JP4236351B2 - キースイッチ装置及びキーボード - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、打鍵操作されるキースイッチ装置に関し、特に、電子機器の入力装置であるキーボードで好適に使用されるキースイッチ装置に関する。さらに本発明は、そのようなキースイッチ装置を多数備えたキーボードに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ノート型パーソナルコンピュータやノート型ワードプロセッサ等の携帯用電子機器の分野では、機器の携帯性を向上させる目的で、キーボードを含む機器筐体の薄型化すなわち低背化を実現するための様々な技術が提案されている。特に、打鍵操作される多数のキースイッチ装置を備えたキーボードを低背化する際には、一定水準の操作性を確保するためにキースイッチ装置のストローク量を所定量に維持しつつ、キースイッチ装置の非操作(スイッチオフ)時及び押下げ操作(スイッチオン)時の全高を削減することが要求されている。
【0003】
低背型キーボードに使用できるキースイッチ装置として、例えば特開平9−190735号公報は、ベースと、ベース上に配置されるキートップと、互いに噛合連動してキートップをベース上で昇降方向へ案内支持する一対のリンク部材と、キートップの昇降動作に対応して電気回路の接点を開閉するスイッチ機構とを備えたキースイッチ装置を開示する。一対のリンク部材としては、側面視V字状に組合わされて、それらの一端で互いに歯車状に噛み合うとともにベースに回動可能に支持され、かつ他端でキートップに摺動可能に係合する形式のものと、側面視逆V字状に組合わされて、それらの一端で互いに歯車状に噛み合うとともにキートップに回動可能に支持され、かつ他端でベースに摺動可能に係合する形式のものとが例示されている。各リンク部材は、互いに略平行に延びる一対の腕を有し、それら腕の先端領域に、ベース及びキートップのいずれか一方に回動可能に係合する支軸と、それら支軸の回動軸線に略直交する方向へ歯たけを有する複数の歯とがそれぞれ設けられている。
【0004】
キートップは、これらリンク部材がそれぞれの歯同士を噛合させて支軸を中心に互いに反対方向へ回動するとともに、それぞれの他端がキートップ又はベースに沿って略水平方向へ摺動することにより、ベースに対し略鉛直方向へ所定の略水平姿勢を保持しつつ平行移動できる。キートップが下降したときには、一対のリンク部材はキートップの内側に実質的に寝かせた状態で収容される。このような構成により、キートップの打鍵ストローク量を維持しつつ、キースイッチ装置の非操作時及び押下げ時の全高を低減することができる。
【0005】
この種の噛合型のリンク部材を有する従来のキースイッチ装置では、各リンク部材の一対の腕の先端領域に設けた複数の歯が、各リンク部材の回動軸線に略直交する方向へ歯たけを有して外方へ突出するので、これら歯の枚数や寸法が、キースイッチ装置の高さ寸法に影響を及ぼす傾向がある。したがって、キースイッチ装置の全高を可及的に低減する目的で、従来、各リンク部材の一対の腕には、両リンク部材の連動を可能にする最小限の枚数(1〜3枚程度)の歯が設けられている(例えば特開平10−283099号公報参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記した従来の噛合型リンク部材を有するキースイッチ装置では、リンク部材に設けた歯の枚数を最小限に削減しているために、特にキートップの昇降動作(打鍵ストローク)の上限位置及び下限位置において、両リンク部材の歯同士の噛み合いが浅くなり、バックラッシの増加により両リンク部材のがたつきが生じ易くなる傾向があった。その結果、打鍵ストロークの上限位置(押し始め)から下限位置(押し終わり)に至る間のキートップの平行移動が不安定になり、キースイッチ装置の打鍵操作特性が悪化する懸念があった。特に、オペレータがキートップの上面外縁付近を打鍵したようなときに、キートップの平行移動が不安定になり易かった。また、両リンク部材のがたつき及びそれに起因するキートップのがたつきにより、打鍵操作中の騒音が増加することが危惧された。
【0007】
さらに、例えば特開平9−190735号公報に記載されるキースイッチ装置では、互いに噛み合った両リンク部材の少なくとも1枚の歯を受容可能な開口部をベースに形成することにより、キートップの打鍵ストロークの上限位置及び下限位置を低くするようにしている。しかし、ベースは、両リンク部材を回動可能又は摺動可能に支持し得る機械的強度を確保するために、ある程度の厚みが必要であり、その結果、キースイッチ装置の全高の低減に限界が生じていた。
