JP4157688B2 - 超音波診断装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超音波を生体等の被検査体に対して送受信することにより、その内部を撮像する超音波診断装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体に対してパルス状超音波を送受信し、その内部を撮像する超音波診断装置は、医療診断に広く用いられている。画像診断モダリティのなかでもX線やMRIの分野では、循環系の撮像などに造影剤が以前から用いられてきた。
【0003】
これに対して、超音波診断では、これまで造影剤が広く用いられることはなかったが、ここ数年、ミクロン・オーダーのサイズをもつ微小気泡(マイクロバブル)を何らかの方法で安定化した製剤による造影剤が出現したことにより、広く用いられはじめている。この原理は、径1ミクロン程度の微小気泡が、超音波診断に用いられる数MHzの超音波に共振して大振幅で振動することを利用するもので、結果として、その超音波をよく反射することにより造影能が生ずる。
【0004】
X線やMRIの造影剤は、撮像のために照射される電磁波や印加される磁場などの作用により造影剤の物性が不可逆的に変化することはない。ところが、安定化マイクロバブル製剤系の造影剤は、撮像のために照射される超音波照射により崩壊して消失して造影能が大きく減少することがある。このことは、安定した造影条件のもとで、良好な画像SN比を得るに充分な強さと頻度の超音波を照射して撮像しようとするとき問題となる。
【0005】
一方、この現象を逆に利用して、必要なときに高めの強さの超音波を照射することにより、着目領域の造影剤を適宜消去して、造影条件を初期化することもできる。これは、X線やMRIの造影剤とは著しく異る安定化マイクロバブル製剤系超音波造影剤独特の特長とみることもできる。
【0006】
超音波の強さを表わす最も簡単な指標として広く用いられているのは、単位時間あたりの超音波エネルギーであり、一般には、これを超音波強度と呼ぶ。また、最近、水中または生体中で超音波がキャビテーションを引き起こす可能性を示す物理的指標として、MI=(最大負圧)/(中心周波数の平方根)で定義されるメカニカル・インデックス(MI)も広く用いられるようになってきている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、従来技術による超音波診断装置には、被検査体、例えば着目生体領域の造影剤密度を減少させたくない時相において、これらの指標で表わされる超音波の強さと照射頻度を低いレベルに抑えて超音波を照射して撮像するモードが搭載されている。ところが、超音波信号強度が不足するため、良好な画像SN比を得ることが困難であるという問題や、低い超音波照射頻度では撮像レートが低下し、超音波画像上で着目生体領域の変化を追うことが充分できないという問題を生じている。
【0008】
一方、必要なときに高めの強さの超音波照射により、着目生体領域の造影剤を消失させて造影条件を初期化しようとする場合には、超音波強度やメカニカル・インデックスについての安全上の制限のもとにこれを行わなければならないため、従来技術では、診断装置を操作する医師や検査技師の希望する短い時間内には、初期化が充分できないという問題を生じている。
【0009】
後者の問題に関連する従来技術としては、基本波に第2高調波を重畳して照射するという工夫により、低い超音波強度によって水中または生体中でキャビテーションを引き起こして音響化学反応を促進する技術が、「Journal ofChemical Physics」(Vol.100,p.18784−p.18789)、「Journal of Acoustical Society of America」(Vol.101,p.569−p.577)、および「IEEE Transactions on Ultrasonics,Ferroelctrics,and Frequency Control」(Vol.43、p.1054−p.1062)に記載されている。
【0010】
しかしながら、これらはキャビテーションを促進する技術であり、後者の問題を解決するには、このキャビテーションの促進を安定化マイクロバブルの破壊につなげる方法や方法論が必要である。
【0011】
本発明は、このような現状に鑑み、第1に、良好な画像SN比と充分なフレームレートを得るに必要な超音波エネルギーを照射しながらも、着目生体領域の安定化マイクロバブル系造影剤の密度を減少を抑制でき、第2に、超音波強度やメカニカル・インデックスを安全上の制限内に抑制しながら、必要に応じて、着目生体領域の安定化マイクロバブル系造影剤を効率的に消失させることができる超音波診断装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
