2本鎖を形成したときは、一本鎖の約半分ぐらいに消光することが、各RNAオリゴマーで観測された。
【0051】
2−4.相補鎖RNAの濃度を変化させたときの蛍光強度の変化
本発明によるRNAオリゴマー6について、相補鎖RNAとのハイブリダイズと蛍光強度の増大との関連を調べるために、RNAオリゴマー6に相補鎖RNAを少しずつ加え蛍光強度の変化を測定した。結果は図8に示す。380nmでの蛍光強度を[RNAオリゴマー 6]/[complementaryRNA]比に対してプロットしていくと、濃度比が1に達するまでは蛍光強度が増大していき、濃度比が1以上になると蛍光強度の増大が観測されなくなった。このことによりRNAオリゴマーと相補鎖RNAは1:1で結合して蛍光強度の増大を示すことが明らかである。
【0052】
2−5.二重らせんの温度に対する蛍光スペクトルの変化
本発明によるRNAオリゴマー6と相補鎖RNAとによる蛍光強度の増大が、2本鎖形成によるものであることを確認するために、RNAオリゴマー6と相補鎖RNAとをリン酸バッファー中、等モルで混合したサンプルの各温度での蛍光強度(励起波長:338nm、測定波長:380nm)を測定した。結果は図9に示した。2本鎖を形成している17℃での蛍光強度は大きいが、半解離温度以上の60℃に達すると著しく消光している。消光したときの蛍光強度は、図7で示したRNAオリゴマー6だけの蛍光強度とほぼ一致していた。更に温度上昇によって低下した蛍光強度は、温度を17℃に戻すと昇温する前と同様の蛍光スペクトルに回復した。この実験結果と2−4の結果から、RNAオリゴマー6と相補鎖RNAが濃度比1:1で結合して2本鎖を形成したときに、その蛍光強度を著しく増大することが確認された。
【0053】
2−6.励起スペクトル測定
【0054】
本発明によるRNAオリゴマーの、2本鎖形成に伴う蛍光強度(380nm)増大のメカニズムを明らかにするために励起スペクトルを測定した。0.1M NaCl含有0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0)中で、本発明のRNAオリゴマーと相補鎖とを1:1、また核酸の濃度を全体で4.27×10-5Mとし、励起波長を200-360nm(バンド幅5nm)、蛍光強度は380nmで測定した。結果は図10(相補DNA)および図11(相補RNA)に示す。
【0055】
図10(相補DNA)および図11(相補RNA)、どちらのグラフにおいてもピレン特有のスペクトルパターンが観測された。RNAオリゴマーと相補鎖RNAの組み合わせ(図11)では、2本鎖を形成したときにスペクトルパターンの著しい変化が観測されたが、RNAオリゴマーと相補鎖DNAの組み合わせ(図10)では、相補鎖RNAのときのようなスペクトルパターンの変化が観測されなかった。これらの結果から、本発明によるRNAオリゴマーと相補鎖RNAとの2本鎖形成に伴う380nmにおける蛍光強度の増大は、ピレンに由来するものであると結論した。また2本鎖の状態にあるときのピレン周辺の環境が、相補鎖DNAと相補鎖RNAの間では大きく異なっていることが示された。
【0056】
2−7.塩基配列特異性
【0057】
ピレン修飾した本発明によるRNAオリゴマーとRNAとの塩基配列特異性を検討するため、相補鎖RNAに対して1塩基または2塩基ミスマッチ部位を設定したRNAのUV融解曲線と蛍光スペクトルを測定した。0.1M NaCl含有0.01Mリン酸緩衝液(pH7.0)中で、本発明のRNAオリゴマーと相補鎖とを1:1、また核酸の濃度を全体で4.27×10-5Mとし、励起波長338nm、測定波長380nmで蛍光測定した。ミスマッチを設けたRNAの塩基配列は下記のとおりである。小文字で示したのがミスマッチ部位である。結果は図12(UV融解曲線)、および図13(蛍光スペクトル)に示した。
【0058】
RNAの塩基配列
RNAオリゴマー4:5'-rACAUGCAGUGUUGAU-3'
相補鎖 RNA :5'-rAUCAACACUGCAUGU-3'
ミスマッチ1 :5'-rAUCAACACUGCgUGU-3'
