実施の形態1.
以下、図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。
図1は本発明の実施の形態1としての水素利用内燃機関(以下、単にエンジンという)のシステム構成を示す図である。本実施の形態のエンジンは、複数の気筒(図1では1つの気筒のみを示している)からなるエンジン本体2を有している。エンジン本体2は、気筒毎にピストン8を有し、各気筒の内部にはピストン8の上下運動によって膨張と収縮を繰り返す燃焼室10が形成されている。エンジン本体2には、各気筒の燃焼室10に空気を供給するための吸気通路4と、燃焼室10から燃焼ガスを排出するための排気通路6が接続されている。エンジン本体2において、吸気通路4と燃焼室10との接続部には、その連通状態を制御する吸気バルブ12が設けられ、排気通路6と燃焼室10との接続部には、その連通状態を制御する排気バルブ14が設けられている。また、燃焼室10には、その内部に燃料を直接噴射する筒内インジェクタ18と、その内部の混合ガスに点火する点火プラグ16が取り付けられている。
上記の筒内インジェクタ18は、第1の発明にかかる「燃料噴射装置」に相当する。この筒内インジェクタ18は、燃料供給流路34によって燃料タンク30に接続されている。燃料タンク30には、ガソリン等の液状の炭化水素系燃料(液体燃料)に水素ガスが微細気泡状態で含まれてなる水素混合燃料が貯蔵されている。ここでいう微細気泡とは直径数十μm以下の微細気泡である。このサイズまで微細気泡化された水素ガスは通常の気泡に比較して炭化水素系燃料中に大量に且つ均一に存在することができ、また、それが混合した水素混合燃料は実質的に液体として扱うことができる。特に直径1μm以下の超微細気泡(いわゆるナノバブル)は、液体中に長期間安定して存在することができ、水素混合燃料中での水素ガスの混合形態としてより好ましい。本実施の形態にかかる水素混合燃料中には、水素ガスがナノバブルまで微細気泡化されて含まれているものとする。ただし、微細気泡は必ずしもナノバブルである必要は無く、エンジンの運転に支障が生じない程度の期間、分離することなく微細気泡状態で液体燃料中に存在しうる限りは。より大きいサイズの微細気泡であってもよい。
本実施の形態では、水素混合燃料は予め車外で製造され、給油装置によって燃料タンク30に供給されることを想定している。水素混合燃料の製造方法、つまり、液体燃料中で水素ガスを微細気泡化する方法には限定はない。例えば、以下に列挙するような方法を採ることができる。
微細気泡化の第1例は、液体燃料の激しい流れを作り、その中に水素ガスを吹き込むことで、液体燃料の激流中に発生する強いせん断力により水素ガスを粉砕する方法である。
微細気泡化の第2例は、水素ガスを加圧してより多く液体燃料中に溶解させた状態から、液体燃料の流速を上げる等してキャビテーションを発生させる方法である。
そして、微細気泡化の第3例は、超音波を与えることで液体燃料中の水素ガスの気泡を加振して分裂させる方法である。水素ガスをナノバブルまで微細気泡化する場合には、この第3例の方法を採ることが容易である。水素ガスの微細気泡に超音波を与えて急激に縮小させると、気泡表面の電化密度の上昇によって静電的な反発が生じる。これにより微細気泡の縮小は停止し、水素ガスは液体燃料中に拡散することなく微細気泡状態で存在するようになる。
水素ガスを微細気泡状態、特にナノバブルの状態でより長時間維持するためには、液体燃料中にイオンが存在することが好ましい。液体燃料中にイオンが存在する場合、微細気泡化した水素ガスの気液界面に吸着したイオンと、界面近傍に静電気的引力で引き寄せられた液体燃料中の反対符号のイオンが微小な体積中に高濃度に濃縮する。これにより、微細気泡内の水素ガスが液体燃料中へ拡散することが阻害され、水素ガスは微細気泡状態を安定して維持できるようになる。なお、液体燃料中にイオンを存在させる方法には限定はない。改質により電導度を増大させた液体燃料中に、電解質である有機塩類を添加する方法を採ることもできる。
燃料タンク30内の水素混合燃料は、燃料ポンプ32によって燃料供給流路34に吸い上げられ、燃焼室10内の燃焼ガス圧よりも高い所定圧まで圧縮されてから筒内インジェクタ18へ供給される。燃料ポンプ32は、エンジン本体2によって駆動される機械式ポンプでもよく、モータによって駆動される電動式ポンプでもよい。燃料タンク30には、燃料タンク30内の圧力に応じた信号を出力する圧力センサ46が取り付けられている。
