JP4159406B2 - 緑化用蘚苔類植物担持体および緑化用苔植物担持体の製造方法 - Google Patents
緑化用蘚苔類植物担持体および緑化用苔植物担持体の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建造物の屋上や壁面、法面等を蘚苔類植物により緑化するのに好適に用いることができる緑化用蘚苔類植物担持体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
夏場において、とりわけ大都市においては、都心の温度が郊外と比べ4〜6度も高くなる、いわゆるヒートアイランド現象が問題視されており、例えば東京都においては、既に条例により建造物の占める面積に対し、一定の割合で緑化を義務づける条例が施工されている区も出てきている。
【0003】
建造物において、緑化を行うのであれば、緑化が可能な部位は、屋上か壁面に限られる。これらの箇所に樹木や芝生等の土壌を必要とする植物を適用する場合、まず問題となるのがその重量であり、土壌の重量を建造物が支えることが出来ない場合には、それらを用いて緑化を行うことは困難である。また、壁面に緑化を施す場合においては植栽枡を設ける等、複雑な機構を必要とするものとなる。また、灌漑設備が必要である場合も多く、設備が複雑となるとともにメンテナンスが必要である。植物自体も定期的な手入れを行う必要もあり、壁面などは非常に手間がかかる作業となる。
【0004】
これらの解決方法として、蘚苔類植物を用いて緑化を行う提案が近年なされてきている。蘚苔類植物を用いることで、従来用いられてきた例えば樹木や芝生、セダム等の多肉植物などとは異なり、殆ど土壌を必要とすることなく生育させて構造物の屋上や壁面等を緑地とすることができる、また、蘚苔類植物は、保水性が高く、自重の10〜20倍の水分を保水することができ、保持した水分や、その水分の蒸散により、建造物の温度を下げてヒートアイランド現象の軽減を好適に図ることができる。
【0005】
また蘚苔類植物は乾燥状態が続いても仮死状態となるだけで枯死することがなく、降雨などにより再度水が与えられると再生することから潅水する必要がなく、従って潅水にかかわる設備も必要としない。さらには、光合成の効率も樹木や芝生と大差ないものであるから、炭酸ガスの固定化にも高いレベルで貢献できるものである。
【0006】
これらの蘚苔類植物の特性を活用し、緑化に用いるべく種々の発明が提案されてきており、シート状やマット状に蘚苔類植物担持体を形成し、それらを屋上や壁面に取り付けたり、また蘚苔類植物を含有した塗料を、壁面や法面に吹き付けるといった方法が提案されてきている。
【0007】
例えば、蘚苔類植物を紙繊維に固定した緑化用固定物(特許文献1)や、蘚苔類植物を基板平面状に縫製部によって固定した緑化用基板(特許文献2)が提案されている。これらのシート状の緑化用固定物や緑化用シートは、対象物に貼着等により固定しておくことで容易に緑化が可能なものであり、屋上や壁面、法面等に好適に用いることができるものである。
【0008】
【特許文献1】
特開平7−227142
【特許文献2】
特開平7−227143
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、蘚苔類植物を紙繊維に固定したり、縫製部により固定する方法では、蘚苔類植物が緑化用固定物や基板から脱落する恐れがある。特に設置した直後は、蘚苔類植物の密度も低い状態であり脱落が起こりやすい。逆にしっかりと蘚苔類植物を固定し、過度に保護すると、日光が当たらなくなったり、蘚苔類植物の生育を阻害することもありうる。
【0010】
また、従来の蘚苔類固定物は、蘚苔類が表面に直接露出しており、降雨後、太陽光や風により表面がすぐに乾燥してしまい、蘚苔類植物の生育にとって十分に保水がなされておらず、生育の速度が遅かった。
【0011】
また、蘚苔類植物は緑化に対して、前述のように非常に有用であるが、一般的な外観の印象はあまり良好ではなく、特に初期においては、蘚苔類の密度も低いため外観上も好ましくない。
【0012】
