JP4176546B2 - 原子炉構成材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な原子炉内構造物用金属構造材料及びそれを用いた原子炉に係わり、特に腐食環境かつ応力が負荷される部位に適用される金属材料において、環境助長割れが問題となる環境下で使用するに好適な金属構造材料とその用途に関する。
【0002】
【従来の技術】
原子炉圧力容器内などの、高温高圧水に接触するプラント構造材料において、応力の存在下において環境助長割れがしばしば生じている。環境助長割れは、環境、応力、材料の3要素が重畳して発生するとされており、それぞれの要素について環境助長割れを防ぐための検討がなされてきた。材料についてはこれまで、結晶粒界でのクロム炭化物析出に伴いクロム欠乏域が生成し耐食性を失う現象、すなわち鋭敏化が、環境助長割れ因子とされてきた。そして、鋭敏化を抑えるため、低炭素化、またはTiやNbの合金化により炭素をTiCやNbCとして固定(安定化)する対策がなされてきた。しかしながら、近年、炭素量を重量で0.020%以下にした非鋭敏化オーステナイト系ステンレス鋼においても、沸騰水型原子力発電プラントで環境助長割れの事例が顕在化しており、新たな対策が要求されている。
【0003】
材料因子として、従来は化学成分を中心に耐食性の改良が検討されてきたが、近年、材料組織そのものの制御が検討されるようになった。非特許文献1には、鋭敏化304ステンレス鋼の結晶粒径を1μmまで微細化することにより粒界腐食が低減されることが報告されている。また、粒界の性格とその構成に着目し、これを変化させることによって、腐食特性を改善する試みが検討されるようになった。例えば、非特許文献2には、304ステンレス鋼において、全粒界長さに対する、Σ値が29以下の粒界長さの和の割合を増加させることにより、鋭敏化による粒界腐食量が低減されることが報告されている。
【0004】
ここで、Σ値とは、粒界で隣接する二つの結晶粒の結晶格子が作る対応格子点密度の逆数で定義され、粒界における原子配列の規則性に関係する。また一般に、Σ値が小さいほど粒界の原子配列の乱れが小さく、粒界エネルギーが低いと考えられている。この中でΣ値が29以下の粒界は、粒界腐食を免れ、その長さの和の割合が増加することにより結果的に粒界腐食量が低減することが明らかにされつつある。特許文献1では、結晶粒径が30μmを超えないで、全粒界長さに対するΣ値が29以下の粒界長さの和の割合を60%以上にすることにより、Fe基およびNi基合金の耐食性が改善されることが示されつつある。
【0005】
また、この公知例では蒸気発生器等の伝熱管への適用を目的としているため、アニーリング工程の温度が900℃〜1050℃と高温であるので、大型の構造物への適用に際しては、成形加工後の熱変形を伴うという適用上の課題があるとともに、特殊な熱処理炉が必要でありかつ、熱処理による熱エネルギーの消費が多大となる課題があった。
【0006】
特許文献2では、Σ値が29以下の粒界の存在を許容したオーステナイト系ステンレス鋼単結晶が、高い耐食性を示すことが示された。特許文献3では、全粒界長さに対する、Σ値が29以下の粒界の長さの和の割合を50%以上のNi基合金で、CBB試験による粒界割れ感受性が低減することが示された。
【0007】
しかしながら、上記の従来知見を用いても、多結晶の非鋭敏化ステンレス鋼における環境助長割れ発生に対応するために、鋭敏化による粒界腐食量を低減したとしても、必ずしも原子炉構成材料の環境助長割れを抑えられるとはいえず、特に、環境割れに対するより耐性のある原子炉構造材料が求められている。
【0008】
【特許文献1】
特表平8−507104号公報(請求の範囲)
【特許文献2】
特開平11−80905号公報(要約)
【特許文献3】
特開2002−309355号公報(要約)
【非特許文献1】
Corrosion,第40巻,1984年,371〜374頁。
【0009】
【非特許文献2】
Acta Metarialia,第50巻,2002年,2331〜2341頁。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、環境助長割れ耐久性に優れた金属材料と、それによって構成される金属部品ならびにその用途を提供することにある。これらの材料にするには微小き裂が合体・進展しにくい組織を有する材料を提供することであるが、その製造過程すなわち、アニーリング工程の温度が従来知見では900℃〜1050℃と高温であるので、大型の構造物への適用に際しては、成形加工後の熱変形を伴うという適用上の課題があるとともに、特殊な熱処理炉が必要であり、かつ熱処理による熱エネルギーの消費が多大となる課題があった。
