本発明の車両の制御装置の実施形態を以下に説明する。
まず、図1を参照して、本明細書の実施形態における車両の概略構成を説明する。図1は、その車両の概略構成を示すブロック図である。なお、本明細書の実施形態で例示する車両は、4個の車輪(車両の前後に2個ずつの車輪)を備える自動車である。その自動車の構造自体は、公知のものでよいので、本明細書での詳細な図示および説明は省略する。
図1に示す如く、車両1(自動車)は、公知の通常の自動車と同様に、4個の車輪W1,W2,W3,W4のうちの駆動輪に回転駆動力(車両1の推進力となる回転力)を付与し、あるいは各車輪W1〜W4に制動力(車両1の制動力となる回転力)を付与する駆動・制動装置3A(駆動・制動系)と、4個の車輪W1〜W4のうちの操舵輪を操舵するステアリング装置3B(ステアリング系)と、4個の車輪W1〜W4に車体1Bを弾力的に支持するサスペンション装置3C(サスペンション系)とを備えている。車輪W1,W2,W3,W4は、それぞれ車両1の左前、右前、左後、右後の車輪である。また、駆動輪および操舵輪は、本明細書で説明する実施形態では2つの前輪W1,W2である。従って、後輪W3,W4は従動輪で、また、非操舵輪である。
ただし、駆動輪は、2つの後輪W3,W4であってもよく、あるいは、前輪W1,W2および後輪W3,W4の両者(4個の車輪W1〜W4)であってもよい。また、操舵輪は、2つの前輪W1,W2だけでなく、後輪W3,W4も含まれていてもよい。
これらの装置3A,3B,3Cは、車両1の運動を操作する機能を持つ。例えば駆動・制動装置3Aは、主に、車両1の進行方向の運動(車両1の進行方向の位置、速度、加速度など)を操作する機能を持つ。ステアリング装置3Bは、主に、車両1のヨー方向の回転運動(車両1のヨー方向の姿勢、角速度、角加速度など)を操作する機能を持つ。サスペンション装置3Cは、主に、車両1の車体1Bのピッチ方向およびロール方向の運動(車体1Bのピッチ方向およびロール方向の姿勢など)、あるいは車体1Bの上下方向の運動(車体1Bの路面からの高さ(車輪W1〜W4に対する車体1Bの上下方向の位置)など)を操作する機能を持つ。なお、本明細書では、車両1あるいは車体1Bの「姿勢」は空間的な向きを意味する。
補足すると、一般に、車両1の旋回時などに、車輪W1〜W4の横すべりが発生する。そして、この横すべりは、車両1の操舵輪の舵角、車両1のヨーレート(ヨー方向の角速度)、各車輪W1〜W4の駆動・制動力などの影響を受ける。このため、駆動・制動装置3Aやステアリング装置3Bは、車両1の横方向(左右方向)の並進運動を操作する機能も持つ。なお、車輪の「駆動・制動力」は、該車輪に路面から作用する路面反力のうち、該車輪の前後方向(詳しくは該車輪の回転面(車輪の中心点を通って該車輪の回転軸と直交する面)と路面もしくは水平面との交線の方向)の並進力成分を意味する。また、路面反力のうち、車輪の幅方向(車輪の回転軸に平行な方向)の並進力成分を「横力」、路面反力のうち、路面もしくは水平面に垂直な方向の並進力成分を「接地荷重」という。
駆動・制動装置3Aは、詳細な図示は省略するが、より詳しくは車両1の動力発生源(車両1の推進力発生源)としてのエンジン(内燃機関)と、このエンジンの出力(回転駆動力)を車輪W1〜W4のうちの駆動輪に伝達する動力伝達系とからなる駆動系と、各車輪W1〜W4に制動力を付与するブレーキ装置(制動系)とを備えている。動力伝達系には、変速装置、差動歯車装置などが含まれる。
なお、実施形態で説明する車両1は、動力発生源としてエンジンを備えるものであるが、エンジンと電動モータとを動力発生源として備えた車両(いわゆるパラレル型のハイブリッド車両)や電動モータを動力発生源として備えた車両(いわゆる電気自動車、あるいはシリーズ型のハイブリッド車両)であってもよい。
また、車両1(自動車)を運転者が操縦するために操作する操作器5(人為的操作器)として、ステアリングホイール(ハンドル)、アクセルペダル、ブレーキペダル、シフトレバーなどが車両1の車室内に備えられている。なお、操作器5の各要素の図示は省略する。
操作器5のうちのステアリングホイールは、前記ステアリング装置3Bの動作に関連するものである。すなわち、ステアリングホイールを回転操作することで、これに応じてステアリング装置3Bが動作して、車輪W1〜W4のうちの操舵輪W1,W2が操舵される。
操作器5のうちのアクセルペダル、ブレーキペダルおよびシフトレバーは、前記駆動・制動装置3Aの動作に関連するものである。すなわち、アクセルペダルの操作量(踏み込み量)に応じてエンジンに備えられたスロットル弁の開度が変化し、エンジンの吸入空気量および燃料噴射量(ひいてはエンジンの出力)が調整される。また、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)に応じてブレーキ装置が作動し、ブレーキペダルの操作量に応じた制動トルクが各車輪W1〜W4に付与される。また、シフトレバーを操作することで、変速装置の変速比等、該変速装置の動作状態が変化し、エンジンから駆動輪に伝達される駆動トルクの調整などが行なわれる。
なお、運転者(車両1の操縦者)によるステアリングホイールなどの各操作器5の運転操作状態は、図示を省略する適宜のセンサにより検出される。以降、この運転操作状態の検出値(センサの検出出力)を運転操作入力と呼ぶ。この運転操作入力には、ステアリングホイールの回転角であるステアリング角、アクセルペダルの操作量であるアクセルペダル操作量、ブレーキペダルの操作量であるブレーキペダル操作量、およびシフトレバーの操作位置であるシフトレバー位置の検出値が含まれる。この運転操作入力を出力するセンサが本発明における運転操作量検出手段に相当する。
本明細書の実施形態では、前記駆動・制動装置3Aおよびステアリング装置3Bは、その動作(ひいては車両1の運動)を、前記運転操作入力だけでなく、該運転操作入力以外の要因(車両1の運動状態や環境状態など)にも応じて能動的に制御可能なものとされている。ここで、「能動的に制御可能」というのは、装置3A,3Bの動作を、前記運転操作入力に対応する基本的な動作(運転操作入力に対応して決定される基本目標動作)を修正してなる動作に制御可能であることを意味する。
具体的には、駆動・制動装置3Aは、前輪W1,W2の組と後輪W3,W4の組とのうちの少なくともいずれか一方の組について、左側の車輪W1,W3の駆動・制動力と右側の車輪W2,W4の駆動・制動力との差もしくは比率を、該駆動・制動装置3Aに備えた油圧アクチュエータ、電動モータ、電磁制御弁などのアクチュエータを介して能動的に制御可能な機能(以下、この制御機能を左右動力配分制御機能という)を持つ駆動・制動装置である。
さらに具体的には、本明細書の実施形態では、駆動・制動装置3Aは、ブレーキ装置の動作によって各車輪W1〜W4に作用させる駆動・制動力(詳しくは、車両1の制動方向の駆動・制動力)を該ブレーキ装置に備えたアクチュエータを介して能動的に制御可能な駆動・制動装置(ブレーキ装置によって各車輪W1〜W4に作用させる駆動・制動力をブレーキペダルの操作量に応じて決定される基本的な駆動・制動力から増減制御可能な駆動・制動装置)である。従って、駆動・制動装置3Aは、前輪W1,W2の組と後輪W3,W4の組との両者の組について、ブレーキ装置による左側の車輪W1,W3の駆動・制動力と右側の車輪W2,W4の駆動・制動力との差もしくは比率を、アクチュエータを介して能動的に制御可能な駆動・制動装置(前輪W1,W2の組と後輪W3,W4の組との両者の組について左右動力配分制御機能を持つ駆動・制動装置)である。
なお、駆動・制動装置3Aは、ブレーキ装置の動作による各車輪W1〜W4の駆動・制動力を能動的に制御する機能に加えて、駆動・制動装置3Aの駆動系の動作によって駆動輪である前輪W1,W2に作用させる駆動・制動力の差もしくは比率を、該駆動系に備えたアクチュエータを介して能動的に制御可能な機能を持つものであってもよい。
このように左右動力配分制御機能を持つ駆動・制動装置3Aとしては、公知のものを使用すればよい。
補足すると、上記のように左右動力配分制御機能を持つ駆動・制動装置3Aは、その制御機能によって、車両1のヨー方向の回転運動や、横方向の並進運動を能動的に操作する機能も持つこととなる。
なお、駆動・制動装置3Aには、左右動力配分制御機能に係わるアクチューエータのほか、ブレーキ装置の制動トルク発生用のアクチュエータや、エンジンのスロットル弁を駆動するアクチュエータ、燃料噴射弁を駆動するアクチュエータ、変速装置の変速駆動を行なうアクチュエータなども含まれる。
また、前記ステアリング装置3Bは、例えば、操舵輪である前輪W1,W2をステアリングホイールの回転操作に応じてラック・アンド・ピニオンなどの操舵機構を介して機械的に操舵する機能に加えて、必要に応じて電動モータなどのアクチュエータにより前輪W1,W2を補助的に操舵可能なステアリング装置(前輪W1,W2の舵角をステアリングホイールの回転角に応じて機械的に定まる舵角から増減制御可能なステアリング装置)である。あるいは、ステアリング装置3Bは、前輪W1,W2の操舵をアクチュエータの駆動力だけを使用して行なうステアリング装置(所謂、ステアリング・バイ・ワイヤのステアリング装置)である。従って、ステアリング装置3Bは前輪W1,W2の舵角をアクチュエータを介して能動的に制御可能なステアリング装置(以下、アクティブステアリング装置という)である。
ステアリング装置3Bが操舵輪をステアリングホイールの回転操作に応じて機械的に操舵することに加えて、補助的にアクチュエータにより操舵輪を操舵するアクティブステアリング装置(以下、このようなアクティブステアリング装置をアクチュエータ補助型のステアリング装置という)である場合には、ステアリングホイールの回転操作により機械的に決定される操舵輪の舵角と、アクチュエータの動作による舵角(舵角の補正量)との合成角度が操舵輪の舵角になる。
また、ステアリング装置3Bが操舵輪W1,W2の操舵をアクチュエータの駆動力だけを使用して行なうアクティブステアリング装置(以下、このようなアクティブステアリング装置をアクチュエータ駆動型のステアリング装置という)である場合には、少なくともステアリング角の検出値に応じて操舵輪の舵角の目標値が決定され、操舵輪の実際の舵角がその目標値になるようにアクチュエータが制御される。
このように操舵輪W1,W2の舵角をエクチュエータを介して能動的な制御可能なステアリング装置3B(アクティブステアリング装置)としては、公知のものを使用すればよい。
なお、本明細書の実施形態におけるステアリング装置3Bは、前輪W1,W2の舵角をアクチュエータを介して能動的に制御可能なアクティブステアリング装置であるが、ステアリングホイールの回転操作に応じた前輪W1,W2の機械的な操舵だけを行なうもの(以下、機械式ステアリング装置という)であってもよい。また、全ての車輪W1〜W4を操舵輪とする車両では、ステアリング装置は、前輪W1,W2および後輪W3,W4の両者の舵角をアクチュエータを介して能動的に制御可能なものであってもよい。あるいは、該ステアリング装置は、ステアリングホイールの回転操作に応じた前輪W1,W2の操舵をラック・アンド・ピニオンなどの機械的な手段だけで行なうと共に、後輪W3,W4の舵角だけをアクチュエータを介して能動的に制御可能なものであってもよい。
前記サスペンション装置3Cは、本明細書の実施形態では、例えば車両1の運動に応じて受動的に動作するサスペンション装置である。
ただし、サスペンション装置3Cは、例えば車体1Bと車輪W1〜W4との間に介在するダンパーの減衰力や硬さ等を電磁制御弁や電動モータなどのアクチュエータを介して可変的に制御可能なサスペンション装置であってもよい。あるいは、サスペンション装置3Cは、油圧シリンダまたは空圧シリンダによってサスペンション(サスペンション装置3Cのばね等の機構部分)のストローク(車体1Bと各車輪W1〜W4との間の上下方向の変位量)、または車体1Bと車輪W1〜W4との間で発生するサスペンションの上下方向の伸縮力を直接的に制御可能なサスペンション装置(いわゆる電子制御サスペンション)であってもよい。サスペンション装置3Cが上記のようにダンパの減衰力や硬さ、サスペンションのストロークもしくは伸縮力を制御可能なサスペンション装置(以下、アクティブサスペンション装置という)である場合には、該サスペンション装置3Cは、その動作を能動的に制御可能である。
以降の説明では、駆動・制動装置3A、ステアリング装置3B、およびサスペンション装置3Cのうち、前記の如く能動的に動作を制御可能なものを総称的にアクチュエータ装置3ということがある。本明細書の実施形態では、該アクチュエータ装置3には、駆動・制動装置3Aおよびステアリング装置3Bが含まれる。なお、サスペンション装置3Cがアクティブサスペンション装置である場合には、該サスペンション装置3Cもアクチュエータ装置3に含まれる。
また、車両1には、前記各アクチュエータ装置3に備えるアクチュエータの操作量(アクチュエータに対する制御入力。以下、アクチュエータ操作量という)を前記運転操作入力などに応じて決定し、そのアクチュエータ操作量によって各アクチュエータ装置3の動作を制御する制御装置10が備えられている。この制御装置10は、マイクロコンピュータなどを含む電子回路ユニットから構成され、操作器5のセンサから前記運転操作入力が入力されると共に、図示しない各種のセンサから、車両1の走行速度、ヨーレートなどの車両1の状態量の検出値や車両1の走行環境の情報などが入力される。そして、該制御装置10は、それらの入力を基に、所定の制御処理周期でアクチュエータ操作量を逐次決定し、各アクチュエータ装置3の動作を逐次制御する。
以上が、本明細書の実施形態における車両1(自動車)の全体的な概略構成である。この概略構成は、以下に説明するいずれの実施形態においても同じである。
補足すると、本明細書の実施形態では、前記駆動・制動装置3A、ステアリング装置3B、およびサスペンション装置3Cのうち、本発明におけるアクチュエータ装置(本発明を適用して動作制御を行なうアクチュエータ装置)に相当するものは、駆動・制動装置3A、あるいは、該駆動・制動装置3Aおよびステアリング装置3Bである。そして、制御装置10は、本発明におけるアクチュエータ装置制御手段に相当する。
また、制御装置10は、その制御処理機能によって本発明における種々の手段を実現している。
[参考例1]
次に、本発明の実施形態を説明する前に、実施形態の理解を容易にするために、実施形態に関連した参考例1を以下に説明しておく。図2は本参考例1における制御装置10の全体的な制御処理機能の概略を示す機能ブロック図である。なお、以降の説明では、実際の車両1を実車1という。補足すると、本参考例1は、アクチュエータ動作目標値合成部24の処理だけが、後述する本発明の第1実施形態または第2実施形態と相違するものである。そして、その相違する部分以外は、第1実施形態または第2実施形態と同一である。従って、本参考例1に関する以下の説明のうち、アクチュエータ動作目標値合成部24の詳細説明以外は、第1実施形態または第2実施形態の説明を兼ねている。
図2中の実車1を除く部分(より正確には、実車1と、後述のセンサ・推定器12に含まれるセンサとを除く部分)が制御装置10の主な制御処理機能である。図2中の実車1は、前記駆動・制動装置3A、ステアリング装置3B、およびサスペンション装置3Cを備えている。
図示の如く、制御装置10は、センサ・推定器12、規範操作量決定部14、規範動特性モデル16、減算器18、フィードバック分配則(FB分配則)20、フィードフォワード則(FF則)22、アクチュエータ動作目標値合成部24、およびアクチュエータ駆動制御装置26を主な処理機能部として備えている。なお、図2中の実線の矢印は、各処理機能部に対する主たる入力を示し、破線の矢印は、各処理機能部に対する補助的な入力を示している。
制御装置10は、これらの処理機能部の処理を所定の制御処理周期で実行し、該制御処理周期毎に逐次、アクチュエータ操作量を決定する。そして、そのアクチュエータ操作量に応じて実車1のアクチュエータ装置3の動作を逐次制御する。
以下に、制御装置10の各処理機能部の概要と全体的な処理の概要とを説明する。なお、以降、制御装置10の各制御処理周期で決定される変数の値に関し、現在の(最新の)制御処理周期の処理で最終的に得られる値を今回値、前回の制御処理周期の処理で最終的に得られた値を前回値という。
制御装置10は、各制御処理周期において、まず、センサ・推定器12により実車1の状態量や実車1の走行環境の状態量を検出または推定する。本参考例1では、センサ・推定器12の検出対象または推定対象には、例えば実車1のヨー方向の角速度であるヨーレートγact、実車1の走行速度Vact(対地速度)、実車1の重心点の横すべり角である車両重心点横すべり角βact、実車1の前輪W1,W2の横すべり角である前輪横すべり角βf_act、実車1の後輪W3,W4の横すべり角である後輪横すべり角βr_act、実車1の各車輪W1〜W4に路面から作用する反力である路面反力(駆動・制動力、横力、接地荷重)、実車1の各車輪W1〜W4のスリップ比、実車1の前輪W1,W2の舵角δf_actが含まれる。
これらの検出対象または推定対象のうちの、車両重心点横すべり角βactは、実車1を上方から見たときの(水平面上での)該実車1の走行速度Vactのベクトルが実車1の前後方向に対してなす角度である。また、前輪横すべり角βf_actは、実車1を上方から見たときの(水平面上での)前輪W1,W2の進行速度ベクトルが前輪W1,W2の前後方向に対してなす角度である。また、後輪横すべり角βr_actは、実車1を上方から見たときの(水平面上での)後輪W3,W4の進行速度ベクトルが後輪W3,W4の前後方向に対してなす角度である。また、舵角δf_actは、実車1を上方から見たときの(水平面上での)前輪W1,W2の回転面が実車1の前後方向に対してなす角度である。
なお、前輪横すべり角βf_actは、各前輪W1,W2毎に検出または推定してもよいが、いずれか一方の前輪W1またはW2の横すべり角を代表的にβf_actとして検出または推定したり、あるいは、両者の横すべり角の平均値をβf_actとして検出または推定してもよい。後輪横すべり角βr_actについても同様である。
さらに、センサ・推定器12の推定対象として、実車1の車輪W1〜W4とこれに接する実際の路面との間の摩擦係数(以下、該摩擦係数の推定値を推定摩擦係数μestmという)が含まれる。なお、推定摩擦係数μestmの頻繁な変動を生じないように、摩擦係数の推定処理にはローパス特性のフィルタリング処理などを介在させることが好ましい。なお、推定摩擦係数μestmは、本参考例1では、例えば各車輪W1〜W4と路面との間の摩擦係数の代表値もしくは平均値の推定値である。ただし、各車輪W1〜W4毎に推定摩擦係数μestmを求めたり、前輪W1,W2の組と後輪W3,W4の組とで各別に、あるいは、左側の前輪W1および後輪W3の組と、右側の前輪W2および後輪W4の組とで各別に、推定摩擦係数μestmの推定値を求めるようにしてもよい。
センサ・推定器12は、上記の検出対象または推定対象を検出または推定するために実車1に搭載された種々のセンサを備えている。該センサとしては、例えば実車1の角速度を検出するレートセンサ、実車1の前後方向および左右方向の加速度を検出する加速度センサ、実車1の走行速度(対地速度)を検出する速度センサ、実車1の各車輪W1〜W4の回転速度を検出する回転速度センサ、実車1の各車輪W1〜W4に路面から作用する路面反力を検出する力センサなどが含まれる。
この場合、センサ・推定器12は、その検出対象または推定対象のうち、実車1に搭載したセンサによって直接的に検出できない推定対象については、その推定対象と相関性のある状態量の検出値や、制御装置10が決定したアクチュエータ操作量の値もしくはそれを規定する目標値を基に、オブザーバなどにより推定する。例えば車両重心点横すべり角βactは、実車1に搭載した加速度センサの検出値などを基に推定される。また、例えば摩擦係数は、加速度センサの検出値などを基に、公知の手法により推定される。
補足すると、センサ・推定器12は、本発明における実状態量把握手段としての機能を持つ。本参考例1では、車両の運動に関する第1状態量の種類として、車両のヨーレートと車両重心点横すべり角とを用いる。この場合、ヨーレートは、車両のヨー方向の回転運動に関する状態量としての意味を持ち、車両重心点横すべり角は、車両の横方向の並進運動に関する状態量としての意味を持つ。そして、前記ヨーレートγactおよび車両重心点横すべり角βactが本発明における第1実状態量としてセンサ・推定器12により検出または推定される。
また、センサ・推定器12は、摩擦係数を推定する(μestmを求める)機能によって、本発明における摩擦特性推定手段としての機能も持つ。さらに、センサ・推定器12は、路面反力(駆動・制動力、横力、接地荷重)を検出または推定する機能によって、本発明における実路面反力把握手段としての機能も持つ。
以降、センサ・推定器12により検出または推定する実車1の状態量などの名称にしばしば「実」を付する。例えば、実車1のヨーレートγact、実車1の走行速度Vact、実車1の車両重心点横すべり角βactをそれぞれ実ヨーレートγact、実走行速度Vact、実車両重心点横すべり角βactという。
次いで、制御装置10は、規範操作量決定部14により、後述する規範動特性モデル16に対する入力としての規範モデル操作量を決定する。この場合、規範操作量決定部14には、前記操作器5のセンサで検出される運転操作入力が入力され、少なくとも該運転操作入力に基づいて規範モデル操作量が決定される。
より詳しくは、本参考例1では、規範操作量決定部14が決定する規範モデル操作量は、後述する規範動特性モデル16上での車両の前輪の舵角(以下、モデル前輪舵角という)である。このモデル前輪舵角を決定するために、前記運転操作入力のうちのステアリング角θh(今回値)が規範操作量決定部14に主たる入力量として入力されると共に、センサ・推定器12によって検出または推定された実走行速度Vact(今回値)および推定摩擦係数μestm(今回値)と、規範動特性モデル16上での車両の状態量(前回値)とが規範操作量決定部14に入力される。そして、規範操作量決定部14は、これらの入力を基にモデル前輪舵角を決定する。なお、モデル前輪舵角は、基本的には、ステアリング角θhに応じて決定すればよい。但し、本参考例1では、規範動特性モデル16に入力するモデル前輪舵角に所要の制限を掛ける。この制限を掛けるために、規範操作量決定部14には、ステアリング角θh以外に、Vact,μestmなどが入力される。
補足すると、規範モデル操作量の種類は、一般的には、規範動特性モデル16の形態や、該規範動特性モデル16により決定しようとする状態量の種類に依存する。また、規範動特性モデル16に規範操作量決定部14を含めてもよい。規範動特性モデル16が運転操作入力そのものを必要入力とするように構成されている場合には、規範操作量決定部14を省略してもよい。
次いで、制御装置10は、規範動特性モデル16により実車1の規範とする運動(以降、規範運動という)の状態量である規範状態量を決定して出力する。規範動特性モデル16は、車両の動特性を表す、あらかじめ定められたモデルであり、前記規範モデル操作量を含む所要の入力を基に、規範運動の状態量(規範状態量)を逐次決定する。該規範運動は、基本的には、運転者にとって好ましいと考えられる実車1の理想的な運動もしくはそれに近い運動を意味する。
この場合、規範動特性モデル16には、規範操作量決定部14で決定された規範モデル操作量と、後述するFB分配則20で決定された、規範動特性モデル16の操作用の制御入力(フィードバック制御入力)Mvir,Fvirなどが入力され、それらの入力に基づいて規範運動(ひいては規範状態量の時系列)が決定される。
より詳しくは、本参考例1では、規範動特性モデル16によって決定して出力する規範状態量は、車両のヨー方向の回転運動に関する規範状態量と車両の横方向の並進運動に関する規範状態量との組である。車両のヨー方向の回転運動に関する規範状態量は、例えばヨーレートの規範値γd(以降、規範ヨーレートγdということがある)であり、車両の横方向の並進運動に関する規範状態量は、例えば車両重心点横すべり角の規範値βd(以降、規範車両重心点横すべり角βdということがある)である。これらの規範状態量γd,βdを制御処理周期毎に逐次決定するために、規範モデル操作量としての前記モデル前輪舵角(今回値)と、前記フィードッバック制御入力Mvir,Fvir(前回値)とが入力される。この場合、本参考例1では、規範動特性モデル16上の車両の走行速度を実走行速度Vactに一致させる。このために、規範動特性モデル16には、センサ・推定器12によって検出または推定された実走行速度Vact(今回値)も入力される。そして、規範動特性モデル16は、これらの入力を基に、該規範動特性モデル16上での車両のヨーレートおよび車両重心点横すべり角を決定し、それを規範状態量γd,βdとして出力する。
なお、規範動特性モデル16に入力するフィードバック制御入力Mvir,Fvirは、実車1の走行環境(路面状態など)の変化(規範動特性モデル16で考慮されていない変化)や、規範動特性モデル16のモデル化誤差、あるいは、センサ・推定器12の検出誤差もしくは推定誤差などに起因して、実車1の運動と規範運動とがかけ離れる(乖離する)のを防止する(規範運動を実車1の運動に近づける)ために規範動特性モデル16に付加的に入力するフィードバック制御入力である。該フィードバック制御入力Mvir,Fvirは、本参考例1では、規範動特性モデル16上の車両に仮想的に作用させる仮想外力である。この仮想外力Mvir,FvirのうちのMvirは、規範動特性モデル16上の車両1の重心点まわりに作用させるヨー方向の仮想的なモーメントであり、Fvirは該重心点に作用させる横方向の仮想的な並進力である。
補足すると、前記規範状態量γd,βdは、本発明における第1規範状態量に相当し、規範動特性モデル16が本発明における車両モデルに相当する。そして、規範操作量決定部14および規範動特性モデル16の処理によって、本発明における規範状態量決定手段が構成される。
次いで、制御装置10は、センサ・推定器12によって検出または推定された実状態量(規範状態量と同じ種類の実状態量)と、規範動特性モデル16によって決定した規範状態量との差である状態量偏差を減算器18で算出する。
より詳しくは、減算器18では、実ヨーレートγactおよび実車両重心点横すべり角βactのそれぞれの値(今回値)と、規範動特性モデル16によって決定した規範ヨーレートγdおよび規範車両重心点横すべり角βdのそれぞれの値(今回値)との差γerr(=γact−γd),βerr(=βact−γd)を状態量偏差として求める。
補足すると、減算器18の処理により、本発明における状態量偏差算出手段が構成される。そして、この減算器18により求められる状態量偏差γerr,βerrが本発明における第1状態量偏差に相当する。
次いで、制御装置10は、上記の如く求めた状態量偏差γerr,βerrをFB分配則20に入力し、このFB分配則20によって、規範動特性モデル16の操作用のフィードバック制御入力である前記仮想外力Mvir,Fvirと、実車1のアクチュエータ装置3の操作用のフィードバック制御入力であるアクチュエータ動作フィードバック目標値(アクチュエータ動作FB目標値)とを決定する。
なお、本参考例1では、アクチュエータ動作FB目標値には、駆動・制動装置3Aのブレーキ装置の動作に関するフィードバック制御入力(より詳しくは、該ブレーキ装置の動作によって各車輪W1〜W4に作用させる駆動・制動力を操作するフィードバック制御入力)が含まれる。あるいは、アクチュエータ動作FB目標値には、駆動・制動装置3Aの動作に関するフィードバック制御入力に加えて、ステアリング装置3Bの動作に関するフィードバック制御入力(より詳しくは、ステアリング装置3Bの動作による前輪W1,W2の横力を操作するフィードバック制御入力)が含まれる。該アクチュエータ動作FB目標値は、換言すれば、実車1に作用する外力である路面反力を操作する(修正する)ためのフィードバック制御入力である。
FB分配則20は、基本的には、入力される状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるように仮想外力Mvir,Fvirとアクチュエータ動作FB目標値とを決定する。但し、FB分配則20は、仮想外力Mvir,Fvirを決定するときに、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるだけでなく、実車1もしくは規範動特性モデル16上の車両の所定の制限対象量が所定の許容範囲から逸脱するのを抑制するように仮想外力Mvir,Fvirを決定する。また、FB分配則20は、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるための所要のヨー方向のモーメントを実車1の重心点のまわりに発生させるように(より一般的には、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるための所要の外力(路面反力)を実車1に作用させるように)、駆動・制動装置3Aのブレーキ装置の動作に関するフィードバック制御入力を、あるいは、該フィードバック制御入力とステアリング装置3Bの動作に関するフィードバック制御入力とをアクチュエータ動作FB目標値として決定する。
前記仮想外力Mvir,Fvirとアクチュエータ動作FB目標値とを決定するために、FB分配則20には、状態量偏差γerr,βerrだけでなく、規範動特性モデル16の出力である規範状態量γd,βdと、センサ・推定器12で検出または推定された実状態量γact,βactとのうちの少なくともいずれか一方が入力される。さらに、FB分配則20には、センサ・推定器12で検出または推定された実走行速度Vact、実前輪横すべり角βf_act、実後輪横すべり角βr_actなどの実状態量も入力される。そして、FB分配則20は、これらの入力を基に、仮想外力Mvir,Fvirとアクチュエータ動作FB目標値とを決定する。
補足すると、仮想外力Mvir,Fvirは、本発明における車両モデル操作用制御入力に相当し、アクチュエータ動作FB目標値には、本発明におけるフィードバック制御入力が含まれる。
一方、以上説明した規範操作量決定部14、規範動特性モデル16、減算器18およびFB分配則20の制御処理と並行して(もしくは時分割処理により)、制御装置10は、前記運転操作入力をFF則22に入力し、該FF則22によって、アクチュエータ装置3の動作のフィードフォワード目標値(基本目標値)であるアクチュエータ動作FF目標値を決定する。
本参考例1では、アクチュエータ動作FF目標値には、駆動・制動装置3Aのブレーキ装置の動作による実車1の各車輪W1〜W4の駆動・制動力に関するフィードフォワード目標値と、駆動・制動装置3Aの駆動系の動作による実車1の駆動輪W1,W2の駆動・制動力に関するフィードフォワード目標値と、駆動・制動装置3Aの変速装置の減速比(変速比)に関するフィードフォワード目標値と、ステアリング装置3Bによる実車1の操舵輪W1,W2の舵角に関するフィードフォワード目標値とが含まれる。
FF則22には、これらのアクチュエータ動作FF目標値を決定するために、前記運転操作入力が入力されると共に、センサ・推定器12で検出または推定された実状態量(実走行速度Vactなど)が入力される。そして、FF則22は、これらの入力を基に、アクチュエータ動作FF目標値を決定する。該アクチュエータ動作FF目標値は、前記状態量偏差γerr,βerr(第1状態量偏差)に依存せずに決定される、アクチュエータ装置3の動作目標値である。
補足すると、サスペンション装置3Cがアクティブサスペンション装置である場合には、アクチュエータ動作FF目標値には、一般に、該サスペンション装置3Cの動作に関するフィードフォワード目標値も含まれる。
次いで、制御装置10は、FF則22で決定したアクチュエータ動作FF目標値(今回値)と前記FB分配則20で決定したアクチュエータ動作FB目標値(今回値)とをアクチュエータ動作目標値合成部24に入力する。そして、制御装置10は、該アクチュエータ動作目標値合成部24によって、アクチュエータ動作FF目標値とアクチュエータ動作FB目標値とを合成し、アクチュエータ装置3の動作を規定する目標値であるアクチュエータ動作目標値を決定する。
本参考例1では、アクチュエータ動作目標値には、実車1の各車輪W1〜W4の駆動・制動力の目標値(駆動・制動装置3Aの駆動系およびブレーキ装置の動作によるトータルの駆動・制動力の目標値)と、実車1の各車輪W1〜W4のスリップ比の目標値と、ステアリング装置3Bによる実車1の操舵輪W1,W2の舵角の目標値と、駆動・制動装置3Aの駆動系の動作による実車1の各駆動輪W1,W2の駆動・制動力の目標値と、駆動・制動装置3Aの変速装置の減速比の目標値とが含まれる。
