JP4233193B2 - 防食状態推定方法及び解析システム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、防食対象の埋設構造物に対して対極を設け、この対極より前記埋設構造物に防食電流を流して電気防食をおこなう電気防食場を対象とし、埋設構造物に発生する絶縁破損部(絶縁状態が保持できず土壌等と通電状態となっている部位)であって、任意の絶縁破損部における電気的状態(防食電位)を推定する電気防食場の防食状態推定方法に関するものであり、さらに詳細には、地表面で測定される埋設構造物対地電位のみを用いて、埋設構造物の任意の塗覆装欠陥部(ホリディ部)の防食電位を推定する方法およびこの方法においてその解析段階で使用する解析システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
通常の埋設構造物の防食状態を推定する方法(防食管理手法)としては、地表面で測定される埋設構造物対地電位値が基準となっている値よりも卑であれば防食が、達成されているとするものがある。
この手法においては、土壌による電圧降下分をその測定値に含んでいるため、土質による誤差が大きく、埋設構造物(例えば管)81の真の防食状態を把握しているとは言いがたい(図8参照)。
このような土壌による電圧降下分をキャンセルする手法として、カレントイタラプタ法が提案されている。この手法は、図9に示されている通り、地表面での埋設構造物対地電位測定時に、防食電流の供給を止めることにより土壌の電圧降下分を0とし、地表面において埋設構造物91の防食状態を把握する方法である。
しかしながら、本手法においても、地表面に設置する照合部における電位がどの欠陥部の電位を指し示しているのか不明であり、また、測定も金属の復極の影響をキャンセルするために防食電流供給停止後から数ms〜数十msの間の電位値を測定する必要があり、測定に高価な測定機器を準備する必要がある。
また、このカレントインタラプタ法の原理を利用して、図10に示される通り疑似欠陥102を埋設構造物101の塗覆装欠陥部近傍に埋め、その電位を以て埋設構造物塗覆装欠陥部の電位と見なす方法も実用化されている(以下プローブ法とする)。
このプローブ法においては、疑似欠陥の真の防食電位値を知ることが可能であるが、既設の構造物に対して新たに疑似欠陥を埋設しても、その金属表面の状態が長年埋設している埋設構造物の塗覆装欠陥部表面の状態とは異なっているため、既設構造物に対しては測定地の信頼性が高いとは言い難い。
また、調査したい塗覆装欠陥部全てにおいて疑似欠陥を埋設するのは、費用の点からみても実用的でない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
以上の点から、現在用いられている電気防食が施されている埋設構造物の塗覆装欠陥部の防食電位を推定する手法や技術については、その信頼性に乏しく、また高価な機器を必要とするものが多い。
本発明の目的は、電気防食が施されている埋設構造物の例えば複数存在する塗覆装欠陥部における任意の塗覆層欠陥部の防食電位を推定する手法として、その信頼性が高く、高価な機器を必要としない防食電位推定方法を得ることにある。
さらに、本願は、このような電気防食場を対象として、その解析に使用することができる解析システムを得ることにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するための本発明による、防食対象の埋設構造物に対して対極を設け、前記対極より前記埋設構造物に防食電流を流して電気防食をおこなう電気防食場を対象とし、前記埋設構造物に発生する絶縁破損部における電気的状態(防食電位)を推定する電気防食場の防食状態推定方法の特徴手段は、請求項1に記載されているように、
前記電気防食場内における前記対極と前記絶縁破損部とは異なる場所に照合部を設けると共に、電気防食状態における前記照合部の前記埋設構造物に対する実測電位を測定する照合部電位測定工程と、
前記照合部を含む前記電気防食場に対応する電気的解析モデルを得ると共に、前記電気的解析モデルを対象とし、所定の電気的条件の下に適合する電気防食場の解析解を得る解析手段とを得、
前記電気的解析モデルにおいて指定される前記対極に対応するモデル部位において、定電流条件を境界条件とし、
