JP4167053B2 - インクジェット用記録液及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録に好適に用いられるインクジェット用記録液及びその製造方法に関する。詳しくは、本発明は分散性に優れ、良好な印字性及び保存安定性を有するインクジェット用記録液及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録に用いられるインクとしては、従来、水溶性染料と液体媒体を主成分とするものが主流であったが、その記録物は、水溶性染料の特性上、耐水性、耐光性、耐オゾン性等が不十分であった。そこで、染料に代えて、顔料を水性媒体に分散させたインクが開発されてきた。
しかしながら、このような顔料インクでは、一般的に顔料をインク中に分散させるため、分散剤や分散樹脂が使用されることが多い。最も広く使用されている高分子分散剤は、その添加量が多くなるとインクの粘度が上昇してインクジェット等の記録方法では印刷不可能となり、他方添加量が少なすぎると顔料の分散性が低下し顔料の凝集及び沈澱がおこる等、インクの保存安定性低下の問題を潜在的に有しているので、平易に扱えるインクジェット用記録液への改良が望まれている。
【0003】
これに対して、顔料と染料とを併用した記録液に用いられる顔料及び染料としては、1)顔料表面上の官能基と染料とを反応させることにより顔料と染料とが化学吸着しているもの(特許文献1参照)、又は2)顔料と染料とが物理吸着しているもの(特許文献2,3,4、5及び6参照)が知られている。
このうち、前者においては、使用される顔料の官能基の種類により、吸着させる染料の種類が限定され、染料と顔料の組合せが制限されるため、実用上では多くの制約を受けることになる。
例えば、化学反応させるという観点からは、顔料表面に塩基性官能基がある場合は酸性基を持つ染料を、顔料表面に酸性官能基がある場合には塩基性基を持つ染料を組み合わせる必要があるが、通常、インクジェット用水系記録液は塩基性媒体であるため、媒体への分散性を考慮すると酸性基を持つ染料の使用が選択されることとなる。それゆえ、カルボキシル基やスルホン基などの一般的な酸性官能基を持った顔料は使えなくなるという問題が起こる。さらに、この方式では、化学反応による吸着が100%進んだ場合には、染料に残った官能基のみにより分散安定性の効果が発揮されることとなるが、染料に残った官能基のみで現実的な分散安定性を得るためには、そもそも染料を吸着させるべき顔料表面の官能基の密度をある程度以上とすることが必要となる。しかしながら、この場合には染料同士の立体障害の問題等によりかえってかかる吸着が100%進まないこととなり、分散体粒子表面に顔料由来の官能基と染料由来の基という異なる極性の基が共存することとなる。この状態は、粒子個々の分散不安定性または粒子会合を起こすきっかけとなるため、長期保管安定性を必要とするインクジェットインク向け分散体として最適のものとは言えなくなる。
【0004】
一方、後者においては、染料の耐水性・耐光性不良、及び、顔料の彩度不足を改良するために、顔料及び水溶性染料と、分子量1000〜100000の高分子分散剤とを併用した水系記録液(例えば、特許文献2参照)、スルホン酸基またはスルホン酸塩基を有する染料、液媒体、液媒体に可溶な高分子材料及び顔料からなる記録液(特許文献3参照)、並びに、染料、顔料、水溶性界面活性剤及び水を含有するインクジェット記録液(例えば、特許文献4参照)が知られている。
しかしながら、これらの公知文献における顔料及び染料含有分散液の調製は、顔料及び染料を高分子分散剤或いは高分子材料と一緒に混合する、若しくは、顔料を予め界面活性剤を用いて分散させた分散液に染料を混合することにより行われており、このような調製方法では、顔料に高分子分散剤や界面活性剤等の分散剤が吸着されることによる分散効果と水溶性染料の共存による色調の向上効果が得られるにすぎない。従って、顔料に対する染料の吸着状態、その制御、更にはそれによって得られる技術的効果について何等認識されておらず、示唆するものもない。
さらに、顔料、染料及び高分子分散剤或いは高分子材料を単純に混合してなる顔料分散液の場合、顔料と高分子分散剤或いは高分子材料の複合体、染料と高分子分散剤或いは高分子材料の複合体の形成が同時に進行することとなり、それによって生じる系中の不均質性が、分散液及び記録液の溶液物性、特に粘度特性における再現性と経時変化に問題を起こす懸念がある。
加えて、上記特許文献2に記載の高分子分散剤としては、重量平均分子量20000もの高分子量の分散剤が用いられており、上記に指摘した高分子分散剤を用いる系に起こる問題点を解決することはできない。
【0005】
また、後者のうち、顔料の分散に従来用いられているような界面活性剤や高分子の代わりに染料を顔料の分散剤として用いた記録液(特許文献5及び6参照)というのも提案されているが、染料のみを分散剤として使用した顔料分散液で記録液を調製した場合、使用する有機溶剤、添加剤によって、顔料の分散安定性が大きく低下する等、記録液で使用される有機溶剤、添加剤に対する制限が大きく、実用性に問題がある。
特に、特許文献6の方法は、顔料と基本骨格が同一の染料のみを用いていること、及び、顔料及び染料の分散体から未吸着の染料を限外濾過や遠心分離により除去する工程を必須とするものであることから、色調選択の自由度、煩雑さ及びコスト等の点などから実用性に問題がある。
【特許文献1】
特開平9−151344号公報
【特許文献2】
特公昭60−45667号公報
【特許文献3】
特開平5−247391号公報
【特許文献4】
特開平8−218019号公報
【特許文献5】
W/O 99/61534パンフレット
【特許文献6】
特開2000−273383号公報
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、かかる状況に鑑み鋭意検討した結果、赤色顔料と赤色顔料に対して特定の物理吸着性を有する染料との組合せを選択し、さらにノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤を組合せて用いることにより、良好な分散性、並びに、良好な印字性及び保存安定性を有するインクジェット用記録液が得られることを見出した。そしてこのような記録液は、まず予め顔料と染料とを水性媒体で分散させてから、次いで界面活性剤の存在下で2次分散処理するという特定の分散処理順序を採ることにより、簡便に得られるものである。これは、まず顔料表面に安定的に染料を吸着させて染料による顔料の分散効果を得、更に、この吸着した染料の一部を記録液の液性にあった特定の界面活性剤で一部置き換えることで、記録液における分散体の二次凝集を抑えることができ、分散性等の安定性が優れた記録液となし得るものであり、本発明は、このような知見に基づいて達成されたものである。
【0007】
本発明の第1の要旨は、水性媒体中に、赤色顔料、染料及び界面活性剤を含有するインクジェット用記録液であって、1)赤色顔料及び染料が、少なくともその一部に、赤色顔料に染料が化学反応を伴わずに可逆的に吸着しているものを含むものであり、2)赤色顔料に化学反応を伴わずに可逆的に吸着している染料が、下記式(I)で表される染料吸着量が0.02g/g以上のものを含み、
【数2】
Figure 0004167053
