JP4190179B2 - 摩擦撹拌接合方法 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は、摩擦撹拌接合方法に係り、特に、二つのアルミニウム材の突合せ接合や重合せ接合、更には重ね隅肉接合を、摩擦撹拌接合操作によって実施する摩擦撹拌接合方法に関するものである。
【0002】
【背景技術】
近年、摩擦熱を利用してアルミニウム材を接合する方法の一つとして、米国特許第5460317号明細書や特表平7−505090号公報等に明らかにされる如き摩擦撹拌接合法(Friction Stir Welding)が、注目を受けている。そして、アルミニウム材の加工分野等において、この摩擦撹拌接合手法によるアルミニウム材の突合せ接合や重合せ接合、或いは重合せ隅肉接合接合が、一般に、接合されるべき二つのアルミニウム材よりも硬い材質のピンを先端中心部に設けてなるロッド状治具状の回転治具を用いて、実施されているのである。
【0003】
すなわち、例えば、摩擦撹拌接合方法を利用して、板形状や棒形状、或いはパイプ形状を呈する二つのアルミニウム材を突合せ接合せしめる場合には、先端中心部にピンが設けられた回転治具を高速回転せしめつつ、その先端のピンを、二つのアルミニウム材の突合せ部に対して差し込み、相対的に移動させることにより、それら回転せしめられるピンや回転治具と二つのアルミニウム材の突合せ部との間に摩擦熱を発生せしめ、そしてその摩擦熱にて、突合せ部の周辺部位を塑性加工可能な状態と為し、更に、ピンの高速回転による撹拌作用により、突合せ部の組織を入り交わらせ、以て溶融せしめることなく、二つのアルミニウム材を接合しているのである。
【0004】
また、摩擦撹拌接合方法による、上述の如き形状を呈するアルミニウム材の重合せ接合では、二つのアルミニウム材のうちの一方を他方に重ね合わせる一方、高速回転せしめられる回転治具の先端のピンを、それら二つのアルミニウム材の重合せ部に対して、該一方のアルミニウム材を貫通せしめて差し込み、相対的に移動させることにより、前記突合せ接合と同様に、二つのアルミニウム材を、溶融せしめることなく、重合せ部において接合するのである。
【0005】
さらに、摩擦撹拌接合方法による、上述の如き形状を呈するアルミニウム材の重合せ隅肉接合を行なう際には、二つのアルミニウム材のうちの一方を他方に重ね合わせた状態下で、一方のアルミニウム材が重ね合わされる他方のアルミニウム材の重合せ面と該一方のアルミニウム材の側面との間で形成される隅肉部に対して、高速回転せしめられる回転治具の先端のピンを差し込み、相対的に移動させることにより、前記突合せ接合や重合せ接合と同様に、二つのアルミニウム材を、溶融せしめることなく、隅肉部において、一体的に接合するのである。
【0006】
このような摩擦撹拌接合手法を利用したアルミニウム材の突合せ接合や重合せ接合、或いは重合せ隅肉接合においては、アルミニウム材に対する入熱が少なく、接合部の強度低下や歪みの発生を可及的に小さく為し得るといった利点が得られるのである。
【0007】
ところが、かかる従来のアルミニウム材の摩擦撹拌接合方法を実施した場合、接合されたアルミニウム材の突合せ部や重合せ部、或いは隅肉部に沿って形成される接合部に、回転治具のピンの引抜跡からなる突起が不可避的に形成されることとなり、それによって、種々の問題が生じていたのである。
【0008】
すなわち、そのようなピンの引抜跡からなる突起をそのままにした状態で、接合されたアルミニウム材を、例えば、プレス成形した場合、かかる突起において応力集中が惹起されて、そのプレス成形時に、該突起を起点とした亀裂が生じる恐れがあったのであり、また自動車外板として使用した場合には、突起形成部位において強度低下が惹起される危惧もあったのである。そのため、このような従来の摩擦撹拌接合方法によるアルミニウム材の接合を行なった際には、摩擦撹拌接合操作の終了後に、ピンの引抜跡からなる突起を除去するといった余分な作業を、行なわなければならなかったのである。
【0009】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、アルミニウム材を摩擦撹拌接合するに際して、回転治具のピンの引抜跡からなる突起の形成を有利に解消せしめ得、以て、摩擦撹拌接合操作終了後における突起の除去作業を効果的に省略し得るようにした手法を提供することにある。
【0010】
【解決手段】
そして、本発明にあっては、かかる課題の解決のために、接合されるべき二つのアルミニウム材を突き合わせ、その突合せ部に対して、回転治具を回転させつつ、その先端部において差し込み、相対的に移動させることにより、かかる突合せ部を摩擦撹拌接合せしめるに際し、前記回転治具として、円柱形状を呈し、軸心方向の一方の先端面に円形の周溝からなる凹所が設けられ、且つ該先端面における該凹所の形成部位よりも径方向内側の部位が摩擦撹拌のための平面とされたロッド状治具であって、該凹所が、該ロッド状治具の外周に沿う方向に延びる側壁を有しているものを用い、かかるロッド状治具を、前記突合せ部に対する相対的な移動方向に対して後傾する姿勢で軸心回りに回転させつつ、該凹所が先端面に設けられる一方の先端部において、該突合せ部に差し込み、相対的に移動させると共に、次式:
(t1+t2)/2−r・sinθ<1
r≦15、θ≦5
[但し、t1、t2:接合されるべき二つのアルミニウム材のそれぞれの厚さ乃至は径(mm)、r:ロッド状治具の半径(mm)、θ:ロッド状治具の後傾角度(°)]
を満足するような条件で、摩擦撹拌接合操作を行なうことを特徴とする摩擦撹拌接合方法を、その要旨とするものである。
【0011】
すなわち、この本発明に従う摩擦撹拌接合方法にあっては、接合されるべき二つのアルミニウム材の突合せ部に差し込まれるロッド状治具の先端面に凹所が設けられているところから、アルミニウム材に対するロッド状治具の接触面積が有利に増大せしめられ得ると共に、ロッド状治具の先端面が、全体として粗面化された形態と為され得、それによって、回転せしめられるロッド状治具と二つのアルミニウム材の突合せ部との間に発生する摩擦熱にて塑性加工可能な状態とされた突合せ部周辺部位が、かかるロッド状治具先端面により、ロッド状治具の回転に伴って、十分に撹拌せしめられ得るのであり、その結果として、突合せ部周辺部位の組織も十分に入り交わらされて、二つのアルミニウム材が、溶融することなく、確実に接合され得ることとなるのである。
【0012】
また、本発明に係る摩擦撹拌接合方法においては、先端中心部にピンが設けられた回転治具を用いる従来手法とは異なって、回転治具として用いられるロッド状治具の、突合せ部に差し込まれる側の先端面の凹所形成部位以外が平面とされていることにより、かかる先端面にピンが何等設けられていないため、突合せ部に沿って形成される接合部に、かかるピンの引抜跡からなる突起が形成されるようなことが、有利に解消され得るのである。
【0013】
しかも、かかる本発明手法は、上述せる如き三つの式を全て満足するような条件で、摩擦撹拌接合操作を行なうようにしたものであるところから、従来の回転治具に設けられていたピンではなく、それよりも大径のロッド状治具の先端部を突合せ部に差し込むようにしたものであるにも拘わらず、摩擦撹拌接合操作がスムーズに行なわれ得ると共に、突合せ部に沿って、良好な接合部が形成され得るのである。
【0014】
従って、かくの如き本発明に従う摩擦撹拌接合方法によれば、互いに突き合わされる二つのアルミニウム材を、その接合部に、回転治具のピンの引抜跡からなる突起を何等形成せしめることなく、確実に且つスムーズに接合することが出来るのであり、そして、その結果として、摩擦撹拌接合操作終了後に、ピンの引抜跡からなる突起を除去するための余分な作業から有利に解放され得て、アルミニウム材の摩擦撹拌接合時における作業性の向上が、極めて有利に図られ得ることとなるのである。
