JP4178164B2 - 複合繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
フェノール樹脂系繊維は、フェノール樹脂が繊維中で分子間の緻密な三次元架橋による網目状分子構造をとっているため、高い難燃性を有し、たとえ着火したとしても炭化するだけで延焼することはなく、優れている。
すなわち、フェノール樹脂系繊維中のフェノール樹脂は、上述したように網目状分子構造になっているが、一旦フェノール樹脂がこのような網目状分子構造をとってしまうと、加熱されても溶融せず、溶媒へも溶解しないため、これを繊維状に形成することはできない。よって、このようなフェノール樹脂系繊維を製造する際には、網目状分子構造になっていない低分子量のフェノール樹脂の初期重縮合物をまず製造し、これを繊維状にした後、硬化剤などの化学的処理により架橋する硬化工程により網目状分子構造を形成する方法が一般に採用されている。
ところが、このような方法を採用した場合においても、紡糸条件を非常に厳密に管理する必要があり、さらに、このように厳密に紡糸条件を管理した場合であっても、わずかな温度や紡糸速度の変動などにより、糸切れが頻発してしまうという問題があった。糸切れが起こると、繊維径が太い繊維、粉末化した樹脂などが製品に混入することがあり、品質管理上の問題が生じるうえ、装置への繊維の巻き付き、粉塵飛散など操業管理上の問題も生じやすかった。
また、直接紡糸法により得られた未架橋の繊維状物は、ついで上述したように硬化工程へ送られるが、未架橋の繊維状物は非常に脆弱なため、硬化工程へ送る際にも細心の注意が必要であった。
ところが、このような方法では、ハロゲンやリンの環境へ影響が懸念されるという問題があった。また、得られた繊維は難燃性を備えていたとしても、耐熱性、耐溶剤性、強度などの特性が不十分である場合があった。
本発明の複合繊維の製造方法は、紡糸原液を細孔から吐出し固化させる紡糸工程を有する繊維の製造方法において、紡糸原液として、溶媒により樹皮から抽出されたポリフェノール類を含む樹皮抽出組成物と、少なくとも1種の繊維形成性高分子化合物とを含有する混合液を使用し、紡糸原液における樹皮抽出組成物と繊維形成性高分子化合物との質量比が、樹皮抽出組成物:繊維形成性高分子化合物=60:40〜95:5であることを特徴とする。
前記混合液は、さらに熱硬化性樹脂を含有してもよい。
また、紡糸原液として、溶媒により樹皮から抽出されたポリフェノール類を含む樹皮抽出組成物の反応生成物と、少なくとも1種の繊維形成性高分子化合物とを含有する混合液を使用することもできる。
前記反応生成物としては、前記樹皮抽出組成物に熱硬化性樹脂またはアルデヒド類を反応させた反応生成物が好ましい。
前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびこれらの共重合体からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
前記繊維形成性高分子化合物は、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエステルおよびこれらの共重合体からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
前記樹皮は、アカシア、ケブラコ、ラジアータパインからなる群より選ばれる1種以上の樹皮であることが好ましい。
以下、本発明について、実施形態例を挙げて詳細に説明する。
本実施形態例の複合繊維の製造方法では、溶媒により樹皮から抽出された樹皮抽出組成物と、少なくとも1種の繊維形成性高分子化合物とを含有する混合液を紡糸原液として使用する。
ここで樹皮としては、例えば、アカシア、ケブラコ、マングローブ、ユーカリ、ラジアータパイン、スギ、カラマツ、ヒノキ、ヒバ、カシなど種々の樹木の樹皮が使用できるが、難燃性が良好で、耐熱性、耐溶剤性、強度などにも優れた複合繊維が得られやすいことから、アカシア、ケブラコ、ラジアータパインのうちの少なくとも1種の樹皮を使用することが好ましい。また、樹皮抽出組成物にはフラボノイド類などのポリフェノール類が含まれるが、ポリフェノール類の含有量が高く、また、成長が早く入手しやすい点、樹皮抽出組成物の抽出率が高い点、高い繊維強度が発現する点などからは、アカシアの樹皮を使用することが好ましい。アカシアには、具体的には、ミモザアカシア、モリシマアカシア、アカシアマンギューム、アカシアアウリカリフォルミス、これらの一代雑種であるアカシアハイブリッドなどがある。
