JP7477676B1 - 腐食検出プログラム、腐食検出方法、情報処理装置および腐食検出装置 - Google Patents

腐食検出プログラム、腐食検出方法、情報処理装置および腐食検出装置 Download PDF

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Abstract

【課題】コンクリートの表面から内部の鉄筋の分極抵抗を精度よく検出すること。【解決手段】腐食検出装置10は、内部に鉄筋2が設けられたコンクリート1の表面に間隔を開けて電流端子C1、C2を配置し、電流端子C1、C2の内側または外側に、間隔を開けてそれぞれ電流端子C1、C2から同じ間隔Dcpで電流端子C1、C2に対して直線状に電位差測定端子P1、P2を配置し、電流端子C1、C2に、所定の周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加して電位差測定端子P1、P2の電位差を測定した測定データ33から非破壊分極抵抗R’p-niを算出する。腐食検出装置10は、被測定面積Aniおよび端子配置倍率r2/4(換算係数)に基づいて、算出した非破壊分極抵抗R’p-niから、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出する。【選択図】図54

Description

本発明は、腐食検出プログラム、腐食検出方法、情報処理装置および腐食検出装置に関する。
近年、高度経済成長期に大量に建設されたコンクリート構造物の老朽化が進行している。コンクリート構造物は、コンクリート内部に設けられた鉄筋が経年劣化により腐食する。そして、コンクリート構造物は、腐食の進行に伴って鉄筋が膨張することで、かぶりコンクリートの浮きやはく落を引き起こす虞がある。鉄筋の腐食は、ひび割れの発生などのコンクリートの表面に顕在化する前から内部で進行している。
そこで、コンクリート内部の鉄筋表面の分極抵抗を計測して鉄筋の腐食速度を検出する検出手法が知られている。
M.Stern A.L.Geary,"Electrochemical Polarization",Journal of the Electrochemical Society,Vol.104 No.1 p.56-63,1957. Keddam M,Novoa XR,Vivier V,"The concept of floating electrode for contact-less electrochemical measurements: Application to reinforcing steel-bar corrosion in concrete",Corrosion Science Vol.51,pp.1795-1801, 2009. Keddam M,Novoa XR,Puga B,Vivier V,"Impedance based method for non-contact determination of the corrosion rate in buried metallic structures",European Journal of Environmental and Civil Engineering,Vol.15,pp.1097-1103,2011. 金光俊徳,小野新平、"完全非破壊によるコンクリート内部鉄筋の腐食速度評価法の提案",土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造),Vol.76,No.4,pp.315-331,2020.
しかし、従来の検出手法は、コンクリートの表面から内部の鉄筋の分極抵抗を精度よく検出できない。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コンクリートの表面から内部の鉄筋の分極抵抗を精度よく測定できる腐食検出プログラム、腐食検出方法、情報処理装置および腐食検出装置を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の腐食検出プログラムは、内部に鉄筋が設けられたコンクリートの表面に間隔を開けて2つの第1電極を配置し、2つの第1電極の内側または外側に、間隔を開けてそれぞれ第1電極から同じ距離で2つの第1電極に対して直線状に2つの第2電極を配置し、2つの第1電極に、所定の周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加して2つの第2電極の電位差を測定した測定データから4電極配置の分極抵抗を算出し、鉄筋表面の所定の被測定面積および4電極配置を2つの第1電極による2電極配置に換算する所定の換算係数に基づいて、算出した4電極配置の分極抵抗から、2電極配置の分極抵抗を算出する処理をコンピュータに実行させる。
本発明は、コンクリートの表面から内部の鉄筋の分極抵抗を精度よく検出できるという効果を奏する。
図1は、コンクリート内部鉄筋の腐食反応の模式図である。 図2は、過電圧と外部電流密度の関係の概念図である。 図3は、交流インピーダンス法の構成の一例を概略的に示した図である。 図4は、時間遅れとインピーダンス測定値の関係を説明する図である。 図5は、電極系の最も単純な等価回路モデルを示す図である。 図6は、電極系の最も単純な等価回路モデルのナイキスト線プロットを示す図である。 図7Aは、鉄筋コンクリート測定時のナイキストプロットを示す図である。 図7Bは、鉄筋コンクリート測定時の等価回路を示す図である。 図8は、既往研究の測定実験概要および測定結果を示す図である。 図9は、非破壊分極抵抗法の適用図(断面図)である。 図10は、非破壊分極抵抗法で設定した等価回路(断面図)である。 図11Aは、非破壊で測定可能な3種類の抵抗の内、コンクリートの電気抵抗Rを説明する図(断面図)である。 図11Bは、非破壊で測定可能な3種類の抵抗の内、低周波抵抗RfLを説明する図(断面図)である。 図11Cは、非破壊で測定可能な3種類の抵抗の内、高周波抵抗RfHを説明する図(断面図)である。 図12は、非破壊分極抵抗法のナイキストプロットの模式図である。 図13は、試験体および4端子配置での端子配置の一例を示す断面図である。 図14は、試験体および2端子配置での端子配置を示す断面図である。 図15は、非破壊分極抵抗測定を模擬した解析モデル例を示す図である。 図16Aは、2端子配置の測定結果(ナイキストプロット)を示す図である。 図16Bは、4端子配置の測定結果(ナイキストプロット)を示す図である。 図17Aは、腐食要因の端子面積を変化させた2端子配置の測定結果(ナイキストプロット)を示す図である。 図17Bは、健全要因の端子面積を変化させた2端子配置の測定結果(ナイキストプロット)を示す図である。 図18は、接触面積を変化させた4端子配置の測定結果(ナイキストプロット)を示す図である。 図19Aは、2端子配置の端子-モルタル界面の等価回路である。 図19Bは、4端子配置の端子-モルタル界面の等価回路である。 図20は、端子配置を変化させた4端子配置による測定結果(ナイキストプロット)を示す図である。 図21Aは、鉄筋表面の電流密度の解析例を説明する図である。 図21Bは、鉄筋表面の電流密度の正負と、等価回路における抵抗との対応を説明する図である。 図21Cは、鉄筋表面のAni評価時の対象範囲を説明する図である。 図22Aは、絶縁面の設定方法を示す図である。 図22Bは、絶縁面を設定した場合の鉄筋表面の電流密度の解析結果を示す図である。 図23Aは、カットポイントを説明する図である。 図23Bは、カットポイントを説明する図である。 図23Cは、カットポイントでのカット後の電流密度分布を説明する図である。 図24は、試験体および3電極法の電極配置の一例を示す断面図である。 図25Aは、健全要因に対する非破壊分極抵抗法によるインピーダンスの測定結果を示す図である。 図25Bは、健全要因に対する非破壊分極抵抗法によるインピーダンスの測定結果を示す図である。 図25Cは、腐食要因に対する非破壊分極抵抗法によるインピーダンスの測定結果を示す図である。 図25Dは、腐食要因に対する非破壊分極抵抗法によるインピーダンスの測定結果を示す図である。 図26は、鉄筋が埋設されていない要因の周波数-Real(Z)関係を示す図である。 図27は、非破壊分極抵抗法による各指標の算出結果の一例を示す図である。 図28Aは、解析による内部鉄筋の分極抵抗と非破壊手法の被測定面積の関係を示す図である。 図28Bは、解析による内部鉄筋の分極抵抗と端子配置倍率の関係を示す図である。 図29Aは、健全要因に対する3電極法によるインピーダンスの測定結果を示す図である。 図29Bは、健全要因に対する3電極法によるインピーダンスの測定結果を示す図である。 図29Cは、腐食要因に対する3電極法によるインピーダンスの測定結果を示す図である。 図29Dは、腐食要因に対する3電極法によるインピーダンスの測定結果を示す図である。 図30は、3電極法によるRpと非破壊分極抵抗法によるRp-ni(2)を比較した図である。 図31は、腐食要因と健全要因の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を比較した図である。 図32は、解析によるRp-ni(2)とRpの関係を示す図である。 図33は、試験体および等間隔の4端子配置の断面図である。 図34は、等間隔配置と外寄り配置の測定によるRp-ni(2)の算出結果を比較した図である。 図35は、既往研究の測定データを含むRp-ni(2)とRpを比較した図である。 図36は、既往研究の測定データを用いた腐食要因と健全要因のRp-ni(2)を比較した図である。 図37は、既往研究の測定データを用いたRp-ni(2)とRpを比較した図である。 図38は、非破壊分極抵抗法において想定される変動要因を示す図である。 図39は、各要因のパラメトリックスタディー実施に際して、基準となる解析条件を示す図である。 図40Aは、電気抵抗率ρがRpに対するAniの関係に与える影響を示す図である。 図40Bは、電気抵抗率ρがRpに対するr2/4の関係に与える影響を示す図である。 図40Cは、電気抵抗率ρがRpに対するRp-ni(2)の関係に与える影響を示す図である。 図41Aは、かぶりcがRpに対するAniの関係に与える影響を示す図である。 図41Bは、かぶりcがRpに対するr2/4の関係に与える影響を示す図である。 図41Cは、かぶりcがRpに対するRp-ni(2)の関係に与える影響を示す図である。 図42Aは、鉄筋径φがRpに対するAniの関係に与える影響を示す図である。 図42Bは、鉄筋径φがRpに対するr2/4の関係に与える影響を示す図である。 図42Cは、鉄筋径φがRpに対するRp-ni(2)の関係に与える影響を示す図である。 図43Aは、外側2端子間隔DoutがRpに対するAniの関係に与える影響を示す図である。 図43Bは、外側2端子間隔DoutがRpに対するr2/4の関係に与える影響を示す図である。 図43Cは、外側2端子間隔DoutがRpに対するRp-ni(2)の関係に与える影響を示す図である。 図44Aは、かぶりごとの鉄筋径とAniの関係を示す図である。 図44Bは、鉄筋径ごとのかぶりとAniの関係を示す図である。 図45は、Aniの解析値に対する解析と推定の差分値ΔAniの関係を示す図である。 図46は、外側2端子間隔とr2/4の関係を示す図である。 図47は、コンクリート試験体の概要図(断面図)である。 図48は、コンクリート試験体の配合設計を示す図である。 図49Aは、コンクリート試験体測定時の端子配置の一例を示す断面図である。 図49Bは、コンクリート試験体測定時の端子配置の一例を示す断面図である。 図50Aは、外側2端子間隔ごとのナイキストプロットを示す図である。 図50Bは、外側2端子間隔ごとの周波数-Real(Z)関係を示す図である。 図51は、測定により求めた外側2端子間隔と(Rs-RfH)の関係を示す図である。 図52は、解析により求めた外側2端子間隔と(Rs-RfH)の関係を示す図である。 図53は、各試験体に対する非破壊分極抵抗と腐食判定結果を示す図である。 図54は、実施例に係る腐食検出装置の概略構成の一例を示す図である。 図55は、コンクリート構造物の測定位置の一例を示す図である。 図56は、実施例に係る腐食検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。 図57は、腐食検出プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
以下に、本発明に係る腐食検出プログラム、腐食検出方法、情報処理装置および腐食検出装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。そして、各実施例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
最初に、本開示の腐食検出手法と、従来法の腐食検出手法との違いを示すため、従来の腐食検出手法を説明する。
[第1章 既往の研究]
以下では、既往の研究として分極抵抗法を説明する。
1.1 分極抵抗法
1.1.1 分極抵抗法の測定理論
(1) 腐食速度の算出方法
分極抵抗法では、まずコンクリート内部鉄筋にリード線を導通し、コンクリート表面あるいは内部に対極および照合電極を設置する。分極抵抗法では、鉄筋と対極との間に微小な電位差を印加することで電流を発生させ、照合電極に対する鉄筋の外部からの作用がない自然状態における電位(自然電位と称する)からの電位変化である電位差を測定する。そして、分極抵抗法では、測定電位差を発生した電流で割ることによって鉄筋-コンクリート界面の分極抵抗を算出する。分極抵抗と鉄筋表面の腐食速度が反比例の関係にあることがすでに明らかになっており(例えば、非特許文献1)、分極抵抗から腐食速度に換算することが可能である。
まずコンクリート内部の鉄筋近傍は、酸素およびアルカリ性の水溶液が十分に供給されている環境に置かれているとみなす。この環境下において、内部鉄筋の腐食反応は以下の式(C1)のアノード反応、および式(C2)のカソード反応で表現できる。
Figure 0007477676000002
図1は、コンクリート内部鉄筋の腐食反応の概略を模式的に示した図である。図1には、コンクリート内部の鉄筋が示されている。コンクリート内部の鉄筋近傍では、式(C1)のアノード反応、および式(C2)のカソード反応が発生する。それ以外の電気化学的反応として、2価と3価の鉄イオンの酸化還元反応などが生じているが、それぞれのイオンの生成割合が不明確であることから、簡単のためここでは省略する。
式(C1)および式(C2)でやりとりされる電流を測定することで、鉄が2価の鉄イオンとして溶解する速度、すなわち腐食速度を求めることができる。
しかし、この電気化学反応は、同一の鉄筋表面で生じ鉄筋内部で電子がやりとりされるため、単純に電流計を接続するのみではその電流を測定することはできない。そこで、鉄筋の外部から電気的な外乱を与えて応答を測定することによって、分極抵抗を評価する。具体的には、コンクリート表面あるいは内部に金属製の対極および照合電極を設置し、鉄筋-対極間に電位差を印加することで電流を流し、照合電極-鉄筋間の自然電位からの電位変化の応答を測定する。
コンクリート中の鉄筋表面における鉄筋内外の電荷移動速度i(以下、「外部電流密度」とも称する)は、以下の式(1)で表されるバトラー・ボルマー式に基づく。
Figure 0007477676000003
ここで、
iは、腐食電流密度(A/cm)である。
iaは、アノードの電流密度(A/cm)である。
icは、カソードの電流密度(A/cm)である。
ηは、過電圧(V)である。
αは、カソード反応の電荷移動係数(アノード反応の電荷移動係数は、1-α)である。
Rは、気体定数(8.314J/mol・K)である。
nは、鉄のイオン化反応における電子の価数であり、式(C1)のみと仮定すると、n=2とする。
Fは、ファラデー定数(96500C/mol)である。
外部電流密度とは、自然電位においてアノード反応とカソード反応でやり取りされる電流密度である。式(1)で表される過電圧と外部電流密度の概念図を図2に示す。
過電圧ηが小さい場合を検討する。テーラー展開の1次近似ができるほど過電圧ηが小さい場合には、式(1)のバトラー・ボルマー式は、以下の式(2)のように変形できる。
Figure 0007477676000004
ここで、過電圧ηと外部電流密度iの比を分極抵抗Rp(Ωcm)と定義し、式(2)の定数部分(=RT/nF)をK値と定義すると、式(2)は、以下の式(3)に変形できる。
Figure 0007477676000005
この式(3)から、K値をあらかじめ設定しておけば、低過電圧域での電流密度-過電圧関係を測定し、分極抵抗Rpを算出することによって、腐食電流密度iを算出できることがわかる。本実施例では、K値は、26(mV)とする。そして、鉄筋表面の腐食速度をCR(g/cm/year)とすると、以下の式(4)を用いて腐食電流密度i(A/cm)から換算することができる。
Figure 0007477676000006
ここで、
Mは、鉄の原子量(55.85)である。
Fは、ファラデー定数である。
αは、年から秒に換算する定数(=3.1536×107(second/year))である。
式(4)は、鉄が電子を放出して2価のイオンになる半反応式(式(C1))に基づき、発生した電子から鉄の溶解速度を算出する式である。
以上のことから分極抵抗法は、低過電圧域での電流密度-過電圧関係を測定し、分極抵抗を算出することによって、腐食速度を定量的に評価できる方法であることわかる。
分極抵抗法による腐食速度の定量評価を難しくする点には、主に以下の2点がある。ひとつ目は、分極抵抗法ではK値を定数とみなして腐食速度の算出に用いるが、電気化学反応における律速となる反応物、環境条件、および測定条件により値が変化するということである。ふたつ目は、測定対象となる鉄筋表面のどの範囲に対して分極抵抗を測定しているかが不明確であるということである。腐食速度に換算可能な分極抵抗Rp(Ωcm)は、鉄筋表面の単位面積あたりの分極抵抗として定義され、過電圧(V)と印加電流値(A)の比である見かけの分極抵抗R p(Ω)に、鉄筋表面において測定電流が流入した部分の表面積である被測定面積A(cm)をかけることによって算出される。このことから、式(3)は、以下の式(5)としても表現することができる。
Figure 0007477676000007
ここで、
R pは、見かけの分極抵抗(Ω)である。
Aは、被測定面積(cm)である。
これを算出するための解析的、実験的な検討が行われているが、高精度かつ合理的な設定方法は確立されていないのが現状である。本実施例では第2章において実験的に被測定面積の評価方法を考察する。
1.1.2 交流インピーダンス法の測定理論
分極抵抗法の詳細法のひとつである交流インピーダンス法の適用図を図3に示す。まず、コンクリート内部鉄筋の一部にリード線を導通し、コンクリート表面に対極と照合電極を設置する。次に、鉄筋-対極間に広範囲の周波数帯の電位差を印加することによって電流を流し、鉄筋-照合電極間の電位差を測定する。測定した電位差を電流で割ることによって、各周波数のインピーダンスZを算出する。そして、各周波数のインピーダンスZを複素数平面上に図示して、その形状から鉄筋表面の分極抵抗Rp(Ωcm)とコンクリートの電気抵抗Rs(Ω)を分離して算出する。分極抵抗Rp(Ωcm)から腐食速度CR(g/cm/year)への換算手順は、式(3)、式(4)で既に示している。
インピーダンスZは、周波数応答解析器(FRA)付きのポテンショガルバノスタットを用いて周波数を変化させながら測定する。一般的に鉄筋コンクリート測定時には、鉄筋-コンクリート界面に含まれるコンデンサ成分の影響により、印加電流に対して電位応答に時間遅れが生じる。ここで、時間遅れとインピーダンスの測定値の関係を図4に示す。