そこで本発明は上記の如き問題点に鑑みてなされたものであり、建造物の屋上や壁面、法面等の緑化に好適に用いることができる緑化用蘚苔類植物担持体を提供せんとするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は次のような構成としている。すなわち、本発明の緑化用蘚苔類植物担持体は、2つの繊維集合体の間に蘚苔類植物を挟み、機械的絡合手段により前記2つの繊維集合体をその繊維同士を部分的に絡ませて積層一体化された積層体が構成されており、前記双方の繊維集合体の繊維を互いに他方の繊維集合体の表面より突出させないで絡ませた部分と、いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分とを混在させ、前記表面より突出させないで絡ませた部分によって、前記繊維集合体双方を結合しつつ蘚苔類植物の生育スペースを確保する構成とし、さらに前記積層体には、前記蘚苔類植物を保護するとともに、前記積層体を結合する人工芝葉状体が前記積層体を貫くように植設されたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば、2つの繊維集合体との間に蘚苔類植物を挟み込み、機械的絡合手段によって、繊維集合体の繊維同士を絡めて、その間に蘚苔類植物を固定することで、蘚苔類植物を積層一体化させて、積層体を形成することができる。このようにすれば、接着剤や粘着剤などを用いる必要もなく、また糸を用いて縫製などにより固定することもなく、蘚苔類植物が均一に分散した積層体を形成することができる。接着剤などを用いる必要がないため、薬剤から出る成分が蘚苔類植物に悪影響を及ぼす心配もなく、接着剤自身が立体的障害となったり植物どうしが接着されたりして生育が阻害される懸念もない。また、繊維以外に植物を留める糸なども必要ないことから工程が簡略となる。
【0015】
機械的絡合手段としては、ニードルパンチや水流絡合等の手段が挙げられ、繊維同士を部分的に絡ませることができれば特に限定されるものではないが、乾燥工程を必要としないニードルパンチによる絡合が好適に用いられる。蘚苔類植物は、繊維集合体の細かい繊維が絡みながら緻密に固定されており、その脱落を良好に防ぐことができるとともに、植物の自由度も高いため、生育を阻害することがない。
【0016】
また、前記積層体には人工芝葉状体が植設されており、外見を人工芝生のように見せることができる。また、人工芝葉状体を積層体を貫くように植設しており、積層体を強固に結合させておくことができる。さらに、人工芝が取り付けられていることによって、外観を植物様にすることができ、さらに外観を向上させることができる。特に、蘚苔類植物担持体の施工初期においては、蘚苔類植物は、生育が十分でないため担持体の中に埋没している。ヒートアイランド現象の緩和や二酸化炭素の固定化という植物の作用は発揮されるものの、外観上の緑化が不足している。人工芝を取り付けることによって、施工初期から外観上も生き生きとした緑化資材を提供することができる。
【0017】
また、本発明の蘚苔類植物担持体の設置場所によっては、風雨が非常に強い場所も想定される。たとえば、高層建築物の屋上や道路近傍の垂直壁面などは強い風や雨などが直接吹き付ける。この様な場所でも、人工芝が表面にあることによって、あたかも防風林のように蘚苔類植物を風雨などから保護する効果もあり、また踏み付けなどからの保護にもなる。
【0018】
また、表面層に林立している人工芝は、蘚苔類植物の生育を助ける役割も果たすことができる。林立した人工芝が表面層の空気を滞留させ、水分の蒸発を抑えて乾燥を遅くすることができたり、降雨による水を林立した人工芝で効率よく受け止めたり、水を保持することもできるため、蘚苔類植物の湿潤状態を長時間保持することができる。これにより、発芽率が向上し、また生育を促進することができる。
【0019】
また、少なくとも一方の繊維集合体は繊維ウェッブであって、繊維ウェッブを構成する繊維は0.1〜15デニールであるとともに平均繊維長が40〜100mmであり、目付け量は10〜50g/平米であることを特徴とするものである。
【0020】
繊維ウェッブは、ワタ状の繊維のかたまりであって、繊維と繊維のすき間が多い。この繊維ウェッブをニードルパンチのような機械的絡合手段で押し込めば、繊維の一本一本が内部に侵入しやすく、また絡まりやすいため、比較的少ない量で好適に蘚苔類植物を固定することができる。また、すき間が大きく、繊維の使用量も比較的少ないので、蘚苔類植物の生育を阻害しにくいとともに、生育に必要な太陽光も内部の蘚苔類植物まで行き届く。
【0021】
繊維ウェッブの太さは、ニードルパンチなどの機械的絡合手段により蘚苔類植物や繊維集合体に入り込んで絡み合い、これらを一体化できる太さであれば、特に限定されるものではないが、0.1〜50デニール程度が好ましい。これ以上細いと、繊維は抜けやすくなりまた、接合強度が弱くなってしまい、逆にこれ以上太いと、繊維どうしや蘚苔類植物との絡み合い度合いが低下して、蘚苔類の担持力が落ちてしまったり、蘚苔類の生育を立体的に阻害する可能性もある。
【0022】
