JP4209093B2 - 潤滑油のスラッジ生成性の判定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、蒸気タービン、ガスタービン、コンバインドサイクルに用いられるタービン油等の潤滑油の使用時におけるスラッジ生成性の程度を短期間で判定する潤滑油のスラッジ生成性の判定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、タービン油などの潤滑油に求められる性能には粘度、消泡性、防錆性など種々の性能があるが、中でもタービン油については、スラッジの生成のし易さ(スラッジ生成性)がとくに重要視される。
その理由は、タービン油のスラッジ生成性は、個々のタービン油でその程度に相違が大きいとともに、スラッジ生成がタービンプラントの運用に著しい障害を生じさせるからである。
【0003】
一方、タービン油には、基油の酸化分解を防止して油寿命を延長する効果のある酸化防止剤が添加されており、フェノール系、アミン系、有機金属系の3タイプに大別される。例えば、蒸気タービン油には主にフェノール系酸化防止剤が添加されたタービン油が用いられる。又、ガスタービン油には、軸受部で受ける熱負荷が蒸気タービンに比べて大きいことから、耐熱性の高いアミン系酸化防止剤、或いはアミン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤が併用された混合系酸化防止剤が用いられる。
しかし、ガスタービン油は酸化劣化過程でスラッジが生成し易いという問題を有しており、一般に、アミン系酸化防止剤の劣化変質がスラッジ生成に関係していると考えられている。
【0004】
スラッジ生成は、タービンプラントにおいて、フィルターの目詰まり、油タンク底部へのスラッジ堆積などの悪影響を及ぼすが、特に、スラッジが軸受メタル表面に堆積する場合は、軸受温度上昇という重大なトラブルに発展する危険性がある。
タービン油の使用中にスラッジが生成するかどうかは、主成分である基油の精製度と、一般的に複数の成分が用いられているアミン系酸化防止剤の処方に関係していると考えられている。
しかし、スラッジ生成性を簡単に評価することは難しく、使用前の新油のサンプルを用いて加速劣化試験を行い、スラッジが生成しやすいものか否かを判定する手法の確立が望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、新油のスラッジ生成性の評価方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、このような状況に鑑み、鋭意検討した結果、数週間程度の試験により新油のスラッジ生成性を判定できる方法を見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は、潤滑油の酸化劣化試験を行って劣化油をつくり、該劣化油の濾過残査の重量(A)を求め、該劣化油に含まれる酸化防止剤の分子量分布の変化と、該劣化油のJIS K2514に規定されるRBOT試験によって得られたRBOT残存率のいずれか一方又は両方(B)を求め、前記(A)と、該(B)との関係から、前記潤滑油のスラッジの生成し易さを判定することを特徴とする潤滑油のスラッジ生成性の判定方法にある。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明における、潤滑油のスラッジ生成性の判定方法のフローチャートを図1に示す。
まず、新油のサンプルを酸化劣化試験にかけて劣化油サンプルを得る。
新油及び得られた劣化油の所定量をとり、アルコールで、新油及び劣化油中の酸化防止剤を抽出する。得られた抽出液からアルコールを揮発させて、酸化防止剤濃縮液を得て、酸化防止剤の分子量分布を測定し、解析する。
【0008】
又、新油及び劣化油サンプルの他の一部を取り、RBOT試験を行って、RBOT残存率を求める。さらに、新油及び劣化油の他の一部を取り、フィルターで濾過して濾過残査量測定を行う。
得られた分析結果につき、濾過残査量と、分子量分布又はRBOT残存率の一方又は両方を組み合わせて潤滑油のスラッジ生成性の判定を行う。
以下に、各工程の詳細につき説明する。
【0009】
