JP4220164B2 - 核酸の精製方法および当該方法に用いる核酸抽出用溶液ならびに核酸精製用試薬キット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、所望の核酸を含有する試料から核酸のみを抽出または精製することを目的とした、核酸を保持することのできる、シリカを含む核酸結合用固相担体に核酸を保持させ該固相担体を分離した後、該固相担体から核酸を遊離する方法、そのための核酸抽出用溶液、試薬キットに関する。また、本発明はシリカおよび磁気応答粒子を含有する核酸結合用磁性担体ならびに磁場を利用する上記方法に関する。本発明によれば、従来の方法よりも効率的に核酸を精製することが可能となる。そのため、本発明の方法を採ることにより、核酸の調製を小スケールで効率良くおこなうことも可能となる。
【0002】
【従来の技術】
核酸を含有する細胞等といった生物材料からの核酸の抽出精製は、遺伝子工学や臨床診断の分野では重要なステップである。例えば、ある遺伝子について解析しようとする場合、まず、その遺伝子を保持する細胞等の生物材料からDNAやRNAといった核酸を抽出することが必要である。また、細菌やウイルスといった感染体の検出のためのDNA/RNA診断においても、血液等の生物材料から細菌やウイルスの核酸を抽出した後、検出することが必要である。
【0003】
一般に、生物材料に含まれるDNAやRNAといった核酸は、遊離した状態で存在するわけでなく、蛋白質、脂質、糖から構成される細胞膜や細胞壁等の殻の中に存在し、ほとんどの場合、核酸自身も蛋白質との複合体を形成している。したがって、生物材料から核酸を抽出精製する場合には、まず超音波や熱による物理的破砕処理やプロテアーゼによる酵素処理、界面活性剤や変性剤による処理等を施すことにより核酸を遊離させ、さらに、フェノール等の有機溶媒による抽出操作や超遠心分離、イオン交換体等の担体を使用したカラムクロマトグラフィー等により、破砕物から核酸を精製する必要がある。これらの手法は、核酸や出発材料、さらには抽出した核酸の用途に応じて組み合わされ、それぞれ最適化されて用いられている[Molecular cloning: A Laboratory manual, 2nd ed. (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989) ]。
【0004】
しかし、これらの方法は遠心分離など煩雑な工程を含むため非常に手間がかかる作業である。さらに、これらの方法により抽出された核酸サンプル中には、その後の解析にとって弊害となる蛋白質などの夾雑物質が多く含まれている。そのため、純度よく核酸を得るためには、これらの抽出操作を行った後に塩化セシウムによる密度勾配を利用した超遠心分離操作やフェノール/クロロホルム抽出に代表されるような煩雑で、かつ長時間を要する蛋白質除去操作を行う必要がある。
【0005】
一方、簡便な核酸抽出法としてシリカを核酸結合性固相担体として使用する方法がある(特開平2−289596号公報)。この方法は、バクテリアなどの生物材料から核酸を一段階で抽出することが可能なうえ、溶出液として水またはTEバッファーなど低濃度のバッファーを使用するため、特別な脱塩濃縮操作が不要で、抽出した核酸を直ちに後の解析に使用することができるという利点がある。しかしながら、本方法でシリカから溶出させて得られた核酸は濃度が低く、収量においても満足できるものではなかった。従って、小量の核酸で分析が可能なポリメラーゼ・チェイン・リアクション(PCR)などには適用できるが、サザンハイブリダイゼーションやノーザン・ブロットなどの分析には大スケール化とその後の濃縮工程という煩雑な操作を必要とした。更に簡便性を高めた核酸抽出方法として核酸結合用磁性担体を使用する核酸単離方法があり、例えば核酸が共有結合し得る重合性シラン被膜により覆われた超常磁性酸化鉄核を有する磁気応答粒子を利用することが知られている(特開昭60−1564号公報)。しかしながら、本方法も溶出させて得られた核酸の濃度、収量における不満を解消できるものではなかった。
【0006】
以上のように、非特異的に多量の核酸を簡便に抽出精製するには、種々の問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような理由から、安価で簡便に多量の核酸を抽出精製できる方法が求められていた。すなわち本発明の目的は、安価に克つ簡便な方法で核酸を含有する試料から核酸を効率よく精製するための方法、およびそのための核酸抽出用溶液や、試薬キットを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
