JP4174221B2 - 耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼およびその製造方法 - Google Patents
耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、構造物・輸送機器など機械構造用途に用いられる高強度鋼およびその製造方法に関するものであって、特に1200N/mm2以上の引張強度を有し、且つ耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼に関するものである。尚、本発明でいう高強度鋼とは、製品加工前の鋼材はもちろん、ボルトなど鋼加工品をも含むものである。
【0002】
【従来の技術】
高強度鋼の最大の解決課題は耐遅れ破壊性を向上させることにある。例えばボルト用鋼の場合、1200N/mm2以上の強度では、ボルト首部が使用中に脆性的に破断する現象として恐れられている、時間依存型の「遅れ破壊」が生じやすくなることが知られている。
【0003】
そこで従来より、成分組織の改良により耐遅れ破壊性を改善した高強度鋼材及びその加工品が種々提案されてきている。例えば、(1)特開平7−70695号公報、特開平8−60291号公報及び特開平7−112236号公報等で提案されているように、MoやV、Nb、Ni、Cu等の元素の含有量を制御する方法、(2)特開平11−229075号公報、特開2000−26934号公報及び特開平11−270531号公報等で提案されているように、熱処理等の規定により鋼組織を制御することによって耐遅れ破壊性を改善する方法、が提案されている。しかし、これら提案の方法であっても十分に耐遅れ破壊性が改善されたとはならず、新たな改善策が研究されているのが実状である。
【0004】
一方、特に最近、遅れ破壊を引き起こすとされている室温で鋼中を動き回る水素(拡散性水素)を捕捉して、特定部分への水素の濃化を防ぐ方法が注目されている。このような方法に関連する提案として、例えば、上記特開2000−26934号公報に提案の方法が挙げられる。すなわち、同公報では、Si、Mn、Ti、Al、V等の元素の含有量を制御し、微細な酸化物、炭化物、窒化物を鋼中に分散させる手法が提案されている。また、一般的には、拡散性水素を捕捉することにより、水素が無害化するとされているため、それらSi、Mn、Ti、Al、V等の元素を大量に添加することが良いとされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らの研究によれば、使用用途によっては、拡散性水素を捕捉しても無害化できない炭窒化物の種類があることがわかってきた。例えばVやMoはその炭窒化物が多くの水素を捕捉するばかりか、焼入れ性などの特性をも高めることができ有用であるが、通常、自動車のエンジン部品などでかかるような熱負荷や動的応力負荷をかけると、捕捉した拡散性水素が開放されて遅れ破壊を促進する恐れがあることを見出した。従って、上述した拡散性水素を捕捉する従来知見された技術では、熱負荷や動的応力負荷が存在しない一部の用途でしか耐遅れ破壊性を改善できないことが懸念される。
【0006】
本発明は、上記の実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、熱負荷や動的応力負荷が存在する用途であっても耐遅れ破壊性を発揮し得る、耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記従来技術の課題を解決するために、鋼中拡散性水素の調査に非常に有用である水素放出曲線に着目して鋭意研究を重ねた。その結果、得られたことは以下の通りである。
【0008】
鋼材中の水素量は、酸浸漬や陰極チャージなどの水素チャージ前後の試料を12℃/minの速度で加熱した際に得られた水素放出曲線の面積分値の差によって求めることができる。また、水素を捕捉するもの(トラップサイト)は、水素放出曲線のピーク温度・ピーク高さから判定でき、あるトラップサイトにトラップされた水素量はピークの面積分値によって求めることができる。従来から言われている「拡散性水素」は転位や粒界によりトラップされていると考えられている水素であり、水素放出曲線において、最初に認められる第1ピーク曲線として測定できる。従来より、この拡散性水素が遅れ破壊を増長するとされている。また、鋼への種々の添加成分により、それらの析出化合物(炭窒化物など)にトラップされた水素を示す、より高いピーク温度・ピーク高さの曲線が得られる(以下炭窒化物トラップ水素と言う)。従来、この炭窒化物トラップ水素は、遅れ破壊に寄与しないとされている。
【0009】
VやMoの炭窒化物を含む鋼は水素をチャージすると、拡散性水素ピーク温度よりも少し高い温度位置に非常に多くの炭窒化物トラップ水素量が放出されることが確認できる。すなわち、非常に多くの水素量をトラップでき、応力集中部への水素の拡散濃化を防ぐことができるため、無添加鋼と比較して常温定荷重で行う遅れ破壊試験結果が良くなる。
【0010】
しかしながら、本発明者等は、VやMoの炭窒化物を含有する鋼試料に陰極チャージにより水素チャージ後、拡散性水素が逃げないように皮膜を施して放置を行った後、さらに通常、自動車のエンジン部品などでかかる熱負荷や動的応力負荷をかけることにより、拡散性水素ピーク量が増加し、炭窒化物トラップ水素量が減少するという現象が見られ、遅れ破壊試験結果も悪くなるということを見出した。すなわち、VやMo炭窒化物のトラップ作用は弱く、熱負荷や動的応力負荷がかかる環境では、VやMoの炭窒化物にトラップされた水素は開放され、遅れ破壊を増長すると推察される。
【0011】
