JP4162376B2 - 平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法 - Google Patents

平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法、詳しくは、粗面化処理後に金属組織模様が観察されない均一な外観と、均一な粗面化面を得ることができる平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、平版印刷版用アルミニウム合金板の製造は、SiやFe等を若干含有するJIS1050相当のアルミニウム合金の溶湯を、半連続鋳造法によって厚さ500mm前後の矩形断面形状の鋳塊に造塊し、鋳塊表皮の不均一な組織部分を面削により除去した後、均質化処理、熱間圧延し、焼鈍工程を介して冷間圧延することにより行われている。
【0003】
この方法により製造された平版印刷版用アルミニウム合金板は、その表面に粗面化処理が施された後、陽極酸化処理が行われ、また必要に応じて親水化処理が施されて平版印刷版用支持体となり、得られた平版印刷版用支持体の表面に感光塗膜を設け、画像露光、現像することにより印刷原版が得られる。
【0004】
上記印刷原版を得るまでの工程中、粗面化処理は、平版印刷版用支持体表面に感光層との密着性や保水性を付与する重要な処理であり、粗面化面は、均一且つ緻密なピットで構成されることが要求され、粗面化面の状態は、印刷原版の性能に著しく大きな影響を及ぼす。また、粗面化処理後の外観の均一性は、印刷原版の品質の優劣を判断する重要な要素の一つであり、粗面化後にムラの無い均一な表面が形成されることも要求される。
【0005】
粗面化方法としては、ボールグレイン、ブラッシグレイン、液体ホーニング法等の機械的粗面化、電気化学的粗面化、化学的粗面化あるいはこれらを組み合わせた方法があるが、最近では、硝酸又は塩酸を主成分とする電解液中でアルミニウム合金板を電気化学的に粗面化する方法、あるいは前記の機械的粗面化と電気化学的粗面化とを組み合わせた方法が一般的に採用されている。なお、粗面化は、アルミニウム合金板表面に直接施されるため、その表面に均一粗面化を妨げない金属組織の均一性が求められている。
【0006】
従来の半連続鋳造法による鋳塊から平版印刷版用アルミニウム合金板を製造する方法においては、鋳塊表皮部に組織の不均一帯が形成されるため、面削によりこれを除去しなければならず、歩留りを低下させる一因となっている。また、面削量や鋳塊表皮組織の不均一層の深さによっては、面削後も有害な組織部分が残存し、平板印刷版用アルミニウム合金板の粗面化後の外観を著しく損なうことが少なくなかった。
【0007】
このため、近年、半連続鋳造法による鋳塊にみられる不均一組織帯が発生し難い双ロール式溶湯圧延法、例えばハンター法、3C法により直接連続鋳造圧延する工程を経て製造される平版印刷版用アルミニウム合金板が開発されている。双ロール式溶湯圧延法は、内部が冷却された一対のロール間にアルミニウム合金の溶湯を供給し、ロールを回転させながら板厚2〜10mm程度の薄板に鋳造する方法であり、得られた薄板は、直接冷間圧延可能な板厚であるため、半連続鋳造法をベースとした製造方法における熱間圧延より後の工程と同様の工程で、平板印刷版用アルミニウム合金板を製造することができる。従って、この方法では、均質化処理や面削、熱間圧延工程が省略され、且つアルミニウム合金の溶湯が急冷凝固するため化合物が微細化され、平版印刷版用アルミニウム合金板の粗面化後の外観や電解ピット形状の均一化に効果が期待され、いくつかの製造方法が開示されている。
【0008】
例えば、Fe:0.8%以下、Si:1.0%以下、Cu:0.2%以下、更にBe:0.0002 〜0.01%及びSn:0.001〜0.10%の1種もしくは2種を含有し、残部がAlと不可避的不純物とからなるアルミニウム合金の溶湯を、双ロール式溶湯圧延法を含む連続鋳造法により厚さ30mm以下の板に鋳造し、これを冷間圧延及び必要に応じて中間焼鈍し、更に最終冷間圧延する平版印刷版支持体用アルミニウム合金板の製造方法(特開平9−234966号公報)、アルミニウム溶湯から双ロールで直接板状に連続鋳造した後、例えば、冷間圧延−焼鈍−冷間圧延のように、冷間圧延、熱処理を各々1回以上行い、更に 矯正を行う平板印刷版用支持体の製造において、連続鋳造後のアルミニウム板の結晶粒径が鋳造進行方向に垂直な断面において2〜500μmであり、且つ最終的な冷間圧延又は焼鈍後のアルミニウム板の結晶粒径が鋳造及び圧延進行方向に垂直な断面において2〜100μmであることを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法(特開平6−218495号公報)が開示されている。
