JP3829969B2 - 潤滑油の劣化度判定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、潤滑油の劣化度判定方法に関し、詳しくは発電設備用ガスタービン油、産業機械用潤滑油、エンジン用潤滑油等に使用される潤滑油について、その劣化度を正確に判定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来潤滑油の劣化度は、一般に粘度、全酸価、色等の性状変化や赤外スペクトルの変化から判定していた。また、潤滑油に毎年新油を数十%ずつ補給しながら、10年以上にわたって使用する蒸気タービン油(フェノール系酸化防止剤配合油) については、ロータリーボンベ式酸化安定度試験(RBOT)を併用して劣化度を判定している。
しかしながら、ガスタービン油のように耐熱性を必要とする潤滑油については、アミン系酸化防止剤が配合されているために、潤滑油の粘度、全酸価や赤外スペクトルおよびRBOT等はほとんど変化しないので、潤滑油の劣化度を判定したり、劣化生成物を検知することは困難であった。
【0003】
このために、潤滑油の急激な劣化やスラッジ析出等のトラブルが発生することがあった。
例えば、ガスタービン油の使用限界基準としては、ASTM D4378−92やゼネラルエレクトリック社規格(GEK32568C)にてRBOT値が新油の25%に低下した時点、または、全酸価が新油よりO.3〜O.4mgKOH/g増加した時点などと規定されている。
これに基づいて、従来から蒸気タービン油の場合と同様に油の性状の変化とRBOT値を測定して管理していたが、前記のような問題が発生することがあり、この判定基準では不十分であることが判明した。
また、次の点からも、劣化度を判定することはできなかった。すなわち、アミン系酸化防止剤配合油は短期間の使用で黒化するため、色観察による経験的な劣化度の判定は不可能であることや、使用油のRBOT値が新油と同程度に十分高く、比較的劣化度が少ないと思われる使用油でも、アミン系酸化防止剤の劣化変質物がスラッジとして析出することがあるからである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前述したように、潤滑油の使用限界について、従来の方法では到底正確には判定できなかったので、管理上問題が生じる恐れがあり、その使用限界を正確に把握できる有効な方法の開発が特に望まれていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、酸化防止剤の消耗量と高分子量の劣化生成物量とを劣化判定の因子として、特定の判定式を構成し、これに従うことによって、潤滑油の劣化度を正確に判定できることを見出した。本発明はかかる知見に基いて完成したものである。
すなわち、本発明は、酸化防止剤を配合した潤滑油の劣化度を判定するにあたり、潤滑油に配合されている酸化防止剤の消耗量および該潤滑油中の高分子量劣化生成物量を定量し、これらの測定値に基づく下記(1)の劣化度判定式
劣化度(%)=(α×酸化防止剤消耗量比+β×高分子量劣化生成物量比)/(α+β)×100 ・・・(1)
(ここで、α及びβは、それそれ重み付け係数である。)
により判定することを特徴とする潤滑油の劣化度判定方法を提供するものである。
【0006】
上記判定式中、酸化防止剤消耗量比とは、潤滑油に配合されている酸化防止剤について、使用限界基準の劣化油で消耗された量に対する、対象とする劣化油で消耗された量の比を示す。一方、高分子量劣化生成物量比とは、使用限界基準の劣化油の分子量分布の測定から算出された高分子側領域(分子量500以上) における劣化油中に存在する高分子量の劣化生成物量に対する、対象とする劣化油中に存在する高分子量の劣化生成物量の比を示す。また、α及びβは、それぞれ重み付け係数であり、潤滑油の種類や酸化防止剤の種類等により異なるが、通常はα/β=0.05〜20であり、経験的あるいはいくつかの予備試験等により適宜選定される。
【0007】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の方法に適用できる潤滑油は、各種のものがあり特に限定されないが、好ましくは発電設備用ガスタービン油、油圧作動油、圧縮機油、軸受油、ギヤ油、工作機械油を含む産業機械用潤滑油、エンジン油及び絶縁油の少なくとも一種が挙げられる。この潤滑油の基油としては、鉱油や合成油が用いられる。鉱油としては、例えばパラフィン系鉱油,ナフテン系鉱油,中間基系鉱油などがあげられ、具体的には、溶剤精製や水素化精製による軽質ニュートラル油,中質ニュートラル油,重質ニュートラル油,ブライトストックなどを挙げることができる。一方、合成油としては、例えばポリα−オレフィン,α−オレフィンコポリマー,ポリブテン,アルキルベンゼン,アルキルナフタレン,ポリオールエステル,二塩基酸エステル,ポリオキシアルキレングリコール,ポリオキシアルキレングリコールエステル,ポリオキシアルキレングリコールエーテル,シリコーンオイルなどを挙げることができる。