こうして得られた樹皮抽出組成物には、フラボノイド類、タンニン類などのポリフェノール類が少なくとも含まれる他、抽出に使用する溶媒の種類にもよるが、樹皮に元々含まれるカリウム、ケイ素、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、リン、イオウ、ホウ素、マンガン、バリウム、アルミニウム、鉄、亜鉛など、灰分の一部も含まれる。さらに、樹皮抽出組成物には、通常、糖類やその誘導体、テルペノイド類なども含まれる。
ただし、より難燃性に優れた複合繊維をより高収率で得ようとする場合には、まず水を使用した抽出により、樹皮に含まれる多糖類などを抽出、除去した後、メタノール、アセトンなどの有機溶媒を使用した抽出により、樹皮抽出組成物を得る方法が好適である。多糖類は最終的に得られる複合繊維の難燃性を低下させたり、残炭率を低下させたりする可能性がある。
また、こうして加熱された後の混合物を固液分離する方法にも特に制限はなく、ろ過、遠心分離などで行えばよい。固液分離により得られた液体から溶媒を除去する方法にも特に制限はなく、蒸発乾固などの公知の方法を採用すればよい。
例えば、繊維形成性高分子化合物として二酢酸セルロースおよび/または三酢酸セルロースを使用する場合、有機溶剤として2−メチルピロリドン(NMP)、ジオキソラン、塩化メチレン、テトラクロロメタンを使用すると、二酢酸セルロースと三酢酸セルロースとをともに溶解することができ好適である。二酢酸セルロースを単独で使用する場合には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、メチルグリコールアセテート、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クロロホルム、ジメチルスルホキシドも、二酢酸セルロースを溶解することができるために好ましい。これらのなかでは、NMPやアセトンを選択すると、取扱いが容易である点で好ましい。また、有機溶媒は1種単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
また、紡糸原液における有機溶剤の割合は、紡糸原液中、20〜50質量%であると、紡糸工程をより安定に行うことができる。有機溶剤がこれより少ない場合は、複合繊維中にボイドが形成されやすく、これより多い場合には、粘度が高くなりゲル化しやすくなるとともに、紡糸中に糸切れが発生し、紡糸工程の効率を低下させる傾向にある。
なお、紡糸原液には、目的に応じて、分散剤、界面活性剤、顔料、染料、帯電防止剤等のその他の成分を添加してもよい。
具体的な方法としては、紡糸原液を細孔から空気や不活性ガスなどのガス気相中に一旦吐出してから、凝固浴中に導入する乾湿式紡糸法、紡糸原液を細孔から凝固液中に直接吐出する湿式紡糸法、紡糸原液を気相中に吐出して固化させる乾式紡糸法などを採用できる。また、吐出には、ギアポンプなどの吐出量制御装置を備えた紡糸口金(紡糸ノズル)を使用すればよい。
例えば、繊維形成性高分子化合物として二酢酸セルロースおよび/または三酢酸セルロースを用いる場合には、凝固液には水が好適に使用できる。また、凝固速度を適度に制御するために、紡糸原液に用いられる溶媒を添加することも可能である。さらには、塩析・脱水効果により凝固速度を調整するために、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの無機塩類を添加するなど、一般の湿式紡糸でとられる手法を採用できる。
紡糸原液の温度、凝固浴の温度、凝固浴への浸漬時間には特に制限はないものの、紡糸を定常的、安定的に行うためには、ある程度の管理を要する。例えば、紡糸原液の温度は0〜60℃の範囲内で、かつ、含有する溶媒の沸点未満が好ましく、凝固浴の温度は−15〜30℃が好ましい。ただし、紡糸原液、凝固浴の温度は凝固に及ぼす影響が大きいため、実験的に定めることが好ましい。また、凝固浴への浸漬時間は、吐出繊速度、吐出繊数、凝固浴のサイズなどの影響を受けるため、適宜実験的に定めればよい。
延伸工程の具体的な方法としては、湿熱法や乾熱法がある。
湿熱法で延伸する場合は、例えば凝固浴や紡糸原液に用いたものと同じ溶媒を10〜80質量%含有する液(延伸浴)に、紡糸原糸を浸漬しながら、延伸浴の沸点未満の温度範囲において1〜5倍、好ましくは1〜3倍に延伸する。
