JP4219204B2 - ガラス基板の加工方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス基板の加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、有機EL素子を使用した有機ELディスプレイの開発が盛んに行われている。有機ELディスプレイは、液晶表示装置と比較して視野角が広く、また、応答速度も速く、有機物が有する発光性の多様性から、次世代の表示装置として期待されている。有機ELディスプレイに用いられる有機EL素子は、基板上に陽極が形成され、陽極の上に薄膜状の有機化合物が積層され、その有機化合物の層の上に、基板上に形成された陽極と対向するように陰極が形成された構造である。有機EL素子は、陽極と陰極との間に配置された有機化合物の層に電流が供給されると自発光する電流駆動型の表示素子である。
【0003】
有機EL素子は、水分や酸素に非常に弱いという問題がある。例えば、水分による有機化合物の変質や電極の腐食等が発生し、その結果、非発光領域の発生および拡大、発光効率の低下等が生じて発光品位が著しく低下してしまうことがある。
【0004】
そのため、有機EL素子を封止する技術が種々提案されている(例えば、特許文献1,2)。特許文献1,2には、基板間(または基板とケースとの間)に配置した有機ELの構造体の周囲を封止剤やシールド層で覆う構成が記載されている。有機EL素子の構造体と対向する基板やケースには、凹状部を形成する凹面が設けられる。以下、有機EL素子の構造体と対向する基板やケースを対向基板と記す。対向基板は、例えばガラスによって形成される。
【0005】
対向基板に凹面を形成する方法としては、エッチング法やサンドブラスト法等が用いられている(例えば、特許文献3)。エッチング法は、化学的に基板を侵食することにより基板表面から不要部分を除去する方法である。また、化学的に基板を侵食する表面処理をエッチング処理という。サンドブラスト法は、砥粒材を吹き付けることにより基板表面から不要部分を除去する方法である。
【0006】
また、特許文献3には、一枚の基板において、複数の箇所に有機EL素子と対向する凹面を形成し、その基板を切断するいわゆるマルチ取りが記載されている。
【0007】
従来、凹面を形成する対向基板としては、例えば、板厚1.1mmの基板が用いられていた。また、凹面の深さは、例えば、0.5mmであった。また、凹面には、基板間に浸入した微量な水分を捕捉して除去する捕水材が配置される場合もあった。
【0008】
【特許文献1】
特開平7−169567号公報(段落0077、第7図)
【0009】
【特許文献2】
特開平5−89959号公報(段落0045−0050、第1図−第3図)
【0010】
【特許文献3】
特開2002−343557号公報(段落0022−0030、第4図)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
有機ELディスプレイの厚さを薄くすることが求められる場合もある。この場合、有機EL素子に対向する対向基板の板厚も薄くする必要がある。凹面を浅く形成することは可能であり(例えば、深さ70μmの凹面を形成可能)、また、凹面に配置される捕水材の層を薄くする技術も進んでいる。従って、比較的高い自由度で凹面の深さを定めることができる。しかし、サンドブラスト法によって凹面を形成する場合、板厚を薄くするのに限界があった。板厚の薄い基板は、もともと強度が弱く、また、サンドブラスト法では砥粒材を吹き付ける際に基板表面に微小なクラックが生じるので薄い基板の強度がさらに弱くなってしまい、凹面形成時に基板が破損してしまうからである。例えば、深さ0.3mmの凹面を形成する場合、対向基板の板厚が約0.7mm以上ないと、十分な強度が得られない。そのため、板厚0.7mmのガラス基板に対して深さ0.3mmの凹面を形成することはできるが、板厚0.5mmのガラス基板に対して深さ0.3mmの凹面を形成することは困難であった。このように、サンドブラスト法採用時には、凹面を有する薄い対向基板を製造することは困難であった。
【0012】
また、サンドブラスト法では、凹面を形成すべき領域に微細な砥粒材を吹き付けるため、形成された凹面全体に渡って微小なクラックが存在する。このような凹面全体に渡る微小なクラックが存在するため、サンドブラスト法で形成された対向基板は、凹面形成後も破損しやすい。例えば、機械的な衝撃が加えられたり、製造工程等で基板にストレスが加えられた場合に、亀裂が生じやすい。そのため、サンドブラスト法によって生じた微小なクラックは、歩留まり低下の一因になっていた。なお、砥粒材の種類によっては、Raの低い凹面を形成できるが、その場合でも凹面に微小なクラックが発生するので、基板が破損しやすいという問題が解決されるわけではない。