【0015】
また、本発明にあっては、前記技術的課題を解決するために、接合されるべき二つのアルミニウム材のうちの一方を他方に重ね合わせる一方、その重合せ部に対して、回転治具を回転させつつ、その先端部において、該一方のアルミニウム材を貫通せしめて差し込み、相対的に移動させることにより、かかる重合せ部を摩擦撹拌接合せしめるに際し、前記回転治具として、円柱形状を呈し、軸心方向の一方の先端面に円形の周溝からなる凹所が設けられ、且つ該先端面における該凹所の形成部位よりも径方向内側の部位が摩擦撹拌のための平面とされたロッド状治具であって、該凹所が、該ロッド状治具の外周に沿う方向に延びる側壁を有しているものを用い、かかるロッド状治具を、前記重合せ部に対する相対的な移動方向に対して後傾する姿勢で軸心回りに回転させつつ、該凹所が先端面に設けられる一方の先端部において、該重合せ部に差し込み、相対的に移動させると共に、次式:
t1−r・sinθ<1
r≦15、θ≦5
[但し、t1:接合されるべき二つのアルミニウム材のうち、重ね合わされた状態下で上側に位置するアルミニウム材の厚さ(mm)、r:ロッド状治具の半径(mm)、θ:ロッド状治具の後傾角度(°)]
を満足するような条件で、摩擦撹拌接合操作を行なうことを特徴とする摩擦撹拌接合方法をも、その要旨とするものである。
【0016】
このような本発明に従う摩擦撹拌接合方法にあっても、接合されるべき二つのアルミニウム材の重合せ部に差し込まれるロッド状治具の先端面に凹所が設けられて、かかるロッド状治具先端面のアルミニウム材に対する接触面積が増大せしめられていると共に、そのようなロッド状治具先端面が粗面化された形態とされており、更に、ロッド状治具先端面における凹所形成部位以外の部位が平面とされて、該先端面にピンが何等設けられていないところから、先端中心部にピンが設けられた回転治具を用いる従来手法とは異なって、重合せ部に沿って形成される接合部に、ピンの引抜跡からなる突起が形成されるようなことが有利に解消され得るのであり、また、ピンが設けられていないにも拘わらず、ロッド状治具の回転に伴って、ロッド状治具先端面との接触により可塑化された重合せ部周辺部位が十分に撹拌せしめられ得て、二つのアルミニウム材が、溶融することなく、確実に接合され得るのである。
【0017】
しかも、この本発明手法は、上述の如き三つの式を全て満足するような条件で、摩擦撹拌接合操作を行なうようにしたものであるところから、従来の回転治具に設けられていたピンではなく、それよりも大径のロッド状治具の先端部を突合せ部に差し込むようにしたものであるにも拘わらず、摩擦撹拌接合操作がスムーズに行なわれ得ると共に、重合せ部に沿って、良好な接合部が形成され得るのである。
【0018】
従って、このような本発明に従う摩擦撹拌接合方法によっても、互いに重ね合わされる二つのアルミニウム材を、その接合部に、回転治具のピンの引抜跡からなる突起を何等形成せしめることなく、確実に且つスムーズに接合することが出来、またその結果として、摩擦撹拌接合操作終了後でのかかる突起の除去作業が有利に省略され得て、アルミニウム材の摩擦撹拌接合の作業性が、効果的に高められ得ることとなるのである。
【0019】
なお、本発明に従う摩擦撹拌接合方法において、軸方向の一方の先端面に凹所を有するロッド状治具を回転治具として用いる場合には、有利には、かかる凹所が、2mm以下の深さを有して、ロッド状治具の一方の先端面に設けられる。これによって、回転せしめられるロッド状治具の先端面と接触して、塑性加工可能な状態とされた二つのアルミニウム材の可塑化部分(突合せ部の周辺部分や重合せ部の周辺部分)に対するロッド状治具先端面による撹拌作用が、より有利に高められ得、以て、二つのアルミニウム材の接合部において、より優れた接合品質が、効果的に確保され得るのである。
【0020】
また、本発明に従う摩擦撹拌接合方法においては、軸方向の一方の先端面に凹所を有するロッド状治具を回転治具として用いると共に、かかる凹所が、ロッド状治具の周方向に沿って延びる側壁を有して、該ロッド状治具の一方の先端面に設けられることとなる。
【0021】
このような構成を採用すれば、ロッド状治具の回転により可塑化状態で撹拌される突合せ部周辺部分のメタルが、ロッド状治具先端面の凹所内に入り込み、更に、該凹所内に入り込んだメタルが、ロッド状治具の周方向に延びる、凹所の側壁にて堰き止められる如き状態となって、ロッド状治具先端面の外周縁部から外方に洩れ出すようなことが、有利に防止され得るのである。
【0022】
それ故、かかる本発明手法では、接合されるべきアルミニウム材における突合せ部の接合開始側の端縁に、回転せしめられるロッド状治具先端部を差し込んで、摩擦撹拌接合操作を開始し、かかる突合せ部に対して、ロッド状治具先端部を相対的に移動させた後、突合せ部の接合終了側の端縁において、ロッド状治具先端部を突合せ部から引き抜くようにしても、回転せしめられるロッド状治具先端部により撹拌されたメタルが、接合されるべきアルミニウム材の接合開始側及び接合終了側のそれぞれの端面から洩れ出すようなことが、効果的に阻止され得るのである。
【0023】
従って、かくの如き本発明に従う摩擦撹拌接合方法によれば、接合されるべき二つのアルミニウム材における接合開始側及び接合終了側のそれぞれの端面からのメタルの洩れ出しによって惹起される接合欠陥の発生が、極めて効果的に防止され得るのであり、またそれによって、そのような接合欠陥の発生を未然に防ぐために従来行なわれていた、接合されるべき二つのアルミニウム材の突合せ部や重合せ部の接合開始端側部分と接合終了端側部分に所定の長さに亘って形成される未接合部を、摩擦撹拌接合操作終了後に、切断したり、溶融溶接したりする後処理が、効果的に省略され得ることとなるのである。
【0024】
さらに、前記せる技術的課題の解決のために、本発明にあっては、接合されるべき二つのアルミニウム材のうちの一方を他方に重ね合わせる一方、それら二つのアルミニウム材の間で形成される隅肉部に対して、回転治具を回転させつつ、その先端部において差し込み、相対的に移動させることにより、かかる隅肉部を摩擦撹拌接合せしめるに際し、前記回転治具として、円柱形状を呈し、軸心方向の一方の先端面の全体が凹状球面とされたロッド状治具であって、該凹状球面によって該ロッド状治具の外周に沿う方向に延びる側壁が設けられてなる構造のものを用い、かかるロッド状治具を、該凹状球面が前記隅肉部に対向せしめられるように、前記二つのアルミニウム材の重合せ方向に対して傾斜せしめた状態で軸心回りに回転させつつ、先端面が凹状球面とされた一方の先端部において、前記隅肉部に差し込み、相対的に移動させると共に、次式:
t1+t2−2r・sinθ<1
r≦20、θ≦30
[但し、t1、t2:接合されるべき二つのアルミニウム材のそれぞれの厚さ(mm)、r:ロッド状治具の半径(mm)、θ:二つのアルミニウム材の重合せ方向に対するロッド状治具の傾斜角度(°)]
を満足するような条件で、摩擦撹拌接合操作を行なうことを特徴とする摩擦撹拌接合方法をもまた、その要旨とするものである。
【0025】
すなわち、この本発明に従う摩擦撹拌接合方法においては、接合されるべき二つのアルミニウム材の隅肉部に差し込まれるロッド状治具の先端面が、凹状球面とされていることによって、かかるロッド状治具先端面のアルミニウム材に対する接触面積が増大せしめられていると共に、該先端面にピンが何等設けられておらず、そのため、隅肉部に沿って形成される接合部に、ピンの引抜跡からなる突起が形成されるようなことが有利に解消され得るのであり、また、ピンが設けられていないにも拘わらず、ロッド状治具の回転に伴って、ロッド状治具先端面との接触により可塑化された隅肉部周辺部位が十分に撹拌せしめられ得て、二つのアルミニウム材が、溶融することなく、確実に接合され得るのである。
