JP2000038684A - 表面処理鋼板の製造方法、表面処理鋼板、表面処理鋼板に樹脂を被覆してなる樹脂被覆表面処理鋼板、および樹脂被覆表面処理鋼板を用いた容器 - Google Patents

表面処理鋼板の製造方法、表面処理鋼板、表面処理鋼板に樹脂を被覆してなる樹脂被覆表面処理鋼板、および樹脂被覆表面処理鋼板を用いた容器

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JP2000038684A
JP2000038684A JP22245598A JP22245598A JP2000038684A JP 2000038684 A JP2000038684 A JP 2000038684A JP 22245598 A JP22245598 A JP 22245598A JP 22245598 A JP22245598 A JP 22245598A JP 2000038684 A JP2000038684 A JP 2000038684A
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treated steel
resin
surface treated
film
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JP22245598A
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Nobuyoshi Shimizu
信義 清水
Masanobu Matsubara
政信 松原
Masatoki Ishida
正説 石田
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Toyo Kohan Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 樹脂を被覆した表面処理鋼板を絞りしごき加
工した後も優れた加工密着性、特に優れた加工後密着性
を有することが可能な表面処理鋼板の製造方法、その製
造方法を用いて製造した表面処理鋼板、その表面処理鋼
板に樹脂を被覆してなる樹脂被覆表面処理鋼板、および
その樹脂被覆表面処理鋼板を絞りしごき加工して成形し
た容器を提供する。 【解決手段】 クロムめっき浴を用いて鋼板上にクロム
めっきを電析させた後、電解クロム酸処理浴に分子内に
水素結合能を有する官能基を含む水溶性樹脂を添加した
浴を用いて、前記のクロムめっきの上にクロム水和酸化
物と分子内に水素結合能を有する官能基を含む樹脂とか
らなる複合皮膜を電析してなる表面処理鋼板に樹脂フィ
ルムを当接して被覆して樹脂被覆表面処理鋼板とし、さ
らにその樹脂被覆表面処理鋼板を絞りしごき加工して容
器とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は、表面処理鋼板に
樹脂を被覆し、その樹脂被覆表面処理鋼板を絞りしごき
加工した後も優れた加工密着性を有することが可能な表
面処理鋼板の製造方法、その製造方法を用いて製造した
表面処理鋼板、その表面処理鋼板に樹脂を被覆してなる
樹脂被覆表面処理鋼板、およびその樹脂被覆表面処理鋼
板を用いた容器に関する。
【0002】
【従来の技術】 近年、金属板に樹脂フィルムを被覆し
て得られた樹脂被覆金属板を絞りしごき加工した容器が
実用化され、主として飲料缶の分野で広く用いられてい
る。樹脂被覆金属板を絞りしごき加工して容器とする製
缶方法は、従来の塗装した金属板を缶に成形する製缶方
法、または金属板を缶に成形した後塗装する製缶方法に
比べて、塗装工程が省略され、塗装作業や塗装後の焼き
付け工程における溶剤の飛散がなく、省エネルギーでか
つ環境に優しい製缶方法として脚光を浴びている。
【0003】樹脂被覆金属板を絞りしごき加工した容器
を用いる飲料缶の分野においては、炭酸飲料などの内容
物を缶に充填し蓋を巻き締めた後、そのまま出荷される
ものと、コーヒー飲料などのように、内容物を缶に充填
