JP4214340B2 - アルミニウム分離回収用溶解装置 - Google Patents

アルミニウム分離回収用溶解装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウムをそれより高融点の金属から分離し回収するための溶解装置に関し、より具体的には、鉄部品付きアルミニウム材料からアルミニウム材料を選択的に溶解するための坩堝炉を備える溶解装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、アルミニウムを使用した自動車の解体品や家庭器物等から、アルミニウム材料を回収する技術が開発されてきた。回収されたアルミニウム材料は、リサイクルのためなどに利用される。このようなアルミニウム材料の回収においては、アルミニウムを含む廃棄物は、外観、油水付着などが調べられ、合金品種が分別され、異種金属や異物が選定および分別される。このように処理された廃棄物は、破砕および除油され溶解炉で溶解される。その後、用途に応じて必要な材料(例えばシリコン等)を添加するなどして成分調整が行われ、アルミニウムの再生地金が生成される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、アルミニウム部品と鉄部品とが一体となった廃棄物からアルミニウム部品のみを取り出し、これを溶解することは困難な場合があった。例えば、廃棄物を破砕し、磁選機などを用いて鉄材料を回収することも考えられるが、この方法では多大な時間と労力とが必要とされるので、結果としてアルミニウム再生地金を得るためのコストが高くなってしまう。このようにコストのかかる方法は、リサイクルに適切な方法ではない。一方で、このような廃棄物をそのまま溶解すると、不純物が多いアルミニウム再生地金が生成されてしまい、これを使用することが出来ないという問題があった。鉄部品付きアルミニウム材料をそのまま溶解すると、鉄部品がアルミニウム中に溶け込み、鉄分の高いアルミニウム地金が生成される。このように生成されたアルミニウム地金は、その後成分調整を行った場合にも、やはり再生使用が困難なものとなってしまう。こういった理由から、従来の技術では、廃棄物において鉄部品が組み込まれているがために大部分を占めるアルミニウム材料を回収できず、これを廃棄せざるを得ないという問題があった。
【0004】
従って、アルミニウムと鉄とを含む廃棄物から、いかに高い純度で、効率のよい歩留まりで、品位の高いアルミニウム再生地金を生産し、元の製品原料に供給可能にするかという、溶解技術についての課題があった。特に、鉄分の少ないアルミニウム再生地金を生産するための溶解技術は、現在のところ満足のいく状況ではない。
【0005】
同様の問題が、上記アルミニウム、鉄の他、亜鉛、銅やその合金等の種々の金属についての分離回収についても存在しており、その解決が要請されていた。
【0006】
このような要請に応えるべく、アルミニウム融点付近の温度でアルミニウムのみを選択的に溶解する技術が、特開平10−204553号公報に開示されている。この技術においては、アルミニウム材料とそれより融点の高い材料とを含む廃棄物をワイヤ又はバスケットなどを用いて坩堝内のアルミニウム溶湯内に浸漬させ、坩堝側壁の出湯穴から溢れ出た溶融アルミニウムを炉の底壁の保持室に溜める。そして、廃棄物中のアルミニウムをアルミニウム融点付近で選択的に溶解させた後、アルミニウム以外の金属を溶湯内から引き上げて除去する。この作業を繰り返すことによりアルミニウム材料の分離を行う。
【0007】
しかしながら、上記公報に開示される溶解装置は、溶解アルミニウムが燃焼室(すなわち炉室)の炉底壁を通って回収されるように構成されているので、アルミニウム溶湯に燃焼ガス、特に水素ガスが吸収され、品質を劣化させることがあった。また、溶湯アルミニウムが炉室を流れるので、炉室の床面や壁面などに酸化したアルミニウムが固着することがあり、溶解装置のメンテナンス上の問題となる場合もあった。