【0026】
また、このような本発明手法にあっては、ロッド状治具先端面が凹状球面とされることで、ロッド状治具先端面の外周縁部に、周方向に延びる側壁が形成されることとなり、それによって、ロッド状治具先端面との接触により可塑化された隅肉部周辺部位のメタルが、かかる側壁にて堰き止められる如き状態となって、ロッド状治具先端面の外周縁部から外方に洩れ出すようなことが、有利に防止され得て、接合されるべきアルミニウム材の接合開始側及び接合終了側のそれぞれの端面からのメタルの洩れ出しも、効果的に阻止され得るのであり、その結果として、そのようなメタルの洩れ出しに起因する接合欠陥の発生が、未然に防ぎ得ることとなるのである。
【0027】
しかも、本発明に係る摩擦撹拌接合方法も、上述せる如き三つの式を全て満足するような条件で、摩擦撹拌接合操作を行なうようにしたものであるところから、従来の回転治具に設けられていたピンではなく、それよりも大径のロッド状治具の先端部を突合せ部に差し込むようにしたものであるにも拘わらず、摩擦撹拌接合操作がスムーズに行なわれ得ると共に、重合せ部に沿って、良好な接合部が形成され得るのである。
【0028】
従って、かくの如き本発明に従う摩擦撹拌接合方法によれば、互いに重ね合わされる二つのアルミニウム材を、その接合部に、回転治具のピンの引抜跡からなる突起を何等形成せしめることなく、更にはメタルの洩れ出しに起因する接合欠陥を防止しつつ、確実に且つスムーズに、接合することが出来、またその結果として、摩擦撹拌接合操作終了後におけるかかる突起の除去作業や未接合部に対する後処理が有利に省略され得て、アルミニウム材の摩擦撹拌接合の作業性が、より一層効果的に高められ得ることとなるのである。
【0029】
なお、この本発明に従う摩擦撹拌接合方法において、軸方向の一方の先端面が凹状球面とされたロッド状治具を回転治具として用いる場合には、好ましくは、かかる凹状球面が、15mm以上の半径を有して構成される。これによって、回転せしめられるロッド状治具の先端面と接触して、可塑化状態とされた二つのアルミニウム材の可塑化部分(隅肉部の周辺部分)に対するロッド状治具先端面による撹拌作用が有利に高められ得、以て、二つのアルミニウム材の接合部において、更に優れた接合品質が、効果的に確保され得るのである。
【0030】
【発明の実施の形態】
ところで、かくの如き本発明に従う摩擦撹拌接合方法において用いられるアルミニウム材としては、通常のアルミニウム若しくはアルミニウム合金からなる、板形状や、棒形状、或いはパイプ形状を呈する展伸材や鋳物材、押出材等の何れもが対象とされ、それらの中から、目的に応じて適宜に選択されて、用いられることとなる。なお、そのようなアルミニウム材の材質も、特に限定されるものではなく、最終的に得ようとする製品の用途や要求品質等に応じて、適宜に決定されるものである。
【0031】
そして、かかるアルミニウムからなる板材の二つを用いて、それらを互いに突き合わせた状態で、その突合せ部において摩擦撹拌接合するに際しては、例えば、図1に示される如く、先ず、二つのアルミニウム板材10,12を、それぞれの端面が当接するように、突き合わせて、位置せしめる。このとき、これら二つのアルミニウム板材10,12の突合せ部14が離間しないように、好ましくは、適当な拘束治具(図示せず)により、二つのアルミニウム板材10,12が、取外し可能な状態で、変位不能に拘束される。
【0032】
次いで、二つのアルミニウム板材10,12の突合せ部14に対する摩擦撹拌接合操作を、回転治具を用いて実施するのであるが、ここでは、かかる回転治具として、図2に示される如く、全体として、円柱形状を呈するロッド状治具16が、用いられることとなる。このロッド状治具16は、特に、軸心方向の一方側の先端面17が、円形平面とされていると共に、かかる先端面17の外周部に、比較的に浅い深さを有する、凹所としての円形の周溝18が、同心的に位置するように設けられている。これによって、かかるロッド状治具16においては、軸心方向の一方の先端面17の外周縁部に、円形の周溝18の外側壁部からなる、周方向に連続して延びる側壁20が形成されており、また、その先端面17に、従来の摩擦撹拌接合操作に使用される回転治具に設けられるようなピンが何等設けられることなく、構成されているのである。
【0033】
なお、このロッド状治具16の周溝18の深さは、特に限定されるものではないものの、好ましくは2mm以下とされる。何故なら、ここでは、周溝18を設けることによって、ロッド状治具16の先端面17の突合せ部14の周辺部位に対する接触面積を増大せしめると共に、かかる先端面17を粗面化し、以て、後述する如く、二つのアルミニウム板材10,12の突合せ部14に対する摩擦撹拌接合操作時において、高速回転せしめられたロッド状治具16の先端部を突合せ部14に差し込んで、相対的に移動させた際に、突合せ部14の周辺部位が、ロッド状治具16の先端部の平面形態とされた先端面にて確実に撹拌せしめられるようになっているのであるが、そのような周溝18が2mmを越える深さとされる場合には、二つのアルミニウム板材10,12の突合せ部14の周辺部位に対する撹拌作用に、それが却って悪影響を及ぼすこととなるからである。
【0034】
また、周溝18の深さの下限値も、何等限定されるものではない。しかしながら、周溝18は、ロッド状治具16の回転に伴う、可塑化状態とされた突合せ部14の周辺部位の撹拌時に、かかる突合せ部14の周辺部位のメタルが、ロッド状治具16の先端面17の外周縁部から外方に洩れ出すことのないように為す上で、周溝18の外側壁部が、周方向に連続して延びる側壁20として構成されものであるところから、そのような周溝18が余りに浅いと、その外側壁部にて構成される側壁20が低くなり過ぎて、突合せ部14の周辺部位の撹拌時に、該周辺部位のメタルが、ロッド状治具16の先端面17の外周縁部から外方に洩れ出すことを阻止する機能が著しく損なわれることとなるため、そのような機能を確保可能な程度において、周溝18の深さの下限値が決定されるのである。
【0035】
さらに、ここで用いられる円柱状のロッド状治具16にあっては、その半径:rが15mm以下とされていなければならない。何故なら、半径が15mmを越えるようなロッド状治具16は、その太さが過大となって、高速回転下でも、二つのアルミニウム板材10,12の突合せ部14に差し込むことが極めて難しくなり、スムーズな摩擦撹拌接合操作の実施が困難乃至は不能となるからである。
【0036】
そして、図3に示されるように、かくの如き構造とされたロッド状治具16を、周溝18が形成される側の先端面17の中心において、二つのアルミニウム板材10,12の突合せ部14における接合開始端に対応させ、且つその突合せ部14に対する相対的な移動方向(図3中、矢印方向)、換言すれば、突合せ部14の接合方向に対して後傾せしめた姿勢で、高速回転させ、更に、そのような高速回転下で、図3に二点鎖線で示される如く、ロッド状治具16の先端部を、突合せ部14に差し込むのである。
【0037】