逆に、TiやZr、Hfの炭窒化物を含む鋼は水素をチャージすると、拡散性水素ピーク温度よりもかなり高い温度位置にある程度の炭窒化物トラップ水素量が放出されることが確認できる。これらの鋼試料に陰極チャージにより水素チャージ後、拡散性水素が逃げないように皮膜を施して放置を行った後、同様に、自動車のエンジン部品などでかかる熱負荷や動的応力負荷をかけると、拡散性水素ピーク量が減少し、炭窒化物トラップ水素量が増加するというVやMoとは異なる現象が見られ、遅れ破壊試験結果も良くなるということを見出した。すなわち、TiやZr、Hfの炭窒化物のトラップ作用は強く、熱負荷や動的応力負荷がかかる環境でも、TiやZr、Hfの炭窒化物にトラップされた水素は開放されず、逆に、粒界や転位から開放された拡散性水素を再トラップするため、遅れ破壊を抑制すると推察される。
【0012】
しかしながら、TiやZr、Hfのようにトラップ作用が強い炭窒化物を析出させる成分は鋼に大量に含有できないため、多く炭窒化物を析出させることが困難であり、多くの水素量をトラップすることはできない。
【0013】
種々の鋼種での同様の検討により、熱負荷や動的応力負荷がかかった場合に耐遅れ破壊性に悪影響を与える可能性があるのは、トラップ作用が弱い100℃以上250℃未満の温度域で放出される水素であり、トラップ作用が強い250℃以上の温度域で放出される水素は悪影響を与えないことがわかった。そして、それぞれの領域の水素量がある範囲にある鋼は、非常に多くの水素量をトラップでき、応力集中部への水素の拡散濃化を防ぐことができ、かつ熱負荷や動的応力負荷がかかっても耐遅れ破壊性が高いことを実験的に見出した。すなわち、水素のトラップ量は多いがトラップ作用が弱い析出物と、水素のトラップ量は少ないがトラップ作用が強い析出物の含有量比の最適値があり、しかもそれら析出物の分布状態を制御する必要があることがわかった。
【0014】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の要旨は以下の通りである。
請求項1に記載の発明は、引張強度が1200N/mm2以上の高強度鋼であって、C:0.30〜0.50%(質量%、以降同じ)、N:0.004〜0.01%、O:0.0010〜0.005%、S:0.003〜0.015%、Mo:0.2〜1.1%、Al:0.05%以下(0%を含む)、Si:0.2%以下(0%を含む)、Mn:0.7%以下(0%を含む)を含有し、さらに、Ti、Zr、Hf、Nbから選ばれる元素の1種以上を合計で0.01〜0.50%、Vを0.05%以上含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、且つ、各含有量がV×0.15≦(Ti+Zr+Hf+Nb)の関係を満たし、V、Moから選ばれる元素の1種以上を含有する化合物(イ)と、Ti、Zr、Hf、Nbから選ばれる元素の1種以上を含有する化合物(ロ)が、いずれも平均粒径が50nm以下であって、しかも鋼中に化合物(イ)が10個/(500nm)2以上、化合物(ロ)が5個/(500nm)2以上存在し、かつ、化合物(イ)から最も近い化合物(ロ)までの距離の平均が100nm以下であることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼である。
請求項2に記載の発明は、引張強度が1200N/mm2以上の高強度鋼であって、C:0.30〜0.50%、N:0.004〜0.01%、O:0.0010〜0.005%、S:0.003〜0.015%、Mo:0.2〜1.1%、Al:0.05%以下(0%を含む)、Si:0.2%以下(0%を含む)、Mn:0.7%以下(0%を含む)を含有し、更に、Ti、Zr、Hf、Nbから選ばれる元素の1種以上を合計で0.1〜0.3%、Vを0.1%以上含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、且つ、各含有量がV×0.75≦(Ti+Zr+Hf+Nb)の関係を満たし、V、Moから選ばれる元素の1種以上を含有する化合物(イ)と、Ti、Zr、Hf、Nbから選ばれる元素の1種以上を含有する化合物(ロ)が、いずれも平均粒径が50nm以下であって、しかも鋼中に化合物(イ)が10個/(500nm)2以上、化合物(ロ)が5個/(500nm)2以上存在し、かつ、化合物(イ)から最も近い化合物(ロ)までの距離の平均が100nm以下であることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼である。
請求項3に記載の発明は、更に、W:0.20%以下、B:0.003%以下よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1または2に記載の耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼である。
請求項4に記載の発明は、更に、Cr:1.5%以下、Ni:2.00%以下、Cu:1.00%以下よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1乃至3のいずれかに記載の耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼である。
請求項5に記載の発明は、更に、Mg:0.01%以下、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下から選択される1種以上を含有するものである請求項1乃至4のいずれかに記載の耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼である。
請求項6に記載に発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼を製造するに際して、鋳造時の凝固過程において10℃/min以上の速さで冷却し、凝固後850〜1000℃で焼き入れることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼の製造方法である。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の構成並びに作用について更に詳細に説明する。
