JP4158375B2 - プロトン伝導樹脂材料、プロトン伝導樹脂材料製造用混合液およびその製造方法 - Google Patents

プロトン伝導樹脂材料、プロトン伝導樹脂材料製造用混合液およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体燃料電池、エレクトロクロミック素子等に用いられるプロトン伝導樹脂材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
プロトン伝導材料は、固体高分子型燃料電池Polymer Electrolyte Fuel Cell(以下、PEFCと記載する。)の電解質として適用が試みられている。PEFCは、化学反応によって生み出されるエネルギーを直接電気エネルギーに変換できるため、高い発電効率が得られ、また二酸化炭素などの排出ガスの削減に寄与できる等、エネルギー、資源、環境問題の各問題において優れている上、電解液の散逸の心配が無い、メンテナンスが容易、起動時間が短い、出力密度が高い等、多くの利点を有している。しかし、前記PEFCの実用化へ向けては、性能の更なる向上、材料コストの低減化等が大きな課題であり、PEFCの電解質としてのプロトン伝導性材料には、プロトン伝導性が高く、加工が容易で低コストな材料が求められている。
【0003】
一方、前記プロトン伝導材料には、エレクトロクロミック素子への応用もある。エレクトロクロミック素子は、プロトンの出し入れによって材料の透過率が変化し、たとえばWO3は、プロトンが格子中に注入されると青色に変化して透過率が低下し、プロトンが引き抜かれると透明になって透過率が上昇する。省エネルギーの観点から、この原理を窓ガラス等に応用して、太陽光線の入射量にあわせてガラスの着色量を変化させ、入射する太陽光線を制御し、断熱効率を向上させる調光ガラスが考案されている。このエレクトロクロミック素子には、プロトン伝導材料が必要不可欠であり、現在は、Ta25等の材料が使用されている。しかし、前記Ta25等のプロトン伝導材料は、基台上への成膜のために500℃以上の高温熱処理が必要であり、且つ、成膜された膜は可撓性に乏しいため、プラスチック樹脂基材や、フレキシブルな基材への応用が困難である。そして、この観点から、常温に近い温度において成膜可能で、且つ可撓性に富んだプロトン伝導材料が求められている。
【0004】
ここで、上述の使用目的等に適用されるプロトン伝導材料の例として、特開平8−249923号公報、特開平8−228214号公報には、ゾル・ゲル法により酸化Siとブレンステッド酸を含むプロトン伝導樹脂を製造する方法が開示されている。これらの方法によれば、室温または200℃以下の温度においてプロトン伝導樹脂が製造できることが開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これら従来の技術に係るプロトン伝導樹脂は、いずれも可撓性に乏しく機械的に脆いという性質を有している。このため可撓性を必要とする部分へ適用する場合には、前記プロトン伝導樹脂を粉砕した後、バインダー中に練り込んだ態様で使用することとなる。しかしこれでは、前記プロトン伝導樹脂が本来有しているプロトン伝導特性が阻害される可能性があり、さらに、粉砕工程やバインダーとの混合工程においても、プロトン伝導特性が変化する恐れがある。さらに、このバインダー中に練り込まれたプロトン伝導樹脂をエレクトロクロミック素子等の透明性を必要とする用途に使用した場合は、プロトン伝導樹脂とバインダー樹脂との屈折率の違いから光散乱が生じ、曇りガラスのような外観を呈する可能性もある。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決することを目的としてなされたものであり、ゾル・ゲル法により製造される、ケイ酸の骨格構造とブレンステッド酸とを含むプロトン伝導樹脂材料であって、十分な可撓性を有しながら、プロトン伝導特性を損なうことなく通常のプラスチックの耐熱温度以下において製造可能であるプロトン伝導樹脂材料を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、次のことが明らかとなった。従来、プロトン伝導樹脂を作成する際、ブレンステッド酸を含むSiのアルコキシドまたはこの加水分解重合物をゾル・ゲル法により脱水縮合させて、3次元のSiとOとのネットワーク構造を有するケイ酸の骨格構造を構築し、次に溶媒を蒸発除去し、バルク体もしくは膜状で、OH基を有するケイ酸の骨格構造を含むプロトン伝導樹脂を製造していた。
