JP4230374B2 - ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜及び該薄膜を備えてなるスイッチング素子、並びに該薄膜の製造方法 - Google Patents

ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜及び該薄膜を備えてなるスイッチング素子、並びに該薄膜の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、電荷整列および電子軌道整列を示すペロブスカイトマンガン酸化物薄膜(電荷軌道整列ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜)及び該薄膜を備えてなるスイッチング素子、並びに該薄膜の製造方法に関するものである。
近年、放送及び通信のディジタル化は著しい進展を遂げている。それに伴い、高品質な動画等の広帯域かつ大容量の情報に対応可能なストレージデバイス(記憶装置)が注目を集めている。また、据え置き型の商品を中心に普及が進む磁気ディスクメモリや光ディスクメモリのみならず、ノートパソコンやPDA(Personal Digital Assistant)、携帯電話、さらにはウエアラブルパソコンといった可搬性の高い小型商品への搭載を睨んだ、大容量の固体メモリ素子(不揮発メモリ)の開発が進められている。
例えば、非特許文献1によれば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)並の高速アクセスが可能な次世代の不揮発メモリとして、MRAM(Magnetic RAM)やRRAM(Resistance RAM)が注目を集めている。特に、多値化によるアプローチは、微細化技術のみに頼らず、不揮発メモリ素子の大容量化が可能になるためコストの点からも重要な技術となってきている。
多値化を実現するには、多値に対応した書き込み信号により情報が記憶され、読み出し時に各情報の判別が十分に可能なマージンが確保されることが必要である。すなわち、半導体などでは到底得られない巨大な抵抗変化が高速に得られる新規材料の開発が強く求められている。
このような材料のとして、例えば、特許文献1〜特許文献3に開示されているようなマンガン(Mn)を含む酸化物ペロブスカイト単結晶材料がある。
マンガン(Mn)を含む酸化物ペロブスカイト単結晶材料は、外場を印加することにより数桁にも及ぶ巨大な抵抗変化を示す。すなわち、Mn3+イオンとMn4+イオンとが整列した反強磁性電荷整列絶縁相に、磁場や電圧を印加する、あるいは光を照射することによって、反強磁性電荷整列絶縁相が崩壊し、反強磁性絶縁体(電荷整列状態)から強磁性金属へと転移するスイッチング現象(数%に及ぶ格子変化を伴う)が得られる。これが酸化物ペロブスカイト単結晶材料のおける抵抗変化の原理である。
また、最近の研究からは、電荷整列とともにマンガン(Mn)の3d電子の軌道も秩序化することが報告されている。なお、本明細書では、このように、電荷整列とともに3d電子の軌道も秩序化している状態を、単に電荷整列ではなく電荷軌道整列あるいは電荷軌道秩序と呼ぶことにする。
電荷軌道秩序を利用したスイッチング現象を、素子化に必要な薄膜形態において実現するには、スイッチングに伴う格子変化が重要となる。その理由は、基板にコヒーレントに成長した単結晶薄膜においては、薄膜の面内格子が基板にクランプされるために、格子変形がままならず、相転移が抑制されるためである。
また、薄膜と基板の格子ミスマッチ(格子不整合)により基板歪が導入されることで、軌道秩序の変調を介して薄膜の電気、磁気、光学的特性が変化する。例えば、本発明者らは、非特許文献2において、電荷軌道整列面(電荷が整列するとともに3d電子の軌道も秩序化している面)内に伸張歪みが作用することにより、電荷軌道整列相が安定化されることを、CrをドープしたPr0.5Ca0.5MnO薄膜を用いて明らかにしている。したがって、格子変化を伴うスイッチングを容易にするには、基板から格子が緩和した(格子変化が基板歪みの影響を受けにくい)薄膜を製造することが必要となる。
一方、基板から緩和した(格子変化が基板歪みの影響を受けにくい)薄膜(多結晶膜)においては、基板から格子を緩和させることと引き換えに、欠陥が導入される。このため、電荷軌道秩序によるスイッチング特性を制御するためには、欠陥の影響を見極めることが重要となる。
例えば、本発明者らは非特許文献3において、Crを1%ドープしたPr0.5Ca0.5MnOを用いて、基板と薄膜(Pr0.5Ca0.5Mn0.99Cr0.01)との格子定数のミスマッチが10%以上と大きなMgO(001)基板(結晶方位が(001)のMgO基板)上に(101)配向膜を製造し、単結晶と同様の磁気特性及び電気特性を得ている。このような特性が得られた要因としては、(101)配向膜では電荷軌道整列面が基板面に対して45度の角度をなすことから、電荷軌道秩序及びそのスイッチングに伴う格子変形が膜面内、膜厚方向の双方に発生するため、電荷軌道整列面に関して異方的な格子変形が可能になること、および、膜厚方向には面内方向と比べて欠陥が少ないと考えられることから、少なくとも電荷軌道整列相の膜厚程度の大きなドメインが成長可能ということ、などが考えられる。
また、本発明者らは非特許文献4において、Pr0.65Ca0.35MnOを用いてMgO(001)基板上に完全に緩和した(00l)配向膜を製造し、バルク単結晶と同様に鋭いスイッチングが実現できることを示している。
特許第2685721号(特開平8−133894(公開日1996年5月28日)) 特許第2812913号(特開平9−249497(公開日1997年9月22日)) 特許第2812915号(特開平9−263495(公開日1997年10月7日)) 日経マイクロデバイス2003年1月号p.72-83 Appl. Phys. Lett. Vol.78, p.3505 (2001) Appl. Phys. Lett. Vol.80, p.1031 (2002) 春季第48回応用物理学関係連合講演会予稿集30a-V-11(2001)
しかしながら、欠陥に起因するランダムフィールドに対する電荷軌道秩序の安定性は、物質によって異なる。例えば、上記Pr0.5Ca0.5MnOのように電荷軌道整列相が、幅広いホールドーピング濃度xに対して安定な物質においては、電荷軌道整列相の長距離秩序が破壊されても電荷軌道秩序自体が残存するため、強磁性金属相との2相共存状態が得られる。
