JP4210353B2 - 股関節全置換用鞍状人工関節 - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、大腿内に挿入可能な幹軸部とこの幹軸部と結合される鞍形部分 (Sattelteil) とを備えており、この鞍形部分が少なくとも二つの自由度をもって幹軸部に対して旋回運動可能であり、かつ骨盤骨の部分ための支持面を備えた鞍形凹部を有している様式の股関節全置換用鞍状人工関節（ Sattelprothese) に関する。
【０００２】
【従来の技術】
本出願人のヨーロッパ公開特許公報第０ ３００ １３１号から既に鞍状人工関節が知られている。この鞍状人工関節にあっては、鞍形部分は本質的に脚長手方向に指向していて幹軸部の縦軸線に対して平行に位置ずれしている鞍形部横軸線を中心にして幹軸部に対して旋回可能、即ち幹軸部に対して自由度をもって旋回運動可能であり、これにより脚の外旋／内旋が可能となる。脚の他の旋回運動、即ち屈曲と伸展もしくは外展および内展はこの鞍状人工関節にあっては、骨盤骨と鞍形部分−この鞍形部分の鞍形凹部が偏平かつ開放して形成されている−間の運動によって行なわれ、従ってこれらの部分の長手方向の運動も、これらの部分に対する横方向の運動も可能である。
【０００３】
人工関節内での外旋／内旋を可能にする旋回関節との組合せにあっては、脚の良好な運動可能性が誘起され、この運動可能性は球形関節の運動可能性に類似しており、この様式の鞍状人工関節の実際の使用にあって極めて良好な結果をもたらす。臨床における試験および使用にあってもちろん、鞍形部分が鞍形凹部の形状が比較的開放された状態の形態で形成されているので術後の第一月の間に、鞍形部分の骨化した位置から移動して抜出してしまうか或いは飛出してしまうと言う傾向があることも確認されている。この現象は時間が経た後はもはや生じない。何故なら、一般に蜜な組織皮膜が金属製の鞍形部分の周囲に形成され、この組織皮膜が更に多くの場合骨化してしまうからである。
【０００４】
鞍形部分上での骨盤骨の支持面或いは載置面が比較的小さいので、僅かな規模で骨盤骨内での鞍形部分の上方に指向した移行運動も誘起されるか、或いは骨に対する超荷重により臼蓋の上方における骨盤骨の骨折も誘起される。
更に、上記の公報には冒頭に記載した様式の鞍状人工関節も提案されているが、この鞍状人工関節は鞍形部分と幹軸部との間で鞍形部分の下方に設けられている球形関節を付加的に備えており（図１７参照）、鞍形部横軸線に対して傾斜している他の軸線を中心とした旋回運動を制限されていはいるが許容し、従って鞍形部分は幹軸部に対して三つの自由度をもって旋回運動可能である。しかし、二つの関節を相対して、即ち球形関節の一方と関節の他方に対して、開放された形態で形成された鞍形部分と骨盤骨との間で設けられていることは、鞍形部分の不安定性をまねき、この不安定性により鞍形部分が傾倒してしまうことがあるので、このような鞍状人工関節の実際の使用は妨げられる。
【０００５】
【発明が解決しようとする課題】
上記の公知技術を基礎として本発明の根底をなす課題は、鞍形部分の不安定性および傾倒が阻止され、同時に鞍形部分からの骨盤骨の移動脱落或いは飛出しおよび／または鞍形部分の骨盤骨内での上方への遊動および／または鞍形部分の上方での骨盤骨の折損に対する防護を可能にする、冒頭に記載した様式の鞍状人工関節を開発することである。
【０００６】
【課題を解決するための手段】
上記の課題は、本発明により、鞍形部分（６）が幹軸部（４）に対して、二つの旋回軸線（６６，９６）を中心にして旋回運動可能であり、この二つの旋回軸線のうちいずれもが鞍形部分（６）のＵ字形に湾曲した底部として形成されている支持面（９０）の上方に存在していることによって解決される。
即ち、本発明にあっては、幹軸部に対する鞍形部分の旋回運動が、大腿の屈曲／伸展の際におよび／または外展／内展際に鞍部の支持面の上方に存在している旋回軸線を中心にして行なわれる。
【０００７】
本発明の根底をなす思想は以下の点に、即ち鞍形部分を公知技術におけるように鞍形部分の下方で旋回運動可能に支持するのではなく、この鞍形部分をその支持面の上方で、即ち鞍形部分内の骨盤骨の重力を受容する載置面の上方で懸架し、従って重力の骨盤骨から鞍形部分への荷重伝達がこの懸架の下方で行なわれ、これにより人工関節を介して体重の一部分が支持される際鞍形部分は重力の作用方向に相応して常に安定した位置を占め、従って傾倒が生じることはなく、上記の旋回軸線を中心とした旋回運動は阻害それることはないと言う点にある。