【0008】
しかし、上記ケイ酸の骨格構造の「SiとOとのネットワーク構造」は非常に脆く、さらに、加熱による溶媒除去やゲルの熟成の際に、前記骨格構造が緻密化して体積収縮が起こる為、バルク体や膜等に亀裂が生じる。このため、均一なバルク体や膜等を得ることが困難だったのである。また、この「SiとOとのネットワーク構造」には柔軟性も無いため、フレキシブルな基材へ密着した厚膜や薄膜の形成も困難だったのである。
【0009】
ここで本発明者らは、全く新しい発想として、上記骨格構造を形成している「SiとOとのネットワーク構造」へ新たな化学種を導入して架橋構造を設ければ、プロトン伝導樹脂としての可撓性を増加させることが出来るのではないかと想到した。そこで、この「SiとOとのネットワーク構造」へ架橋可能であって、かつこの架橋によっても、プロトン伝導特性が損なわれず、さらに通常のプラスチックの耐熱温度以下においてバルク体や膜等の製造が可能であることを条件に、様々な化学種を検討した。
【0010】
その検討の結果、化学種として多価アルコールを用いると、この多価アルコールが縮重合により「Si−多価アルコール−Si」の架橋構造を形成して、ケイ酸の骨格構造が、補強されると同時に柔軟化することを見出した。このケイ酸の骨格構造の補強と柔軟化とによりプロトン伝導樹脂材料の可撓性が増加し、亀裂の無い均一なプロトン伝導樹脂材料バルク体の形成が可能となり、さらに、フレキシブルな基材への、厚膜、薄膜の形成をも可能となった。さらにこのプロトン伝導樹脂材料の製造温度は、通常のプラスチックの耐熱温度以下である室温〜100℃にて可能である。
【0011】
すなわち課題を解決するための、第1の発明は、ケイ酸の骨格構造中に遊離のリン酸を含み、前記ケイ酸の骨格構造中に多価アルコールの架橋構造が存在するプロトン伝導樹脂材料であって、前記リン酸と、前記ケイ酸中のSiと、前記多価アルコールとのモル濃度比が、30〜60:3.5〜6.5:25〜65の範囲にあることを特徴とするプロトン伝導樹脂材料である。
【0012】
第2の発明は、前記多価アルコールは、エチレングリコールおよび/またはポリエチレングリコールであることを特徴とする第1の発明に記載のプロトン伝導樹脂材料である。
【0013】
第3の発明は、第1、第2のいずれかの発明に記載のプロトン伝導樹脂材料を製造するためのプロトン伝導樹脂材料製造用混合液であって、
リン酸と、Siアルコキシドおよび/またはSiアルコキシドの加水分解重合物と、多価アルコールとを含み、前記リン酸と、Siアルコキシド中のSiおよび/またはSiアルコキシドの加水分解重合物中のSiと、多価アルコールとのモル濃度比が、30〜60:3.5〜6.5:25〜65であることを特徴とするプロトン伝導樹脂材料製造用混合液である。
【0014】
第4の発明は、前記Siアルコキシドは、テトラエチルオルトシリケートおよび/またはテトラメチルオルトシリケートであることを特徴とする第3の発明に記載のプロトン伝導樹脂材料製造用混合液である。
【0015】
第5の発明は、前記多価アルコールは、エチレングリコールおよび/またはポリエチレングリコールであることを特徴とする第3、第4のいずれかの発明に記載のプロトン伝導樹脂材料製造用混合液である。
【0016】
第6の発明は、第3から第5のいずれかの発明に記載のプロトン伝導樹脂材料製造用混合液であって、成分として水を含むことを特徴とするプロトン伝導樹脂材料製造用混合液である。
【0017】
第7の発明は、リン酸と、Siアルコキシドおよび/またはSiアルコキシドの加水分解重合物と、多価アルコールと、溶媒とを含み、前記リン酸と、Siアルコキシド中のSiおよび/またはSiアルコキシドの加水分解重合物中のSiと、多価アルコールとのモル濃度比が、30〜60:3.5〜6.5:25〜65である混合液を、25〜100℃で加熱してゲル化させ、その後、前記溶媒を除去することでプロトン伝導樹脂材料を製造することを特徴とする第1、第2のいずれかの発明に記載のプロトン伝導樹脂材料の製造方法である。
【0018】
第8の発明は、第1、第2のいずれかの発明に記載のプロトン伝導樹脂材料を用いて製造したことを特徴とする燃料電池である。
【0019】
第9の発明は、第1、第2のいずれかの発明に記載のプロトン伝導樹脂材料を用いて製造したことを特徴とするエレクトロクロミック素子である。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
