JP4155024B2 - 円筒状基材の洗浄方法及び洗浄装置、並びに電子写真感光体の製造方法 - Google Patents
円筒状基材の洗浄方法及び洗浄装置、並びに電子写真感光体の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、円筒状基材の洗浄方法および洗浄装置、並びに電子写真感光体の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
近年、電子写真技術を用いたプリンター、複写機等には、より一層の高画質が要求されている。これらプリンター、複写機等には電子写真感光体(OPC)が使用されており、電子写真感光体としては、現在、アルミニウム管等の導電性基材上に下引き層(UCL)、電荷発生層(CGL)及び電荷輸送層(CTL)を順次積層したものが主流となっている。この電子写真感光体に使用する導電性基材は、円筒状のアルミニウムを鏡面加工したり又は板状のアルミニウムをインパクト成形することにより作製される。また導電性基材の表面に対して、粗面化処理等がなされることもある。
【0003】
ところが、アルミニウムを鏡面加工したりインパクト成形したり、粗面化処理したりすると、基材表面に切削油のミスト、空気中のダスト、切粉等が付着することとなる。このため、導電性基材上に下引き層、電荷発生層及び電荷輸送層を積層する前に、基材表面を洗浄する必要がある。このような洗浄方法として、円筒状基材を洗浄液に浸漬して円筒状基材に付着した油、ダスト等の異物を除去し、円筒状基材を洗浄する方法が一般に知られている。ところが、この方法には、円筒状基材を洗浄液から引き上げる時に、除去された異物が円筒状基材の表面に再付着する場合があった。
そこで、例えば特開平5−61215号公報に開示される洗浄方法は、上部に開口を有する洗浄槽の底部から洗浄液供給口を通して洗浄液を供給し、槽上部の開口から洗浄液をオーバーフローさせることにより洗浄槽の水面に浮遊した異物を槽外に排出すると共に、洗浄槽内の異物は、槽内の洗浄液をポンプを用いて排出することにより排出し、円筒状基材の引き上げ時における異物の再付着防止を図っている。
【特許文献1】
特開平5−61215号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述した従来の公報に記載の洗浄方法は以下に示す課題を有する。
【0005】
即ち上記洗浄方法は、槽の底部から洗浄液供給口を通して洗浄槽内に洗浄液を供給することにより槽から洗浄液をオーバーフローさせているが、この洗浄液供給口は、単に洗浄槽に洗浄液を供給するためのものである。このため、円筒状基材を洗浄槽内に浸漬する場合に、円筒状基材と洗浄液供給口の位置が必ずしも一致せず、円筒状基材の内側における洗浄液の流速が不十分となり、基材内側に浮遊した異物に対し十分な量の洗浄液を付与することができず、基材内側の浮遊物を洗浄槽から流出させることができない場合がある。
【0006】
この場合、基材内側には浮遊物や異物が残留することとなり、円筒状基材を引き上げて円筒状基材が洗浄液の液面から離れるときに、基材内側に残った浮遊物や異物は基材の下端表面に再付着しやすくなる。具体的には、異物を洗浄槽から十分に除去できていない基材内側に溜まった液が、円筒体基材が洗浄液の液面から離れようとする際に、洗浄液の液面付近で円筒状基材内から排出され、円筒状基材の下端表面に再付着したり、円筒状基材が液面から離れる際、水面上で飛散して円筒状基材の下端表面に再付着したりする。このような浮遊物や油、ダスト等の異物は、円筒状基材の表面に膜を形成する際にハジキ、シミ等の欠陥の原因となり、この欠陥は、円筒状基材に感光層を形成して得られる電子写真感光体を画像形成装置に装着して画像を形成するときにその画像に黒ポチ、白ポチ、ハーフトーン画像のムラ等を生じさせ、画像品質に悪影響を及ぼすことになる。
【0007】
なお、円筒状基材の上端を保持部材で密栓し、基材下端部のみを洗浄液に浸漬して、基材内側に洗浄液を侵入させずに基材外面を洗浄することも考えられるが、実際には基材の洗浄時に僅かながら基材内側に洗浄液が侵入するため、基材の引き上げ時に、基材内面から除去された異物を含む洗浄液が洗浄液の水面上に落下し、その異物を含んだ洗浄液が飛散して引き上げ中の基材下端部に付着する。その場合においても、異物が基材表面に付着してハジキ、シミ等の欠陥の原因となり、ひいては歩留りを低下させてしまう。
そこで、本発明は、洗浄液に浸漬した円筒状基材を上昇させて洗浄槽の外に出す時における異物の再付着を十分に防止できる円筒状基材の洗浄方法及び洗浄装置並びに電子写真感光体の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、上部に開口を有し底部に洗浄液供給口を有する洗浄槽内にその底部から洗浄液を供給し前記開口を通して前記洗浄液をオーバーフローさせるオーバーフロー工程と、前記洗浄槽内に複数本の円筒状基材を浸漬する浸漬工程と、前記複数本の円筒状基材を洗浄する洗浄工程と、前記複数本の円筒状基材を上昇させて前記洗浄槽の外に出す上昇工程とを含む円筒状基材の洗浄方法において、前記洗浄槽が前記洗浄液供給口を複数有し、前記複数の洗浄液供給口が、前記円筒状基材の内側に前記洗浄液を供給するための複数の第1洗浄液供給口と、前記円筒状基材の外側に前記洗浄液を供給するための複数の第2洗浄液供給口とで構成され、前記浸漬工程が、前記複数本の円筒状基材を前記洗浄槽内の前記洗浄液に浸漬し、前記複数本の円筒状基材の内側に前記洗浄液が供給されるように前記複数本の円筒状基材のそれぞれを前記複数の第1洗浄液供給口のそれぞれの上方に配置するものであることを特徴とする。
【0009】
この洗浄方法によれば、複数本の円筒状基材が洗浄液に浸漬されると、洗浄液により円筒状基材の表面からダストや油等の異物が除去され、洗浄液中に浮遊する。そして、これら異物は、第1及び第2洗浄液供給口から液面に向かう洗浄液の流れに乗って液面まで移動する。具体的には、円筒状基材の外側の洗浄液中の異物に対しては、第2洗浄液供給口から洗浄槽内に供給される洗浄液により、洗浄槽底部から液面方向への十分な速度が付与され、異物が洗浄槽の外に効率よく排出される。また各円筒状基材は各第1洗浄液供給口の上方に配置されるため、円筒状基材内側の洗浄液中に浮遊するダストや油等の異物に対しても洗浄槽底部から液面方向への十分な速度が付与され、異物が基材内側からも効率よく排出される。従って、円筒状基材を上昇させて洗浄槽の外に出す時に、基材の内側においてより多くの異物が溜まることが十分に防止され、基材の下端が水面から離れるときに、基材内側に溜まった洗浄液が基材の内側から排出されることで基材の下端表面に洗浄液が再付着しても、異物付着量が十分に小さくなる。また基材を洗浄槽の外に出した後に、水面から飛散した洗浄液が基材の下端表面に再付着しても、その異物付着量が十分に小さくなる。
