JP4217716B2 - 血清由来ヒアルロナン結合性タンパク質−ヒアルロン酸結合体の測定法および測定キット - Google Patents
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Description
また、ヒト関節液由来のSHAPに対する抗体を作成し、この抗SHAP抗体とプロテオグリカン由来のヒアルロン酸結合性タンパク質とを用いたELISA系による測定法で関節液中のSHAP−HA結合体を定量することにより関節炎の診断ができることが報告されている(特許文献1) 。
しかし、従来の測定法では抗SHAP抗体の作成のために抗原であるSHAPのヒト関節液からの分離精製が必要であり、原料としてヒト関節液の確保が容易でない点、また、SHAP−HA結合体測定の対象が関節液であり、関節液の採取の際に患者に苦痛を与えること等多くの欠点があった。
すなわち、本発明の目的は、患者からの試料採取が容易な血液を測定対象として、この試料中のSHAP−HA結合体を、抗ITI抗体を用いてより正確に測定する方法を提供するものである。
また、本発明の他の目的は、この測定系を利用して関節炎または肝疾患を診断する方法および診断用キットを提供することである。
本発明の測定方法は、好ましくは、SHAP−HA結合体を含む検体を、固相体に固着されたヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質、好ましくはCD44あるいはヒアルロン酸結合性タンパク質と接触させ、ついで標識物質で標識されたまたは標識され得る抗ITI抗体とを接触させることにより、標識された抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−(ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質)−固相体からなる複合体を形成させ、該複合体を複合体を形成しなかった未反応の抗ITI抗体から分離し、該複合体中の標識物質または未反応の標識物質を検出することにより検体中のSHAP−HA結合体を測定することを特徴とする。
また、本発明でいうヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質とはヒアルロン酸結合性タンパク質およびヒアルロン酸受容体から選択される少なくとも1種のタンパク質である。ヒアルロン酸結合タンパク質とは、後述するように、ヒアルロン酸結合性プロテオグリカン、ヒアルロン酸結合性プロテオグリカンのコアタンパク質、リンクプロテイン、ヒアルロネクチン、それらのヒアルロン酸結合領域を含む部分タンパク質等である。一方、ヒアルロン酸受容体とは、CD44、CD44のヒアルロン酸結合領域を含む部分タンパク質またはそれらの融合タンパク質も含まれる。また、Turleyらが報告しているRHAMM(Receptor for hyaluronan-mediated motility)、RHAMMのヒアルロン酸結合領域を含む部分タンパク質またはそれらの融合タンパク質もヒアルロン酸受容体に含まれる。
(1)SHAP−HA結合体の測定方法
本発明の測定方法は、少なくとも抗ITI抗体と検体中のSHAP−HA結合体との複合体を形成させる工程を含むことを特徴とする。
ITIは寒天ゲル電気泳動において、α1とα2グロブリン領域の中間に泳動され、トリプシン阻害活性を有することで定義されている。ヒトITIは正常血清中に約0.4mg/mlの濃度で存在し、分子量23万の複合体で、3種類の異なるペプチド鎖、 HC1、 HC2およびHI−30からなる。HC1 とHC2 とはそれぞれ80kDa と85kDa の分子量を持ち、分子量の大きさから長鎖と呼ばれる。一方、45〜55kDaの分子量を示すHI−30は短鎖と呼ばれ、2個の Kunitz 型トリプシンインヒビタードメインからなり、プロテアーゼ阻害活性能はこれに起因する。この2個のKunitz型ドメインよりHI−30をビクニン(bikunin)とも呼ぶ。ビクニンのN末端から10番目のセリン残基にはコンドロイチン−4−硫酸が結合し、このペプチド鎖はプロテオグリカンでもある。また、米田らはウシ胎児血清中にヒアルロン酸と強く結合する 85kDaおよび83kDa のペプチド鎖から成るタンパク質を発見し、これをSHAP(Serum Derived Hyaluronan Associated Protein) と命名した(J.Biol.Chem., 265, 5247-5257 (1990))。その後の研究によりSHAPのペプチド鎖はITIの長鎖と同一で(J.Biol.Chem., 268, 26725-26730 (1993))、ヒアルロン酸と共有結合していることが明らかにされた(J.Biol.Chem., 270, 26657-26663 (1995))。