本発明において、潤滑油酸化劣化試験としては、JIS K2514で規定されるタービン油酸化安定度試験(以下、95℃TOSTという)で実施される酸化劣化試験を採用することができる。但し、この95℃TOSTは、触媒及び水の存在下で、試料に酸素を通じて95℃の温度で酸化させ、規定試験時間後の全酸価、又は、予め定めた全酸価に達するまでの試験時間で評価するものであり、一般的にその試験時間は長く、一般にフェノール系酸化防止剤配合油で2,000時間を超え、アミン系酸化防止剤配合油では10,000時間を超えるものもあることから、本発明においては、評価を迅速に行うため、より高温での加速試験を行うことが好ましい。
【0010】
即ち、潤滑油酸化劣化試験は、酸化劣化試験温度を95〜130℃とし、試料に水を添加することは行わない以外は95℃TOSTに準じて行うことが好ましい。
水を添加しないのは、試験温度が水の沸点以上であるためである。
本発明における酸化劣化試験では触媒を用いると好ましい。触媒を用いる場合、その触媒としては、上記95℃TOSTで用いるものを用いることができ、鋼や銅、具体的には焼き鈍し処理をした鋼線や同様の銅線を好ましく用いることができる。
潤滑油酸化劣化試験は常に一定の条件で試験を行えば、試験温度を95〜130℃の範囲内でどの温度も採用することができ、試料に通す酸素量も任意の酸素流量条件を採用することができる。
【0011】
本発明における潤滑油のスラッジ生成性の判定は未使用の新油と劣化油の性状を比較して行うが、劣化油として、酸化劣化時間の異なる2種以上の劣化油を用いて評価することが好ましい。
潤滑油酸化劣化試験で、潤滑油1種類当たり2以上の酸化劣化時間の異なる劣化油を得るには、95℃TOSTで用いられる試験管より数倍多く試料を入れることのできる試験管を用いて、所定の時間で試料を所定量抜き取って酸化劣化試験を継続してもよく、1つの測定対象当たり複数のバッチで互いに酸化劣化時間の異なる酸化劣化試験を行ってもよい。
しかし、測定対象によっては必要とする最長酸化劣化時間が異なる場合もあり、測定対象となる潤滑油全てについて同一条件で測定できるという観点から、酸化劣化時間ごとに複数のバッチを用意して試験を行うことが好ましい。
【0012】
酸化劣化時間としては、任意の時間を採用可能であるが、最短の酸化劣化時間で、酸化劣化試験前の新油と実質的に全く異ならない性状の劣化油を得たのではあまり意味がない。又、異なる酸化時間で得られる劣化油の性状の差がある程度大きい方がスラッジの生成し易さの傾向を判定するために有利である。
そこで、酸化劣化時間は、それぞれ100〜200時間ごとに設定することが好ましい。
なお、特に限定するものではないが、劣化油の取得をいつも同じ曜日の同じ時間に得ることができるとの観点から、酸化劣化時間を168時間およびその整数倍とすることがより好ましい。即ち、2つの劣化油を得る場合は、168時間と336時間、504時間、672時間のいずれかとの組み合わせ、より多いバッチ数の場合は168時間、336時間、504時間、672時間、840時間・・・に設定することが好ましい。もちろん、測定対象が酸化劣化しやすいタイプのものであれば、これより短い、例えば72時間やその倍数の時間で行ってもよい。
【0013】
具体的には、例えば、潤滑油酸化劣化試験として、95℃TOSTで用いられる装置を用いて、試料360ml、試験温度120℃、酸素流量3.0 l/hrの酸化劣化試験条件を一例として示すことができる。1種類の測定対象(潤滑油)当たり複数のバッチで互いに酸化劣化時間の異なる酸化劣化試験を行う場合、1バッチ当たり上記の酸化条件で行ってもよい。
【0014】
次いで、新油及び得られた劣化油に含まれる酸化防止剤を、アルコールで抽出する操作について説明する。
即ち、新油及び得られたそれぞれの劣化油の所定量を取り、適当量のアルコール、例えば取り出した潤滑油と同量のアルコールを用いて、潤滑油中の酸化防止剤などの添加剤成分を抽出し、得られたアルコール溶液からアルコールを揮発させて、蒸発残査として得られる抽出物をそれぞれ採取する。
抽出に用いるアルコールとしては特に限定されるものではないが、成分抽出後にアルコールを揮発により除去するため、メタノールやエタノールなどの低沸点のものであることが好ましく、抽出操作における油との分離性の点からメタノールであることがより好ましい。
【0015】
このアルコールによる抽出操作は、目的成分を充分に抽出するため、複数回繰り返すことが好ましく、3回程度行うことがより好ましい。
ここで抽出される成分は主として酸化防止剤である。酸化防止剤の種類によって若干の差はあるが、いずれの酸化防止剤もアルコールへの溶解性は良好であるので、3回程度の抽出操作によりで潤滑油中の酸化防止剤はほぼ全量がアルコールで抽出されるので、抽出をそれ以上繰り返さなくてよい場合もある。