アクチュエータ動作目標値合成部24には、これらのアクチュエータ動作目標値を決定するために、前記アクチュエータ動作FF目標値およびアクチュエータ動作FB目標値だけでなく、センサ・推定器12で検出または推定された実状態量(前輪W1,W2の実横すべり角βf_act、推定摩擦係数μestmなど)も入力される。そして、アクチュエータ動作目標値合成部24は、これらの入力を基に、アクチュエータ動作目標値を決定する。
補足すると、アクチュエータ動作目標値は、上記した種類の目標値に限られるものではなく、それらの目標値に代えて、例えば該目標値に対応する各アクチュエータ装置3のアクチュエータ操作量の目標値を決定するようにしてもよい。アクチュエータ動作目標値は、基本的にはアクチュエータ装置の動作を規定できるものであればよい。例えばブレーキ装置の動作に関するアクチュエータ動作目標値として、ブレーキ圧の目標値を決定したり、それに対応するブレーキ装置のアクチュエータ操作量の目標値を決定するようにしてもよい。
なお、本発明の第1実施形態または第2実施形態では、前記FB分配則20の後述するアクチュエータ動作FB目標値決定部20bと、前記FF則22と、後述するアクチュエータ動作目標値合成部24とにより、本発明における実車アクチュエータ操作用制御入力決定手段が構成される。後述する第1実施形態または第2実施形態におけるアクチュエータ動作目標値合成部24で決定するアクチュエータ動作目標値は、本参考例1と同じである。
次いで、制御装置10は、アクチュエータ動作目標値合成部24により決定したアクチュエータ動作目標値をアクチュエータ駆動制御装置26に入力し、該アクチュエータ駆動制御装置26により実車1の各アクチュエータ装置3のアクチュエータ操作量を決定する。そして、その決定したアクチュエータ操作量により実車1の各アクチュエータ装置3のアクチュエータを制御する。
この場合、アクチュエータ駆動制御装置26は、入力されたアクチュエータ動作目標値を満足するように、あるいは、該アクチュエータ動作目標値通りにアクチュエータ操作量を決定する。そして、この決定のために、アクチュエータ駆動制御装置26には、アクチュエータ動作目標値の他、センサ・推定器12で検出または推定された実車1の実状態量も入力される。なお、アクチュエータ駆動制御装置26の制御機能のうち、駆動・制動装置3Aのブレーキ装置に関する制御機能には、いわゆるアンチロックブレーキシステムが組み込まれていることが望ましい。
以上が制御装置10の制御処理周期毎の制御処理の概要である。
なお、制御装置10の各制御処理機能部の処理は、それらの順番を適宜変更してもよい。例えばセンサ・推定器12の処理を各制御処理周期の最後に実行し、それによる検出値または推定値を次回の制御処理周期の処理で使用するようにしてもよい。
次に、本参考例1における制御装置10の制御処理機能部のより詳細な処理を説明する。
[規範動特性モデルについて]
まず、本参考例1における前記規範動特性モデル16を図3を参照して説明する。図3は本参考例1における規範動特性モデル16上の車両の構造を示す図である。この規範動特性モデル16は、車両の動特性を、1つの前輪Wfと1つの後輪Wrとを前後に備えた車両の水平面上での動特性(動力学特性)によって表現するモデル(所謂2輪モデル)である。以降、規範動特性モデル16上の車両(規範動特性モデル16上で実車1に対応する車両)をモデル車両という。該モデル車両の前輪Wfは、実車1の2つの前輪W1,W2を一体化した車輪に相当し、モデル車両の操舵輪である。後輪Wrは、実車1の後輪W3,W4を一体化した車輪に相当し、本参考例1では非操舵輪である。
このモデル車両の重心点Gdの水平面上での速度ベクトルVdがモデル車両の前後方向に対してなす角度βd(すなわち、モデル車両の車両重心点横すべり角βd)と、モデル車両の鉛直軸まわりの角速度γd(すなわち、モデル車両のヨーレートγd)とがそれぞれ、前記規範車両重心点横すべり角、規範ヨーレートとして規範動特性モデル16により逐次決定する規範状態量である。また、モデル車両の前輪Wfの回転面と水平面との交線がモデル車両の前後方向に対してなす角度δf_dが前記モデル前輪舵角として規範動特性モデル16に入力される規範モデル操作量である。また、モデル車両の重心点Gdに付加的に作用させる横方向(モデル車両の左右方向)の並進力Fvirと、該モデル車両の重心点Gdのまわりに付加的に作用させるヨー方向の(鉛直軸まわりの)モーメントMvirとが、前記仮想外力として規範動特性モデル16に入力されるフィードバック制御入力である。
なお、図3中、Vf_dはモデル車両の前輪Wfの水平面上での進行速度ベクトル、Vr_dはモデル車両の後輪Wrの水平面上での進行速度ベクトル、βf_dは前輪Wfの横すべり角(前輪Wfの進行速度ベクトルVf_dが前輪Wfの前後方向(前輪Wfの回転面と水平面との交線の方向)に対してなす角度。以下、前輪横すべり角βf_dという)、βr_dは後輪Wrの横すべり角(後輪Wrの進行速度ベクトルVr_dが後輪Wrの前後方向(後輪Wrの回転面と水平面との交線の方向)に対してなす角度。以下、後輪横すべり角βr_dという)、βf0は、モデル車両の前輪Wfの進行速度ベクトルVf_dがモデル車両の前後方向に対してなす角度(以下、車両前輪位置横すべり角という)である。
補足すると、本明細書の実施形態および参考例では、車両もしくは車輪の横すべり角、車輪の舵角、車両のヨーレート、ヨー方向のモーメントに関しては、車両の上方から見て、反時計まわり方向を正方向とする。また、仮想外力Mvir,Fvirのうちの並進力Fvirは、車両の左向きを正の向きとする。また、車輪の駆動・制動力は、車輪の回転面と路面もしくは水平面との交線方向で車両を前方向へ加速させる力(路面反力)の向きを正の向きとする。言い換えれば、車両の進行方向に対して駆動力となる向きの駆動・制動力を正の値、車両の進行方向に対して制動力となる向きの駆動・制動力を負の値とする。
このモデル車両の動特性(連続系での動特性)は、具体的には、次式01により表される。なお、この式01の右辺の第3項(Fvir,Mvirを含む項)を除いた式は、例えば「自動車の運動と制御」と題する公知の文献(著者:安部正人、発行者:株式会社山海堂、平成16年7月23日第2版第2刷発行。以降、非特許文献1という)に記載されている公知の式(3.12),(3.13)と同等である。
この式01の但し書きにおいて、mはモデル車両の総質量、Kfはモデル車両の前輪Wfを2つの左右の前輪の連結体とみなしたときの1輪あたりのコーナリングパワー、Krはモデル車両の後輪Wrを2つの左右の後輪の連結体とみなしたときの1輪あたりのコーナリングパワー、Lfはモデル車両の前輪Wfの中心と重心点Gdとの前後方向の距離(前輪Wfの舵角が0であるときの該前輪Wfの回転軸と重心点Gdとの前後方向の距離。図3参照)、Lrはモデル車両の後輪Wrの中心と重心点Gdとの前後方向の距離(後輪Wrの回転軸と重心点Gdとの前後方向の距離。図3参照)、Iはモデル車両の重心点Gdにおけるヨー軸まわりのイナーシャ(慣性モーメント)である。これらのパラメータの値は、あらかじめ設定された値である。この場合、例えばm,I,Lf,Lrは、実車1におけるそれらの値と同一か、もしくはほぼ同一に設定される。また、Kf,Krは、それぞれ実車1の前輪W1,W2、後輪W3,W4のタイヤの特性(あるいは該タイヤに要求される特性)を考慮して設定される。なお、Kf,Krの値(より一般的にはa11,a12,a21,a22の値)の設定の仕方によって、アンダーステア、オーバーステア、ニュートラルステアなどのステアリング特性を設定できる。また、実車1におけるm、I、Kf、Krの値を実車1の走行中に同定し、その同定した値をモデル車両のm、I、Kf、Krの値として使用するようにしてもよい。
補足すると、モデル車両のβf0、βd、βf_d、βr_d、γd、δf_dの間の関係は、次式02a,02b,02cにより表される。
βf_d=βd+Lf・γd/Vd−δf_d ……式02a
βr_d=βd−Lr・γd/Vd ……式02b
βf0=βf_d+δf_d=βd+Lf・γd/Vd ……式02c
また、図3に示す如く、モデル車両の前輪Wfのコーナリングフォース(≒前輪Wfの横力)をFfy_d、モデル車両の後輪Wrのコーナリングフォース(=後輪Wrの横力)をFry_dとおくと、Ffy_dとβf_dとの関係、およびFry_dとβr_dとの関係は、次式03a,03bにより表される。
Ffy_d=−2・Kf・βf_d ……式03a
Fry_d=−2・Kr・βr_d ……式03b
本参考例1における規範動特性モデル16の処理では、前記式01のδf_d、Fvir、Mvirを入力として、該式01の演算処理(詳しくは、式01を離散時間系で表現してなる式の演算処理)を制御装置10の制御処理周期で逐次実行することにより、βd,γdが時系列的に逐次算出される。この場合、各制御処理周期において、モデル車両の走行速度Vdの値としては、前記センサ・推定器12により検出もしくは推定された実走行速度Vactの最新値(今回値)が用いられる。つまり、モデル車両の走行速度Vdは、常に実走行速度Vactに一致させられる。また、Fvir,Mvirの値としては、FB分配則20で後述する如く決定された仮想外力の最新値(前回値)が用いられる。また、δf_dの値としては、規範操作量決定部14で後述する如く決定されたモデル前輪舵角の最新値(今回値)が用いられる。なお、新たなβd,γd(今回値)を算出するために、βd,γdの前回値も用いられる。
補足すると、モデル車両の動特性は、より一般的には、次式(4)により表すようにしてもよい。
ここでf1(γd,βd,δf_d)、およびf2(γd,βd,δf_d)は、それぞれγd,βd,δf_dの関数である。前記式01は、関数f1,f2の値をγd,βd,δf_dの線形結合(一次結合)によって表した場合の例である。関数f1,f2は、数式により表現される関数である必要はなく、その関数値がγd,βd,δf_dの値からマップにより決定されるような関数であってもよい。
なお、本参考例1における実車1の挙動特性は、本発明を適用しない場合の実車1のオープン特性(前記アクチュエータFB動作目標値を定常的に0に維持した場合の実車1の挙動特性)と、仮想外力Mvir,Fvirを定常的に0に維持した場合の規範動特性モデル16の挙動特性との中間的な挙動特性を示す。このため、規範動特性モデル16は、一般的には、実車1のオープン特性よりも、より運転者が好ましいと考える応答挙動を示すモデルに設定しておくことが望ましい。具体的には、規範動特性モデル16は、実車1よりもリニアリティが高いモデルに設定しておくことが望ましい。例えば、モデル車両の車輪の横すべり角もしくはスリップ比と、該車輪に路面から作用する路面反力(横力もしくは駆動・制動力)との関係がリニアな関係もしくはそれに近い関係になるように規範動特性モデル16が設定されることが望ましい。前記式01により動特性を表した規範動特性モデル16は、これらの要求を満足するモデルの一例である。
ただし、規範動特性モデル16は、モデル車両の各車輪Wf,Wrに作用する路面反力が横すべり角もしくはスリップ比の変化に対して飽和するような特性を持たせてもよい。例えば、前記コーナリングパワーKf,Krの値を一定値とせずに、それぞれ前輪横すべり角βf_d、後輪横すべり角βr_dに応じて設定する。そして、このとき、前輪横すべり角βf_dの絶対値がある程度大きくなったときに、βf_dに応じて発生する前輪Wfの横力Ffy_d(前記式03aを参照)がβf_dの増加に伴い飽和するように、Kfの値をβf_dに応じて設定する。同様に、後輪横すべり角βr_dの絶対値がある程度大きくなったときに、βr_dに応じて発生する後輪Wrの横力Fry_d(前記式03bを参照)がβr_dの増加に伴い飽和するように、Krの値をβr_dに応じて設定する。このようにすることにより、モデル車両の各車輪Wf,Wrに作用する横力Ffy_d,Fry_dが横すべり角βf_dまたはβr_dに対して飽和特性を持つこととなる。
[規範操作量決定部について]
次に、前記規範操作量決定部14の処理の詳細を図4および図5を参照して説明する。図4は前記規範操作量決定部14の処理機能の詳細を示す機能ブロック図、図5は規範操作量決定部14に備える遠心力過大化防止リミッタ14fの処理を説明するためのグラフである。
図4を参照して、規範操作量決定部14は、まず、処理部14aにおいて、入力される運転操作入力のうちのステアリング角θh(今回値)を、オーバーオールステアリング比isにより除算することにより無制限時前輪舵角δf_unltdを決定する。この無制限時前輪舵角δf_unltdは、ステアリング角θhに応じたモデル前輪舵角δf_dの基本要求値としての意味を持つ。
ここで、オーバーオールステアリング比isは、ステアリング角θhとモデル車両の前輪Wfの舵角との比率であり、例えば実車1のステアリング角θhとこれに応じた実車1の前輪W1,W2の舵角のフィードフォワード値との関係に合わせて設定される。
なお、オーバーオールステアリング比isを一定値(固定値)とせずに、センサ・推定器12で検出もしくは推定された実車1の走行速度Vactに応じて可変的に設定してもよい。この場合には、実車1の走行速度Vactが高くなるに伴い、オーバーオールステアリング比isが大きくなるようにisを設定することが望ましい。
次いで、規範動特性モデル16上のモデル車両の車両前輪位置横すべり角βf0がβf0算出部14bで求められる。このβf0算出部14bには、規範動特性モデル16で決定された規範ヨーレートγdおよび規範車両重心点横すべり角βdの前回値が入力され、これらの値から、前記式02cの演算(式02cの2番目の等号の右辺の演算)によりβf0の前回値が求められる。従って、βf0算出部14bで算出されるβf0は、前回の制御処理周期におけるモデル車両の車両前輪位置横すべり角βf0の値である。。
なお、γd,βdの前回値と、規範操作量決定部14で決定したモデル前輪舵角δf_dの前回値と、実走行速度Vactの前回値とから、前記式02aの演算によりモデル車両の前輪横すべり角βf_dの前回値を求め、この求めたβf_dに規範操作量決定部14で決定したモデル前輪舵角δf_dの前回値を加える(式02cの1番目の等号の右辺の演算を行なう)ことによって、βf0を求めるようにしてもよい。また、各制御処理周期において、βf0の算出を規範動特性モデル16の処理で実行するようにして、その算出されたβf0の前回値を規範操作量決定部14に入力するようにしてもよい。この場合には、規範操作量決定部14におけるβf0算出部14bの演算処理は不要である。
次いで、上記の如く求めた車両前輪位置横すべり角βf0から無制限時前輪舵角δf_unltdを減算器14cで減じることによって、無制限時前輪横すべり角が求められる。この無制限時前輪横すべり角は、モデル車両のモデル前輪舵角δf_dを前回値から、無制限時前輪舵角δf_unltd(今回値)に瞬時に制御したとした場合に発生するモデル車両の前輪横すべり角βf_dの瞬時予測値を意味する。
次いで、規範操作量決定部14は、この無制限時前輪横すべり角を前輪横すべり角リミッタ14dに通すことにより、制限済み前輪横すべり角を決定する。ここで、図中に示す前輪横すべり角リミッタ14dのグラフは、無制限時前輪横すべり角と制限済み前輪横すべり角との関係を例示するグラフであり、そのグラフに関する横軸方向の値は無制限時前輪横すべり角の値、縦軸方向の値は制限済み前輪横すべり角の値である。
この前輪横すべり角リミッタ14dは、モデル車両の前輪横すべり角βf_dの大きさが過大になるのを抑制する(ひいては、実車1に対して要求される前輪W1,W2の横力が過大にならないようにする)ためのリミッタである。
本参考例1では、前輪横すべり角リミッタ14dは、規範操作量決定部14にセンサ・推定器12から入力される推定摩擦係数μestm(今回値)と実走行速度Vact(今回値)とに応じて、前輪横すべり角βf_dの許容範囲(詳しくは該許容範囲の上限値βf_max(>0)および下限値βf_min(<0))を設定する。この場合、基本的には、推定摩擦係数μestmが小さいほど、あるいは、実走行速度Vactが高いほど、許容範囲[βf_min,βf_max]を狭くする(βf_max,βf_minを0に近づける)ように該許容範囲が設定される。このとき、該許容範囲[βf_min,βf_max]は、例えば実車1の前輪W1,W2の横すべり角と横力もしくはコーナリングフォースとの間の関係がほぼリニアな関係(比例関係)に維持されるような横すべり角の値の範囲内に設定される。
なお、該許容範囲[βf_min,βf_max]は、μestmとVactとのうちのいずれか一方に応じて設定してもよく、あるいは、μestmとVactとによらずにあらかじめ固定的な許容範囲に設定してもよい。
そして、前輪横すべり角リミッタ14dは、入力された無制限時前輪横すべり角が、上記の如く設定した許容範囲[βf_min,βf_max]内の値であるとき(βf_min≦無制限時前輪横すべり角≦βf_maxであるとき)には、無制限時前輪横すべり角の値をそのまま制限済み前輪横すべり角として出力する。また、該前輪横すべり角リミッタ14dは、入力された無制限時前輪横すべり角の値が許容範囲を逸脱している場合には、許容範囲[βf_min,βf_max]の下限値βf_minまたは上限値βf_maxを制限済み前輪横すべり角として出力する。具体的には、無制限時前輪横すべり角>βf_maxである場合には、βf_maxが制限済み前輪横すべり角として出力され、無制限時前輪横すべり角<βf_minである場合には、βf_minが制限済み前輪横すべり角として出力される。これにより、制限済み前輪横すべり角は、許容範囲[βf_min,βf_max]内で、無制限時前輪横すべり角に一致するか、もしくは該無制限時前輪横すべり角に最も近い値となるように決定される。
次いで、前記βf0算出部14bで求めた車両前輪位置横すべり角βf0から上記の如く求めた制限済み前輪横すべり角を減算器14eで減算することにより、第1制限済み前輪舵角δf_ltd1が求められる。このようにして求められた第1制限済み前輪舵角δf_ltd1は、モデル車両の前輪横すべり角βf_dが許容範囲[βf_min,βf_max]から逸脱しないように無制限時前輪舵角δf_unltdに制限を掛けてなるモデル前輪舵角δf_dとしての意味を持つ。
次いで、規範操作量決定部14は、この第1制限済み前輪舵角δf_ltd1を遠心力過大化防止リミッタ14fに通すことにより、第2制限済み前輪舵角δf_ltd2を決定する。このδf_ltd2が、規範動特性モデル16に入力するモデル前輪舵角δf_dの値として使用されるものである。ここで、図中に示す遠心力過大化防止リミッタ14fのグラフは、第1制限済み前輪舵角δf_ltd1と第2制限済み前輪舵角δf_ltd2との関係を例示するグラフであり、そのグラフに関する横軸方向の値はδf_ltd1の値、縦軸方向の値はδf_ltd2の値である。
この遠心力過大化防止リミッタ14fは、モデル車両に発生する遠心力が過大にならないようにする(ひいては実車1に対して要求される遠心力が過大にならないようにする)ためのリミッタである。
本参考例1では、遠心力過大化防止リミッタ14fは、規範操作量決定部14に入力される推定摩擦係数μestm(今回値)と実走行速度Vact(今回値)とに応じて、モデル前輪舵角δf_dの許容範囲(詳しくは該許容範囲の上限値δf_max(>0)および下限値δf_min(<0))を設定する。この許容範囲[δf_min,δf_max]は、仮想外力Mvir,Fvirが定常的に0に保持されているとした場合に、モデル車両が路面との摩擦限界を超えずに定常円旋回を行なうことが可能となるモデル前輪舵角δf_dの許容範囲である。
具体的には、まず、規範操作量決定部14に入力されるVact,μestmの値(今回値)を基に、次式05を満足するヨーレートである定常円旋回時最大ヨーレートγmax(>0)が求められる。
m・γmax・Vact=C1・μestm・m・g ……式05
ここで、式05におけるmは前記した通り、モデル車両の総質量である。また、gは重力加速度、C1は1以下の正の係数である。この式05の左辺は、モデル車両のヨーレートγdおよび走行速度Vdをそれぞれγmax、Vactに保持して、該モデル車両の定常円旋回を行なった場合に該モデル車両に発生する遠心力(より詳しくは該遠心力の収束予想値)を意味する。また、式05の右辺の演算結果の値は、μestmに応じて定まる路面反力(詳しくはモデル車両に車輪Wf,Wrを介して路面から作用し得るトータルの摩擦力(路面反力の並進力水平成分の総和))の大きさの限界値に係数C1を乗じた値(≦限界値)である。従って、定常円旋回時最大ヨーレートγmaxは、モデル車両に作用させる仮想外力Mvir,Fvirを0に保持すると共にモデル車両のヨーレートγdおよび走行速度Vdをそれぞれγmax、Vactに保持して、該モデル車両の定常円旋回を行なった場合に該モデル車両に発生する遠心力が、推定摩擦係数μestmに対応してモデル車両に作用し得るトータルの摩擦力(路面反力の並進力水平成分の総和)の限界値を超えないように決定される。
なお、式05の係数C1の値は、μestm,Vactのうちの少なくともいずれか一方の値に応じて可変的に設定するようにしてもよい。この場合、μestmが小さいほど、あるいはVactが高いほど、C1の値を小さくすることが好ましい。
次いで、モデル車両の定常円旋回時の、γmaxに対応するモデル前輪舵角δf_dの値が定常円旋回時限界舵角δf_max_c(>0)として求められる。ここで、前記式01により表される規範動特性モデル16では、定常円旋回時のモデル車両のヨーレートγdとモデル前輪舵角δf_dとの間には、次式06の関係が成立する。
なお、Vdが十分に小さいとき(Vd2≒0とみなせるとき)には、式06は近似的に次式07に書き換えることができる。
γd=(Vd/L)・δf_d ……式07
そこで、本参考例1では、式06あるいは式07におけるγd,Vdのそれぞれの値をγmax、Vactとして、δf_dについて解くことにより、γmaxに対応する定常円旋回時限界舵角δf_max_cを求める。
モデル車両に発生する遠心力が過大にならないようにするためのモデル前輪舵角δf_dの許容範囲[δf_min,δf_max]は、基本的には、許容範囲[−δf_max_c,δf_max_c]に設定すればよい。ただし、その場合には、実車1のカウンタステア状態(実車1のヨーレートの極性と逆極性の向きに前輪W1,W2を操舵する状態)において、モデル前輪舵角δf_dが不要な制限を受ける場合がある。
そこで、本参考例1では、モデル車両のヨーレートγdとγmaxとに応じて次式08a,08bによりδf_max_c、−δf_max_cを修正することで、モデル前輪舵角δf_dの許容範囲の上限値δf_maxおよび下限値δf_minを設定する。
δf_max=δf_max_c+fe(γd,γmax) ……式08a
δf_min=−δf_max_c−fe(−γd,−γmax) ……式08b
式08a,08bにおけるfe(γd,γmax)、fe(−γd,−γmax)は、γd,γmaxの関数であり、その関数値が例えば図5(a),(b)のグラフに示すようにγd,γmaxの値に応じて変化する関数である。この例では、関数fe(γd,γmax)の値は、図5(a)のグラフに示す如く、γdが0よりも若干大きい所定の値γ1以下の値である場合(γd<0の場合を含む)には、正の一定値fexになる。そして、fe(γd,γmax)の値は、γd>γ1である場合には、γdが大きくなるに伴い、単調に減少して、γdがγmax以下の所定値であるγ2(>γ1)に達するまでに0になる。さらに、fe(γd,γmax)の値は、γd>γ2である場合(γd≧γmaxの場合を含む)には、0に維持される。
また、関数fe(−γd,−γmax)は、関数fe(γd,γmax)の変数γd,γmaxの極性を反転させた関数であるので、該関数fe(−γd,−γmax)の値は、図5(b)のグラフに示す如くγdに対して変化する。すなわち、γdが0よりも若干小さい所定の負の値−γ1以上の値である場合(γd>0の場合を含む)には、正の一定値fexになる。そして、fe(−γd,−γmax)の値は、γd<−γ1である場合には、γdが小さくなるに伴い、単調に減少して、γdが−γmax以上の所定値である−γ2に達するまでに0になる。さらに、fe(−γd,−γmax)の値は、γd<−γ2である場合(γd≦−γmaxの場合を含む)には、0に維持される。
なお、関数fe(γd,γmax)、fe(−γd,−γmax)の値を決定するために必要なγdの値としては、規範動特性モデル16で決定した規範ヨーレートγdの前回値を用いればよい。
また、関数fe(γd,γmax)のグラフの折れ点におけるγdの値γ1,γ2、あるいは、上記正の一定値fexは、推定摩擦係数μestmや実走行速度Vactに応じて可変的に変更するようにしてもよい。
上記のようにδf_max_cを関数feの値により補正してモデル前輪舵角δf_dの許容範囲[δf_min,δf_max]を設定することで、γdと逆向きの方向のモデル前輪舵角δf_dの限界値δf_maxまたはδf_minの大きさ(絶対値)は、モデル車両に発生させる遠心力の限界に対応する定常円旋回時限界舵角δf_max_cよりも大きめに設定される。このため、実車1のカウンタステア状態において、モデル前輪舵角δf_dが不要な制限を受けるのを防止することができる。なお、該許容範囲[−δf_min,δf_max]は、実走行速度Vactが高いほど、あるいは、推定摩擦係数μestmが小さいほど、狭くなる。
上記のようにモデル前輪舵角δf_dの許容範囲を設定した後、遠心力過大化防止リミッタ14fは、入力された第1制限済み前輪舵角δf_ltd1が許容範囲[δf_min,δf_max]内の値であるとき(δf_min≦δf_ltd1≦δf_maxであるとき)には、δf_ltd1の値をそのまま第2制限済み前輪舵角δf_ltd2(=規範動特性モデル16に入力するモデル前輪舵角δf_d)として出力する。また、該遠心力過大化防止リミッタ14fは、入力されたδf_ltd1の値が許容範囲[δf_min,δf_max]を逸脱している場合には、その入力値を強制的に制限してなる値を第2制限済み前輪舵角δf_ltd2として出力する。具体的には、δf_ltd1>δf_maxである場合には、δf_maxが第2制限済み前輪舵角δf_ltd2として出力され、δf_ltd1<δf_minである場合には、δf_minが第2制限済み前輪舵角δf_ltd2として出力される。これにより、δf_ltd2は、許容範囲[δf_min,δf_max]内で、第1制限済み前輪舵角δf_ltd1に一致するか、もしくは、第1制限済み前輪舵角δf_ltd1に最も近い値になるように決定される。
なお、前記式01で表される規範動特性モデル16では、モデル車両の定常円旋回時には、βdとγdとの間に次式09の関係が成立する。
また、Vdが十分に小さいとき(Vd2≒0とみなせるとき)には、式09は近似的に次式10に書き換えることができる。
βd=(Lr/Vd)・γd ……式10
従って、モデル車両の定常円旋回時におけるγdあるいはγmaxの値は、式09または式10によりβdの値に変換できる(但し、Vd=Vactとする)。このため、上記の如くヨーレートγd,γmaxの値に応じてモデル前輪舵角δf_dの許容範囲を設定する代わりに、ヨーレートγd,γmaxに対応する車両重心点横すべり角βdの値に応じてモデル前輪舵角δf_dの許容範囲を設定するようにしてもよい。
以上が規範操作量決定部14の処理の詳細である。
以上説明した規範操作量決定部14の処理によって、規範動特性モデル16上のモデル車両の前輪横すべり角βf_dの瞬時値が過大にならず、且つ、モデル車両に発生する遠心力が過大にならないようにしつつ、運転操作入力のうちのステアリング角θhに応じて、第2制限済み前輪舵角δf_ltd2が規範動特性モデル16に入力するモデル前輪舵角δf_dとして制御処理周期毎に決定される。
補足すると、遠心力過大化防止リミッタ14fにおいて、規範動特性モデル16に入力するモデル前輪舵角δf_dを上記の如く制限して、モデル車両に発生する遠心力が過大にならないようにするということは、モデル車両の車両重心点横すべり角βd(もしくは後輪横すべり角βr_d)が過大にならないようにモデル前輪舵角δf_dを制限することと同等である。また、一般に、車両の遠心力や車両重心点横すべり角(もしくは後輪横すべり角)はステアリング操作に対して遅れて発生するので、遠心力過大化防止リミッタ14fによるモデル前輪舵角δf_dの制限処理は、車両の遠心力や車両重心点横すべり角(もしくは後輪横すべり角)の収束予想値を基に、モデル前輪舵角δf_dを制限する処理であると言える。これに対して、前輪横すべり角リミッタ14dの制限処理は、モデル車両の前輪横すべり角βf_dの瞬時値が過大にならないようにモデル前輪舵角δf_dを制限するための処理であると言える。
なお、本参考例1では、遠心力過大化防止リミッタ14fで許容範囲[δf_min,δf_max]を設定するために使用する関数feを前記図5(a),(b)に示した如く設定したが、これに限定されるものではない。
例えば、関数fe(γd,γmax)を、図6に実線のグラフで示すように設定してもよい。この例では、fe(γd,γmax)は、その値がγdの値の増加(負側の値から正側の値への増加)に伴い、単調に減少すると共に、γd=γmaxであるときに0になる。なお、このとき、関数fe(−γd,−γmax)は図6に破線のグラフで示すものとなる。この場合、前記式08aにより決定されるモデル前輪舵角δf_dの許容範囲の上限値δf_maxは、γdがγmaxを超えると、γdの増加に伴い、定常円旋回時限界舵角δf_max_cよりも0に近づくこととなる。同様に、前記式08bにより決定されるモデル前輪舵角δf_dの許容範囲の下限値δf_minは、γdが−γmaxを負側に超えると、γdの減少(大きさの増加)に伴い、−δf_maxよりも0に近づくこととなる。
また、前記式08a,08bの代わりに、次式11a,11bにより、δf_dの許容範囲の上限値δf_maxおよび下限値δf_minを設定するようにすると共に、関数fe(γd,γmax),fe(−γd,−γmax)をそれぞれ、例えば図7の実線、破線のグラフで示すように設定してもよい。
δf_max=δf_max_c・fe(γd,γmax) ……式11a
δf_min=−δf_max_c・fe(−γd,−γmax) ……式11b
この例では、fe(γd,γmax),fe(−γd,−γmax)は、その値が常に1以上であり、また、図5(a),(b)のものと同様の形態でγdに応じて変化する。そして、これらのfe(γd,γmax),fe(−γd,−γmax)の値をそれぞれδf_max_c,δf_min_cに乗じることにより、上限値δf_maxと下限値δf_minとが設定されることとなる。
また、δf_max_cを関数feの値により補正してモデル前輪舵角δf_dの許容範囲[δf_min,δf_max]を設定する代わりに、例えば以下のような処理により第2制限済み前輪舵角δf_ltd2を決定するようにしてもよい。図8はその処理機能を説明するための機能ブロック図である。
すなわち、前記前輪横すべり角リミッタ14dで決定された第1制限済み前輪舵角δf_ltd1を補正するための前輪舵角補正分Δδfを処理部14gにおいてモデル車両のヨーレートγd(前回値)に応じて決定する。このとき、Δδfは処理部14g中のグラフで示すように、基本的には、γdが正側で増加するに伴い、Δδfの値が正側で単調増加し、また、γdが負側で減少するに伴い、Δδfの値が負側で単調減少するように決定される。なお、処理部14g中のグラフでは、Δδfの値には上限値(>0)および下限値(<0)が設けられている。この場合、上限値および下限値は、例えばその絶対値が前記図5(a),(b)に示した一定値fexと同じ値になるように設定される。
次いで、上記の如く決定した前輪舵角補正分Δδfを、前記減算器14e(図4参照)で算出された第1制限済み前輪舵角δf_ltd1に加算器14hで加えることにより入力補正付き第1制限済み前輪舵角を決定する。この場合、δf_ltd1の向きとγdの向きとが互いに逆向きである場合には、入力補正付き第1制限済み前輪舵角の大きさは、δf_ltd1の大きさよりも小さくなる。ただし、δf_ltd1の向きとγdの向きとが同じである場合には、入力補正付き第1制限済み前輪舵角の大きさは、δf_ltd1の大きさよりも大きくなる。
次いで、この入力補正付き第1制限済み前輪舵角を遠心力過大化防止リミッタ14fに通すことで、入力補正付き第1制限済み前輪舵角をモデル前輪舵角δf_dの許容範囲[δf_min,δf_max]内の値に制限してなる入力補正付き第2制限済み前輪舵角を決定する。すなわち、入力補正付き第1制限済み前輪舵角が許容範囲内の値である場合には、該入力補正付き第1制限済み前輪舵角がそのまま入力補正付き第2制限済み前輪舵角として決定される。また、入力補正付き第1制限済み前輪舵角が許容範囲から逸脱している場合には、δf_maxおよびδf_minのうち、入力補正付き第1制限済み前輪舵角に近い方の値が入力補正付き第2制限済み前輪舵角として決定される。