(ここで、染料吸着率は、上記赤色顔料(4.1g)及び上記染料(0.4g)を用いて界面活性剤の不存在下に調製した分散液から固形分を除去した後の上澄み液、及び、上記染料(0.4g)の水溶液について高速液体クロマトグラフィによりその染料濃度を測定し、得られるピーク面積の比から求められる値である。)、及び、3)界面活性剤として、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とが共存していることを特徴とするインクジェット用記録液に存する。また、本発明の第2の要旨は、赤色顔料、染料及び/又は染料水性媒体溶液、並びに水性媒体を混合して、赤色顔料及び染料の一次分散処理をした後、得られる分散液に、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤、及び/又はこれらの界面活性剤の水性媒体溶液を添加して二次分散処理をおこなうことを特徴とする、染料が化学反応を伴わずに可逆的に吸着している赤色顔料を含み、界面活性剤として、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とが共存している上記第1の要旨に記載のインクジェット用記録液の製造方法に存する。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明につき、更に詳細に説明する。
本発明のインクジェット用記録液は、水性媒体中に、赤色顔料、染料及び界面活性剤を含有するものであり、1)赤色顔料及び染料が、少なくともその一部に、赤色顔料に染料が化学反応を伴わずに可逆的に吸着しているものを含むものであり、2)赤色顔料に化学反応を伴わずに可逆的に吸着している染料が、下記式(I)で表される染料吸着量が0.02g/g以上のものを含み、
【数3】
Figure 0004167053
(ここで、染料吸着率は、上記赤色顔料(4.1g)及び上記染料(0.4g)を用いて界面活性剤の不存在下に調製した分散液から固形分を除去した後の上澄み液、及び、上記染料(0.4g)の水溶液について高速液体クロマトグラフィによりその染料濃度を測定し、得られるピーク面積の比から求められる値である。)、及び、3)界面活性剤として、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とが共存している。
【0009】
上記1)の特徴である赤色顔料に染料が化学反応を伴わずに可逆的に吸着しているとは、共有結合の如き化学反応で不可逆的に吸着するのではなく、物理吸着、水素結合等で例示されるような可逆的に吸着することを意味しており、赤色顔料及び染料の選択には、このような吸着状態を生じるような組み合わせが求められる。
顔料に染料が化学反応を伴わず可逆的に吸着していることは、例えば、次のようにして確認することが出来る。即ち、調製された記録液に対して、ジメチルホルムアミド(DMF)を大過剰(例えば、9重量倍程度)加え、超音波分散処理等により十分に混合し、混合物からフィルタリング等で顔料を除いた濾液中における染料の量を測定する。調製時の記録液中の顔料に吸着していない染料の量を予め確認しておき、それに対する処理後の記録液に含まれる染料の増量分を確認することにより、染料が顔料に可逆的吸着していることが確認できる。
ここで、本発明の記録液においては、その性能に悪影響を与えない限りにおいて、染料が化学反応を伴わず可逆的に吸着している顔料以外にも、例えば、表面処理等により自己分散性能を有する顔料を含有していても良いが、その含有量は、通常、全顔料量に対して、30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0010】
上記2)の特徴は、赤色顔料に吸着させる染料として、赤色顔料に対する染料の吸着性の高いものを選択して使用することがよいことを示すものであり、式(I)で表される顔料に対する染料吸着量(以下、「染料吸着量」という)が0.02g/g以上となるものを含むことを特徴とする。ここで、式(I)中の「染料吸着率」は、以下の方法により求められる値である。
【0011】
染料吸着率:
23℃で、赤色顔料を固形分量で4.1g及び染料を固形分量で0.4gに水を加え、全量を50gとし、0.5mmφのジルコニアビーズ75gと共に、ペイントシェーカーで6時間分散処理を行って分散液を得、この分散液を23℃で遠心力17968×g(gは重力加速度)で3時間遠心分離処理し、上澄み液を得る。
分散液中の顔料が全て遠心沈降し、染料が顔料に一切吸着していない場合に相当する、0.87wt%染料水溶液[即ち、水(45.5g)及び染料(0.4g)に対する染料(0.4g)の濃度(0.4/45.9×100=0.87wt%)の染料水溶液]を得る。
上記上澄み液及び上記0.87wt%染料水溶液につき、それぞれ高速液体クロマトグラフィ(High Performance Liquid Chromatography)測定を行い、得られる該染料に由来するHPLCのピーク面積をもとに、下記式(II)により求められる。
【0012】
【数4】
Figure 0004167053
Figure 0004167053
測定に際し、カラムとしては、水溶性染料の検出可能なものであれば、特に限定されるものではないが、一般的に用いられる分離モードが逆相のカラムが好適である。また、クロマトパックとしては、HPLC検出器からのデータ処理が可能であれば、特に限定されるものではない。
【0013】
また、ここで、本発明の記録液としては、2種類以上の顔料及び/又は2種類以上の染料を組み合わせて使用してもよく、混合染料系の記録液とする場合には、分散液の染料は、記録液中の染料の混合比率にあわせた染料混合物とする。同様に、混合顔料系の記録液とする場合には、分散液の赤色顔料を顔料混合物とする。混合染料と混合顔料の記録液の場合は、分散液の染料及び顔料は、記録液中のそれぞれの混合比率に合わせた染料混合物、顔料混合物とする。混合染料系の記録液の場合、式(II)における、0.87wt%染料水溶液の染料は、記録液中の染料の混合比率に合わせた染料混合物とする。
【0014】
本発明の記録液においては、上記の式(I)で表される染料吸着量(g/g)が、通常、0.02g/g以上、好ましくは0.03g/g以上、さらに好ましくは0.04g/g以上である染料を用いる。0.02g/g未満の吸着量では、顔料の分散効果が得にくかったり、十分な分散安定性が得られにくくなる。顔料への染料吸着量は多いほど好ましいが、染料吸着量には理論上上限が存在し、顔料濃度を一定にして染料量を増やしていくと、ある添加量から染料吸着量は一定になる(この吸着量を以下「飽和吸着量」とする)ため、染料吸着量の上限はかかる飽和吸着量で規定される。
飽和吸着量は、用いる顔料及び染料の種類により、決まるものであり、一概にいえないが、概ね、0.01〜0.1g/g程度である。
ここで、本発明の記録液においては、その性能に悪影響を与えない限りにおいて、赤色顔料に対する吸着量が0.02g/g未満の染料を一部用いても良いが、その使用量は、通常、全染料量に対して、30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0015】
上記3)の特徴であるノニオン性及びアニオン性の界面活性剤を共存させることは、記録液の成分である顔料、染料、各種添加剤、水溶性有機媒体等を考慮しながら、界面活性剤として、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を組み合わせて使用することにより行われる。