【0016】
次に、得られた抽出物につき、分子量分布を測定する方法について説明する。分子量分布の測定法としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCという)分析が簡便で好ましい。
【0017】
ある潤滑油サンプルについて行った新油及び劣化油の抽出物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCという)分析例を図2に示す。
図2は新油1、酸化劣化時間168時間の劣化油2及び、酸化劣化時間672時間の劣化油3のGPCクロマトグラムである。
新油1の主ピークは、この例ではアミン系酸化防止剤を示す分子量約150のピークであるが、酸化劣化とともにこのピーク強度が減少し、分子量分布が高分子側にシフトしている。
これは油の酸化劣化に伴い、アミン系酸化防止剤同士、或いはアミン系酸化防止剤と基油とが重合して行くためである。
なお、ここで、分子量150はアミン系酸化防止剤の分子量を正確に示すものではない。すなわち、既知分子量のポリエチレンを用いて、リテンション時間と分子量の関係(検量線)を求めておき、供試試料のリテンション時間から検量線を用いて分子量を推定した値である。
【0018】
この分子量分布の高分子側へのシフトの状態を示す3つの指標を、本発明におけるスラッジ生成判定方法に用いることができる。
1つめの指標は分子量の累積強度のグラフから求めるものである。
図3は上記GPCクロマトグラムから作成した、分子量の累積強度グラフであり、横軸が分子量、縦軸が累積強度になっている。
図3において、劣化油のグラフは新油のグラフに比べ高分子側にシフトしており、劣化に伴う分子量増加が認められる。
図3に示すΔMは予め設定した累積強度における分子量のシフト量である。このΔMは本発明で用いることのできる劣化指標の一つである。図3に示した例ではΔMは累積強度75%における分子量の増加量である。
このΔMは潤滑油の劣化の状況を示すことができれば任意の累積強度におけるものでもよいが、劣化油がより高分子量側にシフトしている劣化状態を表現するものとして、40〜95%累積強度において求めることが好ましく、75%程度の累積強度において求めることがより好ましい。
【0019】
2つめの指標は分子量分布のグラフから求めるものである。
図4は168時間の酸化劣化試験で得られた劣化油のアルコール抽出物のGPCクロマトグラムである。
図4において、ΔSは分子量600以上の高分子側ピークの酸化劣化による増加量を示している。
図5は672時間の酸化劣化試験による劣化油についての同様のGPCクロマトグラムであり、同様に増加量ΔSが示されている。これらのグラフから明らかなように、酸化劣化に伴いΔSは増加している。
この分子量600をしきい値と呼ぶ。
即ち、潤滑油のアミン系酸化防止剤の分子量(この例では150)と、劣化で生成するより高い分子量の重合物との間の適当な分子量をしきい値(この例では600)とする。そしてこのしきい値より高分子側のピークの酸化劣化による増加量ΔSを、新油の全ピーク面積Sで除して無次元化した値ΔS/Sを、本発明で用いる劣化指標とする。
なお、一般に用いられているアミン系酸化防止剤では、ピークのほとんどが本測定条件下で400未満、フェノール系酸化防止剤を含めても550未満に位置しており、一方、酸化劣化により増加するピークのほとんどが630より大きい側に位置している。よって、しきい値はこの間550〜630の適当な数値、例えば600とすればよい場合が多い。
【0020】
3つめの指標も分子量分布のグラフから求めるものである。
図6〜8は、新油及び酸化劣化時間の異なる2種の劣化油のアルコール抽出物における分子量分布である。
図6は、新油のアルコール抽出物のGPCクロマトグラムである。
図7は、168時間の酸化劣化試験で得られた劣化油のアルコール抽出物のGPCクロマトグラムである。
図8は、672時間の酸化劣化試験による劣化油についての同様のGPCクロマトグラムである。
図6〜8において、S1は上記しきい値より低分子側のピーク面積であり、S2は高分子側のピーク面積である。これらのグラフから酸化劣化が進むにつれてS1が減少し、S2が増加していることが明らかである。よって、S2をS1で除したS2/S1を本発明で用いる劣化指標とする。
【0021】
次いで、RBOT試験について説明する。
本発明で行うRBOT試験はJIS K2514で規定される回転ボンベ式酸化安定度試験法通り行う。