【0008】
本発明の目的は、一対の噛合型リンク部材を有するキースイッチ装置において、噛み合い部分のバックラッシによる両リンク部材のがたつき、及びそれに起因するキートップのがたつきを可及的に低減できるキースイッチ装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、一対の噛合型リンク部材を有するキースイッチ装置において、キートップの打鍵ストローク及び打鍵操作特性に影響を及ぼすことなく、キースイッチ装置の非操作時及び押下げ時の全高を可及的に低減できるキースイッチ装置を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、そのようなキースイッチ装置を多数備え、打鍵操作特性に優れた低背型のキーボードを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ベースと、ベース上に配置されるキートップと、互いに噛合連動してキートップをベース上で昇降方向へ案内支持する一対のリンク部材とを具備するキースイッチ装置において、一対のリンク部材の各々は、ベース及びキートップのいずれか一方に回動可能に係合する回動部と、回動部の回動軸線に略直交する方向へ歯たけを有する複数の歯とを備え、それら複数の歯が、1つのピッチ円を規定しつつ回動軸線方向へ各々の歯幅だけ互いに異なる位置に形成される第1歯及び第2歯を少なくとも含み、一方のリンク部材の第1歯及び第2歯がそれぞれ、他方のリンク部材の第2歯及び第1歯に同時に噛み合うように構成されることを特徴とするキースイッチ装置を提供する。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のキースイッチ装置において、一対のリンク部材の各々が、互いに略平行に延びるとともに回動軸線を共有する一対の腕を有し、第1歯及び第2歯がそれら一対の腕の双方に形成されるキースイッチ装置を提供する。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のキースイッチ装置において、第1歯と第2歯とが、一対の腕のそれぞれに互いに同一の配置で形成されるキースイッチ装置を提供する。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のキースイッチ装置を多数配列して構成されるキーボードを提供する。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図面において、同一又は類似の構成要素には共通の参照符号を付す。
図面を参照すると、図1は本発明の第1の実施形態によるキースイッチ装置10の分解斜視図、図2及び図3はキースイッチ装置10で使用されるリンク部材の拡大図、図4及び図5はキースイッチ装置10の非操作時及び押下げ操作時の断面図である。キースイッチ装置10は、ベース12と、ベース12の主表面12a上に昇降方向へ移動可能に配置され、オペレータの手指で打鍵される操作面14aを有するキートップ14と、キートップ14をベース12上で昇降方向へ案内支持する一対のリンク部材16と、キートップ14の昇降動作に対応して電気回路の接点を開閉するスイッチ機構18とを備えて構成される。
【0017】
ベース12は、キートップ14によって遮蔽される略矩形の中心開口部20を備える枠状部材である。ベース12には、中心開口部20を画成する一対の対向内周面12bに沿って、二組の摺動係合部22が前後方向(図4で左右方向、以下同)ヘ互いに離間して設けられる。各摺動係合部22は、ベース12の主表面12a及び内周面12bから突出する壁部分を有してL字状に伸び、この壁部分の内側に、主表面12aに略平行に延びる案内溝22aが形成される。各組を成す2個の摺動係合部22は、各々の案内溝22aをベース12の一対の内周面12bに沿った対応位置に配置する。さらに、各組で対応する側の摺動係合部22は、ベース12の内周面12bに沿って前後方向へ整列配置される。
【0018】
キートップ14は、略矩形平面形状を有する皿状の部材であり、操作面14aの反対側の内面14bに、二組の枢着部24が前後方向へ互いに並置して形成される。各枢着部24は、キートップ14の内面14bから直立状に突設される板状片からなり、板厚方向へ貫通する軸受穴24aと、内面14bに略直交する方向へ延びて軸受穴24aに連通する切欠き24bとが形成される。各組を成す2個の枢着部24は、キートップ14の内面14bの前後方向中央領域で、後述する各リンク部材16の一対の腕部26を連結可能な距離だけ互いに離れて配置され、各々の軸受穴24aがその軸線方向へ互いに整列するように位置決めされる。さらに、各組で対応する側の枢着部24は、キートップ14の内面14b上で前後方向へ整列配置される。