一方、より小さい入力(低閾値)で、より大きな変化が求められるスイッチング特性の観点からは、多様な秩序が競合し、臨界点近傍の状態にある物質が重要となる。例えば、Nd1−xSrMnO(x=0.49〜0.51)のように、非常に狭い範囲のホールドーピング濃度xに対してのみ電荷軌道整列相が存在する物質がより重要となる。
しかしながら、このような物質は、スイッチング特性に対する欠陥に起因するランダムポテンシャルの影響が強い。例えば、MgO(001)基板上に製造したNd1−xSrMnO(x=0.49〜0.51)では、(00l)配向膜が得られるが、同じく(00l)配向するPr0.65Ca0.35MnO膜とは対照的に、電荷軌道秩序がほぼ消失する結果、強磁性相となるので、スイッチング効果が得られない。すなわち、欠陥により電荷軌道整列相自体が崩壊してしまう。
また、例えば上記したPr0.5Ca0.5MnOでは、MgO(001)基板上に(101)配向膜を製造できたとしても、基板面が等方的であるためにドメインが導入され、面内配向を完全に揃えることが難しくなる。このため、電荷整列相の発達が抑制されるという問題点が懸念される。
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、バルク単結晶に匹敵するスイッチング特性を、多結晶薄膜で得られる電荷軌道整列ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜及び該薄膜を備えてなるスイッチング素子、並びに該薄膜の製造方法を提供することにある。
本発明の発明者らは、基板歪みや欠陥の電荷軌道秩序への影響について、特に、薄膜形態での電荷軌道整列面方位に着目し、深く検討した結果、電荷軌道秩序に対する上記の基板歪及び欠陥の影響を同時に解決することが可能であると考え、以下に示すペロブスカイトマンガン酸化物薄膜及びその製造方法の発明に至った。
本発明に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、上記の課題を解決するために、基板上に形成された電荷整列および電子軌道整列を示すペロブスカイトマンガン酸化物薄膜であって、結晶格子が、上記基板面と平行な方向に配向しており、かつ、電荷が整列するとともに3d電子の軌道も秩序化している面である電荷軌道整列面が、上記基板面に対して非平行であることを特徴としている。
上記の構成によれば、電荷軌道秩序及びそのスイッチングに伴う格子変形が膜面内方向、膜厚方向ともに容易に起こり、電荷軌道整列面に関して異方的な格子変形を実現することが可能となる。さらに、膜厚方向だけではなく薄膜面内方向にも電荷軌道整列相の大きなドメインを成長させることが可能となるので、基板歪みや欠陥の影響が少ないバルク単結晶に匹敵するスイッチング特性を、多結晶薄膜で得られる。
本発明のスイッチング素子は、上記の課題を解決するために、上記のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を備えてなる。
したがって、上記の構成によれば、基板歪みや欠陥の影響が少ないバルク単結晶を用いたスイッチング素子に匹敵するスイッチング特性を得られる。
本発明に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の製造方法は、上記の課題を解決するために、基板上に形成される、電荷整列および電子軌道整列を示すペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の製造方法であって、上記ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を、結晶格子が、上記基板面と平行な方向に配向し、かつ、電荷が整列するとともに3d電子の軌道も秩序化している面である電荷軌道整列面が、上記基板面に対して非平行となるように形成することを特徴としている。
上記の製造方法によれば、基板歪みや欠陥の影響が少ないバルク単結晶に匹敵するスイッチング特性を有する、多結晶薄膜を得られる。
以上のように、本発明に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、結晶格子が、上記基板面と平行な方向に配向しており、かつ、電荷軌道整列面が、上記基板面に対して非平行である。
それゆえ、電荷軌道秩序及びそのスイッチングに伴う格子変形が膜面内方向、膜厚方向ともに容易に起こり、電荷軌道整列面に関して異方的な格子変形を実現できる。さらに、膜厚方向だけではなく薄膜面内方向にも電荷軌道整列相の大きなドメインを成長させることが可能となるので、基板歪みや欠陥の影響が少ないバルク単結晶に匹敵するスイッチング特性を、多結晶薄膜で得られる。
なお、上記ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、上記基板上に形成された、バッファ膜上または電極膜上に形成されていてもよい。
それゆえ、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を、例えば、ガラス基板やシリコン基板、化合物半導体基板などの上へ、バッファ膜や電極膜を介して製造できる。このため、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、実デバイスにも容易に適用できる。また、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、このようにバッファ膜や電極膜上に形成する場合であっても、基板上に直接形成する場合と略同様の効果を奏する。すなわち、バッファ膜や電極膜上に形成する場合であっても、容易に作製可能な多結晶膜を用いて、単結晶バルクに匹敵するスイッチング特性が得られる。
また、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、上記電荷軌道整列面が、上記基板面に対して略垂直であってもよい。
この場合、ドメイン方向が揃った単一ドメインの電荷軌道秩序相を実現できる。このため、膜全体にわたって電荷軌道整列相を均一に形成できるという効果を奏する。さらに、電荷軌道整列面に垂直な方向に信号を入出力する構成とすることで、抵抗値の変化をより大きくできるという効果を奏する。
また、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、上記基板、あるいは、上記基板上に形成されたバッファ膜または電極膜における、結晶方位が(110)の面あるいはこれと略等価な面に形成されていてもよい。
ここで、結晶方位とは、立方晶または正方晶の結晶方位である。また、(110)面と略等価な面としては、例えば、立方晶における(101)面、(011)面があげられる。