(本発明の実施に係るプロトン伝導樹脂材料の構造)図1は、本発明の実施の形態にかかるプロトン伝導樹脂材料の分子構造の説明図である。この実施の形態に係るプロトン伝導樹脂材料は、多価アルコールとしてエチレングリコール、ブレンステッド酸としてリン酸を用いた例である。尚、図1中のRとは、原料のSiアルコキシド等に由来する残留アルキル基である。
【0021】
図1に示すように、このプロトン伝導樹脂材料は、SiがOを介して相互に結合し3次元的な網目構造となり、ケイ酸の骨格構造を構築している。このケイ酸の骨格構造を構築している「Si−O−」の単位構造の全てが隣接するSiと結合している訳ではなく、Hや前記Rと結合しているものも存在する。そして、このケイ酸の骨格構造中には、遊離のリン酸(H+ 3PO4 3-)と遊離のエチレングリコール((CH22(OH)2)とが存在し、さらに水を添加した場合または大気中より水分を吸収した場合等は、図示していない水(H2O)が存在する。この遊離のリン酸が解離して生成したリン酸イオン(PO4 3-等)の周囲には、遊離のプロトン(H+)が存在し、このプロトンが主にプロトン伝導を担っていると考えられる。
【0022】
さらに、本実施の形態に係るプロトン伝導樹脂材料においては、前記ケイ酸の骨格構造を構築している「Si−O−」の単位構造と、エチレングリコール((CH22(OH)2)との縮合により形成された「Si−O−(CH22−O−Si」の架橋構造が存在している。この架橋構造の効果について、さらに説明する。すなわち、ケイ酸の骨格構造が、「Si−O−」の単位構造より構築されている従来のプロトン伝導樹脂では、「Si−O−」の単位構造が機械的に脆いばかりでなく、ゲル状のプロトン伝導樹脂を製造する際の加熱や熟成において、前記3次元的な網目構造が緻密化して体積収縮が起っていた。この結果、可撓性に乏しく亀裂の多いプロトン伝導樹脂となっていたと考えられる。ここで、前記「Si−O−(CH22−O−Si」の架橋構造が、前記「Si−O−」の単位構造の機械的な脆さの補強効果と、過度の緻密化を抑制する効果とを与えて、可撓性を有し亀裂の発生のないゲル状のプロトン伝導樹脂材料を実現できたものと考えられる。
【0023】
さらに、前記「Si−O−(CH22−O−Si」の架橋構造が、ケイ酸の骨格構造中にて、前記プロトン伝導を担うプロトンの主な供給源である遊離状態のリン酸(H+ 3PO4 3-)の存在割合を増加させて、プロトン伝導率をも高めているのではないかと考えられる。すなわち、従来のプロトン伝導樹脂では、ケイ酸の骨格構造中に存在するリン酸の殆どが骨格構造のSiと化学的な結合状態を有し、この結果、前記プロトン伝導を担うプロトンの供給が低減していたものと考えられる。ところが、本実施の形態に係るプロトン伝導樹脂材料では、前記「Si−O−(CH22−O−Si」の架橋構造が、このリン酸と骨格構造のSiとの化学的な結合を抑制し、大部分のリン酸が遊離状態で存在するために、十分な量のプロトンが供給されているのではないかと考えられる。
【0024】
さらに加えて、本実施の形態に係るプロトン伝導樹脂材料における上記骨格構造は、原料のSiアルコキシド、エチレングリコールまたはポリエチレングリコールに由来する多数のOH基を有している。これらのOH基はSiやグリコールと結合しているため、安定な状態で骨格構造中に存在すると考えられる。そして、これらのOH基はリン酸から供与されるプロトンの伝導を補助し、プロトン伝導特性の向上に寄与していると考えられる。
【0025】
(本発明の実施の形態にかかるプロトン伝導樹脂材料の製造方法)図2は本発明の実施の形態にかかる、プロトン伝導樹脂材料の製造方法のフロー図である。以下、図2を参照しながら、本発明の実施の形態に係るプロトン伝導樹脂材料の製造方法を説明する。まずブレンステッド酸と多価アルコールとを混合し、そこへ溶媒としてのアルコールを加え十分に混合する。ブレンステッド酸としては、多様な酸が使用可能であるがプロトン伝導への寄与や作業性等より、リン酸等が好ましい。多価アルコールとしても多様な多価アルコールが使用可能であるがプロトン伝導への寄与や作業性等より、エチレングリコールまたはポリエチレングリコール等が好ましい。溶媒としてのアルコールは、常温付近で蒸散除去が可能で、前記ブレンステッド酸や多価アルコール、および後述するSiアルコキシド等を溶解できるものであればよく、作業性や入手のし易さ等よりメチルアルコール、エチルアルコール等が好ましい。
【0026】
