JP4184883B2 - 接合構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は柱状構造部材と板状構造部材または他の構造部材との接合構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開2001−132102号公報
【0003】
従来、図6に示されるように、鋼管柱等の柱状構造部材11の基部にベースプレート等の他の構造部材12を接合する接合構造体において、柱状構造部材と他の構造部材との間に三角形や台形の板状補強材13が溶接して接合される。(以下、「従来例1」という。)
【0004】
ところが、このような従来例1の構造の接合構造体では、柱状構造部材11に外力が作用したときに柱状構造部材11の板状補強材13周辺に大きな応力集中が発生し、接合構造体の耐力や疲労性能が低下することが判明した。これは、柱状構造部材11の表面に溶接された板状補強材13の端部が強い剛性を持つため力の流れがここに集中するためである。その結果、交通振動や風などによって繰り返し振動を受ける鋼管柱などの柱状構造部材11では、上記の応力集中に起因するクラックが発生することがある。
【0005】
また、特許文献1には、図7に示されるよう従来例2が示されている。この従来例2には、柱状構造部材11と板状の他の構造部材12との間に溶接される補強材14の上端部15を、柱状構造部材11の表面に沿ってU字形またはV字形に屈曲させた接合構造体が開示されている。この接合構造体は、柱状構造部材11の主応力方向から逃げる方向にU字形またはV字形に屈曲させることによって、補強材14の上端部15の剛性を低減し、応力集中を大幅に緩和したものである。この従来構造の接合構造体では、柱状構造部材11の疲労強度を向上させることができ、道路用照明柱などで多くの工事実績がある。この従来の接合構造体においては、補強材14のU字形またはV字形に屈曲された上端部15は、柱状構造部材11の表面に溶接されており、溶接部16にグラインダ処理を施すことによって補強材14の上端部15の周辺の局部応力集中係数を低下させている。
【0006】
ところが、その後の研究により、図7に示されるような補強材14の上端部15をU字形またはV字形に屈曲させた従来例2の接合構造体においては、補強材14の上端部5周辺の柱状構造部材11の表面に残留圧縮応力が働き、柱状構造部材11に外力が作用したときに発生する引張応力を緩和することにより、疲労性能を向上させていることが確認された。この事実によれば、溶接部16にグラインダ処理を施すことは、局部応力集中係数の低下には寄与するものの、残留圧縮応力をも低下させることになり、全体としては疲労性能向上にマイナス要因となる可能性があることが判明した。つまり、接合構造体の鋼溶接構造の場合、補強材14の端部形状の工夫による応力集中の低減のみでは疲労性能の向上には限度があるということである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するため、補強材の溶接部に積極的に圧縮残留応力を導入して、疲労性能を向上させた接合構造体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本第1発明は、前記課題を解決するために、柱状構造部材を板状構造部材に接合した接合構造体において、接合される柱状構造部材と板状構造部材には、該構造部材の接合を補強するための板状の補強材が溶接されており、前記補強材は前記柱状構造部材の表面に沿ったU字状またはV字状の屈曲部を有し、前記U字状またはV字状の屈曲部は前記柱状構造部材側に形成され、前記屈曲した補強材と柱状構造部材との溶接止端部はグラインダ処理を行わないアズウェルドとし、かつ前記補強材と該構造部材とは、該構造部材の補強材の取り付け部分に与えられた引張応力下で溶接されており、前記柱状構造部材の材料降伏応力が300MPa以上であることを特徴とする。
【0009】
本第2発明は、柱状構造部材を他の構造部材に接合した接合構造体において、接合される柱状構造部材と他の構造部材には、該構造部材の接合を補強するための板状の補強材が溶接されており、前記補強材は前記柱状構造部材及び他の構造部材の表面に沿ったU字状またはV字状の2つ以上の屈曲部を有し、且つ、リング状の開口部を有し、前記屈曲した補強材と柱状構造部材との溶接止端部はグラインダ処理を行わないアズウェルドとし、かつ前記補強材と該構造部材とは、該構造部材の補強材の取り付け部分に与えられた引張応力下で溶接されており、前記柱状構造部材及び他の構造部材の材料降伏応力が300MPa以上であることを特徴とする。