【0011】
これらの熱エネルギーの損失や材料への熱的影響が無視できないため、可能な限りアニーリングの温度は低いことが望ましく、そこで、本発明においては、アニーリング温度を最適化する条件を見出し、かつ、環境割れに強く、万一、微小き裂が発生しても合体・進展しにくい組織を有する材料を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の典型例は、クロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼として、例えば、C0.030%以下、Si1.00%以下、Mn2.00%以下、Ni9.00〜13.00%、Cr18.00〜20.00%を含みオーステナイト系ステンレス鋼において、固溶化熱処理後に、冷間状態で負荷塑性ひずみを2%から30%を付与した後、840℃〜900℃未満でアニーリングすることにより、結晶粒界の内、結晶粒間の相対方位関係において、結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位の占める割合が65%以上とすること、即ち、65%以上の低ΣCSL粒界頻度を有しかつ、結晶粒径が200μmを越えない組成を実現することからなる原子炉構成材料により達成される。なお、低ΣCSL粒界頻度は金属材料の試料を用いて、電子線後方散乱解析(EBSP)で、測定、解析することができる。
【0013】
また、本発明においては、クロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼において、固溶化熱処理後、材料表面に負荷塑性ひずみを導入する方法としてピーニングを行い少なくとも表層部50μm以上、好ましくは200μm以上の塑性変形層を形成した後、840℃から900℃未満の温度で、アニーリングすることを特徴とする材料において、結晶粒界の内、結晶粒間の相対方位関係において、結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位の占める割合が65%以上とすることすなわち、Σ値が29以下の場合の粒界の数の生成割合を低ΣCSL(対応部位格子)粒界頻度と定義すると、この値が65%以上を有しかつ、結晶粒径が200μmを越えないことを特徴とする原子炉構成材料を達成する。
【0014】
【発明の実施の形態】
[1]本発明者らはクロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼において、結晶粒界の内、結晶粒間の相対方位関係において、結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位の占める割合が65%以上とすることを達成する手法として、固溶化熱処理後、冷間状態で負荷塑性ひずみを2%から30%を付与した後、840℃から900℃未満の温度で、アニーリングすることにより達成できることを見出した。
【0015】
負荷塑性ひずみが2%未満では、ステンレス鋼の微細構造における最も高度に欠陥のある粒界の位置で生ずる選択的再結晶化及び結晶格子自体のそれに近づく、より大きい原子配列を有するものとの高エネルギーの不規則化された粒界の連続的置換の可能性からなる粒界における低ΣCSL粒界頻度の向上が見込めないために、それ以上の塑性ひずみの存在が不可欠であるとの新しい知見によるものである。また、840℃未満の温度では、大型の構造物等への適用に際しては、成形加工後の熱変形を伴うという適用上の課題や、特殊な熱処理炉が必要であり、かつ熱処理による熱エネルギーの消費が多大となるという課題が軽減される。
【0016】
しかし、が前述に示す原理と同様に低温条件では、ステンレス鋼の微細構造における最も高度に欠陥のある粒界の位置で生ずる選択的再結晶化及び結晶格子自体のそれに近づく、より大きい原子配列を有するものとの高エネルギーの不規則化された粒界の連続的置換の可能性からなる粒界における低ΣCSL粒界頻度の向上が見込めないために、840℃以上の温度及び保持時間の設定が不可欠であることを見出したものである。
【0017】
[2]また、本発明においては、耐環境割れ性をよくするための結晶粒界の性格分布を最適化するとともに材料製造プロセスにおけるアニーリングを行なうための加熱温度を840℃から900℃未満の温度に下げることに成功したので熱処理に伴う熱エネルギーを合理的に低減することができる方法を達成できた。
【0018】