即ち、新油及び上記の酸化劣化試験で得られた劣化油のそれぞれにつきRBOT試験を行う。
このとき、それぞれ、圧力が最高になったときから175kPaの圧力降下をするまでの時間(RBOT値)を求める。酸化劣化が進むにつれて、このRBOT値は小さくなる。よって、劣化油のRBOT値を新油のRBOT値で除して無次元化したRBOT残存率を本発明で用いる劣化指標とする。
【0022】
次いで、濾過残査量の求め方について説明する。
即ち、新油及び上記の酸化劣化試験で得られる劣化油について、フィルターで濾過して濾過残査量を求める。
新油及び劣化油の濾過に用いるフィルターとしては、スラッジ生成の初期段階で発生する、潤滑油中の微細スラッジ懸濁物の少なくとも一部を濾別できるものを用いる。従って、0.45〜1.2ミクロンのフィルターを用いることが好ましい。
なお、判定にあたっては、常に一定の孔径のフィルターを用いるのが好ましい。
指標を求めるにあたっては、新油及び劣化油をそれぞれフィルターで濾過し、濾過前後のフィルターの重量差から濾過残査量を求める。濾過残査量は油1kg当たりのmgで表すのが好ましい。
【0023】
以下、スラッジの生成し易さを判定する方法について説明する。
上述のΔM、ΔS/S、S2/S1はいずれも酸化防止剤の劣化に伴う分子量増加を示す指標であり、RBOT残存率は酸化防止剤の消耗を示す指標である。
一方、濾過残査量はスラッジ生成量を示す指標である。
【0024】
そこで、ΔM、ΔS/S、S2/S1、及び、RBOT残存率のいずれかを一方の軸に取り、濾過残査量を他方の軸にとって、新油及び劣化油の数値をプロットする。そして、上記の各指標に限界値を定める。
描かれる折れ線グラフが濾過残査量の限界値を超える前に他の指標の限界値を超えた場合にスラッジ特性良好とし、他の指標の限界値より先に濾過残査量の限界値を超えた場合にスラッジ特性不良とする。
【0025】
濾過残査量の限界値は、この限界値を超えるとフィルター目詰まりや上述の軸受け面へのスラッジ付着などトラブルが生じた実機経験から判断して、100mg/kg付近とすることが好ましい。
又、RBOT残存率の限界値は、ASTM D4378で規定されるタービン油の更油基準である25%を採用するのが好ましい。
【0026】
ΔMの限界値も実機経験から求まるものであり、酸化防止剤が劣化して機能を果たさなくなるときの分子量の下限或いはその目安であり、300〜500の範囲から選択して設定するのが好ましい。一般にアミン系酸化防止剤は150〜400の分子量を有しており、酸化劣化過程でアミン系酸化防止剤は重合して高分子化するが、酸化劣化で二量体が生成する程度でスラッジが多量に発生するような油はスラッジ特性が不良となる。
【0027】
ΔS/Sの限界値は、0.4〜0.6であることが好ましい。酸化劣化過程におけるアミン系酸化防止剤の劣化で、新油のGPCピーク面積の4〜6割が分子量600を越える程度でスラッジが多量に発生するような油はスラッジ特性が不良となる。
S2/S1の限界値は、0.9〜1.1であることが好ましい。アミン系酸化防止剤の高分子化で、S2/S1が0.9〜1.1になった程度でスラッジが多量に発生するような油はスラッジ特性が不良となる。
【0028】
本発明のスラッジ生成判定方法においては、ΔMと濾過残査量の組み合わせ、ΔS/Sと濾過残査量の組み合わせ、S2/S1と濾過残査量の組み合わせ、RBOT残存率と濾過残査量の組み合わせのいずれでも判定できる。これらの2つ以上を用いて判定してもよい。
本発明の判定方法は各種潤滑油につき適用可能であるが、ガスタービン、コンバインドサイクル等に用いられるガスタービン油のスラッジ生成性の判定に、特に適している。
【0029】
【実施例】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
JIS K2514のタービン油酸化安定度試験法で規定される装置を用い、7種類の未使用のタービン油(A、B、C、D、E、F、Gとする)につきそれぞれ2バッチづつ酸化劣化試験を行った。
酸化劣化試験は、試験温度を120℃とし、水を添加しなかった以外はJISK2514のタービン油酸化安定度試験法に従って行った。(1バッチ当たりの試料360ml、酸素流量3.0L/hr)
【0030】
酸化劣化試験時間は、タービン油A、B、C、D、E、Fについては、168時間と672時間、タービン油Gについては、72時間と168時間とした。
又、参考のため、タービン油Eにつき、JIS K2514のタービン油酸化安定度試験法(95℃TOST)に従って試験を行った。