乾熱法で延伸する場合には、紡糸原液に使用した繊維形成性高分子化合物のガラス転移温度(Tg)以上であって、かつ、紡糸原液中の他の成分(この例では、樹皮抽出組成物)が急速に自己重縮合する温度(およそ60〜80℃程度)未満の温度において、気相中、2〜8倍、好ましくは2〜4倍に延伸すればよい。ここでの温度を樹皮抽出組成物が急速に自己重縮合する温度以上とすると、延伸自体が困難となる。
このように延伸工程としては、湿式法を採用しても乾熱法を採用してもよいが、乾熱法では上述したような特定の温度範囲での延伸が必要であり、紡糸原液の組成によっては、このような温度範囲自体が存在しないケースも多い。このような観点からみれば、湿式法の採用が好ましい。湿式法では一般に、延伸倍率を大きくとることが困難であることから、1〜2倍の延伸を繰り返し行うことで、最終的な延伸倍率を上述の1〜5倍、好ましくは1〜3倍とする方法も有効である。また、湿式法を採用した場合には、得られた繊維状物中には多量の溶媒が残っているため、溶媒を乾燥する(脱溶媒)ことなくボビン巻きなどの操作を行うと、繊維状物の表面に溶媒が染み出し、その結果、繊維状物同士が膠着してしまうことがある。そこでこれを防止するために、得られた繊維状物を加熱して脱溶媒したり、飽和水蒸気処理により水洗するなどしてもよい。この場合、飽和水蒸気の好ましい温度範囲は90〜98℃である。
硬化工程としては、繊維状物を例えば80℃以上の温度で加熱する方法が簡便であり好適であるが、場合によっては、酸−ホルマリン混合液などを使用した化学的処理による硬化を行ってもよい。
加熱により硬化工程を行う場合には、風乾または加熱により繊維状物を十分に乾燥させた後、80℃以上の温度で加熱して、硬化させる。このときの具体的な温度は、繊維形成性高分子化合物のTgを考慮して決定すればよい。硬化に要する時間は1〜24時間程度であるが、使用する加熱炉の性能、繊維状物の収束太さ、加熱炉中の繊維状物の供給量などに左右される。一般的には、加熱温度が高くなると、硬化に要する時間は短縮される傾向にある。このような硬化工程により、繊維状物の強度が非常に向上し、高強度の複合繊維が得られる。この際、硬化工程の温度、時間などの条件は、得られる複合繊維の強度と相関があることから、必要な強度に応じて、実験的に決定すればよい。また、加熱時の雰囲気は空気でよいが、必要があれば不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
酸−ホルマリン液を使用して硬化を実施する場合には、塩酸、硫酸などの酸触媒を加えたホルマリン中に繊維状物を浸し、加熱すればよい。ただし、このような方法は、温度管理が難しいとともに、生産工程をバッチ式にする必要があり生産性が良好ではない。よって、硬化工程は上述したように加熱による方法で行うことが好ましい。
また、このような製造方法では、フェノール樹脂系繊維を製造する場合のように厳密に条件を制御しなくても、品質の良好な複合繊維を安定に製造でき、高い生産性、低コストが実現できる。
さらに、このような製造方法では、ハロゲンやリンを含有するモノマーや難燃剤を使用しなくても難燃性の高い複合繊維を製造でき、しかもその原料には従来は廃棄される場合が多かった樹皮を使用しているため、環境面で非常に優れるとともに、コスト面からも好ましい。
本実施形態例では、紡糸原液として使用する混合液が、樹皮抽出組成物および繊維形成性高分子化合物に加えて、熱硬化性樹脂を含有している点で、第1実施形態例と異なっている。紡糸原液を紡糸する紡糸工程や、その後の延伸工程、硬化工程の具体的方法としては、第1実施形態例で説明した方法を同様に採用できる。
熱硬化性樹脂としては、レゾール型またはノボラック型のフェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂およびこれらの共重合体の1種以上が使用できるが、フェノール樹脂はポリフェノール類と類似の骨格を有し、樹皮抽出組成物と均一になりやすい傾向にあるため好ましい。
さらに、この例の方法によれば、熱硬化性樹脂を使用しているために、紡糸原液中において樹皮抽出組成物中の低分子量成分と熱硬化性樹脂とが一部反応し、より高分子量な成分を含む紡糸原液となる。その結果、紡糸工程での紡糸安定性が向上するとともに、硬化工程もより効率的に進行することとなる。