基本波に高調波を重畳して照射すると、超音波強度が同一であっても、水中または生体中等の被検査体内部に導入された微小気泡のような造影剤に対する超音波の作用が大きく代わり得ることは、上記公知文献により示唆されている。
【0013】
そこで、撮像のとき送信に用いるパルス状の超音波にも、この考えを適用してみる。基本波に第2高調波を重畳するとき、その位相関係を制御すると、後述の図5〜図8で示す音圧波形のように、最大振幅の正音圧側ピーク値を強調した、すなわち負音圧側ピーク値より大きくした最大正圧強調波形(図5)、最大振幅の負音圧側ピーク値を強調した、すなわち正音圧側ピーク値より大きくした最大負圧強調波形(図6)、超音波音圧波形の立ち上がりが立ち下がりよりも急峻な音圧上昇強調波形(図7、N波とも呼ぶ)、超音波音圧波形の立ち下がりが立ち上がりよりも急峻な音圧下降強調波形(図8、逆N波とも呼ぶ)などをつくることができる。
【0014】
このような波形の音圧に微小気泡をさらしたときの挙動を数値計算により理論的に予測して、基本波と第2高調波の合計超音波エネルギーを共通として比較した結果を図1に示す。図中、太い実線は最大正圧強調波形の場合、太い点線は最大負圧強調波形の場合、細い実線は音圧上昇強調波形の場合、細い点線は音圧下降強調波形の場合を示す。
【0015】
図1に示すように、音圧下降強調波形が、微小気泡振動中の最大表面積を最大とし、逆に、超音波強度の相対的に低い領域では、音圧上昇強調波形または最大正圧強調波形が、振動中の最大表面積を最小とすることがわかった。
【0016】
ほとんどの安定化マイクロバブル製剤では、界面活性剤またはそれに類する物質を気泡表面に配することにより、微小気泡を安定化しているので、微小気泡振動中の最大表面積は、音圧によるマイクロバブル不安定化の物理的指標になると考えられる。すなわち、基本波成分と第2高調波成分との合計超音波エネルギー一定の条件では、着目生体領域の安定化マイクロバブル系造影剤密度の減少を抑制しながら撮像するときには、音圧上昇強調波形または最大正圧強調波形が適しており、着目生体領域の安定化マイクロバブル系造影剤を効率的に消失させるには、音圧下降強調波形が適していると考えられる。
【0017】
図2に、メカニカル・インデックスを共通として、各波形による微小気泡振動中の最大表面積を比較した結果を示す。図中の太い実線、太い点線、細い実線、細い点線は、図1の場合と同様である。この場合には、最大正圧強調波形のときに、振動中の最大表面積が最大となった。従って、メカニカル・インデックス一定の条件で、着目生体領域の安定化マイクロバブル系造影剤を効率的に消失させるには、最大正圧強調波形が適していると考えられる。
【0018】
このように、本発明では、基本波に高調波を重畳し、両者の位相関係を制御することにより、着目生体領域の安定化マイクロバブル系造影剤の密度を減少を抑制するのに適した波形や、逆に、効率的に減少させるのに適した波形をつくり、それを必要に応じて適宜使い分けることにより課題を解決する。
【0019】
以上のことから、本発明の超音波診断装置は、超音波探触子を用いて、超音波を造影剤が導入された被検査体に対して送受信することにより、被検査体内部を撮像する超音波診断装置にあって、前記超音波探触子が、基本波と、少なくとも前記基本波の2倍高調波を含む高調波とを重畳した超音波パルスを送信するよう構成されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、前記構成において、前記超音波探触子より送信される超音波パルスが、超音波波形の立ち下がりが立ち上がりに比べて急峻な音圧下降強調波形を含んでなることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、前記構成において、前記超音波探触子より送信される超音波パルスが、最大振幅の正音圧側ピーク値が負音圧側ピーク値より大なる最大正圧強調波形を含んでなることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、前記構成において、前記音圧下降強調波形と前記最大正圧強調波形とが、送信モードに応じて切替え可能に構成されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、前記構成において、前記音圧下降強調波形