【0009】
しかしながら、Fe、Siを含む溶湯圧延法による連続鋳造圧延板を直接あるいは冷間圧延後に焼鈍した場合、表層部に著しく粗大な再結晶粒が形成されることがあり、上記の方法では、粗面化処理後の均一性が必ずしも確保できないことが確認された。上記の方法のうち前者の方法には、焼鈍を行わない実施形態も開示されているが、この場合も溶湯圧延後の結晶粒組織によっては、粗面化面の均一性が確保できない場合があることがわかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、双ロール式溶湯圧延法により直接連続鋳造圧延する工程を経て製造される平版印刷版用アルミニウム合金板における上記従来の問題を解消するために、合金成分、結晶粒組織、製造工程と粗面化処理後の粗面化面の性状との関係について多角的な試験、検討を行った結果としてなされたものであり、その目的は、粗面化処理後に金属組織模様が観察されない均一な外観と、均一な粗面化面を安定して得ることを可能とする平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明の請求項1による平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、アルミニウム合金の溶湯を双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延した後、得られた鋳造圧延板を冷間圧延を含む工程により加工して平版印刷版用アルミニウム合金板を製造する方法において、アルミニウム合金が、Si:0.20 %以下、Fe:0.08 %〜0.7 %を含有し、残部がAlと各0.15%以下の不可避的不純物とからなり、前記鋳造圧延板の表面における圧延方向に直角方向の結晶粒の平均幅を250μm以下とし、この鋳造圧延板を、熱処理を介することなしに冷間圧延し、または冷間圧延後に熱処理を行わないことを特徴とする。
【0012】
請求項2による平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、アルミニウム合金の溶湯を双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延した後、得られた鋳造圧延板を冷間圧延を含む工程により加工して平版印刷版用アルミニウム合金板を製造する方法において、アルミニウム合金が、Si:0.20 %以下、Fe:0.08 %〜0.7 %を含有し、残部がAlと各0.15%以下の不可避的不純物とからなり、前記鋳造圧延板の表面における圧延方向に直角方向の結晶粒の平均幅を250μm以下とし、この鋳造圧延板を、冷間圧延し得る程度に軟化するが再結晶しないような熱処理を介して冷間圧延し、または冷間圧延後に再結晶しないような熱処理を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項3による平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、請求項2において、前記熱処理が、熱処理温度400℃未満の温度で行われることを特徴とする。
【0014】
請求項4による平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、請求項3において、前記熱処理は、熱処理温度が300℃以上400℃未満の場合には、300℃から熱処理温度T℃までの昇温時間と熱処理温度T℃での保持時間と熱処理温度T℃から300℃までの降温時間との和が(2400−6T)分以下となるようにし、熱処理温度が150℃以上300℃未満の場合には、熱処理時間を10時間以下とすることを特徴とする。
【0015】