これまで、核酸は、カオトロピック物質によりシリカを含む核酸結合用固相担体へ保持されると考えられてきたため、核酸の収量が低い理由は該固相担体の核酸保持能が低いことによるものと思われていた。従って、該固相担体の材質、粒形、表面積などに種々の改良が施されてきた(特開平2−289596号公報、特公平7−13077号公報、特開平9−12929号公報)。しかしながら、我々は種々の検討をおこない、所定の濃度のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含む核酸抽出用溶液を用いることで、上述した固相担体が核酸をより強固に保持できることを見出し、核酸を含有する試料から核酸を高効率に精製することを可能とした。
【0009】
すなわち本発明は、以下の構成からなる。
(1)カオトロピック物質を含有する核酸抽出用溶液中で、シリカを含む核酸結合用固相担体へ核酸を含有する試料を保持させる工程、該核酸を保持した該固相担体を該核酸抽出用溶液から分離する固液分離工程、および該固相担体から該核酸を遊離させる工程を有する、核酸の精製方法において、
上記核酸抽出用溶液が、カオトロピック物質とともに、0.2M以上1.0M以下の濃度のアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンを含むものであることを特徴とする、核酸の精製方法。
(2)上記アルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンが、ナトリウムイオン、リチウムイオンのいずれか一方、または両者の混合物であることを特徴とする、(1)に記載の核酸の精製方法。
(3)上記シリカを含む核酸結合用固相担体が、さらに強磁性金属酸化物を含むものであることを特徴とする、(1)または(2)に記載の核酸の精製方法。
(4)少なくとも、カオトロピック物質と、0.2M以上1.0M以下のアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンとを有する水溶液である、核酸抽出用溶液。
(5)上記アルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンが、ナトリウムイオン、リチウムイオンのいずれか一方、または両者の混合物であることを特徴とする、(4)に記載の核酸抽出用溶液。
(6)(4)または(5)のいずれかに記載の核酸抽出用溶液と、シリカを含む核酸結合用固相担体と、カオトロピック物質ならびにアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンを洗い流し得る洗浄液と、核酸を溶解し得る遊離液とを少なくとも有する、核酸精製用試薬キット。
(7)上記シリカを含む核酸結合用固相担体が、さらに強磁性金属酸化物を含むものであることを特徴とする、(6)に記載の核酸精製用試薬キット。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の核酸の精製方法は、0.2M以上の濃度のアルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオンと、カオトロピック物質とを少なくとも有する核酸抽出用溶液を使用することを特徴とするものである。本明細書において、以下、「アルカリ(土類)金属イオン」という記載は、「アルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオン」を意味し、「固相担体」という記載は、「シリカを含む核酸結合用固相担体」を意味するものとして用いる。
【0011】
本発明の方法において用いるアルカリ(土類)金属イオンの種類や性状等は特に問わないが、核酸や固相担体の性状を損ない難い点や不溶性化合物を生成し難い点から、アルカリ金属イオンであるのが好ましく、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオンがより好ましい。これらのイオンを有する化合物としては、塩化物、フッ化物、ヨウ化物等が例示されるが、入手が容易である点や核酸等への悪影響が少ない点、溶解し易い点、安全性が高く安価な点から、塩化物が好ましく、添加する物質の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化リチウムなどが挙げられる。
【0012】