もしくは前記最大正圧強調波形の超音波パルスを用いて撮像された超音波画像を表示するよう構成したことを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、前記構成において、前記造影剤がマイクロバブルを含み、かつ、前記基本波の中心周波数が、前記マイクロバブルの共振周波数に合わせて設定されていることを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、前記構成において、前記超音波パルスが、前記基本波と、前記基本波とはそのゼロクロス点において位相がπ/2ずれた2倍高調波とを重畳した波形を有することを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、前記構成において、前記超音波パルスが、前記基本波と、前記基本波とはそのゼロクロス点において位相が同じ2倍高調波とを重畳した波形を有することを特徴とする。
【0027】
さらに、本発明は、前記構成において、前記超音波パルス波として、最大振幅の正音圧側ピーク値が負音圧側ピーク値より大なる最大正圧強調波形、最大振幅の負音圧側ピーク値が正音圧側ピーク値より大なる最大負圧強調波形、超音波波形の立ち上がりが立ち下がりよりも急峻な音圧上昇強調波形、および超音波波形の立ち下がりが立ち上がりよりも急峻な音圧下降強調波形を予め記録しておき、いずれか1つの波形を選択して用いるよう構成したことを特徴とする。
【0028】
さらにまた、本発明は、前記構成において、前記音圧上昇強調波形もしくは前記最大正圧強調波形を主成分とする超音波パルス波を送信する第1のモードと、前記音圧下降強調波形もしくは前記最大正圧強調波形を主成分とする超音波パルス波を送信する第2のモードとを切替え可能に動作するよう構成したことを特徴とする。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下,本発明の実施例を、図を用いて説明する。
【0030】
図3および図4は、パルスエコー法を基本とする超音波診断装置に本発明を適用した装置の典型的な構成を示すブロック図である。
【0031】
送波波形制御部1では、図5〜図8に例として示す音圧波形のような、最大振幅の正音圧側ピーク値を強調した、すなわち負音圧側ピーク値より大きくした最大正圧強調波形(図5)、最大振幅の負音圧側ピーク値を強調した、すなわち正音圧側ピーク値より大きくした最大負圧強調波形(図6)、超音波音圧波形の立ち上がりが立ち下がりよりも急峻な音圧上昇強調波形(図7)、超音波音圧波形の立ち下がりが立ち上がりよりも急峻な音圧下降強調波形(図8)などの予め記録された複数の波形から送波波形を選択して、これに制御された振幅を与えて駆動アンプ3に与える。送波に指向性を与えるためには、トランスデューサアレイ(超音波探触子)5を構成する素子から素子選択スイッチ4により選択された各素子に与える送波信号に遅延を与えて収束効果を得る必要があるが、送波収束遅延制御部2では、その遅延を制御する。
【0032】
このようにしてトランスデューサアレイ5から生体へ送り出された指向性超音波パルスは、生体組織や造影剤に反射され、その一部が再びトランスデューサアレイ5に戻って来て、これを構成する各素子に受信される。各受波信号のうち、素子選択スイッチ4により選択された素子の各信号は、プリアンプ6により増幅された後、A/D変換され、一旦、受波メモリ7に蓄えられる。
【0033】
より詳細には、プリアンプ6の直後に、送信からの経過時間に従って増幅率が漸増するよう制御されたTGCアンプを通した後、A/D変換するのが一般的である。これは、生体中を伝播する超音波が、伝播距離にほぼ比例して減衰するのに対応して、受信信号の振幅が、送信からの経過時間にほぼ比例して減少するのを補償して、A/D変換器入り口における信号振幅の大きさを一定の範囲に保つための処理である。これによりA/D変換における振幅量子化による信号ダイナミックレンジの低下を防ぐ。さらに、これに加えて、A/D変換の前に帯域制限フィルタを通すことにより、A/D変換における時間軸量子化によるエイリアシングを防ぐことができる。
【0034】
受波指向性を得るためには、一旦、メモリ7に蓄えられた各素子の受波信号に、各素子の位置に応じた一種の遅延を与えた後に互いに加算して収束効果を得る必要がある。受波収束遅延加算部8では、その処理を行う。各素子の信号に与えるべき遅延時間の最適値は、受波焦点距離により変化する。また、良好なパルスエコー像を得るための受波焦点距離の最適値は、送信からの経過時間と音速に比例して長くなる。従って、各素子の信号に与える遅延時間を送信からの経過時間に応じて変化させる受信方式を用いることが望ましい。この方式は、図3や図4に示したような、各素子の受波信号を一旦メモリに書き込んでから再び読み出して互いに加算する構成であれば、読み出し時あるいは書き込み時の制御により、比較的容易に実現することができる。