【0013】
また、一般に、ガラス基板の表面にはガラス基板の生産過程で生じた歪みが残留している。エッチング法やサンドブラスト法でガラス基板の片側に凹面を形成すると、凹面を形成した側の面とその反対側の面とで、歪みに差異が生じる。そして、基板の両面の歪みに差異が生じると、ガラス基板に反りが生じやすくなる。特に、大きなガラス基板では反りが生じやすく、搬送装置上にガラス基板を乗せて搬送する場合に支障が起きやすい。また、両面の歪みに差異がある対向基板を用いて有機ELディスプレイを作成し、その有機ELディスプレイに対しヒートサイクル試験を行うと、歪みの差異に起因する反り等が生じ、その結果、二枚の基板を接着するシール材が剥離するといった信頼性上の問題も生じやすい。
【0014】
そこで、本発明は、凹面を有する薄い対向基板を形成できるようにすることを目的とする。また、サンドブラスト法により凹面を形成した場合に、対向基板の破損を発生させにくくすることを目的とする。また、対向基板両面の歪みの差異を減少させることを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の態様1は、ガラス基板に凹面を形成し、凹面を形成した側の面とは反対側の面である背面の全体と、凹面とにエッチング処理を同時に施し、ガラス基板の端部の板厚を0.2mm以上の所望の板厚にすることを特徴とする有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法を提供する。
【0019】
本発明の態様2は、態様1において、ガラス基板に凹面を形成する際に、サンドブラスト法またはエッチング法によって凹面を形成する有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法を提供する。
【0021】
本発明の態様3は、一枚のガラス基板から凹面を有する有機ELディスプレイ用ガラス基板を複数枚切り出す有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法であって、一枚のガラス基板の一つの面に凹面を複数個形成し、一枚のガラス基板の凹面を形成した側の面とは反対側の面である背面と、凹面とにエッチング処理を同時に施し、切り出される有機ELディスプレイ用ガラス基板の端部の板厚を0.2mm以上の所望の板厚にし、その後、一枚のガラス基板を切断することにより、凹面を有する有機ELディスプレイ用ガラス基板を複数枚得ることを特徴とする有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法を提供する。
【0022】
本発明の態様4は、態様3において、凹面をサンドブラスト法またはエッチング法によって形成する有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法を提供する。
【0023】
本発明の態様5は、態様3または態様4において、背面と凹面とにエッチング処理を同時に施す際に、背面および凹面をそれぞれ50μm以上侵食する有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法を提供する。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明によるガラス基板の例を示す説明図である。図1(a)は、ガラス基板の断面図を示し、図1(b)は、ガラス基板を凹面側から観察した状態を示す。このガラス基板1は、例えば有機ELディスプレイ等の表示装置の対向基板として用いられる。
【0026】
ガラス基板1の一方の面の中央には、凹面2が形成される。凹面2は、例えば、エッチング法あるいはサンドブラスト法によって形成される。また、サンドブラスト法によって凹面2を形成する場合、凹面2を形成した後、その凹面2に対し、エッチング処理を施す。エッチング法によって凹面2を形成する場合、凹面形成後に、凹面2に対しエッチング処理を施しても、施さなくてもよい。従って、サンドブラスト法によって凹面2を形成した場合であっても、エッチング法によって凹面2を形成した場合であっても、凹面2にはエッチング処理が施される。エッチング処理後の凹面2の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、1.5μm(1500nm)以下であることが好ましい。また、砥粒材の種類によっては、サンドブラスト法でRaの低い凹面が得られる。このような凹面にエッチング処理を施すと、Raは更に低くなる。エッチング処理後の凹面2のRaとして、例えば10nmのRaを実現することもできる。
【0027】