燃料供給流路34の途中には流路切替弁38が配置されている。流路切替弁38は2つの出口ポートと1つの入口ポートを有する3方弁であり、その出口ポートの1つにリターン流路36が接続されている。リターン流路36はその他方の端部を燃料タンク30に接続されている。流路切替弁38の出口ポートをリターン流路36に切替えることで、燃料タンク30から出た水素混合燃料は再び燃料タンク30へ戻ることになる。以下では、流路切替弁38の出口ポートを筒内インジェクタ18側に切り替えることで実現される燃料ラインを通常供給ラインといい、流路切替弁38の出口ポートを燃料タンク30側に切り替えることで実現される燃料ラインを循環ラインという。
燃料供給流路34における燃料ポンプ32と流路切替弁38との間には、微細気泡発生装置40が配置されている。微細気泡発生装置40は、水素ガスを微細気泡にして燃料供給流路34を流れる液体に混合する装置である。微細気泡発生装置40による微細気泡化の方法としては、超音波により水素ガスの気泡を加振して分裂させる方法を採ることができる。ただし、水素混合燃料に元から含まれている微細気泡と同サイズの微細気泡を発生させることができるならば、微細気泡発生装置40による微細気泡化の方法には限定はない。
本実施の形態のエンジンは、微細気泡発生装置40が搭載されることで車上でも水素混合燃料を生成することが可能になっている。ただし、微細気泡発生装置40は水素混合燃料の新たな製造を目的としたものではなく、燃料タンク30内の水素混合燃料から分離した水素ガスの水素混合燃料への再混合を目的として搭載されている。
水素混合燃料に含まれる水素ガスは、いつまでも微細気泡状態を維持することはできず、時間が経過するにつれて水素混合燃料から分離していく。このため、時間の経過に伴い水素混合燃料の水素濃度は次第に低下していき、水素混合燃料の使用によって得られるはずの所望の性能を得ることができなくなってしまう。そこで、本実施の形態のエンジンでは、水素混合燃料から分離して燃料タンク30内に溜まっている水素ガスを回収し、微細気泡発生装置40によって再び水素混合燃料へ混合することとしている。
このため、燃料タンク30の上部には、燃料タンク30内の水素ガスを回収して微細気泡発生装置40へ供給するためのガス回収流路44が接続されている。必要な場合にのみ燃料タンク30を微細気泡発生装置40に連通させるため、ガス回収流路44には開閉弁42が設けられている。開閉弁42を開くことで、水素混合燃料から分離した水素ガスは、燃料タンク30内に溜まっている気化燃料とともに微細気泡発生装置40に供給される。そして、微細気泡発生装置40によって微細気泡化されて燃料供給流路34を流れる水素混合燃料に再混合される。
なお、微細気泡発生装置40や開閉弁42は、エンジンの制御装置であるECU(Electronic Control Unit)50によって制御されている。ECU50の出力部には微細気泡発生装置40や開閉弁42の他、点火プラグ16、筒内インジェクタ18、燃料ポンプ32、流路切替弁38等の種々の機器が接続されている。ECU50の入力部には、前述の圧力センサ46の他、エンジン本体2の運転状態に関する情報(アクセル開度、車速、エンジン回転数、空燃比、水温、ノック信号等)を取得する運転状態測定装置52や、大気の状態に関する情報(温度、湿度、大気圧等)を取得する大気状態測定装置54等の種々のセンサ類が接続されている。ECU50は、各センサ類から入力される信号に基づき、所定の制御プログラムにしたがって各機器を制御している。
上記のシステム構成によれば、液状の炭化水素系燃料に水素ガスが微細気泡状態で含まれてなる水素混合燃料をエンジンの燃料として使用することができるので、水素ガスと炭化水素系燃料を別々の燃料供給系を用いてインジェクタに供給する場合のような複雑なシステムは不要となる。また、水素ガスは炭化水素系燃料に微細気泡状態で含まれて貯蔵されるので、炭化水素系燃料を貯蔵する燃料タンクとは別に水素ガスを貯蔵する手段を備える必要はなく、また、車上で水素を生成するための手段を備える必要もない。
さらに、上記のシステム構成によれば、長期間の放置によって水素混合燃料から水素ガスが分離してしまったとしても、分離した水素ガスを回収して水素混合燃料に再混合することができる。その場合、流路切替弁38により燃料ラインが通常供給ラインに切り替わっている場合には、筒内インジェクタ18へ供給途中の水素混合燃料に水素ガスを再混合することができる。一方、流路切替弁38により燃料ラインが循環ラインに切り替わっている場合には、燃料タンク30と微細気泡発生装置40との間で水素混合燃料を循環させながら、水素混合燃料に水素ガスを再混合することができる。