この場合、遠心力過大化防止リミッタ14fにおけるモデル前輪舵角δf_dの許容範囲の上限値δf_max(>0)は、δf_ltd1の向きとγdの向きとが同じである場合のδf_ltd1の補正分を見込んで、前記定常円旋回時舵角限界値δf_max_cよりも大きめの値(例えばδf_max_c+fex)に設定される。同様に、モデル前輪舵角δf_dの許容範囲の下限値δf_min(<0)は、その絶対値がδf_max_cよりも大きめの値になるように設定される。
次いで、上記の如く決定した入力補正付き第2制限済み前輪舵角から、前記前輪舵角補正分Δδfを減算器14iで減じることにより、第2制限済み前輪舵角δf_ltd2を決定する。
上記のように第2制限済み前輪舵角δf_ltd2を決定するようにしても、モデル車両に発生する遠心力が過大にならないようにし、且つ、実車1のカウンタステアリング状態での不要な制限がかかるのを防止しつつ、規範動特性モデル16に入力するモデル前輪舵角δf_d(=δf_ltd2)を決定できる。
なお、本参考例1では、規範動特性モデル16に入力するモデル前輪舵角δf_dを決定するために、前記前輪横すべり角リミッタ14dおよび遠心力過大化防止リミッタ14fの処理を行なうようにしたが、いずれか一方もしくは両者の処理を省略してもよい。すなわち、処理部14aで決定される無制限時前輪舵角δf_unltd、あるいは、このδf_unltdを遠心力過大化防止リミッタ14fに入力して得られる値、あるいは、前記減算器14eで決定される第1制限済み前輪舵角δf_ltd1を規範動特性モデル16に入力するモデル前輪舵角δf_dとして決定するようにしてもよい。
以上説明した如く規範操作量決定部14で決定されたモデル前輪舵角δf_dの今回値(=δf_ltd2の今回値)が規範動特性モデル16に入力され、その入力値と後述する如くFB分配則20で決定された仮想外力Fvir,Mvir(前回値)とから、該規範動特性モデル16によって(前記式01に従って)、規範ヨーレートγdおよび規範車両重心点横すべり角βdの今回値が新たに決定されることとなる。なお、この処理は、実際には、式01を離散時間系で表した式によって行なわれるので、γd,βdの今回値を決定するために、γd,βdの前回値も使用されることとなる。
この場合、規範動特性モデル16に入力されるモデル前輪舵角δf_dは、前記の如く規範操作量決定部14で制限されているので、モデル車両のスピンや極端な横すべりの発生が防止される。
[FB分配則について]
次に、FB分配則20の処理の詳細を図9〜図16を参照して説明する。
図9はFB分配則20の処理機能を示す機能ブロック図である。図示の如くFB分配則20は、その処理機能を大別すると、仮想外力Mvir,Fvirを決定する処理を行なう仮想外力決定部20aとアクチュエータ動作FB目標値を決定する処理を行なうアクチュエータ動作FB目標値決定部20bとから構成される。
なお、仮想外力決定部20aは、本発明における車両モデル操作用制御入力決定手段に相当する。そして、アクチュエータ動作FB目標値決定部20bは、本発明における実車アクチュエータ操作用制御入力決定手段の構成要素(本発明におけるフィードバック制御入力を決定する手段)である。
まず、仮想外力決定部20aを図9を参照して説明すると、この仮想外力決定部20aの処理機能は、仮想外力仮値決定部201とγβ制限器202とに大別される。
仮想外力決定部20aの処理では、まず、前記減算器18から入力される状態量偏差γerr(=γact−γd),βerr(=βact−βd)に応じて、仮想外力仮値決定部201によって仮想外力の仮値Mvirtmp,Fvirtmpが決定される。仮値Mvirtmp,FvirtmpのうちのMvirtmpは、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるために規範動特性モデル16のモデル車両の重心点Gdのまわりに付加的に発生させるべきモーメント(ヨー方向のモーメント)、Fvirtmpは、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるために規範動特性モデル16のモデル車両の重心点Gdに付加的に作用させるべき並進力(モデル車両の横方向の並進力)を意味する。
具体的には、次式15で示す如く、入力された状態量偏差γerr,βerrからなるベクトル(γerr,βerr)T(添え字Tは転置を意味する)に所定のゲインマトリクスKfvirを乗じることにより、仮想外力の仮値Mvirtmp,Fvirtmp(以下、仮想外力仮値Mvirtmp,Fvirtmpという)が決定される。
この式15により、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるために規範動特性モデル16にフィードバックする制御入力の仮値としての仮想外力仮値Mvirtmp,Fvirtmpが、状態量偏差γerr,βerrからフィードバック制御則により決定される。
なお、以下に詳説するγβ制限器202が、モデル車両の車両重心点横すべり角βdもしくは実車1の実車両重心点横すべり角βactが所定の許容範囲を超えそうになった時、および越えてしまった時にだけ、βdもしくはβactを許容範囲に戻す作用を強く発生するようにしたいならば、βerrを時定数の小さい1次遅れ特性に近い特性で0に収束させることが望ましい。そのためには、例えばゲインマトリクスKfvirの成分のうちのKfvir12を0に設定し、Kfvir11をその絶対値が大きくなるように設定すればよい。
次いで、規範動特性モデル16上のモデル車両のヨーレートγdおよび車両重心点横すべり角βdがそれぞれ所定の許容範囲から逸脱するのを抑制するように仮想外力仮値Mvirtmp,Fvirtmpを修正する処理がγβ制限器202により実行される。
具体的には、γβ制限器202は、まず、予測演算部203の処理を実行し、所定時間後(1つ以上の所定数の制御処理周期の時間後)のモデル車両のヨーレートγdと車両重心点横すべり角βdとを予測し、それらの予測値をそれぞれ予測ヨーレートγda、予測車両重心点横すべり角βdaとして出力する。
このとき予測演算部203には、規範動特性モデル16で決定された規範ヨーレートγd(今回値)および規範車両重心点横すべり角βd(今回値)と、センサ・推定器12で検出または推定された実走行速度Vact(今回値)と、規範操作量決定部14で決定された第2制限済み前輪舵角δf_ltd2(今回値)と、仮想外力仮値決定部201で上記の如く決定された仮想外力仮値Mvirtmp,Fvirtmp(今回値)とが入力される。そして、該予測演算部203は、モデル前輪舵角δf_dが、入力されたδf_ltd2に保持され、且つ、モデル車両に作用する仮想外力Mvir,Fvirが、入力されたMvirtmp,Fvirtmpに保持され、且つ、モデル車両の走行速度Vdが、入力されたVactに保持されると仮定して、前記式01に基づいて、予測ヨーレートγdaおよび予測車両重心点横すべり角βdaを算出する。
次いで、γβ制限器202は、上記の如く予測演算部203で算出したγda,βdaをそれぞれγ不感帯処理部204、β不感帯処理部205に通すことにより、γda,βdaのそれぞれの、所定の許容範囲からの逸脱量γover,βoverを求める。図中に示すγ不感帯処理部204のグラフは、γdaとγoverとの関係を例示するグラフであり、該グラフに関する横軸方向の値はγdaの値、縦軸方向の値はγoverの値である。同様に、図中に示すβ不感帯処理部205のグラフは、βdaとβoverとの関係を例示するグラフであり、該グラフに関する横軸方向の値はβdaの値、縦軸方向の値はβoverの値である。
ここで、γ不感帯処理部204における許容範囲は、その下限値、上限値をそれぞれγdamin(<0),γdamax(>0)とする許容範囲(ヨーレートγdの許容範囲)であり、β不感帯処理部205における許容範囲は、その下限値、上限値をそれぞれβdamin(<0),βdamax(>0)とする許容範囲(車両重心点横すべり角βdの許容範囲)である。
本参考例1では、ヨーレートγdに関する許容範囲[γdamin,γdamax]は、例えばモデル車両の走行速度VdをVact(今回値)に保持すると共に、モデル車両のヨーレートγdをγdaminまたはγdamaxに保持して定常円旋回を行なった場合にモデル車両に発生する遠心力が推定摩擦係数μestm(今回値)に応じた摩擦力の限界値を超えないように設定される。すなわち、次式16a,16bを満足するように、Vact(今回値)とμestm(今回値)とに応じて、γdamax,γdaminが設定される。
m・Vact・γdamax<μestm・m・g ……式16a
m・Vact・γdamin>−μestm・m・g ……式16b
γdamax,γdaminは、例えばそれぞれの絶対値が前記式05により決定される定常円旋回時最大ヨーレートγmaxと同じ値になるように設定すればよい(γdamax=γmax、γdamin=−γmaxとする)。ただし、γdamax,γdaminを、その絶対値がγmaxと異なる値(例えばγmaxよりも小さい値)になるように設定してもよい。
なお、上記のように設定される許容範囲[γdamin,γdamax]は、実走行速度Vactが高いほど、あるいは、推定摩擦係数μestmが小さいほど、狭くなる。
また、車両重心点横すべり角βdに関する許容範囲[βdamin,βdamax]は、例えば、実車1の車両重心点横すべり角と実車1の重心点に作用する横方向の並進力との間の関係がほぼリニアな関係(比例関係)に維持されるような車両重心点横すべり角の範囲内に設定される。この場合、Vact(今回値)とμestm(今回値)とのうちの少なくともいずれか一方に応じてβdamin,βdamaxを設定することが望ましい。
そして、γ不感帯処理部204の処理では、具体的には、入力されたγdaが所定の許容範囲[γdamin,γdamax]内の値であるとき(γdamin≦γda≦γdamaxであるとき)には、γover=0とし、γda<γdaminであるときには、γover=γda−γdaminとし、γda>γdamaxであるときには、γover=γda−γdamaxとする。これにより、予測ヨーレートγdaの許容範囲[γdamin,γdamax]からの逸脱量γoverが求められる。
同様に、β不感帯処理部205の処理は、入力されたβdaの値が所定の許容範囲[βdamin,βdamax]内の値であるとき(βdamin≦βda≦βdamaxであるとき)には、βover=0とし、βda<βdaminであるときには、βover=βda−βdaminとし、βda>βdamaxであるときには、βover=βda−βdamaxとする。これにより、予測車両重心点横すべり角βdaの許容範囲[βdamin,βdamax]からの逸脱量βoverが求められる。
次いで、γβ制限器202は、これらの逸脱量γover,βoverを0に近づけるように、仮想外力仮値Mvirtmp,Fvirtmpの補正量である仮値操作量Mvir_over,Fvir_overを処理部206にて算出する。
具体的には、次式17で示す如く、γover,βoverからなるベクトル(γover,βover)Tに所定のゲインマトリクスKfovを乗じることにより、Mvir_over,Fvir_overが決定される。
次いで、γβ制限器202は、この仮値操作量Mvir_over,Fvir_overをそれぞれ仮想外力仮値Mvirtmp,Fvirtmpから減算器207で減じることにより、仮想外力Mvir,Fvirの今回値を決定する。すなわち、次式18a,18bにより仮想外力Mvir,Fvirが決定される。
Mvir=Mvirtmp−Mvir_over ……式18a
Fvir=Fvirtmp−Fvir_over ……式18b
以上の如く仮想外力決定部20aの処理が実行されることにより、予測ヨーレートγdaおよび予測車両重心点横すべり角βdaがそれぞれ許容範囲[γdamin,γdamax]、[βdamin,βdamax]から逸脱するのを抑制しつつ、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるように仮想外力Mvir,Fvirが決定されることとなる。
なお、以上説明した仮想外力決定部20aのγβ制限器202は、仮値操作量Mvir_over,Fvir_overにより仮想外力仮値Mvirtmp,Fvirtmpを補正することにより仮想外力Mvir,Fvirを決定する(より一般的に言えば、Mvir_overとMvirtmpとの線形結合、並びに、Fvir_overとFvirtmpとの線形結合によってそれぞれMvir,Fvirを決定する)ようにしたが、次のようにして、仮想外力Mvir,Fvirを決定するようにしてもよい。図10はその処理を説明するための機能ブロック図である。
同図を参照して、この例では、仮想外力仮値決定部201、予測演算部203、γ不感帯処理部204、β不感帯処理部205、処理部206の処理は、図9のものと同じである。一方、本例では、処理部206で求められた仮値操作量Fvir_over,Mvir_overはそれぞれ処理部208,209に入力され、該処理部208,209において、仮想外力仮値Mvirtmp,Fvirtmpをそれぞれ補正するための補正係数Katt1(≧0),Katt2(≧0)が決定される。これらの補正係数Katt1,Katt2は、それぞれ仮想外力仮値Mvirtmp,Fvirtmpに乗じる補正係数である。なお、図中に示す処理部208に係わるグラフは、Mvir_overとKatt1との関係を例示するグラフであり、該グラフに関する横軸方向の値はMvir_overの値、縦軸方向の値はKatt1の値である。同様に、図中に示す処理部209に係わるグラフは、Fvir_overとKatt2との関係を例示するグラフであり、該グラフに関する横軸方向の値はFvir_overの値、縦軸方向の値はKatt2の値である。
処理部208の処理では、図中のグラフで示す如く、Mvir_overが0であるときには、Katt1=1とされ、Mvir_overの絶対値が0から増加するに伴い、Katt1の値が1から0まで単調に減少するようにKatt1の値が設定される。そして、Katt1の値は、Mvir_overの絶対値が所定値(Katt1が0に達する値)を超えると0に維持される。
同様に、処理部209の処理では、図中のグラフで示す如く、Fvir_overが0であるときには、Katt2=1とされ、Fvir_overの絶対値が0から増加するに伴い、Katt2の値が1から0まで単調に減少するようにKatt2の値が設定される。そして、Katt2の値は、Fvir_overの絶対値が所定値(Katt2が0に達する値)を超えると0に維持される。
次いで、上記の如く決定された補正係数Katt1,Katt2は、それぞれ乗算器210,211にて、仮想外力仮値Mvirtmp、Fvirtmpに乗算され、これにより、仮想外力Mvir,Fvirの今回値が決定される。
このように、図10の例では、逸脱量Mvir_overの絶対値が大きくなるに伴い、仮想外力Mvirの大きさを仮想外力仮値Mvirtmpに対して絞る(0に近づける)ように仮想外力Mvirが決定される。同様に、逸脱量Fvir_overの絶対値が大きくなるに伴い、仮想外力Mvirの大きさを仮想外力仮値Mvirtmpに対して絞る(0に近づける)ように仮想外力Fvirが決定される。このように仮想外力Mvir,Fvirを決定するということは、γda,βdaの許容範囲からの逸脱が、仮想外力Mvir,Fvirに起因するものであるとみなして、γda,βdaの許容範囲[γdamin,γdamax],[βdamin,βdamax]からの逸脱を抑制しつつ、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるように仮想外力Mvir,Fvirを決定することを意味する。この場合は、規範操作量決定部14において、前記した如く、規範動特性モデル16に入力するモデル前輪舵角δf_dを制限しておくことが望ましい。
また、以上説明したγβ制限器202では、予測演算部203で前記した如く式01を用いて求めた予測ヨーレートγdaおよび予測車両重心点横すべり角βdaをそれぞれ制限対象量とし、これらのγda,βdaをγ不感帯処理部204、β不感帯処理部205に入力して逸脱量γover,βoverを求めた。ただし、γda,βdaの代わりに、規範ヨーレートγd、規範車両重心点横すべり角βdの今回値、あるいは、実ヨーレートγact、実車両重心点横すべり角βactの今回値、あるいは、これらの値に、フィルタリング処理を施した値を制限対象量として用いてもよい。
例えば、各制御処理周期でγdaの代わりにγdの今回値をγ不感帯処理部204に入力すると共に、規範動特性モデル16で逐次算出されるβdに、伝達関数が(1+T1・s)/(1+T2・s)という形で表されるフィルタリング処理(T1,T2はある時定数、sはラプラス演算子)を施してなる値をβdaの代わりにβ不感帯処理部205に入力するようにしてもよい。この場合、例えばT1>T2となるように時定数T1,T2を設定すると、該フィルタリング処理は、いわゆる位相進み補償要素として機能する。このとき、ある程度高い周波数域におけるβdの周波数成分の位相を進め、該周波数成分に対するゲインを高めることによって、各制御処理周期で決定されるβdの値自体が許容範囲[βdamin,βdamax]を逸脱する前から、βoverに応じて仮想外力Mvir,Fvirを制限することができる。
また、制限対象量としてのγda,βdaを以下のように求めるようにしてもよい。すなわち、予測演算部203では、次式19a,19bで示すように、適当な係数cijを用いてγd、βdの今回値を線形結合してなる値をγda,βdaとして求めるようにしてもよい。
γda=c11・γd+c12・βd ……式19a
βda=c21・γd+c22・βd ……式19b
あるいは、次式20a,20bで示すように、適当な係数cijを用いてγd、βd、Mvirtmp,Fvirtmp、およびδf_ltd2の今回値を線形結合してなる値をγda,βdaとして求めるようにしてもよい。
γda=c11・γd+c12・βd
+c13・Mvirtmp+c14・Fvirtmp+c15・δf_ltd2 ……20a
βda=c21・γd+c22・βd
+c23・Mvirtmp+c24・Fvirtmp+c25・δf_ltd2 ……20b
なお、これらの式20a,20bは、前記した予測演算部203の処理をより一般化して表現したものである。
あるいは、次式21a,21bで示すように、適当な係数cijを用いてγact、βactの今回値を線形結合してなる値をγda,βdaとして求めるようにしてもよい。
γda=c11・γact+c12・βact ……式21a
βda=c21・γact+c22・βact ……式21b
補足すると、式02bから明らかなように、c21=−Lr/Vd、c22=1(ここで、Vdは、モデル車両の走行速度(=実走行速度Vact))とすれば、βdaは後輪の横滑り角に相当する。
あるいは、次式22a,22bで示すように、適当な係数cijを用いて、γd、βd、βdの時間微分値dβd/dt、γact、βact、βactの時間微分値dβact/dt、Mvirtmp,Fvirtmp、およびδf_ltd2の今回値を線形結合してなる値をγda,βdaとして求めるようにしてもよい。
γda=c11・γd+c12・βd+c13・dβd/dt
+c14・γact+c15・βact+c16・dβact/dt
+c17・Mvirtmp+c18・Fvirtmp+c19・δf_ltd2 ……22a
γda=c21・γd+c22・βd+c23・dβd/dt
+c24・γact+c25・βact+c26・dβact/dt
+c27・Mvirtmp+c28・Fvirtmp+c29・δf_ltd2 ……22b
あるいは、式20aの右辺の演算結果の値と式21aの右辺の演算結果の値との加重平均値、並びに、式20bの右辺の演算結果の値と式21bの右辺の演算結果の値との加重平均値をそれぞれγda、βdaとして求めるようにしてもよい。なお、これは、式22a、式22bによりγda、βdaを求める場合の一例となる。また、式20a、式20b、あるいは、式22a、式22bにおけるMvirtmp,Fvirtmpの項を省略してもよい。
あるいは、所定時間後までの各制御処理周期におけるγd、βdの予測値を前記式01に基づいて求め、その求めたγd,βdのうちのピーク値をγda,βdaとして決定するようにしてもよい。
さらに、式20a,式20b、あるいは、式21a,式21b、あるいは、式22a,式22bのいずれを用いてγda,βdaを求める場合であっても、それらの式の係数cijに、周波数特性をもたせる(換言すればcijを掛ける変数の値にローパスフィルタなどのフィルタリング処理を施す)ようにしてもよい。あるいは、係数cijを掛ける変数の値に、該変数の時間的変化率の制限を掛けるようにしてもよい。
補足すると、前記式21a,式21b、あるいは、式22a,式22bによりγda,βdaを決定するようにした場合、そのγda,βdaが、ある所定時間後の実車1の実ヨーレートγact、実車両重心点横すべり角βactの予測値としての意味を持つように各係数cijを設定することが望ましい。
また、規範動特性モデル16が前記式01で表されるように線形なモデルである場合、式20a,式20b、あるいは、式21a,式21b、あるいは、式22a,式22bのいずれを用いても、実車1あるいはモデル車両のある所定時間後のヨーレートおよび車両重心点横すべり角の予測値としてのγda、βdaを適切に求めることができる。
なお、γda,βdaの代わりにγact,βactの今回値、もしくは、γact,βactにフィルタリング処理を施してなる値を用いた場合、あるいは、前記式21a,式21b、もしくは、式22a,式22bによりγda,βdaを決定するようにした場合には、実車1の実ヨーレートγactおよび実車両重心点横すべり角βactの今回値もしくはフィルタリング値もしくは予測値が、それぞれ許容範囲[γdamin,γdamax],[βdamin,βdamax]から逸脱するのを抑制しつつ、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるように仮想外力Mvir,Fvirを決定することとなる。
補足すると、仮想外力決定部20aの処理では、より一般的には、次式200により仮想外力Mvir,Fvirを決定するようにしてもよい。
また、前記γβ制限器202のγ不感帯処理部204およびβ不感帯処理部205においては、それぞれ各別にγda,βdaの許容範囲[γdamin,γdamax],[βdamin,βdamax]を設定して、逸脱量γover,βoverを決定するようにしたが、γdaとβdaとの間の相関性を考慮し、γda,βdaの組に対して許容範囲(許容領域)を設定して、逸脱量γover,βoverを決定するようにしてもよい。
例えば図11に示す如く、γdaを横軸、βdaを縦軸とする座標平面上での直線1〜4により囲まれた領域A(平行四辺形状の領域)をγda,βdaの組の許容領域Aとして設定する。この場合、直線1,3は、それぞれγdaの下限値、上限値を規定する直線である。その下限値、上限値は、例えば前記γ不感帯処理部204における許容範囲[γdamin,γdamax]の下限値γdamin、上限値γdamaxと同様に設定される。また、直線2,4は、それぞれβdaの下限値、上限値を規定する直線である。このこの例では、該下限値および上限値がそれぞれγdaに応じてリニアに変化するように設定される。そして、逸脱量γover、βoverを例えば次のように決定する。すなわち、γda,βdaの組が、図11に点P1で示す如く、許容領域A内に存するときには、γover=βover=0とする。一方、γda,βdaの組が、例えば図11に点P2で示す如く、許容領域Aから逸脱している場合には、点P2を通って所定の傾きを有する直線5上の点のうち、点P2に最も近い許容領域Aの境界の点P3(直線5上で許容領域A内に存する点のうち、P2に最も近い点P3)を決定する。そして、点P2におけるγdaの値と点P3におけるγdaの値との差が逸脱量γoverとして決定されると共に、点P2におけるβdaの値と点P3におけるβdaの値との差が逸脱量βoverとして決定される。なお、γda,βdaの組に対応する点が、例えば図11に示す点P4であるような場合、すなわち、γda,βdaの組に対応する点P4を通る所定の傾き(直線5と同じ傾き)を有する直線6が、許容領域Aと交わらないような場合(直線6上に許容範囲A内の点が存在しない場合)には、該直線6に最も近い許容領域Aの境界の点P5を決定する。そして、点P4におけるγdaの値と点P5におけるγdaの値との差を逸脱量γoverとして決定し、点P4におけるβdaの値と点P5におけるβdaの値との差を逸脱量βoverとして決定すればよい。
補足すると、γda,βdaの組の許容領域は、平行四辺形状の領域である必要ななく、例えば、図11に破線で示す如く、境界部を滑らかに形成した(角部を持たないように形成した)領域A’であってもよい。
また、前記γβ制限器202では、γda,βdaの両者について、[γdamin,γdamax],[βdamin,βdamax]からの逸脱量γover,βoverを求め、それに応じて仮値Mvirtmp,Fvirtmpを補正するようにしたが、γover,βoverのいずれか一方だけに応じて仮値Mvirtmp,Fvirtmpを補正するようにしてもよい。この場合には、前記処理部206の処理において、γover,βoverのいずれか一方の値を0に固定して、仮値操作量Mvir_over,Fvir_overを求めるようにすればよい。
次に、アクチュエータ動作FB目標値決定部20bの処理を図12〜図14を参照して説明する。なお、以降の説明では、各車輪W1〜W4を第n輪Wn(n=1,2,3,4)ということがある。
図12は、該アクチュエータ動作FB目標値決定部20bの処理を示す機能ブロック図である。同図を参照して、アクチュエータ動作FB目標値決定部20bは、まず、処理部220において、入力された状態量偏差γerr,βerrに応じて、該状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるために実車1の重心点Gのまわりに発生させるべきヨー方向のモーメントの基本要求値であるフィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmdを実車1のアクチュエータ装置3に対するフィードバック制御入力の基本要求値として決定する。
Mfbdmdは、状態量偏差γerr,βerrからフィードバック制御則により決定される。具体的には、次式23の如く、βerr,γerrからなるベクトル(βerr,γerr)Tに所定のゲインマトリクスKfbdmdを乗じる(βerr,γerrを線形結合する)ことにより、Mfbdmdが決定される。
なお、βerr,γerrと、βerrの1階微分値dβerr/dtとに応じてMfbdmdを決定するようにしてもよい。例えば、βerr,γerr,dβerr/dtからなるベクトルに適当なゲインマトリクスを乗じる(βerr,γerr,dβerr/dtを適当な係数によって線形結合する)ことでMfbdmdを決定するようにしてもよい。
また、ゲインマトリクスKfbdmdの要素Kfbdmd1およびKfbdmd2のうちの少なくともいずれか一方に、伝達関数が(1+Tc1・s)/(1+Tc2・s)で表される位相補償要素を乗じるようにしてもよい。例えば、βerrに乗じるKfbdmd1に上記位相補償要素を乗じるようにして、且つ、Tc1>Tc2となるように時定数Tc1,Tc2の値を設定する。このようにした場合には、Kfbdmd1をβerrに乗じてなる項は、βerrとその微分値とを線形結合したものをハイカットフィルタに通したものと等価になる。
次いで、アクチュエータ動作FB目標値決定部20bは、このMfbdmdを不感帯処理部221に通すことによって、不感帯超過フィードバックヨーモーメント要求値Mfbdmd_aを決定する。なお、図中の不感帯処理部221のグラフは、MfbdmdとMfbdmd_aとの関係を例示するグラフであり、該グラフに関する横軸方向の値はMfbdmdの値、縦軸方向の値はMfbdmd_aの値である。
本参考例1では、実車1のアクチュエータ装置3のフィードバック制御においては、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるために、主に、アクチュエータ装置3のうちの駆動・制動装置3Aのブレーキ装置を操作する。この場合、上記の如く決定されるMfbdmdに応じてブレーキ装置を操作すると、該ブレーキ装置が頻繁に操作される恐れがある。本参考例1では、これを防止するために、Mfbdmdを不感帯処理部221に通して得られる不感帯超過フィードバックヨーモーメント要求値Mfbdmd_aに応じてブレーキ装置を操作することとした。
該不感帯処理部221の処理は、具体的には次のように実行される。すなわち、該不感帯処理部221は、Mfbdmdの値が0近傍に定めた所定の不感帯に存するときには、Mfbdmd_a=0とする。また、Mfbdmdが該不感帯の上限値(>0)よりも大きいときには、Mfbdmd_a=Mfbdmd−上限値とし、Mfbdmdが該不感帯の下限値(<0)よりも小さいときには、Mfbdmd_a=Mfbdmd−下限値とする。換言すれば、Mfbdmdの不感帯からの超過分をMfbdmd_aとして決定する。このようにして決定されるMfbdmd_aに応じて駆動・制動装置3Aのブレーキ装置を操作するようにすることで、状態量偏差γerr,βerrに応じたブレーキ装置の頻繁な操作を抑制しつつ、該状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるようにブレーキ装置を操作できる。なお、不感帯処理部221の処理を省略し、Mfbdmdをそのまま、Mfbdmd_aとして用いてもよい。
次いで、この不感帯超過フィードバックヨーモーメント要求値Mfbdmd_aに応じて、前記アクチュエータ動作FB目標値(アクチュエータ装置3に対するフィードバック制御入力)を決定する処理がアクチュエータ動作FB目標値分配処理部222により実行される。
該アクチュエータ動作FB目標値分配処理部222は、その処理を概略的に説明すると、実車1の重心点のまわりにMfbdmd_aを発生させるように(ひいてはγerr,βerrを0に近づけるように)、駆動・制動装置3Aのブレーキ装置の動作による各車輪W1〜W4の駆動・制動力のフィードバック目標値(γerr,βerrを0に近づけるためのブレーキ装置のフィードバック制御入力)であるFB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)を決定する。あるいは、Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)に加えて、ステアリング装置3Bの動作による前輪W1,W2の横力のフィードバック目標値であるアクティブ操舵用FB目標横力Fyfbdmd_fを決定する。
この場合、本参考例1では、不感帯超過フィードバックヨーモーメント要求値Mfbdmd_aが正方向のモーメント(実車1の上方から見て反時計まわり方向のモーメント)である場合には、基本的には、実車1の左側の車輪W1,W3の駆動・制動力を制動方向に増加させ、それによって、実車1の重心点GのまわりにMfbdmd_aを発生させるようにFB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)が決定される。さらに、このとき、実車1の重心点GのまわりにMfbdmd_aを発生させるための左側の車輪W1,W3に関するFB目標第1輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_1およびFB目標第3輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_3は、そのそれぞれの変化と、Mfbdmd_aとの変化との関係が比例関係になるように決定される。以降、この比例関係におけるMfbdmd_aの変化に対するFxfbdmd_1、Fxfbdmd_3のそれぞれの変化の割合を、それぞれ前輪側ゲインGA1、後輪側ゲインGA3という。本参考例1では、Mfbdmd_aが正方向のモーメントである場合に、Fxfbdmd_1、Fxfbdmd_3は、それぞれMfbdmd_aにGA1、GA3を乗じた値(Mfbdmd_aに比例する値)に決定される。