また、凹面2は面の中央に形成される。以下、凹面2が形成された側の面において、凹面2の外側に位置する領域を外周領域と記す。外周領域3における板厚(すなわち、ガラス基板1の端部の板厚)は、凹面2における板厚よりも厚い。
【0028】
凹面2を形成した面とは反対側の面(背面)4は、エッチング処理を施した面である。ガラス基板1は、凹面2が形成された後に背面4全体にエッチング処理が施されることで、所望の厚さに加工される。凹面2や背面4に対するエッチング処理工程を含むガラス基板1の加工方法については後述する。
【0029】
また、ガラス基板の側面5にはエッチング処理を施さないことが好ましい。側面5にエッチング処理を施すと、ガラス基板1が側面から侵食されてしまい、ガラス基板1のサイズが小さくなってしまうからである。
【0030】
ガラス基板1の板厚、材料等の具体例について説明する。ガラス基板1は、例えば、図1(b)に示すように矩形に形成される。端部における板厚は、例えば、0.2〜1.5mmである。外周領域3の幅は、例えば0.5〜3.0mmである。外周領域3の幅とは、凹面2の外延から側面5までの距離である。ガラス基板1の材料としては、例えば、ホウケイ酸ガラス、アルカリガラス、あるいは無アルカリガラス等を用いればよい。なお、外周領域3の幅を示す数値や、材料は例示であり、ここに示す数値や材料に限定されるわけではない。また、端部の板厚も、1.5mmより大きな値であってもよい。
【0031】
次に、基板の表面にエッチング処理が施されたか否かの確認方法について説明する。一般に、ガラス基板の表面には、傷(例えば、ガラス基板の製造過程で生じた傷等)が存在する。この傷は、サンドブラスト法によって生じる微小なクラックよりも大きい。ただし、ガラス基板1の表面全体に渡って存在するわけではない。このような大きな傷がある面に対しエッチング処理を施すと、傷は独特の形状(クレータのような窪み)となって残る。従って、ガラス基板1の凹面2や背面4等を顕微鏡等で観察し、独特な形状の窪みが残っていれば、その面はエッチング処理が施された面であると判断できる。一方、独特な形状の窪みが残っていなければ、エッチング処理は施されていないと判断できる。
【0032】
また、サンドブラスト法によるクラック(砥粒材を吹き付けることによって生じるクラック)は、微小なクラックであるので、エッチング処理によって除去される。すなわち、サンドブラスト法で凹面2を形成すると凹面2全体に渡り微小なクラックが生じるが、その後のエッチング処理でこれらのクラックは除去される。
【0033】
次に、本発明によるガラス基板を用いた表示装置の構成について説明する。図2は、本発明によるガラス基板を用いた有機ELディスプレイの構成例を示す説明図である。有機ELディスプレイ10は、有機EL素子12が配置される表示基板11と、本発明によるガラス基板(対向基板)1とを備える。表示基板11は、ガラス等で形成された透明基板である。表示基板11および対向基板1は、表示基板11上の有機EL素子と対向基板1の凹面2とが対向するように配置される。そして、この二枚の基板は、シール材14によって接着される。シール材14は、対向基板1の端部(外周領域3)と表示基板11との間に配置される。また、対向基板1の凹面2には、捕水材13が配置されている。捕水材13は、シール材14と表示基板11(または対向基板1)との界面から浸入する微量な水分を捕捉し、除去する。なお、捕水材13は、表示基板1や有機EL素子12には接しない。また、有機EL素子12は、例えば、陽極、有機EL層(正孔注入層、正孔輸送層、発光層等を含む有機化合物層)、陰極を順に積層された構成である。
【0034】
有機ELディスプレイ10には、外枠(図示せず。)が取り付けられる。従って、外枠も含む表示パネル全体の大きさは、対向基板1よりも大きくなる。外枠があるため、表示パネル全体の大きさ(対角サイズ)は、1.27cm(0.5インチ)以上になる。なお、対向基板1自体の対角サイズは、表示パネル全体の対角サイズが1.27cmになるようなサイズより小さくすることができる。すなわち、対向基板1自体の対角サイズを小さくすることはできるが、外枠の存在により表示パネル全体の対角サイズは1.27cm以上になる。
【0035】
図2では、本発明によるガラス基板を有機ELディスプレイに適用した場合を示したが、有機ELディスプレイ以外の表示装置に適用してもよい。
【0036】
本発明のガラス基板によれば、凹面2と背面4の双方にエッチング処理が施されているので、従来の凹面を有するガラス基板に比べ、ガラス基板の両面における歪みの差異が減少している。よって、ガラス基板が反ってしまうことも少なくなる。その結果、ガラス基板搬送時の支障や、有機ELディスプレイにヒートサイクル試験を行う場合におけるシール材の剥離等も減少する。
