JP4217716B2 - 血清由来ヒアルロナン結合性タンパク質−ヒアルロン酸結合体の測定法および測定キット - Google Patents

血清由来ヒアルロナン結合性タンパク質−ヒアルロン酸結合体の測定法および測定キット Download PDF

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Description

本発明は、検体中の血清由来ヒアルロナン結合性タンパク質−ヒアルロン酸結合体を、抗インター−α−トリプシンインヒビター抗体(抗ITI抗体)を用いて測定する方法、この方法を行うための測定キット、この方法を用いて関節炎または肝疾患を診断する方法およびこの診断に使用するための診断用キットに関する。
ヒアルロン酸(HA;hyaluronic acid)は軟骨、関節腔の滑液、臍帯、血清、尿、眼の硝子体等の全身組織に広く分布し、組織構築の安定化や関節の円滑な運動性の維持に寄与している。健常人の関節液中のヒアルロン酸はほぼ単独で存在しているが、変形性関節炎やリウマチ性関節炎などの炎症性疾患患部の関節液中にはある種のタンパク質と結合した形態で存在している。また、ウシ血清から従来知られているものとは異なる性質を示すヒアルロン酸結合性タンパク質が単離され、このタンパク質は血清由来ヒアルロナン結合性タンパク質(SHAP; Serum-derived hyaluronan associated protein)と命名された(非特許文献1) 。また、ヒト血清由来ヒアルロナン結合性タンパク質−ヒアルロン酸(SHAP−HA; Serum-derived hyaluronan associated protein−hyaluronic acid)結合体は関節炎患者の関節液より分離精製され、非還元条件下のドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分子量約 85kDaと約 83kDaの2本の主バンドを示し、各バンドのプロテアーゼV8処理によって得られるペプチドフラグメントの一次構造が明らかにされた(特許文献1)。
その後、アミノ酸配列の分析結果からヒトSHAPがヒトインター−α−トリプシンインヒビター(ITI:Inter-α-Trypsin Inhibitor)の長鎖 HC1と HC2に相当することが明らかとなった(非特許文献2)。さらに、SHAP−HA結合体をプロテアーゼとコンドロイチナーゼACIIで分解して得られた結合部分のマススペクトリー解析により、C末端アスパラギン酸残基のαカルボキシル基にヒアルロン酸のN−アセチルグルコサミン残基の6位水酸基がエステル結合していることが明らかにされた(非特許文献3)。
また、ヒト関節液由来のSHAPに対する抗体を作成し、この抗SHAP抗体とプロテオグリカン由来のヒアルロン酸結合性タンパク質とを用いたELISA系による測定法で関節液中のSHAP−HA結合体を定量することにより関節炎の診断ができることが報告されている(特許文献1) 。
しかし、従来の測定法では抗SHAP抗体の作成のために抗原であるSHAPのヒト関節液からの分離精製が必要であり、原料としてヒト関節液の確保が容易でない点、また、SHAP−HA結合体測定の対象が関節液であり、関節液の採取の際に患者に苦痛を与えること等多くの欠点があった。
さらにまた、肝疾患の患者の血液中においてヒアルロン酸量が増加することが知られており(非特許文献4)、血中ヒアルロン酸量を固相に結合させたヒアルロン酸結合タンパク質(HABP)に結合させた後、更に標識したHABPを加えてヒアルロン酸に結合した標識HABP量からヒアルロン酸量を測定することにより肝疾患を診断する方法が知られているが、ヒアルロン酸が低分子化され、HABPとの結合部位を複数カ所有さない場合には、検体中のヒアルロン酸量を検出することができず、正確な診断は不可能であった。
特開平7-157500号公報 J.Biol.Chem., 265, 5247-5257 (1990) J.Biol.Chem., 268, 26725-26730 (1993) J.Biol.Chem., 270, 26657-26663 (1995) Laurent AE, Loof L, Nyberg A, et al,Hepatology, 5, 638-642,1985
本発明は、血中にITIが豊富に存在する(健常人で約0.4mg/ml) ことから抗原確保が容易であること、およびITIとSHAPとに共通構造が存在することから抗ITI抗体がSHAPと反応することに着目してなされたものである。
すなわち、本発明の目的は、患者からの試料採取が容易な血液を測定対象として、この試料中のSHAP−HA結合体を、抗ITI抗体を用いてより正確に測定する方法を提供するものである。
また、本発明の他の目的は、この測定系を利用して関節炎または肝疾患を診断する方法および診断用キットを提供することである。
本発明者らは、HAとの結合体として存在するSHAPが抗ITI抗体と反応すること、および上記結合体中のHAがヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質、特にCD44等のヒアルロン酸受容体あるいはヒアルロン酸結合性タンパク質と反応することを利用して、SHAP−HA結合体を測定することができること、および血液中にSHAPとHAとの結合体が存在することを見出した。また、変形性膝関節炎とリウマチ性膝関節炎とを鑑別する方法として関節液中のSHAP−HA結合体を測定する方法が報告(特開平7-157500号公報)されているが、本発明者らは血液中の該結合体を測定することにより簡便にこれら関節炎を識別できることを明らかにした。また、肝疾患患者においても血液中のSHAP−HA複合体量が大きく増加することを見出し、上記リウマチ性膝関節症の他に肝疾患の診断を行うことが可能であることを明らかにした。