使用時の核酸抽出用溶液におけるアルカリ(土類)金属イオンの濃度は、核酸を固相担体へ強固に保持させる点から、少なくとも0.2M以上、好ましくは、0.4M以上、さらに好ましくは、0.6M以上である。一方、核酸抽出用溶液からの当該アルカリ(土類)金属イオンを含む物質の析出を防ぐ観点からは、上記アルカリ(土類)金属イオンの濃度は、1.0M以下が好ましく、0.9M以下がさらに好ましい。さらに詳しくは、上記アルカリ(土類)金属イオンがリチウムイオンである場合には、0.2〜0.9Mが好ましく、0.6〜0.9Mがより好ましい。また、上記アルカリ(土類)金属イオンがナトリウムイオンである場合には、0.4〜0.9Mが好ましく、0.6〜0.9Mがより好ましい。
【0013】
アルカリ(土類)金属イオンを用いることで、後述する固相担体が核酸をより強く保持し得るのは、以下の作用によるものと考えられる。固相担体はシリカに由来する酸素原子を有し、一方、核酸はリン酸基等に由来する酸素原子を有する。これら、酸素原子は、負の電荷を有していると考えられる。ここで、上記アルカリ(土類)金属イオンの存在により、固相担体の酸素原子と核酸の酸素原子との間に、該アルカリ(土類)金属イオンを介した静電的な引力が新たに生じる。したがって、従来の水素結合のみに基く場合の引力よりも、本発明において生じる引力(すなわち、上記静電的な引力と水素結合による引力との合計)の方がより強いため、本発明においては、固相担体がより強固に核酸を保持するものと考えられる。
【0014】
本発明で使用する核酸抽出用溶液のカオトロピック物質としては、グアニジン塩酸塩、グアニジン(イソ)チオシアン酸塩、尿素等が例示される。それらは組合せて使用してもよい。カオトロピック物質の濃度は、約1〜10モル/l程度が好ましい。また、本発明で使用する核酸抽出用溶液は、通常、バッファーになっており、当該バッファーとしては、例えば、EDTA、トリス塩酸等を含有するバッファー等が挙げられる。本発明における好ましい核酸抽出用溶液は、例えば、グアニジンチオシアン酸塩、Triton X−100、トリス/塩酸緩衝液等をベースとして調製される。
【0015】
本発明で使用する核酸抽出用溶液には、上記のほかに、さらに、特定の核酸の選択的抽出を目的とした有機溶媒や余分な金属塩の除去を目的としたキレート剤等を含んでいてもよい。
【0016】
本発明では、上述してきたような核酸抽出用溶液を用いて、核酸を含有する試料を固相担体へ保持させる工程、該核酸を保持した該固相担体を該核酸抽出用溶液から分離する固液分離工程、および該固相担体から該核酸を遊離させる工程を経て、核酸を抽出する。
【0017】
本発明の方法に使用する核酸を含有する試料は、蛋白質、膜、DNAまたはRNA、低分子量核酸などを含む生物材料である。このような生物材料としては、蛋白質、膜、DNAまたはRNA、低分子量核酸などを含むバクテリオファージ、ウイルス、細菌あるいはこれらの組み合わせが例示される。また、精製する目的のために、この核酸がプラスミドまたは増幅産物中の核酸であってもよい。
【0018】
本発明の方法において使用する固相担体(シリカを含む核酸結合用固相担体)は、核酸を保持(結合あるいは吸着)し得る固相担体であって、シリカを含有するものであればどのような形状や組成であっても問題は無い。具体的な固相担体としては、シリカ粒子やポリマー担体をシリカで被覆したもの、強磁性金属酸化物(例えば、マグヘマイト、マグネタイト、マンガン亜鉛フェライト等)をシリカで被覆した磁性シリカ粒子などを挙げることができる。このなかで好ましくは、磁性シリカ粒子等を挙げることができる。このような固相担体は、従来公知の適宜の方法によって作製することができる。後述の実施例には、磁性シリカ粒子の作製例を記載している。
【0019】
固相担体は、粉末状態で以下の工程に供してもよいが、固相担体の分散性を向上させる観点から、予め固相担体を滅菌水、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、トリシン緩衝液等、好ましくは滅菌水に分散させてなる分散液を調製して、当該分散液を下記工程に供するのが好ましい。当該分散液には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、Triton X−100、エタノールその他の有機溶媒等がさらに含まれていてもよい。当該分散液の固形分濃度は、特に限定はないが、核酸回収量、集磁性の点から、0.1g/ml以上が好ましく、分散性、保存性の点から、1.0g/ml以下が好ましい。
【0020】
核酸抽出用溶液中で、核酸を含有する試料を固相担体へ保持させる工程は、上記試料と上記固相担体とを核酸抽出用溶液に添加した後、該試料と固相担体とが接触する程度に両者を混合することができれば特に方法は問わない。混合は、例えば、チューブを軽く転倒攪拌あるいは振盪することによる程度で十分であり、例えば市販のボルテックスミキサー等を用いて行うこともできる。
【0021】