し蓋を巻き締めた後、高温の水蒸気中で殺菌処理してか
ら出荷されるものがある。後者の用途に用いられる缶に
おいては、金属板に被覆された樹脂フィルムは、絞りし
ごき加工のような厳しい成形加工に耐える優れた加工密
着性を有し、かつ100℃前後の温度の水蒸気中で数十
分間加熱処理された後も樹脂フィルムが剥離することの
ない優れた密着性(加工後密着性)を有することによ
り、内容物が樹脂フィルム剥離部やクラックなどの樹脂
フィルム欠陥部を通して金属板と接触して金属板を腐食
することのない優れた耐食性(加工後耐食性)を有して
いることが求められる。樹脂フィルムを直接金属板に熱
融着したのみの樹脂被覆金属板を用いた場合は、これら
の必要特性を実用レベルで満足させることが内容物によ
っては困難であるため、エポキシ系樹脂などの有機樹脂
からなる接着層を介して樹脂フィルムと金属板を積層す
る方法が行われている(特公平4−74176号公報、
特公平5−71035号公報、特開平2−70430号
公報など)。
【0004】このように、接着層を介して樹脂フィルム
と金属板を積層することにより、前記の加工密着性は実
用レベルを満足する程度に改善されるが、接着層として
使用する有機樹脂は有機溶媒に希釈されたものであり、
これらの接着層用有機樹脂を樹脂フィルムまたは金属板
に塗布しさらに乾燥するためには、上記の製缶工程にお
ける塗装工程に準じた工程および設備を必要とし、接着
層を介して樹脂フィルムを積層した金属板のコストアッ
プの一因となっている。また、塗装作業や塗装後の焼き
付け工程におけるのと同様に、溶剤の飛散を伴い、エネ
ルギーを余分に消費し、また環境にとっても好ましくな
い。このため、溶剤の飛散が伴わない、エネルギーの消
費の少ない簡便な塗工手段を用いて接着層を介在させて
樹脂フィルムを金属板に積層する方法が求められてい
る。
【0005】また、充填後に殺菌処理を施さない缶に用
いられる、樹脂フィルムを直接金属板に熱融着したのみ
の樹脂被覆金属板を使用する分野においても、さらなる
コストダウンを目的として絞りしごき加工量を増加して
缶側壁を薄肉化する、缶のさらなる軽量化が試みられて
いる。上記の加工密着性は絞りしごき加工量の増加に伴
って低下する傾向にあり、樹脂フィルムを直接金属板に
熱融着したのみの樹脂被覆金属板では、絞りしごき加工
量の増加に伴って加工密着性の必要とされるレベルを維
持することが極めて困難になる。そこで、充填後に殺菌
処理を施さない内容物を充填する缶に用いられる樹脂被
覆金属板においても、コストアップをそれほど伴わな
い、簡便な塗工手段を用いて接着層を介在させて樹脂フ
ィルムを被覆した金属板が求められている。
【0006】特開平9−1052号公報は、樹脂被覆金
属板の樹脂の被覆下地として広く用いられている、電解
クロメート処理を施して金属クロム皮膜とクロム水和酸
化物皮膜の二層皮膜を形成させた鋼板(TFS)とした
後に、カルボキシル基を分子内に有する有機物を含む水
溶液を塗布、または水溶液中で電解処理を施して接着層
を形成してなる加工密着性および加工耐食性に優れた塗
装またはフィルムラミネート2ピース缶用表面処理鋼板
を開示している。この表面処理鋼板にエポキシ樹脂を塗
装、またはポリエステルフィルムをラミネートした樹脂
被覆金属板は、絞り加工後、および絞り加工しさらに9
0℃でレトルト処理した後の密着性に優れていることが
記載されている。
【0007】しかし、長尺帯状の金属板の表面に有機樹
脂層を接着層として連続的に形成させて表面処理金属板
とし、さらに得られた長尺帯状の表面処理金属板を連続
的に加熱し、その表面に樹脂フィルムをラミネートする
場合、長尺帯状の表面処理金属板は、表面処理工程を支
障なく連続的に進行するためにステアリングロールなど
の各種のロールと不可避的に接触する。また、剛性の高
い金属板を確実にロールにグリップさせるために、金属
板には各ロール間でかなり大きな張力が負荷されてお
り、そのため金属板とロールはかなり高い圧力で接触し
ている。さらに、場合によっては表面処理金属板を連続
的に加熱するために加熱ロールと接触させることもあ
