JP4223313B2 - 皮膜付部材及び表面改質方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、皮膜付部材及び表面改質方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ダイヤモンドライクカーボン皮膜、アモルファスカーボン皮膜、iカーボン皮膜等の炭素原子を主体として構成される皮膜を部材に形成する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような炭素原子を主体として構成される皮膜は、結晶構造が非晶質(アモルファス)で結晶粒界を持たないので、平滑で摩擦係数が極めて小さいことが知られている。
【0004】
このような炭素原子を主体とする皮膜は、部材がタングステンカーバイト(超鋼)やシリコンカーバイト等の硬質の材料の場合には、部材から離脱、脱落することなく、剥がれずに、長期に安定して部材に固着することが可能であるので、部材としては硬質のものが一般的に用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−59174公報
【非特許文献1】
中東孝浩,「DLC膜のコーティング技術と各種基材への密着性、耐摩耗性の向上」,p.10
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような炭素原子を主体とする皮膜では、部材が軟質なものである場合には、皮膜の寿命が短いという問題がある。
【0007】
ところで、アルミニウムやアルミニウムを含む合金は、コストが安く、加工性にも富み、重量が軽いため多くの機械部品に用いられているが、このようなアルミニウム系部材は、軟質であるので、上述したように、炭素原子を主体とする皮膜を形成した場合には、皮膜の寿命が大変短いという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、部材の摩擦係数を小さくする皮膜の寿命を部材が軟質のものであっても伸ばすことである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明の皮膜付部材は、アルミニウム加工部品である部材と、Al(アルミニウム)とO(酸素)とZn(亜鉛)、Cr(クロム)、Mg(マグネシウム)、及び、Fe(鉄)のうちの少なくとも1種類以上の元素とを含み前記部材の表面上に形成された金属酸化皮膜と、前記金属酸化皮膜上に形成され、C(炭素)を含みC(炭素)同士の結合がsp2混成軌道結合とsp3混成軌道結合とが混在した結合であるダイヤモンドライクカーボン皮膜と、を備える。
【0010】
したがって、Al(アルミニウム)はさまざまな材質の部材表面との結合力が強くその酸化物である金属酸化皮膜も同様にさまざまな材質の部材表面との結合力が強い、また、金属酸化皮膜はAl(アルミニウム)及びO(酸素)以外の元素によりダイヤモンドライクカーボン皮膜との結合力が高められている。これにより部材が軟質のものの場合であっても、部材、金属酸化皮膜、ダイヤモンドライクカーボン皮膜の間の結合が強固となる。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の皮膜付部材において、前記金属酸化皮膜における前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜側の組成比率は、前記元素の比率が前記Al(アルミニウム)の比率よりも高い。
【0021】
したがって、金属酸化皮膜とダイヤモンドライクカーボン皮膜との結合力が強くなる。
【0022】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の皮膜付部材において、前記金属酸化皮膜の組成比率は、前記部材側から前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜側に向かうに従い前記元素の比率が高い。
【0023】
したがって、金属酸化皮膜とダイヤモンドライクカーボン皮膜との結合力が強くなる。また、金属酸化皮膜の部材側はAl(アルミニウム)と酸素との比率が高いので緻密な膜となり、これにより、部材中の元素が金属酸化皮膜側に浮き上がってくる(拡散してくる)現象を抑えることが可能となる。これにより、皮膜の信頼性と耐久性とが向上される。
【0024】
請求項4記載の発明の表面改質方法は、アルミニウム加工部品である部材の表面上に、Al(アルミニウム)とO(酸素)とZn(亜鉛)、Cr(クロム)、Mg(マグネシウム)、及び、Fe(鉄)のうちの少なくとも1種類以上の元素とを含む金属酸化皮膜を形成する第一工程と、前記金属酸化皮膜上に、C(炭素)を含みC(炭素)同士の結合がsp2混成軌道結合とsp3混成軌道結合とが混在した結合であるダイヤモンドライクカーボン皮膜を形成する第二工程と、を含む。