【0010】
上記洗浄方法においては、複数の第1洗浄液供給口のうちの少なくとも1つが中央第1洗浄液供給口として前記洗浄槽の底部の中央に設けられ、洗浄工程において、前記中央第1洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速を、前記中央第1洗浄液供給口から供給される洗浄液の流量を前記円筒状基材の開口面積で除した値とし、前記中央第1洗浄液供給口以外の第1洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速を、前記中央第1洗浄液供給口以外の第1洗浄液供給口から供給される洗浄液の流量を前記円筒状基材の開口面積で除した値とし、前記複数の第2洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の外側に供給される洗浄液の平均流速を下記の式:
前記複数の第2洗浄液供給口の個数×各前記複数の第2洗浄液供給口から供給される洗浄液の流量/前記円筒状基材外側の断面積
で算出される値とした場合、中央第1洗浄液供給口を通して円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速を、中央第1洗浄液供給口以外の第1洗浄液供給口を通して円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速、及び複数の第2洗浄液供給口を通して円筒状基材の外側に供給される洗浄液の流速よりも大きくすることが好ましい。
【0011】
この方法によれば、円筒状基材を洗浄液に浸漬した時に、中央第1洗浄液供給口から円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速は、中央第1洗浄液供給口以外の第1洗浄液供給口を通して円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速及び第2洗浄液供給口を通して円筒状基材の外側に供給される洗浄液の流速よりも大きくなっているため、洗浄槽の中心部から外周に向かって洗浄液の流れが生じる。このため、洗浄槽底部の第1及び第2洗浄液供給口から液面に向かう洗浄液の流れに乗って液面に到達した異物は、液面に滞留することなく、洗浄槽の液面において槽中心部から外周へ向かって流れる洗浄液の流れに乗って、効率よく洗浄槽からオーバーフローして排出される。従って、一旦液面まで到達した異物が沈降して基材の内側に戻ることが十分に防止され、基材の内側に溜まる異物の量を十分に低減することが可能となる。よって、基材の下端が水面から離れるときに基材内側に溜まった洗浄液が基材の内側から排出されることにより基材の下端表面に洗浄液が再付着しても、異物付着量が十分に小さくなる。また基材を洗浄槽の外に出した後に、液面から飛散した洗浄液が基材の下端表面に再付着しても、その異物付着量が十分に小さくなる。
また上記洗浄方法においては、複数の第2洗浄液供給口のうちの少なくとも1つが中央第2洗浄液供給口として前記洗浄槽の底部の中央に形成され、洗浄工程において、前記中央第2洗浄液供給口以外の第2洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の外側に供給される洗浄液の平均流速を下記の式:
前記中央第2洗浄液供給口以外の第2洗浄液供給口の個数×各前記中央第2洗浄液供給口以外の第2洗浄液供給口から供給される洗浄液の流量/前記円筒状基材外側の断面積
で算出される値とし、前記複数の第1洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速を、前記複数の第1洗浄液供給口から供給される洗浄液の流量を前記円筒状基材の開口面積で除した値とした場合、前記中央第2洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の外側に供給される洗浄液の流速を、前記中央第2洗浄液供給口以外の第2洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の外側に供給される洗浄液の流速、及び前記複数の第1洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速よりも大きくすることが好ましい。
【0012】
この方法によれば、円筒状基材を洗浄液に浸漬した時に、中央第2洗浄液供給口を通して洗浄槽内に供給される洗浄液の流速は、中央第2洗浄液供給口以外の第2洗浄液供給口を通して円筒状基材の外側に供給される洗浄液の流速及び第1洗浄液供給口を通して円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速よりも大きくなっているため、槽中心部から外周に向かって洗浄液の流れが生じる。このため、洗浄槽底部の第1及び第2洗浄液供給口から液面に向かう洗浄液の流れに乗って液面に到達した異物は、液面に滞留することなく、洗浄槽の液面において槽中心部から外周へ向かって流れる洗浄液の流れに乗って、効率よく洗浄槽からオーバーフローして排出される。従って、一旦液面まで到達した異物が沈降して基材の内側に戻ることが十分に防止され、基材の内側に溜まる異物の量を十分に低減することが可能となる。よって、基材の下端が水面から離れるときに基材内側に溜まった洗浄液が基材の内側から排出され、基材の下端表面に洗浄液が再付着しても、異物付着量がより十分に小さくなる。また基材を洗浄槽の外に出した後に、水面から飛散した洗浄液が基材の下端表面に再付着しても、その異物付着量がより十分に小さくなる。
【0017】
上記洗浄方法は、湿式ホーニング処理した円筒状基材の洗浄に有効である。即ち湿式ホーニング処理した円筒状基材には通常、内面にも外面にも研磨材が付着している。このため、その円筒状基材を洗浄液に浸漬して洗浄した場合に、内面に付着した研磨材が基材外面に再付着するおそれがある。しかし、上述した円筒状基材の洗浄方法は、内面に付着した異物が基材外面に再付着することを十分に防止することができるため、湿式ホーニング処理した円筒状基材の洗浄に有効である。
【0023】