次に、このブレンステッド酸と多価アルコールおよび溶媒との混合溶液中へ、Siのアルコキシド、またはその加水分解重合物を加え再び十分に攪拌しゾル状のプロトン伝導樹脂材料製造用混合液を得る。ここでSiのアルコキシド等は、特に限定するものではないが、作業性や入手のし易さ等より、代表的なものとして、テトラエチルオルトシリケート(以下、TEOSと記載する。)、テトラメチルオルトシリケート(以下、TMOSと記載する。)およびこれらの加水分解重合物等が好ましい。ここで、後工程での作業性やコストの観点より、プロトン伝導樹脂材料製造用混合液中へさらに水を添加してもよい。
【0027】
前記プロトン伝導樹脂材料製造用混合液において、前記ブレンステッド酸と、Siアルコキシド中のSiおよび/またはSiアルコキシドの加水分解重合物中のSiと、多価アルコールとのモル濃度比が、30〜60:3.5〜6.5:25〜65の範囲にあると、次工程のゲル化工程において、プロトン伝導特性に優れ、十分な可撓性を有するプロトン伝導樹脂材料を作業性良く製造することができ好ましい。
【0028】
前記調製されたプロトン伝導樹脂材料製造用混合液を、基台上に塗布するか、またはシャーレ等の容器に収納し、25〜100℃の温度で溶媒を蒸散除去して乾燥する。この結果、前記Siアルコキシドおよび/またはSiアルコキシドの加水分解重合物と多価アルコールとで、多価アルコールの架橋構造を有するケイ酸の骨格構造が形成され、ゾル状のプロトン伝導樹脂材料製造用混合液は、ゲル状のプロトン伝導樹脂材料となる。
【0029】
前記ゲル状のプロトン伝導樹脂材料を、さらに乾燥して乾燥ゲルとすることで、プロトン伝導樹脂材料の膜やバルク体を製造することができた。
【0030】
製造されたプロトン伝導樹脂材料は、無色で透明性も非常に優れていた。そして、膜の形態のものは、フレキシブルな基台上にコーティングされた場合でも十分な可撓性を発揮し亀裂を生じないばかりか、たとえ厚膜の形態であっても基台を湾曲させたときの密着性は良好であった。一方、バルク体のものは、ナイフ等で簡単に加工できる程度の可撓性と柔軟性とを有し、基材や素子に容易に挟み込むことが可能であった。
【0031】
(本発明の実施の形態にかかるプロトン伝導樹脂材料のプロトン伝導特性)次に、本発明の実施の形態にかかるプロトン伝導樹脂材料のプロトン伝導特性について、図3〜5を参照しながら説明する。図3は、縦軸にプロトン伝導率(×10-3Scm-1)をとり、横軸にプロトン伝導樹脂材料の試料におけるブレンステッド酸と、Siアルコキシドと、多価アルコールとのモル比率nをとったグラフである。ここでモル比率nを有する試料は次のように調製した。まず試料の調製において、ブレンステッド酸としてリン酸、SiアルコキシドとしてTEOS、多価アルコールとしてエチレングリコールを選択し、この3成分のモル濃度比をリン酸:TEOS中のSi:エチレングリコール=n:(1−n):nと設定し、n=0.1〜0.9まで変化させて9種類の試料を調製した。尚、プロトン伝導率は、交流複素インピーダンス法により測定した。図3の結果より明らかなように、リン酸およびエチレングリコールのモル比率が高い方がプロトン伝導率は増加することが判明した。
【0032】
図4は、図3と同様に縦軸にプロトン伝導率(×10-3Scm-1)をとり、横軸に試料のリン酸とTEOSとエチレングリコールとのモル比率nをとったグラフである。但し、ここでモル比率nを有する試料は、図3と異なり次のように調製した。すなわち、リン酸とTEOSとエチレングリコールとの3成分のモル濃度比をリン酸:TEOS中のSi:エチレングリコール=1:0.2:nと設定し、n=0.4〜1.6まで変化させて5種類の試料を調製した。図4の結果より明らかなように、リン酸およびTEOSの配合比が一定ならエチレングリコールのモル比率が高い方がプロトン伝導率は低下することが判明した。
【0033】
図5は、図3と同様に縦軸にプロトン伝導率(×10-3Scm-1)をとり、横軸に試料のリン酸とTEOSとエチレングリコールとのモル比率nをとったグラフである。但し、ここでモル比率nを有する試料は、図3と異なり次のように調製した。すなわち、リン酸のモル濃度比を0.02と固定し、TEOSとエチレングリコールとの2成分のモル濃度比をTEOS中のSi:エチレングリコール=(2−n):nと設定し、n=0.8〜1.8まで変化させて5種類の試料を調製した。図5の結果より明らかなように、リン酸のモル濃度比が0.02のとき、TEOS中のSi:エチレングリコール=0.9:1.1付近が最低の伝導率を示した。