【0019】
一対のリンク部材16は、互いに実質的同一の形状を有し、それらの一端で互いに歯車状に連結されて側面視逆V字状に組合わされる。各リンク部材16は、互いに平行に延びる一対の腕部26と、それら腕部26を各々の一端で相互に連結する連結部28とを一体に備える。各腕部26の、連結部28に隣接した第1端には、連結部28の反対側へ支軸30がそれぞれ同軸状に突設され、各腕部26の、連結部28から離れた第2端には、支軸30と同一側へ支軸32がそれぞれ同軸状に突設される。各リンク部材16は、各腕部26の第1端に設けた支軸30が摺動部として、ベース12の各摺動係合部22の案内溝22aに摺動自在に嵌入され、かつ各腕部26の第2端に設けた支軸32が回動部として、キートップ14の各枢着部24の軸受穴24aに回動自在に嵌入されて、キートップ14とベース12との間に配置される。したがって各リンク部材16は、一対の腕部26の支軸32が共有する回動軸線32a(図2)を中心として、後述するようにキートップ14とベース12との間で回動する。
【0020】
図2及び図3に示すように、各リンク部材16の一対の腕部26には、それぞれの支軸32に隣接する先端面に、支軸32の回動軸線32aに略直交する方向へ歯たけを有する複数の歯34、36が一体的に設けられる。それら複数の歯34、36は、回動軸線32aを中心に1つのピッチ円を規定可能な1枚の第1歯34と、第1歯34に対し各々の歯幅だけ回動軸線方向へ互いに異なる位置に配置され、第1歯34によるピッチ円と実質的同一のピッチ円を規定可能な2枚の第2歯36とを含む。それら第1歯34及び第2歯36は、ピッチ円周方向へ各々の歯厚だけ互いに異なる位置に配置される。すなわち、これら複数の歯34、36は、2枚の第2歯36の間に1枚の第1歯34が噛合した状態で、支軸32の回動軸線32aを中心として歯車状に円滑に回動できるような形状、寸法及び配置を有する。
【0021】
各リンク部材16の一対の腕部26には、第1歯34及び第2歯36が互いに同一の配置で設けられる。すなわち、それら腕部26の、回動軸線方向へ互いに対向する各々の内側に、第1歯34と第2歯36とがそれぞれ配置される。したがって、一対のリンク部材16を、それらの第1歯34及び第2歯36を互いに噛合させて組合せると、一方のリンク部材16の各腕部26の第1歯34及び第2歯36は、他方のリンク部材16の各腕部26の第2歯36及び第1歯34に、それぞれ同時に噛み合うようになる。
【0022】
一対のリンク部材16の各々は、前述したように各腕部26の第1端に設けた支軸30を、ベース12の各摺動係合部22の案内溝22aに摺動自在に嵌入し、かつ各腕部26の第2端に設けた支軸32を、キートップ14の各枢着部24の軸受穴24aに回動自在に嵌入して、キートップ14とベース12との間に配置される。このとき、一対のリンク部材16は、一方のリンク部材16の各腕部26の第1歯34及び第2歯36と、他方のリンク部材16の各腕部26の第2歯36及び第1歯34とがそれぞれ噛み合わされ、それにより支軸32を中心に互いに連動して回動できる。
【0023】
したがってキートップ14は、一対のリンク部材16がそれぞれの支軸32を中心に同期して反対方向へ回動するとともに、それぞれの支軸30がベース12に沿って略水平方向へ摺動することにより、ベース12に対し略鉛直方向へ、操作面14aを主表面12aに略平行に配置した所定の略水平姿勢を保持しつつ平行移動する。キートップ14の打鍵ストロークの上限位置は、一対のリンク部材16の各支軸30の相互接近方向への摺動が、ベース12の各摺動係合部22の案内溝22aを画成する壁部分によって係止された時点で規定される(図4)。キートップ14がこの上限位置から下降するに従い、一対のリンク部材16の各支軸30は、キートップ14の昇降方向に略直交する相互離反方向へ摺動する。キートップ14が打鍵ストロークの下限位置に達すると、一対のリンク部材16はキートップ14の内面14b側に収容されるとともに、ベース12の開口部20に受容される(図5)。
【0024】
ここで、キースイッチ装置10においては、一対のリンク部材16の上記した特徴的構造により、キートップ14の打鍵ストロークの上限位置から下限位置に至る全動作範囲で、両リンク部材16の歯34、36同士の極めて安定した噛み合いを達成することができる。これは、キートップ14の打鍵ストロークの全動作範囲に渡って両リンク部材16が回動する間、図6に拡大して示すように、一方のリンク部材16の各腕部26の第1歯34が、他方のリンク部材16の噛合相手の各腕部26の下側及び上側の第2歯36a、36bのいずれかに常に接触するようになっているからである。