(1)本発明は、引張強度が1200N/mm2以上の高強度鋼であって、pH3.0以下の酸性溶液中に24時間浸漬した直径10mm×厚み3mmの鋼材を、真空中または不活性ガス中で常温から12℃/minの昇温速度で加熱した場合に、100℃以上250℃未満の温度域で放出される水素量をAppm、250℃以上750℃以下の温度域で放出される水素量をBppmとしたとき、これら水素量A、Bの値が0.01≦B/Aかつ0.1≦Aを満たすことを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼である。
【0016】
pH3.0以下の酸性溶液中に24時間以上浸漬するような実環境よりも厳しい腐食環境下での試験では、大量の水素を鋼中に強制的に侵入させることができる。この試験後の鋼中にAが0.1ppm未満であるということは、多くの水素をトラップすることができないことを示すから、耐遅れ破壊性に劣る鋼といえる。従って、0.1≦Aとするが、望ましくは0.5≦Aがよく、0.5≦Aであれば、多くの水素をトラップすることができ、耐遅れ破壊性に優れる。
【0017】
しかしながら、B/A<0.01である場合、熱負荷や動的応力負荷がかかる環境では、開放される水素量が多いにもかかわらず、水素トラップ作用が強いトラップサイトが少ないため開放される水素を再トラップしきれないため、遅れ破壊を抑制できない。従って、0.01≦B/Aとするが、望ましくは0.1≦B/Aがよく、0.1≦B/Aであれば、水素トラップ作用が強いトラップサイトが多く、熱負荷や動的応力負荷により水素トラップ作用が弱いトラップサイトから水素が開放されても十分に再トラップすることができるため、遅れ破壊を抑制できる。
【0018】
すなわち、0.01≦B/Aかつ0.1≦A、望ましくは0.1≦B/Aかつ0.5≦Aである場合、環境によらず侵入水素をトラップすることができ、耐遅れ破壊性に優れる。
【0019】
なお、本発明においては水素量を、昇温速度12℃/minで連続加熱し、発生水素量を大気圧イオン化質量分析計(API−MS)や真空質量分析計(TDS)により測定するのが望ましい。API−MSの場合、測定温度範囲を20〜800℃、昇温速度を12℃/min、キャリアガス(Ar)流量を800ml/minで測定する。また、真空昇温分析の場合は、昇温速度を12℃/min、真空度を10-6torr以下、試料調整終了から測定開始までの時間を20分以下で測定する。装置の性能限界により750℃より上の水素は測定できなかったが、700℃以上ではほとんど水素が検出されなかったため、実際の測定では750℃までの測定で十分であると考えられる。
【0020】
大気圧イオン化質量分析計による測定方法は、例えば岩田らによりR&D/神戸製鋼技報[Vol.47、No.1、pp24〜27(1997)]に記載されている要領にて測定することができる。また、酸性溶液浸漬により、錆が付着した場合、錆を化学的または機械的に除去後、測定するものとする。除去方法は規定しないが、除去方法によって水素が侵入すること無く、水素の放出が無視できるほど速やかに除去する方法が望ましく、例えば陽極電解研磨や機械的研磨が推奨される。
【0021】
ちなみに、12℃/minの速度で加熱した際に、100℃以上250℃未満の温度域で放出される水素は、水素トラップエネルギーが20〜40kJ/molであるトラップサイトにトラップされており、250℃以上の温度域で放出される水素は、水素トラップエネルギーが40kJ/mol以上であるトラップサイトにトラップされていることとなる。水素トラップエネルギーEは、特開2000−26934号公報に記載の手法で求められる。すなわち、次式[ln(φ/T2)=−(E/R)/T+ln(AR/E)]より、複数の昇温速度で水素分析を行い、その際の水素放出ピーク温度を測定し、ln(φ/T2)と−1/Tの関係を示す直線の傾きを求めることによって、水素トラップエネルギーEを求めた。ただし、φは加熱速度、Aは水素のトラップ脱離の反応定数、Rは気体定数、Tは水素放出曲線のピーク温度である。
【0022】
(2)また本発明では上記酸浸漬後に、さらに100℃で1時間放置した後に、常温より12℃/minの速度で加熱した際に、250℃以上750℃以下の温度域で放出される水素量をCppmとしたとき、(C−B)/Bが0.01以上、望ましくは0.1以上、さらに望ましくは0.5以上である鋼であることが必要である。
【0023】
カーエンジン周辺機器にかかる温度を模擬して、100℃の熱負荷を行うとトラップ作用が弱いトラップサイトから開放され、鋼中を自由に動く拡散性水素となり、一部は鋼の外に出て、一部はトラップ作用が強いトラップサイトに再度トラップされ、残りは応力集中部に濃化する危険性がある。250℃以上750℃以下の温度域で放出される水素量が上記(1)のものと比較して、(C−B)/Bが0.01未満の増加の場合は、トラップ作用が強いトラップサイトへの再トラップ効果が低く、熱負荷や動的応力負荷がかかる環境で遅れ破壊を増長する。(C−B)/Bが0.1以上、望ましくは0.5以上トラップ水素が増加する鋼は、再トラップ効果が高く、熱負荷や動的応力負荷がかかる環境でも遅れ破壊を抑制する。
【0024】
また、本発明においては耐遅れ破壊性の試験方法を特に規定するものではなく、通常行われる定歪み試験、定荷重試験などが可能である。水素を侵入させる方法としては本発明記載の酸浸漬や陰極チャージ、CCT試験などにより行うことができる。放置や熱負荷を行う際に、水素を放出させたくない場合は、Cd、Zn等のめっきにより水素を逃がさないようにしてから行うと良い。また、動的応力負荷を行う場合は、2μm/min以下のクロスヘッドスピードでSSRT試験(Slow Strain Rate Technique 低歪み速度試験)を行い、水素を侵入させた試料と水素を侵入させない試料との破断応力や歪み量の比で比較するのが望ましい。
【0025】
