JP4234872B2 - 樹脂密着性と樹脂積層後の耐食性に優れた樹脂被覆容器用表面処理鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、樹脂密着性と樹脂積層後の耐食性に優れた樹脂被覆容器用表面処理鋼板およびその製造方法に関する。より詳しくは、絞り再絞り缶や、絞りしごき缶、薄肉化深絞り缶など、厳しい加工に耐える積層樹脂密着性や樹脂積層後の耐食性が要求される缶用材料に適した樹脂被覆容器用表面処理鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
飲料缶や食缶は、缶胴、上蓋、底蓋の三つの部分からなる3ピース缶と、缶胴と底が一体となった缶体と上蓋の二つの部分からなる2ピース缶とに大別される。3ピース缶の缶胴は、表面処理鋼板を丸めて端部を溶接、接着等で接合するので、蓋の巻き締め以外、きびしい加工を受けない。一方、2ピース缶の缶胴は、鋼板等を絞り、絞りしごき、ストレッチドローなどのきびしい加工で変形させて製造する。
飲料のほか水気の多い食品の缶内面は塗装されているのが普通である。最も多く使われているのがエポキシフェノール塗料である。エポキシ塗料は環境ホルモン物質の疑いのあるビスフェノールAを含み、極めて微量ではあるが内容物に溶出するという問題がある。そこで、近年はエポキシ塗装からポリエステル樹脂ラミネートへと替わりつつある。
【0003】
ポリエステル樹脂被覆鋼板を2ピース缶のきびしい成形加工をし、成形後の耐食性も良好に保つには樹脂と下地の密着性が重要であるため、現在は電解クロムめっき鋼板(以下TFS)が用いられている。TFSの製品には6価クロムは残存していないが、その製造工程に6価クロムを使った電気めっきがあるために、一部のユーザーから敬遠される傾向も出始めている。今後ますます環境問題に対する意識が高まるであろうことを考え合わせると、TFSに替わる樹脂ラミネート用下地処理が必要である。
【0004】
2ピース缶のきびしい成形加工に耐え、成形後の耐食性も優れた樹脂フィルム被覆金属板やその製造法が、特公平4−74176号公報、特公平5−71035号公報などに開示されているが、これらは積層させる樹脂フィルムの配向性や融点、伸びなどの特性を規定しているものである。
樹脂積層の下地処理の例としては特公昭60−34637号公報、特公昭60−35440号公報、特公昭60−39159号公報、特公平8−5160号公報などに記載の発明があるが、いずれも錫めっき上に金属クロム、クロム酸化物層を形成させるものであって、上で述べた環境問題という観点からはTFSとの違いはないものと考えられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように、きびしい加工を受ける樹脂被覆鋼板としては、クロムめっき、クロメート処理が必須であると考えられているか、あるいは代替技術が見つかっていないというのが現状であった。そこで、本発明は、きびしい成形加工に耐え、成形後の耐食性も優れたTFSに替わる樹脂フィルム被覆用金属板とその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、樹脂積層後に、きびしい成形加工に耐え、成形後の耐食性も優れた樹脂被覆容器用表面処理鋼板とその製造方法を種々検討することにより完成されたもので、その要旨とするところは以下の通りである。
【0007】
(1)鋼板をリン酸およびリン酸塩を含む水溶液中で陽極電解処理したのち、リン酸マグネシウムとリン酸を含む水溶液を塗布またはスプレーし、あるいはこの水溶液に鋼板を浸漬した後、乾燥、水洗、乾燥することで、鋼板の表面又は片面にリン酸マグネシウム又はリン酸鉄とリン酸マグネシウムとから成るリン酸塩層有することを特徴とする樹脂密着性と樹脂積層後の耐食性に優れた樹脂被覆容器用表面処理鋼板の製造方法。
(2)前記リン酸マグネシウムの含有量が、マグネシウムの量として5〜100mg/m 2 であることを特徴とする(1)に記載の樹脂密着性と樹脂積層後の耐食性に優れた樹脂被覆容器用表面処理鋼板の製造方法。
【0008】