【0016】
(顔料)
本発明で用いられる赤色顔料としては、芳香環系の骨格構造、特には芳香族縮合多環系の骨格構造を有し、後述する染料分子の官能基と高い反応性を有する官能基を極力含まない顔料、を選択して使用することが望ましい。顔料に反応性の官能基が多いと、染料分子の官能基との化学反応を伴った吸着が起こりやすく、吸着した染料の疎水部あるいは未反応の官能基による二次凝集が起こりやすく分散体の粒子径が増加して記録液の保存安定性が低下しやすくなる。
しかも、前述したように、染料が顔料の官能基と化学反応により顔料表面に化学吸着した場合には、界面活性剤による分散処理によって染料が界面活性剤と適度な置換が出来ず、静電反発のみで分散安定性を保持させており、有機溶剤を含む記録液中では立体反発が無いため保存安定性が悪くなり易く好ましくない。
更に、後述する染料分子の骨格構造が、顔料分子の骨格構造に類似している場合、特には染料分子の骨格構造が芳香族縮合多環である場合は、多くの染料を安定的に顔料表面に吸着させることが出来望ましい。
【0017】
本発明で用いられる赤色顔料の具体例としては、C.I.Pigment Red−122,−202,−206,−207,−209,C.I.PigmentViolet−19等のキナクリドン系顔料;C.I.Pigment Red−81,−173等のキサンテン系顔料;C.I.Pigment Red−123等のペリレン系顔料,C.I.Pigment Red−168等のアンタントロン系顔料;C.I.Pigment Red−5,−7,−12,−112,−146,−147等のモノアゾ系顔料等が挙げられる。以下に、代表的なキナクリドン系顔料、キサンテン系顔料、ペリレン系顔料、アンタントロン系顔料及びモノアゾ系顔料の構造式を示す。
【0018】
【化1】
Figure 0004167053
【0019】
【化2】
Figure 0004167053
【0020】
【化3】
Figure 0004167053
【0021】
これらの中でも、キナクリドン系顔料は、印字物としての耐久性が優れていること、発色が他の顔料に対して良好であること、微細化が可能である等のことから特に好ましい。
本発明で使用する赤色顔料は、その印字性能、印字物の色特性や耐候性の面から、平均粒子径が500nm以下、好ましくは200nm以下である。また下限としては、通常、20nm以上であり、これ以下では耐候性が低下しやすい。
また、赤色顔料の分子量としては特に制限されるものではないが、分散性等の面から通常、200以上、好ましくは300以上であり、通常2000以下、好ましくは1500以下である。
【0022】
(染料)
本発明で使用する染料は、インクジェット用記録液に使用する顔料分散液において、赤色顔料に対して、前述の如く、少なくとも化学反応を伴わずに可逆的に吸着し、かつ、顔料への吸着性の高い染料を選択することが必要である。
このような染料としては、赤色顔料との骨格構造が類似しているものが物理吸着しやすいことから特に好ましい。骨格構造の類似性としては、染料分子及び顔料分子の化学構造において平面性を生み出す環構造に由来するもの、染料分子及び顔料分子中のπ電子同士のスタックや官能基の電気的引力に由来するものが、より強い物理吸着を生み出す組合せとして挙げられる。
ここで、赤色顔料としてキナクリドン系顔料を用いる場合は、キサンテン系染料、アンスラキノン系染料等が物理吸着に好適な芳香族縮合多環系の類似した骨格構造の組合せの点で好ましい。
【0023】
また、染料1分子あたりにおいて、水酸基、アミノ基、カルボキシル基類又はスルホン酸基類といった解離性基の数が、1個以上4個以下であることが好ましく、さらに好ましくは、遊離酸の形として、−COOH及び−SO3Hの少なくともいずれかで示される解離性基を有するものであり、その数が染料1分子当たり1個以上、2個以下であるのが特に好ましい。
染料分子が解離性基を有しないと、赤色顔料に染料が吸着したことによる水性媒体中への分散効果が得にくくなる。他方、−COOH及び−SO3Hで示される解離性基の数が3個以上だと、染料は赤色顔料表面に吸着するよりも記録液の媒体中に溶解し易いため、染料が赤色顔料に吸着することによる分散効果が得られにくくなる。更に、インクジェット用記録液の液性は、通常、中性からアルカリ性であることから、アルカリ性水性媒体中で解離して水に対する親和性を確保出来る程度のアニオン性基を有するのが好適である。
【0024】
本発明における記録液に使用される顔料分散液においては、染料が顔料表面に吸着することによってもたらされる分散作用を利用するので、染料としては必ずしも顔料と同色の染料である必要は無く、得られるインクジェット用記録液が所望の色味となるよう適宜選択すればよいが、顔料の色味に影響を与えないためには、顔料と同色系の染料を少なくとも全染料量中、50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上用いるのがよい。
ここで、赤色染料としては、マンセル色相環において5RP(赤紫)〜2.5YR(黄赤)で示される赤の色相を与えるような染料が好ましい。
【0025】
染料の種類としては、上述のように使用する顔料との兼ね合い等を考慮して決定されるが、具体的には次のような芳香族縮合多環系のものが挙げられる。これらは、下記に示す構造式から判るように、いずれも、染料1分子あたり遊離酸の形として、−COOH及び−SO3Hで示される解離性基の数が、2個以下である。
【0026】
キサンテン系染料:C.I.Acid Red−51,−87,−91,−92,−94,−95,−98等;
アンスラキノン系染料:C.I.Acid Red−80,−83,C.I.Acid Violet−34,−39,−43等;
モノアゾ系染料:C.I.Acid Red−1,―4,−8,−13,−14,−15,−26,−35,−37,C.I.Direct Red−20,−51,C.I.Acid Violet−7等;
ジスアゾ系染料:C.I.Acid Red−73,C.I.Direct Red−1,−2,−8,−13,−28,−31,−33,−37,−39,−59,−81,−90,−110等;
【0027】
【化4】
Figure 0004167053
【0028】
【化5】
Figure 0004167053
【0029】
【化6】
Figure 0004167053
【0030】
【化7】
Figure 0004167053
【0031】
【化8】
Figure 0004167053
【0032】
【化9】
Figure 0004167053
【0033】
【化10】
Figure 0004167053
【0034】
本発明で使用する染料の分子量は、特に制限されないが、顔料への吸着、分散性能等の面から、通常、200以上、好ましくは250以上であり、また、通常、1500以下、好ましくは1000以下である。