【0025】
したがって、部材上に金属酸化皮膜が形成され、その金属酸化皮膜上にダイヤモンドライクカーボン皮膜が形成される。Al(アルミニウム)はさまざまな材質の部材表面との結合力が強くその酸化物である金属酸化皮膜も同様にさまざまな材質の部材表面との結合力が強い、また、金属酸化皮膜はAl(アルミニウム)及びO(酸素)以外の元素によりダイヤモンドライクカーボン皮膜との結合力が高められている。これにより部材が軟質のものの場合であっても、部材、金属酸化皮膜、ダイヤモンドライクカーボン皮膜の間の結合が強固となり、ダイヤモンドライクカーボン皮膜の長寿命化が図られる。
【0026】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の表面改質方法において、前記金属酸化皮膜及び前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜を気相生成法により形成する。
【0027】
気相成長法とは、広義の化学気相蒸着法のことであり、皮膜とする物質を部材上で反応させて皮膜を形成するか、予め用意した物質を加熱又はスパッタ等の操作によって気化させることにより皮膜を形成するかの何れかの方法である。
【0028】
したがって、皮膜を確実に形成することが可能となる。
【0038】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施の形態を図1ないし図3に基づいて説明する。ここで、図1は本実施の形態の皮膜付部材を模式的に示す縦断正面図である。
【0039】
図1に示すように、皮膜付部材1は、部材2に皮膜3が形成されて構成されている。皮膜3は、部材2の表面に形成された金属酸化皮膜4と、この金属酸化皮膜4上に形成されたダイヤモンドライクカーボン皮膜5とから構成されている。ここで、図1では金属酸化皮膜4は1層のものを示しているが、複数の層であっても良い。
【0040】
部材2の材料としては、金属(金属合金を含む)、金属化合物(例えば、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物、水酸化物等)、有機物(炭素系高分子、プラスチック類)等を例示することができる。
【0041】
金属酸化皮膜4は、Al(アルミニウム)とO(酸素)とそれら以外の少なくとも1種類以上の元素M(M1,M2・・・)(図示せず)とを含んで形成されている。元素Mとしては、Li(リチウム)、Be(ベリリウム)、B(ホウ素)、N(窒素)、F(フッ素)、Na(ナトリウム)、Mg(マグネシウム)、Si(シリコン)、P(リン)、S(硫黄)、Cl(塩素)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)、As(砒素)、Rb(ルビジウム)、Sr(ストロンチウム)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコン)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、In(インジウム)、Sn(すず)、Sb(アンチモン)、Ba(バリウム)、La(ランタン)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Pt(白金)、Au(金)、Tl(タリウム)、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)、Ce(セリウム)、Nd(ネオジム)、Sm(トリウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Yb(イッテルビウム)、Th(トリウム)を挙げることができる。
【0042】
ここで、部材2の材料が金属の場合には、金属酸化皮膜4の元素Mは、部材2の金属と同じか、又は、その金属と同族の元素であることが望ましい。
【0043】
また、部材2の材料が金属化合物の場合には、金属酸化皮膜4の元素Mは、B(ホウ素)、Si(シリコン)、P(リン)、S(硫黄)、Cl(塩素)、As(砒素)、Se(セレン)、Te(テルル)のうちの少なくとも一つ以上か、又は、部材2に含まれる金属と同じか、又は、その金属と同族の元素であることが望ましい。
【0044】
また、部材2の材料が有機物である場合には、金属酸化皮膜4の元素Mとしては、Li(リチウム)、Be(ベリリウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、Mg(マグネシウム)、Si(シリコン)、P(リン)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Zn(亜鉛)、Ge(ゲルマニウム)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコン)、Nb(ニオブ)、Sb(アンチモン)のうちの少なくとも一つ以上が含まれていることが望ましい。