前記電気的解析モデルにおいて指定される前記絶縁破損部に対応するモデル部位において、境界条件として、部位電位φhを、電流密度q、その傾きa及び自然電位bにより、φh=a×q+bと設定するとともに、前記電流密度q及び傾きaをパラメータとして表した条件を設定し、
前記電気的解析モデルにおける前記絶縁破損部の境界条件をパラメータとして変化させると共に、前記各境界条件下における前記対極より前記埋設構造物に防食電流が流れる解析解を前記解析手段により求め、各境界条件下における前記照合部に対応したモデル部位の解析電位を求める解析工程を実行し、
前記解析工程において得られる前記照合部に対応したモデル部位の解析電位が、前記照合部電位測定工程で得られた実測電位と一致する前記絶縁破損部の境界条件を、前記絶縁破損部の電気的状態と推定することにある。
この方法にあっては、電気防食を施している現場での実際の電位測定と数値計算等のシミュレーションを共に使用することにより、従来、推定が難しかった絶縁破損部の電気的状態を確認するのであるが、この場合に、照合部の電位を指標として使用する。測定にあたっては、通常、照合部に照合電極を設け、埋設構造物に対する電位を測定する。
即ち、現場において、電気防食用に設けられている対極とは別に、指標用の照合部を設ける。そして、問題としている電気防食場の現状において、この照合部の埋設構造物に対する実測電位を、照合部電位測定工程で測定する。この実測電位は、現場における電気防食状態を代表する状態で、照合部の配設位置等を含んで決まる。
一方、解析側にあっては、照合部を含む電気防食場の電気的解析モデルを用意する。当然、このモデルは、土壌を代表する空間内に、現場の物理的電気的状況を反映して、解析上、対極として作用するモデル部、埋設構造物を代表できるモデル部、このモデル部内の絶縁破損部を代表できる部位が配置されたものであり、さらには照合部設置位置が反映されたモデルである。
この電気的解析モデルに対しては、その場の状態を解析できる解析手段が用意される。一般に、電気防食場はその電位分布がラプラス場と見なせるため、電気的解析モデルにおいて設定される境界条件及び初期条件に基づいて、解析解を求める手段が、この解析手段である。このような手段は、ラプラス場を、境界要素法あるいは有限要素法等を用いて解析するものが一般的ある。
この手法にあっては、現場の物理的状態を代表する電気的解析モデルにおいて、その境界条件及び初期条件を特定すれば、一意解を得ることができる。
解析工程にあっては、この電気的解析モデルにおける絶縁破損部の境界条件をパラメータとして変化させると共に、各境界条件下における解析解を解析手段により求める。従って、この解析にあっては、対極と絶縁破損部とが境界条件として支配的な部位であり、照合部における電位は、これらの境界条件に従って、その値が決まる。即ち、各パラメータに対応して照合部の解析電位を求めることができる。
次に、解析工程において得られる照合部に対応したモデル部位の解析電位が、照合部電位測定工程で得られた実測電位と一致する絶縁破損部の状態を見つけ(具体的にはパラメータの特定)、この状態(これは実際上解析における境界条件である)を、現場における絶縁破損部の電気的状態と推定する。
このような適合する状態の割り出しは、上記のようなパラメータの振り操作を伴った照合部の電位の算出を一通り終わった後に行ってもよいし、解析的に求まってくる照合部の解析電位を実際に計測されている実測電位との比較において、逐次評価しながら、適合する解への収束を図るものとしてもよい。
このようにすることで、現場における実測とモデル上でのシミュレーションを併用しながら、照合部での電位を指標として、絶縁破損部の電位(防食解析にあって、最も知りたい電位)を的確に得ることができる。
【0005】
このような手法を採る対象としては、請求項2に記載されているように、前記埋設構造物が、地中に埋設される絶縁性塗覆装を外層に備えた導電性埋設管であり、前記絶縁破損部が、前記絶縁性塗覆装が破損され、導電性埋設管が土壌と電気的に接続されている部位であることが好ましい。
このような電気防食場は、多数存在する場合が考えられ、それらの電気防食状態を、その電気防食状態を的確に推定することが、必要とされるためである。
【0006】