好ましい融合タンパク質としては、例えば、CD44の細胞外領域のカルボキシル末端と免疫グロブリンのアミノ末端とが結合したものが挙げられ、さらに好ましくは、CD44の細胞外領域のカルボキシル末端とIgGのFcフラグメントのアミノ末端とが結合した融合タンパク質等が挙げられる。
1) CD44を、タンパク分解酵素(例えばトリプシン、キモトリプシン、ペプシン等)で消化する等の公知の手段で分解後、ヒアルロン酸を結合した担体等を用いてヒアルロン酸との結合能を有する部分タンパク質を分離精製する方法。
2) 上記1)の操作において、さらに糖分解酵素(例えばコンドロイチナーゼABC、ヘパリチナーゼ、N−グリコシダーゼ、O−グリコシダーゼ等)を作用させる等の方法で部分的にあるいは完全に糖鎖が除かれた部分タンパク質を得る方法。
3) 公知の融合方法(例えば、遺伝子工学的方法やハイブリッドタンパクを得る方法等)を用いて融合タンパク質を得る方法。
前記サンドイッチ法において、抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−(ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質)の複合体形成順序は、いわゆるフォワード、リバース、同時のいずれも可能である(「蛋白核酸酵素」別冊 No.31、酵素免疫測定法、共立出版(株)発行、1987年、p13-26 参照)。
これらの固相体にCD44またはヒアルロン酸結合性タンパク質等のヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質を固着させる方法としては、物理的吸着法、共有結合法、包括法等固定化酵素の調製法として一般的な方法(固定化酵素、1975年、講談社発行、第9〜75頁参照)を応用することができる。特に物理的吸着が、操作が簡便な点で好ましい。
本発明のサンドイッチ法によるSHAP−HA結合体測定用キットは、少なくとも抗ITI抗体をキットの構成成分として含むものである。しかし、一般的には、標識物質で標識されたまたは標識されうる抗ITI抗体とヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質(例えばCD44等のヒアルロン酸受容体もしくはヒアルロン酸結合性タンパク質)とから構成されるものである。このようなキットにおいて、ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質を予め固相体に固着されたものを使用すれば、上述した測定方法において、固相体に固着する操作を省くことができる。
また、これらの成分は、それぞれ別体の容器に収容しておき、使用時に上記処方に従って使えるキットとして保存しておくことができる。
本発明のサンドイッチ法による測定方法の好ましい一形態を以下に説明する。
まず、固相体にCD44を固着(コーティング)させる。固着方法としては、例えば、CD44をpH7〜9程度の緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、PBS、炭酸緩衝液等)に溶解して固相体(例えばマイクロプレートのウェル)に加え、37℃程度で1〜2時間保存するか、4℃程度で一晩保存して固着させる方法等を挙げることができる。
CD44の細胞外領域とヒト免疫グロブリン(Ig)のFcフラグメントとの融合タンパク質(以下、単に「融合タンパク質」ということがある)を、シード(B.Seed)らの方法(Cell, 61, 1303-1313(1990))に従って調製した。すなわち、CD44の細胞外領域をコードするcDNAに、その細胞内領域側(カルボキシル末端側)にヒトIgG1のFcフラグメントをコードするcDNAとそのアミノ末端側にCD5のシグナル配列をコードするcDNAとをそれぞれ連結したcDNA断片を作成し、これをCDM8ベクターに組み込み、DEAEデキストランを用いる公知の方法でCOS細胞に移入して、融合タンパク質をCOS細胞に一過性に発現させた。COS細胞は無血清培地で培養し、細胞外に分泌した融合タンパク質を含む培養上清を回収した。融合タンパク質の精製は、その分子中のイムノグロブリン部位を利用し、プロテインA結合樹脂を用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーにより行った。