【0045】
ダイヤモンドライクカーボン皮膜5は、C(炭素)を含み、C(炭素)同士の結合がsp2混成軌道結合(グラファイトに見られる結合)とsp3混成軌道結合(ダイヤモンドに見られる結合)とが混在した結合である皮膜である。
【0046】
次に、部材2への皮膜3の形成方法(表面改質方法)を図2及び図3に基づいて説明する。ここで、図2は皮膜形成装置を概略的に示す正面断面図、図3は部材2への皮膜3形成過程を示すもので、(a)は皮膜形成前の部材を示す正面断面図、(b)は金属酸化皮膜の形成工程の状態を示す正面断面図、(c)はダイヤモンドライクカーボン皮膜5の形成工程の状態を示す正面断面図である。
【0047】
まず、図2に基づいて皮膜形成装置100について説明する。図2に示すように、皮膜形成装置100は、部材2を収納する真空容器101を備え、概略的には、この真空容器101内にガス状の各種材料を送り込み、真空容器101内で部材2に皮膜3を形成するものである。
【0048】
皮膜形成装置100には、真空容器101にAl(アルミニウム)を供給するためのアルミニウム供給部102、真空容器101に元素Mを供給する元素供給部103、真空容器101に酸素ガスを供給する酸素ガス供給部104、真空容器101にアセチルアセトン蒸気含有窒素ガスを供給する窒素ガス供給部105、真空容器101内に設けられ真空容器101内の部材2に対してプラズマを発生する平行平板電極106a,106b等が設けられている。また、真空容器101の排気口107には、真空ポンプ108が接続され、排気口107には排気調節弁109が設けられている。以下にこれらの各部について簡単に説明する。
【0049】
アルミニウム供給部102は、加熱室110内でアルミニウム供給用の有機金属材料を加熱ヒータ111により加熱し気化ガスとし、開閉バルブ112を開けることにより、N2(窒素ガス)やAr等の不活性ガスであるキャリアガスを加熱室110に導入し、開閉バルブ113を開けて、その有機金属材料の気化ガスをキャリアガスとともに真空容器101内に導入する。
【0050】
元素供給部103は、複数の単一元素供給部103a,103bを備えている。これらの単一元素供給部103a,103bの基本的な構造は、アルミニウム供給部102と同じである。それぞれの単一元素供給部103a,103bの加熱室110内には、それぞれ異なる元素Mの供給のための有機金属材料がセットされる。なお、この単一元素供給部103a,103bの数は、一つであってもよいし、複数であってもよい。
【0051】
酸素ガス供給部104には、酸素ボンベ114が設けられている。この酸素ボンベ114からの酸素の供給量は開閉バルブ115により調節される。
【0052】
窒素ガス供給部105には、窒素ガスボンベ116が設けられ、この窒素ガスボンベ116から供給される窒素ガスはアセチルアセトン容器117中のアセチルアセトン(透明液体)中を通過してアセチルアセトン蒸気含有窒素ガスとなり、開閉バルブ118を経由して真空容器101内に供給される。
【0053】
平行平板電極106a,106bは、一方の平行平板電極106aが高周波電源119に接続され、他方の平行平板電極106bが高周波マッチングボックス120に接続されている。真空容器101内に投入され混ざり合った混合ガスは、この平行平板電極106a,106bによってプラズマ状態とされ、これにより、プラズマ状態ではない通常状態では数百度以上の温度でなければ生じない化学反応が室温で進むようになる。
【0054】
次に、このような皮膜形成装置100を用いての部材2への皮膜3の形成方法(表面改質方法)を図3に基づいて説明する。
【0055】
まず、図3(a)に示す部材2に図3(b)に示すように金属酸化皮膜4を形成する(第一工程)。具体的には、アルミニウム供給部102から真空容器101内にアルミニウム供給用の有機金属ガスをキャリアガスとともに供給し、元素供給部103から真空容器101内に元素Mの供給用の有機金属ガスをキャリアガスとともに供給し、酸素ガス供給部104から真空容器101内に酸素ガスを供給する。これらのガスの供給は同時に行う。このとき、皮膜3の成長条件に合わせて真空容器101内の圧力調整を行う。これは、供給するガスの量と真空ポンプ108による排気の量とを調整することにより行われる。そして、平行平板電極106a,106bによりプラズマを発生させる。これにより、ガスの化学反応が室温で進み、金属酸化皮膜4が部材2の表面上に形成される。
【0056】