通常供給ラインの選択時に再混合処理を実行する場合には、水素ガスの分離によって燃料タンク30内の水素混合燃料の水素濃度が低下していたとしても、筒内インジェクタ18からは規定の水素濃度の水素混合燃料を噴射することが可能になる。循環ラインの選択時に再混合処理を実行する場合には、燃料タンク30内の水素混合燃料の水素濃度を安定させることができる。何れにしても、上記のシステム構成によれば、水素ガスの再混合処理によって常に安定した水素濃度の水素混合燃料を筒内インジェクタ18から噴射することが可能になる。
本実施の形態では、燃料タンク30、燃料ポンプ32及び燃料供給流路34によって、第1の発明にかかる「燃料供給手段」が実現されている。また、微細気泡発生装置40、開閉弁42及びガス回収流路44によって、第2の発明にかかる「混合手段」が実現されている。また、流路切替弁38によって燃料ラインが通常供給ラインに切り替えられることで、第3の発明にかかる「混合手段」が実現され、流路切替弁38によって燃料ラインが循環ラインに切り替えられることで、第4の発明にかかる「混合手段」が実現される。
以上説明した水素ガスの再混合処理は、ECU50によるシステム制御の一環として行われる。図2のフローチャートは、本実施の形態においてECU50により実施される水素ガスの再混合処理にかかるシステム制御のルーチンを示している。
図2に示すルーチンの最初のステップS100では、水素ガスの再混合の実行条件が成立しているか否か判定される。水素ガスの再混合は、水素混合燃料からの水素ガスの分離が進んだ場合に行われる動作であり、その実行条件の成立/不成立は圧力センサ46によって測定されるタンク内圧に基づいて判定される。タンク内圧は水素ガスの分離状況と関係を有し、気体で存在する水素ガス量が増大するにつれて上昇する。ECU50は、タンク内圧が基準値を超えたら水素ガスの分離が進んだものと判断し、再混合の実行条件が成立しているとの判定を行う。その場合、ステップS102乃至ステップS110の処理によって水素混合燃料への水素ガスの再混合が実行される。
ステップS102では、燃料カット制御が実行されている途中か否か判定される。燃料カット制御が実行されていない場合には、筒内インジェクタ18からの燃料噴射によって水素混合燃料が消費される。したがって、筒内インジェクタ18へ向けて水素混合燃料を流すことで、微細気泡発生装置40に水素混合燃料を供給することができる。これに対し、燃料カット制御が実行されている場合には、燃料噴射による水素混合燃料の消費は無いため、筒内インジェクタ18へ向けて水素混合燃料を流すことはできない。
そこで、燃料カット制御が実行されている場合には、次の処理としてステップS104が選択される。ステップS104では、流路切替弁38によって燃料ラインが循環ラインに切り替えられ、燃料タンク30と微細気泡発生装置40との間で水素混合燃料を循環させることが行われる。
一方、燃料カット制御が実行されていない場合には、次の処理としてステップS106が選択される。ステップS106では、水素混合燃料を筒内インジェクタ18へ供給すべく、流路切替弁38によって燃料ラインが通常供給ラインに切り替えられる。
燃料ラインの選択の後は、ステップS108の処理によって開閉弁42が開かれる。開閉弁42が開かれることで、燃料タンク30は微細気泡発生装置40と連通状態となる。これにより、燃料タンク30内に溜まっている水素ガスは、気化した炭化水素系燃料とともに微細気泡発生装置40によって回収される。
次のステップS110では、回収されたガス燃料(水素ガスと気化した炭化水素系燃料の混合気)が微細気泡発生装置40により微細気泡化され、この微細気泡化されたガス燃料が水素混合燃料に再混合される。これにより、水素ガスの分離による水素濃度の低下を防止することができ、常に安定した水素濃度の水素混合燃料を筒内インジェクタ18から噴射することが可能になる。
なお、ステップS100の判定で水素ガスの再混合の実行条件が成立しなかったときには、開閉弁42が閉じられて燃料タンク30と微細気泡発生装置40との連通は解除され(ステップS112)、続いて、微細気泡発生装置40による微細気泡化処理も停止される(ステップS114)。
実施の形態2.