請求項5による平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、請求項1〜4において、前記双ロール式溶湯圧延法において、アルミニウム合金の溶湯が双ロールに達するまでの間にアルミニウム合金の溶湯にTi、TiとB、またはTiとCを、鋳造圧延板中の含有量がTiの場合は0.001%以上、TiとBの場合はTi0.0005%以上、B1ppm 以上、TiとCの場合はTi0.0005%以上、C1ppm 以上となるよう添加し、該添加位置から双ロールのロール間に達するまでのアルミニウム合金の溶湯の流速を20cm/分以上として、アルミニウム合金の溶湯が前記添加位置からロール間に達するまでの時間を1〜60分とすることを特徴とする。
【0016】
また、請求項6による平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、請求項5において、アルミニウム合金溶湯を双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延した後の冷却過程で、連続鋳造圧延板を300〜400℃の温度域で10秒〜2時間保持することを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法における(1)合金成分の意義およびその限定理由、(2)製造工程の意義およびその限定理由について説明する。
(1)合金成分の意義およびその限定理由
Feは、溶湯圧延時にAl−Fe−Si系やAl−Fe系の微細な化合物を生成して、粗面化面のピット形状を均一化するよう機能する。Feの好ましい含有範囲は、0.08%〜0.7 %であり、0.08%未満では微細なAl−Fe−Si系化合物やAl−Fe系化合物が不足し、粗面化面の均一性を向上させる効果が小さくなり、0.7 %を越えて含有すると、上記の化合物が粗大化し、粗面化面の均一性を損なう。
【0018】
Siは、単体粒子で存在する場合、電解粗面化面の陽極酸化性を阻害し、印刷汚れの原因となるため、一般的にその含有量は厳しく制限される。特に、DC鋳造法では、Siと化合物を生成することによりSiを無害化する作用のあるFeが、均質化処理の際にAl−Fe系化合物を優先して生成するため、均質化処理後や熱間圧延後の冷却時にSiが単体で析出することが多い。これに対して、溶湯圧延法では凝固時に溶湯が急冷されるため、Siの多くがAl−Fe−Si系化合物を生成し、適切な量のFeが材料中に含有していれば、Siの含有量が多くても無害化することができる。Siの好ましい含有範囲は、0.20%以下であり、0.20%を越えると、溶湯圧延後の冷却過程や熱処理の際に単体Siが析出し、印刷汚れが発生し易くなる。なお、その他の不純物は、その各量が 0.15 %以下であれば、本発明の効果を阻害することはない。
【0019】
(2)製造工程の意義およびその限定理由
本発明における製造工程上の第1の特徴は、直接連続鋳造圧延板を、熱処理を介することなしに冷間圧延し、または冷間圧延後に熱処理を行わないことにある。発明者らによる試験の結果、均一の粗面化面の阻害要因となる異常再結晶は、溶湯圧延時の圧延加工が原因となることが見出された。双ロール式溶湯圧延法は、鋳型としてロールを使用するため、凝固とほぼ同時に板に圧延加工が施される。この圧延加工により材料に転位がもたらされ、固溶元素が転位やその集合部に微細に析出し易くなり、析出した微細粒子は、溶湯圧延後の熱処理の際、再結晶に必要な転位の移動を阻害し、再結晶を遅延させるよう作用する。この結果、比較的粗大な化合物や変形帯を核として、一部で再結晶粒が発生すると、その再結晶粒のみが異常成長し、著しく粗大化する。従って、異常再結晶を生成させないようにするためには、溶湯圧延で得られた鋳造圧延板を再結晶させない、すなわち再結晶のための熱処理を行わないことである。
【0020】
本発明における製造工程上の第2の特徴は、鋳造圧延板を、冷間圧延し得る程度に軟化するが再結晶しないような熱処理を介して冷間圧延し、または冷間圧延後に再結晶しないような熱処理を行うことにある。このような熱処理を行うことにより、省エネルギーの面では、上記の熱処理を行わない手法には劣るが、材料強度を広範囲で調整し易くなり、更に冷間圧延性も向上させることができるという利点がある。この場合、熱処理温度は400℃未満とするのが好ましい。400℃以上の温度で熱処理した場合には異常再結晶粒が生じ易くなる。
