JP4148864B2 - 試料分析装置 - Google Patents
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Description
従来,上記極薄膜の研究開発や製造開発においては,表面スパッタを基本とする2次イオン質量分析法(SIMS法)やオージェ電子分光法(AES法)を用いた分析装置により半導体デバイス材料の組成分析が行われている。しかし,上記分析装置では試料の表面に損傷層が生成されることから深さ分解能に限界があった。そのため,非破壊手法である100KeV程度の水素イオンを用いたイオン散乱分析方法や,300KeV以上の高エネルギーイオンを用いたラザフォード後方散乱分析方法(RBS分析方法)等により試料の組成を分析する試料分析装置が注目されるようになってきた。
加速されたHe,H等の軽イオンを試料に照射したとき,入射イオンと試料内の成分原子との衝突はほとんど弾性散乱とみなすことができる。即ち,図6に示すように,エネルギーE0,質量M1のイオン61が試料の表面に照射されて,試料の表面近傍の深さτにある質量M2の成分原子62に衝突すると,上記イオン61は,この質量M2の成分原子62により散乱角(検出角)θの方向へ弾性散乱されて跳ね返される。この跳ね返された散乱イオン63のエネルギーE1は,次式で与えられる。
E1=k(M1,M2,θ)E0 ……(1)
上記の(2)式は,M1,M2,及びθが一定であれば,E0とE1との比E0/E1は常に一定であることを示している。即ち,弾性散乱されて跳ね返された散乱イオン63のエネルギーE1は,試料内の成分原子62の質量M2の関数となる。従って,散乱イオン63のエネルギースペクトルを測定することにより試料を構成する元素の質量を算出することができる。
更に,試料表面の法線に対して質量M1のイオンがα1の角度で入射する場合は,試料の表面深さτに位置する成分原子に衝突するまでの間に試料中をcosα1/τだけ移動し,この移動中に試料内の成分原子の軌道電子と非弾性散乱することにより一定のエネルギーが失われる。従って,散乱イオンのエネルギーE1は原子の位置(深さτ)が深いほど小さくなり,そのエネルギー損失量ΔEは,深さτにほぼ線形に比例する。そのため,エネルギー損失量ΔEから出射されたイオンが衝突して散乱した位置,即ち,衝突された成分原子の位置深さを知ることができる。
前記に示した(2)式より明らかなように,検出角θが変われば,上記Kファクターも変化する。従って,図7に示すように,検出角θを変化させることにより,同じ試料であっても散乱イオンのエネルギースペクトルは異なる。即ち,異なる検出角θからの散乱イオンのエネルギースペクトルを測定することにより,複数の元素から構成される試料の各元素の組成を分析することができる。尚,図7(a)は検出角50度で測定された散乱エネルギースペクトルの実測例,(b)は検出角80度で測定された散乱エネルギースペクトルの実測例である。
上記電磁石スペクトロメータ104は不図示の磁気ヨーク,ポールピース等で構成されており,寸法が比較的大きく重量があり,また,発熱する励磁コイルを含むことから,通常,測定チャンバ103の外部に配設されている。この電磁石スペクトロメータ104は,測定チャンバ103内の試料表面で弾性散乱されたイオンビームを分光分析してスペクトル化した後に,上記イオン検出器108に導く。試料の表面で弾性散乱したイオンビームのエネルギー分布は,前記の通り試料表面の元素やその構成及び深さ,位置等の薄膜構造に依存して異なるため,検出角θ(試料表面に対する散乱角θ)を変更して散乱されたイオンビームを検出することで,試料表面の上記薄膜構造を単独分離して分析することができる。そのため,従来の高分解能RBS分析装置では,異なる検出角θのもとにイオンビームを検出し得るように,上記測定チャンバ103の外周面に,検出角θが異なる複数の検出ポートが設けられており,上記電磁石スペクトロメータ104は上記複数の検出ポートに連結可能な構造をしている。
また,イオンビームを用いた試料分析装置の従来例として,特許文献2に記載のイオンビーム分析装置が知られている。
また,電磁石スペクトロメータを測定チャンバから取り外すことにより,測定チャンバ内が大気開放されるため,検出ポート付け替え後に再度測定チャンバ内を真空状態に戻す必要がある。このように,電磁石スペクトロメータを別の検出ポートに付け替える度に真空を破らなければならないとすると,真空排気などに多大な時間を要するだけでなく,試料が極薄膜である場合は,試料の表面が大気に触れることによりコンタミネーション(吸着汚染)を招来することになってしまう。