印加電流と応答電位に図4(a)に示すような時間遅れがある場合に、複素数としてインピーダンスZを算出すると、時間遅れの情報は位相のずれの情報として複素数平面上に表すことができる。複素数平面上では、印加電流に対して同じ位相で測定される電位差は実数部の成分Real(Z)として表される。また、電流に対して90度位相がずれた電位差は虚数部の成分Imag(Z)として表される。すなわち、図4(b)に示すように、Real(Z)が直流で言うところの抵抗値であり、Imag(Z)が位相のずれを反映した成分として表現される。そして、インピーダンスZは、以下の式(6)で表される。
Figure 0007477676000008
ここで、交流インピーダンス法の原理説明のために溶液中の電極表面の反応を仮定する。電極系の最も単純な等価回路モデルを図5に示す。鉄筋と溶液の界面では、電位変化が生じると陽イオンと陰イオンが分離するため、コンデンサCdlと分極抵抗Rpの並列回路が形成される。そこに溶液抵抗Rsが直列に加わる回路となる。複素数平面上のインピーダンスの軌跡は、式(7)として得られる。
Figure 0007477676000009
すなわち、複素数平面上に図6に示すような半径Rp/2、中心座標(Rs+Rp/2,0)の半円が示される。この表現方法は、コールコールプロット、ナイキストプロット、あるいはインピーダンスプロットとも称されるが、本実施例ではナイキストプロットと称する。
このように、印加電流の周波数を変化させながらインピーダンス測定を行い、ナイキストプロットを複素数平面上に表示し、半円のカーブフィッティングを行うことにより、分極抵抗Rpと溶液抵抗Rsを分離して算出する方法が交流インピーダンス法である。カーブフィッティングとは、ナイキストプロットに等価回路をあてはめ、成分ごとの定量的な値を取得することである。
続いて、鉄筋コンクリートに対して交流インピーダンス法を適用した際の代表的なナイキストプロットおよび想定される等価回路を図7A、図7Bに示す。図7Aは、鉄筋コンクリート測定時のナイキストプロットを示している。図7Bは、鉄筋コンクリート測定時の等価回路を示している。鉄筋-コンクリート界面の電気性状に起因する抵抗とコンデンサ成分の並列回路が現れることに加えて、コンクリート中の酸素拡散を原因としたワールブルグインピーダンスZwが付随する。この影響により、ナイキストプロットにおいて低周波数域で45度の傾きの直線が現れる場合があるが、曲線部分を円弧でカーブフィッティングすることによって、見かけの分極抵抗R p(Ω)を算出することができる。コンクリートに関しても、粗骨材とセメントペーストの界面やセメントペースト自体が電気容量を持つとしている研究がある。その場合でも、鉄筋-コンクリート界面の静電容量Cdlは、コンクリート自体の静電容量より2桁以上大きいことが一般的であり、周波数帯域によって両者の電気的性質を分離することができる。実施例では、鉄筋腐食に着目するため、コンクリートは単純に抵抗成分のみとした。以上のことから、鉄筋コンクリートにおいては低周波側に現れる半円をカーブフィッティングすることによって分極抵抗R pを算出でき、定量的に腐食速度を算出できることが示された。
1.1.3 分極抵抗法による腐食速度評価
既往研究における分極抵抗法の腐食判定への活用例としては、表1に示すCEB(ヨーロッパコンクリート委員会)の判定基準が代表的であり、コンクリート表面の腐食ひび割れ発生前における腐食診断として活用される。
Figure 0007477676000010
1.2 完全非破壊の電気化学的測定手法
3電極による分極抵抗法は、適用の際に、図3に示したように鉄筋に一部リード線を導通する必要があり、既設構造物に対してドリル削孔などによる一部破壊をともなうという課題がある。この課題解決を目的として、コンクリート表面から完全非破壊で腐食速度を測定する試みがいくつかなされている。以下、本実施例では、3電極による分極抵抗法を3電極法とも称する。
既往研究では、コンクリート表面に4個の電極を設置してウェンナーの電極配置で内部鉄筋の分極抵抗の推定を試みる例が多い。ウェンナーの電極配置とは、表面に4個の端子を等間隔に配置し、外側の2端子で、電圧印加と電流測定、内側の2端子で電位差測定する配置である。この配置は、コンクリートの電気抵抗率測定によく用いられており、それに倣った例が多いと推察される。
例えば、非特許文献2および非特許文献3において、Keddamらは、鉄筋を埋設したセメントペーストに対してかぶりを変化させた測定および3次元の有限要素法(FEM)による非破壊の交流インピーダンス法の再現解析を実施し、かぶりが大きくなるほどナイキストプロットの半円形状が小さくなることを明らかにした。ここで、Keddamらの測定実験概要および測定結果を図8に示す。図8は、既往研究の測定実験概要および測定結果を示す図である。図8(a)は、試験体および端子配置を示している。図8(b)は、測定結果を示している。4端子のインピーダンスはWE、CE間に電位差を印加して電流測定し、RE、REで電位測定して、測定電位差と測定電流の比を取ることで算出している。結果として、かぶりが小さいほどナイキストプロットの半円形状が小さくなることを示した。また、解析によってもこの傾向を再現している。
しかし、既往研究は、コンクリートの表面から内部の鉄筋の分極抵抗を精度よく検出できない。例えば、図8(b)では、同じ鉄筋を測定した場合でも、かぶりが変わるとナイキストプロットの半円形状が変わり、分極抵抗も変化する。既往研究は、分極抵抗を精度よく検出できないため、腐食速度を精度よく検出できない。
[第2章 完全非破壊の腐食速度評価法に関する基礎的検討]
2.1 はじめに
本章では、新しい完全非破壊の腐食速度評価手法として、非破壊分極抵抗法(Non-Invasive Polarization Resistance method, NIPR method)を提案し、測定理論とその算出方法を提示する。以下では、本開示の提案手法(非破壊分極抵抗法)に至る基礎的検討について説明する。
2.2 非破壊分極抵抗法の測定理論
本開示の非破壊分極抵抗法の適用図を図9に示す。本開示の非破壊分極抵抗法は、4個の端子C1、1、2、をコンクリート表面に内部鉄筋の直上かつ平行に一列に配置して、外側の2端子C1、に対して電圧をかけて広帯域の周波数の電流を印加し、内側の端子P1、の電位差を測定することによって、インピーダンスを算出する手法である。端子C1、1、2、は、それぞれ電極である。2端子配置による2端子法ではなく、4端子の内側2端子P1、で電位差を測定する理由は、後述の2.3に示すが、端子(ステンレス)とコンクリート界面の接触抵抗および分極抵抗の影響を低減し、腐食によるインピーダンス変化を評価できるようにするためである。また、図9中の電流の模式図では、コンクリートのみを流れる電流と鉄筋内部を経由する電流の2経路で示しているが、実際の電流はコンクリートおよび鉄筋内部に空間的に広がって分布していることに注意が必要である。図9ではこれら2つの経路は各電流の平均的なものを描いており、測定結果の解釈の際に扱いやすいために設定したものである。
図9で示した2つの電流の経路に対応した非破壊分極抵抗法の等価回路を、図10として提案する。この等価回路は、コンクリートのみを流れる電流の抵抗R、鉄筋内部に流れる電流のコンクリート部分の抵抗R、鉄筋内部に流れる電流の鉄筋表面の抵抗R p-ni、鉄筋表面の静電容量C、および鉄筋内部の抵抗Rsteelで構成される。この内、抵抗R p-niが3電極法で測定できる鉄筋表面の分極抵抗に正の相関、すなわち腐食速度と負の相関関係があると予想されるため、この指標に着目する。以後、抵抗R p-niを見かけの非破壊分極抵抗とも称する。また、鉄筋内部の電気抵抗率は、8.9×10-8(Ωm)程度と極めて小さく、測定結果の解釈にほとんど影響しないことから、実施例中では鉄筋内部の抵抗Rsteelを以後考慮しないものとする。
ここで、従来法の3電極の交流インピーダンス法においては、鉄筋表面の単位面積あたりの分極抵抗Rp(kΩcm)が腐食速度に換算できる指標である。この指標は、測定値である見かけの分極抵抗R p(Ω)に測定電流が流入した鉄筋の表面積である被測定面積A(cm)を乗じることによって求められる。本開示の非破壊分極抵抗法もこれに合わせる形で、測定した抵抗値を見かけの非破壊分極抵抗R p-ni(Ω)と定義し、測定電流が流入した鉄筋の表面積を非破壊手法の被測定面積Ani(cm)と定義し、換算後の指標を単位面積あたりの非破壊分極抵抗Rp-ni(kΩcm)として定義する。以後、3電極法で測定される単位面積あたりの分極抵抗を単に分極抵抗Rpと称し、単位面積あたりの非破壊分極抵抗を単に非破壊分極抵抗Rp-niと称する。3電極法の被測定面積Aおよび非破壊手法の被測定面積Aniは、FEMによる電流分散解析を用いて求めることができる。具体的な方法は後述する。
図10に示した等価回路内のR、R、R p-niという3種類の抵抗値は、図11A-図11Cに示すコンクリート表面から非破壊で測定可能な3種類の抵抗を用いて算出することができる。測定可能な3種類の抵抗とは、鉄筋がない場合のコンクリートの抵抗Rs(Ω)、鉄筋に電流が流入する場合の高周波の抵抗RfH(Ω)、鉄筋に電流が流入する場合の低周波の抵抗RfL(Ω)である。これらの抵抗値は、図10の等価回路の合成抵抗と解釈することができる。
鉄筋がない場合の測定から得られるRsは、抵抗成分としてRのみとなる。鉄筋がある場合の高周波測定では、コンデンサCとR p-niの並列回路の部分でコンデンサC側に電流が流れ、この箇所の抵抗R p-ni側に電流が流れないことから、Rと2Rの並列回路となる。一方、鉄筋がある場合の低周波測定では、CとR p-niの並列回路の部分で抵抗R p-ni側に電流が流れることからRと2R+2R p-niの並列回路となる。したがって、測定可能な抵抗値Rs、RfH、RfLは以下の式(8-1)、式(8-2)、および式(8-3)で表される。
Rs = R ・・・(8-1)
Figure 0007477676000011
上記3つの式を展開すると、等価回路における抵抗成分R、R、R p-niは以下の式(9-1)、式(9-2)、および式(9-3)により算出できる。
R1 = Rs ・・・(9-1)
Figure 0007477676000012
続いて、見かけの非破壊分極抵抗R p-niに、解析によって求められる非破壊手法の被測定面積Aniを乗じることによって、式(10)に示すように非破壊分極抵抗Rp-niを算出することができる。
Rp-ni = Ani・R p-ni ・・・(10)
さらに後述の「2.3端子配置方法に関する検討」にて示すが、4端子配置によるRp-niの測定結果は、電流端子と電位差測定端子を分離しているために、理想的な測定結果である接触抵抗および分極抵抗の影響がない場合の2端子配置による測定結果に対して過小評価となり、その値に換算する必要がある。実際の2端子配置の測定では、接触抵抗および分極抵抗が大きく影響するため、その結果を算出することは困難であるが、FEMによる電流分散解析を用いることで換算係数を算出することは可能である。そこで、換算係数を端子配置倍率r2/4、4端子配置によるRp-niをRp-ni(4)、理想的な2端子配置による非破壊分極抵抗をRp-ni(2)と定義すると、換算式は式(11)で表される。このRp-ni(2)が腐食速度に相関すると予想される指標となる。
Rp-ni(2) = r2/4・Rp-ni(4) ・・・(11)
実際の測定においては、鉄筋のかぶりや径、測定端子の配置および鉄筋の腐食状態によってコンデンサCの周波数依存性が変化すると予想される。そのため、高周波の抵抗RfHおよび低周波の抵抗RfLはどの周波数における値を用いるのが適切か不明確となる。そこで、広範囲の周波数を用いた交流インピーダンス測定によりこれらの抵抗を算出する。周波数を変化させながら測定したナイキストプロットの模式図を図12に示す。コンデンサと抵抗の並列回路の影響によって、測定値は、図12の複素数平面上に半円形状のプロットの一部として現れる。この半円の一部に対してカーブフィッティングを行うことにより、高周波側の実数軸との交点のReal(Z)をRfH、低周波側をRfLとして算出することができる。一方、コンクリートのみの抵抗Rsに関しては、周波数1-100Hz程度ではReal(Z)の変化がほとんどないことがすでに明らかなことから、周波数100Hz時のReal(Z)の値を用いる。
以降、モルタル試験体に対する測定実験および解析に基づいて、提案手法における端子配置方法の検討、提案手法と従来法の比較検討、および端子配置変化による測定値の補正方法の提案とそれを用いた既往研究データの活用を行う。
2.3 端子配置方法に関する検討
2.3.1 モルタル試験体の形状、使用材料および配合
非破壊分極抵抗法の適用性を評価するために、小型モルタル試験体を作製した。ここでは、後述の2.4、および2.5で用いる試験体の要因も合わせて示す。試験体および測定時の端子配置を図13に示す。図13には、試験体70および4端子C1、1、2、の配置の一例が示されている。図13(a)には、試験体70の短手方向の断面図が示されている。図13(b)には、試験体70の長手方向の断面図が示されている。試験体70は、40mm×40mm×160mmのサイズとした。埋設する鉄筋71は、直径10mmで長さ140mmの黒皮のない丸鋼(SS400)を用い、両端から20mmずつエポキシ樹脂72で被覆することで、中央の100mmを試験区間とした。また、コンクリート表面からの鉄筋の位置を固定するために、図13に示すように、試験体70は、スペイサーとして塩化ビニル製の六角ナット73を用いて、かぶりを確保した。実験では、鉄筋なし、健全鉄筋、腐食鉄筋の試験体70をそれぞれ複数作成した。腐食鉄筋は、健全鉄筋を腐食促進装置内に14日間設置することによって作製した。腐食促進装置は気温40(℃)、相対湿度80(%)の雰囲気下で1日1回3分間、3.0(%)のNaCl水溶液を噴霧する環境とした。鉄筋の試験区間全面を腐食させるために、設置3日目に暴露面の上下を反転させた。腐食促進後は、ほぼ全面に赤さびを主とした腐食生成物が定着した。また、モルタル打設前に3電極法の測定に用いる同軸ケーブルを鉄筋端部に導通した。
次に、モルタル試験体の配合を表2に示す。また、モルタル試験体で変更した要因を表3に示す。試験体の配合は、W/C=55(%)、C:S=1:3とし、AE減水剤などの混和剤は使用しなかった。要因は、埋設鉄筋の有無とその腐食程度、および塩化物イオン濃度とした。要因に応じて塩化物イオン濃度が0,3,10(kg/m)となるようにNaClを練り混ぜた。モルタル試験体の材料として、水は水道水、セメントは(一社)セメント協会製の研究用セメント、細骨材は山砂(千葉県君津産、表乾密度2.57(g/cm)、吸水率2.40(%))、塩化ナトリウムはNaCl特級試薬を用いた。表3の試験体名は、(鉄筋名)(腐食日数)d-CL(塩化物イオン濃度)-(試験体番号)と表記する。鉄筋名は、Nが鉄筋なし、Sが健全鉄筋、Corが腐食鉄筋とした。試験体番号は、同様の条件の複数の試験体を実験した場合に表記する。打設時のモルタルのフレッシュ性状を表4に示す。これらの値は、JIS R 5201に準拠したモルタルフロー試験器およびJIS A 1171に準拠したモルタルエアメーターを用いて算出した。含有塩化物イオン量が大きいほど、フロー値が高く、空気量は低くなる傾向となった。モルタルを打設した後は気温20(℃)、相対湿度70(%)の雰囲気下で、ポリエチレンフィルムを試験体に巻くことによって2週間の封かん養生を行った。
Figure 0007477676000013
Figure 0007477676000014
Figure 0007477676000015
2.3.2 測定実験方法
試験体の測定にあたっては、まず鉄筋直上のモルタルおよびコンクリート表面に、鉄筋の長軸方向に平行に4個の端子を設置した。端子には10mm×40mm×10mmのステンレス片(SUS404)を用い、10mm×40mmの面を試験体表面との接触面として、鉄筋の長軸方向の端子長が10mmとなるように設置した。端子の形状は、接触面積が大きいほど端子-モルタル間の接触抵抗が小さくなることから、鉄筋軸直角方向の長さを大きくとって40mmとした。また、端子の材料は安価で電位が安定している金属であるため、ステンレスを用いた。ここで、図13に示すように、外側2端子C1、の間隔をDout(mm)、内側2端子P1、の間隔をDin(mm)、外側端子C1、と内側端子P1、の間隔をDcp(mm)、測定面から鉄筋71上面までの距離をかぶりc(mm)と定義する。試験体70のかぶりは、c=25(mm)である。ここで、端子の間隔は、端子の中心間隔ではなく、端子と端子の最小間隔としている。
次に、外側(内側)2端子C1、で振幅がΔV=30(mV)となる正弦波の交流電圧を周波数0.1Hz-10,000Hzで高周波から低周波に走査させながら印加して同端子間の電流を測定し、内側(外側)2端子P1、で電位差を測定し、測定電位差と測定電流の比としてインピーダンスを算出した。ΔV=30(mV)とした理由は、ΔV=10,20(mV)で測定した場合、10Hz以下の低周波数域でのインピーダンス測定値のばらつきが大きかったが、ΔV=30(mV)にするとばらつきが改善されたためである。本測定条件での測定時間は4分30秒程度であった。交流電圧を印加する端子C1、を電流端子とも称し、電位差と測定する端子P1、を電位差測定端子とも称する。
また、試験体70に2端子配置での測定を実施した。2端子配置は、表面に設置した2個の端子C1、で電圧印加、電位差測定して電流測定する配置である。図14には、試験体70および2端子C1、の配置の一例が示されている。2端子配置の場合は、2端子C1、の端子間隔をD(mm)と定義する。
測定装置は、Zurich Instruments Ltd.のMFIA 500kHzインピーダンスアナライザを用いた。本装置は、1mΩから1TΩのインピーダンスを周波数1mHzから500kHzまで0.05%の基本精度で測定できる装置である。端子とコンクリート表面の接触には、導電性のハイドロゲルシートを使用した。これは、3次元のポリマーマトリックスの中に水、保湿剤、電解質を添加したものであり、端子と試験体表面の接触抵抗を低減させ、その状態を長時間保持することができる。コンクリートの電気測定では水酸化カルシウム水溶液を吸わせたスポンジがよく用いられているが、乾燥すると接触抵抗が高くなり測定時のノイズが大きくなる。その一方で、ハイドロゲルシートは湿潤時に接触しておけば、その後乾燥しても接触抵抗が低いままであることが利点である。
2.3.3 解析方法
非破壊分極抵抗法による測定を再現し、対象や端子配置などの条件変化にともなう測定値変化を解析的に検討するために、3次元の有限要素法(FEM)による電流分散解析を行った。図15にモルタル試験体に対する測定を模擬した解析モデル例を示す。解析手順として、まず図13の形状および端子配置にしたがって、鉄筋、端子、およびモルタルを模擬した四面体のメッシュ要素を生成する。そして、モルタル表面に配置した4端子の内、2個の電流端子C1、の上面から定常状態の直流電流を印加し、2個の電位差測定端子P1、の上面における電位差を取得するというものである。メッシュ要素を四面体とした理由は、鉄筋のジオメトリが曲面であり、六面体と比較して四面体では歪みが小さいメッシュ要素となるためである。要素の1辺の長さの最大値は0.56(cm)で、要素の総数は105,615個であった。
解析に用いる構成則は、式(12)に示す連続方程式とした。なお、これ以降の式および文章中のベクトルには、「」を付けて表記する。
Figure 0007477676000016
ここで、
σは、導電率(1/Ωm)である。
Vは、電位(V)である。
Je は外部で発生した電流密度(A/m)である。
演算子∇は、ベクトルの微分演算子である。
解析時の初期の電荷は0とし、端子の電流印加面、電位差測定面、および端子とモルタルの接触面以外のモルタル表面および端子表面は絶縁である。その絶縁箇所の電流密度は、式(13)を満たす。
・J = 0 ・・・(13)
ここで、
nは、モルタル表面の法線ベクトルである。
Jは、電流密度(A/m)である。
さらに、電流を流出入させる2端子の電流印加面では、(14)に示すように端子表面の法線ベクトルと同方向に電流が流れることとした。
・J = n・J ・・・(14)
ここで、
J は、電流端子に流出入させる電流密度(A/m)である。