このとき、部材2が複雑な構造である場合には、ガスの流れとの関係により形成する皮膜3の厚みに大きなばらつきが生じてしまうことがあるので、これを防止するために、ガスを真空容器101内に均一に流すとともに、部材2を図示しない回転手段により回転させることによりガス流に対して部材2が当たる部分を変えながら皮膜を形成することが重要である。
【0057】
次に、金属酸化皮膜4上に図3(c)に示すようにダイヤモンドライクカーボン皮膜5を形成する(第二工程)。具体的には、窒素ガス供給部105からアセチルアセトン蒸気含有窒素ガスを真空容器101に供給する。このとき、皮膜3の成長条件に合わせて真空容器101内の圧力調整を行う。そして、平行平板電極106a,106bによりプラズマを発生させる。これにより、ガスの化学反応が室温で進み、金属酸化皮膜4上にダイヤモンドライクカーボン皮膜5が部材2に形成される。以上により、皮膜付部材1が形成される。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態では、部材2上に、Al(アルミニウム)とO(酸素)とそれら以外の少なくとも1種類以上の元素Mとを含む金属酸化皮膜4が形成され、その金属酸化皮膜4上にダイヤモンドライクカーボン皮膜5が形成されている。ここで、Al(アルミニウム)はさまざまな材質の部材2の表面との結合力が強くその酸化物である金属酸化皮膜4も同様にさまざまな材質の部材2の表面との結合力が強いので、金属酸化皮膜4と部材2との結合が強固となる。また、金属酸化皮膜4はAl(アルミニウム)及びO(酸素)以外の元素Mによりダイヤモンドライクカーボン皮膜5との結合力が高められているので、これにより部材2が軟質のものの場合であっても、部材2、金属酸化皮膜4、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の間の結合が強固となり、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の長寿命化を図ることができる。
【0059】
また、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5は平滑で摩擦係数の小さい皮膜3であるので、柔軟な部材2の表面上に、長期にわたって安定して、平滑で摩擦係数が極めて低い状態を提供することができる。
【0060】
また、金属酸化皮膜4の元素を部材2の材料に応じて採用することにより、金属酸化皮膜4とダイヤモンドライクカーボン皮膜5との結合をさらに強くすることができる。
【0061】
次に、本実施の形態の第一の変形例を説明する。本変形例の金属酸化皮膜4は、その金属酸化皮膜4におけるダイヤモンドライクカーボン皮膜5側において、元素Mの比率が前記Al(アルミニウム)の比率よりも高い。ここで、アルミニウムと炭素との結合力は弱い。よって、そのアルミニウムの比率をダイヤモンドライクカーボン皮膜5側で低くされていることにより、金属酸化皮膜4全体に均一にアルミニウムが存在しているものに比べ、金属酸化皮膜4とダイヤモンドライクカーボン皮膜5との結合力が強くなる。
【0062】
次に、本実施の形態の第二の変形例を説明する。本変形例の金属酸化皮膜4の組成比率は、部材2側から前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜5側に向かうに従い元素Mの比率が高くされている。これにより、金属酸化皮膜4全体に均一にアルミニウムが存在しているものに比べ、金属酸化皮膜4とダイヤモンドライクカーボン皮膜5との結合力が強くなる。また、金属酸化皮膜4の部材2側はAl(アルミニウム)と酸素との比率が高いので緻密な膜となり、これにより、部材2中の元素が金属酸化皮膜4側に浮き上がってくる(拡散してくる)現象を抑えることができ、これにより、皮膜3の信頼性と耐久性とが向上する。
【0063】
【実施例】
次に、本発明の第一の実施例を図4に基づいて説明する。
【0064】
本実施例は、以下の条件で、上述した皮膜形成方法によって部材2に皮膜3を形成した。
【0065】
[部材2]
部材2は直径10ミリのローラ形状のアルミニウム加工部品とした。
【0066】
[金属酸化皮膜4]
・Al(アルミニウム)供給のための有機金属材料をAl(C11H19O2)3(Trisdipivaloylmethanatoaluminum)とした。
・元素MをZn(亜鉛)1種類とし、Zn(亜鉛)供給のための有機金属材料をZn(C11H19O2)2(Bisdipivaloylmethanatozinc)とした。
【0067】
Al−Zn−Oの成膜条件:
・有機金属材料Al(C11H19O2)3を加熱する加熱ヒータ111の温度を150℃とし、キャリアガスを窒素ガスとし流量を10sccmとした。