(3)本発明においては、以上の効果を得る鋼として、平均粒径が50nm以下の大きさのV、Moのうち1種以上を主成分とした化合物の単独あるいは複合化合物(イ)が鋼中に10個/(500nm)2以上、望ましくは20個/(500nm)2以上存在し、かつ平均粒径が50nm以下の大きさのTi、Zr、Hf、Nbのうち1種以上を主成分とした化合物の単独あるいは複合化合物(ロ)が鋼中に5個/(500nm)2以上、望ましくは10個/(500nm)2以上、更に望ましくは20個/(500nm)2以上存在し、かつ化合物(イ)から最も近い化合物(ロ)までの距離の平均が100nm以下、望ましくは50nm以下、より望ましくは20nm以下であることが望ましい。
【0026】
化合物(イ)としては、V、Moから選択される1種以上を含有する酸化物、窒化物、炭化物、ほう化物、炭窒化物、酸炭化物、酸窒化物等の化合物、或いは複合化合物が挙げられる。また、化合物(ロ)としては、Ti、Zr、Hf、Nbから選択される1種以上を含有する酸化物、窒化物、炭化物、ほう化物、炭窒化物、酸炭化物、酸窒化物等の化合物、或いは複合化合物が挙げられる。
【0027】
V、Moの化合物、Ti、Zr、Hf、Nbの化合物はいずれの大きさでも水素のトラップ効果を有しているが、平均粒径が50nmより大きいものはトラップ作用が弱く、熱負荷や動的応力負荷がかかる環境で水素を開放し、遅れ破壊を増長する。また、靱性が低下することにより、機械的特性に劣る。またV、Mo化合物(イ)が鋼中に10個/(500nm)2未満の場合、V、Mo化合物の有する、トラップ作用は弱いけれども大量にトラップできるという効果が小さく、Ti、Zr、Hf、Nb化合物(ロ)が鋼中に5個/(500nm)2未満の場合は、Ti、Zr、Hf、Nb化合物の有する、強いトラップ作用効果が小さいため、熱負荷や動的歪み環境での耐遅れ破壊性に劣る。また、熱負荷や動的歪み環境でのTi、Zr、Hf、Nb化合物の再トラップ効果を十分に発揮させるには、V化合物(イ)から最も近いTi、Zr、Hf、Nb化合物(ロ)までの距離が近い方が望ましく、その平均が100nmを越えると再トラップ効果が小さいため耐遅れ破壊性に劣る。従って、化合物(イ)と化合物(ロ)の距離は100nm以下の距離、望ましくは50nm以下、より望ましくは20nm以下の距離である方がよい。
【0028】
(4)本発明においては、Ti、Zr、Hf、Nbのうち1種以上を合計質量%で0.05〜1.00%、望ましくは0.10〜0.30%を含有し、さらにVの含有量が0.05%以上、望ましくは0.10%以上で、その相関が、V×0.15≦(Ti+Zr+Hf+Nb)、望ましくはV×0.75≦(Ti+Zr+Hf+Nb)を満足することが望ましい。
【0029】
Ti、Zr、Hf、Nbのうち1種以上が合計質量%で0.05%未満では、熱負荷や動的歪み環境でのTi、Zr、Hf、Nb化合物の再トラップ効果が小さい。また1.00%を越えると、鋼の靱性が低下するために、0.05〜1.00%、望ましくは0.10〜0.30%であることが望ましい。また、Vの含有量との相関からは、以下のことがいえる。すなわち、Vの含有量の0.15倍未満の場合、熱負荷や動的歪み環境で、V化合物から開放され、拡散性となった水素を、再トラップするのにTi、Zr、Hf、Nb化合物量が不十分であるため、遅れ破壊が増長される。従って、V×0.15≦(Ti+Zr+Hf+Nb)、望ましくはV×0.75≦(Ti+Zr+Hf+Nb)を満足することが望ましい。さらに、Vの含有量は少なすぎるとV化合物の有する、大量にトラップできるという効果が小さくなるため、0.05%以上、望ましくは0.10%以上含有させることが必要である。
【0030】
(5)Moの含有量が、0.2%未満の場合、トラップ量が少なくなるだけでなく、焼入れ性が悪くなって機械的強度が得られにくくなったり、粒界の靱性低下を引き起こす。逆に1.1%を越えると、鋼の靱性向上への効果が飽和し、コストの上昇を招くため、0.2〜1.1%を満足することが望ましい。
【0031】
(6)さらに質量%で、C:0.30〜0.50%、N:0.004〜0.01%、O:0.0010〜0.005%、S:0.003〜0.015%を含有することが望ましい。
【0032】
これらの元素は鋼中に化合物を析出させるのに必要な元素であり、炭化物、窒化物、酸化物、硫化物及びそれらの複合化合物を生成させる。そのため、本発明では、通常の方法よりも狭い範囲にて制御する必要がある。
【0033】
Cは、鋼の焼入れ性を高め、高強度を確保するのに必須の元素であるが、本発明では炭化物を形成するために0.30%以上含有する必要があり、望ましくは0.35%以上が良い。しかしながら多過ぎると、靭性が劣化して耐遅れ破壊性が悪くなるばかりでなく冷間加工性も悪くなるので、0.50%以下に押さえなければならず、より好ましくは0.45%以下に抑えるのがよい。
【0034】
Nは、窒化物を形成し、析出物を微細分散させることにより、トラップ作用を強化し、遅れ破壊を抑制するため、0.004%以上、好ましくは0.005%以上含有するのが良い。しかしながら、0.010%を越えると固溶N量が増加し、遅れ破壊を増長する。したがって、0.010%以下、好ましくは0.007%以下、より好ましくは0.006%以下含有するのがよい。
【0035】
Oは酸化物を形成し、析出物を微細分散させることにより、トラップ作用を強化し、遅れ破壊を抑制するため、0.001%以上含有するのが望ましい。しかしながら、0.005%を越えると粗大な酸化物が析出し、逆にトラップ作用が弱くなり、熱負荷や動的歪み環境で遅れ破壊を増長する。したがって、O成分量は通常よりも狭い範囲での制御が必要であり、0.005%以下、好ましくは0.003%以下、更に好ましくは0.002%以下含有するのがよい。
【0036】