また、Mfbdmd_aが負方向のモーメント(実車1の上方から見て時計まわり方向のモーメント)である場合には、基本的には、実車1の右側の車輪W1,W3の駆動・制動力を制動方向に増加させ、それによって、実車1の重心点GのまわりにMfbdmd_aを発生させるようにFB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)が決定される。さらに、このとき、実車1の重心点GのまわりにMfbdmd_aを発生させるための右側の車輪W2,W4に関するFB目標第2輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_2およびFB目標第4輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_4は、そのそれぞれの変化と、Mfbdmd_aとの変化との関係が比例関係になるように決定される。以降、この比例関係におけるMfbdmd_aの変化に対するFxfbdmd_2、Fxfbdmd_4のそれぞれの変化の割合を、それぞれ前輪側ゲインGA2、後輪側ゲインGA4という。本参考例1では、Mfbdmd_aが負方向のモーメントである場合に、Fxfbdmd_2、Fxfbdmd_4は、それぞれMfbdmd_aにGA2、GA4を乗じた値(Mfbdmd_aに比例する値)に決定される。
以降の説明では、図13に示す如く、実車1の前輪W1,W2の間隔(すなわち前輪W1,W2のトレッド)をdf、後輪W3,W4の間隔(すなわち後輪W3,W4のトレッド)をdr、前輪W1,W2の実舵角(実前輪舵角)をδf_actとする。また、実車1を上方から見たときに、第n輪Wnの前後方向と直交する方向(水平面上で直交する方向)での該第n輪Wnと実車1の重心点Gとの距離をLn(n=1,2,3,4)とする。また、本参考例1では、後輪W3,W4は非操舵輪であるので図示は省略するが、後輪W3,W4の実舵角(実後輪舵角)をδr_actとする。本参考例1では、δr_act=0であり、L3=L4=dr/2である。
なお、図13中のLfは、実車1の重心点Gと前輪W1,W2の車軸との前後方向距離、Lrは実車1の重心点Gと後輪W3,W4の車軸との前後方向距離である。これらのLf,Lrの値は、前記図3で示したモデル車両に関するLf,Lrの値と同じである。
アクチュエータ動作FB目標値分配処理部222の処理を以下に具体的に説明する。まず、実車1の直進走行状態(δf_act=0であるときの走行状態)を想定し、この直進走行状態で、実車1の重心点Gまわりに、Mfbdmd_aに等しいヨー方向のモーメントを発生させるために必要な第n輪Wn(n=1,2,3,4)の駆動・制動力である第n輪駆動・制動力フル要求値Fxfullfbdmd_nをそれぞれ処理部222a_n(n=1,2,3,4)により決定する。
具体的には、Fxfullfbdmd_n(n=1,2,3,4)は、各処理部222a_nにおいて、次式24a〜24dの乗算演算により決定される。
Fxfullfbdmd_1=−(2/df)・Mfbdmd_a ……式24a
Fxfullfbdmd_2=(2/df)・Mfbdmd_a ……式24b
Fxfullfbdmd_3=−(2/dr)・Mfbdmd_a ……式24c
Fxfullfbdmd_4=(2/dr)・Mfbdmd_a ……式24d
次いで、アクチュエータ動作FB目標値分配処理部222は、実前輪舵角δf_actに応じて、第1輪分配比率補正値K1_strおよび第2輪分配比率補正値K2_strをそれぞれ処理部222b_1,222b_2において決定すると共に、実後輪舵角δr_actに応じて、第3輪分配比率補正値K3_strおよび第4輪分配比率補正値K4_strをそれぞれ処理部222b_3,222b_4において決定する。これらの第n輪分配比率補正値Kn_str(n=1,2,3,4)は、それぞれFxfullfbdmd_nに乗じる補正係数である。
ここで、実前輪舵角δf_actが0から変化すると、実車1の重心点GのまわりにMfbdmd_aに等しいヨー方向のモーメントを発生する第1輪W1および第2輪W2の駆動・制動力は、それぞれ前記式24a,24bにより決定されるFxfullfbdmd_1、Fxfullfbdmd_2から変化する。同様に、後輪W3,W4が操舵輪である場合には、実後輪舵角δr_actが0から変化すると、実車1の重心点GのまわりにMfbdmd_aに等しいヨー方向のモーメントを発生する第3輪W3および第4輪W4の駆動・制動力は、それぞれ前記式24c,24dにより決定されるFxfullfbdmd_3、Fxfullfbdmd_4から変化する。第n輪分配比率補正値Kn_strは、基本的には、このような舵角の影響を考慮してFxfullfbdmd_n(n=1,2,3,4)を補正し、Mfbdmd_aに等しいか、もしくはこれに近いヨー方向のモーメントを実車1の重心点Gのまわりに発生する第n輪Wnの駆動・制動力を決定するための補正係数である。
ただし、本参考例1では、後輪W3,W4は非操舵輪であるので、常にδr_act=0である。このため、K3_strおよびK4_strは実際には、常に「1」に設定される。従って、処理部222b_3,222b_4は省略してもよい。
一方、前輪W1,W2に関するK1_str,K2_strは、それぞれ処理部222b_1,222b_2において次のように決定される。すなわち、まず、図13に示したL1,L2の値が、あらかじめ設定されたdf,Lfの値と、δf_actの値とから、次式25a,25bの幾何学演算により算出される。なお、この演算におけるδf_actの値としては、センサ・推定器12で検出または推定された値(今回値)を用いればよいが、実車1の前輪W1,W2の舵角の目標値(各制御処理周期で最終的に決定される目標値)の前回値を使用してもよい。また、ステアリング装置3Bが、機械式ステアリング装置である場合には、該機械式ステアリング装置のオーバーオールステアリング比と前記運転操作入力のうちのステアリング角θhとから決定してもよい。あるいは、前記規範操作量決定部14の処理部14aで決定した無制限時前輪舵角δf_unltdの今回値を使用してもよい。
L1=(df/2)・cosδf_act−Lf・sinδf_act ……式25a
L2=(df/2)・cosδf_act+Lf・sinδf_act ……式25b
ここで、前輪W1,W2のそれぞれの駆動・制動力にL1,L2をそれぞれ乗じたものが、実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントである。従って、基本的には、K1_str=(df/2)/L1、K2_str=(df/2)/L2として、これらをそれぞれFxfullfbdmd_1、Fxfullfbdmd_2に乗じることで、重心点GのまわりにMfbdmd_aに等しいヨー方向のモーメントを発生させる前輪W1,W2の駆動・制動力を決定できる。
ただし、このようにすると、L1またはL2が小さいときに、K1_strまたはK2_strが過大になって、状態量偏差γerr,βerrに応じた実車1の全体のフィードバックループゲインが過大になり、制御系の発振などが生じやすい。
そこで、本参考例1では、次式26a,26bにより、K1_str,K2_strを決定する。
K1_str=(df/2)/max(L1,Lmin) ……式26a
K2_str=(df/2)/max(L2,Lmin) ……式26b
ここで、式26a、式26bにおいて、max(a,b)(a,bは一般変数)は、変数a,bのうちの大きい方の値を出力する関数、Lminは、df/2よりも小さい正の定数である。これにより、K1_str,K2_strが過大になるのを防止した。換言すれば、本参考例1では、(df/2)/Lmin(>1)をK1_str,K2_strの上限値とし、この上限値以下で、実前輪舵角δf_actに応じてK1_str,K2_strが設定される。
なお、本参考例1では、後輪W3,W4は非操舵輪であるので、前記した通りK3_str=K4_str=1である。ただし、後輪W3,W4が操舵輪である場合には、実前輪舵角δf_actに応じて上記の如くK1_str,K2_strを設定した場合と同様に、実後輪舵角δr_actに応じてK3_str,K4_strを設定することが望ましい。
次いで、アクチュエータ動作FB目標値分配処理部222は、処理部222c_n(n=1,2,3,4)において、第n輪分配ゲインKnを実前輪横すべり角βf_act(今回値)もしくは実後輪横すべり角βr_act(今回値)に応じて決定する。このKnは、これを第n輪駆動・制動力フル要求値Fxfullfbdmd_nに乗じることで、Fxfullfbdmd_nを補正する補正係数(1よりも小さい正の値)である。
この場合、第n輪分配ゲインKnは、各処理部222c_nにおいて次のように決定される。
実車1の左側で前後に配置される第1輪W1および第3輪W3に関する第1輪分配ゲインK1と第3輪分配ゲインK3とは、それぞれ図14(a),(b)の実線のグラフで示す如くβf_act,βr_actに応じて実質的に連続的に変化するように決定される。また、実車1の右側で前後に配置される第2輪W2および第4輪W4に関する第2輪分配ゲインK2と第4輪分配ゲインK4とは、それぞれ図14(a),(b)の破線のグラフで示す如くβf_act,βr_actに応じて実質的に連続的に変化するように決定される。なお、Knは、いずれも1よりも小さい正の値である。また、「実質的に連続」というのは、アナログ量を離散系で表したときに必然的に生じる値の飛び(量子化)は、アナログ量の連続性を損なうものではないということを意味する。
この場合、さらに詳細には、第1輪分配ゲインK1および第3輪分配ゲインK3に関し、K1は、図14(a)の実線のグラフで示す如く、βf_actが負の値から正の値に増加するに伴い、所定の下限値から所定の上限値まで単調に増加していくようにβf_actの値に応じて決定される。従って、K1は、βf_actが正の値であるときに、負の値であるときよりも値が大きくなるように決定される。
一方、K3は、図14(b)の実線のグラフで示す如く、βr_actが負の値から正の値に増加するに伴い、所定の上限値から所定の下限値まで単調に減少していくようにβr_actの値に応じて決定される。従って、K3は、βr_actが負の値であるときに、正の値であるときよりも値が大きくなるように決定される。
なお、図14(a),(b)の実線のグラフは、βf_act,βr_actが互いに一致もしくはほぼ一致するとき、それらのβf_act,βr_actに対応するK1,K3の値の和がほぼ1になるように設定されている。
また、第2輪分配ゲインK2および第4輪分配ゲインK4に関し、K2は、図14(a)の破線のグラフで示す如く、βf_actが負の値から正の値に増加するに伴い、所定の上限値から所定の下限値まで単調に減少していくようにβf_actの値に応じて決定される。この場合、K2とβf_actとの関係を表す破線のグラフが、K1とβf_actとの関係を表す実線のグラフを、縦軸(βf_act=0の線)を中心にして左右を反転させてなるグラフと同じである。従って、βf_actの各値におけるK2の値は、βf_actの正負を反転させた値におけるK1の値に等しくなるように決定される。
また、K4は、図14(b)の破線のグラフで示す如く、βr_actが負の値から正の値に増加するに伴い、所定の下限値から所定の上限値まで単調に増加していくようにβr_actの値に応じて決定される。この場合、K4とβr_actとの関係を表す破線のグラフが、K3とβr_actとの関係を表す実線のグラフを、縦軸(βr_act=0の線)を中心にして左右を反転させてなるグラフと同じである。従って、βr_actの各値におけるK4の値は、βr_actの正負を反転させた値におけるK3の値に等しくなるように決定される。
以上のように第n輪分配ゲインKn(n=1,2,3,4)を決定することで、実車1の定常走行時など、βf_actとβr_actとがほぼ同じ値となる状況では、前輪W1に対応する第1輪分配ゲインK1と該前輪W1の真後ろの後輪W3に対応する第3輪分配ゲインK2との比率が、K1とK3との和をほぼ一定に保ちつつ、βf_actおよびβr_actの変化に対して単調に変化することとなる。同様に、前輪W2に対応する第2輪分配ゲインK2と該前輪W2の真後ろの後輪W4に対応する第4輪分配ゲインK4との比率が、K2とK4との和をほぼ一定に保ちつつ、βf_actおよびβr_actの変化に対して単調に変化することとなる。
第n輪分配ゲインKn(n=1,2,3,4)をβf_act,βr_actに応じて上記の如く決定する理由については後述する。
補足すると、本参考例1では、βf_act,βr_actをそれぞれ前輪側ゲイン調整パラメータ、後輪側ゲイン調整パラメータとして用い、それに応じて上記の如く第n輪分配ゲインKnを変化させるようにしている。そして、これによって、後述する如く、前記前輪側ゲインGA1,GA2を前輪側ゲイン調整パラメータとしてのβf_actに応じて変化させ、また、後輪側ゲインGA3,GA4を後輪側ゲイン調整パラメータとしてのβr_actに応じて変化させるようにしている。この場合、βf_actは、前輪W1,W2の横方向運動に関する状態量としての意味を持ち、βr_actは、後輪W3,W4の横方向運動に関する状態量としての意味を持つ。なお、前輪W1,W2に関する第n輪分配ゲインKn(n=1,2)をそれぞれ決定するために、各前輪W1,W2毎に検出または推定されたβf_actを使用してもよいが、いずれか一方の前輪W1またはW2について検出または推定されたβf_act、あるいは、各前輪W1,W2毎に検出または推定されたβf_actの平均値を実前輪横すべり角の代表値とし、この代表値に応じて分配ゲインK1,K2の両者を決定するようにしてもよい。このことは、後輪W3,W4に関する分配ゲインK3,K4を決定する場合についても同様である。
上記の如くKn_str、Kn(n=1,2,3,4)を決定した後、アクチュエータ動作FB目標値分配処理部222は、各第n輪駆動・制動力フル要求値Fxfullfbdmd_n(n=1,2,3,4)に、処理部222b_n、222c_nにてそれぞれ、Kn_str、Knを乗じることで、第n輪分配駆動・制動力基本値Fxfb_nを決定する。すなわち、第n輪分配駆動・制動力基本値Fxfb_n(n=1,2,3,4)を次式27a〜27dにより決定する。
Fxfb_1=Fxfullfbdmd_1・K1_str・K1 ……式27a
Fxfb_2=Fxfullfbdmd_2・K2_str・K2 ……式27b
Fxfb_3=Fxfullfbdmd_3・K3_str・K3 ……式27c
Fxfb_4=Fxfullfbdmd_4・K4_str・K4 ……式27d
なお、このようにFxfb_n(n=1,2,3,4)を決定したとき、Mfbdmd_a>0であるときには、左側の車輪W1,W3に係わるFxfb_1,Fxfb_3が制動方向の駆動・制動力(負の駆動・制動力)となり、右側の車輪W2,W4に係わるFxfb_2,Fxfb_4が駆動方向の駆動・制動力(正の駆動・制動力)となる。また、Mfbdmd_a<0であるときには、左側の車輪W1,W3に係わるFxfb_1,Fxfb_3が駆動方向の駆動・制動力(正の駆動・制動力)となり、右側の車輪W2,W4に係わるFxfb_2,Fxfb_4が制動方向の駆動・制動力(負の駆動・制動力)となる。さらに、第n輪分配駆動・制動力基本値Fxfb_nはいずれも、Mfbdmd_aに比例するものとなる。
次いで、アクチュエータ動作FB目標値分配処理部222は、上記の如く決定した第n輪分配駆動・制動力基本値Fxfb_n(n=1,2,3,4)を、それぞれ第n輪Wnに対応するリミッタ222d_nに通すことにより、駆動・制動装置3Aのブレーキ装置の動作による第n輪Wnの駆動・制動力のフィードバック目標値であるFB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_nをそれぞれ決定する。
ここで、図12中の各リミッタ222d_n(n=1,2,3,4)のグラフは、Fxfb_nとFxfbdmd_nとの関係を表すグラフであり、該グラフに関する横軸方向の値がFxfb_nの値、縦軸方向の値がFxfbdmd_nの値である。
このリミッタ222d_nは、それに入力されるFxfb_nの値が0または負の値であるときにのみ、Fxfb_nをそのままFxfbdmd_nとして出力し、Fxfb_nが正の値であるときには、そのFxfb_nの値によらずに出力するFxfbdmd_nの値を0とする。換言すれば、0を上限値としてFxfb_nに制限を掛けることによりFxfbdmd_nを決定する。
上記のようにFB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_nをそれぞれ決定することにより、前記したように、Mfbdmd_a>0である場合には、実車1の左側の車輪W1,W3の駆動・制動力を制動方向に増加させ(Fxfbdmd_1<0、Fxfbdmd_3<0とする)、それによって、実車1の重心点GのまわりにMfbdmd_aを発生させるようにFB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)が決定される。なお、この場合には、右側の車輪W2,W4に関しては、本参考例1ではFxfbdmd_2=Fxfbdmd_4=0とされる。
そして、この場合における左側の車輪W1,W3に関するFxfbdmd_1、Fxfbdmd_3はそれぞれ、前記式27a,27cにより決定されるFxfb_1、Fxfb_3に等しい。従って、Mfbdmd_a>0である場合における左側の車輪W1,W3に関するFxfbdmd_1、Fxfbdmd_3はそれぞれMfbdmd_aに比例する。ひいては、Mfbdmd_aの変化とFxfbdmd_1、Fxfbdmd_3のそれぞれの変化との関係が比例関係になる。さらに、この場合、前記式24aと式27aとから明らかなように、前輪W1に関する前輪側ゲインGA1は、GA1=−(2/df)・K1_str・K1であるから、K1に比例する。そして、このK1は、前記したように前輪側ゲイン調整パラメータとしての実前輪横すべり角βf_actに応じて変化するように決定されるので、前輪側ゲインGA1も、βf_actに応じて変化することとなる。従って、Fxfbdmd_1は、Mfbdmd_aの変化とFxfbdmd_1の変化との関係が比例関係になり、且つ、その比例関係における前輪側ゲインGA1が前輪側ゲイン調整パラメータとしてのβf_actに応じて変化するように決定されていることとなる。同様に、前記式24cと式27cとから明らかなように、後輪W3に関する後輪側ゲインGA3は、GA3=−(2/dr)・K3_str・K3であるから、K3に比例する。そして、このK3は、前記したように後輪側ゲイン調整パラメータとしての実後輪横すべり角βr_actに応じて変化するように決定されるので、後輪側ゲインGA3も、βr_actに応じて変化することとなる。従って、Fxfbdmd_3は、Mfbdmd_aの変化とFxfbdmd_3の変化との関係が比例関係になり、且つ、その比例関係における後輪側ゲインGA3が後輪側ゲイン調整パラメータとしてのβr_actに応じて変化するように決定されていることとなる。
また、Mfbdmd_a<0である場合には、実車1の右側の車輪W2,W4の駆動・制動力を制動方向に増加させ(Fxfbdmd_2<0、Fxfbdmd_4<0とする)、それによって、実車1の重心点GのまわりにMfbdmd_aを発生させるようにFB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)が決定される。なお、この場合には、左側の車輪W1,W3に関しては、本参考例1では、Fxfbdmd_1=Fxfbdmd_3=0とされる。
そして、この場合における右側の車輪W2,W4に関するFxfbdmd_2、Fxfbdmd_4はそれぞれ、前記式27b,27dにより決定されるFxfb_2、Fxfb_4に等しい。従って、Mfbdmd_a<0である場合における右側の車輪W2,W4に関するFxfbdmd_2、Fxfbdmd_4はそれぞれMfbdmd_aに比例する。ひいては、Mfbdmd_aの変化とFxfbdmd_2、Fxfbdmd_4のそれぞれの変化との関係が比例関係になる。さらに、この場合、前記式24bと式27bとから明らかなように、前輪W2に関する前輪側ゲインGA2は、GA2=(2/df)・K2_str・K2であるから、K2に比例する。そして、このK2は、前記したように前輪側ゲイン調整パラメータとしての実前輪横すべり角βf_actに応じて変化するように決定されるので、前輪側ゲインGA2も、βf_actに応じて変化することとなる。従って、Fxfbdmd_2は、Mfbdmd_aの変化とFxfbdmd_2の変化との関係が比例関係になり、且つ、その比例関係における前輪側ゲインGA2が前輪側ゲイン調整パラメータとしてのβf_actに応じて変化するように決定されていることとなる。同様に、前記式24dと式27dとから明らかなように、後輪W4に関する後輪側ゲインGA4は、GA4=(2/dr)・K4_str・K4であるから、K4に比例する。そして、このK4は、前記したように後輪側ゲイン調整パラメータとしての実後輪横すべり角βr_actに応じて変化するように決定されるので、後輪側ゲインGA4も、βr_actに応じて変化することとなる。従って、Fxfbdmd_4は、Mfbdmd_aの変化とFxfbdmd_4の変化との関係が比例関係になり、且つ、その比例関係における後輪側ゲインGA4が後輪側ゲイン調整パラメータとしてのβr_actに応じて変化するように決定されていることとなる。
また、いずれの場合でも、前記第n輪分配ゲインKn(n=1,2,3,4)は、βf_actまたはβr_actに応じて実質的に連続的に変化するように決定されるので、Fxfbdmd_nが不連続的に変化するような事態が防止される。
また、Mfbdmd_a>0となる場合での実車1の定常走行時など、βf_actとβr_actとがほぼ同じ値となる状況では、左側の前輪W1および後輪W3に対応する第1輪分配ゲインK1と第3輪分配ゲインK2との比率、ひいては、前輪側ゲインGA1と後輪側ゲインGA3との比率である前後車輪比率が、βf_actおよびβr_actの値の変化に対して単調に変化することとなる。同様に、Mfbdmd_a<0となる場合での実車1の定常走行時など、βf_actとβr_actとがほぼ同じ値となる状況では、右側の前輪W2および後輪W4に対応する第2輪分配ゲインK2と第4輪分配ゲインK4との比率、ひいては、前輪側ゲインGA2と後輪側ゲインGA4との比率である前後車輪比率が、βf_actおよびβr_actの値の変化に対して単調に変化することとなる。
ここで、第n輪分配ゲインKn(n=1,2,3,4)をβf_act,βr_actに応じて前記したような傾向で決定した理由を以下に説明する。
まず、Mfbdmd_a>0である場合には、前記したように実車1の左側の車輪である第1輪W1および第3輪W3の駆動・制動力を制動方向に増加させるようにFB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_nが決定されることとなる。
そして、この場合に、βf_act<0,βr_act<0となる状況を想定する。このような状況で、仮にK1の値を大きめに設定する(ひいてはFxfbdmd_1が制動方向に大きくなるようにする)と共に、K3の値を小さめに設定する(ひいてはFxfbdmd_3が制動方向に大きくなるのを抑制する)と、第1輪W1の横力(これはMfbdmd_aと同方向のモーメントを実車1の重心点まわりに発生させるように機能する)が小さくなり、また、第3輪W3の横力(これはMfbdmd_aと逆方向のモーメントを実車1の重心点まわりに発生させるように機能する)が大きめになる。このため、実車1の重心点Gのまわりに、Mfbdmd_aにより要求される正方向のモーメント(ヨー軸まわりのモーメント)を十分に発生することが困難となる恐れがある。そこで、βf_act<0,βr_act<0となる状況では、第1輪分配ゲインK1を小さめの値に決定すると共に、第3輪分配ゲインK3を大きめの値に決定するようにした。
さらに、Mfbdmd_a>0である場合に、βf_act>0,βr_act>0となる状況を想定する。このような状況で、仮にK1の値を小さめに設定する(ひいてはFxfbdmd_1が制動方向に大きくなるのを抑制する)と共に、K3の値を大きめに設定する(ひいてはFxfbdmd_3が制動方向に大きくなるようにする)と、第1輪W1の横力(これはMfbdmd_aと逆方向のモーメントを実車1の重心点まわりに発生させるように機能する)が大きめになり、また、第3輪W3の横力(これはMfbdmd_aと同方向のモーメントを実車1の重心点まわりに発生させるように機能する)が小さくなる。このため、実車1の重心点Gのまわりに、Mfbdmd_aにより要求される正方向のモーメント(ヨー軸まわりのモーメント)を十分に発生することが困難となる恐れがある。そこで、βf_act>0,βr_act>0となる状況では、第1輪分配ゲインK1を大きめの値に決定すると共に、第3輪分配ゲインK3を小さめの値に決定するようにした。
また、Mfbdmd_a<0である場合には、前記したように実車1の右側の車輪である第2輪W2および第4輪W4の駆動・制動力を制動方向に増加させるようにFB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_nが決定されることとなる。
そして、この場合に、βf_act<0,βr_act<0となる状況を想定する。このような状況で、仮にK2の値を小さめに設定する(ひいてはFxfbdmd_2が制動方向に大きくなるのを抑制する)と共に、K4の値を大きめに設定する(ひいてはFxfbdmd_4が制動方向に大きくなるようにする)と、第2輪W2の横力(これはMfbdmd_aと逆向きのモーメントを実車1の重心点まわりに発生させるように機能する)が大きめになり、また、第4輪W4の横力(これはMfbdmd_aと同じ向きのモーメントを実車1の重心点まわりに発生させるように機能する)が小さくなる。このため、実車1の重心点Gのまわりに、Mfbdmd_aにより要求される負方向のモーメント(ヨー軸まわりのモーメント)を十分に発生することが困難となる恐れがある。そこで、βf_act<0,βr_act<0となる状況では、第2輪分配ゲインK2を大きめの値に決定すると共に、第4輪分配ゲインK4を小さめの値に決定するようにした。
さらに、Mfbdmd_a<0である場合に、βf_act>0,βr_act>0となる状況を想定する。このような状況で、仮にK2の値を大きめに設定する(ひいてはFxfbdmd_2が制動方向に大きくなるようにする)と共に、K4の値を小さめに設定する(ひいてはFxfbdmd_4が制動方向に大きくなるのを抑制する)と、第2輪W2の横力(これはMfbdmd_aと同じ向きのモーメントを実車1の重心点まわりに発生させるように機能する)が小さくなり、また、第4輪W4の横力(これはMfbdmd_aと逆向きのモーメントを実車1の重心点まわりに発生させるように機能する)が大きめになる。このため、実車1の重心点Gのまわりに、Mfbdmd_aにより要求される負方向のモーメント(ヨー軸まわりのモーメント)を十分に発生することが困難となる恐れがある。そこで、βf_act>0,βr_act>0となる状況では、第2輪分配ゲインK2を小さめの値に決定すると共に、第4輪分配ゲインK4を大きめの値に決定するようにした。
以上のように、第n輪分配ゲインKn(n=1,2,3,4)を前記したように決定することで、Mfbdmd_aのヨー方向モーメントを実車1の重心点Gのまわりに発生させる上で有効となる横力が小さくなり過ぎないようにしつつ、Mfbdmd_aのヨー方向モーメントを実車1の重心点Gのまわりに発生させる上で妨げとなる横力が過大にならないようにすることができる。
また、前記のように第n輪分配ゲインKn(n=1,2,3,4)を決定することで、実車1の定常円旋回時や定常直進時のように、βf_actとβr_actとが一致またはほぼ一致する状況では、K1の値とK3の値との和、およびK2の値とK4の値との和は、それぞれほぼ1になる。このことは、FB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_nに従って忠実に駆動・制動装置3Aのブレーキ装置が動作すれば、Mfbdmd_aから実車1の重心点Gのまわりに実際に発生するモーメント(ヨー方向のモーメント)までの伝達関数のゲインがほぼ1になる(実際に発生するヨー方向のモーメントがMfbdmd_aにほぼ等しくなる)ことを意味する。
補足すると、実車1の過渡的な運動状況などにおいて、βf_actとβr_actとの差が大きくなることがある。そして、この場合には、K1の値とK3の値との和、およびK2の値とK4の値との和は、それぞれ1から大きくずれることとなる。これを解消するために、K1,K3の値を前記した如く決定した後、それらの値の比を一定に保ちながらK1,K3の値を修正して、その修正後のK1,K3の値の和がほぼ1になるか、あるいは、修正前のK1,K3の値の和よりも1に近づくようにすることが好ましい。同様に、K2,K4の値を前記した如く決定した後、それらの値の比を一定に維持しつつ、K2,K4の値を修正して、その修正後のK2,K4の値の和がほぼ1になるか、あるいは、修正前のK2,K4の値の和よりも1に近づくようにすることが好ましい。具体的には、例えば第n分配ゲインKn(n=1,2,3,4)を前記図14(a),(b)のグラフに従って決定した後、K1’=K1/(K1+K3)、K3’=K3/(K1+K3),K2’=K2/(K2+K4)、K4’=K4/(K2+K4)によって、K1’,K2’,K3’,K4’を求める。そして、K1’,K2’,K3’,K4’をそれぞれ改めて、K1,K2,K3,K4の値として決定するようにすればよい。
なお、この例では、K1とK3との和、並びに、K2とK4との和が常に、1に維持されることとなるが、必ずしも、1に一致させる必要はなく、それらの和が、1の近傍の範囲内の値になるように、K1〜K4の値を修正するようにしてもよい。あるいは、K1とK3との和、並びに、K2とK4との和がより1に近づくようにK1〜K4を修正するようにしてもよい。
また、本参考例1のアクチュエータ動作FB目標値分配処理部222は、前記したようにFB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_nを決定することに加えて、前記フィードバックヨーモーメント要求値Mfbdmdを処理部222eに入力し、該処理部222eにより、ステアリング装置3Bの動作による前輪W1,W2の横力のフィードバック目標値であるアクティブ操舵用FB目標横力Fyfbdmd_fを決定する。ここで、図中の処理部222eのグラフは、MfbdmdとFyfbdmd_fとの関係を表すグラフであり、該グラフに関する横軸方向の値がMfbdmdの値、縦軸方向の値がFyfbdmd_fの値である。このグラフに見られるように、処理部222eでは、基本的には、Mfbdmdの増加に伴い、Fyfbdmd_fが単調に増加していくようにFyfbdmd_fが決定される。この場合、Fyfbdmd_fは、処理部222eに入力されるMfbdmdの値から、例えばマップを用いて決定される。
なお、Fyfbdmd_fは、Mfbdmdに所定のゲインを乗じることにより決定するようにしてもよい。また、Fyfbdmd_fは、所定の上限値(>0)と下限値(<0)との間の範囲内でMfbdmdに応じて決定するようにしてもよい。
補足すると、処理部222eの処理は、ステアリング装置3Bがアクティブステアリング装置であるか機械式ステアリング装置であるかによらずに省略してもよい。処理部222eの処理によって、アクティブ操舵用FB目標横力Fyfbdmd_fを決定し、これに応じてステアリング装置3Bの動作を操作する場合には、FB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)によって実車1の重心点Gのまわりに発生させようとするヨー方向のモーメントと、アクティブ操舵用FB目標横力Fyfbdmd_fによって実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントとの和が前記フィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmdにほぼ等しくなるように、Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)およびFyfbdmd_fを決定することがより好ましい。例えば、MfbdmdとMfbdmd_aとの差に応じてアクティブ操舵用FB目標横力Fyfbdmd_fを決定するようにしてもよい。この場合には、Mfbdmd_a=0であるときに、Fyfbdmd_fによって、実車1の重心点GのまわりにMfbdmdにほぼ等しいヨー方向のモーメントを発生させるようにFyfbdmd_fを決定することが望ましい。