・有機金属材料Zn(C11H19O2)2を加熱する加熱ヒータ111の温度を150℃とし、キャリアガスを窒素ガスとし流量を15sccmとした。
・酸素ガスの流量を50sccmとした。
・13.56MHzの高周波電源119によって0.5W/cm2のパワーが入力できるように平行平板電極106a,106bを設定した。
・成膜時の圧力は排気調節弁109にて0.1Torrに調整し、成膜時間は30分とした。
以上の条件で金属酸化皮膜4であるAl−Zn−O皮膜4を形成した。このとき、部材2温度は室温であった。
【0068】
[ダイヤモンドライクカーボン皮膜5]
・室温のアセチルアセトン(透明液体)に窒素ガスを流量20sccmにてバブリングし窒素ガスに飽和状態のアセチルアセトン蒸気を含ませて、真空容器101に送り込む。このとき13.56MHzの高周波電源119によって、0.5W/cm2のパワーが入力できるように、平行平板電極106a,106bの設定を行った。
・成膜時の圧力は排気調節弁109にて0.1Torrに調整し、成膜は30分とした。
以上のような条件でダイヤモンドライクカーボン皮膜5を形成した。
【0069】
このようにして形成したAl−Zn−O皮膜4の厚さは0.2μm、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の厚さは0.1μmであった。
【0070】
次に、皮膜3を形成した部材2の動摩擦係数及び寿命を計測した。計測は、トライボメータ(図示せず)を用いて行った。具体的には、皮膜付部材1に直径6mmのSUJ鋼球を10Nの力で押し当て、皮膜付部材1を毎分10回転で回転距離が5000mになるまで回転させた。
【0071】
これによって得られた動摩擦係数は図4に示すように0.1以下となった。また皮膜3の剥がれも発生しなかった。これら結果により、部材2は、皮膜3によって動摩擦係数が0.1以下と低く、またその皮膜3は10Nの荷重加圧によっても剥がれない安定したものであることが分かった。
【0072】
次に、本発明の第二の実施例を説明する。
【0073】
本実施例は、以下の条件で上述した皮膜形成方法によって部材2に皮膜3を形成した。なお、前述した第一の実施例と同じ部分は省略する(以下の実施例でも同じ)。
【0074】
[金属酸化皮膜4]
・元素MをZn(亜鉛)に代えてCr(クロム)とし、Cr(クロム)供給のための有機金属材料をCr(C11H19O2)3(Trisdipivaloylmethanatochromium)とした。
【0075】
Al−Cr−Oの成膜条件:
・有機金属材料Cr(C11H19O2)3を加熱する加熱ヒータ111の温度を220℃としで、キャリアガスは窒素ガスで11sccmとした。
・酸素ガスの流量を47sccmとした。
【0076】
以上により金属酸化皮膜4としてAl−Cr−O皮膜4、第一の実施と同様にダイヤモンドライクカーボン皮膜5を順次形成した。形成したAl−Cr−O皮膜4の厚さは0.4μm、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の厚さは0.1μmであった。
【0077】
このようにして皮膜3を形成した部材2の動摩擦係数及び寿命を第一実施例と同様に計測した。
【0078】
これによって得られた動摩擦係数は特に図示しないが0.1以下となった。また膜の剥がれも発生しなかった。これら結果により、部材2は、皮膜3によって動摩擦係数が0.1以下と低く、またその皮膜3は10Nの荷重加圧によっても剥がれない安定したものであることが分かった。
【0079】
次に、本発明の第三の実施例を説明する。
【0080】
本実施例は、以下の条件で上述した皮膜形成方法によって部材2に皮膜3を形成した。
【0081】
[金属酸化皮膜4]
・元素MをMg(マグネシウム)とし、Mg(マグネシウム)供給のための有機金属材料をMg(C11H19O2)3(Trisdipivaloylmethanatomagnesium)とした。
【0082】
Al−Mg−Oの成膜条件:
・有機金属材料Mg(C11H19O2)3を加熱する加熱ヒータ111の温度を130℃とし、キャリアガスは窒素ガスで16sccmとした。
・酸素ガスの流量を40sccmとした。
【0083】
以上により金属酸化皮膜4としてAl−Mg−O皮膜4、第一の実施と同様にダイヤモンドライクカーボン皮膜5を順次形成した。形成したAl−Mg−O皮膜4の厚さは0.3μm、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の厚さは0.1μmであった。
【0084】
このようにして皮膜3を形成した部材2の動摩擦係数及び寿命を第一実施例と同様に計測した。
【0085】