図15は、電流端子C1、を電位差測定端子P1、の外側に配置した例であるが、電流端子C1、を電位差測定端子P1、の内側に配置した解析も可能である。この解析では、ジオメトリごとに単位体積あたりの電気抵抗としての電気抵抗率および単位面積あたりの表面抵抗を設定できる。そこで、鉄筋-コンクリート界面における3電極法の分極抵抗Rp(kΩcm)を鉄筋表面に設定し、これを真値として、4端子法あるいは2端子法により求まる非破壊分極抵抗Rp-ni(kΩcm)がRpの値とどのような関係にあるかを検討した。電位差測定端子P1、の上面における測定電位の平均値を順にV、Vとすると、解析により求まる抵抗値Ra(Ω)は以下の式(15)で定義される。
Figure 0007477676000017
ここで、
V、Vは、電位差測定端子P1、の上面における電位の平均値(V)である。
Iは、電流値(A)である。
この解析では、定常状態の直流を用いて解析を行うことから、鉄筋コンクリートのコンデンサ成分を考慮せず、鉄筋-コンクリート界面の抵抗値を変化させることによって低周波および高周波の測定を模擬した。
条件設定として、電流端子の一方(電流端子C)には、-Z方向に+1.0(μA)の電流を印加し、電流端子の他方(電流端子C)は、接地とした。この電流値は、試験体に対する測定において実際に流れた値に準じて設定した。低周波電流印加時では、鉄筋-コンクリート界面の並列回路においてコンデンサ成分が充電されることで電流が抵抗側を流れるため、界面の抵抗は、3電極法の分極抵抗Rp(kΩcm)となる。その時の解析値をRa=RfL(Ω)とした。その一方で、高周波電流印加時では、鉄筋-コンクリート界面においてコンデンサ成分側に電流が流れることで界面の抵抗が鉄筋の内部抵抗と同等まで小さくなることから、界面の抵抗を8.9×10-15(kΩcm)とし、その時の解析値をRa=RfH(Ω)とした。この界面の抵抗値は、鉄筋-コンクリート界面の厚さを1.0×10-6(cm)と仮定して、これに鉄筋内部の電気抵抗率(8.9×10-9kΩcm)4)を乗じることによって求めた。
また、モルタルの電気抵抗率ρ(Ωm)の入力値は、表3に示す鉄筋が埋設されていない要因(N-CL0、N-CL3、N-CL10)に対する非破壊分極抵抗法の測定結果から求めた。後述の図26にて示すがモルタルのみの場合は、周波数によってReal(Z)(Ω)がほとんど変化しないため、周波数100Hz時のReal(Z)をモルタルの電気抵抗Rs(Ω)とすると、モルタルの電気抵抗率ρ(Ωm)は、以下の式(16)により算出することができる。
ρ = Gp・Rs ・・・(16)
ここで、
Gpは、電極配置係数(m)である。これは、電気測定により求めた抵抗値(Ω)を体積抵抗率(Ωm)に換算する係数であり、端子の配置方法、測定対象の形状、および端子間隔などによって定まる。Gpの値は、鉄筋なしのモルタルおよび端子をモデル化して、ρ=1-100(Ωm)の値に設定した電流分散解析を行い、Rs(Ω)を算出することで求めることができる。本章における測定を模擬した解析では、Gp=1.94×10-2(m)であった。また、端子の電気抵抗率は、鉄筋と同等の8.9×10-9(kΩcm)とし、端子-モルタルの接触抵抗は端子内部と同等である8.9×10-15(kΩcm)とした。解析対象の形状、寸法、鉄筋位置、および端子間隔は測定実験にしたがった。
以上の条件設定および手順から、解析を用いてRfL(Ω)、RfH(Ω)およびRs(Ω)を算出でき、これらの抵抗値からコンクリートの電気抵抗に関連する抵抗R(Ω)、R(Ω)および見かけの非破壊分極抵抗R p-ni(Ω)に換算することができる。加えて、各Rp(kΩcm)の設定値に対して、非破壊手法の被測定面積Aniの算出のために、鉄筋表面の法線電流密度(A/m)を求めた。解析、解釈方法は、後述の2.3.5に結果とともに示す。
2.3.4 4端子配置と2端子配置の測定結果の比較
上述した2.2の非破壊分極抵抗法の測定理論において、4端子配置による方法を示したが、ひとつの端子で電圧印加、電位差測定および電流測定を行う2端子配置の方が単純な電極構成であることから、測定上の問題が生じなければ2端子配置の方が合理的である。そこで、健全鉄筋および腐食鉄筋を埋設したモルタル試験体に対して、2端子配置と4端子配置の比較測定を行った。また、端子-モルタル間の抵抗の影響程度を把握するために、2端子配置では、2端子の面積、4端子配置では内側に配置した電位差測定端子の面積を変えて測定した。
4端子配置では、図13と同様の配置で、外側2端子を電流端子C1、とし、内側2端子を電位差測定端子P1、とし、Dout=110(mm)、Din=70(mm)とした。2端子配置は、図14と同様の配置とし、D=110(mm)とした。端子の面積を変えた測定では、4端子配置ではDout=110(mm)、Din=60(mm)とし、2端子配置ではD=100(mm)とした。試験体は表3より健全(S-CL0)、腐食(Cor14d-CL0)の2要因とし、1体ずつ選定した。
2端子配置と4端子配置の比較測定結果として、図16Aおよび図16Bに鉄筋の腐食要因ごとのナイキストプロットを示す。図16Aは、2端子配置で測定されたナイキストプロットを示す図である。図16Bは、4端子配置で測定されたナイキストプロットを示す図である。図16Aと図16Bを比較すると、2端子配置は、4端子配置と比較してReal(Z)(Ω)、Imag(Z)(Ω)ともに非常に大きいことがわかる。
また、腐食要因と健全要因を比較すると、2端子配置ではほぼ同形状のプロットとなる一方で、4端子配置では、健全要因より腐食要因の方が小さい半円の一部のプロットとなった。これは2端子配置では内部鉄筋の腐食による分極抵抗変化を取得できない一方で、4端子配置では取得できることを示している。この理由として、2端子配置では、電流印加と電位差測定を同一端子で行っているため、端子に大きな電流が流れることで端子-モルタル界面の分極抵抗が測定結果に大きく影響する一方、4端子配置では電流印加と電位差測定の端子を分離しており、電位差測定端子にほとんど電流が流入せず、端子-モルタル界面の分極抵抗が測定結果にほとんど影響しないためと考えられる。なお、端子は健全状態のステンレスであるため、端子-モルタル界面の分極抵抗は非常に大きいと考えられる。
加えて、2端子配置、4端子配置ともに電位差測定端子とモルタル界面の接触抵抗の影響もあると予想した。ここでは、接触抵抗を、端子-モルタル界面でのインピーダンスの内、周波数に依存しない抵抗成分と定義する。その検証として腐食、健全要因それぞれに対して電位差測定端子の面積を2倍にした条件で測定した。2端子配置では、2端子の面積を2倍に変え、4端子配置では内側に配置した電位差測定端子の面積をを2倍に変えて測定した。
図17A、図17Bに腐食要因ごとの2端子配置の測定結果(ナイキストプロット)を示す。図17Aは、腐食要因の測定結果である。図17Bは、健全要因の測定結果である。コンクリートの電気抵抗Rsに相関する抵抗である高周波抵抗RfHに着目すると、腐食要因、健全要因ともに面積を2倍にした際のRfHはもとの面積のRfHと比較して小さくなることが明らかとなった。その一方で、プロットの形状はほとんど変化しなかった。このことから、2端子配置では接触面積の変化により接触抵抗が変化することがわかった。
続いて、図18に4端子配置の電位差測定端子の面積を変化させて測定したナイキストプロットを示す。4端子配置は、電位差測定端子の面積を変化させてもインピーダンス値にほとんど変化がない。結果として、4端子配置にすることによって端子-モルタル界面の接触抵抗の影響を低減できることがわかった。
測定されるインピーダンス値が変化する理由は、図19A、図19Bの端子配置ごとの端子-モルタル界面の等価回路によって説明できる。図19Aは、2端子配置の端子-モルタル界面の等価回路である。図19Bは、4端子配置の端子-モルタル界面の等価回路である。端子-モルタル界面は、端子とモルタル表面が接触する箇所であり、図10で示した鉄筋入りモルタルの等価回路に接続される。図16A、図16B、図17A、図17Bの測定結果から、端子-モルタル界面に[接触抵抗]と[分極抵抗とコンデンサの並列回路]の直列回路が形成されていると考えられる。2端子配置では、電流全てが図19Aに示した回路を経由し回路内の抵抗の影響を受けるため、本来求めたい内部鉄筋の腐食状態によるインピーダンス値の変化の検出を困難にする。一方、図19Bに示した4端子配置では、電位差測定端子P1、に流入する電流が小さく、図中に示した電位差測定端子P1、とモルタル間の分極抵抗成分による影響がほとんど反映されず、内部鉄筋の腐食状態によるインピーダンス値の変化を検出できるようになると考えられる。
以上のことから、非破壊分極抵抗法では、2端子配置では測定が困難であり、4端子配置とすることが必要であることが明らかとなった。
2.3.5 端子配置の変化にともなうインピーダンス変化の解釈
本開示の提案手法では、4個の端子をどのように配置するかは重要な問題である。鉄筋が埋設されていないコンクリートの電気抵抗率を測定するという目的では、電流端子を外側に、電位差測定端子を内側として等間隔に配置したウェンナー配置とすることが多い。また、完全非破壊のインピーダンス計測に関する既往研究では、これにならってウェンナー配置とした例が多い。しかし、電気的に均質なものと仮定できるコンクリートのみを対象とする場合に対し、鉄筋コンクリートの場合は電気的性質が大きく異なるコンクリートと鉄筋の複合物であるため、電流の流れ方が均質なものとは異なると予想される。そのため、等間隔配置が最適であるとは限らず、端子の配置方法を改めて検討する必要がある。
そこで、図13に示した小型モルタル試験体に対して、外側2端子間隔Doutを固定して、電流端子C1、と電位差測定端子P1、の間隔Dcpを変化させて測定し比較した。合わせて、外側を電流端子C1、とする配置ではなく、外側を電位差測定端子P1、、内側を電流端子C1、とする配置に変更して測定し、変更前の結果と比較した。加えて、FEMによる電流分散解析を用いた測定の再現解析を実施するとともに、腐食速度の定量評価に必要となる非破壊手法の被測定面積Ani(cm)の算出方法も検討した。
端子配置の検討要因を表5に示す。試験体は、図13に示した小型モルタル試験体の内、健全要因(S-CL0)のものを用いた。外側2端子間隔はDout=110(mm)とした。Dcp=10,30,70(mm)と変化させることに加え、電流端子C1、と電位差測定端子P1、の位置関係を変更した。さらに、実測は困難であるが、2端子配置を模擬した解析を実施した。
Figure 0007477676000018
測定結果として、4端子配置において端子配置を変化させた際のナイキストプロットを図20に示す。電流端子C1、と電位差測定端子P1、の間隔Dcpが大きいほど、インピーダンスの半円の一部の大きさが小さくなった。その一方で、電流端子C1、が内側と外側の場合で、インピーダンスの形状や位置に変化は見られなかった。このような測定結果になる理由を、電流分散解析を用いて考察する。
図20に示した測定結果の半円の一部をカーブフィッティングすることによって、実数軸との2つの交点を算出した。値が小さい方の交点のReal(Z)(Ω)が高周波抵抗RfH(Ω)、値が大きい方の交点のReal(Z)(Ω)が低周波抵抗RfL(Ω)となる。表5に対応する要因ごとの解析によるRfL(Ω)の算出結果と、測定によるRfL(Ω)の算出結果を表6に示す。解析条件として、鉄筋表面の分極抵抗は健全状態を模擬してRp=100(kΩcm)と設定し、モルタルの電気抵抗率は、鉄筋が埋設されていないモルタルの電気抵抗Rs(Ω)を測定し、式(16)を用いて換算した値であるρ=50(Ωm)と設定した。解析結果において、端子配置が、電流端子C、Cが外側の場合と電位差測定端子P1、が外側の場合を比較するとRfL(Ω)の値が一致した。また、Dcpが大きくなるほどRfL(Ω)が低下した。これらの傾向は測定結果と同様であった。また、RfLの解析結果は測定結果をおおむね再現できていることがわかった。
Figure 0007477676000019
続いて、解析を用いて端子配置変更による上記の傾向がとなる理由を考察する。以下の2つの仮説が成立すれば上述した傾向となる。
(1)Dcpの大小、および電流端子C1、と電位差測定端子P1、の位置関係によらず、非破壊手法の被測定面積Ani(cm)は変化しない。
(2)Dcpが大きい場合は、小さい場合と比較してインピーダンスを過小評価している。
4端子配置の場合の電位差測定端子P1、は、電流を印加する端子ではなく、さらに計測装置の内部抵抗が極めて大きいことからほとんど電流が流入しないと考えられるため、電流端子C1、の位置が同一の場合、モルタル中での電流の流れ方は4端子配置と2端子配置でほぼ同様である。
そこで、簡単な端子構成である2端子配置による解析を用いて、非破壊手法の被測定面積Ani(cm)の評価方法を提案する。2端子配置は、先述の通り端子とモルタル界面の接触抵抗および分極抵抗の影響で実測が困難であるが、解析ではこれらを非常に小さく設定できるため、実施可能である。鉄筋表面の電流密度の解析例およびAni評価時の対象範囲を、図21A-図21Cを用いて説明する。電流分散解析の例として、鉄筋表面の分極抵抗をRp=100(kΩcm)、モルタルの電気抵抗率をρ=50(Ωm)、2端子法における端子間隔D=70mmと設定した場合の鉄筋表面の電流密度を図21Aに示す。Rp=100(kΩcm)は健全鉄筋を模擬しており、ρ=50(Ωm)は、鉄筋が埋設されていないモルタルに対する測定実験から得られた電気抵抗Rs(Ω)を換算した概算値である。解析上では、モルタル表面に設置した2端子の片方(電流端子C)から直流電流を印加し、もう片方(電流端子C)を接地として流出させる。解析結果としては、鉄筋表面に垂直に流入、流出する電流密度を表しており、コンクリートから鉄筋内部に電流が流入する方向を正とし、鉄筋内部からコンクリートに電流が流出する方向を負と定義した。結果は必ず鉄筋の中央表面で0(A/m)となり、電流端子C側で正の値、電流端子C側で負の値となる。ここで、図21Bに示した非破壊分極抵抗法の等価回路において、鉄筋-コンクリート界面に2個のR p-niを設定しているが、この解析上ではR p-niのひとつが正の値の電流範囲、もうひとつが負の値の電流範囲を評価した抵抗成分であると解釈できる。そのため、非破壊手法の被測定面積Aniを評価する際には図21Cに示すように試験長における正の値の範囲のみを対象とする。
ここで、非破壊手法の被測定面積Aniの評価にあたっては図21Cに示した鉄筋表面の電流密度をそのまま用いることはできない。この図では、鉄筋表面の分極抵抗Rpを均一と設定しているにも関わらず、電流密度の最大値が大きく外側端部に偏っているように見受けられる。これは、電流端子Cから印加した電流が、モルタル中で接地箇所である電流端子C方向の反対方向に一旦流れて鉄筋に流入してから、電流端子C方向に流れることを示しており、このような電流経路になることは通常考えられない。このような電流分布になる理由として、電流端子Cから鉄筋内部を経由せずにモルタルのみを経由し、電流端子Cに流入する電流が大きく影響しているためと考えられる。すなわち、Aniの評価の際には、図21BにおけるRとR p-niを流れる電流のみを対象とする必要があるが、この解析方法ではRを流れる電流も合わせて評価しているということである。
そこで、図22A、図22Bの絶縁面の設定および鉄筋表面の電流密度の解析結果に示すように、モルタルの長さ方向の中央部の鉄筋軸直角断面に絶縁面を設定した。この絶縁面はモルタル箇所のみを絶縁し、鉄筋内部は絶縁しないものとした。そのため、電流端子Cからモルタルのみを流れて電流端子Cに到達する電流を遮断し、電流端子C1、から鉄筋内部を経由して電流端子Cに到達する電流のみに対して評価することになる。結果として、図22Bに示すように、電流印加した電流端子C直下の鉄筋表面の電流密度が最大値となり、電流端子Cから離れるほど小さくなるという結果となった。これは電流端子Cから最短距離で導電体である鉄筋に電流が流れ込んでいることを示しており、現象として想定できるものである。したがって、絶縁面を設定した解析によって、より正確に鉄筋内部に流入する電流の鉄筋表面における電流密度分布を算出できると考えられる。ただし、この絶縁面は、非破壊手法の被測定面積Ani算出時のみ設定するものであり、見かけの非破壊分極抵抗R p-ni(Ω)および後述の端子配置倍率r2/4の算出時には用いないことに注意する必要がある。
ここで、非破壊手法の被測定面積Aniは、鉄筋の対象区間の全表面積Aallではなく、鉄筋表面のあるカットポイントにおける電流密度をしきい値として、それを下回る電流密度を除外(カットオフ)し、しきい値以上の電流密度となる面積を算出することによって評価される。これは、解析上では実際には算出される抵抗値にほとんど影響を与えない電流密度も算出してしまうためである。仮にカットオフがない場合、Aniは常に鉄筋の対象範囲の全表面積Aallとなる。図23A-図23Cは、カットポイントおよびカット後の電流密度分布を説明する図である。図23A、図23Bに示すように、カットポイントは、端子直下の鉄筋周上で高さ方向に中央の点とし、その箇所における電流密度の値以下をカットすることとした。図23Cには、カット後の電流密度分布を示している。これは、鉄筋表面において端子と反対側となる面にはほとんど電流流入しないという考え方に基づく。カットポイントにおける電流密度の値以上となる面積が、非破壊手法の被測定面積Aniであり、以下の手順(1)-(3)によって算出することができる。
(1)電流分散解析を実施して、鉄筋表面の各座標における電流密度i(A/m)を算出する。
(2)鉄筋表面と接しているメッシュ1個あたりの鉄筋箇所の面積Δs(m)を算出する。これは鉄筋の対象範囲の全表面積Aall(正の値の範囲のみ)および対象範囲内のメッシュ数nall(個)を用いて、以下の式(17)によって求めることができる。
Figure 0007477676000020
(3)カットポイントにおける電流密度を算出し、カットポイントにおける電流密度の値以上となるメッシュのみを抽出する。そして、その条件を満たすメッシュの個数ncut(個)を算出する。非破壊手法の被測定面積Aniは、式(18)で求められる。
Ani = ncut・Δs ・・・(18)
ただし、上記の方法はメッシュ1個あたりの面積Δs(m)が対象区間内全体でほぼ一定である場合のみで用いることができる方法である。そのため、複数鉄筋の接合部や曲げ鉄筋の隅角部などの複雑なメッシュが存在する場合には、個々のメッシュサイズを算出するといった工夫が必要である。ここで、Δsが大きい場合には解析精度が低下するが、対象範囲の全表面積は、Aall=15.7 cm)、鉄筋表面のメッシュ数が1,926個であるため、平均的なメッシュの面積は、Δs=0.0081(cm)となり、十分細かく分割できていると考えられる。
そして、表7に設定したカット方針および上記の方法により算出したAniおよび非破壊分極抵抗Rp-niを示す。表7では、式(10)に基づいて、2端子法による解析から求めた見かけの非破壊分極抵抗R p-niに、Aniを乗算することによってRp-niを求めた。結果としてRp-ni=103.3(kΩcm)となり、設定した鉄筋表面の分極抵抗Rp=100(kΩcm)とほぼ等しい値であった。このことから、図23A-図23Cに示したカット方針は適切であることが示された。
Figure 0007477676000021
続いて、解析によって算出した端子の位置によるAni(cm)の変化を表8に示す。端子の位置は端子間隔D(mm)で設定し、D=10,30,70,110(mm)とした。D=10(mm)の場合は試験体中央の絶縁面に、D=110(mm)の場合は試験体端部に近接している。この影響によりAniが少し小さい値となっているが、算出した4個のAniの平均値は5.2、標準偏差は0.21、変動係数は4.0%であったため、ほとんど変化がないと見なして良いことがわかった。
Figure 0007477676000022