繊維ウェッブの繊維の長さは、平均で40〜100mm程度のものを用いるとよく、これ以上短いと繊維同士が絡合しにくく、十分な接合強度を発現することができない。また、逆に長すぎると、絡み合いが強すぎるため、固定化されている蘚苔類植物の自由度が低下してしまったり、絡み合いが大きく取り扱いにくくなる。
【0023】
また、ウェブ繊維の目付け量は、10〜50g/平米がよく、さらに好ましくは、15〜30g/平米がよい。これ以上少ないと、蘚苔類植物が風雨や踏み付けなどで脱落してしまう可能性があり、逆にこれ以上大きいと、太陽光や水分が十分にあたらないため蘚苔類植物の生育を阻害してしまう可能性がある。
【0024】
また、繊維集合体は、水溶性繊維と非水溶性繊維からなることを特徴とするものである。
【0025】
前記繊維集合体の繊維には、水溶性繊維が混合されていてもよい。上側面の繊維集合体に水溶性繊維を混合させておけば、蘚苔類植物が脱落し易い配置初期において、適度な水分を表面に与えることにより、水溶性繊維の一部が溶解して粘着性を発現し、蘚苔類植物が担持体から脱落するのを防止することができる。また水溶性繊維は、時間と共に雨水等で流されて消失するため、繊維の目が適度に粗くなり、蘚苔類植物が繊維の網目を通りやすくなり、蘚苔類植物の生育を妨げない。繊維の目が粗くなることで太陽光も全体に行き渡る。また、生育とともに蘚苔類植物は初期のような緻密な繊維による固定は不要となるので、水溶性繊維を混合させておくことによって、時間と共にその繊維の密度を減らして、緑化度合いを促進することが出来る。また、すべてを水溶性繊維とせず、非水溶性繊維も混合されているので、水溶性物質が完全に流されてしまっても、繊維は残り、蘚苔類植物の脱落を長期に渡り防ぐことが出来る。
【0026】
また、双方の繊維集合体の繊維を互いに他方の繊維集合体の表面より突出させないで絡ませた部分と、いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分とを混在させたことを特徴とするものである。
【0027】
双方の繊維集合体の繊維を互いに他方の繊維集合体の表面より突出させないで絡ませた部分と、いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分とを混在させることにより、蘚苔類植物の生育を阻害せずに、十分な生育スペースを確保できるとともに強固に全体を一体化できる。
【0028】
すなわち、双方の繊維集合体の繊維を互いに他方の繊維集合体の表面より突出させないで絡ませた部分は、繊維集合体同士を内部で適度に蘚苔類植物の自由度を保ちながら、蘚 苔類植物を固定化する。また、いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分は、どちらか一方の繊維集合体を構成する繊維を他方側まで貫いて突出させるとともに繊維に絡ませているので、二つの繊維集合体と蘚苔類植物とを強固に一体化させている。ただし、繊維を他方側まで貫いているので、必然的にその部分には蘚苔類植物が生育するスペースがない。
【0029】
これら双方の繊維集合体の繊維を互いに他方の繊維集合体の表面より突出させないで絡ませた部分と、いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分とが混在していることにより、蘚苔類植物が脱落しないようにしながら生育するスペースを確保し、さらに強固にシート状に一体化させることができる。
【0030】
いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分は、繊維が表面より突出しているために蘚苔類植物を外部から保護する働きもあり、また、植物が植生されているかのように見えるため、外観も向上させることもできる。特に、蘚苔類植物担持体の施工初期においては、蘚苔類植物は、生育が十分でないため担持体の中に埋没している。ヒートアイランド現象の緩和や二酸化炭素の固定化という植物の作用は発揮されるものの、外観上の緑化が不足している。繊維が表面より突出していることによって、施工初期から外観上も植物様に見え、生き生きとした緑化資材を提供することができる。
【0031】
また、本発明の蘚苔類植物担持体の設置場所によっては、風雨が非常に強い場所も想定される。たとえば、高層建築物の屋上や道路近傍の垂直壁面などは強い風や雨などが直接吹き付ける。この様な場所でも、繊維が表面より突出していることで、風雨などから保護する効果もあり、また踏み付けなどからの保護にもなる。さらに、表面層に繊維が林立しているので、表面層の空気を滞留させ、水分の蒸発を抑えて乾燥を遅くすることができたり、降雨による水を効率よく受け止めたり、水を保持することもでき、蘚苔類植物の生育を助ける効果もある。
