JP4231686B2 - Cr系窒化物及び炭化物被覆摺動部材 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は鉄鋼あるいはアルミ合金又はステンレス鋼を含む母材上に、PVD又はPCVDにより形成されたCrを基調とした窒化物及び炭化物の膜を形成したCr系窒化物及び炭化物被覆摺動部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、構造用鋼あるいは高合金鋼あるいはアルミ合金又はステンレス鋼を含む母材上に、PVD又はPCVDコーティングが普及し、グラファイトを含むDLC膜の適用が盛んに行われている。例えば、特許文献1においては、その図2で、母材に形成された膜厚が0.1〜0.2μm のCrの第1層と、前記第1層上に形成された膜厚0.2〜0.4μm のCrCの第2層及び前記第2層上に形成された合計膜厚が2〜3μm のグラファイト状のCrx Cy の第3層(xは約15、yは約85)である組成からなる構造のものが開示され、その図3で、母材に形成された膜厚が0.2μm のCrの第1層と、前記第1層上に形成された膜厚0.2μm より大きいCrNの第2層と、前記第2層上に形成された膜厚2.0μm のCrCNの第3層と、前記第3層上に形成された膜厚2.0μm のCrCの第4層及び前記第3層上に形成された膜厚2.0μm のグラファイト状のCrx Cy の第5層(xは約15、yは約85)からなるなどのCr系炭化物多層被覆技術が提案されている。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−161352 図2〔0103〕〜〔0105〕、図3、〔0114〕〜〔0117〕
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本来摺動に関わる問題については油潤滑と無潤滑さらにはその中間にある境界潤滑があり、単一特性でこれらを満足する被覆材料については選定が難しいものとなっていた。これは油潤滑においては油膜が形成しやすい成分であることが重要で、無潤滑においては大気環境下において摩擦係数が小さいことが要件となるからである。特に境界潤滑においては油膜の形成のしやすさと摩擦係数を低くすることが重要であるゆえに、特許文献1の条件のグラファイト状のCrx Cy においては油膜の形成がしにくく無潤滑での滑りは良いが、油が入ると摩擦摩耗特性において劣化する現象があり、特許文献1の条件のグラファイト状Crx Cy では性能が不十分であった。
【0005】
本発明の課題は、かかる従来技術の問題を解決し、境界潤滑における当該発明等のDLC系もしくはCrC系被膜の従来の欠点を改善し、高性能な摺動部材を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このため本発明は、
鉄鋼あるいはアルミ合金又はステンレス鋼を含む母材上に、
PVD又はPCVDにより形成されるCrを基調とした窒化物及び炭化物膜であって、X線回折による回折パターンのピークでCr、Cr2 C、Cr3 C2 が混在するCr系窒化物及び炭化物被覆層として、
第1層に、膜厚0.5〜1.0μm のCrN層を形成し、以下その上に、
第2層に、合計膜厚が1.0〜2.0μm のCrに対する窒素から炭素への比率が傾斜するCrNからCrC系への移行するCrN及びCrCからなる層を形成し、さらに、 第3層の最上層に炭化物Cr−Cの膜厚が0.1〜0.5μm の範囲にある層を有する構造を持ち、前記最上層のCr−Cの組成をCrx Cy とし、x+y=1において、
0.5≦x≦0.7 ; 0.3≦y≦0.5 である層を形成する、
ことを特徴とするCr系窒化物及び炭化物被覆摺動部材を提供することで前述の課題を解決した。
【0007】
【発明の効果】
かかる構成により、境界潤滑における当該発明等のDLC系もしくはCrC系被膜の従来の欠点を改善し、油潤滑においては油膜が形成しやすい成分とし、無潤滑においては大気環境下において摩擦係数を小さくし、その中間にある境界潤滑においては油膜の形成のしやすさと摩擦係数を低くすることができる高性能な摺動部材を提供するものとなった。即ち一般に、PVDで形成されるCr、CrNあるいはCrCといった膜はTiNやTiCNなどと同様にその摩耗形態は微細な粒状摩耗粉が脱落する形態をとり、すきとり摩耗のようなすり減る現象を呈さないのが普通である。したがって十分な密着性と強度を得ようとする場合はCrNを成膜するのが好ましくこれを形成する手段としてはイオンプレーティング法で成膜する。CrN膜はCrNとしての性質が発揮される膜厚である0.5μm以上1.0μm以内が適当で、0.5μm未満では密着性が不十分であり、1.0μmを越えると膜全体の強度が低下する。