上記は2端子配置による解析結果であるが、これを基に4端子配置における被測定面積の算出方法を考察する。測定に用いたインピーダンスアナライザのマニュアルを参照すると、電流端子C1、に電位差を印加して電流値を測定し、電位差測定端子P1、で電位差を測定する。この測定電位差を測定電流で割ることによって、インピーダンスを算出する。電位差測定端子P1、は、電位差を測定するのみであり、計測装置の内部抵抗が極めて大きいことからほとんど電流が流入しないため、電流の流れ方にはほとんど影響を与えないと考えられる。さらに、表8から電流端子C1、の位置が変化しても非破壊手法の被測定面積Aniはほとんど変化しないことが明らかとなった。これらのことから、電流端子C1、が電位差測定端子P1、に対して内側あるいは外側にあるといった位置関係では、Aniはほとんど変化せず、取得したインピーダンスも変化しなかったと考えられる。
次に、端子間隔Dcp(mm)の変化にともなってインピーダンスが変化した理由をFEM解析により考察する。解析条件として、電流端子C1、が外側でDout=110(mm)となる位置に配置し、電位差測定端子P1、をDcp=10,30,70(mm)となる位置に配置した。また、端子間隔をD=110(mm)とした2端子配置の解析も合わせて実施した。ここでは、電流端子C1、にかかる電位差が1.0(V)になるように、電流端子C1、に電流印加し、電位差測定端子P1、の電位差を測定した。絶縁面はAni評価時のみ用いるので、ここでは設定していない。表9に端子の配置ごとの解析結果を示す。電流端子C1、の位置は固定しているため、その端子における電位差および電流値は当然一致する。しかし、電位差測定端子P1、で測定される電位差は、2端子配置で電流端子C1、の電位差と一致し、4端子配置ではDcp(mm)が大きくなるほど小さくなる。これは、Dcpが大きいほど電位差測定端子Pと電流端子C間、電位差測定端子Pと電流端子C間のコンクリートによる電位変化の影響を大きく受け、電位差を過小評価するためと考えられる。結果として、低周波抵抗RfL(Ω)が過小評価される結果となった。同様に、高周波抵抗RfL(Ω)、コンクリートの電気抵抗Rs(Ω)とこれらを基に算出される見かけの非破壊分極抵抗R p-ni(Ω)も過小評価されると予想される。
Figure 0007477676000023
そこで、表10に端子配置ごとの腐食速度指標の解析結果を示す。端子配置ごとに、各種抵抗値RfL,RfH,Rsを解析によって求め、式(9-3)を用いてR p-niを算出した。非破壊分極抵抗Rp-niは、Dout=110(mm)の際にAni=5.29(cm)であったことから、式(10)を用いて算出した。結果から、2端子配置ではRp-niが内部鉄筋の分極抵抗Rp=100(kΩcm)とほぼ一致した一方、4端子配置ではDcpの値に応じて、Rpに対して過小評価することが明らかとなった。したがって、4端子配置の測定においてより正確なRp-niを算出するためには、4端子配置で測定した場合のRp-niの算出結果を2端子配置で測定した場合のRp-niの算出結果に換算する必要があると考えられる。そこで、4端子配置によるRp-ni(4)に対する2端子配置によるRp-ni(2)の比を端子配置倍率r2/4と定義すると、4端子配置による非破壊分極抵抗の算出式は、以下の式(11)で表される。
Rp-ni(2) = r2/4・Rp-ni(4) ・・・(11)
表10にr2/4の算出結果を示しているが、様々な測定条件で変化すると考えられるため、後述する第3章のパラメトリックスタディーの項目で詳細に検討する。一方、本章においてはこの表の値を用いる。したがって、図20のインピーダンスから得られる半円形状は、電流端子と電位差測定端子間のモルタルの抵抗の影響を受けることによって、2端子配置に対して4端子配置ではDcpが大きくなるほど小さくなるために、その結果として算出される各種抵抗値が過小評価されることが明らかとなった。
Figure 0007477676000024
2.3.6 最適な端子配置方法に関する考察
端子配置方法に関する検討結果のまとめとして、2端子配置と4端子配置の利点と課題を整理する。
2端子配置の利点は、端子とコンクリート間の抵抗がない場合の非破壊分極抵抗が、内部鉄筋の分極抵抗と等しい。2端子配置の課題は、端子とコンクリート間の抵抗により腐食評価が困難である。
4端子配置の利点は、端子とコンクリート間の抵抗が測定結果に含まれない。4端子配置の課題は、2端子配置の非破壊分極抵抗と比較して過小評価する。また、電流端子と電位差測定端子の間隔が大きいほど過小評価が大きい。
腐食速度指標として2端子配置の端子とコンクリート間の抵抗を考慮しない非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出するが、2端子配置では端子とコンクリート間の抵抗により腐食評価が困難である。そこで、端子とコンクリート間の抵抗が測定結果に含まれない4端子配置による測定から4端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(4)を算出するという方法をとるが、Rp-ni(4)は解析上のRp-ni(2)と比較して過小評価する。そこで、Rp-ni(4)に先述の端子配置倍率r2/4を乗じて過小評価を補正することによって腐食速度指標であるRp-ni(2)に換算することができる。ここで、4端子配置の中では電流端子と電位差測定端子の間隔Dcpが小さいほど過小評価が小さく、インピーダンスを大きく(感度を高く)算出できることから、これらの端子を近接させた外寄り配置(Dcp=10mm)が最も高精度に測定できると考えられる。2.5で後述するが、既往研究による等間隔配置での測定結果と本章の外寄り配置での測定結果との比較から、外寄り配置の方が高精度であることを示している。さらに、電流端子C1、は、電位差測定端子P1、に対して内側、外側のどちらでも同様のインピーダンスが測定されるが、電流端子の間隔に対してかぶりが大きい場合に測定できる可能性が高くなる配置である電流端子C1、を外側に配置する方法とする。これらのことから、非破壊分極抵抗法では、電流端子C1、を外側とした4端子の外寄り配置が最適な端子配置であることが明らかとなった。
2.4 非破壊分極抵抗法を用いた腐食の定量評価
2.4.1 非破壊分極抵抗法による測定、解析方法
上述の2.3の検討に基づき、電流端子C1、を外側とした外寄りの4端子配置によって、表3に示す全ての要因の試験体に対して測定した。端子間隔は、Dout=110(mm)、Din=70(mm)、Dcp=10(mm)とし、上述の2.3.2に準じた。さらに、電流分散解析を用いた提案手法の測定の再現解析を上述の2.3.3に準じて実施し、被測定面積Ani(cm)の算出を上述の2.3.5に準じて実施した。この結果から非破壊分極抵抗Rp-ni(kΩcm)を算出し、後述の2.4.2により求まる従来法(3電極法)の分極抵抗Rp(kΩcm)と比較することに加え、Rp-niに関する解析による測定結果の再現性を評価した。
2.4.2 従来法(3電極法)による測定方法
非破壊分極抵抗法の精度検証のために、微破壊手法である3電極法の交流インピーダンス測定を行った。モルタルに対する測定寸法を図24に示す。図24は、試験体および3電極法での電極配置の一例を示す断面図である。試験体70は、鉄筋71に外部まで伸びるリード線74を付けて電気的に導通した状態として作成した。3電極法の測定では、リード線74を介して鉄筋71を作用極とした。なお、試験体70は、4端子配置で計測する場合など、リード線74を使用しない場合、リード線74を絶縁した。
対極212には、40mm×140mm×2mmのステンレス板(SUS404)を用いた。照合電極214には、鉛照合電極(PRE、日本防蝕工業(株)製)を用いた。対極212の中心が内部鉄筋71の中心位置の直上となり、長辺が鉄筋の長軸方向と平行になるように設置した。インピーダンスは、印加電位差ΔV=30mV、周波数0.01Hz-10,000Hzで測定した。ΔV=30mVとした理由は、非破壊分極抵抗法の場合と同様である。試験体測定は、封かん養生を解いた直後に実施した。そのため、含水状態としては表面付近と内部で一様であり、含水状態による電流線分布の歪みは小さいと考えられる。
3電極法では、測定値として、見かけの分極抵抗R p(Ω)およびコンクリートの電気抵抗Rs(Ω)が算出される。R pは、測定対象の鉄筋配置(かぶり、鉄筋径、本数)などの測定条件によって被測定面積A (cm)が異なると考えられるため、これらの要因によって変化しない分極抵抗Rp(kΩcm)に換算する必要がある。Rpは、以下の式(19)で算出できる。
Rp = A・R p ・・・(19)
被測定面積Aに関しては、健全の場合は測定電流が広く分散するため鉄筋表面の全表面積と設定し、腐食している場合は測定電流が腐食箇所に集中するため腐食箇所の面積と設定すれば、高精度に腐食速度を評価できる。本章の試験体70は、腐食試験体においても鉄筋表面全体を腐食発生させている。このため、腐食面積は鉄筋の全表面積となる。したがって、被測定面積Aは鉄筋の試験区間の全表面積であるA=31.4(cm)と設定した。ただし、対極に対して測定対象の鉄筋が長い場合には上記は成立しない可能性があることに注意する必要がある。
2.4.3 非破壊分極抵抗法と3電極法の測定結果の比較
モルタル試験体に対して非破壊分極抵抗法により求めたナイキストプロット、および周波数-Real(Z)関係の一例を図25A-図25Dに示す。図25Aは、健全要因のナイキストプロットである。図25Bは、健全要因の周波数-Real(Z)関係である。図25Cは、腐食要因のナイキストプロットである。図25Dは、腐食要因の周波数-Real(Z)関係である。図25A、図25Cには、上述の2.2で示した理論通りに健全要因、腐食要因ともに半円の一部を示すプロットが示された。そこで、低周波数側に見られる半円の一部のプロットに対してカーブフィッティングを行い、低周波抵抗RfL(Ω)および高周波抵抗RfH(Ω)を算出した。RfHは半円のプロットが実数軸と交点を取る位置でのReal(Z)の値として算出するが、その時の周波数は100Hz程度であった。測定は周波数10,000Hzまで行っているが、本試験体に関してはRfHを算出するための周波数は100Hz以下で十分であることがわかった。
また、鉄筋が埋設されていない試験体に対する測定では、図26に示すように、低周波数域におけるReal(Z)の変化がほとんど見られなかった。このことから、周波数100(Hz)以下における周波数変化にともなうReal(Z)の変化は、鉄筋-モルタル界面のReal(Z)の変化に起因するものであることがわかった。そこで、鉄筋が埋設されていない試験体の100Hz時のReal(Z)(Ω)の値をモルタルの電気抵抗Rs(Ω)と解釈した。これら3つの抵抗値RfL、RfH、Rsから、見かけの非破壊分極抵抗R p-ni(Ω)および抵抗R(Ω),R(Ω)を算出した結果を図27に示す。腐食要因のR p-niは、モルタル中の塩化物イオン濃度によらず、健全要因に比べて明らかに小さい値となり、腐食状態に応じて変化していることがわかる。このことから、0.1Hzから100Hzの周波数域に着目してインピーダンスを評価することによって、コンクリート内の鉄筋の腐食状態に関する定量的な情報が得られると考えられる。また、腐食要因の抵抗R(Ω)は、健全要因と比較して小さい値を示した。健全状態ではR p-niが大きいことにより鉄筋内部に電流が流入しにくくなり、モルタル内部に分散し電流経路が大きくなったと考えられる。その一方で、腐食状態ではR p-niが小さいために端子直下の鉄筋内部に電流が流入しやすくなり、電流経路が短くなったためと考えられる。
続いて、R p-ni(Ω)を非破壊分極抵抗Rp-ni(kΩcm)に換算するために、非破壊手法の被測定面積Aniを、上述した2.3.5の解析方法に基づいて、鉄筋表面の分極抵抗をRp=1,5,10,25,50,75,100(kΩcm)と変化させて算出した。さらに、算出したRp-ni(kΩcm)を端子-モルタル間の接触抵抗を考慮しない2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)に換算するために、2端子配置の解析とDcp=10mmとした4端子配置の解析の比較によって端子配置倍率r2/4を算出した。内部鉄筋の分極抵抗Rpと非破壊手法の被測定面積Aniとの関係を図28Aに示す。Rpと端子配置倍率r2/4との関係を図28Bに示す。Aniは、Rp≧10(kΩcm)の場合は一定(Ani=5.8(cm))であり、Rp<10(kΩcm)において少し低下する傾向があることがわかった。しかし、最も低下するRp=1.0(kΩcm)の場合でもAni=5.4(cm)であった。この変化は、Rpの低下にともなって鉄筋表面の電流が集中するためと考えられるが、一定と見なしても問題ない程度に小さい変化であることがわかった。また、Rpと端子配置倍率r2/4との関係は、Rp≧10(kΩcm)の場合は一定(r2/4=2.5)であり、Rp<10(kΩcm)において少し上昇しRp=1.0(kΩcm)の場合でr2/4=2.6であった。このため、r2/4も本測定条件ではRpの変化を考慮する必要がないことが明らかとなった。
次に、比較対象となる3電極法における分極抵抗Rp(kΩcm)を求める。図29A-図29Dに、3電極法の交流インピーダンス法によって算出したナイキストプロットおよび周波数-Real(Z)関係を示す。図29Aは、3電極法における健全要因のナイキストプロットである。図29Bは、3電極法における健全要因の周波数-Real(Z)関係である。図29Cは、3電極法における腐食要因のナイキストプロットである。図29Dは、3電極法における腐食要因の周波数-Real(Z)関係である。非破壊分極抵抗法による測定結果と同様に、低周波数域においてReal(Z)の値が増加し、その増加傾向は腐食鉄筋が埋設された試験体より、健全鉄筋の方が大きいことが明らかとなった。このことからも、非破壊分極抵抗法の低周波数域におけるReal(Z)の周波数依存性は、鉄筋-コンクリート界面のReal(Z)の変化に起因するものであることがわかった。
試験体に対する非破壊分極抵抗法による非破壊分極抵抗Rp-ni(2)(kΩcm)と、3電極法による分極抵抗Rp(kΩcm)を比較した結果を図30に示す。非破壊分極抵抗Rp-ni(2)は、試験体に対する非破壊分極抵抗法による測定値R p-ni、および解析によって求めた非破壊手法の被測定面積Aniと端子配置倍率r2/4を用いて算出した。分極抵抗Rpは、3電極法による測定値R pおよび被測定面積A=31.4(cm)を用いて算出した。図30には、腐食要因の測定結果のみを示した。また、図30には、切片を0とした最小二乗法による線形回帰直線、回帰式、および決定係数Rを示している。
ここで、腐食要因のみを用いた理由は、次のとおりである。分極抵抗Rp(kΩcm)が極めて大きい場合、すなわち健全要因では、3電極法による交流インピーダンス測定時のナイキストプロット(図29A)が半円形状にならず、直線状になることから分極抵抗の算出が困難である。そのため、図30の比較においては、3電極法による算出が可能なデータ、すなわち腐食要因のみを用いた。
図30に示すように、非破壊分極抵抗Rp-ni(2)と分極抵抗Rpは、正の線形相関の関係にあり、R=0.92と高い相関にあることが示された。また、近似直線の傾きがほぼ1であり、両指標はほぼ等しい値となることがわかった。これは、同一の試験体を両手法で測定した場合、ほぼ等しい値が算出されることを示しており、単位面積あたりの指標を定義することによって、内部鉄筋の腐食状態に関わる情報のみを取り出すことができているといえる。同時に、この関係は非破壊手法の被測定面積Aniを算出するにあたって上述の2.3.5の解析方法およびカットオフ方法が適切であることを実験的に示している。仮に、カットオフ値をより低い値に設定した場合、3電極法による分極抵抗Rpはほとんど変化がない一方で、非破壊分極抵抗Rp-ni(2)は、Aniの増大にともなって大きくなるため、図30の近似直線の傾きは大きくなる。カットオフ値をより高い値に設定した場合においても、Rp-ni(2)は、Aniの低下にともなって小さくなるため、図30の近似直線の傾きが小さくなる。したがって、傾きがほぼ1となる今回のカットオフ方針が妥当であったと言える。
続いて、腐食要因と健全要因の非破壊分極抵抗を比較した棒グラフを図31に示す。棒グラフの値は各要因の平均値を示している。また、棒グラフのエラーバーは、標準偏差を示している。
健全要因は、Rp-ni(2)の値が大きく、腐食要因と比較して明確な差異があった。これらのことから、非破壊分極抵抗法により求めたインピーダンスからRp-ni(2)を算出することによってRpを推定でき、腐食の有無の判定および腐食速度の算出が可能であることがわかった。本測定においては、下限周波数は100(mHz)であったが、さらに長時間の測定が許容され、インピーダンスの測定精度が維持できる場合には、下限周波数を低くすることによってRp-niをより高精度に算出できると考えられる。ただし、一般的に低周波数による測定は高周波数と比較して精度が低下する(ばらつきが大きくなる)ことに注意する必要がある。
2.4.4 非破壊分極抵抗の解析による内部鉄筋の分極抵抗の推定
モルタル試験体に対する非破壊分極抵抗法の解析を上述の2.3.5の解析方法に基づいて実施し、内部鉄筋の分極抵抗を推定できるか検証した。解析条件の設定として、試験体形状および端子配置は、上述の2.4.1に従い、モルタルの電気抵抗率ρ(Ωm)、および鉄筋表面の分極抵抗Rp(kΩcm)を入力値として変化させ、非破壊分極抵抗Rp-ni(2)(kΩcm)を算出した。電気抵抗率は、ρ=10,30,50,100(Ωm)とし、分極抵抗は、Rp=1,5,10,25,50,75,100(kΩcm)とした。検証結果を図32に示す。図32中の点線は、全ての要因の解析値の線形近似直線である。結果として、Rp-ni(2)は、Rpの増加にともなって近似直線の傾きがほぼ1で、線形に増加することが明らかとなった。その一方で、電気抵抗率ρの値によっては全く変化しないことが明らかとなった。これは、図10の等価回路で示した理論通りに、モルタルの電気抵抗と鉄筋腐食に関わる抵抗を分離して算出できていることを意味している。このことから、FEM解析を用いて非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出することによって内部鉄筋の分極抵抗Rpを推定できることがわかった。
2.5 発明者による既往研究結果を活用した非破壊分極抵抗法の適用性に関する考察
本願の発明者らは、既往研究(非特許文献4)にて、本章の実験と同形状のモルタル試験体に対して図33に示すように等間隔配置での測定実験を行った。発明者による既往研究の試験体要因を表11に示す。磨き丸鋼の腐食、健全のみならず、モルタルの電気抵抗率を取得するための鉄筋なしの要因に加え、鉄筋の種類として磨き丸鋼、異形鉄筋が設定されている。腐食程度の要因として、上述の2.3.1で示した温度40°C湿度80%環境下における塩水噴霧による鉄筋の腐食促進を行う期間を0,14,28,84日と変化させた。期間によらず、鉄筋の試験区間全面を腐食させるために、設置3日目に暴露面の上下を反転させた。これらの要因に対しモルタルの電気抵抗率を変化させるためにモルタル打設時に塩化ナトリウムを、塩化物イオン濃度が0,3,10(kg/m-3)となるように混入した。表11の含有Cl-濃度は、事前混入した塩化物イオン濃度のことである。
Figure 0007477676000025
2.5.1 端子配置の変更にともなう測定値変化
本章で提案した非破壊分極抵抗法は外寄り配置であるが、発明者による既往研究の完全非破壊の手法は、全て4端子を等間隔に並べる配置で提案されている。2.3で先述した通り、4端子配置による測定で算出した非破壊分極抵抗Rp-ni(4)は、端子とモルタル間の抵抗を考慮しない2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)と比較して過小評価するため、換算する必要があるが、4端子の配置方法によって換算係数である端子配置倍率r2/4の値が異なる。そこで、等間隔配置の測定結果が外寄り配置の測定と同様に活用可能かを検証するために、配置方法を変えた測定および解析を行った。