更に本発明は、円筒状基材を洗浄する基材洗浄工程と、前記基材洗浄工程で洗浄された円筒状基材上に感光層を形成する感光層形成工程とを含む電子写真感光体の製造方法であって、基材洗浄工程が、上記円筒状基材の洗浄方法により円筒状基材を洗浄する工程を含むことを特徴とする。
【0024】
この製造方法によれば、円筒状基材を上記洗浄方法により洗浄すると、円筒状基材を洗浄液中から上昇させて洗浄槽の外へ出すときに基材表面への異物の再付着が十分に防止され、円筒状基材の表面に膜を形成する際に発生するハジキ、シミ等の欠陥の発生が十分に防止される。このため、この製造方法により得られる電子写真感光体を画像形成装置に装着して画像を形成すると、その画像に黒ポチ、白ポチ、ハーフトーン画像のムラ等が生じることが十分に防止され、画像品質に与える悪影響を十分に防止することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の構成要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0026】
図1は、本発明に係る円筒状基材の洗浄装置の第1実施形態を示す概略図、図2は、図1の洗浄槽の概略平面図である。以下、5本の円筒状基材4を洗浄する洗浄装置1を例にして説明する。
【0027】
図1及び図2に示すように、本実施形態の洗浄装置1は、洗浄液を収容する直方体状の洗浄槽2を備えており、洗浄槽2の上部には開口3が形成されている。
【0028】
ここで、洗浄液としては、例えば水系洗浄液が用いられる。水系洗浄液とは、水を含む洗浄液のことをいい、このような水系洗浄液としては、例えばイオン交換水や蒸留水などが挙げられる。
【0029】
上記洗浄液としては、界面活性剤を含むものが好ましい。この場合、円筒状基材4を洗浄液に浸漬した後、上昇させて洗浄槽2の外に出す時に、円筒状基材4への異物の再付着を十分に防止することができる。
【0030】
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤又はこれらを混合したもののいずれを用いることも可能である。中でも、基材の腐蝕防止の観点からは、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、燐酸エステル塩等の陰イオン性界面活性剤または、脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤がより好ましい。また洗浄液中の界面活性剤の濃度は通常は、0.1〜30重量%、好ましくは1.0〜15重量%である。界面活性剤の濃度が0.1重量%未満では、油分が十分除去できず、基材の洗浄が不十分となる傾向があり、30重量%を超えると、基材表面上にシミが発生する傾向がある。
【0031】
また洗浄槽2の底部には、円筒状基材4の内側に洗浄液を供給するための第1洗浄液供給口5が5個形成され、円筒状基材4の外側に洗浄液を供給するための第2洗浄液供給口6が4個形成されている。5個の第1洗浄液供給口5のうちの1つは、中央第1洗浄液供給口5aとして洗浄槽2の底部の中央に形成され、中央第1洗浄液供給口5aの外周には4個の第1洗浄液供給口5bが等間隔に配置されている。従って、第1洗浄液供給口5及び第2洗浄液供給口6からは、洗浄槽2の底部から液面7に向かって洗浄液が供給されるようになっている。
【0032】
第1洗浄液供給口5及び第2洗浄液供給口6はそれぞれラインL1、ラインL2に接続され、ラインL1、ラインL2は、洗浄液供給ラインL3を介してリザーバタンク10に接続されている。洗浄液供給ラインL3にはフィルタ11及び供給ポンプ12が設置されている。従って、リザーバタンク10に溜められた洗浄液は、供給ポンプ12の作動により、リザーバタンク10から抜き出され、洗浄液供給ラインL3を経てラインL1、L2に導入される。ラインL1に導入される洗浄液は、第1洗浄液供給口5を通して洗浄槽2内に供給され、ラインL2に導入される洗浄液は、第2洗浄液供給口6を通して洗浄槽2内に供給される。なお、フィルタ11は、洗浄液供給ラインL3を通る洗浄液中の異物を除去するものである。このように、第1洗浄液供給口5、第2洗浄液供給口6、リザーバタンク10、フィルタ11、供給ポンプ12、ラインL1〜L3は、洗浄液供給手段として機能する。
【0033】
またラインL1、ラインL2にはそれぞれ供給量調整バルブ8、供給量調整バルブ9が設置されている。これら供給量調整バルブ8,9により、第1洗浄液供給口5及び第2洗浄液供給口6から、洗浄槽2に供給される洗浄液の供給量が調整されるようになっている。
【0034】
更に洗浄槽2の底部には、第1洗浄液供給口5の上方に円筒状のガイド部材13が固定されており、ガイド部材13の内径は、洗浄すべき円筒状基材4の内径以下となっている。このガイド部材13は、第1洗浄液供給口5を通して洗浄槽2内に供給される洗浄液を円筒状基材4の内側にのみガイドするためのものであり、ガイド部材13の真上に円筒状基材4が配置されると、第1洗浄液供給口5を通して洗浄槽2内に供給される洗浄液は、ガイド部材13により円筒状基材4の内側にのみガイドされるようになる。
【0035】
また洗浄槽2の外周には、洗浄槽2の開口3からオーバーフローした洗浄液を回収するオーバーフローパン14が設けられており、オーバーフローパン14は洗浄液回収配管15を介してリザーバタンク10に接続されている。
【0036】
更に洗浄槽2には円筒状基材4を昇降させる昇降台16が設けられ、昇降台16は、昇降機構(図示せず)により円筒状基材4を昇降できるようになっている。ここで、昇降台16は、第1洗浄液供給口5及び第2洗浄液供給口6から供給される洗浄液を通過させる必要がある。このため、このような昇降台16としては、例えば金属板に穴を形成したパンチングメタル、フレーム部材を格子状に交差させてなる格子網等が用いられる。
(円筒状基材の洗浄方法)
(第1実施形態)
【0037】
次に、上記洗浄装置1を用いた円筒状基材4の洗浄方法について説明する。
【0038】
円筒状基材4の洗浄方法の説明に先立ち、まず円筒状基材4について説明する。円筒状基材4の素材としては、例えば銅、アルミニウム、ニッケル、鉄等の金属又はこれらの合金等が挙げられる。但し、円筒状基材4の素材はこれらの素材に限定されるものではない。
【0039】
次に、円筒状基材4の洗浄方法について説明する。
【0040】
まず円筒状基材4に対して通常、エッチング、陽極酸化、粗切削、センタレス研削、鏡面切削等の前処理を行う。あるいは円筒状基材4に対しては、干渉縞防止等の目的で非鏡面としたり、或は所望形状の凹凸を付与する粗面化処理を行う。このとき、円筒状基材4の外面のみならず内面にも、油分や金属の切粉が付着する。