【0031】
それぞれのタービン油の新油及び得られた2種の劣化油をそれぞれ100ml採取し、メタノール抽出操作を行った。
即ち、新油又は劣化油100mlとメタノール100mlを300mlの分液ロートに入れ、よく混合した後静置して二層分離させ、メタノールと油を分取した。この油につき、再度新しいメタノール100mlで抽出する操作をさらに二度繰り返し、抽出された添加剤のメタノール溶液計300mlを得、これをロータリーエバポレーターに入れ、メタノールを蒸発させて蒸発残査として、添加剤の濃縮液を得た。
【0032】
これらの添加剤濃縮液のそれぞれにつき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析装置(島津製作所製、LC10)を用い、カラムは、TSK−GELG3000H8とG2000H8(いずれも東ソー(株)製)を連結して用いた。溶媒はクロロホルムとし、カラム内流速は1.0ml/min、検出器には紫外分光UV(254nm)を用いた。
【0033】
得られたGPCクロマトグラムから、各タービン油のそれぞれにつき、新油、2種の劣化油の累積強度グラフを重ねて記載したグラフを作成し、劣化油の75%累積強度における分子量のシフト量ΔM(75%)を求めた。新油については、ΔM(75%)は0となる。
【0034】
又、各劣化油のGPCクロマトグラムと新油のGPCクロマトグラムを重ねて、しきい値として分子量600を採用して、しきい値より高分子側において劣化油で新油より増加したピークの増加量ΔSを求め、これを新油の全体のピーク面積Sで除してΔS/Sを得た。
【0035】
又、各GPCクロマトグラムからしきい値分子量600より高分子量側のピーク面積S2と低分子量側のピーク面積S1とを求め、S2をS1で除したS2/S1を得た。
別途、それぞれのタービン油の新油及び2種の劣化油50gをとり、JIS K2514回転ボンベ式酸化安定度試験方法に規定された装置を用い、この規定に従ってRBOT試験を行い、それぞれのタービン油につき、劣化油のRBOT値を新油のRBOT値で除したRBOT残存率を得た。
【0036】
又、それぞれのタービン油の新油及び2種の劣化油100gをとり、これをそれぞれ1.0ミクロンフィルターで濾過して、濾過前後のフィルターの重量差から油1kg当たりのmgの単位で示した濾過残査量を得た。
【0037】
片対数グラフを用いて縦軸に濾過残査量(mg/kg)、横軸にRBOT残存率(%)をとり、各タービン油の酸化劣化試験の影響を調べた。その結果を図9に示す。
図9からは、明確にスラッジ特性が良好なのはタービン油Aだけであった。
ただし、タービン油CとFについては、濾過残査量が飽和に達する傾向を示しており、より長時間の試験を行い、RBOT残存率が限界に近づいたときの濾過残査量を調べて判定する必要がある。
なお、タービン油Eについて実施した95℃と120℃の試験温度の比較試験では無次元化したRBOT残存率を横軸にとることにより劣化パターンがほぼ同様の傾向を示しており、120℃での加速試験が妥当であることを示している。
【0038】
片対数グラフを用いて縦軸に濾過残査量(mg/kg)、横軸にΔM(75%)をとり、酸化劣化試験の影響を調べた図を図10に示す。
図10からは、スラッジ特性が良好とされるのはタービン油AとBである。タービン油CとFについては、濾過残査量が飽和に達する傾向を示しており、より長時間の試験を行い、ΔM(75%)が400前後になったときの濾過残査量を判定する必要がある。
【0039】
図11にΔS/Sと濾過残査量の関係を示す。
図11からは、スラッジ特性が良好とされるのはタービン油Aだけである。タービン油CとFについては、濾過残査量が飽和に達する傾向を示しており、より長時間の試験を行い、ΔS/Sが0.5付近に達したときの濾過残査量を判定する必要がある。
【0040】
図12にS2/S1と濾過残査量の関係を示す。
図12からは、スラッジ特性が良好とされるのはタービン油Aだけである。タービン油CとFについては、濾過残査量が飽和に達する傾向を示しており、より長時間の試験を行い、S2/S1が1.0付近に達したときの濾過残査量を判定する必要がある。
【0041】
図9〜12に示したいずれの判定方法でもタービン油Aが良好であり、タービン油Bがそれに次いでいる。E、Fは濾過残査量が飽和に達する傾向があるので、スラッジ生成性が低いと推定されるが、さらに長時間の試験を行った上で正確な判断を下す余地が残されている。又、タービン油D、E、Gはいずれの判定方法でも不良と判断される。