等間隔の端子配置では、図33に示すように、外側2端子の間隔Dout=110(mm)とし、内側2端子の間隔Dinを4端子が等間隔になるようにDin=30(mm)とした。試験体は、上述の2.3.1で示したものを用い、外寄り配置の測定と同日に同じ試験体に対して実施した。測定条件は、上述の2.3.2で示した方法と同様とした。この結果を、外寄り配置の測定結果と、3電極法によって求めた分極抵抗Rp(kΩcm)と合わせて評価した。解析結果から、外寄り配置における非破壊手法の被測定面積はAni=5.8(cm)、端子配置倍率はr2/4=2.5であり、等間隔配置においてはAni=5.8(cm)、r2/4=5.7であった。各配置で測定した見かけの非破壊分極抵抗に、これらの値を用いて換算した端子とモルタル間の抵抗を考慮しない2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を比較した結果を図34に示す。図中には両者が一致する直線(x=y)を実線で、外寄り配置の測定値に対して等間隔配置の測定値が+100%となる直線(y=2x)および-50%となる直線(y=0.5x)を点線で示した。
結果としてほぼ全ての等間隔配置の測定結果が-50%~+100%の範囲で外寄り配置の測定値と一致することがわかった。このばらつき程度の解釈については、Rp-ni(2)の値が腐食要因と健全要因で5~10倍程度の差異があることから、0.5~2倍程度のばらつきは腐食の有無の判定および腐食速度の相対比較という用途では特に問題にならないばらつきであると考えられる。したがって、等間隔配置においても外寄り配置と同様の手順で端子とモルタル間の抵抗を考慮しない2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出することによって、腐食の有無および腐食速度の大小を把握できることが明らかとなった。
2.5.2 発明者による既往研究の測定データを活用した考察
発明者による既往研究による等間隔配置による測定結果と、本章での外寄り配置による測定結果を合わせて、腐食要因のみを対象に非破壊分極抵抗Rp-ni(2)と分極抵抗Rpを比較した結果を図35に示す。図中には、発明者による既往研究の測定データ、本実施例の外寄り配置の測定データそれぞれの近似直線とその決定係数を示している。本実施例の測定データの近似直線の傾きは0.99と、ほぼ1であったが、発明者による既往研究の補正データの近似直線の傾きは0.77と、分極抵抗Rpに対して非破壊分極抵抗Rp-niの方が小さい値となった。等間隔配置と比較して外寄り配置の方が誤差が小さくなる理由として、外寄り配置の方が測定されるナイキストプロットの半円の一部が大きい(感度が高い)ために、カーブフィッティングをより正確に行うことができ、算出精度が高くなるためと考えられる。このことから、提案手法の適用時には外寄り配置にする方が良いことがわかった。
さらに、発明者による既往研究の測定データを用いた腐食要因、健全要因の比較結果を図36に示す。棒グラフの値は、各要因の平均値を示している。また、棒グラフのエラーバーは、標準偏差を示している。平均値を見ると腐食要因に対して健全要因のRp-niは10倍程度の値となっており、明確な差異があることがわかった。この結果からも、0.5~2倍程度のばらつきがあっても腐食有無の判別には活用できることがわかる。
上記の図35、図36を用いた考察から、発明者による既往研究の測定データが十分に活用可能であることを確認できた。発明者による既往研究では様々な要因で実験していることから、要因ごとの比較検討を行った。図37に発明者による既往研究の補正データを用いたRp-ni(2)とRpの比較結果を示す。腐食要因の中でも、事前腐食期間や鉄筋種類に応じて差異が見られた。まず、図36に示した健全要因のデータは異形鉄筋と丸鋼の両方を含むデータであることから、健全要因の異形鉄筋は丸鋼と同様にRp-ni(2)の値が大きかったと考えられる。それを踏まえて、異形鉄筋を用いているCorD28dにおいては、Cor28d, Cor84dと比較してRp-ni(2)の値が大きかった。これは、CorD28dが黒皮付きであるため塩水噴霧による腐食促進が小さかったためと考えられる。また、異形鉄筋と磨き丸鋼による相関性の差異は見られず、鉄筋の種類による影響は小さかった。言い換えれば異形鉄筋に対しても本章で提案した手法による腐食評価が可能であることがわかった。
このように発明者による既往研究結果を活用することによって、提案手法によって算出される非破壊分極抵抗が鉄筋の腐食状態によって変化するものであり、異形鉄筋、磨き丸鋼ともに腐食速度を定量的に評価できるものであることを確認できた。それに加えて、等間隔配置と外寄り配置の測定結果はともに活用可能であるが、外寄り配置の方がRp-ni(2)の算出精度が高いことが明らかとなった。
非破壊分極抵抗法の最適な端子配置は、上述の2.3.6に示した通り、電流端子C1、を外側とした外寄りの4端子配置であるが、本項目では既往研究データを活用して等間隔配置より外寄り配置の方が腐食速度指標の算出精度が高く、その配置が最適であることを実証することができた。第3章で非破壊分極抵抗法の適用性の向上検討をするが、本章の結果を踏まえて主に電流端子C1、を外側とした4端子の外寄り配置に対する分析を行う。
2.6 本章のまとめ
本章では、完全非破壊の腐食速度評価手法である非破壊分極抵抗法の基礎的な検討として、測定時の端子の配置方法の最適化、腐食速度の定量評価、および既往研究データの活用を実施した。これらの検討は、内部鉄筋の腐食状態を変化させた小型モルタル試験体の作製および測定、従来の3電極の交流インピーダンス法を用いた分極抵抗測定による精度検証、および有限要素法(FEM)を用いた電流分散解析による測定の再現を活用して進めた。その結果、以下の結論が得られた。
2端子配置による非破壊分極抵抗法の測定と4端子配置による測定を比較した。その結果、2端子配置では、ステンレス端子とモルタル間の抵抗(接触抵抗および分極抵抗)が測定値に影響し、内部鉄筋の腐食状態によるインピーダンス値の変化を検出できなかった。一方、4端子では腐食状態によって明確に変化が見られたことから、4端子配置が必要であることがわかった。
端子とモルタル界面の抵抗を極めて小さく設定した2端子配置による解析に基づいて、非破壊手法の被測定面積Aniの算出方法を示した。その結果、解析による見かけの非破壊分極抵抗R p-niにAniを乗じて求まる指標である端子とモルタル界面の抵抗を考慮しない2端子配置による非破壊分極抵抗Rp-ni(2)(kΩcm)と内部鉄筋の分極抵抗Rp(kΩcm)がほぼ一致することがわかった。
4端子配置において、電流端子と電位差測定端子の間隔Dcpを変化させた測定および解析を行った。その結果、Dcpが大きいほど、Rp-ni(2)の算出結果と比較して過小評価することがわかった。そこで、4端子配置による測定を2端子配置に換算する係数である端子配置倍率r2/4を設定し、換算後の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を腐食速度の指標として提案した。
4端子配置の測定によって求めた非破壊分極抵抗Rp-ni(2)と3電極法により求まる分極抵抗Rpを比較した結果、腐食要因の試験体では、両者はほぼ一致した。加えて、健全と腐食のRp-niは明確に差異があることが明らかとなった。このことから提案手法は、腐食判別および腐食速度の定量評価が可能であることを示した。
等間隔配置により測定した既往研究データと本章で実施した外寄り配置の測定データを比較した。その結果、適切な端子配置倍率r2/4を用いることにより、外寄り配置のRp-ni(2)に対して等間隔配置のRp-ni(2)は、-50~+100%のばらつきで一致した。このことから、等間隔配置の既往データを活用できることがわかった。
既往研究データと本章の測定結果を合わせてRp-ni(2)とRpを比較した。その結果、腐食発生したデータの中でも腐食促進期間によってRp-ni(2)に変化があること、および鉄筋種類による変化が小さいこと、等間隔配置より外寄り配置の方がRp-ni(2)の算出精度が高いことを明らかにした。
非破壊分極抵抗法の端子配置方法は、電流端子C1、を外側とした4端子の外寄り配置が最適であるが明らかとなった。
第3章 完全非破壊の腐食速度評価法の適用性向上検討
3.1 はじめに
第2章では、鉄筋を埋設した小型モルタル試験体の表面に設置した4個の端子を用いて交流インピーダンス測定を行うことにより、非破壊分極抵抗Rp-ni(kΩcm)という定量的な指標を算出することができ、それが鉄筋-コンクリート界面の分極抵抗Rp(kΩcm)と高い正の線形相関関係にあることを明らかにした。また、有限要素法(FEM)を用いた電流分散解析により、非破壊分極抵抗法による測定を再現できることを示した。これに基づき、提案した測定理論が妥当性の高いものであることを明らかにした。
しかし、非破壊分極抵抗Rp-niと分極抵抗Rpの相関関係は、小型モルタル試験体に対する適用のみから導いたものであるため、測定対象の形状や測定条件が変化した場合に、この関係がどのように変化するかは明らかになっていない。また、測定面からの鉄筋深さ(本章ではかぶりと称する)に対して電流端子の間隔が小さい場合、鉄筋内部を経由せずコンクリートのみに測定電流が流れると想定されることから、どのような測定条件下で非破壊分極抵抗Rp-niを算出できるかについても不明確である。
ここで、本開示の非破壊分極抵抗法において想定される変動要因を図38に示す。本開示の非破壊分極抵抗法で測定、算出する非破壊分極抵抗Rp-niは、コンクリート内部鉄筋の分極抵抗Rp(kΩcm)のみに依存するものではなく、4端子配置において外側に配置する2個の電流端子C1、の間隔(外側2端子間隔Dout)、かぶりc、鉄筋径φ、鉄筋本数、コンクリートの電気抵抗率ρ、対象の形状や寸法(対象の高さ、奥行、幅)などによって変化することが想定される。ここで、第2章から、4端子配置において、2個の電位差測定端子P1、は、等間隔配置、外寄り配置ともにRp-niを評価できるが、外寄り配置の方が、感度が大きく、より正確にRp-niを評価できることが明らかになった。そのため、電位差測定端子P1、の間隔(内側2端子間隔Din)は、外寄り配置であるDin=Dout-40(mm)で固定する。
本章では、非破壊分極抵抗法を様々な形状、寸法の鉄筋コンクリートに適用できるようにすること、すなわち適用性向上および適用範囲の拡大を目的として、以下の3項目を検討した。
(1)電流分散解析を用いたパラメトリックスタディー
(2)深いかぶりの試験体に対する適用
(3)複数鉄筋を埋設したはり試験体への適用
(1)では様々な測定条件の変化による非破壊分極抵抗Rp-niの変化をFEMによる電流分散解析によって定量的に明らかにした。(2)では臨海構造物などの深いかぶりの構造物を想定して、かぶり100mmの鉄筋コンクリート試験体を作製、測定することによって、提案手法による測定可能な条件を実証的に示し、腐食判定手順を提案した。(3)では複数の鉄筋が埋設されたはり型の鉄筋コンクリート試験体に対して不均一に腐食を発生させた後に、位置を変えながら測定することによって、複数鉄筋に対する手法の適用性検証、および不均一に腐食した試験体に対する相対比較評価方法としての活用方法を提案した。上記3項目はいずれも現場での実構造物への適用を想定した検討と言える。
3.2 電流分散解析によるパラメトリックスタディー
3.2.1 解析の条件設定
腐食速度指標である非破壊分極抵抗Rp-ni(kΩcm)が、内部鉄筋の分極抵抗Rp以外の要因によって受ける影響を把握することは、腐食有無の判定基準の構築や現場適用に有用である。そこで、様々な要因に対して複数の値を入力した解析によるパラメトリックスタディーを行った。
基準となる解析条件を図39に示す。複数の変動要因があるため、分極抵抗Rp(kΩcm)の変化(Rp=1,10,50,100(kΩcm))に加えて、以下の(1)~(4)の要因を1個ずつ変化させて解析した。
(1)コンクリートの電気抵抗率ρ:10,50,100(Ωm)
(2)かぶりc:15,30,60,90(mm)
(3)鉄筋径φ:10,16,22,25,32(mm)
(4)外側2端子間隔Dout:120,160,200,240(mm)
解析条件の設定方針として、桟橋やケーソンなどの一般的な臨海部の鉄筋コンクリート構造物を想定したものとした。コンクリート表面が湿潤状態であるため、コンクリートの電気抵抗率ρは小さい値とし、かぶりcは大きい条件、鉄筋径φは太い条件も設定した。解析は有限要素法(FEM)による電流分散解析を用いた。解析方法の詳細は、上述の2.3.3および2.3.5にすでに示している。電位差測定端子P1、の大きさは、上述の第2章の試験体測定に合わせて10mm×40mmとし、鉄筋の長軸方向の端子長が10mmとなるように設定した。鉄筋のジオメトリが曲面であることから、鉄筋、コンクリートともに四面体のメッシュ要素を生成した。要素の1辺の長さ最大値は2.1cmとし、要素の総数は43,406個であった。また、端子配置方法は、外側の2端子を電流端子C1、とし、内側の電位差測定端子P1、の2端子間隔Dinが、Din(mm)=Dout-40(mm)となる外寄り配置とした。FEM解析では見かけの非破壊分極抵抗R p-ni(Ω)に加えて、非破壊手法の被測定面積Ani(cm)および端子配置倍率r2/4を算出した。r2/4の算出のために、2端子配置による解析も合わせて行った。2端子配置の端子間隔Dは、4端子配置におけるDoutと一致させた。これらの解析結果を用いて、腐食速度指標である2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出した。
3.2.2 解析結果
電気抵抗率ρを要因とした鉄筋表面の分極抵抗Rpに対する、非破壊手法の被測定面積Ani、端子配置倍率r2/4および非破壊分極抵抗Rp-ni(2)の関係を図40A-図40Cに示す。図40Aは、RpとAniの関係である。図40Bは、Rpとr2/4の関係である。図40Cは、RpとRp-ni(2)の関係である。また、図40Cでは図中のすべてのデータを用いた最小二乗法に基づくRpとRp-ni(2)の関係の近似直線を示す。結果として、電気抵抗率ρの値が変化してもRpとAniの関係およびRpとr2/4の関係にはほとんど影響を与えないことがわかった。これは、上述の2.2の図10に示した等価回路においてRとRの比が電気抵抗率ρでは変化せず、鉄筋への電流の流入割合や経路に影響しなかったためと考えられる。また、図40Aに着目すると、内部鉄筋の分極抵抗がRp=1.0(kΩcm)と非常に小さい場合はAniが少し低下するが、Rp≧10(kΩcm)で一定であることから、上述の2.4.3と同様にRp-ni(2)算出時にはAniをRpによらず一定と見なしても問題ないと考えられる。加えて図40Bからは、r2/4がRpによらず一定と見なしても問題ないことが示されている。
さらに図40Cに着目すると、RpとRp-ni(2)は、線形の相関関係にあり、近似直線の傾きが1.03と、ほぼ1であることがわかった。これは、Ani、r2/4の算出方法が適切であることを示している。加えて、電気抵抗率ρによる変化がほとんどないことがわかった。したがって、Rp-ni(2)からRpへの換算にあたっては、ρを考慮する必要がないことがわかった。
続いて、かぶりcを要因とした鉄筋表面の分極抵抗Rpに対する、非破壊手法の被測定面積Ani、端子配置倍率r2/4および非破壊分極抵抗Rp-ni(2)の関係を図41A-図41Cに示す。図41Aは、RpとAniの関係である。図41Bは、Rpとr2/4の関係である。図41Cは、RpとRp-ni(2)の関係である。また、図41Cでは図中のすべてのデータを用いた最小二乗法に基づくRpとRp-ni(2)の関係の近似直線を示す。図41Aの結果から、かぶりが大きくなるにしたがい、Aniは大きくなった。これは、電流はコンクリート内部を分散しながら流れるが、かぶりが大きいほどより広がった状態で鉄筋表面に電流が到達するためと考えられる。また図41Bより、r2/4がかぶりによらず一定であることが示された。さらに図41Cから、Rp-ni(2)はRpに対して1.0~1.1倍の値であり、この程度の差異であればほぼ等しいと見なして良いと考えられる。
また、鉄筋径φを要因とした鉄筋表面の分極抵抗Rpに対する、非破壊手法の被測定面積Ani、端子配置倍率r2/4および非破壊分極抵抗Rp-ni(2)の関係を図42A-図42Cに示す。図42Aは、RpとAniの関係である。図42Bは、Rpとr2/4の関係である。図42Cは、RpとRp-ni(2)の関係である。また、図42Cでは図中のすべてのデータを用いた最小二乗法に基づくRpとRp-ni(2)の関係の近似直線を示す。図42Aの結果として、鉄筋径が大きくなるほど、Aniの値が大きくなることがわかった。上述の第2章のカットオフ条件を考慮すると、鉄筋径が大きいほど、電流端子からカットオフを行う点までの距離が長くなるために、電位低下が大きくなる。これにより、鉄筋軸方向のカット位置がより端子から離れた位置となりAniの値が大きく算出されるということである。また図41ABより、r2/4が鉄筋径によらず一定であることが示された。さらに図41Cから、Rp-niはRpに対して1.0~1.1倍の値であり、この程度の差異であればほぼ等しいと見なして良いと考えられる。
さらに、外側2端子間隔Doutを要因とした鉄筋表面の分極抵抗Rpに対する、非破壊手法の被測定面積Ani、端子配置倍率r2/4および非破壊分極抵抗Rp-ni(2)の関係を図43A-図43Cに示す。図43Aは、RpとAniの関係である。図43Bは、Rpとr2/4の関係である。図43Cは、RpとRp-niの関係である。図43Cでは図中のすべてのデータを用いた最小二乗法の基づくRpとRp-ni(2)の関係の近似直線を示す。図43Aから、Doutが変化してもAniはほとんど変化しなかった。一方図43Bから、Doutが小さくなるほどr2/4は大きくなった。すなわち、Doutが小さいほど4端子配置は2端子配置と比較してインピーダンスを過小評価している。これは、本解析の4端子配置は電流端子と電位差測定端子の間隔を10mmで一定としており、Doutが小さいほどその影響程度は大きくなるためと推察される。また、電流端子Cから印加した電位変化を電位差測定端子Pで測定するが、Doutが小さいほど電流端子Cの影響を大きく受けることも理由のひとつである。また図43Cから、Rp-niはRpに対して1.0~1.2倍の値であり、この程度の差異であればほぼ等しいと見なして良いと考えられる。
以上の分析をまとめると、分極抵抗Rpと非破壊分極抵抗Rp-ni(2)の関係に関して、上記の4個の要因が変化した場合でもRpに対してRp-ni(2)が1.0~1.2倍の値となり、ほぼ等しい値を取ることがわかった。一方で、非破壊手法の被測定面積Aniは、かぶりcおよび鉄筋径φの変化にともなって変化した。加えて、端子配置倍率r2/4は、外側2端子間隔が小さくなるほど大きくなり、それ以外の要因で変化しないことがわかった。これは、単なる抵抗値である見かけの非破壊分極抵抗R p-ni(Ω)にAni(cm)およびr2/4を掛けることによって、単位面積あたりの非破壊分極抵抗Rp-ni(2)(kΩcm)に換算した結果、Rp-ni(2)が鉄筋表面の分極抵抗Rp(kΩcm)のみによって変化し、それ以外の要因では変化しなくなったことを示している。言い換えれば、Aniおよびr2/4の算出方法が適切であり、Rp-ni(2)が鉄筋表面の単位面積あたりの値として評価できているということである。このことから、測定対象および測定条件を模擬したFEMによる電流分散解析を実施し、2.3.3、2.3.5に先述した方法を用いて、あらかじめAniおよびr2/4を算出することによって、見かけの非破壊分極抵抗R p-ni(Ω)を測定することで、非破壊分極抵抗Rp-ni(2)(kΩcm)を算出できることが示された。ただし、実際の構造物や試験体に対する測定の際に、その都度解析を実施することは時間的、技術的に困難である場合が多いと考えられる。そこで、本項のパラメトリックスタディーを基に、様々な要因による変化を考慮したAniおよびr2/4の簡易推定式を提案できれば、現場では見かけの非破壊分極抵抗R p-ni(Ω)を測定し、これらの簡易推定式に代入するのみで非破壊分極抵抗Rp-ni(2)(kΩcm)を算出できるため、現場適用性が大きく向上すると考えられる。そこで、3.2.3で簡易推定式を構築した。