すなわち、本発明は、検体中のSHAP−HA結合体を、抗ITI抗体と反応させて抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)の複合体を形成させることによって検体中のSHAP−HA結合体を測定する方法、この測定方法を用いて関節炎または肝疾患を診断する方法およびこれらの診断に使用する診断用キットに関する。
本発明の測定方法は、好ましくは、SHAP−HA結合体を含む検体を、固相体に固着されたヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質、好ましくはCD44あるいはヒアルロン酸結合性タンパク質と接触させ、ついで標識物質で標識されたまたは標識され得る抗ITI抗体とを接触させることにより、標識された抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−(ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質)−固相体からなる複合体を形成させ、該複合体を複合体を形成しなかった未反応の抗ITI抗体から分離し、該複合体中の標識物質または未反応の標識物質を検出することにより検体中のSHAP−HA結合体を測定することを特徴とする。
また、本発明は、抗ITI抗体とSHAP−HA結合体との複合体を形成させることによりSHAP−HA結合体を測定する方法に使用するキットであって、構成成分として抗ITI抗体を含むことを特徴とするSHAP−HA結合体測定用キットに関する。好ましくは、本発明のSHAP−HA結合体測定用キットは、抗ITI抗体とヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質、好ましくはCD44あるいはヒアルロン酸結合性タンパク質とから構成され、かつ抗ITI抗体、ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質のいずれかが、標識物質で標識されたもしくは標識され得るものであり、さらに好ましくは、主としてヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質が固着された固相体と抗ITI抗体と標識物質で標識された抗イムノグロブリン抗体から構成されるものである。
さらに本発明は、前記測定方法を用いて、関節炎、肝疾患等を診断する方法に関する。
本発明でいう抗ITI抗体はITIの長鎖 HC1およびHC2 の一方もしくは両方と反応するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体等である。
また、本発明でいうヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質とはヒアルロン酸結合性タンパク質およびヒアルロン酸受容体から選択される少なくとも1種のタンパク質である。ヒアルロン酸結合タンパク質とは、後述するように、ヒアルロン酸結合性プロテオグリカン、ヒアルロン酸結合性プロテオグリカンのコアタンパク質、リンクプロテイン、ヒアルロネクチン、それらのヒアルロン酸結合領域を含む部分タンパク質等である。一方、ヒアルロン酸受容体とは、CD44、CD44のヒアルロン酸結合領域を含む部分タンパク質またはそれらの融合タンパク質も含まれる。また、Turleyらが報告しているRHAMM(Receptor for hyaluronan-mediated motility)、RHAMMのヒアルロン酸結合領域を含む部分タンパク質またはそれらの融合タンパク質もヒアルロン酸受容体に含まれる。
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)SHAP−HA結合体の測定方法
本発明の測定方法は、少なくとも抗ITI抗体と検体中のSHAP−HA結合体との複合体を形成させる工程を含むことを特徴とする。
ITIは寒天ゲル電気泳動において、α1とα2グロブリン領域の中間に泳動され、トリプシン阻害活性を有することで定義されている。ヒトITIは正常血清中に約0.4mg/mlの濃度で存在し、分子量23万の複合体で、3種類の異なるペプチド鎖、 HC1、 HC2およびHI−30からなる。HC1 とHC2 とはそれぞれ80kDa と85kDa の分子量を持ち、分子量の大きさから長鎖と呼ばれる。一方、45〜55kDaの分子量を示すHI−30は短鎖と呼ばれ、2個の Kunitz 型トリプシンインヒビタードメインからなり、プロテアーゼ阻害活性能はこれに起因する。この2個のKunitz型ドメインよりHI−30をビクニン(bikunin)とも呼ぶ。ビクニンのN末端から10番目のセリン残基にはコンドロイチン−4−硫酸が結合し、このペプチド鎖はプロテオグリカンでもある。また、米田らはウシ胎児血清中にヒアルロン酸と強く結合する 85kDaおよび83kDa のペプチド鎖から成るタンパク質を発見し、これをSHAP(Serum Derived Hyaluronan Associated Protein) と命名した(J.Biol.Chem., 265, 5247-5257 (1990))。その後の研究によりSHAPのペプチド鎖はITIの長鎖と同一で(J.Biol.Chem., 268, 26725-26730 (1993))、ヒアルロン酸と共有結合していることが明らかにされた(J.Biol.Chem., 270, 26657-26663 (1995))。