上記の構成によれば、結晶格子が、上記基板面と平行な方向に配向しており、かつ、電荷軌道整列面が、上記基板面に対して略垂直であるペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を容易に形成できる。
本発明のスイッチング素子は、上記したいずれかのペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を備えてなる。
それゆえ、基板歪みや欠陥の影響が少ないバルク単結晶を用いたスイッチング素子に匹敵するスイッチング特性を得られる。
本発明に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の製造方法は、ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を、結晶格子が、基板面と平行な方向に配向し、かつ、電荷軌道整列面が、基板面に対して非平行となるように形成する。
上記の方法によれば、基板歪みや欠陥の影響が少ないバルク単結晶に匹敵するスイッチング特性を有する、多結晶薄膜を得られる。
なお、上記基板上に、バッファ膜または電極膜を形成し、上記バッファ膜上または上記電極膜上に、上記ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を形成するようにしてもよい。
それゆえ、上記ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を、実デバイスにも容易に適用することができる。また、容易に作製可能な多結晶膜を用いて、単結晶バルクに匹敵するスイッチング特性が得られる。
また、上記ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を、上記基板、あるいは、上記基板に形成されたバッファ膜または電極膜における、結晶方位が(110)の面あるいはこれと略等価な面に形成してもよい。
この場合、結晶格子が、上記基板面と平行な方向に配向しており、かつ、電荷軌道整列面が、上記基板面に対して略垂直に配置されたペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を容易に形成できる。
また、上記基板上あるいは上記基板上に形成されたバッファ膜上または電極膜上の面内格子定数によって、上記電荷軌道整列面の面間隔を制御してもよい。
上記の方法によれば、例えば、上記基板あるいは上記基板上に形成するバッファ膜あるいは電極膜の材料を適宜選択することによって面内格子定数を調整して基板歪みを調整し、電荷軌道整列面の面間隔を制御することができる。これにより、電荷軌道整列面間に関するキャリアのホッピングの程度を制御できるので、電荷軌道秩序に伴う抵抗値の調整が可能となる。
〔実施例〕
本発明の実施の一形態について図1〜図14に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態によって本発明の趣旨が何ら制限を受けるものではない。
図2は、本実施の形態にかかるペロブスカイトマンガン酸化物薄膜(電荷軌道整列ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜)であるNd1−xSrMnO膜1(x=0.48〜0.51)を示す断面図である。このNd1−xSrMnO膜1は、外場を用いて電荷軌道整列(電荷整列とともに3d電子の軌道も秩序化している状態)をスイッチングさせることを原理とする素子(スイッチング素子)、例えば、磁場、電場、光などを用いて電荷軌道整列をスイッチングさせる不揮発メモリ素子や、偏光変化を利用した光素子などに適用するためのものである。
図2に示すように、Nd1−xSrMnO膜1は、面方位(結晶方位)が(110)のSrTiO単結晶基板(SrTiO(110)単結晶基板)2上に膜厚80nmで形成されている。SrTiOの結晶系は立方晶であり格子定数は3.905Åである。
なお、Nd1−xSrMnO膜1は、レーザーアブレーション法を用いて以下に示す条件で製造した。ターゲットには固相反応法で作製した多結晶材料を20mmφの円筒形に成形したものを用いており、組成はストイキオメトリックである。
まず、SrTiO(110)単結晶基板1を真空チャンバー内に取り付けた後、1.3×10−6Pa(1×10−8Torr)以下に真空排気した。その後、高純度の酸素ガスを0.13Pa(1mTorr)導入した。そして、830℃にSrTiO(110)単結晶基板を加熱し、表面に吸着したカーボンや水和物などを除去した。
次に、基板温度を薄膜(Nd1−xSrMnO膜1)製造時の基板温度である830〜840℃に設定した。なお、酸素圧は0.13Pa(1mTorr)とした。
次に、波長248nmのKrFエキシマレーザを、チャンバーのレーザー光導入ポートにて100mJのパワーでターゲットに照射し、膜厚80nmのNd1−xSrMnO膜1を形成した。
その後、1気圧の酸素ガスをチャンバー内に導入し、500℃で60分間保ちアニールした後、40分間かけて室温まで冷却した。なお、薄膜堆積後の高速反射電子線回折像はストリークパターンが観察されることから表面は平坦である。

以上のように形成したNd1−xSr1−xMnO膜1の構造および特性を調べるために、以下に示す実験を行った。なお、以下では、主にx=0.5、すなわちNd0.5Sr0.5MnO膜1についての実験結果を示す。
図3は、Nd0.5Sr0.5MnO膜1の構造を調べるために行ったX線回折(2θ−θ回折)によって得られたプロファイルを示している。強度(Intensity)の強い2つのピークα,βが基板からのものであり、各ピークα,βの右側(高角側)に薄膜からのピークα’,β’が観察される。これらは、この図の低角側から高角側にむかって、α’が(110)面、β’が(220)面からの回折ピークである。
この結果から、Nd0.5Sr0.5MnO膜1は、基板に垂直方向に配向していることがわかる。なお、基板面に垂直な([110]軸)方向の格子定数は5.38Åであった。
さらに、面内方向の格子定数を調べるために、(310)ピークに関する逆格子マッピング測定を行った。その結果を図4に示す。図4の横軸は基板面内方向のうち[−110]軸方向の格子定数に反比例する値を表しており、縦軸は基板に垂直方向([110]方向)の格子定数に反比例する値を表している。この逆格子マッピング測定の結果、Nd0.5Sr0.5MnO膜1における[−110]軸の格子定数は基板の面内格子定数(5.52Å)と異なり5.45Åであった。
