JP4220013B2 - 複合ガラスセラミックスおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度で耐熱性に優れ、各種高温構造材や、各種基板等の電子工業用材料として安定的に使用でき、各種工業用材料として広範な用途に使用できる複合ガラスセラミックスおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ガラスセラミックスやセラミックスは各種構造材や、各種基板等の電子工業用材料として広範な分野に使用されているが、ガラスセラミックスは、高温構造材として使用するにはその耐熱性や機械的強度が充分でないものが多く、また、通常の非晶質のガラスに比べその製造が困難であり、特に、材料寸法の大きな大物高温構造材には使用されていない。
一方、セラミックスは、一般にその耐熱性や機械的強度がガラスセラミックスに比べ優れているが、その熱膨張係数が一定であるため、例えば金属等の異種の材料と接着する場合、セラミックスと接着する材料もセラミックスと同程度の熱膨張係数を有するものに限られ、特に高温下で使用する場合、熱膨張係数に差があると接着部の亀裂や破損等を招くので、工業用材料としての用途が著しく限定される。また、セラミックスは一般に焼結温度が高く、例えば基板等によく使用されているアルミナセラミックスでは焼結温度が1500〜1600℃であり、焼結熱処理のために特殊な焼成炉が必要となり、製造コストが高くなるという問題がある。
そこで、ガラスセラミックスの耐熱性や機械的強度を向上させるために、ガラスまたはガラスセラミックスで形成されるマトリックス中に、エネルギー散逸源としてセラミックス粒子等のフィラーを分散させたり、またはフィラーに起因する結晶相を分散して析出させる技術が開発されている。このような複合化したガラスセラミックス、いわゆる複合ガラスセラミックスは、ガラスセラミックス単体より高強度で耐熱性に優れ、また、一般にセラミックスより低い温度で焼結できるため、各種工業用材料として広範な用途が期待され、種々のものが提案されている。
【0003】
例えば、特公昭63−6503号公報には、熱膨張係数が5〜45×10-7のガラス又は結晶化ガラス中に、表面にSiO2被膜を持たせたセラミックス粒子を分散させたガラス−セラミック複合体が開示されている。しかし、このガラス−セラミック複合体は、同号公報の実施例が示すように、熱膨張係数の範囲が25〜53×10-7であり、充分に広い範囲を有しているとは言い難く、上述した理由から各種工業用材料として広範な用途に使用するには適当ではない。また、このガラス−セラミック複合体は、セラミックス粒子をそのまま混合し焼成しても緻密な複合体が得られないため、分散させるセラミック粒子に予めSiO2被膜をコーティングする必要があり、製造工程が複雑になる問題がある。
【0004】
また、特公平4−19176号公報には、組成がSiO2−Al23−RO−R2O系のガラス粉末とセラミック粉末とからなるガラスセラミックが開示されている。このガラス粉末は、結晶核形成剤を含有していないため、熱処理後も結晶が析出せず、上記ガラスセラミックのマトリックスは非晶質のガラス相である。そのため上記ガラスセラミックは、同号公報の実施例が示すように抗折強度(曲げ強度)が800〜1480kg/cm2と低く、その用途は高強度を必要としない材料に限られる。
また、特公平6−17249号公報および特公平6−76227号公報には、核発生剤を添加したSiO2−Al23−B23−MgO系のガラス組成物粉末とフィラーとの混合物を焼成して得られるガラスセラミック焼結体が開示されている。これらのガラスセラミックス焼結体のガラス組成物粉末は、熱処理することによりコーディエライトを主結晶として析出するものであるが、これらのガラスセラミック焼結体は、焼成温度が1000℃以下と低い反面、1000℃を超える高温域で構造材として使用するには、耐熱性が充分ではない。また、特公平6−17249号公報のガラスセラミック焼結体は、同号公報の実施例が示すように熱膨張率が43〜55×10-7/℃の範囲であり、特公平6−76227号公報のガラスセラミック焼結体は、同号公報の実施例が示すように熱膨張率が41〜53×10-7/℃の範囲であって、いずれも、上記特公昭63−6503号公報のガラス−セラミック複合体よりもさらに熱膨張率(熱膨張係数)の範囲が狭く、それらの用途は一層限定される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決し、高強度で耐熱性に優れ、高温域で使用する各種構造材や、各種基板等の電子工業用材料として安定的に使用でき、工業用材料として広範な用途に使用できる複合ガラスセラミックスおよびその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解消するための手段】