【0008】
特に、上述のようにして廃棄物からアルミニウム材料を回収する場合においては、アルミニウム以外の金属材料を溶湯から引き上げて回収する工程が含まれており、被溶解材が断続的に供給される場合がある。この場合、一度に比較的少量のアルミニウム材料が断続的に溶解されることから、溶解アルミニウムを適切に保持するためには、坩堝から流出した溶解アルミニウムの保持手段の構造や、保持手段における溶湯の温度調節が重要である。特開平10−204553号公報に開示されている溶解装置では、炉室と連通する保持室上方に設けられた補助バーナを用いて溶湯を直接加熱することにより、保持溶湯の温度調節を行っている。しかし、このような構成では、保持室上部のアルミニウム溶湯が過昇温の状態になることで酸化アルミニウムが生成されたり、水素ガスの吸収により溶湯汚染が生じたりするおそれがあった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、アルミニウムをそれより高融点の金属から分離し且つこれを適切に保持する溶解装置を提供することをその目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明のアルミニウムをそれより高融点の金属から分離し回収するための溶解装置は、溶融金属を収容可能であり、側面に排出口を有する溶解用坩堝と、該溶解用坩堝内に収納可能であり、内側に非溶解状態の金属を収容でき、内部空間を該溶解用坩堝内部と連通させる連通孔を有したインナーケースと、前記溶解用坩堝の排出口を通って排出される溶融金属を受け入れる保持用坩堝と、前記溶解用坩堝及び保持用坩堝を断熱的に囲む炉壁と、該炉壁と該溶解用坩堝及び保持用坩堝との間に加熱用ガスを供給する加熱部とを備え、上下に開口を有し、前記溶解用坩堝の開口部上方の位置と該開口部上方位置から離れた位置との間に移動可能とされ、前記開口部上方に位置するときに、前記溶解用坩堝の加熱に使用された前記加熱用ガスを下部開口から内部に導入する予熱タワーをさらに備えており、そのことにより上記目的を達成する。
【0012】
前記アルミニウムより高融点の金属は鉄であってもよい。
【0013】
以下、本発明の作用を説明する。
【0014】
本発明によれば、溶解装置の溶解用坩堝に収納されたインナーケース内に収容されたアルミニウムは、連通孔を通って流れ込んだ溶解用坩堝内の溶融金属によって溶解され得る。ここで、非溶解状態のアルミニウムが溶解する過程において、溶解用坩堝内の溶融金属はアルミニウムの融点付近の温度に維持され得る。従って、アルミニウムを選択的に溶解することが可能であり、アルミニウムより高融点の金属がとけ込んでいない適切な時点で、インナーケースを溶解用坩堝内の溶融金属から引き上げることにより、純度の高い溶融アルミニウムを得ることができる。
【0015】
溶解されたアルミニウムは、保持用坩堝に収容される。ここにおいて、加熱部からの加熱用ガスで保持用坩堝を加熱することにより、収容されたアルミニウムを間接加熱することができるので、溶解されたアルミニウムを適切に保持することが可能である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を説明する。本実施形態においては、アルミニウムと鉄とを含む被溶解材から、アルミニウム材料を回収するための溶解装置を説明する。
【0017】
図1は、溶解用坩堝炉(溶解炉)10及び保持用坩堝炉(保持炉)20を備える本実施形態の溶解装置100を示す。
【0018】
溶解炉10は、坩堝の形状に合わせて全体が円柱状をなす炉室を形成する炉壁11と、炉室内に設置された溶解用黒鉛坩堝12と、黒鉛坩堝12を加熱するための加熱部を備えており、この加熱部は、本実施形態においては燃焼バーナを装着するための燃焼バーナ口18としている。
【0019】