境界潤滑下では一部が無潤滑となる場合があるため実際の摩擦係数はCrNやCrCと比較して低い必要がある。本発明品の中間層の構成はCrNからCrCへの傾斜組成となっているので、傾斜組成の膜は急激な膜組成変動による膜応力を緩和させる効果を有し、CrNにCrCを直接つけたものに比べて、密着性に優れているからである。またCrNからCrC系へ移行するCrN層及びCrC層の膜厚は1.0μm未満では急激な膜組成変動による膜応力を緩和させる効果が少なく、2.0μm を越えると摩擦係数が大きくなるので、膜厚を1.0〜2.0μm とした。最上層部の炭化物Cr−C層の膜厚は0.1未満では油が無い無潤滑での摩擦係数が大きくなり、0.5μm を越えると膜全体の強度が低下するので、膜厚を0.1〜0.5μm とした。さらに最上層のCr−Cの組成をCrx Cy とし、x+y=1において、xが0.5未満では油潤滑での摩擦係数が大きくなり、0.7を越えると油が無い無潤滑での摩擦係数がが大きくなるので、
0.5≦x≦0.7とし、yが0.3未満では無潤滑での摩擦係数がが大きくなり、0.5越えると油潤滑での摩擦係数が大きくなるので、
0.3≦y≦0.5とした。
【0008】
好ましくは、密着性を確保するために前記母材と前記第1層のCrN層との間に膜厚が0.05μm 未満のCrの層を形成した。実用上の密着性を確保するためには中間層にあたるCr層は膜の機械強度がCrの特性を発揮しないレベルすなわち0.05μm未満の極薄い層を形成する必要があるからである。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1に本発明の発明の実施の形態の膜構造を示す。鉄鋼あるいはアルミ合金又はステンレス鋼を含む母材上にPVD又はPCVDにより形成される膜であってCrを基調とした窒化物及び炭化物であり、炭化物の構造がX線回折による回折ピークでCr、Cr2 C、Cr3 C2 が混在する炭化物系被膜が形成されている。母材上に膜厚が0.05μm 未満のCr層を形成(Cr層はなくてもよい)されている。Cr層の上に膜厚が0.5〜1.0μm のCrN層を形成され、CrN層の上に、合計膜厚が1.0〜2.0μm のCrに対する窒素から炭素への比率が傾斜するCrNからCrC系への移行するCrN及びCrCからなる層を形成し、うち最上層の炭化物Cr−Cの膜厚が0.1〜0.5μm の範囲にある層を有する構造を持ち、かつ前記最上層のCr−Cの組成をCrx Cy とし、x+y=1において、
0.5≦x≦0.7 ; 0.3≦y≦0.5 であるものとした。
図3には本発明品のX線回折パターンを示す。Crと、sp3の結合を有するCr2 Cとsp2の結合を有するCr3 C2 とが見られる。
【0010】
〔実施例1〕図4に示すイオンプレーティング(PVD)装置を用いて本発明品のコーティングを行った。まず、摩擦摩耗試験用のステンレス鋼のテストピース(SUS440C Ry0.5)をワーク2、2にセットし、るつぼ3にCr粒を配置後、チャンバー内部の排気を行った。チャンバー内の真空度が2 ×10-4Pa以下になった後、Arガス6を導入し、電子銃5にプラズマ電源9の電圧を印加してプラズマを発生させ、ワーク加熱を行い、ワーク2にワーク電源10の電圧を印加し、Arイオンでボンバードを行った。その後、プラズマ雰囲気11内で、るつぼ3内のCrを昇華させながら、反応ガス7を導入してワーク2に本発明品を成膜し、成膜終了後、チャンバー内を冷却して、テストピースを装置から取り出した。これによって得られたテストピース(本発明品)と、比較のためテストピースにCrN層のみを形成したもの(CrN)及びテストピース上にグラファイト状CrC層を形成したもの(Cr−C)とを、それぞれ潤滑油中で60kgf もしくは120kgfの荷重でリング(SUJ2 φ30×40 Ry0.5)に押し付け、摩擦係数とテストピース及びリングの摩耗量を測定した。摺速は0.3m/s、試験時間は30min とした。図5に本発明品の摩耗試験を行った結果を示し、(a)は摩擦係数試験結果と(b)は摩耗深さ(摩耗量)を測定した摩耗試験結果をそれぞれ示す。摩耗深さ、摩擦係数ともに、本発明品は(CrN)及び(Cr−C)に比べて極めて良好な結果を示した。
【0011】
CrNからCrC系への移行は成膜時に投入する反応ガスである窒素を減量しアセチレン等の炭化水素ガスを増量して形成する。これによって形成される傾斜組成の膜は急激な組成変動による膜応力を緩和させる目的で1.0〜2.0μm を成膜する。1.0μm未満では急激な膜組成変動による膜応力を緩和させる効果が少なく、この膜厚が2.0μm より大きい場合には摩耗が不利となるので、その要件から膜厚について限定した。