【0035】
一般の超音波診断装置のBモードでは、受波収束のための遅延加算により得られた信号から、検波処理により振幅を求め、これを対数的に圧縮して表示信号とする。この処理は、図中の表示信号選択生成部12において行い、これをスキャンコンバータ13で2次元像あるいは場合によっては3次元像に変換し、CRTあるいは場合によっては液晶による表示器14に表示する。
【0036】
また、ハーモニックイメージング法では、受波収束のための遅延加算により得られた信号から非線形成分を抽出して、この成分について同様の処理をして表示信号とする。これにより、生体組織に比較して非線形反射能の大きな安定化マイクロバブル系造影剤の分布を強調したパルスエコー像を得ることができる。このハーモニックイメージング法の最も基本的な方式では、非線形効果で生じた高調波を帯域通過フィルタにより基本波と分離して抽出する。ただ、本発明の超音波診断装置では、送波信号に初めから高調波成分が含まれているため、この帯域通過フィルタにより分離した高調波成分をもって非線形成分とする基本的な方式をこのまま用いることはできない。
【0037】
帯域通過フィルタに依存しない非線形成分抽出法には、パルス反転法と振幅変調法がある。図3は、これらを適用した場合の本発明の一実施例である。
【0038】
振幅変調法では、図5〜図8に例として示したような基本波に高調波を重畳した音圧波形を1つ選択し、その振幅を複数通りに変えて送波する。非線形成分抽出には、受波エコー線形成分の振幅は送波振幅に比例するが、非線形成分の振幅は送波振幅に比例しないことを原理として用いる。
【0039】
2通りの振幅を用いる場合を例に説明すると、第1の振幅A1で送波することにより得られた受波収束後の信号を一旦メモリ9に記録し、第2の振幅A2で送波することにより得られた受波収束後の信号をA1/A2倍して、メモリ9に記録した信号との差分をとることにより、線形成分を消去し、非線形成分を抽出する。通常の振幅変調法では、A1とA2は正の実数である。
【0040】
一方、A1とA2として符号を反転した絶対値が等しい実数のペアを用いるのがパルス反転法であるといえる。図5〜図8に示した音圧波形を例とすると、最大正圧を強調した波形と最大負圧を強調した波形、音圧上昇を強調した波形と音圧下降を強調した波形が、このような、互いに一方が他方を反転した反転パルス波形ペアの関係になっている。この場合の動作を説明すると、音圧波形を1つ選択し、これを送波することにより得られた受波収束後の信号を一旦メモリ9に記録し、次にその反転パルス波形を送波することにより得られた受波収束後の信号と、メモリ9に記録した信号とを加算することにより、線形成分を消去し、非線形成分を抽出する。このような信号処理を非線形成分抽出部10にて行って得られた信号に、前述した処理をして表示信号とする。
【0041】
前節では、マイクロバブル系造影剤が生体組織に比較して大きな非線形反射能をもつことを利用して造影剤の分布を強調したパルスエコー像を得る方法について述べたが、生体組織と比較したとき特徴的なマイクロバブル系造影剤のもう一つの音響的特性は、超音波パルスの照射により不安定化・消失・縮小・会合など不可逆的変化を生じやすいことである。
【0042】
図4は、かかる性質を利用して造影剤の分布を強調したパルスエコー像を得る場合における本発明の別の実施例を示す。図5〜図8に例として示したような基本波に高調波を重畳した音圧波形を1つ選択し、一定の振幅で複数回送波する。2回送波の場合を例に説明すると、1回目の送波により得られた受波収束後の信号を一旦メモリ9に記録し、2回目の送波により得られた受波収束後の信号との差分をとることにより、変化しない成分を消去し、造影剤の不可逆的変化に対応する変動成分を抽出する。単純な差分をとると、静止した生体組織の信号が完全に消去されてしまい、造影剤の分布位置を表示する上でもかえって不都合な場合もある。これには、差分をとるときに1回目の送波により得られた信号と2回目の送波により得られた信号に与える重みを完全に等しく1:1とするではなく、数%増加または減少させることにより対処できる。あるいは、差分をとるときに時間軸を完全に一致させるのではなく、超音波周期の数%シフトさせることにより対処できる。このような信号処理を変動成分抽出部11にて行って得られた信号に、前々節に記した処理をして表示信号とする。