またこれら潤滑油に配合される酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤やフェノール系酸化防止剤等を挙げることができるが、本発明の方法を適用する上では特にアミン系酸化防止剤が好ましい。ここでアミン系酸化防止剤としては、モノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン;4,4’−ジペンチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン;4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミン;4,4’−オクチルtert−ブチルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン;テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、α−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン;ブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系などが使用される。
【0008】
本発明の方法を実施するにあたっては、各種の手法があるが、具体的には次の▲1▼〜▲3▼の3段階の操作を行うことが好ましい。すなわち
▲1▼潤滑油に添加されているアミン系酸化防止剤の吸着剤への濃縮前処理操作と高速液クロマトグラフィーによる定量操作。
ここで吸着剤の種類としては、シリカゲル、アルミナ、活性白土、ケイソウ土、活性炭、ベントナイト、酸化マグネシウム等の極性物質を選択的に吸着する作用のある多孔質物質を使用するが、その形状は粉末状、粒状、ビーズ状、棒状、薄層状等の各種のものを使用することができる。その操作としては、吸着剤を充填管に詰め、試料油を上部より自然流下させることによって、酸化防止剤を吸着剤に吸着、濃縮させる。また、粒状や棒状の吸着剤を試料油中に投入することによって、酸化防止剤を吸着剤に吸着、濃縮させることもできる。
次に、上記の吸着剤から溶剤洗浄によって油分を分離するために、吸着剤に洗浄用溶剤を流して洗い潤滑油を流し出す。ここで、洗浄用溶剤としては、例えば脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、含塩素系溶剤あるいはこれらの混合溶剤を挙げることができ、具体的にはペンタン、ヘキサン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、四塩化炭素などを挙げることができる。続いて、メタノールを始めとするアルコール等の含酸素溶剤で吸着剤から吸着物(酸化防止剤)を脱着して分離液(即ち、脱着した酸化防止剤を含酸素溶剤に溶解した溶液)とし、この分離液を高速液クロマトグラフィー用の試料とする。次いで、グラジェント溶出法高速液体クロマトグラフィー(紫外吸光検出器を具備) で分離液中の酸化防止剤を定量する。これより酸化防止剤の消耗量を求める。
【0009】
▲2▼ゲルバーミエーションクロマトグラフィーによる高分子量劣化生成物の定量操作。
ここで使用する装置は、紫外吸光検出器を備えており、新油と劣化油の分子量分布を測定し、高分子側領域(分子量500以上) のピーク面積の増加量から潤滑油中に存在する高分子量の劣化生成物量を求める。
【0010】
▲3▼劣化判定式の作成と劣化判定式に基づく劣化判定方法。
この操作としては、前記で求めた酸化防止剤消耗量と高分子量劣化生成物量( ピーク面積値) の測定値から潤滑油の劣化状態を劣化指数(劣化度)で表す下記(1)の劣化度判定式を作成した。
すなわち
劣化度(%)=(α×酸化防止剤消耗量比+β×高分子量劣化生成物量比)/(α+β)×100 ・・・(1)
ここで、α、βは、それぞれ重み付け係数であり、前述したように状況に合わせて設定可能である。