【0041】
次に、供給ポンプ12を作動してリザーバタンク10に貯留された洗浄液を抜き出し、洗浄液供給ラインL3、ラインL1、ラインL2を経て第1洗浄液供給口5および第2洗浄液供給口6から洗浄槽2内に洗浄液を供給し、洗浄槽2の開口3から洗浄液をオーバーフローさせる(オーバーフロー工程)。
【0042】
そして、洗浄槽2からオーバーフローした洗浄液をオーバーフローパン14にて回収し、洗浄液回収配管15を経て洗浄液をリザーバタンク10へ戻す。こうして洗浄液を循環使用する。これにより、洗浄液にかかるコストを低減することができる。なお、リザーバタンク10から洗浄槽2へ供給される洗浄液は未使用の液であることが好ましい。この場合、油やダスト等の異物を含まない洗浄液が洗浄槽2へ供給されるので、洗浄槽2に収容される洗浄液中の異物の存在比が減り、円筒状基材4の洗浄時に異物が円筒状基材4表面に再付着することを十分に防止できる。
【0043】
洗浄槽2においては、後述する浸漬工程、洗浄工程及び上昇工程においても洗浄液のオーバーフロー状態を維持する。維持しないと、液面に異物が溜まることとなり、円筒状基材4に異物が再付着しやすくなる傾向がある。
【0044】
このとき、第1洗浄液供給口5を通して洗浄槽2内に供給する洗浄液の流速と、第2洗浄液供給口6を通して洗浄槽2内に供給する洗浄液の流速は、供給ポンプ12、供給量調整ポンプ8、9により調整する。
【0045】
次に、図3に示すように、5本の円筒状基材4を昇降台16上に載せる。このとき、5本の円筒状基材4の配置は、昇降台16を下降させたときに5本の円筒状基材4が5個の第1洗浄液供給口5の真上に配置されるようにする。円筒状基材4を昇降台16に載せた後は、昇降台16を昇降機構により下降させて、5本の円筒状基材4を洗浄槽2の洗浄液に浸漬する。そして、図4に示すように、5本の円筒状基材4のそれぞれを、各ガイド部材13の真上に配置する(浸漬工程)。このとき、円筒状基材4表面に付着したダストや油等の異物が洗浄液により除去され、洗浄液中に浮遊する。こうして円筒状基材4の洗浄が行われる(洗浄工程)。
【0046】
洗浄液中に浮遊する異物は、第1洗浄液供給口5及び第2洗浄液供給口6から液面に向かう洗浄液の流れに乗って液面まで移動する。具体的には、円筒状基材4の外側の洗浄液中の異物に対しては、第2洗浄液供給口6から洗浄槽2内に供給される洗浄液により、洗浄槽2の底部から液面方向への十分な速度が付与され、異物が洗浄槽2の外に効率よく排出される。また各円筒状基材4は各第1洗浄液供給口5の上方に配置されるため、円筒状基材4の内側の洗浄液中に浮遊するダストや油等の異物に対しても洗浄槽2の底部から液面方向への十分な速度が付与され、異物が基材4の内側からも効率よく排出される。従って、円筒状基材4を上昇させて洗浄槽2の外に出す時に、基材4の内側においてより多くの異物が溜まることが十分に防止され、基材4の下端が水面から離れるときに、基材4の内側に溜まった洗浄液が基材4の内側から排出されることで基材4の下端表面に洗浄液が再付着しても、その下端表面への異物付着量が十分に小さくなる。また基材4を洗浄槽2の外に出した後に、水面から飛散した洗浄液が基材4の下端表面に再付着しても、その異物付着量が十分に小さくなる。
【0047】
ここで、洗浄槽2の中心部を流れる洗浄液の流速が、中心部以外に配置された円筒状基材4の内側にのみ供給される洗浄液の流速、及び第2洗浄液供給口6を通して円筒状基材4の外側に供給される洗浄液の平均流速よりも大きくなっていることが好ましい。
【0048】
この場合、図5に示すように、洗浄槽2の槽中心部(洗浄液の液面上であって中央第1洗浄液供給口5aの真上の位置)から外周に向かって放射状に洗浄液の流れが生じる。このため、第1洗浄液供給口5及び第2洗浄液供給口6を通して供給される洗浄液により液面に到達した異物は、液面に滞留することなく、洗浄槽2の液面において槽中心部から外周へ向かって流れる洗浄液の流れに乗って効率よく洗浄槽2からオーバーフローして排出される。従って、一旦液面まで到達した異物が沈降して基材4の内側に戻ることが十分に防止され、基材4の内部に溜まる異物の量を十分に低減することが可能となる。よって、基材4の下端が水面から離れるときに基材4の内側に溜まった洗浄液が基材4の内側から排出されることにより基材4の下端表面に洗浄液が再付着しても、異物付着量がより十分に小さくなる。また基材4を洗浄槽2の外に出した後に、水面から飛散した洗浄液が基材4の下端表面に再付着しても、その異物付着量がより十分に小さくなる。
【0049】
なお、洗浄槽2の中心部を流れる洗浄液の流速とは、中央第1洗浄液供給口5aから供給される洗浄液の流量を円筒状基材4の開口面積で除した値をいい、中心部以外に配置された円筒状基材4の内側に供給される洗浄液の流速とは、第1洗浄液供給口5bから供給される洗浄液の流量を円筒状基材4の開口面積で除した値をいう。上記円筒状基材4の開口面積とは、円筒状基材4をその延び方向に直交する平面で切った時に、その平面と円筒状基材4の内壁面との交線によって形成される円の面積を言う。
【0050】
ここで、洗浄槽2の中心部を流れる洗浄液の流速と、中心部以外に配置された円筒状基材4の内側に供給される洗浄液の流速との差、洗浄槽2の中心部を流れる洗浄液の流速と、第2洗浄液供給口6を通して円筒状基材4の外側に供給される洗浄液の平均流速との差はそれぞれ0mm/secより大きいことが好ましい。0mm/sec以下では、洗浄槽2内に異物が滞留し、異物の再付着が起こりやすくなる傾向がある。
【0051】
また円筒状基材4の内側における洗浄液の流速は通常、2mm/sec以上であり、好ましくは4mm/sec以上である。流速が2mm/sec未満では、円筒状基材4に対する洗浄力が低下し、円筒状基材4の表面に付着した油分等の異物が十分除去できなくなる傾向がある。また第1洗浄液供給口5から供給される洗浄液の流速に上限はないが、流速の上限は洗浄液の供給ポンプ能力及びポンプ駆動コストにより決まる。
【0052】
更に円筒状基材4の外側における洗浄液の平均流速は通常、2mm/sec以上であり、好ましくは4mm/sec以上である。ここで、円筒状基材4の外側における洗浄液の平均流速とは、下記式:
円筒状基材の外側における洗浄液の平均流速
=第2洗浄液供給口6の個数×各第2洗浄液供給口6から供給される流量/円筒状基材外側の断面積
で算出される値を言う。
【0053】