【0043】
図5〜図8には、図3または図4の構成をもつ本発明の実施例の超音波診断装置を用いて水中に超音波を照射したときの送波音圧波形をアレイ・トランスジューサ・プローブ直近で針状ハイドロフォンにより計測した結果を示した。ハイドロフォンとしては、入力音圧に比例し、符号の等しい電圧圧力が得られるものを用いた。例として、基本波に第2高調波を重畳するとき、その位相関係をシフトすることにより得られる4種類の音圧波形として、図5の最大正圧強調波形、図6の最大負圧強調波形、図7の音圧上昇強調波形(N波)、図8の音圧下降強調波形(逆N波)を示した。ここで、基本波成分および第2高調波成分の振幅はそれぞれ一定とした。
【0044】
図9〜図12は、図5〜図8に示した音圧波形の超音波を水中に照射し、水中に懸濁したマイクロバブルに一定回数照射した前後におけるマイクロバブルの大きさ(粒径)の分布の変化を調べた結果を示す。図9〜図12は、それぞれ音圧波形として、最大正圧強調波形(図5)、最大負圧強調波形(図6)、音圧上昇強調波形(図7)、音圧下降強調波形(図8)を用いた場合を示す。また、これらの図中、実線(B)は超音波照射前、一点鎖線(C)は超音波照射後、点線(D)は超音波照射前・後の測定結果の差分を示す。
【0045】
いずれの波形の場合も、超音波診断装置に用いられる周波数の大きさ2MHz程度の超音波に共振する直径数ミクロンのマイクロバブルの数が有為に減少した。一方、直径1ミクロン未満のマイクロバブルの数がやや増加しているが、これは、破壊されたマイクロバブルを安定化していた殻がカウントされたものであると考えられる。
【0046】
この4種の波形による結果をさらに比較すると、この超音波強度一定の条件では、音圧下降強調波形(逆N波)のとき、特に高い効率でマイクロバブルが消去され、逆に、音圧上昇強調波形(N波)や最大正圧強調波形では、マイクロバブルの消失が顕著に抑制されることがわかる。この実験結果は、図1に示した数値計算による理論的予測の結果とほぼ一致する。
【0047】
以上より、着目生体領域の安定化マイクロバブル系造影剤をなるべく温存しながら撮像するときには、音圧上昇強調波形または最大正圧強調波形あるいはその中間の波形を選択し、複数回送波による変動成分抽出か、または振幅変調法による非線形成分抽出により造影剤の分布を強調したパルスエコー像を得るのが有利である。
【0048】
逆に、なるべく低い超音波エネルギーで、着目生体領域の安定化マイクロバブル系造影剤を効率的に消去しながら撮像するときには、音圧下降強調波形を選択し、複数回送波による変動成分抽出か、または振幅変調法もしくはパルス反転法による非線形成分抽出により造影剤の分布を強調したパルスエコー像を得るのが有利である。
【0049】
あるいは、なるべく低いメカニカル・インデックスの超音波照射で、生体領域の安定化マイクロバブル系造影剤を効率的に消去しながら撮像するときには、最大正圧強調波形を選択し、複数回送波による変動成分抽出か、または振幅変調法による非線形成分抽出により造影剤の分布を強調したパルスエコー像を得るのが有利である。
【0050】
本発明を適用した図3または図4の構成をもつ超音波診断装置を用い、これらの造影剤温存撮像モードと造影剤消去撮像モードを適宜切り換えて使うことにより、安定化マイクロバブル系造影剤の特徴を生かした超音波画像診断が可能となると考えられる。
【0051】
【発明の効果】
このように本発明によれば、送波波形を制御することにより、着目生体領域の安定化マイクロバブル系造影剤の密度を減少を抑制しながら良好な画像SN比と充分なフレームレートの超音波撮像が可能であり、また、超音波強度やメカニカル・インデックスを安全上の制限内に抑制しながら、必要に応じて、着目生体領域の安定化マイクロバブル系造影剤を効率的に消失させることができる超音波診断装置を実現できる。従って、本発明の医療ならびに工業における意義は大きいということができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】基本波と第2高調波の合計超音波エネルギーを共通として比較した微小気泡振動中の最大表面積を示す図。
【図2】メカニカル・インデックスを共通として比較した微小気泡振動中の最大表面積を示す図。
【図3】本発明の一実施例の構成を説明するブロック図。
【図4】本発明の別の実施例の構成を説明するブロック図。
【図5】本発明の超音波診断装置のプローブ直近で針状ハイドロフォンにより計測した送波音圧波形(1)を示す図。