【0025】
詳述すれば、例えば打鍵ストロークの上限位置においては、一方のリンク部材16の第1歯34は、他方のリンク部材16の下側の第2歯36aに接触して下方から支持されるが、他方のリンク部材16の上側の第2歯36bからは外れてバックラッシが生じている(図6(a)参照)。しかしこのとき、同じ一方のリンク部材16の下側の第2歯36aは、他方のリンク部材16の第1歯34に接触して上方から相補的に支持されているので、互いに噛み合った第1歯34と第2歯36aとの間のがたつきが実質的に排除される。
【0026】
打鍵ストロークの上限位置からキートップ14を押下げると、各リンク部材16の第1歯34が相手方リンク部材16の上下の第2歯36a、36bとの噛み合いが徐々に深くなり、最深の噛み合い領域を経て、キートップ14が打鍵ストロークの下限位置に到達する。この間、各リンク部材16の第1歯34と相手方リンク部材16の第2歯36a、36bとの噛み合い状態は、上記した相補的な支持作用を発揮しつつ同時進行で安定的に推移するので、両リンク部材16が円滑に連動して回動する。
【0027】
打鍵ストロークの下限位置では、一方のリンク部材16の第1歯34は、他方のリンク部材16の上側の第2歯36bに接触して上方から支持されるが、他方のリンク部材16の下側の第2歯36aとの接触が浅くなり、バックラッシが生じ始めている(図6(b)参照)。しかしこのとき、同じ一方のリンク部材16の上側の第2歯36bは、他方のリンク部材16の第1歯34に接触して下方から相補的に支持されているので、互いに噛み合った第1歯34と第2歯36bとの間のがたつきが実質的に排除される。このようにして、キートップ14の打鍵ストロークの上限位置から下限位置に至る全動作範囲で、一対のリンク部材16同士は安定して確実に噛合連動し、その結果、両リンク部材16のがたつき及びそれに起因するキートップ14のがたつきが可及的に低減される。
【0028】
キースイッチ装置10のスイッチ機構18は、各々に接点38を担持する一対のシート基板40を有するシート状のスイッチ(本明細書でメンブレンスイッチと称する)42と、キートップ14とメンブレンスイッチ42との間に配置され、キートップ14の下降動作に伴い両接点38を閉じるように作用する作動部材44とから構成される。メンブレンスイッチ42の一対のシート基板40の間には、それらシート基板40を所定間隔に支持して両接点38を開状態に保持するスペーサ46が設置される。
【0029】
メンブレンスイッチ42の両シート基板40は、いずれも周知のフレキシブル印刷回路板の構成を有し、そのフィルム基体の表面に、互いに短絡可能な接点38が設けられる。それらシート基板40は、ベース12の下で支持板48上に支持され、両接点38は、互いに対向配置されるとともに、ベース12の開口部20の略中心に位置決めされる。作動部材44は、ゴム材料から一体成形されたドーム状部材であり、ドーム頂部44aをキートップ14側に向けた姿勢で、ベース12の開口部20内に配置される。作動部材44は、無負荷時にはドーム頂部44aを上側のシート基板40の上方に離隔して配置する。作動部材44のドーム頂部44aの内面には、シート基板40に向かって延びる柱状の押圧部(図示せず)が形成される。
【0030】
一対のシート基板40に担持された接点38は、各シート基板40が本質的に有するこしにより、スペーサ46を介して通常は開状態に保持され、作動部材44の押圧部の下方に位置決めされる。作動部材44のドーム頂部44aにシート基板40に接近する方向への外力が加わると、作動部材44は弾性変形し、押圧部が上側のシート基板40を外面から押圧することにより、一対の接点38を閉じる。
【0031】
ベース12と上側のシート基板40との間には、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂材料から形成される可撓性を有するシート部材50が設置される。作動部材44はそのドーム開口端44bで、シート部材50の外面に適当な接着剤等により固定される。或いはシート部材50を、作動部材44と同一のゴム材料から作動部材44に一体的に形成することもできる。
【0032】
キースイッチ装置10では、キートップ14に外力が加わらないときには、スイッチ機構18の作動部材44がドーム頂部44aの外面でキートップ14をベース12から鉛直上方へ離れた上限位置(図4)に付勢支持する。このときメンブレンスイッチ42は、一対の接点38が開いた状態にある。また、オペレータの打鍵操作によりキートップ14が押下げられたときには、作動部材44はキートップ14に上方への弾性付勢力を及ぼしつつ変形し、キートップ14が下限位置(図5)に達する直前に上側のシート基板40を外面から押圧して接点38を閉じる。キートップ14への押下げ力が解除されると、作動部材44が弾性的に復元し、キートップ14を上限位置へ復帰させるとともに、上側のシート基板40が復元して接点38が開く。
