JP4231582B2 - 耐蝕耐摩耗性摺動部材およびその製造方法 - Google Patents

耐蝕耐摩耗性摺動部材およびその製造方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融亜鉛に対した高い耐蝕性と耐摩耗性を持つ耐蝕耐摩耗性摺動部材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼帯などの表面に亜鉛めっきを施す場合、溶融した亜鉛浴内に冷延鋼帯などを緊張した状態で連続的に移送し、その表面に亜鉛をめっきする方法が行われている。このようにしてめっきする連続めっきラインには、図4に示すように鋼帯8を緊張し必要に応じて方向転換するシンクロール4、移送中の鋼帯8の振動を抑制し、その移送方向を制御するサポートロール5が必須の部材として用いられている。これらのロール4、5は、図5に示すようにロール軸にブッシュ7が装着され、このブッシュ7の部分が軸受6に回転できるように支持されているものである。
【0003】
これらのロール4,5、ブッシュ7および軸受6は、鋼帯8のような硬質の材料を溶融亜鉛10中で扱うため、軸受6の内面、ロール軸に装着したブッシュ7の外面および鋼帯と接触するシンクロール4およびサポートロール5の表面は摩耗が激しく、また溶融亜鉛によりかなりの腐食および浸食されることになる。
【0004】
従来、このような部材に耐摩耗性、耐蝕性を付与する方法として、次の方法が実施されている。
(1)被処理摺動部材の摺動部にCo基自溶合金材を溶射処理して被覆する。
(2)被処理摺動部材の摺動部にWC─10〜18%Coを高速ガス炎溶射被覆する。
(3)被処理摺動部材の摺動部にステライト系材料を溶接肉盛被覆する。
【0005】
しかし、溶射処理したものの溶射被覆の機構は、溶融粒子を基材表面に衝突させて順次積層し金属被覆を形成する方法であるので、被覆金属粒子は常温から融点以上の温度に急速に加熱され、被覆面に衝突して急速冷却し固化される工程を経るので、材料は酸化変質し易く、被覆面を構成する金属粒界に気孔線状の空隙部を生じ易い。この空隙は、鋼帯の振動などによる衝撃負荷によっ亀裂の発生の原因となり、この亀裂が亜鉛浸食の基点となっている。
さらに、高速ガス炎溶射被覆法は、比較的材料の変質は抑制され、気孔の発生も少ないが、溶射法の持つ形成部の機構的弱点は存在している。
また、ステライト系材料を溶接肉盛したものは、溶融亜鉛の浸蝕には耐えられず、1週間も維持することは困難である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、溶融亜鉛と接触しながら摺動しても優れた耐蝕性および耐摩耗性を有するブッシュなどの耐蝕耐摩耗性摺動部材およびその製造方法を提供することを課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明者らは、溶融亜鉛と接触しながら摺動しても優れた耐蝕性および耐摩耗性を有する材料、被覆方法などについて調査、研究していたところ、Niろう材粉末にWC系粉末を混合した混合物を熱間静水圧成形(HIP)法で焼結しながら被処理摺動部材の表面に被覆すると、この被覆層は、極めて耐蝕性および耐摩耗性に優れ、特に溶融亜鉛に対する耐蝕性に優れているとの知見を得て本発明をなしたものである。
【0008】
すなわち、本発明の耐蝕耐摩耗性摺動部材の製造方法においては、被処理摺動部材の少なくとも溶融亜鉛と接触する摺動部表面に、WCと5〜30wt%のNi又はCoとの合金の粉末から成るWC系粉末を60〜90%含有し、残部がNiろう材粉末である混合物を接触する状態にしておき、熱間静水圧成形法によって加熱と加圧をして前記混合物の焼結物を被覆することである。
【0009】
さらに、本発明の耐蝕耐摩耗性摺動部材においては、被処理摺動部材の少なくとも溶融亜鉛と接触する摺動部表面に、WCと5〜30wt%のNi又はCoとの合金の粉末であるWC系粉末を60〜90%含有し、残部がNiろう材粉末である混合物を熱間静圧成形法により焼結して被覆した被覆層を設けたものとすることである
【0010】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参考にして本発明を説明する。
図1は、本発明の実施例で製造した軸受の側面図(a)とA−A断面図(b)、図2は、本発明に使用する熱間静水圧成形装置の全体構成を説明するための概念図、図3は、本発明の熱間静水圧成形法の加熱条件および加圧条件の一例を説明するための図である。