CrC系の膜は境界潤滑における油膜形成しやすいレベルに金属成分が多い状態が良く、最上層部の炭化物Cr−C層の膜厚は0.1未満では油が無い無潤滑での摩擦係数がが大きくなり、0.5μm を越えると膜全体の強度が低下するので、膜厚を0.1〜0.5μm とした。さらに表1に示すように、CrCの組成をCrx Cy 、x+y=1において、xが0.5未満では油潤滑での摩擦係数が大きくなり、0.7を越えると油が無い無潤滑での摩擦係数がが大きくなるので、 0.5≦x≦0.7とし、 yが0.3未満では無潤滑での摩擦係数がが大きくなり、0.5越えると油潤滑での摩擦係数が大きくなるので、
0.3≦y≦0.5とした。
【0012】
【表1】
【0013】
境界潤滑下では一部が無潤滑となる場合があるため実際の摩擦係数はCrNやCrCと比較して低い必要がある。本発明品の中間層の構成はCrNからCrCへの傾斜組成となっている。これは、図2に示すロックウエル圧痕判定試験の結果で見られるように、(a)の本発明品は中間層の構成をCrNからCrCへの傾斜組成のものは(b)のCrNにCrCを直接つけたものがCrNとCr3 C2 膜の境界で剥離が見られるのに比べて、(a)の本発明品はかかる剥離は見られず密着性に優れていることが判る。
本発明品については同じイオンプレーティング装置を用いてルツボに炭素を配置することにsp2、sp3の混載した炭素状被膜を形成できる。当然これらの処理ではsp2が形成しやすいが上記手法を用いることによりsp2のラマン分光の1/2以上の強度比を持つsp3を検出することができる。図6に(a)の本発明品と、(b)のグラファイト状結晶Cr−Cと、(c)の非晶質のDLCのものとの無潤滑における特性について摩擦摩耗試験で特性を比較検証した結果を示す。無潤滑における特性について摩擦摩耗試験では、DLC系被膜の摩擦特性を検証した結果グラファイト状結晶あるいは非晶質のDLCよりsp2ならびにsp3が混在する本発明品の炭素皮膜が非常にバランスの良い摩擦特性を示した。図7の(a)に本発明品のラマン分光例を示し、(b)のsp2結合の強いDLC系膜のラマン分光結果ではsp3結合はsp2結合のピークに隠されているが、(a)に本発明品のラマン分光結果ではsp3結合のピークとsp2結合のピークとが見られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の膜構造を示す概念ブロック図。
【図2】本発明品の傾斜組成膜の密着性を示すロックウエル圧痕判定試験の結果を図示し、(a)は中間層の構成をCrNからCrCへの傾斜組成とした本発明品、(b)はCrNにCrCを直接つけたものをそれぞれ図示する。
【図3】本発明品のX線回折パターンを示す。
【図4】本発明の実施の形態の膜構造を形成するイオンプレーティング(PVD)装置の概念ブロック図。
【図5】本発明品と、テストピース上にCrN層のみを形成したもの(CrN)及びテストピース上にグラファイト状CrC層を形成したもの(Cr−C)とを、それぞれ潤滑油中で60kgf もしくは120kgfの荷重でリング(SUJ2 φ30×40 Ry0.5)に押し付けた(a)は摩耗深さ(摩耗量)を、(b)は摩擦係数を、それぞれ測定した試験結果を示す。
【図6】無潤滑における特性について摩擦摩耗試験をそれぞれ示し、(a)は本発明品、(b)はグラファイト状結晶Cr−Cと、(c)の非晶質のDLCのもの、との特性を比較検証した結果を示す。
【図7】ラマン分光例を示し(a)は本発明品のラマン分光結果、(b)はsp2結合の強いDLC系膜のラマン分光結果、をそれぞれ示す。
【符号の説明】
1・・イオンプレーティング装置 2・・ワーク 3・・るつぼ
4・・ダミー電極 5・・電子銃 6・・Arガス導入口
7・・反応ガス導入口 8・・収束コイル 9・・プラズマ電源
10・・ワーク電源 11・・プラズマ雰囲気
Claims (2)
- 鉄鋼あるいはアルミ合金又はステンレス鋼を含む母材上に、
PVD又はPCVDにより形成されるCrを基調とした窒化物及び炭化物膜であって、X線回折による回折パターンのピークでCr、Cr2 C、Cr3 C2 が混在するCr系窒化物及び炭化物被覆層として、
第1層に、膜厚0.5〜1.0μm のCrN層を形成し、以下その上に、
第2層に、合計膜厚が1.0〜2.0μm のCrに対する窒素から炭素への比率が傾斜するCrNからCrC系への移行するCrN及びCrCからなる層を形成し、さらに、 第3層の最上層に炭化物Cr−Cの膜厚が0.1〜0.5μm の範囲にある層を有する構造を持ち、前記最上層のCr−Cの組成をCrx Cy とし、x+y=1において、
0.5≦x≦0.7 ; 0.3≦y≦0.5 である層を形成する、
ことを特徴とするCr系窒化物及び炭化物被覆摺動部材。 - 前記母材と前記CrN層との間に膜厚が0.05μm 未満のCrの層を形成したことを特徴とする請求項1記載のCr系窒化物及び炭化物被覆摺動部材。
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