以下、図3及び図4を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
図3は本発明の実施の形態2としての水素利用内燃機関(以下、単にエンジンという)のシステム構成を示す図である。本実施の形態のエンジンは、エンジン本体2を有している。エンジン本体2の構成は実施の形態1と同じであるのでその説明は省略する。図3中、実施の形態1にかかるエンジンと同一の要素については同一の符号を付している。
本実施の形態では、燃料タンク30には、ガソリン等の液状の炭化水素系燃料が貯蔵されている。燃料タンク30は、燃料供給流路34によって筒内インジェクタ18に接続されている。燃料タンク30内の炭化水素系燃料は、燃料供給流路34に配置された燃料ポンプ32によって吸い上げられ、燃焼室10内の燃焼ガス圧よりも高い所定圧まで圧縮されてから筒内インジェクタ18へ供給される。
燃料供給流路34の途中には流路切替弁38が配置され、流路切替弁38の出口ポートの1つにリターン流路36が接続されている。リターン流路36はその他方の端部を燃料タンク30に接続されている。流路切替弁38の出口ポートが筒内インジェクタ18側のときには燃料ラインは通常供給ラインとなり、流路切替弁38の出口ポートを燃料タンク30側に切り替えることで燃料ラインは循環ラインに切り替わる。
燃料供給流路34における燃料ポンプ32と流路切替弁38との間には、もう一方の燃料である水素ガスを炭化水素系燃料に混合するための微細気泡発生装置40が配置されている。微細気泡発生装置40は、水素ガスを直径数十μm以下の微細気泡にして燃料供給流路34中の炭化水素系燃料に混合する。微細気泡発生装置40により水素ガスを微細気泡化して炭化水素系燃料に混合することで、水素ガスを炭化水素系燃料中に大量に且つ均一に存在させることができる。そして、筒内インジェクタ18からは、液状の炭化水素系燃料に水素ガスが微細気泡状態で含まれてなる、実質的に液体の水素混合燃料を噴射することが可能になる。なお、微細気泡発生装置40による微細気泡化の方法には限定はなく、実施の形態1において例示した方法(第1乃至第3例)を採ることができる。微細気泡発生装置40により発生させる微細気泡のサイズには限定はないが、好ましくは直径1μm以下の超微細気泡とする。
微細気泡発生装置40により炭化水素系燃料に混合される水素ガスは、水素生成装置60から水素ガス供給流路66を介して供給される。水素生成装置60は、炭化水素系燃料から水素ガスを即座に生成することができる装置である。水素生成装置60において水素ガスの生成に用いられる炭化水素系燃料は、燃料タンク30から燃料供給流路64を介して供給される。燃料供給流路64には、燃料タンク30から炭化水素系燃料を吸い上げて水素生成装置60に供給するための燃料ポンプ62が配置されている。
水素生成装置60において炭化水素系燃料から水素ガスを生成する方法に限定はなく、公知の生成方法を採ることができる。例えば、炭化水素系燃料を低温プラズマにより分解する方法や、炭化水素系燃料を触媒によって改質する方法を採ることができる。低温プラズマを用いた改質方法としては、具体的には、炭化水素系燃料に対し直流パルス放電を行う方法を採ることができる。また、触媒を用いた改質方法としては、水蒸気改質、部分酸化反応による改質、或いは、有機ハイドライドの脱水素化による改質等が挙げられる。
なお、炭化水素系燃料から水素ガスを生成する場合、何れの生成方法を用いても生成物には水素ガス以外の成分が含まれている。その水素ガス以外の成分がガス成分である場合には、水素ガスとともに微細気泡発生装置40に供給すればよい。一方、水素ガス以外の成分が液体成分である場合には、燃料タンク30に戻してもよく、或いは、水素ガスとともに微細気泡発生装置40に供給してもよい。
微細気泡発生装置40や水素生成装置60は、エンジンの制御装置であるECU(Electronic Control Unit)50によって制御されている。ECU50の出力部には微細気泡発生装置40や水素生成装置60の他、点火プラグ16、筒内インジェクタ18、燃料ポンプ32,62、流路切替弁38等の種々の機器が接続されている。ECU50の入力部には、運転状態測定装置52や大気状態測定装置54等の種々のセンサ類が接続されている。ECU50は、各センサ類から入力される信号に基づき、所定の制御プログラムにしたがって各機器を制御している。
上記のシステム構成によれば、液状の炭化水素系燃料に水素ガスが微細気泡状態で含まれてなる水素混合燃料をエンジンの燃料として使用することができるので、水素ガスと炭化水素系燃料を別々の燃料供給系を用いてインジェクタに供給する場合のような複雑なシステムは不要となる。また、炭化水素系燃料に混合する水素ガスは炭化水素系燃料から生成されるので、炭化水素系燃料を貯蔵する燃料タンクとは別に水素ガスを貯蔵する手段を備える必要はない。