本明者等は、前記目的を達成するため種々の試験研究を重ねた結果、TiO2およびZrO2を結晶核形成剤とした限定された組成範囲のSiO2−P25−Al23−Li2O系の組成を有し、熱処理することにより結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を析出するアモルファス状態の原ガラス粉末とフィラーとの混合物もしくは上記組成系のアモルファス状態の原ガラスまたは原ガラス粉末を熱処理することにより得られ、結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を含有するガラスセラミックス粉末とフィラーとの混合物を焼結熱処理して、マトリックスを形成するガラスセラミックスとフィラーとを複合化させることにより、高強度で耐熱性に優れ、かつ、用途に応じ熱膨張係数および熱伝導率を広い範囲で選択可能な複合ガラスセラミックスが得られることを見いだした。
【0007】
すなわち、前記本発明の目的を達成する請求項1に記載の複合ガラスセラミックスは、 重量%で、SiO2 50〜62%、P25 5〜10%、ただし、重量比でP25/SiO2 0.08〜0.20、Al23 22〜26%、Li2O 3〜5%、MgO 0.6〜2%、ZnO 0.5〜2%、CaO 0.3〜4%、BaO 0.5〜4%、TiO2 1〜4%、ZrO2 1〜4%、As23 0〜2%からなる組成を有し、熱処理することにより、結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を析出するアモルファス状態の原ガラス粉末30〜95重量%と、Al 2 3 、ZrO 2 およびMgOの中から選ばれた1種または2種以上のフィラー5〜70重量%とを混合し、得られた混合物を焼結熱処理温度まで200℃/hr以上の昇温速度で加熱、昇温した後、1120〜1250℃で焼結熱処理することにより得られ、ガラスセラミックスがマトリックスを形成していることを特徴とする。
また、請求項2記載の複合ガラスセラミックスは、 重量%で、SiO2 50〜62%、P25 5〜10%、ただし、重量比でP25/SiO2 0.08〜0.20、Al23 22〜26%、Li2O 3〜5%、MgO 0.6〜2%、ZnO 0.5〜2%、CaO 0.3〜4%、BaO 0.5〜4%、TiO2 1〜4%、ZrO2 1〜4%、As23 0〜2%からなる組成を有し、結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を含有するガラスセラミックス粉末30〜95重量%と、Al 2 3 、ZrO 2 およびMgOの中から選ばれた1種または2種以上のフィラー5〜70重量%とを混合し、得られた混合物を焼結熱処理温度まで200℃/hr以上の昇温速度で加熱、昇温した後、1120〜1250℃で焼結熱処理することにより得られ、ガラスセラミックスがマトリックスを形成していることを特徴とする。
また、請求項3に記載の複合ガラスセラミックスは、請求項1または2に記載の複合ガラスセラミックスにおいて、ジェネレーター加工面に現われるポアが30μm未満であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項に記載の複合ガラスセラミックスは、請求項1〜に記載の複合ガラスセラミックスにおいて、 100〜300℃の温度範囲における熱膨張係数(α)が5〜110×10-7/℃であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項に記載の複合ガラスセラミックスは、請求項1〜に記載の複合ガラスセラミックスにおいて、熱伝導率が1〜6W/mKであること特徴とする。