Sは硫化物を形成し、析出物を微細分散させることにより、トラップ作用を強化し、遅れ破壊を抑制するため、0.003%以上含有するのが望ましい。好ましくは、0.004%以上含有するのが良い。しかしながら、0.015%を越えると逆にトラップ作用が弱い粗大なMnSなどが析出し、遅れ破壊を増長する。したがって、S成分量は通常よりも狭い範囲での制御が必要であり、0.015%以下、好ましくは0.010%以下、更に好ましくは0.005%以下含有するのがよい。
【0037】
(7)また、本発明の高強度鋼としては質量%で、Al:0.05%以下、W:0.20%以下、B:0.003%以下よりなる群から選択される1種以上を含有するものが望ましい。
【0038】
Al、W、Bは、大量に添加すると巨大な炭窒化物を生じ、靱性を低下するばかりか、遅れ破壊を増長するため、注意が必要である。さらに好ましい上限含有量は、Al:0.045%以下、W:0.15%以下、B:0.0025%以下であり、より好ましくは、Al:0.04%以下、W:0.1%以下、B:0.002%以下である。一方、好ましい下限含有量は、Al:0.01%以上、W:0.01%以上、B:0.0005%以上であり、より好ましくは、Al:0.02%以上、W:0.02%以上、B:0.001%以上である。
【0039】
(8)また、本発明の高強度鋼としては質量%で、Cr:1.5%以下、Ni:2.00%以下、Cu:1.00%以下よりなる群から選択される1種以上を含有するものが望ましい。
【0040】
Cr:1.5%以下、Ni:2.00%以下、Cu:1.00%以下の含有では耐食性向上に寄与するが、Crは1.5%を超えて多く含有すると、腐食先端のpHを下げ、耐食性が劣化する。また、NiとCuはそれぞれ2.00%、1.00%を超えて多く含有しても、効果が飽和し、コストアップとなるだけである。従って、望ましい範囲はCr:1.05%以下、Ni:1.50%以下、Cu:0.80%以下、さらに望ましい範囲はCr:0.55%以下、Ni:1.00%以下、Cu:0.60%以下である。
【0041】
(9)また、本発明の高強度鋼としては質量%で、Mg:0.01%以下、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下よりなる群から選択される1種以上を含有するものが望ましい。
【0042】
Mg:0.01%以下、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下を含有すると鋼の清浄性がアップし、O、S、Pなどを下げることができる。また腐食先端pHを上げるため耐食性が向上する。
【0043】
なお、本発明の高強度鋼としては、残部は実質的にFeであるが、本発明の作用効果を阻害しない範囲の更なる成分、例えばSi、Mnなどの添加や不可避不純物の混入は許容される。
【0044】
(10)また更に、本発明の高強度鋼は熱負荷や動的応力負荷が繰り返しかかり、耐遅れ破壊性が問題とされる機械構造用途、すなわち、カーエンジン周辺機器のような用途に用いられる部品への適用に適する。
【0045】
また、本発明では製造条件を規定するものではないが、例えば上述した成分範囲の制御に加え、下記のように調整して製造することで、本発明で規定した優れた耐遅れ破壊性を有する高強度鋼が得られる。
【0046】
<鋼材を製造する際の凝固過程における冷却速度>
凝固過程(1500℃から1300℃への冷却中)において10℃/分以上の速さで冷却することにより、粗大な化合物の析出が抑制され、微細な化合物が多く析出する。なお、前記冷却速度は、好ましくは20℃/分以上、より好ましくは30℃/分以上である。
【0047】
<焼入れ条件>
850〜1000℃の条件にて焼入れることによって、オーステナイト化させるだけでなくV、Mo化合物の大部分、Ti、Zr、Hf、Nb化合物の一部を再固溶させる。この条件での焼入れ後焼戻しを行うことにより、完全に固溶しなかったTi、Zr、Hf、Nb化合物を核として、V、Moを再析出させ、V、Mo化合物をTi、Zr、Hf、Nb化合物の極近傍またはV、MoとTi、Zr、Hf、Nbとの複合析出物として析出させることができる。1000℃を越えて焼入れすると、オーステナイト結晶粒が粗大化し、靱性、延性が低下するのみならず、Ti、Zr、Hf、Nb化合物の大部分が固溶するため、焼戻し時にV、Mo化合物とTi、Zr、Hf、Nb化合物とが別々に析出し距離が長くなる。また、850℃未満であるとオーステナイト化が不十分である。900〜950℃で焼入れるのが、より好ましい。
【0048】
<焼戻し条件>
VやMoの析出硬化を利用して所望の強度を有することができる温度にて焼戻しを行うと良い。
【0049】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0050】
表1及び表2に示す化学成分(質量%)を含有し、さらに0.2%Si、0.7%Mnを含有する供試鋼を150kg真空溶解炉にて溶製し、150kgのインゴットに鋳造し冷却した。その後25mmφに鍛造し、1200℃×30分の溶体化処理を施した後、焼ならし処理し、引張強度が1400〜1500N/mm2になる様に焼入れ・焼戻し処理した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
上記で得られた鋼材について、化合物の数を測定すると共に、遅れ破壊性試験片(図1)、水素放出試験片(直径10mm×厚さ3mm)を作製した。その後遅れ破壊試験及び水素放出試験を実施した。
【0054】
化合物の数の測定は以下のように実施した。
抽出レプリカ法により抽出した化合物を、透過型電子顕微鏡(TEM)にて、加速電圧200kV、15万倍の写真撮影をした。写真撮影は1サンプルに付き、任意の5箇所とし、各々の500nm四方の視野中で観察される50nm以下の微細な化合物を数え、5箇所の平均を算出した。EDX及びGIFマッピングによって各化合物の組成分析を実施し、1写真に付き、無作為のV、Mo化合物5個につき、最も近いTi、Zr、Hf、Nb化合物までの距離を測定した。この際、(V、Mo)群と(Ti、Zr、Hf、Nb)群との複合化合物となっている場合は、距離0とした。5写真での計25個のV、Mo化合物に付き調査し平均距離を算出した。