[3]クロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼において、炭素含有量は0.08%から0.010%について、検討したところ、いずれの範囲においても、固溶化熱処理後、冷間状態で負荷塑性ひずみを2%から30%を付与した後、840℃から900℃未満の温度で、アニーリングすることにより65%以上のΣ値が29以下の低ΣCSL粒界頻度を有しかつ、結晶粒径が200μmを越えない組織を達成できた。
【0019】
結晶粒径が200μmを越えないことはこれ以下の微細粒を達成することが粒界性格分布の制御の効果を発揮するために、必要であるとの知見によるものである。すなわち、200μm以上の大きな結晶粒径では、粒界の不純物の偏析を助長するとともに、仮に、粒界整合性のよい低ΣCSL粒界が出来たとしても、ある頻度ではそれ以外の整合性の劣る粒界面が存在する確率があるため、粒界制御深さを管理するために、結晶粒サイズが200μmを越えないことを設定したものである。
【0020】
[4]クロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼において、C0.08%以下、Si1.00%以下、Mn2.00%以下、Ni12.00〜15.00%、Cr16.00〜18.00%、Mo2.00〜3.00%において、結晶粒界の内、結晶粒間の相対方位関係において、結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位の占める割合が65%以上とすることを達成する手法として、固溶化熱処理後、冷間状態で負荷塑性ひずみを2%から30%を付与した後、840℃から900℃未満の温度範囲で、アニーリングすることにより達成できることを見出した。
【0021】
[5]クロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼において、C0.08%以下、Si1.00%以下、Mn2.00%以下、Ni9.00〜13.00%、Cr17.00〜19.00%、Nb10×C%以上において、結晶粒界内及び結晶粒間の相対方位関係において、結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位の占める割合が65%以上とすることを達成する手法として、固溶化熱処理後、冷間状態で負荷塑性ひずみを2%から30%を付与した後、840℃から900℃未満の温度でアニーリングすることにより達成できることを見出した。
【0022】
[6]本発明者らはクロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼において、結晶粒界の内、結晶粒間の相対方位関係において、結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位の占める割合が65%以上とすることを達成する手法として、固溶化熱処理後、冷間状態で負荷塑性ひずみを2%から30%を付与する手法としての材料表面ピーニングを行い、少なくとも表層部50μmから200μm以上の塑性変形層を形成した後、840℃から900℃未満の温度で、アニーリングすることにより達成できることを見出した。
【0023】
材料表面にピーニングを行い少なくとも表層部50μmの必要性は原子炉の運転年数を40年とすると、その間に、材料表面が全面均一腐食により減肉するため、耐環境割れ性の機能を有する部位を確保するためには50μm以上が必要であるとの検討結果に基づくものである。また、200μm以上の塑性変形層を形成の必要性は粒界性格の制御された材料組織であっても、少なくとも1粒界は低ΣCSL粒界でない部位の生成確率があるため、1結晶粒の最大サイズより大きな値として、200μm以上の有効深さが必要であることを見出した。
【0024】
[7]本発明者らはクロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼において、結晶粒界の内、結晶粒間の相対方位関係において、結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位の占める割合が65%以上とすることを達成する手法として、固溶化熱処理後、冷間状態で負荷塑性ひずみを2%から30%を付与する手法として、レーザーピーニング、ウオータジェットピーニング、ショットピーニング及びサンドブラストのいずれかにより、材料表面に少なくとも表層部50μm以上、好ましくは200μm以上の塑性変形層を形成した後、840℃から900℃未満の温度で、アニーリングすることにより達成できることを見出した。
【0025】
