JP4207424B2 - 燃料電池システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、電気化学的な反応により起電力を発生する燃料電池システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、燃料電池は空気極および燃料極および電解質を有しており、電気化学的反応により起電力を発生する装置である。このため、燃料電池は、窒素酸化物の排出や騒音の発生が少ないなどの利点から、各種の用途に適用されている。ところで、燃料電池は前記のような発電原理から、燃料電池の発電環境、例えば内部抵抗、触媒活性などの変化により、その発電特性が変化する。具体的には、所定温度以下では、燃料電池の出力は低いとされている。
【0003】
そこで、燃料電池が低温度状態にある場合は、燃料電池から負荷に対して高電力を供給することを停止する技術が知られており、その一例が、特開平9−231991号公報に記載されている。この公報に記載されている燃料電池システムは、モータおよび補機類を含む電気回路に、燃料電池と二次電池とが相互に並列に配置されている。燃料電池とモータとの間には、切り換えスイッチが設けられているとともに、燃料電池の内部温度を測定する温度センサと、システム全体を制御する制御部とが設けられている。
【0004】
上記公報に記載されている燃料電池システムの始動時には、二次電池からモータに電力を供給する一方、切り換えスイッチがオフされる。このとき、燃料電池から補機類に対して低電流の電力を供給して、燃料電池を暖機運転する。さらに、温度センサによる燃料電池の温度測定に基づいて、燃料電池の暖機状態が判断される。そして、燃料電池の暖機が終了したときには、切り換えスイッチがオンされて、燃料電池の電力がモータに供給される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のような燃料電池システムにおいては、モータでの必要電力に基づいて、燃料電池に供給する空気量および燃料ガス量が制御される。しかしながら、燃料電池は温度によって発電特性が変化するため、たとえ必要電力に基づいて空気量および燃料ガス量を制御したとしても、燃料電池から実際に出力される電力が、必要電力未満となる可能性あった。すなわち、燃料電池に供給される空気量および燃料ガス量に対する発電効率が低下する問題があった。
【0006】
この発明は、上記の事情を背景としてなされたもので、燃料電池の発電効率の低下を抑制することのできるシステムを提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、移動体の駆動輪に伝達するトルクを出力する電動機と、この電動機に供給する電力を発生する燃料電池と、この燃料電池の発電環境を制御する発電環境制御装置とを有する燃料電池システムにおいて、前記燃料電池の温度に基づいて、この燃料電池の発電特性を判断する発電特性判断手段と、この発電特性判断手段の判断結果に基づいて、前記燃料電池の温度が高いほど、前記電動機の最大トルクが低下し始める回転数が高くなるように、前記燃料電池の発電能力の範囲内で前記電動機の目標出力を設定するとともに、この目標出力に基づいて前記電動機の必要電力を設定する必要電力設定手段と、前記燃料電池の発電能力の範囲内でその燃料電池の目標出力を算出し、かつ、この目標出力に対応する目標電流値を演算する目標電流値演算手段と、前記目標電流値に基づいて、前記発電環境制御装置により前記燃料電池の発電環境を制御する環境制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項1の発明によれば、燃料電池の温度に基づいて、この燃料電池の発電特性が判断され、その発電特性の判断結果に基づいて、燃料電池の温度が高いほど電動機の最大トルクが低下し始める回転数が高くなるように、燃料電池の発電能力の範囲内で電動機の目標出力が設定され、電動機の目標出力に基づいて電動機における必要電力が調整される。また、燃料電池の発電能力の範囲内でその燃料電池の目標出力が算出され、かつ、この目標出力に対応する目標電流値が演算される。そして、前記目標電流値に基づいて、発電環境制御装置により前記燃料電池の発電環境が制御される。したがって、燃料電池の発電に必要な空気や燃料ガスの無駄な消費が抑制される。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記発電特性判断手段は、前記燃料電池の温度に基づいて発電特性を判断する手段を含み、前記必要電力設定手段は、前記燃料電池の温度が高いほど前記電動機の最大トルクが低下し始める回転数が高くなるように、前記電動機の目標出力を設定する手段を含むことを特徴とするものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明を図に示す具体例に基づいて説明する。図2は、この発明の燃料電池システムを有する車両A1の概念図である。図2において、燃料電池1は、電解質(図示せず)と空気極(図示せず)と燃料極(図示せず)とを有する公知のものである。この燃料電池1には、空気供給経路2および燃料ガス供給経路3が接続されている。