通常、一般に市販されている顔料及び染料には、種々の夾雑物が含まれており、そのままインクジェット用記録液に用いた場合、これら夾雑物の存在が記録液をインクジェットプリンターで印字する際に吐出性低下等の印字不良をもたらしたり記録液の保存安定性等に悪影響を及ぼす等記録液の特性を損なう原因となることが多い。そのため、本発明のインクジェット用記録液に使用する顔料及び染料は、これらの夾雑物を使用に先立って予備精製により除去しておくことが望ましい。顔料及び染料に含まれるこれらの夾雑物としては、その製造工程時に使用された反応試薬、触媒更には装置等からの溶出物等が混入したものが挙げられ、Ca、Mg、Zn、Fe、Cu,Al、Si等種々の金属分が含まれる。これらの夾雑物の除去方法としては、顔料及び染料の精製方法として行われている通常の方法を採用することができる。例えば、イオン交換樹脂等による金属イオン類の除去、逆浸透膜法等による無機イオン類の除去、メンブランフィルター濾過等による不溶分の除去、晶析等による有機不純物類の除去等が挙げられる。通常、これらの精製方法は組み合わせて用いられる。精製後の顔料及び染料における夾雑物、例えば金属イオンのそれぞれの含有量は、通常100ppm程度にまで低下されている。
【0035】
本発明におけるインクジェット用記録液中の顔料及び染料の総量は、インクジェット用記録液中、その全重量に対する重量比で、通常、0.1%以上、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上である。ここで、顔料及び染料の総量が多すぎると分散安定性の観点で問題が出てくる場合があるので、通常、15%以下、好ましくは10%以下である。
顔料と総染料の比率としては、顔料に対する染料の量が少なすぎると顔料が凝集し分散安定性が著しく低下するため、顔料100重量部に対する染料の量が2重量部以上、好ましくは3重量部以上、より好ましくは4重量部以上、更に好ましくは5重量部以上、特に好ましくは6重量部以上である。但し、染料が多すぎると染料に由来する印字物の堅牢性の低下が著しく、また、顔料分散体の分散安定性が低下する傾向があり好ましくないため、通常、顔料100重量部に対する染料の量が100重量部以下、好ましくは50重量部以下、より好ましくは33重量部以下である。
【0036】
また、一方で、上記の如く、顔料に対する染料の吸着量には限界があり、ある濃度の顔料に対して染料濃度を高くしても、染料の顔料への吸着量は一定になる。従って、顔料に対する染料の使用量の決定は、この飽和吸着量にも依存するため、特定濃度の顔料に対して飽和吸着量を与える最小の仕込み染料量を「飽和吸着染料量」と規定したとき、添加する染料量は飽和吸着染料量の1/10倍以上、好ましくは1/3倍以上であり、20倍以下、好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下の範囲となるように設定するのが好ましい。染料量がこれより少ないと顔料の分散安定性が著しく低下し、また、染料量がこれより多いと、顔料に吸着していない染料(以下この染料を「遊離染料」と記述する)が顔料のフロキュレーションを引き起こしてしまう可能性が高くなるので好ましくない。
【0037】
(界面活性剤)
本発明においては、赤色顔料と、赤色顔料に対して特定な吸着性を有する染料の組合せを選択して用いると共に、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の両者を組合せて用いることにより、良好な分散性、並びに、良好な印字性及び保存安定性を有するインクジェット用記録液が得られる。
本発明では、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とを併用することにより、優れた分散性や保存安定性を有するインクジェット用記録液を得ることができるが、何故このような優れた効果が得られるのかの詳細は必ずしも明らかではない。しかし、インクジェット用記録液の液性は、通常、中性からアルカリ性であり、加えて、水に水溶性有機溶剤の混合した水性媒体とすることで、色材の紙への濡れ性及び浸透性を高め、またプリンターヘッドのノズル表面の保湿性を高め、プリンターのスタートアップ性能を維持するように調整されているため、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤を染料と組み合わせて使用していることが、水性媒体中で解離して水に対する親和性と分散性を確保すること、並びに、有機溶剤への親和性と分散性を確保することに対して、相乗的に寄与しているものと考えられる。
【0038】
本発明で使用するアニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類、アルキルベンゼンスルフォン酸塩類、アルキルナフタレンスルフォン酸塩類、アルキルスルホコハク酸塩類、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸塩類、アルキルリン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリル硫酸エステル塩類、アルカンスルフォン酸塩類、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物類、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル類、α−オレフィンスルフォン酸塩類等が使用でき、具体的には例えば、ポリオキシエチレンステアリルスルホン酸塩、ドデシルスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
これらのアニオン性界面活性剤の中でも、アルキル硫酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリル硫酸エステル塩類、アルキルベンゼンスルフォン酸塩類等が好ましい。
【0039】
ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン誘導体類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類等が挙げられる。
これらのノニオン性界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル等が好ましい。
【0040】
上記のノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤の分子量としては、通常、2000以下程度、好ましくは、1500以下程度である。あまり分子量が高過ぎると、インクジェット記録液として用いた際の液粘度が上昇し、インクジェット記録において、吐出性の低下を引き起こしやすくなる。
ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤の比率(重量比)としては、インクジェット用記録液の液性にもよるが、通常、アニオン性界面活性剤量がノニオン性界面活性剤量100重量部に対して、1重量%以上、好ましくは2重量%以上、より好ましくは、3重量%以上、更に好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上の範囲で用いられる。但し、アニオン性界面活性剤量が多すぎると、分散安定性の点で不安定化する可能性があるため、通常、5重量倍以下、好ましくは2.5重量倍以下である。
また、界面活性剤はトータルで、記録液全重量に対して、0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上であり、一方、上限としては5重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは2重量%以下の範囲で含有される。
【0041】