【0021】
具体的な熱処理の態様としては、熱処理温度が300℃以上400℃未満の場合には、300℃から熱処理温度T℃までの昇温時間(t1 )と熱処理温度T℃での保持時間(t2 )と熱処理温度T℃から300℃までの降温時間(t3 )との和(t1 +t2 +t3 )が(2400−6T)分以下となるようにする。この時間が上限を越えると、異常再結晶粒が部分的あるいは全面で発生し易く、外観を著しく損なうことになる。熱処理温度が150℃以上300℃未満の場合には、熱処理を長時間施しても再結晶しにくいが、生産性を阻害しない実用的な熱処理時間は10時間以下とするのが好ましい。熱処理温度が150℃未満では、材料を軟化させるのに極めて長時間の保持が必要となるか、あるいは軟化させる効果がないため、熱処理温度としては実用的ではない。
【0022】
上記の熱処理は、溶湯圧延直後、溶湯圧延後の冷間圧延の途中工程(中間熱処理あるいは中間焼鈍)、最終冷間圧延後のいずれのタイミングで行ってもよい。
【0023】
溶湯圧延後の結晶粒組織は、粗面化面の均一性に大きく影響する。結晶粒は、その金属学的な方位によりその化学的な特性が異なるから、結晶粒が粗大であると、化学的特性の異なる粗大な部分が疎らに存在することになり、粗面化面の外観の均一性が著しく損なわれる。また、溶湯圧延法により得られる鋳造圧延板の板厚は薄く、所定板厚にするまでに大きな加工度を付与することができないため、冷間圧延を行っても溶湯圧延後の結晶組織の影響が残り易い。圧延方向に直角方向の結晶粒界は、圧延によって引き延ばされ粒界としての特性が緩和されるが、圧延方向の結晶粒界は明瞭に残存し、粗面化面の外観の均一性を損なう。
【0024】
粗面化後に結晶粒組織が模様として観察されないようにするために、鋳造圧延板表面における圧延方向に直角方向の結晶粒の平均幅を250μm以下とするのが好ましい。このような微細な結晶粒は、双ロール式溶湯圧延法において、アルミニウム合金の溶湯が溶解・保持炉、溶湯処理槽、樋、ノズルを通して給送され双ロールに達するまでの間にアルミニウム合金の溶湯にTi、TiとB、またはTiとCを添加し、この添加位置から双ロールのロール間に達するまでのアルミニウム合金の溶湯の流速を20cm/分以上として、アルミニウム合金の溶湯が前記添加位置からロール間に達するまでの時間を1〜60分とすることにより得られ易い。
【0025】
Tiは、鋳造圧延板中において0.001 %以上となるよう添加する。TiとBは、Ti0.0005%以上、B1ppm以上となるよう添加する。また、TiとCは、Ti0.0005%以上、C1ppm以上となるように添加する。
【0026】
また、溶湯圧延後の冷却過程において、鋳造圧延板を300〜400℃の温度域に10秒間〜2時間保持することにより、その表層部を微細に再結晶させることができ、粗面化後の外観を均一にするのにより効果的である。なお、この場合の再結晶は、溶湯圧延後の冷却過程で生じることがあるもので、溶湯圧延時の熱間加工により導入された転位が再配列し、冷却過程で再結晶化したものであり、溶湯圧延後の工程で生じた再結晶とは生成機構が異なるものである。従って、溶湯圧延後の冷却過程においては、異常再結晶が発生することはない。
【0027】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。なお、これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明がこれらに限定されるものではない。
実施例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金(合金No.A)の溶湯を、双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延して、板厚6mmの鋳造圧延板(鋳造圧延板No.1)を得た。なお、双ロールに達するまでの間にアルミニウム合金の溶湯に結晶粒微細化剤Al−5%Ti−0.2%B合金を添加し、結晶粒微細化剤の添加位置から双ロールのロール間に達するまでのアルミニウム合金の溶湯の流速を50cm/分以上として、アルミニウム合金の溶湯が前記添加位置からロール間に達するまでの時間を3分とした。