【0010】
本第3発明は、本第1または第2発明の接合構造体において、前記補強材の該構造部材の溶接部止端部2mm以内の範囲の該構造部材の表面残留応力の最大主応力値が圧縮であり、かつ該構造部材の材料降伏応力の8割以上であることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図により説明する。
図1は、本発明の接合構造体の一実施形態を示す斜視図であり、1は柱状構造部材、2は柱状構造部材1の基部に溶接された板状の他の構造部材、3は柱状構造部材1と板状の他の構造部材2との間に溶接される補強部材である。補強材3の上端部4は柱状構造部材1の表面に沿ってU字形またはV字形に屈曲している。柱状構造部材1の材料降伏応力を300MPa以上とする。柱状構造部材1と補強部材3の溶接部7は、通常グラインダ処理するが、この実施形態においてはグラインダ処理を実施しない。
【0014】
図2は、本発明の接合構造体の他の実施形態を示す斜視図である。この実施形態では、柱状構造部材1と板状の他の構造部材2との間に補強材3が溶接される。図2においては、他の構造部材2は板状のものが示されているが、他の構造部材としては、他の柱状構造部材であってもよく、その数が複数であってもよい。補強材3の上端部4は柱状構造部材1の表面に沿ってU字形またはV字形に屈曲しており、補強材3の下端部5は板状の他の構造部材2の表面に沿ってU字形またはV字形に屈曲しており、且つ、補強材3にはリング状の開口部6が形成される。柱状構造部材1に接合される他の構造部材2が他の柱状構造部材であり、その数が複数である場合、補強材の他の柱状構造部材への接合部はU字形またはV字形に屈曲させるので、屈曲部の数は2よりも多い場合がある。
この実施形態において、柱状構造部材1の材料降伏応力を300MPa以上とする。
柱状構造部材1と補強部材3の屈曲部外側の溶接箇所のうち、柱状構造部材1側の溶接止端部は、通常グラインダ処理するが、この実施形態においてはグラインダ処理を実施しない。
【0015】
鋼溶接構造である接合構造体においては、補強材3の柱状構造部材の溶接部7の上端部の形状を工夫して応力集中の低減をはかるだけでは、疲労性能は社団法人日本鋼構造協会「鋼構造物の疲労設計指針・同解説」の溶接継手の疲労強度等級(以下、「JSSC」という。)のE等級止まりである。そこで、力の流れが多く発生する溶接止端部近傍に圧縮残留応力を導入することで疲労性能をより向上させることが考えられる。補強材3の上端部4がU字形またはV字形に屈曲した接合構造体の完全両振り疲労試験実績により、次のことが判明した。
(1)圧縮残留応力を確実に導入できていればJSSCのB等級(応力範囲の打ち切り限界が155MPa)であること。
(2)補強材3のU字形またはV字形の屈曲部の凸部での応力集中係数は1.5倍未満であること。
【0016】
圧縮残留応力導入領域を溶接止端部から2mm以内としたのは、その個所で所定の圧縮残留応力が導入されていれば、疲労性能上最もクリティカルとなる溶接止端部においても同様の圧縮残留応力導入が見込まれるからである。圧縮残留応力の測定方法としては、X線回析による方法などである。
【0017】
従来例2のような補強材の上端部がU字形またはV字形に屈曲した接合構造体において、補強材のU字形またはV字形屈曲部の上端部の溶接止端部はグラインダ処理が施されていた。その理由は、グラインダ処理により、溶接止端部付近の形状の凹凸による応力集中を緩和することにより耐疲労性能を向上させようとする狙いがあったからである。ところが、疲労試験の結果、グラインダ処理を施さない方が耐疲労性能が優れていることが判明した。これは、グラインダ処理による応力集中の緩和効果より、溶接により圧縮残留応力が導入されている表面を削り取ることにより、新たな表面となった個所の圧縮残留応力が低減してしまう効果が大きく、結果的に耐疲労性能が低下してしまうからである。
たとえば、φ180×6のリブ周辺(溶接止端部)にもともと母材降伏応力の5割以上の圧縮残留応力を付与しておいたケースで、グラインダにより溶接止端部を0.1mm程度削り取った結果、該当個所の圧縮残留応力は母材降伏応力の3割に低減し、疲労性能はJSSCのC等級であったものがE等級にランクダウンした。
したがって、本発明においては、U字形またはV字形に上端部を屈曲させた補強材と柱状構造部材との溶接止端部へのグラインダ処理を行わないアズウェルドとする。グラインダ処理の工程を省くことができるので製作コストの低減化に繋がる。
【0018】