これによって、高速回転せしめられるロッド状治具16の先端部と突合せ部14の接合開始端との間に摩擦熱を発生せしめ、そしてその摩擦熱にて、突合せ部14の接合開始端の周辺部位を塑性加工可能な状態と為し、更にロッド状治具16の高速回転により、かかる突合せ部14の接合開始端の周辺部位を撹拌しつつ、それらの組織を入り交じわらせ、以て突合せ部14の接合開始端を溶融させることなく、接合するのである。また、ここでは、ロッド状治具16の先端面17に、外側壁部が周方向に連続して延びる側壁20とされた周溝18が設けられているため、ロッド状治具16の先端部を、突合せ部14の接合開始端に差し込んで、その接合開始端周辺部位を撹拌せしめる際に、可塑化状態とされた接合開始端周辺部位のメタルが、周溝18内に入り込み、更に側壁20にて堰き止められる如き状態とされ、以て、ロッド状治具16の先端面17の外周縁部から外方に洩れ出して、突合せ部14の接合開始端の端面から側方に洩れ出すようなことが阻止されるようになっているのである。
【0038】
なお、かくして、突合せ部14の接合開始端にロッド状治具16の先端部を差し込む際には、突合せ部14の接合方向に対するロッド状治具16の後傾角度:θが、5°以下とされる。何故なら、本工程では、ロッド状治具16を後傾せしめた状態で、その先端部において、突合せ部14に差し込むことにより、かかるロッド状治具16の先端部が、差し込まれた突合せ部14に対してスムーズに相対移動せしめられるようになっているのであるが、突合せ部14の接合方向に対するロッド状治具16の後傾角度:θが5°よりも大きいと、ロッド状治具16の相対移動時に、先端面17に加わる抵抗が大きくなり過ぎて、ロッド状治具16のスムーズな相対移動、ひいては摩擦撹拌接合操作の円滑な進行が妨げられることとなるからである。
【0039】
また、本実施形態では、回転治具の先端中心部に設けられたピンを突合せ部14に差し込んで摩擦撹拌接合操作を行なう従来手法とは異なって、かかるピンよりも大径のロッド状治具16先端部を突合せ部14に差し込んで摩擦撹拌接合操作を行なうものであるため、そのようなロッド状治具16先端部の突合せ部14への差込み深さが浅いと、該先端部による突合せ部14の周辺部位の撹拌が十分に行なわれ得なくなる。それ故、ここでは、突合せ部14を十分に撹拌して、摩擦撹拌接合操作をスムーズに進めつつ、良好な接合部を得る上で、二つのアルミニウム板材10,12の板厚(図1においてt1とt2にて示される寸法)の平均値:(t1+t2)/2から、ロッド状治具16先端部の突合せ部14への差込み深さ:r・sinθ(図3中、mにて示される寸法)を差し引いた値が1mm未満となるように、ロッド状治具16の先端部を、突合せ部14に、十分な深さで差し込む必要があるのである。つまり、ここでは、次式:
(t1+t2)/2−r・sinθ<1
を満たす条件で、ロッド状治具16の先端部を、二つのアルミニウム板材10,12の突合せ部14に差し込みつつ、摩擦撹拌接合操作を行なわなければならないのである。
【0040】
そして、上述の如き状態で突合せ部14の接合開始端に差し込まれたロッド状治具16を、高速回転させつつ、突合せ部14に沿って、接合開始端とは反対側に接合終了端に向かって移動させる。その後、ロッド状治具16の先端面17の中心が、突合せ部14の接合終了端に対応する位置に達したら、その時点で、ロッド状治具16の先端部を、突合せ部14から引き抜く。
【0041】
かくして、ロッド状治具16を、二つのアルミニウム板材10,12の突合せ部14に沿って相対的に移動させながら、突合せ部14に差し込まれた状態で、高速回転せしめられるロッド状治具16の先端部と突合せ部14との間に摩擦熱を発生せしめ、そしてその摩擦熱にて、突合せ部14の周辺部位を塑性加工可能な状態と為し、更に、ロッド状治具16の高速回転による撹拌作用により、突合せ部14の周辺部位の組織を入り交わらせ、以て溶融せしめることなく、二つのアルミニウム材10,12の間に、突合せ部14に沿って、その接合開始端から接合終了端の全長亘って連続して延びる接合部を形成して、それら二つのアルミニウム材10,12を一体的に接合するのである。
【0042】
また、本工程では、突合せ部14に差し込まれて、相対移動せしめられたロッド状治具16の先端部を、突合せ部14の接合終了端に、先端面17の中心が対応位置した時点で、突合せ部14から引き抜くようにしているため、突合せ部14の接合開始端へのロッド状治具16の差し込み時と同様に、接合終了端が確実に接合されると共に、可塑化状態とされた接合終了端周辺部位のメタルが、先端面17の周溝18内に入り込み、更に側壁20にて堰き止められる如き状態とされ、それにより、ロッド状治具16の先端面17の外周縁部から外方に洩れ出して、突合せ部14の接合終了端の端面から側方に洩れ出すようなことも、阻止されるようになっているのである。
【0043】
さらに、ここでは、前述の如く、ロッド状治具16の先端面17が平面形態とされて、そこには従来の回転治具に見られるようなピンが何等設けられていないため、ロッド状治具16を突合せ部14の接合終了端から引き抜いた際に、突合せ部14の接合終了端において形成される接合部に、かかるピンの引抜跡からなる突起が、何等形成されることがないのである。
【0044】
このように、本実施形態では、先端面17に周溝18が設けられたロッド状治具16を、二つのアルミニウム板材10,12の突合せ部14に対して、高速回転させつつ、その先端部において差し込んで、相対的に移動せしめることにより、可塑化状態とされた突合せ部14の周辺部位が、かかる先端面17にて、大きな撹拌力をもって十分に撹拌され得るようになっているところから、ロッド状治具16の先端面17に、従来の回転治具に設けられるピンが何等形成されていないにも拘わらず、二つのアルミニウム板材10,12が、突合せ部14において、確実に接合され得るのである。
【0045】
また、本実施形態においては、ロッド状治具16の先端面17にピンが設けられていないことによって、突合せ部14の接合終了端に形成される接合部に、ピンの引抜跡からなる突起が、何等形成されないようになっているところから、摩擦撹拌接合操作の終了後に、そのような突起を除去するための作業を行なう必要が皆無ならしめられ得、それによって、二つのアルミニウム板材10,12の摩擦撹拌接合時における作業性が、効果的に高められ得るのである。
【0046】
さらに、本実施形態では、突合せ部14の接合開始端と接合終了端とが、何れも確実に接合され得るようになっているため、それら接合開始端と接合終了端に形成された未接合部を切断したり、溶融溶接したりする後処理を行なう必要も、効果的に解消され得て、二つのアルミニウム板材10,12の摩擦撹拌接合時における作業性が、更に一層有利に高められ得るのである。
【0047】
更にまた、本実施形態においては、二つのアルミニウム板材10,12の平均板厚から、ロッド状治具16の先端部の突合せ部14への差込み深さを差し引いた値が1mm未満とされて、ロッド状治具16の先端部が突合せ部14に対して十分な深さで差し込まれつつ、摩擦撹拌接合操作が進められるようになっているところから、高速回転せしめられるロッド状治具16の先端部による突合せ部14の周辺部位の撹拌を、より一層十分に行ないつつ、摩擦撹拌接合操作をスムーズに進めることが出来、以て、良好な接合部が形成されて、二つのアルミニウム板材10,12が、より優れた接合品質をもって接合され得ることとなるのである。
【0048】
次ぎに、アルミニウムからなる板材の二つを用いて、それらを互いに重ね合わせた状態で、その重合せ部において摩擦撹拌接合する手法について、説明する。
【0049】
すなわち、この摩擦撹拌接合手法による二つのアルミニウム板材10,12の重合せ接合を行なうに際しては、例えば、図4に示される如く、先ず、互いに厚さの異なる二つのアルミニウム板材10,12うち、厚さの薄いアルミニウム板材10の上面上に、厚さの厚いアルミニウム板材12を載置する状態で、重ね合わせる。このとき、これら二つのアルミニウム板材10,12が位置ずれして、重合せ部22が変わってしまうことのないように、好ましくは、適当な拘束治具(図示せず)により、二つのアルミニウム板材10,12が、取外し可能な状態で、拘束される。