【０００８】
鞍形部分内で行なわれる懸架により、大腿骨の旋回運動のためのおよび確実な力伝達のための前提条件が得られる。鞍形部分が上方へと遊動しないようにするためには、或いは骨盤骨の折損が生じないようにするためには、鞍部は可能な限り幅広く形成され、これにより荷重が大きな面を介して伝達可能でなければならない。
【０００９】
更に、両鞍形角状部は、鞍部が骨盤骨内の盆地から移動して抜出たり、或いは飛出したりしないように、僅かに収斂して形成されていなければならない。この二つの構成−鞍部の幅広の載置面と僅かに収斂した鞍形角状部−は公知技術から知られている鞍状人工関節にあっては、骨と鞍形部分間の運動可能性の制限を招くことになる。幅広い載置面と僅かに収斂した鞍形角状部との構成を断念する必要がなく上方の運動可能性の制限を解消するために、全部で三つの運動の自由度−この運動は鞍状人工関節から伝達されなければならず、本来球形関節によってのみ可能である−は骨と鞍形部分間の関節形成から出発して、人工関節的な構造に移行されなければならず、この場合この運動はこれによって不安定となってはならない。
【００１０】
ここで可能な構成として考えられることは、大腿の屈曲と伸展に、もしくは外展と内展に必要な旋回軸線の一つのみを、特に相対している鞍形角状部間を通って走っている旋回軸線を人工関節自体内に移動させ、他方の旋回軸線を鞍形凹部の表面上にそのまま残し、その際このそのまま残された旋回軸線は、特に両鞍形角状部の一つから横方向で鞍形凹部を経て他方の鞍形角状部へと延在していることである。これにより一方では鞍形部分に載った骨盤骨が支持されている支持面が著しく拡大され、これにより鞍形部分上での骨盤骨の上方への遊動および／または折損の可能性が僅かとなり、他方では鞍形角状部の収斂率が僅ですみ、これにより臼蓋内での骨盤骨の縁部部分の良好な案内が行なわれ、従って骨盤骨の鞍形角状部からの術後の移動脱出或いは飛出しが起こる可能性が僅かとなる。鞍形 部分内でこのように骨盤骨を旋回可能に支持した際、および幹軸部に鞍形部分を旋回可能に懸架した際、運動可能性が制限されはするが、臼蓋と骨間の関節内における、荷重を受容する幅広い面と収斂率が僅かな両鞍形角状部を備えた臼蓋により、両軸線が本質的に垂直方向で整向された際、屈曲／伸展時でも、また外展／内展時でも並びにこれらの二つの運動の組合せ時でも、良好な運動可能性が達せられる。しかも、横方向で鞍形角状部を経て一方の鞍形角状部から他方の鞍形角状部へと延在している旋回軸線のみを人工関節自体内に移動させ、互いに相対している鞍形角状部間を通る旋回軸線を鞍形凹部の面上にそのまま残すことも可能である。
【００１１】
本発明による優れた構成により、屈曲／伸展と外展／内展とを組合わせた運動に必要な二つの旋回運動軸線の両軸線を人工関節内に移動させ、これにより荷重を受容する支持面のより以上の拡大および／または鞍形角状部間に存在している鞍形凹部のより以上の縮小が既に上記した処置により達せられる。
【００１２】
鞍形部分をカルダン継手様式で懸架するのが有利であり、このカルダン継手様式での状の懸架の場合鞍形部分は特に環状セグメント内に旋回可能に支承されることとなり、この環状セグメント自体はこれとは無関係に保持部のフオーク状部内に旋回運動可能に支承されている。このカルダン継手様式での懸架は、一方では幹軸部と大腿とを屈曲／伸展運動と外展／内展運動とを組合わせた運動にあつて二つの自由度と比較的大きな旋回角度をもって鞍形部分に対して旋回させることを許容し、他方では手術の際鞍形部分を骨盤骨と、患者の解剖学的所見、例えば部分的に壊死した骨盤骨と最も良く合体できる整向状態で係合させることを可能にする。
【００１３】
本発明の他の優れた構成により、保持部はフオーク状部でもって実質的に脚縦軸線と一致する旋回軸線を中心にして付加的に鞍形部分に対して旋回可能であり、これにより大腿の骨盤に対する外旋／内旋も可能となり、自然な股関節の脚運動可能性に広く相応する脚運動可能性が患者に与えられる。
骨盤骨は人工関節内において三つの旋回自由度を有しているにもかかわらず、なお鞍形部分内においては制限されてはいるが旋回可能にし、これにより場合によっては人工関節の構造によって与えられる制限された旋回角度を拡大することが可能である。鞍形部分内での骨盤骨の旋回可能性は例えば、骨盤骨と鞍形角状部の相対している内面間の比較的大きな中間空域を設けるかおよび／またはこの内面を研磨し、骨の成長を阻止することによって達せられる。しかしまた他方にあっては、骨盤骨を鞍形部分内で適当に案内するか或いは定着することにより十分かつ完全に固定し、鞍形部分からの骨盤骨の移動脱出或いは飛出を確実に阻止することも可能である。