当該工程における、固相担体の量(当該工程系の体積あたりの固相担体の重量)としては、核酸をなるべく多く保持させる点、磁石により担体を回収し易くする点等から、0.004g/ml以上が好ましく、0.008g/ml以上がより好ましく、一方、担体から核酸を遊離し易くする点、固相担体の分散性を確保する点等から、0.04g/ml以下が好ましく、0.02g/ml以下がより好ましい。
【0022】
固液分離工程は、核酸を保持した固相担体を核酸抽出用溶液から分離する工程であり、遠心分離やフィルター分離等によって行われ得るが、磁性粒子を固相担体として用いる場合には磁場、すなわち磁石を用いて行われ得る。この磁石は、例えば、磁束密度が約300ガウスの磁石が用いられ得る。具体的には、核酸を含有する試料および核酸抽出用溶液を収容したチューブの側壁に磁石を近づけ、核酸を保持した固相担体をチューブ側壁に集め、核酸抽出用溶液中から固相担体を分離する方法等が挙げられる。このように磁場を用いた固液分離は、工程の系外に磁場を制御して発生させる手段を設けるだけで実現でき、装置の小型化や、連続的な処理、自動化処理を容易にする点で優れている。
【0023】
核酸を保持した固相担体から核酸を遊離させる工程は、核酸を保持した固相担体を、上記カオトロピック物質およびアルカリ(土類)金属イオンを洗い流し得る洗浄液で数回洗浄した後、固相担体を乾燥し、その後、TE緩衝液などの低イオン濃度の溶液や滅菌水などといった核酸を溶解し得る遊離液を添加することにより固相担体に保持された核酸を遊離液へ遊離し、核酸を最終的に回収することができる。
【0024】
本発明に用いる洗浄液としては、カオトロピック物質およびアルカリ(土類)金属イオンを溶解することができる液体であれば特に制限はなく、アセトン、ブタノール、水で希釈したアルコール等が例示されるが、価格と安全性の点から、イソプロパノール、70%アルコール等が好ましい。また、本発明に用いる遊離液としては、核酸を溶解することができる液体であれば特に制限はなく、トリス塩酸緩衝液、TE緩衝液、水等が例示されるが、利便性の点から、TE緩衝液(20mMトリス塩酸、1mM EDTA、pH7.5)、滅菌水等が好ましい。
【0025】
上述したような本発明の精製方法によれば、生物材料から所望の核酸を高収率で取得することができ、これにより、生物材料から所望の核酸を簡便克つ安価に取得することができる。さらに、上述のように核酸を高収率で取得する方法の実施に用い得る、核酸抽出用溶液や、該核酸抽出用溶液と上述した固相担体と洗浄液と遊離液とを有する、核酸精製用試薬キットもまた本発明の実施の一態様である。
【0026】
本発明の核酸抽出用溶液は、上述してきたカオトロピック物質と、0.2M以上のアルカリ(土類)金属イオンとを少なくとも有する水溶液である。好ましくは、上記アルカリ(土類)金属イオンは、ナトリウムイオン、リチウムイオンのいずれか一方、またはその混合物である。核酸抽出用溶液は、保管時の省スペース化、輸送の簡便化等の点から、用時に滅菌水等で4〜6倍程度に希釈して上記核酸抽出用溶液として用いられるよう、予め高濃度で調製されていてもよい。
【0027】
本発明の核酸精製用試薬キットは、それぞれ上述した核酸抽出用溶液と固相担体と洗浄液と遊離液とを少なくとも有しており、例えば、各々別容器に収容されて、用時に上述した所定の順序で希釈、添加等されるように供される。固相担体は、粉末のままであっても、上述した分散液の形態であってもよい。当該キットにより、核酸を精製する際に、様々な試薬等を各々準備、調製する手間を省き、迅速に、必要な量だけ用いて本発明の方法を実施することができる。
【0028】
本発明の実施により、従来の技術では高収率に精製することが困難であった核酸の簡便な調製が可能となり得る。また、種々の核酸の解析方法への材料供給において効率よく目的の核酸を調製することが可能となる。
【0029】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を例示することによって、本発明の効果をより一層明確なものとするが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
[実施例1〜7、比較例1]
固相担体(シリカを含む核酸結合用固相担体)として磁性シリカ粒子を用いた。本磁性シリカ粒子は、強磁性金属酸化物として酸化鉄(マグネタイト)を用い、これをシリカで被覆したものであって、以下のように合成したものである。
【0031】
<マグネタイト粒子の合成>