り、これらの各種ロールと接触する表面処理金属板の面
は、前記の接着層を形成させた面も当然含まれる。しか
し、上記のようにして形成された接着層は水和酸化物層
上に塗布されて形成されているか、または電解により一
部が水和酸化物層中に取り込まれる形で形成されていて
も大半は水和酸化物層上に形成されているので、これら
のロールと接着層が高圧およびまたは高温で接触する
と、接着剤がロールに転写移行し表面処理金属板の表面
から剥離し、その結果表面処理金属板の接着層が失われ
るため、その後に樹脂フィルムをラミネートしても十分
な加工密着性が得られないことがある。また、時間の経
過に伴って接着層と接触する各種ロールの表面に接着剤
が蓄積し、それが脱落して異物として表面処理金属板の
表面に付着し、その上に樹脂フィルムがラミネートされ
ると欠陥となり、成形加工時に樹脂フィルム剥離の起点
となることもある。このように、金属板の最表面に多量
の接着層が露出する形で接着層を設けることは、飲料缶
用の帯状長尺の金属板に接着層を設ける場合に適用する
には好ましい方法とはいえない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、樹脂を被覆
した表面処理鋼板を絞りしごき加工した後も優れた加工
密着性、特に優れた加工後密着性を有することが可能
な、表面処理鋼板の製造方法、その製造方法を用いて製
造した表面処理鋼板、その表面処理鋼板に樹脂を被覆し
てなる樹脂被覆表面処理鋼板、およびその樹脂被覆表面
処理鋼板を絞りしごき加工して成形した容器を提供する
ことを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1の表面処理鋼板
の製造方法は、クロムめっき浴を用いて鋼板上にクロム
めっきを電析させた後、電解クロム酸処理浴に分子内に
水素結合能を有する官能基を含む水溶性樹脂を添加した
浴を用いて、前記のクロムめっきの上にクロム水和酸化
物および分子内に水素結合能を有する官能基を含む樹脂
とからなる複合皮膜を電析させることを特徴とする。請
求項2の製造方法は、前記分子内に水素結合能を有する
官能基を含む水溶性樹脂として、ポリカルボン酸を用い
ることを特徴とする。請求項3の製造方法は、前記ポリ
カルボン酸が、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ま
たはポリイタコン酸のいずれかであることを特徴とす
る。請求項4の製造方法は、前記分子内に水素結合能を
有する官能基を含む水溶性樹脂を添加した浴中で5〜5
0A/dm2 の電流密度で電析することを特徴とする。
請求項5の製造方法は、前記分子内に水素結合能を有す
る官能基を含む水溶性樹脂を添加した浴中で電流を断続
的に通電して電析することを特徴とする。請求項6の表
面処理鋼板は、請求項1〜5のいずれかに記載の表面処
理鋼板の製造方法を用いて、金属クロムからなる皮膜を
下層とし、クロム水和酸化物と分子内に水素結合能を有
する官能基を含む樹脂とからなる複合皮膜を上層とする
二層皮膜を鋼板上に形成させてなることを特徴とする。
請求項7の表面処理鋼板は、前記複合皮膜をXPS(X
線光電子分光分析法)を用いてピーク分析して得られる
ピークにおいて、結合エネルギー290eV付近に出現
するカルボキシル基に基づくピークAの面積(A)の、
結合エネルギー286eV付近に出現するピークCの面
積(C)に対する比の値(A/C)が0.08以上であ
ることを特徴とする。請求項8の樹脂被覆表面処理鋼板
は、請求項6または7に記載の表面処理鋼板の少なくと
も片面に樹脂を被覆してなることを特徴とする。請求項
9の樹脂被覆表面処理鋼板は、前記樹脂が熱可塑性樹脂
フィルムであることを特徴とする。請求項10の容器
は、請求項8または9に記載の樹脂被覆表面処理鋼板を
絞りしごき加工してなることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】従来より、クロム水和酸化物の皮
膜を有する電解クロム酸処理鋼板などの金属板にフェノ