【0055】
遅れ破壊試験は以下のように実施した。
図1に示す試験片をアセトン超音波脱脂後、SSRT試験装置に設置し、30℃、大気中で、クロスヘッド速度2×10-3mm/minでSSRT試験を行い、大気中での試験片の伸びE0を得た。また、同形状の試験片をアセトン超音波脱脂後、0.5mol/lH2SO4+0.01mol/lKSCNの液中で1A/dm2で60分陰極チャージをした。その後水素逃散防止の目的で亜鉛めっきを施した。亜鉛めっきは、硫酸亜鉛7水和物、硫酸ナトリウム、硫酸に錯化剤を添加した浴にて、50A/dm2の電流を3分流すことによって得た。その後、200時間常温にて保管して鋼中水素濃度を平衡化した後、クロスヘッド速度2×10-3mm/minでSSRT試験を行い、チャージ後の試験片の伸びE1を得た。また、同様に鋼中水素濃度を平衡化した後、100℃×1時間の熱処理を行い、その後クロスヘッド速度2×10-3mm/minでSSRT試験を行い、熱負荷後の試験片の伸びE2を得た。遅れ破壊評価指標として、DF1=100×(1−E1/E2)により得られる遅れ破壊感受性、DF2=100×(1−E2/E0)により得られる熱負荷がかかった時の遅れ破壊感受性を算出した。
【0056】
また、水素放出試験は、以下の2種類の方法で実施した。
水素放出試験(1)として、水素放出試験片(直径10mm×厚さ3mm)を、pH3に調整した30℃の5%NaCl水溶液中にそれぞれ24時間浸漬した後、錆を機械的研磨により除去して、測定に供した。なお、測定装置には、日立東京エレクトロニクス(株)製超高感度ガス分析装置UG240APNに、資料の昇温機構として真空理工(株)製E410−7101型赤外線イメージ炉を組み付けたAPI−MSを用いた。測定にはキャリアーガスとしてArガスを使用し、次の条件[測定温度範囲:20〜800℃、昇温速度:12℃/min、キャリアガス(Ar)流量:800ml/min]にて測定し、図2で示す水素放出曲線を得た。また、測定は3回ずつ測定し、100℃以上250℃未満の温度域で放出される水素量をAppmとし、かつ250℃以上750℃以下の温度域で放出される水素量をBppmとして、B/A、Aの最低値を評価値とした。
【0057】
また水素放出試験(2)として、水素放出試験片(直径10mm×厚さ3mm)を、pH3に調整した30℃の5%NaCl水溶液中にそれぞれ24時間浸漬した後、さらに100℃で1時間放置した後に、錆を機械的研磨により除去して、上述した手法によりAPI−MSを用いて測定した。測定は3回ずつ測定し、250℃以上750℃以下の温度域で放出される水素量をCppmとして、(C−B)/Bの最低値を評価値とした。
【0058】
上述した試験結果を表3乃至4に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
この表3は、製造方法とV、Mo化合物、Ti、Zr、Hf、Nb化合物の大きさ、量、両化合物間の距離、水素放出試験結果[A、B/A、(C−B)/Bの値]及び遅れ破壊評価結果(DF1、DF2の値)を整理した表である。
【0061】
この表3から明らかなように、比較例1は、凝固速度が3℃/分と遅いためV、Mo化合物、Ti、Zr、Hf、Nb化合物の何れの化合物も粗大化し個数が少ない(請求項1及び2の化合物平均粒径、化合物個数を満たさない)。またそのため水素トラップ量が全体に少なく[上記(1)のA及び上記(2)の(C−B)/Bを満たさない]、遅れ破壊評価が最も悪い。比較例2は、焼き入れ温度が800℃と低すぎるため所望の強度が得られない(請求項1及び2の引張強度1200N/mm2以上を満たさない)。比較例3は、凝固速度が8℃/分と比較例1と同様に遅い。ただし比較例1の凝固速度よりは速いためV、Mo化合物が小さくなり、そのため水素をトラップでき、上記(1)の0.1≦Aの要件を満たしたが、依然としてTi系化合物が大きく数も少ないため上記(1)のB/Aの要件を満たさず、遅れ破壊評価も悪い。比較例4は、焼き入れ温度が1150℃と高いため両化合物間距離が長い(請求項1及び2の両化合物間距離100nm以下を満たさない)。そのため上記(1)のB/A、上記(2)の(C−B)/Bの値がいずれも小さい。また遅れ破壊評価はどちらも悪いが特にDF2が悪い。
【0062】
上記比較例に対して実施例5は、焼入れ温度が1100℃と比較例4と同様に高い。ただし比較例4の焼き入れ温度よりは低いため、上記(1)の要件は満たされた。しかし上記(2)の(C−B)/Bの値が小さいため、遅れ破壊評価DF1は良いが、DF2が悪い。実施例6は、焼入れ温度が1050℃と実施例5の焼き入れ温度よりは50℃低く、推奨範囲よりは50℃高かったため、請求項1及び2の両化合物間距離は比較的大きい方で、上記(1)のA、B/Aの各値は低い方でそれぞれ満たし、また上記(2)の(C−B)/Bの値も満たしていた。遅れ破壊評価もどちらも良い。実施例7〜10は、凝固速度、焼き入れ温度とも推奨範囲のもので、遅れ破壊評価はいずれも優れていた。
【0063】
表3に示す比較例、実施例より明らかなことは、鋼成分が本発明限定範囲内であっても、製造方法によって化合物の大きさ、距離が異なり、水素放出試験、遅れ破壊試験結果が異なることである。すなわち、製造方法を、例えば上述した製造条件の如く、化合物の大きさ、距離を本発明限定範囲内になるように適正化すると、A、B/A、(C−B)/Bの各値がともに大きくなり、DF1、DF2の各値をともに低下させることができる。
【0064】
【表4】
【0065】
この表4は、製造方法を適正化した各鋼種のV、Mo化合物、Ti、Zr、Hf、Nb化合物の大きさ、量、両化合物間の距離、水素放出試験結果[A、B/A、(C−B)/Bの値]及び遅れ破壊評価結果(DF1、DF2の値)を整理した表である。
【0066】