また、溶解用黒鉛坩堝12の側壁には出湯口13が形成され、これにより溶解用黒鉛坩堝12は、出湯口13から保持炉20へと延びるように設けられた出湯樋14を介して、保持炉20と流体連通している。このように構成された溢流タイプの黒鉛坩堝12内に収容されたアルミニウム溶湯5は、溶湯表面の高さが上昇して出湯口13に達した場合に、出湯口13から黒鉛坩堝12の外部に流れ出す。この出湯口13から出た溶湯は、出湯樋14を介して、保持炉20へと移送される。
【0020】
溶解炉10は、黒鉛坩堝12内に納められるインナーケース16をさらに有している。このインナーケース16は、鉄部品つき固体アルミニウム等の被溶解材を収容するためのものであり、吊り上げ/吊り降ろし手段などによって坩堝12に対して上下に移動出来るように構成されている。
【0021】
本実施形態では、インナーケース16の形状は、底が球面状の円筒形としているが、これに限られるものではない。インナーケース16の形状は、黒鉛坩堝12内に納まる(すなわち、インナーケース16の外径が黒鉛坩堝12の内径よりも小さい)形状であれば、有底の円筒形、箱形等の任意の形状とする事ができ、インナーケース16内に収容される被溶解部材の形状等に応じて適切に選択される。また、インナーケース16は、少なくとも一部分が坩堝内に納まる形状であれば、必ずしも全体が坩堝内に納まる形状である必要はない。
【0022】
インナーケース16のケース上部16aは、インナーケース16を上下移動させるための吊り部などを含んでおり、黒鉛坩堝12内のアルミニウム溶湯5に浸漬されない。この吊り部は、例えば、フランジ面に設けられたアイボルト又は貫通孔であり得、カギ付きワイヤなどの吊り上げ/吊り降ろし手段に対して連結及び取り外しできるように形成されている。また、インナーケース16のケース底部16cが坩堝12の底と接触しないようにするために、ケース上部16aは坩堝12の開口端12aに当接するように設計されたフランジ構造を有していてもよい。
【0023】
一方、インナーケース16のケース下部16bは、アルミニウム溶湯5に大部分が浸漬され、黒鉛坩堝12内部とインナーケース16内部とを連通させる溶湯連通孔17が設けられている。この実施形態において、溶湯連通孔17は、ケース下部16bの底部16c及びその近傍に設けられた多数の孔である。ただし連通孔の形態はこれに限られるものではなく、インナーケース16全体を網構造とすることで連通孔17を形成してもよい。また、インナーケース16内に収容される被溶解材の体積が小さいなどの場合には、有底筒形のインナーケースの底部分には連通孔を設けず、底部付近の側壁にのみ連通孔を設ける形態であってもよい。溶湯連通孔7の位置、形状及び数もまた、被溶解材の形状および/又は寸法などに応じて、適切に選択され得る。
【0024】
このようにして、黒鉛坩堝12内のアルミニウム溶湯5は、ケース下部16bに設けられた溶湯連通孔17を通じてインナーケース16内部にも流れ込むことが可能になる。すなわち、図1に示すように、インナーケース16が坩堝12内に納められている場合において、アルミニウム溶湯5は、坩堝12およびインナーケース16の内部に同時に存在する。
【0025】
このようなインナーケース16のケース下部16bの材質は、高強度および高熱伝導性を有し、アルミニウム溶湯と反応しない性質であることが好ましい。このような材料として、例えば、鉄、炭化珪素、窒化珪素などが挙げられる。
【0026】
また、インナーケース16を坩堝12内に安定して設置出来るようにするために、ケース底部16cに例えば下駄のような高台部を設けても良い。このような高台部は、坩堝の内側底面とインナーケースの外側底部との形状に応じて、適切な形状に選択される。
【0027】
さらに、黒鉛坩堝12の上方には、被溶解材の溶解を効率よく行うために、被溶解材を予熱するための材料予熱タワー30が設けられる。予熱タワー30は、例えば無蓋無底の筒形などの上下に開口を有する形状とされている。従って、予熱タワー30の内部には、加熱部によって供給される燃焼ガスが黒鉛坩堝12と炉壁11との間の間隙を通って上昇するときに発生する燃焼排ガスが供給される。また、上部に設けられた開口を通して、被溶解材を黒鉛坩堝12内のインナーケース16内に投入することが可能である。