【0011】
また、請求項に記載の複合ガラスセラミックスは、請求項1〜に記載の複合ガラスセラミックスにおいて、曲げ強度が15kgf/mm2以上であることを特徴とする。なお、本発明における曲げ強度は、4点荷重方式により測定した曲げ強度である。
【0012】
また、前記本発明の目的を達成する請求項に記載の複合ガラスセラミックスの製造方法は、重量%で、SiO2 50〜62%、P25 5〜10%、ただし、重量比でP25/SiO2 0.08〜0.20、Al23 22〜26% 、Li2O 3〜5%、MgO 0.6〜2%、ZnO 0.5〜2%、CaO 0.3〜4%、BaO 0.5〜4%、TiO2 1〜4%、ZrO2 1〜4%、As23 0〜2%からなる組成を有し、熱処理することにより結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を析出するアモルファス状態の原ガラス粉末30〜95重量%と、Al 2 3 、ZrO 2 およびMgOの中から選ばれた1種または2種以上のフィラー5〜70重量%とを混合し、得られた混合物を焼結熱処理温度まで200℃/hr以上の昇温速度で加熱、昇温した後、1120〜1250℃で焼結熱処理することを特徴とする。
【0013】
また、請求項に記載の複合ガラスセラミックスの製造方法は、請求項に記載の複合ガラスセラミックスの製造方法において、原ガラス粉末の平均粒径が50μm以下、最大粒径が200μm以下であり、かつ、フィラーの粒径が原ガラス粉末の平均粒径より小さいことを特徴とする。なお、本発明における平均粒径は、光回折・散乱法により測定した平均粒径(重量基準)である。
【0014】
また、請求項に記載の複合ガラスセラミクスの製造方法は、重量%で、SiO2 50〜62%、P25 5〜10%、ただし、重量比でP25/SiO20.08〜0.20、Al23 22〜26%、Li2O 3〜5%、MgO 0.6〜2%、ZnO 0.5〜2%、CaO 0.3〜4%、BaO 0.5〜4%、TiO2 1〜4%、ZrO2 1〜4%、As23 0〜2%からなる組成を有し、結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を含有するガラスセラミックス粉末30〜95重量%と、Al 2 3 、ZrO 2 およびMgOの中から選ばれた1種または2種以上のフィラー5〜70重量%とを混合し、得られた混合物を焼結熱処理温度まで200℃/hr以上の昇温速度で加熱、昇温した後、1120〜1250℃で焼結熱処理することを特徴とする。
【0015】
また、請求項10に記載の複合ガラスセラミックスの製造方法は、請求項に記載の複合ガラスセラミックスの製造方法において、ガラスセラミックス粉末の平均粒径が50μm以下、最大粒径が200μm以下であり、かつ、フィラーの粒径がガラスセラミックス粉末の平均粒径より小さいことを特徴とする。
【0018】
本発明の複合ガラスセラミックスのマトリックスを形成するガラスセラミックスは、結晶相として、β−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を含有するが、ここで、上記β−石英固溶体は、β−石英およびこれに酷似の構造を有するβ−ユークリプタイト〔Li2O・Al23・2SiO2(ただしLi2Oの一部はMgOおよびZnOと置換可能)〕の総称である。さらに、本発明の複合ガラスセラミックスのマトリックス中には、上記結晶相の他にフィラーの結晶相およびフィラーと原ガラス粉末またはガラスセラミックス粉末との反応により生成する結晶相が析出していること、および/またはフィラー粒子がエネルギー散逸源として複合化されていることにより、本発明の複合ガラスセラミックスは、ガラスセラミックス単体と比べて高強度である。また、ガラスセラミックスの組成、フィラーの種類および含有量ならびに焼結熱処理温度を適宜選択して、上記複合ガラスセラミックスのマトリックス中の結晶相の種類や析出量を制御することにより、広範な用途に応じて複合ガラスセラミックスの熱膨張係数および熱伝導率を変化させることができる。
【0019】