一般に溶接鋼構造物においては、材料の降伏強度の向上が耐疲労性能の向上に寄与しないことが知られている。従って、通常の溶接鋼構造の疲労設計にあたって、繰り返し応力が許容値を超えた場合には、断面の板厚を増加したり、外径を増大させることで繰り返し応力値低減を図ることが行われている。
ところが、柱状構造部材に溶接される補強材の上端部をU字形またはV字形に屈曲させた接合構造体の場合、柱状構造部材の材料を降伏応力が300MPa以上の高強度の材料とすることにより、溶接加工作業の過程でU字形またはV字形屈曲区間外側(凸側)の溶接止端部付近に導入される圧縮残留応力を更に増大させることが可能であることが判明した。
本発明は、従来の耐疲労性能向上のための常識には反する柱状構造部材の材料の降伏応力を300MPa以上の高強度のものを使用することにより、圧縮残留応力の導入を増大させ、これにより接合構造体の耐疲労性能を向上させるものである。
【0019】
圧縮残留応力の導入量は、「JSSCのB等級を確保する場合、」溶接止端部の2mm以内で補強材が接合される該構造部材の材料の降伏応力の8〜9割が望ましい。
もし、両振りでB等級を確保するならば、最小応力が0で最大応力が155MPaのときでも、応力集中個所の応力が引張りに転じないためには、応力集中係数が1.5として、155×1.5=232.5MPaの圧縮残留応力が導入されていればよい。材料の降伏応力が300MPaの場合、上記の残留応力は降伏応力の0.775倍≒8割である。これにより圧縮残留応力は降伏応力の8割以上が望ましいと考えられる。
次に、圧縮残留応力を増大するために、柱状構造部材1に補強部材3を溶接接合する前、柱状構造部材1の補強材3の取り付け部分に引張応力を与えておき、その状態を保持したまま補強材3を溶接することが有効である。溶接個所が冷却固化した後、引張応力を開放することにより、該当個所に圧縮残留応力が導入されることになる。
柱状構造部材1に引張応力を付加するために一例としては、柱状構造部材1と板状の他の構造部材2を溶接した後、柱状構造部材1の上部に予め溶接固定した反力部材と板状の他の構造部材2との間にジャッキを設置し、ジャッキを伸長して約30トンの引張力を付加した。その状態を保持して補強部材を溶接した結果、90MPa程度の圧縮残留応力を導入できることが判明した。
一方、柱状構造部材1に引張力を付加する他の例として、柱状構造部材1に補強材3を溶接する時に、柱状構造部材1の補強材3が溶接される反対側の上部に水平力を加えることにより、または、柱状構造部材1の基部に曲げを与えることにより柱状構造部材1の補強材取り付け部に引張力を与えることが出来る。
【0020】
補強材3と柱状構造物1との溶接を他の構造物2との接合より先に行うと、補強材3の柱状構造部材1への溶接時に、補強部材3の柱状構造物1に対してめり込むように移動することが容易となり、補強材3の上端部の屈曲区間の外側止端部付近に確実に圧縮残留応力を導入することができる。
一般的に、材質強度の向上は疲労強度の向上には繋がらない。たとえば、「鋼構造物の疲労設計指針・同解説」(日本鋼構造協会)では、引張り強さが330MPa〜1GPa程度の炭素鋼および低合金鋼に対して、同じ疲労強度を設定しており、鋼材の強度向上が疲労強度向上に寄与しないことを示している。しかるに、本願発明のように、圧縮残留応力の付与によって、疲労強度を向上させる技術においては、鋼材の強度向上は、付与しうる圧縮残留応力の大きさが増えることを意味し、結果的に疲労強度に大きく寄与する。
【0021】
(実施例)
図1に示される本発明の接合構造体の実施形態において、柱状構造部材1の直径D:180mm、板厚t1:6mmとし、板状構造部材2の正方形の1辺の長さW1:350mm、板厚t2:25mm、材質:SS400(JIS G 3101の一般構造用圧延鋼材の規格で保証引張り強さが400MPaのもの)とし、補強材3の高さh:180mm、幅W2:80mm、材質:SS400としたものを90度間隔で4個配置し、繰り返し疲労試験を実施した。
【0022】
図3は、上記の接合構造体の柱状構造物1の材質としてSTK540(JISG 3444の一般構造用炭素鋼鋼管の規格で保証引張り強さが540MPaのもの)を用いたものを●、接合構造体の柱状構造部材1の材質をSTK400((JISG 3444の一般構造用炭素鋼鋼管の規格で保証引張り強さが400MPaのもの)を用いたものを▲(従来例2)、従来例1の接合構造体を×として疲労特性を示すグラフである。柱状構造物1の材質としてSTK540を用いたものの耐疲労性能が向上している。A〜Hは、JSSCの等級である。
【0023】