【0033】
上記構成を有するキースイッチ装置10では、前述したように、キートップ14の打鍵ストロークの上限位置から下限位置に至る全動作範囲で、一対のリンク部材16同士が安定して確実に噛合連動し、その結果、両リンク部材16のがたつき及びそれに起因するキートップ14のがたつきが可及的に低減される。それにより、打鍵ストロークの上限位置(押し始め)から下限位置(押し終わり)に至る間、キートップ14は安定して平行移動するようになり、特に、オペレータがキートップ14の上面外縁付近を打鍵したようなときにも、キースイッチ装置10の打鍵操作特性を良好に維持することができる。しかも、両リンク部材16及びキートップ12のがたつきの低減により、打鍵操作中の騒音を効果的に低減することができる。したがってキースイッチ装置10によれば、キートップの打鍵操作特性及び打鍵音に影響を及ぼすことなく、各リンク部材16の両腕部26に設ける歯34、36の枚数及び寸法を最小限にすることができ、結果としてキースイッチ装置10の非操作時及び押下げ操作時の全高を可及的に低減することができる。
【0034】
図7は、上記したキースイッチ装置10を多数配列して構成されたキーボード52を示す。キーボード52では、前述した各キースイッチ装置10におけるベース12、メンブレンスイッチ42の両シート基板40、支持板48、及び作動部材44を固定したシート部材50がいずれも、キーボード52に組み込まれる全てのキースイッチ装置10に対して共通する大判のベース12′、シート基板40′、支持板48′、及び多数の作動部材44を固定したシート部材50′として形成できる。なお、前述したドーム状の作動部材44を有するスイッチ機構18の構成は、それ自体公知のものであり、本発明に係るキースイッチ装置10及びキーボード52は、上記構成以外の様々な構成を有するスイッチ機構を採用することができる。
【0035】
図8及び図9は、非操作時及び押下げ操作時の全高を他の方法によって低減した本発明の関連技術によるキースイッチ装置60を示す。キースイッチ装置60は、ベース62と、ベース62の上方に昇降方向へ移動可能に配置され、オペレータの手指で打鍵される操作面64aを有するキートップ64と、キートップ64をベース62の上方で昇降方向へ案内支持する一対のリンク部材66と、キートップ64の昇降動作に対応して電気回路の接点を開閉するスイッチ機構68とを備えて構成される。
【0036】
キースイッチ装置60では、前述した第1の実施形態によるキースイッチ装置10におけるベース12が省略され、その代わりに、キースイッチ装置10における支持板48に対応する部材が、一対のリンク部材66を支持するベース62として構成されている。ベース62は、例えば鋼製の板金材料から作製され、その一部分に打ち抜き及び曲げ加工を施すことにより、ベース62の主表面62a上に直立状に突出する一対の係合支持部70が形成される。ベース62にはさらに、それら係合支持部70の互いに対向する側に隣接して、係合支持部70の打ち抜き跡である開口部72が形成される。各係合支持部70には、板厚方向へ貫通する一対の軸受穴70aが設けられる。一対の係合支持部70は、ベース12の主表面62a上で、後述する各リンク部材66の一対の腕部74を連結可能な距離だけ互いに平行に離れて配置され、各々の軸受穴70aがその軸線方向へ互いに整列するように位置決めされる。
【0037】
キートップ64は、略矩形平面形状を有する皿状の部材であり、操作面64aの反対側の内面64bに、二組の摺動係合部76が前後方向(図9で左右方向、以下同)ヘ互いに離間して設けられる。各摺動係合部76は、キートップ64の内面64bから突出する壁部分を有してL字状に伸び、この壁部分と内面64bとの間に、内面64bに略平行に延びる案内溝76aが形成される。各組を成す2個の摺動係合部76は、キートップ64の内面64bの前後端領域で、後述する各リンク部材66の一対の腕部74を連結可能な距離だけ互いに離れて配置され、各々の案内溝76aが互いに対向するように位置決めされる。さらに、各組で対応する側の摺動係合部76は、キートップ64の内面64b上で前後方向へ整列配置される。
【0038】