本発明で使用される抗ITI抗体は、測定すべきSHAP−HA結合体がヒト由来のものであるときは、ヒトSHAP−HA結合体を構成するSHAP、すなわちヒトITIの長鎖であるHC1 およびHC2 の一方または両方と反応するものであればよく、市販の抗ヒトITI抗体(バイオピュア社、ダコ社、バインディングサイト社等)、市販のヒトITI(バイオピュア社)をウサギ等に免疫して得られるポリクローナル抗体あるいはマウス、ラット、ハムスター等に免役して得られるモノクローナル抗体でもよい。また、HAとの結合体として得られたSHAPを免疫して得られるポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体でもよい。また、ヒト以外の動物由来ITIあるいはSHAPを抗原としても、得られた抗体がヒトITIの長鎖を認識する抗体であれば本発明の抗ITI抗体として使用できる。前述の市販の抗ヒトITI抗体は入手が容易であるので好ましい。
本発明で使用されるヒアルロン酸受容体としては、CD44、CD44のヒアルロン酸結合領域を含む部分タンパク質あるいはそれらの融合タンパク質が挙げられる。また、RHAMM(Receptor for hyaluronan-mediated motility)と呼ばれる膜タンパク質(Biochem. Biophys. Res. Commun. 108, 1016-1024 (1982))およびRHAMMのヒアルロン酸結合領域を含む部分タンパク質あるいはそれらの融合タンパク質もヒアルロン酸受容体として例示できる。
CD44は白血球抗原の1種であり、ヒアルロン酸をリガンドとする接着分子であること、抗CD44抗体との反応性等により定義されている。CD44は細胞膜貫通型のタンパク質であり、多数の異性体(アイソフォーム)が存在することが知られている。例えば、ヒトの標準型のCD44(CD44H)は、248 アミノ酸残基からなる細胞外領域、21アミノ酸残基からなる膜貫通領域および72アミノ酸残基からなる細胞質内領域からなり、分子量は85〜90kDa であることが知られている。CD44の細胞外領域は、アミノ末端側に軟骨プロテオグリカンコアタンパク質とリンクプロテインに相同性(例えば、CD44Hの場合、約30%の相同性)のあるヒアルロン酸結合領域(例えばCD44Hの場合、アミノ末端から12〜101 番目のアミノ酸残基からなる領域等)(以下、「CD44のヒアルロン酸結合領域」という。)が存在し、さらにカルボキシル末端側の膜近位領域にコンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸等のグリコサミノグリカンあるいはそのオリゴ糖が結合したものも知られている。CD44は、細胞と細胞、細胞と細胞間基質(ヒアルロン酸、コラーゲンI型、コラーゲンIV型、フィブロネクチン)等の接着を司る分子であり、白血球全般、繊維芽細胞、上皮細胞等の細胞膜上に発現していることが知られている。CD44は、フィブロネクチン、コラーゲンI型およびコラーゲンIV型のレセプター機能、癌転移への関与等多様の機能を有し、その一つとしてヒアルロン酸のレセプターとしての機能を有する。
なお、CD44は、Pgp-1 、ECMRIII 、Hermes抗原、gp90HERMES、H−CAM、ln(Lu)-related antigen、 Hutch-1、ln(Lu)-related p80、p80A3D8 およびp85等とも呼ばれている(Cell,61,1303-1313 (1990)、J. Exp. Med., 172, 69-75(1990)、細胞工学別冊・ハンドブックシリーズ「接着分子ハンドブック」、第298-3076頁、1994年発行)。
一方、ヒト、ヒヒ、マウス、ラット等のCD44をコードするcDNAが知られており、遺伝子工学的手法によって得られたCD44の細胞外領域のアミノ末端とヒトIgG1のFcフラグメント(すなわちヒンジ部、不変部のCH2 部分およびCH3 部分)のカルボキシル末端とが結合した融合タンパク質が知られている(Cell,61,1303-1313(1990))。
本発明で使用されるCD44はヒアルロン酸との結合能を有し、CD44のヒアルロン酸結合領域を有するものであれば特に限定されないが、例えば標準型CD44(CD44H)、CD44変異分子(CD44V)、CD44E、可溶性CD44等が挙げられる。また、CD44のヒアルロン酸結合領域を含むCD44の部分タンパク質(例えば、CD44の細胞外領域全体もしくはその一部分等)、またはCD44、CD44の部分タンパク質もしくはCD44のヒアルロン酸結合領域のアミノ酸配列を有するタンパク質と免疫グロブリン、グルタチオンS−トランスフェラーゼ等のタンパク質を結合させた融合タンパク質等が挙げられる。
好ましい融合タンパク質としては、例えば、CD44の細胞外領域のカルボキシル末端と免疫グロブリンのアミノ末端とが結合したものが挙げられ、さらに好ましくは、CD44の細胞外領域のカルボキシル末端とIgGのFcフラグメントのアミノ末端とが結合した融合タンパク質等が挙げられる。
融合タンパク質は、ヒアルロン酸との結合能を有していれば多量体(例えば2量体等)を形成していてもよい。例えばIgGまたはそのFcフラグメントを含む上記融合タンパク質であれば、通常、非還元条件下でジスルフィド結合によってIgG様の2量体を形成することができる。
CD44のヒアルロン酸結合領域を含む部分タンパク質または融合タンパク質の製造方法としては、以下に示す1)〜3)の方法を例示することができる。
1) CD44を、タンパク分解酵素(例えばトリプシン、キモトリプシン、ペプシン等)で消化する等の公知の手段で分解後、ヒアルロン酸を結合した担体等を用いてヒアルロン酸との結合能を有する部分タンパク質を分離精製する方法。