次に、面内方向のもう一つの軸、すなわち[001]方向の格子定数を調べるために(222)ピークに関する逆格子マッピング測定を行った。その結果を図5に示す。図5の横軸は面内方向である[001]軸方向の格子定数に反比例する値を表しており、縦軸は基板に垂直方向([110]方向)の格子定数に反比例する値を表している。この逆格子マッピング測定の結果、Nd0.5Sr0.5MnO膜1における[001]軸方向の格子定数は、基板の面内格子定数(3.905Å)と僅かに異なり3.89Åであった。なお、(110)方向に2つの回折ピークが観察されるが、これはMn―O八面体が回転して歪んでいることによるものと考えられる。
以上の結果を図6にまとめて示す。6は、SrTiO(110)基板2における格子定数と、Nd0.5Sr0.5MnO膜1における格子定数とを比較するための説明図である。図中細線で記した立方体は、SrTiO(110)基板2の格子を示したものであり、太線がX線回折により求めたNd0.5Sr0.5MnO膜1の格子定数である。
この図に示すように、基板面垂直方向([110]方向)について、Nd0.5Sr0.5MnO膜1の格子定数は、SrTiO基板2の格子定数(√2・asub=5.52Å。asubはSrTiO基板の<100>方向の格子定数=3.905Åを表す)と比べて−2.5%のミスマッチがある。また、基板面内の2軸について、Nd0.5Sr0.5MnO膜1の格子定数は、[−110]軸方向には−1.3%、[001]軸方向には−0.5%のミスマッチが各々ある。すなわち、Nd0.5Sr0.5MnO膜1は、3軸の長さがそれぞれ異なり、かつ直交している斜方晶となっている。
ここで、[−110]軸をa軸、[110]軸をb軸、そして[001]軸をc軸ととることにより、斜方晶での結晶軸の取り方に一致させて単結晶の格子定数と比較することができる。なお、室温での単結晶の格子定数はa=5.48Å、b=5.43Å、そしてc/2=3.82Åである。一方、Nd0.5Sr0.5MnO膜1の格子定数はa=5.45Å、b=5.38Å、そしてc/2=3.89Åである。すなわち、Nd1−xSrMnO膜1は、基板面内の[−110]軸方向(a軸方向)には完全に緩和しており(格子変化が基板歪みの影響を受けておらず)、[001]軸方向(c軸方向)には基板歪みにより伸びていることがわかる。
図1は、Nd0.5Sr0.5MnO膜1における斜方晶の結晶軸と電荷軌道整列の配置を示す説明図である。図中、黒丸がMn3+イオンを表し、白丸がMn4+イオンを表しており、3x−rと3y−rとからなる軌道が交互に配置している様子を示している。Mn−O面からなる電荷軌道整列面は(00l)面であり、Nd0.5Sr0.5MnO膜1では基板面に垂直に配置しており、c軸方向にスタック(積層)している。
また、電荷軌道整列面[(00l)面]における2軸(a軸およびb軸)方向の格子定数はa=5.45Å、b=5.38Åとなっており、単結晶と同様に異方的になっている。
一方、単結晶と異なる点は、c軸長、すなわち、電荷軌道整列面間隔が長いことである。これは、c軸方向に作用する伸張歪によるものと考えられる。したがって、例えば、SrTiO基板2に代えて、SrTiO基板2とは異なる格子定数を持つ基板を用いれば、c軸方向に作用する基板歪みが変化することによって、電荷軌道整列面間隔を調整することが可能となる。これは、基板歪みを調整することによって、電荷軌道整列面間に関するキャリアのホッピングの程度が変化するためと考えられる。
このように、電荷軌道整列面間隔を調整(制御)することにより、電荷軌道秩序に伴う抵抗値の調整が可能になる。なお、SrTiO基板2に代わる基板としては、例えば、格子定数3.87Åの立方晶基板である(LaAlO0.3―(SrAl0.5Ta0.50.7(LSATと呼ばれている)、あるいは、格子定数3.87Åの擬立方晶基板であるLaAlO等の使用が可能である。
図7は、Nd0.5Sr0.5MnO膜1の磁化の温度依存性を示すグラフである。このグラフにおける縦軸はMnあたりのボーア磁子単位で規格化した磁化Mを表し、横軸は温度を表す。なお、図中における白丸(ZFC)は、零磁場中で5Kまで冷却した後、0.5T(=5000 Oe)の磁場を印加した後に、300Kまで温度を上げながら測定した結果を示している。また、黒丸(FC)は、引き続き300Kから磁場中で5Kまで再び冷却しながら測定した際の結果を示している。
この図に示すように、250K以下で強磁性が発現し、160K以下で電荷軌道整列相の発現に伴う強磁性強磁性−反強磁性転移が発現することが、ヒステリシスとともに観測された。
図8は、Nd0.5Sr0.5MnO膜1における抵抗率の温度依存性を示すグラフである。縦軸に抵抗率(Resistivity)を対数でとり、横軸に温度(Temperature)をとっている。抵抗測定は標準的な四端子法を用いて行い、電極には金とパラジウムの合金をスパッタにより形成している。測定電流は10μAとした。また、磁場H及び電流iは、[001]軸に沿って印加した。また、図中における太線は300Kから5Kへ降温しながら測定した結果であり、細線は5Kから300Kへ昇温しながら測定した結果を表す。また、図中ZFC(zero field cool)と表記したデータは、零磁場中で測定した結果であり、0.5T,1T,2T,3T,4T,5Tと表記したデータは、[001]軸に沿って印加する磁場をそれぞれの値に変化させた場合の測定結果である。
この図に示すように、Nd0.5Sr0.5MnO膜1は、220K以下で金属的な挙動を示し、160K以下で電荷軌道整列相の発現に伴う抵抗増加がヒステリシスと共に得られている。
また、磁場を0.5T,1T〜5Tと増すにつれて、抵抗が磁場に応じて2桁以上も低下する(磁気抵抗)。すなわち電荷軌道整列相を磁場により金属へとスイッチングさせることができる。
これらの結果は、電荷軌道整列面が基板面に垂直方向に配置することによって、電荷軌道整列面内の格子変形が容易になることで、電荷軌道整列転移とそのスイッチングが容易になったことを示すものであり、従来の薄膜での結果とは比較にならない程優れた特性を示すものである。また、この結果は、Nd0.5Sr0.5MnO膜1において非常にランダムフィールドに敏感な電荷軌道整列秩序が発現してスイッチングすることを示しており、多結晶膜では避けられない欠陥量を、スイッチングを利用するために十分な程度に低減できていることを示している。
また、単結晶と比較した場合、磁化では1.5μ/Mnと約半分(単結晶では3μ/Mn)の値を示し、ゼロ磁場における基底状態(5K)での抵抗値は10−1Ωcmと3桁程度低い値(単結晶では10Ωcm)を示す。すなわち、単結晶では完全に金属化させるために必要な磁場が7T必要であったものが、Nd0.5Sr0.5MnO膜1では5Tと低下している。