上記式中、円筒状基材外側の断面積とは、浸漬した円筒状基材4の全てを含む水平面で洗浄槽2を切った時に、この水平面と洗浄槽2の内壁面との交線によって形成される領域の面積から、水平面と円筒状基材4の外周面との交線によって形成される円の面積(全ての円筒状基材4についての円の面積の総和)を引いた面積を言う。
【0054】
平均流速が2mm/sec未満では洗浄槽2内に異物が滞留し、異物の再付着が起こりやすくなる。また円筒状基材4の外側における洗浄液の平均流速に上限はないが、流速の上限は、洗浄液の供給ポンプ能力及びポンプ駆動コストにより決まる。
【0055】
次に、昇降機構で昇降台16を上昇させることにより円筒状基材4を上昇させ、洗浄液中から洗浄槽2の外に出す(上昇工程)。このとき、洗浄液の液面からはダストや油等の異物が十分に除去されており、洗浄液中の異物も効率よく除去されている。従って、円筒状基材4の上昇時に、円筒状基材4の表面への異物の再付着を十分に防止することができる。よって、円筒状基材4の洗浄回数を少なくすることができ、洗浄コストの低減を図ることができる。
(第2実施形態)
【0056】
次に、本発明に係る円筒状基材の洗浄方法の第2実施形態について説明する。
【0057】
まず本実施形態の円筒状基材の洗浄方法に用いる洗浄装置21について図6を用いて説明する。この洗浄装置21は、4本の円筒状基材4を洗浄するものである点で第1実施形態の洗浄装置1と相違する。具体的には、第1実施形態の中央第1洗浄液供給口5aが、円筒状基材4の外側に洗浄液を供給するための中央第2洗浄液供給口6aとして機能し、中央第2洗浄液供給口6aの上方にはガイド部材13は設けられていない点で第1実施形態の洗浄装置1と相違する。
【0058】
そして、本実施形態の洗浄方法は、4本の円筒状基材4を洗浄液中に浸漬するときに中央第2洗浄液供給口6aの真上に円筒状基材4を配置しない点で第1実施形態の洗浄方法と相違する。なお、図6において、中央第2洗浄液供給口6aと、それ以外の第2洗浄液供給口とを区別するために、中央第2洗浄液供給口6a以外の第2洗浄液供給口には符号6bを付してある。
【0059】
この場合も、第1実施形態と同様、円筒状基材4の内側に浮遊する異物に液面方向への十分な速度が付与されるため、異物を洗浄槽2から効率よく排出することができる。従って、円筒状基材4を上昇させて洗浄槽2の外に出す時に、基材4の内側においてより多くの異物が溜まることが十分に防止され、基材4の下端が水面から離れるときに、基材4の内側に溜まった洗浄液が基材4の内側から排出されることで基材4の下端表面に洗浄液が付着しても、その下端表面への異物付着量が十分に小さくなる。また基材4を洗浄槽2の外に出した後に、水面から飛散した洗浄液が基材4の下端表面に再付着しても、その異物付着量が十分に小さくなる。
【0060】
ここで、円筒状基材4を洗浄液中に浸漬した後、中央第2洗浄液供給口6aから供給される洗浄液の流速を、中央第2洗浄液供給口6a以外の第2洗浄液供給口6bを通して円筒状基材4の外側に供給される洗浄液の平均流速、及び4個の第1洗浄液供給口5を通して円筒状基材4の内側にのみ供給される洗浄液の流速よりも大きくすることが好ましい。
【0061】
この場合、洗浄槽2の槽中心部から外周に向かって放射状に洗浄液の流れが生じる。このため、第1洗浄液供給口5及び第2洗浄液供給口6を通して供給される洗浄液により液面に到達した異物は、液面に滞留することなく、洗浄槽2の液面において槽中心部から外周へ向かって流れる洗浄液の流れに乗って効率よく洗浄槽2からオーバーフローして排出される。従って、一旦液面まで到達した異物が沈降して基材4の内側に戻ることが十分に防止され、基材4の内部に溜まる異物の量を十分に低減することが可能となる。よって、基材4の下端が水面から離れるときに基材4の内側に溜まった洗浄液が基材4の内側から排出されることにより基材4の下端表面に洗浄液が再付着しても、異物付着量がより十分に小さくなる。また基材4を洗浄槽2の外に出した後に、水面から飛散した洗浄液が基材4の下端表面に再付着しても、その異物付着量がより十分に小さくなる。
【0062】
上記第1及び第2実施形態では、洗浄槽2からオーバーフローした洗浄液をオーバーフローパン14に回収し、回収した洗浄液をリザーバタンク10に貯留し、貯留された洗浄液を洗浄槽2に供給することにより、洗浄液を循環使用しているが、回収した洗浄液をリザーバタンク10に貯留せず、そのまま廃棄するか、別のタンク(図示せず)に貯留するようにしてもよい。つまり油等の異物が効果的に洗浄槽2から排出されればよい。
【0063】
また上記第1及び第2実施形態においては、洗浄液の供給にかかるランニングコストを低減する観点から、洗浄液を循環使用しているが、洗浄液は必ずしも洗浄槽2に戻す必要はない。
【0064】
更に上記第1実施形態では、5本の円筒状基材4を洗浄する洗浄装置1について説明し、上記第2実施形態では、4本の円筒状基材4を洗浄する洗浄装置1について説明したが、本発明の洗浄装置においては、洗浄できる円筒状基材4の本数は、上記本数に限定されるものではない。例えば洗浄する円筒状基材4の本数は、1本でも2本でも3本でもよく、6本以上であってもよい。但し、洗浄する円筒状基材4の本数に応じて、第1洗浄液供給口5又は第2洗浄液供給口6の個数を変更する必要がある。
【0065】
更にまた上記第1及び第2実施形態では、ガイド手段として、円筒状のガイド部材13が用いられているが、ガイド部材13に代えて複数の洗浄液ガイドノズルが用いられてもよい。これら複数の洗浄液ガイドノズルは、1個の第1洗浄液供給口5ごとに洗浄槽2の底部から上方に延びており、その中空部は第1洗浄液供給口5に連通している。このような洗浄液ガイドノズルにより、円筒状基材4の内側における洗浄液の流速を容易に増大させることができる。
【0066】
また上記第1及び第2実施形態は、湿式ホーニング処理した円筒状基材4の洗浄に有効である。即ち湿式ホーニング処理した円筒状基材4には通常、内面にも外面にも研磨材が付着している。このため、その円筒状基材4を洗浄液に浸漬して洗浄した場合に、内面に付着した研磨材が基材外面に再付着するおそれがある。しかし、上記第1及び第2実施形態に係る円筒状基材の洗浄方法は、内面に付着した異物が基材外面に再付着することを十分に防止することができるため、湿式ホーニング処理した円筒状基材の洗浄に有効である。
(電子写真感光体の製造方法)
【0067】
次に、本発明の電子写真感光体の製造方法について説明する。
まず円筒状基材4を用意する。円筒状基材4の素材の具体例は前述した通りであるが、電子写真感光体を製造する場合は通常、円筒状基材4の素材としてアルミニウムが用いられる。