【0050】
次いで、二つのアルミニウム板材10,12の重合せ部22に対する摩擦撹拌接合操作を、回転治具を用いて実施するのであるが、ここでは、かかる回転治具として、二つのアルミニウム板材10,12を摩擦撹拌接合操作により突合せ接合する際に使用されるロッド状治具16、つまり、図2に示される如く、全体として、円柱形状を呈し、軸心方向の一方側の先端面17が、円形平面とされていると共に、かかる先端面17の外周部に、外側壁部が周方向に延びる側壁20とされた、所としての円形の周溝18が同心的に設けられてなる構造のものが、用いられるのである。
【0051】
なお、ここで用いられる円柱状のロッド状治具16にあっても、その半径:rが15mm以下とされていなければならない。何故なら、半径が15mmを越えるようなロッド状治具16は、その太さが過大となって、高速回転下でも、上側に位置するアルミニウム板材12を貫通して、重合せ部22に差し込むことが極めて難しくなり、スムーズな摩擦撹拌接合操作の実施が困難乃至は不能となるからである。
【0052】
そして、図5に示されるように、かくの如き構造とされたロッド状治具16を、周溝18が形成される側の先端面17の中心において、アルミニウム板材10の上面に重ね合わされて配置されたアルミニウム板材12の複数の辺縁部のうち、接合されるべき重合せ部22の接合開始端に対応位置する辺縁部に対応させ、且つ重合せ部22に対する相対的な移動方向(図5中、矢印方向)、換言すれば、重合せ部22の接合方向に対して後傾せしめた姿勢で、高速回転させ、更に、そのような高速回転下で、図5に二点鎖線で示される如く、ロッド状治具16の先端部を、その少なくとも一部がアルミニウム板材12を貫通するようにして、重合せ部22に差し込むのである。これによって、重合せ部22の接合開始端を溶融させることなく、接合するのである。また、このとき、ロッド状治具16の先端面17に周溝18と周方向に延びる側壁20とが形成されているため、前記第一の実施形態と同様に、かかる接合開始端周辺部位が十分に撹拌されて、確実に接合されると共に、その接合開始端の端面から、可塑化状態とされた接合開始端周辺部位のメタルが洩れ出すようなことが阻止されることとなる。
【0053】
なお、ここでも、重合せ部22の接合開始端にロッド状治具16の先端部を差し込む際には、重合せ部22の接合方向に対するロッド状治具16の後傾角度:θが、5°以下とされる。かかる後傾角度:θが5°よりも大きいと、前記実施形態と同様に、ロッド状治具16の重合せ部22に対するスムーズな相対移動、ひいては摩擦撹拌接合操作の円滑な進行が妨げられることとなるからである。
【0054】
また、本実施形態においても、従来の回転治具に設けられるピンよりも大径のロッド状治具16の先端部を、二つのアルミニウム板材10,12の重合せ部22に差し込んで摩擦撹拌接合操作を行なうものであるため、そのようなロッド状治具16先端部の重合せ部22への差込み深さが浅いと、該先端部による重合せ部22の周辺部位の撹拌が十分に行なわれ得なくなる。それ故、ここでは、重合せ部22を十分に撹拌して、摩擦撹拌接合操作をスムーズに進めつつ、良好な接合部を得る上で、重ね合わされる二つのアルミニウム板材10,12のうち、上側に位置して、ロッド状治具16の先端部の一部が貫通するアルミニウム板材12の板厚(図5においてt1にて示される寸法)から、二つのアルミニウム板材10,12へのロッド状治具16先端部の差込み深さ:r・sinθ(図5中、mにて示される寸法)を差し引いた値が1mm未満となるように、ロッド状治具16の先端部を、重合せ部22に、十分な深さで差し込む必要があるのである。つまり、ここでは、次式:
t1−r・sinθ<1
を満たす条件で、ロッド状治具16の先端部を、上側に位置するアルミニウム板材12を貫通せしめて、重合せ部22に差し込みつつ、摩擦撹拌接合操作を行なわなければならないのである。
【0055】
そして、上述の如き状態で重合せ部22の接合開始端に差し込まれたロッド状治具16を、高速回転させつつ、重合せ部22に沿って、接合開始端とは反対側に接合終了端に向かって移動させる。その後、かかる移動により、ロッド状治具16の先端面17の中心が、重合せ部22の接合終了端に対応する位置に達したら、その時点で、ロッド状治具16の先端部を、重合せ部22と上側に位置するアルミニウム板材12から引き抜く。
【0056】
かくして、ロッド状治具16を、互いに重ね合わされた二つのアルミニウム板材10,12の間に、重合せ部22に沿って、その接合開始端から接合終了端の全長に亘って連続して延びる接合部を形成し、以てそれら二つのアルミニウム板材10,12を一体的に接合するのである。
【0057】
なお、このような摩擦撹拌接合操作にて、二つのアルミニウム板材10,12を重合せ接合する際には、それら二つのアルミニウム板材10,12の接合深さ、換言すれば、重合せ部22に沿って形成される接合部の厚さが、二つのアルミニウム板材10,12のうち、上側に位置せしめられるアルミニウム板材12の板厚:t1に対して105%以上の寸法とされていることが、望ましいのである。それによって、十分な接合強度が得られるのである。
【0058】
また、この本実施形態では、ロッド状治具16の先端部が、重合せ部22の接合終了端に位置せしめられた時点で、そこから引き抜かれるようになっているため、重合せ部22の接合終了端が確実に接合されると共に、可塑化状態とされた接合終了端周辺部位のメタルが、ロッド状治具16の先端面17の外周縁部から外方に洩れ出して、重合せ部22の接合終了端の端面から側方に洩れ出すようなことが阻止されることとなる。
【0059】
さらに、ここでは、ロッド状治具16の先端面17が平面形態とされて、そこには従来の回転治具に見られるようなピンが何等設けられていないため、ロッド状治具16を重合せ部22の接合終了端から引き抜いた際に、かかるピンの引抜跡からなる突起が、何処にも、何等形成されることがないのである。
【0060】
このように、本実施形態によれば、円形平面とされた先端面17に、単に周溝18のみが設けられてなるロッド状治具16を用いることにより、接合部に、ピンの引抜跡からなる突起や未接合部分を何等形成せしめることなく、二つのアルミニウム板材10,12を、重合せ部14において、確実に接合することが可能となっているのであり、その結果として、高度な接合品質を確保し得る、二つのアルミニウム板材10,12に対する重合せ接合が、優れた作業性をもって、極めて有利に実施され得ることとなるのである。
【0061】
また、本実施形態では、重ね合わされる二つのアルミニウム板材10,12のうち、上側に位置して、ロッド状治具16の先端部の少なくとも一部が貫通するアルミニウム板材12の板厚から、ロッド状治具16の先端部の重合せ部22へのアルミニウム板材12を貫通した差込み深さを差し引いた値が1mm未満とされて、ロッド状治具16の先端部が重合せ部22に対して十分な深さで差し込まれつつ、摩擦撹拌接合操作が進められるようになっているところから、二つのアルミニウム板材10,12が、より優れた接合品質をもって接合され得ることとなるのである。
【0062】
次ぎに、アルミニウムからなる板材の二つを用いて、それらを互いに重ね合わせた状態で、その隅肉部において摩擦撹拌接合する手法について、説明する。
【0063】