本発明の耐蝕耐摩耗性摺動部材の被処理摺動部材2は、円筒状、半円筒状の軸受、ロール軸の軸受に接触される部分に被覆する円筒状などのブッシュ、シンクロール、サポートロールのロールなどの溶融亜鉛と接触するとともに摺動するものであり、その材料は、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼などの鋼、ニッケル合金などで、1200℃以下で適当な強度があり、また極端に軟化することがない材料であればよい。
本発明の基材の表面に被覆する混合物のWC系粉末は、WCと5〜30wt% のNi、Coなどとが合金となっているものの粉末である。このようなWC系粉末を用いるのは、WCが均一に分散した強固な材料が得られ、また被処理摺動部材2としてステンレス鋼を用いる場合、冶金的結合も得られるからである。
【0011】
上記WC系粉末と混合するNiろう材粉末は、いわゆるNi基自溶性合金で、JIS Z 3265にBNi−1〜BNi−7に規定されているCr:19.5wt%以下、B:3.5wt%以下、Si :10.5wt%以下、Fe:5.0wt%以下、C:0.9wt%以下、P:12、0wt%以下、残部Niの粉末などで、例えばCr:16wt%、B:3.5wt%、Fe:2wt%、C:0.6wt%、残部Niの粉末などである。
上記WC系粉末とNiろう材粉末の混合物は、WC系粉末が60〜90%、Niろう材粉末が残部のものが好ましい。WC系粉末が60%未満になると、これを用いて被処理摺動部材に被覆した被覆層の硬度が十分でなく、また90%を超えると、被覆層の靱性が低下性するので好ましくない。
上記WC系粉末とNiろう材粉末の混合は、ボールミルを用いて行ってもよいし、十分混合できれば他の方法または装置を用いてもよい。
【0012】
次に、摺動部材の一例としてフェライト系ステンレス鋼からなるロール軸受の溶融亜鉛と接触する摺動部表面(内面のこと)に、WC系粉末とNiろう材粉末の混合物を熱間静水圧成形法により被覆する方法を説明する。
先ず、軸受の内面に焼結して被覆する粉末を混合し、焼結により収縮を考慮した寸法および形状にカプセルを製作し、カプセルを組み立て、混合した粉末を充填し、蓋をして真空脱気し、脱気が終了したら真空封止し、熱間静水圧成形装置に入れて処理し、処理が終わったカプセルをワイヤカット、機械加工などで切断して内面に焼結した被覆層3を有する軸受1を取り出す方法である。
【0013】
本発明の耐蝕耐摩耗性摺動部材およびその製造方法における熱間静水圧成形法の加圧および加熱は、図4に示すようにArガス雰囲気中において、1000〜1500kgf/cm2 の圧力、1050〜1150℃の温度で1〜3時間の加圧と加熱をすることによって行うことができる。焼結圧力を1000〜1500kgf/cm2 で行うのは、1000kgf/cm2 より低いと十分焼結されず、また1500kgf/cm2 以上にしても効果が飽和するからである。また焼結温度を1050〜1150℃で行うのは、1050℃より低いと、十分焼結されず、また1150℃より高いと基材の被処理摺動部材が劣化するからである。
【0014】
また、本発明の耐蝕耐摩耗性摺動部材およびその製造方法に用いる熱間静水圧成形法に用いる熱間静水圧成形装置は、例えば図3で示すような被処理物を入れて加圧と加熱して焼結する本体部11、ガス供給部14、真空ポンプ19、搬送装置20、加熱電源制御装置21などからなるもので、本体部11は、プレスフレーム18で保持されており、圧力容器12、Moヒーター13などからなり、圧力容器12にArガスなどを供給するガス機器14は、Arガス貯蔵容器15、圧力調整器16、ガス圧縮機17などからなっているものである。
【0015】
【作用】
本発明の耐蝕耐摩耗性摺動部材は、被覆層がWC系粉末を溶融して凝固したNiろう材によって被処理摺動部材に固定されている状態になっているものであるので、WCは溶融亜鉛に対して耐蝕性が優れているため腐食されず、また溶融亜鉛はWCに対して接触角が大きいためWC粉末とWC粉末との間にあるNiろう材に接触することがなく、Niろう材も腐食されることがない。
さらに、Niろう材およびNi、Coなどが被処理摺動部材に拡散しているので、被覆層が強固に結合され、剥離することがない。
また、被覆層の組織が緻密であるため、溶射皮膜と違って損耗の基点となる気孔気管がないので、損耗が少ない。
また、Niろう材中のCrはCrC、BはNiB、FeBなどとなって被覆層の硬度を高くして耐摩耗性を高くする。
【0016】
次に、本発明の実施例を説明する。
【実施例】
実施例1
WC−20wt%Ni粉末を80wt%と0.6wt%C−16wt%Cr−2wt%Fe─3.5wt%B─残部Ni合金粉末を20wt%とをボールミルで混合し、この混合物粉末を用い、フエライト系ステンレス鋼からなる径200mm、厚さ15mmの円筒形の軸受2の内面に該混合粉末を図2と同じ工程を経てカプセルの中に真空封止し、図3と同じ熱間静水圧成形装置に装填し、Arガス雰囲気下で加熱、加圧した。