以上が本参考例1におけるアクチュエータ動作FB目標値決定部20bの処理の詳細である。この処理によって、前記した如く、Mfbdmdを0に近づけるように(ひいては状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるように)、FB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)が、あるいは、Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)とアクティブ操舵用FB目標横力Fyfbdmd_fとがアクチュエータ動作FB目標値として決定される。
補足すると、上記のようにアクチュエータ動作FB目標値決定部20bにより決定されるアクチュエータ動作FB目標値のうちの、FB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)が、本発明におけるフィードバック制御入力に相当する。
なお、前記リミッタ222d_n(n=1,2,3,4)は、それに入力されるFxfb_nを0よりも若干大きい所定の正の上限値以下に制限してなる値をFxfbdmd_nとして出力するようにしてもよい。例えば、Fxfb_nが該上限値以下の値であるときには、Fxfb_nをそのままFxfbdmd_nとして出力し、Fxfb_nが上限値よりも大きい正の値であるときには、該上限値をFxfbdmd_nとして出力する。このようにした場合には、正の値のFxfbdmd_nは、ブレーキ装置による第n輪Wnの制動方向の駆動・制動力の大きさを減少させるように機能するフィードバック制御入力となる。
また、各車輪Wn(n=1,2,3,4)に対して、処理部222a_nからリミッタ222d_nまでの処理(Mfbdmd_aと、δf_actもしくはδr_actと、βf_actもしくはβr_actとを基にFxfbdmd_nを決定する処理)、あるいは、処理部222b_nからリミッタ222d_nまでの処理(Fxfullfbdmd_nと、δf_actもしくはδr_actと、βf_actもしくはβr_actとを基にFxfbdmd_nを決定する処理)、あるいは、処理部222c_nからリミッタ222d_nまでの処理(処理部222b_nの出力と、βf_actもしくはβr_actとを基にFxfbdmd_nを決定する処理)、あるいは、処理部222a_nからリミッタ222d_nまでの処理のうちの2以上の部分を合わせた処理(例えば処理部222b_nから処理部222c_nまでの処理)を、それらの処理に必要な入力値からマップや関数式を使用して出力を決定するように変更してもよい。
例えば、処理部222c_nからリミッタ222d_nまでの処理をマップを使用して行なう場合には、第1輪用のマップを、例えば図15(a)〜(e)に示す如く設定しておき、第3輪用のマップを、例えば図16(a)〜(e)に示す如く設定しておけばよい。この場合、図15(a)〜(e)のそれぞれのグラフは、βf_actの代表的な複数種類の値のそれぞれに対応して、処理部222b_1の出力(=Fxfullfbdmd_1・K1_str)とFxfbdmd_1との関係を、それぞれの値をグラフの横軸方向の値、縦軸方向の値として表している。また、図16(a)〜(e)のそれぞれのグラフは、βr_actの代表的な複数種類の値のそれぞれに対応して、処理部222b_3の出力(=Fxfullfbdmd_3・K3_str)とFxfbdmd_3との関係を、それぞれの値をグラフの横軸方向の値、縦軸方向の値として表している。また、図15において、βf_actの値に関し、「βf--」は、絶対値が比較的大きい負の値を意味し、「βf-」は、絶対値が比較的小さい負の値を意味し、「βf+」は、絶対値が比較的小さい正の値を意味し、「βf++」は、絶対値が比較的大きい正の値を意味する。同様に、図16において、βr_actの値に関し、「βr--」は、絶対値が比較的大きい負の値を意味し、「βr-」は、絶対値が比較的小さい負の値を意味し、「βr+」は、絶対値が比較的小さい正の値を意味し、「βr++」は、絶対値が比較的大きい正の値を意味する。
なお、第2輪用のマップは、図示を省略するが、処理部222b_2の出力(=Fxfullfbdmd_2・K2_str)とFxfbdmd_2との関係が、βf_actの各値において、その値の符号を反転させた値に対応する第1輪用のマップと同じになる(例えばβf_act=βf-であるときの処理部222b_2の出力(=Fxfullfbdmd_2・K2_str)とFxfbdmd_2との関係が、βf_act=βf+であるときの処理部222b_1の出力とFxfbdmd_1との関係(図15(c)のグラフで示す関係)と同じになる)ように設定しておけばよい。同様に、第4輪用のマップは、図示を省略するが、処理部222b_4の出力(=Fxfullfbdmd_4・K4_str)とFxfbdmd_4との関係が、βr_actの各値において、その値の符号を反転させた値に対応する第3輪用のマップと同じになる(例えばβr_act=βr-であるときの処理部222b_4の出力(=Fxfullfbdmd_4・K4_str)とFxfbdmd_4との関係が、βr_act=βr+であるときの処理部222b_3の出力とFxfbdmd_3との関係(図16(c)のグラフで示す関係)と同じになる)ように設定しておけばよい。
なお、この例では、処理部222b_n(n=1,2,3,4)の出力が0以下の値であるときは、前記図12に示したものと同様にFxfbdmd_nが決定される。一方、処理部222b_n(n=1,2,3,4)の出力が正の値であるときは、前記の如くリミッタ222d_nにおける上限値を正の値に設定した場合と同様に、Fxfbdmd_nが比較的小さい値の範囲内で正の値になる。
補足すると、第3輪W3と第4輪W4とに関する前記処理部222b_3,222b_4では、いずれも、その入力値と出力値が等しくなるので、第3輪W3と第4輪W4とに関して、処理部222c_3からリミッタ222d_3までの処理、および処理部222c_4からリミッタ222d_4までの処理を上記の如くマップを使用して行なうということは、処理部222b_3からリミッタ222d_3までの処理と、処理部222b_4からリミッタ222d_4までの処理をマップを使用して行なうことと同じである。
また、前輪W1,W2に関する第n輪分配ゲインKn(n=1,2)を決定する(ひいては、前輪側ゲインGA1,GA2を操作する)ための前輪側ゲイン調整パラメータとして、βf_act以外にも次のようなものを使用してもよい。
例えば、βf_actの代わりに、実車1の前輪W1,W2の横すべり速度(前輪W1,W2の進行速度ベクトルのうちの、前輪W1,W2の回転軸方向成分)の検出値もしくは推定値や、前輪W1,W2の横加速度(前輪W1,W2の加速度ベクトルの横方向成分)の検出値もしくは推定値を前輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。なお、前輪W1,W2の横すべり速度あるいは横加速度は、βf_actと同様に、該前輪W1,W2の横方向運動に関する状態量の例である。また、これらの横すべり速度や横加速度は、前輪W1,W2毎の検出値もしくは推定値でもよいが、これらの平均値やいずれか一方の前輪W1,W2についての検出値もしくは推定値であってもよい。
あるいは、実車1の前部の所定位置(例えば、前輪W1,W2の車軸上の中央位置)の実横すべり角の検出値もしくは推定値、または、該所定位置の横すべり速度(該所定位置の進行速度ベクトルの横方向成分)の検出値もしくは推定値、または、該所定位置の横加速度(該所定位置の加速度ベクトルの横方向成分)の検出値もしくは推定値を前輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。なお、該所定位置の横すべり角、横すべり速度、横加速度は、該所定位置の横方向運動に関する状態量の例である。
あるいは、前輪W1,W2の横力の検出値もしくは推定値を前輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。なお、該横力は、前輪W1,W2毎の検出値もしくは推定値でもよいが、これらの平均値やいずれか一方の前輪W1,W2についての検出値もしくは推定値であってもよい。
上記したいずれの前輪側ゲイン調整パラメータを使用する場合にあっても、該前輪側ゲイン調整パラメータと第n輪分配ゲインKn(n=1,2)との関係は、βf_actとK1,K2との関係と同様に設定すればよい。
あるいは、上記したような実車1の前輪W1,W2の横方向運動に関する状態量(βf_actなど)と、実車1の前部の所定位置の横方向運動に関する状態量と、前輪W1,W2の横力とのうちのいずれかと相関性を有するパラメータを前輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。例えば、当該横方向運動に関する状態量または横力の検出値もしくは推定値にほぼ比例するような任意のパラメータを前輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。また、当該横方向運動に関する状態量または横力の値を規定するような1つ以上のパラメータを前輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。例えばβf_actは、基本的には、実車両重心点横すべり角βactと、実ヨーレートγactと、実走行速度Vactと、実前輪舵角δf_actとに応じて規定され(前記式02aを参照)、βf_actは、βact,γact,Vact,δf_actの関数として表現できる。従って、これらのβact,γact,Vact,δf_actを前輪側ゲイン調整パラメータとして用い、この前輪側ゲイン調整パラメータに応じてマップもしくは関数式により前輪W1,W2に関する第n輪分配ゲインKn(n=1,2)を決定するようにしてもよい。より具体的には、例えば、前記モデル車両に係わる前記式02aのβf_d、βd、γd、Vd、δf_dをそれぞれβf_act、βact、γact、Vact、δf_actに置き換えた式を基に、前記したβf_actと第1輪分配ゲインK1および第2輪分配ゲインK2との関係(前記図14(a)のグラフで示す関係)を、βact、γact、Vact、δf_actと、K1およびK2との関係に変換しておく。そして、その変換してなる関係に基づいて、βact,γact,Vact,δf_actに応じてK1およびK2を決定するようにすればよい。
上記と同様に、後輪W3,W4に関する第n輪分配ゲインKn(n=3,4)を決定する(ひいては後輪側ゲインGA3,GA4を操作する)ための後輪側ゲイン調整パラメータとして、βr_act以外にも次のようなものを使用してもよい。
例えば、βr_actの代わりに、実車1の後輪W3,W4の横すべり速度(後輪W3,W4の進行速度ベクトルのうちの、後輪W3,W4の回転軸方向成分)の検出値もしくは推定値や、後輪W3,W4の横加速度(後輪W3,W4の加速度ベクトルの横方向成分)の検出値もしくは推定値を後輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。なお、後輪W3,W4の横すべり速度あるいは横加速度は、βr_actと同様に、該後輪W3,W4の横方向運動に関する状態量の例である。また、これらの横すべり速度や横加速度は、後輪W3,W4毎の検出値もしくは推定値でもよいが、これらの平均値やいずれか一方の後輪W3,W4についての検出値もしくは推定値であってもよい。
あるいは、実車1の後部の所定位置(例えば、後輪W3,W4の車軸上の中央位置)の横すべり角の検出値もしくは推定値、または、該所定位置の横すべり速度(該所定位置の進行速度ベクトルの横方向成分)の検出値もしくは推定値、または、該所定位置の横加速度(該所定位置の加速度ベクトルの横方向成分)の検出値もしくは推定値を後輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。なお、該所定位置の横すべり角、横すべり速度、横加速度は、該所定位置の横方向運動に関する状態量の例である。
あるいは、実車1の後輪3,W4の横力の検出値もしくは推定値を後輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。なお、該横力は、後輪W3,W4毎の検出値もしくは推定値でもよいが、これらの平均値やいずれか一方の後輪W3,W4についての検出値もしくは推定値であってもよい。
上記したいずれの後輪側ゲイン調整パラメータを使用する場合にあっても、該後輪側ゲイン調整パラメータと第n輪分配ゲインKn(n=3,4)との関係は、βr_actとK3,K4との関係と同様に設定すればよい。
あるいは、上記したような実車1の後輪W3,W4の横方向運動に関する状態量(βr_actなど)と、実車1の後部の所定位置の横方向運動に関する状態量と、後輪W3,W4の横力とのうちのいずれかと相関性を有するパラメータを後輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。例えば、当該横方向運動に関する状態量または横力の検出値もしくは推定値にほぼ比例するような任意のパラメータを後輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。また、当該横方向運動に関する状態量または横力の値を規定するような1つ以上のパラメータを後輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。例えばβr_actは、基本的には、実車両重心点横すべり角βactと、実ヨーレートγactと、実走行速度Vactとに応じて規定され(前記式02bを参照)、βr_actは、βact,γact,Vactの関数として表現できる。従って、これらのβact,γact,Vactを後輪側ゲイン調整パラメータとして用い、この後輪側ゲイン調整パラメータに応じてマップもしくは関数式により後輪W3,W4に関する第n輪分配ゲインKn(n=3,4)を決定するようにしてもよい。より具体的には、例えば、前記モデル車両に係わる前記式02bのβr_d、βd、γd、Vdをそれぞれβr_act、βact、γact、Vactに置き換えた式を基に、前記したβr_actと第3輪分配ゲインK3および第4輪分配ゲインK4との関係(前記図14(b)のグラフで示す関係)を、βact、γact、Vactと、K3およびK4との関係に変換しておく。そして、その変換してなる関係に基づいて、βact,γact,Vactに応じてK3およびK4を決定するようにすればよい。
さらに、上記した如く、実車1の前輪W1,W2の横方向運動に関する状態量と、実車1の前部の所定位置の横方向運動に関する状態量と、実車1の前輪W1,W2の横力と、これらの状態量および横力のいずれかと相関性を有するパラメータを前輪側ゲイン調整パラメータとして使用する代わりに、これらに対応する、規範動特性モデル16上のモデル車両における状態量や横力、パラメータを前輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。例えば、βf_actの代わりにモデル車両のβf_dを前輪側ゲイン調整パラメータとして使用して、第1輪分配ゲインK1および第2輪分配ゲインK2を決定するようにしてもよい。同様に、実車1の後輪W3,W4の横方向運動に関する状態量と、実車1の後部の所定位置の横方向運動に関する状態量と、実車1の後輪W3,W4の横力と、これらの状態量および横力のいずれかと相関性を有するパラメータを後輪側ゲイン調整パラメータとして使用する代わりに、これらに対応する、規範動特性モデル16上のモデル車両における状態量や横力、パラメータを後輪側ゲイン調整パラメータとして使用してもよい。例えば、βr_actの代わりにモデル車両のβr_dを後輪側ゲイン調整パラメータとして使用して、第3輪分配ゲインK3および第4輪分配ゲインK4を決定するようにしてもよい。
あるいは、実車1の前輪W1,W2もしくは前部の所定位置の横方向運動に関する状態量と、モデル車両の前輪Wfもしくは前部の所定位置の横方向運動に関する状態量(実車1側の状態量と同じ種類の状態量)との合成値、または、実車1の前輪W1,W2の横力とモデル車両の前輪Wfの横力との合成値を前輪側ゲイン調整パラメータと使用してもよい。同様に、実車1の後輪W3,W4もしくは後部の所定位置の横方向運動に関する状態量と、モデル車両の後輪Wrもしくは後部の所定位置の横方向運動に関する状態量(実車1側の状態量と同じ種類の状態量)との合成値、または、実車1の後輪W3,W4の横力とモデル車両の後輪Wrの横力との合成値を後輪側ゲイン調整パラメータと使用してもよい。例えば、実車1のβf_actとモデル車両のβf_dとの重み付き平均値に応じて第1輪分配ゲインK1および第2輪分配ゲインK2を決定すると共に、実車1のβr_actとモデル車両のβr_dとの重み付き平均値に応じて第3輪分配ゲインK3および第4輪分配ゲインK4を決定するようにしてもよい。この場合、該重み付き平均値に係わる重みに周波数特性(例えば位相補償要素として機能する周波数特性)を持たせるようにしてもよい。
あるいは、前輪W1,W2に関する第n輪分配ゲインKn(n=1,2)のそれぞれの第1の仮値を、実車1の前輪W1,W2もしくは前部の所定位置の横方向運動に関する状態量、または実車1の前輪W1,W2の横力に応じて決定すると共に、前輪W1,W2に関する第n輪分配ゲインKn(n=1,2)のそれぞれの第2の仮値を、モデル車両の前輪Wfもしくは前部の所定位置の横方向運動に関する状態量、またはモデル車両の前輪Wfの横力に応じて決定し、それらの第1仮値および第2仮値の加重平均値もしくは重み付き平均値などの合成値を第n輪分配ゲインKn(n=1,2)として決定するようにしてもよい。例えば、第1輪W1に関するK1の第1仮値をβf_actに応じて、前記図14(a)に示したグラフに示した如く決定すると共に、K1の第2仮値をβf_dに応じて第1仮値と同様に決定する。この場合、βf_dに対する第2仮値の変化の傾向は、βf__actに対する第1仮値の変化の傾向と同じでよい。そして、これらの第1仮値と第2仮値との加重平均値を第1輪分配ゲインK1として決定する。第2輪分配ゲインK2についても同様である。
同様に、後輪W3,W4に関する第n輪分配ゲインKn(n=3,4)のそれぞれの第1の仮値を、実車1の後輪W3,W4もしくは後部の所定位置の横方向運動に関する状態量、または実車1の後輪W3,W4の横力に応じて決定すると共に、後輪W3,W4に関する第n輪分配ゲインKn(n=3,4)のそれぞれの第2の仮値を、モデル車両の後輪Wrもしくは後部の所定位置の横方向運動に関する状態量、またはモデル車両の後輪Wrの横力に応じて決定し、それらの第1仮値および第2仮値の加重平均値もしくは重み付き平均値などの合成値を第n輪分配ゲインKn(n=3,4)として決定するようにしてもよい。例えば、第3輪W3に関するK3の第1仮値をβr_actに応じて、前記図14(b)に示したグラフに示した如く決定すると共に、K3の第2仮値をβr_dに応じて第1仮値と同様に決定する。この場合、βr_dに対する第2仮値の変化の傾向は、βr__actに対する第1仮値の変化の傾向と同じでよい。そして、これらの第1仮値と第2仮値との加重平均値を第3輪分配ゲインK3として決定する。第4輪分配ゲインK4についても同様である。
さらに、第n輪分配ゲインKn(n=1,2,3,4)の値を、βf_act、βr_actなどの前輪側ゲイン調整パラメータまたは後輪側ゲイン調整パラメータに応じて変化させるだけでなく、推定摩擦係数μestmにも応じて変化させるように決定することがより望ましい。例えば、本参考例1に関して前記したようにβf_act、βr_actに応じて第n輪分配ゲインKnを決定する場合において、μestmが小さくなるほど、βf_actが絶対値の大きい負の値であるときの第1輪分配ゲインK1をより小さくするようにK1を決定することが望ましい。また、μestmが小さくなるほど、βr_actが絶対値の大きい正の値であるときの第3輪分配ゲインK3をより小さくするようにK3を決定することが望ましい。同様に、μestmが小さくなるほど、βf_actが絶対値の大きい正の値であるときの第2輪分配ゲインK2をより小さくするようにK2を決定することが望ましい。また、μestmが小さくなるほど、βr_actが絶対値の大きい負の値であるときの第4輪分配ゲインK4をより小さくするようにK4を決定することが望ましい。これは、μestmが小さくなるほど、第n輪Wn(n=1,2,3,4)の制動方向の駆動・制動力を増加させたときの該第n輪Wnの横力の低下が著しくなるからである。
また、第n輪分配ゲインKn(n=1,2,3,4)の値(βf_act,βr_actなどの前輪側ゲイン調整パラメータまたは後輪側ゲイン調整パラメータに応じて設定した値)を、第n輪の実接地荷重(第n輪に作用する路面反力のうちの鉛直方向または路面に垂直な方向の並進力の検出値もしくは推定値)にも応じて調整するようにしてよい。この場合、第n輪分配ゲインKnの値を、第n輪Wnの実接地荷重が小さくなるほど、小さくするように決定することが望ましい。
あるいは、各第n輪Wnの実接地荷重をFzact_n(n=1,2,3,4)、それらの総和をΣFzact(=Fzact_1+Fzact_2+Fzact_3+Fzact_4)とおいたとき、前輪W1,W2に関する第n輪分配ゲインK1,K2の値を、各前輪W1,W2の実接地荷重の和(=Fzact_1+Fzact_2)に応じて調整したり、その和のΣFzactに対する割合(=(Fzact_1+Fzact_2)/ΣFzact)に応じて調整するようにしてもよい。同様に、後輪W3,W4に関する第n輪分配ゲインK3,K4を、各後輪W3,W4の実接地荷重の和(=Fzact_3+Fzact_4)に応じて調整したり、その和のΣFzactに対する割合(=(Fzact_3+Fzact_4)/ΣFzact)に応じて調整するようにしてもよい。もしくは、各第n輪分配ゲインKn(n=1,2,3,4)の値を、それぞれ第n輪Wnの実接地荷重のΣFzactに対する割合(=Fzact_n/ΣFzact)に応じて調整するようにしてもよい。
また、本参考例1では、駆動・制動装置3Aのブレーキ装置に対するフィードバック制御入力として(アクチュエータ動作FB目標値として)、FB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_n(n=1,2,3,4)を決定するようにしたが、Fxfbdmd_nの代わりに、ブレーキ装置による各車輪Wn(n=1,2,3,4)の目標スリップ比を決定したり、あるいは、該目標スリップ比とFxfbdmd_nとの両者を決定するようにしてもよい。
また、Fxfbdmd_nなどのアクチュエータ動作FB目標値を決定するために、中間変数であるMfbdmdやMfbdmd_aを決定せずに、状態量偏差γerr,βerrからマップ等を用いて直接的にアクチュエータ動作FB目標値を決定するようにしてもよい。例えばγerr、βerr、βf_act(またはβf_d)、βr_act(またはβr_d)、Vact、μestmなどの変数を入力とする多次元のマップを使用して、アクチュエータ動作FB目標値を決定するようにしてもよい。
また、フィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmdを、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるだけでなく、前記仮想外力決定部20aのγβ制限器202で求められる逸脱量γover,βoverを0に近づけるように(ひいては前記γda,βdaがそれぞれの許容範囲[γdamin,γdamax]、[βdamin,βdamax]から逸脱するのを抑制するように)、Mfbdmdを決定するようにしてもよい。例えば適当な係数Kfbdmd1〜Kfbdmd4を用いて、次式28aにより、Mfbdmdを決定してもよい。
Mfbdmd=Kfbdmd1・γerr+Kfbdmd2・βerr
−Kfbdmd3・γover−Kfbdmd4・βover ……式28a
なお、この式28aによりMfbdmdを決定するということは、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるフィードバック制御則により決定したMfbdmdの仮値(式28aの右辺の第1項および第2項の和)を、逸脱量γover,βoverを0に近づけるように修正することによって、Mfbdmdを決定することと同等である。
あるいは、前記式23により状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるように決定したMfbdmdを不感帯処理部221に通してなる値である前記不感帯超過フィードバックヨーモーメント要求値Mfbdmd_aを、次式28b(上記式28aの右辺の第1項および第2項の和の値の代わりにMfbdmd_aを使用した式)により修正してなる値Mfbdmd_a’を改めてMfbdmd_aとして用いるようにしてもよい。換言すれば、Mfbdmdを不感帯処理部221に通してなる値をMfbdmd_aの仮値とし、この仮値を逸脱量γover,βoverを0に近づけるように修正することによって、Mfbdmd_aを決定するようにしてもよい。
Mfbdmd_a’=Mfbdmd_a−Kfbdmd3・γover−Kfbdmd4・βover ……式28b
補足すると、本参考例1では、前記した如く、γβ制限器202によって、γover,βoverを0に近づけるように仮想外力仮値Mvirtmp,Fvirtmpを操作して仮想外力Mvir,Fvirを決定するようにしている。これだけでも、モデル車両のγd,βdがそれぞれ許容範囲[γdamin,γdamax]、[βdamin,βdamax]を逸脱しないように変化する。そして、これに伴い、実車1のγact,βactをそれぞれγd,βdに近づけるようにアクチュエータ動作FB目標値が変化する。このため、γerr,βerrだけを0に近づけるようにアクチュエータ動作FB目標値を決定した場合であっても、結果的に、γact,βactも許容範囲[γdamin,γdamax]、[βdamin,βdamax]から逸脱するのを抑制できる。ただし、上記のように、γerr,βerrに加えて、γover,βoverをも0に近づけるようにMfbdmdまたはMfbdmd_aを決定する(ひいてはアクチュエータ動作FB目標値を決定する)ようにすることで、γact,βactがそれぞれ許容範囲[γdamin,γdamax]、[βdamin,βdamax]から逸脱するのをより一層効果的に抑制できる。
また、上記の如くγerr,βerrに加えて、γover,βoverをも0に近づけるようにMfbdmdまたはMfbdmd_aを決定するようにした場合には、仮想外力Mvir,Fvirは、必ずしもγover,βoverを0に近づけるように決定する必要はなく、単にγerr,βerrを0に近づけるように仮想外力Mvir,Fvirを決定するようにしてもよい。この場合には、前記仮想外力仮値決定部201で求められる仮想外力仮値Mvirtmp,Fvirtmpをそれぞれそのまま仮想外力Mvir,Fvirとして決定すればよい。そして、MfbdmdまたはMfbdmd_aを決定する処理、および仮想外力Mvir,Fvirを決定する処理以外は、本参考例1と同じでよい。このようにしても、γact,βactがそれぞれ許容範囲[γdamin,γdamax]、[βdamin,βdamax]から逸脱するのを抑制するようにアクチュエータ動作FB目標値を決定できる。また、この場合であっても、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるように、仮想外力Mvir,Fvirが決定されるので、結果的に、モデル車両のγd,βdがそれぞれ許容範囲[γdamin,γdamax]、[βdamin,βdamax]から逸脱するのが抑制されるように、γd,βdが決定されることとなる。
[FF則について]
次に、前記FF則22の処理を図17を参照してより詳細に説明する。図17は、FF則22の処理を示す機能ブロック図である。
前記したように、本参考例1では、FF則22が決定するフィードフォワード目標値(運転操作入力に応じたアクチュエータ装置3の基本目標値)には、駆動・制動装置3Aのブレーキ装置による実車1の各車輪W1〜W4の駆動・制動力のフィードフォワード目標値(以降、FF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力(n=1,2,3,4)という)と、駆動・制動装置3Aの駆動系による実車1の駆動輪W1,W2の駆動・制動力のフィードフォワード目標値(以降、FF目標第n輪駆動系駆動・制動力(n=1,2)という)と、駆動・制動装置3Aの変速装置の減速比(変速比)のフィードフォワード目標値(以降、FF目標ミッション減速比という)と、ステアリング装置3Bによる実車1の操舵輪W1,W2の舵角のフィードフォワード目標値(以降、FF目標前輪舵角δf_ffという)とが含まれる。
なお、FF則22は、本発明におけるフィードフォワード制御入力を決定する手段に相当しており、ここで決定されるFF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力(n=1,2,3,4)とFF目標第n輪駆動系駆動・制動力(n=1,2)とが本発明におけるフィードフォワード制御入力に相当する。
図17に示す如く、FF目標前輪舵角δf_ffは、運転操作入力のうちのステアリング角θhに応じて(あるいはθhとVactとに応じて)処理部230により決定される。図17では、ステアリング装置3Bが前記アクチュエータ駆動型のステアリング装置である場合を想定している。この場合には、処理部230は、前記規範操作量決定部14の処理部14aの処理と同じ処理によってFF目標前輪舵角δf_ffを決定する。すなわち、ステアリング角θhを、所定のオーバーオールステアリング比is、あるいは、Vactに応じて設定したオーバーオールステアリング比isで除算することによりδf_ffを決定する。このようにして決定されるδf_ffの値は、前記規範操作量決定部14の処理部14aにより決定される無制限時前輪舵角δf_unltdの値と同じである。
なお、ステアリング装置3Bが前記アクチュエータ補助型のステアリング装置である場合、あるいは、機械式ステアリング装置である場合には、δf_ffを決定する必要はない。あるいは、δf_ffを常に0に設定しておけばよい。但し、ステアリング装置3Bがアクチュエータ補助型のステアリング装置であって、ステアリング角θhに応じて機械的に定まる前輪W1,W2の舵角をVactに応じて補正する機能をもつような場合には、その補正分をVactに応じて決定し、それをδf_ffとして決定するようにしてもよい。
補足すると、ステアリング装置3Bがアクチュエータ補助型のステアリング装置である場合には、前輪W1,W2の基本的な舵角(δf_actの基本値)は、ステアリング角θhに応じて機械的に定まるので、δf_ffはアクチュエータによる前輪W1,W2の舵角の補正量のフィードフォワード目標値としての意味を持つものとなる。
また、FF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力(n=1,2,3,4)は、運転操作入力のうちのブレーキペダル操作量に応じて、それぞれ処理部231a_n(n=1,2,3,4)により決定される。図中の各処理部231a_nに示したグラフは、それぞれ、ブレーキペダル操作量とFF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力(n=1,2,3,4)との関係を例示するグラフであり、該グラフにおける横軸方向の値がブレーキペダル操作量の値、縦軸方向の値がFF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力である。図示のグラフに示されるように、FF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力(<0)は、基本的には、ブレーキペダル操作量の増加に伴い、その大きさ(絶対値)が単調増加するように決定される。なお、図示の例では、FF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力は、その大きさが過大にならないように、ブレーキペダル操作量が所定量を超えると飽和する(ブレーキペダル操作量の増加に対するFF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力の絶対値の増加率が0に近づく、もしくは0になる)ようになっている。