ミスマッチ2 :5'-rAUCAACACUGuAUGU-3'
ミスマッチ3 :5'-rAUCAACACUGugUGU-3'
【0059】
図12のミスマッチ1〜3とRNAオリゴマー4の組み合わせにおいて、UV融解曲線は未修飾のものと同様にシグモイドカーブを示している。したがって、ミスマッチ部位が存在していても、本発明によるRNAオリゴマーは未修飾のものとほぼ同様に相補鎖と2本鎖を形成していることが確認された。ただし、ミスマッチのもののTm値は、相補鎖RNAのTm値より3〜7℃低下していた。
【0060】
また図13から、RNAオリゴマー4がミスマッチ1またはミスマッチ3と2本鎖を形成したときの蛍光強度はRNAオリゴマー4の一本鎖の蛍光強度とほとんど変化しなかった。一方、RNAオリゴマー4がミスマッチ2と2本鎖を形成したときの蛍光強度は、RNAオリゴマー4の蛍光強度の約4.6倍の蛍光強度の増大が観測された。ただこの増大は、相補鎖RNAとのハイブリダイズに伴う増大(約20倍)には満たない。これらの結果から、本発明によるRNAオリゴマー4の2本鎖形成に伴う蛍光強度の増大は塩基配列特異性を有しており、1塩基のミスマッチ部位を識別して蛍光強度が変化することが示された。
【0061】
2−8.RNAオリゴマーと相補鎖DNA(または相補鎖RNA)との相互作用の検討
【0062】
以上示したように、本発明によるRNAオリゴマーは相補鎖RNAと1:1の濃度比で2本鎖を形成することによって蛍光強度を著しく増大する。ピレンと、ピレンを導入した各種誘導体(本発明によるRNAオリゴマーも含む)、そしてそれらがハイブリダイズしたときの蛍光強度を比較したものが図14(本発明によるRNAオリゴマー)、および図15(DNAオリゴマー)である。RNAオリゴマーと相補鎖RNAとの組み合わせでは、蛍光スペクトルの結果からわかるように2本鎖の蛍光量子収率が1本鎖の約5倍から10倍にも達し、U(Pyr)の蛍光量子収率とほぼ同様、あるいはそれ以上の結果を示した。そして蛍光強度の増大の程度は、配列に依存しないものであった。これに対して過去に知られているピレン修飾DNAは、全体の配列によって2本鎖形成時の蛍光強度の増大程度に違いを示した。更に、本発明によるRNAオリゴマー4の2本鎖形成に伴う蛍光強度の増大は塩基配列特異性を有しており、1塩基のミスマッチ部位を識別して蛍光強度が変化することが示された。
【0063】
本発明によるRNAオリゴマーでは、公知のDNAオリゴマーと同様に一本鎖の状態で核酸塩基とピレンが相互作用して消光している。二重らせんの形成に伴って、蛍光に有利と思われるA型類似の二重らせんを形成することが判明した。この、蛍光により好都合なコンフォメーションは、A型二重らせん中のピレンが二重らせん内の結合に対して外側の面のマイナーグローブ上に位置していているために、核酸塩基との相互作用を受けにくい自由な状態であるためであると考えられる。
【0064】
【発明の効果】
本発明によって、簡単な反応原理に基づいて均一系の反応によりRNAのハイブリダイズをきわめて高感度に検出することができる。本発明のピレン導入塩基を取り込んだRNAプローブは、どのような配列であっても通常のRNAの合成方法にしたがって簡単に合成することができる。本発明は、プローブの修飾によって反応性や特異性にも大きな影響が無く、またどのような塩基配列に対しても適用することができる応用範囲の広い検出技術を提供する。
【0065】
本発明は、ピレン修飾したRNAをプローブに用いることにより、遺伝子変異の新規な検出方法を提供する。本発明の遺伝子変異の検出方法によれば、任意の位置における変異を同じ反応原理に基づいて簡単に実施することが可能である。
【0066】
更に本発明は、洗浄操作が不要な新規なインサイチュのハイブリダイゼーションアッセイを提供する。洗浄操作を省くことにより、操作が大幅に簡略化される。また各種RNA転写増幅系との組み合わせにより、高感度な検出を均一系の反応により実現できる。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】ピレン導入ウリジン誘導体の合成スキームを示す図。