【0037】
また、サンドブラスト法により凹面2を形成した場合であっても、凹面2にはエッチング処理が施される。従って、砥粒材の吹き付けで生じる微小なクラックは凹面2から除去され、この微小なクラックに起因するガラス基板1の破損は防止される。なお、エッチング処理で除去されない傷(独特の形状となって残る傷)も存在するが、このような傷は表面全体に渡って存在するわけではないので、ガラス基板の強度に影響を及ぼさない。
【0038】
次に、本発明によるガラス基板の加工方法について説明する。
本発明によるガラス基板の加工方法の第一の実施の形態について、図1および図3を用いて説明する。第一の実施の形態では、基板の凹面形成方法としてサンドブラスト法を採用する。図3は、サンドブラスト法を採用した場合における処理経過の一例を示す流れ図である。
【0039】
加工されるガラス基板において外周領域3となる面をレジストで被覆する(ステップS101)。加工されるガラス基板は、例えば、ホウケイ酸ガラス、アルカリガラス、あるいは無アルカリガラス等で形成された矩形のガラス基板である。ここでは、ガラス基板は、予め所望の大きさ(対角サイズ、縦、横の長さ)に形成されているものとする。ステップS101では、このようなガラス基板の側面から、例えば0.5〜3.0mmの幅の領域をレジストで被覆する。ガラス基板に凹面2が形成されると、レジストで被覆した領域は外周領域3として残る。なお、背面4側は、レジストで被覆しなくてもよい。
【0040】
続いて、サンドブラスト法により、凹面2を形成する(ステップS102)。すなわち、凹面2を形成すべき領域に砥粒材を吹き付け、ガラス基板の表面を除去することで凹面2を形成する。ステップS102の処理によって得られる凹面2は、後述のステップS103でエッチング処理される。従って、ステップS102では、サンドブラスト法によって侵食する深さとエッチング処理によって侵食する深さとの和が、所望の深さになるように凹面2を形成する。例えば、所望の凹面2の深さがXμmであり、後のエッチング処理で10μmだけガラス基板を侵食するとする。この場合、ステップS102では、深さが(X−10)μmになるように、凹面2を形成する。
【0041】
なお、レジストで被覆された領域に砥粒材が衝突しても、その領域のガラス基板は侵食されない。この結果、外周領域3は、凹面2よりも高い面として残る。また、ステップS102では、凹面2側の歪みは減少するが、背面4側の歪みは減少しない。そのため、ガラス基板の両側の歪みに差異が生じる。
【0042】
続いて、凹面2および背面4に対してエッチング処理を施す(ステップS103)。ここでは、湿式エッチング法を例に説明する。エッチング処理では、ガラスを侵食する液体(以下、エッチング液と記す。)中にガラス基板を配置する。エッチング液として、例えば、フッ化水素酸に数パーセントの比率で硝酸、塩酸等を添加した液体を用いればよい。このエッチング液を用い、エッチング液の温度が25〜35℃の場合、30〜40分程度のエッチング処理により約0.2mmガラス基板を侵食する。ただし、エッチング処理時間と侵食量は、エッチング液の種類等によって変化する。エッチング処理時間は、エッチング液の種類や所望の侵食量に応じて決定すればよい。エッチング液として、HF・NH4F・H2Oの三成分系のバッファードフッ酸を用いてもよい。
【0043】
ステップS103では、凹面2および背面4に対してエッチング処理を施すことにより、ガラス基板を所望の板厚に加工する。このとき、砥粒材の吹き付けより生じた微小なクラックを除去するため、凹面2を少なくとも10μm以上侵食させる。また、背面4に対するエッチング処理では、背面4側の歪みを除去してガラス基板両側の歪みの差を減少させるため、背面4を少なくとも50〜100μm以上侵食させる。背面側4における最低限必要な侵食量は、ガラス基板の種類によって異なる。背面4を100μm以上侵食させれば、ガラス基板の種類によらず、背面4側の歪みを除去することができる。
【0044】
ステップS103では、凹面2および背面4に対して同時にエッチング処理を施してもよい。この場合、凹面2と背面4とがそれぞれ同じ深さだけ侵食される。また、片側ずつエッチング処理を施してもよい。すなわち、凹面2と背面4のいずれか一方に対し先にエッチング処理を施し、続いてもう一方に対しエッチング処理を行ってもよい。このように片側ずつエッチング処理を行う場合、エッチング処理を行わない方の面をレジストで被覆しておけばよい。
【0045】
なお、ステップS103において、側面5をレジストで被覆し、側面5に対してエッチング処理を施さないことが好ましい。側面5にエッチング処理を施すと、ガラス基板の大きさ(対角サイズ等)が変化してしまうからである。
【0046】