また,上記従来のいずれの分析装置においても,イオン源や加速管等からなる加速器119と測定チャンバ103との間にはフィルタ,スリット等の複数のビームライン機器が配設されており,これらのビームライン機器の設定を容易に調整できるように,上記加速器119,複数のビームライン機器,上記測定チャンバ103とを水平線上に配設して,上記加速器119から水平方向に出射されたイオンビームが試料に照射するよう構成されているものがほとんどである。一方,装置の設置場所等の制約上,加速器119を階上に,測定チャンバ103を階下に設置して,イオンビームを鉛直下方に出射するよう構成された装置もあるが,この場合も上記ビームライン機器の設定を容易に調整できるように,上記複数のビームライン機器,測定チャンバ103を水平線上に配設して,加速器119から鉛直下方に出射されたイオンビームの方向を偏向マグネット等により鉛直方向から水平方向に偏向させて,水平方向に偏向されたイオンビームが上記ビームライン機器を介して試料に水平に照射するよう構成されている。
しかしながら,近年においては,生産効率を向上させるためにウェハ等のデバイス材料は大形化されており,大きいものでその外径が約30cmm(12インチ)のものもある。このウェハの成膜工程の途中段階でその薄膜構造を分析評価する場合は,この大形のウェハをそのまま分析評価することが最も好ましいのであるが,上記従来のいずれの分析装置あっても,例えば,厚さ2mm,10×10mmの方形にカットして小片化したウェハでなければ分析することができず,上記大形のウェハをそのまま分析することができなかった。その理由は,イオンビームが水平にウェハに照射するためには,ゴニオメータ等により試料台を並進,回転させてウェハの照射角度や位置等を自由に設定する必要があるが,厚さが2mm,外径が約30cmの大形ウェハは非常に割れ易いため,クリーン環境下での手動ハンドリングによる受け渡しや固定方法では落下によるウェハの破損やコンタミネーション(吸着汚染)を引き起こしかねないからである。
また,上記大形ウェハを測定チャンバ内に挿入,移動する場合は,人的な介在を無くし,ハンドリングロボットによるウェハの自動搬送を行うことが好ましい。このとき,ウェハの挿入は,ウェハの破損,汚染等を防止し,安全性,確実性を考慮してウェハを水平に維持したまま行うことが望ましいが,上記従来のいずれの分析装置であっても,ウェハを鉛直方向から挿入する構造であったため上記大形ウェハを水平にして挿入することが困難であった。
また,仮にウェハの水平挿入が可能であったとしても,イオンビームがウェハに水平に照射するように試料台を回転させてウェハを水平状態から略鉛直状態にする必要があるが,上記大形ウェハを不安定な略鉛直状態に保持することは,却ってウェハの破損,汚染を招くおそれがある。更に,測定チャンバ内で大形ウェハを回転,保持する構造は複雑であり好ましくない。従って,上記大形ウェハ等を組成分析するにあたっては,試料台に水平に置かれた試料に対して鉛直方向からイオンビームを照射するよう構成された装置により行われるべきである。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,検出ポートの付け替えを容易にし,鉛直方向或いは水平方向から照射されて試料により散乱された散乱イオンの検出角を容易に変更することが可能でり,しかも,大形の試料であっても試料の破損やコンタミネーションを伴わない試料分析装置を提供することにある。
また,上記測定器移動手段により,検出ポートに対する上記スペクトル測定器の連結を容易に行うことができる。
また,上記検出ポートが上記散乱イオンの上記複数の散乱方向それぞれに複数設けられている場合,上記各検出ポートに対応する位置に位置決めされたスペクトル測定器を上記検出ポートに密封状に接続する密封接続手段を更に備えてなるものであることが考えられる。
また,上記真空容器の内部に保持された上記試料に照射される上記イオンの照射点に対して上記スペクトル測定器が配設された位置とは反対側の位置に上記試料を回転或いは伸縮自在に保持する試料保持手段を更に備えてなるものであってもよい。
また,上記真空容器に設けられた検出ポートを,上記散乱イオンの上記複数の散乱方向に対応した位置に位置決め自在に移動させることにより,具体的には,上記試料を内部に保持する固定側容器と,上記検出ポートが設けられ,上記固定側容器に密着状且つ摺動自在に係合された可動側容器とから構成された真空容器の,上記可動側容器を摺動させることにより該可動側容器に設けられた上記検出ポートを移動させることにより,スペクトル測定器を別の検出ポートに付け替える場合であっても,上記真空容器内の真空を破ることなく,真空状態を維持したまま検出ポートを移動させて散乱イオンの検出角を容易に変更することが可能となり,しかも,試料の破損,コンタミネーションが防止され得る。