さて、上記の方法を使用するにあたって、請求項3に記載されているように、前記照合部の設置部位として、前記絶縁破損部の直上地表面部位を中心とした位置を選択することが好ましい。
この構成の場合は、照合部を地表面に設置することとなるため、現場での作業を容易に行うことができる。ここで、照合部を絶縁破損部の直上地表面部位とすると、照合部で測定される実測電位が絶縁破損部の電位に近いものでありながら、地表面上での測定であるため、測定容易なものとでき、推定の信頼性を高めることができる。
【0007】
また、請求項4に記載されているように、照合部として、複数の照合部(この部位には実際上複数の照合電極を配設して複数の照合部とする)を使用することも、好ましい態応である。
先にも説明したように照合部の電位は、この推定方法における指標とされるため、結局、この電位が現場の電気的状況を、さらには、絶縁破損部の電気的状況を適切に代表しているかどうかで、本願の推定方法の精度が決まる。
従って、照合部は、できれば絶縁破損部のできだけ近くで、なおかつ、測定が容易な部位とされるべきである。このような部位としては、絶縁破損部の直上地表面を採用することができるが、単一の照合部を使用した実測では、現場の状態を良好に代表できない場合もある。しかしながら、例えば、絶縁破損部直上部を中心に、電気的状況がほぼ等価になる部位に複数の電極を設け、これら複数の電極の電位を指標として推定をおこなうと、推定の確度をさらに向上させることができる。しかしながら本願の場合、複数設ける電極の電位は必ずしも同一となる必要はない。
【0008】
また、照合電極を使用する場合にあっては、前記絶縁破損部の直上地表面部位に複数配設するのがよいが、前記絶縁性埋設管に対する複数の照合電極の実測電位の測定にあたっては、それらの測定を同時におこなうのがよい。このようにすることにより、実測電位値の経時的変化をキャンセルすることができるため、複数の電極間での測定誤差を解消して、測定の信頼性を高めることができる。
さらに複数の照合電極を使用する場合にあっては、あらかじめ複数の照合電極間で電位差を求めておき、絶縁性埋設管に対する複数の電極の実測電位を測定する場合に、予め求められている電極間の電位差を考慮して、実測電位を補正するものとしてもよい、この場合も、より現場の状況を照合部により正確に代表できるため、この方法の信頼性を高めることができる。
【0009】
本願の方法は、防食現場において、照合部を設置すると共に、この電極の埋設管に対する電位を求める作業と、現場の状況に対応する電気的解析モデルを作成すると共に、このモデルにおいて電気防食場を、絶縁破損部の境界条件を変化させながら解析し、この解析結果に含まれる照合部の電位情報を現場における実測電位と比較して、それと一致しているかどうかを評価することにより、絶縁破損部の電位の推定値を容易に求めることができるため、非常に安価かつ容易に信頼性ある埋設構造物の塗覆装欠陥部表面の防食電位状況を推定することが可能である。
上記のような防食状態推定方法において使用することができる解析システムとしては、請求項6に記載されているように、防食対象の埋設構造物に対して対極を設け、前記対極より前記埋設構造物に防食電流を流して電気防食をおこなう電気防食場を対象とし、
前記電気防食場内の電位分布をラプラス方程式に従うと見なし、前記電気防食場に対応して物理的モデルとして生成される電気的解析モデルにおいて、場内の電位分布をラプラスの方程式を満足する解として求める解析手段を備えた解析システムであって、
前記電気的解析モデルにおいて指定される前記対極に対応するモデル部位において、定電流条件を境界条件とし、
前記電気的解析モデルにおいて指定される前記絶縁破損部に対応するモデル部位において、境界条件として、その部位電位φhを、電流密度q、その傾きa及び自然電位bにより、φh=a×q+bと設定するとともに、前記電流密度q及び傾きaをパラメータとして表す条件を設定する境界条件設定手段を備え、
前記対極対応のモデル部位及び前記絶縁破損部対応のモデル部位に、それぞれ前記境界条件設定手段により設定される前記境界条件下に、前記パラメータを変化させて前記解析手段を働かせて前記ラプラスの方程式を充たす場内の前記対極より前記埋設構造物に防食電流が流れる電位分布解を逐次求め、前記電気的解析モデル内に、前記対極及び絶縁破損部に対応するモデル部位とは異なる照合部における照合部対応モデル部位の電位が、所定の値を充たす前記パラメータ値を導出する適合条件導出手段を備えて構成する。