キースイッチ装置60のスイッチ機構68は、前述した第1の実施形態によるキースイッチ装置10のスイッチ機構18と本質的に同一の構成を有する。したがって、対応の構成要素には同一の参照符号を付してその説明を省略する。ただしスイッチ機構68においては、メンブレンスイッチ42は、キートップ64の下方でベース62の主表面62a上に固定的に載置され、各々に接点38を担持する一対のシート基板40の双方に、ベース62の一対の開口部72に整合して配置される一対の貫通穴78が形成される。さらに、ドーム状の作動部材44を固定してメンブレンスイッチ42上に載置されるシート部材50には、両シート基板40の一対の貫通穴78に整合して配置される一対の貫通穴80が形成される。したがって、ベース62に設けた一対の係合支持部70は、両シート基板40の一対の貫通穴78及びシート部材50の一対の貫通穴80を通って、メンブレンスイッチ42及びシート部材50の上方に突出する。
【0039】
キースイッチ装置60の一対のリンク部材66は、互いに実質的同一の形状を有し、それらの一端で互いに歯車状に連結されて側面視V字状に組合わされる。各リンク部材66は、互いに平行に延びる一対の腕部74と、それら腕部74を各々の一端で相互に連結する連結部82とを一体に備える。各腕部74の、連結部82から離れた他端には、連結部82とは反対側へ支軸84がそれぞれ同軸状に突設される。各リンク部材66は、各腕部74の連結部82が摺動部として、キートップ64の各摺動係合部76の案内溝76aに摺動自在に嵌入され、かつ各腕部74の他端に設けた支軸84が回動部として、ベース62の各係合支持部70の軸受穴70aに回動自在に嵌入されて、キートップ64とベース62との間に配置される。
【0040】
各リンク部材66の一対の腕部74には、それぞれの支軸84に隣接する先端面に、支軸84の回動軸線に略直交する方向へ歯たけを有する複数の歯86が一体的に設けられる。一対のリンク部材66は、一方のリンク部材66の各腕部74の複数の歯86と、他方のリンク部材66の各腕部74の複数の歯86とがそれぞれ噛み合わされることにより、支軸84を中心に互いに連動して回動できるようになっている。したがって、各リンク部材66の複数の歯86は、連動相手のリンク部材66の対応の腕部74に同様に設けた複数の歯86に噛合した状態で、歯車状に円滑に回動できるような形状、寸法及び配置を有する。このようにして各リンク部材66は、キートップ64の昇降動作に伴い、一対の腕部74の支軸84が共有する回動軸線を中心として、キートップ64とベース62との間で回動する。
【0041】
キートップ64は、一対のリンク部材66がそれぞれの支軸84を中心に同期して反対方向へ回動するとともに、それぞれの連結部82がキートップ64に沿って略水平方向へ摺動することにより、ベース62に対し略鉛直方向へ、操作面64aを主表面62aに略平行に配置した所定の略水平姿勢を保持しつつ平行移動する。キートップ64の打鍵ストロークの上限位置は、一対のリンク部材66の各連結部82の相互接近方向への摺動が、キートップ64の各摺動係合部76の案内溝76aを画成する壁部分によって係止された時点で規定される(図9(a))。キートップ64がこの上限位置から下降するに従い、一対のリンク部材66の各連結部82は、キートップ64の昇降方向に略直交する相互離反方向へ摺動する。キートップ64が打鍵ストロークの下限位置に達すると、一対のリンク部材66はキートップ64の内面64b側に収容される(図9(b))。
【0042】
キースイッチ装置60では、ベース62の一対の開口部72、メンブレンスイッチ42の一対の貫通穴78、及びシート部材50の一対の貫通穴80が、いずれもリンク部材66の少なくとも1つの歯86を円滑に受容可能な寸法及び形状を有して形成される。例えばキートップ64が打鍵ストロークの上限位置にあるときには、図9(a)に示すように、一対のリンク部材66の互いに噛み合った複数の歯86の幾つかは各支軸84よりも下方に延出するが、このときそれら下方に延びる歯86が、シート部材50の一対の貫通穴80、メンブレンスイッチ42の一対の貫通穴78、及びベース62の一対の開口部72に円滑に受容される。したがって、各リンク部材66の支軸84を支持する軸受穴70aを、可及的に低く配置することが可能になり、その結果、ベース62に設けた各係合支持部70の高さを可及的に低くすることができる。
【0043】
上記構成を有するキースイッチ装置60では、キートップ64とメンブレンスイッチ42との間に配置されるベースを排除し、従来、メンブレンスイッチ42の下方に配置されている支持板をベース62として併用したので、一対のリンク部材66を回動可能又は摺動可能に支持し得る機械的強度を確保しつつ、キースイッチ装置60の全高が効果的に低減される。しかも上記したように、一対のリンク部材66の互いに噛み合った複数の歯86の幾つかを受容可能な貫通穴80、78及び開口部72を、それらリンク部材66の下方に位置するシート部材50、メンブレンスイッチ42及びベース62に設けたので、ベース62の各係合支持部70を可及的に低くできる。したがってキースイッチ装置60によれば、キートップ64の打鍵ストローク及び打鍵操作特性に影響を及ぼすことなく、キースイッチ装置60の非操作時及び押下げ時の全高を可及的に低減できる。