(3)陽極電解処理に用いる水溶液に含まれるリン酸塩がリン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムのいずれか1種または2種の混合物であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の樹脂密着性と樹脂積層後の耐食性に優れた樹脂被覆容器用表面処理鋼板の製造方法。
(4)水溶液におけるリン酸マグネシウムの濃度が5〜100g/lであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂密着性と樹脂積層後の耐食性に優れた樹脂被覆容器用表面処理鋼板の製造方法にある。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、種々検討の結果、リン酸マグネシウム皮膜を有する鋼板、またはさらに下層にリン酸鉄皮膜を有する鋼板が、樹脂密着性、樹脂積層後の耐食性に優れることを見出し、その製造法として、表面を清浄にした鋼板をリン酸ナトリウムの酸性水溶液中で電解処理をして、リン酸とリン酸マグネシウム溶液を含む溶液を塗布、スプレーまたはこの溶液に鋼板を浸漬し、乾燥することで、表面にリン酸鉄とリン酸マグネシウムの皮膜を形成せしめ、目的の樹脂被覆容器用表面処理鋼板が得られることを見出したものである。
【0010】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
まず、本発明において使用される鋼板は、本発明で限定するものではなく、通常、缶用、缶蓋用に使われるもので、成形方法や程度に応じて適当な硬度(テンパー)のものを選択すればよい。本発明の処理をおこなう前の鋼板表面の清浄化処理についても特に限定するものではないが、従来缶用表面処理鋼板のめっき前処理としておこなわれてきた電解アルカリ脱脂、希硫酸浸漬酸洗をおこなうことが推奨される。
【0011】
鋼板表面の清浄化処理をおこなった後、直ちにリン酸ナトリウムの酸性水溶液中での電解処理を施すか、あるいはこの処理をせずにリン酸マグネシウム水溶液を塗布またはスプレーし、あるいはこの水溶液に鋼板を浸漬した後、乾燥し、水洗、乾燥する。リン酸ナトリウムの酸性水溶液中での電解処理を施す場合も、その処理に続いてリン酸マグネシウム水溶液を塗布またはスプレーし、あるいはこの水溶液に鋼板を浸漬した後、乾燥、水洗、乾燥する。
【0012】
この処理によって、鋼板表面にリン酸マグネシウム層またはリン酸鉄とリン酸マグネシウムとからなる層が形成される。塗布、スプレーまたは浸漬後の乾燥は50℃以上でおこなうのが好ましい。温度を上げることによって乾燥時間が短縮されて製造ラインの生産性が向上するほか、樹脂密着性、樹脂積層後の耐食性に優れた良好な皮膜が形成される。乾燥後は鋼板を水洗することが望ましい。水洗をしない場合、皮膜を形成しなかったリン酸水素ナトリウムやリン酸マグネシウムが残存し、耐食性にはよい効果を与えるが、特にレトルト殺菌処理時のような高温高湿条件下での樹脂密着性を著しく低下させる。
【0013】
リン酸マグネシウムの付着量は、マグネシウムの量として5mg/m2 以上100mg/m2 以下であることが望ましい。これより少ないリン酸マグネシウム量であっても、缶の成形が可能なだけの樹脂密着性が得られるが、腐食環境下においては、短期的には樹脂層の欠陥部から、長期的には皮膜健全部からも鋼板の腐食による塗膜の剥離が進行する。一方、100mg/m2 を超えても性能上の向上は認められないため、経済性の理由から、これを超えるリン酸マグネシウムの付着は避けた方がよい。
【0014】
リン酸マグネシウム処理液の濃度は5〜100g/l以下であることが望ましい。この濃度域の溶液を用いることで、上記の範囲のマグネシウム量のリン酸マグネシウム皮膜が得られる。リン酸マグネシウムは、そのままでは水への溶解性が低いため、リン酸を添加して酸性にすることが必要である。
リン酸マグネシウム水溶液での処理に先立って、リン酸ナトリウムの酸性水溶液中での陽極電解処理を施すと、樹脂積層・缶成形後の樹脂密着性、耐食性が一層向上する。処理溶液としてはリン酸二水素ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムとリン酸の混合溶液が適当で、pH2.5前後、溶液温度50℃前後が好ましい。電流密度2〜10A/dm2 で、0.5〜2秒がもっともよい。処理する鋼板の表面状態によっては、先に同じ溶液・条件で陰極電解処理を施すことも有効である。