[8]本発明者らはクロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼において、結晶粒界の内、結晶粒間の相対方位関係において、結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位の占める割合が65%以上とすることを達成する手法として、固溶化熱処理後、冷間状態で負荷塑性ひずみを2%から30%を付与する手法として、レーザーピーニング、ウオータジェットピーニング、ショットピーニング及びサンドブラストのいずれかにより、材料表面に少なくとも表層部50μm以上、好ましくは200μm以上の塑性変形層を形成した後、840℃以上の温度で、局所熱注入としてレーザー照射加熱及び誘導加熱及びアーク加熱による加熱より達成できることを見出した。
【0026】
なお、局所熱注入法によれば、被処理構造物の熱による変形を防止できるとともに、熱エネルギーの大量消費が低減できるので、省エネルギー工法となった。また、加熱温度の上限は加熱源の能力に依存するが、好ましくは840℃〜950℃の領域において低ΣCSL粒界頻度を65%以上の高めにできる。
【0027】
[9]本発明者らはクロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼において、結晶粒界の内、結晶粒間の相対方位関係において、結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位の占める割合が65%以上とすることを達成する手法として、固溶化熱処理後、冷間状態で負荷塑性ひずみを2%から30%を付与する手法としてのレーザーピーニング、ウオータジェットピーニング、ショットピーニング及びサンドブラストのいずれかにより、材料表面に少なくとも表層部50μm以上、好ましくは200μm以上の塑性変形層を形成する。
【0028】
その後、840℃以上の温度で、局所熱注入する方法を原子炉構成材料として沸騰水型原子炉及び加圧水型原子炉の炉水に接する炉内構造物及び原子炉圧力容器及び原子炉一次系配管及び制御棒及び中性子計装管及び制御棒並びにその駆動装置等の炉水に接する100℃以上の領域に適用する。これは、100℃以上の高温炉水環境でのステンレス鋼の環境割れが顕在化しており、そのような領域に、本発明の組織を有する材料を適用することにより、健全で信頼性のある原子炉を提供することができるものである。
【0029】
〔実施例1〕
表1に供試材の化学成分値(質量%)を示す。表中のT1〜15は化学成分が本規定の範囲のステンレス鋼である。Aは比較材である。これらの鋼を1050℃で固溶化熱処理を行い、水冷にて急冷した。室温の状態で、冷間圧延により、2%から30%の負荷塑性ひずみを付与した。その後に、899℃で2.592×105s保持し、その後急冷した。図1は供試材T2を用いて、本発明の処理を施した材料の電子線後方散乱解析(EBSP)による結晶粒界性格分布図である。図1の中で1は結晶粒を示し、2は結晶粒界を示す。
【0030】
本図の中で66%が結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位で占めており65%以上のΣ値が29以下の低ΣCSL粒界頻度を有しかつ、結晶粒径が200μmを越えないことを達成した例である。この組織を有する材料の耐環境性を評価した。図2は、き裂進展抵抗評価試験に用いた予き裂付きのラウンドコンパクトテンション試験片(RCT)3を示しており、この試験片を沸騰水型原子炉の炉水水質を模擬した288℃の、導電率0.08μS/cmから0.085μS/cmの領域で、溶存酸素濃度が2ppmの高温純水中で、最大荷重3.15kNを負荷し、き裂先端部の応力拡大係数を制御して試験を行なった。
【0031】
その結果を図3に示す。横軸は試験時間であり、縦軸は応力腐食割れ(SCC)の発生環境下でのき裂の開口変位を示している。き裂開口変位の増加は、き裂の進展があることを示している。従来技術の材料である高炭素量の通常SUS304ステンレス鋼4のき裂進展特性を示す線図であり、時間経過とともに、開口変位計の読み値が増加しており、応力腐食割れき裂が進んでいることを示している。
【0032】
一方、本発明の実施例である高炭素粒界制御材5は、き裂進展特性を示す線図であり、初期のわずかな増加が認められるが開口変位は極めてわずかな変化を示すのみであり、応力腐食割れのき裂進展速度が極めて小さいことを示している。これらの結果より、本発明の材料は沸騰水型原子炉の炉水環境でも、耐環境割れ性が高いことが示された。
【0033】
【表1】
【0034】
〔実施例2〕