次に、本発明の複合ガラスセラミックスのマトリックスを形成するガラスセラミックスおよびその母材である原ガラス粉末またはガラスセラミックス粉末の組成を限定した理由を述べる。
SiO2成分は、β−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体結晶の構成要素となる重要な成分であるが、その量が50%未満の場合には、得られるガラスセラミックスの結晶粒径が粗大化し、緻密な複合ガラスセラミックスを得難くなる。また、62%を超えると原ガラスの溶融清澄が困難になる。SiO2成分の量の好ましい範囲は50〜60%であり、特に好ましい範囲は53〜57%である。
【0020】
25成分はSiO2成分と共存させることにより原ガラスの溶融性を向上させ、原ガラスの清澄を容易にする効果を有するが、その量が5%未満の場合には上記効果が得られず、また10%を超えるとガラスセラミックスの結晶粒径が粗大化し、緻密な複合ガラスセラミックスを得難くなる。P25成分の量の好ましい範囲は6〜10%であり、特に好ましい範囲は7〜9%である。さらに上記効果を著しく向上させるために、後述のLi2O+MgO+ZnOおよびCaO+BaO成分との共存下において、SiO2成分に対する 25成分の重量比を0.08〜0.20の範囲内とするのが良く、特に好ましい範囲は0.13〜0.17である。
【0021】
Al23成分は、β−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体結晶の構成要素となる重要な成分であるが、その量が22%未満では原ガラスの溶融が困難になるとともに、原ガラスの耐失透性が悪化する。また、26%を超えると、やはり、原ガラスの溶融が困難となり、かつ、耐失透性が悪化する。Al23成分の量の特に好ましい範囲は23〜25%である。
【0022】
Li2O、MgOおよびZnOの3成分はβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体結晶の構成要素となる重要な成分である。これらの3成分は上記SiO2成分に対するP25成分の限定された重要比と相まって、原ガラスの溶融性を向上させ、その清澄を容易にする効果を有するが、Li2O成分は、その量が3%未満の場合には原ガラスの溶融性が悪化し、また所要量の微細な結晶が析出し難くなる。また5%を超えると上記効果が得られず、また結晶粒径が粗大となり、緻密な複合ガラスセラミックスを得難くなる。Li2O成分の量の特に好ましい範囲は3.7〜4.5%である。
MgO成分は、その量が0.6%未満の場合には上記効果が得られず、原ガラスの溶融性が悪化する。また2%を超えると上記効果が得られず、所要の結晶相が析出し難くなる。MgO成分の量の特に好ましい範囲は0.7〜1.4%である。
ZnO成分は、その量が0.5%未満の場合には上記効果が得られず、原ガラスの溶融性が悪化する。また2%を超えると上記効果が得られず、原ガラスの耐失透性が悪化し、また所要の結晶相が析出し難くなる。ZnO成分の量の特に好ましい範囲は0.5〜1.5%である。さらに上記効果を著しく向上させるためには、Li2O+MgO+ZnOの3成分の合計量を4.6〜6.5%の範囲にするのが好ましく、特に好ましい範囲は5.0〜6.0%である。
【0023】
CaOおよびBaOの2成分は、マトリックスを形成するガラスセラミックス中において、基本的に結晶相以外のガラス相として残存する成分であり、熱処理により析出する結晶相と残存するガラス相との比率を微調整する成分として重要である。CaO成分は、その量が0.3%未満では上記効果が得られず、また4%を超えるとやはり上記効果が得られず、原ガラスの耐失透性が悪化する。CaO成分の量の特に好ましい範囲は0.5〜2.5%である。
BaO成分は、その量が0.5%未満では上記効果が得られず、また4%を超えると原ガラスの耐失透性および溶融性がともに悪化する。BaO成分の量の特に好ましい範囲は0.5〜1.5%である。さらに上記効果を著しく向上させるためには、CaO+BaOの2成分の合計量を1〜5%の範囲にするのが好ましく、特に好ましい範囲は1.5〜2.5%である。
【0024】