これによって得られた動摩擦係数は特に図示しないが0.1以下となった。また膜の剥がれも発生しなかった。これら結果により、部材2は、皮膜3によって動摩擦係数が0.1以下と低く、またその皮膜3は10Nの荷重加圧によっても剥がれない安定したものであることが分かった。
【0086】
次に、本発明の第四の実施例を説明する。
【0087】
本実施例は、以下の条件で上述した皮膜形成方法によって部材2に皮膜3を形成した。
【0088】
[金属酸化皮膜4]
・元素MをFe(鉄)とし、Mg(鉄)供給のための有機金属材料をFe(C11H19O2)3(Trisdipivaloylmethanatomagnesium)とした。
【0089】
Al−Fe−Oの成膜条件:
・有機金属材料Fe(C11H19O2)3を加熱する加熱ヒータ111の温度を190℃とし、キャリアガスは窒素ガスで16sccmとした。
・酸素ガスの流量を50sccmとした。
【0090】
以上により金属酸化皮膜4としてAl−Fe−O皮膜4、第一の実施と同様にダイヤモンドライクカーボン皮膜5を順次形成した。形成したAl−Fe−O皮膜4の厚さは0.3μm、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の厚さは0.1μmであった。
【0091】
このようにして皮膜3を形成した部材2の動摩擦係数及び寿命を第一実施例と同様に計測した。
【0092】
これによって得られた動摩擦係数は特に図示しないが0.1以下となった。また膜の剥がれも発生しなかった。これら結果により、部材2は、皮膜3によって動摩擦係数が0.1以下と低く、またその皮膜3は10Nの荷重加圧によっても剥がれない安定したものであることが分かった。
【0093】
次に、本発明の第五の実施例を説明する。
【0094】
本実施例は、以下の条件で上述した皮膜形成方法によって部材2に皮膜3を形成した。
【0095】
[金属酸化皮膜4]
・元素Mを2種類とし、元素M1をMg(マグネシウム)、元素M2をBe(ベリリウム)とした。Mg(マグネシウム)供給のための有機金属材料をMg(C11H19O2)3(Trisdipivaloylmethanatomagnesium)とした。Be(ベリリウム)供給のための有機金属材料をビス・ベンゾキノリノラト・ベリリウム錯体(BeBq)とした。
【0096】
Al−Mg−Be−Oの成膜条件:
・有機金属材料Mg(C11H19O2)3を加熱する加熱ヒータ111の温度を130℃とし、キャリアガスは窒素ガスで16sccmとした。
・有機金属材料ビス・ベンゾキノリノラト・ベリリウム錯体(BeBq)を加熱する加熱ヒータ111の温度を400℃とし、キャリアガスは窒素ガスで5sccmとした。
・酸素ガスの流量を50sccmとした。
【0097】
以上により金属酸化皮膜4としてAl−Mg−Be−O皮膜4、第一の実施と同様にダイヤモンドライクカーボン皮膜5を順次形成した。形成したAl−Mg−Be−O皮膜4の厚さは0.3μm、ダイヤモンドライクカーボン皮膜5の厚さは0.1μmであった。
【0098】
このようにして皮膜3を形成した部材2の動摩擦係数及び寿命を第一実施例と同様に計測した。
【0099】
これによって得られた動摩擦係数は特に図示しないが0.1以下となった。また膜の剥がれも発生しなかった。これら結果により、部材2は、皮膜3によって動摩擦係数が0.1以下と低く、またその皮膜3は10Nの荷重加圧によっても剥がれない安定したものであることが分かった。
【0100】
【発明の効果】
請求項1記載の発明の皮膜付部材によれば、アルミニウム加工部品である部材と、Al(アルミニウム)とO(酸素)とZn(亜鉛)、Cr(クロム)、Mg(マグネシウム)、及び、Fe(鉄)のうちの少なくとも1種類以上の元素とを含み前記部材の表面上に形成された金属酸化皮膜と、前記金属酸化皮膜上に形成され、C(炭素)を含みC(炭素)同士の結合がsp2混成軌道結合とsp3混成軌道結合とが混在した結合であるダイヤモンドライクカーボン皮膜と、を備えることにより、Al(アルミニウム)はさまざまな材質の部材表面との結合力が強くその酸化物である金属酸化皮膜も同様にさまざまな材質の部材表面との結合力が強く、また、金属酸化皮膜はAl(アルミニウム)及びO(酸素)以外の元素によりダイヤモンドライクカーボン皮膜との結合力が高められているので、これにより部材が軟質のものの場合であっても、部材、金属酸化皮膜、ダイヤモンドライクカーボン皮膜の間の結合が強固となり、ダイヤモンドライクカーボン皮膜の長寿命化を図ることができる。
【0105】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の皮膜付部材において、前記金属酸化皮膜における前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜側の組成比率は、前記元素の比率が前記Al(アルミニウム)の比率よりも高いことにより、金属酸化皮膜とダイヤモンドライクカーボン皮膜との結合力をさらに強くすることができる。