2) 上記1)の操作において、さらに糖分解酵素(例えばコンドロイチナーゼABC、ヘパリチナーゼ、N−グリコシダーゼ、O−グリコシダーゼ等)を作用させる等の方法で部分的にあるいは完全に糖鎖が除かれた部分タンパク質を得る方法。
3) 公知の融合方法(例えば、遺伝子工学的方法やハイブリッドタンパクを得る方法等)を用いて融合タンパク質を得る方法。
本発明で使用されるヒアルロン酸結合性タンパク質としては、ヒアルロン酸結合性プロテオグリカン(例えば、軟骨プロテオグリカン(アグリカン)、バーシカン、ニューロカン等)、ヒアルロン酸結合性プロテオグリカンのコアタンパク質(例えば、軟骨プロテオグリカンのコアタンパク質等)、これらの部分タンパク質、リンクプロテイン、ヒアルロネクチン等が挙げられる。
ヒアルロン酸結合性タンパク質の製造法としては、公知の方法(Leurent et al, Anal.Biochem., 109, 386-394(1980)、特開平 4-26279号公報、Anal.Biochem., 149, 555-565 (1985)等)を用いればよい。例えば軟骨プロテオグリカンの部分タンパク質は、上記 Leurentらの方法、特開平 4-26279号公報に記載の方法等にしたがって調製することができる。即ち、例えば軟骨から塩酸グアニジン等を用いてプロテオグリカンを可溶化して抽出し、透析したものにタンパク分解酵素(トリプシン等)を作用させてコアタンパク質を分解し、ヒアルロン酸結合担体(例えば、ヒアルロン酸を結合させた球状セルロース等)等を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより前記部分タンパク質を得る方法等が挙げられる。
本発明において検体中のSHAP−HA結合体を抗ITI抗体を用いて測定するには、通常いわゆるサンドイッチ法(特公平6-41952 等参照)が用いられる。すなわち、結合体中のSHAPと抗ITI抗体との免疫学的親和性とHAのヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質に対する親和性を利用し、三者のサンドイッチ状複合体を形成させて複合体を測定する方法であり、通常、ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質または抗ITI抗体の一方を固相体に固着させ、該サンドイッチ状複合体を分離して測定する方法である。例えば、SHAP−HA結合体を含む検体を、固相体に固着されたCD44と接触させ、次いで標識物質で標識された抗ITI抗体と接触させることによって、検体中のSHAP−HA結合体と該CD44と該標識物質で標識された抗ITI抗体とを反応させて、抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−CD44−固相体からなる複合体を形成させ、前記複合体と遊離の該標識された抗ITI抗体とを分離し、前記複合体中の標識物質を検出することにより検体中のSHAP−HA結合体を測定する方法が挙げられる。
また、形成させた抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−CD44−固相体の前記複合体に、抗ITI抗体に特異的に結合する標識された抗イムノグロブリン抗体を接触させることによって、前記複合体と該標識抗イムノグロブリン抗体の複合体を形成させ、その標識物質を検出することにより、検体中のSHAP−HA結合体を測定することもできる。前記の抗ITI抗体を直接標識する方法に比べ、入手の容易な標識された抗イムノグロブリン抗体を使用する方法の方が簡便であり、好ましい。なお、この方法で使用する抗イムノグロブリン抗体は、抗ITI抗体を製造するためにITIを免疫した動物と同種の動物のイムノグロブリンを認識する抗体である。
上記サンドイッチ法による測定方法においては、固相体に固着する物質としてCD44の代わりにヒアルロン酸結合性タンパク質を使用することもできる。さらに、CD44、ヒアルロン酸結合性タンパク質以外のヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質を用いることもできる。
前記サンドイッチ法において、抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−(ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質)の複合体形成順序は、いわゆるフォワード、リバース、同時のいずれも可能である(「蛋白核酸酵素」別冊 No.31、酵素免疫測定法、共立出版(株)発行、1987年、p13-26 参照)。
これらのサンドイッチ法による本発明の測定方法において、CD44等のヒアルロン酸受容体またはヒアルロン酸結合性タンパク質等のヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質を固着させる固相体としては、プレート、チューブ、ビーズ、メンブレン、ゲル等が挙げられる。材質としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアクリルアミド等が好ましい。
これらの固相体にCD44またはヒアルロン酸結合性タンパク質等のヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質を固着させる方法としては、物理的吸着法、共有結合法、包括法等固定化酵素の調製法として一般的な方法(固定化酵素、1975年、講談社発行、第9〜75頁参照)を応用することができる。特に物理的吸着が、操作が簡便な点で好ましい。