FF目標第n輪駆動系駆動・制動力(n=1,2)とFF目標ミッション減速比とは、運転操作入力のうちのアクセルペダル操作量およびシフトレバー位置とVactとに応じて、駆動系アクチュエータ動作FF目標値決定部232により決定される。この駆動系アクチュエータ動作FF目標値決定部232の処理は、公知の通常の自動車において、アクセルペダル操作量とVactと変速装置のシフトレバー位置とに応じて、エンジンから駆動輪に伝達する駆動力と変速装置の減速比とを決定する手法と同じでよいので、本明細書での詳細な説明は省略する。
以上が本参考例1におけるFF則22の具体的な処理の内容である。
[アクチュエータ動作目標値合成部について]
次に、前記アクチュエータ動作目標値合成部24の処理を詳細に説明する。図18は、このアクチュエータ動作目標値合成部24の処理を示す機能ブロック図である。
同図を参照して、アクチュエータ動作目標値合成部24は、第1輪W1に関して、前記アクチュエータ動作FF目標値のうちのFF目標第1輪ブレーキ駆動・制動力と、FF目標第1輪駆動系駆動・制動力との和を加算器240で求める。そして、その和をFF総合目標第1輪駆動・制動力FFtotal_1として最適目標第1駆動・制動力決定部241a_1に入力する。さらに、このFFtotal_1と、前記アクチュエータ動作FB目標値のうちのFB目標第1輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_1との和を加算器242で求める。そして、その和を無制限目標第1輪駆動・制動力Fxdmd_1として最適目標第1駆動・制動力決定部241a_1に入力する。
また、アクチュエータ動作目標値合成部24は、第2輪W2に関して、前記アクチュエータ動作FF目標値のうちのFF目標第2輪ブレーキ駆動・制動力と、FF目標第2輪駆動系駆動・制動力との和を加算器243で求める。そして、その和をFF総合目標第2輪駆動・制動力FFtotal_2として最適目標第2駆動・制動力決定部241a_2に入力する。さらに、このFFtotal_2と、前記アクチュエータ動作FB目標値のうちのFB目標第2輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_2との和を加算器244で求める。そして、その和を無制限目標第2輪駆動・制動力Fxdmd_2として最適目標第2駆動・制動力決定部241a_2に入力する。
また、アクチュエータ動作目標値合成部24は、第3輪W3に関して、前記アクチュエータ動作FF目標値のうちのFF目標第3輪ブレーキ駆動・制動力をそのままFF総合目標第3輪駆動・制動力FFtotal_3として最適目標第3駆動・制動力決定部241a_3に入力する。さらに、このFFtotal_3と、前記アクチュエータ動作FB目標値のうちのFB目標第3輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_3との和を加算器245で求める。そして、その和を無制限目標第3輪駆動・制動力Fxdmd_3として最適目標第3駆動・制動力決定部241a_3に入力する。
また、アクチュエータ動作目標値合成部24は、第4輪W4に関して、前記アクチュエータ動作FF目標値のうちのFF目標第4輪ブレーキ駆動・制動力をそのままFF総合目標第4輪駆動・制動力FFtotal_4として最適目標第4駆動・制動力決定部241a_4に入力する。さらに、このFFtotal_4と、前記アクチュエータ動作FB目標値のうちのFB目標第4輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_4との和を加算器246で求める。そして、その和を無制限目標第4輪駆動・制動力Fxdmd_4として最適目標第4駆動・制動力決定部241a_4に入力する。
ここで、前記FF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_n(n=1,2,3,4)は、それを一般化して言えば、駆動・制動装置3Aの駆動系の動作による第n輪Wnの駆動・制動力のフィードフォワード目標値(FF目標第n輪駆動系駆動・制動力)とブレーキ装置の動作による第n輪Wnの駆動・制動力のフィードフォワード目標値(FF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力)との総和を意味する。この場合、本明細書の実施形態および参考例では、実車1の駆動輪を前輪W1,W2とし、後輪W3,W4は従動輪としているので、後輪W3,W4に関しては、FF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力(n=3,4)がそのまま、FF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_nとして決定される。
また、前記無制限目標第n輪駆動・制動力Fxdmd_n(n=1,2,3,4)は、前記FF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_nと、前記FB第n輪ブレーキ駆動・制動力との和であるから、駆動・制動装置3Aのフィードフォワード制御動作(少なくとも運転操作入力に応じたフィードフォワード制御動作)とフィードバック制御動作(少なくとも状態量偏差γerr,βerrに応じたフィードバック制御動作)とにより要求される第n輪のトータルの駆動・制動力を意味する。
そして、アクチュエータ動作目標値合成部24は、最適目標第n駆動・制動力決定部241a_n(n=1,2,3,4)により、それぞれ第n輪Wnの駆動・制動力の最終的な目標値である目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nを決定すると共に、第n輪のスリップ比の最終的な目標値である目標第n輪スリップ比を決定する。
この場合、最適目標第n駆動・制動力決定部241a_n(n=1,2,3,4)には、FFtotal_nおよびFxdmd_nに加えて、第n輪Wnの実横すべり角(詳しくは、n=1,2であるときは、実前輪横すべり角βf_act、n=3,4であるときは実後輪横すべり角βr_act)の最新値(今回値)と推定摩擦係数μestmの最新値(今回値)とが入力される。なお、図示は省略するが、前輪W1,W2に係わる最適目標第n駆動・制動力決定部241a_n(n=1,2)には、実前輪舵角δf_actの最新値(今回値)も入力される。そして、最適目標第n駆動・制動力決定部241a_n(n=1,2,3,4)は、それぞれに与えられる入力を基に、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nと目標第n輪スリップ比とを後述するように決定する。
また、アクチュエータ動作目標値合成部24は、前記アクチュエータ動作FB目標値のうちのアクティブ操舵用FB目標横力Fyfbdmd_fと、前記アクチュエータ動作FF目標値のうちのFF目標前輪舵角δf_ffとを最適目標アクティブ舵角決定部247に入力し、該最適目標アクティブ舵角決定部247により前輪W1,W2の最終的な舵角の目標値である目標前輪舵角δfcmdを決定する。なお、このδfcmdは、ステアリング装置3Bが前記アクチュエータ駆動型のステアリング装置である場合には、アクチュエータの動作による前輪W1,W2の舵角そのもの(実車1の前後方向を基準とした舵角)の最終的な目標値を意味する。一方、ステアリング装置3Bが前記アクチュエータ補助型のステアリング装置である場合には、アクチュエータの動作による前輪W1,W2の舵角の補正量の最終的な目標値を意味する。
なお、アクチュエータ動作目標値合成部24は、前記アクチュエータ動作FF目標値のうちのFF目標第n輪駆動系駆動・制動力(n=1,2)をそのまま、駆動・制動装置3Aの駆動系の動作による第n輪Wnの駆動・制動力の最終的な目標値である目標第n輪駆動系駆動・制動力として出力する。さらに、アクチュエータ動作目標値合成部24は、前記アクチュエータ動作FF目標値のうちのFF目標ミッション減速比をそのまま、駆動・制動装置3Aの変速装置の減速比(変速比)の最終的な目標値である目標ミッション減速比として出力する。
前記最適目標第n駆動・制動力決定部241a_n(n=1,2,3,4)の処理を以下に詳説する。図19は、各最適目標第n駆動・制動力決定部241a_nの処理を示すフローチャートである。
同図を参照して、まず、S100において、第n輪Wn(n=1,2,3,4)の横すべり角が実横すべり角(詳しくは、n=1,2であるときは実前輪横すべり角βf_act、n=3,4であるときは実後輪横すべり角βr_act)であって、路面摩擦係数(第n輪Wnと路面との間の摩擦係数)が推定摩擦係数μestmであることを前提条件とする。そして、この前提条件の基で、無制限目標第n輪駆動・制動力Fxdmd_nに最も近い(一致する場合を含む)第n輪Wnの駆動・制動力の値である第n輪駆動・制動力候補Fxcand_nと、それに対応する第n輪Wnのスリップ比の値である第n輪スリップ比候補Scand_nとを求める。
ここで、一般に、各車輪の横すべり角と路面反力(駆動・制動力、横力、および接地荷重)とスリップ比と路面摩擦係数との間には、該車輪のタイヤの特性やサスペンション装置の特性に応じた一定の相関関係がある。例えば、各車輪の横すべり角と路面反力(駆動・制動力、横力、および接地荷重)とスリップ比と路面摩擦係数との間には、前記非特許文献1の式(2.57),(2.58),(2.72),(2.73)により表されるような相関関係がある。また、例えば接地荷重および路面摩擦係数を一定とした場合、各車輪の横すべり角と駆動・制動力と横力とスリップ比との間には、前記非特許文献1の図2.36に示されるような相関関係がある。従って、横すべり角および路面摩擦係数がそれぞれある値であるときの各車輪の路面反力とスリップ比とは、それぞれが独立的な値を採り得るわけではなく、それぞれの値は、上記の相関関係(以下、車輪特性関係という)に従って変化する。なお、スリップ比は、駆動・制動力が駆動方向の駆動・制動力(>0)であるときは負の値であり、駆動・制動力が制動方向の駆動・制動力(<0)であるときは正の値である。
そこで、本参考例1におけるS100の処理では、第n輪Wnの横すべり角と路面摩擦係数と駆動・制動力とスリップ比との関係を表す、あらかじめ作成されたマップに基づいて、第n輪Wnの実横すべり角βf_actまたはβr_act(最新値)と推定路面摩擦係数μestm(最新値)とから、無制限目標第n輪駆動・制動力Fxdmd_nに最も近いか、または一致する駆動・制動力(Fxdmd_nとの差の絶対値が最小となる駆動・制動力)と、この駆動・制動力に対応するスリップ比とを求める。そして、このようにして求めた駆動・制動力とスリップ比とをそれぞれ第n輪駆動・制動力候補Fxcand_n、第n輪スリップ比候補Scand_nとして決定する。
なお、この処理で使用するマップは、例えば前記車輪特性関係を種々の実験などを通じて、あるいは、車輪W1〜W4のタイヤ特性やサスペンション装置3Cの特性に基づいて、あらかじめ特定もしくは推定しておき、その特定もしくは推定した車輪特性関係に基づいて作成すればよい。また、そのマップには、第n輪Wnの接地荷重を変数パラメータとして加えてもよい。この場合には、第n輪Wnの実接地荷重Fzact_nを最適目標第n駆動・制動力決定部241a_nに入力するようにして、第n輪Wnの実横すべり角βf_actまたはβr_actと、推定摩擦係数μestmと、実接地荷重Fzact_nとからFxcand_n、Scand_nを決定するようにすればよい。ただし、実接地荷重Fzact_nの変動は一般に比較的小さいので、該実接地荷重Fzact_nを一定値とみなしてもよい。
補足すると、第n輪Wnの実横すべり角βf_actまたはβr_actと推定路面摩擦係数μestmとの組に対応して、あるいは、これらと実接地荷重Fzact_nとの組に対応して、第n輪Wnで発生可能(路面から作用可能な)な駆動・制動力(前記車輪特性関係に従って発生可能な駆動・制動力)の値の範囲内にFxdmd_nが存在する場合には、そのFxdmd_nをそのままFxcand_nとして決定すればよい。そして、Fxdmd_nが当該範囲を逸脱している場合には、当該範囲のうちの上限値(>0)および下限値(<0)のうち、Fxdmd_nに近い方をFxcand_nとして決定すればよい。
また、第n輪Wnの実横すべり角βf_actまたはβr_actと推定路面摩擦係数μestmとの組に対応して、あるいは、これらと実接地荷重Fzact_nとの組に対応して、第n輪Wnで発生可能なスリップ比と駆動・制動力との関係(前記車輪特性関係に従って発生可能なスリップ比と駆動・制動力との関係)は、一般に、該スリップ比の変化に対して、駆動・制動力がピーク値(極値)を持つような関係となる(スリップ比を横軸の値、駆動・制動力の大きさを縦軸の値としたときのグラフが上に凸のグラフとなる)。このため、そのピーク値よりも絶対値が小さい駆動・制動力の値に対応するスリップ比の値は2種類存在する場合がある。このようにFxcand_n対応するスリップ比の値が2種類存在する場合には、その2種類のスリップ比の値のうち、0により近い方のスリップ比の値を第n輪スリップ比候補Scand_nとして決定すればよい。換言すれば、第n輪Wnのスリップ比と駆動・制動力との関係(前記車輪特性関係に従う関係)において、駆動・制動力がピーク値となるスリップ比の値と0と間の範囲内で、第n輪スリップ比候補Scand_nを決定すればよい。
補足すると、駆動・制動力がピーク値となるスリップ比の値と0との間の範囲内では、スリップ比の絶対値が0から増加するに伴い、駆動・制動力の絶対値は単調に増加する。
次いで、S102に進んで、S100と同じ前提条件の基で、最大モーメント発生時第n輪駆動・制動力Fxmmax_nと、これに対応するスリップ比である最大モーメント発生時第n輪スリップ比Smmax_nとを決定する。ここで、最大モーメント発生時第n輪駆動・制動力Fxmmax_nは、第n輪Wnの横すべり角が実横すべり角βf_actまたはβr_actであって、路面摩擦係数が推定摩擦係数μestmであるときに、第n輪Wnで発生可能な路面反力(詳しくは前記車輪特性関係に従って第n輪Wnに路面から作用可能な駆動・制動力と横力との合力)のうち、該路面反力によって実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントが、前記フィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmdの極性と同じ極性(向き)に向かって最大となるような路面反力の駆動・制動力成分の値を意味する。なお、この場合、Fxmmax_n,Smmax_nは、第n輪Wnの駆動・制動力とスリップ比との関係(前記車輪特性関係に従う関係)において、スリップ比の絶対値が0から増加するに伴い駆動・制動力の絶対値が単調に増加する領域内で決定される。従って、Smmax_nは、駆動・制動力がピーク値となるスリップ比の値と0との間で決定される。
S102では、前輪W1,W2に関しては(n=1または2であるとき)、例えば実前輪横すべり角βf_actと、推定摩擦係数μestmと、実前輪舵角δf_actとから、あらかじめ作成されたマップ(前輪横すべり角と路面摩擦係数と前輪舵角と最大モーメント発生時駆動・制動力と最大モーメント発生時スリップ比との関係(前記車輪特性関係に従う関係)を表すマップ)に基づいて、最大モーメント発生時第n輪駆動・制動力Fxmmax_nとこれに対応する最大モーメント発生時第n輪スリップ比Smmax_nとが決定される。あるいは、前輪横すべり角と路面摩擦係数とスリップ比と駆動・制動力と横力との関係を表すマップと、実前輪舵角δf_actとに基づき、βf_actとμestmとの組に対応して発生可能な第n輪Wn(n=1または2)の駆動・制動力と横力との組のなかから、それらの合力が実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントが最大となる駆動・制動力と横力との組を探索的に決定する。そして、その組に対応する駆動・制動力とスリップ比とをそれぞれFxmmax_n,Smmax_nとして決定するようにしてもよい。
また、後輪W3,W4に関しては(n=3または4であるとき)、例えば、実後輪横すべり角βr_actと推定摩擦係数μestmとから、あらかじめ作成されたマップ(後輪横すべり角と路面摩擦係数と最大モーメント発生時駆動・制動力と最大モーメント発生時スリップ比との関係(前記車輪特性関係に従う関係)を表すマップ)に基づいて、最大モーメント発生時第n輪駆動・制動力Fxmmax_nとこれに対応する最大モーメント発生時第n輪スリップ比Smmax_nとが決定される。あるいは、後輪横すべり角と路面摩擦係数とスリップ比と駆動・制動力と横力との関係を表すマップに基づき、βr_actとμestmとの組に対応して発生可能な第n輪Wn(n=3または4)の駆動・制動力と横力との組のなかから、それらの合力が実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントが最大となる駆動・制動力と横力との組を探索的に決定する。そして、その組に対応する駆動・制動力とスリップ比とをそれぞれFxmmax_n,Smmax_nとして決定するようにしてもよい。
なお、S102の処理では、前記S100の処理に関して説明した場合と同様に、第n輪Wnの実接地荷重Fzact_nを変数パラメータとして含めてもよい。
次いで、S104〜S112の処理が後述するように実行され、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nが決定される。この場合、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nは、次の条件(1)〜(3)を満足するように決定される。ただし、条件(1)〜(3)は、条件(1)、(2)、(3)の順に、優先順位が高い条件とされる。そして、条件(1)〜(3)の全てを満たす目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nを決定できない場合には、優先順位の高い条件を優先的に満足するように目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nが決定される。
条件(1):FF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_nと目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nとが制動方向の駆動・制動力であるときには、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nの大きさ(絶対値)がFF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_nの大きさ(絶対値)よりも小さくならないこと。換言すれば、0>Fxcmd_n>FFtotal_nとならないこと。
条件(2):目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nが最大モーメント発生時第n輪駆動・制動力Fxmmax_nと同極性になるときには、Fxcmd_nの大きさ(絶対値)がFxmmax_nの大きさ(絶対値)を超えないこと。換言すれば、Fxcmd_n>Fxmmax_n>0、または、Fxcmd_n<Fxmmax_n<0とならないこと。
条件(3):目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nは、可能な限り第n輪駆動・制動力候補Fxcand_nに一致すること(より正確には、Fxcmd_nとFxcand_nとの差の絶対値を最小にすること)
ここで、条件(1)は、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nが、実車1の運転者がブレーキペダルの操作によって要求している実車1の第n輪Wnの制動方向の駆動・制動力(これはFFtotal_nに相当する)よりも小さくならないようにするための条件である。補足すると、本明細書の実施形態および参考例では、後輪W3,W4は従動輪であるので、後輪W3,W4に関するFF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_n(n=3,4)および目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_n(n=3,4)は、常に0以下の値である。従って、後輪W3,W4に関しては、条件(1)は、「目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nの大きさ(絶対値)がFF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_nの大きさ(絶対値)よりも小さくならないこと。」という条件と同じである。
また、条件(2)は、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nに対応して第n輪Wnで発生する横力が小さくなり過ぎないようにするための条件である。
また、条件(3)は、前記アクチュエータ動作FB目標値決定部20bとFF則22とで決定された、アクチュエータ装置3の動作の制御要求(目標)をできるだけ満足するための条件である。なお、Fxcand_nは、前記したように、前記車輪特性関係(第n輪Wnの横すべり角が実横すべり角βf_actまたはβr_actであって、路面摩擦係数が推定摩擦係数μestmであることを前提条件としたときの車輪特性関係)に従って第n輪Wnで発生可能な駆動・制動力の値の範囲内で前記無制限目標第n輪駆動・制動力Fxdmd_nに最も近い(一致する場合を含む)駆動・制動力の値である。従って、条件(3)は別の言い方をすれば、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nは、前記車輪特性関係(第n輪Wnの横すべり角が実横すべり角βf_actまたはβr_actであって、路面摩擦係数が推定摩擦係数μestmであることを前提条件としたときの車輪特性関係)に従って第n輪Wnで発生可能な駆動・制動力の値の範囲内の値となり、且つ、可能な限り無制限目標第n輪駆動・制動力Fxdmd_n(制御要求に従う駆動・制動力)に一致するかもしくは近いこと(Fxdmd_nとの差の絶対値が最小になること)、という条件と同等である。
前記S104〜S112の処理は、具体的には、次のように実行される。まず、S104に進んで、S100で決定したFxcand_nとS102で決定したFxmmax_nとの大小関係が、0>Fxmmax_n>Fxcand_nまたは0<Fxmmax_n<Fxcand_nであるか否かを判断する。この判断結果がNOである場合には、S106に進んで、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nにFxcand_nの値を代入する。すなわち、Fxcand_nとFxmmax_nとが互いに異なる極性である場合、あるいは、Fxcand_nとFxmmax_nとが同極性であって、且つFxcand_nの大きさ(絶対値)がFxmmax_nの大きさ(絶対値)以下である場合には、Fxcand_nの値がそのままFxcmd_nに代入される。なお、Fxcand_n=0であるとき(このとき、Fxdmd_nも0である)にも、Fxcand_nの値がFxcmd_nに代入される(Fxcmd_n=0とする)。
一方、S104の判断結果がYESである場合には、S108に進んで、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nにFxmmax_nの値(S102で決定した値)を代入する。
ここまでの処理により、前記条件(2)、(3)を満足するように(ただし、条件(2)が優先されるように)、Fxcmd_nが決定される。
S106またはS108の処理の後、S110に進んで、前記FF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_nと今現在の目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_n(S106またはS108で決定された値)との大小関係が、0>Fxcmd_n>FFtotal_nであるか否かを判断する。この判断結果が、YESである場合には、S112に進んで、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nに改めてFFtotal_nを代入する。すなわち、FF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_nとS106またはS108で決定された第n輪駆動・制動力候補Fxcmd_nとが制動方向の駆動・制動力で、且つ、Fxcmd_nの大きさ(絶対値)が、FFtotal_nの大きさ(絶対値)よりも小さい場合には、FFtotal_nの値をFxcmd_nに代入する。なお、S110の判断結果がNOであるときには、その時のFxcmd_nの値がそのまま維持される。
以上のS104〜S112の処理によって、前記した通り、基本的には、前記条件(1)〜(3)を満足するように目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nが決定される。そして、条件(1)〜(3)の全てを満たす目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nを決定できない場合には、優先順位の高い条件を優先的に満足するように目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nが決定される。
S110の判断結果がYESであるとき、あるいは、S112の処理の後、S114にの処理が実行される。このS114では、上記の如くS106〜S112の処理で決定したFxcmd_nに対応するスリップ比を目標第n輪スリップ比Scmd_nとして決定する。この場合、前記S104〜S112の処理によって、Fxcmd_nは、Fxcand_n、Fxmmax_n、FFtotal_nのいずれかの値である。そして、Fxcmd_n=Fxcand_nであるときには、S100で求められた第n輪スリップ比候補Scand_nがScmd_nとして決定される。また、Fxcmd_n=Fxmmax_nであるときには、S102で決定された最大モーメント発生時第n輪スリップ比Smmax_nがScmd_nとして決定される。また、Fxcmd_n=FFtotal_nであるときには、例えば前記S100の処理で使用するマップに基づいて、FFtotal_nに対応するスリップ比を求め、その求めたスリップ比をScmd_nとして決定すればよい。この場合、FFtotal_nに対応するスリップ比の値が2種類存在する場合には、0に近い方のスリップ比の値(第n輪Wnの駆動・制動力がピーク値となるスリップ比の値と0との間の範囲内の値)をScmd_nとして決定すればよい。また、FFtotal_nが該マップにおいて、第n輪Wnで発生可能な駆動・制動力の値の範囲を逸脱している場合には、その範囲内でFFtotal_nに最も近い駆動・制動力の値に対応するスリップ比をScmd_nとして決定すればよい。
以上が最適目標第n駆動・制動力決定部241a_n(n=1,2,3,4)の処理の詳細である。
なお、本参考例1では、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nを決定してから、これに対応する目標第n輪スリップ比Scmd_nを決定したが、これと逆に、目標第n輪スリップ比Scmd_nを決定してから、これに対応する目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nを決定するようにしてもよい。この場合には、前記条件(1)〜(3)に対応する目標第n輪スリップ比Scmd_nに関する条件に基づいて、前記S104〜S112と同様の処理によって、目標第n輪スリップ比Scmd_nを決定する。そして、その後に、このScmd_nに対応するFxcmd_nを決定するようにすればよい。なお、この場合、Scmd_nは、第n輪Wnの前記車輪特性関係に従うスリップ比と駆動・制動力との関係において、駆動・制動力がピーク値となるスリップ比の値と0との間の範囲内で決定される。
次に、前記最適目標アクティブ舵角決定部247の処理を説明する。図20は、この最適目標アクティブ舵角決定部247の処理を示す機能ブロック図である。
同図を参照して、最適目標アクティブ舵角決定部247は、まず、前記アクチュエータ動作FB目標値決定部20bで決定されたアクティブ操舵用FB目標横力Fyfbdmd_fを実車1に前輪W1,W2に発生させる(詳しくは前輪W1の横力と前輪W2の横力との合力をFyfbdmd_fだけ変化させる)ために要求される前輪W1,W2の舵角の変化量であるFBアクティブ舵角δf_fbを、Fyfbdmd_fを基に処理部247aで決定する。この場合、処理部247aでは、例えば第1輪W1の実接地荷重Fzact_1に応じて所定の関数式あるいはマップにより第1輪W1のコーナリングパワーKf_1を求めると共に、第2輪W2の実接地荷重Fzact_2に応じて所定の関数式あるいはマップにより第2輪W2のコーナリングパワーKf_2を求める。上記関数式あるいはマップは、実車1の前輪W1,W2のタイヤ特性に基づいてあらかじめ設定される。そして、このコーナリングパワーKf_1,Kf_2を用いて、次式30により、FBアクティブ舵角δf_fbを決定する。
δf_fb=(1/(Kf_1+Kf_2))・Fyfbdmd_f ……式30
このようにして求められるFBアクティブ舵角δf_fbは、前輪W1,W2の横力の合力を、Fyfbdmd_fだけ変化させるのに要求される前輪横すべり角の修正量に相当する。
なお、通常、実接地荷重Fzact_1,Fzact_2の変化は小さいので、式30でFyfbdmd_fに乗じる係数(1/(Kf_1+Kf_2))を一定値としてもよい。
次いで、最適目標アクティブ舵角決定部247は、上記の如く決定したδf_fbを加算器247bでFF目標前輪舵角δf_ffに加えることにより、目標前輪舵角δfcmdを決定する。
なお、前記状態量偏差γerr,βerrに応じたアクティブ操舵用FB目標横力Fyfbdmd_fの決定を行なわず、あるいは、常にFyfbdmd_f=0とする場合には、δf_ffをそのまま目標前輪舵角δf_cmdとして決定すればよい。
以上が、前記アクチュエータ動作目標値合成部24の処理の詳細である。
[アクチュエータ駆動制御装置について]
前記アクチュエータ駆動制御装置26は、前記アクチュエータ動作目標値合成部24で決定された目標値を満足するように実車1のアクチュエータ装置3を動作させる。例えば、駆動・制動装置3Aの駆動系の動作による第1輪W1の駆動・制動力(駆動方向の駆動・制動力)が前記目標第1輪駆動系駆動・制動力になるように該駆動系のアクチュエータ操作量を決定し、それに応じて該駆動系を動作させる。さらに、第1輪W1の実路面反力のうちの駆動・制動力(駆動系の動作による第1輪W1の駆動・制動力とブレーキ装置の動作による第1輪W1の駆動・制動力(制動方向の駆動・制動力)との和)が、前記目標第1輪駆動・制動力Fxcmd_1になるように、ブレーキ装置のアクチュエータ操作量を決定し、それに応じて該ブレーキ装置を動作させる。そして、この場合、第1輪W1の実スリップ比と前記目標第1輪スリップ比Scmd_1との差が0に近づくように駆動系またはブレーキ装置の動作が調整される。他の車輪W2〜W4についても同様である。
また、ステアリング装置3Bがアクチュエータ駆動型のステアリング装置である場合には、実前輪舵角δf_actが前記目標前輪舵角δfcmdに一致するようにステアリング装置3Bのアクチュエータ操作量が決定され、それに応じてステアリング装置3Bの動作が制御される。なお、ステアリング装置3Bがアクチュエータ補助型のステアリング装置である場合には、実前輪舵角δf_actが、前記目標前輪舵角δf_cmdとステアリング角θhに応じた機械的な舵角分との和に一致するようにステアリング装置3Bの動作が制御される。
また、駆動・制動装置3Aの駆動系の変速装置の減速比は、前記目標ミッション減速比に従って制御される。
なお、各車輪W1〜W4の駆動・制動力や横力などの制御量は、駆動・制動装置3A、ステアリング装置3B、サスペンション装置3Cの動作が互いに干渉しやすい。このような場合には、該制御量を目標値に制御するために、駆動・制動装置3A、ステアリング装置3B、サスペンション装置3Cの動作を非干渉化処理によって統合的に制御することが望ましい。
[参考例2]