この原因は、多結晶膜で導入される欠陥がもたらすランダムフィールドによって、強磁性相および電荷軌道整列相が乱されることに加えて、c軸長すなわち電荷軌道整列面間隔が伸びていることも重要な要因であると考えられる。なぜなら、c軸長の伸び(電荷軌道整列面間隔の伸び)は、強磁性金属相においては強磁性を抑制し、電荷軌道整列相においては面内に在る軌道が面間方向に向く自由度を回復させ、面間のキャリアホッピングを助長させるので、抵抗値が低減するからである。
したがって、c軸長に沿った基板面内一方向への基板歪みを調整することによって、基板面に垂直に配置された電荷軌道整列の面間隔を制御することができ、電荷軌道整列相での抵抗値を制御することが可能になる。
さらに、Nd0.5Sr0.5MnO膜1においては、電荷軌道整列面が基板に垂直に配置され、面内の結晶軸が完全に配向しているために、単一ドメインあるいは欠陥や粒界を含んだとしても一方向に揃ったドメインが形成される。これによって、マルチドメインの状態と比較して膜全体にわたって均一な特性が得られる。例えば、ウエハー上に集積化したデバイスの場合、デバイスごとの特性のばらつきを抑制することが可能になる。
図9は、[1−10]軸([−110]軸と平行)に沿って磁場及び電流を印加した場合の、Nd0.5Sr0.5MnO膜1における抵抗率の温度依存性を示すグラフである。なお、縦軸に抵抗率を対数でとり、横軸に温度をとっている。また、比較のために[001]軸に沿って磁場及び電流を印加した零磁場での結果(図中、白丸)も記載している。[001]軸すなわち電荷軌道整列面に垂直に測定した([001]軸に沿って磁場及び電流を印加した場合の)抵抗率は、[1−10]軸すなわち電荷軌道整列面に平行に測定した([1−10]軸に沿って磁場及び電流を印加した場合の)抵抗率に比べて、約一桁高いことがわかる。この異方性は電荷軌道、特に軌道整列面が揃っていることによって得られるものであり、上記のように単一ドメインあるいは多結晶膜に起因する欠陥を含みながらも方向の揃ったドメインが形成されていることを示すものである。
この異方性は、例えば、抵抗値を利用するメモリ素子あるいはトランジスタとして用いる場合には、c軸方向すなわち電荷軌道整列面に垂直に信号を入出力するような構成にすることで、抵抗値の変化をより大きくとることが可能となることを示している。
ところで、Nd1−xSrMnOはホールドーピング濃度がx=0.48〜0.51の範囲では平均の格子定数に殆ど違いがないが、x=0.48で強磁性金属相、x=0.49で強磁性金属相が共存した電荷軌道整列相、x=0.50で電荷軌道整列相、x=0.51で層状反強磁性金属相に電荷軌道整列相が共存することが単結晶で報告されている。
そこで、電荷軌道整列相が強磁性金属相や層状反強磁性金属相などの多様な相と共存する場合を調べるために、Nd1−xSrMnO膜におけるxの値を変化させた場合の、磁気特性を測定した。
図10は、Nd1−xSrMnO膜1におけるxの値を0.48,0.49,0.50,0.51と変化させた場合の、磁気特性を示すグラフである。すなわち、上記した製造方法によってSrTiO(110)単結晶基板2上に製造したNd1−xSrMnO膜1(x=0.48,0.49,0.50,0.51)の磁気特性を示すグラフである。なお、このグラフにおける縦軸はMnあたりのボーア磁子単位で規格化した磁化Mを表し、横軸は温度を表す。また、図中における細線は、零磁場中で5Kまで冷却した後、0.5T(=5000 Oe)の磁場を印加した後に、300Kまで温度を上げながら測定した結果を示している。また、図中における太線は、引き続き300Kから磁場中で5Kまで再び冷却しながら測定した際の結果を示している。
この図に示すように、多結晶薄膜(Nd1−xSrMnO膜1)においても単結晶で知られている特性に匹敵する結果が得られていることから、電荷軌道整列相が多様な相と共存する場合においても、上記した各効果(Nd0.5Sr0.5MnO膜1において得られる効果)が得られることが明らかである。
〔比較例〕
本実施の形態にかかるNd1−xSrMnO膜1は、面方位が(110)のSrTiO(110)単結晶基板2上に形成したが、これと比較するために、面方位が(100)のSrTiO単結晶基板(SrTiO(100)単結晶基板)上に、膜厚190nmのNd0.5Sr0.5MnO膜(図示せず)を形成し、その構造および特性について調べた。
Nd0.5Sr0.5MnO単結晶の室温での単位胞体積(58.11Å)の三乗根として求められる平均の格子定数は3.844Åであり、SrTiO(100)単結晶との格子不整合は約1.6%となり、伸張歪が作用する。
Nd0.5Sr0.5MnO膜の製造方法は実施例で示した条件と同様のものを用いた。
なお、高速反射電子線回折により薄膜製造時の様子を観察したところ、スペキュラースポット(基板あるいは薄膜最表面からの鏡面反射によるスポット)の強度振動が観測された。この振動周期はペロブスカイト単位胞毎のlayer−by−layerモードでの二次元成長に対応している可能性を示唆するものである。したがって、上記製造条件は好ましいものであるといえる。
また、薄膜(Nd0.5Sr0.5MnO膜)堆積後の高速反射電子線回折像は、ラウエ回折スポットとストリークパターンが観察された。したがって、このNd0.5Sr0.5MnO膜の表面は原子層レベルで平坦である。
このようにして作成した比較例の薄膜について調べた結果を図11〜図14に示す。
図11は、比較例における薄膜(Nd0.5Sr0.5MnO膜)の構造を調べるために行ったX線回折(2θ−θ回折)によって得られたプロファイルを示している。
強度の強い3つのピークa,b,cが基板からのものであり、各ピークの右側(高角側)に観察されるピークa’,b’,c’が薄膜からのものである。これらは、この図の低角側から高角側にむかって、a'が(001)面、b’が(002)面、c’が(003)面からの回折ピークである。
この結果から、比較例における薄膜は、基板に垂直方向に(00l)配向していることがわかる。なお、基板面に垂直な(c軸)方向の格子定数は3.79Åであった。
さらに、面内方向の格子定数を調べるために行った、(114)ピークに関する逆格子マッピング測定の結果を図3に示す。図12の横軸は面内方向の格子定数に反比例する値を表しており、縦軸は基板に垂直方向(c軸)の格子定数に反比例する値を表している。逆格子マッピング測定の結果、比較例における薄膜の面内格子定数(面内方向の格子定数)は、面内の2軸(a軸およびb軸)方向における基板の面内格子定数と僅かに異なり、3.89Åであった。すなわち、面内の2軸が等方的に伸び、膜厚方向の1軸が縮んだ格子配置となっており、基板歪みは完全には緩和できていない(格子変化が基板歪みの影響を受けている)ことがわかる。