図4は、上記の接合構造体の柱状構造部材1の材質をSTK540とし、補強材3の溶接時に柱状構造部材1に引張力を付加した状態を保持したものを○、柱状構造部材1の材質をSTK540とし、補強材3の溶接時に引張力を付加した状態を保持しないものを●、接合構造部材1の材質をSTK400とし、補強部材の溶接時に引張力を付加した状態を保持しないものを▲(従来例2)とした疲労特性を示すグラフである。柱状構造部材1への補強材3の溶接時に柱状構造部材1に引張力を付加した状態を保持して溶接したものの耐疲労性能が向上している。A〜Hは、JSSCの等級である。
【0024】
図5は、上記接合構造体の柱状構造部材1の材質をSTK540とし、補強材3の柱状構造部材1との溶接を他の構造部材2との接合より先におこなったものを○、柱状構造部材1の材質をSTK540とし、補強材3の他の構造部材2との溶接を柱状構造部材1の接合より先に行ったものを●、接合構造体の柱状構造部材1の材質をSTK400とし、補強材3の他の構造部材2との溶接を柱状構造部材1の接合より先に行ったものを▲(従来例2)とした疲労特性を示すグラフである。補強材3の柱状構造部材1との溶接を他の構造部材2との接合より先におこなったものの耐疲労性が向上している。A〜Hは、JSSCの等級である。
【0025】
【発明の効果】
本発明の構成により、降伏応力が300MPa以上の柱状構造部材のU字形またはV字形に屈曲した補強材の溶接止端部に大きな圧縮残留応力を導入できるため、耐疲労性を向上させることができる。
他の構造部材の接合部においても同様である。
このことは、補強材の溶接時に柱状構造部材に引張力を付加した状態で溶接を行うことにより、溶接止端部への圧縮残留応力の導入をより増加することが可能となる。
補強材の柱状構造部材との溶接を他の構造部材との接合より先に行うことにより、溶接止端部への圧縮残留応力の導入をより増加することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】 本発明の他の実施形態を示す斜視図である。
【図3】 本発明の接合構造体の疲労特性を示す図である。
【図4】 本発明の接合構造体の疲労特性を示す図である。
【図5】 本発明の接合構造体の疲労特性を示す図である。
【図6】 従来の接合構造体に一例を示す斜視図である。
【図7】 従来の接合構造体に一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
1:柱状構造部材
2:他の構造部材
3:補強材
4:補強材の上端部
5:補強材の下端部
6:リング状開口部
7:柱状構造部材と補強材との溶接部
11:柱状構造部材
12:他の構造部材
13:板状補強材
14:補強材
15:補強材の上端部
16:柱状構造部材と補強材との溶接部
Claims (3)
- 柱状構造部材を板状構造部材に接合した構造において、
接合される柱状構造部材と板状構造部材には、該構造部材の接合を補強するための板状の補強材が溶接されており、
前記補強材は前記柱状構造部材の表面に沿ったU字状またはV字状の屈曲部を有し、
前記U字状またはV字状の屈曲部は前記柱状構造部材側に形成され、
前記屈曲した補強材と柱状構造部材との溶接止端部はグラインダ処理を行わないアズウェルドとし、
かつ前記補強材と該構造部材とは、該構造部材の補強材の取り付け部分に与えられた引張応力下で溶接されており、
前記柱状構造部材の材料降伏応力が300MPa以上であることを特徴とする接合構造体。 - 柱状構造部材を他の構造部材に接合した構造において、
接合される柱状構造部材と他の構造部材には、該構造部材の接合を補強するための板状の補強材が溶接されており、
前記補強材は前記柱状構造部材及び他の構造部材の表面に沿ったU字状またはV字状の2つ以上の屈曲部を有し、
且つ、リング状の開口部を有し、
前記屈曲した補強材と柱状構造部材との溶接止端部はグラインダ処理を行わないアズウェルドとし、
かつ前記補強材と該構造部材とは、該構造部材の補強材の取り付け部分に与えられた引張応力下で溶接されており、
前記柱状構造部材及び他の構造部材の材料降伏応力が300MPa以上であることを特徴とする接合構造体。 - 前記補強材の該構造部材の溶接部止端部2mm以内の範囲の該構造部材の表面残留応力の最大主応力値が圧縮であり、かつ該構造部材の材料降伏応力の8割以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の接合構造体。
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