【００１４】
案内部は骨盤骨の対置された骨表面に対して当接しかつ鞍形部分内で骨盤骨が支持される支持面を介して結合されている、互いに相対している案内面を有しているのが有利である。この案内部は特に環状に形成されており、Ｕ−字形の断面を有しており、その際鞍形角状部の互いに面し合った内側が案内面を形成している。
【００１５】
鞍部の形成を、解剖学的に適切に、場合によっては自然の形状に忠実な骨盤モデルの製造後、鞍部の内面がすべての位置において骨に当接するようにし、更にこの臼蓋を骨が成長する表面で被覆するようにして行うことも可能である。後者の場合定着は特に、鞍形角状部の骨に対して当接する内側および／または支持面に非平坦な骨成長表面を形成することにより行なわれ、これにより骨と鞍形部分間の永続的な結合が達せられる。支持面に支持されかつ案内部に係合する骨盤骨の縁部部分を骨セメントで或いはねじを使用して鞍形部分に定着することも可能である。その際ねじは横孔内に挿入され、この横孔はを鞍形角状部の一つを貫通して形成されかつ鞍形凹部の相対している側面上に内ねじ山を有する面一な袋孔として終わっている。
【００１６】
人工関節と骨盤骨とが協働作用を行なった際に可能な限り大きな旋回角度が得られるようにするため、本発明による他の構成により、カルダン継手様式での懸架の両旋回軸線の一方の軸線が、縦軸線に対して平行に、鞍形部分の相対している両鞍形角状部間を貫いて、特に鞍形部分をそれぞれ一つの鞍形角状部を備えた二つの半径部分に分割している対称面内で延在しており、他方の旋回軸線が特にこれらに対して垂直方向で、両鞍形角状部を鞍形凹部の縦軸線に対して横方向で貫いており、同様に鞍形部分の対称面内に存在している。旋回軸線は特に、鞍形部分の重心を通るか、或いは鞍形部分の上方で交差しており、これにより両軸線を中心とした旋回運動は鞍形部分の自重により回避される。
【００１７】
旋回軸線は、所望の三つの運動自由度を得るために、根本的に必ずしも互いに交差している必要はない。
しかし、本発明の他の有利な構成により、三つの軸線が特色ある整向を有している。何故なら、この場合脚の旋回および／または捻転が行なわれた際の運動経過が先ず第一に解剖学的な大腿関節内の自然な運動経過に相当するからである。
【００１８】
鞍形部分内の領域内における人工関節の構造大きさおよびその懸架部を最小寸法に留めるために、本発明による他の有利な構成により、両旋回軸線の一方の軸線を中心とした鞍形部分の旋回可能性は、環状セグメントがこの環状セグメントに適合するように同様に環状に形成されている外側の案内溝内で鞍形部分の下側において摺動可能に支承されていることによって達せられ、他方両旋回軸線の他方の軸線は旋回支承部を通って定まっており、この旋回支承部内には保持部のフオーク状部が旋回可能に支承されている。一方において案内溝を通って、他方において旋回支承部を通って定まっている旋回軸線は互いに対して垂直方向に指向している。特に、案内溝は鞍形凹部の縦方向で指向している旋回軸線に対して同心的に、鞍形部分の球形に円味を附して形成されている外側面で切欠きにより形成されており、その際この案内溝は２６０から３１０°、特に２７０から３００°の角度で延在しており、他方環状セグメントは特に約１８０°の周角度で延在しており、従って環状セグメントは中心位置から両側方の位置へと約４５から６０°だけ鞍形部分に対して旋回可能である。
【００１９】
本発明による人工関節は特に、多数の解離可能に結合されている部分から、しかも鞍形部分、この鞍形部分の案内溝内で摺動可能な環状セグメント、フオーク状部−この中に環状セグメントが懸架されている−を備えた保持部、旋回軸線を中心として旋回可能に保持部の幹軸部と結合されている−患者の解剖学的に異なる性状に関しておよび鞍形部分の取付け位置の相違に関して長さを補正するための−中間部材並びにこの中間部材が特に剛性に固定されている幹軸部とから成る。
【００２０】
以下に添付した図面に図示した発明の実施の形態につき本発明を詳細に説明する。
【００２１】
【発明の実施の形態】