本発明のインクジェット用記録液においては、使用する赤色顔料、染料及び界面活性剤が、上記の如き赤色顔料への染料吸着及びアニオン性及びノニオン性の界面活性剤の共存という状態が保持され、それによって分散安定性・保存安定性等の本発明の効果が得られる限り、要すれば上記以外の他の顔料、染料及び界面活性剤を含んでいても差し支えない。このような場合であっても、本発明の記録液中で上記の状態を現出する赤色顔料、染料及び界面活性剤は、記録液中の各成分の主要成分として存在することが好ましく、更に好ましくは各成分の70%以上、特に好ましくは80%以上存在することである。
【0042】
(インクジェット用記録液の製造方法)
次に、本発明のインクジェット用記録液の調製方法について述べる。
本発明のインクジェット用記録液は、赤色顔料と、染料及び/又は染料水性媒体溶液、並びに水性媒体を混合して、赤色顔料及び染料の一次分散処理をした後、得られる分散液に、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤、及び/又はこれらの界面活性剤の水性媒体溶液を添加して二次分散処理をおこなうことにより得られるものであり、簡便かつ工業的に有利に製造することができる。
即ち、本発明方法によれば、まず、赤色顔料と染料とを水性媒体で分散(一次分散処理)させてから、界面活性剤で更に分散処理(二次分散処理)することで、赤色顔料表面に安定的に染料を吸着させて染料による顔料の分散効果を得ること、更に、この染料の一部を記録液の液性にあった界面活性剤で一部置き換えることで、分散体の記録液における二次凝集を抑え、分散性及び保存安定性に優れた記録液を製造し得るのである。
【0043】
本発明方法では、まず、赤色顔料と、染料及び/又は染料水性媒体溶液と、水性媒体とを混合して一次分散処理することにより、染料を赤色顔料に吸着させて分散させた分散液を得る。
この赤色顔料/染料の分散液における顔料及び染料の総量は、分散液全体に対する重量比で、通常1〜30%であり、好ましくは3〜20%である。1%未満では、分散液を記録液として用いるには濃度が不十分となりやすく、また、30%を越えると、分散安定性が低下しやすく好ましくない。
【0044】
分散処理に用いる分散機としては、通常、顔料分散に使用される各種分散機が適宜使用できる。分散機としては、特に限定されるものではないが、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、アトライター、パールミル、コボールミル、ホモミキサー、ホモジナイザー、湿式ジェットミル、超音波ホモジナイザー等を用いることができる。分散機としてメディアを使うものには、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、磁性ビーズ、スチレンビーズを用いることができる。このうち、好ましい分散処理処方としては、ビーズをメディアとしてミルで分散後、超音波ホモジナイザーで分散する方法である。
好ましい粒径を有する顔料/染料分散体を得る方法としては、特に限定されるものではないが、分散機の分散メディアのサイズを小さくする、分散メディアの充填率を大きくする、分散液中の顔料濃度を高くする、処理時間を長くする、分散後、フィルターや遠心分離機等で分級する等の種々の方法が、或いはそれらの手法を適宜組み合わせて用いられる。
特に規定されるものではないが、分散時における発熱により、分散液が増粘したり、発泡したりするなど望ましくない現象がおこる場合は、冷却しながら分散処理をすることが望ましい。
【0045】
こうして作製した顔料/染料分散液をそのまま、もしくは、脱イオン水や純水により希釈した顔料/染料分散液に、上記のアニオン性及びノニオン性の界面活性剤又はこれらの界面活性剤水性媒体溶液を添加し、その混合液を二次分散処理し分散液を形成する。
従来おこなわれている様に、顔料に界面活性剤または高分子分散剤を吸着させた後、染料を吸着させた場合、もしくは顔料に界面活性剤または高分子分散剤と染料とを同時に分散処理した場合には、上記の本発明方法で作製した分散液に比べて染料の吸着量が低下し、上記分散液よりも粒径が増加したり分散安定性が低下するため好ましくない。その理由は定かではないが、顔料と界面活性剤を先に混合すると、界面活性剤が先に顔料に吸着し、後から添加した染料の顔料への吸着が阻害されるため、充分な分散効果が発現しないものと推定される。
【0046】
また、顔料/染料分散液に界面活性剤を分散させるに先だって、顔料/染料分散液に水溶性有機溶剤を添加してもよい。該水溶性有機溶剤としては、限定されるものではないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エタノール等が挙げられる。かかる分散処理に使用する分散機としては、これに限定されるものではないが、ボールミル、サンドミル、アトライター、パールミル、コボールミル、ホモミキサー、ホモジナイザー、マグネティックスターラー、超音波ホモジナイザー等を用いることができる。分散機としてメディアを使うものには、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、磁性ビーズ、スチレンビーズを用いることができる。
【0047】
本発明のインクジェット用記録液は、上記の様にして得られる分散液、水性媒体、及び必要に応じて添加されるその他の各種添加剤により構成される。
インクジェット用記録液、即ちインクの調製は、上記の如く調製された顔料、染料、界面活性剤及び水性媒体からなる顔料分散液をそのまま、もしくは、水で希釈した上で、水溶性有機溶剤、その他の添加剤を混合することにより製造できる。インクの混合は、これに限定されるものではないが、マグネティックスターラーや、通常の羽翼を備えた撹拌機による撹拌の他、高速の分散機、超音波分散機、ホモジナイザー等でおこなうことができる。
【0048】
本発明のインクジェット用記録液において用いられる好適な水性媒体は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である。ここで用いられる水としては、分散液の媒体と同様に、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、脱イオン水や純水を使用することが望ましい。
【0049】
本発明で使用される水溶性有機溶媒としては、これに限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン等の多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコール誘導体;ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の含窒素溶媒;エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類;あるいは、チオジエタノール、チオジグリセロール、スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄溶媒;炭酸プロピレン、炭酸エチレン等を用いることができる。
記録液中の上記水の含有量は、通常、30重量%以上、好ましくは50重量%以上の範囲で用いられ、通常、95重量%以下、好ましくは90重量%以下の範囲で用いられる。