【0034】
以上の結果より、リン酸とTEOS中のSiとエチレングリコールとのモル濃度比が、30〜60:3.5〜6.5:25〜65の範囲にあると、プロトン伝導特性に優れたプロトン伝導樹脂材料を調製することができ、17.04×10-3Scm-1の伝導率を有するものも製造できた。
【0035】
(本発明の実施の形態にかかるプロトン伝導樹脂材料に対する機器分析結果)ここで、本発明の実施の形態にかかるプロトン伝導樹脂材料に対する機器分析結果を説明しながら、このプロトン伝導樹脂材料の分子構造について説明する。尚、この機器分析においてはプロトン伝導樹脂材料の試料として、リン酸、TEOS中のSi、エチレングリコールの3成分のモル濃度比が、1:1:1である試料1と、1:9:1である試料2とを調製して分析用試料とし分析を実施した。
【0036】
図6は、前記試料1に対する29Si MAS−NMRスペクトルによる分析結果のチャートであって、縦軸は信号強度(arb)、横軸は化学シフト(ppm)である。図6より、試料1は、−101ppmのピーク(以下、Q3と記載する。)と−110ppmのピーク(以下、Q4と記載する。)とを有していることが判明した。このQ3は、Si原子が3つの(−O−Si−)基と、1つの(−O−H)基または(−O−R)基とに結合していることを示唆し、Q4は、Si原子が4つの(−O−Si−)基と結合していることを示唆している。このことより、試料1は、図1に示したようなケイ酸の骨格構造を有していることが裏付けられた。
【0037】
図7は、前記試料1および2に対する13C MAS−NMRスペクトルによる分析結果のチャートであって、縦軸は信号強度(arb)、横軸は化学シフト(ppm)である。図7より、試料1は、+63.8ppmのピーク(以下、γと記載する。)を有し、試料2は、前記γと、+59.3ppmのピーク(以下、αと記載する。)、+17.3ppmのピーク(以下、βと記載する。)を有していることが判明した。このγは、遊離のエチレングリコールの存在を示唆し、αおよびβは、ケイ酸の骨格構造と架橋したエチレングリコールの存在を示唆している。試料1においては明確なαおよびβを観測することはできなかったが、試料2においては明確なαおよびβを観測することができた。このことより、試料2において、図1に示したようにケイ酸の骨格構造へのエチレングリコールの架橋構造が存在することが裏付けられた。一方、上述したように試料1においては、明確なαおよびβを観測することはできなかったが、TEOSの配合比が異なるのみの試料2において、ケイ酸の骨格構造へのエチレングリコールの架橋構造が存在することが裏付けられていることより、試料1においても、このエチレングリコールの架橋構造は存在しているが、分析結果のチャート上ではピーク強度が小さいためバックグラウンドに隠れているものと考えられる。一方、試料1および2とも、ケイ酸の骨格構造中に遊離のエチレングリコールが存在していることも裏付けられた。
【0038】
図8は、リン酸(PA)、TEOS、エチレングリコール(EG)および前記試料1、2に対するFT−IRスペクトルによる分析結果のチャートであって、縦軸は透過率(arb)、横軸は波数(cm-1)である。図8より、試料1および2は、1200cm-1、1120cm-1、1090cm-1、960cm-1、800cm-1、520cm-1、470cm-1、付近に吸収ピークを有しており、各々a、b、c、d、e、f、gと符号を付した。ここで、aはC−OおよびδO−Hの吸収であり、bはSi−O−Siの吸収であり、cはSi−O−Cの吸収であり、dはSi−O−Hの吸収であり、eはSi−O−Cの吸収であり、fは未知の吸収であり、gはSi−O−Cの吸収である。以上のことより、試料1および2は上記a〜gの吸収ピークに対応する分子構造を有していることが裏付けられた。そして、試料1および2において、図1に示したようにケイ酸の骨格構造へのエチレングリコールの架橋構造が存在すること、および骨格構造を形成するSi原子へ−OH基がついている構造の存在も裏付けられた。
【0039】
図9は、前記試料1および2に対する31P MAS−NMRスペクトルによる分析結果のチャートであって、縦軸は信号強度(arb)、横軸は化学シフト(ppm)である。図9より、試料1および2は、0ppmのピーク(以下、εと記載する。)と、−11ppmのピーク(以下、δと記載する。)を有していることが判明した。このδはケイ酸の骨格構造へ結合したリン酸の存在を示唆し、εは遊離したリン酸の存在を示唆している。試料1および2において、小さなδと大きなεが観測された。このことより、試料1および2において、図1に示した遊離のリン酸と、図1には示していないケイ酸の骨格構造に結合しているリン酸とが存在していること、そして、大部分のリン酸は遊離の状態で存在することが裏付けられた。