【0028】
得られた鋳造圧延板No.1について、下記の方法に従って(1)結晶幅の測定を行った。
(1)結晶幅の測定
鋳造圧延板の表面を塩酸、硝酸、フッ酸を含む25℃のタッカー氏液中に10秒間浸漬してエッチングした後、投影機にて20倍に拡大した組織写真を撮影し、次いで、この組織写真上の任意の位置で鋳造方向に対して直角方向に50mmの直線を3本引き、この直線と交わる結晶粒界の数から平均結晶幅を算出する。
【0029】
次に、鋳造圧延板No.1を冷間圧延して、板厚0.24mmのアルミニウム合金板(冷延板No.1)とし、この冷延板No.1の表面に、苛性ソーダ水溶液によるアルカリエッチングと硝酸液によるデスマット処理を施した後、この表面を1.6%硝酸水溶液中で交番的に極性が入れ替わる交流電解により、陽極時電気量が350クーロン/dm2 となる条件で粗面化した。更に、この粗面化面を硫酸で洗浄した後、硫酸を主体とする電解液中で粗面化面に陽極酸化皮膜を設け、平版印刷版用アルミニウム合金板(試験材No.1)を得た。
【0030】
冷延板No.1および得られた試験材No.1について、以下の項目について評価した。
(2)単体Siの析出
粗面化を行う前の冷延板について、単体Siの析出状況を透過型電子顕微鏡で観察し、単体Siの有無を評価する。
(3)電解ピットの均一性
粗面化後、硫酸での洗浄を終えた陽極酸化被膜形成前の試験材について、その表面を走査型電子顕微鏡により観察し、電解ピットの均一性を評価する。
(4)外観の均一性
陽極酸化皮膜を設けた試験材の表面を黄色光の下で目視観察し、外観の均一性を評価する。
【0031】
実施例2
表1に示す組成を有するアルミニウム合金(合金No.B)の溶湯を、双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延して、板厚6mmの鋳造圧延板(鋳造圧延板No.2)を得た。なお、双ロールに達するまでの間にアルミニウム合金の溶湯に実施例1と同様にして結晶粒微細化剤Al−5%Ti−0.2%B合金を添加した。
【0032】
得られた鋳造圧延板No.2について、実施例1と同様に(1)結晶幅の測定を行い、その後、実施例1と同様に、板厚0.24mmまで冷間圧延してアルミニウム合金板(冷延板No.2)とし、更にその表面を実施例1と同様に処理して、平版印刷版用アルミニウム合金板(試験材No.2)を作製し、実施例1と同様に(2)単体Siの析出、(3)電解ピットの均一性、(4)外観の均一性を評価した。
【0033】
実施例3
表1に示す組成を有するアルミニウム合金(合金No.C)の溶湯を、双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延して、板厚3mmの鋳造圧延板(鋳造圧延板No.3)を得た。なお、双ロールに達するまでの間にアルミニウム合金の溶湯に実施例1と同様にして結晶粒微細化剤Al−5%Ti−0.2%B合金を添加した。
【0034】
得られた鋳造圧延板No.3について、実施例1と同様に(1)結晶幅の測定を行い、その後、実施例1と同様に、板厚0.24mmまで冷間圧延してアルミニウム合金板(冷延板No.3)とし、更にその表面を実施例1と同様に処理して、平版印刷版用アルミニウム合金板(試験材No.3)を作製し、実施例1と同様に(2)単体Siの析出、(3)電解ピットの均一性、(4)外観の均一性を評価した。
【0035】
実施例4
表1に示す組成を有するアルミニウム合金(合金No.D)の溶湯を、双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延して、板厚3mmの鋳造圧延板(鋳造圧延板No.4)を得た。なお、溶湯圧延後の鋳造圧延板の冷却過程で300〜400℃の温度域で2分間保持し、板表面全体を微細に再結晶させた。
【0036】
その後、実施例1と同様に、板厚0.24mmまで冷間圧延してアルミニウム合金板(冷延板No.4)とし、更にその表面を実施例1と同様に処理して、平版印刷版用アルミニウム合金板(試験材No.4)を作製し、実施例1と同様に(2)単体Siの析出、(3)電解ピットの均一性、(4)外観の均一性を評価した。なお、鋳造圧延板No.4の結晶幅の測定については、表面全体が微細に再結晶し、実施例1と同じ方法による測定が困難であったため、バーカー氏液中で電解エッチングを行い、偏光顕微鏡で200倍に拡大した組織写真から測定した。
