JP4231646B2 - アリ用殺虫液剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アリの巣に適用して巣穴に生息しているアリを防除する殺虫液剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アリの防除に利用される殺虫剤としては、噴霧処理して殺虫するエアゾール剤、食餌に配合したものを設置処理して誘殺する食毒剤、または散布処理して殺虫する液剤などが知られている。散布して用いる液剤としては、特開2001−55301号公報に土壌への吸収を遅延させたアリ誘引剤に殺蟻剤を配合させたアリ防除剤が提案されている。その他、殺虫剤以外の害虫の防除において、特開2001−213705号公報に、害虫忌避剤である木酢液の使用が提案されている。一方、山野勝次(1993):木酢液の防蟻効力について、「しろあり」(No94、28〜31)の文献には、木酢液はシロアリには忌避効果がないとの報告がされている。
【0003】
従来のアリの防除において、エアゾール剤は、不快に感じたアリにむけて噴霧し殺虫する直接防除に有効であるが、アリの生息域である巣、特に土中の巣には噴霧しても巣穴奥までは薬剤が到達せず巣穴のアリの防除は難しい。食毒剤は、巣の周辺に置いて用いるものであるが、餌を食べることが前提であり、アリの種類や地域によって好みが異なり、好みに合った餌を選択する必要がある。また、特開2001−55301号公報に提案されたアリ防除剤は、誘引剤に関する提案であり、餌と同様、アリの種類や地域によって誘引効果の差異を生じ、広範囲での防除効果が期待できない。
【0004】
一方、アリの巣に散布して用いる液剤は、前述のエアゾール剤、食毒剤、誘引剤に比べて土中、枯れ木の下などにある巣の処理に適している。ところが、従来の液剤は、防除効果が低い、多量散布しないと防除効果が発揮されない、多量散布するので巣が多数点在する庭、花壇、畑などの場所では経済的負担がかかる、多量散布するので雨水による流出から魚、益虫などへも影響を及ぼす可能性があるという欠点を有する。
【0005】
殺虫剤以外の薬剤として、木酢液が挙げられる。木酢液は、一般に、殺菌、消臭、土壌改質など様々な効果があると言われている。しかしながら、特開2001−213705号公報と、「しろあり」文献とでは、シロアリに対する防除効果について相反する結果が示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、巣穴に生息するアリを少ない処理量で防除でき、結果として経済負担を軽減し、且つ環境汚染を軽減したアリ用殺虫液剤を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、アリの巣に適用する液剤であって、遅効性殺虫剤および木酢液を含有してなるアリ用殺虫液剤に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のアリの巣に適用する液剤は、遅効性殺虫剤および木酢液を含有してなるところに1つの大きな特徴を有する。本発明の液剤に含まれている木酢液は、アリの行動を活性化することができる。したがって、本発明の液剤が付着したアリの行動が活性化され、他のアリに次々に接触することにより、多くのアリに該液剤中の遅効性殺虫剤を付着させることができる。このように、本発明の液剤を用いると、少しの液剤で、巣に生息する全アリを全滅させることが可能となる。
【0009】
アリの巣は、通常、土中や枯れ木、木陰の落葉の下、岩陰の隙間土中、ブロック塀の裂け目などの場所に、複雑で長い迷路、複雑で奥深い迷路を形成し、集団で生息している。これらの広面積、かつ大体積を有する生息域を処理するには、製剤として液剤を用いるのが、拡散処理に優れているため好適である。
【0010】
本発明に用いる木酢液は、例えば、以下のようにして得ることができる。木材を炭焼きすると、熱分解ガスと水蒸気が発生し、この時熱分解ガスは水蒸気に溶け込み、湿っぽい煙が得られる。この煙をパイプに通して冷却すると液体化する。この液体を放置しておくと、3層からなる液体が生じる。その中間層の液体が粗木酢液である。さらに、この粗木酢液を静置法、蒸留法、ろ過法などで精製することにより、木酢液を得ることができる。
【0011】