【0015】
基材が鋼板であるためにリン酸鉄中の鉄の量が測定できないことと、鋼板表面上にリン酸マグネシウムも存在するために、リン酸鉄中のリン酸またはリンの量を独立に求めることができないので、リン酸鉄の付着量を正確に測定することは困難である。そこで、鋼板表面に存在するリンのトータル量を化学分析で求め、リン酸塩の量の指標とした。リンのトータル量は、2.5mg/m2 から200mg/m2 が適当である。2.5mg/m2 より少ないと、腐食環境下において、短期的には樹脂層の欠陥部から、長期的には皮膜健全部からも鋼板の腐食による塗膜の剥離が進行する。一方、200mg/m2 を超えても性能の向上は認められない。
【0016】
上記のように表面処理された鋼板に積層する樹脂については本発明で規定するものではないが、例えば厚み5〜50μmの熱可塑性樹脂を用いるとよい。熱可塑性樹脂については、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、またはそのイソフタレート共重合物など)、酸変性ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、あるいはこれらの共重合物などの酸変性物)、ポリアミド樹脂(ナイロンなど)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン等を使用すればよい。
【0017】
本発明は、樹脂積層の方法についてもなんら限定するものではない。樹脂フィルムを予熱した鋼板にロールによって加圧して貼る方法、樹脂フィルムに接着剤層やプライマー層を設けて前記の方法によって貼る方法、溶融した樹脂をTダイのスリットから押し出して加圧しながら貼る方法などが知られているので、適宜選択し、また、組み合わせて用いればよい。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
板厚0.18mm,テンパーDR−9の缶用冷延鋼板を、前処理として電解アルカリ脱脂、水洗、希硫酸浸漬酸洗、水洗した。乾燥せずに直ちにリン酸ナトリウムの酸性水溶液での電解処理やリン酸マグネシウム化成処理を施した。
リン酸ナトリウムの酸性水溶液として下記の処理液を用い、鋼板をアノードとして通電した。アノード処理の前に同じ溶液中で鋼板をカソードとして通電したものもある。処理条件は、実施例、比較例ごとに異なるので、表1に記載した。
【0019】
リン酸電解処理に用いた処理液の組成は以下の通りである。
リン酸水素二ナトリウム12水和物 30g/l
リン酸 27g/l
pH2.5
50℃
リン酸マグネシウム処理は、下記の処理液に鋼板を1秒浸漬して取り出し、ロールで絞った後、100℃の熱風で乾燥した。
【0020】
リン酸マグネシウム処理に用いた処理液の組成は以下の通りである。
リン酸マグネシウム8水和物 30g/l
溶液が透明になるまで攪拌しながらリン酸を滴下して酸性にし、リン酸マグネシウムを溶解した。
化成処理皮膜中のリン酸鉄とリン酸マグネシウムの量は、次のようにして求めた。リン酸マグネシウムについてはマグネシウム量を化学分析によって測定して、これを表示した。鋼板表面に存在するリンのトータル量を化学分析で求め、リン酸塩の量の指標とした。
【0021】
化成処理後、ポリエステル樹脂フィルムを積層した。用いたポリエステル樹脂フィルムは、ポリエチレンテレフタレートが主たる成分である、ポリエチレンイソフタレートとの共重合二軸延伸フィルムで、厚み25μm、融点は235℃である。240℃に予熱した鋼板に前記樹脂フィルムを100m/分の速度でシリコンゴムロールで圧着し、直ちに水冷、乾燥した。
得られた樹脂被覆鋼板を50mm角に切り出し、鋭利なカッターで鋼板に達するスクラッチを対角に入れた。スクラッチを入れた面が凸となるように3mmのエリクセン張り出し加工をおこない、端面と裏面はフッ素樹脂粘着テープでシールした。これを1.5%クエン酸と1.5%塩化ナトリウムを溶解した水溶液に浸漬し、55℃の恒温室に96時間放置した後、スクラッチ部からの樹脂フィルムの剥離幅を測定した。
【0022】