ヒアルロン酸結合性タンパク質を、特開平4-262797号公報に記載の製造例(ヒアルロン酸結合性蛋白)の項に準じて調製した。即ち、牛鼻中隔軟骨から4M塩酸グアニジン溶液を用いて抽出操作を行い、次いで抽出物の上清を採取し、これを脱イオン水で透析した後、凍結乾燥して粗抽出物を得た。この粗抽出物をトリプシン消化後、ヒアルロン酸結合樹脂を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
SHAP−HA結合体を、特開平7-157500号公報に記載の実施例(ヒアルロナン結合性タンパク質の調製)の項に準じて調製した。即ち、リウマチ性膝関節炎患者の関節液を採取し、軽く遠心分離して不溶物を取り除き、ハンクス液によって5〜6倍に希釈した。これに1/10体積の4M グアニジン塩酸塩溶液を加え、アジ化ナトリウムを微量加えた後、塩化セシウムを加えて50%(W/V) とした。超遠心チューブに入れて4℃に静置後、4℃、123,000 ×g の超遠心(タンパク質非解離条件下での超遠心;アソシエイティブ超遠心)を48時間行うことにより精製した。
抗血液凝固剤を入れないで採決した血液3mlを、4℃に1時間静置した後、1,000 ×g、10分間遠心処理することにより血清を得、これを血清検体とした。
調製例1で精製されたCD44の細胞外領域を含む融合タンパク質をリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2〜7.5 、二価イオン不含)(以下、PBS(−)と略す)で、それぞれ2μg/mlに希釈し、この溶液50μl (100ng/ウエル)ずつをヌンクイムノプレート(商品名:マキシソープ、ヌンク社製)の各ウエルに加え、4℃で16時間保存することにより、均一にコーティングした。
このプレートをPBS(−)で2回洗浄し、ウエルの融合タンパク質が被覆されていない部分を被覆するために、ブロッキング物質として3%ウシ血清アルブミン(BSA、生化学工業(株)販売)を含むPBS(−)溶液を加え、室温で2時間静置した。
これにより、本発明の測定法によれば、16〜4,000ng/mlのSHAP−HA結合体の定量が可能であることがわかる。
また、該測定法で用いたCD44の代わりに調製例2で精製したヒアルロン酸結合性タンパク質の溶液をPBS (−) で10μg/mlに希釈して使用することも可能である。得られた結果を図2に示す。この方法では64〜4,000ng/mlのSHAP−HA結合体の定量が可能であり、CD44を用いた場合よりやや感度が劣る。
20μg/mlのヒアルロン酸を共存させた10倍希釈血清検体中のSHAP−HA結合体含量を実施例1の方法で測定し、測定結果へのヒアルロン酸(HA)共存の影響を検討した。また、100mU/mlのヒアルロニダーゼで10倍希釈血清検体を37℃で60分間処理した後、実施例1の方法で測定し、測定結果への影響を検討した。無処理の血清検体を測定して得られたSHAP−HA結合体濃度を 100%としてヒアルロン酸存在下あるいはヒアルロニダーゼ処理した血清検体から得られた測定値を百分率(%)に換算した。ヒアルロン酸結合性タンパク質を固着したプレートを用いた測定方法で得られた結果を図3に、CD44を固着したプレートを用いた測定方法で得られた結果を図4に示した。
これらの結果から、本発明の測定方法はヒアルロン酸の共存あるいはヒアルロニダーゼ処理により著しく阻害を受ける。このことはヒアルロン酸結合性タンパク質あるいはCD44を固着したプレートと検体との反応でSHAP−HA結合体のヒアルロン酸部分を特異的に検出していることが示された。
健常人(10例)、変形性膝関節炎(以下OAと略す)患者(10例)、リウマチ性関節炎(以下RAと略す)患者(10例)の各血清中に存在するSHAP−HA結合体の定量を実施例1に記載した方法にて行った。ヒアルロン酸結合性タンパク質を固着したプレートを用いた測定方法で得られた結果を図5に、CD44を固着したプレートを用いた測定方法で得られた結果を図6に示した。また、これらの測定結果を表1に示した。表1、図5および図6より、RA患者の血清中のSHAP−HA結合体の平均値は、健常人に比べ、ヒアルロン酸結合性タンパク質法で約320 倍、CD44法で約560 倍の高値を示した。さらにOA患者の血清に対してもRA患者の血清は前者の方法で約115 倍、後者の方法で約380 倍の高値を示した。これらの結果より、血清中のSHAP−HA結合体の値はRAとOAとの識別が可能な診断マーカーとして有用であることが示された。
