JP4170048B2 - イオンビーム装置およびイオンビーム加工方法 - Google Patents

イオンビーム装置およびイオンビーム加工方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料の所定の部分にイオンビームを照射して加工を行うイオンビーム装置およびイオンビーム加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
イオンビーム装置として、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:以下、単に「FIB」と記す。)装置やイオンミリング装置が知られている。これらの装置は、例えばウェーハの欠損箇所を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:以下、単に「TEM」と記す。)や走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、単に「SEM」と記す。)などで断面観察する際の試料作製に用いられている。特に、FIB装置は、十分に集束したイオンビームで試料表面を走査し、該走査時に発生する二次電子を検出して画像として観察しながら、欠陥などの特定部位を正確に断面加工できるため、半導体製造プロセスの評価装置として広く利用されている。
【0003】
図5に、従来のFIB装置の概略構成を示す。このFIB装置の主要部は、イオン源100、イオン光学系101、二次荷電粒子検出器102、ガス銃103、試料ホルダー104、試料ステージ105からなる。
【0004】
イオン源100は、例えばガリウム(Ga)に代表される液体金属イオン源である。イオン光学系101は、イオン源100からのイオンビームを集束するとともに試料106上で走査させるためのもので、コンデンサレンズ(静電レンズ)、ビームブランカ、可動絞り、8極スティグメータ、対物レンズ(静電レンズ)および走査電極などから構成されている。二次荷電粒子検出器102は、イオンビーム100aを試料106上で走査した際に発生する二次荷電粒子を検出するもので、この検出結果に基づいて画像処理を行うことにより走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope:以下、単に「SIM」と記す。)機能を提供する。
【0005】
試料ステージ105は、5軸制御が可能なステージである。5軸制御では、XYZ方向への3次元的な移動、XY平面に垂直な軸周りの回転、チルトの制御が行われる。試料ホルダー104は、試料106を固定するためのもので、ベースと呼ばれる移動台(不図示)の上に載置されて試料ステージ105上へ搬入される。試料106は、例えばウェーハである。ガス銃103は、試料106の表面に、保護膜としてのデポジション膜を形成するためのガスを吹き付けるものである。
【0006】
次に、上述のFIB装置を用いた具体的な試料作製手順について説明する。図6の(a)および(b)は、TEM試料の作製手順を示す工程図である。以下、図5および図6を参照して、TEM試料の作製手順を説明する。
【0007】
まず、試料ステージ105上に試料106であるウェーハを固定し、予め与えられている特定部位の位置情報に基づいて、イオンビーム100aがその特定部位の近傍に照射されるように大よその位置合わせを行う。続いて、イオンビーム100aで欠損部位の近傍を走査し、この走査により得られるSIM像を見ながら欠損部位の位置を特定する(位置出し)。位置出し後、ガス銃103によりウェーハの表面にデポジション用のガスを吹き付けるとともに、イオンビーム100aでウェーハの表面の、特定部位を含む所定の範囲を走査することでデポジション膜(保護膜)を形成する。このデポジション膜の形成は、一般にはイオンアシストデポジション(あるいはイオンビームCVD(Chemical Vapor Deposition))と呼ばれており、イオンビーム100aで照射した部分に選択的にデポジション膜を形成することができる。
【0008】
続いて、図6(a)に示すように、ウェーハの表面の欠損部位近傍をイオンビーム100aで照射して大まかに加工し、さらに、その加工部分にイオンビーム100aを照射して仕上げ加工を行う。この加工では、イオンビーム100aは、ウェーハの表面に対して法線方向から照射されるので、イオンビームが照射された領域は表面が除々に削れ、図6(b)に示すような断面107aを得る。断面107aの厚さは、0.2〜0.5μm程度である。