図面に図示した鞍状人工関節２は、本質的に幹軸部４とカルダン継手の様式で懸架されている鞍形部分６とを備えており、この鞍形部分６のカルダン継手の様式での懸架は実質的にフオーク状の保持部８とこの保持部８のフオーク状部１０内に旋回可能に支承されている環状セグメント１２とから成る。この環状セグメントは鞍形部分６の下側の案内溝１４内を滑動するように支承されている。鞍状人工関節２は更に幹軸部４上に載っている中間部材１６を備えており、この中間部材上で保持部８が本質的に脚長手方向軸線と一致している旋回軸線１８を中心にして旋回可能に支承されている。
【００２２】
幹軸部４は本質的に長く延びている幹軸２０、この幹軸２０の上端部に設けられているカラー２２と中間部材１６のための、上方へと傾斜してこのカラー２２から突出している切頭円錐形の固定ピン２４とから成り、その際部分２０，２２および２４は互いに一体的に結合されている。
幹軸２０は（図示していない）大腿の相応して処置された骨髄腔内に導入可能であり、骨セメント或いはセメントを使用することなく嵌合わせにより骨成長面と定着可能である。この際カラー２２は幹軸２０に面している平坦な下側面２６で大腿の相応して切除された上端部に支持される。幹軸２０は骨髄腔の湾曲に相応して内方向に幾分湾曲しており、その自由端の方向で先細りに形成されている。
【００２３】
カラー２２は側方の引抜き孔２８を備えており、この引抜き孔は骨髄腔の処置の間試験的にこの中に導入された幹軸２０の引抜きを容易にする。カラー２２は幹軸２０から上方へと離れるにしたがって先細りに形成されており、その際カラーは大体円筒形の中間部分３０内に移行している。この中間部分の直径は切頭円錐形の固定ピン２４の下方の比較的幅広い端部の直径に相当する。
【００２４】
カラー２２から上方へと離れるにしたがって先細りに形成されている固定ピン２４は中心軸線３２を有しており、この中心軸線は偏位した面内で旋回軸線１８に対して約３５°の角度で傾斜している。固定ピン２４はその自由端において平坦な端面３４を備えており、この端面内に固定ピン２４の中心軸線３２に対して平行な、偏心して形成されている袋孔３６が開口している。
【００２５】
この袋孔３６は円筒形ボルト３８を収容する。この円筒形ボルトは、中間部材１６の固定ピン２４を収容しかつこの固定ピン２４の形状に即応している切頭円錐形の切欠き部４２の内端面４０から突出しており、この切欠き部４２の底部と一体的に結合されている。袋孔３６とこの袋孔内に遊びなく嵌合している円筒形ボルト３８は共に旋回阻止部を形成しており、この旋回阻止部は幹軸部４上での中間部材１６の旋回を阻止している。
【００２６】
中間部材１６は凸状に円味を附された外面と旋回軸線１８に対して垂直で平坦な上端面４４を備えており、この上端面上に保持部８の補完的な下端面が支持されている。円筒形の旋回ピン４６は中間部材１６の上端面４４から突出している。旋回ピンは旋回軸線１８を中心にして旋回可能であり、軸線方向では摺動不能に保持部８の相応して嵌合するように形成されている収容孔４８に係合している。旋回ピン４６と保持部８の円筒形の幹軸５０内の収容孔４８は、それらの互いに隣接している周面においてかつ互いに相応する位置に相対している周溝５２，５４を備えている。これらの周溝内に安全リング５６が挿入されており、この安全リングは旋回ピン４６が収容孔４８から抜出るのを阻止するが、しかし保持部８と中間部材１６の−カルダン継手の様式での懸架の第一の旋回軸線１８を形成している−旋回軸線１８を中心とした相互に邪魔し合うことのない旋回を可能にする。
【００２７】
保持部８は本質的にフオーク状に形成されている。この場合フオーク状部１０は保持部８の幹軸５０とおよび互いに一体的に結合されている二つのフオーク状部分５８，６０とから成り、これらのフオーク状部分は実質的に１／４扇形の形状で湾曲して形成している。フオーク状部分５８，６０の断面は図３に示すように正方形であるか、或いは選択的に円味を附された縁部或いは境界面を有している。
【００２８】
フオーク状部分５８，６０の自由端には、フオーク状部１０に対する旋回軸線１８の垂直方向での整向の際に同心状となる環状セグメント１２のためのそれぞれ一つの旋回支承部６２，６４が存在している。両旋回支承部６２，６４の旋回軸線６６は互いに同一面に存在しており、カルダン方式での懸架の第二の旋回軸線６６を形成している。
【００２９】