また、上記水溶性有機溶剤の含有量は、特に制限はないが、通常、0.1重量%以上、好ましくは、1重量%以上、より好ましくは5重量%以上の範囲で用いられ、通常、60重量%以下、より好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下の範囲で用いられる。
特には、上記水と水溶性有機溶媒の使用比率として、水の使用量を水溶性有機溶媒量と同量以上にするのが好ましく、水溶性有機溶媒量に対して、19重量倍以下の範囲とするのが好ましい。
【0050】
添加剤としては、通常、インクジェット用記録液の調製に使用される各種の添加剤から必要に応じ、分散液の安定性を損なわない範囲で適宜選定使用することが出来、例えば、表面張力調整剤、pH調整剤、防腐剤、キレート剤、水分散性樹脂、導電性調整剤、消泡剤等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。以下に添加剤の具体例を挙げる。
【0051】
表面張力調整剤は、主に記録液の紙への浸透性効果の調整を目的とし、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、更には高分子の界面活性剤が用いられる。
アニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、脂肪酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類、アルキルベンゼンスルフォン酸塩類、アルキルナフタレンスルフォン酸塩類、アルキルスルホコハク酸塩類、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸塩類、アルキルリン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリル硫酸エステル塩類、アルカンスルフォン酸塩類、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物類、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル類、α−オレフィンスルフォン酸塩類等が使用できる。
【0052】
ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン誘導体類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられる。
その他、ポリシロキサンオキシエチレン付加物等のシリコーン系界面活性剤や、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテル等のフッ素系界面活性剤、ラムノリピド、リゾレシチン等のバイオサーファクタント等の界面活性剤も使用することができる。
【0053】
本発明においては、上記の界面活性剤の中でも、分散液の調製に用いた界面活性剤と同種の界面活性剤を用いることが分散安定性の点で望ましい。即ち、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤からなる群から選ばれる界面活性剤を用いることが望ましく、中でも、構造が類似した界面活性剤又は同一の界面活性剤を用いることがより好適である。
添加量は、記録液中に含まれる全体量で0〜5重量%、好ましくは、0〜3重量%、更に好ましくは、0〜2重量%である。
【0054】
防黴剤は記録液に黴や細菌の発生を防止するために添加されるが、防黴剤としては、特に限定されるものではなく、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等が用いられる。これらは、記録液中に0.05〜1.0重量%の範囲で含まれることが好ましい。
キレート剤は、記録液中での金属封鎖とノズルにおける金属析出防止の為に用いられる。キレート剤としては、特に限定されるものではないが、エチレンジアミンテトラアセティックアシッドのナトリウム塩、エチレンジアミンテトラアセティックアシドのジアンモニウム塩等が用いられる。これらは、記録液中に0.005〜0.5重量%の範囲で用いられる。
【0055】
記録液のpHを調整し、記録液の安定ないし、記録装置中の記録液配管との安定性を得るため、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、硝酸、アンモニア等のpH調整剤、リン酸塩等の緩衝剤を用いることができる。記録液のpHとしては、通常、pH6〜11程度に調整される。
また、記録液の泡の発生を防止するため消泡剤を添加することもできる。
【0056】
本発明のインクジェット用記録液には、紙への定着性、インキ塗膜の耐水性を向上させるために、本発明の効果を損なわない範囲で水分散性樹脂を用いることが出来る。水分散性樹脂としては特に限定されるものではないが、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ブタジエン系樹脂、石油系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミノ酸、デキストリン、ペクチン、アルギニン、グリコーゲン、キチン、ポリ核酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、及び、水溶性のビニル系樹脂、例えば、アクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルアミン系樹脂、ポリアリルアミン系樹脂、ポリビニルアピリジン系樹脂、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド系樹脂等が挙げられる。
水分散性樹脂は、記録液中に、通常、0.1〜10重量%、好ましくは、0.5〜5重量%の範囲で用いられる。
【0057】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例、比較例における顔料分散体の粒子径の測定方法、保存安定性、顔料への染料吸着量の評価は下記の方法で実施した。
また、以下の実施例及び比較例で使用した染料は、それぞれ使用に先だってメンブランフィルター濾過等による無機塩、金属塩等の不溶分の除去、晶析による有機不純物の除去を実施し、Ca、Mg、Zn、Fe、Cu、Alの各金属イオンの含有量がそれぞれ100ppm以下とし、夾雑物を低減したものを使用した。
【0058】
(1) 粒子径
インクジェット用記録液を脱イオン水で10000倍に希釈し、大塚電子(株)DLS7000でHe−Neレーザーを用いて測定し、平均粒子径の値をCumulant法により算出した。
【0059】
(2)保存安定性
インクジェット用記録液を、23℃、相対湿度50%の恒温室に一週間静置し、容器下部から抜き出したインクジェット用記録液の粒子径を測定し、調製直後のインクジェット用記録液における粒子径との比較をおこない保存安定性を評価した。
【0060】
(3)染料吸着量
染料吸着量の測定は、以下に示す方法で行った。すなわち、23℃で、赤色顔料を固形分量で4.1g(分散液中の顔料量)及び染料を固形分量で0.4g(分散液中の総染料量)秤量し、これに水を加えて全量を50gとし、0.5mmφのジルコニアビーズ75gとともに、ペイントシェーカー(浅田鉄工(株)製;ペイントシェーカーPC 振動数535rpm(50Hz))で6時間分散処理をおこない、分散液を得た。得られた分散液を、室温下でインバータ・マイクロ遠心機1120(久保田製作所(株)製)により14000rpm(遠心力:17968×g)、3時間遠心分離処理をおこない上澄み液を得た。