【0014】
また、燃料電池1を冷却する冷却流体の流路4が設けられている。さらに、空気供給経路2を経由して燃料電池1に供給される空気の状態を制御する空気制御装置5が設けられている。空気制御装置5は、エアコンプレッサ(図示せず)、エアコンプレッサを駆動する電動機、バルブ(図示せず)などを有している。この空気制御装置5により、燃料電池1に供給される空気の流量、空気の圧力、空気の供給時期などが制御される。
【0015】
さらにまた、燃料ガス供給経路3を経由して燃料電池1に供給する燃料ガスの状態を制御する燃料ガス制御装置6が設けられている。燃料ガス制御装置6は、燃料供給ポンプ(図示せず)、この燃料供給ポンプを駆動する電動機、バルブ(図示せず)などを有している。この燃料ガス制御装置6により、燃料電池1に供給される燃料ガスの流量、燃料ガスの圧力、燃料ガスの供給時期などが制御される。
【0016】
さらに、流路4を経由して流れ、かつ、燃料電池1を冷却する冷却流体の流通状態を制御する冷却制御装置7が設けられている。この冷却制御装置7のポンプ(図示せず)、調圧弁(図示せず)などにより、燃料電池1を冷却する流体の流量、流体の圧力、流体の供給時期などが制御される。
【0017】
また、車両A1の駆動力源としての機能を有する電動機9が設けられている。この電動機9としては、例えば3相交流型の電動機を用いることができる。そして、電動機9の動力が車輪11に伝達されるように構成されている。この電動機9には、インバータ10が接続されているとともに、インバータ10に対して、前記燃料電池1と蓄電装置8とが相互に並列に接続されている。蓄電装置8は、例えばバッテリまたはキャパシタなどにより構成することができる。燃料電池1および蓄電装置8の直流電流が、インバータ10により交流電流に変換されて、電動機9に供給される。
【0018】
さらに、燃料電池1および蓄電装置8の電力を、前記空気制御装置5、燃料ガス制御装置6、冷却装置7、補機18に供給することができるように電気回路が形成されている。補機18としては、例えば、照明装置、ワイパー、デフォッガなどが挙げられる。
【0019】
さらに、車両A1の全体を制御するコントローラとしての電子制御装置12が設けられている。電子制御装置12は、中央演算処理装置(CPU)および記憶装置(RAM,ROM)および入出力インタフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。この電子制御装置12からは、電動機9に供給される電力を制御する信号、空気制御装置5を制御する信号、燃料ガス制御措置6を制御する信号、冷却制御装置7を制御する信号などが出力される。
【0020】
これに対して、電子制御装置12には、加速要求検知センサ13の信号、制動要求検知センサ14の信号、車速検知センサ15の信号、燃料電池1の発電特性を検知する発電特性検知センサ16の信号、補機負荷検知センサ17の信号、発電要求検知センサ19の信号などが入力される。発電特性検知センサ16としては、例えば温度センサ、湿度センサなどを用いることができる。温度センサおよび湿度検知センサにより、各電極の内部を移動するイオンの移動抵抗(内部抵抗)を判断することができる。また、温度センサにより、電極反応を促進する触媒の活性状態を検知することができる。なお、補機負荷検知センサ17により、補機18における電力要求が検知される。発電要求検知センサ19としては、充電量検知センサを用いることができる。
【0021】
上記のように構成された車両A1の機能を説明する。ここでは、燃料電池1として固体高分子型の燃料電池が用いられている場合を例として説明する。まず、燃料電池1側においては、空気供給経路2から燃料電池1に空気が供給され、かつ、燃料ガス供給経路3から燃料ガス(例えば水素ガス)が供給される。すると、燃料極で生成された水素イオンが、電解質の内部を移動して空気極に到達する。空気極では、水素イオンと燃料ガスとが反応して起電力が得られる。このようにして、燃料電池1による発電がおこなわれ、発生した直流電力がインバータ10を経由して電動機9に供給される。また、燃料電池1は、温度や湿度などの環境により発電特性が変化する。したがって、燃料電池1の運転により生じた熱を冷却制御装置7により放熱し、燃料電池1の運転温度を所定温度範囲(もしくは所定湿度範囲)に保つことにより、その発電効率を高める制御がおこなわれる。
【0022】