すなわち、この摩擦撹拌接合手法による二つのアルミニウム板材10,12の重ね隅肉接合を行なうに際しては、例えば、前記重合せ接合を実施する際と同様に、図4に示される如く、先ず、二つのアルミニウム板材10,12うち、一方のアルミニウム板材10の上面上に、他方のアルミニウム板材12を載置する状態で、重ね合わせる。このとき、これら二つのアルミニウム板材10,12の位置ずれして、隅肉部24の位置が変化してしまわないように、好ましくは、適当な拘束治具(図示せず)により、二つのアルミニウム板材10,12が、取外し可能な状態で、拘束される。
【0064】
次いで、二つのアルミニウム板材10,12の隅肉部24に対する摩擦撹拌接合操作を、回転治具を用いて実施するのであるが、ここでは、かかる回転治具として、図6に示される如く、全体として、円柱形状を呈し、軸心方向の一方側の先端面が、凹状球面26とされたロッド状治具28が、用いられることとなる。これによって、かかるロッド状治具28においては、軸方向の一方の先端面に、凹状球面26の外周縁部を与える側壁30が、周方向に連続して延びるように形成されており、また、そのような軸方向一方の先端面からなる凹状球面26に、従来の摩擦撹拌接合操作に使用される回転治具に設けられるようなピンが何等設けられることなく、構成されているのである。
【0065】
なお、このロッド状治具28における凹状球面26の半径:Rは、特に限定されるものではないものの、好ましくは15mm以上とされる。何故なら、ここでは、ロッド状治具28の軸方向一方の先端面を凹状球面26と為すことによって、かかる先端面からなる凹状球面26の隅肉部24の周辺部位に対する接触面積を増大せしめて、二つのアルミニウム板材10,12の隅肉部24に対する摩擦撹拌接合操作時において、高速回転せしめられたロッド状治具28の先端部を隅肉部24に差し込んで、相対的に移動させた際に、隅肉部24の周辺部位が、ロッド状治具28の先端部の凹状球面26にて確実に撹拌せしめられるようになっているのであるが、そのような凹状球面26が15mm未満の半径:Rを有する形態とされる場合には、凹状球面26の深さが深くなり過ぎて、二つのアルミニウム板材10,12の隅肉部24の周辺部位に対する撹拌作用に、悪影響が及ぼされることとなるからである。また、この凹状球面26の半径の上限値も、何等限定されるものではなく、凹状球面形態としたことによる隅肉部24の周辺部位への接触面積の増大効果が損なわれない程度において、適宜に決定されるところである。
【0066】
さらに、ここで用いられる円柱状のロッド状治具28にあっては、その半径:rが20mm以下とされていなければならない。何故なら、半径が20mmを越えるようなロッド状治具28は、その太さが過大となって、高速回転下でも、隅肉部24への差込みが極めて難しくなり、スムーズな摩擦撹拌接合操作の実施が困難乃至は不能となるからである。
【0067】
そして、図7に示されるように、かくの如き構造とされたロッド状治具28を、凹状球面26の中心において、互いに重ね合わされて配置された二つのアルミニウム板材10,12における隅肉部24の接合開始端に対応させ、且つかかる隅肉部24に対して、凹状球面26が対向せしめられるように、二つのアルミニウム板材10,12の重合せ方向に対して傾斜せしめた姿勢で、高速回転させ、更に、そのような高速回転下で、図7に二点鎖線で示される如く、ロッド状治具28の先端部を、隅肉部24に差し込むのである。これによって、隅肉部24の接合開始端を溶融させることなく、接合するのである。また、このとき、ロッド状治具28の先端面が凹状球面26とされ、且つその先端面に周方向に延びる側壁30が形成されているため、前記第一及び第二の実施形態と同様に、かかる接合開始端周辺部位が十分に撹拌されて、確実に接合されると共に、その接合開始端の端面から、可塑化状態とされた接合開始端周辺部位のメタルが洩れ出すようなことが阻止されることとなる。
【0068】
なお、かくして、隅肉部24の接合開始端にロッド状治具28の先端部を差し込む際には、二つのアルミニウム板材10,12の重合せ方向に対するロッド状治具28の傾斜角度:αが、30°以下とされる。何故なら、本工程では、ロッド状治具28を傾斜せしめた状態で、その先端部において、隅肉部24に差し込むことにより、かかるロッド状治具28の先端部が、下側に位置するアルミニウム板材10側の隅肉部24の周辺部位と上側に位置するアルミニウム板材12の隅肉部24の周辺部位とを偏りなく撹拌せしめるようになっているのであるが、前記傾斜角度が30°を越える場合には、下側に位置するアルミニウム板材10側の隅肉部24の周辺部位に対して、上側に位置するアルミニウム板材12の隅肉部24の周辺部位よりも大きな撹拌作用が発揮せしめられることとなり、それによって、接合不良の発生が懸念されるからである。
【0069】
また、前記第一及び第二の実施形態と同様に、ロッド状治具28を、隅肉部24の接合方向に対して後傾せしめた状態で、その先端部において、隅肉部24に差し込むようにしても良い。それによって、摩擦撹拌接合操作が、よりスムーズに実施され得ることとなる。
【0070】
さらに、本実施形態においても、従来の回転治具に設けられるピンよりも大径のロッド状治具28の先端部を、二つのアルミニウム板材10,12の隅肉部24に差し込んで摩擦撹拌接合操作を行なうものであるため、そのようなロッド状治具28先端部の隅肉部24への差込み深さが浅いと、該先端部による隅肉部24の周辺部位の撹拌が十分に行なわれ得なくなる。それ故、ここでは、隅肉部24を十分に撹拌して、摩擦撹拌接合操作をスムーズに進めつつ、良好な接合部を得る上で、二つのアルミニウム板材10,12の板厚(図7においてt1とt2にて示される寸法)の合計値:t1+t2から、二つのアルミニウム板材10,12へのロッド状治具28先端部の差込み深さの2倍の寸法:2r・sinα(図7中、mにて示される寸法の2倍の値)を差し引いた値が1mm未満となるように、ロッド状治具28の先端部を、隅肉部24に、十分な深さで差し込む必要があるのである。つまり、ここでは、次式:
t1+t2−2r・sinα<1
を満たす条件で、ロッド状治具28の先端部を、隅肉部24に差し込みつつ、摩擦撹拌接合操作を行なわなければならないのである。
【0071】
そして、上述の如き状態で隅肉部24の接合開始端に差し込まれたロッド状治具28を、高速回転させつつ、隅肉部24に沿って、接合開始端とは反対側に接合終了端に向かって(図7中、紙面に垂直な方向)移動させる。その後、かかる移動により、ロッド状治具28の凹状球面26の中心が、隅肉部24の接合終了端に対応する位置に達したら、その時点で、ロッド状治具28の先端部を、隅肉部24から引き抜く。
【0072】
かくして、ロッド状治具28を、互いに重ね合わされた二つのアルミニウム板材10,12の間に、隅肉部24に沿って、その接合開始端から接合終了端の全長に亘って連続して延びる接合部を形成し、以てそれら二つのアルミニウム板材10,12を一体的に接合するのである。
【0073】
なお、このような摩擦撹拌接合操作にて、二つのアルミニウム板材10,12を重ね隅肉接合する際には、それら二つのアルミニウム板材10,12の接合深さ、換言すれば、隅肉部24に沿って形成される接合部の厚さが、二つのアルミニウム板材10,12のうち、上側に位置せしめられるアルミニウム板材12の板厚:t1に対して105%以上の寸法とされていることが、望ましいのである。それによって、十分な接合強度が得られるのである。
【0074】
また、ここでは、ロッド状治具28の先端部が、隅肉部24の接合終了端に位置せしめられた時点で、そこから引き抜かれるようになっているため、隅肉部24の接合終了端が確実に接合されると共に、可塑化状態とされた接合終了端周辺部位のメタルが、ロッド状治具28の凹状球面26の外周縁部から外方に洩れ出して、隅肉部24の接合終了端の端面から側方に洩れ出すようなことが阻止されることとなる。