また、ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質を固着させた固相体の表面には、これらが固着していない表面部分が残存している場合があり、そこへ検体中のSHAP−HA結合体や他の分子種が固着すると、正確な測定結果が得られなくなるおそれがある。よって、検体を固相体と接触させる前にブロッキング物質を添加してヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質が固着していない部分を被覆しておくことが好ましい。このようなブロッキング物質としては、ウシ等から採取できる血清アルブミン、カゼイン、ミルク蛋白等が挙げられ、また、ブロッキング物質として市販されているものを使用することもできる。
また、固相体に固着させたヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質に検体中のSHAP−HA結合体を結合させた後に、固相体の表面を洗浄液で洗浄して非特異吸着物を除去することが好ましい。洗浄液としては、例えば、トゥイーン(Tween) 系界面活性剤等の界面活性剤を添加した緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス塩酸緩衝液)等が挙げられる。
抗ITI抗体または該抗体に免疫学的親和性を有する抗イムノグロブリン抗体の標識に使用される標識物質としては、酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ等)、アイソトープ (125 I、131 I 、3 H等) 、蛍光色素(ルミノール、フルオレセインイソチオシアネート(FITC))、化学発光物質、ハプテン、ビオチン、アビジン(例えば、ストレプトアビジン等)が挙げられるが、通常タンパク質の標識に可能なものであれば、特に限定されない。なお、ここで標識物質とは、ビオチンのようにそれ自体を直接検出せず、その物質と特異的結合能を有する物質(例えばアビジン)に検出可能な標識を結合したものを組み合わせて用いる方法に使用する物質も包含する。
前記の抗体の標識方法は、標識物質に適した公知の方法、例えば、酵素を標識する際にはグルタルアルデヒド法、過ヨウ素酸架橋法、マレイミド架橋法、カルボジイミド法、活性化エステル法等、放射性同位元素で標識する際にはクロラミンT法、ラクトペルオキシダーゼ法等(続生化学実験講座2「タンパク質の化学(下)」、東京化学同人、1987年発行参照)から適宜選択することができる。
標識物質の検出法としては、用いる標識物質により異なるが、例えば、標識物質にビオチンを使用する場合には、ストレプトアビジン等を結合させた酵素を添加して、このストレプトアビジン等を介してペルオキシダーゼ等の酵素を標識物質としてビオチンを含む複合体へ結合させ、該酵素の基質としてテトラメチルベンジジン等の発色基質および過酸化水素水を加え、酵素反応による生成物の発色の度合いを吸光度の変化で測定する方法等を挙げることができる。また、例えば、標識物質として蛍光物質や化学発光物質を使用する場合には、反応後の溶液の蛍光や発光を測定する方法等が挙げられる。
本発明の測定方法においては、検体中のSHAP−HA結合体の濃度は、予め既知濃度のSHAP−HA結合体標準液を用いてSHAP−HA結合体濃度と標識物質の検出結果との関係について検量線を作成し、未知濃度の検体についての検出結果と前記検量線とを用いる方法によって、定量することができる。
本発明の測定方法によれば、関節液、血液、血清、血漿、尿等の体液、細胞もしくは微生物の培養液等の液状試料中のSHAP−HA結合体を定量することができる。特に、後述の関節炎または肝疾患の診断に本測定法を用いる場合、血液、血清、血漿等を検体とすることができ、患者の負担を軽減することができる。なお、本発明の測定方法に用いるSHAP−HA結合体を含む検体は、予め精製されている必要はない。すなわち、検体中にヒアルロン酸以外のグリコサミノグリカン、ITIおよびその他の各種タンパク質が含まれていても、SHAP−HA結合体を選択的に測定することができるため、それらによって測定結果が影響されることはない。
(2)SHAP−HA結合体測定用キット
本発明のサンドイッチ法によるSHAP−HA結合体測定用キットは、少なくとも抗ITI抗体をキットの構成成分として含むものである。しかし、一般的には、標識物質で標識されたまたは標識されうる抗ITI抗体とヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質(例えばCD44等のヒアルロン酸受容体もしくはヒアルロン酸結合性タンパク質)とから構成されるものである。このようなキットにおいて、ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質を予め固相体に固着されたものを使用すれば、上述した測定方法において、固相体に固着する操作を省くことができる。
すなわち、例えば本発明のSHAP−HA結合体測定キットを用いて、固相体に固着させたCD44にSHAP−HA結合体を含む検体を接触させ、次いで抗ITI抗体と接触させることによって、抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−CD44−固相体からなる複合体を形成させ、さらにペルオキシダーゼ標識抗イムノグロブリン抗体を接触させることによって、前記複合体と該標識抗イムノグロブリン抗体の複合体を形成させ、その複合体に含まれる標識物質(ペルオキシダーゼ)を検出することにより、検体中のSHAP−HA結合体濃度を測定することができる。