3.2.3 非破壊手法の被測定面積および端子配置倍率の簡易推定式の構築
3.2.2の結果から、非破壊手法の被測定面積Aniおよび端子配置倍率r2/4の簡易推定式を構築する。まずAniに関して、コンクリートの電気抵抗率ρおよび外側2端子間隔Doutによる影響はほとんどなかったため、考慮しないこととする。分極抵抗Rpに関してはRp≧10(kΩcm)ではAniにほとんど影響せず、Rp=1.0(kΩcm)の時の変化も小さいことに加え、事前情報として取得することが困難であるため、Rp=100(kΩcm)と設定し、要因として考慮しないこととする。その一方で、かぶりc、鉄筋径φによってAniは変化するため、これら2要因を考慮した推定式を構築する。実際の構造物への適用を想定して、かぶりを15,30,60,90mmと設定し、鉄筋径を10,16,22,25,32mmと設定して非破壊手法の被測定面積Aniを算出した。3.2.2においては、かぶり30mmの場合の鉄筋径を要因としたAniの算出、鉄筋径が16mmの場合のかぶりを要因としたAniの算出であったが、ここでは、各かぶり要因に対して鉄筋径要因を変化させて解析した。ただし、実際の構造物の設計上では想定できない要因である鉄筋径φ=32mmかつかぶりc=15,30mmの要因、およびφ=25mmかつc=15mmの要因は除外した。この理由として、鉄筋のかぶりは、鉄筋の直径または耐久性を満足するかぶりのいずれか大きい値に施工誤差を考慮して設計することが、土木学会:コンクリート標準示方書[設計編](pp.338-340)にて定められているためである。
解析結果として、図44Aに各かぶりに対する鉄筋径φとAniの関係を示す。また、図44Bに各鉄筋径に対するかぶりcとAniの関係を示す。結果として、Aniは鉄筋径φの2乗に相関すること、およびかぶりcと傾きが正の線形相関にあることがわかった。Aniがφの2乗に相関するとした理由は、図23A-図23Cに示すように、カットポイントを、端子直下の鉄筋側面の高さ方向における中央部に設定してAniを算出するが、鉄筋径が大きくなるほど端子からカットポイントまでの距離が長くなり、カットポイントにおける鉄筋表面の電位は鉄筋径が小さい場合より小さくなる。その結果、鉄筋軸方向においても、端子間との距離がより長い箇所がカットポイントになる。すなわち、鉄筋径の変化はAniに対して2次元的な効果があるため、Aniがφの2乗に相関すると考えられる。
Aniの定式化の検討として、以下の式(20-1)、式(20-2)、および式(20-3)を設定した。
Ani = Fφ+Fc ・・・(20-1)
Fφ = α・(φ-β)2+γ ・・・(20-2)
Fc = σ・c+ε ・・・(20-3)
ここで、
Aniは、非破壊手法の被測定面積(cm)である。
Fφは、鉄筋径の関数である。
Fcは、かぶりの関数である。
φは、鉄筋径(mm)である。
cは、かぶり(mm)である。
α、β、γ、σ、εは、係数である。
まず、Aniが鉄筋径φのみに相関すると仮定して(Fc=0として)、φの2次関数でカーブフィッティングした。結果として、(α,β,γ)=(0.0826,9.38,9.21)が得られた。続いて、これらの値を式(20-2)に代入してFφを算出し、式(20-1)、式(20-3)を用いて、Ani-Fφ=Fc=σc+εとした。そして、(Ani-Fφ)とかぶりcの関係に対して最小2乗法に基づく線形回帰分析を行った。すなわち、Aniから鉄筋径の関数Fφを差引したかぶりのみに相関すると想定される値に対して、かぶりcの関数を定式化したということである。結果として、(σ,ε)=(0.13,-7.04)が得られた。これらの結果を、式(20-1)に代入すると、非破壊手法の被測定面積Aniの簡易推定式は、式(21)として表すことができる。
Ani = Fφ+Fc
= (8.26×10)-2・(φ-9.38)+0.13・c+2.17 ・・・(21)
(10≦φ≦32(mm)),(15≦c≦90(mm))
式(21)に示した簡易推定式の精度検証として、解析と推定の差分値ΔAni(Aniの解析値-簡易推定式を用いたAniの推定値)を算出し、Aniの解析値に対する解析と推定の差分値ΔAniの関係を図45に示す。
図45から、解析と推定の差分値ΔAniがAniの値によらず±5(cm)の範囲内に収まっており、またAni<10(cm)に着目するとΔAniが±2(cm)の範囲内にあり、簡易推定式による推定精度が高いことがわかった。したがって、式(21)に提示した範囲内で、Aniの簡易推定式は十分に活用できる程度の誤差に収まることがわかった。
続いて、端子配置倍率r2/4を評価する。この指標は外側2端子間隔Doutで変化し、それ以外の要因では変化しなかったため、Doutのみを要因とした式を構築する。図46にDoutとr2/4の関係を示す。
結果としてほぼ線形関係であったため、最小二乗法に基づく単回帰分析により定式化する。すなわち、図中の近似直線が関係式となり、その式を式(22)に示す。
r2/4 = (8.9×10-3-2・Dout+4.8 ・・・(22)
(120≦Dout≦240(mm))
簡易的な腐食速度の測定、算出方法の提案として、構築したAniおよびr2/4の推定式を用いた非破壊分極抵抗法による腐食速度算出の流れの一例を説明する。
まず、配筋図や電磁波レーダ法などの鉄筋位置を探査する非破壊検査法などを用いて、測定位置での鉄筋のかぶりc、鉄筋径φを推定し、外側2端子間隔Doutを設定する。かぶりに対応したDoutの設定方法は、後述の3.3.4にて説明する。そして、見かけの非破壊分極抵抗R p-niを測定する。ここで、Rp=100(kΩcm)を設定し式(21)および式(22)の簡易推定式あるいは電流分散解析によって、非破壊手法の被測定面積Aniおよび端子配置倍率r2/4を算出する。その後、式(10)、式(11)に基づいて、非破壊分極抵抗Rp-ni(2)、分極抵抗Rpを算出する。5.2.2のパラメトリックスタディーの結果より、Rp-ni(2)とRpはほぼ等しかったため、Rp=Rp-ni(2)とする。このRpを上述の式(3)、式(4)を用いて腐食速度CRに換算する。このような手順により、腐食速度CRを算出することができる。
3.3 深いかぶりの試験体に対する適用
3.3.1 鉄筋コンクリート試験体
深いかぶりの鉄筋コンクリートに対する非破壊分極抵抗法の適用性を評価するために、鉄筋コンクリート試験体を作製し、測定実験を行った。試験体70の概要を図47に示す。寸法は(幅)×(高さ)×(奥行)=200(mm) ×200(mm)×600(mm)とし、鉄筋71は公称直径D16(mm)で長さ624(mm)の黒皮付き異形鉄筋(SD295A)を用い、鉄筋71の両端から32(mm)ずつエポキシ樹脂72で被覆することで、中央の560(mm)を試験区間とした。また、試験体70の要因を表12に示す。かぶりの深い構造物において特に問題となるのが、地震などの外的作用による曲げひび割れから海水が侵入して早期に腐食が発生・進行することである。また、曲げひび割れを早期に発見・補修しても補修剤の付着切れや充てん不良などが原因で、補修箇所から海水が侵入し腐食発生する可能性がある。そこで、曲げひび割れの有無およびひび割れ補修の有無を要因とした。
Figure 0007477676000026
次に、コンクリート試験体の配合を図48に示す。材料として、水は水道水、セメントは宇部三菱セメント(株)の普通ポルトランドセメント、細骨材は茨城県行方市の陸砂(最大寸法5(mm)、表乾密度2.56(g/cm))、粗骨材は茨城県笠間市の砕石(最大寸法13(mm)、表乾密度2.71(g/cm))、AE減水剤はマスターグレニウムSP8SV (BASFジャパン(株)製)を使用した。配合は、W/C=55 (%)とした。打設後は20(℃)程度の冷暗所で28日間の封かん養生を行った。圧縮強度はφ100(mm)×200(mm)の3体の円柱の試験体70に対してJIS A 1108に基づいた圧縮強度試験から求めた平均値とした。
試験体70の加工は、曲げひび割れ導入、ひび割れ補修、遮水処理の順に行った。ひび割れは、暴露面を横向きにして、上下に試験体70の幅方向(鉄筋軸直角方向)で試験体70表面の中央の位置に長さ200mm以上の鋼製のくさびを入れて圧縮載荷することによって導入した。載荷時、除荷時に暴露面のひび割れ幅をクラックスケールにより測定し、除荷時の最大ひび割れ幅が0.4mm程度になるように載荷、除荷を繰り返した。結果としていずれの試験体70も0.35~0.45mmのひび割れ幅となった。さらに、要因に応じてコニシの土木建築用ボンドE206を用いた低圧注入工法によってひび割れを補修した。実施後は、目視によりひび割れ内部に補修剤が充てんされていることを確認した。その後、塩水の侵入方向を1方向にするために重防食塗料であるタールエポキシ(エポタールBOエコ、日本ペイント(株)製)を暴露面以外の5面に塗布した。
加工後は腐食促進として、(一財)電力中央研究所にある干満環境模擬装置(以後、干満槽と称する)内に設置した。環境条件は、温度40°C、相対湿度30~100%RHで3%NaCl水溶液による浸せきを0.5時間、気中11.5時間で1サイクルとし、1日あたり2サイクルを毎日行う条件とした。暴露面が横向きになるようにし、海水が暴露面から侵入するように試験体同士を2cm程度離して試験体70を設置した。
3.3.2 測定方法
試験体70の測定手順を図49A、図49Bに示す。測定の際には、まず干満槽が排水状態であることを確認してから、試験体70を回転させて暴露面を上面にした。続いて、暴露面に端子を設置して、図49Aに示す測定(1)と、図49Bに示す測定(2)という2種類の端子配置で測定した。一連の測定は干満槽設置前(腐食促進前)と設置2週間後(腐食2週間後)に実施した。測定端子の大きさは10mm×40mm×10mmのステンレスとし、10mm×40mmの面を鉄筋の長軸方向の端子長が10mmとなるように、ハイドロゲルシートを挟んでコンクリートに接触させた。第2章で得られた知見から、端子配置は電流端子C1、を外側、電位差測定端子P1、を内側とし、外寄り配置として内側2端子間隔をDin=Dout-40mmと設定した。図49Aに示した測定(1)は、高周波抵抗RfH(Ω)および低周波抵抗RfL(Ω)を測定するものである。外側2端子間隔をDout=80,120,160,200,240mmとし、4端子を試験体70内部鉄筋の直上かつ平行となるコンクリート表面に配置してインピーダンスを測定した。印加電圧は1.0(V)とし、周波数は0.08Hz-1,000Hzとした。続いて、図49Bに示した測定(2)はコンクリートの電気抵抗Rs(Ω)を測定するものである。コンクリート表面においてひび割れ部を外した位置かつ鉄筋直上ではない位置で、Dout=80mm、Din=40mmとして周波数100Hz時の電気抵抗を測定した。
ここで、各Doutにおけるコンクリートの電気抵抗をRs(Dout)(Ω)と定義すると、Rs(80mm)(Ω)が測定値として算出される。各Doutにおける見かけの非破壊分極抵抗R p-ni(Ω)を算出するためには、Rs(Dout)(Ω)を求める必要がある。そこで、Rs(80mm)(Ω)をまず電気抵抗率ρ(Ωm)に換算し、それを各DoutにおけるRs(Dout)(Ω)に換算し直すという手順を取る。以下の式(23)を用いて、Rs(Dout)(Ω)を電気抵抗率ρに換算することができる。
ρ = Gp(Dout)・Rs(Dout) ・・・(23)
ここで、
Gp(Dout)は、外側2端子間隔Doutにおける電極配置係数である。
Gp(Dout)、Rs(Dout)は、事前にFEMによる電流分散解析を行うことによって、以下の表13に示す値を算出した。
Figure 0007477676000027
この解析は、図47の試験体70と同じ寸法の鉄筋を埋設していないコンクリートおよび表面に置いた4個の端子のジオメトリを作成し、第2章2.3.3で示した解析手順により、各Doutにおけるコンクリートの電気抵抗Rs(Dout)を算出し、入力値として設定した電気抵抗率ρ(Ωm)の値を用いて、式(23)により電極配置係数Gp(Dout)に換算するというものである。
この解析から求まるGp(Dout)を用いて、式(24)により測定結果であるRs(80mm)からRs(Dout)に換算した。
Rs(Dout) = ρ/Gp(Dout
= (Rs(80mm)・Gp(80mm))/Gp(Dout) ・・・(24)
このように算出したRs(Dout)と、各DoutにおけるRfH(Ω)およびRfL(Ω)を用いて、上述の式(9-3)により見かけの非破壊分極抵抗R p-ni(Ω)を算出した。一連の測定終了後には、試験体70を元の状態に戻し、腐食促進を継続した。
3.3.3 非破壊分極抵抗法によるインピーダンスの測定結果
腐食促進2週間後に、N-Nの要因に対して測定した外側2端子間隔ごとのナイキストプロットを図50Aに示す。ひび割れのない試験体70を干満槽内に設置して、2週間で塩化物イオンが鉄筋位置(暴露面から100mm)まで浸透して腐食発生することは通常考えられないため、健全要因として扱う。Dout=120,160,200,240mmの場合は、複素数平面上でImag(Z)が負となる位置に半円の一部のような形状が現れた。これは、鉄筋とコンクリート界面において抵抗とコンデンサの並列回路が存在していることを表しており、鉄筋内部に測定可能となる程度の電流が流入して、鉄筋表面の分極抵抗の影響を含むインピーダンスが得られたと判断できる。一方、Dout=80mmの場合は、半円形状とはみなすことができないインピーダンスであった。
続いて、図50Bに周波数-Real(Z)関係を示す。鉄筋内部を経由する電流(図10に示した等価回路においてR経由の電流)を含むインピーダンスは、高周波から低周波に移行するにつれてReal(Z)が大きくなる特徴があるが、Dout=120mm以上の場合のみ、そのような特徴が得られた。一方でDout=80mmの場合は、その特徴は見られなかったため、鉄筋内部に経由する電流を検出できなかったと考えられる。これらのことから、本測定条件では、Dout≧120mmとすることで測定可能であることがわかった。
3.3.4 かぶりに合わせた外側2端子間隔の設定方法の提案
非破壊分極抵抗法を実施する際には、様々な測定条件から適切な端子配置を決定する必要がある。しかし、3.3.3で得られた知見(c=100(mm)では外側2端子間隔Dout≧120(mm)で測定可能)のみでは他の測定対象への応用が効かない。また、端子配置を決定するために、ひとつの測定したい箇所に対して外側2端子間隔Doutを変化させて複数回測定するのは非効率である。そこで試験体70に対する測定結果とFEMによる電流分散解析を用いて、適切なDoutの設定方法を提案する。ここで、改めて上述の式(9-3)を以下に示す。
Figure 0007477676000028
ただし、
Rs(Ω)は、コンクリートのみの抵抗である。
RfH(Ω)は、鉄筋に電流が流入する場合の高周波の抵抗である。
RfL(Ω)は、鉄筋に電流が流入する場合の低周波の抵抗である。
この式(9-3)の解釈としてR p-niは、常に正の値をとるため、RfH<RfL<Rsが成立することが前提条件となる。ここで、RsとRfHの差分が小さい場合、RfLが取り得る値の範囲が狭くなる。RfLは、鉄筋に電流の一部が流入する条件下でのインピーダンス測定により取得できるナイキストプロットを、半円のカーブフィッティングすることによって算出するが、RsとRfHの差分が小さい場合は、測定やフィッティングにおける少しのばらつきでも腐食判定に影響を与えかねない。逆に言えば、RsとRfHの差分が大きいほどRfLが取り得る値の範囲が広くなることでばらつきが影響しにくくなり、腐食判定の精度が高くなると考えられる。RsとRfHの差分が小さい場合は、図10の等価回路において抵抗R2が大きくなる場合、すなわち、かぶりが大きいことなどにより鉄筋への電流流入量が小さい場合が挙げられる。
そこで、コンクリートの電気抵抗と高周波抵抗の差分値(Rs-RfH)を、端子配置を最適化するための指標とした。まず、表12に示したN-N要因に対して3.3.2の測定方法に基づいて測定した結果の内、外側2端子間隔ごとの(Rs-RfH)の実験値を図51に示す。(Rs-RfH)は、Dout≦160mmの範囲ではDoutの上昇にともなって大きくなり、Dout≧160mmではほぼ一定になった。この差分値(Rs-RfH)が大きいほど、腐食判定精度が向上するという観点から、Doutの設定として160mm以上が推奨されることがわかった。
続いて、解析によって(Rs-RfH)と外側2端子間隔の関係を再現した。かぶりの変化によって(Rs-RfH)は変化すると考えられるため、かぶりを30,60,100mmとしたパラメトリックスタディーを行った。この解析は、図47の試験体70と同じ寸法の鉄筋、コンクリートおよび表面に置いた4個の端子のジオメトリを作成し、2.3.3で示した解析手順により実施した。コンクリートの電気抵抗率はDout=80mmの時の測定結果であるRs(80mm)(Ω)を、式(23)により換算した値であるρ=113(Ωm)を用いた。各Doutにおけるコンクリートの電気抵抗Rs(Dout)を算出し、また、外側2端子間隔Doutの設定値を50,80,120,160,200 mmとした。
その解析結果を図52に示す。先ほどの実験結果によって、かぶり100mmの時はDout≧160mmが推奨されたことから、解析上でのDout=160mmにおける抵抗値である(Rs-RfH)=150(Ω)以上となるDoutをかぶりc=30,60mmの場合に対しても算出した。その結果、c=30mmでDout=70mm以上、c=60mmでDout=120mm以上が推奨されることがわかった。ここで、Dout/cを各かぶりに対して算出したところ、Dout / c≧70/30=2.33(c=30mm),2.0(c=60mm),1.6(c=100mm)であった。小数点第2位を切り上げて算出するとDoutの推奨値をかぶりcで表した式は式(25)となる。
Dout/c ≧ 2.4 ・・・(25)
現場での測定時には、この式を参考にして、かぶりcに基づき外側2端子間隔Doutを設定することによって、適切な測定が可能になると考えられる。ただし、この推奨値は、使用しているポテンショスタットの電流測定感度に依存するため、装置によらず常に成立するものではないことは、念頭に置く必要がある。また、この基準のみではDoutを大きくすればするほど正確な測定ができるという結論になるため、過剰に大きい場合の欠点を示す。実構造物では、コンクリート中に複数の鉄筋が埋設されており、Doutが大きい場合に測定対象とする鉄筋以外の鉄筋にも電流が流入して測定値が変化すると考えられる。そのため、他の鉄筋の影響を受けない程度にDoutを小さくすることが重要である。
3.3.5 深いかぶりの試験体に対する腐食診断
腐食の有無および腐食速度の大小傾向の判定には表14に示すようなCEB(ヨーロッパコンクリート委員会)で提案されたグレーディングが良く用いられている。ここでは、従来の3電極法によって算出される分極抵抗Rp(kΩcm)の値に応じて腐食速度の大小傾向が4段階に分類されている。非破壊分極抵抗Rp-ni(kΩcm)が分極抵抗Rpとほぼ等しい値となることが3.2.2の解析的検討の結果によってすでに示されているので、表14のRpの値をそのまま、Rp-niによる判定基準と比較することによって腐食速度の大小傾向を判定することができる。
Figure 0007477676000029