ここに,図1は本発明の第1の実施形態に係るラザフォード後方散乱分析装置X1の構成を示す全体図,図2は本発明の第1の実施形態に係るラザフォード後方散乱分析装置X1の構成を説明する模式断面図,図3は本発明の第2の実施形態に係るラザフォード後方散乱分析装置X2の構成を示す全体図,図4は本発明の第3の実施形態に係るラザフォード後方散乱分析装置X3の構成を示す全体図,図5は図4に示すラザフォード後方散乱分析装置X3の真空容器周辺部の拡大図,図6は衝突したイオンの弾性散乱を示す模式図,図7は散乱エネルギースペクトルの実測例を示す図,図8は従来のラザフォード後方散乱分析装置Yの構成を示す全体図である。
本RBS分析装置X1では,測定チャンバ103の鉛直上方に配設された加速器119(イオン発生器)において,ヘリウムガスボンベ115から送り出されたヘリウムはイオン源112でイオン化され,その後,イオン化された一価のヘリウムイオンが上記E×Bフィルタ117により選別されて,この一価のヘリウムイオンだけが加速管113に送り出される。上記加速管113内では,上記一価のヘリウムイオンは,高圧電源回路114から高電圧が供給されることにより,この高電圧に対応したエネルギーが蓄えられて加速される。その後,加速されたイオン101は鉛直下方へ出射され,ビームダクト116を通り,途中,Qマグネット111により収束されて,加速器119の鉛直下方に位置する測定チャンバ103(真空容器)内の試料102に照射される。このように,加速器119から出射されたイオンが測定チャンバ103(真空容器)内の試料102に照射される構成が照射手段に相当する。
上記試料102に照射され,試料102の表面又は内部で弾性散乱されたイオンのうち,スペクトル測定器123が連結された検出ポート105に飛び込んだ散乱イオンだけがスペクトル測定器123を構成するスペクトロメータ104によって分光分析されてスペクトル化され,そのうちの特定のエネルギースペクトルだけが上記スペクトル測定器123を構成するイオン検出器108により検出される。
上述の第1の実施形態におけるRBS分析装置X1では,加速器119から鉛直下方へ出射されたイオンビーム101を,上記測定チャンバ103の内部に保持された試料102へ鉛直方向から照射するよう構成されていたが,本RBS分析装置X2は,上記RBS分析装置X1とは異なり,図3に示すように,上記加速器119aから水平方向に出射されたイオンビーム101が偏向マグネット120(偏向器の一例)により鉛直下方に偏向されるよう構成されている。尚,鉛直下方に偏向されたイオンビーム101が測定チャンバ103(真空容器)内の試料102に鉛直方向から照射される点においては相違しない。
このように構成されたRBS分析装置X2であっても,上記加速器119aから水平方向に出射されたイオンビーム101の出射方向を鉛直方向に偏向させる偏向マグネット120を介して,上記イオンビーム101を鉛直方向から上記試料に照射するよう構成されることにより,上記測定器移動手段の一例であるガイドレール106を適用することが可能であり,これにより,上記スペクトル測定器123を上記散乱イオンの複数の散乱方向に対応した位置に位置決め自在に移動させることができる。
本RBS分析装置X3は,上記RBS分析装置X1とは異なり,図4に示すように,差動排気ポンプ125を具備して構成されている。
また,上記測定チャンバ103に設けられた上記検出ポート105を,試料102から散乱した散乱イオンの散乱方向に対応した位置に位置決め自在に移動させる検出ポート移動手段が本RBS分析装置X3に備えられている点においても上記RBS分析装置X1とは異なる。具体的には,上記測定チャンバ103が,上記試料102を内部に保持する固定側容器103aと,上記検出ポート105が設けられ,上記固定側容器103aに密着状且つ摺動自在に係合された可動側容器103bとから構成され,上記可動側容器103bを上記測定チャンバ103の円周方向へ摺動させることにより該可動側容器103bに設けられた上記検出ポート103を移動させるよう構成されている。このように構成されたRBS分析装置X3によれば,スペクトル測定器123を別の検出ポートに付け替える場合であっても,上記測定チャンバ103内の真空を破ることなく,真空状態を維持したまま検出ポート105を移動させることが可能となり,その結果,散乱イオンの検出角を容易に変更することができ,しかも,試料102の破損或いはコンタミネーションが防止され得る。