【0075】
さらに、本実施形態においては、隅肉部24に差し込まれるロッド状治具28の先端面が凹状球面26とされて、そこには従来の回転治具におけるピンが何等設けられていないため、ロッド状治具28を隅肉部24の接合終了端から引き抜いた際に、かかるピンの引抜跡からなる突起が、隅肉部24の接合終了端にて形成される接合部に、何等形成されることがないのである。
【0076】
このように、本実施形態によれば、先端面が凹状球面26とされたロッド状治具28を用いることにより、接合部に、ピンの引抜跡からなる突起や未接合部分を何等形成せしめることなく、互いに重ね合わされた二つのアルミニウム板材10,12を、隅肉部24において、確実に接合することが可能となっているのであり、その結果として、高度な接合品質を確保し得る、二つのアルミニウム板材10,12に対する重合せ接合が、優れた作業性をもって、極めて有利に実施され得ることとなるのである。
【0077】
また、本実施形態では、二つのアルミニウム板材10,12の合計板厚から、ロッド状治具28の先端部の隅肉部24への差込み深さの2倍の寸法を差し引いた値が1mm未満とされて、ロッド状治具28の先端部が隅肉部24に対して十分な深さで差し込まれつつ、摩擦撹拌接合操作が進められるようになっているところから、二つのアルミニウム板材10,12が、より優れた接合品質をもって接合され得ることとなるのである。
【0078】
ところで、前記第一の実施形態では、摩擦撹拌接合されるべきアルミニウム材として、二つのアルミニウム板材10,12が用いられていたが、その他、棒状形態やパイプ状形態を呈するアルミニウム材を用い、それらを互いに突き合わせた状態で、本発明に従う摩擦撹拌接合方法により、その突合せ部を摩擦撹拌接合することも、勿論可能である。
【0079】
また、前記第一及び第二の実施形態では、ロッド状治具16の先端面17に設けられる周溝18にて、凹所が形成されていたが、この凹所の形状、配設形態、及び配設個数も、何等これに限定されるものではないのである。従って、例えば、図8に示されるように、ロッド状治具16の先端面17に、互いに径の異なる複数の周溝32を、それぞれ径方向に所定の距離を隔てて、同心的に位置させた状態で設け、それらの周溝32の一つ一つにて、凹所を構成するようにしても良いのである。
【0080】
【実施例】
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上記した発明の実施の形態以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0081】
<実施例1>
先ず、厚さ:1.2mm、幅:700mm、長さ:1200mmの矩形の6000系アルミニウム合金板材と、厚さ:0.8mm、幅:700mm、長さ:1200mmの矩形の6000系アルミニウム合金板材のそれぞれ1枚ずつを供試材として準備する一方、回転治具として、直径:16mmの鋼製の丸棒からなり、軸方向の一方の先端面が円形平面とされると共に、かかる先端面に、直径:15mm、深さ0.6mmの周溝が設けられたロッド状治具を準備した。
【0082】
そして、準備された2枚の供試材を、その端面同士において互いに突き合わせて配置して、公知の拘束治具により拘束した後、準備されたロッド状治具を、周溝の形成側先端面の中心において、2枚の供試材の突合せ部における接合開始端に対応し、且つその突合せ部の接合方向に対して3°の傾斜角度で後傾させた姿勢で、突合せ部の接合開始端に接触させた。その後、ロッド状治具を、2000rpmで高速回転させつつ、その先端部において突合せ部の接合開始端に差し込み、更に、突合せ部に沿って、接合終了端側に向かって、500mm/分の送り速度で移動させ、そして、ロッド状治具の先端面の中心が、突合せ部の接合終了端に対応する位置に達した時点で、ロッド状治具の先端部を突合せ部から引き抜いた。これにより、2枚の供試材を、突合せ部において摩擦撹拌接合し、以てそれら2枚の供試材が一体的に突合せ接合されてなる接合体を得た。なお、ここでの摩擦撹拌接合操作では、2枚の供試材の平均板厚から、ロッド状治具の差込み深さを差し引いた値が約0.58mmで、本発明において規定されるところの1mmよりも小さな値となっている。
【0083】
そして、かくして得られた接合体を用い、この接合体の接合部の裏部に対する浸透探傷検査を公知の手法により実施したところ、発色がなく、健全な接合部であることが、確認された。また、かかる接合体の接合部の断面マクロ組織を観察した結果、接合開始端と接合終了端の何れにおいても、何等の亀裂が認められず、これによっても、健全な接合部であることが、確認された。更に、この接合体の接合部に対する公知の三点曲げ試験を実施した結果、接合部に亀裂を何等発生せしめることなく、曲げることが出来た。そして、このような接合体に対して所定のプレス成形を行なったところ、接合部において割れ等の成形不良が発生せず、例えば、自動車の外板用として十分に使用出来るものであることが、確認された。
【0084】
<実施例2>
先ず、厚さ:1.2mm、幅:600mm、長さ:1600mmの矩形の6000系アルミニウム合金板材と、厚さ:0.8mm、幅:600mm、長さ:1600mmの矩形の6000系アルミニウム合金板材のそれぞれ1枚ずつを供試材として準備する一方、回転治具として、実施例1で使用されたものと同一のロッド状治具を準備した。
【0085】
次ぎに、準備された2枚の供試材のうち、厚さの薄い供試材の上面に、厚さの厚い供試材を重ね合わせて配置して、公知の拘束治具により拘束した後、準備されたロッド状治具を、周溝の形成側先端面の中心において、上側に位置する供試材の四つの辺縁部のうち、接合されるべき重合せ部の接合開始端に対応位置する辺縁部に対応し、且つその重合せ部の接合方向に対して3°の傾斜角度で後傾させた姿勢で、該辺縁部に接触させた。その後、ロッド状治具を、2000rpmで高速回転させつつ、その先端部において、上側に位置する供試材を貫通せしめて、重合せ部に差し込み、更に、重合せ部に沿って、接合終了端側に向かって、500mm/分の送り速度で移動させ、そして、ロッド状治具の先端面の中心が、重合せ部の接合終了端に対応する位置に達した時点で、ロッド状治具の先端部を重合せ部と上側に位置する供試材から引き抜いた。これにより、2枚の供試材を、重合せ部において摩擦撹拌接合し、以てそれら2枚の供試材が一体的に重合せ接合されてなる接合体を得た。なお、ここでの摩擦撹拌接合操作では、重ね合わされる2枚の供試材のうち、上側に位置する供試材の板厚から、ロッド状治具の差込み深さを差し引いた値が約0.78mmで、本発明において規定されるところの1mmよりも小さな値となっている。
【0086】
そして、かくして得られた接合体を用い、前記実施例1と同様にして、接合体の接合部の裏部に対する浸透探傷検査と、接合部の断面マクロ組織の観察とを行なった結果、発色がなく、また、接合開始端と接合終了端の何れにおいても、何等の亀裂が認められず、これによって、健全な接合部であることが、確認された。また、前記実施例1と同様にして、接合体の接合部に対する公知の三点曲げ試験を実施した結果、接合部に亀裂を何等発生せしめることなく、曲げることが出来た。そして、このような接合体に対して所定のプレス成形を行なったところ、接合部において割れ等の成形不良が発生せず、例えば、自動車のインナーパネル用として十分に使用出来るものであることが、確認された。
【0087】
<実施例3>