前記キットには、さらに検量線作成のための標準となる既知濃度のSHAP−HA結合体標準品、標識物質の検出試薬、抗ITI抗体を標識する試薬、抗ITI抗体を検出する試薬(標識された抗イムノグロブリン抗体等)等を加えることができる。また、これらの成分の他に、前記ブロッキング物質、前記洗浄液、検体希釈液、酵素反応停止液等が含まれていてもよい。
また、これらの成分は、それぞれ別体の容器に収容しておき、使用時に上記処方に従って使えるキットとして保存しておくことができる。
本発明のSHAP−HA結合体測定用キットを用いて関節液、血液、血清、血漿、尿、骨髄液等の検体中のSHAP−HA結合体を特異的に測定することができ、測定範囲も広く、かつ高感度である。
本発明のSHAP−HA結合体測定用キットを用いてヒトの血清中のSHAP−HA結合体を測定した場合、健常人は低値であり、変形性膝関節炎患者ではやや高く、リウマチ性関節炎患者では著しく高い値を示すことより、関節炎の診断を簡便に行うことができる。特に、リウマチ性関節炎か変形性膝関節炎かを正確に識別する診断法として非常に有効な診断用キットとなり得る。また、肝疾患患者では著しく高い値を示す傾向が見られることにより、肝疾患の診断法として非常に有効な診断用キットともなり得る。
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
本発明のサンドイッチ法による測定方法の好ましい一形態を以下に説明する。
まず、固相体にCD44を固着(コーティング)させる。固着方法としては、例えば、CD44をpH7〜9程度の緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、PBS、炭酸緩衝液等)に溶解して固相体(例えばマイクロプレートのウェル)に加え、37℃程度で1〜2時間保存するか、4℃程度で一晩保存して固着させる方法等を挙げることができる。
上記固着後、血清アルブミン等のブロッキング物質を添加して、37℃程度で30分〜2時間保存するか、常温(15〜25℃) で1〜2時間保存して、該CD44が固着していない部分を被覆しておくことが好ましい。次いで、上記CD44が固着した固相体に、SHAP−HA結合体を含む検体試料を添加し、例えば、37℃で20〜80分間の最適な時間静置あるいは撹拌し、上記CD44にSHAP−HA結合体を結合させる。
その後、この複合体が結合した固相体を、トゥイーン系界面活性剤等を添加した緩衝液(例えばリン酸緩衝液、PBS、トリス塩酸緩衝液等)等の洗浄液で洗浄する。さらに、前記固相体に、標識物質で標識された抗ITI抗体または抗ITI抗体と標識物質で標識された抗イムノグロブリン抗体を添加して、例えば、37℃で20〜80分間の最適な時間静置あるいは撹拌し、SHAP−HA結合体に前記抗ITI抗体(または抗ITI抗体−抗イムノグロブリン抗体)を結合させる。この操作によって、抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−CD44−固相体からなる複合体を形成させる。次に、前記複合体の標識物質を検出してSHAP−HA結合体を測定する。
別に、SHAP−HA結合体標準品の濃度と標識物質の検出結果(例えば吸光度)との関係について検量線を作成し、未知試料についての検出結果と前記検量線とを用いて、未知試料中のSHAP−HA結合体を定量する。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
調製例1
(融合タンパク質の調製)
CD44の細胞外領域とヒト免疫グロブリン(Ig)のFcフラグメントとの融合タンパク質(以下、単に「融合タンパク質」ということがある)を、シード(B.Seed)らの方法(Cell, 61, 1303-1313(1990))に従って調製した。すなわち、CD44の細胞外領域をコードするcDNAに、その細胞内領域側(カルボキシル末端側)にヒトIgG1のFcフラグメントをコードするcDNAとそのアミノ末端側にCD5のシグナル配列をコードするcDNAとをそれぞれ連結したcDNA断片を作成し、これをCDM8ベクターに組み込み、DEAEデキストランを用いる公知の方法でCOS細胞に移入して、融合タンパク質をCOS細胞に一過性に発現させた。COS細胞は無血清培地で培養し、細胞外に分泌した融合タンパク質を含む培養上清を回収した。融合タンパク質の精製は、その分子中のイムノグロブリン部位を利用し、プロテインA結合樹脂を用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーにより行った。
調製例2
(ヒアルロン酸結合性タンパク質の調製)
ヒアルロン酸結合性タンパク質を、特開平4-262797号公報に記載の製造例(ヒアルロン酸結合性蛋白)の項に準じて調製した。即ち、牛鼻中隔軟骨から4M塩酸グアニジン溶液を用いて抽出操作を行い、次いで抽出物の上清を採取し、これを脱イオン水で透析した後、凍結乾燥して粗抽出物を得た。この粗抽出物をトリプシン消化後、ヒアルロン酸結合樹脂を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
調製例3
(SHAP−HA結合体の調製)
SHAP−HA結合体を、特開平7-157500号公報に記載の実施例(ヒアルロナン結合性タンパク質の調製)の項に準じて調製した。即ち、リウマチ性膝関節炎患者の関節液を採取し、軽く遠心分離して不溶物を取り除き、ハンクス液によって5〜6倍に希釈した。これに1/10体積の4M グアニジン塩酸塩溶液を加え、アジ化ナトリウムを微量加えた後、塩化セシウムを加えて50%(W/V) とした。超遠心チューブに入れて4℃に静置後、4℃、123,000 ×g の超遠心(タンパク質非解離条件下での超遠心;アソシエイティブ超遠心)を48時間行うことにより精製した。
調製例4