一方、電子制御装置12に入力される信号、例えば、加速要求検知センサ13の信号、車速検知センサ14の信号、および電子制御装置12に記憶されているデータに基づいて、車両A1における要求駆動力が判断される。この要求駆動力に基づいて、電動機9のトルクおよび回転数の目標値が設定される。そして、電動機9の実際のトルクおよび回転数を、目標値に近づけるように、燃料電池1および蓄電装置8から電動機9に供給される電力(電流、電圧)が制御れる。
【0023】
さらに、電子制御装置12に入力される信号に基づいて、空気制御装置5、燃料ガス制御装置6、冷却制御装置7の駆動状態の目標値が判断される。そして、空気制御装置5、燃料ガス制御装置6、冷却制御装置7の実際の駆動状態を、目標値に近づけるように、空気制御装置5、燃料ガス制御装置6、冷却制御装置7に供給される電力が制御される。例えば、空気制御装置5のコンプレッサ、燃料ガス制御装置6のコンプレッサ、冷却制御装置7のコンプレッサの回転数が制御される。
【0024】
上記のような各種の制御の結果、および発電要求検知センサ19の信号、および補機負荷センサ17、および電子制御装置12に記憶されているデータに基づいて、燃料電池1における発電状態の目標値が判断される。そして、燃料電池1の発電状態が目標値に近づくように、空気制御装置5、燃料ガス制御装置6、冷却制御装置7に供給する実際の電力が制御される。
【0025】
ところで、燃料電池1の発電状態が目標値に近づくように、空気制御装置5、燃料ガス制御装置6、冷却制御装置7に供給する実際の電力を制御した場合でも、燃料電池1の発電特性によっては、目標電力を得ることができないことがある。言い換えれば、燃料電池1の発電効率が低下する可能性がある。そこで、この実施例においては、図1に示す制御例により、この不具合を回避している。
【0026】
まず、燃料電池1の発電特性、具体的には燃料電池1の内部抵抗、触媒の活性化状態などが判断される(ステップS1)。つぎに、ステップS1の判断結果に基づいて、電動機9の制御マップを選択する(ステップS2)。前述したように、温度変化または湿度変化により燃料電池1の発電特性が変化するため、温度または湿度によって電動機9に供給可能な電力が変化する。言い換えれば、燃料電池1の発電特性に基づいて、電動機9の最大出力が変化する。
【0027】
図3は、燃料電池1の各温度に対応して選択される電動機9の各種のマップである。図3において、実線B1を有するマップが低温度K1で選択されるマップであり、実線B2を有するマップが中温度K2で選択されるマップであり、実線B3を有するマップが高温度K3で選択されるマップである。ここで、低温度K1よりも中温度K2の方が高温であり、中温度K2よりも高温度K3の方が高温である。
【0028】
いずれのマップにおいても、所定回転数以下では、電動機9の最大トルクがほぼ一定であり、所定回転数以上になると、その回転数の上昇にともない電動機9の最大トルクが低下する特性を備えている。具体的には、低温度K1用のマップでは回転数N1以上で最大トルクが低下し始め、中温度K2用のマップでは回転数N2以上で最大トルクが低下し始め、高温度K3用のマップでは回転数N3以上で最大トルクが低下し始める。なお、最大トルクとは、例えば、加速要求が最大である場合に対応するトルクである。すなわち、電動機9の最大トルクを示すマップを、電動機9の回転数のみをパラメータとして選択するのではなく、電動機9の回転数および温度をパラメータとする二次元マップとして設定する。
【0029】
そして、前記ステップS2においては、ステップS1の判断結果に基づいて、電動機9を制御するためのマップが変更される。言い換えれば、電動機9の目標出力は、燃料電池1の発電能力以内で達成可能な値が選択される。なお、ステップS2で電動機9の制御マップを変更する方法としては、第1の方法と第2の方法とが挙げられる。第1の方法とは、予め複数のマップを電子制御装置12に記憶しておき、ステップS1の判断結果に基づいて複数のマップのいずれかを選択する方法を意味している。第2の方法とは、基準となるマップを電子制御装置12に記憶しておき、ステップS1の判断結果に基づいて、基準となるマップを補正して、任意の特性のマップを得る方法を意味している。
【0030】
上記のステップS2についで、空気制御装置5で消費される電力、燃料ガス制御装置6で消費される電力、冷却装置制御装置7で消費される電力、補機18で消費される電力が算出される(ステップS3)。このステップS3についで、ステップS1の判断結果に基づいて、燃料電池1で発生可能な目標出力を算出し、かつ、この目標出力に対応する目標電流値を演算する(ステップS4)。
【0031】
このステップS4についで、燃料電池1の実際の出力電流値が、前記目標電流値に近づくように、燃料電池1に供給する空気の流量、燃料電池1に供給する燃料ガスの流量、燃料電池1を冷却する冷却流体の流量が演算される(ステップS5)。このステップS5についで、このステップS5の演算結果に基づいて、空気制御装置5のエアコンプレッサの回転数、燃料ガス制御装置6の燃料供給ポンプの回転数、冷却制御装置7のポンプの回転数が制御され(ステップS6)、この制御ルーチンを終了する。なおステップS5において、空気の圧力および空気の供給時期、燃料ガスの圧力および供給時期、冷却流体の圧力および供給時期などを演算してもよい。