上記測定チャンバ103内は真空状態に維持されなければならないため,上記固定側容器103aと上記可動側容器103bとの係合部127から空気等の流体の侵入を防ぎ,上記係合部127を密封状態となるよう構成されていなければならない。そのため,上記係合部127には,上記固定側容器103aと上記可動側容器103bとが摺動可能であり,しかもシール効果の大きいラビリンスシール等のシール部材128が設けられている。このように,上記固定側容器103aと上記可動側容器103bとが上記シール部材128を介して係合されることにより,上記測定チャンバ103内が真空状態に維持される。また,上記測定チャンバ103内は超高真空状態であることが要求されるため,図5の摺動部126の拡大図(a)に示すように,上記係合部127に設けられた複数のシール部材128の間に差動排気ポンプ125を連結して,外部から侵入した空気等の流体を排気して上記測定チャンバ103の内部を超高真空状態に維持するよう構成されている。
尚,上記係合部127は,上記シール部材128によらなくても,上記固定側容器103aと上記可動側容器103bとが摺動する摺動面のいずれか一方の摺動面に多数のラビリンス加工を施し,ラビリンス効果により気密を保持するよう構成されていてもよい。
102…試料
103…測定チャンバ(真空容器)
104…スペクトロメータ
105…検出ポート
106…ガイドレール
107…イオン選別用スリット
108…イオン検出器
109…ゴニオメータ
111…Qマグネット
112…イオン源
113…加速管
114…高圧電源回路
115…ヘリウムガスボンベ
116…ビームダクト
118…真空ハンドリングロボット
119…加速器
120…偏向マグネット(偏向器)
121…レール架台
122…四重極磁気レンズ
123…スペクトル測定器
124…大気ハンドリングロボット
125…差動排気ポンプ
128…シール材
130…ターボ分子ポンプ
Claims (8)
- イオン発生器から出射されたイオンビームを試料に照射する照射手段と,
上記試料を内部に保持する真空容器と,
上記照射手段により上記試料に照射されたイオンビームによって上記試料から所定の散乱角をなす複数の方向に散乱した散乱イオンを上記真空容器の外部に導く検出ポートと,
上記検出ポートを介して導出された上記散乱イオンのスペクトルを測定するスペクトル測定器とを備えた試料分析装置において,
上記照射手段が,上記イオンビームを鉛直方向から上記試料に照射するものであり,
上記真空容器の内部に保持された上記試料に照射される上記イオンビームの照射点を中心に上記真空容器の周りにおける鉛直面内で円弧運動可能に上記スペクトル測定器を支持することにより,上記スペクトル測定器を上記散乱イオンの上記複数の散乱方向に位置する上記検出ポートに対応した位置に位置決め自在に移動させる測定器移動手段と,
上記試料を水平状態に維持したまま水平方向から上記真空容器の内部に搬入する試料搬入手段と,
を具備してなることを特徴とする試料分析装置。 - 上記測定器移動手段は,上記スペクトル測定器を上記真空容器の周りに配設された円弧状のレールに沿って移動させるものである請求項1に記載の試料分析装置。
- 上記検出ポートが上記散乱イオンの上記複数の散乱方向それぞれに複数設けられ,
上記各検出ポートに対応する位置に位置決めされたスペクトル測定器を上記検出ポートに密封状に接続する密封接続手段を更に備えてなる請求項1又は2のいずれかに記載の試料分析装置。 - 上記真空容器に設けられた検出ポートを,上記散乱イオンの上記複数の散乱方向に対応した位置に位置決め自在に移動させる検出ポート移動手段を更に備えてなる請求項1又は2のいずれかに記載の試料分析装置。
- 上記真空容器は,上記試料を内部に保持する固定側容器と,上記検出ポートが設けられ,上記固定側容器に密着状且つ摺動自在に係合された可動側容器とから構成され,
上記検出ポート移動手段は,上記可動側容器を摺動させることにより該可動側容器に設けられた上記検出ポートを移動させるものである請求項4に記載の試料分析装置。 - 上記照射手段は,上記イオン発生器から水平方向に出射されたイオンビームの出射方向を鉛直方向に偏向させる偏向器を介して,上記イオンビームを鉛直方向から上記試料に照射するものである請求項1〜5のいずれかに記載の試料分析装置。
- 上記真空容器の内部に保持された上記試料に照射される上記イオンビームの照射点に対して上記スペクトル測定器が配設された位置とは反対側の位置に上記試料を回転自在に保持する試料保持手段が設けられてなる請求項1〜6のいずれかに記載の試料分析装置。
- 上記試料分析装置がラザフォード後方散乱分析装置である請求項1〜7のいずれかに記載の試料分析装置。
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