そこで、かぶり100mmの試験体70に対して非破壊分極抵抗法を用いて測定し、算出したRp-niと、CEBのグレーディングに対応させた結果を図53に示す。測定条件としては、3.3.4の検討を参考にして、図49Aに示す測定(1)は外側2端子間隔Dout=240mmと設定して測定した。試験体70ごとの測定結果は棒グラフで示している。腐食有無の判別基準の例として、腐食速度低から中と中から高のグレードの境界と設定すると、Rp=130(kΩcm)が境界となり、その値以上であれば表14における不動態状態という判定、すなわち鉄筋が健全であり、その値より小さければ腐食ありという判断となる。図53から腐食促進前では、全ての試験体70でRp-ni>130(kΩcm)という高い値となり健全であると判定することができた。腐食促進2週間後では、ひび割れのない要因N-Nとひび割れを腐食促進前に補修した要因C-Rでは健全と判定され、ひび割れ発生した要因C-NではRp-ni<130(kΩcm)であったため腐食ありと判定された。このことから、C-N要因では約0.4mm幅のひび割れから塩水が侵入して鉄筋表面における塩化物イオン濃度が腐食発生のしきい値を超えることによって、コンクリート内部鉄筋の腐食が発生したものと推察された。一方、C-R要因のようにひび割れを補修したものはひび割れ部からの塩水侵入を防ぐことができ、腐食が発生しなかったと考えられる。したがって、臨海構造物を想定した深いかぶりの試験体70に対しても、非破壊分極抵抗法は十分に適用可能であり、少なくとも腐食有無の判定に活用できることが明らかとなった。
第4章 提案手法を活用した腐食検出装置および腐食検出方法
4.1 腐食検出装置
次に、実施例に係る腐食検出手法を実施する腐食検出装置の構成について説明する。図54は、実施例に係る腐食検出装置10の概略構成の一例を示す図である。図54には、コンクリート構造物を模したコンクリート1が示されている。コンクリート1は、鉄筋2が内部に表面からの深さが同一となるように設けられている。
腐食検出装置10は、2つの電流端子C1、と、2つの電位差測定端子P1、を有する。電流端子C1、および電位差測定端子P1、は、それぞれ電極である。電流端子C1、および電位差測定端子P1、は、コンクリート1の表面に配置する。電流端子C1、は、間隔を開けてコンクリート1の表面に配置する。電位差測定端子P1、は、電流端子C1、の内側または外側に、間隔を開けて、それぞれ電流端子C1、から同じ距離で電流端子C1、に対して直線状に配置する。図54では、電位差測定端子P1、2を、電流端子C1、の内側に配置している。電流端子C1、、電位差測定端子P1、には、それぞれコード12a-12dが個別に接続されている。
腐食検出装置10は、電源部20と、計測部21と、制御部22とを有する。電源部20は、コード12a、12dを介して電流端子C、Cに接続されている。計測部21は、コード12b、12cを介して電位差測定端子P1、に接続されている。
電源部20は、周波数が変更可能な交流電源とされている。電源部20は、鉄筋2の腐食の検出を行う際、コード12a、12dを介して、電流端子C、Cに交流電力を印加する。例えば、電源部20は、所定の周波数範囲で周波数を変えながら電流端子C、Cに交流電力を印加する。周波数範囲は、例えば、0.1Hz-1000Hzとする。コンクリート1は、電流端子C、Cから印加される交流電力に伴い、電流端子C、Cの間となるコンクリート1の内部や鉄筋2に電流13が流れる。
計測部21は、電源部20から交流電力を印加した際の電位差測定端子P1、間の電位差を計測する。計測部21は、計測した電位差を示す測定データを制御部22へ出力する。
制御部22は、腐食検出装置10の動作を統括的に制御する。制御部22は、例えば、コンピュータであり、コントローラ30と、ユーザインターフェース31と、記憶部32とを有する。
コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)を備え、電源部20を制御する。
ユーザインターフェース31は、腐食検出装置10を操作するコマンドや各種の情報の入力操作を行うキーボードや、腐食の検出結果を可視化して表示するディスプレイ等から構成されている。
記憶部32には、コントローラ30で実行される各種プログラムを記憶する。例えば、記憶部32は、後述する腐食検出処理を実行するプログラムを記憶する。さらに、記憶部32は、コントローラ30で実行されるプログラムで用いられる各種データを記憶する。例えば、記憶部32は、計測部21から出力された測定データ33を記憶する。なお、各種のプログラムや各種データは、コンピュータで読み取り可能なコンピュータ記録媒体(例えば、ハードディスク、DVDなどの光ディスク、フレキシブルディスク、半導体メモリ等)に記憶されていてもよい。また、各種のプログラムや各種データは、他の装置に記憶され、例えば専用回線を介してオンラインで読み出して利用されてもよい。
ここで、コンクリート1の鉄筋2の腐食を測定する場合は、電流端子C1、および電位差測定端子P1、をコンクリート1の鉄筋2の上部となる位置に直線状に配置する。そして、電源部20から交流電力を印加し、計測部21により電位差測定端子P1、間の電位差を計測する。実際のコンクリート構造物では、鉄筋2の配置を示した設計データに基づいて、あるいは、別な手段で鉄筋2の配置を検出して、鉄筋2の上部となる位置に電流端子C1、および電位差測定端子P1、を配置する。電位差測定端子P1、は、コンクリート1での鉄筋のかぶりcに対して2.4倍以上の間隔で配置することが好ましい。この場合、測定データ33は、鉄筋2に沿って電流端子C1、および電位差測定端子P1、を配置して測定した第1測定データを含む。
一方、コンクリート1の抵抗Rsを測定する場合は、電流端子C1、および電位差測定端子P1、を、鉄筋2の埋設位置以外の位置または電流端子C1、の間隔を、鉄筋2の内部に電流が流入しない間隔に配置する。例えば、電流端子C1、の間隔をコンクリート1での鉄筋2のかぶりcに対して2.4倍未満の間隔に配置する。そして、電源部20から交流電力を印加し、計測部21により電位差測定端子P1、間の電位差を計測する。この場合、測定データ33は、電流端子C1、および電位差測定端子P1、を、鉄筋2の埋設位置以外の位置または電流端子C1、の間隔を、鉄筋2の内部に電流が流入しない間隔(かぶりcに対して2.4倍未満)として測定した第2測定データを含む。
コントローラ30は、プログラムやデータを格納するための内部メモリを有し、記憶部32に記憶されたプログラムを読み出し、読み出したプログラムの処理を実行する。コントローラ30は、プログラムが動作することにより各種の処理部として機能する。例えば、コントローラ30は、算出部30aと、出力制御部30bの機能を有する。
算出部30aは、測定データ33から、上述の本開示の非破壊分極抵抗法により分極抵抗を算出する。
具体的には、算出部30aは、測定データ33から見かけの非破壊分極抵抗R p-niを算出する。見かけの非破壊分極抵抗R p-niは、電流端子C1、、電位差測定端子P1、による4電極配置での鉄筋2の表面の分極抵抗である。例えば、算出部30aは、測定データ33に含まれる第1測定データにより示される周波数ごとの電位差から周波数ごとの交流インピーダンスを求める。算出部30aは、周波数ごとの交流インピーダンスを複素数平面に示したナイキストプロットから高周波抵抗RfHおよび低周波抵抗RfLを算出する。ナイキストプロットには、図12に示すように半円形状のプロットの一部として現れる。算出部30aは、半円の一部に対してカーブフィッティングを行い、高周波側の実数軸との交点のReal(Z)を高周波抵抗RfH、低周波側の実数軸との交点のReal(Z)を低周波抵抗RfLと算出する。また、算出部30aは、測定データ33に含まれる第2測定データからコンクリートの電気抵抗Rsを算出する。例えば、算出部30aは、周波数100Hz時のReal(Z)の値を電気抵抗Rsと算出する。そして、算出部30aは、算出した高周波抵抗RfH、低周波抵抗RfL、コンクリートの電気抵抗Rsから非破壊分極抵抗R p-niを算出する。算出部30aは、高周波抵抗RfH、低周波抵抗RfL、コンクリートの電気抵抗Rsから、式(9-3)により非破壊分極抵抗R p-niを算出する。なお、コンクリートの電気抵抗Rsは、同様の箇所を複数回測定する場合や同じコンクリート1を複数測定する場合、毎回算出せずに1回算出して使用してもよい。また、コンクリートの電気抵抗Rsは、事前の調査などで値が定まっている場合、事前に定めた値をユーザインターフェース31などから設定してもよい。この場合、コンクリートの電気抵抗Rsの算出は、不要となる。
そして、算出部30aは、被測定面積Aniおよび端子配置倍率r2/4に基づいて、算出した見かけの非破壊分極抵抗R p-niから、2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出する。非破壊分極抵抗Rp-ni(2)は、端子とコンクリート間の抵抗を考慮しない2端子配置の分極抵抗である。例えば、算出部30aは、式(10)に示すように、見かけの非破壊分極抵抗R p-niに被測定面積Aniを乗算して4端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(4) を算出する。そして、算出部30aは、式(11)に示すように、非破壊分極抵抗Rp-ni(4)に端子配置倍率r2/4を乗算して2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出する。
被測定面積Aniおよび端子配置倍率r2/4は、事前に求めた値がユーザインターフェース31などから設定されてもよい。また、被測定面積Aniおよび端子配置倍率r2/4は、コンクリート1を模擬した解析モデルによる解析や、上述した簡易推定式により算出してもよい。
被測定面積Aniは、上述の2.3.5にて説明したように、コンクリート1を模擬した解析モデルから算出できる。例えば、算出部30aは、コンクリート1を模擬した解析モデルを構築する。算出部30aは、構築した解析モデルの電流端子C1、の間の鉄筋2以外の部分に絶縁面を設定する。例えば、算出部30aは、図23A、23Bのように、電流端子C1、の間の中央に縁面を設定する。算出部30aは、絶縁面を設定した解析モデルにより、交流電力による電流が鉄筋2に流入する鉄筋表面の電流密度を解析する。そして、算出部30aは、鉄筋表面の電流密度が、電流端子C1、の下部の鉄筋2の周上において電流端子C1、方向に対する鉄筋2の高さが中央となる点の電流密度以上となる鉄筋表面の面積を被測定面積Aniとして算出する。例えば、算出部30aは、図23A-図23Cに示したようなカットポイントによるカットオフを行って被測定面積Aniを算出する。
また、被測定面積Aniは、ユーザインターフェース31から鉄筋2の鉄筋径φと、鉄筋2のかぶりの厚さ(かぶりc)を入力することで、式(21)から算出できる。
端子配置倍率r2/4は、上述の2.3.5および2.4.3等にて説明したように、コンクリート1を模擬した解析モデルから算出できる。例えば、算出部30aは、電流端子C1、とコンクリート1間の接触抵抗を考慮しない2端子配置の解析と4端子配置の解析の比較によって端子配置倍率r2/4を算出する。
また、端子配置倍率r2/4は、ユーザインターフェース31から電流端子C1、の間隔(外側2端子間隔Dout)を入力することで、式(22)から算出できる。
算出部30aは、2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)から腐食速度を算出する。例えば、図43Cに示したように、2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)は、分極抵抗Rpとほぼ等しい。このため、算出部30aは、Rp-ni(2)=Rpとして、式(3)を用いて、2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)から腐食電流密度iを算出する。算出部30aは、式(4)を用いて、腐食電流密度iから腐食速度CRを算出する。
出力制御部30bは、各種の出力制御を行う。例えば、出力制御部30bは、算出部30aによる算出された腐食速度に基づく情報をユーザインターフェース31に表示させる。また、例えば、出力制御部30bは、算出部30aにより算出された腐食速度のデータを不図示のネットワークを介して外部の端末装置へ出力する。
4.2 腐食検出の流れ
コンクリート構造物に対する腐食検出は、大まかに、事前検討、腐食検出装置10による測定、および腐食検出装置10による腐食検出の3段階に分けられる。
事前検討段階では、設計・施工図書などを基に、腐食検出対象のコンクリート構造物の鉄筋径や配筋状態を把握する。また、電磁波レーダ法や電磁誘導法などの非破壊検査法を用いて、コンクリート構造物の鉄筋位置およびかぶりを推定する。実際のコンクリート構造物では、施工誤差によって設計・施工図書で記載された位置とは異なる位置に鉄筋が存在することが懸念されるため、非破壊検査法を用いた鉄筋位置およびかぶりの推定を行う。事前検討の結果を基に、コンクリート構造物に対する測定位置を決定する。
測定段階では、腐食検出装置10により、決定したコンクリート構造物の測定位置の測定を実施する。測定段階では、まず事前検討段階で得られたかぶり推定値cに応じて、式(25)に基づき、外側2端子間隔Dout(mm)を設定する。例えば、電位差測定端子P1、は、式(25)に基づき、コンクリート1での鉄筋のかぶりcに対して2.4倍以上の間隔に設定する。この時、測定対象とする鉄筋以外に電流が流入すると、被測定面積Ani(cm)および端子配置倍率r2/4の簡易推定式(式(21)および式(22))を用いることができなくなる。このため、格子状配筋の交差部が測定範囲に含まれないようにするなど、他の鉄筋に電流が流入しない程度にDout(mm)を小さくすると良い。複数鉄筋が測定範囲に含まれる場合は、別途鉄筋コンクリートおよび端子配置を模擬した電流分散解析を実施して、Ani(cm)およびr2/4を算出する必要がある。
ここで、コンクリート構造物の測定位置の一例を図55に示す。図55には、コンクリート構造物が示されており、埋設された鉄筋2が点線で示されている。
測定段階では、鉄筋2に電流を流入させる測定(a)を実施する。測定(a)では、電流端子C1、および電位差測定端子P1、の4端子を、鉄筋2の軸に平行かつ直上に、電流端子C1、を外側にした外寄り配置で設置して、交流インピーダンスを測定する。電位差測定端子P1、は、コンクリート1での鉄筋のかぶりcに対して2.4倍以上の間隔で配置する。腐食検出装置10は、測定(a)により測定された測定データを第1測定データとして記憶部32の測定データ33に記憶する。
また、測定段階では、鉄筋2に電流を流入させない測定(b)または測定(c)を実施する。測定(b)では、鉄筋2直上からずらした位置に、測定(a)と同様の間隔で4端子を設置して、交流インピーダンスを測定する。測定(c)では、鉄筋2の直上とするが、鉄筋2への電流流入がほとんどなくなるまでDoutを小さくして測定する。Doutを小さくする方法では、3.3.2の測定と電流分散解析方法による測定結果の換算方法を参考に、Rs測定時のDoutによる測定結果をRfLおよびRfH測定時のDoutの値に換算する。Rsの測定は、測定時間短縮のために、交流インピーダンス測定の代替として1-100(Hz)程度の一定周波数により実施しても良い。腐食検出装置10は、測定(b)または測定(c)により測定された測定データを第2測定データとして記憶部32の測定データ33に記憶する。
腐食検出段階では、腐食検出装置10により、腐食検出処理を実行して腐食検出を行う。図56は、実施例に係る腐食検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。
算出部30aは、測定データ33から4電極配置の見かけの非破壊分極抵抗R p-niを算出する(ステップS10)。例えば、算出部30aは、測定データ33に含まれる第1測定データにより示される周波数ごとの電位差から周波数ごとの交流インピーダンスを求め、周波数ごとの交流インピーダンスを複素数平面に示したナイキストプロットから高周波抵抗RfHおよび低周波抵抗RfLを算出する。また、算出部30aは、測定データ33に含まれる第2測定データからコンクリートの電気抵抗Rsを算出する。例えば、算出部30aは、周波数100Hz時のReal(Z)の値を電気抵抗Rsと算出する。そして、算出部30aは、算出した高周波抵抗RfH、低周波抵抗RfL、コンクリートの電気抵抗Rsから4電極配置の非破壊分極抵抗R p-niを算出する。なお、コンクリートの電気抵抗Rsが事前に求まっている場合、コンクリートの電気抵抗Rsには、定めた値を設定してもよい。この場合、測定(b)、(c)およびコンクリートの電気抵抗Rsの算出が不要となる。
算出部30aは、被測定面積Aniを算出する(ステップS11)。例えば、ユーザインターフェース31から電流端子C1、の間隔(外側2端子間隔Dout)を入力させる。算出部30aは、式(22)を用いて、入力された外側2端子間隔Dout)から被測定面積Aniを算出する。なお、算出部30aは、コンクリート1を模擬した解析モデルを解析して被測定面積Aniを算出してもよい。また、被測定面積Aniが事前に求まっている場合、被測定面積Aniには、定めた値を設定してもよい。この場合、ステップS11が不要となる。
算出部30aは、端子配置倍率r2/4を算出する(ステップS12)。例えば、ユーザインターフェース31から鉄筋2の鉄筋径φと、鉄筋2のかぶりの厚さ(かぶりc)を入力させる。算出部30aは、式(22)を用いて、入力された鉄筋2の鉄筋径φと、鉄筋2のかぶりcから端子配置倍率r2/4を算出する。なお、算出部30aは、コンクリート1を模擬した解析モデルを解析して端子配置倍率r2/4を算出してもよい。また、端子配置倍率r2/4が事前に求まっている場合、端子配置倍率r2/4には、定めた値を設定してもよい。この場合、ステップS12が不要となる。
算出部30aは、被測定面積Aniおよび端子配置倍率r2/4に基づいて、ステップS10で算出した見かけの非破壊分極抵抗R p-niから、2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出する(ステップS13)。例えば、算出部30aは、式(10)、式(11)を用いて、見かけの非破壊分極抵抗R p-niから2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出する。
算出部30aは、2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)から腐食速度CRを算出する(ステップS14)。例えば、算出部30aは、Rp-ni(2)=Rpとして、式(3)、式(4)を用いて、2端子配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)から腐食速度CRを算出する。
出力制御部30bは、算出結果を出力し、(ステップS15)、処理を終了する。例えば、出力制御部30bは、算出した腐食速度CRやCEBのにおける腐食速度CRのグレーディングをユーザインターフェース31に表示させる。
このように、実施例に係る腐食検出処理は、コンクリート1の表面から内部の鉄筋2の分極抵抗Rpを精度よく算出できる。これにより、実施例に係る腐食検出処理は、鉄筋2の腐食速度CRをを精度よく算出でき、鉄筋2の腐食速度CRを定量的に評価することができる。また、実施例に係る腐食検出は、コンクリート構造物の腐食検出を非破壊で実施できる。
実施例に係る腐食検出処理に必要な情報は、鉄筋径φ、外側2端子間隔Dout、かぶりc、および鉄筋間隔や格子状鉄筋の交差部などの配筋状態である。これらの必要な情報は、コンクリート構造物の設計・施工図書などの事前検討段階で得ることができる。これにより、コンクリート構造物の腐食検出の現場適用性を高めることができる。また、実施例に係る腐食検出は、3.2.3にて開示した簡易推定式、式(21)、式(22)を使用する場合、電流端子C1、の間隔(外側2端子間隔Dout)、鉄筋2の鉄筋径φと、鉄筋2のかぶりの厚さ(かぶりc)を入力させることで、電流分散解析を行うことなく現場で即座に腐食速度評価結果を算出できる。
4.3 効果