ール系樹脂などからなる塗料を塗布した塗装金属板は、
良好な塗膜密着性を示すことが知られている。これはク
ロム水和酸化物に含まれる水酸基とフェノール系樹脂の
水酸基の水素結合能が大きく寄与しているためと考えら
れている。したがって、樹脂フィルム、特に分子内に水
酸基を含むポリエステル樹脂などからなるフィルムを、
表面に水酸基を含むクロム水和酸化物皮膜を有する電解
クロム酸処理鋼板などの金属板に被覆した被覆金属板も
良好な密着性を示す。しかし、被覆金属板に加工を施し
た場合、加工程度が厳しくなるのに伴って密着性が低下
する。したがって、加工後においても良好な密着性を維
持するためには金属板のクロム水和酸化物皮膜と樹脂フ
ィルムの水素結合能をさらに高めるか、または両者の間
にさらに大きな水素結合能を有する層を介在させること
が有効である。
【0011】本発明においては、缶のさらなるコストダ
ウンを目的とする、樹脂被覆金属板の絞りしごき加工量
を増加して缶側壁を薄肉化しさらに軽量化する試みに対
し、絞りしごき加工量の増加に伴って低下する加工密着
性、および加工後密着性をカバーするために、従来の製
造設備をそのまま用いて、コストアップを伴わずに接着
性を有する層を鋼板表面に形成させる表面処理鋼板を製
造する方法について研究した結果、クロムめっき浴を用
いて鋼板上にクロムめっき層を電析させた後、電解クロ
ム酸処理浴に分子内に水素結合能を有する官能基を含む
水溶性樹脂を添加した浴を用いて、前記のクロムめっき
層の上層にクロム水和酸化物および分子内に水素結合能
を有する官能基を含む樹脂とからなる皮膜を電析させる
ことにより、得られた表面処理鋼板に樹脂を被覆して樹
脂被覆鋼板を作成して絞りしごき容器に成形加工した際
に、絞りしごき加工量を増加しても加工密着性および加
工後密着性が低下しないことが判明した。以下、実施例
により本発明を説明する。
【0012】
【実施例】本発明の表面処理鋼板の基板となる鋼板とし
ては、通常の缶用鋼板に用いられるアルミキルド低炭素
鋼の冷間圧延板を用いる。この低炭素冷延鋼板を脱脂お
よび酸洗した後、クロムめっきを施す。クロムめっきは
無水クロム酸を主体とし、めっき助剤として少量の硫
酸、硫酸塩、フッ化物、ケイフッ化物およびホウフッ化
物から選択される1種または2種以上を含むめっき浴中
で、鋼板を陰極として電解し、30〜300mg/m2
の金属クロムを析出させる。
【0013】次いで電解クロム酸処理浴に分子内に水素
結合能を有する官能基を含む水溶性樹脂を添加した浴を
用いて、前記のクロムめっき上にクロム水和酸化物およ
び分子中に水素結合能を有する官能基を含む樹脂とから
なる皮膜を電析させる。電解クロム酸処理浴はクロムめ
っきに用いためっき浴よりも低濃度の無水クロム酸とめ
っき助剤からなり、この電解クロム酸処理浴に分子内に
水素結合能を有する官能基を含む水溶性樹脂を5〜50
g/l添加した処理浴中で鋼板を陰極として電解し、ク
ロム換算で3〜30mg/m2 のクロム水和酸化物と分
子内に水素結合能を有する官能基を含む樹脂とからなる
複合皮膜を析出させる。水溶性樹脂の添加量が5g/l
未満の場合は複合皮膜中に十分な樹脂が生成せず、加工
密着性の向上に効果が認めらない。一方、50g/lを
超えると加工密着性向上の効果が飽和し、また処理液が
経時変化しやすくなるので好ましくない。
【0014】電解クロム酸処理浴に添加する分子内に水
素結合能を有する官能基を含む水溶性樹脂において、水
素結合能を有する官能基としては、カルボキシル基、フ
ェノール性水酸基、炭素原子に結合した水酸基、エーテ
ル基、酸素原子などがあるが、密着性を向上させるため
には分子内にカルボキシル基を含む樹脂を用いることが
最も有効である。分子内にカルボキシル基を含む水溶性
樹脂としてはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ
イタコン酸などのポリカルボン酸がある。
【0015】上記の複合樹脂を生成させる処理液の電解
においては、5〜50A/dm2 の電流密度で電析する