木酢液は80〜90重量%の水と10〜20重量%の有機物からなり、その成分は200種類に及ぶ。有機物の中で代表的な成分は酸類であり、それは有機物の約50重量%を占める。酸の中で含有量が多いのは、酢酸である。木酢液の成分は、原料となる木材の種類、炭化方法、炭化温度、冷却条件などによって多少異なり、木材の原料としては、広葉樹、針葉樹、竹、これらの切りくず、樹皮などが使用されているが、本発明では、いずれの原料、製造条件を用いたものでもよく、特に限定されない。
【0012】
本発明に用いられる遅効性殺虫剤とは、作用機能が遅効性である殺虫剤、又は低濃度で遅効性になる殺虫剤のことをいい、殺虫剤に触れたアリが死に至る時間として、少なくとも半日程度以上であることが望ましい。遅効性殺虫剤としては、例えば、カーバメイト系殺虫剤、有機リン系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤、アミジノヒドラゾン系殺虫剤、ピラゾール系殺虫剤、シラネオファン系殺虫剤、ホウ酸などが挙げられる。中でも、適度な遅効性を示す観点から、マラソン;ジメチルジカルベトキシエチルジチオホスフェート、フェニトロチオン;O,O−ジメチル−O−(3−メチル−4−ニトロフェニル)チオホスフェート、ダイアジノン;(2−イソプロピル−4−メチルピリミジル−6)−ジエチルチオホスフェート、カルバリル;1−ナフチル−N−メチルカーバメート、ペルメトリン;3−フェノキシベンジルdl−シス/トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチル−1−シクロプロパンカルボキシラート、フィプロニル;5−アミノ−1−〔2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル〕−4−〔(トリフルオロメチル)スルフィニル〕−1H−ピラゾール−3−カルボニトリル、1−メチル−2−ニトロ−3,3−テトラハイドロフリルメチルグアニジンが好ましく、高い殺虫活性を示し、低濃度でも効力を発揮する観点から、フィプロニルがより好ましい。
【0013】
殺虫剤として、例えば、速効性殺虫剤を使用した場合、殺虫剤に触れたアリは即座に死に至る。しかし、遅効性殺虫剤を使用することで、アリからアリへの殺虫剤の移行が可能となり、巣中の全アリに行き届きそれらを死滅させることができる。さらに、高殺虫活性の遅効性殺虫剤を使用することで、アリ間の移行時間や移行数に伴って遅効性殺虫剤濃度が希薄になっていっても、致死効果を保持できる。
【0014】
前記木酢液の含有量は、アリの行動を十分活性化させ、良好な感知範囲を得ることができ、使用する遅効性殺虫剤が液剤中で良好な安定性を保持する観点から、液剤全量中に0.01〜10重量%が好ましく、0.05〜5.0重量%がより好ましい。
【0015】
使用する木酢液は、有機物についてはガスクロマトグラフィー法で含有成分を分析することができ、一方、水分についてはカールフィッシャー法で測定することができる。従って、木酢液中の任意の成分を標準物質とし、その量を指標として木酢液の濃度を測定することができる。
【0016】
前記遅効性殺虫剤の含有量は、適度な遅効性、且つ充分な致死力を示す観点から、液剤全量中に、0.0005〜0.10重量%が好ましく、0.0005〜0.05重量%がより好ましい。前記含有量が0.0005重量%以上の場合、十分な殺虫力及びその持続効果が得られる。一方、含有量が0.10重量%以下の場合、液剤が長期にわたり安定であり、使用後の液剤の雨水などによる流出による悪影響を抑制することができる。
【0017】
本発明の液剤は、木酢液及び遅効性殺虫剤を溶剤に均一になるように混合して攪拌し、溶解、乳化または懸濁させて作製することができる。また、液剤が均一になり難い場合、加温したり、溶解助剤や界面活性剤などを添加してもよい。
【0018】
本発明の液剤は、例えば、以下のようにして調製することができる。遅効性殺虫剤を溶解助剤に溶かし殺虫原液を得る。得られた殺虫原液に界面活性剤を加え充分に攪拌し、次いで溶剤を少量ずつ徐々に加える。終盤に所望の濃度となるように木酢液を加え、本発明の液剤を得ることができる。
【0019】
前記溶解助剤としては、エチレンジグリコール、ブチルジグリコール、ジエチルジグリコール、メチルプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0020】
前記界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができる。