上記上澄み液及び上記分散液中の総染料と同濃度、即ち0.87wt%の染料水溶液(染料水溶液と略称する)を、日立製作所(株)製のHPLC装置(検出器:L−7420形、ポンプ:L−7110形)で以下の条件で測定をおこない、得られる染料由来のHPLCピーク面積をもとに、以下の式により染料吸着率及び染料吸着量を求めた。
【0061】
Figure 0004167053
【0062】
【数5】
Figure 0004167053
【数6】
Figure 0004167053
【0063】
(4) 印字テスト
黒色用カートリッジにインクを充填した後、DeskJet990Cxiプリンター(ヒューレットパッカード(株)製)及びBJ−F870プリンター(キャノン(株)製)により、普通紙(Xerox(株)XX4024)に印字を行って、印字可能か否か評価をした。
評価
○:かすれがほとんどない、
×:かすれがひどく字が読めない
また、実施例1〜4については、インクをカートリッジに入れたまま一週間後に再び印字可能か否かについても評価した。
評価
○:一週間後も印字可能
×:一週間後には印字不可
【0064】
実施例1
キナクリドン系赤色顔料PR−122(大日精化工業株式会社;ECR−187;ペースト;固形分量29.7%)13.8g、キサンテン系染料AR−51(C.I.AcidRed51:アルドリッチ(社))10%水溶液4g、脱イオン水32.2gを混合し、0.5mmΦのジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカー(浅田鉄工(株):ペイントシェーカーPC 振動数535rpm(50Hz))を用いて6時間分散して分散液を得た。得られた分散液の染料吸着量は0.07g/gであった。
上記PR−122を40.9g、上記AR−51の10%水溶液13.5g、脱イオン水95.6gを200mlビーカーに秤量し、ビーカーを氷水中に漬け、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所(株);US−300T;使用チップ26mmφ)で3分間分散させ、液温が20℃になってから3分間分散を繰り返し、分散時間がトータル60分になるまで分散し分散液(a)を得た。
分散液(a)調整後直ちに、分散液(a)7.4gに対して、ノニオン性界面活性剤Brij76(ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル(分子量=711.04);アルドリッチ(社))を0.1g、アニオン性界面活性剤SDS(ドデシル硫酸ナトリウム(分子量=288.38);和光純薬工業(株))を0.1g添加し、15分間マグネティックスターラー(1000rpm)で撹拌、更に15分間超音波分散処理をおこない分散液(b)を得た。
【0065】
得られた分散液(b)を以下の処方により、インク化した。
(インクの調整)
分散液(b) 7.6g
脱イオン水 4.6g
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 2.0g
ジエチレングリコール 1.8g
グリセリン 2.0g
トリエタノールアミン 0.2g
尿素 1.8g
上記成分を混合し、15分間マグネティックスターラー(1000rpm)で撹拌、15分間超音波分散処理後、NaOH水溶液でpHを9.6に調整してインクを得た。インクの評価結果を表1及び表2に示す。
【0066】
実施例2
実施例1の分散液(a)を用い、分散液(b)のノニオン性界面活性剤をBrij78(ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(Mw=1151.57;アルドリッチ(社))にした以外は実施例1と同様にして分散液(c)を得た。
得られた分散液(c)を実施例1と同様の添加剤、調整法でインクを得た。インクの評価結果を表1及び表2に示す。
【0067】
実施例3
キナクリドン系赤色顔料PR−122(大日精化工業株式会社;ECR−184)4.1g、アンスラキノン系染料AV−43(C.I.AcidViolet43:東京化成(株))10%水溶液4g、脱イオン水41.9gを混合し、0.5mmΦのジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカー(浅田鉄工(株):ペイントシェーカーPC 振動数535rpm(50Hz))を用いて6時間分散し、分散液(d)を得た。得られた分散液(d)の染料吸着量は0.06g/gであった。
上記PR−122及び上記AV−43の組合せにおいて、実施例1の分散液(a)の調製と同様にして分散液を調整後、直ちにその分散液を用い、実施例1の分散液(b)と同様な界面活性剤、調整法で分散液を得てから、これを用いて実施例1と同様の添加剤、調整法でインクを得た。インクの評価結果を表1及び表2に示す。
【0068】
実施例4
PR−122(大日精化工業株式会社;ECR−184)4.1g、キサンテン系染料AR−87(CI.AcidRed87:東京化成(株))10%水溶液4g、脱イオン水41.9gを混合し、0.5mmΦのジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカー(浅田鉄工(株):ペイントシェーカーPC 振動数535rpm(50Hz))を用いて6時間分散した。得られた分散液(e)の染料吸着量は0.04g/gであった。
上記PR−122及び上記AR−87の組合せにおいて、実施例1の分散液(a)の調製と同様にして分散液を調整後、直ちにその分散液を用い、実施例1の分散液(b)と同様な界面活性剤、調整法で分散液を得てから、これを用いて実施例1と同様の添加剤、調整法でインクを得た。
【0069】
比較例1
実施例1の分散液(a)を用い、分散液(b)の界面活性剤を全量ノニオン性界面活性剤Brij76にした以外は同様に調整を行い分散液(f)を得た。
得られた分散液(f)を実施例1と同様の添加剤、調整法でインクを得た。インクの評価結果を表1及び表2に示す。
【0070】
比較例2
実施例1の分散液(a)を用い、分散液(b)の界面活性剤を全量アニオン性界面活性剤SDSにした以外は同様に調整をおこない分散液(g)を得た。
得られた分散液(g)を実施例1と同様の添加剤、調整法でインクを得た。インクの評価結果を表1及び表2に示す。
【0071】
比較例3
PR−122(大日精化工業株式会社;ECR−184)4.1g、モノアゾ系染料AR−8(C.I.AcidRed8:住友化学工業(株))10%水溶液4g、脱イオン水41.9gを混合し、0.5mmΦのジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカー(浅田鉄工(株):ペイントシェーカーPC 振動数535rpm(50Hz))を用いて6時間分散し分散液(h)を得た。得られた分散液(h)の染料吸着量は0.01g/gであった。
調整後直ちに分散液(h)を用い、実施例1の分散液(b)と同様な界面活性剤、調整法で分散液(i)を得た。分散液(i)を実施例1と同様の添加剤、調整法でインクを得た。インクの評価結果を表1及び表2に示す。この結果は、顔料と染料との分子骨格構造の違いが染料吸着量が少なく物理吸着に劣ることを示している。
【0072】
比較例4