【0032】
また、双方の繊維集合体の繊維を互いに他方の繊維集合体の表面より突出させないで絡ませた部分は、1平方センチメートルあたり10〜80個の密度で形成されていることを特徴とするものである。
【0033】
双方の繊維集合体の繊維を互いに他方の繊維集合体の表面より突出させないで絡ませた部分は、繊維集合体同士を内部で適度に蘚苔類植物の自由度を保ちながら、蘚苔類植物を固定化している。この部分に1平方センチメートルあたり80個以上に繊維同士を絡ませた部分があると結合は強固になるが、蘚苔類植物の自由度が低下してしまい、生育を阻害する可能性がある。また、機械的絡合手段がニードルパンチである場合、ニードルパンチの回数が多くなり蘚苔類への損傷が大きくなってしまう。また逆に、繊維同士の絡合が少ないと十分に接合されなく、蘚苔類植物や繊維が脱落する恐れがある。
【0034】
いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分は、U字型の凹みを有する針を先端に用いたニードルパンチにより形成されたことを特徴とするものである。
【0035】
いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分を形成するためのニードルパンチの針は、通常のニードルパンチ用の針でもよいが、先端がU字型に凹みを有する針を用いると、一度にニードルパンチで押し込むことのできる繊維数が増え、パイルを太く、効率的に作成することができ、担持体を強く接合させることができる。また、このように一度のニードルの嵌入で、押し込む繊維の量を増やすことができるので、ニードルパンチの回数を減らすことができ、効率が良くなるとともに植物へ与える損傷も少なくすることができる。
【0036】
また、いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分が一定間隔の平行線状に設けられており、この積層体に人工芝葉状体を植設しているとよい。平行線状に複数列の繊維の突出が形成されていれば、美観もよいとともに、強固に担持体を一体化させることができる。また、ニードルパンチなどの機械的絡合手段は通常、連続ラインで行われるため、複数線状になっていると生産効率もよい。
【0037】
このように、積層体の表面より繊維を突出させて絡ませた部分を一定間隔の平行線状に設けた場合、平行線状に突出させた繊維のパターンに垂直に交わるように、人工芝葉状体を植設するとよい。突出した繊維のパターンと人工芝のパターンとにより、積層体は格子状に固定されて、好適に蘚苔類植物の脱落等を防ぐことができる。
【0038】
また、いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分が一定間隔の格子点状に設けられており、この積層体に人工芝葉状体を植設してもよい。繊維の突出部分が格子状に設けられていると、突出した繊維の量が小さく、ニードルパンチの回数を減少させることができる。これにより、工数を減らすことができるとともに、蘚苔類植物への損傷も少なくすることができる。また、蘚苔類植物の生育スペースが広く確保できる。
【0039】
また、緑化用苔植物担持体の製造方法であって、2つの繊維集合体の間に蘚苔類植物を挟み、その両側からニードルパンチの針を穿刺することにより、双方の繊維集合体の繊維を互いに他方の繊維集合体の表面より突出させないで絡ませた部分を形成する第一の工程と、いずれか一方の繊維集合体側からニードルパンチの針を穿刺することにより、該繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分を形成する第二の工程と、一方の繊維集合体から他方の繊維集合体に向って貫くように人工芝葉状体を植設する第三の工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【0040】
【発明の実施の形態】
本発明に係わる実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。図1は、本発明の緑化用蘚苔類植物担持体の実施形態の一例を示した概略図であって、2つの繊維集合体1aと1bとの間に蘚苔類植物2が挟み込まれて、機械的絡合手段により繊維同士が絡まり合い積層一体化されたシート状の積層体10である。その断面図を図2に示す。
【0041】