ことがクロム水和酸化物を多量に析出させる上で好まし
い。電流密度が5A/dm2 未満の場合は皮膜の形成に
長時間を要し、帯状の長尺の鋼板を連続ラインで処理す
る場合は処理タンクを増やす必要があり、生産性に乏し
くなり、好ましくない。一方、電流密度が50A/dm
2 を超えると均一な複合皮膜が得られ難くなり、得られ
た表面処理鋼板に樹脂を被覆して厳しい成形加工を施
し、次いで高温水蒸気中で処理した際に樹脂が剥離しや
すく、加工後の密着性に劣るようになる。
【0016】さらに、上記の複合樹脂を生成させる処理
液の電解においては、電流を断続的に通電して電析する
ことがクロム水和酸化物と有機樹脂を共析させるために
有利であり、特に0.01〜0.2秒の間隔で電流を断
続して通電することが好ましい。
【0017】本発明の表面処理鋼板は上記のように、鋼
板上にクロムめっき浴を用いて金属クロムを電析し、次
いで電解クロム酸処理浴に水素結合能を有する官能基を
含む水溶性樹脂を添加した処理浴を用いてクロム水和酸
化物および分子内に水素結合能を有する官能基を含む樹
脂とからなる複合皮膜を電析することにより製造される
ので、樹脂は複合皮膜中に堅固に取り込まれており、表
面処理鋼板の製造過程におけるステアリングロールなど
の各種のロールと高い圧力で接触したり、樹脂フィルム
を熱融着する際に加熱ロールと接触しても、樹脂がロー
ルに転写移行し表面処理鋼板の表面から剥離することが
なく、後に樹脂フィルムをラミネートしても十分な加工
密着性が得られる。また、時間が経過しても樹脂と接触
する各種ロールの表面に樹脂が蓄積することもなく、樹
脂が脱落して異物として表面処理金属板の表面に付着
し、その上に樹脂フィルムがラミネートすることによる
欠陥も生じることがない。
【0018】このようにして製造した表面処理鋼板のク
ロム水和酸化物と分子内に水素結合能を有する官能基を
含む樹脂とからなる複合皮膜をXPSを用いて測定する
と、図1および2に示すように283〜293eVの結
合エネルギーの範囲に、290eV付近のカルボキシル
基に基づくピークA、288eV付近のピークB、およ
び286eV付近のピークCの3つのピークからなるピ
ークが出現する。図1は分子内に水素結合能を有する官
能基を含む水溶性樹脂を添加しない電解クロム酸処理浴
を用いて得られたクロム水和酸化物のみからなる皮膜の
ピーク、図2は水溶性樹脂を添加した電解クロム酸処理
浴を用いて得られた複合皮膜のピークであり、水溶性樹
脂を添加した電解クロム酸処理浴を用いて得られた複合
皮膜においてはピークAのピーク強度が大きくなり、分
子内に水素結合能を有する官能基を含む樹脂が複合皮膜
中に含まれていることを意味する。このピークA、B、
およびCにおいて、ピークAの面積を(A)、ピークB
の面積を(B)、およびピークCの面積を(C)とした
場合、(A)の(C)に対する比(A/C)の値が0.
08以上であると、表面処理鋼板に樹脂を被覆して厳し
い加工を施し、さらに高温水蒸気中で処理した後におい
ても優れた密着性を示すようになる。すなわち、水素結
合能を有する官能基を含む樹脂が複合皮膜中に多いほ
ど、表面処理鋼板の表面にカルボキシル基が多く含まれ
るようになり、このために皮膜の加工密着性が向上す
る。
【0019】本発明はこのようにして得られた表面処理
鋼板に樹脂を被覆してなる樹脂被覆鋼板も発明の対象と
している。被覆樹脂としては熱可塑性樹脂または熱硬化
性樹脂を主体とする塗料を塗布し乾燥させてなる塗装皮
膜や、熱可塑性樹脂フィルムをラミネートしたものな
ど、いずれも適用可能であるが、本発明の目的とする絞
りしごき加工のような厳しい加工を施して容器に成形す
るためには、熱融着法を用いて容易に鋼板にラミネート
することが可能な熱可塑性樹脂フィルムをラミネートし
たものが好ましい。
【0020】以下に、本発明に適用可能な熱可塑性樹脂
フィルムについて説明する。熱可塑性樹脂フィルムとし
ては、分子内に水素結合能を有する官能基を含む樹脂か
らなるフィルムであることが好ましい。このような樹脂
としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレン
テレフタレート、エチレンテレフタレートまたはブチレ
ンテレフタレートの酸成分であるテレフタル酸の一部を
他の酸で置き換えた共重合ポリエステル樹脂、またはエ
チレンテレフタレートまたはブチレンテレフタレートの
エチレングリコールの一部を他のアルコールで置き換え
た共重合ポリエステル樹脂などのポリエステル樹脂、ま
たはこれらのポリエステル樹脂の2種以上をブレンドし
てなる樹脂、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6−
6,6−コーポリマーナイロン、6,10−ナイロン、
7−ナイロン、12−ナイロンなどのポリアミド樹脂、
ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン
共重合樹脂などのポリオレフィン樹脂をマレイン酸など
を用いて酸変性した変性ポリオレフィン樹脂、ポリカー
ボネート、ポリエチレンナフタレートなどの熱可塑性樹
脂を挙げることができる。これらの樹脂からなるフィル
ムは単独で用いてもよいし、あるいはこれらの樹脂2種
以上からなる2層以上の多層フィルムとして用いてもよ
い。また、これらの樹脂フィルムは未延伸の無配向フィ
ルムであってもよいし、1方向または2方向に延伸配向
させたフィルムであってもよい。樹脂フィルムの厚さは
5〜50μmであることが好ましい。
【0021】本発明の熱可塑性樹脂フィルムを被覆した
樹脂被覆鋼板は、以下に示すようにして製造される。す
なわち、上記のようにして製造した表面処理鋼板を被覆
しようとする熱可塑性樹脂フィルムの融点以上に加熱
し、熱可塑性樹脂フィルムを当接して一対のラミネート
ロールで両者を圧着し、直ちに急冷することにより密着
性に優れた樹脂被覆鋼板が得られる。
【0022】上記のようにして製造した樹脂被覆鋼板
は、次のようにして絞りしごき容器に成形加工される。
すなわち、樹脂被覆鋼板を円形のブランクに打ち抜き、
1〜複数回の絞り加工を施して絞り容器に成形加工す
る。次いでこの絞り容器に絞り加工と同時にしごき加工
を行う複合加工を施す。さらに容器上端部の高さが不揃
いの部分を容器の底から一定の高さでトリミングして一
定高さの容器とし、次いで容器上端開口部を縮径加工
(ネックイン)して容器上端部の径を小径化した後、上
端部を容器の外側に張り出す(フランジ)加工を施す。
このようにして、本発明の絞りしごき容器が得られる。
【0023】このように、特に容器上部となる部分は極
めて厳しい加工が施されるため、樹脂フィルムの鋼板に
対する加工後の密着性は大きく低下する。さらにこのよ
うな厳しい加工が施されて成形された容器に内容物を充
填して容器上端部に蓋を当接して卷き締め、内容物によ
ってはさらに高温の水蒸気中で殺菌処理が施される。し
たがって、樹脂フィルムの密着性はさらに低下するが、
本発明の樹脂被覆鋼板は、樹脂フィルムが鋼板上に形成
したクロム水和酸化物と水素結合能を有する樹脂からな
る複合皮膜を介して鋼板に被覆されているために密着性
が優れており、上記の一連の厳しい加工を施しても樹脂
フィルムが鋼板から剥離したり、樹脂フィルムにクラッ
クが生じたりすることはない。以下実施例を示し、本発
明をさらに詳細に説明する。
【0024】(実施例)板厚:0.18 mm、テンパ
ー:T−4CAのアルミキルド低炭素冷延鋼板を定法よ
り脱脂、酸洗した後、無水クロム酸:100g/l、フ
ッ化アンモニウム5g/lからなるクロムめっき浴を用
い、50A/dm2 の電流密度で80〜120mg/m
2 の金属クロムを析出させた。次いで無水クロム酸:3
0g/l、フッ化アンモニウム2g/lからなる電解ク
ロム酸処理用の水溶液にポリカルボン酸を表1に示す量
で添加した処理浴を用い、表1に示す電解条件でクロム
水和酸化物とポリカルボン酸とからなる複合皮膜を形成
させた。比較用として、ポリカルボン酸を添加しない処
理浴を用いて処理した表面処理鋼板も作成した。これら
の表面処理鋼板に、90モル%のテレフタル酸と10モ