【0009】
ここで、試料ステージ105のチルト角を制御することによりイオンビーム100aのウェーハへの入射角度を調節した後、イオンビーム100aによる加工で、断面107aが形成された部分の周りに図6(b)に示すような切り込み107b(図6(b)中の破線で示している部分)を形成する。このとき、表面の一部は切り離さないで残しておく。そして、最終仕上げ加工で、さらに断面107aの厚さを0.05〜0.1μm程度に加工する。最後に、一部切り離さないで残しておいた部分を切り離すことで、断面107aを含むTEM試料107を得る。
【0010】
TEM試料107の取り出しには、ピックアップ法(あるいはリフトアウト法)と呼ばれる手法を用いる。図7の(a)および(b)に、ピックアップ法によるTEM試料の取り出しの一例を示す。
【0011】
ピックアップ法によるTEM試料の取り出しでは、専用装置(マニピュレータ)を使用する。まず、図6の手順で作製されたTEM試料107の片側の断面107aに、ガラス材よりなるプローブ108の先端を近づける。プローブ108の先端が断面107aにある程度近づくと、図7(a)に示すように、静電気によって、TEM試料107がプローブ108の先端に吸着する。先端にTEM試料107が吸着した状態のままプローブ108を、別に用意された粘着性を有する有機薄膜109上に移動し、図7(b)に示すように、先端に吸着したTEM試料107をTEM試料用メッシュの有機薄膜109上に置く。TEM試料107は、有機薄膜109の粘着性により固定されて、プローブ108の先端から離れる。
【0012】
上記のようにしてTEM試料107が固定されたTEM試料用メッシュをFIB装置とは別に設けられたTEMに搬入し、そこで、TEM試料107の断面107aの観察を行う。
【0013】
以上説明したTEM試料の作製手法によれば、試料106であるウェーハを割らずに特定箇所のTEM試料を作製することができるため、ダイシングソーによりウェーハを割って小片化する場合に比べて、コスト面で有利な上、試料作製時間も短縮される。
【0014】
最近では、FIB装置に、走査電子顕微鏡やエネルギー分散型X線検出器等の観察装置やマニピュレータなどを組み込んだ複合形FIB装置も提供されており、試料作製から観察を1台のFIB装置で行えるようになっている。
【0015】
しかしながら、上述したFIB装置による試料作製では、FIBによる断面107aへのダメージがある。図8(a)は、図6(b)のTEM試料107の部分の断面図で、図8(b)はその部分拡大図である。図8中、デポジション膜110は、断面加工時に形成された保護膜である。
【0016】
FIBにより断面加工を行ったTEM試料107の断面107aの表面は、FIBによるダメージを受けるとともにFIBに含まれているイオン(例えばGaイオン)の一部が注入されて、図8(b)に示すようなダメージ層(破砕層)111が形成される。ダメージ層111は、試料自体に元々含まれていた元素と注入されたイオン(Ga)とが混在したアモルファスな状態になっている。このように観察したい面(断面107a)に不要なダメージ層111が形成されてしまうと、そのダメージ層111が妨げとなって、良好なTEM観察を行うことができない。このようなダメージ層の問題は、SEM試料作製においても同様に生じる。
【0017】
そこで、低エネルギーのイオンビーム、例えばアルゴン(Ar)イオンビームを用いたエッチング(イオンミリング)によりダメージ層を除去する、という手法が提案されている。例えば、特許第3117836号(特開平6−260129号)の公報には、イオミリング装置が組み込まれた、ダメージ層の除去が可能なFIB装置が開示されている。
【0018】
図9は、上記公報に記載されたFIB装置の概略構成を示す模式図である。このFIB装置の主要部は、液体金属イオンビーム照射装置200、気体イオンビーム照射装置201、試料ステージ202からなる。
【0019】
液体金属イオンビーム照射装置200は、液体金属イオン源から引き出されて十分に集束されたイオンビーム(FIB)で試料ステージ202上に載置された試料203の表面の所定の部分を走査するものである。液体金属イオン源としては、例えばGaイオン源がある。気体イオンビーム照射装置201は、気体イオン源から引き出されたイオンビームで、断面加工された部分を含む領域を一様に照射するものである。