【0037】
比較例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金(合金No.E)の溶湯を、双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延して、板厚3mmの鋳造圧延板(鋳造圧延板No.5)を得た。なお、双ロールに達するまでの間にアルミニウム合金の溶湯に実施例1と同様にして、結晶粒微細化剤Al−5%Ti−0.2%B合金を添加した。
【0038】
得られた鋳造圧延板No.5について、実施例1と同様に(1)結晶幅の測定を行い、その後、実施例1と同様に、板厚0.24mmまで冷間圧延してアルミニウム合金板(冷延板No.5)とし、更にその表面を実施例1と同様に処理して、平版印刷版用アルミニウム合金板(試験材No.5)を作製し、実施例1と同様に(2)単体Siの析出、(3)電解ピットの均一性、(4)外観の均一性を評価した。
【0039】
比較例2
表1に示す組成を有するアルミニウム合金(合金No.F)の溶湯を、双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延して、板厚6mmの鋳造圧延板(鋳造圧延板No.6)を得た。なお、双ロールに達するまでの間にアルミニウム合金の溶湯に実施例1と同様にして、結晶粒微細化剤Al−5%Ti−0.2%B合金を添加した。
【0040】
得られた鋳造圧延板No.6について、実施例1と同様に(1)結晶幅の測定を行い、その後、実施例1と同様に、板厚0.24mmまで冷間圧延してアルミニウム合金板(冷延板No.6)とし、更にその表面を実施例1と同様に処理して、平版印刷版用アルミニウム合金板(試験材No.6)を作製し、実施例1と同様に(2)単体Siの析出、(3)電解ピットの均一性、(4)外観の均一性を評価した。
【0041】
比較例3
表1の合金No.Aのアルミニウム合金の溶湯を、双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延して、板厚6mmの鋳造圧延板(鋳造圧延板No.7)を得た。なお、双ロールに達するまでの間にアルミニウム合金の溶湯に実施例1と同様にして結晶粒微細化剤Al−5%Ti−0.2%B合金を添加した。
【0042】
得られた鋳造圧延板No.7について、実施例1と同様に(1)結晶幅の測定を行い、その後、実施例1と同様に、板厚0.24mmまで冷間圧延してアルミニウム合金板(冷延板No.7)とし、更にその表面を実施例1と同様に処理して、平版印刷版用アルミニウム合金板(試験材No.7)を作製し、実施例1と同様に(2)単体Siの析出、(3)電解ピットの均一性、(4)外観の均一性を評価した。
【0043】
比較例4
表1の合金No.Bのアルミニウム合金の溶湯を、双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延して、板厚6mmの鋳造圧延板(鋳造圧延板No.8)を得た。なお、双ロールに達するまでの間にアルミニウム合金の溶湯に実施例1と同様にして結晶粒微細化剤Al−5%Ti−0.2%B合金を添加した。
【0044】
得られた鋳造圧延板No.8について、実施例1と同様に(1)結晶幅の測定を行い、その後、実施例1と同様に、板厚0.24mmまで冷間圧延してアルミニウム合金板(冷延板No.8)とし、更にその表面を実施例1と同様に処理して、平版印刷版用アルミニウム合金板(試験材No.8)を作製し、実施例1と同様に(2)単体Siの析出、(3)電解ピットの均一性、(4)外観の均一性を評価した。
【0045】
比較例5
表1の合金No.Cのアルミニウム合金の溶湯を、双ロール式溶湯圧延法で直接連続鋳造圧延して、板厚3mmの鋳造圧延板(鋳造圧延板No.9)を得た。なお、双ロールに達するまでの間にアルミニウム合金の溶湯に実施例1と同様にして結晶粒微細化剤Al−5%Ti−0.2%B合金を添加した。
【0046】