【0028】
また、材料予熱タワー30は、タワー30に固定された台車32をレール34に沿って走行させることにより水平方向(図1において手前から奥の方向)に平行移動できるように構成されている。これにより、材料予熱タワー30は、必要に応じて坩堝の開口部12b真上の位置から離れた位置に(すなわち、タワー30が坩堝の開口部12bを覆わないように)配置され得る。
【0029】
また、保持炉20は、坩堝の形状に合わせて全体が円柱状をなす炉室を形成する炉壁21と、炉室内に設置され、出湯樋14を介して溶解用黒鉛坩堝12から流れ出た溶湯を保持する保持用黒鉛坩堝22と、この保持用黒鉛坩堝22を加熱するためのバーナ口28とを有する。保持用黒鉛坩堝22には、熱電対デバイスなどを利用した温度測定装置が取り付けられる。これにより、測定された溶湯温度に基づいてバーナの火力を調節して、溶湯を適切な温度に保持することが可能である。本実施形態の保持炉20の構成においては、溶解されたアルミニウムは、保持用坩堝炉22をバーナで加熱することにより間接加熱で保持されるため、過昇温により酸化したり、水素ガスを吸収したりする可能性が低減される。さらにガス吸収を低減するために、坩堝22上には炉蓋24が設けられていてもよい。
【0030】
また、このように保持用坩堝炉を設けた構成にすることにより、溶解装置のメンテナンスを溶解用坩堝炉及び/又は保持用坩堝炉の交換によって行うことが可能になるので、炉室に固着した酸化アルミニウムの掃除などの面倒な作業を行う必要がなくなる。
【0031】
なお、保持炉20の炉室(すなわち、炉壁21と坩堝22との間の間隙)は、出湯樋14近傍に形成された空間である連絡部40を介して溶解炉10の炉室と連通している。このようにすれば、保持炉20の炉室において発生した燃焼排ガスもまた、予熱タワー30内部に供給され得るので、予熱タワー30における予熱効果がさらに向上する。
【0032】
また、上述の炉壁11及び21は、溶湯と直接接触しないので、例えばセラミック系の断熱材で内張することも可能である。セラミック系断熱材は軽量材のため蓄熱量が少なく、炉壁からの放熱量を小さくすることができるので省エネルギーを実現できる。
【0033】
以下、図2A〜図2Cを参照して上記のように構成された溶解装置100の使用方法を説明する。なお、図2A〜図2Cは、図1のX−X線に沿った断面に対応している。
【0034】
図2Aに示すように、まず、溶解用坩堝12の開口部12b上方に吊り上げられた状態のインナーケース16を、吊り上げ/吊り下げ手段などを用いて溶解用坩堝12に対して下降させる。また、この工程において、材料予熱タワー30は、インナーケース16の下降を妨害しないように、溶解用坩堝12の開口部12bから離れた位置に適切に配置されている。なお、溶解用坩堝12内のアルミニウム溶湯5は、燃焼バーナ等で坩堝12を加熱することにより、好適には約650〜660℃に保持されている。
【0035】
次に、インナーケース16を溶解用坩堝12内部に収納して、ケース下部を加熱されたアルミニウム溶湯5内に浸漬させる。これにより、坩堝12内のアルミニウム溶湯5は、連通孔17を通ってインナーケース16内に流入する。好適には、図2Bに示すようにインナーケースのフランジ部16dを坩堝の開口端12a上に載置させるなどして、インナーケースの底部が坩堝12の内側底面に接触しないような状態に維持される。
【0036】
次に、材料予熱タワー30を使用して被溶解材を投入するために、インナーケース16に設けられた吊り部(例えばアイボルト)を、吊り上げ/吊り下げ手段(例えばリフトに連結されたカギ付きワイヤ)から取り外した後、材料予熱タワー30を坩堝12の開口部12b上の位置に移動させる。上述したように、予熱タワー30は無蓋無底の筒型で形成されているので、このように坩堝12及びインナーケース16の真上を覆うように配置された場合にも、材料予熱タワー30の上部開口を通して被溶解材3をインナーケース16の内に投入することが可能である。図2Bは、被溶解材3が投入された状態を示す。好適には、予熱タワー30の内径は、インナーケース16の内径以下のサイズになるように設計されている。