さらに、上記のシステム構成によれば、水素ガスの生成及び混合処理を実行するときの燃料ラインを通常供給ラインと循環ラインとで切り替えることができる。通常供給ラインの選択時に生成及び混合処理を実行する場合には、筒内インジェクタ18に供給される段階で炭化水素系燃料に水素ガスが混合されるので、水素ガスの分離を最小限に抑えることができ、筒内インジェクタ18からは安定した水素濃度の水素混合燃料を噴射することができる。循環ラインの選択時に生成及び混合処理を実行する場合には、炭化水素系燃料を水素混合燃料に改質して燃料タンク30内に戻すことにより、燃料タンク30内の炭化水素系燃料の水素濃度を高めておくことができる。
本実施の形態では、燃料タンク30、燃料ポンプ32及び燃料供給流路34によって、第1の発明にかかる「燃料供給手段」が実現されている。また、本実施の形態では、水素生成装置60が第5の発明にかかる「水素生成手段」に相当し、微細気泡発生装置40が第5の発明にかかる「混合手段」に相当している。また、流路切替弁38によって燃料ラインが通常供給ラインに切り替えられることで、第6の発明にかかる「混合手段」が実現され、流路切替弁38によって燃料ラインが循環ラインに切り替えられることで、第7の発明にかかる「混合手段」が実現される。
以上説明した水素ガスの生成及び混合処理は、ECU50によるシステム制御の一環として行われる。図4のフローチャートは、本実施の形態においてECU50により実施される水素ガスの生成及び混合処理にかかるシステム制御のルーチンを示している。
図4に示すルーチンの最初のステップS200では、運転状態測定装置52よって測定されるエンジン本体2の運転状態、及び大気状態測定装置54によって測定される大気状態に基づき、水素ガスの生成及び混合の実行条件が成立しているか否か判定される。水素ガスの生成及び混合の実行条件とは、例えば、エンジン本体2がノッキングが発生しうる運転領域で運転されていることとか、燃焼変動が発生しうる運転領域で運転されていること等である。水素ガスの生成及び混合の実行条件が成立している場合に、ステップS202乃至ステップS210の処理によって水素ガスの生成と炭化水素系燃料への水素ガスの混合が行われる。
ステップS202では、燃料カット制御が実行されている途中か否か判定される。燃料カット制御が実行されていない場合には、筒内インジェクタ18からの燃料噴射によって水素混合燃料が消費される。したがって、微細気泡発生装置40で生成された水素混合燃料を筒内インジェクタ18へ向けて流すことで、燃料タンク30から微細気泡発生装置40へ連続して炭化水素系燃料を供給することができる。これに対し、燃料カット制御が実行されている場合には、燃料噴射による水素混合燃料の消費は無いため、微細気泡発生装置40で生成された水素混合燃料を筒内インジェクタ18へ向けて流すことはできない。
そこで、燃料カット制御が実行されている場合には、次の処理としてステップS204が選択される。ステップS204では、流路切替弁38によって燃料ラインが循環ラインに切り替えられ、燃料タンク30と微細気泡発生装置40との間で炭化水素系燃料を循環させることが行われる。これにより、燃料タンク30から微細気泡発生装置40へ連続して炭化水素系燃料を供給することが可能になる。
一方、燃料カット制御が実行されていない場合には、次の処理としてステップS206が選択される。ステップS206では、水素混合燃料を筒内インジェクタ18へ供給すべく、流路切替弁38によって燃料ラインが通常供給ラインに切り替えられる。
次のステップS208では、水素ガスの要求生成量に応じた炭化水素系燃料が燃料タンク30から水素生成装置60に供給され、水素生成装置60における水素生成処理によって要求生成量の水素ガスが生成される。水素ガスの要求生成量は、燃料ラインが循環ラインか通常供給ラインかによって異なる算出方法が採られる。燃料ラインが循環ラインのときには、要求水素生成量は一定値に設定される。一方、燃料ラインが通常供給ラインのときには、まず、アクセル開度やエンジン回転数等からエンジン本体2の要求負荷が求められ、この要求負荷とエンジン本体2の運転状態から決まる要求水素添加割合とから、水素ガスが分担する負荷(水素負荷)が求められる。次に、水素ガスの単位量当たりの発熱量に基づいて、水素負荷に応じた水素ガス量が要求生成量として算出される。ただし、燃料タンク30内の炭化水素系燃料には水素ガスが含まれているので、要求生成量は炭化水素系燃料の水素濃度に応じて補正される。炭化水素系燃料の水素濃度は、循環ラインが選択されている間に生成された水素ガスの積算生成量から推定することができる。
次のステップS210では、水素生成装置60で生成された水素ガス(或いは、水素ガスを含むガス燃料)が微細気泡発生装置40により微細気泡化され、この微細気泡化された水素ガスが燃料供給流路34を流れる炭化水素系燃料に混合される。これにより、筒内インジェクタ18からは、水素ガスを微細気泡状態で含む水素混合燃料を噴射することが可能になる。
なお、ステップS200の判定で水素ガスの生成及び混合の実行条件が成立しなかったときには、水素生成装置60における水素生成処理が停止され(ステップS212)、続いて、微細気泡発生装置40による微細気泡化処理も停止される(ステップS214)。
実施の形態3.