100gの硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)を1000ccの純水に溶解した。この硫酸第一鉄と等倍モルになるように、28.8gの水酸化ナトリウムを500ccの純水に溶解した。次に硫酸第一鉄水溶液を攪拌しつつ、そこへ1時間かけて水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、水酸化第一鉄の沈殿物を生成させた。滴下終了後、攪拌しながら、水酸化第一鉄の沈殿物を含む懸濁液の温度を85℃まで昇温した。懸濁液の温度が85℃に達した後、200l/hrの流量で、エアーポンプを使用して空気を吹き込みながら、8時間酸化して、マグネタイト粒子を生成させた。このマグネタイト粒子は、ほぼ球形で、平均粒子サイズ(同体積の球の直径に相当)は、0.28μmであった。
【0032】
なおマグネタイト粒子の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡写真上、300個の粒子サイズを測定し、その数平均粒子サイズから求めた。
【0033】
<シリカ被覆処理>
上記マグネタイト粒子懸濁液を、純水を用いて十分に水洗した後、乾燥させることなく、懸濁液の全重量が468gになるように純水を加えた。この懸濁液に、70gのケイ酸ナトリウムを溶解した。この懸濁液とは別に調製した、界面活性剤として22.5gのソルビタンモノラウレートを溶解した1500ccのヘキサン溶液を、上記懸濁液へ投入して混合液とした。この混合液をホモミキサー(特殊機化工業社製)を使用して、10分間攪拌分散し、エマルジョン分散液を作製した。次に、1000gの硫酸アンモニウムを4500ccの純水に溶解した。この硫酸アンモニウム溶液を攪拌しつつ、そこへ上記エマルジョン分散液を、約1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間攪拌することで中和反応を行った。この硫酸アンモニウムによる中和反応により、マグネタイト粒子を包含するようにシリカが析出して、被膜が形成された。得られたシリカ被覆マグネタイト粒子300個の平均粒子サイズは、5.2μmであった。
【0034】
上記の方法で合成した磁性シリカ粒子(シリカ被覆マグネタイト粒子)を用いた核酸の精製は、以下の方法で行った。
先ず磁性シリカ粒子を、0.2g/mlになるように減菌水に分散させて、磁性シリカ粒子の分散液とした。核酸を単離するための生物試料としては、大腸菌(Escherichia coli JM109(東洋紡績、宝酒造、インビトロジェンなどより販売されている))を3mL MMI培地(12.5gバクトトリプトン、25gバクトイーストエキストラクト、8.5g NaCl、20ml Tris−HCl(pH7.2)、4mlグリセロールを800mlの精製水に溶解しNaOHでpH7.2に調製後1リットルにメスアップしオートクレーブ滅菌する)/試験管にて37℃、20時間培養した菌体を用いた。核酸抽出用溶液としては、カオトロピック物質を含むバッファーとして、42mMのTris−HCl(シグマ社)を含む5.8Mグアニジン塩酸塩(ナカライテスク社)(pH7.5)を用い、そこに、アルカリ(土類)金属イオンを生成する物質として後述の表1に記載の濃度となるように、NaCl又はLiClを溶解した溶液を用いた。洗浄液には、カオトロピック物質を含むバッファーとして、42mMのTris−HCl(シグマ社)を含む5.8Mグアニジン塩酸塩(ナカライテスク社)(pH7.5)を使用した。高濃度の塩を除去するために70%エタノール溶液を使用し、磁性シリカ粒子に結合した核酸を回収するための遊離液として滅菌水を使用した。
【0035】
具体的な操作としては、
(1)菌体濁度(OD660)を測定し、1.5cc用エッペンドルフチューブにてOD660;10の菌体を遠心分離により調製した。次に上記核酸抽出用溶液1200μlを注入し、混合した。
(2)その後、上記磁性シリカ粒子の分散液40μlを加えた。
(3)約1分毎に混合しながら、室温で5分間放置した。
(4)1.5cc用エッペンドルフチューブの形状に合った磁石スタンドに、上記チューブを設置することにより、磁性シリカ粒子を磁石側のチューブ側に集めた。
(5)フィルターチップで溶液を吸引し、排出した。
(6)チューブを磁石スタンドから取りはずし、グアニジン塩酸塩を含む洗浄液を1cc注入した。
(7)磁性シリカ粒子と上記洗浄液とを十分に混合した後、再度磁石スタンドに設置し、上記と同様にして溶液を廃棄した。
(8)1ccの70%エタノールで上記と同様の方法により、核酸を保持した磁性シリカ粒子を洗浄し、高濃度のグアニジン塩酸塩を取り除いた。
(9)約56℃のヒートブロックに上記チューブを設置し、約10分間放置してチューブ内、および磁性シリカ粒子内のエタノールを完全に蒸発させて除去した。