【0017】
加熱は、図4に示すように室温から800℃まで400℃/時間の加熱速度で加熱し、同温度で2時間保持した後、上記加熱速度で1050℃に加熱し、同温度で2時間保持し、125℃/時間の冷却速度で冷却した。加圧条件は、加熱温度が1050℃になった時に1000kgf/cm2 になるように徐々に加圧し、1000kgf/cm2 で2時間保持し、その後150kgf/cm2 まで徐々に減圧し、その後大気圧まで急速に減圧した。
【0018】
その後、熱間静水圧成形装置から軸受およびカプセルを取り出し、カプセルを機械加工切断し図1に示すような軸受1を取り出した。軸受1の被覆層3の厚さは予定どおりの3mmであった。
この軸受1を現在稼働中の亜鉛めっき装置に装着して20日使用し、その摩耗量を測定したところ0.4mm摩耗していた。その後さらに14日使用し、摩耗量を測定したところ0.1mm摩耗していた。被覆層の厚さが3mmであるので、予測寿命は約150日である。
これに対して、現在使用しているCo基合金の溶射品は、寿命が14日であった。
【0019】
実施例2
実施例1と同様な混合物粉末を用い、実施例1と同様な被覆条件によってフエライト系ステンレス鋼からなる50mm(幅)×60mm(長さ)×9mm(厚さ)の鋼板の上に3mmの被覆層を設けた試験片を製造した。この試験片を溶融亜鉛浴軸部品試験装置(試験片を溶融亜鉛浴の中に固定し、Co合金製円柱を回転しながら試験片に押し当てて摩耗量を測定する装置)を用い、浴温度:460℃、回転数:100rpm 、荷重:100kg、相手材:Co合金の条件で摩耗量を測定した結果は下記のとおりであった。また、基材の上にCo基自溶合金を3mm溶射した比較例およびステライトNo. 6を3mm溶接肉盛した比較例について同条件で摩耗量を測定した結果は下記のとおりであった。
本発明品: 76μm/hr
Co基自溶合金を溶射したもの(比較例): 124μm/hr
ステライトNo. 6を溶接肉盛したもの(比較例):231μm/hr
【0020】
これらの結果より、現在稼働中の亜鉛めっき装置に装着した結果では、本発明品は、現在使用しているCo基合金の溶射品の約11倍であった。また溶融亜鉛浴軸部品試験装置による試験では、本発明方法と同じ方法で製造した試験片は、Co基自溶合金を溶射したものの約1.6倍、ステライトNo. 6を溶接肉盛したものの約3倍であった。
【0021】
なお、上記実施例には、ブッシュの外面および鋼帯と接触するシンクロール
およびサポートロールの表面のものは記載されていないが、軸受と同様な結果になっている。
【0022】
【発明の効果】
本発明は、上記構成にしたことにより、溶融亜鉛による腐食を少なくすることができるとともに、硬いので摩耗量も少なくすることができるので、寿命を長くすることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で製造した軸受の側面図(a)とA−A断面図(b)である。
【図2】熱間静水圧成形装置の全体構成を説明するための概念図である。
【図3】本発明の加熱条件および加圧条件を説明するための図である。
【図4】溶融亜鉛めっき装置を説明するための概念図である。
【図5】図4の溶融亜鉛めっき装置のシンクロールおよびサポートロールの軸受構造を説明する断面図である。
【符号の説明】
1 耐蝕耐摩耗性摺動部材(被覆層を有する軸受)
2 被処理摺動部材(軸受)
3 被覆層
4 シンクロール
5 サポートロール
6 軸受
7 ブッシュ
8 鋼帯
9 ワイピングノズル
10 溶融亜鉛
11 熱間静水圧成形装置本体
12 圧力容器
13 Moヒーター
14 ガス機器
15 Arガス貯蔵容器
16 圧力調節器
17 ガス圧縮機
18 プレスフレーム
19 真空ボンプ
20 搬送装置
21 加熱電源制御装置

Claims (2)

  1. 被処理摺動部材の少なくとも溶融亜鉛と接触する摺動部表面に、WCと5〜30wt%のNi又はCoとの合金の粉末から成るWC系粉末を60〜90%含有し、残部がNiろう材粉末である混合物を接触する状態にし、熱間静水圧成形法によって加熱と加圧をして前記混合物の焼結物を被覆することを特徴とする耐蝕耐摩耗性摺動部材の製造方法。
  2. 被処理摺動部材(2)の少なくとも溶融亜鉛と接触する摺動部表面に、WCと5〜30wt%のNi又はCoとの合金の粉末であるWC系粉末を60〜90%含有し、残部がNiろう材粉末である混合物を熱間静水圧成形法により焼結して被覆した被覆層(3)を設けたことを特徴とする耐蝕耐摩耗性摺動部材。
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