【0106】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は2記載の皮膜付部材において、前記金属酸化皮膜の組成比率は、前記部材側から前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜側に向かうに従い前記元素の比率が高いことにより、金属酸化皮膜とダイヤモンドライクカーボン皮膜との結合力を強くすることができる。また、金属酸化皮膜の部材側はAl(アルミニウム)と酸素との比率が高いので緻密な膜となり、これにより、部材中の元素が金属酸化皮膜側に浮き上がってくる(拡散してくる)現象を抑えることができ、これにより、皮膜の信頼性と耐久性とを向上することができる。
【0107】
請求項4記載の発明の表面改質方法によれば、アルミニウム加工部品である部材の表面上に、Al(アルミニウム)とO(酸素)とZn(亜鉛)、Cr(クロム)、Mg(マグネシウム)、及び、Fe(鉄)のうちの少なくとも1種類以上の元素とを含む金属酸化皮膜を形成する第一工程と、前記金属酸化皮膜上に、C(炭素)を含みC(炭素)同士の結合がsp2混成軌道結合とsp3混成軌道結合とが混在した結合であるダイヤモンドライクカーボン皮膜を形成する第二工程と、を含むことにより、部材上に金属酸化皮膜が形成され、その金属酸化皮膜上にダイヤモンドライクカーボン皮膜が形成され、Al(アルミニウム)はさまざまな材質の部材表面との結合力が強くその酸化物である金属酸化皮膜も同様にさまざまな材質の部材表面との結合力が強く、また、金属酸化皮膜はAl(アルミニウム)及びO(酸素)以外の元素によりダイヤモンドライクカーボン皮膜との結合力が高められているので、これにより部材が軟質のものの場合であっても、部材、金属酸化皮膜、ダイヤモンドライクカーボン皮膜の間の結合が強固となり、ダイヤモンドライクカーボン皮膜の長寿命化を図ることができる。
【0108】
請求項5記載の発明によれば、請求項4記載の表面改質方法において、前記金属酸化皮膜及び前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜を気相生成法により形成することにより、皮膜を確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態の皮膜付部材を模式的に示す縦断正面図である。
【図2】皮膜形成装置を示す模式図である。
【図3】部材への皮膜形成過程を示し、(a)は皮膜形成前の部材を示す正面断面図、(b)は金属酸化皮膜の形成工程の状態を示す正面断面図、(c)はダイヤモンドライクカーボン皮膜の形成工程の状態を示す正面断面図である。
【図4】本発明の第一の実施例の皮膜付部材の動摩擦係数を示すグラフである。
【符号の説明】
1 皮膜付部材
2 部材
4 金属酸化皮膜
5 ダイヤモンドライクカーボン皮膜
Claims (5)
- アルミニウム加工部品である部材と、
Al(アルミニウム)とO(酸素)とZn(亜鉛)、Cr(クロム)、Mg(マグネシウム)、及び、Fe(鉄)のうちの少なくとも1種類以上の元素とを含み前記部材の表面上に形成された金属酸化皮膜と、
前記金属酸化皮膜上に形成され、C(炭素)を含みC(炭素)同士の結合がsp2混成軌道結合とsp3混成軌道結合とが混在した結合であるダイヤモンドライクカーボン皮膜と、
を備える皮膜付部材。 - 前記金属酸化皮膜における前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜側の組成比率は、前記元素の比率が前記Al(アルミニウム)の比率よりも高い請求項1記載の皮膜付部材。
- 前記金属酸化皮膜の組成比率は、前記部材側から前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜側に向かうに従い前記元素の比率が高い請求項1又は2記載の皮膜付部材。
- アルミニウム加工部品である部材の表面上に、Al(アルミニウム)とO(酸素)とZn(亜鉛)、Cr(クロム)、Mg(マグネシウム)、及び、Fe(鉄)のうちの少なくとも1種類以上の元素とを含む金属酸化皮膜を形成する第一工程と、
前記金属酸化皮膜上に、C(炭素)を含みC(炭素)同士の結合がsp2混成軌道結合とsp3混成軌道結合とが混在した結合であるダイヤモンドライクカーボン皮膜を形成する第二工程と、
を含む表面改質方法。 - 前記金属酸化皮膜及び前記ダイヤモンドライクカーボン皮膜を気相生成法により形成する請求項4記載の表面改質方法。
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