PR−122(大日精化工業株式会社;ECR−184)4.1g、特開平8−218019の実施例1で記載されている赤色染料(下記式1)10%水溶液4g、脱イオン水41.9gを混合し、0.5mmΦのジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカー(浅田鉄工(株):ペイントシェーカーPC 振動数535rpm(50Hz))を用いて6時間分散し、分散液(j)を得た。得られた分散液(j)の染料吸着量は0.01g/gであった。
調整後直ちに分散液(j)を用い、実施例1の分散液(b)と同様な界面活性剤、調整法で分散液(k)を得た。分散液(k)を実施例1と同様の添加剤、調整法でインクを得た。インクの評価結果を表1及び表2に示す。
【0073】
【化11】
Figure 0004167053
【0074】
【表1】
Figure 0004167053
【0075】
【表2】
Figure 0004167053
【0076】
【発明の効果】
本発明によれば赤色顔料と赤色顔料に対して特定な吸着性を有する染料との組合せを選択すること、並びに、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤を組合せて用いることにより、記録液の調製時の分散処理を制御することができ、良好な分散性、並びに、良好な印字性及び保存安定性を有するインクジェット用記録液を得ることができる。

Claims (18)

  1. 水性媒体中に、赤色顔料、染料及び界面活性剤を含有するインクジェット用記録液であって、1)赤色顔料及び染料が、少なくともその一部に、赤色顔料に染料が化学反応を伴わずに可逆的に吸着しているものを含むものであり、2)赤色顔料に化学反応を伴わずに可逆的に吸着している染料が、下記式(I)で表される染料吸着量が0.02g/g以上のものを含み、
    Figure 0004167053
    (ここで、染料吸着率は、上記赤色顔料(4.1g)及び上記染料(0.4g)を用いて界面活性剤の不存在下に調製した分散液から固形分を除去した後の上澄み液、及び、上記染料(0.4g)の水溶液について高速液体クロマトグラフィによりその染料濃度を測定し、得られるピーク面積の比から求められる値である。)、及び、3)界面活性剤として、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とが共存していることを特徴とするインクジェット用記録液。
  2. 赤色顔料に染料が化学反応を伴わずに可逆的に吸着しているものが、赤色顔料と染料とを界面活性剤の不存在下接触混合させて得られるものであることを特徴とする請求項1記載のインクジェット用記録液。
  3. 赤色顔料に化学反応を伴わずに可逆的に吸着している染料が、解離性基を1〜4個有する染料を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット用記録液。
  4. 赤色顔料に化学反応を伴わずに可逆的に吸着している染料が、遊離酸の形がCOOH及びSO3Hの少なくともいずれかで示される解離性基を1〜2個有する染料を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット用記録液。
  5. 染料が化学反応を伴わずに可逆的に吸着している赤色顔料が、キナクリドン系顔料を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット用記録液。
  6. 赤色顔料に化学反応を伴わずに可逆的に吸着している染料が、赤色染料を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェット用記録液。
  7. 染料が化学反応を伴わずに可逆的に吸着している赤色顔料として、平均粒子径500nm以下のものを用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット用記録液。
  8. ノニオン性界面活性剤:アニオン性界面活性剤の比が、1:0.01〜1:5の範囲にあることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のインクジェット用記録液。
  9. アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の重量平均分子量が、2000以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のインクジェット用記録液。
  10. インクジェット用記録液中の顔料の合計量:染料の合計量の比率が、重量比で、1:0.02〜1:1の範囲にあることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のインクジェット用記録液。
  11. 更に、水分散性樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のインクジェット用記録液。
  12. インクジェット用記録液がpH6〜11に調整されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のインクジェット用記録液。
  13. 水性媒体が水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒であり、記録液中における水:水溶性有機溶剤の重量比が、95:5〜50:50であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のインクジェット用記録液。
  14. 赤色顔料、染料及び/又は染料水性媒体溶液、並びに水性媒体を混合して、赤色顔料及び染料の一次分散処理をした後、得られる分散液に、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤、及び/又はこれらの界面活性剤の水性媒体溶液を添加して二次分散処理をおこなうことを特徴とする、染料が化学反応を伴わずに可逆的に吸着している赤色顔料を含み、界面活性剤として、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とが共存している請求項1に記載のインクジェット用記録液の製造方法。
  15. 二次分散処理後の分散液に、追加的な水性媒体及び/又は添加剤を添加することを特徴とする請求項14に記載のインクジェット用記録液の製造方法。
  16. 追加的な水性媒体が水溶性有機溶剤を含み、記録液中の水:水溶性有機溶剤の重量比が、95:5〜50:50であることを特徴とする請求項15に記載のインクジェット用記録液の製造方法。
  17. 追加的な添加剤として、ノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤からなる群から選ばれる表面張力調整剤を添加することを特徴とする請求項15又は16に記載のインクジェット用記録液の製造方法。
  18. 追加的な添加剤である表面張力調整剤として添加されるノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤が、二次分散処理に用いた界面活性剤から選ばれる少なくとも一種の界面活性剤であることを特徴とする請求項15又は17に記載のインクジェット用記録液の製造方法。
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