このように、本実施例に係る腐食検出装置10は、内部に鉄筋2(71)が設けられたコンクリート1の表面に間隔を開けて電流端子C1、(2つの第1電極)を配置し、電流端子C1、の内側または外側に、間隔を開けてそれぞれ電流端子C1、から同じ距離(間隔Dcp)で電流端子C1、に対して直線状に電位差測定端子P1、(2つの第2電極)を配置し、電流端子C1、に、所定の周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加して電位差測定端子P1、の電位差を測定した測定データ33から非破壊分極抵抗R p-ni(4電極配置の分極抵抗)を算出する(ステップS10)。腐食検出装置10は、被測定面積Aniおよび端子配置倍率r2/4(換算係数)に基づいて、算出した非破壊分極抵抗R p-niから、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)(2電極配置の分極抵抗)を算出する(ステップS13)。これにより、腐食検出装置10は、コンクリート1の表面から内部の鉄筋2の分極抵抗(分極抵抗Rp)を精度よく検出できる。
また、腐食検出装置10は、算出した非破壊分極抵抗R p-niに被測定面積Aniおよび端子配置倍率r2/4を乗算して、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出する。これにより、腐食検出装置10は、非破壊分極抵抗R p-niから2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出できる。
また、端子配置倍率r2/4は、間隔Dcpが短いほど小さい値である。これにより、腐食検出装置10は、間隔Dcpに対応した2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出できる。
また、腐食検出装置10は、コンクリート1を模擬した解析モデルを構築し、解析モデルの電流端子C1、の間の鉄筋2以外の部分に絶縁面を設定して交流電力による電流が鉄筋2に流入する鉄筋2表面の電流密度を解析し、鉄筋2表面の電流密度が、電流端子C1、の下部の鉄筋2の周上において電流端子C1、方向に対する鉄筋2の高さが中央となる点の電流密度以上となる鉄筋2表面の面積を被測定面積Aniとして算出する(ステップS11)。腐食検出装置10は、算出された被測定面積Aniを用いて、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出する(ステップS13)。これにより、腐食検出装置10は、被測定面積Aniを精度よく算出でき、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を精度よく算出できる。
また、腐食検出装置10は、式(22)(第1演算式)を用いて、コンクリート1での鉄筋2の径および鉄筋2のかぶりの厚さ(かぶりc)から被測定面積Aniとして算出する(ステップS11)。腐食検出装置10は、算出された被測定面積Aniを用いて、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出する(ステップS13)。これにより、腐食検出装置10は、被測定面積Aniを簡易に精度よく算出でき、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を精度よく算出できる。
また、腐食検出装置10は、コンクリート1を模擬した解析モデルを構築して電流端子C1、間に対する電位差測定端子P1、の配置に応じた端子配置倍率r2/4を算出する(ステップS12)。腐食検出装置10は、算出された端子配置倍率r2/4を用いて、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出する(ステップS13)。これにより、腐食検出装置10は、端子配置倍率r2/4を精度よく算出でき、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を精度よく算出できる。
また、腐食検出装置10は、式(22)(第2演算式)を用いて、コンクリート1での電流端子C1、の間隔から端子配置倍率r2/4を算出する(ステップS12)。腐食検出装置10は、算出された端子配置倍率r2/4を用いて、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を算出する(ステップS13)。これにより、腐食検出装置10は、端子配置倍率r2/4を簡易に精度よく算出でき、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)を精度よく算出できる。
また、腐食検出装置10は、2電極配置の非破壊分極抵抗Rp-ni(2)から腐食速度CRを算出する(ステップS14)。これにより、腐食検出装置10は、腐食速度CRを精度よく算出できる。
また、測定データ33は、電流端子C1、の間隔をコンクリート1での鉄筋2のかぶりの厚さ(かぶりc)に対して2.4倍以上として、鉄筋2に沿って電流端子C1、および電位差測定端子P1、を配置して測定した第1測定データを含む。腐食検出装置10は、第1測定データにより示される周波数ごとの電位差から周波数ごとの交流インピーダンスを求め、周波数ごとの交流インピーダンスを複素数平面に示したナイキストプロットから高周波抵抗RfHおよび低周波抵抗RfLを算出し、算出した高周波抵抗RfHおよび低周波抵抗RfLと所定のコンクリート1の電気抵抗Rsから非破壊分極抵抗R p-niを算出する。これにより、腐食検出装置10は、コンクリート1の表面から内部の腐食した鉄筋2の非破壊分極抵抗R p-niを精度よく算出できる。
また、測定データ33は、電流端子C1、および電位差測定端子P1、を、鉄筋2の埋設位置以外の位置または電流端子C1、の間隔を、鉄筋2の内部に電流が流入しない間隔として測定した第2測定データとさらに含む。電流が流入しない間隔は、例えば、コンクリート1での鉄筋2のかぶりの厚さ(かぶりc)に対して2.4倍未満の間隔である。腐食検出装置10は、第2測定データからコンクリート1の電気抵抗Rsを算出し、高周波抵抗RfHおよび低周波抵抗RfLと算出したコンクリート1の電気抵抗Rsから非破壊分極抵抗R p-niを算出する。これにより、腐食検出装置10は、コンクリート1の表面から内部の腐食した鉄筋2の非破壊分極抵抗R p-niを精度よく算出できる。
また、電流端子C1、は、コンクリート1での鉄筋2のかぶりc(かぶりの厚さ)に対して2.4倍以上の間隔で配置する。これにより、腐食検出装置10は、コンクリート1の表面から内部の腐食した鉄筋2の非破壊分極抵抗R p-niを精度よく算出できる。
また、電位差測定端子P1、は、電流端子C1、の内側に、それぞれ間隔Dcpを電位差測定端子P1、の間隔Dinよりも狭く配置する。これにより、腐食検出装置10は、インピーダンスを大きく算出でき、非破壊分極抵抗R p-niをより精度よく算出できる。
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、開示の技術は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
例えば、上記の実施例では、腐食検出装置が、コンクリート1に交流電力を印加して電位差を測定し、測定された測定データ33から非破壊分極抵抗Rp-ni(2)や腐食速度CRを算出する場合について説明したが、開示の装置はこれに限定されない。例えば、腐食検出装置は、コンクリート1に交流電力を印加して電位差を測定する装置と、測定された測定データ33から非破壊分極抵抗Rp-ni(2)や腐食速度CRを算出する装置とにより構成されてもよい。
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的状態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、算出部30aおよび出力制御部30bの各処理部が適宜統合されてもよい。また、各処理部の処理が適宜複数の処理部の処理に分離されてもよい。さらに、各処理部にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
[腐食検出プログラム]
また、上記の実施例で説明した各種の処理は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータシステムで実行することによって実現することもできる。そこで、以下では、上記の実施例と同様の機能を有するプログラムを実行するコンピュータシステムの一例を説明する。図57は、腐食検出プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
図57に示すように、コンピュータ300は、CPU(Central Processing Unit)310、HDD(Hard Disk Drive)320、RAM(Random Access Memory)340を有する。これら300-340の各部は、バス400を介して接続される。
HDD320には上記の算出部30aおよび出力制御部30bと同様の機能を発揮する腐食検出プログラム320aが予め記憶される。なお、腐食検出プログラム320aについては、適宜分離してもよい。
また、HDD320は、各種情報を記憶する。例えば、HDD320は、上述の測定データ33など腐食の検出に用いる各種データを記憶する。
そして、CPU310が、腐食検出プログラム320aをHDD320から読み出して実行することで、実施例の各処理部と同様の動作を実行する。すなわち、腐食検出プログラム320aは、算出部30aおよび出力制御部30bと同様の動作を実行する。
なお、上記した腐食検出プログラム320aについては、必ずしも最初からHDD320に記憶させることを要しない。
例えば、コンピュータ300に挿入されるフレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」にプログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ300がこれらからプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。
さらには、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ300に接続される「他のコンピュータ(またはサーバ)」などにプログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ300がこれらからプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。
1 コンクリート
2鉄筋
12a-12d コード
10 腐食検出装置
20 電源部
21 計測部
22 制御部
30 コントローラ
30a 算出部
30b 出力制御部
31 ユーザインターフェース
32 記憶部
33 測定データ
70 試験体
71 鉄筋
72 エポキシ樹脂
73 六角ナット
74 リード線
212 対極
214 照合電極
300 コンピュータ
310 CPU
320 HDD
320a 腐食検出プログラム
400 バス
1、 電流端子
1、 電位差測定端子

Claims (13)

  1. 内部に鉄筋が設けられたコンクリートの表面に間隔を開けて2つの第1電極を配置し、2つの前記第1電極の内側または外側に、間隔を開けてそれぞれ前記第1電極から同じ距離で2つの前記第1電極に対して直線状に2つの第2電極を配置し、2つの前記第1電極に、所定の周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加して2つの前記第2電極の電位差を測定した測定データから4電極配置の分極抵抗を算出し、
    前記鉄筋表面の所定の被測定面積および前記4電極配置を2つの前記第1電極による2電極配置に換算する所定の換算係数に基づいて、算出した4電極配置の前記分極抵抗から、前記2電極配置の分極抵抗を算出する
    処理をコンピュータに実行させ
    前記測定データは、前記2つの第1電極の間隔を前記コンクリートでの前記鉄筋のかぶりの厚さに対して2.4倍以上として、前記鉄筋に沿って前記2つの第1電極および前記2つの第2電極を配置して測定した第1測定データを含み、
    前記4電極配置の前記分極抵抗を算出する処理は、前記第1測定データにより示される周波数ごとの電位差から周波数ごとの交流インピーダンスを求め、周波数ごとの交流インピーダンスを複素数平面に示したナイキストプロットから高周波抵抗および低周波抵抗を算出し、算出した前記高周波抵抗および前記低周波抵抗と所定の前記コンクリートの電気抵抗から前記4電極配置の前記分極抵抗を算出する
    ことを特徴とする腐食検出プログラム。
  2. 前記2電極配置の分極抵抗を算出する処理は、算出した4電極配置の前記分極抵抗に前記被測定面積および前記換算係数を乗算して、前記2電極配置の分極抵抗を算出する
    請求項1に記載の腐食検出プログラム。
  3. 前記換算係数は、前記距離が短いほど小さい値である
    請求項1に記載の腐食検出プログラム。
  4. 前記コンクリートを模擬した解析モデルを構築し、前記解析モデルの2つの前記第1電極の間の前記鉄筋以外の部分に絶縁面を設定して前記交流電力による電流が前記鉄筋に流入する前記鉄筋表面の電流密度を解析し、前記鉄筋表面の電流密度が、前記第1電極の下部の前記鉄筋の周上において前記第1電極方向に対する前記鉄筋の高さが中央となる点の電流密度以上となる前記鉄筋表面の面積を前記被測定面積として算出する処理をさらにコンピュータに実行させ、
    前記2電極配置の分極抵抗を算出する処理は、算出された被測定面積を用いて、前記2電極配置の分極抵抗を算出する
    請求項1に記載の腐食検出プログラム。
  5. 前記鉄筋の径および前記鉄筋のかぶりの厚さから前記被測定面積を算出する第1演算式を用いて、前記コンクリートでの前記鉄筋の径および前記鉄筋のかぶりの厚さから前記被測定面積として算出する処理をさらにコンピュータに実行させ、
    前記2電極配置の分極抵抗を算出する処理は、算出された被測定面積を用いて、前記2電極配置の分極抵抗を算出する
    請求項1に記載の腐食検出プログラム。
  6. 前記コンクリートを模擬した解析モデルを構築して2つの前記第1電極間に対する2つの第2電極の配置に応じた前記換算係数を算出する処理をさらにコンピュータに実行させ、
    前記2電極配置の分極抵抗を算出する処理は、算出された前記換算係数を用いて、前記2電極配置の分極抵抗を算出する
    請求項1に記載の腐食検出プログラム。
  7. 2つの前記第1電極の間隔から前記換算係数を算出する第2演算式を用いて、前記コンクリートでの2つの前記第1電極の間隔から前記換算係数を算出する処理をさらにコンピュータに実行させ、
    前記2電極配置の分極抵抗を算出する処理は、算出された前記換算係数を用いて、前記2電極配置の分極抵抗を算出する
    請求項1に記載の腐食検出プログラム。
  8. 前記2電極配置の分極抵抗から腐食速度を算出する処理をさらにコンピュータに実行させる
    請求項1に記載の腐食検出プログラム。
  9. 前記測定データは、前記2つの第1電極および前記2つの第2電極を、前記鉄筋の埋設位置以外の位置または前記2つの第1電極の間隔を前記鉄筋内部に電流が流入しない間隔として測定した第2測定データとさらに含み、
    前記4電極配置の前記分極抵抗を算出する処理は、前記第2測定データから前記コンクリートの電気抵抗を算出し、前記高周波抵抗および前記低周波抵抗と算出した前記コンクリートの電気抵抗から前記4電極配置の前記分極抵抗を算出する
    請求項に記載の腐食検出プログラム。
  10. 内部に鉄筋が設けられたコンクリートの表面に間隔を開けて2つの第1電極を配置し、2つの前記第1電極の内側または外側に、間隔を開けてそれぞれ前記第1電極から同じ距離で2つの前記第1電極に対して直線状に2つの第2電極を配置し、2つの前記第1電極に、所定の周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加して2つの前記第2電極の電位差を測定した測定データから4電極配置の分極抵抗を算出し、
    前記鉄筋表面の所定の被測定面積および前記4電極配置を2つの前記第1電極による2電極配置に換算する所定の換算係数に基づいて、算出した4電極配置の前記分極抵抗から、前記2電極配置の分極抵抗を算出する
    処理をコンピュータが実行し、
    前記測定データは、前記2つの第1電極の間隔を前記コンクリートでの前記鉄筋のかぶりの厚さに対して2.4倍以上として、前記鉄筋に沿って前記2つの第1電極および前記2つの第2電極を配置して測定した第1測定データを含み、
    前記4電極配置の前記分極抵抗を算出する処理は、前記第1測定データにより示される周波数ごとの電位差から周波数ごとの交流インピーダンスを求め、周波数ごとの交流インピーダンスを複素数平面に示したナイキストプロットから高周波抵抗および低周波抵抗を算出し、算出した前記高周波抵抗および前記低周波抵抗と所定の前記コンクリートの電気抵抗から前記4電極配置の前記分極抵抗を算出する
    ことを特徴とする腐食検出方法。
  11. 内部に鉄筋が設けられたコンクリートの表面に間隔を開けて2つの第1電極を配置し、2つの前記第1電極の内側または外側に、間隔を開けてそれぞれ前記第1電極から同じ距離で2つの前記第1電極に対して直線状に2つの第2電極を配置し、2つの前記第1電極に、所定の周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加して2つの前記第2電極の電位差を測定した測定データを記憶する記憶部と、
    前記記憶部に記憶された測定データから4電極配置の分極抵抗を算出し、前記鉄筋表面の所定の被測定面積および前記4電極配置を2つの前記第1電極による2電極配置に換算する所定の換算係数に基づいて、算出した4電極配置の前記分極抵抗から、前記2電極配置の分極抵抗を算出する算出部と、を有し、
    前記測定データは、前記2つの第1電極の間隔を前記コンクリートでの前記鉄筋のかぶりの厚さに対して2.4倍以上として、前記鉄筋に沿って前記2つの第1電極および前記2つの第2電極を配置して測定した第1測定データを含み、
    前記算出部は、前記第1測定データにより示される周波数ごとの電位差から周波数ごとの交流インピーダンスを求め、周波数ごとの交流インピーダンスを複素数平面に示したナイキストプロットから高周波抵抗および低周波抵抗を算出し、算出した前記高周波抵抗および前記低周波抵抗と所定の前記コンクリートの電気抵抗から前記4電極配置の前記分極抵抗を算出する
    ことを特徴とする情報処理装置。
  12. 内部に鉄筋が設けられたコンクリートの表面に、前記コンクリートでの前記鉄筋のかぶりの厚さに対して2.4倍以上間隔を開けて前記鉄筋に沿って配置する2つの第1電極と、
    2つの前記第1電極の内側または外側に、間隔を開けてそれぞれ前記第1電極から同じ距離で2つの前記第1電極に対して直線状に前記鉄筋に沿って配置する2つの第2電極と、
    2つの前記第1電極に、所定の周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加する電源部と、
    前記電源部から交流電力を印加した際の2つの前記第2電極の電位差を測定する計測部と、
    前記計測部により計測される周波数ごとの電位差から周波数ごとの交流インピーダンスを求め、周波数ごとの交流インピーダンスを複素数平面に示したナイキストプロットから高周波抵抗および低周波抵抗を算出し、算出した前記高周波抵抗および前記低周波抵抗と所定の前記コンクリートの電気抵抗から4電極配置の分極抵抗を算出し、前記鉄筋表面の所定の被測定面積および前記4電極配置を2つの前記第1電極による2電極配置に換算する所定の換算係数に基づいて、算出した4電極配置の前記分極抵抗から、前記2電極配置の分極抵抗を算出する算出部と、
    を有することを特徴とする腐食検出装置。
  13. 前記2つの第2電極は、2つの第1電極の内側に、それぞれ直近の前記第1電極との間隔を前記2つの第2電極の間隔よりも狭く配置する
    ことを特徴とする請求項12に記載の腐食検出装置。
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