【0020】
上記のFIB装置では、まず、液体金属イオンビーム照射装置200からのFIBで試料203を断面加工する。この断面加工の際に、図8(b)に示したようなダメージ層が断面に形成される。断面加工後、気体イオンビーム照射装置201からの気体イオンビームを、断面加工部分を含む領域に一様に照射して、エッチングにより断面上のダメージ層を除去する。
【0021】
なお、気体イオンビームの照射によっても断面はダメージを受けるが、加速エネルギーが低いため、その量は小さい。Ga液体金属イオンビームの場合、加速エネルギー30kVで、試料がシリコンのときのダメージ層の厚さが20〜30nmであるのに対して、加速エネルギーが1kV以下の気体イオンビームの場合のダメージ層の厚さは数nm程度であるので、そのダメージ層がTEMやSEMにおける断面観察で問題になることはない。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、FIBで試料を断面加工した場合、加工された断面にダメージ層ができるため、TEMやSEMなどにおいて良好な断面観察を行うことができないという問題がある。
【0023】
FIBによる断面加工後に、気体イオンビームでダメージ層除去することで、上記の問題は解決されるが、この場合には、以下に説明するような二次粒子の再付着の問題が生じる。
【0024】
図10の(a)〜(c)に、断面に再付着層が形成される過程を示す。図10(a)に示すように、断面に形成されたダメージ層111を除去するために、Arイオンビームが照射される。このArイオンビームの照射範囲は、断面とそれに隣接する隣接面204を含む。Arイオンビームが隣接面204に照射されると、図10(b)に示すように、隣接面204から二次粒子205が放出される。この隣接面204から放出された二次粒子205は、ダメージ層111が除去された後の断面に付着し、図10(c)に示すような再付着層206が形成される。実際には、ダメージ層111の除去と再付着は同時に進行するため、図10(b)のように、きれいにダメージ層が除去されることはないが、ここでは、理解し易いようにこのような概念図で表した。この再付着層206は成分が不明であるとともに、ウェーハなどではTEMやSEMなどにおける断面観察を妨げるような物質により再付着層206が形成される。このため、再付着層206により、TEMやSEMにおける良好な断面観察が妨げられてしまう。
【0025】
なお、ダイシングソーにより小片化した試料をその表面(ウェーハ表面)側からFIBを照射して断面加工を行う場合は、ダメージ層を除去する際に、Arイオンビームを再付着が少なくなるような方向、具体的には、試料の裏面側の方向から照射することで、二次粒子の再付着の問題を解決することが可能である。しかし、この手法は、図6および図7に示したような、ウェーハを割らずに特定部位に対して断面加工を行い、ピックアップ法によりTEM試料を取り出す方法には適用することはできない。
【0026】
また、ピックアップ法により取り出したTEM試料を再加工できるようにしたものも提案されていおり、この場合は、上記の手法を適用することが可能であるが、再加工のための工程が増えるとともに、TEM試料を保持するための再加工用の専用ホルダーを別途用意する必要があるためコスト面で不利なものとなる。
【0027】
本発明の目的は、上記の各問題を解決し、観察面(断面)に二次粒子の再付着層が形成されても断面観察への影響がほとんどない、イオンビーム装置およびイオンビーム加工方法を提供することにある。
【0028】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のイオンビーム装置は、特定部位に所定の集束イオンビームが照射されて断面が形成された試料の、前記断面を含む所定の範囲の領域に所定の材料よりなるデポジション膜を形成するデポジション手段と、前記デポジション膜の前記断面上の部分を前記所定の集束イオンビームにより除去する第1のエッチング手段と、前記所定の範囲の領域のうちの少なくとも前記断面を含む領域に気体イオンビームを照射して、前記所定の集束イオンビームの照射によって形成された、前記断面上のダメージ層を除去する第2のエッチング手段とを有することを特徴とする。
【0029】