図２から見られるように、両旋回支承部６２，６４はフオーク状部分５８，６０の自由端に形成されているそれぞれ一つの横孔６８を備えている。この横孔は環状セグメント１２内の相対しているねじ孔７０と面を同じくしており、その際それぞれ一つの旋回ボルト７２は前方のねじ山部分７４でねじ山孔７０内にねじ込まれており、後方の円筒形の軸部分でもってフオーク状部分５８，６０の横孔６８内に旋回可能に支承されている。旋回ボルト７２がその座から脱出しないように、ねじ山部分内へのねじ込が行なわれる以前に僅かな量の二成分接着材がねじ孔７０内に注入される。
【００３０】
旋回ボルト７２は拡大されて頭部７６を備えており、この頭部は一方ではねじ込みを容易にし、他方では横孔の環状肩部７８に対して当接することにより環状セグメント１２とフオーク状部１０とを本質的に一定している間隔に保持する。 環状セグメント１２はフオーク状部１０と同様に１８０°の周角度で延在している。この際このフオーク状部におけると同様に旋回支承部６２，６４の形成のための自由端は互いに平行に幾分延長されている。旋回軸線６６はフオーク状部１０もしくは環状セグメント１２によって囲繞されている半径環形の底面に沿って直径方向で指向している。
【００３１】
一体的に形成されている鞍形部分６は互いに相対している二つの鞍形角状部８０，８２を有している。これらの鞍形角状部の間で環状の鞍形凹部８４が延在しており、この鞍形凹部は（図示していない）骨盤骨の縁部のための案内部を形成している。鞍形凹部８４はＵ−字形の断面を有しており、その際鞍形角状部８０，８２の互いに面して合っている平行な内側８６，８８は案内面を形成している。この案内面は鞍形凹部８４に係合する骨盤骨の縁部の対抗する骨面を形成している。案内面は鞍形凹部８４のＵ字形に湾曲した底部として形成されている支持面（９０）により互いに結合されており、この支持面に骨盤骨が鞍形部分６内で支持されている。骨盤骨が運動可能に鞍形部分６内を案内されているか或いはこの鞍形部分に対して固定されなければならないかどうかに応じて案内面８６，８８および／または支持面９０は、研磨された、骨の成長を阻止する表面としてか、或いは不斉性な骨の成長を促進する表面として形成されている。
【００３２】
鞍形部分６は、ほぼ平坦な端面９２（図４と図５参照）を備えた球形の外形を、鞍形凹部８４の相対している端面に備えている。鞍形部分の下側および鞍形角状部８０，８２の相対している外側面には、環状セグメント１２のための環状の案内溝１４が切欠きにより形成されている。この案内溝は溝状の鞍形凹部８４の縦軸線に対して横方向で約２７０°の周角度で延在しており、その端面において平坦な当接面９４で区画されている。この当接面は、カルダン継手様式での懸架の鞍形角状部８０，８２の間を通って走っている第三の旋回軸線９６に関して、半径方向に整向されている。案内溝１４と環状セグメント１２は互いに適合し合う断面と平滑な表面とを備えており、従って環状セグメント１２はこの案内溝１４内を摩擦少なく滑動する。環状セグメント１２或いは鞍形部分６は例えば（図示していない）ポリエチレンから成る積層部を備えており、これにより互いに上下位置で滑動する表面間の摩擦が回避される。例えば鞍形部分６内への挿入中間層として使用される上記の積層部の厚みが幾分厚く形成されている場合、この積層部は一方では、鞍形部分６を環状セグメント１２内に係止する働きを行う。環状セグメントの内周を図示した発明の実施の形態と異なって１８０°より幾分大きな角度で形成し、これにより鞍形部分６と環状セグメントとが互いに圧接し合った際挿入中間層が弾性的に変形し、従って引張応力が加わった際、環状セグメントが鞍形部分６から離脱するのを阻止する脱臼防止体として後々働くように、上記の環状セグメントの係止が行なわれるようにするのが有利である。
【００３３】
鞍形部分６のカルダン継手様式での懸架の三つの旋回軸線１８，６６，９６のうちの二つの旋回軸線−即ち鞍形角状部８０，８２の間を鞍形凹部８４の縦軸線に沿って貫通している鞍形部分６と環状セグメント１２の旋回軸線９６−並びに鞍形凹部８４の縦軸線に対して横方向で鞍形角状部８０，８２を通っている旋回軸線６６は、半円筒形の支持面９０の上方に存在しており、従って鞍形部分６は骨盤骨から鞍状人工関節２を経て脚に伝達される重力の方向に関係なく幹軸部４に対して常にその安定した位置で旋回され、従って傾倒が生じるようなことはない。
【００３４】
両旋回軸線６６，９６は鞍形部分６の二つの対称的な面内に存在している。この対称面はこの鞍形部分を縦方向で鞍形凹部８４の中央で、かつこの鞍形凹部に対して横方向で二つの鏡対称的な半部分に分割している。更に、三つのカルダン方式での懸架の三つの旋回軸線１８，６６，９６は鞍形部分６の重点Ｓ内で交差しており、従ってその整向状態に関係なく固有の回転モーメントは鞍形部分６に作用しない。