ル%のイソフタル酸を酸成分とし100モル%のエチレ
ングリコールをアルコール成分とする共重合ポリエステ
ル樹脂からなる厚さ25μmの二軸延伸フィルムを熱融
着した。すなわち共重合ポリエステル樹脂の融点(23
2℃)以上に加熱し、樹脂フィルムを当接し、一対のラ
ミネートロールで両者を挟み付けて圧着して積層した
後、直ちに水を張ったクエンチタンクに浸漬し急冷し
た。次いで乾燥して樹脂被覆鋼板を得た。
【0025】上記のようにして作成した樹脂被覆鋼板か
ら供試片を切り出し、XPSを用いて表面のC1sスペ
クトルを測定し、290eV付近のカルボキシル基に基
づくピークA、288eV付近のピークB、および28
6eV付近のピークCの3つのピーク強度に分離して、
ピークAの面積(A)のピークCの面積(C)に対する
比(A/C)の値を求めた。結果を表1に示す。
【0026】また上記の樹脂被覆鋼板を、次のようにし
て絞りしごき容器に成形加工した。まず直径160mm
のブランクに打ち抜いた後、絞り加工を施して100m
m径の絞り容器とした。次いで再絞り加工を施して径8
0mmの再絞り容器とした。この再絞り容器を再絞り加
工としごき加工を同時に行う再絞り・しごき加工を施し
て、径66mmの、高さ125mmの部分にフランジを
有する円筒容器とした。この再絞り・しごき加工は、容
器の上端部となる再絞り加工部としごき加工部間の間隔
は20mm、再絞りダイスの肩アールは樹脂被覆鋼板の
厚さの 1.5倍、再絞りダイスとポンチのクリアランス
は樹脂被覆鋼板の厚さの1.0 倍、しごき加工部のクリ
アランスは樹脂被覆鋼板の厚さの50%となる条件で実
施した。次いで円筒容器の上端部をトリミングし高さを
122mmとした後、スピンネッカーを用いて容器上端
部を縮径(ネックイン)加工し、容器上端の開口部の径
を57mmとした。次いでさらに開口端部を容器の外部
側に張り出し加工し、フランジ端部の径が62mmとな
るようにフランジ部を形成させ、内容物を充填する前の
最終形状の容器とした。
【0027】このようにして作成した最終形状の容器の
ネックイン加工部の容器外面部において、カッターを用
いて樹脂フィルムに容器全周に亙って金属板に達する疵
を入れ、次いで130℃の水蒸気中で30分間レトルト
処理を施した。そしてレトルト処理後の樹脂フィルムの
剥離状態を目視し、以下に示す基準で評価し、加工後密
着性の優劣を定めた。 [評価基準] 評点5:疵付け部全周に亙ってにフィルムの剥離は認め
られない。 評点4:疵付け部の周の約6%にフィルムの剥離が認め
られる。 評点3:疵付け部の周の約25%にフィルムの剥離が認
められる。 評点2:疵付け部の周の約50%にフィルムの剥離が認
められる。 評点1:疵付け部全周に亙ってにフィルムの剥離が認め
られる。 評点0:疵付け部全周および上方の缶胴部の一部にフィ
ルムの剥離が認められる。 上記の評価基準においては、評点5に近いほど加工後密
着性が優れていることを示す。評価結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】表1に示すように、本発明の複合皮膜を形
成させた表面処理鋼板に樹脂フィルムを被覆した樹脂被
覆表面処理鋼板は、厳しい加工を施し、さらに高温の水
蒸気中でレトルト処理を施した後もフィルムの剥離が生
じず、優れた加工後密着性を示す。
【0030】
【発明の効果】本発明は、表面処理鋼板に樹脂を被覆
し、その樹脂被覆表面処理鋼板を絞りしごき加工した後
も優れた加工密着性を有することが可能な表面処理鋼板
の製造方法、その製造方法を用いて製造した表面処理鋼
板、その表面処理鋼板に樹脂を被覆してなる樹脂被覆鋼
板、およびその樹脂被覆表面処理鋼板を用いた容器に関
するものであり、本発明の表面処理鋼板に樹脂を被覆し
てなる樹脂被覆表面処理鋼板は、絞りしごき加工を施し
て絞りしごき容器に成形加工し、さらに高温の水蒸気中
でレトルト処理を施した後もフィルムの剥離が生じず、
優れた加工後密着性を示す。
【0031】
【図面の簡単な説明】
【図1】 樹脂被覆鋼板上に形成した複合皮膜のXPS