本発明のイオンビーム加工方法は、試料の特定部位に所定の集束イオンビームを照射して断面を形成する第1の工程と、前記断面を含む所定の範囲の領域に所定の材料よりなるデポジション膜を形成する第2の工程と、前記デポジション膜の前記断面上の部分を前記所定の集束イオンビームにより除去する第3の工程と、前記所定の範囲の領域のうちの少なくとも前記断面を含む領域に気体イオンビームを照射して、前記所定の集束イオンビームの照射によって形成された、前記断面上のダメージ層を除去する第4の工程とを有することを特徴とする。
【0030】
上記のとおりの本発明によれば、断面(観察面)に隣接する部分をデポジション膜で覆った状態で、気体イオンビームによるダメージ層の除去が行われる。このため、二次粒子の再付着はデポジション膜からのものとなる。デポジション膜には、所定の材料、すなわちTEMやSEMによる断面観察を妨げない成分、具体的にはカーボンが用いられているので、このデポジション膜からの二次粒子の再付着により形成された再付着層が、成分的に断面観察の妨げとなることはほとんどない。また、仮に、断面観察の際にその再付着層が観察されたとしても、その再付着層の成分は予め分かっているので、断面観察に際してその部分が問題になることは少ない。
【0031】
加えて、本発明によれば、再加工用の専用ホルダーなど新たな部材を別途用意する必要はなく、また、ウェーハを割ったりする必要もないので、従来のようにコスト面で不利になったり、試料作製時間が長くなったりすることはない。
【0032】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0033】
図1に、本発明のイオンビーム装置の一実施形態であるFIB装置の主要構成を模式的に示す。このFIB装置は、液体金属イオンビーム照射装置1、二次荷電粒子検出器2、ガス銃3、試料6を固定する試料ホルダー4、試料ステージ5、気体イオンビーム照射装置7、駆動部8、制御部9からなる。
【0034】
液体金属イオンビーム照射装置1は、液体金属イオン源を備える既存の装置であって、液体金属イオン源から引き出されて十分に集束されたイオンビーム(FIB)で試料6の特定部位を照射して加工(断面加工)することができる。液体金属イオン源には、例えばGaイオン源が用いられる。
【0035】
気体イオンビーム照射装置7は、気体イオン源を備える既存の装置であって、気体イオン源から引き出された気体イオンビームで試料6の所定の領域を走査することができる。気体イオン源に使用可能な気体イオンの種類としては、アルゴン、酸素、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン、ラドン等がある。気体イオンビーム照射装置7から照射される気体イオンビームの光軸は、液体金属イオンビーム照射装置1から照射されるFIBの光軸と所定の位置で交わるようになっている。
【0036】
試料ホルダー4および試料ステージ5は、図5に示したものと同じである。二次荷電粒子検出器2は、FIBまたは気体イオンビームを試料6に照射した際に発生する二次荷電粒子を検出するものである。この検出結果に基づいて画像処理を行うことによりSIM機能を提供する。ガス銃3は、保護膜としてのデポジション膜および二次粒子の再付着を保護膜成分のみにするためのデポジション膜を形成するためのもので、所定の原料ガスを試料6の表面に吹き付ける。デポジション材料としては、カーボンが最適である。
【0037】
制御部9は、液体金属イオンビーム照射装置1におけるFIB照射、気体イオンビーム照射装置7における気体イオンビーム照射およびガス銃3におけるガス噴射をそれぞれ制御する他、駆動部8によって駆動される試料ステージ5の5軸制御も行う。この他、制御部9は、二次荷電粒子検出器2の出力に基づくSIM像の画像化に必要な処理も行う。
【0038】
本実施形態のFIB装置は、制御部9の制御によって提供される、以下のSIM機能、エッチング機能およびデポジション機能の3つの機能を備え、これらの機能を利用して試料6の断面加工およびダメージ層の除去を行う。
【0039】
(1)SIM機能:
このSIM機能には、試料6の特定部位を液体金属イオンビーム照射装置1からのFIBで走査して、この走査の際に発生する二次荷電粒子を二次荷電粒子検出器2で検出することでSIM像を得る第1のSIM機能と、気体イオンビーム照射装置7からの気体イオンビームで試料6の所定の領域を走査して、この走査の際に発生する二次荷電粒子を二次荷電粒子検出器2で検出することでSIM像を得る第2のSIM機能とがある。第1のSIM機能は、主にFIBによる断面加工の際に用いられ、第2のSIM機能は、気体イオンビームによるダメージ層の除去の際に用いられる。