(血清検体の調製)
抗血液凝固剤を入れないで採決した血液3mlを、4℃に1時間静置した後、1,000 ×g、10分間遠心処理することにより血清を得、これを血清検体とした。
(SHAP−HA結合体の定量)
調製例1で精製されたCD44の細胞外領域を含む融合タンパク質をリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2〜7.5 、二価イオン不含)(以下、PBS(−)と略す)で、それぞれ2μg/mlに希釈し、この溶液50μl (100ng/ウエル)ずつをヌンクイムノプレート(商品名:マキシソープ、ヌンク社製)の各ウエルに加え、4℃で16時間保存することにより、均一にコーティングした。
このプレートをPBS(−)で2回洗浄し、ウエルの融合タンパク質が被覆されていない部分を被覆するために、ブロッキング物質として3%ウシ血清アルブミン(BSA、生化学工業(株)販売)を含むPBS(−)溶液を加え、室温で2時間静置した。
次いで、このプレートを洗浄液(0.05%トゥイーン20(和光純薬工業(株)製)を含むPBS (−))で3回洗浄後、調製例3で精製された各濃度のSHAP−HA結合体標準液 (16〜4000ng/ml の各濃度)50μl を前記プレートに加え、37℃で60分間静置して反応させた。なお、SHAP−HA結合体標準液の溶媒としては、1%BSAを含むPBS (−) (以下、「反応希釈液」という)を用いた。
この後、このプレートを前記洗浄液にて3回洗浄し、反応液で希釈した1μg/ml抗ITI抗体(ダコ社製)25μl および反応液で 1,250倍に希釈したペルオキシダーゼ標識抗ウサギイムノグロブリン抗体(生化学工業(株)販売)25μl を加え、37℃で60分間静置して反応させた。さらに、このプレートを前記洗浄液で3回洗浄し、ペルオキシダーゼの基質としてテトラメチルベンジジン溶液(モス社製:以下、TMBと略す)を50μl 加え、37℃で15分間反応させ、発色させた。
発色後、プレートに1N−HC1 を50μl 加えて反応を停止させ、TMBの分解による着色液の波長 450nmでの吸光度(対照波長630nm)(A450/630)をウェルリーダーSK601(生化学工業(株)販売)にて測定した。得られた結果を図1に示す。
これにより、本発明の測定法によれば、16〜4,000ng/mlのSHAP−HA結合体の定量が可能であることがわかる。
また、該測定法で用いたCD44の代わりに調製例2で精製したヒアルロン酸結合性タンパク質の溶液をPBS (−) で10μg/mlに希釈して使用することも可能である。得られた結果を図2に示す。この方法では64〜4,000ng/mlのSHAP−HA結合体の定量が可能であり、CD44を用いた場合よりやや感度が劣る。
(ヒアルロン酸およびヒアルロニダーゼの測定系への影響)
20μg/mlのヒアルロン酸を共存させた10倍希釈血清検体中のSHAP−HA結合体含量を実施例1の方法で測定し、測定結果へのヒアルロン酸(HA)共存の影響を検討した。また、100mU/mlのヒアルロニダーゼで10倍希釈血清検体を37℃で60分間処理した後、実施例1の方法で測定し、測定結果への影響を検討した。無処理の血清検体を測定して得られたSHAP−HA結合体濃度を 100%としてヒアルロン酸存在下あるいはヒアルロニダーゼ処理した血清検体から得られた測定値を百分率(%)に換算した。ヒアルロン酸結合性タンパク質を固着したプレートを用いた測定方法で得られた結果を図3に、CD44を固着したプレートを用いた測定方法で得られた結果を図4に示した。
これらの結果から、本発明の測定方法はヒアルロン酸の共存あるいはヒアルロニダーゼ処理により著しく阻害を受ける。このことはヒアルロン酸結合性タンパク質あるいはCD44を固着したプレートと検体との反応でSHAP−HA結合体のヒアルロン酸部分を特異的に検出していることが示された。
(健常人および関節炎患者の血清中SHAP−HA結合体の定量)
健常人(10例)、変形性膝関節炎(以下OAと略す)患者(10例)、リウマチ性関節炎(以下RAと略す)患者(10例)の各血清中に存在するSHAP−HA結合体の定量を実施例1に記載した方法にて行った。ヒアルロン酸結合性タンパク質を固着したプレートを用いた測定方法で得られた結果を図5に、CD44を固着したプレートを用いた測定方法で得られた結果を図6に示した。また、これらの測定結果を表1に示した。表1、図5および図6より、RA患者の血清中のSHAP−HA結合体の平均値は、健常人に比べ、ヒアルロン酸結合性タンパク質法で約320 倍、CD44法で約560 倍の高値を示した。さらにOA患者の血清に対してもRA患者の血清は前者の方法で約115 倍、後者の方法で約380 倍の高値を示した。これらの結果より、血清中のSHAP−HA結合体の値はRAとOAとの識別が可能な診断マーカーとして有用であることが示された。
[表1]
健常人、OA患者およびRA患者の血清中の
SHAP−HA結合体(タンパク質)含量
___________________________________________________
測定方法 平均 (μg/ml) ±S.D
___________________________________________________
ヒアルロン酸結合性タンパク質法
健常人 1.17 0.39 (n=10)
OA患者 3.28 4.54 (n=10)
RA患者 379.49 445.96 (n=10)
___________________________________________________
CD44法
健常人 0.20 0.02 (n=10)
OA患者 0.29 0.13 (n=10)
RA患者 111.72 90.88 (n=10)