この結果は、Nd0.5Sr0.5MnO膜1が、基板面内の[−110]軸方向(a軸方向)に完全に緩和し(格子変化が基板歪みの影響を受けず)、[001]軸方向(c軸方向)には基板歪みにより伸びていたのと、大きく異なっている(図3〜図6参照)。なお、比較例では、電荷軌道整列相は2軸が伸びたMn−O面内に存在することから、電荷軌道整列面が発現する場合には、基板面に平行に存在すると考えられる。
図13は、このように部分的に基板歪みが緩和した比較例における薄膜(上記配向膜)の磁化の温度依存性を示すグラフである。なお、このグラフにおける縦軸はMnあたりのボーア磁子単位で規格化した磁化Mを表し、横軸は温度を表している。また、図中の細線(ZFC)は、零磁場中で5Kまで冷却した後、1T(=10000 Oe)の磁場を印加し、その後、300Kまで温度を上げながら測定した結果を示している。また、図中の太線(FC)は、引き続き300Kから磁場中で5Kまで再び冷却しながら測定した際の結果を示している。
上記したように、Nd0.5Sr0.5MnO膜1では、バルク(バルク単結晶)で報告されているのと同様に、250K以下で強磁性が発現し、160K以下で電荷軌道整列相の発現に伴う強磁性強磁性−反強磁性転移が発現する(図7参照)。
これに対して、図13に示したように、比較例の薄膜では、250K以下での強磁性の発現は確認されない。したがって、160Kでの電荷軌道整列相の発現に伴う強磁性−反強磁性転移も観測されず、測定温度範囲内においては反強磁性的挙動を示す。
図14は、比較例の薄膜における抵抗率の温度依存性を示すグラフである。なお、抵抗は標準的な四端子法を用いて行った。また、測定電流は10μAとした。
図14における縦軸は抵抗率を対数でとったものであり、横軸には温度をとっている。この図に示すように、比較例の薄膜は、零磁場中では低温になるにつれて抵抗が増大し、半導体的挙動を示す(図中、ZFC参照)。すなわち、比較例の薄膜は、基板歪みを緩和しきれていないことから、伸張歪みによって磁気特性と輸送特性が変調を受けていることがわかる。すなわち、〔背景技術〕の項でも述べたように、この伸張歪みは電荷軌道整列相を安定化する作用を及ぼすので、強磁性相への相転移が抑制され、抵抗が低温で増大する。また、3T及び5Tの磁場下においては、抵抗率は10−2Ωcm程度に減少し、測定温度範囲内において温度依存性の少ない金属的挙動を示す。この抵抗率の温度依存性は、Nd0.5Sr0.5MnOのオーバードープ側の相である層状反強磁性金属相での振舞いに酷似している。したがって、3T及び5Tの磁場下における抵抗率の減少(磁気抵抗)は、電荷軌道整列絶縁相から層状反強磁性金属相への転移と考えられる。
なお、この結果は、Nd0.5Sr0.5MnO膜1において、例えば、零磁場中で、220K以下で金属的な挙動を示し、160K以下で電荷軌道整列相の発現に伴う抵抗増加が得られたのと、大きく異なる(図8参照)。すなわち、Nd0.5Sr0.5MnO膜1では、電荷軌道整列面が基板面に垂直方向に配置することによって、電荷軌道整列面内の格子変形が容易になり、電荷軌道整列転移とそのスイッチングが容易になるが、比較例における薄膜ではこのような効果が得られないことを示している。
このように、SrTiO(100)単結晶基板上に製造された比較例のNd0.5Sr0.5MnO膜のように、電荷軌道整列面が基板面に平行に存在すると考えられるNd0.5Sr0.5MnO膜においては、単結晶、あるいはNd0.5Sr0.5MnO膜1のようなスイッチング特性を得ることができない。その主因は、上記のように、基板歪みによるものと考えられる。
すなわち、比較例で示したように、SrTiO(100)単結晶基板上に製造し、電荷軌道整列面が基板面に平行に存在するNd0.5Sr0.5MnO膜においては、電荷軌道整列面が基板歪みの影響を等方的に受ける。その結果、電荷軌道整列面の格子変形も等方的になると考えられる。
一方、膜厚方向の格子変形は基板からの影響を直接受ける面内格子よりは容易であると考えられる。したがって、本実施の形態にかかるNd1−xSrMnO膜1のように、電荷軌道整列面が基板面に平行でなければ(非平行であれば)、電荷軌道整列面内の格子変化は少なくとも一方向には変形が容易になる。これにより、スイッチングに際しての格子変形を容易にすることが可能となる。
以上のように、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、格子(結晶格子)が基板面と平行な方向に配向しており、かつ、電荷軌道整列面が基板表面に対して平行ではない(非平行である)。このため、電荷軌道秩序のスイッチングに伴う格子変形が、この薄膜における面内方向、膜厚方向ともに容易に発現する。これにより、電荷軌道整列面に関して異方的な格子変形が可能になる。
また、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜では、膜厚方向だけではなく薄膜面内方向にも電荷軌道整列相の大きなドメインを成長させることが可能である。このため、基板歪や欠陥の影響の少ないバルク単結晶に匹敵するスイッチング特性を、多結晶薄膜で得ることができる。
さらに、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜では、基板の面内格子定数によって、電荷軌道整列面の面間隔を制御し、電荷軌道秩序に伴う抵抗値の調整することが可能である。すなわち、基板の面内格子定数を変更することによって基板歪みを調整し、電荷軌道整列面の面間隔を制御することができ、電荷軌道整列面間に関するキャリアのホッピングの程度を制御できるので、電荷軌道秩序に伴う抵抗値の調整が可能となる。
なお、基板の面内格子定数の調整は、例えば、基板の材料を変更することによって行うことができる。すなわち、本実施の形態ではペロブスカイト単結晶基板(SrTiO(110)単結晶基板2)を用いたが、これに代えて、例えば、格子定数3.87Åの立方晶基板である(LaAlO0.3―(SrAl0.5Ta0.50.7(LSATと呼ばれている)、あるいは、格子定数3.87Åの擬立方晶基板であるLaAlO等を用いてもよい。すなわち、基板として、ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の抵抗値が所望の値となるような面内格子定数を有するものを選択すればよい。