【0040】
以上、図6〜9に示した機器分析の結果より、本発明の実施の形態に係るプロトン伝導樹脂材料は、図1に示すように、ケイ酸の骨格構造とブレンステッド酸とを含み、このブレンステッド酸の大部分は遊離の状態で、一部はケイ酸の骨格であるSi原子と結合した状態で存在している。そして、このケイ酸の骨格構造中には多価アルコールを含み、この多価アルコールの一部は遊離の状態で、他の部分はケイ酸の骨格構造を架橋する構造で存在している。さらにケイ酸骨格構造中のSi原子には、−OH基や−OR基が結合していることが裏付けられた。
【0041】
(本発明の実施の形態にかかるプロトン伝導樹脂材料の各種デバイスへの適用)本発明に係るプロトン伝導樹脂材料は、上述したようにプロトン伝導特性に優れていることに加え、膜の形態のものは、フレキシブルな基台上にコーティングされた場合でも十分な可撓性を発揮し、亀裂を生じないばかりか、たとえ厚膜の形態であっても基台を湾曲させたときの密着性も良好だった、バルク体のものは、ナイフ等で簡単に加工できる程度の可撓性と柔軟性とを有し、基材や素子に容易に挟み込むことが可能であった。これらの特徴は、例えばPEFCの電解質として最適なものであり、PEFCに適用すれば、生産性、電気特性、寿命等の向上に大きく寄与するものである。また、エレクトロクロミック素子に適用した場合は、前記生産性、電気特性、寿命等に加え、本発明にかかるプロトン伝導樹脂材料が無色透明体であることにより、光学特性の向上にも大きく寄与するものである。
【0042】
(実施例1)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比が0.8:0.2:0.4となるように、まずリン酸とエチレングリコールを混合し、そこへエタノールを添加後、TEOSを加えて十分に攪拌し、プロトン伝導樹脂材料製造用混合液を調製した。このプロトン伝導樹脂材料製造用混合液を、ポリプロピレンビーカーに流しこみ、80℃で加熱してゲル化させ、さらに80℃で乾燥して溶媒を除去したところ、亀裂の無い均一な無色透明なプロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができた。得られたバルク体は、通常のナイフ等で容易に加工できる柔軟性と可撓性とを有しており、プロトン伝導率を交流複素インピーダンス法により測定したところ17.04×10-3Scm-1であった。
【0043】
(実施例2)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比を0.8:0.2:0.6とした以外は、実施例1と同様の方法でバルク体を製造した。その結果、亀裂が無く均一な無色透明体であって、通常のナイフ等で容易に加工できる柔軟性と可撓性とを有しているプロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができた。得られたバルク体のプロトン伝導率を、実施例1と同様に測定したところ12.37×10-3Scm-1であった。
【0044】
(実施例3)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比を0.8:0.2:0.8とした以外は、実施例1と同様の方法でバルク体を製造した。その結果、亀裂が無く均一な無色透明体であって、通常のナイフ等で容易に加工できる柔軟性と可撓性とを有しているプロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができた。得られたバルク体のプロトン伝導率を、実施例1と同様に測定したところ8.74×10-3Scm-1であった。
【0045】
(実施例4)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比を0.8:0.2:1.2とした以外は、実施例1と同様の方法でバルク体を製造した。その結果、亀裂が無く均一な無色透明体であって、通常のナイフ等で容易に加工できる柔軟性と可撓性とを有しているプロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができた。得られたバルク体のプロトン伝導率を、実施例1と同様に測定したところ7.25×10-3Scm-1であった。