【0068】
この円筒状基材4は通常、鏡面切削する。鏡面切削は一般に、以下のようにして行う。先ず精密切削用の旋盤にダイヤモンドバイトをセットし、旋盤の回転フランジに、予め荒切削された円筒状基材を固定する。そして、旋盤により円筒状基材を回転させ、これに潤滑油として灯油を噴霧しながらバイトを当て、鏡面切削を施す。従って、円筒状基材4に対して鏡面切削を行うと、円筒状基材4の表面には、灯油による油分やアルミニウムの切粉が付着する。
【0069】
従って、この円筒状基材4に対しては、脱脂洗浄を行った後、濯ぎ洗浄を行う。このとき、脱脂洗浄及び濯ぎ洗浄は、それぞれの目的を達成できる洗浄方法で洗浄すればよく、上記実施形態に係る洗浄方法で行ってもよいが、必ずしも上記実施形態に係る洗浄方法で行う必要は無い。
【0070】
こうして洗浄された円筒状基材4に対しては更に粗面化処理(非鏡面処理、凹凸形成処理)を行うことが好ましい。これにより、電子写真感光体において露光を行う時に、円筒状基材4の表面において光が散乱され、干渉縞の発生が十分に防止されるようになる。
【0071】
粗面化処理した円筒状基材4の表面は、界面活性剤及び水を用いて洗浄することが好ましい。これにより表面に付着した油分等の異物を十分に除去することができる。このとき、粗面化処理した円筒状基材4に対しては脱脂洗浄を行ってもよい。この場合、上記円筒状基材の洗浄方法を用いることができる。このとき、洗浄液としては、界面活性剤を純水中に溶解させた洗浄液が用いられる。界面活性剤としては、上述した界面活性剤を使用することができる。
【0072】
こうして洗浄した円筒状基材4には界面活性剤が付着している。従って、円筒状基材4の表面に付着した界面活性剤を除去すべく、洗浄が行われる(基材洗浄工程)。基材洗浄工程は、単に洗浄液に円筒状基材4を浸漬して洗浄した後、上昇させて洗浄槽2の外から出すことにより行うだけでは足りず、前述した第1実施形態又は第2実施形態に係る円筒状基材4の洗浄方法を用いて行う。
【0073】
上記基材洗浄工程において、図1の洗浄槽2及びリザーバタンク10には、濯ぎ液からなる洗浄液を入れる。濯ぎ液としては、井戸水や水道水を使用することができるが、井戸水の場合、井戸水中の藻類や細菌の増殖による水垢により異物欠陥が発生する場合があり、水道水の場合は、水道水中の塩素成分により基材が腐蝕する場合があるため、このような異物欠陥や基材の腐蝕を防止する観点からは、除菌されたイオン交換水や蒸留水等の純水を用いることが好ましい。ここで、純水の電気伝導度は1μS/cm以下に設定することが好ましい。純水の電気伝導度が1μS/cmを超えると、水によるシミや鉄サビ等の付着による塗膜欠陥が発生する傾向がある。また、水温は20〜80℃にすることが、洗浄性及び基材の腐蝕防止の点で効果的である。またこのとき、超音波を円筒状基材4に付与することが好ましい。これにより、液面の浮遊物や洗浄液中の異物を効率よく且つ十分に除去することができる。
【0074】
こうして洗浄された円筒状基材4は、当該基材に付着した水分を除去する為に乾燥機に入れられ、温風乾燥される。これにより、円筒状基材の表面に残留した水滴による基材上でのシミの発生が防止され、得られる電子写真感光体を用いた画像形成装置において画質欠陥の発生を十分に防止できる。
【0075】
乾燥後の円筒状基材4は室温まで冷却され、こうして円筒状基材4の洗浄が完了する。
【0076】
次に、この円筒状基材4の表面に、下引層形成用塗布液を塗布し、乾燥させる。これにより下引層が得られる。このとき、円筒状基材4の表面においては、ハジキ、シミ等の塗布欠陥の原因となる異物等の付着率が十分に低減されている。従って、下引き層形成用塗布液を塗布する際にハジキ、シミ等の塗布欠陥の発生を十分に防止できる。
【0077】
その後、下引層の上に電荷発生層形成用塗布液が塗布、乾燥され、これにより電荷発生層が得られる。最後に、電荷発生層の上に電荷輸送層形成用塗布液が塗布、乾燥され、これにより電荷輸送層が得られる。
【0078】
上記塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布法、スプレー塗布法、フローコート塗布法等の様々な塗布方法があるが、塗布方法は、塗布液の特性に応じて任意に選択することができる。また、通常は1層塗布する毎に塗布液を乾燥させる必要があるが、塗布液の種類により強制乾燥が不要なものもあるため、必ずしも乾燥機を使用する必要はない。更に下引き層、電荷発生層及び電荷輸送層は、本明細書においてはいずれも感光層とする。
【0079】
こうして円筒状基材の上に感光層が形成され、電子写真感光体の製造が終了する。この電子写真感光体においては、上述したように塗布欠陥の発生が十分に防止される。このため、電子写真感光体を画像形成装置に装着して画像を形成しても、画像において黒ポチ、白ポチの発生、ハーフトーン画像のムラ等が防止され、画像品質への悪影響を十分に防止することができる。
【0080】
なお、上記電子写真感光体の製造方法の実施形態においては、下引き層が用いられているが、下引き層は必ずしも必要ではない。また、電荷発生層及び電荷輸送層の積層位置は逆であってもよい。即ち電荷輸送層の上に電荷発生層が形成されていてもよい。
【0081】
また一般的に円筒状基材の洗浄における異物の残留は、主に洗浄の最終段階において行われる浸漬洗浄による濯ぎ洗浄工程での再付着が原因とされている。従って、感光層を形成する前に円筒状基材を洗浄する場合においてその洗浄が最終段階の洗浄であるときは、上述した円筒状基材の洗浄方法を用いて洗浄を行う必要がある。上記実施形態では、円筒状基材4に対して鏡面切削した後、脱脂洗浄、濯ぎ洗浄を行っているが、濯ぎ洗浄の後に感光層を形成する場合には、濯ぎ洗浄は、最終段階の洗浄に該当するため、上述した円筒状基材の洗浄方法を用いて行う必要がある。
【0082】
以下、本発明の内容を、電子写真感光体の製造方法を実施例に用いてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0083】
【実施例】
(実施例1)
【0084】
アルミニウム素管(JIS A6063)からなる円筒状基材を、ダイヤモンドバイトを用いて鏡面切削加工することにより、厚さ0.75mm×外径30mm×長さ340mmの形状にした。その後、その表面を粗面化処理し、Raが0.03〜0.04μmの平滑面に仕上げた。
【0085】