表1に示す供試材の化学成分値(質量%)のステンレス鋼を用いた他の実施例である。これらの鋼を1050℃で固溶化熱処理を行い、水冷により急冷した。室温の状態で、冷間圧延により、表2に示す2%から30%の負荷塑性ひずみを付与した。その後に、840℃から899℃で10sから6.048×105s間、保持し、その後急冷した。表2にはこれら供試材を用いて、本発明の処理を施した材料の電子線後方散乱解析(EBSP)による結晶粒界性格分布解析結果を示す。本発明の範囲の鋼は表中に示すように65%が結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位で占めており65%以上のΣ値が29以下の低ΣCSL粒界頻度を有していた。
【0035】
なお、結晶粒径はいずれも200μmを越えない粒径を達成した例である。これらの供試材は低ΣCSL粒界頻度が65%以上を達成しており、実施例1のき裂進展抵抗評価試験結果からも推定できるように、耐環境割れ性が良好であると評価される。
【0036】
【表2】
【0037】
〔実施例3〕
図4は本発明の実施例を説明する図であり、材料に与える負荷塑性ひずみを冷間圧延ではなく、ピーニングにより、塑性ひずみを導入した実施例である。固溶化熱処理を1050℃で実施し、急令したステンレス鋼SUS304ステンレス鋼6の表面にショットピーニングを施し、表面の50μm以上、好ましくは200μm以上の範囲に塑性変形層7を形成し、塑性ひずみを2%から30%程度付与する。その後、表面に、レーザー照射の吸収性を確保するために、例えば、SiO2皮膜8を塗布しておく。その後、レーザーを照射し、加熱する。加熱時間は材料表層に熱を十分浸透させるために少なくとも10s以上とする。
【0038】
ショットピーニングの条件はショット粒径0.68mm、投射速度78.5m/s、ショット量90kg/min,ショット時間10sを施し、試料表面に塑性変形を与えた。レーザー照射はCO2レーザー(800W)を照射した。この処理により、塑性ひずみを有した加工層はレーザー照射によるアニーリングにより、65%が結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位で占めており65%以上のΣ値が29以下の低ΣCSL粒界頻度を有した粒界制御層9を形成できた。
【0039】
なお、結晶粒径はいずれも10μmから200μmを越えない粒径を達成した。これらの表層部は低ΣCSL粒界頻度が65%以上を達成しており、実施例1のき裂進展抵抗評価試験結果からも推定できるように、耐環境割れ性が良好であると評価される。
【0040】
なお、本実施例ではレーザー照射を行なったが、その他の加熱方法、例えば、高周波等の誘導加熱及びアーク加熱であることにより、本発明の温度範囲を満足するアニーリングを施す方法も適用できる。
【0041】
〔実施例4〕
図5は本発明の更に他の実施例である。ショットピーニングとレーザー照射を施して、耐粒界腐食性の改善に成功した例である。SUS304Lステンレス鋼10を固溶化熱処理(1100℃、1h)し600℃、24hで強鋭敏化熱処理を施し、表面にショットピーニング(ノズルと試料の距離228mm、ショット径Marten shot MS100(S330),圧力5kgf/cm2、ショット時間30s、60s)を施し、塑性変形層11を形成したのち、YAGレーザーで照射した。
【0042】
表面厚さ170μm(ショット時間30s)〜200μm(ショット時間60s)程度の表面再結晶層12が形成されていた。結晶方位差角15°以上かつΣ値29以下である粒界で構成される部位は66%を占めており65%以上のΣ値が29以下の低ΣCSL粒界頻度を有していた。なお、結晶粒径はいずれも10μmから200μmを越えない粒径を達成した。これらの表層部は低ΣCSL粒界頻度が65%以上を達成しており、実施例1のき裂進展抵抗評価試験結果からも推定できるように、耐環境割れ性が良好であると評価される。
【0043】
〔実施例5〕
図6は本発明の良好な適用例を示すものである。沸騰水型原子炉の炉心シュラウド番号13に適用した例である。その他の原子炉圧力容器14のステンレス鋼部位及びシュラウドサポートシリンダ15、シュラウドサポートレグ16、シュラウドサポートプレート17に適用した例を示す。図7の18に示すような従来技術での溶接部位に、本発明の実施例を示す溶接継手19のように接液表面を粒界制御層で覆った例である。
【0044】
クロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼として、SUS316Lを用いて、固溶化熱処理後、材料表面にピーニングを行い少なくとも表層部50μm以上、好ましくは200μm以上の塑性変形層を形成した後、840℃から900℃未満の温度で、アニーリングする事を特徴とする材料において、65%以上のΣ値が29以下の低ΣCSL粒界頻度を有しかつ、結晶粒径が200μmを越えないことを特徴とする原子炉構成材料である。