_________________________________
(健常人、関節炎患者及び肝疾患患者の血清中SHAP−HA結合体の定量と比較)
健常人(87例)、関節炎患者(OA:42 例、RA:82 例)及び肝疾患患者(54例)の各血清中に存在するSHAP−HA結合体の定量を、実施例1に記載した方法に準じ、ヒアルロン酸結合タンパク質を固着したプレートを用いた測定方法によって行った。なお、測定値はunitに変換して結果を図7に示した。図中に記載の unit/mlとは、450nm における吸光度が0.5となる標準検体のSHAP−HA濃度を1unit/ml としたとき、測定検体のこの標準検体に対する希釈率の逆数として表した値である。当該単位を用いて標準検体の検量線を作成した後、検体の測定値のunitへの変換を前記検量線を用いて行った。RA患者群同様に肝疾患患者群も血清中SHAP−HA量が高値を示す傾向が見られた。この結果より、本発明測定法はRAの識別と同様に肝疾患の識別が可能な診断マーカーとしても有用であることが示唆された。
また、仮に2unit/ml を血中SHAP−HA濃度の正常値と異常値の臨界値とした場合の各検体の異常値を示す割合は、正常(健常人)が1.10%(87検体中1検体)、OA患者が 19.00%(42検体中8検体)、RA患者が 74.40%(82検体中61検体)及び肝疾患患者が 42.59%(54検体中23検体)となり、診断マーカーとしての有用性が裏付けられた。
本発明のSHAP−HA結合体の測定方法によりITIに対する抗体およびヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質を用いた方法で血液等に含まれるSHAP−HA結合体を簡便に測定することが可能であり、かつ、関節炎の診断においてOAかRAかを正確に識別し、また肝疾患の検出を行う診断法として有効な方法である。また、SHAP−HA結合体の生理的意義は不明であるが高転移性ガン細胞は多量にヒアルロン酸を持ち、血清存在下で培養すると細胞周囲のヒアルロン酸にSHAPが結合し、SHAP−HA結合体が形成することが報告されている (生化学、67, 458-465 (1995))。このことより、癌の転移にSHAP−HA結合体が関与している可能性が考えられ、本発明のSHAP−HA結合体測定法は癌転移機構の解明および医薬品開発の有用な評価方法となる。
実施例1のCD44を用いて測定したSHAP−HA結合体含量の標準曲線を示す。 実施例1のヒアルロン酸結合性タンパク質を用いて測定したSHAP−HA結合体含量の標準曲線を示す。 実施例2の検体(血清)中のSHAP−HA結合体含量測定におけるヒアルロン酸およびヒアルロニダーゼの阻害作用(ヒアルロン酸結合性タンパク質使用)を示す。 実施例2の検体(血清)中のSHAP−HA結合体含量測定におけるヒアルロン酸およびヒアルロニダーゼの阻害作用(CD44使用)を示す。 実施例3の健常人、OA患者およびRA患者の血清中のSHAP−HA結合体の濃度を示す(ヒアルロン酸結合性タンパク質使用)。 実施例3の健常人、OA患者およびRA患者の血清中のSHAP−HA結合体の濃度を示す(CD44使用)。 実施例4の健常人、OA患者、RA患者および肝疾患患者の血清中のSHAP−HA結合体の濃度(unit/ml) の比較を示す(ヒアルロン酸結合性タンパク質使用)。

Claims (5)

  1. 検体中に存在する血清由来ヒアルロナン結合性タンパク質−ヒアルロン酸(SHAP−HA)結合体を測定することにより肝疾患を検出することを特徴とする肝疾患の検出方法。
  2. 検体中に存在する血清由来ヒアルロナン結合性タンパク質−ヒアルロン酸(SHAP−HA)結合体を、抗インター−α−トリプシンインヒビター抗体(抗ITI抗体)と反応させて抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)の複合体を形成させ、この複合体を、ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質と反応させて抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−(ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質)の複合体を形成させ、この複合体を測定することにより肝疾患を検出することを特徴とする肝疾患の検出方法。
  3. 検体中に存在するSHAP−HA結合体と、ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質とを反応させてヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質とSHAP−HA結合体との複合体を形成させ、この複合体を抗ITI抗体と反応させて、抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−(ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質)の複合体を形成させ、この複合体を測定することにより肝疾患を検出することを特徴とする肝疾患の検出方法。
  4. 検体が血液、血清または血漿である請求項1〜3のいずれかに記載の検出方法。
  5. キットの構成成分として抗ITI抗体を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の検出方法により肝疾患を検出するためのキット。
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