【0040】
(2)エッチング機能:
このエッチング機能には、液体金属イオンビーム照射装置1からのFIBで試料6の特定部位を照射して加工(断面加工)を行う第1のエッチング機能と、気体イオンビーム照射装置7からの気体イオンビームで試料6の断面を含む所定の範囲の領域を一様に照射してダメージ層を除去する第2のエッチング機能とがある。
【0041】
(3)デポジション機能:
このデポジション機能には、ガス銃3により試料6の表面に所定のガスを吹き付けるとともに、FIBで試料6の特定部位を含む所定の範囲を走査することでデポジション膜を形成する第1のデポジション機能と、ガス銃3により試料6の表面に所定のガスを吹き付けるとともに、気体イオンビームで試料6の断面およびその隣接面を含む所定の範囲の領域を一様に照射してデポジション膜を形成する第2のデポジション機能とがある。第1のデポジション機能は、主にFIBによる断面加工の際に用いられ、第2のデポジション機能は、気体イオンビームによるダメージ層の除去の際に用いられる。
【0042】
次に、本実施形態のFIB装置を用いた具体的な試料作製手順について説明する。ここでは、一例として、試料6であるウェーハの特定部位(欠損箇所)のTEM試料を作製する手順について説明する。なお、液体金属イオンビーム照射装置1からのFIBによるウェーハの特定部位の断面加工は、図6に示した手順と同じであるため、以下の説明では、断面加工の工程の詳しい説明は省略する。
【0043】
図2の(a)〜(d)は、TEM試料の作製手順を示す工程図である。図1および図2を参照してTEM試料の作製手順を説明する。
【0044】
まず、図6に示した手順に従って、液体金属イオンビーム照射装置1からのFIBで試料6であるウェーハの特定部位を照射し、図2(a)に示すようなTEM試料部を形成する(第1のエッチング機能)。TEM試料部の断面7aの厚さは30〜100nm程度であり、この断面7aには、図8で示したものと同様のダメージ層111が形成されている。また、TEM試料部の表面(ウェーハ表面)には、断面加工の際に、第1のデポジション機能により形成されたデポジション膜110が残っている。このデポジション膜110も、FIBが照射された部分にダメージ層111が形成されている。
【0045】
断面加工後、図2(b)に示すように、TEM試料部の断面7aおよびこれに隣接する隣接面6aを含む所定の範囲の領域にデポジション膜112a、112bを形成する(第2のデポジション機能)。図3に、この第2のデポジション機能によるデポジション膜形成を模式的に示す。
【0046】
デポジション膜112a、112bの形成では、図3に示すように、まず、ガス銃3を用いて、TEM試料部の断面7aおよびこれに隣接する隣接面6aを含む所定の範囲の領域に所定のガスを吹き付け、さらに気体イオンビーム照射装置7からの気体イオンビーム(ここではArイオンビーム)で、その所定の範囲の領域を一様に照射する。続いて、試料6を180°回転して、同様な処理を施し、両断面7aおよび両隣接面6aに一様にデポジション膜112a、112bを形成する。デポジション膜112a、112bの膜厚は、数十nm〜100nm程度である。
【0047】
デポジション膜112a、112bの形成後、図2(c)に示すように、液体金属イオンビーム照射装置1からのFIBで両断面7a上のデポジション膜112aを除去する(第1のエッチング機能)。続いて、図2(d)に示すように、断面7aおよびこれに隣接する隣接面6aを含む所定の範囲の領域を気体イオンビーム照射装置7からのArイオンビームで一様に照射して、断面7a上のダメージ層111を除去する(第2のエッチング機能)。このときのArイオンビームの照射範囲は、デポジション膜112a、112bが形成された範囲を超えないものとする。最後に、試料6を180°回転し、同様の処理を、先の断面7aとは反対の側に位置する断面7aに対して行う。これにより、両断面7a上のダメージ層111が除去される。
【0048】