【0045】
ピーニングはレーザーピーニングの他にウオータジェットピーニング及びショットピーニング及びサンドブラストが適用できる。レーザーピーニングは水中での施工や局所的な部位に施工することが効果的である。ウオータジェットピーニングも水中での施工となるが、幅広い領域を一度に施工できることや狭隘部にも施工できるので、むらなく塑性ひずみを導入できるとともに圧縮残留応力を付与できる。
【0046】
ショットピーニングはショット材にステンレス鋼の鋼球を使用するものである。空気でショットを投射する方法と水を同伴させて投射する方法がある。いずれもショット材を回収する必要があるが、塑性ひずみの導入は他のピーニングと同様に可能である。サンドブラストがショット材に珪砂を用いたものである。ショット材を回収する必要があるが、塑性ひずみの導入は他のピーニングと同様に可能である。
【0047】
ピーニングが完了した後に局所熱注入を施す。局所熱注入はレーザー照射加熱及び高周波等誘導加熱及びアーク加熱のいずれかを用いることにより原子炉構成材料にΣ値が29以下の低ΣCSL粒界頻度として65%以上を達成し、かつ、結晶粒径が200μmを越えない組織を得ることができる。
【0048】
炉心シュラウド番号13は円筒の原子炉構造物であり、溶接により製作される。従来の材料では、炉水環境下での環境割れは溶接線の近傍に多く顕在化している。本発明では、このような溶接線を含む近傍に、ピーニングを施し、その後、局所熱注入を施すことにより、構造部の熱変形をもたらすことなく、より高い耐環境割れ性のある原子炉構造物にすることができる。
【0049】
このような表面処理は原子炉構成材料に適用した例として、図6には明記されていないが、沸騰水型原子炉及び加圧水型原子炉の炉水に接する炉内構造物及び原子炉圧力容器及び原子炉一次系配管及び制御棒及び中性子計装管及び制御棒構成部品並びにその駆動装置構成部品等の炉水に接する100℃以上の領域に適用することにより、環境割れの進展速度の極めてゆるやかな特性を達成できるものである。
【0050】
〔実施例6〕
実施例5では構造物表面に塑性ひずみを付与する手段として、ピーニングを施工した例を示したが、構造物によっては、旋盤やフライス盤による切削や平面研削盤やグラインダーによる研削がある。これらの加工層は局所的であるが大きな残留応力を有しているとともに、塑性変形にともない塑性ひずみが存在していることが明らかになった。
【0051】
そこで、この塑性ひずみを有効に活用し、この加工層にアニーリング及び局所熱注入を施すことにより、再結晶化にともなう、結晶粒の微細化と本発明で示すところの粒界性格分布の制御すなわち、Σ値が29以下の低ΣCSL粒界頻度を65%以上に達成でき、かつ、結晶粒径が200μmを越えない組織を得ることができる。これにより、これらの表層部は低ΣCSL粒界頻度が65%以上を達成しており、実施例1のき裂進展抵抗評価試験結果からも推定できるように、耐環境割れ性が良好であると評価される。
【0052】
なお、本発明の実施時期は原子炉の構造物の製造時点にのみならず、一度、運転に入ってから、環境割れの予防保全対策として、実施することもできるものである。
【0053】
【発明の効果】
以上のように、本発明では、原子炉等構造物に使用される従来のステンレス鋼の化学成分のままで、ステンレス鋼に対して、材料に塑性ひずみを付与する工程とその後のアニーリング熱処理又は局所熱注入処理を組み合わせることにより、材料の結晶粒界性格分布の制御を行なうことにより、原子炉炉水環境下で生ずる環境割れを抑制できるものである。
【0054】
特に、100℃以上の材料表層部接水部は低ΣCSL粒界頻度が65%以上を達成することで、環境割れき裂進展抵抗の増大をもたらし、良好な耐環境割れ性が得られることとなった。環境き裂の進展速度が極めて小さい特性が得られるので、結果として、機器の寿命を伸長でき、原子炉の健全性に大きく寄与するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の処理を施した材料の電子線後方散乱解析(EBSP)による結晶粒界性格分布を示す顕微鏡写真。
【図2】き裂進展抵抗評価試験に用いた予き裂付きのラウンドコンパクトテンション試験片(RCT)の側面ス(a)と平面図(b)。
【図3】予き裂付きのラウンドコンパクトテンション試験片(RCT)を用いた沸騰水型原子炉の炉水水質模擬環境下におけるき裂進展抵抗評価試験結果を示すグラフ。