【図2】本発明によるピレン修飾RNAオリゴマーと相補鎖DNAによる2本鎖の、260nmにおけるUV融解曲線。縦軸は80℃の測定値を1としたときの260nmにおける吸光度の比を、横軸は温度を示す。
【図3】本発明によるピレン修飾RNAオリゴマーと相補鎖RNAによる2本鎖の、260nmにおけるUV融解曲線。縦軸は80℃の測定値を1としたときの260nmにおける吸光度の比を、横軸は温度を示す。
【図4】0-80℃における、本発明のピレン修飾RNAオリゴマーと相補鎖DNAとのUVスペクトル。縦軸は吸光度を、横軸は測定波長(nm)を示す。
【図5】0-80℃における、本発明のピレン修飾RNAオリゴマーと相補鎖RNAとのUVスペクトル。縦軸は吸光度を、横軸は測定波長(nm)を示す。
【図6】本発明によるRNAオリゴマーと相補鎖DNAの2本鎖形成の前後における、蛍光スペクトル変化。縦軸は蛍光強度(cpm)を、横軸は測定波長(nm)を示す。
【図7】本発明によるRNAオリゴマーと相補鎖RNAの2本鎖形成の前後における、蛍光スペクトル変化を示すグラフ。縦軸は蛍光強度(cpm)を、横軸は測定波長(nm)を示す。
【図8】本発明のRNAオリゴマー6に相補鎖RNAを加えたときの蛍光強度変化を示すグラフ。縦軸は蛍光強度(nm)を、横軸は[oligomer6]/[相補鎖RNA]比を示す。
【図9】温度変化に伴う、本発明のRNAオリゴマー6に相補鎖RNAを加えたときの蛍光スペクトル変化を示すグラフ。縦軸は蛍光強度(cpm)、横軸は測定波長(nm)である。
【図10】本発明のRNAオリゴマー6と相補鎖DNAによる2本鎖の励起光スペクトル。縦軸は380nmにおける蛍光強度(cpm)を、横軸は励起波長(nm)を示す。
【図11】本発明のRNAオリゴマー6と相補鎖RNAによる2本鎖の励起光スペクトル。縦軸は380nmにおける蛍光強度(cpm)を、横軸は励起波長(nm)を示す。
【図12】本発明のRNAオリゴマーとミスマッチRNA(または相補鎖RNA)による2本鎖のUV融解曲線。縦軸は80℃の測定値を1としたときの260nmにおける吸光度の比を、横軸は温度を示す。
【図13】本発明のRNAオリゴマーとミスマッチRNA(または相補鎖RNA)による2本鎖の蛍光スペクトル。縦軸は蛍光強度(cpm)を、横軸は測定波長(nm)を示す。
【図14】ピレン、またはピレンを導入した種々のRNA関連誘導体、ならびにそれが2本鎖形成したときの蛍光量子収率を比較したグラフ。縦軸は蛍光量子収率(Φλ)を、横軸は化合物の種類を示す。
【図15】ピレン、またはピレンを導入した種々のDNA関連誘導体、ならびにそれが2本鎖形成したときの蛍光量子収率を比較したグラフ。縦軸は蛍光量子収率(Φλ)を、横軸は化合物の種類を示す。横軸において+RNA、または+DNAの表示は、いずれも相補鎖との2本鎖の形成を意味する。
Claims (4)
- ピレンを導入した塩基をその構成塩基配列の中に含むRNA であって、前記ピレンを導入した塩基が、ウリジン残基の 2' 位の -OH 基に前記ピレンを共有結合させたものであるRNA。
- 標的塩基配列を含む被検RNAの検出方法であって、前記標的塩基配列に相補的な塩基配列を持つ請求項1のRNAを被検RNAにハイブリダイズさせ、ハイブリダイズによるピレンの蛍光シグナルに基づいて被検RNAを検出する方法。
- 標的塩基配列を含む被検RNAの特定の部位における変異検出方法であって、前記標的塩基配列に相補的な塩基配列を持ち、検出すべき変異が生じる部位近傍に対する塩基にピレンを導入した請求項1のRNAを被検RNAにハイブリダイズさせ、ハイブリダイズによるピレンの蛍光シグナルに基づいて変異を検出することを特徴とする変異検出方法。
- 被検RNAが、mRNA、リボソーマルRNA、RNAウイルスのゲノム、およびDNAを鋳型として転写されたRNAで構成される群から選択される請求項3の変異検出方法。
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