背面4にエッチング処理が行われることにより、ガラス基板の板厚は薄くなる。ステップS103では、所望の板厚になるように、エッチング処理時間を調整すればよい。ステップS102で凹面2を形成した後、背面4全体にエッチング処理を行う場合、端部の板厚(外周領域3における板厚)を0.2mmまで薄くすることができる。また、端部の板厚が1.5mm以下になるようにエッチング処理を行うことが好ましい。端部の板厚が1.5mmより厚くなると、ガラス基板を使用する有機ELディスプレイが厚くなってしまうからである。
【0047】
また、凹面2に対するエッチング処理では、外周領域3はレジストによって被覆されているので外周領域3が侵食されることはない。従って、凹面2は、ステップS102で侵食された後、ステップS103でさらにエッチング処理されることにより、所望の深さの凹面として仕上げられる。例えば、ステップS102では、深さが(X−10)μmになるように凹面2を形成し、ステップS103のエッチング処理で10μm侵食することで、所望の深さXμmの凹面2を形成することができる。
【0048】
また、ステップS102において砥粒材を吹き付けるため、凹面2全体には微小なクラックが生じる。しかし、ステップS103におけるエッチング処理で凹面2の表面を侵食することにより、凹面2全体に渡って生じていた微小なクラックが除去される。また、エッチング処理によって、凹面2の表面粗さRaを1/2以下にすることができる。例えば、サンドブラスト法によって形成された凹面2(ステップS102後の凹面2)の表面粗さRaが5μmである場合、エッチング処理によって凹面2のRaを1.5μmにすることができる。また、砥粒材の種類によっては、ステップS102後の凹面2の表面粗さRaが低い場合もある。ステップS102後の凹面2の表面粗さRaが低ければ、エッチング処理によって、凹面2のRaに10nmにすることができる。エッチング処理された凹面2のRaは、1.5μm以下であることが好ましい。
【0049】
従来、凹面形成にサンドブラスト法を採用した場合、凹面を有する薄い対向基板を製造することは困難であった。これは、既に説明したように、薄いガラス基板はもともと強度が弱い上に、砥粒材の吹き付けによる微小なクラックで基板の強度がさらに弱くなってしまい、基板が破損してしまうためである。しかし、本発明によるガラス基板の加工方法では、ステップS102で先に凹面2を形成し、その後、ガラス基板を薄くする。そのため、凹面形成時(ステップS102)ではガラス基板を厚い状態(十分な強度を有する状態)にしておくことができる。よって、サンドブラスト法で凹面を形成する際に、基板の強度を確保でき、基板の破損を防ぐことができる。また、凹面形成後に、エッチング処理を行って、所望の板厚になるようにガラス基板を薄く加工する。従って、本発明によれば、凹面を有する薄いガラス基板を得ることができる。
【0050】
また、サンドブラスト法によって凹面を形成した従来の対向基板は、凹面全体に渡って微小なクラックが生じているために破損しやすかった。それに対し本発明では、砥粒材の吹きつけによって凹面2に生じる微小なクラックは、ステップS103のエッチング処理で除去される。従って、サンドブラスト法によって生じた微小なクラックに起因するガラス基板の破損を防止することができる。
【0051】
また、本加工方法によれば、背面4もエッチング処理によって侵食される。従って、ガラス基板の両側の面を除去することになるので、凹面を形成する側の面と背面4との歪みの差が減少する。この結果、ガラス基板の反りが生じにくくなり、ガラス基板搬送時の支障や、ヒートサイクル試験時におけるシール材の剥離等も減少する。
【0052】
なお、所望の位置に正確に砥粒材を吹き付けることができる装置もある。このような装置を用いて凹面2を形成する場合には、ステップS102において、外周領域3がレジストで被覆されていなくてもよい。この場合、ステップS102の後、外周領域3をレジストで被覆すればよい。
【0053】
また、図3に例示した加工方法では、外周領域3にエッチング処理を行わない場合を示したが、ステップS103において外周領域3に対しエッチング処理を施してもよい。この場合、外周領域3のレジストを除去すればよい。ステップS103の前にレジストを除去すると、凹面2と外周領域3は同じ深さだけ侵食されるので、凹面2の深さはステップS103で変化しない。従って、この場合、ステップS102で凹面2を形成するときに、所望の深さの凹面を形成すればよい。
【0054】
次に、本発明によるガラス基板の加工方法の第二の実施の形態について、図1および図4を用いて説明する。第二の実施の形態では、基板の凹面形成方法としてエッチング法を採用する。ここでは、湿式エッチング法を例に説明する。図4は、エッチング法を採用した場合における処理経過の一例を示す流れ図である。