【0044】
上記構成においては、各リンク部材66の腕部74に設けた支軸84を、ベース62の各係合支持部70に設けた軸受穴70aに容易に取付けることができるようにする手段を付加することが望ましい。例えば図10(a)に示すように、支軸84の円筒状外面に軸線方向へ延びる平坦面84aを形成してD形断面の支軸84とするとともに、係合支持部70には軸受穴70aに連通する切欠き70bを形成することができる。この構成では、支軸84の平坦面84aを縦にして切欠き70bを通すことで相互の干渉が回避され、支軸84を軸受穴70aに容易に挿入することができる。或いは図10(b)に示すように、支軸84の円筒状外面にテーパ面84bを設けることもできる。この構成では、支軸84のテーパ面84bを係合支持部70に干渉させることにより、リンク部材66の腕部74の撓曲が促進され、結果として、支軸84を軸受穴70aに容易に挿入することができる。
【0045】
なお、支持板をベースとして併用するとともに、このベースに、各リンク部材に作用的に係合してそれらリンク部材を動作可能に支持する係合支持部を設ける構成は、上記した実施形態に限らず、例えば図1のキースイッチ装置10におけるようなリンク部材の構成に対しても採用できる。この場合、ベースの係合支持部は、リンク部材の摺動部(例えば図1のリンク部材16の支軸30)を摺動可能に支持する摺動係合部として形成される。また、上記したキースイッチ装置60におけるメンブレンスイッチ42及びシート部材50は、貫通穴78、80を有する代わりに、一対のリンク部材66の互いに噛み合った複数の歯86に接触しないような外形を有することもできる。また、図7に示すキーボード52と同様に、上記したキースイッチ装置60を多数配列して備えるキーボードを構成できることは言うまでもない。
【0046】
図11は、非操作時及び押下げ操作時の全高を低減した本発明の関連技術によるキースイッチ装置90を示す。キースイッチ装置90は、ベースの構成以外は、前述したキースイッチ装置60と本質的に同一の構成を有する。したがって、対応の構成要素には同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0047】
キースイッチ装置90のベースは、一対のリンク部材66の各々に作用的に係合してそれらリンク部材66を動作可能に支持する係合支持部92を備える第1ベース94と、第1ベース94の下方に配置される第2ベース96とを備えて構成される。それら第1ベース94と第2ベース96との間には、スイッチ機構68を構成するメンブレンスイッチ42と作動部材44を固定したシート部材50とが挟持される。
【0048】
第1ベース94は、前述したキースイッチ装置10におけるベース12に対応する部材であり、キートップ64によって遮蔽される略円形の中心開口部98と、中心開口部98の両側に貫通形成される矩形開口部からなる一対の係合支持部92とを備える。各係合支持部92の内壁には、2個の軸受穴92aが前後方向ヘ互いに離間かつ整列して設けられる。各係合支持部92は、一対のリンク部材66の互いに噛合した複数の歯86と支軸84とを含む腕部74の先端領域を円滑に受容可能な寸法及び形状を有する。また、各係合支持部92の2個の軸受穴92aには、噛合状態にある一対のリンク部材66の支軸84がそれぞれ回動自在に嵌入される。さらに、中心開口部98には、ドーム形の作動部材44が受容される。
【0049】
第2ベース96は、前述したキースイッチ装置10における支持板48に対応する部材であり、第1ベース94の一対の係合支持部92に整合する位置に、同様に矩形状の一対の開口部100が形成される。各開口部100は、噛合状態にある一対のリンク部材66の少なくとも1つの歯86を受容可能な寸法及び形状を有する。メンブレンスイッチ42の一対のシート基板40に形成した一対の貫通穴78と、シート部材50に形成した一対の貫通穴80とは、第1ベース94の一対の係合支持部92及び第2ベース96の一対の開口部100に、ぞれぞれ整合して配置される。
【0050】