この解析システムは、これまで説明してきた本願に係わる防食状態推定方法を使用する場合にあって、その解析工程で使用できる。即ち、この装置の使用段階にあっては、対象とされる電気防食場の現場の状況は判明しているものとする。
例えば、現場の状況としては、埋設構造物の埋設状況(埋設深度、構造物の形状等)、埋設地の土壌比抵抗、さらに、対極の埋設構造物に対する埋設位置、また、絶縁破損部の前記対極に対する位置関係等を上げることができる。
このようにして判明している現場に関する情報を利用して、一般のシミュレーションと同様に、物理的モデルである電気的解析モデルを作成することができ、このような電気的解析モデルは、解析手段が採用する解析手法に従って、適切に作成することができる。
さて、解析システムには、ソルバーとしての解析手段が備えられる。この解析手段は、電気防食場内の電位分布をラプラス方程式に従うと見なし、この電気防食場に対応して物理的モデルとして生成された電気的解析モデルにおいて、場内の電位分布をラプラスの方程式を満足する解として求めることができるものである。
このようなソルバーを使用した解析にあたっては、電気的解析モデルの形態と境界条件の設定により解が決まるが、電気的解析モデルが現場の物理電気的状況を代表すると見なせる限りにおいて、境界条件により解が決まるといってよい。そして、本願が対象とするような対極と埋設構造物に発生する絶縁破損部とを含む電気防食場にあっては、これらの部位の境界条件の設定が解を決定づけるといってよい。従って、解析システムは、前記電気的解析モデルにおいて指定される前記対極に対応するモデル部位及び、前記電気的解析モデルにおいて指定される前記絶縁破損部に対応するモデル部位における境界条件を、電気的状態変数をパラメータとして設定可能に構成されている(この境界条件の設定を境界条件設定手段が行う)。
更に、これら対極対応のモデル部位及び絶縁破損部対応のモデル部位に、それぞれ設定される前記境界条件下に、パラメータを変化させてラプラスの方程式を充たす場内の電位分布解を逐次求める。
従って、この構造にあっては、パラメータとして特定される絶縁破損部の境界条件毎に、場の電位分布を充たす解が得られるのであるが、この場内には、先の方法のおりに説明した様に、所謂、指標点としての照合部が含まれる。この照合部の現場における電位は予め調べておくことが可能であるため、この照合部に対応するモデル部位の電位がこの電位となる解が、対象とする電気防食場の現状に合致した解であり、絶縁破損部の状態は、このような解を与えるパラメータが与える状態と推定することができる。
解析システム側では、電気的解析モデル内に、対極及び絶縁破損部に対応するモデル部位とは異なる照合部における照合部対応モデル部位の電位が、所定の値を充たすパラメータ値を導出可能とされている(この働きを適合条件導出手段が行う)。
このようにして、パラメータ値を得ることにより、この値から決まる絶縁破損部の境界条件を、現場における絶縁破損部の電気的状態と推定することができる。
【0010】
さて、上記の解析システムにあっては、請求項6に記載されているように、最も採用しやすい電気防食状態である境界条件(対極における境界条件は定電流条件、絶縁破損部における境界条件は、この部位電位φhを、電流密度q、その傾きa及び自然電位bにより、前記電流密度q及び傾きaをパラメータとして線形結合した境界条件)で表すことが実用的である。
但し、解析に当たっては、これらの境界条件として、対極および絶縁破損部においては、定電流設定や定電位設定等の条件を設定可能にすると、現場の電気防食状況をより好適に代表できる場合もある。このような境界条件設定は、絶縁破損部におけるパラメータとして先のq、a等を電気的状態変数として採用することもできる。
本願にあっては、対極と絶縁破損部とは別の照合部(代表的には絶縁破損部の直上地表面部位を中心とする近傍位置)を電位の指標として推定を行うため、上記の境界条件の選択は、任意である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本願の防食状態推定方法の実施の形態を、以下に基づいて説明する。