上述のTEM試料の作製によれば、図2(d)におけるArイオンビームによるダメージ層111の除去の際、隣接面6aにはデポジション膜112bが形成されているので、二次粒子の再付着はこのデポジション膜112bからのものとなる。デポジション膜112bには、TEM観察を妨げない成分、具体的にはカーボンが用いられているので、デポジション膜112bからの二次粒子の再付着により形成される再付着層(カーボン)113が、成分的にTEM観察の妨げとなることはほとんどない。また、再付着層(カーボン)113の厚さは数nm〜数十nmであり、厚さ的に見てもTEM観察の際に問題となることはない。特に、カーボンのエッチングレートは遅いことから、再付着層(カーボン)113は、従来の場合に形成されていた再付着層の厚さより薄くなることが予想される。なお、仮に、TEM観察の際にその再付着層(カーボン)113が観察されたとしても、カーボンであることが予め分かっているので、その部分については欠損と関係しないと判断することができる。これに対して、従来の場合は、再付着層は、その成分が不明であるため、TEM観察の際に欠損と関係する否かを判断することができず、問題となっていた。
【0049】
上述したデポジション膜(カーボン)を利用した二次粒子の再付着は、SEM試料の作製にも適用することができる。SEM試料の作製では、TEM試料のような形態で試料を作製する場合(ただし、観察面となる断面は片面のみ)と、ウェーハの特定部位(欠損箇所)をFIBにより加工して凹状の穴を形成し、この凹状の穴の壁面を観察面(断面)とする場合とがあるが、いずれの場合も、デポジション膜(カーボン)を利用した二次粒子の再付着を適用することができる。
【0050】
また、ダイシングソーにより小片化した試料を加工する場合やピックアップ法により取り出したTEM試料を再加工する場合にも、上記デポジション膜(カーボン)を利用した二次粒子の再付着を適用することができる。
【0051】
ところで、FIBによる断面加工および気体イオンビームによるダメージ層の除去に際しては、断面に生じるスジが生じることが知られている。例えば、表面に凹凸を有する試料に対してFIBをその表面に略垂直な方向から照射して断面加工を行う場合、凹凸部の境界(角部)と平坦な部分とにおける加工速度(エッチング速度)が異なるため、形成された断面に表面の凹凸に応じたスジが生じる。また、断面加工領域に、材質の異なる領域(境界)が存在する場合も、同様なスジが生じる。これらのスジは、TEMやSEMを用いた良好な断面観察を妨げる。
【0052】
本実施形態のFIB装置では、以下に挙げる手順1、2のうちのいずれかを採用することで、上記のようなスジを取り除き、良好な断面観察を実現するようになっている。
【0053】
<手順1>
(1−1)FIBを試料表面に第1の照射方向(例えば、試料表面に垂直な方向)から照射して断面加工を行う。この断面加工の際に、スジが生じる。
【0054】
(1−2)スジを取り除くために、上記断面加工により得られた断面に対して、FIBを第1の照射方向とは異なる第2の照射方向から照射してエッチングする。これにより、断面に形成されたスジが取り除かれる。
【0055】
(1−3)スジが取り除かれた断面に対して、第3の照射方向から気体イオンビームを照射して断面上のダメージ層を除去する。このダメージ層の除去工程で、スジが形成される。
【0056】
(1−4)上記(1−3)の工程で形成されたスジを除去するために、断面に対して、気体イオンビームを第3の照射方向とは異なる第4の照射方向から照射してエッチングする。これにより、断面に形成されたスジが取り除かれる。
【0057】
上記の(1−1)の工程および(1−2)の工程は、同時に行ってもよい。すなわち、第1の照射方向と第2の照射方向とを切り替えながら断面加工を行うようにしてもよい。同様に、上記の(1−3)の工程および(1−4)の工程も、同時に行ってもよい。この場合は、第3の照射方向と第4の照射方向とを切り替えながらダメージ層の除去を行うことになる。
【0058】
<手順2>
(2−1)FIBを試料表面に第1の照射方向(例えば、試料表面に垂直な方向)から照射して断面加工を行う。この断面加工の際に、スジが生じる。
【0059】
(2−2)上記断面加工により得られた断面に対して、第1の照射方向とは異なる第2の照射方向から気体イオンビームを照射して断面上のダメージ層を除去する。このダメージ層の除去工程では、(2−1)で生じたスジが除去されるが、気体イオンビームの照射により新たなスジが断面に形成される。
【0060】
(2−3)上記(2−2)の工程で形成されたスジを除去するために、断面に対して、気体イオンビームを第2の照射方向とは異なる第3の照射方向から照射してエッチグする。これにより、断面に形成されたスジが取り除かれる。