得られた鋳造圧延板No.9について、実施例1と同様に(1)結晶幅の測定を行い、その後、実施例1と同様に、板厚0.24mmまで冷間圧延してアルミニウム合金板(冷延板No.9)とし、更にその表面を実施例1と同様に処理して、平版印刷版用アルミニウム合金板(試験材No.9)を作製し、実施例1と同様に(2)単体Siの析出、(3)電解ピットの均一性、(4)外観の均一性を評価した。
【0047】
実施例1〜4および比較例1〜5の測定、評価結果を表1および表2に示す。表1および表2に示すように、本発明に従う実施例1〜4においてはいずれも、鋳造圧延板表面における圧延方向に直角な方向の結晶粒の平均幅長さは250μm以下で、単体Siの析出がなく、電解ピットの均一性、外観の均一性に優れ、平板印刷版用アルミニウム合金板として満足すべきものであった。これに対して、比較例1〜2については、合金組成が本発明の範囲を外れているため、電解ピットの均一性あるいは単体Si量に問題があり、また比較例3〜5については、溶湯圧延後の結晶幅が大きいため、いずれも試験材の外観が不均一であった。
【0048】
【表1】
Figure 0004162376
《表注》合金組成:Si、Fe、Tiは質量%(mass%)、B はppm
【0049】
【表2】
Figure 0004162376
【0050】
実施例5
表1に示す実施例1〜4における鋳造圧延板No.1〜4を用いて、下記A、B、C、Dの各条件で板厚0.24mmのアルミニウム合金板を作製し、得られたアルミニウム合金板の表面を実施例1と同様に処理して、平版印刷版用アルミニウム合金板(試験材No.10〜25)を得た。
【0051】
得られた試験材について、実施例1と同様に(2)単体Siの析出(異常再結晶の有無)、(3)電解ピットの均一性、(4)外観の均一性の項目について評価を行った。また、粗面化処理を行う前のアルミニウム合金板から、JIS5号引張試験片を圧延方向と引張試験での負荷方向とが平行になるように採取して、(5)引張強さを評価した。
【0052】
条件A:溶湯圧延後、鋳造圧延板を厚さ0.24mmまで冷間圧延し、300℃から380℃(熱処理温度)までの昇温時間、380℃での保持時間および380℃から300℃までの降温時間の和が15秒間となる条件で熱処理を施す。
条件B:溶湯圧延後、鋳造圧延板を厚さ0.24mmまで冷間圧延し、300℃から340℃(熱処理温度)までの昇温時間、340℃での保持時間および340℃から300℃までの降温時間の和が4時間となる条件で熱処理を施す。
【0053】
条件C:溶湯圧延後、鋳造圧延板を板厚0.8mmまで冷間圧延し、300℃から310℃(熱処理温度)までの昇温時間、310℃での保持時間および310℃から300℃までの降温時間の和が4時間となる条件で熱処理を施した後、厚さ0.24mmまで冷間圧延する。
条件D:溶湯圧延後、鋳造圧延板を厚さ1.2mmまで冷間圧延し、200℃で2時間保持する熱処理を施した後、厚さ0.24mmまで冷間圧延する。
【0054】
評価結果を表3に示す。表3にみられるように、実施例5の試験材No.10〜25はいずれも、異常再結晶が無く、外観の均一性に優れ、電解ピットも均一であり、種々の引張強度のものを得ることができた。
【0055】
【表3】
Figure 0004162376
【0056】
比較例6
表1に示す実施例1〜4における鋳造圧延板No.1〜4を用いて、下記E、Fの各条件で板厚0.24mmのアルミニウム合金板を作製し、得られたアルミニウム合金板の表面を実施例1と同様に処理して、平版印刷版用アルミニウム合金板(試験材No.26〜33)を得た。
【0057】
得られた試験材について、実施例1と同様に(2)単体Siの析出(異常再結晶の有無)、(3)電解ピットの均一性、(4)外観の均一性の項目について評価を行った。また、実施例5と同様に、(5)引張強さを評価した。
【0058】
条件E:溶湯圧延後、鋳造圧延板を厚さ0.24mmまで冷間圧延し、300℃から400℃(熱処理温度)までの昇温時間、400℃での保持時間および400℃から300℃までの降温時間の和が15秒間となる条件で熱処理を施す。
条件F:溶湯圧延後、鋳造圧延板を厚さ0.8mmまで冷間圧延し、300℃から350℃(熱処理温度)までの昇温時間、350℃での保持時間および350℃から300℃までの降温時間の和が10時間となる条件で熱処理を施した後、厚さ0.24mmまで冷間圧延する。
【0059】