また、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜では、電荷軌道整列面が基板表面に対して略垂直である。この場合、ドメイン方向が揃った単一ドメインの電荷軌道秩序相を実現できるので、薄膜全体にわたって電荷軌道整列相を均一に形成できる。したがって、電荷軌道整列面間方向に信号の入出力を行うことで、より大きな抵抗変化を実現できる。
なお、本実施の形態にかかるペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、結晶格子が基板面と平行な方向に配向していれば、基板面に垂直な方向にも配向していてもよい。また、本実施の形態にかかるペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、結晶格子が基板面と平行な方向に配向している点が、上記した非特許文献3における(101)配向膜と異なっている。すなわち、非特許文献3における(101)配向膜は、基板面に垂直方向に配向しているが、当該膜面と平行な方向(基板面内方向)にはドメインが入るために配向できない。
また、本実施の形態では、簡便のためにペロブスカイト単結晶基板(SrTiO(110)単結晶基板2)を用いたが、これに限るものではない。例えば、上記したように、SrTiO(110)単結晶基板2に代えて、格子定数3.87Åの立方晶基板である(LaAlO0.3―(SrAl0.5Ta0.50.7(LSATと呼ばれている)、あるいは、格子定数3.87Åの擬立方晶基板であるLaAlO等を用いてもよい。あるいは、その他の酸化物基板を用いてもよい。
また、ガラス基板やシリコン基板、化合物半導体基板などの基板上にバッファ膜や、PtやIr、IrO、RuO、SrRuO等の電極膜を、本発明に沿うように形成し、ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を、基板上に、バッファ膜あるいは電極膜を介して形成するようにしてもよい。実デバイスでは、ペロブスカイト単結晶基板を使用できる機会が少ないため、ガラス基板やシリコン基板、化合物半導体基板などの基板上へバッファ膜や電極膜を介して製造することが望ましい。すなわち、実デバイスでは、ガラス基板やシリコン基板、化合物半導体基板などの上へバッファ膜や電極膜を介して製造することが実用的である。なお、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、このようにバッファ膜や電極膜上に形成する場合であっても、ペロブスカイト単結晶基板上に直接形成する場合と略同様の効果を奏する。すなわち、バッファ膜や電極膜上に形成する場合であっても、容易に作製可能な多結晶膜を用いて、単結晶バルクに匹敵するスイッチング特性が得られる。
また、この場合、ペロブスカイト単結晶基板上にペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を形成する場合と同様、バッファ膜や電極膜の面内格子定数を調整することにより、ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の抵抗値を所望の値に制御できる。
また、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、基板上あるいは基板上に形成されたバッファ膜上や電極膜上における、立方晶または正方晶の結晶方位を用いて(110)と表記される面、あるいは、これと略等価な面に形成することが好ましい。これにより、結晶格子が基板面と平行な方向に配向しており、かつ、電荷軌道整列面が基板表面に対して略垂直なペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を容易に形成できる。なお、(110)面と略等価な面としては、例えば、立方晶における(101)面、(011)面があげられる。
また、ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜(電荷軌道整列ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜)として、ここでは歪みや欠陥に敏感なNd1−xSrMnO膜(x=0.48〜0.51)を用いたが、これに限るものではない。本発明は、例えば、その他の電荷軌道整列ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜、特に室温以上で電荷軌道秩序を示すBi0.5Sr0.5MnOやYBaMn、HoBaMn、DyBaMn、TbBaMn、等にも適用できる。
また、本実施の形態では、面方位が(110)のSrTiO(110)単結晶基板2上にNd1−xSrMnO膜1を形成することにより、Nd1−xSrMnO膜1における電荷軌道整列面が基板表面に対して略垂直となるようにしているが、本発明の電荷軌道整列ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の製造方法は、これに限るものではない。すなわち、結晶格子が基板面と平行な方向に配向しており、電荷軌道整列面が基板面に対して非平行となるように形成できる方法であればよい。
また、本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、上記したように、不揮発メモリ素子や光素子などの外場を用いて電荷軌道整列をスイッチングさせることを原理とする素子(スイッチング素子)に適用できる。本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜をこれらのスイッチング素子に適用することにより、基板歪みや欠陥の影響が少ないバルク単結晶を用いたスイッチング素子に匹敵するスイッチング特性を得られる。
また、本発明は、メモリ素子等に適用可能な巨大抵抗変化の原理となる電荷軌道秩序をよりスイッチングに適した多様な秩序が競合し臨界点近傍の状態にある物質において示す電荷軌道整列ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜及びその製造方法、並びに該薄膜を備えてなるスイッチング素子を提供することを目的とするものである、と表現することもできる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、外場を用いて電荷軌道整列をスイッチングさせることを原理とする素子、例えば、磁場、電場、光を用いて電荷軌道整列をスイッチングさせる不揮発メモリ素子や、偏光変化を利用した光素子などに適用できる。