TiO2およびZrO2成分は、いずれも結晶核形成剤として不可欠であるが、これらの量がそれぞれ1%未満では所望の結晶を析出することができず、また、それぞれ4%を超えると原ガラスの耐失透性が悪化する。これら2成分の量の特に好ましい範囲は、TiO2成分は1.5〜3.0%であり、ZrO2成分は1.0〜2.5%である。またこれらTiO2+ZrO2の2成分の合計量は2.5〜5.0%の範囲にするのが好ましく、特に好ましい範囲は3.5〜5.0%である。As23成分は、均質な原ガラスを得るため、原ガラス溶融の際の清澄剤として任意に添加し得るが、その量は2%以下で十分である。
【0025】
なお、上記各成分の他に、本発明の複合ガラスセラミックスの所望の諸特性を損なわない範囲で、PbO、SrO、B23、F2、La23、Bi23、WO3、Y23、Gd23およびSnO2成分の1種または2種以上を合計で2%まで、CoO、NiO、MnO2、Fe23、Cr23等の着色成分の1種または2種以上を合計で2%まで、それぞれ添加することができる。
【0026】
一方、本発明の複合ガラスセラミックスのフィラーとしては、Al23、ZrO2、MgO等のセラミックス粉末ならびにSi、W、Mo、Cr、Ti、Zr、Nb、Hf、Ta、Fe、Ni、Coおよびそれらの合金、ステンレス鋼、超耐熱合金等の金属粒子の中から選ばれた1種または2種以上を用いることができるが、特に、Al23、ZrO2およびMgOの中から選ばれた1種または2種以上をフィラーとすることが好ましい。
【0027】
本発明の複合ガラスセラミックスは、上記組成を有し、熱処理することにより結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を析出するアモルファス状態の原ガラス粉末30〜95重量%もしくは上記組成を有し、結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を含有するガラスセラミックス粉末30〜95重量%と、フィラー5〜70重量%とを混合し、得られた混合物を成形型等に入れまたは混合物をプレス等により所望形状に成形し、1100〜1250℃で焼結熱処理することにより得ることができる。フィラーが70%を超えると混合物の焼結性が悪くなり、緻密な複合ガラスセラミックスを得ることができなくなる。また、その量が5%未満ではフィラーとガラスセラミックスとの複合効果が得られず、熱膨張係数(α)、熱伝導率および曲げ強度等の本発明の複合ガラスセラミックスの所望の諸特性が得難くなる。
【0028】
また、焼結熱処理温度が1100℃未満では、原ガラス粉末およびガラスセラミックス粉末が軟化しにくくなることにより、マトリックスを形成するガラスセラミックスとフィラーとの融着性が悪くなって、緻密な複合ガラスセラミックスが得難くなる。また、1250℃を超えると複合ガラスセラミックス中に気孔(ポア)が生じるので好ましくない。
【0029】
また、原ガラス粉末またはガラスセラミックス粉末とフィラーとの混合物を焼結熱処理温度まで加熱、昇温する際の昇温速度は200℃/hr以上であることが好ましく、250〜800℃/hrの範囲内であることが特に好ましい。昇温速度が200℃/hr未満の場合、結晶成長温度域において結晶化が過度に進行して、マトリックスを形成するガラスセラミックスの熱膨張係数とフィラーの熱膨張係数との差が大きくなり微少な亀裂が生じて、緻密な複合ガラスセラミックスを得ることが難しくなる。また、昇温速度が800℃/hrを超えると、昇温中に所望形状に成形した混合物中にひずみが生じて割れたり、また、原ガラス粉末およびガラスセラミックス粉末が急激に軟化し、成形した混合物が変形したりするので好ましくない。
【0030】
アモルファス状態の原ガラス粉末と、フィラーとを混合して本発明の複合ガラスセラミックスを製造する場合、上記原ガラス粉末は、上述した組成となるように、酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等のガラス原料を秤量、調合し、ルツボ等に入れ、約1400〜1600℃で約7〜9時間溶融、撹拌、清澄した後、溶融ガラスを鋳型等にキャストして徐冷するか、または、ロール急冷法、水中投入法等により急冷して得た原ガラスをボールミル、遊星ボールミル、ローラミル等の公知の粉砕装置を用い、湿式法または乾式法等の公知の粉砕方法により粉砕して得ることができる。