次に、円筒状基材の脱脂洗浄を行った。脱脂洗浄は2つの洗浄槽で順次行った。各洗浄槽には、底部より、界面活性剤をイオン交換水に溶解させた洗浄液を洗浄液供給口から供給し、上部の開口からオーバーフローさせた。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤(ライオン(株)製LH−600F)を用い、洗浄液中の界面活性剤の濃度は、1つ目の洗浄槽では10〜20重量%とし、2つ目の洗浄槽では1〜2重量%とした。また、洗浄液のイオン交換水としては、電気伝導度が0.1μS/cm以下のものを使用した。更に円筒状基材には、超音波発振機により洗浄液を介して超音波を印加した。
【0086】
こうして円筒状基材の脱脂洗浄を行った後、円筒状基材の濯ぎ洗浄を行った。濯ぎ洗浄は、洗浄液としてイオン交換水のみを用いた以外は脱脂洗浄と同様にして行った。
【0087】
濯ぎ洗浄を行った後は、円筒状基材を、35℃に保持した温純水中に50秒間浸漬した後、300mm/minの速さで引き上げた。このときも、円筒状基材には、超音波発振機により洗浄液を介して超音波を印加した。
【0088】
こうして得られた円筒状基材に対し湿式ホーニング装置によってその表面の粗面化処理を行った。粗面化処理においては、研磨材5.7kgを水51Lに懸濁させた懸濁液を、10L/minの流量でガンに送り込み、0.1〜0.2MPaの圧縮空気圧で円筒状基材に吹き付け、表面粗さRaが0.1〜0.3μmになるようにした。研磨材としては、粒径30μmの酸化アルミニウム(昭和タイタニウム社製アルナビーズ(CB−A30S))を用いた。
【0089】
こうして粗面化処理した円筒状基材に対して以下のようにして洗浄処理を行った。即ち先ず粗面化処理した円筒状基材に対し、25L/minで60秒間井戸水を吹きかけた後、0.2%界面活性剤を2L/minで吹きかけながら、ブラシでスクラブ処理を行った。ブラシとしては、棒状の軸部材と、軸部材に放射状に取り付けられる多数のナイロン製ブラシとから構成されるものを用いた。ブラシの線径は65μm、ブラシ部分の外径は130mm、ブラシの長さは30mmとし、軸部材が円筒状基材の回転軸と平行になるように且つブラシの先端が円筒状基材の表面に接触するように配置した。スクラブ処理は、円筒状基材及びブラシの回転方向を同じ方向とし、回転速度を100rpmにして60秒間行った。
【0090】
次に、図1に示す4つの洗浄槽を用いて順次精密洗浄を行った。洗浄槽としては、底部に第1洗浄液供給口を5個、第2洗浄液供給口を4個有するものを用いた。洗浄槽においては、5個の洗浄液供給口のうち1つは、洗浄槽底部に形成し、その周囲に等間隔に他の第1洗浄液供給口を形成した。各第1洗浄液供給口の上方には、円筒状のガイド部材を設けた。各洗浄槽には、底部の第1洗浄液供給口及び第2洗浄液供給口よりイオン交換水を供給し、上部の開口からオーバーフローさせた。
【0091】
そして、上記のようにして洗浄処理した円筒状基材を5本用意し、これら円筒状基材を格子網からなる昇降台にセットした。そして、昇降台を下降させ、洗浄液をオーバーフローさせている洗浄槽に5本の円筒状基材を浸漬した。そして、5本の円筒状基材のそれぞれを、5個の第1洗浄液供給口のそれぞれの真上にガイド部材13を介して配置した。この状態で、図2の洗浄槽の中心にある基材内側における洗浄液の流速V1を4mm/secとし、その他の基材内側における洗浄液の流速V2は2mm/secとし、更に基材外側における洗浄液の平均流速Uを2mm/secとした。4つの洗浄槽のうちの最終の洗浄槽では洗浄液中に円筒状基材を20秒浸漬した後、300mm/minの速度でゆっくりと上昇させた。
【0092】
その後、乾燥室で135度の熱風乾燥(風速0.5m/s)を1.5分行った。その後、調温室に円筒状基材を搬送し、23度にて風冷却(風速0.5m/s)を300秒行った。
【0093】
次に、有機ジルコニウム化合物(商品名:オルガチックスZC540、松本製薬(株)製)100部、シランカップリング剤(商品名:A1100、日本ユニカー(株)製)10部、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:BM−S、積水化学(株)製)10部及びn−ブチルアルコール130部を混合して得られた塗布液で円筒状基材を浸漬塗布し、140℃で15分間加熱して、厚さ1.0μmの下引き層を形成した。
【0094】
次に、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:BM−1、積水化学(株)製)の2%シクロヘキサノン溶液に、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料を、顔料と樹脂との比が2:1となるように混合し、次いでサンドミルにより3時間分散処理を行った。得られた分散液をさらに酢酸n−ブチルで希釈して下引き層上に浸漬塗布し、厚さ0.15μmの電荷発生層を形成した。
【0095】
次に、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(m−トリル)ベンジジン4部及びポリカーボネートZ樹脂6部をモノクロロベンゼン36部に溶解させた溶液を電荷発生層上に浸漬塗布し、115℃で40分間乾燥して、厚さ24μmの電荷輸送層を形成した。こうして電子写真感光体を得た。
(実施例2)
【0096】
円筒状基材を洗浄液に浸漬した後、洗浄槽の中心にある基材内側の洗浄液の流速V1を10mm/secとし、その他の基材内側への洗浄液の流速V2は10mm/secとし、更に基材外側への洗浄液の流速Uを10mm/secとした以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を得た。
(比較例1)
【0097】
洗浄液供給口を底部に1個有する従来技術からなる洗浄槽を4つ用意し、これらの洗浄槽で順次精密洗浄を行い、各洗浄槽において、円筒状基材を洗浄液に浸漬した後の洗浄槽内における洗浄液の平均流速Uを2mm/secとした以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を得た。
(欠陥発生率の評価)
【0098】
実施例1、2、比較例1により得られた電子写真感光体各々1000本について、CCDカメラと顕微鏡とからなる表面欠陥評価装置を用いて感光体表面の欠陥数を測定し、欠陥発生率を算出した。その結果、欠陥発生率は、実施例1の場合は1.5%となり、実施例2の場合は2.1%となったのに対し、比較例1の場合は6.1%となった。これより、実施例1および2の方が、欠陥発生率が十分に低減されることが分かった。