【0037】
このように、材料予熱タワー30を利用して、インナーケース16の容量以上の被溶解材3をインナーケース16内に連続的に供給することができる。また、予熱タワー30内に存在する被溶解材3は、溶解炉及び保持炉の炉室から供給される燃焼排ガスによって予熱される。従って、被溶解材3の溶解をより効果的に行うことが可能になる。また、予熱タワー30内で加熱された被溶解材3は付着していた油分や水分が燃焼されるので、予めこれらを取り除いておく工程を省略することが可能になる。
【0038】
さらに、バーナ等で溶解用坩堝12を加熱してアルミニウム溶湯5に熱を与えることにより、インナーケース16内のアルミニウム溶湯5に浸漬された被溶解材(鉄部品付きアルミニウム材料)が、その外側から順次溶解される。また、インナーケース16の浸漬によって黒鉛坩堝12内の溶湯5は、溶湯出湯口13から溢れ出て、出湯樋14を介して保持炉20の保持用坩堝22へと排出され得る。
【0039】
ここで、被溶解材3が溶解される過程で、溶湯5に浸漬されたアルミニウムが溶解するにつれ、溶湯表面より上の未溶解状態の被溶解材が自重により溶湯内に浸漬するので、インナーケース16内の溶湯5には、未溶解アルミニウムの一部が自動的に供給されることになる。このように、インナーケース16内の溶湯5には、固体(未溶解)アルミニウムが常に存在していることが望ましい。なぜなら、固体アルミニウムが存在する場合において、燃焼ガス等により溶湯に与えられる熱の一部は、固体アルミニウムの融解熱(94.8cal/g)として消費されるので、アルミニウム溶湯5の温度は、アルミニウムの融点近傍(約650℃〜660℃)の温度にほぼ一定に保持されるからである。ここで、被溶解材に含まれる鉄の融点は、約1540℃であるが、アルミニウム溶湯の温度が約670℃を超えると、溶湯に鉄成分が混入する可能性があることが見出されている。また、670℃のアルミニウム溶湯に対して混入する鉄成分はごくわずかであるが、溶湯の温度が670℃を超えてさらに上昇するにつれて、鉄成分が混入する割合も比例的に高くなることがわかっている。従って、インナーケース内の鉄部材の溶け込みを防止するためには、アルミニウム溶湯を670℃未満に維持することが重要であり、なるべく鉄成分の少ない(純度の高い)アルミニウム溶湯を得るためには、アルミニウム溶湯を出来るだけ670℃未満の温度に近づけることが重要である。
【0040】
固体アルミニウムが溶解した後、インナーケース16をアルミニウム溶湯5から引き上げる。ここでは、まず、予熱タワー30を、図2Bに示すような坩堝の開口部12b真上の位置から、図2Aに示すような離れの位置にスライド移動させ、その後、吊り上げ/吊り下げ手段をケース上部に設けられた吊り部に連結して、インナーケース16を吊り上げる(図2C)。インナーケース16内のアルミニウム溶湯は、インナーケース16を溶湯5から引き上げる際、連通孔17を介して黒鉛坩堝12内へと排出される。この後、インナーケース16の底に残存する鉄部品3aを除去する。
【0041】
このように、アルミニウム部品と鉄部品との分離は、アルミニウム融点付近での低温熔解を行い、溶湯内から鉄部品を除去することによって、短時間に容易に行われ得る。本実施形態のように、黒鉛坩堝炉を使用すれば、純度の高いアルミニウムの回収が容易に確実に実現する。これは、黒鉛坩堝が、高い耐熱衝撃性、高温伝導性およびアルミニウムに対する非反応性を有しており且つ坩堝炉を用いているので溶湯を間接加熱できるからである。
【0042】