以下、図5及び図6を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。
図5は本発明の実施の形態3としての水素利用内燃機関(以下、単にエンジンという)のシステム構成を示す図である。本実施の形態のエンジンは、エンジン本体2を有している。エンジン本体2の構成は実施の形態1と同じであるのでその説明は省略する。図5中、実施の形態1或いは実施の形態2にかかるエンジンと同一の要素については同一の符号を付している。
本実施の形態にかかる燃料タンク30には、ガソリン等の液状の炭化水素系燃料に水素ガスが微細気泡状態で含まれてなる水素混合燃料が貯蔵されている。ただし、実施の形態1とは異なり、燃料タンク30に貯蔵されている水素混合燃料は車上で製造されたものである。本実施の形態では、給油装置によって燃料タンク30に供給される燃料は炭化水素系燃料であり、後述するように、炭化水素系燃料を原料として車上で水素混合燃料が製造されるようになっている。
燃料タンク30は、燃料供給流路34によって筒内インジェクタ18に接続されている。燃料タンク30内の水素混合燃料(或いは炭化水素系燃料)は、燃料供給流路34に配置された燃料ポンプ32によって吸い上げられ、燃焼室10内の燃焼ガス圧よりも高い所定圧まで圧縮されてから筒内インジェクタ18へ供給される。燃料タンク30には、燃料タンク30内の圧力に応じた信号を出力する圧力センサ46が取り付けられている。
燃料供給流路34には、水素ガスを炭化水素系燃料に混合するための微細気泡発生装置40が配置されている。微細気泡発生装置40は、水素ガスを直径数十μm以下の微細気泡、より好ましくは直径1μm以下の超微細気泡にして燃料供給流路34内の炭化水素系燃料に混合する。微細気泡発生装置40による微細気泡化の方法には限定はなく、実施の形態1において例示した方法(第1乃至第3例)を採ることができる。
微細気泡発生装置40において微細気泡化される水素ガスは、水素生成装置60から水素ガス供給流路66を介して供給される。水素生成装置60は炭化水素系燃料を改質して水素ガスを生成する装置であり、原料となる炭化水素系燃料は燃料タンク30から供給される。水素生成装置60と燃料タンク30とは燃料供給流路64によって接続され、燃料供給流路64に配置された燃料ポンプ62によって燃料タンク30内の炭化水素系燃料が吸い上げられるようになっている。水素生成装置60による水素ガスの生成方法には限定はなく、実施の形態2において例示した方法を採ることができる。
水素生成装置60の動力としては電気エネルギが用いられる。水素生成装置60は、バッテリー70からの電気エネルギの供給を受けて作動する。本実施の形態のエンジンは、バッテリー70に充電する手段として回生発電装置72を備えている。回生発電装置72は、車両の駆動系に配置され、車両の減速エネルギを電気エネルギとして回収する装置である。回生発電装置72が回収した電気エネルギ(回生エネルギ)は一旦バッテリー70に充電され、バッテリー70から水素生成装置60に供給されるようになっている。
燃料供給流路34における微細気泡発生装置40の上流には、流路切替弁38が配置されている。流路切替弁68は2つの出口ポートと1つの入口ポートを有する3方弁であり、その出口ポートの1つにリターン流路36が接続されている。リターン流路36はその他方の端部を燃料タンク30に接続されている。流路切替弁38の出口ポートが筒内インジェクタ18側のときには燃料ラインは通常供給ラインとなり、流路切替弁38の出口ポートを燃料タンク30側に切り替えることで燃料ラインは循環ラインに切り替わる。燃料ラインを循環ラインとし、燃料タンク30と微細気泡発生装置40との間で炭化水素系燃料を循環させながら水素ガスを混合していくことで、燃料タンク30内の炭化水素系燃料を水素混合燃料に置換していくことができる。
また、微細気泡発生装置40に水素ガスを供給する水素ガス供給流路66の途中には、流路切替弁68が配置されている。流路切替弁68は1つの出口ポートと2つの入口ポートを有する3方弁であり、その入口ポートの1つにガス回収流路44が接続されている。ガス回収流路44はその他方の端部を燃料タンク30の上部に接続されている。流路切替弁68の入口ポートをガス回収流路44に切り替えることで、燃料タンク30内は微細気泡発生装置40と連通する。これにより、燃料タンク30内で水素混合燃料から分離した水素ガスを微細気泡発生装置40に供給し、燃料供給流路34内の水素混合燃料に再混合することができる。以下では、流路切替弁68の入口ポートを水素生成装置60側に切り替えることで実現される水素ガスラインを生成ガス供給ラインといい、流路切替弁68の入口ポートを燃料タンク30側に切り替えることで実現される水素ガスラインを回収ガス供給ラインという。