劣化度は新油の場合を0とし、使用限界時のスラッジ量をこれまでの実機でのトラブル経験上、ミリポア値で5mg/100mlと設定し、その時の劣化度を100として、これを尺度として、上記(1)の劣化判定式によって実機使用油の劣化度を判定した。
本発明の方法によれば、従来判定不可能であった酸化防止剤、特にアミン系酸化防止剤を配合した潤滑油の劣化度を正確に判定することが可能になった。
【0011】
【実施例】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1〜7
実験に使用した試料油は第1表に示す通りである。なお、ここで添加タービン油新油とは、パラフィン系鉱油を基油として、これにアミン系酸化防止剤を0.65重量%添加してなる潤滑油である。
また、これらの実施例1〜7では使用限界基準をスラッジ量(ミリポア値で5mg/100ml)で規定し、この状態での劣化油の酸化防止剤消耗量と高分子量劣化生成物量を基準としてその比を1.0とし、各劣化油の酸化防止剤消耗量比、高分子量劣化生成物量比および劣化度を前記(1)の劣化判定式で求めた。結果を第2表に示す。また、ここでは、α=β=1として計算した。
【0012】
比較例1〜7
実験に使用した試料油は実施例1〜7と同様である。
これらの比較例1〜7では、ASTM D4378又はゼネラルエレクトリック社規格(GEK32568C)の使用限界基準(RBOT値が新油の25%に低下した時点、または、全酸価がO.4mgKOH/gに到達した時点) に基づいて、RBOT値から下記(2)の式によって劣化度を算出したものである。結果を第3表に示す。
劣化度(%)=(新油のRBOT値−劣化油のRBOT値)/(新油のRBOT値−新油のRBOT値×0.25)×100 ・・・(2)
【0013】
【表1】
【0014】
【表2】
【0015】
劣化油A,B,C,D:JIS K2514タービン油酸化安定度試験に準拠し、油温120℃で劣化した油
劣化油E,F:実機ガスタービン使用油
【0016】
【表3】
【0017】
【表4】
【0018】
第2表に示すように、実施例1〜3および実施例6,7については、劣化度の数値は低いのでまだ十分使用可能であると判断されるが、実施例4は劣化度の数値は高いので使用限界に近く注意が必要であることを示している。
また、実施例5の劣化油は使用限界基準を超えており、使用に耐えられないことを示す。
【0019】
しかしながら、第3表に示すように、比較例5ではスラッジ量が5mg/100mlを超えているにもかかわらず、劣化度は使用限界基準より低い値を示しており、まだ十分使用可能であるとの矛盾した結果になっている。
このように、従来法による比較例では劣化度を正確には判定が出来ないことがわかる。
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、従来判定が困難であった潤滑油の劣化度を極めて正確に判定することができる。特に、発電設備用ガスタービン油のように長期間使用しても色相以外の性状値がほとんど変化しない潤滑油の劣化度の判定が可能となる。
また、油中に蓄積した劣化生成物を検知することもでき、スラッジ析出によるトラブルの発生を未然に防止できる等、当該技術分野における産業設備の保守管理に役立つのでその技術的および経済的効果は極めて大きい。
Claims (3)
- 酸化防止剤を配合した潤滑油の劣化度を判定するにあたり、潤滑油に配合されている酸化防止剤の消耗量および該潤滑油中の高分子量劣化生成物量を定量し、これらの測定値に基づく下記(1)の劣化度判定式
劣化度(%)=(α×酸化防止剤消耗量比+β×高分子量劣化生成物量比)/(α+β)×100 ・・・(1)
(ここで、α及びβは、それそれ重み付け係数である。)
により判定することを特徴とする潤滑油の劣化度判定方法。 - 潤滑油中の酸化防止剤を多孔質吸着剤に吸着させて濃縮し、潤滑油から分離した後、得られる分離液を高速液体クロマトグラフィーで定量すると共に、ゲルバーミエーションクロマトグラフィー−紫外吸光検出器法により、新油に対する劣化油の高分子量側領域のピーク面積値の増加量から潤滑油中の高分子量劣化生成物量を定量することを特徴とする請求項1記載の方法。
- 潤滑油が、発電設備用ガスタービン油、油圧作動油、圧縮機油、軸受油、ギヤ油、工作機械油、エンジン油及び絶縁油から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2記載の方法。
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