上記構成を有するキースイッチ装置90では、キートップ64とメンブレンスイッチ42との間に配置される第1ベース94に、リンク部材66を支持するための係合支持部92を貫通開口部として形成するとともに、一対のリンク部材66の互いに噛み合った複数の歯86の幾つかを受容可能な貫通穴80、78及び開口部100を、第1ベース94の下方に位置するシート部材50、メンブレンスイッチ42及び第2ベース96に設けたので、一対のリンク部材66を回動可能又は摺動可能に支持し得る機械的強度を確保しつつ、キースイッチ装置90の全高が効果的に低減される。したがってキースイッチ装置90によれば、キートップ64の打鍵ストローク及び打鍵操作特性に影響を及ぼすことなく、キースイッチ装置90の非操作時及び押下げ時の全高を可及的に低減することができる。
【0051】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、一対の噛合型リンク部材を有するキースイッチ装置において、噛み合い部分のバックラッシによる両リンク部材のがたつき、及びそれに起因するキートップのがたつきを可及的に低減し、以て打鍵操作時の騒音を低下させるとともに、打鍵操作性を向上させることが可能になる。さらに本発明によれば、キートップの打鍵ストローク及び打鍵操作特性に影響を及ぼすことなく、キースイッチ装置の非操作時及び押下げ時の全高を可及的に低減することが可能になる。そのようなキースイッチ装置を多数組込んだキーボードは、極めて優れた打鍵操作特性を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態によるキースイッチ装置の分解斜視図である。
【図2】図1のキースイッチ装置で使用されるリンク部材の拡大斜視図である。
【図3】図1のキースイッチ装置で使用されるリンク部材の、(a)拡大左側面図、及び(b)拡大右側面図である。
【図4】図1のキースイッチ装置の組立時の線IV−IVに沿った断面図で、キートップが打鍵ストロークの上限位置にある状態を示す。
【図5】図4に対応するキースイッチ装置の断面図で、キートップが打鍵ストロークの下限位置にある状態を示す。
【図6】図1のキースイッチ装置における一対のリンク部材の噛合状態を示す拡大図で、(a)キートップが打鍵ストロークの上限位置にあるとき、及び(b)キートップが打鍵ストロークの下限位置にあるときを示す。
【図7】本発明の一実施形態によるキーボードの一部切欠き斜視図である。
【図8】 本発明の関連技術によるキースイッチ装置の分解斜視図である。
【図9】図8のキースイッチ装置の組立時の線IX−IXに沿った断面図で、(a)キートップが打鍵ストロークの上限位置にある状態、及び(b)キートップが打鍵ストロークの下限位置にある状態を示す。
【図10】図8のキースイッチ装置におけるリンク部材とベースとの係合部位の拡大図で、(a)一変形例による支軸及び係合支持部の拡大斜視図、及び(b)他の変形例による支軸及び係合支持部の拡大斜視図である。
【図11】 本発明の関連技術によるキースイッチ装置の分解斜視図である。
【符号の説明】
10、60、90…キースイッチ装置
12、62…ベース
14、64…キートップ
16、66…リンク部材
18、68…スイッチ機構
30、32、84…支軸
34…第1歯
36…第2歯
42…メンブレンスイッチ
44…作動部材
48…支持板
50…シート部材
52…キーボード
70、92…係合支持部
72、100…開口部
78、80…貫通穴
86…歯
Claims (4)
- ベースと、該ベース上に配置されるキートップと、互いに噛合連動して該キートップを該ベース上で昇降方向へ案内支持する一対のリンク部材とを具備するキースイッチ装置において、
前記一対のリンク部材の各々は、前記ベース及び前記キートップのいずれか一方に回動可能に係合する回動部と、該回動部の回動軸線に略直交する方向へ歯たけを有する複数の歯とを備え、それら複数の歯が、1つのピッチ円を規定しつつ回動軸線方向へ各々の歯幅だけ互いに異なる位置に形成される第1歯及び第2歯を少なくとも含み、
一方の前記リンク部材の前記第1歯及び前記第2歯がそれぞれ、他方の前記リンク部材の前記第2歯及び前記第1歯に同時に噛み合うように構成されること、
を特徴とするキースイッチ装置。 - 前記一対のリンク部材の各々が、互いに略平行に延びるとともに前記回動軸線を共有する一対の腕を有し、前記第1歯及び前記第2歯がそれら一対の腕の双方に形成される請求項1に記載のキースイッチ装置。
- 前記第1歯と前記第2歯とが、前記一対の腕のそれぞれに互いに同一の配置で形成される請求項2に記載のキースイッチ装置。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のキースイッチ装置を多数配列して構成されるキーボード。
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