微細気泡発生装置40や水素生成装置60は、エンジンの制御装置であるECU(Electronic Control Unit)50によって制御されている。ECU50の出力部には微細気泡発生装置40や水素生成装置60の他、点火プラグ16、筒内インジェクタ18、燃料ポンプ32,62、流路切替弁38,68,回生発電装置72等の種々の機器が接続されている。ECU50の入力部には、運転状態測定装置52や大気状態測定装置54等の種々のセンサ類が接続されている。また、回生発電装置72の発電状況を示す信号も入力されている。ECU50は、各センサ類から入力される信号に基づき、所定の制御プログラムにしたがって各機器を制御している。
上記のシステム構成によれば、液状の炭化水素系燃料に水素ガスが微細気泡状態で含まれてなる水素混合燃料をエンジンの燃料として使用することができるので、水素ガスと炭化水素系燃料を別々の燃料供給系を用いてインジェクタに供給する場合のような複雑なシステムは不要となる。また、炭化水素系燃料に混合する水素ガスは炭化水素系燃料から生成されるので、炭化水素系燃料を貯蔵する燃料タンクとは別に水素ガスを貯蔵する手段を備える必要はない。
また、上記のシステム構成によれば、回生発電装置72で得られた回生エネルギを水素生成装置60における水素生成処理に利用することができる。特に、回生発電装置72の作動時に水素ガスの生成及び混合処理を実行することで、バッテリー70が満充電の場合でも車両の減速エネルギを回収することができ、高いエネルギ効率を実現することができる。また、減速燃料カット時のように、燃料ラインが循環ラインのときに集中して水素ガスの生成及び混合処理を実行し、燃料タンク30内の炭化水素系燃料を水素混合燃料に改質することで、水素ガスの生成及び混合処理にかかる精密な制御を不要にしてシステムのロバスト性を高めることもできる。
さらに、上記のシステム構成によれば、長期間の放置によって水素混合燃料から水素ガスが分離してしまったとしても、分離した水素ガスを回収して水素混合燃料に再混合することができる。通常供給ラインの選択時に再混合処理を実行する場合には、水素ガスの分離によって燃料タンク30内の水素混合燃料の水素濃度が低下していたとしても、筒内インジェクタ18からは規定の水素濃度の水素混合燃料を噴射することが可能になる。循環ラインの選択時に再混合処理を実行する場合には、燃料タンク30内の水素混合燃料の水素濃度を安定させることができる。何れにしても、上記のシステム構成によれば、水素ガスの再混合処理によって常に安定した水素濃度の水素混合燃料を筒内インジェクタ18から噴射することが可能になる。
本実施の形態では、燃料タンク30、燃料ポンプ32及び燃料供給流路34によって、第1の発明にかかる「燃料供給手段」が実現されている。また、微細気泡発生装置40及びガス回収流路44によって、第2の発明にかかる「混合手段」が実現されている。また、流路切替弁68によって回収ガス供給ラインが選択されているときに燃料ラインが通常供給ラインに切り替えられることで、第3の発明にかかる「混合手段」が実現され、燃料ラインが循環ラインに切り替えられることで、第4の発明にかかる「混合手段」が実現される。
さらに、本実施の形態では、水素生成装置60が第5の発明及び第7の発明にかかる「水素生成手段」に相当し、微細気泡発生装置40は第5の発明にかかる「混合手段」にも相当している。また、流路切替弁68によって生成ガス供給ラインが選択されているときに燃料ラインが通常供給ラインに切り替えられることで、第6の発明にかかる「混合手段」が実現され、燃料ラインが循環ラインに切り替えられることで、第7の発明にかかる「混合手段」が実現される。
以上説明した水素ガスの生成及び混合処理は、ECU50によるシステム制御の一環として行われる。図6のフローチャートは、本実施の形態においてECU50により実施される水素ガスの生成及び混合処理にかかるシステム制御のルーチンを示している。
図6に示すルーチンの最初のステップS300では、水素ガスの再混合の実行条件が成立しているか否か判定される。再混合の実行条件は、圧力センサ46によって測定されるタンク内圧が基準値を超えたら成立していると判定される。再混合の実行条件が未だ成立していない場合には、ステップS308乃至ステップS322の処理が実行される。
ステップS308では、回生制御が実行されている途中か否か判定される。回生制御の実行中か否かは回生発電装置72からの信号に基づいて判断される。回生制御が実行されているとき、つまり、回生発電装置72によって車両の減速エネルギの回収が行われているときには、次にステップS310の判定が行われる。