【0046】
(実施例5)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比を0.8:0.2:1.6とした以外は、実施例1と同様の方法でバルク体を製造した。その結果、亀裂が無く均一な無色透明体であって、通常のナイフ等で容易に加工できる柔軟性と可撓性とを有しているプロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができた。得られたバルク体のプロトン伝導率を、実施例1と同様に測定したところ5.16×10-3Scm-1であった。
【0047】
(実施例6)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比を1:0.77:0.79とした以外は、実施例1と同様の方法でバルク体を製造した。その結果、亀裂が無く均一な無色透明体であって、通常のナイフ等で容易に加工できる柔軟性と可撓性とを有しているプロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができた。得られたバルク体のプロトン伝導率を、実施例1と同様に測定したところ7.34×10-3Scm-1であった。
【0048】
(実施例7)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比を1:0.68:1.05とした以外は、実施例1と同様の方法でバルク体を製造した。その結果、亀裂が無く均一な無色透明体であって、通常のナイフ等で容易に加工できる柔軟性と可撓性とを有しているプロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができた。得られたバルク体のプロトン伝導率を、実施例1と同様に測定したところ5.01×10-3Scm-1であった。
【0049】
(実施例8)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比を1:0.58:1.26とした以外は、実施例1と同様の方法でバルク体を製造した。その結果、亀裂が無く均一な無色透明体であって、通常のナイフ等で容易に加工できる柔軟性と可撓性とを有しているプロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができた。得られたバルク体のプロトン伝導率を、実施例1と同様に測定したところ6.97×10-3Scm-1であった。
【0050】
(実施例9)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比を1:0.39:1.58とした以外は、実施例1と同様の方法でバルク体を製造した。その結果、亀裂が無く均一な無色透明体であって、通常のナイフ等で容易に加工できる柔軟性と可撓性とを有しているプロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができた。得られたバルク体のプロトン伝導率を、実施例1と同様に測定したところ11.06×10-3Scm-1であった。
【0051】
(実施例10)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比を1:0.2:1.81とした以外は、実施例1と同様の方法でバルク体を製造した。その結果、亀裂が無く均一な無色透明体であって、通常のナイフ等で容易に加工できる柔軟性と可撓性とを有しているプロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができた。得られたバルク体のプロトン伝導率を、実施例1と同様に測定したところ12.24×10-3Scm-1であった。
【0052】
(比較例1)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比を1:0:1とした以外は、実施例1と同様の方法でバルク体を製造した。その結果、得られたプロトン伝導樹脂材料製造用混合液を、ポリプロピレンビーカーに流しこみ80℃で加熱してもゲル化せず、プロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができなかった。
【0053】