【0055】
加工されるガラス基板において外周領域3となる面をレジストで被覆する(ステップS111)。ガラス基板の材料は、第一の実施の形態と同様、例えば、ホウケイ酸ガラス、アルカリガラス、あるいは無アルカリガラス等を用いればよい。また、ここでは、ガラス基板は、予め所望の大きさ(対角サイズ、縦、横の長さ)に形成されているものとする。ステップS111では、このようなガラス基板の側面から、例えば0.5〜3.0mmの幅の領域をレジストで被覆する。また、ステップS111では、背面4もレジストで被覆する。側面5もレジストで被覆しておくことが好ましい。
【0056】
続いて、エッチング法により、凹面2を形成する(ステップS112)。すなわち、レジストで被覆したガラス基板をエッチング液中に配置する。エッチング液によって、レジストで被覆されていない部分(凹面2となる部分)が侵食される。この結果、凹面2が形成される。エッチング処理時間は、エッチング液の温度および種類や形成すべき凹面2の深さに応じて変化させればよい。ここでは、ステップS112の後、凹面2に再度エッチング処理を行わない場合を例に説明する。この場合、ステップS112では、所望の深さになるように凹面2を形成すればよい。
【0057】
なお、レジストで被覆された領域は、エッチング液によって侵食されない。この結果、外周領域3は、凹面2よりも高い面として残る。なお、エッチング処理によって凹面2を形成した場合、その凹面2の表面粗さRaは、1.5μmよりも低くなる。
【0058】
続いて、背面4に対してエッチング処理を施す(ステップS113)。ステップS113では、背面4のレジストを除去し、凹面2をレジストで被覆する。そして、そのガラス基板をエッチング液中に配置し、背面4を侵食させる。背面4にエッチング処理が行われることにより、ガラス基板の板厚は薄くなる。ステップS113では、所望の板厚になるように、エッチング処理時間を調整すればよい。ステップS112で凹面2を形成した後、背面4全体にエッチング処理を行う場合、端部の板厚(外周領域3における板厚)を0.2mmまで薄くすることができる。また、第一の実施の形態の場合と同様に、端部の板厚が1.5mm以下になるようにエッチング処理を行うことが好ましい。また、背面側の歪みを除去して基板両側の歪みの差を減少させるために、ステップS113では、背面4を少なくとも50〜100μm以上侵食させる。背面側の歪みを除去するために最低限必要な侵食量は、ガラス基板の種類によって異なる。背面4を100μm以上侵食させれば、ガラス基板の種類によらず、背面4側の歪みを除去することができる。
【0059】
ステップS113においても側面5をレジストで被覆し、側面5に対してエッチング処理を施さないことが好ましい。
【0060】
第二の実施の形態では、侵食によって凹面2を形成するだけでなく、背面4も侵食する。従って、ガラス基板の両側の面を除去することになるので、凹面を形成する側の面と背面4との歪みの差が減少する。この結果、ガラス基板の反りが生じにくくなり、ガラス基板搬送時の支障や、ヒートサイクル試験時におけるシール材の剥離等も減少する。また、砥粒材を吹き付けないので、ガラス基板に微小なクラックが発生せず、砥粒材の吹き付けによって生じる微小なクラックに起因するガラス基板の破損を防止することができる。
【0061】
また、ステップS113では、第一の実施の形態におけるステップS103と同様に、凹面2と背面4の双方にエッチング処理を施してもよい。この場合、ステップS112において凹面2を侵食する深さと、ステップS113において凹面2を侵食する深さとの和が所望の凹面2の深さになるように、ステップS112,S113での侵食量をそれぞれ定めればよい。
【0062】
ステップS113において凹面2と背面4の双方にエッチング処理を施す場合、同時に凹面2および背面4に対してエッチング処理を施してもよい。この場合、この場合、凹面2と背面4とがそれぞれ同じ深さだけ侵食される。また、片側ずつエッチング処理を施すようにしてもよい。すなわち、凹面2と背面4のいずれか一方に対し先にエッチング処理を施し、続いてもう一方に対しエッチング処理を行ってもよい。このように片側ずつエッチング処理を行う場合、エッチング処理を行わない方の面をレジストで被覆しておけばよい。
【0063】
ステップS113において凹面2と背面4の双方にエッチング処理を施す場合、凹面2と同時に外周領域3にエッチング処理を施してもよい。外周領域3に対してエッチング処理をするためには、外周領域3のレジストを除去すればよい。ステップS113の前にレジストを除去すると、凹面2と外周領域3は同じ深さだけ侵食されるので、凹面2の深さはステップS113で変化しない。従って、この場合、ステップS112で凹面2を形成するときに、所望の深さの凹面を形成すればよい。