表4から明らかなように、比較例11は、表1の供試材Aを用いたもので、供試材AはTi量が0.007%と少ないため、Ti化合物量が少なく、化合物間距離が大きい(請求項1及び2を満たさない)。その結果、B/Aが小さく(上記(1)を満たさない)、(C−B)/Bが小さい(上記(2)を満たさない)。遅れ破壊評価はどちらも良くないが特にDF2が悪い。
【0067】
比較例12は、表1の供試材Cを用いたもので、供試材CはV量が0.04%と少ないため、V化合物量が少ない(請求項1及び2を満たさない)。その結果、Aが0.1未満(上記(1)を満たさない)で遅れ破壊評価はどちらも良くないが特にDF1が悪い。
【0068】
比較例13は、表1の供試材Dを用いたもので、供試材DはTi系量がV量×0.15未満である(請求項1及び2を満たさない)ため、V化合物量に対して、Ti化合物量が少ない。その結果、化合物間距離が大きく(請求項1及び2を満たさない)、B/Aが小さく(上記(1)を満たさない)、(C−B)/Bが小さい(上記(2)を満たさない)。遅れ破壊評価はDF1は良いがDF2が悪い。
【0069】
比較例14は、表1の供試材Eを用いたもので、供試材EはV量が0.75%と多くTi系量がV量×0.15未満である(請求項1及び2を満たさない)ため、V化合物量が非常に多いのに対して、Ti化合物量が少ない。その結果、上記比較例13と同様に、化合物間距離が大きく(請求項1及び2を満たさない)、B/Aが小さく(上記(1)を満たさない)、(C−B)/Bが小さい(上記(2)を満たさない)。遅れ破壊評価はDF1は大変優れるがDF2が悪い。
【0070】
比較例15は、表1の供試材Gを用いたもので、供試材Gは請求項1のTi系量がV量×0.15以上を満たす。しかし、Mo量が少ない(請求項1を満たさない)。そのためV系化合物量が少ない(請求項1及び2を満たさない)。その結果、Aが0.1未満(上記(1)を満たさない)で遅れ破壊評価はどちらも良くない。
【0071】
比較例16は、表1の供試材Iを用いたもので、O量が0.0077%と多い(請求項1及び2を満たさない)。そのため化合物が粗大化し面積当たりの数が減少し、V系化合物量が少なくTi系化合物平均粒径が大きい(請求項1及び2を満たさない)。そのため、Aが0.1未満(上記(1)を満たさない)でB/A、(C−B)/Bの各値も小さい値で満たしている。その結果遅れ破壊評価はどちらも良くない。
【0072】
比較例17は、表1の供試材Jを用いたもので、N量が0.0125%と多い(請求項1及び2を満たさない)。そのため化合物が粗大化し面積当たりの数が減少し、V系、Ti系化合物量が共に少なくTi系化合物平均粒径が大きく化合物間距離も大きい(請求項1及び2を満たさない)。そのため、Aが0.1未満(上記(1)を満たさない)でB/Aが小さく(上記(1)を満たさない)、(C−B)/Bが小さい(上記(2)を満たさない)。その結果遅れ破壊評価はどちらも悪い。
【0073】
比較例18は、表1の供試材Lを用いたもので、C量が少ない(請求項1及び2を満たさない)ため、所望の強度が得られない(請求項1及び2の引張強度1200N/mm2以上を満たさない)。
【0074】
実施例19は、表1の供試材Hを用いたもので、S量が多い(請求項1及び2を満たさない)ため、化合物が粗大化し面積当たりの数が減少し、請求項1のV系、Ti系化合物量、平均粒径はいずれも限界値に近い値であったが、化合物間距離が大きい(請求項1及び2を満たさない)。また、B/Aは限界値に近い値で上記(1)は満たしたが、(C−B)/Bが小さい(上記(2)を満たさない)。その結果、遅れ破壊評価はDF1は54とまずまずであったが、DF2が59と良くない。
【0075】
実施例20は、表1の供試材Bを用いたもので、供試材BはTi系量が多い(請求項1及び2を満たさない)が、上記(1)及び上記(2)の要件はいずれも満たし、遅れ破壊評価もDF1、DF2とも50以下と良い。ただし、用途によっては靱性が問題となることが懸念され、用途が限定される可能性がある。
【0076】
実施例21は、表1の供試材Fを用いたもので、供試材FはMo量が多い(請求項1を満たさない)が、上記(1)及び上記(2)の要件はいずれも満たし、遅れ破壊評価も良い。ただし、用途によっては靱性が問題となることが懸念され、用途が限定される可能性がある。
【0077】
実施例22は、表1の供試材Kを用いたもので、供試材KはC量が多い(請求項1及び2を満たさない)が、上記(1)及び上記(2)の要件はいずれも満たし、遅れ破壊評価も良い。ただし、用途によっては靱性が問題となることが懸念され、用途が限定される可能性がある。
【0078】
実施例23は、表2の供試材Mを用いたもので、供試材MはV量が0.1%未満と少なく且つTi系量も0.1%未満と少ない上にそのTi系量がV量×0.75未満と少ない(請求項2を満たさない)。しかし、上記(1)及び上記(2)の要件はいずれも満たし、DF1、DF2とも50以下で遅れ破壊評価も良い。
【0079】
実施例24は、表2の供試材Nを用いたもので、供試材NはTi系量がV量×0.75以上を満たすもののV量が0.1%未満と少なく、またTi系量が0.3%を超えて多い(請求項2を満たさない)。しかし、上記(1)及び上記(2)の要件はいずれも満たし、DF1、DF2とも50以下で遅れ破壊評価も良い。
【0080】
実施例25は、表2の供試材Oを用いたもので、供試材OはV量が0.70%と多いためTi系量がV量×0.75未満と少ない(請求項2を満たさない)。しかし、上記(1)及び上記(2)の要件はいずれも満たし、DF1、DF2とも50以下で遅れ破壊評価も良い。
【0081】
実施例26は、表2の供試材Pを用いたもので、供試材Pは請求項2の要件を満たすと共に、上記(1)及び上記(2)の要件はいずれも満たし、DF1、DF2とも50以下で遅れ破壊評価も良い。
【0082】
実施例27は、表2の供試材Qを用いたもので、供試材QはV量が0.1%以上を満たすものの、Ti系量が0.1%未満と少ない上にそのTi系量がV量×0.75未満と少ない(請求項2を満たさない)。しかし、上記(1)及び上記(2)の要件はいずれも満たし、DF1、DF2とも40以下で遅れ破壊評価は極めて良い。