また、図1に示すように、被溶解材料から選択的に溶解されたアルミニウム(溶融アルミニウム)は、出湯口13を出て出湯樋14を流れ、保持用坩堝22内に収容される。出湯樋14を流れる溶融アルミニウムは、好適には連絡部40を通過する燃焼排ガスによって適切に加熱される。また、保持用坩堝22内に収容された溶融アルミニウムは、加熱部28により保持用坩堝22を加熱することによって間接加熱され、適切な温度に保持される。このようにして、溶融アルミニウムを保持用坩堝内において保持すれば、水素ガスが吸着することや過昇温の状態になることが防げるので、高品位の溶融アルミニウムを得ることが出来る。
【0043】
また、本発明の溶解装置によれば、一度に比較的少量のアルミニウムが保持用坩堝22に流れ込む場合にも、良好な溶融アルミニウムを得ることが可能である。例えば、比較的少量の溶融アルミニウムが、従来の溶解装置のように燃焼室中を流れる場合等においては、少量故に比表面積が大きいので、溶融アルミニウムは水素ガスを吸収し易いと考えられる。また、燃焼室中において燃焼ガスによる温度変化を受け易いので、過昇温又は凝固した状態になり易いと考えられる。これに対して、本発明の溶解装置の構成においては、溶融アルミニウムは直接加熱されることなく、出湯樋を介して移送され、保持用坩堝内に収容されるので、比較的少量の溶融アルミニウムであっても、このような水素ガス吸収及び温度による状態変化を防ぐことができる。
【0044】
さらに、このような構成にすることにより、容易に且つ低コストで溶解装置のメンテナンスを行うことが可能である。例えば、酸化アルミニウムが生成された場合にも、これを取り除くために例えば炉室の内部などを掃除する必要はなく、坩堝を炉外へ取り出して掃除するか、または新たな坩堝に交換するだけで足りる。
【0045】
また、従来の溶解装置において、例えば、被溶解材を、ワイヤで直接つるしたり、ワイヤに固定接続されたバスケットに収納したりすることにより溶湯内に浸漬させる場合に、一度に処理できる被溶解材を比較的少量にせざるを得ないこともあった。また、被溶解材の予熱という点に関しても、十分であるとはいえなかった。これに対し、本実施形態の溶解装置のように、坩堝上に移動可能な予熱タワーを設ける構成にすれば、このような問題も解決できる。
【0046】
上述のようにして、鉄部品付きアルミニウム材料からアルミニウム材料が選択的に溶解されたアルミニウムが保持用坩堝において得られる。得られた溶融アルミニウムから再生地金を生成すれば、品位の高いアルミニウム地金が得られる。アルミニウム溶湯からアルミニウム地金を得るためには、公知の方法を用いることができる。
【0047】
このように、本実施形態の溶解装置によれば、費用を比較的安く、容易にかつ高い純度で、鉄部品付きアルミニウム材料からアルミニウム材料のみを溶解及び保持することが可能になる。これにより、純度の高いアルミニウム再生地金を得ることが可能になる。
【0048】
(実験例)
以下、鉄部品付きアルミニウム材料からアルミニウムを分離(すなわち、鉄部品を除去)する実験例を説明する。
【0049】
実験例においては、インナーケース16として、鉄板製で、側壁にパンチメタル状に直径約30mmの孔を多数設けた無蓋有底筒型のものを使用した。また、インナーケース下部16bの溶湯浸漬部を耐熱塗料で被覆した。
【0050】
また、被溶解材として、極細線の鉄製スプリングが組み込まれた油付き回収アルミニウム製品と、アルミニウム低圧鋳造の工程において生じた鉄製金網付きの溶融アルミニウムを押し湯するための部材とを使用した。
【0051】
上記被溶解材を収容したインナーケース16を、黒鉛坩堝12内に出湯口13に達する量だけ収容され燃焼バーナにより加熱しておいたアルミニウム溶湯5に浸漬させた。インナーケース16の浸漬により、黒鉛坩堝12内の溶湯5は、インナーケース16内に流入するとともに、溶湯出湯口13から溢れ出て、出湯樋14を流れて保持炉20の保持用坩堝22へと排出された。
【0052】