図10に限ってタービン油Bが良好と判定され、これは良不良をどこで仕切るかの問題に依存しているが、全体的に見てこれらの手法はスラッジ生成性を充分に判定できることを示している。
図9〜12で、各タービン油はそれぞれ微妙に挙動が異なっているため、判定にあたってはこれらの結果を総合して判定するのが好ましい。
【0042】
【発明の効果】
潤滑油のスラッジ生成性判定において、新油のサンプルを用いて酸化劣化試験を行い、得られた劣化油のスラッジ生成量と、酸化防止剤の劣化に伴う分子量変化、RBOT残存率とを組み合わせた新しい判定方法により、実機に適用したときのスラッジ生成性を、従来法では6ヶ月〜1年以上要していたのに対して、本発明では数週間という短期間で予測できるという優れた効果を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、本発明の潤滑油のスラッジ生成性の判定方法のフローチャートを示す図である。
【図2】は、ある潤滑油サンプルについて行った新油及び劣化油の抽出物のGPCクロマトグラムである。
【図3】は累積強度グラフである。
【図4】は、168時間酸化劣化試験による劣化油の抽出物のΔSを示す図である。
【図5】は、672時間酸化劣化試験による劣化油の抽出物のΔSを示す図である。
【図6】は、新油の抽出物のS1とS2を示す図である。
【図7】は、168時間酸化劣化試験による劣化油の抽出物のS1とS2を示す図である。
【図8】は、672時間酸化劣化試験による劣化油の抽出物のS1とS2を示す図である。
【図9】は、RBOT残存率と濾過残査量の関係を示す図である。
【図10】は、ΔM(75%)と濾過残査量の関係を示す図である。
【図11】は、ΔS/Sと濾過残査量の関係を示す図である。
【図12】は、S2/S1と濾過残査量の関係を示す図である。
【符号の説明】
1:新油のメタノール抽出物のGPCクロマトグラム
2:168時間劣化油のメタノール抽出物のGPCクロマトグラム
3:672時間劣化油のメタノール抽出物のGPCクロマトグラム
Claims (6)
- 潤滑油の酸化劣化試験を行って劣化油をつくり、
該劣化油の濾過残査の重量(A)を求め、
前記潤滑油に含まれる酸化防止剤の分子量分布に対する該劣化油に含まれる酸化防止剤の分子量分布の変化と、該劣化油のJIS K2514に規定されるRBOT試験によるRBOT残存率のいずれか一方又は両方(B)を求め、
前記(A)と、該(B)との関係から、前記潤滑油のスラッジの生成し易さを判定することを特徴とする潤滑油のスラッジ生成性の判定方法。 - 請求項1に記載の潤滑油のスラッジ生成性の判定方法において、
潤滑油につき、互いに異なる酸化劣化時間で少なくとも2つの酸化劣化試験を行って劣化油をつくり、
それぞれにつき(A)と(B)との関係を求めることにより、
スラッジの生成し易さの傾向を判定することを特徴とする潤滑油のスラッジ生成性の判定方法。 - 請求項1又は2に記載の潤滑油のスラッジ生成性の判定方法において、
前記酸化劣化試験の温度条件が95〜130℃であることを特徴とする潤滑油のスラッジ生成性の判定方法。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油のスラッジ生成性の判定方法において、
前記分子量分布の変化を、分子量分布の累積強度グラフにおいて所定の累積強度における分子量の変化量で求めることを特徴とする潤滑油のスラッジ生成性の判定方法。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油のスラッジ生成性の判定方法において、
前記分子量分布の変化を、潤滑油に含まれる酸化防止剤の分子量分布図の全ピーク面積に対する、前記劣化油に含まれる酸化防止剤の分子量分布図の所定のしきい値より高分子側のピーク面積の比率であることを特徴とする潤滑油のスラッジ生成性の判定方法。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油のスラッジ生成性の判定方法において、
前記分子量分布の変化を、前記潤滑油に含まれる酸化防止剤の分子量分布図において所定のしきい値より低分子側のピーク面積に対する、該しきい値より高分子側のピーク面積の比率として求めることを特徴とする潤滑油のスラッジ生成性の判定方法。
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