先ず、本願が対象とする電気防食場Aの一形態を図1に基づいて説明する。図1は、一般的な電気防食場Aの状態を模式的に示したものであり、地中に埋設された埋設管1(埋設構造物の一例)に対して対極2が設けられ、この対極2から防食電流Bが埋設管1の塗覆装欠陥部3(ホリディ部であり絶縁破損部の一例)に流入するようにされている。また、この埋設管1は、外装側に絶縁用の絶縁性塗覆装4を備えた導電性の本体管5から構成されている。一般的には、この絶縁性塗覆装4が何らかの理由により破損することにより、本体管5に電気防食が必要な状況が発生する。
【0012】
さて、このような埋設管1において電気防食を施し、さらに、その管1に何らかの問題(塗覆装欠陥)が発生している場合にあっては、このような塗覆装欠陥部3の位置を推測し、その推定位置において、電気防食がどのような状態にあるかを知ることが必要となる。本願は、この電気的な防食状況がどのようになっているかを推定する方法を提案するものである。
以下、本願手法を採用する場合の手続きの順に、図2、図1を参照しながら説明する。図2は、本願手法を示すフローチャートである。
これまで説明してきたように、本願にあっては、数値解析手法を併用するのに電気的解析モデルを得る必要があるため、先ず、現場の物理的状況を知ることが必要となる(ステップ1)。即ち電気的解析モデル作成のために、現場で、形状データに必要となる埋設管1の形状、埋設深さ及び塗覆装欠陥部3の位置や面積を、設計図面やレーダー計測、あるいは他の市販の装置(図外)を用いて把握する。
【0013】
次に、前記対極2と前記塗覆装欠陥部3とは異なる電気防食場内に照合部6を設けると共に、電気防食状態における前記照合部6の前記絶縁性埋設物に対する実測電位を測定する照合部電位測定工程を実行する(ステップ2)。
さらに具体的には、図1に示すように、照合部6の設置部位として、塗覆欠陥部3の直上地表面部位Cに、前記照合部6として、複数n(図1に示す例にあっては3ヶ所)の照合電極を設ける。そして、これらの照合電極にあって、これらを電気的に埋設管1に接続しない状態で、これらの電極間の電位差を予備的に測定しておく。
この照合部6は地表面の電位φmiを測定できるものであればよい。
次に、これら複数の照合電極を埋設管1に電気的に接続し、同時に、埋設管1に対する複数の照合電極の電位を測定する。この測定値に対して、予め求められている各照合電極間の電位差を考慮して、補正を行い(通常、照合電極には決まった濃度の溶液が内蔵されており、その決まった濃度の溶液を入れた電極を基準電極として各電極間の電位差を予め測定しておくことで、照合電極間の電位補正をおこなうことができる。)、各電極6の実側電位を得る。この実測電位は、以下の解析における指標となる。
【0014】
一方、前記の準備工程において得られている現場の情報から、現場に対応する電気的解析モデルを作成する。このようなモデルの作成は、公知のラプラス場を対象とする解析モデルの作成手法と同じである。このモデルにあっては、現場の物理的状況に対応してモデルが形成されるのであるが、このモデル内には、塗覆装欠陥部3を含む埋設管1に対応するモデル部位および先に説明した照合部6の設置位置に対応するモデル部位が備えられることは当然であり、その他解析上必要なモデルとして、対極2に相当するモデル部位が備えられる。(ステップ3)
【0015】
更に、前記電気的解析モデルを対象とし、所定の電気的条件の下に適合する電気防食場の解析解を得るためのソルバーである解析手段が用意される。このようなソルバーは、所定の初期条件及び境界条件の下、ラプラス場を公知の手法に従って、数値解析的に解くことができるソルバーである。このようなソルバーとしては、電気防食場を対象とする場合、ABAQUSやMARCに代表されるような有限要素法の熱伝導解析機能を適応して解析解を得るものが有名であり、使用できる。(ステップ3)。