【００３５】
鞍形部分６、環状セグメント１２、保持部８、中間部材１６および幹軸部４は生体に適合する移植材料、例えばＣｏＣｒＭｏ−合金から成り、解離可能に互いに結合されている。従ってこれらの部材は、それぞれ多数の長さ寸法が異なる部分の補充材として有効に使用することができ、また患者の解剖学的な所見に従って組立ることが可能である。
【００３６】
鞍状人工関節２の使用の下での股関節全置換にあっては、壊死した或いは罹患した骨領域の除去と幹軸部４のカラー２２の下側面２６のための平坦な載置面を形成するための大腿の上端部の切除を行なった際、先ず大腿の骨髄腔が幹軸部４の幹軸２０を収容するために処置される。引続き骨盤骨が予備処置され、その際壊死した或いは罹患した骨盤骨の切除が行なわれた際の残留した縁部部分或いは鞍形角状部８０，８２を収容するための骨盤骨内で切開されて形成された開口の縁部の一部分が、これらが鞍形凹部８４によって形成される案内部と良好に嵌合し合うように、適合のための処理が行なわれる。その後中間部材１６の長さを、この中間部材１６が鞍状人工関節２を処置するため試行適用する際に、幹軸部４とこれに先立ち鞍形部分６と環状セグメント１２とを組立てることによって一つのユニットに形成されている保持部８との間で最適に適合するような長さに選択される。次いで、選択された中間部材１６を安全リング５６を使用して軸方向で摺動不能に、かつ旋回可能に保持部８と結合し、最後に幹軸２０を大腿内に定着し、鞍形部分６を摺動させて骨盤骨の処置した縁部上に載置した後、脚を伸長し、切頭円錐形の固定ピン４２を、円筒形ボルト３８が滑動して袋孔内に入るように、収容部４２内に導入する。
【００３７】
【発明の効果】
本発明による鞍状人工関節を使用することにより、鞍形部分の不安定性および傾倒が避けられ、同時に鞍形部分からの骨盤骨の移動脱出或いは飛出しおよび／または鞍形部分の骨盤骨内での上方への遊動および／または鞍形部分の上方での骨盤骨の折損に対する防護が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明による鞍状人工関節の優れた実施の形態の正面図である。
【図２】 鞍状人工関節の保持部の一部切り開いて示した正面図である。
【図３】 保持部を上方から見た平面図である。
【図４】 保持部内に懸架された鞍形部分の側面図である。
【図５】 鞍状人工関節の側面図である。
【図６】 図５の切断線５−５に沿った断面図である。
【符号の説明】
２ 鞍状人工関節
４ 幹軸部
６ 鞍形部分
８ 保持部
１０ フオーク状部
１２ 環状セグメント
１４ 案内面
１６ 中間部材
１８，６６，９６ 旋回軸線
２０ 軸
２２ カラー
２３ 中心軸線
２４ 固定ピン
２６ 下側面
２８ 引出し孔
３０ 中間部分
３２ 中心軸線
３６ 袋孔
３８ 円筒形ボルト
４０ 端面
４２ 切欠き部
４４ 上端面
４６ 旋回ピン
４８ 収容孔
５０ 軸
５２，５４ 周溝
５６ 安全リング
５８，６０ フオーク状部分
６２ 支承部
６８ 横孔
７０ ねじ孔
７２ 旋回ボルト
７４ ねじ山部分
７６ 頭部
７８ 肩部
８０，８２ 鞍形角状部
８４ 鞍形凹部
８６，８８ 案内面
９０ 支持面
９２ 端面
９４ 当接面
９６ 第三の旋回軸線

Claims (39)

1. 大腿内に挿入可能な幹軸部とこの幹軸部と結合される鞍形部分とを備えており、この鞍形部分が少なくとも二つの自由度をもって幹軸部に対して旋回運動可能であり、かつ骨盤骨の支持面を備えた鞍形凹部を有している様式の股関節全置換用鞍状人工関節において、鞍形部分（６）が幹軸部（４）に対して、二つの旋回軸線（６６，９６）を中心にして旋回運動可能であり、この二つの旋回軸線のうちいずれもが鞍形部分（６）のＵ字形に湾曲した底部として形成されている支持面（９０）の上方に存在していることを特徴とする鞍状人工関節。
2. 旋回軸線（６６）が鞍形凹部（８４）の長手方向に対して横方向で鞍形部分（６）の二つの相対して形成されている鞍形角状部（８０，８２）を貫通していることを特徴とする請求項１に記載の鞍状人工関節。
3. 旋回軸線（９６）が鞍形凹部（８４）の長手方向で二つの相対して形成されている鞍形角状部（８０，８２）を通って延在していることを特徴とする請求項１或いは２に記載の鞍状人工関節。