また、紡糸原液における繊維形成性高分子化合物の使用量は、樹皮抽出組成物と熱硬化性樹脂の合計:繊維形成性高分子化合物=1:99〜99:1であることが好ましく、より好ましくは60:40〜95:5、さらに好ましくは80:20〜90:10である。この範囲であると繊維状に形成しやすく紡糸工程、延伸工程、硬化工程を安定に行いやすいとともに、難燃性、耐熱性、耐溶剤性、強度の良好な複合繊維が得られやすい。
また、延伸工程には、第1実施形態例の場合と同様に、湿式法を採用しても乾熱法を採用してもよいが、本実施形態例の場合に乾熱法を採用しようとすると、その温度条件を決定するにあたって、紡糸原液中の熱硬化性樹脂が急速に硬化する温度(およそ60〜80℃程度)についても考慮する必要があるため、このような観点からみれば、湿式法の採用が好ましい。
本実施形態例では、紡糸原液を調製する際に、繊維形成性高分子化合物とともに樹皮抽出組成物をそのまま使用するのではなく、樹皮抽出組成物に他の物質を反応させた反応生成物を使用する点で、第1実施形態例と異なっている。紡糸原液を紡糸する紡糸工程や、その後の延伸工程、硬化工程の具体的方法としては、第1実施形態例で説明した方法を同様に採用できる。
他の物質としては、樹皮抽出組成物中のポリフェノール類と付加反応や縮合反応を起こし、このポリフェノール類よりも高分子量の反応生成物を生成するものであればよく、好適な例としては、アルデヒド類や熱硬化性樹脂が例示できる。また、反応は、無触媒で進行するものもあるが、触媒を使用することがより好ましい。
触媒としては、第1実施形態例で例示した酸触媒の他、塩基触媒が使用でき、塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物や水酸化アンモニウム、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミンなどのアミン類が挙げられ、これらを1種以上使用できる。
これら触媒の存在下で、樹皮抽出組成物とアルデヒド類とをメタノールなどの溶媒中、常温〜120℃の温度下に保持すると、樹皮抽出組成物中のポリフェノール類にアルデヒド類が付加し、さらに付加により生成した付加生成物とポリフェノール類とが縮合する。そして、このような付加と縮合とが繰り返されることにより、より高分子量の反応生成物が得られる。
触媒としては、アルデヒド類を反応させる場合に例示した酸触媒や塩基触媒を同様に使用できる。
そして、これら触媒の存在下で、樹皮抽出組成物と熱硬化性樹脂とをメタノールなどの溶媒中、常温〜120℃の温度下に保持すると、樹皮抽出組成物中のポリフェノール類と熱硬化性樹脂とが反応し、より高分子量の反応生成物が得られる。
この際進行する反応は、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を使用した場合には、樹皮抽出組成物中に含まれるポリフェノール類とフェノール樹脂との縮合反応である。
さらに、この例の方法によれば、反応生成物を使用しているために、第1実施形態例にくらべて、より高分子量な成分を含む紡糸原液となる。その結果、紡糸工程での紡糸安定性が向上するとともに、硬化工程もより効率的に進行することとなる。
また、樹皮抽出組成物とこれに反応させる熱硬化性樹脂との質量比には特に制限はないが、高分子化による紡糸安定性と、反応制御の観点からは、樹皮抽出組成物と熱硬化性樹脂との合計量を100質量%とした場合、樹皮抽出組成物を20質量%以上とすることが好ましく、40質量%以上とすることがより好ましい。
なお、紡糸原液における繊維形成性高分子化合物の使用量は、反応生成物:繊維形成性高分子化合物=1:99〜99:1であることが好ましく、より好ましくは60:40〜95:5、さらに好ましくは80:20〜90:10である。この範囲であると繊維状に形成しやすく紡糸工程、延伸工程、硬化工程を安定に行いやすいとともに、難燃性、耐熱性、耐溶剤性、強度の良好な複合繊維が得られやすい。
また、延伸工程には、第1実施形態例の場合と同様に、湿式法を採用しても乾熱法を採用してもよいが、本実施形態例の場合に乾熱法を採用しようとすると、その温度条件を決定するにあたって、紡糸原液中の反応生成物が急速に硬化する温度(およそ60〜80℃程度)についても考慮する必要があるため、このような観点からみれば、湿式法の採用が好ましい。