予め蘚苔類植物を5〜50mm程度の大きさに裁断しておき、繊維集合体上に均等になるように置く。その上から、別の繊維集合体を載せて、2つの繊維集合体1aと1bとの両側からニードルパンチを行う。
【0042】
蘚苔類植物を繊維集合体上に均等に置く場合、裁断した蘚苔類植物をばら撒くようにしても良いし、予め蘚苔類植物をPVAなどの生育に影響のない材料で接着してシート化したものを繊維集合体上に置き、その上から別の繊維集合体を載せても良い。蘚苔類植物を予めシート化しておけば、均一に蘚苔類植物を挟み込むことができるとともに、ニードルパンチで不織布と一体化した後もコケの脱落を好適に防ぐことができる。
【0043】
用いられる蘚苔類植物配偶体の種類は、設置場所によって選定することができる。蘚苔類には大きく分けて、好日性、半日陰性、日陰性のものがあり、それぞれ生育に太陽光が必要なもの、太陽光があまり必要でないもの、太陽光が不要なものがある。例えば、設置方向の関係で太陽光が当たらない場所や、当たりにくい場所には、日陰性、半日陰性の蘚苔類植物を用いると良い。例えば、スナゴケ、ハイスナゴケ、ハイゴケ等は、太陽光が当たるところで用いるとよく、シッポゴケ、カモジゴケ、トヤマシノブゴケ、ヒノキゴケ等は、日陰で用いるのがよい。
【0044】
また、繊維集合体の材質や形態は、繊維からなるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、セルロース、ポリウレタン、芳香族ナイロン、ポリベンズイミダゾール、ノボロイド等の合成繊維やそれらの複合繊維、アセテート等の半合成繊維、キュプラ、レーヨン等の再生繊維、絹、綿、羊毛等の天然繊維、またはそれらの混合繊維等からなる織布や不織布等のシート状のもの、繊維ウェッブ状のものを組み合わせて用いることができる。例えば、下側の繊維集合体1aには不織布シートを用い、上側の繊維集合体1bには、繊維ウェブを用いることもできる。また、生分解性の樹脂繊維を用いてもよく、上記繊維に混合して用いても良い。
【0045】
さらに前記の蘚苔類植物を繊維集合体で挟み込み機械的絡合手段により繊維同士を絡めた積層体10に、人工芝葉状体4を植設する。その実施の一例を示した図が図3である。人工芝葉状体4は積層体を貫くように植設され、積層体をより強固に一体化させることが可能となる。
【0046】
人工芝を形成するための樹脂体に用いられる樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、EVA樹脂などが好適に用いられる。これらの樹脂からなる偏平な直毛状のモノフィラメント糸やスプリット糸を植設することによって、人工芝が形成される。
【0047】
また、人工芝を形成するための樹脂体に生分解性樹脂体を用いて、生分解性としてもよい。人工芝を形成する材料に生分解性を有するものを用いれば、蘚苔類植物が十分に発育したときに、人工芝が消滅するようにすることもできる。蘚苔類植物が十分に発育すれば、人工芝の役割である美観性の維持や蘚苔類植物の保護、固定などが不要になるため、生分解性として時間とともに自然消滅させておいてもよい。ここでいう生分解性は、微生物による分解だけでなく、光により分解される光分解性でもよい。
【0048】
繊維集合体の繊維の太さは、機械的絡合手段により蘚苔類植物や繊維集合体に入り込んで一体化できる太さであれば、特に限定されるものではないが、0.1〜50デニール程度が好ましい。これ以上細いと、繊維は抜けやすくなりまた、接合強度が弱くなってしまう。また、絡合の密度は1平方センチメートルあたり10〜80回程度が好ましい。これ以上絡合点が多いと、接合の強度は大きくなるが、植物の自由度が下がり生育が阻害される可能性がある。また逆に絡合点が少ないと十分に固定されなく、蘚苔類植物や繊維が脱落する恐れがある。
【0049】
また、繊維集合体の繊維には水溶性繊維と非水溶性繊維を混合して用いてもよい。その配合量は、繊維量の20〜90パーセント程度が好ましく、さらには、50〜80パーセントが好ましい。水溶性繊維の配合量が大きすぎると、水溶性繊維が溶解した後に、蘚苔類植物を担持する繊維が少なくなるため、蘚苔類植物が脱落しやすくなる。また、配合量が小さいと、溶解した後の繊維の間隙が少なく、蘚苔類植物が生育するスペースが限られ、生育を阻害する可能性がある。また、水溶性繊維の配合量が少ないとその粘着性が十分に発現しない。
【0050】