【0064】
第一の実施の形態および第二の実施の形態では、予め対角サイズ等を定めたガラス基板に凹面2を形成する場合を示したが、マルチ取りによって凹面2を有するガラス基板を加工してもよい。図5は、マルチ取りによってガラス基板を加工する状況を示す説明図である。
【0065】
マルチ取りを行う場合、大型ガラス基板(対向基板となるガラス基板を複数枚切り出せる大きさの基板)に対し、複数の凹面2を形成し、所望の板厚にする。この加工は、上述の第一の実施の形態または第二の実施の形態で示した方法と同様の加工方法によって行えばよい。ただし、レジストを被覆する位置は、大型ガラス基板の外周部ではなく、凹面2となる位置の外周領域3である。すなわち、切り出されるガラス基板の端部となる位置をレジストで被覆する。そして、第一の実施の形態または第二の実施の形態で示した方法と同様の加工方法により凹面を形成し、切り出されるガラス基板の端部の板厚を所望の板厚にする。
【0066】
図5(a)は、大型ガラス基板に複数の凹面2を形成した状態を示している。図5(a)に示すように、個々のガラス基板となる領域の間には間隔を設けておく。個々のガラス基板となる領域の間の部分は、大型ガラス基板を切断するために用いられる。以下、この部分を切断部と記す。
【0067】
大型ガラス基板に複数の凹面2を形成し、所望の板厚にした後、切断部20に沿って大型ガラス基板を切断する。この結果、図5(b)に示すように、対向基板として用いられる個々のガラス基板に分割される。分割されたガラス基板には、切断部20の残余部分が存在する。この残余部分を除去することにより、図5(c)に示すように複数のガラス基板を切り出すことができる。このガラス基板を対向基板として有機ELディスプレイを製造することができる。
【0068】
また、図5(a)に例示する凹面を形成した大型ガラス基板と、複数の有機EL素子を配置した大型ガラス基板(図示せず。)とを対向させ、シール材によって接着してから、個々の有機ELディスプレイを切り出してもよい。この場合、有機EL素子は、各凹面2と対向する位置に配置される。また、シール材は、切り出されるガラス基板の端部となる位置(各凹面の外周領域3)に塗布される。
【0069】
【実施例】
[参考例]凹面を有するガラス基板を以下のように形成した。まず、板厚が1.1mmであり、大きさが350×480mmのガラス基板を用意した。このガラス基板に、サンドブラスト法で凹面を形成した。凹面形成時に使用した砥粒材は、JIS(日本工業規格)のR6001による「砥粒230番」である。この砥粒材を40分吹き付けることで、深さ0.55mmの凹面を形成した。
【0070】
続いて、このガラス基板の背面および凹面にエッチング処理を施した。エッチング処理では、温度23℃の40%フッ酸水溶液をエッチング液として用いた。背面をエッチング液に30分浸すことによって、背面を100μm侵食した。また、凹面をエッチング液に15分浸すことによって、凹面を50μm侵食した。エッチング処理後の凹面の表面粗さRaは、1.5μmであった。凹面および背面にエッチング処理を施したガラス基板を、搬送装置によって搬送したところ、破損は生じなかった。
【0071】
[比較例1]参考例と同様に、板厚が1.1mmであり、大きさが350×480mmのガラス基板にサンドブラスト法で凹面を形成した。参考例と同一条件で砥粒材を吹き付け、深さ0.55mmの凹面を形成した。
【0072】
続いて、このガラス基板の背面を参考例と同一のエッチング液に30分浸すことによって、背面を100μm侵食した。また、砥粒材が吹き付けられた凹面には、エッチング処理を施さなかった。このガラス基板の凹面の表面粗さRaは5μmであった。背面のみにエッチング処理を施したこのガラス基板を、搬送装置によって搬送したところ、ガラス基板は破損してしまった。
【0073】
参考例と比較例1との比較により、サンドブラスト法で形成した凹面にエッチング処理を施すことでガラス基板の破損を防止できることを確認できる。
【0074】
[例1]参考例と同様に、板厚が1.1mmであり、大きさが350×480mmのガラス基板にサンドブラスト法で凹面を形成した。参考例と同一条件で砥粒材を吹き付け、深さ0.55mmの凹面を形成した。
【0075】
続いて、このガラス基板の背面および凹面にエッチング処理を施した。参考例と同一のエッチング液に背面および凹面を15分浸すことによって、背面および凹面をそれぞれ50μm侵食した。エッチング処理後の凹面の表面粗さRaは、1.5μmであった。
【0076】