次に、本発明の実施形態に関連する参考例2を図21〜図23を参照して説明する。なお、本参考例2は、前記参考例1と一部の処理のみが相違するので、その相違する部分を中心に説明し、同一部分については説明を省略する。また、参考例2の説明では、参考例1と同一の構成部分もしくは同一の機能部分については参考例1と同じ参照符号を使用する。
補足すると、この参考例2は、後述する本発明の第2実施形態に関連するものである、アクチュエータ動作目標値合成部24の処理だけが、第2実施形態と相違するものである。従って、アクチュエータ動作目標値合成部24の処理に関する説明以外は、第2実施形態の説明を兼ねている。
前記参考例1では、駆動・制動装置3Aに対するアクチュエータ動作FB目標値として、駆動・制動装置3Aのブレーキ装置の動作によって第n輪Wn(n=1,2,3,4)に作用させる駆動・制動力の補正要求値(状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるための補正要求値)を意味する前記FB目標第n輪ブレーキ駆動・制動力Fxfbdmd_nを求めるようにした。本参考例2では、これに代えて、駆動・制動装置3Aに対するアクチュエータ動作FB目標値として、FB目標第n輪ブレーキモーメントMfbdmd_n(n=1,2,3,4)を決定する。このFB目標第n輪ブレーキモーメントMfbdmd_nは、駆動・制動装置3Aのブレーキ装置の動作によって各車輪W1〜W4に作用させる路面反力(詳しくは駆動・制動力および横力の合力)が実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントの補正要求値(状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるための補正要求値)を意味する。そして、本参考例2では、このFB目標第n輪ブレーキモーメントMfbdmd_nを使用して、アクチュエータ動作目標値を決定する。
従って、本参考例2では、FB分配則20のアクチュエータ動作FB目標値決定部20bの処理と、アクチュエータ動作目標値合成部24の処理とが前記参考例1と相違する。そして、これ以外の構成および処理は、参考例1と同じである。
以下に本参考例2におけるアクチュエータ動作FB目標値決定部20bの処理と、アクチュエータ動作目標値合成部24の処理とを説明する。
図21は本参考例2におけるアクチュエータ動作FB目標値決定部20bの処理機能を示す機能ブロック図である。同図を参照して、アクチュエータ動作FB目標値決定部20bは、まず、処理部220,221により参考例1と同じ処理を実行し、それぞれ前記フィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmdと、不感帯超過フィードバックヨーモーメント要求値Mfbdmd_aとを決定する。なお、処理部221を省略して、Mfbdmd_a=Mfbdmdとしてもよい。
次いで、アクチュエータ動作FB目標値決定部20bは、アクチュエータ動作FB目標値分配処理部222の処理を実行してアクチュエータ動作FB目標値を決定する。この場合、本参考例2では、各FB目標第n輪ブレーキモーメントMfbdmd_n(n=1,2,3,4)は、処理部222f_n,222g_nを介して決定される。また、アクティブ操舵用FB目標横力Fyfbdmd_fが処理部222eにより決定される。処理部222eの処理は、前記参考例1と同じである。なお、処理部222eは省略してもよい。
各FB目標第n輪ブレーキモーメントMfbdmd_n(n=1,2,3,4)は、次のように決定される。すなわち、基本的には、Mfbdmd_aが正であるときには、そのモーメントを実車1の左側の車輪W1,W3の路面反力の操作(補正)によって発生させ、Mfbdmd_aが負であるときには、そのモーメントを実車1の右側の車輪W2,W4の路面反力の操作(補正)によって発生させるように、FB目標第n輪ブレーキモーメントMfbdmd_n(n=1,2,3,4)が決定される。
具体的には、まず、各車輪W1〜W4に対応する処理部222f_n(n=1,2,3,4)によって、それぞれ第n輪分配ゲインKnを決定する。この第n輪分配ゲインKnの決定の仕方は、前記参考例1と同じである。すなわち、前輪W1,W2に係わるK1,K2は、それぞれ前輪側ゲイン調整パラメータとしての実前輪横すべり角βf_actに応じて、例えば前記図14(a)のグラフで示す如く決定される。また、後輪W3,W4に係わるK3,K4は、それぞれ後輪側ゲイン調整パラメータとしての実後輪横すべり角βr_actに応じて、例えば前記図14(b)のグラフで示す如く決定される。そして、各処理部222f_n(n=1,2,3,4)は、この第n輪分配ゲインKnをMfbdmd_aに乗じることにより、第n輪分配モーメント基本値Mfb_nを決定する。なお、このように決定されるMfb_nの極性(向き)は、Mfbdmd_aと同じである。また、第n輪分配ゲインKnは、βf_actまたはβr_actに応じて上記の如く決定する以外に、前記参考例1で説明したいずれの形態で決定するようにしてもよい。そして、この場合、前輪側ゲイン調整パラメータおよび後輪側ゲイン調整パラメータは、前記参考例1と同様に、βf_act、βr_act以外のパラメータを使用してもよい。
次いでアクチュエータ動作FB目標値分配処理部222は、上記の如く決定した第n輪分配モーメント基本値Mfb_n(n=1,2,3,4)を、それぞれ第n輪Wnに対応するリミッタ222g_nに通すことにより、FB目標第n輪ブレーキモーメントMfbdmd_nをそれぞれ決定する。
ここで、図21中の各リミッタ222g_n(n=1,2,3,4)のグラフは、Mfb_nとMfbdmd_nとの関係を表すグラフであり、該グラフに関する横軸方向の値がMfb_nの値、縦軸方向の値がMfbdmd_nの値である。
このリミッタ222g_nのうち、第1輪W1および第3輪W3に係わるリミッタ222g_1,222g_3は、それに入力されるMfb_n(n=1,3)の値が0または正の値であるときにのみ、Mfb_nをそのままMfbdmd_nとして出力し、Mfb_nが負の値であるときには、そのMfb_nの値によらずに出力するMfbdmd_nの値を0とする。換言すれば、0を下限値として、Mfb_nに制限を掛けることによりMfbdmd_nを決定する。
一方、第2輪W2および第4輪W4に係わるリミッタ222g_2,222g_4は、それに入力されるMfb_n(n=2,4)の値が0または負の値であるときにのみ、Mfb_nをそのままMfbdmd_nとして出力し、Mfb_nが正の値であるときには、そのMfb_nの値によらずに出力するMfbdmd_nの値を0とする。換言すれば、0を上限値として、Mfb_nに制限を掛けることによりMfbdmd_nを決定する。
このようにFB目標第n輪ブレーキモーメントMfbdmd_n(n=1,2,3,4)を決定することにより、Mfbdmd_a>0である場合には、実車1の左側の車輪W1,W3の路面反力の補正によってMfbdmd_aにほぼ等しいヨー方向のモーメントを実車1の重心点Gのまわりに発生させるべくMfbdmd_nが決定される。この場合、第1輪W1および第3輪W3のそれぞれのMfbdmd_1、Mfbdmd_3は、Mfbdmd_aに比例するもの(Mfbdmd_aにK1またはK3を乗じてなる値)となる。ひいては、Mfbdmd_aの変化と、Mfbdmd_1、Mfbdmd_3の変化との関係が比例関係になる。そして、その比例関係における前輪側ゲインとしての第1輪分配ゲインK1と後輪側ゲインとしての第3輪分配ゲインK3とがそれぞれ前輪側ゲイン調整パラメータ(本参考例ではβf_act)、後輪側ゲイン調整パラメータ(本参考例ではβr_act)に応じて変化することとなる。
また、Mfbdmd_a<0である場合には、駆動・制動装置3Aのブレーキ装置の動作による実車1の右側の車輪W2,W4の路面反力の補正によってMfbdmd_aにほぼ等しいヨー方向のモーメントを実車1の重心点Gのまわりに発生させるべくMfbdmd_nが決定される。この場合、第2輪W2および第4輪W4のそれぞれのMfbdmd_2、Mfbdmd_4は、Mfbdmd_aに比例するもの(Mfbdmd_aにK2またはK4を乗じてなる値)となる。ひいては、Mfbdmd_aの変化と、Mfbdmd_2、Mfbdmd_4の変化との関係が比例関係になる。そして、その比例関係における前輪側ゲインとしての第2輪分配ゲインK2と後輪側ゲインとしての第4輪分配ゲインK4とがそれぞれ前輪側ゲイン調整パラメータ(本参考例ではβf_act)、後輪側ゲイン調整パラメータ(本参考例ではβr_act)に応じて変化することとなる。
なお、第1輪W1および第3輪W3に係わるリミッタ222g_n(n=1,3)は、0よりも若干小さい値をMfbdmd_nの下限値としてMfb_nに制限を掛けることによりMfbdmd_nを決定するようにしてもよい。同様に、第2輪W2および第4輪W4に係わるリミッタ222g_n(n=2,4)は、0よりも若干大きい値をMfbdmd_nの上限値としてMfb_nに制限を掛けることによりMfbdmd_nを決定するようにしてもよい。
以上が本参考例2におけるアクチュエータ動作FB目標値決定部20bの処理の詳細である。
次に、本参考例2におけるアクチュエータ動作目標値合成部24の処理を図22および図23を参照して説明する。図22はアクチュエータ動作目標値合成部24の処理機能を示す機能ブロック図、図23はその処理機能のうちの最適目標第n駆動・制動力決定部の処理を示すフローチャートである。
図22を参照して、本参考例2におけるアクチュエータ動作目標値合成部24は、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nおよび目標第n輪スリップ比Scmd_nを決定する最適目標第n駆動・制動力決定部241b_n(n=1,2,3,4)と、目標前輪舵角δfcmdを決定する最適アクティブ舵角決定部247とを備えている。
最適アクティブ舵角決定部247の処理は、参考例1と同じである。一方、最適目標第n駆動・制動力決定部241b_nの処理は、参考例1と相違している。また、アクチュエータ動作目標値合成部24は、前記参考例1と同様に、前記FF則22で決定されたアクチュエータ動作FF目標値のうちのFF目標第1輪駆動系駆動・制動力、FF目標第2輪駆動系駆動・制動力、およびFF目標ミッション減速比をそれぞれ目標第1輪駆動系駆動・制動力、目標第2輪駆動系駆動・制動力、目標ミッション減速比として出力するようにしている。
本参考例2では、前輪W1,W2に係わる最適目標第n駆動・制動力決定部241b_n(n=1,2)には、それぞれ、前記FF則22で決定されたアクチュエータ動作FF目標値のうちのFF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力とFF目標第n輪駆動系駆動・制動力との和であるFF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_n(これは参考例1と同様に加算器240で求められる)と、前記アクチュエータ動作FB目標値決定部20bで決定されたアクチュエータ動作FB目標値のうちのFB目標第n輪ブレーキモーメントMfbdmd_nとが入力される。なお、前輪W1,W2に係わる最適目標第n駆動・制動力決定部241b_n(n=1,2)には、参考例1の場合と同様に、実前輪横すべり角βf_actの最新値(今回値)および推定摩擦係数μestmの最新値(今回値)も入力される。さらに、図示は省略するが、実前輪舵角δf_actの最新値(今回値)も最適目標第n駆動・制動力決定部241b_n(n=1,2)に入力される。
また、後輪W3,W4に係わる最適目標第n駆動・制動力決定部241b_n(n=3,4)には、それぞれ、前記FF則22で決定されたアクチュエータ動作FF目標値のうちのFF目標第n輪ブレーキ駆動・制動力がFF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_nとして入力されると共に、前記アクチュエータ動作FB目標値決定部20bで決定されたアクチュエータ動作FB目標値のうちのFB目標第n輪ブレーキモーメントMfbdmd_nとが入力される。なお、後輪W3,W4に係わる最適目標第n駆動・制動力決定部241b_n(n=3,4)には、参考例1の場合と同様に、実後輪横すべり角βr_actの最新値(今回値)および推定摩擦係数μestmの最新値(今回値)も入力される。
そして、最適目標第n駆動・制動力決定部241b_n(n=1,2,3,4)は、それぞれ、与えられた入力を基に、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nと目標第n輪スリップ比Scmd_nとを決定して出力する。
以下に、図23を参照して、各最適目標第n駆動・制動力決定部241b_n(n=1,2,3,4)の処理を説明する。
まず、S200において、第n輪Wn(n=1,2,3,4)の横すべり角が実横すべり角(詳しくは、n=1または2であるときは実前輪横すべり角βf_act、n=3または4であるときは実後輪横すべり角βr_act)であって、路面摩擦係数(第n輪Wnと路面との間の摩擦係数)が推定摩擦係数μestmであることを前提条件とする。そして、この前提条件の基で、前記FF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_nに対応するスリップ比Sff_nを求める。より詳しくは、該前提条件の基で、第n輪Wnで発生可能な駆動・制動力のうち、FFtotal_nに一致するか、もしくは最も近い駆動・制動力に対応するスリップ比の値をSff_nとして求める。この場合、例えば前記参考例1における図19のS100の処理で使用するマップに基づいて、FFtotal_nに対応するスリップ比を求め、その求めたスリップ比をSff_nとして決定すればよい。なお、FFtotal_nに対応するスリップ比の値が2種類存在するような場合には、0に近い方のスリップ比がSff_nとして決定される。換言すれば、第n輪Wnのスリップ比と駆動・制動力との関係(前記車輪特性関係に従う関係)において、駆動・制動力がピーク値(極値)となるスリップ比の値と0との間の範囲内において、Sff_nが決定される。また、FFtotal_nが上記前提条件の基で、第n輪Wnで発生可能な駆動・制動力の値の範囲を逸脱している場合には、FFtotal_nに最も近い駆動・制動力の値に対応するスリップ比の値がSff_nとして決定される。
次いで、S202に進んで、第n輪Wnのスリップ比がSff_nであるときの第n輪Wnの横力Fyff_nを求める。この場合、例えば第n輪Wnの横すべり角と路面摩擦係数とスリップ比と横力との関係(前記車輪特性関係に従う関係)を表す、あらかじめ作成されたマップに基づいて、第n輪Wnの実横すべり角βf_actまたはβr_actの値と、推定路面摩擦係数μestmの値と、Sff_nの値とから横力Fyff_nを求めるようにすればよい。なお、そのマップには、第n輪Wnの実接地荷重Fzact_nを変数パラメータとして含めてもよい。
次いで、S204に進んで、スリップ比がSff_nであるときの第n輪Wnの駆動・制動力であるFFtotal_nと、該第n輪Wnの横力であるFyff_nとの合力ベクトルが、実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントMff_nを求める。具体的には、第n輪Wnが前輪W1,W2であるとき(n=1または2であるとき)には、実前輪舵角δf_actを基に、第n輪Wnから見た実車1の重心点Gの位置ベクトル(水平面上での位置ベクトル)を求める。そして、その位置ベクトルと上記合力ベクトルとの外積(ベクトル積)を演算することによって、Mff_nを求めればよい。また、第n輪Wnが後輪W3,W4であるとき(n=3または4であるとき)には、第n輪Wnから見た実車1の重心点Gの位置ベクトル(水平面上での位置ベクトル。これはあらかじめ設定される)と上記合力ベクトルとの外積(ベクトル積)を演算することによって、Mff_nを求めればよい。なお、Mff_nは、FFtotal_nとFyff_nと実前輪舵角δf_actとから(n=1または2である場合)、あるいは、FFtotal_nとFyff_nとから(n=3または4である場合)、あらかじめ作成したマップに基づいて求めるようにしてもよい。このようにして求められるMff_nは、第n輪のフィードフォワード要求モーメント(Mfbdmd_n=0である場合の要求モーメント)に相当するものである。
次いで、S206に進んで、上記の如く求めたMff_nと前記FB目標ブレーキモーメントMfbdmd_nとを加え合わせることにより、第n輪Wnの路面反力による実車1の重心点Gまわりのモーメント(ヨー方向のモーメント)の仮目標値である仮目標モーメント候補Mcand_nが算出される。このMcand_nは、第n輪Wnで制御要求に従って実車1の重心点Gのまわりに発生すべきヨー方向のモーメントを意味する。
次いで、S208に進んで、第n輪Wn(n=1,2,3,4)の横すべり角が実横すべり角(詳しくは、n=1または2であるときは実前輪横すべり角βf_act、n=3または4であるときは実後輪横すべり角βr_act)であって、路面摩擦係数(第n輪Wnと路面との間の摩擦係数)が推定摩擦係数μestmであることを前提条件として、最大モーメント発生時第n輪スリップ比Smmax_nを決定する。この処理は、前記参考例1における図19のS102で最大モーメント発生時第n輪スリップ比Smmax_nを求める場合と同様に実行される。但し、Smmax_nは、それに対応して第n輪Wnで発生する駆動・制動力と横力との合力によって実車1の重心点Gのまわりに発生するモーメント(最大モーメント)が前記フィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmdの極性(向き)に向かって最大となるように決定される。このようにして決定されるSmmax_nは、最大モーメント発生時第k車輪駆動・制動力に対応するスリップ比を意味する。
次いで、S210に進んで、上記の如く求めたSmmax_nの値と0との間で、ヨー方向のモーメントがS206で求めたMcand_nに一致し、またはMcand_nに最も近くなるときのスリップ比Scand_nを求める。
このS210の処理では、例えば第n輪Wnの実横すべり角と路面摩擦係数とスリップ比と駆動・制動力と横力との関係(前記車輪特性関係に従う関係)を表す、あらかじめ作成されたマップと、実前輪舵角δf_actとに基づいて(n=1または2である場合)、あるいは、該マップに基づいて(n=3または4である場合)、前記前提条件の基で、探索的に、Scand_nを求めればよい。
次いで、S212からS216の処理によって、目標第n輪スリップ比Scmd_nが決定される。この場合、Scand_nおよびSff_nが共に正の値であるとき(すなわち、Scand_n,Sff_nにそれぞれ対応する第n輪Wnの駆動・制動力が共に制動方向の駆動・制動力であるとき)には、Scmd_nに対応する駆動・制動力(制動方向の駆動・制動力)の絶対値が、前記FF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_nの絶対値よりも小さくならないようにScmd_nが決定される。
具体的には、S212において、Scand_n>Sff_n>0であるか否かが判断され、この判断結果がYESであるときには、S214に進んで、Scmd_nにScand_nの値が代入される。また、S212の判断結果がNOであるときには、S216に進んで、Scmd_nにSff_nの値が代入される。
次いで、S218に進んで、上記の如く決定したScmd_nに対応する第n輪Wnの駆動・制動力が目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nとして決定される。この場合、例えばスリップ比と駆動・制動力との関係を表す、あらかじめ作成されたマップに基づいて、Scmd_nの値に対応するFxcmd_nが決定される。
以上が、本参考例2における最適目標第n駆動・制動力決定部242b_nの処理である。
補足すると、本参考例2では、前記参考例1における条件(3)の代わりに、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nは、前記車輪特性関係(第n輪Wnの横すべり角が実横すべり角βf_actまたはβr_actであって、路面摩擦係数が推定摩擦係数μestmであることを前提条件としたときの車輪特性関係)に従って第n輪Wnで発生可能な駆動・制動力の値の範囲内の値となり、且つ、該車輪特性関係に従って第n輪Wnで発生可能な路面反力のうち、その駆動・制動力成分がFxcmd_nに等しい路面反力によって実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントが可能な限り前記Mcand_nに一致するかもしくは近いこと(Mcand_nとの差の絶対値が最小になること)、という条件が用いられている。そして、この条件(以下、条件(3)’という)と、前記条件(1)、(2)とのうち、前記条件(1)を最上位の条件、条件(2)を次順位の条件とし、これらの条件(1)、(2)、(3)’をその優先順位に従って満足するように目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nが決定されている。この場合、前記S210までの処理によって、結果的に、条件(2)を満たし得る範囲内で、条件(3)’をできるだけ満たすように、Fxcmd_nが決定されることとなる。すなわち、S210の処理で決定されるScand_nに対応する駆動・制動力(S212の判断結果がYESである場合におけるScmd_nに対応する駆動・制動力)を目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nとして決定したとき、そのFxcmd_nは条件(2)を優先条件として、条件(2)、(3)’を満足するものとなる。さらに、S212〜S216の処理を経ることで、最優先の条件(1)を満たすようにFxcmd_nが決定されることとなる。
[第1実施形態]
次に、本発明の第1実施形態を図24および図25を参照して説明する。なお、本実施形態は、前記参考例1と一部の処理のみが相違するので、その相違する部分を中心に説明し、同一部分については説明を省略する。また、本実施形態の説明では、参考例1と同一の構成部分もしくは同一の機能部分については参考例1と同じ参照符号を使用する。
本実施形態が、参考例1と相違する点は、前記図18に示したアクチュエータ動作目標値合成部24の最適目標第n駆動・制動力決定部241a_n(n=1,2,3,4)の処理だけである。この場合、本実施形態では、図示は省略するが、各最適目標第n駆動・制動力決定部241a_nには、前記FF総合第n輪駆動・制動力FFtotal_nおよび無制限時第n輪駆・制動力Fxdmd_nに加えて、推定摩擦係数μestmと、第n輪Wnの実路面反力(実駆動・制動力Fxact_n、実横力Fyact_n、実接地荷重Fzact_n)とが入力される。そして、各最適目標第n駆動・制動力決定部241a_nは、入力された推定摩擦係数μestmと、第n輪Wnの実路面反力とを基に、第n輪Wnの駆動・制動力と横力との関係を推定する。さらに、その推定した関係を利用して、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nと目標第n輪スリップ比Scmd_nとを決定する。
なお、アクチュエータ動作目標値合成部24は、本発明における実車アクチュエータ操作用制御入力決定手段の構成要素(駆動・制動力操作用制御入力を決定する手段)である。
ここで、前記非特許文献1の式(2.42)に見られるように、各第n輪Wn(n=1,2,3,4)の実横すべり角がある値であるときに、該第n輪Wnに路面から作用する横力Fy_nと駆動・制動力Fx_nとの関係は、一般に、以下に示す楕円の式によって近似できる。
なお、式40において、μは路面摩擦係数、Fz_nは第n輪Wnの接地荷重、Fy0_nは第n輪Wnの駆動・制動力Fx_nが0であるときの横力である。Fy0_nは一般には、第n輪Wnの横すべり角に応じて変化する。Fy0_nの極性は、第n輪Wnの実すべり角の極性と逆になる。
本実施形態では、この式40が、第n輪Wnの駆動・制動力と横力との関係を規定する式であるとして、この式40を利用して、Fxcmd_nとScmd_nとを決定する。この場合、式40のFy0_nを特定するために、実路面反力の値を使用する。
以下に図24を参照して、本実施形態での最適目標第n駆動・制動力決定部241a_n(n=1,2,3,4)の処理を説明する。図24は、その処理を示すフローチャートである。
まず、S300において、第n輪Wnの実路面反力Fxact_n,Fyact_n,Fzact_n(検出値もしくは推定値の最新値)と推定摩擦係数μestm(最新値)とを基に、前記式40のFy0_nの値(駆動・制動力が0であるときの横力の値)を求める。すなわち、式40のFx_n、Fy_n、Fz_n、μにそれぞれFxact_n、Fyact_n、Fzact_n、μestmの値を代入する。そして、Fy0_nについて解くことにより(換言すれば、図中に示す式によって)、Fy0_nの値を決定する。なお、図中のsqrt(A)は(Aは一般変数)、Aの平方根を求める関数である。また、Fy0_nの極性(符号)は、Fyact_nと同じである。
次いで、S302に進んで、前記式40(Fy0_nの値がS300で決定した値である場合の式40)を制約条件(Fx_nとFy_nとの関係を規定する制約条件)として、前記無制限時第n輪駆動・制動力Fxdmd_nに最も近い(一致する場合を含む)駆動・制動力Fx_nを求め、これを第n輪駆動・制動力候補Fxcand_nとする。この場合、式40の制約条件の基で、駆動・制動力Fx_nが採り得る値の範囲は、−μ・Fzact_nとμ・Fzact_nとの間の範囲である。なお、μ・Fzact_nは、第n輪Wnと路面との間の最大摩擦力を意味する。従って、Fxdmd_nの値が、この範囲[−μ・Fzact_n,μ・Fzact_n]内の値である場合には、Fxdmd_nがそのままFxcand_nとして決定され、Fxdmd_nの値が、範囲[−μ・Fzact_n,μ・Fzact_n]を逸脱している場合には、−μ・Fzact_nとμ・Fzact_nとのうちのFxcmd_nに近い方の値が、Fxcand_nとして決定される。
次いで、S304に進んで、前記式40(Fy0_nの値がS300で決定した値である場合の式40)を制約条件として、第n輪の路面反力(駆動・制動力Fx_nと横力Fy_nとの合力)が実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントが最大となるような駆動・制動力Fx_nの値を求め、これを最大モーメント発生時第n輪駆動・制動力Fxmmax_nとする。より詳しくは、前記式40の関係に従うFx_nとFy_nとの組のうち、それらの合力が実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントが最大となるFx_n,Fy_nの組を求め、その組のFx_nの値をFxmmax_nとして決定する。ここでの最大モーメントは、前記フィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmdと同じ極性に向かって最大となるモーメントである。なお、Fxcand_nに対応する横力の極性は、S300で求めたFy0_nの極性(=Fyact_nの極性)と同じである。
この場合、前輪W1,W2に係わるFxmmax_n(n=1または2である場合のFxmmax_n)は、推定摩擦係数μestm(最新値)と第n輪Wnの実接地荷重Fzact_nと実前輪舵角δf_actとから算出される。また、後輪W3,W4に係わるFxmmax_n(n=3または4である場合のFxmmax_n)は、推定摩擦係数μestm(最新値)と第n輪Wnの実接地荷重Fzact_nとから算出される。
ここで、代表的に、第1輪W1に係わるFxmmax_1の算出の仕方を図25を参照して説明する。同図25は、実車1を平面視で模式的に示しており、図中の楕円C1は、前記式40により表される楕円を示している。実車1の重心点Gのまわりに発生するモーメントが最大となるようなFx_1,Fy_1の組に対応する楕円C1上の点は、水平面上で第1輪W1の中心点と実車1の重心点Gとを結ぶ直線u0と平行な直線のうち、楕円C1に接する直線umと楕円C1との接点Psである。なお、この例では、Fxcand_1が負の(制動方向の)駆動・制動力であるとし、接点PsにおけるFx_1も負の値であるとしている。
ここで、第1輪W1の前後方向に対して直線um(またはu0)がなす角度を図示の如くθとおくと、接点Psにおける、Fy_1のFx_1に対する変化率∂Fy_1/∂Fx_1は、次式41で示す如くtanθに等しい。さらに、tanθは、実前輪舵角δf_actから、次式42の幾何学的演算により求められる。
∂Fy_1/∂Fx_1=tanθ ……式41
tanθ=(−Lf・sinδf_act
+(df/2)・cosδf_act)/(Lf・cosδf_act
+(df/2)・sinδf_act)……式42
なお、式42のdf、Lfの意味は、前記図13と同じである。
一方、前記式40によってから、次式43が得られる。
∂Fy_1/∂Fx_1=−(Fy0_1/(μestm・Fzact_1))2・(Fx_1/Fy_1) ……式43
前記式41、43と前記式40とから、接点PsにおけるFx_1の値、すなわち、Fxmmax_1は、次式44により与えられることとなる。
Fxmmax_1=μestm・Fzact_1/sqrt(1+Fy0_12/(tanθ・μestm・Fzact_1)2)
……式44
この式44と前記式42とが、Fxmmax_1を求めるための式である。なお、Fxcand_1が正の値であるときには、Fxmmax_1は、式44の右辺の演算結果の符合を反転させた値となる。
他の車輪W2〜W4についても、上記と同様にFxmmax_n(n=1,2,3)を算出することができる。なお、後輪W3,W4については、実舵角は0であるので、その値は、必要ない。
図24のフローチャートの説明に戻って、S306からS314まで、前記第1実施形態における図19のS104〜S112までの処理と同じ処理が実行され、これにより、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nが決定される。
次いで、S316に進んで、Fxcmd_nに対応するスリップ比を求め、それを目標第n輪スリップ比Scmd_nとして決定する。この場合、例えば、第n輪Wnの駆動・制動力とスリップ比との関係を表す、あらかじめ定められたマップに基づいて、目標第n輪スリップ比Scmd_nが決定される。なお、ここで使用するマップは、μestmと、第n輪Wnの実横すべり角βf_actまたはβr_act(あるいはFy0_n)との組に対応するマップである。
補足すると、本実施形態では、第n輪Wnを本発明における第k車輪とみなしたとき、上記のように決定される目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nが、本発明における駆動・制動力操作用制御入力に相当する。なお、本実施形態では、各車輪W1〜W4を本発明における第k車輪(特定の車輪)としている。
また、S300の処理によってFy_0を求めることで、前記式40の楕円関数が特定されることとなるので、S300の処理が、本発明における第k楕円関数を決定する手段に相当する。そして、上記のように目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nを決定することで、前記参考例1で説明した条件(1)、(2)、(3)を満たすように(詳しくは、条件(1)を最上位の優先条件、条件(2)を次順位の優先条件として、これらの条件(1)〜(3)のいずれかを満たすように)、Fxcmd_nが決定されることとなる。なお、この場合において、なお、Fxcand_nは、前記したように、前記式(40)を制約条件として第n輪Wnで発生可能な駆動・制動力の値の範囲内で前記無制限目標第n輪駆動・制動力Fxdmd_nに最も近い(一致する場合を含む)駆動・制動力の値である。従って、条件(3)は別の言い方をすれば、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nは、前記式(40)の楕円関数に従って第n輪Wnで発生可能な駆動・制動力の値の範囲内の値となり、且つ、可能な限り無制限目標第n輪駆動・制動力Fxdmd_n(制御要求に従う駆動・制動力)に一致するかもしくは近いこと(Fxdmd_nとの差の絶対値が最小になること)、という条件と同等である。従って、条件(1)〜(3)は、それぞれ本発明における第3要求条件、第2要求条件、第1要求条件に相当する。この場合、前記最大モーメント発生時第n輪駆動・制動力Fxmmax_nが、本発明における最大モーメント発生時第k車輪駆動・制動力に相当する。