【図4】ピーニングにより材料に与える負荷塑性ひずみを導入する方法を示すフロー図。
【図5】ピーニングにより構造物表面に塑性ひずみを付与する方法を示すフロー図。
【図6】本発明を適用する沸騰水型原子炉の炉心シュラウドの構造を示す断面斜視図。
【図7】本発明を従来の溶接継ぎ手に適用した溶接継ぎ手の構造を説明する図。
【符号の説明】
1…結晶粒、2…結晶粒界、3…ラウンドCT試験片、4…従来技術の材料である高炭素C通常多結晶材のき裂進展特性を示す線図、5…本発明の実施例である高炭素C粒界制御材のき裂進展特性を示す線図、6…ステンレス鋼、7…ショットピーニングにより塑性変形した層、8…吸収剤SiO2を塗布した層、9…レーザー照射により粒界制御した表面処理層、10…低炭素系ステンレス鋼、11…塑性変形層、12…粒界制御表面処理層、13…炉心シュラウド、14…原子炉圧力容器、15…シュラウドサポートシリンダ、16…シュラウドサポートレグ、17…シュラウドサポートプレート、18…従来技術での溶接継手、19…本発明の実施例を示す溶接継手部。
Claims (12)
- クロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼を固溶化熱処理後、冷間状態で負荷塑性ひずみを2%から10%付与する冷間加工を行い、840℃から900℃未満の温度で、アニーリングし、結晶粒界の内、結晶粒間の相対方位関係において、結晶方位差角15°以上かつΣ値が29以下の低ΣCSL粒界の頻度を67%以上有し、かつ結晶粒径が200μmを越えないことを特徴とする原子炉構成材料。
- 前記クロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼に含まれるCが0.03%以下であることを特徴とする請求項1記載の原子炉構成材料。
- 前記クロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼がSUS316L、SUS304L及びSUS347Lのいずれかの低炭素系クロム含有鉄基オーステナイト系ステンレス鋼であり、前記アニーリングの保持時間が10s〜6.048×105sであることを特徴とする請求項2記載の原子炉構成材料。
- 前記冷間加工が、材料表面への旋盤もしくはフライス盤による切削、または平面研削盤もしくはグラインダーによる研削であり、少なくとも表層部深さ50μm以上の塑性変形層を形成したことを特徴とする請求項1記載の原子炉構成材料。
- 前記冷間加工が、材料表面への旋盤もしくはフライス盤による切削、または平面研削盤もしくはグラインダーによる研削であり、少なくとも表層部深さ200μm以上の塑性変形層を形成したことを特徴とする請求項1記載の原子炉構成材料。
- 前記冷間加工が材料表面へのピーニングであり、該ピーニングにより、少なくとも表層部50μm以上の塑性変形層を形成した後、840℃から900℃未満の温度で、前記アニーリングとして局所的熱注入したことを特徴とする請求項1記載の原子炉構成材料。
- 前記ピーニングはレーザーピーニング、ウオータジェットピーニング、ショットピーニング及びサンドブラストのいずれかであることを特徴とする請求項6記載の原子炉構成材料。
- 前記局所的熱注入として、レーザー照射加熱、誘導加熱及びアーク加熱のいずれかを行ったことを特徴とする請求項6記載の原子炉構成材料。
- 前記冷間加工が、材料表面への旋盤もしくはフライス盤による切削、または平面研削盤もしくはグラインダーによる研削であり、少なくとも表層部深さ50μm以上の塑性変形層を形成した後、840℃から900℃未満の温度で、前記アニーリングである局所的熱注入としてレーザー照射加熱を行ったことを特徴とする請求項1記載の原子炉構成材料。
- 前記局所的熱注入として、前記レーザー照射加熱の代わりに、誘導加熱またはアーク加熱を行ったことを特徴とする請求項9記載の原子炉構成材料。
- 請求項8記載の原子炉構成材料を、沸騰水型原子炉又は加圧水型原子炉の炉水に接する炉内構造物、原子炉圧力容器、原子炉一次系配管、制御棒、中性子計装管、制御棒及びその駆動装置等の炉水に接する100℃以上の領域の一部又は全部の材料として用いたことを特徴とする原子炉。
- 請求項10記載の原子炉構成材料を、沸騰水型原子炉又は加圧水型原子炉の炉水に接する炉内構造物、原子炉圧力容器、原子炉一次系配管、制御棒、中性子計装管、制御棒及びその駆動装置等の炉水に接する100℃以上の領域の一部又は全部の材料として用いたことを特徴とする原子炉。
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