【0061】
上記の(2−2)の工程および(2−3)の工程は、同時に行ってもよい。すなわち、第2の照射方向と第3の照射方向とを切り替えながらダメージ層の除去を行うようにしてもよい。この場合は、断面加工時に生じたスジとダメージ層除去の際に生じるスジとを同時に取り除くことになる。
【0062】
上述の手順1および手順2における照射方向の切り替えは、試料ステージのチルト角を制御することにより行うことができる。
【0063】
以上説明したFIB装置は一例であって、装置構成および加工手順は、図1〜3に示したものに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0064】
図4に、図1に示したFIB装置にSEMによる断面観察が可能な機能を組み込んだ複合装置の概略構成を示す。この複合装置は、図1に示した構成において、試料6に形成された断面に電子ビームを照射する電子ビーム照射装置10を加えたものである。制御部9は、電子ビーム照射装置10における電子ビームの照射、および電子ビーム照射により生じる二次電子を検出する二次荷電粒子検出器2の出力に基づくSEM像の画像化に必要な処理を行う。この制御部9による制御で、SEM機能を提供する。
【0065】
以上説明した本発明のイオンビーム装置において、気体イオンビームの加速電圧は数100Vから5kVが一般的であるが、ダメージを少なくするために低いほどよい。ただし、低い加速電圧にすると、エッチング速度が遅くなるため、実用的な時間でエッチングの終了する加速電圧を設定することが望ましい。
【0066】
また、二次粒子の再付着の際に用いられるデポジション膜(図2のデポジション膜112a、112b)の材料は、カーボンに限定されるものではなく、TEMやSEMにおける良好な断面観察を妨げないものであれば、どのような材料を用いてもよい。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、観察面(断面)に二次粒子の再付着層が形成されてもSEMやTEMにおける断面観察への影響がほとんどないので、ウェーハのような大きな試料からダメージ層の少ないTEM試料やSEM試料を容易に作製することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態であるFIB装置の主要構成を示すブロック図である。
【図2】(a)〜(d)は、図1に示すFIB装置において行われるTEM試料の作製手順を示す工程図である。
【図3】図2(b)に示すデポジション膜の形成を説明するための模式図である。
【図4】図1に示すFIB装置にSEM機能を組み込んだ複合装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】従来のFIB装置の概略構成を示す模式図である。
【図6】(a)および(b)は、図5に示す従来のFIB装置において行われるTEM試料の作製手順を示す工程図である。
【図7】(a)および(b)は、ピックアップ法によるTEM試料の取り出しを説明するための模式図である。
【図8】(a)は、図6(b)に示すTEM試料の部分の断面図、(b)は(a)の部分拡大図である。
【図9】特開平6−260129号公報に記載されたFIB装置の概略構成を示す模式図である。
【図10】(a)〜(c)は、再付着層の形成過程を示す模式図である。
【符号の説明】
1 液体金属イオンビーム照射装置
2 二次荷電粒子検出器
3 ガス銃
4 試料ホルダー
5 試料ステージ
6 試料
6a 隣接面
7 気体イオンビーム照射装置
7a 断面
8 駆動部
9 制御部
10 電子ビーム照射装置
110、112a、112b デポジション膜
113 再付着層

Claims (13)

  1. 液体金属イオン源から引き出されて集束されたイオンビームが照射されて断面が形成された試料の、前記断面およびその隣接面を含む領域にSEMあるいはTEMによる観察を妨げない材料よりなるデポジション膜を形成するデポジション手段と、
    前記デポジション膜の前記断面上の部分を前記集束されたイオンビームにより除去する第1のエッチング手段と、
    前記断面に気体イオンビームを照射して、前記集束されたイオンビームの照射によって形成された、前記断面上のダメージ層を除去する第2のエッチング手段とを有することを特徴とするイオンビーム装置。