このガラス基板の反りを評価した。図6は、本実施例におけるガラス基板の反りの評価方法を示す説明図である。図6(a)に示すように、二本の平行な支持部材31,32を用意した。支持部材31,32は、棒部材である。支持部材31,32の間隔を340mmとして、同じ高さに水平に配置した。そして、ガラス基板33の長辺(480mmの辺)が支持部材31,32と平行になるように、支持部材31,32上にガラス基板33を配置した。なお、図6では、ガラス基板33の凹面の図示を省略して示している。
【0077】
このとき、ガラス基板33の中央部は、重力によって下方にたわむ。また、凹面を上向きにして配置した場合と、背面を上向きに配置した場合とでは、図6(b)に示すように、たわみ量は異なる。凹面を上向きにして配置した場合と、背面を上向きに配置した場合とのたわみ量の差を反りの量として評価した。本例における反りは、1.2mmであった。
【0078】
[比較例2]例1と同様に、板厚が1.1mmであり、大きさが350×480mmのガラス基板にサンドブラスト法で凹面を形成した。例1と同一条件で砥粒材を吹き付け、深さ0.55mmの凹面を形成した。
【0079】
続いて、このガラス基板の凹面を例1と同一のエッチング液に15分浸すことによって、凹面を50μm侵食した。この凹面の表面粗さRaは1.5μmであった。また、このガラス基板の背面にはエッチング処理を施さなかった。このガラス基板の反りは、5mmであった。
【0080】
例1における反りは比較例2における反りよりも減少している。従って、背面へのエッチング処理により反りを抑えることができることを確認できる。
【0081】
【発明の効果】
本発明によるガラス基板の加工方法によれば、凹面を有する薄いガラス基板を形成することができる。ガラス基板の両面における歪みの差異を少なくし、ガラス基板の反りを防止することができる。その結果、ガラス基板搬送時やヒートサイクル試験時等においてガラスの反りによる支障も発生しにくくなる。また、サンドブラスト法により凹面全体に渡る微小なクラックが発生したとしても、そのクラックを除去できるので、微小なクラックに起因するガラス基板の破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明によるガラス基板の例を示す説明図
【図2】 本発明による有機ELディスプレイの構成例を示す説明図。
【図3】 サンドブラスト法を採用した場合における処理経過の一例を示す流れ図。
【図4】 エッチング法を採用した場合における処理経過の一例を示す流れ図。
【図5】 大型ガラス基板から個々のガラス基板を切り出す処理の例を示す流れ図。
【図6】 ガラス基板の反りの評価方法を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 凹面
3 端部
4 背面
5 側面
10 有機ELディスプレイ
11 表示基板
12 有機EL素子
13 捕水材
14 シール材
Claims (5)
- ガラス基板に凹面を形成し、
前記凹面を形成した側の面とは反対側の面である背面の全体と、前記凹面とにエッチング処理を同時に施し、前記ガラス基板の端部の板厚を0.2mm以上の所望の板厚にする
ことを特徴とする有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法。 - ガラス基板に凹面を形成する際に、サンドブラスト法またはエッチング法によって凹面を形成する請求項1に記載の有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法。
- 一枚のガラス基板から凹面を有する有機ELディスプレイ用ガラス基板を複数枚切り出す有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法であって、
一枚のガラス基板の一つの面に凹面を複数個形成し、
一枚のガラス基板の前記凹面を形成した側の面とは反対側の面である背面と、前記凹面とにエッチング処理を同時に施し、切り出される有機ELディスプレイ用ガラス基板の端部の板厚を0.2mm以上の所望の板厚にし、
その後、前記一枚のガラス基板を切断することにより、凹面を有する有機ELディスプレイ用ガラス基板を複数枚得る
ことを特徴とする有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法。 - 前記凹面をサンドブラスト法またはエッチング法によって形成する請求項3に記載の有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法。
- 背面と凹面とにエッチング処理を同時に施す際に、背面および凹面をそれぞれ50μm以上侵食する請求項3または請求項4に記載の有機ELディスプレイ用ガラス基板の加工方法。
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