評価結果を表4に示す。表4に示すように、比較例6の各試験材においては、部分的あるいは全面で異常再結晶が発生し、外観が不均一となった。なお、単体Siは、本発明の実施例1〜4における鋳造板No.1〜4を用いているため、問題が生じていない。
【0060】
【表4】
Figure 0004162376
【0061】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明によれば、双ロール式溶湯圧延法を使用することにより、歩留り向上や工程上の簡略化の要求を満足し、且つ最終的に得られたアルミニウム合金板に粗面化を施した場合、金属組織模様が観察されない均一な外観と、均一な粗面化面とを得られる平版印刷版用アルミニウム合金板が製造される。当該平版印刷版用アルミニウム合金板は品質の良い印刷版となり、良好な印刷原板を得ることができる。

Claims (6)

  1. アルミニウム合金の溶湯を双ロール式溶湯圧延法により直接連続鋳造圧延した後、得られた鋳造圧延板を冷間圧延を含む工程により加工して平板印刷版用アルミニウム合金板を製造する方法において、アルミニウム合金が、Si:0.20 %(質量%、以下同じ)以下、Fe:0.08 %〜0.7 %を含有し、残部がAlと各0.15%以下の不可避的不純物とからなり、前記鋳造圧延板の表面における圧延方向に直角な方向の結晶粒の平均幅を250μm以下とし、鋳造圧延板を、熱処理を介することなしに冷間圧延し、且つ冷間圧延後に熱処理を行わないことを特徴とする平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
  2. アルミニウム合金の溶湯を双ロール式溶湯圧延法により直接連続鋳造圧延した後、得られた鋳造圧延板を冷間圧延を含む工程により加工して平板印刷版用アルミニウム合金板を製造する方法において、アルミニウム合金が、Si:0.20 %以下、Fe:0.08 %〜0.7 %を含有し、残部がAlと各0.15%以下の不可避的不純物とからなり、前記鋳造圧延板の表面における圧延方向に直角な方向の結晶粒の平均幅を250μm以下とし、鋳造圧延板を、冷間圧延し得る程度に軟化するが再結晶しないような熱処理を介して冷間圧延し、または冷間圧延後に再結晶しないような熱処理を行うことを特徴とする平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
  3. 前記熱処理が、熱処理温度400℃未満の温度で行われることを特徴とする請求項2記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
  4. 前記熱処理は、熱処理温度が300℃以上400℃未満の場合には、300℃から熱処理温度T℃までの昇温時間と熱処理温度T℃での保持時間と熱処理温度T℃から300℃までの降温時間との和が(2400−6T)分以下となるようにし、熱処理温度が150℃以上300℃未満の場合には、熱処理時間を10時間以下とすることを特徴とする請求項3記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
  5. 前記双ロール式溶湯圧延法において、アルミニウム合金の溶湯が双ロールに達するまでの間にアルミニウム合金の溶湯にTi、TiとB、またはTiとCを、鋳造圧延板中の含有量がTiの場合は0.001%以上、TiとBの場合はTi0.0005%以上、B1ppm 以上、TiとCの場合はTi0.0005%以上、C1ppm 以上となるよう添加し、該添加位置から双ロールのロール間に達するまでのアルミニウム合金の溶湯の流速を20cm/分以上として、アルミニウム合金の溶湯が前記添加位置からロール間に達するまでの時間を1〜60分とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
  6. アルミニウム合金溶湯を双ロール式溶湯圧延法により直接連続鋳造圧延した後の冷却過程で、鋳造圧延板を300〜400℃の温度域で10秒〜2時間保持することを特徴とする請求項1〜5記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
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