さらに、第1〜第3実施形態例として上述したように、繊維形成性高分子化合物とともに紡糸原液に使用する成分を樹皮抽出組成物、樹皮抽出組成物と熱硬化性樹脂、樹皮抽出組成物の反応生成物の中から適宜選択することにより、目的に応じた複合繊維の設計、製造も適宜可能である。また、目的によっては、繊維形成性高分子化合物とともに、樹皮抽出組成物と樹皮抽出組成物の反応生成物とを併用したり、樹皮抽出組成物の反応生成物と熱硬化性樹脂とを併用したりすることも可能である。
[実施例1]
アカシア樹皮チップ:600gとメタノール:1800gとの混合物をフラスコに入れ、これをマントルヒーターで65℃に加熱し、メタノールの還流状態を保ったまま1時間攪拌してポリフェノール類を含有する樹皮抽出組成物を抽出するための操作を行った。
ついで、この混合物を常温に冷却後、固体(樹皮)と液体(抽出液)とにろ別し、得られた抽出液をロータリーエバポレータに投入した。なお、得られた液体は赤黒色であった。そして、60℃で減圧状態を保ちメタノールを蒸発させ(蒸発乾固)、固体の樹皮抽出組成物240gを得た。
一方、酢化度55%、重合度120の二酢酸セルロース100gを900gのアセトンに入れ、常温で約1時間攪拌した後、還流器付きフラスコで60℃に保ったまま30分間の攪拌混合を行い、完全に溶解させた。その後、この溶液を冷却して二酢酸セルロース溶液(固形分10質量%)を得た。
ついで、この二酢酸セルロース溶液の中に、上述の樹皮抽出組成物を固形分の質量比が樹皮抽出組成物:二酢酸セルロース=70:30になるように加え、小型ホモジナイザーで攪拌し、均一な赤褐色混合液である紡糸原液を調製した。
そして、この紡糸原液を孔径0.1mm、ホール数80の紡糸口金から一定の吐出量を保ちながら押出し、25℃のアセトン水溶液(アセトン濃度10質量%)からなる凝固浴中に吐出し、紡糸工程を行った。この際、凝固浴中で延伸倍率が2〜3倍になるよう、巻取りローラーの回転数を調整した。また、凝固浴への浸漬時間は約60秒であった。
ついで、巻き取った紡糸原糸を50℃のアセトン水溶液(アセトン濃度10質量%)中で延伸する延伸工程を行い、繊維状物とした。ここでの延伸倍率は2倍とした。
その後、延伸工程での緊張状態を保ったまま、繊維状物を室温で5分間風乾し、さらに130℃、30分間の乾熱処理を行う硬化工程を実施し、複合繊維を得た。
なお、紡糸工程〜延伸工程は連続式装置で行い、この連続式装置とは別の連続式装置を用いて風乾と硬化工程を実施した。
(1)難燃性
得られた複合繊維の限界酸素指数(LOI)をJIS−L1091 E法 E−2号に準じて測定し、その値を表1に記載した。なお、一般にLOIが28以上であれば、難燃性を有していると判断される。
(2)耐熱性
得られた複合繊維の融点を熱分析計TG−DTAを使用した示差熱測定および熱減量測定により求めた。250℃以下に融点を持たず、250℃を超えた温度に熱分解開始点を有するものを耐熱性良好と判断し、表1中○で示した。250℃以下に融点が測定されたものについては表1にその温度を記載した。
(3)強度
JIS−L1015 7.5.1 振動法に準じて、振動式繊度測定器(SEARCH社製デニールコンピュータ)により繊度を測定し、JIS−L1015 7.7.1に準拠して、オリエンテック社製テンシロンRTM25引張試験機により強度を測定した。
(4)耐溶剤性
得られた繊維を50℃のアセトン中に6時間浸漬した後、繊維の溶解が目視で判断できたものを表1中×で示し、判断できなかったものを○とした。
樹皮抽出組成物の代わりに樹皮抽出組成物とホルムアルデヒドとの反応生成物を使用し、二酢酸セルロース溶液の中に、この反応生成物(固形分)の量が質量比で反応生成物:二酢酸セルロース=90:10になるように加えた以外は実施例1と同様にして紡糸原液を調製し、実施例1と同様に各工程を実施して、複合繊維を製造した。そして、得られた複合繊維について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
なお、樹皮抽出組成物とホルムアルデヒドとの反応生成物は次のようにして調製した。
まず、実施例1と同様の方法で樹皮抽出組成物を得た。ついで、この樹皮抽出組成物100gをフラスコ中でメタノール100gに溶解した後、この中にホルマリン(ホルムアルデヒド37質量%水溶液)200gを入れ十分に混合し、さらに酸触媒として塩酸0.1gを加え、70℃で1時間還流反応させた。その後、80mmHgの減圧下にて、内容物の内温が80℃に上昇するまで濃縮反応を行い、さらにそのまま80℃、80mmHg下に保持し、樹皮抽出組成物の反応生成物(固形分80質量%、粘度7000mPa・s)を得た。