この工程で、固体アルミニウムがインナーケース内の溶湯内に残存している間は、溶解温度は約660℃に保持されたまま、被溶解材が溶解された。溶湯内の固体アルミニウムが全部溶解した後、インナーケース16をアルミニウム溶湯5から引き上げ、インナーケースの底部に残存する未溶解物を回収した。未溶解物を調べた結果、インナーケースの底部に残存した鉄製のスプリングと金網とは、概ね原型のままであった。従って、インナーケース内の鉄部材は、アルミニウム溶湯の中には、実質的に溶け込んでいないことがわかった。また、インナーケースとして使用した鉄板表面の被覆は異常がみられず、鉄板からの鉄の溶け込みもないことが確認された。
【0053】
以上のように、本実施形態の坩堝炉によれば、少なくとも以下の利点を得ることが理解される。
【0054】
(1)鉄部品付きアルミニウム材料を、容易に鉄部とアルミニウム部とに分離し、安定して純度の高い溶融アルミニウムを得ることができるので、アルミニウム再生地金として回収できる。
【0055】
(2)黒鉛坩堝炉という簡易の設備で品位の高いアルミニウム材料が回収できるので、アルミニウムリサイクルコストを低減できる。
【0056】
また、図1に示すような材料予熱タワーを利用すれば、一度の比較的多量の被溶解材を効率よく溶解できるとともに、油付きアルミニウム材料も除油することなく溶解できるという利点も得られる。また、被溶解材との熱交換によって、炉外に排出される燃焼排ガスの温度は低下されるので、作業環境の向上にもつながる。
【0057】
なお、本実施形態では、鉄部品付きアルミニウム材料からアルミニウム材料のみをアルミニウム溶湯中に溶解し、これにより、純度の高いアルミニウム地金を得るための実施形態を例示したが、同様にして、アルミニウムをそれより高い融点を有する他の金属から分離回収することも可能である。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、容易に且つ安い費用で、アルミニウムをそれより高融点の金属から分離し及びこれを保持する溶解装置が提供される。また、本発明による溶解装置を用いて、純度が高く、高品位なアルミニウム再生地金を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態による溶解用坩堝及び保持用坩堝を備える溶解装置を示す断面図である。
【図2】図1に示す実施形態の溶解装置の使用方法を説明する図である。図2A〜図2Cは、溶解装置の使用における各工程を示す図であり、図1のX−X線に沿った断面に対応している。
【符号の説明】
10 溶解用坩堝炉
11 炉壁
12 溶解用黒鉛坩堝
12a 開口端
12b 開口部
13 出湯口
14 出湯樋
16 インナーケース
16a ケース上部
16b ケース下部
16c ケース底部
17 溶湯連通孔
18 燃焼バーナ口
20 保持用坩堝炉
21 炉壁
22 保持用黒鉛坩堝
24 炉蓋
28 燃焼バーナ口
30 材料予熱タワー
32 台車
34 レール
40 連絡部
100 溶解装置

Claims (2)

  1. アルミニウムをそれより高融点の金属から分離し回収するための溶解装置であって、
    溶融金属を収容可能であり、側面に排出口を有する溶解用坩堝と、
    該溶解用坩堝内に収納可能であり、内側に非溶解状態の金属を収容でき、内部空間を該溶解用坩堝内部と連通させる連通孔を有したインナーケースと、
    前記溶解用坩堝の排出口を通って排出される溶融金属を受け入れる保持用坩堝と、
    前記溶解用坩堝及び保持用坩堝を断熱的に囲む炉壁と、
    該炉壁と該溶解用坩堝及び保持用坩堝との間に加熱用ガスを供給する加熱部とを備え、
    上下に開口を有し、前記溶解用坩堝の開口部上方の位置と該開口部上方位置から離れた位置との間に移動可能とされ、前記開口部上方に位置するときに、前記溶解用坩堝の加熱に使用された前記加熱用ガスを下部開口から内部に導入する予熱タワーをさらに備えることを特徴とする溶解装置。
  2. 前記アルミニウムより高融点の金属は鉄であることを特徴とする請求項1に記載の溶解装置。
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