また、本実施形態でアクチュエータ動作目標値合成部24が決定する各目標値が本発明における実アクチュエータ操作用制御入力に相当する。
また、本実施形態では、第n輪Wnを本発明における第k車輪とみなしたとき、上記のように決定される目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nが、本発明における駆動・制動力操作用制御入力に相当する。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図26を参照して説明する。なお、本実施形態は、前記参考例2と一部の処理のみが相違するので、その相違する部分を中心に説明し、同一部分については説明を省略する。また、本実施形態の説明では、参考例2と同一の構成部分もしくは同一の機能部分については参考例2と同じ参照符号を使用する。
本実施形態が、参考例2と相違する点は、前記図22に示したアクチュエータ動作目標値合成部24の最適目標第n駆動・制動力決定部241b_n(n=1,2,3,4)の処理だけである。この場合、本実施形態では、図示は省略するが、各最適目標第n駆動・制動力決定部241b_nには、前記FF総合第n輪駆動・制動力FFtotal_nおよび無制限時第n輪駆・制動力Fxdmd_nに加えて、推定摩擦係数μestmと、第n輪Wnの実路面反力(実駆動・制動力Fxact_n、実横力Fyact_n、実接地荷重Fzact_n)とが入力される。そして、各最適目標第n駆動・制動力決定部241b_nは、入力された推定摩擦係数μestmと、第n輪Wnの実路面反力とを基に、前記式40により表される第n輪Wnの駆動・制動力と横力との関係を推定し、その推定した関係を利用して、目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nと目標第n輪スリップ比Scmd_nとを決定する。
図26は本実施形態における各最適目標第n駆動・制動力決定部241b_nの処理を示すフローチャートである。以下、説明すると、まず、S400において、前記図24のS300と同じ処理が実行され、式40のFy0_nの値が求められる。
次いで、S402に進んで、前記FF総合目標第n輪駆動・制動力FFtotal_nに対応する横力Fyff_nを求める。すなわち、前記式40のFx_n、Fz_n、μにそれぞれFFtotal_n、Fzact_n、μestmの値を代入すると共に、式40のFy0_nにS400で求めた値を代入して、Fy_nについて解くことにより(換言すれば図中に示す式によって)、Fyff_nの値を決定する。
次いで、S404に進んで、第n輪Wnの駆動・制動力がFFtotal_nで、且つ横力がFyff_nであったときに、これらの合力が実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントを求め、これを第n輪FFモーメントMff_nとする。この処理は、前記図24のS204の処理と同様に行なわれる。
次いで、S406に進んで、上記の如く求めたMff_nと前記FB目標ブレーキモーメントMfbdmd_nとを加え合わせることにより、第n輪Wnの路面反力による実車1の重心点Gまわりのモーメント(ヨー方向のモーメント)の仮目標値である仮目標モーメント候補Mcand_nが算出される。
次いで、S408に進んで、前記式40を制約条件として、第n輪Wnの路面反力(駆動・制動力Fx_nと横力Fy_nとの合力)が実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントが前記フィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmdの極性と同じ極性に向かって最大となるような路面反力の駆動・制動力Fx_nを求め、これを最大モーメント発生時第n輪駆動・制動力Fxmmax_nとする。この処理は、前記図24のS304の処理と同じである。
次いで、S410に進んで、前記式40を制約条件として、第n輪Wnの路面反力(駆動・制動力Fx_nと横力Fy_nとの合力)が実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向モーメントがMcand_nに一致または最も近くなるときのFx_nを求め、これを第n輪Wnの駆動・制動力の候補Fxcand_n(第n輪駆動・制動力候補Fxcand_n)とする。ただし、0>Fxmmax_n>Fxcand_nまたは0<Fxmmax_n<Fxcand_nとならないように(換言すれば、Fxcand_nの符号がFxmmax_nの符号と異なるか、または、Fxcand_nの絶対値がFxmmax_nの絶対値以下になるように)、Fxcand_nが決定される。
この場合、Mcand_nの絶対値がFxmmax_nに対応する最大モーメントの絶対値以上である場合には、Fxmmax_nがFxcand_nとして決定される。
また、Mcand_nの絶対値が、Fxmmax_nに対応する最大モーメントの絶対値よりも小さい場合には、式40の関係を満たすFx_n,Fy_nの組のなかから、それらの合力が実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントがMcand_nに一致するようなFx_n,Fy_nの組が探索的に求められる。なお、この処理では、前輪W1,W2に関しては、式40だけでなく、実前輪舵角δf_actの値も使用される。
この場合、Fx_n,Fy_nの合力が実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントがMcand_nに一致するようなFx_n,Fy_nの組は、2組存在するものの、Fxmmax_n<0であるときには、Fx_n>Fxmmax_nとなる方のFx_nがFxcand_nとして決定され、Fxmmax_n>0であるときには、Fx_n<Fxmmax_nとなるFx_nがFcand_nとして決定される。
かかるS410の処理により、式40が満たされる範囲内において、0>Fxmmax_n>Fxcand_nまたは0<Fxmmax_n<Fxcand_nとならないようにしつつ、実車1の重心点まわりに発生するヨー方向のモーメントがMcand_nに一致するか、もしくは最も近くなるようにFxcand_nが決定される。
次いで、S412に進んで、0>FFtotal_n>Fxcand_nであるか否かを判断する。そして、この判断結果がYESであるときには、S414に進んで、Fxcand_nの値をFxcmd_nに代入する。また、S412の判断結果がNOであるときには、S416に進んで、FFtotal_nの値をFxcmd_nに代入する。これにより、目標第n輪駆動・制動力Fxcmdが決定される。
次いで、S418に進んで、Fxcmd_nに対応するスリップ比を目標第n輪スリップ比Scmd_nとして決定する。この処理は、図24のS316の処理と同じである。
以上が、本実施形態における最適目標第n駆動・制動力決定部241b_nの処理の詳細である。
補足すると、本実施形態では、前記参考例2に関して説明した如く、FB分配則20のアクチュエータ動作FB目標値決定部20bで決定されるFB目標第n輪ブレーキモーメントMfbdmd_n(n=1,2,3,4)は、本発明におけるフィードバック制御入力に相当する。すなわち、Mfbdmd_nは、それによる車輪Wnの駆動・制動力の操作に起因して実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントの目標値としての意味を持つ。
また、本実施形態では、前記第1実施形態における条件(3)の代わりに、前記参考例2に関して説明した条件(3)’と同様の条件が用いられている。ただし、この場合、前記参考例2における車輪特性関係が、前記式40の楕円関数に相当する。従って、本実施形態における条件(3)’は、より詳しくは、前記式(40)に従って第n輪Wnで発生可能な駆動・制動力の値の範囲内の値となり、且つ、該車輪特性関係に従って第n輪Wnで発生可能な路面反力のうち、その駆動・制動力成分がFxcmd_nに等しい路面反力によって実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントが可能な限り前記Mcand_nに一致するかもしくは近いこと(Mcand_nとの差の絶対値が最小になること)、という条件である。そして、この条件(3)’と、前記条件(1)、(2)とのうち、前記条件(1)を最上位の条件、条件(2)を次順位の条件とし、これらの条件(1)、(2)、(3)’をその優先順位に従って満足するように目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nが決定されている。この場合、前記S410までの処理によって、結果的に、条件(2)を満たし得る範囲内で、条件(3)’をできるだけ満たすように、Fxcmd_nが決定されることとなる。さらに、S412〜S416の処理を経ることで、最優先の条件(1)を満たすようにFxcmd_nが決定されることとなる。
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を図27を参照して説明する。なお、本実施形態は、前記第1実施形態または第2実施形態と一部の処理のみが相違するので、その相違する部分を中心に説明し、同一部分については説明を省略する。また、本実施形態の説明では、第1実施形態または第2実施形態と同一の構成部分もしくは同一の機能部分については第1実施形態または第2実施形態と同じ参照符号を使用する。
アクチュエータ動作FB目標値は、本来、状態量偏差γerr,βerrに応じたフィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmdを満足するように決定されることが、フィードバック制御理論上は、理想的である。しかるに、前記第1実施形態または第2実施形態では、不感帯処理部221、リミッタ222d_nなどの処理に起因して、アクチュエータ動作FB目標値によって実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントには、Mfbdmdに対して過不足を生じる。さらに、アクチュエータ動作FB目標値からアクチュエータ動作目標値までの各処理機能部(アクチュエータ動作目標値合成部24など)における非線形性(リミッタや飽和特性など)の影響によって、アクチュエータ動作FB目標値に応じて実車1の各車輪W1〜W4で発生する路面反力がアクチュエータ動作FB目標値に対して過不足を生じる場合がある。従って、実車1の各車輪W1〜W4で発生する路面反力は、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるための理想的な路面反力に対して過不足を生じる場合がある。
一方、実車1の運動の状態量とモデル車両の運動の状態量との差に対する影響に関しては、その差を実車1のアクチュエータ装置3にフィードバックして付加的な路面反力(当該差を0に近づけるための路面反力)を実車1に作用させることと、この付加的な路面反力を(−1)倍してなる外力をモデル車両に作用させることとは等価である。
そこで、本実施形態では、実車1の各車輪W1〜W4で発生する路面反力の、理想的な路面反力に対する過不足分に応じて、モデル車両に作用させる仮想外力を修正し、それによって、該過不足分を補償する。
以下、図27を参照して説明すると、本実施形態では、FB分配則20の仮想外力決定部20aは、前記第1実施形態または第2実施形態における機能に加えて、処理部215を備えている。
処理部215では、まず、アクチュエータ動作FB目標値決定部20bで前述の通り決定されたアクチュエータ動作FB目標値(今回値)を処理部215aに入力する。そして、この処理部215aによって、該アクチュエータ動作FB目標値に起因して実車1の各車輪W1〜W4に作用する路面反力の補正量(アクチュエータ動作FF目標値に対応して発生する路面反力からの補正量)である路面反力補正量を算出する。この場合、路面反力補正量は、次にように求められる。
すなわち、アクチュエータ動作FB目標値(今回値)とアクチュエータ動作FF目標値(今回値)とを基にアクチュエータ動作目標値合成部24で決定される目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_n(n=1,2,3,4)および目標スリップ比Sxcmd_n(n=1,2,3,4)に応じて、第n輪Wnに作用する路面反力(駆動・制動力および横力)を推定する。このとき、第n輪Wnの駆動・制動力の推定値は、Fxcmd_nとし、横力は例えば前記車輪特性関係に基づくマップなどを使用して求めればよい。より具体的には、例えば前記S200およびS202、式40などを使用して横力を求めればよい。また、アクチュエータ動作FB目標値を0としてアクチュエータ動作目標値合成部24と同じ処理を実行することにより、アクチュエータ動作FB目標値を0とした場合の各第n輪Wn(n=1,2,3,4)の目標駆動・制動力および目標スリップ比を求め、それに応じて第n輪Wnに作用する路面反力(駆動・制動力および横力)を推定する。そして、上記のようにアクチュエータ動作FB目標値を異なるものとして求めた第n輪Wnの路面反力の差を求め、その差を第n輪Wnの路面反力補正量として決定する。
次いで、上記の如く求めた路面反力補正量を処理部215bに入力する。そして、この処理部215bによって、各車輪W1〜W4の路面反力補正量(路面反力補正量のうちの駆動・制動力成分および横力成分の合力)に起因して、実車1の重心点Gのまわりに発生するトータルのモーメントMfb(ヨー方向のモーメント)を算出する。具体的には、各第n輪Wn(n=1,2,3,4)の路面反力補正量と、実前輪舵角δf_act等(各車輪W1〜W4と実車1の重心点との幾何学的関係を規定するパラメータ)とを基に、第n輪Wnの路面反力補正量が実車1の重心点Gのまわりに発生するヨー方向のモーメントを求める。そして、それを全ての車輪W1〜W4について合成することにより、Mfbが求められる。
次いで、このモーメントMfbからアクチュエータ動作FB目標値決定部20bの処理部220で決定されたフィードバックヨーモーメント基本要求値Mfbdmd(今回値)を減算器215cで減じることにより、実車ヨーモーメント偏差Mfb_err(=Mfb−Mfbdmd)を求める。なお、この実車ヨーモーメント偏差Mfb_errが、アクチュエータ動作FB目標値に起因して実車1で発生するヨー方向のモーメントの、Mfbdmdからの過不足分を意味する。
次いで、この実車ヨーモーメント偏差Mfb_errに、乗算部215dにて所定のゲインCfbを乗じることにより仮想外力補償モーメントMvir_cを決定する。ゲインCfbは、0<Cfb≦1となる値(1以下の正の値)である。この仮想外力補償モーメントMvir_cは、アクチュエータ動作FB目標値に起因して実車1で発生するヨー方向のモーメントの、Mfbdmdからの過不足分に起因して発生する実車1とモデル車両との間の状態量偏差を0に近づけるようにモデル車両の重心点Gdのまわりに発生させるべきヨー方向のモーメントを意味する。
次いで、前記γβ制限器202で前述した如く決定される仮想外力(前記減算器207の出力)を第2仮値Mvir’(=Mvirtmp−Mvir_over),Fvir’(=Fvirtmp−Fvir_over)とし、この第2仮値Mvir’,Fvir’と仮想外力補償モーメントMvir_cとを加算器215eで加え合わせる。これにより、仮想外力Mvir,Fvir(今回値)を決定する。具体的には、第2仮値Mvir’とMvir_cとの和をMvirとして決定し、第2仮値Fvir’をそのままFvirとして決定する。
以上説明した以外の構成および処理は、前記第1実施形態または第2実施形態と同じである。
本実施形態によれば、状態量偏差γerr,βerrからアクチュエータ動作目標値までの非線形性が、βerr,γerrの挙動に与える影響が低減され、γerr,βerrは、線形性を高く保ちながら0に収束しようとする。換言すれば、状態量偏差γerr,βerrを0に収束させるためのフィードバックゲインの総和が、前記式23におけるゲインマトリクスKfbdmdと式15におけるゲインマトリクスKfvirとの差(Kfbdmd−Kfvir)に近いものとなる。
換言すれば、仮想外力の上記第2仮値Mvir’,Fvir’をそのまま仮想外力Mvir,Fvirとして規範動特性モデル16に入力したとした場合に前記モデル車両に作用する外力(ヨー方向のモーメント)と前記アクチュエータ動作FB目標値に起因して実車1に作用する外力(ヨー方向のモーメントMfb)との差と、状態量偏差γerr,βerrとの間の関係に比べて、第2仮値Mvir’,Fvir’を仮想外力補償モーメントMvir_cで修正してなる仮想外力Mvir,Fvirを規範動特性モデル16に入力した場合に前記モデル車両に作用する外力(ヨー方向のモーメント)と前記アクチュエータ動作FB目標値に起因して実車1に作用する外力(ヨー方向のモーメントMfb)との差と、状態量偏差γerr,βerrとの間の関係がより線形性の高い関係になる。
次に、前記第1〜第3実施形態の変形態様をいくつか説明する。
[変形態様1]
前記第1〜第3実施形態では、規範状態量として規範ヨーレートγdと規範車両重心点横すべり角βdとを用いたが、次のようにしてもよい。例えば規範動特性モデルにより規範ヨーレートγdだけを規範状態量として逐次求める。そして、実ヨーレートγactとその規範ヨーレートγdとの差である状態量偏差γerrを0に近づけるように、規範動特性モデルと実車1のアクチュエータ装置3とを操作するようにしてもよい。この場合、前記式01により表した規範動特性モデル16の代わりに、例えば、図28に示す規範動特性モデル56によって、規範ヨーレートγdを逐次決定するようにしてもよい。
以下、図28の規範動特性モデル56をより詳細に説明すると、この規範動特性モデル56には、ステアリング角θhと、実走行速度Vactと、規範動特性モデル56の操作用の制御入力(γerrを0に近づけるための制御入力)としての仮想外力モーメント(ヨー方向のモーメント)Mvirとが制御処理周期毎に逐次入力される。なお、θhとVactは最新値(今回値)であり、Mvirは前回値である。
そして、規範動特性モデル56は、まず、入力されたθh,Vactから整定目標値決定用マップ56aにより、整定目標ヨーレートγ∞を求める。該整定目標ヨーレートγ∞は、θhとVactとがそれらの入力値に定常的に維持されたとした場合のモデル車両(本実施形態での規範動特性モデル56上の車両)のヨーレートの収束値を意味する。なお、整定目標値決定用マップ56aは、推定摩擦係数μestmに応じて設定しておくことが望ましい。
次いで、規範ヨーレートγdの前回値(規範動特性モデル56から前回の制御処理周期で求めた値)と、上記整定目標ヨーレートγ∞とが、フライホイール追従則56bに入力される。そして、このフライホール追従則56bにより、フライホイール用FBモーメントMfbを決定する。ここで、本実施形態では、モデル車両のそのヨー方向の回転運動を水平なフライホイール(回転軸が鉛直方向の軸であるフライホイール)の回転運動により表現する。そして、そのフライホイールの回転角速度を規範ヨーレートγdとして出力する。
そこで、フライホイール追従則56bは、そのフライホイールの回転角速度、すなわち、規範ヨーレートγdを前記整定目標ヨーレートγ∞に収束させるように、フィードバック制御則(例えば比例則、比例・微分則など)により、フライホイールに入力するモーメント(フライホールに入力する外力の次元の制御入力)としての前記フライホイール用FBモーメントMfbを決定する。
次いで、規範動特性モデル56は、加算器56cにおいて、このMfbに、仮想外力モーメントMvirを加え合わせることにより、フライホイールの入力(モーメント)を決定する。そして、この入力モーメントを、処理部56dにおいて、フライホイールの慣性モーメントJにより除算することにより、フライホイールの回転角加速度を求める。さらにその回転角加速度を積分してなる値(図では、その積分を演算子「1/s」により表している)を規範ヨーレートγdとして出力する。
なお、フライホイールの慣性モーメントJの値は、例えば実車1の重心点Gのまわりの慣性モーメントの値と同一か、もしくはほぼ同一の値に設定しておけばよい。あるいは、実車1の走行中に同定した値を使用してもよい。
以上が、規範動特性モデル56の処理の詳細である。
補足すると、この変形態様1における規範動特性モデル56以外の処理については、例えば前記第1実施形態または第2実施形態(もしくは参考例1)と同様でよい。だだし、前記第1実施形態または第2実施形態の仮想外力決定部20aの処理では、例えば、βerr、βda、βoverを0として、Mvirを決定し、そのMvirを規範動特性モデル56にフィードバックする。この場合、γdaに関しては、例えばVact,θhの今回値と、γerrに応じたMvirの仮値Mvirtmpとから規範動特性モデル56上の車両のヨーレートの所定時間後の値を予測し、その予測値をγdaとして使用すればよい。あるいは、例えばγactの今回値、もしくは、γactとγdとの線形結合値をγdaとして使用するようにしてもよい。また、アクチュエータ動作FB目標値決定部20bの処理では、βerrを0として、前記参考例1で説明した処理を実行する。なお、この変形態様1では、規範操作量決定部14の処理は不要である。これ以外は、前記第1実施形態または第2実施形態(もしくは参考例1)で説明した処理と同じでよい。
[変形態様2]
前記第1〜第3実施形態では、車両(実車1およびモデル車両)の横方向の並進運動に関する基底の状態量、回転運動に関する基底の状態量として(本発明における第1状態量として)、車両重心点横すべり角β、ヨーレートγを使用したが、これら以外の状態量を使用してもよい。すなわち、適当な変換マトリクスによって、車両の運動の記述をβとγとを基底とする系から、それ以外の状態量の組を基底とする系に変換してもよい。
例えば、車両の重心点の横すべり速度(走行速度Vactの横方向成分)である車両横すべり速度Vyを車両重心点横すべり角βの代わりに用いてもよい。補足すると、車両重心点横すべり角βやヨーレートγに比べて、車両の走行速度Vactの変化が緩慢であり、該走行速度Vactが一定であるとみなせる場合には、次式50a,50bによって、βならびにdβ/dt(βの時間微分値)を、それぞれ、Vy、dVy/dt(Vyの時間微分値)に変換することができる。
Vy=Vact・β ……式50a
dVy/dt=Vact・dβ/dt ……式50b
また、例えば車両の重心点の横すべり加速度(Vyの時間的変化率)である車両横すべり加速度αyとヨーレートγとを基底の状態量として使用してもよい。
補足すると、車両横すべり加速度αyは、車両横すべり速度Vy=Vact・βの時間微分値である。すなわち、次式51が成り立つ。
αy=d(Vact・β)/dt=dVact/dt・β+Vact・dβ/dt ……式51
さらに、横すべり角βやヨーレートγに比べて車両の走行速度Vactの変化が緩慢であり、Vactが一定とみなせる場合(dVact/dt≒0とみなせる場合)には、前記式01と式51とに基づいて、近似的に次式52が成立する。
αy=Vact・dβ/dt=a11・Vact・β+a12・Vact・γ ……式52
従って、次式53で示す変換式によって、βとγとを基底とする系は、αyとγとを基底とする系に変換される。
上記のように、適当なマトリスクによって、車両の運動の記述をβとγとを基底とする系から、Vyとγとを基底とする系や、αyとγとを基底とする系などに変換することができる。そして、このように車両の運動の基底を変換した場合には、前記参考例1で説明した、状態量(ヨーレートおよび車両重心点横すべり角)に係わる行列の各要素値は、該実施形態と異なるものになるものの、それ以外に関しては、前記各実施形態(もしくは参考例1)における「車両重心点横すべり角」を「車両横すべり速度Vy」、あるいは、「車両横すべり加速度」に読み替えればよいこととなる。従って、Vyとγとの組、あるいは、αyとγとの組を状態量として使用した実施形態を前記第1〜第3実施形態と同様に構築できる。
なお、車両横すべり加速度αyの代わりに、これに車両の求心加速度(=Vact・γ)を加えた横加速度αy’(=αy+Vact・γ)を用いてもよい。
さらに、車両の重心点での横すべり角βや横すべり速度Vyの代わりに、重心点以外の位置(例えば後輪の位置)における車両の横すべり角や横すべり速度、横すべり加速度、あるいは横加速度を用いてもよい。この場合も、適当なマトリクスによって、車両の運動の記述を、車両重心点横すべり角βとヨーレートγとを基底とする系から、車両の重心点以外の位置における車両の横すべり角や横すべり速度、横すべり加速度、あるいは横加速度と、ヨーレートγとを基底とする系に変換することができる。
また、前記FB分配則20における制限対象量にあっても、実車1あるいはモデル車両の車両重心点横すべり角βの代わりに、その重心点の横すべり速度や横すべり加速度、あるいは横加速度の予測値や今回値(最新値)、あるいはフィルタリング値を使用するようにしてもよい。さらに、車両の重心点以外の位置における車両の横すべり角や横すべり速度、横すべり加速度、あるいは横加速度の予測値や今回値(最新値)、あるいは、フィルタリング値を制限対象量として使用するようにしてもよい。
[変形態様3]
前記第1〜第3実施形態では、状態量偏差γerr,βerrを0に近づけるためのモデル操作用の制御入力として、仮想外力Mvir,Fvirを使用したが、車両モデル操作用制御入力は仮想外力に限られるものではない。例えば、実車1が全ての車輪W1〜W4を操舵可能とするステアリング装置を備えているか否かによらずに、モデル車両の全ての車輪を操舵輪とする。そして、仮想外力に相当する路面反力の補償量(補正要求量)をモデル車両に発生させるように(ひいては状態量偏差を0に近づけるように)、モデル車両の操舵輪の舵角とモデル車両の車輪の駆動・制動力とを操作するようにしてもよい。この場合、規範動特性モデルが線形系(規範動特性モデル上の路面反力に飽和特性を持たない系)である場合には、モデル車両の操舵輪の舵角とモデル車両の車輪の駆動・制動力とを操作することで、モデル車両に仮想外力を付与する場合と同等の効果を持たせることができる。
例えば、規範動特性モデルの動特性を表す式として前記式01の代わりに、次式60を用いてもよい。
この式60により表される規範動特性モデルは、モデル車両の前輪の舵角の補償量δf_fbと、後輪の舵角の補償量(補正要求量)δr_fbと、第1〜第4輪の駆動・制動力の補償量(補正要求量)Fx1fb,Fx2fb,Fx3fb,Fx4fbとをモデル操作用のフィードバック制御入力とするモデルである。なお、式60におけるa11,a12,a21,a22,b1,b2は、前記式01の但し書きで示したものと同じでよい。また、b3,b4は、例えばb3=2・Kr/(m・Vd)、b4=2・Lr・Kr/Iとすればよい。また、式60の右辺の第4項は、モデル車両の前輪の駆動・制動力の補償量Fx1fb,Fx2fbがモデル車両の重心点のまわりに発生するモーメント(これは、前記図13のように4個の車輪W1〜W4を備えたモデル車両の前輪W1にFx1fbの駆動・制動力を発生させ、前輪W2にFx2fbの駆動・制動力を発生させた場合に、該モデル車両の重心点のまわりに発生するモーメントを意味する)である。また、第5項は、モデル車両の後輪の駆動・制動力の補償量Fx3fb,Fx4fbがモデル車両の重心点のまわりに発生するモーメント(これは、前記図13のように4個の車輪W1〜W4を備えたモデル車両の後輪W3にFx3fbの駆動・制動力を発生させ、後輪W4にFx4fbの駆動・制動力を発生させた場合に、該モデル車両の重心点のまわりに発生するモーメントを意味する)である。従って、これらの第4項および第5項の係数b5,b6は、それぞれ、少なくともモデル車両の前輪のトレッド、後輪のトレッドに応じて定まる係数である。該係数は、モデル車両の前輪の舵角あるいは後輪の舵角に応じて補正してもよい。
このような式60により表される規範動特性モデルを使用した場合、前輪の舵角の補償量δf_fbおよび後輪の舵角の補償量δr_fbは、例えば次式61a,61bを用いて決定するようにすればよい。式61aは前記式15に対応する式であり、式61bは前記式17、18a,18bに対応する式である。
δf_fbtmp、δr_fbtmpは、それぞれ前輪の舵角の補償量の仮値、後輪の舵角の補償量の仮値を意味し、βerr,γerr,βover,γoverは、前記参考例1で説明したものと同じである。
また、モデル車両の第1〜第4輪の駆動・制動力の補償量(補正要求量)Fx1fb,Fx2fb,Fx3fb,Fx4fb、あるいは、前輪の駆動・制動力の補償量の差(Fx2fb−Fx1fb)および後輪の駆動・制動力の補償量の差(Fx4fb−Fx3fb)は、例えば0とすればよい。
[その他の変形態様]
前記第1〜第3実施形態における各処理部の入力値や出力値(検出値、推定値、目標値など)は、適宜、フィルタ(ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、位相補償要素など)に通すようにしてもよい。
また、制御装置10の各処理機能部では、第1〜第3実施形態と等価になるように、あるいは、近似的に等価になるように、処理を変換したり、処理の順番を変更してもよい。
また、各リミッタは、その入力と出力との関係が折れ線状のグラフで表されるものでなくても、例えばS字状のグラフで表されるようなリミッタを用いてもよい。
また、規範動特性モデルの精度を高めるために、該モデルを空気抵抗や、路面の傾斜角などを加味して構成してもよい。
また、前記各実施形態で使用する各ゲインは、実走行速度Vact、推定摩擦係数μestm等に応じて、逐次変更することが望ましい。
また、前記第1〜第3実施形態では、状態量偏差γerr,βerr(第1状態量偏差)に応じて規範動特性モデル16上の車両を操作するようにした。ただし、状態量偏差γerr,βerrを規範動特性モデル16にフィードバックしないようにしてもよい。この場合には、規範動特性モデル16では、前記式(1)のMvir,Fvirを常に0にして、あるいは、式(1)のMvir,Fvirに関する項を省略した式によって、規範状態量を逐次求めるようにすればよい。
また、前記第1実施形態では、条件(1)、(2)、(3)をそれらの優先順位に従って満足するように目標第n輪駆動・制動力Fxcmd_nおよび目標第n輪スリップ比Scmd_nを決定するようにした。ただし、例えば条件(3)だけを満足するようにFxcmd_nおよびScmd_nを決定するようにしてもよい。この場合には、図24のS302で求められるFxcand_nをFxcmd_nとして決定すると共に、これに対応するスリップ比をScmd_nとして決定するようにすればよい。また、条件(1)、(3)をそれらの優先順位に従って満足するようにFxcmd_nおよびScmd_nを決定するようにしてもよい。この場合には、図24のS304、S306およびS310の処理を省略すればよい。また、条件(1)、(2)をそれらの優先順位に従って満足するようにFxcmd_nおよびScmd_nを決定するようにしてもよい。この場合には、図24のS312およびS314の処理を省略すればよい。
同様に、前記第2実施形態では、条件(1)、(2)、(3)’をそれらの優先順位に従って満足するようにFxcmd_nおよびScmd_nを決定する代わりに、条件(3)’だけを満足するようにFxcmd_nおよびScmd_nを決定してもよい。この場合には、図26のS410における但し書きの要件を省略すると共に、S408、S412およびS416の処理を省略すればよい。また、条件(1)、(3)’をそれらの優先順位に従って満足するようにFxcmd_nおよびScmd_nを決定するようにしてもよい。この場合には、図26のS408の処理を省略すると共に、S410における但し書きの要件を省略すればよい。また、条件(1)、(2)をそれらの優先順位に従って満足するようにFxcmd_nおよびScmd_nを決定するようにしてもよい。この場合には、図26のS412およびS416の処理を省略すればよい。
また、前記条件(1)あるいは(2)を満たすための各車輪W1〜W4の駆動・制動力あるいはスリップ比を制限する範囲に関しては、「○○以下」(○○は、ある境界値を意味する)というように規定する代わりに、「○○にC1を乗じてなる値以下」というように当該範囲を規定するようにしてもよい。ここで、C1は補正係数を意味し、1に近い値に設定される。
また前記第1〜第3実施形態では、4輪の車両1を例に採って説明したが、自動二輪車などの車両においても本発明を適用することができる。