水溶性繊維は特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール(PVA)が好適である。ポリビニルアルコールは、水溶したときに中性を示し、蘚苔類植物の生育に害を与えることが無いため、好適である。また、非水溶性繊維は、特に限定されるものではなく、前記の繊維集合体に用いることのできる繊維で示したものを用いればよい。繊維に水溶性繊維を混合する際は、上下両方の繊維集合体に入れてもよいが、上側の繊維集合体にのみ水溶性繊維を混合するだけでもよい。上側に水溶性繊維を添加していれば、蘚苔類植物は上方に向かって生育するので、繊維の溶解後、繊維密度が小さくなり植物の生育を阻害しない。また、粘着成分が蘚苔類植物の上部から覆い被さり、十分に粘着性を発現できる。
【0051】
また、図4は繊維集合体1aと1bとの間に蘚苔類植物2を挟みこみ、ニードルパンチにより一体化した積層体10に、さらに下側の繊維集合体すなわち1a側からニードルパンチを行うことによって繊維集合体1aの繊維の一部を反対面まで貫き、表面に繊維を突出させたものである。さらにこの図4に示す積層体に人工芝葉状体を植設したものが図5である。図4では、表面に突出させた繊維3は、一定間隔の平行線状に設けられており、図5に示すように平行線状に突出させた繊維のパターンに垂直に交わるように、人工芝葉状体を植設するとよい。突出した繊維3のパターンと人工芝のパターンとにより、積層体は格子状に固定されて、好適に蘚苔類植物の脱落等を防ぐことができる。
【0052】
繊維集合体1b側の表面に突出させた繊維3の長さは、突出部分が3〜20mm程度が好適である。これ以上長すぎると太陽光の入射を妨げたり、蘚苔類植物の生育を立体的に阻害してしまう可能性があり、逆に短すぎると保湿性や保護性能が小さくなり、また抜けやすくなるため、上記の範囲が好ましい。
【0053】
また、表面に突出した繊維のピッチCは、10〜20mm程度が好ましい。この間隔以下になると蘚苔類植物の生育できる有効スペースが小さくなるため好ましくない。また逆に間隔が20mmより大きいと蘚苔類植物の保持性や保護性が低下し、生育を促進させる保水性や保湿性も低下するため、好ましくなく上記の範囲内とするのがよい。
【0054】
このとき、いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分を形成するために用いるニードルパンチの針は、先端にU字型に凹みを有するものがよい。この針がニードルパンチを行う工程を示した概略図を図6に示す。先端にU字型に凹みを有するニードル5を、蘚苔類植物を挟み込んだ積層体10の片側から突き刺す(6a)。繊維集合体に針が突き刺さると、図6bのようにU字型に凹んだ針で、複数本の繊維11を捉えることができる。そして、積層体10を貫通させる。その後、この針を抜き取ると、複数の繊維11が束状になって積層体を貫き、反対側の表面に突出する(図6c)。これを繰り返すことにより、表面に突出した繊維のパターンが形成される。
【0055】
参考までに、従来型の針によるニードルパンチの工程を図7に示す。針先は凹部が細くなっているため、一度に巻き込むことのできる繊維の量が少ない。そのため十分な量の繊維を反対側まで突出させるには、針の嵌入回数を増やす必要がある。
【0056】
上記のように作成したシート状の様々な形態の苔植物担持体は、接着剤や両面テープなどを裏面にとりつけることにより、そのまま壁面や屋上等の設置面へ取り付けてもよいし、裏面にフェルトやスポンジなどの保水材を取り付けて設置してもよい。また、適度な大きさにカットして、樹脂製のユニットトレイ等に貼り付けてユニット化すれば、簡便に施工ができる緑化資材を提供することができる。
【0057】
具体的には、例えば本発明の蘚苔類植物担持体を、建造物の屋上や屋根、庇、ベランダ、壁面、庭などに設置したり、道路に設置される防音壁や壁高欄、高架道路の橋脚、中央分離帯、歩車道分離帯などに取り付けてもよいし、自転車やバス停などのシェルター屋根に取り付けることもできる。
【発明の効果】
【0058】
本発明によれば、2つの繊維集合体の間に蘚苔類植物を挟み込み、機械的絡合手段によって、繊維同士を絡め合わせて積層一体化させる。さらにこの積層体に人工芝葉状体を植設し、外見を人工芝様にすることができる。蘚苔類植物は生育が遅いため、施工初期において、外観を補完することができる。また、人工芝葉状体を植設することによって、積層体を更に強固に結合させることができる。また、人工芝が表面から突出していることで、あたかも防風林のように蘚苔類植物を風雨などから保護する効果もあり、また踏み付けなどからの保護にもなる。さらに、表面層に人工芝が林立しているので、表面層の空気を滞留させ、水分の蒸発を抑えて乾燥を遅くすることができたり、降雨による水を林立した人工芝で効率よく受け止めたり、水を保持することもでき、蘚苔類植物の生育を助ける効果もある。