また、ガラスセラミックス粉末と、フィラーとを混合して本発明の複合ガラスセラミックスを製造する場合、ガラスセラミックス粉末は、上述の方法により得られた原ガラス粉末を750〜800℃で熱処理して、結晶化することにより得ることができる。また、原ガラスを粉末にする前に、750〜1200℃で熱処理して、結晶化することにより得たガラスセラミックスを上述した公知の粉砕装置および粉砕方法により粉砕することによっても得ることができる。
【0031】
以上のようにして得られるアモルファス状態の原ガラス粉末またはガラスセラミックス粉末の平均粒径は50μm以下であり、その最大粒径は200μm以下であることが望ましく、特に平均粒径が15〜30μmであり、かつ、粒径が5μm以下の粉末を20体積%以上含んでいることが好ましく、特に20〜30体積%含んでいることが好ましい。原ガラス粉末またはガラスセラミックス粉末の平均粒径が50μm超え、最大粒径が200μmを超えると焼結熱処理に要する温度が高くなり、また、得られる複合ガラスセラミックスの均質性、緻密性も悪くなる。また、粒径が5μm以下の粉末が20体積%未満であると、原ガラス粉末またはガラスセラミックス粉末とフィラーとの混合物をプレス等により成形する際、粉末間の空隙の充填性が悪くなるため緻密な成形体が得難くなり、また焼結熱処理に要する温度が高くなる。
【0032】
また、フィラーの粒径は、上記原ガラス粉末またはガラスセラミックス粉末の平均粒径よりも小さく、特に、10μm以下であることが望ましい。フィラーの粒径が上記平均粒径よりも大きくなると、ガラス粉末またはガラスセラミックス粉末とフィラーとの混合物の焼結性が悪くなるので好ましくない。
【0033】
以上、説明したとおり本発明の複合ガラスセラミックスは、アモルファス状態の原ガラス粉末またはガラスセラミックス粉末とフィラーとを混合し、得られた混合物を焼結熱処理して製造するが、これらの成分の他に、必要に応じ、着色成分として、CoO、NiO、MnO2、Fe23、Cr23等の1種または2種以上の粉末を本発明の複合ガラスセラミックスの所望の特性を損なわない範囲で添加、混合することができる。また、上記混合物に、ポリビニルアルコール、ステアリン酸、ポリエチレングリコール等を、成形時の有機バインダーとして添加、混合することができる。特に、混合物を所望形状にプレス成形した後で焼結熱処理する場合や、寸法の大きな混合物を焼結熱処理する場合には、有機バインダーを混合することが望ましく、例えば、混合物100重量%に対し、1〜20%程度の濃度のポリビニルアルコール等の有機バインダー水溶液5〜15重量%を加えることができる。
【0034】
【実施例】
次に、本発明の複合ガラスセラミックスの好適な実施例および比較例について説明する。
重量%で、SiO2 55.0%、P25 8.0%、Al23 24.0%、Li2O 4.0%、MgO 1.0%、ZnO 0.5%、CaO 1.0%、BaO1.0%、TiO2 2.5%、ZrO2 2.0%およびAs23 1.0%の組成となるように、酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等のガラス原料を秤量、調合し、白金ルツボ等に入れ、1500℃で8時間溶融、撹拌、清澄した後、溶融ガラスを水中に投入して急冷して得た原ガラスをアルミナ質ボールミルに入れて粉砕し、粒径が5μm以下の粉末を約25体積%含有し、平均粒径が約20μm、最大粒径が約180μmの原ガラス粉末を得た。次にこの原ガラス粉末および粒径が10μm以下の各種フィラー粉末を表1に示した割合となるように秤量し、アルミナ質ボールミルに入れて混合し、混合物を得た。以上、述べた粉砕および混合工程では、湿式および乾式のいずれの方法も採用できるが、本実施例では、乾式法で粉砕、混合を行った。ついで得られた混合物100重量%に対し、濃度2%のポリビニルアルコール水溶液10重量%をバインダーとして加え、混合し、金型に入れて一軸プレスにより成形し、得られたプレス品を焼成炉に入れ、室温から表1に示すように各焼結熱処理成温度に達するまで、一定の昇温速度で加熱、昇温し、各焼結熱処理温度で3時間保持して焼結熱処理した後、降温して、表1に示す本発明の実施例No.1〜No.10および比較例No.Bの複合ガラスセラミックス試料を作製した。また、表1中の比較例No.Aの試料はフィラーを含有しないガラスセラミックス単体であり、上記原ガラスと同じガラスを用い、フィラーを混合しない他は、上述した方法と同じ方法で作製したものである。