(10)このように洗浄した(核酸を保持した)磁性シリカ粒子に、100μlの減菌水を加え、約56℃のヒートブロックに上記チューブを設置し、2分毎に混合操作しながら10分間放置した。次に、磁石スタンドに設置し、回収する溶液をフィルターチップで吸引し、別の新しいチューブに移した。通常、核酸の回収量は70μl程度である。核酸を保存する場合は、−70℃で行った。
【0036】
上記の操作は、(1)〜(3)が核酸を固相担体に保持させる工程、(4)〜(5)が固液分離工程、(6)〜(10)が固相担体から核酸を遊離させる工程に各々相当する。
【0037】
得られた核酸(大腸菌の染色体DNA)の回収量を電気泳動によって確認した結果を、図1に示す。図1においてはNaCl又はLiClの量を最終濃度で0〜833mMの間で変えて核酸収量を測定した。表1には、図1の電気泳動の核酸に相当するバンドの濃さを数値として表現した(使用ソフト:Gel−Pro
Analyzer(プラネトロン))。
【0038】
図1において、1レーンは実施例1の核酸抽出精製結果を、2レーンは実施例2の核酸抽出精製結果を、3レーンは実施例3の核酸抽出精製結果を、4レーンは実施例4の核酸抽出精製結果を、5レーンは実施例5の核酸抽出精製結果を、6レーンは実施例6の核酸抽出精製結果を、7レーンは実施例7の核酸抽出精製結果を、Cレーンは比較例1の核酸抽出精製結果を、Mレーンはλ/HindIII分子量マーカーをそれぞれ表す。
【0039】
【表1】
【0040】
図1および表1において明らかなように、アルカリ(土類)金属イオン(NaCl又はLiCl)を核酸抽出用溶液に含まない比較例1に比して、実施例では核酸収量が増加した。本発明の方法と従来方法の手順の違いは、核酸抽出用溶液にアルカリ(土類)金属イオンを所定濃度以上添加する点のみである。結果として、核酸を含有する試料から核酸を精製するための方法としての本発明の有用性が示された。
【0041】
なお、本実施例では磁性体粒子を用いているため、固液分離は遠心分離をおこなわずとも磁石を用いて非常に簡便に実施することができる。磁石を用いた磁性体粒子の固液分離システムは自動化も容易であり、実際、自動化装置が既に開発、販売されている(例えば、MFX-2000、MFX-6000、MFX-9600(東洋紡績製)等)。従って、これらの装置と本発明との方法を組合せることにより、核酸を高収率にハイスループット精製することも容易に実現できる。
【0042】
【発明の効果】
本発明により、従来技術による方法に比べ、核酸をより強固に固相担体に保持させることにより、核酸の抽出精製の高効率化が可能となる。これにより、安価に、かつ簡便な方法で核酸を含有する試料から核酸を精製することが可能となる。また、本方法の優位性を活かして、核酸の抽出精製の自動化、ハイスループット化、μ−TASへの応用が期待できる。また、核酸精製溶液、および該溶液を有する核酸精製用試薬キットを用いることにより、本発明の方法の実施の際に、様々な試薬等を各々準備、調製する手間を省くことができるので、迅速に、かつ簡便に、必要な量だけ用いて本発明の方法を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】各実施例、比較例によって得られた核酸の回収量を電気泳動によって確認した結果を示す図である。
Claims (5)
- カオトロピック物質を含有する核酸抽出用溶液中で、シリカを含む核酸結合用固相担体へ核酸を含有する試料を保持させる工程、該核酸を保持した該固相担体を該核酸抽出用溶液から分離する固液分離工程、および該固相担体から該核酸を遊離させる工程を有する、核酸の精製方法において、
上記核酸抽出用溶液が、カオトロピック物質とともに、0.2M以上1.0M以下の濃度のナトリウムイオン、リチウムイオンのいずれか一方、または両者の混合物を含むものであることを特徴とする、核酸の精製方法。 - 上記シリカを含む核酸結合用固相担体が、さらに強磁性金属酸化物を含むものであることを特徴とする、請求項1に記載の核酸の精製方法。
- 少なくとも、カオトロピック物質と、0.2M以上1.0M以下のナトリウムイオン、リチウムイオンのいずれか一方、または両者の混合物とを有する水溶液である、核酸抽出用溶液。
- 請求項3に記載の核酸抽出用溶液と、シリカを含む核酸結合用固相担体と、カオトロピック物質ならびにナトリウムイオン、リチウムイオンのいずれか一方、または両者の混合物を洗い流し得る洗浄液と、核酸を溶解し得る遊離液とを少なくとも有する、核酸精製用試薬キット。
- 上記シリカを含む核酸結合用固相担体が、さらに強磁性金属酸化物を含むものであることを特徴とする、請求項4に記載の核酸精製用試薬キット。
Priority Applications (1)
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