解析に当たっては、対極2に対応するモデル部位にあっては、定電流条件を適応する。この定電流条件は、境界と境界近傍に存在する各部位(格子点)の電位との関係が、対極からの流出電流量が全体として一定であるという状態を充たすことを意味する。一方、塗覆装欠陥部3である絶縁破損部に関しては、一般的に適応される、金属表面における非線形挙動を示す電気化学的挙動を推定する必要がある。しかしながら、本発明においては、この電気化学的挙動を非線形でなく、線形化した式を与える。すなわち図2に示すように、塗覆装欠陥の電気化学的挙動は、その部分の部分電位φhを、電流密度q、傾きa、自然電位bとの関係でφh=a×q+bとする。このとき与えるパラメータは、防食電流密度q及び傾きaである。また、埋設構造物の自然電位b及び土壌比抵抗ρは任意の値を与える(ステップ4−1)。この場合土壌比抵抗ρは実測値を採用してもよい。
初期条件に関しては適当な値をモデル内の各部位(あるいは格子点)に当てはめればよい。(#4−2)
【0016】
このようにして、解析が行える状況において、電気的解析モデルにおける前記絶縁破損部4に対応するモデル部位の境界条件をパラメータとして変化させると共に、各境界条件下における前記対極より前記埋設構造物に防食電流が流れる解析解を前記解析手段により求め、各境界条件下における照合部6に対応したモデル部位の解析電位φsi(i=1〜n)を得る(ステップ5)。この工程を本願にあっては解析工程と呼ぶ。本願が対象とする電気防食場は、ラプラス場であるため、この解析結果には、照合電極設置位置に対応したモデル部位の解析電位が含まれていることは当然である。
【0017】
さて、この解析工程において得られる照合部6の位置に対応したモデル部位の解析電位φsi(i=1〜n)が、照合部電位測定工程で得られた実測電位φmi(i=1〜n)と一致するかどうかをチェックしていき、一致状態の塗覆装欠陥部3(絶縁破損部)の境界条件を、現場における塗覆装欠陥部3(絶縁破損部)の電気的状態と推定する(ステップ6)。図2に示す例にあってはパラメータq,aの変更に伴って、一致判定を行っている。この状態は、先に説明したように、照合部6の実測電位を指標として、塗覆装欠陥部3(絶縁破損部)の状態を求めていることに、他ならない。
【0018】
このような推定において、ステップ3、4−1、4−2、5、6は、本願の解析システムによって実行可能である。即ち、このような解析システムは、以下のように構成できる。
防食対象の埋設構造物に対して対極を設け、前記対極より前記埋設構造物に防食電流を流して電気防食をおこなう電気防食場を対象とし、
前記電気防食場内の電位をラプラス方程式に従うと見なし、前記電気防食場に対応して物理的モデルとして生成される電気的解析モデルにおいて、場内の電位分布をラプラスの方程式を満足する解として求める解析手段(ソルバー)を備え、
前記電気的解析モデルにおいて指定される前記対極に対応するモデル部位において、定電流条件を境界条件とし、前記電気的解析モデルにおいて指定される前記絶縁破損部に対応するモデル部位において、境界条件として、その部位電位φhを、電流密度q、その傾きa及び自然電位bにより、φh=a×q+bと設定するとともに、前記電流密度q及び傾きaをパラメータとして表した条件で設定する境界条件設定手段を備え(ステップ3を実行する)、
前記対極対応のモデル部位及び前記絶縁破損部対応のモデル部位に、それぞれ前記境界条件設定手段により設定される前記境界条件下に、前記パラメータを変化させて前記解析手段を働かせて前記ラプラスの方程式を充たす場内の電位分布解を逐次求め、前記電気的解析モデル内に、前記対極及び絶縁破損部に対応するモデル部位とは異なる照合部における照合部対応モデル部位の電位が、所定の値を充たす前記パラメータ値を導出する適合条件導出手段とを備える(ステップ4−1、4−2、5を実行)。
この解析システムにおける入力情報は、電気的解析モデルを必要とすると共に、対極において設定される定電流値、照合部の位置および実測電位、さらに土壌比抵抗が必要となる。さらに、パラメータ関係に関しては、パラメータの振り範囲及び自然電位を入力する。叉、電気防食場全体の初期値に関しては、自動設定、任意設定の両者の手法を採用することができる。
この解析システムの出力は、パラメータをそのまま出力することも可能であるし、絶縁破損部の部分電位を出力とすることも可能である。
【0019】
[検証実験]
ラボ実験により本発明の妥当性を検証した。
図3に示す実験槽7および試験片8を用いて検証実験を実施した。実験槽7は、W290mm,L590mmの大きさで、マサ土を深さ60mm敷きつめ、その土壌表面に防食電流を流出させる対極2と埋設構造物を模擬した試験極9とを設置した。対極2及び試験極9は共に同じ試験片8を用いた。