(比較例2)リン酸:TEOS中のSi:エチレングリコールのモル比を0:1:1とした以外は、実施例1と同様の方法でバルク体を製造した。その結果、得られたプロトン伝導樹脂材料製造用混合液を、ポリプロピレンビーカーに流しこみ80℃で加熱してもゲル化せず、プロトン伝導樹脂材料バルク体を得ることができなかった。
【0054】
【発明の効果】
以上、詳述したように本発明は、ケイ酸の骨格構造とブレンステッド酸とを含むプロトン伝導樹脂材料の骨格構造中に多価アルコールの架橋構造を設けたことで、プロトン伝導特性を損なうことなく、プロトン伝導樹脂材料へ十分な可撓性を付与することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるプロトン伝導樹脂材料の分子構造例の説明図である。
【図2】本発明にかかるプロトン伝導樹脂材料の製造方法のフロー図である。
【図3】本発明にかかるプロトン伝導樹脂材料のプロトン伝導率のグラフである。
【図4】本発明にかかるプロトン伝導樹脂材料のプロトン伝導率のグラフである。
【図5】本発明にかかるプロトン伝導樹脂材料のプロトン伝導率のグラフである。
【図6】本発明にかかるプロトン伝導樹脂材料29Si MAS−NMRスペクトル測定による分析結果のチャートである。
【図7】本発明にかかるプロトン伝導樹脂材料13C MAS−NMRスペクトル測定による分析結果のチャートである。
【図8】リン酸、TEOS、エチレングリコールおよび本発明にかかるプロトン伝導樹脂材料のFT−IRスペクトル測定による分析結果のチャートである。
【図9】本発明にかかるプロトン伝導樹脂材料31P MAS−NMRスペクトル測定による分析結果のチャートである。
【符号の説明】
R.原料であるSiアルコキシド等に由来する、残留アルキル基である。

Claims (9)

  1. ケイ酸の骨格構造中に遊離のリン酸を含み、前記ケイ酸の骨格構造中に多価アルコールの架橋構造が存在するプロトン伝導樹脂材料であって、
    前記リン酸と、前記ケイ酸中のSiと、前記多価アルコールとのモル濃度比が、30〜60:3.5〜6.5:25〜65の範囲にあることを特徴とするプロトン伝導樹脂材料
  2. 前記多価アルコールは、エチレングリコールおよび/またはポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導樹脂材料
  3. 請求項1、2のいずれかに記載のプロトン伝導樹脂材料を製造するためのプロトン伝導樹脂材料製造用混合液であって、
    リン酸と、Siアルコキシドおよび/またはSiアルコキシドの加水分解重合物と、多価アルコールとを含み、前記リン酸と、Siアルコキシド中のSiおよび/またはSiアルコキシドの加水分解重合物中のSiと、多価アルコールとのモル濃度比が、30〜60:3.5〜6.5:25〜65であることを特徴とするプロトン伝導樹脂材料製造用混合液。
  4. 前記Siアルコキシドは、テトラエチルオルトシリケートおよび/またはテトラメチルオルトシリケートであることを特徴とする請求項3に記載のプロトン伝導樹脂材料製造用混合液。
  5. 前記多価アルコールは、エチレングリコールおよび/またはポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項3、4のいずれかに記載のプロトン伝導樹脂材料製造用混合液。
  6. 請求項3〜5のいずれかに記載のプロトン伝導樹脂材料製造用混合液であって、成分として水を含むことを特徴とするプロトン伝導樹脂材料製造用混合液。
  7. リン酸と、Siアルコキシドおよび/またはSiアルコキシドの加水分解重合物と、多価アルコールと、溶媒とを含み、前記リン酸と、Siアルコキシド中のSiおよび/またはSiアルコキシドの加水分解重合物中のSiと、多価アルコールとのモル濃度比が、30〜60:3.5〜6.5:25〜65である混合液を、25〜100℃で加熱してゲル化させ、その後、前記溶媒を除去することでプロトン伝導樹脂材料を製造することを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載のプロトン伝導樹脂材料の製造方法。
  8. 請求項1、2のいずれかに記載のプロトン伝導樹脂材料を用いて製造したことを特徴とする燃料電池。
  9. 請求項1、2のいずれかに記載のプロトン伝導樹脂材料を用いて製造したことを特徴とするエレクトロクロミック素子。
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