【0059】
このとき、一方の繊維集合体に繊維ウェッブを用いてもよく、その繊維ウェブを構成する繊維を0.1〜50デニールであるとともに目付け量を10〜50g/平米とすることで、蘚苔類植物の生育を妨げることなくその脱落を防いだ蘚苔類植物担持体を得ることができる。
【0060】
また、双方の繊維集合体の繊維を互いに他方の繊維集合体の表面より突出させないで絡ませた部分と、いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分とを混在させることにより、積層体がさらに強固に一体化されるとともに、繊維が表面から突出していることで人工芝と同様に蘚苔類植物を風雨や踏み付けなどの外力から保護することができ、かつ、外観を向上させることもできる。
【0061】
また、いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分を形成させる際に、先端にU字型の凹みを有する針を用いてニードルパンチをすることにより、一度にニードルパンチで押し込むことのできる繊維数が増え、効率的に作成することができ、担持体を強く接合させることができる。また、一度のニードルの嵌入で、押し込む繊維の量を増やすことができるので、ニードルパンチの回数を減らすことができ、効率が良くなるとともに植物へ与える損傷も少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】 本発明に係わる実施の一形態を示す概略図である。
【図2】 本発明に係わる実施の一形態を示す断面図である。
【図3】 本発明に係わる実施の一形態を示す概略図である。
【図4】 本発明に係わる実施の一形態を示す概略図である。
【図5】 本発明に係わる実施の一形態を示す概略図である。
【図6】 本発明に係わる製造工程の一部であるニードルパンチの概略図である。
【図7】 本発明に係わる製造工程の一部であるニードルパンチの比較例の概略図である。
【符号の説明】
【0001】
a ニードルを突き刺す方向
b ニードルを抜く方向
c 表面より突出させて絡ませた繊維のピッチ
1a 繊維集合体
1b 繊維集合体
10 積層体
11 繊維
2 蘚苔類植物
3 表面に突出させた繊維
4 人工芝葉状体
Claims (6)
- 2つの繊維集合体の間に蘚苔類植物を挟み、機械的絡合手段により前記2つの繊維集合体をその繊維同士を部分的に絡ませることで積層一体化された積層体が構成されており、前記双方の繊維集合体の繊維を互いに他方の繊維集合体の表面より突出させないで絡ませた部分と、いずれか一方の繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分とを混在させ、前記表面より突出させないで絡ませた部分によって、前記繊維集合体双方を結合しつつ蘚苔類植物の生育スペースを確保する構成とし、
前記積層体には、前記蘚苔類植物を保護するとともに、前記積層体を結合する人工芝葉状体が前記積層体を貫くように植設されていることを特徴とする緑化用蘚苔類植物担持体。 - 前記繊維集合体の表面から突出させて絡ませた部分が、一定間隔の平行線状に複数列形成されていることを特徴とする請求項1に記載の緑化用蘚苔類植物担持体。
- 前記複数列の、前記繊維集合体の表面から突出された絡ませた部分に、前記人工芝葉状体が交差して植設されていることを特徴とする請求項2に記載の緑化用蘚苔類植物担持体。
- 繊維集合体は、水溶性繊維と非水溶性繊維からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の緑化用蘚苔類植物担持体。
- 少なくとも一方の繊維集合体は、繊維が絡み合ったワタ状の繊維ウェッブであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の緑化用蘚苔類植物担持体。
- 緑化用苔植物担持体の製造方法であって、2つの繊維集合体の間に蘚苔類植物を挟み、その両側からニードルパンチの針を穿刺することにより、双方の繊維集合体の繊維を互いに他方の繊維集合体の表面より突出させないで絡ませた部分を形成する第一の工程と、いずれか一方の繊維集合体側からニードルパンチの針を穿刺することにより、該繊維集合体の繊維を他方の繊維集合体の表面より突出させて絡ませた部分を形成する第二の工程と、一方の繊維集合体から他方の繊維集合体に向って貫くように人工芝葉状体を植設する第三の工程と、を備えたことを特徴とする緑化用苔植物担持体の製造方法。
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