先ず、厚さ:1.2mm、幅:600mm、長さ:1600mmの矩形の6000系アルミニウム合金板材と、厚さ:0.8mm、幅:600mm、長さ:1600mmの矩形の6000系アルミニウム合金板材のそれぞれ1枚ずつを供試材として準備する一方、回転治具として、直径:16mmの鋼製の丸棒からなり、軸方向の一方の先端面が凹状球面とされたロッド状治具を準備した。
【0088】
次ぎに、準備された2枚の供試材のうち、厚さの薄い供試材の上面に、厚さの厚い供試材を重ね合わせて配置して、公知の拘束治具により拘束した後、準備されたロッド状治具を、凹状球面形態を呈する先端面の中心において、互いに重ね合わされた2枚の供試材における隅肉部の接合開始端に対応し、且つその隅肉部の接合方向に対して3°の傾斜角度で後傾させると共に、隅肉部に対して凹状球面が対向せしめられるように、二つの供試材の重合せ方向に対して、5°の傾斜角度で傾斜せしめた姿勢で、2枚の供試材の辺縁部に接触させた。その後、ロッド状治具を、2000rpmで高速回転させつつ、その先端部において、隅肉部に差し込み、更に、隅肉部に沿って、接合終了端側に向かって、500mm/分の送り速度で移動させ、そして、ロッド状治具の先端面の中心が、隅肉部の接合終了端に対応する位置に達した時点で、ロッド状治具の先端部を隅肉部から引き抜いた。これにより、2枚の供試材を、隅肉部において摩擦撹拌接合し、以てそれら2枚の供試材が一体的に重ね隅肉接合されてなる接合体を得た。なお、ここでの摩擦撹拌接合操作では、2枚の供試材の合計板厚から、ロッド状治具の差込み深さの2倍の値を差し引いた値が約0.61mmで、本発明において規定されるところの1mmよりも小さな値となっている。
【0089】
そして、かくして得られた接合体を用い、前記実施例1及び2と同様にして、接合体の接合部の裏部に対する浸透探傷検査と、接合部の断面マクロ組織の観察とを行なった結果、発色がなく、また、接合開始端と接合終了端の何れにおいても、何等の亀裂が認められず、これによって、健全な接合部であることが、確認された。また、前記実施例1及び2と同様にして、接合体の接合部に対する公知の三点曲げ試験を実施した結果、接合部に亀裂を何等発生せしめることなく、曲げることが出来た。そして、このような接合体に対して所定のプレス成形を行なったところ、接合部において割れ等の成形不良が発生せず、例えば、自動車のインナーパネル用として十分に使用出来るものであることが、確認された。
【0090】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明に従う摩擦撹拌接合方法によれば、互いに突き合わされ、或いは互いに重ね合わされる二つのアルミニウム材を、その接合部に、回転治具のピンの引抜跡からなる突起を何等形成せしめることなく、確実に且つスムーズに、突合せ接合や重合せ接合、或いは重ね隅肉接合することが出来るのであり、そして、その結果として、摩擦撹拌接合操作終了後に、ピンの引抜跡からなる突起を除去するための余分な作業から有利に解放され得て、アルミニウム材の摩擦撹拌接合時における作業性の向上が、極めて有利に図られ得ることとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明手法に従って、二つのアルミニウム材を摩擦撹拌接合操作により突合せ接合する工程の一例を示す説明図であって、接合されるべき二つのアルミニウム材を互いに突き合わせた状態を示している。
【図2】 本発明手法に従って、二つのアルミニウム材を摩擦撹拌接合操作により突合せ接合する際に用いられる回転治具の一例を示す斜視要部説明図である。
【図3】 本発明手法に従って、二つのアルミニウム材を摩擦撹拌接合操作により突合せ接合する工程の別の例を示す説明図であって、二つのアルミニウム材の突合せ部に、回転治具を差し込む状態を示している。
【図4】 本発明手法に従って、二つのアルミニウム材を摩擦撹拌接合操作により重合せ接合する工程の一例を示す説明図であって、接合されるべき二つのアルミニウム材を互いに重ね合わせた状態を示している。
【図5】 本発明手法に従って、二つのアルミニウム材を摩擦撹拌接合操作により重合せ接合する工程の別の例を示す説明図であって、重ね合わされた二つのアルミニウム材の重合せ部に、回転治具を差し込む状態を示している。
【図6】 本発明手法に従って、二つのアルミニウム材を摩擦撹拌接合操作により重ね隅肉接合する際に用いられる回転治具の一例を示す縦断面要部説明図である。
【図7】 本発明手法に従って、二つのアルミニウム材を摩擦撹拌接合操作により重ね隅肉接合する工程の一例を示す説明図であって、重ね合わされた二つのアルミニウム材の隅肉部に、回転治具を差し込む状態を示している。
【図8】 本発明手法に従って、二つのアルミニウム材を摩擦撹拌接合操作により突合せ接合及び重合せ接合する際に用いられる回転治具の別の例を示す下面説明図である。
【符号の説明】
10,12 アルミニウム板材 14 突合せ部
16,28 ロッド状治具 17 先端面
18,32 周溝 20,30 側壁
22 重合せ部 24 隅肉部
26 凹状球面
Claims (3)
- 接合されるべき二つのアルミニウム材を突き合わせ、その突合せ部に対して、回転治具を回転させつつ、その先端部において差し込み、相対的に移動させることにより、かかる突合せ部を摩擦撹拌接合せしめるに際し、
前記回転治具として、円柱形状を呈し、軸心方向の一方の先端面に円形の周溝からなる凹所が設けられ、且つ該先端面における該凹所の形成部位よりも径方向内側の部位が摩擦撹拌のための平面とされたロッド状治具であって、該凹所が、該ロッド状治具の外周に沿う方向に延びる側壁を有しているものを用い、かかるロッド状治具を、前記突合せ部に対する相対的な移動方向に対して後傾する姿勢で軸心回りに回転させつつ、該凹所が先端面に設けられる一方の先端部において、該突合せ部に差し込み、相対的に移動させると共に、次式:
(t1+t2)/2−r・sinθ<1
r≦15、θ≦5
[但し、t1、t2:接合されるべき二つのアルミニウム材のそれぞれの厚さ乃至は径(mm)、r:ロッド状治具の半径(mm)、θ:ロッド状治具の後傾角度(°)]
を満足するような条件で、摩擦撹拌接合操作を行なうことを特徴とする摩擦撹拌接合方法。 - 接合されるべき二つのアルミニウム材のうちの一方を他方に重ね合わせる一方、その重合せ部に対して、回転治具を回転させつつ、その先端部において、該一方のアルミニウム材を貫通せしめて差し込み、相対的に移動させることにより、かかる重合せ部を摩擦撹拌接合せしめるに際し、
前記回転治具として、円柱形状を呈し、軸心方向の一方の先端面に円形の周溝からなる凹所が設けられ、且つ該先端面における該凹所の形成部位よりも径方向内側の部位が摩擦撹拌のための平面とされたロッド状治具であって、該凹所が、該ロッド状治具の外周に沿う方向に延びる側壁を有しているものを用い、かかるロッド状治具を、前記重合せ部に対する相対的な移動方向に対して後傾する姿勢で軸心回りに回転させつつ、該凹所が先端面に設けられる一方の先端部において、該重合せ部に差し込み、相対的に移動させると共に、次式:
t1−r・sinθ<1
r≦15、θ≦5
[但し、t1:接合されるべき二つのアルミニウム材のうち、重ね合わされた状態下で上側に位置するアルミニウム材の厚さ(mm)、r:ロッド状治具の半径(mm)、θ:ロッド状治具の後傾角度(°)]
を満足するような条件で、摩擦撹拌接合操作を行なうことを特徴とする摩擦撹拌接合方法。 - 前記凹所が、2mm以下の深さを有して、前記ロッド状治具の一方の先端面に設けられている請求項1又は請求項2に記載の摩擦撹拌接合方法。
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