4. 旋回軸線（６６，９６）が鞍形部分（６）の少なくとも一つの対称面内に存在していることを特徴とする請求項１から３までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
5. 旋回軸線（６６，９６）が鞍形部分（６）の重心（１００）を通って走っていることを特徴とする請求項１から４までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
6. 鞍形部分（６）が幹軸部（４）に対して支持面（６８）上に存在している二つの異なる旋回軸線（６６，９６）を中心にして旋回運動可能であることを特徴とする請求項１から５までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
7. 両旋回軸線（６６，９６）を中心とした旋回運動が互いに無関係に行なわれるように構成されていることを特徴とする請求項６に記載の鞍状人工関節。
8. 両旋回軸線（６６，９６）が交差していることを特徴とする請求項６或いは７に記載の鞍状人工関節。
9. 両旋回軸線（６６，９６）が或いはこの両旋回軸線（６６，９６）の投影線が一つの面内で直角に交差していることを特徴とする請求項６から８までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
10. 鞍形部分（６）が幹軸部（４）に対してカルダン継手様式の三つの軸線（１８．６６．６９）を中心として旋回可能であることを特徴とする請求項１から８までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
11. 三つの軸線（１８．６６．６９）が支持面（９０）の上方に存在している二つの旋回軸線（６６，９６）と脚長手方向に指向している脚の外旋および内旋のための旋回軸線（１８）によって形成されていることを特徴とする請求項１０に記載の鞍状人工関節。
12. 三つの軸線（１８．６６．６９）がそれぞれ直角に交差していることを特徴とする請求項１０或いは１１に記載の鞍状人工関節。
13. 鞍形部分（６）が幹軸部（４）と結合されているか或いは結合可能な保持部（８）に旋回軸線（６６，９６）を中心として旋回運動可能に懸架されていることを特徴とする請求項１０から１２までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
14. 保持部（８）が幹軸部（４）に対して旋回軸線（１８）を中心として旋回運動可能であることを特徴とする請求項１１から１３までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
15. 保持部（８）が旋回軸線（１８）を中心として旋回運動可能な幹軸部とこの幹軸部から突出しているフオーク状部（１０）とを備えていることを特徴とする請求項１１から１４までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
16. 保持部（８）に旋回可能に支承されて、かつ鞍形部分（６）の環状 の案内溝（１４）内で摺動可能な環状セグメント（１２）が設けられていることを特徴とする請求項１３から１５までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
17. 環状セグメント（１２）が環状の案内溝（１４）内で旋回軸線（９６）を中心とした旋回運動の下で摺動するように構成されており、この旋回軸線が両鞍形角状部（８０，８２）の間を通って延在していることを特徴とする請求項１６に記載の鞍状人工関節。
18. 案内溝（１４）が２６０から３１０°の角度で、特に２７０から３００°の角度で鞍形部分（６）の下側一体にわたって延在していることを特徴とする請求項１６或いは１７に記載の鞍状人工関節。
19. 案内溝（１４）が鞍形部分（６）の球形に円味を附され外側面に切欠くことにより形成されていることを特徴とする請求項１６から１８までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
20. 環状セグメント（１２）が摺動可能に案内溝（１４）内に固定可能であることを特徴とする請求項１６から１９までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