【0035】
以上のようにして得た表1の各試料の100〜300℃の温度範囲における熱膨張係数(α)、曲げ強度および熱伝導率を測定した結果を表2に示す。曲げ強度は4点荷重方式によって測定したものである。また、表2に示す緻密性の評価結果は、表1の各試料のジェネレーター加工面を電子顕微鏡で観察し、30μm以上のポアが見られないものを○、15μm以上のポアが見られないものを◎としたものである。また、表3には、表1の各試料をX線回折法により分析して、各試料の主結晶相を同定した結果を示す。
【0036】
【表1】
Figure 0004220013
【0037】
【表2】
Figure 0004220013
【0038】
【表3】
Figure 0004220013
【0039】
表2にみられるとおり、本発明の実施例の複合ガラスセラミックスは、いずれも、曲げ強度が15kgf/mm2以上で高強度であり、また、100〜300℃の温度範囲における熱膨張係数(α)が5〜110×10-7/℃、熱伝導率が1〜6W/mKの範囲であり、熱膨張係数(α)および熱伝導率を広い範囲で選択できることを示している。また、特に、実施例No.1〜No.4およびNo.7〜No.10の複合ガラスセラミックスは、熱膨張係数(α)が低く、ヒートショックに対して強く、一段と耐熱性が優れている。また、実施例の複合ガラスセラミックスは、焼結熱処理温度が1100〜1250℃の範囲であり、アルミナセラミックスの焼結温度1500〜1600℃と比べはるかに低い温度であるにもかかわらず、いずれも優れた緻密性を示している。
一方、ガラスセラミックス単体である比較例No.Aは、緻密であり、熱膨張係数(α)も低いが、曲げ強度が小さく強度が弱い。また、フィラーを過剰に混合した比較例No.Bの試料は、1250℃の焼結熱処理温度では焼結しないため緻密性の評価ができず、また、曲げ強度、熱膨張係数(α)および熱伝導率を測定することができなかった。
【0040】
【発明の効果】
以上述べたとおり、本発明の複合ガラスセラミックスは、TiO2およびZrO2を核形成剤とした限定された組成範囲のSiO2−P25−Al23−Li2O系の組成を有し、結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を含有するガラスセラミックス30〜95重量%と、フィラー5〜70重量%とを含有し、かつ、上記ガラスセラミックスがマトリックスを形成している複合ガラスセラミックスであることにより、高強度で耐熱性に優れ、かつ、用途に応じ熱膨張係数および熱伝導率を広い範囲で選択可能であって、例えば炉材やセッター等の各種高温構造材や、各種基板やパッケージ等の電子工業用材料として安定的に使用することができ、各種工業用材料として広範な用途に使用できる。
また、本発明の複合ガラスセラミックスの製造方法は、上記組成系のアモルファス状態の原ガラス粉末とフィラーとの混合物、または上記組成系のアモルファス状態の原ガラス粉末もしくは上記組成系のアモルファス状態の原ガラスを熱処理することにより得られるガラスセラミックス粉末とフィラーとの混合物を、1100〜1250℃で焼結熱処理する方法であるから、アルミナセラミックス等と比べてはるかに低い温度で焼結することができ、焼結のために特殊な焼成炉を必要としないので、製造コストおよび生産効率の点でも一段と有利である。

Claims (10)

  1. 重量%で、SiO2 50〜62%、P25 5〜10%、ただし、重量比でP25/SiO2 0.08〜0.20、Al23 22〜26%、Li2O 3〜5%、MgO 0.6〜2%、ZnO 0.5〜2%、CaO 0.3〜4%、BaO 0.5〜4%、TiO2 1〜4%、ZrO2 1〜4%、As23 0〜2%からなる組成を有し、熱処理することにより、結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を析出するアモルファス状態の原ガラス粉末30〜95重量%と、Al 2 3 、ZrO 2 およびMgOの中から選ばれた1種または2種以上のフィラー5〜70重量%とを混合し、得られた混合物を焼結熱処理温度まで200℃/hr以上の昇温速度で加熱、昇温した後、1120〜1250℃で焼結熱処理することにより得られ、ガラスセラミックスがマトリックスを形成していることを特徴とする複合ガラスセラミックス。