【0032】
以上のように、この実施例においては、燃料電池1の発電能力で達成可能な範囲の発電要求を選択し、選択された発電要求に基づいて、発電環境(例えば、燃料電池1に供給される空気の流量、燃料電池1に供給される燃料ガスの流量、燃料電池1を冷却する冷却流体の流量)が調整される。したがって、“達成困難な発電能力を目標として、その発電環境を調整すること。”を回避でき、燃料電池システムの発電効率の低下を抑制できる。なお、この実施例は、固体高分子型の燃料電池以外の燃料電池、例えば、アルカリ水溶液型の燃料電池、リン酸水溶液型の燃料電池、溶融炭酸液型の燃料電池、固体電解質型の燃料電池などにも適用できる。
【0033】
ここで、図1に示す機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、ステップS1が、この発明の発電特性判断手段に相当し、ステップS2が、この発明の必要電力設定手段に相当し、ステップS4が、この発明の目標電流値演算手段に相当し、ステップS5およびステップS6が、この発明の環境制御手段に相当する。また、図2に示す構成と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、車両A1が、この発明の移動体に相当し、空気制御装置5、燃料ガス制御装置6、冷却制御装置7が、この発明の発電環境制御装置に相当し、車輪11が、この発明の駆動輪に相当する。さらに上記実施例で説明した事項と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、温度および湿度により変化する内部抵抗、温度により変化する触媒の活性状態などが、この発明の発電特性に相当し、空気の供給状態、燃料ガスの供給状態、冷却流体の供給状態などが、この発明の発電環境に相当する。
【0034】
なお、特許請求の範囲に記載された“発電特性判断手段”を、“第1のコントローラ”と読み替え、“必要電力設定手段”を“第2のコントローラ”と読み替えることもできる。また、特許請求の範囲に記載されている“発電特性判断手段”を“発電特性判断ステップ”と読み替え、“必要電力設定手段”を必要電力設定ステップ”と読み替え、“燃料電池システム”を“燃料電池システムの制御方法”と読み替えることもできる。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、燃料電池の温度に基づいて、この燃料電池の発電特性が判断され、この判断結果に基づいて、燃料電池の温度が高いほど電動機の最大トルクが低下し始める回転数が高くなるように、燃料電池の発電能力の範囲内で電動機の目標出力が設定され、電動機の目標出力に基づいて電動機における必要電力が調整される。また、前記燃料電池の目標電流値が演算されるため、この燃料電池に対する発電要求が、燃料電池の発電特性に適合させられる。したがって、燃料電池の発電能力以上に、燃料電池の発電に必要な空気および燃料ガスなどが供給されることを抑制でき、燃料電池の発電効率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の制御例を示すフローチャートである。
【図2】 図1の制御例を適用できる車両の概念図である。
【図3】 図1の制御例で用いるマップの一例である。
【符号の説明】
1…燃料電池、 5…空気制御装置、 6…燃料ガス制御装置、 7…冷却制御装置、 9…電動機、 18…補機。
Claims (1)
- 移動体の駆動輪に伝達するトルクを出力する電動機と、この電動機に供給する電力を発生する燃料電池と、この燃料電池の発電環境を制御する発電環境制御装置とを有する燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池の温度に基づいて、この燃料電池の発電特性を判断する発電特性判断手段と、
この発電特性判断手段の判断結果に基づいて、前記燃料電池の温度が高いほど、前記電動機の最大トルクが低下し始める回転数が高くなるように、前記燃料電池の発電能力の範囲内で前記電動機の目標出力を設定するとともに、この目標出力に基づいて前記電動機の必要電力を設定する必要電力設定手段と、
前記燃料電池の発電能力の範囲内でその燃料電池の目標出力を算出し、かつ、この目標出力に対応する目標電流値を演算する目標電流値演算手段と、
前記目標電流値に基づいて、前記発電環境制御装置により前記燃料電池の発電環境を制御する環境制御手段と
を備えていることを特徴とする燃料電池システム。
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