試験片8はSS400材(厚み2mm)で試験面は40mm×40mmである。
この試験片8の表面は#800研磨を行い、アセトンで脱脂を行った。
また試験片表面中央には、5mm×5mmの電位測定用の穴10を開けている。この穴10に基準照合部(本検証実験では銀/塩化銀電極)を設置し、各試験片8の真の防食電位を測定する。
これは試験片8を埋設するとその真の防食電位の測定が困難であるためである。また土壌と接する試験片表面以外は絶縁コーティングを施し、防食電流が試験面以外から流出入しないようにした。
対極2から1mAの定電流を流し、外部電源方式による埋設構造物の電気防食状態を模擬した。
実験開始4時間後の地表面での試験片対地電位3点6と試験片9の真の防食電位の測定値各々を表1に示す。
【0020】
【表1】
Figure 0004233193
【0021】
図3の電気防食場をモデル化し電気防食場の真の電位を試験片対地電位3点から推定するための解析に境界要素法を用いた。ここで、モデルとしては、図4に示す構造モデルを採用した。各試験片8に対応するモデル部位を図中に示した。更に、各試験片8のモデル構造を図5に示した。逐次繰り返し計算のパラメータの初期値としてρ=5000Ωcm、a=1.0、b=650mv vs Ag/AgCl、q=2.0μA/cm2を与えた。
なお、繰り返し計算時のa及びqのパラメータ変更による解析の収束性を上げるため、シンプレックス法を用いてa及びqの推定を実施した。
解析収束後の実測電位と解析電位とを、以下に示す表2に記載した。
【0022】
【表2】
Figure 0004233193
【0023】
解析収束後、推定された試験片の真の防食電位(解析電位)と実測電位を比較すると、非常に精度よく推定されていることが判る。
【0024】
上記の手法を採用する場合にあって、本願のパラメータの条件を変更した場合の収束状況を図6、図7に示した。これらの図にあって、Sが初期設定を、Eが収束結果を示している。条件に従って、適切な収束結果が得られていることがわかる。シミュレーションの実施条件を以下に示した。
1 任意土壌比抵抗を設定(図6の条件)
土壌比抵抗 ρ=5000Ωcm、
a=0.4
b=−100mv(vs Ag/AgCl)
q=0.9A/m2
2 土壌比抵抗実測値を設定(図7の条件)
土壌比抵抗 ρ=2980Ωcm、
a=0.4
b=−100mv(vs Ag/AgCl)
q=0.9A/m2
【0025】
〔別実施例〕
上記の実施の形態にあっては、埋設構造物として、絶縁性塗覆装を外層側に有する埋設配管の例を示したが、本願の対象は、任意の電気防食場を対象とできるため、タンク内部の防食状態の推定等、任意の対象に関して適応できる。
更に、上記の実施の形態にあっては、照合部を地表面に設ける例を示したが、このような照合部を設ける部位としては、地中への設置等を採用できる。
この電極は、電位測定をできればいかなるものでもよい。
上記の検証実験においては、対極及び絶縁破損部に対応して電気的モデル内で対応モデル部位を製造する場合に、前記対極対応のモデル部の電気的モデル内における物理的位置関係および電気的条件は、現場の状態に対応したものとしたが、対極に対応するモデル部の電気的モデル内での設定は、形状、位置的に絶縁破損部から離れた位置であれば、任意に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電気防食場の状況を示す図
【図2】 本願方法のフローチャート
【図3】 検証実験の構造を示す図
【図4】 電気防食場のモデル構造を示す図
【図5】 試験片に対応するモデル部位の構造を示す図
【図6】 解析における収束状況を示す図
【図7】 解析における収束状況を示す図
【図8】 埋設体対地電位による防食状態の推定方法の説明図
【図9】 カレントインタラプタ法による防食状態の推定方法の説明図
【図10】 プローブ法による防食状態の推定方法の説明図
【符号の説明】
1 埋設管(埋設構造物)
2 対極
3 塗覆輻装欠陥部(絶縁破損部)
6 照合部
A 電気防食場
B 防食電流
C 直上地表面部位

Claims (6)