【0083】
実施例28と29は、表2の供試材RとSをそれぞれ用いたもので、各供試材RとSはV量が0.1%以上で且つTi系量がV量×0.75以上を満たすものの、Ti系量が0.3%を超えて多い(請求項2を満たさない)。しかし、上記(1)及び上記(2)の要件はいずれも満たし、DF1、DF2とも40以下で遅れ破壊評価は極めて良い。
【0084】
実施例30と31は、表2の供試材TとUをそれぞれ用いたもので、各供試材TとUは請求項2の要件を満たすことはもとより、上記(1)及び上記(2)の要件はいずれも満たし、DF1、DF2とも40以下で遅れ破壊評価も極めて良い。
【0085】
表4に示す比較例、実施例より明らかなことは、成分によって化合物の大きさ、数、距離が異なり、水素放出試験、遅れ破壊試験結果が異なる。すなわち、V、Mo、Ti、Zr、Hf、Nb成分を本発明範囲内とした場合に、A、B/A、(C−B)/Bの各値が共に大きくなり、DF1、DF2の値を共に低下させることができる。更に、Al、W、B、C、N、O、Sの各成分の量を本発明範囲内にすると、さらに遅れ破壊評価DF1、DF2の値を共に低下させることができることがわかる。
【0086】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、熱負荷や動的応力負荷が存在する用途であっても耐遅れ破壊性を発揮し得る、耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼が実現でき、こうした高強度鋼はボルトを始めとする各種構造材料として適用が期待でき、産業上大変有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るSSRT試験用試験片の説明図である。
【図2】本発明に係る加熱時の水素放出曲線のグラフ図である。
Claims (6)
- 引張強度が1200N/mm2以上の高強度鋼であって、
C:0.30〜0.50%(質量%、以降同じ)、N:0.004〜0.01%、O:0.0010〜0.005%、S:0.003〜0.015%、Mo:0.2〜1.1%、Al:0.05%以下(0%を含む)、Si:0.2%以下(0%を含む)、Mn:0.7%以下(0%を含む)を含有し、
さらに、Ti、Zr、Hf、Nbから選ばれる元素の1種以上を合計で0.01〜0.50%、Vを0.05%以上含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、且つ、各含有量がV×0.15≦(Ti+Zr+Hf+Nb)の関係を満たし、
V、Moから選ばれる元素の1種以上を含有する化合物(イ)と、Ti、Zr、Hf、Nbから選ばれる元素の1種以上を含有する化合物(ロ)が、いずれも平均粒径が50nm以下であって、しかも鋼中に化合物(イ)が10個/(500nm)2以上、化合物(ロ)が5個/(500nm)2以上存在し、かつ、化合物(イ)から最も近い化合物(ロ)までの距離の平均が100nm以下であることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼。 - 引張強度が1200N/mm2以上の高強度鋼であって、
C:0.30〜0.50%、N:0.004〜0.01%、O:0.0010〜0.005%、S:0.003〜0.015%、Mo:0.2〜1.1%、Al:0.05%以下(0%を含む)、Si:0.2%以下(0%を含む)、Mn:0.7%以下(0%を含む)を含有し、
更に、Ti、Zr、Hf、Nbから選ばれる元素の1種以上を合計で0.1〜0.3%、Vを0.1%以上含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、且つ、各含有量がV×0.75≦(Ti+Zr+Hf+Nb)の関係を満たし、
V、Moから選ばれる元素の1種以上を含有する化合物(イ)と、Ti、Zr、Hf、Nbから選ばれる元素の1種以上を含有する化合物(ロ)が、いずれも平均粒径が50nm以下であって、しかも鋼中に化合物(イ)が10個/(500nm)2以上、化合物(ロ)が5個/(500nm)2以上存在し、かつ、化合物(イ)から最も近い化合物(ロ)までの距離の平均が100nm以下であることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼。 - 更に、W:0.20%以下、B:0.003%以下よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1または2に記載の耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼。
- 更に、Cr:1.5%以下、Ni:2.00%以下、Cu:1.00%以下よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1乃至3のいずれかに記載の耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼。
- 更に、Mg:0.01%以下、Ca:0.01%以下、REM:0.01%以下から選択される1種以上を含有するものである請求項1乃至4のいずれかに記載の耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼。
- 請求項1乃至5のいずれかに記載の高強度鋼を製造するに際して、鋳造時の凝固過程において10℃/min以上の速さで冷却し、凝固後850〜1000℃で焼き入れることを特徴とする耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼の製造方法。
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