によるピーク分析結果の一例(比較例)である。
【図2】 樹脂被覆鋼板上に形成した複合皮膜のXPS
によるピーク分析結果の他の一例(本発明)である。
【符号の説明】
A:カルボキシル基に基づくピーク B:カルボニル基に基づくピーク C:メチル基に基づくピーク
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 石田 正説 山口県下松市東豊井1296番地の1 東洋鋼 鈑株式会社技術研究所内 Fターム(参考) 4F100 AA22B AB01A AB13A AK01B AK01C AK01D AK24B AK25B BA02 BA04 BA07 BA10C BA10D EH71A EH712 EJ692 GB16 JB16C JB16D JK06 JL01 4J040 DF011 DG001 MA02 MA03 NA06 4K044 AA02 AB02 BA02 BA21 BB03 BC05 CA04 CA16 CA17 CA62

Claims (10)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 クロムめっき浴を用いて鋼板上にクロム
    めっきを電析させた後、電解クロム酸処理浴に分子内に
    水素結合能を有する官能基を含む水溶性樹脂を添加した
    浴を用いて、前記のクロムめっきの上にクロム水和酸化
    物および分子内に水素結合能を有する官能基を含む樹脂
    とからなる複合皮膜を電析させることを特徴とする表面
    処理鋼板の製造方法。
  2. 【請求項2】 前記分子内に水素結合能を有する官能基
    を含む水溶性樹脂として、ポリカルボン酸を用いること
    を特徴とする、請求項1に記載の表面処理鋼板の製造方
    法。
  3. 【請求項3】 前記ポリカルボン酸が、ポリアクリル
    酸、ポリメタクリル酸、またはポリイタコン酸のいずれ
    かであることを特徴とする、請求項2に記載の表面処理
    鋼板の製造方法。
  4. 【請求項4】 前記分子内に水素結合能を有する官能基
    を含む水溶性樹脂を添加した浴中で5〜50A/dm2
    の電流密度で電析することを特徴とする、請求項1〜3
    のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
  5. 【請求項5】 前記分子内に水素結合能を有する官能基
    を含む水溶性樹脂を添加した浴中で電流を断続的に通電
    して電析することを特徴とする、請求項1〜4のいずれ
    かに記載の表面処理鋼板の製造方法。
  6. 【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載の表面処
    理鋼板の製造方法を用いて、金属クロムからなる皮膜を
    下層とし、クロム水和酸化物と分子内に水素結合能を有
    する官能基を含む樹脂とからなる複合皮膜を上層とする
    二層皮膜を鋼板上に形成させてなる表面処理鋼板。
  7. 【請求項7】 前記複合皮膜をXPS(X線光電子分光
    分析法)を用いてピーク分析して得られるピークにおい
    て、結合エネルギー290eV付近に出現するカルボキ
    シル基に基づくピークAの面積(A)の、結合エネルギ
    ー286eV付近に出現するピークCの面積(C)に対
    する比の値(A/C)が0.08以上であることを特徴
    とする、請求項6に記載の表面処理鋼板。
  8. 【請求項8】 請求項6または7に記載の表面処理鋼板
    の少なくとも片面に、樹脂を被覆してなる樹脂被覆表面
    処理鋼板。
  9. 【請求項9】 前記樹脂が熱可塑性樹脂フィルムである
    ことを特徴とする、請求項8に記載の樹脂被覆表面処理
    鋼板。
  10. 【請求項10】 請求項8または9に記載の樹脂被覆表
    面処理鋼板を絞りしごき加工してなる容器。
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