健常人、OA患者およびRA患者の血清中の
SHAP−HA結合体(タンパク質)含量
___________________________________________________
測定方法 平均 (μg/ml) ±S.D
___________________________________________________
ヒアルロン酸結合性タンパク質法
健常人 1.17 0.39 (n=10)
OA患者 3.28 4.54 (n=10)
RA患者 379.49 445.96 (n=10)
___________________________________________________
CD44法
健常人 0.20 0.02 (n=10)
OA患者 0.29 0.13 (n=10)
RA患者 111.72 90.88 (n=10)
_________________________________
健常人(87例)、関節炎患者(OA:42 例、RA:82 例)及び肝疾患患者(54例)の各血清中に存在するSHAP−HA結合体の定量を、実施例1に記載した方法に準じ、ヒアルロン酸結合タンパク質を固着したプレートを用いた測定方法によって行った。なお、測定値はunitに変換して結果を図7に示した。図中に記載の unit/mlとは、450nm における吸光度が0.5となる標準検体のSHAP−HA濃度を1unit/ml としたとき、測定検体のこの標準検体に対する希釈率の逆数として表した値である。当該単位を用いて標準検体の検量線を作成した後、検体の測定値のunitへの変換を前記検量線を用いて行った。RA患者群同様に肝疾患患者群も血清中SHAP−HA量が高値を示す傾向が見られた。この結果より、本発明測定法はRAの識別と同様に肝疾患の識別が可能な診断マーカーとしても有用であることが示唆された。
また、仮に2unit/ml を血中SHAP−HA濃度の正常値と異常値の臨界値とした場合の各検体の異常値を示す割合は、正常(健常人)が1.10%(87検体中1検体)、OA患者が 19.00%(42検体中8検体)、RA患者が 74.40%(82検体中61検体)及び肝疾患患者が 42.59%(54検体中23検体)となり、診断マーカーとしての有用性が裏付けられた。
Claims (5)
- 検体中に存在する血清由来ヒアルロナン結合性タンパク質−ヒアルロン酸(SHAP−HA)結合体を測定することにより肝疾患を検出することを特徴とする肝疾患の検出方法。
- 検体中に存在する血清由来ヒアルロナン結合性タンパク質−ヒアルロン酸(SHAP−HA)結合体を、抗インター−α−トリプシンインヒビター抗体(抗ITI抗体)と反応させて抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)の複合体を形成させ、この複合体を、ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質と反応させて抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−(ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質)の複合体を形成させ、この複合体を測定することにより肝疾患を検出することを特徴とする肝疾患の検出方法。
- 検体中に存在するSHAP−HA結合体と、ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質とを反応させてヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質とSHAP−HA結合体との複合体を形成させ、この複合体を抗ITI抗体と反応させて、抗ITI抗体−(SHAP−HA結合体)−(ヒアルロン酸と結合能を有するタンパク質)の複合体を形成させ、この複合体を測定することにより肝疾患を検出することを特徴とする肝疾患の検出方法。
- 検体が血液、血清または血漿である請求項1〜3のいずれかに記載の検出方法。
- キットの構成成分として抗ITI抗体を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の検出方法により肝疾患を検出するためのキット。
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