  2. 重量%で、SiO2 50〜62%、P25 5〜10%、ただし、重量比でP25/SiO2 0.08〜0.20、Al23 22〜26%、Li2O 3〜5%、MgO 0.6〜2%、ZnO 0.5〜2%、CaO 0.3〜4%、BaO 0.5〜4%、TiO2 1〜4%、ZrO2 1〜4%、As23 0〜2%からなる組成を有し、結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を含有するガラスセラミックス粉末30〜95重量%と、Al 2 3 、ZrO 2 およびMgOの中から選ばれた1種または2種以上のフィラー5〜70重量%とを混合し、得られた混合物を焼結熱処理温度まで200℃/hr以上の昇温速度で加熱、昇温した後、1120〜1250℃で焼結熱処理することにより得られ、ガラスセラミックスがマトリックスを形成していることを特徴とする複合ガラスセラミックス。
  3. ジェネレーター加工面に現われるポアが30μm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合ガラスセラミックス。
  4. 100〜300℃の温度範囲における熱膨張係数(α)が5〜110×10-7/℃であることを特徴とする請求項1〜に記載の複合ガラスセラミックス。
  5. 熱伝導率が1〜6W/mKであること特徴とする請求項1〜に記載の複合ガラスセラミックス。
  6. 曲げ強度が15kgf/mm2以上であることを特徴とする請求項1〜に記載の複合ガラスセラミックス。
  7. 重量%で、SiO2 50〜62%、P25 5〜10%、ただし、重量比でP25/SiO2 0.08〜0.20、Al23 22〜26%、Li2O 3〜5%、MgO 0.6〜2%、ZnO 0.5〜2%、CaO 0.3〜4%、BaO 0.5〜4%、TiO2 1〜4%、ZrO2 1〜4%、As23 0〜2%からなる組成を有し、熱処理することにより結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を析出するアモルファス状態の原ガラス粉末30〜95重量%と、Al 2 3 、ZrO 2 およびMgOの中から選ばれた1種または2種以上のフィラー5〜70重量%とを混合し、得られた混合物を焼結熱処理温度まで200℃/hr以上の昇温速度で加熱、昇温した後、1120〜1250℃で焼結熱処理することを特徴とする複合ガラスセラミックスの製造方法。
  8. 原ガラス粉末の平均粒径が50μm以下、最大粒径が200μm以下であり、かつ、フィラーの粒径が原ガラス粉末の平均粒径より小さいことを特徴とする請求項に記載の複合ガラスセラミックスの製造方法。
  9. 重量%で、SiO2 50〜62%、P25 5〜10%、ただし、重量比でP25/SiO2 0.08〜0.20、Al23 22〜26%、Li2O 3〜5%、MgO 0.6〜2%、ZnO 0.5〜2%、CaO 0.3〜4%、BaO 0.5〜4%、TiO2 1〜4%、ZrO2 1〜4%、As23 0〜2%からなる組成を有し、結晶相としてβ−スポジュメンおよび/またはβ−石英固溶体を含有するガラスセラミックス粉末30〜95重量%と、Al 2 3 、ZrO 2 およびMgOの中から選ばれた1種または2種以上のフィラー5〜70重量%とを混合し、得られた混合物を焼結熱処理温度まで200℃/hr以上の昇温速度で加熱、昇温した後、1120〜1250℃で焼結熱処理することを特徴とする複合ガラスセラミックスの製造方法。
  10. ガラスセラミックス粉末の平均粒径が50μm以下、最大粒径が200μm以下であり、かつ、フィラーの粒径がガラスセラミックス粉末の平均粒径より小さいことを特徴とする請求項に記載の複合ガラスセラミックスの製造方法。
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