樹皮抽出組成物の代わりに樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との混合物を使用し、二酢酸セルロース溶液の中に、この混合物(固形分)の量が質量比で混合物:二酢酸セルロース=90:10になるように加えた以外は実施例1と同様にして紡糸原液を調製し、実施例1と同様に各工程を実施して、複合繊維を製造した。そして、得られた複合繊維について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
なお、樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との混合物は次のようにして調製した。
まず、実施例1と同様の方法で樹皮抽出組成物を得た。
一方、フェノール400gとホルマリン(ホルムアルデヒド50質量%水溶液)440gとを反応容器に仕込み、25質量%アンモニア水74gを加え、60℃で3時間反応させた。その後、80mmHgの減圧下にて、反応容器内の内容物の内温が80℃に上昇するまで脱水濃縮反応を行い、さらにそのまま80℃、80mmHgの条件下に保持し、常温では透明液状のレゾール型フェノール樹脂(固形分80質量%)を得た。
実施例3で得られたものと同じレゾール型フェノール樹脂(固形分80質量%)を二酢酸セルロース溶液の中に、レゾール型フェノール樹脂(固形分)の量が質量比でレゾール型フェノール樹脂:二酢酸セルロース=90:10になるように加えたものを紡糸原液とした。紡糸原液の調製方法は実施例1と同様にした。ついで、この紡糸原液を使用した以外は実施例1と同様に各工程を実施して、複合繊維を製造した。そして、得られた複合繊維について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
フェノール樹脂系繊維を以下のようにして製造した。
平均分子量1200の熱可塑性ノボラック樹脂(溶融粘度150℃で36Pa・s)を180℃で溶融させ、これを吐出量が一定になるように調整したギアポンプを通して150℃に設定された紡糸パックへ導入し、100ホールの紡糸口金(孔径0.2mm、キャピラーのL/D=3)から吐出させた。
こうして得られた紡糸原糸をクエンチゾーンにて20℃の冷却風で冷却しながら、巻き取り速度を300m/分とし、繊度2.2dtex(デシテックス)の未硬化糸を得た(直接紡糸法)。
ついで、巻き取った未硬化糸をボビンから切り離し、長さを51mmにカットした。
そして、これを塩酸15質量%、ホルムアルデヒド10質量%の25℃混合水溶液に浸漬し1時間静置した後、温度コントローラー付きの加熱器内に入れ、6時間かけて98℃まで昇温し、更に98℃に保ったまま10時間保持し、硬化反応を行った。
その後、硬化した糸條を加熱器内から取り出し、60℃の温水に30分間浸漬した後、流水で1時間洗浄した。次に取り出した糸條を60℃に保持した3質量%のアンモニア水に3時間浸漬し、中和処理を行った。そして、中和後の糸條を60℃の温水に30分間浸漬した後、流水で1時間洗浄した。
その後、取り出した糸條を105℃、30分間の条件で乾燥し、黄色のフェノール樹脂系繊維を得た。
そして、得られた繊維について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
市販の難燃性モダクリル繊維(アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体繊維、アクリロニトリルブロック35〜60質量%、アセトン溶媒による湿式紡糸法により製造、16.5dtex)について、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
一方、直接紡糸法により得られたフェノール樹脂系繊維(比較例2)は、難燃性を備えていたものの、強度が低く、また、その製造工程は煩雑なものであった。
また、各実施例と同様の方法で製造した比較例1のフェノール樹脂系繊維は、難燃性を備えておらず、強度も低かった。
さらに塩素を含む市販のモダクリル繊維(比較例3)は、耐溶剤性が劣っていた。
ケブラコ樹皮チップ:1500gとアセトン:4500gとの混合物をフラスコに入れ、これをマントルヒーターで56℃に加熱し、アセトンの還流状態を保ったまま1時間攪拌してポリフェノール類を含有する樹皮抽出組成物を抽出するための操作を行った。