  2. 液体金属イオン源から引き出されて集束されたイオンビームが照射されて断面が形成された試料の、前記断面およびその隣接面を含む領域に成分が予め分かっている材料よりなるデポジション膜を形成するデポジション手段と、
    前記デポジション膜の前記断面上の部分を前記集束されたイオンビームにより除去する第1のエッチング手段と、
    前記断面に気体イオンビームを照射して、前記集束されたイオンビームの照射によって形成された、前記断面上のダメージ層を除去する第2のエッチング手段とを有することを特徴とするイオンビーム装置。
  3. 液体金属イオン源から引き出されて集束されたイオンビームが照射されて断面が形成された試料の、前記断面およびその隣接面を含む領域にカーボンよりなるデポジション膜を形成するデポジション手段と、
    前記デポジション膜の前記断面上の部分を前記集束されたイオンビームにより除去する第1のエッチング手段と、
    前記断面に気体イオンビームを照射して、前記集束されたイオンビームの照射によって形成された、前記断面上のダメージ層を除去する第2のエッチング手段とを有することを特徴とするイオンビーム装置。
  4. 前記気体イオンビームは、不活性ガスイオンビームであることを特徴とする請求項1、2またはに記載のイオンビーム装置。
  5. 前記液体金属イオン源はGaイオン源である請求項1から4のいずれか1項に記載のイオンビーム装置。
  6. 試料の特定部位に液体金属イオン源から引き出されて集束されたイオンビームを照射して断面を形成する第1の工程と、
    前記断面およびその隣接面を含む領域にSEMあるいはTEM観察を妨げない材料よりなるデポジション膜を形成する第2の工程と、
    前記デポジション膜の前記断面上の部分を前記集束されたイオンビームにより除去する第3の工程と、
    前記断面に気体イオンビームを照射して、前記集束されたイオンビームの照射によって形成された、前記断面上のダメージ層を除去する第4の工程とを有することを特徴とするイオンビーム加工方法。
  7. 試料の特定部位に液体金属イオン源から引き出されて集束されたイオンビームを照射して断面を形成する第1の工程と、
    前記断面およびその隣接面を含む領域に成分が予め分かっている材料よりなるデポジション膜を形成する第2の工程と、
    前記デポジション膜の前記断面上の部分を前記集束されたイオンビームにより除去する第3の工程と、
    前記断面に気体イオンビームを照射して、前記集束されたイオンビームの照射によって形成された、前記断面上のダメージ層を除去する第4の工程とを有することを特徴とするイオンビーム加工方法。
  8. 試料の特定部位に液体金属イオン源から引き出されて集束されたイオンビームを照射して断面を形成する第1の工程と、
    前記断面およびその隣接面を含む領域にカーボンよりなるデポジション膜を形成する第 2の工程と、
    前記デポジション膜の前記断面上の部分を前記集束されたイオンビームにより除去する第3の工程と、
    前記断面に気体イオンビームを照射して、前記集束されたイオンビームの照射によって形成された、前記断面上のダメージ層を除去する第4の工程とを有することを特徴とするイオンビーム加工方法。
  9. 前記第3の工程は、前記気体イオンビームの前記試料への入射角度を変化させて前記ダメージ層を除去する工程を含むことを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載のイオンビーム加工方法。
  10. 前記第1の工程は、前記集束されたイオンビームの前記試料への照射角度を変化させて前記断面を形成する工程を含むことを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載のイオンビーム加工方法。
  11. 前記第2の工程は、前記集束されたイオンビームの前記試料への照射角度を変化させて前記デポジション膜を除去する工程を含むことを特徴とする請求項6から10のいずれか1項に記載のイオンビーム加工方法。
  12. 前記気体イオンビームは、不活性ガスイオンビームであることを特徴とする請求項6から11のいずれか1項に記載のイオンビーム加工方法。
  13. 前記液体金属イオン源は、Gaイオン源である請求項6から12のいずれか1項に記載のイオンビーム加工方法。
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