21. 環状セグメント（１２）が１５０から１９０°の円周角で延在していることを特徴とする請求項１６から２０までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
22. 環状セグメント（１２）が１５０から１８０°の円周角で延在していること、および鞍形部分（６）が案内溝（１４）を介してルーズに環状セグメント（１２）に載っていることを特徴とする請求項２０に記載の鞍状人工関節。
23. 環状セグメント（１２）が１８０°よりも大きい円周角で延在しており、鞍形部分（６）の案内溝（１４）内に係入可能であることを特徴とする請求項２０に記載の鞍状人工関節。
24. 鞍形部分（６）が鞍形凹部（８４）が骨盤骨のための案内部を形成していることを特徴とする請求項１から２３までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
25. 鞍形角状部（８０，８２）の相対している内面（８６，８８）が骨盤骨の相対している骨表面のための案内面を形成していることを特徴とする請求項２４に記載の鞍状人工関節。
26. 支持面（９０）が鞍形凹部（８４）の凹状に湾曲されて形成されている底部により形成されていることを特徴とする請求項１から２５までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
27. 鞍形凹部（８４）が溝状に形成されており、Ｕ−字形の断面を有していることを特徴とする請求項１から２６までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
28. 支持面（９０）が鞍形凹部（８４）のＵ−字形に湾曲した底部として形成されていることを特徴とする請求項１から２７までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
29. 案内面および／または支持面の少なくとも一部分が研磨されていることを特徴とする請求項２３から２８までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
30. 案内面および／または支持面の少なくとも一部分が骨成長面として形成されていることを特徴とする請求項２３から２８までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
31. 鞍形部分（６）、環状セグメント（１２）、保持部（８）および幹軸部（４）が少なくともばらばらに解離可能に互いに結合されていることを特徴とする請求項１から３０までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
32. 環状セグメント（１２）と鞍形部分（６）との間および／または保持部（８）と幹軸部（４）との間に脱臼防止部材が設けられていることを特徴とする請求項３１に記載の鞍状人工関節。
33. 幹軸部（４）と保持部（８）との間に中間部材（１６）が設けられていることを特徴とする請求項３０或いは３２に記載の鞍状人工関節。
34. 保持部（８）が旋回運動可能にかつ軸方向で摺動不能に中間部材（１６）と結合されていることを特徴とする請求項３３に記載の鞍状人工関節。
35. 中間部材（１６）が上方に突出している旋回ピン（４６）を備えて おり、この旋回ピンが保持部（８）内の収容孔（４８）内に係合していることを特徴とする３３或いは３４に記載の鞍状人工関節。
36. 収容孔（４８）と旋回ピン（５０）の相対している周溝（５２，５４）内に安全リング（５６）が挿入されていることを特徴とする請求項３５に記載の鞍状人工関節。
37. 中間部材（１６）が幹軸部（４）の切頭円錐形の固定ピン（２４）のための切頭円錐形の切欠き部（４２）を備えていることを特徴とする請求項３０から３６までのいずれか一つに記載の鞍状人工関節。
38. 切欠き部（４２）内での固定ピン（２４）の旋回を阻止する旋回阻止部材が設けられていることを特徴とする請求項３７に記載の鞍状人工関節。
39. 旋回阻止部材が固定ピン（２４）の中心軸線（３２）から間隔をもって設けられていてかつこの中心軸線（３２）に対して平行な袋孔（３６）並びに固定ピン（２４）の中心軸線（３２）から等しい間隔をもって設けられていてかつこの中心軸線（３２）に対して平行で、袋孔（３６）内に遊びなく嵌合している筒状ボルト（３８）を有していることを特徴とする請求項３８に記載の鞍状人工関節。

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