【0021】
前記溶剤としては、水、低級アルコール類、エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールなどの多価アルコール、アセトン、メチルエチルアセトンなどのケトン類などの単独或いはこれらの混合物を用いることができる。溶剤は、経済性、地中・大気の環境汚染の観点から、水ベースが好ましい。
【0022】
さらに、本発明の液剤には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線防止剤、防黴剤、pH調整剤、色素などを発明の効果を奏する範囲で適宜配合することができる。
【0023】
液剤のpH値は、pH2.8〜4.5の範囲が好ましい。前記pH値がpH2.8以上の場合、液剤の遅効性殺虫剤の分解が抑制され経時安定性が良好となる。一方、pH値4.5以下の場合、アリの行動を十分活性化させることができる。このように、液剤のpHを酸性側から中性側に近づけ、また、酸度を低下させることで、取扱いが容易となると共に遅効性殺虫剤の経時安定性を確保し、且つ遅効性殺虫剤の使用できる種類を広げることができる。pHは、pH試験紙、又はpHメーターで測定できる。また、このpH値は、木酢液の配合量によって調整することができ、その配合量は使用する木酢液の種類によって多少異なる。
【0024】
本発明の防除対象となるアリとは、シロアリを含まないものを言う。従って、本発明において防除対象となるアリとしては、クロヤマアリ、トビイロケアリ、トビイロシワアリ、イエヒメアリ、ツヤシリアゲアリ、アミメアリ、ヒメアリ、オオズアリ、オオハリアリ、クロオオアリ、ルリアリ、ファイヤーアント、カーペンターアントなどが挙げられる。
【0025】
本発明の液剤をアリの巣に適用する形態としては、ジョーロ型容器、手押しスプレー容器、トリガー式容器、噴霧器などに液剤を収容して、液剤をアリの生息域である巣に散布する形態、ノズル付容器でノズルを巣穴につき刺して液を注入する形態が挙げられる。また、屋外で使用する場合が多いため、光、熱温度などによる遅効性殺虫剤の分解を防ぐ観点から、例えば、液剤を収容する容器を遮光性、耐熱性容器としたり、容器表面をラベルやフィルムでシールするのが好ましい。
【0026】
液剤の適用量は、むらなく散布できる観点から、50〜350mL/m2 が好ましく、150〜250mL/m2 がさらに好ましい。
【0027】
液剤の組成物として、木酢液を使用することで、木酢液の拡散雰囲気下でアリの行動を活性化させ、行動範囲を広げ、結果として多くのアリが遅効性殺虫剤に接触し死滅する。すなわち、巣の一部域に液剤を適用することで、木酢液に触れたアリ、或いはその雰囲気を感じたアリは、暴れるなど動きが活発になり、そして巣内のアリ全てに影響を及ぼし、巣全体がパニック状態となり巣奥のアリも処理面に出ていき、遅効性殺虫剤に触れることになる。
【0028】
同時に、液剤に遅効性殺虫剤を使用することで、アリが仲間同志で餌を口移したり、体を舐めあったりする習性行動により、遅効性殺虫剤に触れた一部アリによって、遅効性殺虫剤がアリからアリへ移行され、最後には巣に生息する全アリが遅効性殺虫剤と接触することになる。このように、本発明の液剤をアリの巣に適用することで、広域を処理しなくても、又は多量の処理をしなくても、巣に生息する全アリを全滅させることが可能となる。また、環境汚染を抑制し、さらに、使用後の液剤の雨水などによる流出からの、魚類、益虫などへの影響が軽減されうる。
【0029】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0030】
表1に示す組成となるように、実施例1〜6および比較例1〜5のアリ用殺虫液剤を調製した。なお、表中のBDGはブチルジグリコール(日本乳化剤(株)製)であり、NK9002Aは界面活性剤(竹本油脂(株)製)である。
【0031】
【表1】
【0032】
試験例1
実施例1〜4および比較例1〜4のアリ用殺虫液剤について、以下のようにして基礎実験を行なった。壁面にタルクを塗り、アリが上がれないようにしたポリカップ(直径9cm)の底に土壌を敷き、アミメアリを10匹放し、一晩放置した。アリは一ヶ所に集まり、ほとんど動くことはなかった。図1に示すように、アリの集団(図中の2)と反対側に、アリ用殺虫液剤を0.5mL滴下し(図中の3の位置)、1日後および2日後、アリの行動を観察し、アリの致死率を以下の式により求めた。