  1. 防食対象の埋設構造物に対して対極を設け、前記対極より前記埋設構造物に防食電流を流して電気防食をおこなう電気防食場を対象とし、前記埋設構造物に発生する絶縁破損部における電気的状態を推定する電気防食場の防食状態推定方法であって、
    前記電気防食場内における前記対極と前記絶縁破損部とは異なる場所に照合部を設けると共に、電気防食状態における前記照合部の前記埋設構造物に対する実測電位を測定する照合部電位測定工程と、
    前記照合部を含む前記電気防食場に対応する電気的解析モデルを得ると共に、前記電気的解析モデルを対象とし、所定の電気的条件の下に適合する電気防食場の解析解を得る解析手段とを得、
    前記電気的解析モデルにおいて指定される前記対極に対応するモデル部位において、定電流条件を境界条件とし、
    前記電気的解析モデルにおいて指定される前記絶縁破損部に対応するモデル部位において、境界条件として、部位電位φhを、電流密度q、その傾きa及び自然電位bにより、φh=a×q+bと設定するとともに、前記電流密度q及び傾きaをパラメータとして表した条件を設定し、
    前記電気的解析モデルにおける前記絶縁破損部の境界条件をパラメータとして変化させると共に、前記各境界条件下における前記対極より前記埋設構造物に防食電流が流れる解析解を前記解析手段により求め、各境界条件下における前記照合部に対応したモデル部位の解析電位を求める解析工程を実行し、
    前記解析工程において得られる前記照合部に対応したモデル部位の解析電位が、前記照合部電位測定工程で得られた実測電位と一致する前記絶縁破損部の境界条件を、前記絶縁破損部の電気的状態と推定する電気防食場の防食状態推定方法。
  2. 前記埋設構造物が、地中に埋設される絶縁性塗覆装を外層に備えた導電性埋設管であり、前記絶縁破損部が、前記絶縁性塗覆装が破損し、導電性埋設管が土壌と電気的に接続されている部位である請求項1記載の電気防食場の防食状態推定方法。
  3. 前記照合部の設置部位として、前記絶縁破損部の直上地表面部位における位置を選択する請求項2記載の電気防食場の防食状態推定方法。
  4. 前記照合部として、複数の照合部を使用する請求項1から3のいずれか1項記載の電気防食場の防食状態推定方法。
  5. 前記絶縁破損部の直上地表面部位に、前記照合部としての複数の照合電極を設置すると共に、前記複数の照合電極間の電位差を予め得ておき、
    前記埋設構造物に対する前記複数の照合電極の電位を同時に測定すると共に、予め求められる前記照合電極間の電位差を考慮して前記照合電極の実測電位を求め、前記実測電位を指標として、絶縁破損部の電気的状態を推定する請求項1から3のいずれか1項記載の電気防食場の防食状態推定方法。
  6. 防食対象の埋設構造物に対して対極を設け、前記対極より前記埋設構造物に防食電流を流して電気防食をおこなう電気防食場を対象とし、
    前記電気防食場内の電位分布をラプラス方程式に従うと見なし、前記電気防食場に対応して物理的モデルとして生成される電気的解析モデルにおいて、場内の電位分布をラプラスの方程式を満足する解として求める解析手段を備えた解析システムであって、
    前記電気的解析モデルにおいて指定される前記対極に対応するモデル部位において、定電流条件を境界条件とし、
    前記電気的解析モデルにおいて指定される前記絶縁破損部に対応するモデル部位において、境界条件として、部位電位φhを、電流密度q、その傾きa及び自然電位bにより、φh=a×q+bと設定するとともに、前記電流密度q及び傾きaをパラメータとして表した条件を設定する境界条件設定手段と、
    前記対極対応のモデル部位及び前記絶縁破損部対応のモデル部位に、それぞれ前記境界条件設定手段により設定される前記境界条件下に、前記パラメータを変化させて前記解析手段を働かせて前記ラプラスの方程式を充たす場内の前記対極より前記埋設構造物に防食電流が流れる電位分布解を逐次求め、前記電気的解析モデル内で、前記対極及び絶縁破損部に対応するモデル部位とは異なる照合部における照合部対応モデル部位の電位が、所定の値を充たす前記パラメータ値を導出する適合条件導出手段とを備えた解析システム。
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