ついで、この混合物を常温に冷却後、固体(樹皮)と液体(抽出液)とにろ別し、得られた抽出液をロータリーエバポレータに投入した。なお、得られた液体は赤黒色であった。そして、55℃で減圧状態を保ちアセトンを蒸発させ(蒸発乾固)、固体の樹皮抽出組成物270gを得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、複合繊維を得た。そして、得られた複合繊維について、実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
樹皮抽出組成物の代わりに樹皮抽出組成物とホルムアルデヒドとの反応生成物を使用し、二酢酸セルロース溶液の中に、この反応生成物(固形分)の量が質量比で反応生成物:二酢酸セルロース=90:10になるように加えた以外は実施例4と同様にして複合繊維を得た。そして、得られた複合繊維について、実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
なお、樹皮抽出組成物とホルムアルデヒドとの反応生成物の調製は、樹皮抽出組成物として実施例4で得たケブラコ樹皮からの樹皮抽出組成物を使用した以外は、実施例2と同じ方法で行い、樹皮抽出組成物とホルムアルデヒドとの反応生成物:160gを得た。
ラジアータパイン樹皮チップ:1500gとメタノール:4500gとの混合物をフラスコに入れ、以降、実施例1と同様の工程により、固体の樹皮抽出組成物300gを得て、さらに複合繊維を得た。そして、得られた複合繊維について、実施例1と同様にして評価した。結果を表3に示す。
樹皮抽出組成物の代わりに樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との混合物を使用し、二酢酸セルロース溶液の中に、この混合物(固形分)の量が質量比で混合物:二酢酸セルロース=90:10になるように加えた以外は実施例6と同様にして複合繊維を得た。そして、得られた複合繊維について、実施例1と同様にして評価した。結果を表3に示す。
なお、樹皮抽出組成物とレゾール型フェノール樹脂との混合物の調製は、樹皮抽出組成物として実施例6で得たラジアータパイン樹皮からの樹皮抽出組成物を使用した以外は、実施例3と同じ方法で行った。
Claims (7)
- 紡糸原液を細孔から吐出し固化させる紡糸工程を有する複合繊維の製造方法において、
紡糸原液として、溶媒により樹皮から抽出されたポリフェノール類を含む樹皮抽出組成物と、少なくとも1種の繊維形成性高分子化合物とを含有する混合液を使用し、
紡糸原液における樹皮抽出組成物と繊維形成性高分子化合物との質量比が、樹皮抽出組成物:繊維形成性高分子化合物=60:40〜95:5であることを特徴とする複合繊維の製造方法。 - 前記混合液は、さらに熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の複合繊維の製造方法。
- 紡糸原液を細孔から吐出し固化させる紡糸工程を有する複合繊維の製造方法において、
紡糸原液として、溶媒により樹皮から抽出されたポリフェノール類を含む樹皮抽出組成物の反応生成物と、少なくとも1種の繊維形成性高分子化合物とを含有する混合液を使用することを特徴とする複合繊維の製造方法。 - 前記反応生成物は、前記樹皮抽出組成物に熱硬化性樹脂またはアルデヒド類を反応させた反応生成物であることを特徴とする請求項3に記載の複合繊維の製造方法。
- 前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびこれらの共重合体からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項4に記載の複合繊維の製造方法。
- 前記繊維形成性高分子化合物は、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエステルおよびこれらの共重合体からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の複合繊維の製造方法。
- 前記樹皮は、アカシア、ケブラコ、ラジアータパインからなる群より選ばれる1種以上の樹皮であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の複合繊維の製造方法。
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