【0099】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の円筒状基材の洗浄方法及び洗浄装置によれば、円筒状基材を洗浄液に浸漬する時に、円筒状基材の内面から除去されて洗浄液中に浮遊するダストや油等の異物を洗浄槽から効率よく排出できるため、円筒状基材を上昇させる時に円筒状基材への異物の再付着を十分に防止することができる。よって、円筒状基材の洗浄回数を少なくすることができ、洗浄コストの低減を図ることができる。
【0100】
また本発明の電子写真感光体の製造方法によれば、上記洗浄方法により円筒状基材の表面への異物の再付着を十分に防止できるため、黒ポチ、白ポチ、およびハーフトーン画像のムラ等の画質欠陥の発生がなく、極めて高品質な電子写真感光体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の洗浄装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】図1の洗浄槽の平面図である。
【図3】図1の洗浄槽において洗浄液をオーバーフローさせる工程を示す図である。
【図4】図1の洗浄槽において円筒状基材を洗浄液に浸漬した状態を示す図である。
【図5】洗浄槽の液面における洗浄液の流れの状態を示す図である。
【図6】本発明に係る円筒状基材の洗浄方法の他の実施形態に係る洗浄槽を示す平面図である。
【符号の説明】
1,21…洗浄装置、2…洗浄槽、3…開口、4…円筒状基材、5,5b…第1洗浄液供給口、5a…中央第1洗浄液供給口、6,6b…第2洗浄液供給口、6a…中央第2洗浄液供給口、8,9…供給量調整バルブ(流量調整手段)、13…ガイド部材(ガイド手段)、16…昇降台(昇降手段)。
Claims (5)
- 上部に開口を有し底部に洗浄液供給口を有する洗浄槽内にその底部から洗浄液を供給し前記開口を通して前記洗浄液をオーバーフローさせるオーバーフロー工程と、
前記洗浄槽内に複数本の円筒状基材を浸漬する浸漬工程と、
前記複数本の円筒状基材を洗浄する洗浄工程と、
前記複数本の円筒状基材を上昇させて前記洗浄槽の外に出す上昇工程と、
を含む円筒状基材の洗浄方法において、
前記洗浄槽が前記洗浄液供給口を複数有し、前記複数の洗浄液供給口が、前記円筒状基材の内側に前記洗浄液を供給するための複数の第1洗浄液供給口と、前記円筒状基材の外側に前記洗浄液を供給するための複数の第2洗浄液供給口とで構成され、
前記浸漬工程が、前記複数本の円筒状基材を前記洗浄槽内の前記洗浄液に浸漬し、前記複数本の円筒状基材の内側に前記洗浄液が供給されるように前記複数本の円筒状基材のそれぞれを前記複数の第1洗浄液供給口のそれぞれの上方に配置するものであることを特徴とする円筒状基材の洗浄方法。 - 前記複数の第1洗浄液供給口のうちの少なくとも1つが中央第1洗浄液供給口として前記洗浄槽の底部の中央に設けられ、
前記洗浄工程において、前記中央第1洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速を、前記中央第1洗浄液供給口から供給される洗浄液の流量を前記円筒状基材の開口面積で除した値とし、前記中央第1洗浄液供給口以外の第1洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速を、前記中央第1洗浄液供給口以外の第1洗浄液供給口から供給される洗浄液の流量を前記円筒状基材の開口面積で除した値とし、前記複数の第2洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の外側に供給される洗浄液の平均流速を下記の式:
前記複数の第2洗浄液供給口の個数×各前記複数の第2洗浄液供給口から供給される洗浄液の流量/前記円筒状基材外側の断面積
で算出される値とした場合、前記中央第1洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速を、前記中央第1洗浄液供給口以外の第1洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速、及び前記複数の第2洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の外側に供給される洗浄液の平均流速よりも大きくすることを特徴とする請求項1に記載の円筒状基材の洗浄方法。 - 前記複数の第2洗浄液供給口のうちの少なくとも1つが中央第2洗浄液供給口として前記洗浄槽の底部の中央に設けられ、
前記洗浄工程において、前記中央第2洗浄液供給口以外の第2洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の外側に供給される洗浄液の平均流速を下記の式:
前記中央第2洗浄液供給口以外の第2洗浄液供給口の個数×各前記中央第2洗浄液供給口以外の第2洗浄液供給口から供給される洗浄液の流量/前記円筒状基材外側の断面積
で算出される値とし、前記複数の第1洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速を、前記複数の第1洗浄液供給口から供給される洗浄液の流量を前記円筒状基材の開口面積で除した値とした場合、前記中央第2洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の外側に供給される洗浄液の流速を、前記中央第2洗浄液供給口以外の第2洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の外側に供給される洗浄液の平均流速、及び前記複数の第1洗浄液供給口を通して前記円筒状基材の内側に供給される洗浄液の流速よりも大きくすることを特徴とする請求項1に記載の円筒状基材の洗浄方法。 - 前記円筒状基材として、湿式ホーニング処理した円筒状基材を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の円筒状基材の洗浄方法。
- 円筒状基材を洗浄する基材洗浄工程と、前記基材洗浄工程で洗浄された円筒状基材上に感光層を形成する感光層形成工程とを含む電子写真感光体の製造方法であって、
前記基材洗浄工程が、請求項1〜4のいずれか一項に記載の円筒状基材の洗浄方法により円筒状基材を洗浄する工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
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