ステップS310では、燃料カット制御が実行されている途中か否か判定される。回生制御中であって燃料カット制御が実行されているとき、例えば減速燃料カット時には、次の処理としてステップS312が選択される。ステップS312では、流路切替弁38によって燃料ラインが循環ラインに切り替えられ、燃料タンク30と微細気泡発生装置40との間で炭化水素系燃料を循環させることが行われる。
次のステップS314では、水素ガスの要求生成量に応じた炭化水素系燃料が燃料タンク30から水素生成装置60に供給され、水素生成装置60における水素生成処理によって要求生成量の水素ガスが生成される。水素生成装置60で生成された水素ガス(或いは、水素ガスを含むガス燃料)は、次のステップS316で微細気泡発生装置40により微細気泡化され、この微細気泡化された水素ガスが燃料供給流路34内の炭化水素系燃料に混合される。これにより、燃料タンク30内の炭化水素系燃料は、循環ラインを循環している間に次第に水素混合燃料に置換されていく。
一方、回生制御中であっても燃料カット制御が実行されていないときには、次の処理としてステップS318が選択される。ステップS318では、燃料タンク30内に貯蔵されている水素混合燃料を筒内インジェクタ18へ供給すべく、流路切替弁38によって燃料ラインが通常供給ラインに切り替えられる。なお、本実施の形態では、水素ガスの生成及び混合処理は循環ラインが選択されているときに集中して行い、通常供給ラインが選択されているときには行わないことで、生成及び混合処理にかかる精密な制御を不要にしている。
ステップS308の判定の結果、回生制御が実行されていないときには、水素生成装置60における水素生成処理が停止され(ステップS320)、続いて、微細気泡発生装置40による微細気泡化処理も停止される(ステップS322)。
また、ステップS300の判定の結果、水素ガスの再混合の実行条件が成立していると判定された場合、例えば、長時間の放置によって水素混合燃料からの水素ガスの分離が進んだ場合には、ステップS302乃至ステップS306の処理によって水素混合燃料への水素ガスの再混合が実行される。
ステップS302では、燃料カット制御の有無に応じた燃料ラインの切り替えが行われる。具体的には、燃料カット制御が実行されている場合には、流路切替弁38によって燃料ラインが循環ラインに切り替えられ、燃料タンク30と微細気泡発生装置40との間で水素混合燃料を循環させることが行われる。一方、燃料カット制御が実行されていない場合には、燃料タンク30内の水素混合燃料を筒内インジェクタ18へ供給すべく、燃料ラインが通常供給ラインに切り替えられる。
燃料ラインの選択の後は、ステップS304の処理が実行される。ステップS304では、流路切替弁68によって水素ガスラインが生成ガス供給ラインから回収ガス供給ラインに切り替えられる。回収ガス供給ラインへの切り替えによって燃料タンク30は微細気泡発生装置40と連通状態となる。これにより、燃料タンク30内に溜まっている水素ガスは、気化した炭化水素系燃料とともに微細気泡発生装置40によって回収される。
次のステップS306では、回収されたガス燃料(水素ガスと気化した炭化水素系燃料の混合気)が微細気泡発生装置40により微細気泡化され、この微細気泡化されたガス燃料が水素混合燃料に再混合される。これにより、水素ガスの分離による水素濃度の低下を防止することができ、常に安定した水素濃度の水素混合燃料を筒内インジェクタ18から噴射することが可能になる。
その他.
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、次のように変形して実施してもよい。
各実施の形態にかかるシステム構成において、筒内インジェクタ18の代わりに吸気ポートに燃料を噴射するポートインジェクタを備えてもよい。或いは、筒内インジェクタ18に加えてポートインジェクタを備え、2つのインジェクタを状況に応じて使い分けるようにしてもよい。
また、各実施の形態にかかるシステム構成において、微細気泡発生装置40を燃料タンク30内に配置し、燃料タンク30内の炭化水素系燃料或いは水素混合燃料に水素ガスを混合するようにしてもよい。或いは、燃料供給流路34と燃料タンク30内の2箇所に微細気泡発生装置40を配置し、それぞれの箇所で水素ガスを混合するようにしてもよい。
また、実施の形態1及び実施の形態3にかかるシステム構成において、圧力センサ46の代わりに水素センサを燃料タンク30に配置し、水素センサによってタンク内ガスの水素濃度を測定してもよい。この場合は、タンク内ガスの水素濃度が基準値を超えたら、水素ガスの再混合の実行条件が成立していると判断することができる。
また、実施の形態3かかるシステム構成において、回生発電装置72から水素生成装置60へ直接、電気エネルギを供給してもよい。その場合、水素生成装置60の停止時には、発電した電気エネルギはバッテリー70に充電すればよい。