本発明の一実施の形態に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜、すなわち、SrTiO(110)基板上に製造したペロブスカイトマンガン酸化物薄膜(Nd0.5Sr0.5MnO薄膜)における、電荷軌道整列状態を示す説明図である。 本発明の一実施の形態に係るペロブスカイトマンガン酸化物の構造を示す断面図である。 本発明の一実施の形態に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜における、X線回折の結果を示すグラフである。 本発明の一実施の形態に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜における、(310)ピークに関する逆格子マッピング測定図である。 本発明の一実施の形態に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜における、(222)ピークに関する逆格子マッピング測定図である。 本発明の一実施の形態に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜と、SrTiO(110)基板との、格子定数のミスマッチを示す説明図である。 本発明の一実施の形態に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜における、磁化の温度依存性を示すグラフである。 本発明の一実施の形態に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の、磁場中における抵抗率の温度依存性を示すグラフである。 本発明の一実施の形態に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜における、軌道整列面内方向と面間方向との抵抗率の異方性を示すグラフである。 本発明の一実施の形態に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜(Nd1−xSrMnO膜)における、磁気特性の組成依存性(x=0.48〜0.51)を示すグラフである。 比較例に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜、すなわち、SrTiO(100)基板上に製造したNd0.5Sr0.5MnO薄膜のX線回折結果を示すグラフである。 比較例に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の、(114)ピークに関する逆格子マッピング測定図である。 比較例に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の、磁化の温度依存性を示すグラフである。 比較例に係るペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の、磁場中における抵抗率の温度依存性を示すグラフである。
符号の説明
1 Nd1−xSrMnO膜(ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜)
2 SrTiO単結晶基板(基板)

Claims (9)

  1. SrTiO (110)単結晶基板上に形成された、電荷整列および電子軌道整列を示すNd 0.5 Sr 0.5 MnO ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜であって、結晶格子が、上記基板面と平行な方向に配向しており、かつ、電荷が整列するとともに3d電子の軌道も秩序化している面である電荷軌道整列面が、上記基板面に対して非平行であることを特徴とするペロブスカイトマンガン酸化物薄膜。
  2. 上記ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜は、上記基板上に形成された、バッファ膜上または電極膜上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜。
  3. 上記電荷軌道整列面が、上記基板面に対して略垂直であることを特徴とする請求項1または2に記載のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜。
  4. 上記基板、あるいは、上記基板上に形成されたバッファ膜または電極膜における、結晶方位が(110)の面あるいはこれと略等価な面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を備えてなるスイッチング素子。
  6. SrTiO (110)単結晶基板上に形成される、電荷整列および電子軌道整列を示すNd 0.5 Sr 0.5 MnO ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の製造方法であって、上記ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を、結晶格子が、上記基板面と平行な方向に配向し、かつ、電荷が整列するとともに3d電子の軌道も秩序化している面である電荷軌道整列面が、上記基板面に対して非平行となるように、レーザーアブレーション法を用いて形成することを特徴とするペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の製造方法。
  7. 上記基板上に、バッファ膜または電極膜を形成し、上記バッファ膜上または上記電極膜上に、上記ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を形成することを特徴とする請求項6に記載のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の製造方法。
  8. 上記ペロブスカイトマンガン酸化物薄膜を、上記基板、あるいは、上記基板に形成されたバッファ膜または電極膜における、結晶方位が(110)の面あるいはこれと略等価な面に形成することを特徴とする請求項6または請求項7に記載のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の製造方法。
  9. 上記基板上あるいは上記基板上に形成されたバッファ膜上または電極膜上の面内格子定数によって、上記電極軌道整列面の面間隔を制御することを特徴とする請求項6〜8に記載のペロブスカイトマンガン酸化物薄膜の製造方法。
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