また、得られた樹脂被覆鋼板を4段の絞り加工によって内容量350gの缶に成形し、トリプルネックイン加工、フランジ出し加工をおこなった。成形による樹脂層の剥離の程度をエナメルレーター値で表した。測定条件としては、成形した缶の中心に筒状白金電極を挿入し、1%の塩化ナトリウム水溶液を上端まで注ぎ入れ、缶体と白金電極間に6Vの低電圧を印加した。このとき、缶体と白金電極間に流れる電流値を測定した。
さらに、1.5%クエン酸水溶液を95℃で充填、蓋を巻き締めた後、38℃の恒温室に6ヶ月貯蔵した後の溶出鉄量を測定した。また、缶壁の腐食状況を目視観察した。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
No.1は、化成処理を施さないでラミネートをした例である。スクラッチを入れ、エリクセン張り出し加工を施した樹脂被覆鋼板の耐食性試験で、スクラッチ部からフィルムがめくれるように全面的に剥離した。また、絞り缶の成形の段階で樹脂フィルムの剥離が見られたため、缶の耐食性試験はおこなわなかった。
No.2は、リン酸電解処理、リン酸マグネシウム処理を施したが、リン酸マグネシウム処理液の濃度が低く、リン酸マグネシウム付着量が少ないために、缶の成形加工はできたが、耐食性試験では鉄溶出量が多く、目視でも腐食が認められた。
No.3〜7は本発明例である。本発明例の表面処理鋼板は樹脂密着性や耐食性に優れている。
【0025】
No.8は、リン酸ナトリウムの酸性水溶液での電解処理をおこない、リン酸マグネシウム溶液での処理をおこなわなかった例である。クラッチを入れ、エリクセン張り出し加工を施した樹脂被覆鋼板の耐食性試験で、スクラッチ部からフィルムがめくれるように全面的に剥離した。成形缶のエナメルレーター値も大きかったため、缶の耐食性試験をおこなわなかった。
No.9は、No.8と同様であるが、リン酸ナトリウムの酸性水溶液での電解処理を強化した例である。クラッチを入れ、エリクセン張り出し加工を施した樹脂被覆鋼板の耐食性試験や成形缶のエナメルレーター値の改善は認められたが、缶の耐食性試験で鉄溶出量が大きく、目視で腐食が認められた。
【0026】
【発明の効果】
本発明は、製造工程において一切6価クロムを使用せず、有機樹脂層の加工密着性や加工後の耐食性にも優れた、従来にない環境調和型の樹脂被覆容器用表面処理鋼板の製造方法が提供可能となった。この製造方法によって製造した樹脂被覆容器用表面処理鋼板は、DRD缶、DI缶、薄肉化深絞り缶のほか、缶蓋、王冠、スクリューキャップなど容器用材料として広く適用でき、したがって、本発明の産業上の価値は極めて高いものであるといえる。
Claims (4)
- 鋼板をリン酸およびリン酸塩を含む水溶液中で陽極電解処理したのち、リン酸マグネシウムとリン酸を含む水溶液を塗布またはスプレーし、あるいはこの水溶液に鋼板を浸漬した後、乾燥、水洗、乾燥することで、鋼板の表面又は片面にリン酸マグネシウム又はリン酸鉄とリン酸マグネシウムとから成るリン酸塩層有することを特徴とする樹脂密着性と樹脂積層後の耐食性に優れた樹脂被覆容器用表面処理鋼板の製造方法。
- 前記リン酸マグネシウムの含有量が、マグネシウムの量として5〜100mg/m 2 であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂密着性と樹脂積層後の耐食性に優れた樹脂被覆容器用表面処理鋼板の製造方法。
- 陽極電解処理に用いる水溶液に含まれるリン酸塩がリン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムのいずれか1種または2種の混合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂密着性と樹脂積層後の耐食性に優れた樹脂被覆容器用表面処理鋼板の製造方法。
- 水溶液におけるリン酸マグネシウムの濃度が5〜100g/lであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂密着性と樹脂積層後の耐食性に優れた樹脂被覆容器用表面処理鋼板の製造方法。
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