【0033】
致死率=(死亡虫数/供試虫数)×100
【0034】
結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示されるように、実施例1〜4で得られた木酢液を含有してなるアリ用殺虫液剤の場合、アリは活発に活動し、液剤を滴下したところまで自ら動いてきて液剤に触れて致死した。しかし、比較例1〜4で得られた木酢液を含まないアリ用殺虫液剤の場合、アリは動きがなく、液剤に触れることがないため、生き延びていた。
【0037】
試験例2
実施例1〜6および比較例1〜5のアリ用殺虫液剤について、以下のようにして実地実験を行なった。アリの出入りが確認できるアリ(クロヤマアリ)の巣を見つけ、その巣穴中心に約200mL/m2 の割合で液剤を散布した。散布してから1日、2日、5日、10日経過後の巣の状態を、以下の評価基準にしたがって評価した。
【0038】
〔評価基準〕
− :アリの出入りなし
+ :数匹のアリの出入り確認
++ :多数のアリの出入り確認
+++ :処理前と同程度のアリの出入り確認
【0039】
結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3に示されるように、実施例1〜6で得られた木酢液を含有してなるアリ用殺虫液剤の場合、早くて2日後にはアリの巣の完全なる駆除が可能であり、5日後には全てのアリの巣の完全なる駆除が可能であった。しかし、比較例1〜4で得られた木酢液を含まないアリ用殺虫液剤の場合、一部のアリは駆除できても、巣の完全なる駆除は不可能であった。また、比較例5のように、速効性殺虫剤を使用した場合も、一部のアリは駆除できても、巣の完全なる駆除は不可能であった。
【0042】
試験例3
種々の濃度の木酢液を調製し、木酢液の殺虫効果について以下の試験を行なった。直径9cmのポリカップにろ紙を敷き、アリを10匹放した。各濃度に調製した木酢液0.5mLをアリに直接滴下し、1日後の致死数を観察し、致死率を求めた。試験は3回行なった。結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
表4より、木酢液の濃度が高く、そのpHが2.8であると致死するアリが現れるが、より低濃度になりpHの値が高くなると致死するアリはなく、環境への影響がなくなることがわかる。
【0045】
試験例4
表5に示す組成となるように、実施例7〜11のアリ用殺虫液剤を調製した。これらの液剤は、種々の濃度の木酢液を含有する以外は、同じ組成である。
【0046】
【表5】
【0047】
実施例7〜11のアリ用殺虫液剤について、以下のようにして殺虫効力を確認した。直径9cmのポリカップにろ紙を敷き、アリを10匹放した。図1に示すように、アリの集団(図中の2)と反対側に、アリ用殺虫液剤を0.5mL滴下し(図中の3の位置)、1日後の致死数を観察し、致死率を求めた。試験は3回行なった。結果を表6に示す。
【0048】
【表6】
【0049】
表6に示されるように、実施例7〜9のように木酢液の濃度が0.1重量%以上であると、アリの致死率が100%であった。また、木酢液の濃度が0.1重量%より低くなるにつれて、アリの致死率が下がり、木酢液の濃度は高い方がアリを活性化させる能力が高く、アリの駆除に効果があることがわかる。
【0050】
【発明の効果】
本発明のアリ用殺虫液剤は、巣穴に生息するアリを少ない処理量で防除できるため、アリの防除において本発明のアリ用殺虫液剤をアリの巣に適用することにより、経済負担を軽減し、且つ環境汚染を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、試験例1および試験例4に用いられたポリカップにおけるアリの集団とアリ用殺虫液剤の滴下位置とを示す概略図である。
【符号の説明】
1 ポリカップ
2 アリの集団
3 アリ用殺虫液剤
Claims (4)
- アリの巣に適用する液剤であって、遅効性殺虫剤および木酢液を含有してなるアリ用殺虫液剤。
- 木酢液の含有量が、0.01〜10重量%である請求項1記載のアリ用殺虫液剤。
- 該遅効性殺虫剤が、フィプロニルである請求項1又は2記載のアリ用殺虫液剤。
- 液剤のpH値が、pH2.8〜4.5の範囲である請求項1〜3いずれか記載のアリ用殺虫液剤。
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