【図6】本発明の超音波診断装置のプローブ直近で針状ハイドロフォンにより計測した送波音圧波形(2)を示す図。
【図7】本発明の超音波診断装置のプローブ直近で針状ハイドロフォンにより計測した送波音圧波形(3)を示す図。
【図8】本発明の超音波診断装置のプローブ直近で針状ハイドロフォンにより計測した送波音圧波形(4)を示す図。
【図9】本発明の超音波診断装置による超音波照射の前後における安定化マイクロバブルの粒経分布測定結果(1)を示す図。
【図10】本発明の超音波診断装置による超音波照射の前後における安定化マイクロバブルの粒経分布測定結果(2)を示す図。
【図11】本発明の超音波診断装置による超音波照射の前後における安定化マイクロバブルの粒経分布測定結果(3)を示す図。
【図12】本発明の超音波診断装置による超音波照射の前後における安定化マイクロバブルの粒経分布測定結果(4)を示す図。
【符号の説明】
1…送波波形制御部、2…送波収束遅延制御部、3…駆動アンプ、4…素子選択スイッチ、5…アレイ状振動子、6…プリアンプ、TGCアンプ、及びA/D変換器、7…受波メモリ、8…受波収束遅延加算部、9…時系列信号メモリ、10…非線形成分抽出部、11…変動成分抽出部、12…表示信号選択生成部、13…スキャンコンバータ、14…表示器。

Claims (10)

  1. 超音波探触子を用いて、超音波を造影剤が導入された被検査体に対して送受信することにより、被検査体内部を撮像する超音波診断装置にあって、前記超音波探触子が、基本波と、少なくとも前記基本波の2倍高調波とを重畳し、両者の位相関係を制御することにより生成される音圧波形をもつ超音波パルスを送信するよう構成されていることを特徴とする超音波診断装置。
  2. 前記超音波探触子により送信される超音波パルスが、超音波音圧波形の立ち下がりが立ち上がりに比べ急峻な音圧下降強調波形を含んでなることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
  3. 前記超音波探触子により送信される超音波パルスが、最大振幅の正音圧側ピーク値が負音圧側ピーク値より大なる最大正圧強調波形を含んでなることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
  4. 前記音圧下降強調波形と前記最大正圧強調波形とが、送信モードに応じて切替え可能に構成したことを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
  5. 前記音圧下降強調波形もしくは前記最大正圧強調波形の超音波パルスを用いて撮像された超音波画像を表示するよう構成したことを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
  6. 前記造影剤がマイクロバブルを含み、かつ、前記基本波の中心周波数が、前記マイクロバブルの共振周波数に合わせて設定されていることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
  7. 前記超音波パルスが、前記基本波と、前記基本波とはそのゼロクロス点において位相がπ/2ずれた2倍高調波とを重畳した波形を有することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
  8. 前記超音波パルスが、前記基本波と、前記基本波とはそのゼロクロス点において位相が同じ2倍高調波とを重畳した波形を有することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
  9. 前記超音波パルスとして、最大振幅の正音圧側ピーク値が負音圧側ピーク値より大なる最大正圧強調波形、最大振幅の負音圧側ピーク値が正音圧側ピーク値より大なる最大負圧強調波形、超音波音圧波形の立ち上がりが立ち下がりよりも急峻な音圧上昇強調波形、および超音波音圧波形の立ち下がりが立ち上がりよりも急峻な音圧下降強調波形を予め記録しておき、いずれか1つの波形を選択して用いるよう構成したことを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
  10. 前記音圧上昇強調波形もしくは最大正圧強調波形を主成分とする超音波パルスを送信する第1のモードと、前記音圧下降強調波形もしくは最大負圧強調波形を主成分とする超音波パルス波を送信する第2のモードとを切替え可能に動作するよう構成したことを特徴とする請求項9記載の超音波診断装置。
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